令和5年1月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第1928号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年8月26日判決(当事者の表示は記載省略) 主文 1 被告は、原告aに対し、2139万6622円及びこれに対する平成31年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告b及び原告cに対し、それぞれ1159万円及びこれに対する平成31年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告aのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告aに対し、2145万円及びこれに対する平成31年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告b及び原告cに対し、それぞれ1159万円及びこれに対する平成31年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、被告が開設する小牧市民病院(以下「被告病院」という。)に入院して、腹部大動脈人工血管置換術(以下「本件手術」という。)を受けたdが本件手術後に腹腔内術後出血で死亡したことについて、dの相続人である原告らが、被告病院の医師や看護師(併せて、以下「被告病院医師ら」という。)には術後の管理に関する過失があったと主張して、被告に対し、使用者責任に基づき、損害賠償金 として、dの妻である原告aが2145万円、dの子である原告b及び原告cが 各1159万円並びにそれぞれの金額に対する不法行為の日(dが死亡した日)である平成31年3月1日から支払済みまで平成29年法 である原告aが2145万円、dの子である原告b及び原告cが 各1159万円並びにそれぞれの金額に対する不法行為の日(dが死亡した日)である平成31年3月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実) ⑴ 当事者ア原告等dは、昭和27年5月生まれの男性であり、平成31年3月1日に死亡した(死亡当時66歳)。 原告aはdの妻であり、原告b及び原告cはいずれもdと原告aとの間 の子である。 イ被告被告は、被告病院を開設する地方公共団体である。 ⑵ 診療経過の概要ア dは、平成27年10月28日に被告病院心臓血管外科を受診したところ、 最大短径35mmの腹部大動脈瘤が確認されたため、以後、被告病院で経過観察を受けていた。その後、dは、平成30年12月20日に上記腹部大動脈瘤の最大短径が51mmに拡張したため、本件手術を受けることになった。 イ dは、平成31年2月27日に本件手術を受けるために被告病院に入院し、原告a及び原告bとともに主治医であるe医師から本件手術(Y型ステント グラフト(人工血管置換)術)の内容及び合併症などの説明を受けた。 ウ dは、平成31年3月1日午前10時34分から午後2時22分までの間、f医師(同人の証言を引用するときは「証人f」という。)の執刀(術者)、助手としてg医師(指導医)及びh医師(f医師の上級医。)の参加により本件手術を受けた(乙A1・108頁、証人f1頁)。 本件手術においては、中枢側の大動脈、末梢側の総腸骨動脈の剥離を施行 した後、大動脈を遮断し、 師の上級医。)の参加により本件手術を受けた(乙A1・108頁、証人f1頁)。 本件手術においては、中枢側の大動脈、末梢側の総腸骨動脈の剥離を施行 した後、大動脈を遮断し、その後大動脈瘤を開放し、大動脈の分枝血管である腰動脈を結紮止血してから、中枢吻合が行われた。次に右側脚再建へと移り、右総腸骨動脈を確認したところ、軽度石灰化していたものの吻合は可能であると判断され、人工血管右脚と右総腸骨動脈が吻合(端々吻合)された。 その後左側脚再建に移り、左総腸骨動脈を離断して確認したところ、全周性 に強く石灰化していたため、吻合は不可能と判断され、同離断部分は二重連続縫合によって閉鎖された。そのため、左外腸骨動脈を剥離し、人工血管左脚と端側吻合を施行した。(以上、争いのない事実に加え、乙A11・1、2頁)なお、e医師が同月4日に原告らに本件手術について説明した図(甲A2)は別紙1のとおりである。 エ dは、同月1日午後2時50分に高度治療室(HCU。以下、単に「HCU」という。)に帰室した。その後は主として、i看護師(同人の証言を引用するときは「証人i」という。)がdの病室を巡回・訪室して対応した。本件手術時及びその後のdの診療の経過については、別紙2「診療の経過(d様)(2019/03/01)」(乙A3・2枚目に同じ。以下、単に「別紙診療 経過」という。)に記載のとおりである。 オ f医師は、同日午後5時11分頃にdの病室を訪れた際、dの術後出血を疑い、午後5時53分頃から開腹止血術を開始した。しかし、午後6時48分頃にdの死亡が確認された。 カ平成31年3月4日に実施した病理解剖の結果、dの死亡原因は左総腸骨 動脈結紮部(上記ウの二重連続縫合で縫合閉鎖した離断部)からの出血による出血性シ 時48分頃にdの死亡が確認された。 カ平成31年3月4日に実施した病理解剖の結果、dの死亡原因は左総腸骨 動脈結紮部(上記ウの二重連続縫合で縫合閉鎖した離断部)からの出血による出血性ショック(失血死)であることが判明した(乙A2)。 ⑶ 前提となる医学的知見ア出血性ショック出血性ショックは、循環血液量減少性ショックの一形態であり、臓器潅 流が低下した状態で、その結果、細胞の機能障害及び細胞死を生じるもの である。関係する機序としては、循環血液量の減少、心拍出量の減少及び血管拡張であり、症状としては、精神状態の変化、頻脈、低血圧、乏尿などがあるとされている。診断は主に臨床的に下され、組織潅流が不十分なことを示す所見(意識障害、乏尿、末梢性チアノーゼ)及び代償機構が働いていることを示す徴候(頻脈、頻呼吸、発汗)による。