平成26(わ)5311 保護責任者遺棄致死(予備的訴因 重過失致死)被告事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月28日 大阪地方裁判所
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判決文本文12,634 文字)

主文 被告人を禁錮1年6月に処する。 未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯罪事実)被告人は,妻であるAの実子B(平成22年8月11日生)と平成25年4月24日に養子縁組をして,大阪府茨木市甲町乙番丙号丁の自宅でA及びBらと同居し,Aと共にBを監護すべき立場にあったものであるが,平成26年4月頃以降,Bの食事量が減少し,体重が大幅に減少して低栄養に陥り,被告人としても,Bの手足が従前に比べて痩せていたのを認めるとともに,Bが頻繁に食事を抜いたり,食事の際に好物を残したり,夜間に冷蔵庫等に入っている食材等を勝手に食べたりするなど,Bの食生活に変化が生じたのを認識した。さらに,被告人は,同年6月13日,Bが昼間から就寝し,買い物の誘いにも応じないのに接したほか,同日夜にBの顔を見た際にはその頬が痩せているのを認め,翌14日夜には,Bがその日は風邪等の症状があるわけでもないのに朝から一切食事を取ることなく就寝し続けているのを認識した。このような場合,被告人には,Bに適切な医療措置を受けさせるなどしてその生命身体への危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるが,被告人は,これを怠り,Bの食生活の変化等は一時的なものにすぎず,生命身体に危険は生じていないなどと軽信し,Bに対し,適切な医療措置を受けさせるなど生命身体への危険の発生を未然に防止する措置を講じなかった重大な過失により,翌15日,前記自宅において,Bを低栄養に基づく衰弱により死亡させた。 (事実認定の補足説明) 1 主位的訴因(保護責任者遺棄致死罪)について(1) 保護責任者遺棄致死罪の公訴事実は,「被告人は,妻であるAの 宅において,Bを低栄養に基づく衰弱により死亡させた。 (事実認定の補足説明) 1 主位的訴因(保護責任者遺棄致死罪)について(1) 保護責任者遺棄致死罪の公訴事実は,「被告人は,妻であるAの実子であるBと平成25年4月24日に養子縁組をして,大阪府茨木市甲町乙番丙号丁の 自宅でA及びBらと居住し,Aと共にBを監護すべき立場にあったものであるが,Aと共謀の上,平成26年4月頃から同年6月中旬頃までの間,前記自宅又はその周辺において,幼年者であり,かつ,先天性ミオパチーにより発育が遅れていたBに十分な栄養を与えるとともに,適切な医療措置を受けさせるなどして生存に必要な保護をする責任があったにもかかわらず,Bに対して,十分な栄養を与えることも,適切な医療措置を受けさせるなどのこともせず,もってその生存に必要な保護をせず,よって,同月15日,前記自宅において,Bを低栄養に基づく衰弱により死亡させた。」というものである。 争点は,①被害者が低栄養に基づく衰弱によって死亡したものであるか,②被害者は,平成26年4月頃から同年6月中旬頃までの間,普通の人であれば,十分な栄養を与えられていないために被害者の生命身体が害されるかもしれないと認識する状態(保護を要する状態)になっていたか,③被告人に②の認識,認容(故意)があったかどうかの3点である。 当裁判所は,被害者が低栄養に基づく衰弱によって死亡したものであり,被害者は保護を要する状態になっていたが,被告人がそれを認識し認容していたとまでは認められず,したがって,保護責任者遺棄致死罪は成立しないと判断した。以下,その理由を説明する。 (2) 争点①(被害者の死因)についてア被害者の遺体を解剖してその死因等を鑑定したC医師は,①解剖時の被害者の身長は96cm で同じ年齢層の 立しないと判断した。以下,その理由を説明する。 (2) 争点①(被害者の死因)についてア被害者の遺体を解剖してその死因等を鑑定したC医師は,①解剖時の被害者の身長は96cm で同じ年齢層の児童の中でも平均に近い数値であるにもかかわらず,その体重は8kg しかなく,これは同じ年齢層の児童100人を無作為に抽出した中で2.5人目よりも前に位置付けられる数字であって,極めて痩せているといえること,②腹壁正中にある皮下脂肪の厚さも正常値より低い数値であったこと,③胸腺も同じ年齢層の女児の約3分の1から4分の1程度と高度に退縮しており,その原因は数か月にわたるストレスと考えられ,ストレスの原因として飢餓も考えられること,④被害者の体内の脂 肪細胞も高度に萎縮しており,栄養分が不足していたことが推察されること,⑤血中アルブミン値も正常値より低い数値であったこと,⑥解剖当時の被害者の胃には内容物が殆どなかったことなどを根拠に,被害者は低栄養に基づく衰弱により多臓器不全を起こして死亡したものであると証言している。C医師は司法解剖の経験が十分にあると認められる医師であり,その判断過程や判断内容に不合理な点は特段見られない。 イ弁護人は,先天性ミオパチーに罹患していた被害者は以前から健常児と比べて痩せていたことなどを指摘して,解剖時に健常児と比較して痩せている点は低栄養の根拠にはならない,C医師が指摘する他の数値も低栄養の根拠にならない,胸腺退縮については他の原因の可能性もあるなどと主張する。 しかし,C医師は,被害者の体格の経年変化や持病なども前提としつつ,体格,各数値以外の所見や他の死因の可能性をも検討した上で上記見解を述べているから,弁護人の批判は当たらない。弁護人は,解剖時の被害者の結腸に多量の便が残っていたことや,被害者が死亡 前提としつつ,体格,各数値以外の所見や他の死因の可能性をも検討した上で上記見解を述べているから,弁護人の批判は当たらない。弁護人は,解剖時の被害者の結腸に多量の便が残っていたことや,被害者が死亡直前に自ら起床して浴室に行き,着替えを行おうとしていたことなどは,低栄養による衰弱死という所見と整合しないとも主張するが,C医師は,死亡時に結腸内に多量の便が存在することと低栄養による衰弱死とは必ずしも矛盾しないことを具体的な理由を付して説明できているし,死亡直前の被害者の行動も,寝室から浴室まで移動したという程度のものにすぎないから,他の死因が考え難いことも併せみると,この点もC医師の専門家としての所見に疑問を生じさせるものとはいえない。 弁護人は,被害者が呼吸できなくなって死亡した可能性が否定できないとも主張する。しかし,C医師は,被害者の気管や肺等からは気道の閉塞をもたらすような痰は発見されなかったことなどを指摘して呼吸障害は死因にならないとしているところ,この所見にも特に疑問は生じない。また,先天性ミオパチーに罹患していた被害者は深呼吸が困難であったとしても,被害者 の主治医であったD医師や筋疾患の専門家であるE医師の供述によれば,歩行等もできるようになっていた被害者については,併発症がない限り,先天性ミオパチーのみから呼吸障害が生じることはないとされており,被害者の解剖所見からも気管支や肺の大きな炎症は認められなかったというのであるから,呼吸が十分できなかったために死亡した疑いが生じるものではない。 さらに,被害者が死亡当日に鼻水を出していたという点についても,自ら起床して浴室に行くなどしていたというのであるから,そのような被害者が浴室で突然呼吸困難になったとも考えがたく,他に被害者が窒息により死亡したと疑わせる具体的な証 出していたという点についても,自ら起床して浴室に行くなどしていたというのであるから,そのような被害者が浴室で突然呼吸困難になったとも考えがたく,他に被害者が窒息により死亡したと疑わせる具体的な証跡も見当たらない。 ウ以上によれば,被害者の死因に関するC医師の所見はそのまま採用でき,被害者は低栄養による衰弱により死亡したと認められる。 また,被害者が胸腺退縮の原因となるストレスに死亡前の数か月間さらされていたとするC医師の供述や,後述する被害者の体重の推移,被害者が平成26年4月以降,好物であった白飯を残すなど食生活が変化したという被告人供述などを併せみれば,被害者は遅くとも平成26年4月頃には低栄養に陥ったと認められる。 (3) 争点②(保護を要する状態),③(故意)の前提事実証拠上認められる事実は以下のとおりである。 ア被害者は,平成22年8月11日に出生したが,生後間もなく先天的に筋力の発達が弱くなる病気で,運動発達の遅れる傾向が認められる先天性ミオパチーに罹患していると診断された。