具体的な基準に は、意識障害、心拍数100回/分以上、呼吸数22回/分以上、低血圧(収縮期血圧90mmHg以下)又は通常の血圧から30mmHgの低下、尿量0.5ml/kg/時以下などがあるが、これらの所見はいずれも単独では診断の役には立たず、身体徴候も含め各所見の傾向及び総合的な臨床状況により評価される。(甲B1、2) 大量出血の患者については代償機構が強く作動するため、大部分の出血患者で血液量の30%以上が失われるまで血圧は低下しないとされている。 また、出血性ショックの分類としては、①ショッククラスⅠは、出血量15%、心拍数100回/分以下、血圧「正常」、脈圧正常、呼吸数14か ら20回/分、精神状態「やや不安」、②ショッククラスⅡは、出血量15から30%、心拍数100から120回/分、血圧「正常」、脈圧「縮小」、呼吸数20から30回/分、精神状態「不安」 14か ら20回/分、精神状態「やや不安」、②ショッククラスⅡは、出血量15から30%、心拍数100から120回/分、血圧「正常」、脈圧「縮小」、呼吸数20から30回/分、精神状態「不安」、③ショッククラスⅢは、出血量30から40%、心拍数120から140回/分、血圧「低下」、脈圧「縮小」、呼吸数30から40回/分、精神状態「不安、混乱」、④ショッ ククラスⅣは、出血量40%以上、心拍数140回/分以上、血圧「低下」、脈圧「縮小」、呼吸数35回/分以上、精神状態「混乱、無気力」とされている。 (甲B2・2、4頁、甲B5)イ血圧測定(乙B3) 術後管理に当たって血圧は重要な指標とされており、その測定方法には、 カテーテルを動脈内に挿入して値を得る直接的な血圧の測定方法である観血的動脈圧測定(「arterialline」ないし「動脈ライン」とも呼ばれる。以下「Aライン」という。)と、マンシェットによる末梢圧の測定がある。Aラインは、マンシェットを使用した間接的な方法より正確であるが、体動により血圧が本来の数値より上下することがある。そのため、Aラインの値に疑 義が生じれば、マンシェットで確認することが当たり前のこととして行われているとされている。 他方、細やかな循環管理を必要とする重症患者では、持続的に血圧を測ることができるAラインは有用であり、集中治療室(ICU。以下、単に「ICU」という。)における非観血的動脈圧測定(NIBP)の精度は確立され ていない。直接動脈圧を測定することができるAラインが正確な患者の血圧であると考えられ、これは歴史的に、ICUにおける循環管理はAラインによる血圧を指標にして行われてきたためであるとされている。マンシェットによる血圧が、Aラインによ できるAラインが正確な患者の血圧であると考えられ、これは歴史的に、ICUにおける循環管理はAラインによる血圧を指標にして行われてきたためであるとされている。マンシェットによる血圧が、Aラインにより得られる血圧と同一視して扱えることを示した報告は少なく、マンシェットによる血圧を指標にして重症患者の管理が行 えるかは明らかにはなっていないとされている。 そして、Aラインもマンシェットによる血圧測定も、収縮期血圧と拡張期血圧の値には差異が生じやすいが、平均血圧は両者で比較的近い値を示すとされている。循環管理の目的を臓器血流維持とするならば、血圧管理は臓器潅流を反映する平均血圧を指標にして行われるべきであり、たとえAライン とマンシェットの収縮期血圧に差があったとしても、Aラインが正しく機能して平均血圧を把握できるのであれば、あえてマンシェットによる血圧を測定しなくても十分管理は行えるとされている。 2 争点⑴ 術後管理についての注意義務違反(争点1) ⑵ 因果関係(争点2) ⑶ 損害及び額(争点3) 3 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1(術後管理についての注意義務違反)【原告らの主張】ア心臓血管手術後の術後管理に当たる医療機関においては、手術室からの帰 室時動脈圧(収縮期血圧。以下、血圧の数値を示すときは特記のない限り収縮期血圧を指すものとする。)が100mmHg台で維持されていた術後患者について、その動脈圧が90mmHgを下回ったときには、大量出血の可能性を念頭において急速に大量輸液、輸血をするなど循環状態の改善に努めるとともに、大量出血の可能性を否定することができない以上、腹部(造影) CT検査や腹部超音波検査を実施して、可及的速やかに開腹止血術を実施すべき注意義務を 輸血をするなど循環状態の改善に努めるとともに、大量出血の可能性を否定することができない以上、腹部(造影) CT検査や腹部超音波検査を実施して、可及的速やかに開腹止血術を実施すべき注意義務を負う。 その上、本件においてdは左総腸骨動脈結紮部からの出血による出血性ショックにより死亡しているところ、本件手術中、dの左総腸骨動脈は硬化しており、かつ、その半周が石灰化していたことから、術者はそこでの吻合 が不可能と判断し、当該離断部を縫合結紮していた。被告病院医師らは、当該縫合結紮部からの出血が起こり易い状態にあったことを認識していたのである。 イしかるに、被告病院医師らは、dが帰室後も継続して腰痛を訴え(左総腸骨動脈縫合部の裂開と同部からの出血が原因であると考えられる。)、かつ、 腹部膨満所見(腹腔内出血を疑うべき所見である。)が認められており、しかも術後の午後4時頃の時点でdの動脈圧が70から80mmHgに低下していたにもかかわらず、その時点で速やかに腹部(造影)CT検査や腹部超音波検査を実施せず、ソルアセトF500の輸液による経過観察をしたにとどまり、上記注意義務に違反した(主位的主張)。 ウ仮に、午後4時の時点ではソルアセト輸液などによる経過観察をすること が医師の裁量の範囲内と解する余地があるとしても、午後4時30分頃の時点までには、dの動脈圧が40mmHgまで異常に下降し、末梢圧も70mmHgまで異常に低下したことで、ソルアセト輸液などによる治療効果が奏功しないことが判明したのであるから、被告病院医師らは、午後4時30分の時点には術後出血の可能性をより一層強く疑い、可及的速やかに開腹止 血術を実施すべき注意義務があった。 