被告人は,平成25年4月に被害者の母親であるAと結婚するとともに被害者と養子縁組をし,以後,被告人とA,被害者,さらに,その後被告人とAとの間に生まれた被害者の弟の4人で被告人宅で生活を送っていた。 イ被害者は,生後しばらくは鼻に着用するチューブ(経鼻チューブ)により栄養を取っていたが,平成25年1月以降,食事の経口摂取ができるように なった。Aは,被害者に1日に3度の食事を与えていたが,被害者は,食事を抜いたり,一日中食事をしなかったり,他方で,一度に多くの量の食事を取ったりすることもあった。被告人は,日曜日以外は仕事に出て被害者と夕食のみを共にし,日曜日は被害者と三食を共にする生活を基本としていたが,平成26年4月 なかったり,他方で,一度に多くの量の食事を取ったりすることもあった。被告人は,日曜日以外は仕事に出て被害者と夕食のみを共にし,日曜日は被害者と三食を共にする生活を基本としていたが,平成26年4月に入り,被害者が好物であった白飯を残したり,夜中に勝手に冷蔵庫を開けてアイスクリームやニンニクチップ等を食べるようになったことから,被害者の食事に注意を払うようになり,被害者が食事を抜いたりすることがあることを認識した。 ウ同年6月13日(金曜日),被告人が仕事から帰宅した時点では被害者は寝ており,その後,被告人がAと被害者の弟を連れてスーパーマーケットに買い物に行く際にも,被害者は一緒に行こうとの誘いに応じず,寝室から出てこなかった。その後,被害者は起きて風呂に入り,食事もしたが,被告人は,風呂上がりの被害者を見て顔が痩せているように感じた。翌14日(土曜日),被害者はお茶を飲む以外に全く食事をせずに一日中寝室におり,被告人も,仕事から帰宅した際,その状況をAから聞いて認識した。 エ被害者は,同月15日(日曜日)午前11時頃に起床し,Aに言われて風呂に入ろうとしたが,その後,風呂場で倒れているところをA及び被告人に発見され,救急隊員が駆け付けた際には既に死亡していた。 オ被害者は,生後,平成25年10月頃までの間,身長及び体重が基本的に増加し続け,同月21日当時(3歳2か月)は身長が94cm,体重が11. 4kg であったが,約8か月後の解剖時の体重は8㎏に減少していた。 (4) 争点②(保護を要する状態)について上記のとおり,被害者の体重は,平成25年10月頃まで基本的に増加を続け,11.4kg に至っていたにもかかわらず,それが死亡時までの約8か月の間に8㎏にまで減少している(前者については着衣等による多少の誤差はあり得ると 重は,平成25年10月頃まで基本的に増加を続け,11.4kg に至っていたにもかかわらず,それが死亡時までの約8か月の間に8㎏にまで減少している(前者については着衣等による多少の誤差はあり得るところであるが,保健所職員が測定したものであり,着衣による誤差も意 識した測定の仕方をしたと推測できるから,大きな誤差があるとは考えにくい。)。平成25年10月以降,被害者が体重の減少を伴う低栄養以外の疾患に罹患していた証跡はないから,いずれかの時期から死亡時まで順次体重が減少したとみるべきところ,成長期の幼児の体重の推移として明らかに異常である。 また,被害者の体格の変化についてみても,D医師は,解剖直前の被害者の遺体を見て,誰だか分からないぐらい痩せていたと述べており,D医師が最後に被害者を見たという平成26年2月頃以降,被害者の体格にも明らかな変化が生じていたと認められる(弁護人は,D医師の供述について,警察の捜査を受け虐待と思い込んでいる可能性があるとか,被害者の定期的な通院を解除する際に具体的な注意事項をAらに与えなかった自身に責任問題が生じることを回避したい立場にあるなどと主張し,その信用性を争うが,D医師が最後に被害者を見たという平成26年2月頃以降,被害者が相当痩せたことは前記被害者の体重の減少とも整合しているから,「誰だか分からないくらい」とする評価はともかく,解剖前の被害者が数か月前と比べてその外見としても明らかに痩せて見えたという限度ではD医師の供述は信用できるといえる。)。 さらに,被害者の食生活の変化についてみても,被害者の死因や上記体重の推移に照らすと,被告人の認識はともかくとして,被害者の食事量も体重が増加傾向をたどっていた時期に比べると総量として相当減少していたと推認できる。