それにもかかわらず、i看護師はf医師にdの状態を報告せず、 病院医師らは、午後4時30分の時点には術後出血の可能性をより一層強く疑い、可及的速やかに開腹止 血術を実施すべき注意義務があった。 それにもかかわらず、i看護師はf医師にdの状態を報告せず、被告病院医師らが上記の時点で可及的速やかに開腹止血術を実施しなかったため、上記注意義務に違反した(予備的主張)。 【被告の主張】 ア本件においては、以下に述べるように、原告ら主張のいずれの時点においても、術後出血を強く疑うことはできなかったし、被告病院医師らによる術後管理は適切に行われていたから、注意義務を怠ったとはいえない。 イまず、本件において、術後出血を強く疑うことができなかったことは、以下の点からも明らかである。 本件手術中に左総腸骨動脈が吻合不可能と判断した理由は、吻合部の出血だけでなく、狭窄や閉塞を危惧したからであり、吻合不可能であったからといって単純に出血が起こりやすい状態であったとはいえない。また、離断部は二重連続縫合閉鎖を行って出血への十分な配慮が行われていたし、当該部位については吻合終了時だけでなく、閉腹時にも少なくとも3 回、3人の専門医が止血を確認していた。 術後の継続した腰痛は、多くの腹部大動脈人工血管置換術を受けた患者が訴えるものである。出血により腰痛を訴えるということはなく、左総腸骨動脈縫合部からの出血との関連性はないと判断されるものである。本件手術では左総腸骨動脈が離断されているため、疼痛が出るとすれば離断に よる疼痛と考えるのが自然である。 また、腹部膨満所見は、開腹手術での多くの症例で認められる所見である。 血圧の低下についても、収縮期血圧90mmHg以下又は通常の血圧から30mmHgの低下はショックバイタルの目安であるとはいえるものの、手術 見は、開腹手術での多くの症例で認められる所見である。 血圧の低下についても、収縮期血圧90mmHg以下又は通常の血圧から30mmHgの低下はショックバイタルの目安であるとはいえるものの、手術終了後などは血圧変動(末梢血管拡張による血圧低下等)が起こ ることが多いため、上記の血圧低下のみでショックバイタルとは判断しない。 また、原告らが予備的主張として注意義務違反を主張する午後4時30分の時点で、dの動脈圧が40mmHgに低下しているが、末梢圧は70mmHg台を維持していたのであり、その後、末梢圧は70から90mm Hgに回復している。加えて、午後4時から午後5時までの間、心拍数は60から70回/分台、呼吸数も16から17回/分であることが確認されている。仮に原告らが主張するようにdが出血性ショックであったのであれば、一般的に、心拍数は120回/分以上の頻拍を認め、呼吸数も30から40回/分に増加すると考えるのが妥当である。 以上の事情から、出血性ショックを強く疑うのは困難であった。 ウ次に、本件においては、以下の点からしても、被告病院医師らによる術後管理が適切に行われていたといえる。 i看護師は、dが本件手術後であることを認識し、術後の状態観察を適切に行っていた。また、f医師は、i看護師らに対し、モニターでの経時 的な血圧測定に加え、1時間ごとに血圧などを測定して、動脈圧の収縮期血圧を80から120mmHgでコントロールするよう指示するとともに、基本的には動脈圧を指標として、もし動脈圧が当てにならないときには末梢圧で測定するように指示した。 i看護師は、午後4時頃の時点で、アシドーシスが輸液メイロンの投与 で改善傾向にあり、またヘモグロビン値が9.1g/dl、血圧が末梢圧 ときには末梢圧で測定するように指示した。 i看護師は、午後4時頃の時点で、アシドーシスが輸液メイロンの投与 で改善傾向にあり、またヘモグロビン値が9.1g/dl、血圧が末梢圧 で90mmHg台、動脈圧が80mmHg前後、脈拍が60回/分台であることをf医師に報告した。上記時点の血圧はショックバイタルの目安を下回るものであったが、通常の術後経過から外れる所見ではなく、また、dのアシドーシスも改善傾向にあった。そのため、f医師は、i看護師に対し、経過観察を継続し、輸液を100ml/時で3時間投与するように 指示し、その間にf医師が診察に行くと伝えた。このような指示は、f医師の上級医であるh医師も同様の指示を出していたのであるから、複数の医師が出している指示であり、合理的な判断に基づくものであるといえる。 また、原告らが予備的主張において指摘するように、午後4時30分頃の時点では一時的に動脈圧が40mmHgに低下しているが、モニター上 の動脈圧波形に関する経時的グラフで通常出るはずのディクロティックノッチ(大動脈閉鎖ノッチ。心臓の大動脈弁が閉鎖したときに出てくるグラフ上の谷の部分。乙B15・12頁、証人i31頁)が見られず、動脈圧が当てにならない状態であった。そのため、i看護師は、動脈圧が不安定である場合には末梢圧を測定するようにとのf医師の指示どおり、頻繁 に末梢圧を測定したところ、午後4時40分時点では、末梢圧は70から90mmHgに回復している。このようなi看護師の対応は、形式的な動脈圧の数値で状態を判断するのではなく、患者の全身状態を観察した上で医師に報告するもので、f医師の指示どおりの対応といえ、妥当なものである。 エしたがって、被告病院医師らにdの術後管理に関する注意義務違 を判断するのではなく、患者の全身状態を観察した上で医師に報告するもので、f医師の指示どおりの対応といえ、妥当なものである。 エしたがって、被告病院医師らにdの術後管理に関する注意義務違反があったとはいえない。 ⑵ 争点2(因果関係)について【原告らの主張】dの術前体重は58.7kgであるから、その循環血液量は概算で4109 ml(体重に70mlを乗じたもの)であったと推認されるところ(甲B5・ 2頁)、大部分の患者では血液量の30%以上が失われるまでは血圧は低下しないとされているから、dの血圧低下が認められた午後4時過ぎの時点において既に循環血液量のうちの約1232ml(=4109ml×0.3)もの大量出血が存在した高度の蓋然性がある。そして、止血処置が採られないまま推移した午後4時30分の時点では更なる出血量の増加が見込まれた。これらの 時点において、腹部(造影)CT検査又は腹部超音波検査を実施していれば、大量出血の診断をすることができた高度の蓋然性があるというべきである。そして、dの腹腔内の大量出血を診断することができた時点で輸液と輸血を実行しつつ、緊急手術の準備をしていれば、遅くとも午後5時頃までには開腹止血術に着手することができた高度の蓋然性があるといえる。開腹止血術に着手で きていれば、ショック症状が発現する前の段階か、発現と同時期に開腹止血術に着手できたことになるから、患者であるdを救命することができた高度の蓋然性があるというべきである。 したがって、被告病院医師らに前記の注意義務違反がなければ、dを救命することができた高度の蓋然性が優に認められる。 【被告の主張】午後4時の時点でdの循環血液量の30%に相当する1232mlの大量出血が存在したとはいえない。 務違反がなければ、dを救命することができた高度の蓋然性が優に認められる。 【被告の主張】午後4時の時点でdの循環血液量の30%に相当する1232mlの大量出血が存在したとはいえない。循環血液量の30%以上の出血により血圧が下がること(出血性ショック)は真実(医学的知見)であるが、その逆は必ずしも真実ではない。末梢血管拡張でも70から90mmHg程度の血圧低下が起 こることは実臨床上特別のことではないし、出血していなくても極度の血圧低下に陥る病態(血管原性、神経原性、アナフィラキシー、敗血症等)は枚挙にいとまがない。 また、開腹手術後は腸管ガスの影響で腹腔内の確認は困難とされており、午後4時過ぎの時点で腹部超音波検査にて後腹膜又は腹腔内血腫を確認するこ とができたかは不明である。そして、dの血圧の数値のみを基に開腹止血術を 行うことは、確実な診断根拠に乏しく、手術危険率が増す。可及的に速やかに開腹止血術を行ったとしても、dを救命し得た高度の蓋然性があるとはいえない。 ⑶ 争点3(損害及び額)について【原告らの主張】 ア dに係る損害逸失利益 1786万円① 基礎収入 418万9252円(内訳) 給与 197万9500円(会社勤務)厚生年金 217万1896円 企業年金 3万7856円② 生活費控除率 40%③ 死亡当時の年齢(66歳)から平均余命までの18.9年間の2分の1(9年)に対応するライプニッツ係数 7.1078④ 計算式 418万9252円×(1-0.4)×7.1078=1786万円(1万円未満切捨て)死亡慰謝料 2300万円葬儀費用 150万円弁護士費用 400万円 小計 418万9252円×(1-0.4)×7.1078=1786万円(1万円未満切捨て)死亡慰謝料 2300万円葬儀費用 150万円弁護士費用 400万円 小計 4636万円イ原告らの相続分原告a 2318万円(2分の1)原告b及び原告c 各1159万円(各4分の1)ウ損益相殺 原告aは、遺族厚生年金として172万3378円を受給したところ、前 記相続分からこれを控除すると、残額は2145万円(1万円未満切捨て)となる。 【被告の主張】否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、証拠(乙A3に加え後掲証拠)及び弁論の全趣旨によれば、本件手術後の経過に関し、別紙診療経過記載の事実ないし以下の事実が認められる。なお、同別紙中の「A医師」とはf医師、「B医師」とはf医師の上級医であるh医師、「C医師」とはe医師、「A看護師」とはi看護師のことである。 ⑴ dは、平成31年3月1日午後2時50分頃にHCUに帰室したところ、同時点では、体温36.2度、動脈圧が109mmHg、末梢圧が133mmHg、心拍数が84回/分、呼吸数18回/分、ヘモグロビン値9.5g/dlで、腹部膨満の所見が認められた。また、dは、尿意やそれに伴う痛み、腰痛を20分ごとに繰り返し訴えた。f医師は、i看護師らに対し、術後の処置と して、インスピロン4Lを50%で投与すること、1時間毎にCVP(中心静脈圧)を測定すること、メイロンを投与すること、1時間後に血液ガスを採取し測定することを指示するとともに、動脈圧を80から120mmHg台でコントロールするよう指示した。その後、f医師は、予定されていた別の手術(下肢静脈 イロンを投与すること、1時間後に血液ガスを採取し測定することを指示するとともに、動脈圧を80から120mmHg台でコントロールするよう指示した。その後、f医師は、予定されていた別の手術(下肢静脈瘤焼灼術)に向かい(手術開始は15時53分)、主治医であるe医師 は、同じ頃に緊急手術(冠動脈バイパス術)に向かった(手術開始は16時03分)。(乙A1・67頁、乙A11・2枚目、乙A12・1枚目、証人i3、21頁、証人f4~8頁)⑵ 同日午後4時頃、dは、腰痛や尿管の痛み・抜去を訴えた。同時点では、アシドーシス状態が若干改善され、動脈圧が94mmHg、末梢圧が99mmH g、心拍数が65回/分、呼吸数が16回/分、ヘモグロビン値が9.1g/ dlであったが、その後、動脈圧が70から80mmHg台、末梢圧が90mmHg台で推移した。i看護師は、動脈圧が指示範囲を逸脱したことから、午後4時過ぎ頃、手術中のf医師に連絡した。これに対し、f医師は、同じ手術室にいた上級医であるh医師にも確認した上で、手術室の看護師を通じて、輸液(ソルアセトF500)を100ml/時で3時間投与するように指示した。 そこでi看護師は、当該指示どおりに処置を行った。(乙A1・66、67頁、乙A11・3枚目、乙A12・1枚目、証人i8~12頁、証人f8~11頁)⑶ 同日午後4時30分頃、dの動脈圧が40mmHg台まで低下し、末梢圧も70mmHg台まで低下した。dは腰痛や尿管の痛み・抜去を訴えたり、せん妄により体動が激しくなったりした。 i看護師は、上記の動脈圧が正確な値であるかを疑ったため、動脈圧測定のためのAライン刺入部の角度を確認し、固定テープを貼り換えて調整したところ、動脈圧が60mmHg台となった。