この点,Aは,被害者の食事量は 者の死因や上記体重の推移に照らすと,被告人の認識はともかくとして,被害者の食事量も体重が増加傾向をたどっていた時期に比べると総量として相当減少していたと推認できる。この点,Aは,被害者の食事量は被害者が食事の経口摂取を始めた平成25年1月以降目立った変化はなかったなどと供述するが,体重の推移等に照らし信用できない。 以上のとおり,被害者が死亡するまでの間に被害者の体重や体格に明らかな変化があったことや,食事量も減少していたと推認できることに加え,被害者が死亡当時3歳10か月の幼児であり,先天性ミオパチーに罹患していて筋肉の発達が鈍く,健常児に比べて発達が遅れる傾向にあった者であることも併せみれば,被害者が低栄養に陥ったと認められる平成26年4月頃以降の時点で は,被害者は,普通の人であれば,十分な栄養を与えられていないために生命身体が害されるかもしれないと認識する状態(保護を要する状態)にあったと認められる。 (5) 争点③(故意)についてア検察官は,被告人は①被害者の体重及び体格の変化や②被害者の食生活の変化,③被害者の衰弱状態などを認識していたと認められるから,被告人に不保護の故意があったといえる旨主張する。 イ被害者の体重及び体格の変化の認識の有無について被害者の体重が平成25年10月以降,解剖時までの間に約3kg 減少していたことや,被告人は被害者と同居し,一緒に風呂に入ったり,被害者を抱き上げたりする機会が頻繁にあったこと,被告人も平成26年1月から2月頃に,被害者の手足が痩せているように見えたことを自認していることなどに照らすと,被告人としても,平成26年4月頃の時点で,被害者の体重の変化や手足の細さ以外の体格の変化を認識していた可能性はあるといえる。 しかし,被告人は,手足の細さについては,身長の ることなどに照らすと,被告人としても,平成26年4月頃の時点で,被害者の体重の変化や手足の細さ以外の体格の変化を認識していた可能性はあるといえる。 しかし,被告人は,手足の細さについては,身長の伸びによって手足が痩せて見えたとしか考えず,体重の減少と関連付けて考えたことはなかったとし,体重の点についても,平成26年以降は計測したことがなかったから増減には気付かなかったなどと供述しているところ,先天性ミオパチーに罹患していた被害者は当初から健常児よりも痩せていたことや,被害者に運動能力の点で変化が生じていたと認め得る証拠はないこと,被告人において手足が痩せて見えたという時期が被害者の身長が伸びていた時期とも重なっていること,体重や体格の変化を感じられるかどうかは感覚的な問題であるところ,被害者の体重や体格が順次減少ないし変化していたとすれば,毎日接しているがゆえにかえって意識的に観察しないとその変化に気づかないという可能性もあながち否定できないことなどに照らすと,上記被告人の弁解は不自然とまではいえない。 検察官は,平成25年10月以降,当時1歳に満たない被害者の弟の体重と被害者の体重とが逆転する時期があったから,被害者の弟と被害者のそれぞれを頻繁に抱き上げていた被告人としては,両者を比較することによって被害者の体重の減少等に気づき得たはずであるとも主張するが,健常児で順調に発達を遂げていた被害者の弟の体重が被害者の体重を上回ったからといって,被害者の体重増加が遅いというにとどまらず,むしろ減少を続けているという認識にまで直ちに結び付くものとはいえない。 なお,被告人は,平成26年4月当時,自身の母親であるFに対して,LINEで被害者が夜中に勝手に物を食べたりしていることについて相談する内容のメッセージを繰り返し送ってい び付くものとはいえない。 なお,被告人は,平成26年4月当時,自身の母親であるFに対して,LINEで被害者が夜中に勝手に物を食べたりしていることについて相談する内容のメッセージを繰り返し送っているが,その内容を見ても,被告人において被害者の体重や体格の変化に気付いていたことをうかがわせるものは含まれておらず,他に平成26年4月頃,被告人が被害者の体重の変化や手足の細さ以外の体格の変化について認識していたと認めるに足りる証拠はない。 ウ被害者の食生活の変化の認識の有無について被害者の食生活の変化に関し,被告人は,被害者が平成26年4月に入り,好物であった白飯を残したり,夜中に勝手に冷蔵庫を開けてアイスクリームやニンニクチップ等を食べるようになったため,被害者の食事量に注意を払うようになったと供述し,被害者が食事を抜くことがあったことも認識していたと供述している。 