そこでi看護師は、血圧 i看護師は、上記の動脈圧が正確な値であるかを疑ったため、動脈圧測定のためのAライン刺入部の角度を確認し、固定テープを貼り換えて調整したところ、動脈圧が60mmHg台となった。そこでi看護師は、血圧低下は認めるが、動脈圧40mmHg台までの低下はないと判断し、動脈圧が正確な値ではないとして、末梢圧を頻回に測定することにした。また、せん妄によりdの体 動が激しくなり、様々な訴えも続いていたため、i看護師はdをICUに移動させた。 その後、dの末梢圧は午後4時40分に91mmHg、午後4時49分に93mmHg、午後4時53分に73mmHg、午後4時54分に99mmHg、午後5時に77mmHgと推移し、午後5時の時点で心拍数79回/分、動脈 圧68mmHg、CVPは1から2mmHgであった。また、午後5時5分には末梢圧が64mmHg、午後5時7分には末梢圧90mmHg、心拍数60から70回/分台であり、腹部膨満は変わらなかった。 (乙A1・66頁、乙A12・1、2枚目、証人i13~15、36、37頁)⑷ f医師は、同日午後4時52分に別の手術(下肢静脈瘤焼灼術)を終え、午 後5時11分頃にICUを訪室し、dの末梢圧が70mmHg台になっている こと、血液ガス検査でヘモグロビン値が8.5g/dlに低下していることを確認したため、術後出血の可能性も考えて、輸血製剤(赤血球製剤(RBC、新鮮凍結血漿製剤(FFP))の全開投与を指示し、また、細胞外液(ソルアセト)の全開投与を開始した。(乙A11・3、4枚目、証人f12頁)⑸ dは、同日午後5時15分頃、引き続き腰痛を訴え、動脈圧は60mmHg 台であったところ、同時刻から赤血球製剤(RBC)の2単位全開投与が開始された。午後5時19分に昇圧剤ノルアドレナリ ⑸ dは、同日午後5時15分頃、引き続き腰痛を訴え、動脈圧は60mmHg 台であったところ、同時刻から赤血球製剤(RBC)の2単位全開投与が開始された。午後5時19分に昇圧剤ノルアドレナリンの投与が開始されたところ、一時的に動脈圧が80mmHg台になったものの、再度50から60mmHg台まで低下し、心拍数も110回/分台となった。(乙A1・66頁、乙A11・4枚目、証人f12頁) ⑹ f医師は、同日午後5時36分頃、下肢静脈瘤焼灼術を終えて緊急手術(冠動脈バイパス術)に参加していたh医師に電話し、CT検査を行うか開腹止血術を行うかを相談し、開腹止血術を行うこととした。被告病院医師らは、午後5時50分頃、開腹止血術のために手術室にdを搬送し、午後5時53分から開腹止血術を開始した。しかし、搬送5分後にdが心停止となったため、心臓 マッサージを開始し、人工血管を遮断し、輸血負荷、アドレナリン投与を続けた。しかし、自己心拍再開が得られず、救命困難と判断され、午後6時48分頃に開腹止血術終了とされ、dの死亡が確認された。(甲A1、乙A1・65、110頁、乙A11・4、5枚目、証人f12~14頁) 2 争点1(術後管理についての注意義務違反)について ⑴ 午後4時頃の時点における注意義務違反(主位的主張)についてア原告らは、主位的主張として、本件手術後の午後4時頃の時点で、dの動脈圧が90mmHgを下回る70から80mmHgに低下し、継続して腰痛を訴え、腹部膨満所見も認められていたのであるから、大量出血の可能性を念頭に急速に大量輸液、輸血をし、可及的速やかに開腹止血術を実施すべき であったと主張する。 イそこで検討するに、前記認定事実⑵によれば、dの動脈圧は、午後4時の時点で94m 頭に急速に大量輸液、輸血をし、可及的速やかに開腹止血術を実施すべき であったと主張する。 イそこで検討するに、前記認定事実⑵によれば、dの動脈圧は、午後4時の時点で94mmHgであったものの、その後70から80mmHgで推移している。そして、前記前提事実によれば、出血性ショックの具体的な基準としては、収縮期血圧90mmHg以下の低血圧が挙げられ(前提事実⑶ア)、また、大量出血を起こしている患者の大部分についても、血液量の30%以 上が失われるまで血圧は低下しないとされている(前提事実⑶ア)。そして、原告らの協力医であるj医師は、その意見書(甲B7)において、腹部大動脈瘤の術後管理として注目しなければならないのは血圧だと考えられ、血圧が異常を起こせばまず心筋梗塞を考え、その次は手術した腹部血管から出血があるかを考慮しなければならないとし、通常血圧は90mmHg以上 であるべきで、循環血液量の30%以内の出血であれば血圧は下がらないとされているから、血圧が下がることはかなり大量の出血があると理解しなければならないとする(2頁)。 また、原告らは、出血部位である左総腸骨動脈結紮部について、本件手術中、dの左総腸骨動脈は硬化しており、かつ、その半周が石灰化していたこ とから、当該縫合結紮部からの出血が起こり易い状態にあったことを指摘し、j医師もその意見書において同様の指摘をする(甲B7・3頁)。 さらに、原告らは、dが帰室後も継続して腰痛を訴え、腹部膨満所見があったことも、腹腔内出血を疑わせるものであると主張し、j医師もこれらの所見から腹部血管手術後の出血が考えられるとの意見を述べる(甲B7・2頁)。 そうすると、午後4時を過ぎた時点でdの動脈圧が90mmHgを下回る70か のであると主張し、j医師もこれらの所見から腹部血管手術後の出血が考えられるとの意見を述べる(甲B7・2頁)。 そうすると、午後4時を過ぎた時点でdの動脈圧が90mmHgを下回る70から80mmHgに低下し、dが継続して腰痛を訴え、腹部膨満所見も認められていた以上、術後出血の可能性を念頭において治療に当たることは考えられるところであったといえる。 ウしかし、前記認定事実⑵によれば、dの末梢圧は午後4時の時点で99m mHgであり、その後も依然として90mmHg台で推移していた。前記前 提事実によれば、Aラインによる動脈圧測定は、マンシェットによる末梢圧測定より正確だとされているが、体動により血圧が本来の数値より上下することがあるため、Aラインの値に疑義が生じれば、マンシェットで確認することが当たり前のこととして行われているとされている(前提事実⑶イ)。 そうすると、細やかな循環管理を必要とする重症患者ではAラインにより測 定される動脈圧が正確な患者の血圧であると考えられていること(前提事実⑶イ)に鑑みても、前記イのとおり午後4時の時点で動脈圧が94mmHgであり、その後に低下したものの、末梢圧は依然として90mmHg台で推移している以上、午後4時の時点をもって直ちに術後出血を強く疑うべきであったということは難しい。 そして、前記前提事実によれば、出血性ショックの具体的な基準には収縮期血圧90mmHg以下の低血圧が挙げられているが、その他にも意識障害、心拍数100回/分以上、呼吸数22回/分以上などがあるとされ、これらの所見はいずれも単独では診断の役には立たず、身体徴候も含め各所見の傾向及び総合的な臨床状況により評価されるものであるとされている(前提事 実⑶ア)。前記認定事実⑵ などがあるとされ、これらの所見はいずれも単独では診断の役には立たず、身体徴候も含め各所見の傾向及び総合的な臨床状況により評価されるものであるとされている(前提事 実⑶ア)。前記認定事実⑵及び別紙診療経過によれば、午後4時の時点で、dに意識障害はなく、心拍数は65回/分、呼吸数は16回/分であり、低血圧以外の上記基準は充たされていない。そうすると、動脈圧が70から80mmHgに落ちたことのみをもって、出血性ショックを強く疑い、大量輸液、輸血をし、あるいは可及的速やかに開腹止血術を実施すべきであったと はいえない。 エまた、原告らが指摘する左総腸骨動脈結紮部の硬化・石灰化についても、j医師が意見を述べるように、一般的には当該縫合結紮部からの出血が起こり易い状態であったとはいえるものの、本件手術で離断部は二重連続縫合で閉鎖されており(前提事実⑵ウ)、f医師は本件手術終了時点で特に出血を 強く疑うことはなかったと供述しており(証人f3、4、21、22頁)、本 件証拠上、当該部位について特に出血が起こり易い状態であったことを認めるに足りる証拠もない。 さらに、原告らが指摘する腰痛や腹部膨満所見についても、これらが認められる場合に術後出血を特に強く疑うとの医学的知見に関する証拠は見当たらない。f医師は、開腹手術後には全例において多少の腹痛、腹部膨満が 認められ、増悪してくれば出血を疑うにとどまるとの見解を述べており(証人f5、37頁)、i看護師も腰痛や腹部膨満が手術後の患者によく見られるものであると供述する(証人i5頁)。本件において、これらの見解が医学的に不合理であるといえる証拠もない。 オそして、dは本件手術中又は手術室の退室前に硬膜外麻酔を投与されてい るところ(乙A1・113、1 る(証人i5頁)。本件において、これらの見解が医学的に不合理であるといえる証拠もない。 オそして、dは本件手術中又は手術室の退室前に硬膜外麻酔を投与されてい るところ(乙A1・113、118、141頁)、硬膜外麻酔の投与が原因で血管拡張による低血圧になるとの医学的知見がある(乙B8・669頁)、また、臨床上も末梢血管拡張が術後の低血圧の原因になる例があるとされており(乙A11・3頁、乙B13、乙B14、証人f10頁)、午後4時時点までのdの状態が安定していたことからすれば、この時点では、dの血圧低下 の原因として、末梢血管の拡張が関係しているとみることも不合理ともいえない。 カよって、午後4時頃の時点におけるdの上記所見を踏まえても、被告病院医師らが輸液投与による経過観察を選択し、血圧が安定するかをみるという術後管理を行ったことについて、注意義務違反を認めることはできない。 ⑵ 午後4時30分頃の時点における注意義務違反(予備的主張)についてア次に原告らは、仮に午後4時の時点で被告病院医師らに注意義務違反が認められないとしても、午後4時30分頃の時点までにdの動脈圧が40mmHgまで下降し、末梢圧も70mmHgまで低下したのであるから、同時点で被告病院医師らに術後管理に関する注意義務違反が認められると主 張する(予備的主張)。 イそこで検討するに、前記⑴で認定説示したところに加え、前記認定事実に⑶よれば、dの血圧は、午後4時の時点で動脈圧が94mmHg、末梢圧が99mmHgであったものの、その後動脈圧が70から80mmHgで推移し、午後4時30分頃の時点では動脈圧が40mmHg台まで低下し、i看護師がAライン刺入部の角度を確認し、固定テープを貼り換えて 調整したものの、 のの、その後動脈圧が70から80mmHgで推移し、午後4時30分頃の時点では動脈圧が40mmHg台まで低下し、i看護師がAライン刺入部の角度を確認し、固定テープを貼り換えて 調整したものの、動脈圧は依然として60mmHg台にとどまっており、さらに、それまで90mmHgで推移していた末梢圧も70mmHg台まで低下している。このような血圧の低下は、f医師自身がdに関して出していた術後管理の指示、すなわち、動脈圧を80から120mmHg台で管理するようにとの指示とも大きく異なっているものである。しかも、こ うした血圧の低下傾向は、午後4時過ぎにf医師の指示により輸液が開始された後(認定事実⑵)にも続いていたのであり、この点についてf医師は、補液(輸液)をしても血圧が安定しないのであれば、出血の可能性が高くなると供述している(証人f49頁)。 加えて、前記認定事実⑶によれば、dは、午後4時30分頃、引き続き 腰痛を訴えるとともに、せん妄により体動が激しくなって、ICUに移されている。医学文献上、術後のせん妄について低血圧との関連が指摘されており、定まった見解はないものの、平均血圧50mmHg以下になると発症リスクが上昇する可能性があることが指摘されている(乙B10・214、215頁)。そうすると、この段階では上記の低血圧が生じている可 能性があったといえるのであり、出血性ショックの具体的基準である意識障害も生じていたといえる。 