もっとも,被告人は,被害者と毎食を共にしていたわけではなく,特に平成26年4月以前の被害者の食事の摂取状況については詳しく認識していたと認めるに足りる証拠はない。また,被告人は,被害者が食事を残したり,食事を抜いたりしたことがあっても,2日以上続けて食事を取らなかったことはなかったから,被害者が低栄養になるとは考えなかったと述べているところ,この点についてはAも被告人と同旨の供述をしているほか,被告人がその当時Fに対してLINEで送信したメッセージにも「ご飯とか飲みもん とかめっちゃ食う」(平成26年4月16日)などと被害者が多量に食事をしていたことをうかがわせる記載があるから,この被告人供述の信用性も否定できない。他に被告人において被害者の食事量が以前に比べて減少していることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。 検察官は,被害者が夜間にニンニクチッ 載があるから,この被告人供述の信用性も否定できない。他に被告人において被害者の食事量が以前に比べて減少していることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。 検察官は,被害者が夜間にニンニクチップ等を食べたり,好物であった白飯を食事の際に残すようになったりしたという被告人供述によっても,被告人が被害者の食事量の減少を認識していたと推認できると主張する。しかし,被害者の夜間の飲食は,見付けたものを残さず全て食べるというものではなく,一口かじったり,よそったご飯を残していたりしたこともあったというのであるし,その原因としては,空腹のほかにも,ストレスや好き嫌いなどといった様々なものが考えられ,被害者の夜間の飲食に関する被告人とFとの間のLINEでのやり取りを見ても,被害者の食事量の減少と結び付けてこの点を考えていた様子はうかがえない。被害者が好物の白飯を残すことがあったという点も,前述のとおりその後に食事をし,中には大人よりも多量の食事をすることがあったから被害者の栄養が不足しているとは考えなかったとする被告人供述を前提とすれば,被告人が被害者の食事量の減少を認識していたと認めるに足りるものではない。 エ被害者の衰弱状態の認識の有無について検察官は,被告人が平成26年5月23日に被害者とその弟を撮影した動画が,当時3歳半を超えていた被害者が1歳に満たない弟に体格でも体力的にも見劣りする状態であったことを明らかにしており,被害者が当時衰弱状態にあったことを示すから,被告人にも被害者の衰弱状態の認識があったといえる旨主張する。しかし,比較の対象となるそれ以前の動画が提出されているものではないから,動画自体から被害者の体力等の減少が見て取れるとはいえない。また,被告人は,この動画は,被害者が弟とけんかができるようになるまでに成長 較の対象となるそれ以前の動画が提出されているものではないから,動画自体から被害者の体力等の減少が見て取れるとはいえない。また,被告人は,この動画は,被害者が弟とけんかができるようになるまでに成長したことを記録するために撮影したものである旨供述し ているところ,動画の内容や,被告人がこの動画を被害者の死亡後の葬儀の際に親族全員で鑑賞したと述べていることなどに照らすと,この被告人供述も排斥できるものではない。 検察官は,平成26年6月13日及び同月14日の被害者の状態からして被害者の衰弱状態はより顕著となっており,被告人もその点の認識があったといえるとも主張する。しかし,被告人供述やA供述によれば,被告人は同月13日,被害者が昼間から就寝し,買い物の誘いにも応じず,同日夜に被害者の顔を見た際にはその頬が痩せているのを認識したとは認められるものの,被告人が被害者の健康状態についてAと話したり,FにLINEで相談するなどしていないことに照らすと,この時点で被告人が被害者は低栄養により衰弱していると認識したと認めることはできない。