そして、f医師及びh医師は、午後4時過ぎ頃、dの動脈圧が事前の指示範囲を逸脱していることの連絡を受けており(認定事実⑵)、f医師も本件手術後に出血の可能性を常に疑って術後管理に当たっていたことを 認める供述をしている(証人f23頁)。実際、f医師は午後5時11分頃 絡を受けており(認定事実⑵)、f医師も本件手術後に出血の可能性を常に疑って術後管理に当たっていたことを 認める供述をしている(証人f23頁)。実際、f医師は午後5時11分頃 にICUを訪室し、dの末梢圧が70mmHg台になっていることなどから術後出血の可能性を考えて、輸血製剤や細胞外液の全開投与を指示ないし開始し、その後h医師に相談して午後5時53分から開腹止血術を開始している(認定事実⑷~⑹)。 以上の点に加え、大部分の出血患者で血液量の30%以上が失われるま で血圧は低下しないとされていること(前提事実⑶ア)にも鑑みると、午後4時30分の時点で、血圧等の点からdが大量出血を起こしている可能性を疑うことは十分に可能であったといわざるを得ない。被告病院医師らは、同時点において、dについて腹部(造影)CT検査や腹部超音波検査を実施し、速やかに開腹止血術を実施すべき注意義務があったにもかか わらず、これを怠ったと認めるのが相当である。 ウこれに対し、被告は、午後4時30分頃の時点でも末梢圧は70mmHg台を維持し、その後に70から90mmHgに回復していると主張する。 しかし、そもそもf医師は動脈圧で80から120mmHg台での血圧管理を指示しているのであり(認定事実⑴)、末梢圧であったとしても、7 0mmHgという血圧は同指示を逸脱している。しかも、その後に末梢圧が回復したといっても、そもそも午後4時30分以降の事情にすぎず、しかも、前記イ記載のとおり、午後4時40分以降に90mmHgを超えたり、再び70mmHg台にまで下がったりを繰り返しているにすぎない。 そうすると、午後4時30分頃の時点で血圧等の点からdについて大量 出血を疑うべきであったとの前記判断は左右されない。 ま 、再び70mmHg台にまで下がったりを繰り返しているにすぎない。 そうすると、午後4時30分頃の時点で血圧等の点からdについて大量 出血を疑うべきであったとの前記判断は左右されない。 また、被告は、午後4時から午後5時までの間、dの心拍数は60から70回/分台、呼吸数も16から17回/分であり、出血性ショックの基準(心拍数120回/分以上の頻拍、呼吸数30~40回/分。)に達していないことを指摘する。この点については、前記前提事実⑶アのとおり、 出血性ショックの基準が心拍数100回/分以上、呼吸数22回/分以上 であるとの知見もあり、dの上記心拍数等はこれに達していない(別紙診療経過におけるHRないしRの値)。 もっとも、j医師は、術後出血があれば心拍数及び呼吸数は出血と共に増加するが、高齢者については、短時間で出血が多いときには変化が少ないことがあり得るとの意見を述べており(甲B7・3頁)、dは本件手術時 に66歳であった(前提事実⑴ア)。そして、f医師も同意見自体は特段否定しておらず(証人f55頁)、本件において、j医師の同意見に反する医学的知見を認めるに足りる証拠はない。 そうすると、dの午後4時以降の心拍数や呼吸数が基準を充たさなかったからといって、出血性ショックを疑い得なかったということもできない。 さらに、被告は、午後4時30分の時点ではモニター上で経時的グラフで通常出るはずのディクロティックノッチが見られず、一時的に40mmHgまで低下した動脈圧が当てにならなかったとも主張し、i看護師も同旨の陳述等をする(乙A12・1頁、証人i12頁)。 しかしながら、診療録(乙A1。看護記録は60頁以下)ないし事故後 の院内調査結果(乙A3)を精査しても、ディクロテ 張し、i看護師も同旨の陳述等をする(乙A12・1頁、証人i12頁)。 しかしながら、診療録(乙A1。看護記録は60頁以下)ないし事故後 の院内調査結果(乙A3)を精査しても、ディクロティックノッチが見られないために動脈圧が当てにならないとi看護師が判断したことに関する記載は見当たらない。i看護師自身、患者の状態によってはディクロティックノッチが見られないことがあることを認めており(証人i42頁)、ディクロティックノッチの欠落の一事をもって動脈圧の値を否定す ることができるとも解されない。その上、前記イ記載のとおり、午後4時30分頃の時点で動脈圧が40mmHgまで低下し、i看護師がAライン刺入部の角度を確認し、固定テープを貼り換えて調整したものの、動脈圧は依然として60mmHg台にとどまっていた。こうした点を考えると、ディクロティックノッチが見られないからといって、この大きく低下した 動脈圧を放置することが許されると即断することはできない。しかも、上 記記載のとおり、末梢圧ですらf医師の指示から逸脱したものになっていたのである。 そうすると、被告の上記の主張を踏まえても、やはり前記判断は変わらない。 エ以上によると、午後4時30分頃の時点におけるdの術後管理について、 被告病院医師らに注意義務違反があると認められる。 ⑶ 小括よって、被告病院医師らには、午後4時30分頃の時点においてdの術後管理についての注意義務違反(予備的主張)が認められるといえる。 原告らの争点1に関する主張は、上記の限度で採用することができる。 3 争点2(因果関係)について⑴ 原告らの主張原告らは、午後4時30分の時点で(予備的主張)大量出血があったところ、腹部(造影)CT検査又 、上記の限度で採用することができる。 3 争点2(因果関係)について⑴ 原告らの主張原告らは、午後4時30分の時点で(予備的主張)大量出血があったところ、腹部(造影)CT検査又は腹部超音波検査を実施していればこの大量出血を診断することができた高度の蓋然性があり、輸液と輸血を実行しつつ、緊急手術 の準備をしていれば、遅くとも午後5時頃までには開腹止血術に着手することができ、開腹手術に着手できていればdを救命することができた高度の蓋然性があると主張する。 ⑵ 検討アそこで検討するに、前記のとおり、大部分の出血患者で血液量の30%以 上が失われるまで血圧は低下しないとされていること(前提事実⑶ア)からすると、前記のとおり動脈圧ないし末梢圧が低下した午後4時30分の時点では、dにはその循環血液量のうちの約1200ml(dの術前体重は58.7kgであり(乙A1・111頁)、その循環血液量は概算で4109ml(体重に70mlを乗じたもの)であったと推認され(甲B5・2頁)、そ の30%は1232mlとなる。)にも当たるような大量出血があったと推 認するのが相当である。そうすると、当該時点において腹部(造影)CT検査又は腹部超音波検査を実施していれば、この大量出血を診断することができた高度の蓋然性があるといわざるを得ない。 この点、被告は、開腹手術後の腸管ガスの影響による腹部超音波検査での血腫確認の難しさを指摘し、超音波検査では画像の描出において空気やガス などの体内環境の影響を受けることがあり、超音波が臓器に届かず観察することができない場合があるとする医学的見解を述べるものもある(乙B7)。 しかし、仮にそのような面があるとしても、どの程度困難であるかは本件証拠上不明であるとい とがあり、超音波が臓器に届かず観察することができない場合があるとする医学的見解を述べるものもある(乙B7)。 しかし、仮にそのような面があるとしても、どの程度困難であるかは本件証拠上不明であるといわざるを得ない。実際、本件においてf医師は、腹部超音波検査や腹部(造影)CT検査を経ずにh医師の助言に基づいて開腹止血 術を行っている(認定事実⑹)。そうすると、被告が指摘する上記の点だけを捉えて上記認定の高度の蓋然性が否定されるものでもない。 イそして、f医師は、午後5時11分にICUに到着し、午後5時53分から開腹止血術を開始しているが、同時点においても救命可能性があったことを認める供述をしている(証人f51、52頁)。そうすると、同時点以前の 前記の午後4時30分頃に被告病院医師らが上記各検査を行い、開腹止血術を実施していれば、dを救命することができた高度の蓋然性があるというべきである。 ⑶ 小括よって、前記2⑵、⑶で認定した被告病院医師らの午後4時30分頃の術後 管理についての注意義務違反(予備的主張)とdの死亡との間には、因果関係が認められる。 原告らの争点2に関する主張は採用することができる。 4 争点3(損害及び額)について⑴ dに係る損害 ア逸失利益 1786万円 基礎収入証拠(甲C2)及び弁論の全趣旨によれば、dが平成30年に給与収入(会社勤務)として年額197万9500円を、厚生年金として年額217万1896円、企業年金として3万7856円を得ていたことが認められる。 これらに照らすと、dの逸失利益については、基礎収入を上記合計額である年額418万9252円と認める。 生活費控除率dは、死亡時、66歳であり(前提事実⑴ア)、配偶者で められる。 これらに照らすと、dの逸失利益については、基礎収入を上記合計額である年額418万9252円と認める。 生活費控除率dは、死亡時、66歳であり(前提事実⑴ア)、配偶者である原告aと成人の子である原告b及び同cがおり(甲C1)、dの収入は上記のとお り給与収入と年金収入であったことから、生活費控除率40%と認める。 逸失利益の喪失期間に対応するライプニッツ係数上記のdの年齢に照らせば、逸失利益の喪失期間は、原告が主張する平均余命までの18.9年の2分の1である9年と認め、これに対応するライプニッツ係数は7.1078と認める。 小計418万9252円×(1-0.4)×7.1078=1786万円(1万円未満切捨て)(原告ら主張のとおり)イ死亡慰謝料 2300万円上記のdの年齢や本件手術後死亡に至る経過のほか、家族構成、本件事故 の態様その他本件に現われた一切の事情を考慮し、死亡慰謝料を2300万円と認める。 ウ葬儀費用 150万円証拠(甲C3)及び弁論の全趣旨によれば、原告らはdの葬儀費用として195万0560円を支出していることが認められることに鑑み、原告ら主 張のとおりdの葬儀費用について150万円を本件と相当因果関係のある 損害と認める。 エ以上アからウまでの合計 4236万円⑵ 原告らの相続分ア原告a(dの配偶者) 2118万円イ原告b及び同c(いずれもdの子) 各1059万円 ウ損益相殺弁論の全趣旨によれば、原告aは、遺族厚生年金として172万3378円を受給したことが認められるところ 、これを同原告の相続分2118万円から控除することとする。その結果、原告aの損害額は1945万6622円となる。 、原告aは、遺族厚生年金として172万3378円を受給したことが認められるところ 、これを同原告の相続分2118万円から控除することとする。その結果、原告aの損害額は1945万6622円となる。 ⑶ 原告らに生じた弁護士費用本件の事案の内容、審理の経過、訴訟活動の難易、その他諸般の事情を考慮すれば、弁護士費用として、原告aにつき194万円、原告b及び同cにつき各100万円を本件と相当因果関係のある損害と認める。なお、原告らは、その主張においてdの損害として弁護士費用を請求しているが、実際に訴訟追行 をした原告らの弁護士費用を求める趣旨であると解される。 ⑷ 合計ア原告aにつき、2139万6622円イ原告b及び同cにつき、各1159万円第4 結論 以上の次第で、原告らの請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるからこれを認容することとし、原告aのその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条、64条ただし書を、仮執行の宣言について同法259条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官岩井直幸 裁判官棚井 啓 裁判官秦卓義は、差支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官岩井直幸 (別紙1及び別紙2は掲載省略)
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