翌14日についても,被告人は被害者が風邪等の症状があるわけでもないのに朝から一切食事を取ることなく就寝し続けているのを認識したとは認められるものの,被告人自身はその日も昼過ぎまでは仕事に行っており,その間の被害者の状態は直接見ておらず,また,いったん帰宅した後も夜は外出し,被害者の様子を注意深く確認していたとはいえないことも踏まえると,被害者が一日中食事をしなかったことはそれ以前にもあったため,直ちに病院に連れて行くまでの必要は感じなかった,翌日(15日)に被害者の好きなマクドナルドに連れて行き,それでも食べなければ病院に連れて行こうと考えていたなどという被告人供述を排斥することはできない。そうすると, 行くまでの必要は感じなかった,翌日(15日)に被害者の好きなマクドナルドに連れて行き,それでも食べなければ病院に連れて行こうと考えていたなどという被告人供述を排斥することはできない。そうすると,被告人は,14日の時点では,翌日に病院に連れて行くことを意識する程度には,被害者の健康状態に不安感を抱いたとはいえるものの,直ちに病院に連れて行かなければならないほどに被害者が低栄養によって衰弱していると認識し,そのような状態を認容していたとまでは認められない。 なお,検察官は,被告人の平成26年12月8日付け検察官調書(乙5)を根拠に,被害者が最後に夕食を食べたのは同年6月12日であると主張す るが,被告人が被害者の死亡した当日(同月15日)に警察官から事情を聞かれた際には,最後に被害者が食事をしたのは一昨日(同月13日)であると供述していたことや,Aも被害者が同月13日には三食を食べたと供述していることに照らし,上記検察官調書の供述内容は信用できない。 オ経鼻チューブに関するAとの会話について検察官は,被告人及びAが,被害者の死亡以前に被害者が2日以上食事をしないときには経鼻チューブをもらうために病院に行こうと話し合っていたことを自認していることを根拠に,被告人が被害者に栄養を取らせる必要性を感じていたと主張する。 しかし,このような相談がされた時期については,これを明確に特定し得る証拠はない上(Aの捜査段階の供述には,平成26年2月に被害者を病院に連れて行った時よりも後という記載があるが,被告人供述及びAの公判供述と対比して,時期の点において信用できるものとまではいえないし,捜査段階供述によっても同年4月以降であるとは認め難い。),被害者が風邪をひいたときに話し合ったものであって,結局被害者が2日続けて食事を抜く して,時期の点において信用できるものとまではいえないし,捜査段階供述によっても同年4月以降であるとは認め難い。),被害者が風邪をひいたときに話し合ったものであって,結局被害者が2日続けて食事を抜くことにはならなかったため経鼻チューブをもらいに行くことはしなかったという被告人供述を排斥し得る証拠もないから,このようなやり取りがあったことをもって,同年4月頃以降,被告人が,被害者が低栄養の状態にあったと認識していたと認めることはできない。 カ以上によれば,被告人が,平成26年4月頃から6月中旬頃までの間,十分な栄養を与えられていないために被害者の生命身体が害されるかもしれないと認識し,認容していたとは認められない。 2 予備的訴因(重過失致死罪)について前記のとおり,客観的には,被害者は平成26年4月頃以降,食事量が減少し,その体重も大幅に減少して低栄養に陥り,保護を要する状態にあったと認められるところ,被告人は,Aと共に被害者を監護すべき立場にあり,同年1月から2 月頃の時点で既に被害者の手足が痩せて見えたと感じていたのであるし,同年4月以降,被害者が頻繁に食事を抜いたり,食事の際に好物である白飯を残したり,夜間に冷蔵庫等に入っている食材等を勝手に食べたりするなど,その食生活に変化が生じていることは認識しており,また,被害者を抱き上げたり,被害者と一緒に入浴したりすることは頻繁にあったというのであって,その際に被害者の体重の減少を認識したり,被害者の体格の変化を感じ得る機会は十分にあったといえる。そうすると,先天性ミオパチーに罹患していた被害者が当初から健常児よりも痩せていたことを考慮しても,手足の状況や食生活変化等を踏まえて,被害者を意識的に観察すれば,被害者の体格の変化や約3㎏(3割)にも及ぶ体重の減少傾向と食 に罹患していた被害者が当初から健常児よりも痩せていたことを考慮しても,手足の状況や食生活変化等を踏まえて,被害者を意識的に観察すれば,被害者の体格の変化や約3㎏(3割)にも及ぶ体重の減少傾向と食事量の減少傾向について容易に認識できたと認められる。 また,被告人は,平成26年6月13日,被害者が昼間から就寝していることを認識するとともに,その後,買い物に連れ出そうとした際にも以前はほとんど応じないことがなかったのに被害者が誘いに応じず,同日夜に被害者の顔を見た際にはその頬が痩せて見えたことを自認しており,翌14日に仕事から帰宅した際には,風邪等の症状があるわけでもないのに被害者が朝から一切食事を取らず,寝室で就寝し続けていることも認識し,翌日に病院に連れて行くことを意識する程度には被害者の健康状態に不安感を抱いていたと認められる。これらからすると,かつて被害者の定期的な通院を解除された際にD医師からは具体的な注意事項を説明されていなかったことや,被害者が食事を一日抜くことが以前にもあったこと,同月13日までは食事を取っていたこと,被害者に運動能力の点で変化が生じていたと認め得る証拠はないことなど,弁護人が指摘する事情を十分に考慮しても,少なくとも同月14日に被害者が朝から一切食事を取ることなく就寝し続けていることを認識した時点であれば,被告人において,被害者が衰弱していることは容易に認識できたといえる。これに,前記のとおり同年4月以降被害者の体重や食事量の減少傾向についても容易に認識できたことと併せみれば,被告人において,僅かな注意を払えば,被害者が低栄養により生命身体が害される かもしれない状態にあることを認識できたと認められる。 そして,被告人がその時点で被害者に対し適切な医療措置を受けさせていれば,被害者の死亡結 ,被害者が低栄養により生命身体が害される かもしれない状態にあることを認識できたと認められる。 そして,被告人がその時点で被害者に対し適切な医療措置を受けさせていれば,被害者の死亡結果の発生は回避できたと認められる一方,そのような措置に出ることに特に支障があったとも認められないから,被告人には判示注意義務を肯定でき,それにもかかわらず,被害者の食生活の変化等は一時的なものにすぎず,生命身体に危険は生じていないなどと軽信し,被害者に対して適切な医療措置を受けさせるなど生命身体への危険の発生を未然に防止する措置を講じなかった被告人には,重大な過失があると評価できる。 したがって,判示のとおりの重過失致死罪を認定した。 (法令の適用) 1 被告人の行為は,刑法211条後段に該当し,所定刑中禁錮刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を禁錮1年6月に処することにする。 2 刑法21条を適用して未決勾留日数中240日をその刑に算入することにする。 3 情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することにする。 4 訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないことにする。 (量刑の理由)本件は,被害者の側に何ら落ち度がなく,親としての基本的な注意義務を果たさなかった結果尊い命を失わせた事案である。被告人の過失は重大であり,結果も重い。もっとも,重過失致死の事案の中でも重いかという観点からみると,被告人は,障害を有する被害者に対して愛情を持って接してきた経過がみられ,被害者が低栄養に陥った後も,十分ではなかったとはいえ被害者の食生活に関心を示したり,自分の母親に相談したりしていた。その意味で,全く無関心であった結果被害者の異変に気付かなかったような事案と れ,被害者が低栄養に陥った後も,十分ではなかったとはいえ被害者の食生活に関心を示したり,自分の母親に相談したりしていた。その意味で,全く無関心であった結果被害者の異変に気付かなかったような事案とは異なっており,重過失致死罪の事案の中で特に重い量刑をすべき事案とはいえない。その上で,被告人が被害者を死亡させてしま ったことについて謝罪及び後悔の言葉を述べていることや,前科がないこと,被告人の更生環境なども考慮し,主文のとおり量刑した。 (求刑主位的訴因について懲役6年,予備的訴因について禁錮3年)平成28年1月28日大阪地方裁判所第14刑事部 裁判長裁判官飯島健太郎 裁判官矢野直邦 裁判官藤本敬太

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