平成29(ワ)42453 損害賠償請求事件(医療過誤)

裁判年月日・裁判所
令和3年4月30日 東京地方裁判所
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判決文本文37,083 文字)

令和3年4月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官損害賠償請求事件(医療過誤)口頭弁論終結日令和2年11月13日判決 主文 1 被告は,原告に対し,963万4721円及びうち853万4721円に対する平成25年11月21日から,うち110万円に対する平成28年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担 とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,2879万1071円及びこれに対する平成25年 11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事実関係 1 事案の概要本件は,被告が運営する東京女子医科大学東医療センター(前身の東京女子医科大学附属第二病院を含む。以下「被告センター」という。)において 3回にわたって両眼の白内障手術を受けた原告が,被告センターの医師には,①手術適応の前提となる説明を怠った過失,②術後,原告の眼圧を適切に管理することを怠った過失があり,その結果,後遺障害等級8級に相当する左眼失明の後遺障害を負ったほか,被告センターの医師によるカルテの改ざんや虚偽説明によって精神的損害を被ったと主張して,被告に対し,債務不履 行又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求として損害金2879 万1071円及びこれに対する1回目の白内障手術の日である平成25年11月14日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める 71円及びこれに対する1回目の白内障手術の日である平成25年11月14日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨 により容易に認められる事実)⑴ 当事者等ア原告は,昭和8年2月28日生まれの男性である(争いのない事実)。 イ被告は,被告センターを運営する法人である。 A医師は,原告が被告センターにおいて白内障手術を受けた当時,被 告センター眼科に勤務する医師であり,原告の主治医として白内障手術を執刀した者である。 (争いのない事実)⑵ 事実経過ア原告は,平成12年6月27日以降,右眼の加齢黄斑変性等の治療のた め被告センター眼科に通院していた。原告には,平成15年8月9日,右眼の白内障が認められ,平成16年4月20日には,左眼にも白内障が認められていた。(乙A1〔1,4,41,45頁〕)。 イ原告は,平成25年5月7日(以下では,特に断らない限り日付は平成25年のものである。),被告センター眼科を受診した。原告は,被告と の間で診療契約を締結した上,被告センター眼科のB医師の診察を受け,両眼の加齢黄斑変性症と診断され,同日以降,左眼の加齢黄斑変性症の治療のため,被告センターに通院した。(乙A1〔71頁〕,2〔38頁〕,弁論の全趣旨)ウ原告の担当医は,9月24日,B医師から同医師の指導医であるA医師 に変更され,同日,原告に対し,11月14日に右眼,同月21日に左眼 の白内障手術が実施される予定となった。原告の矯正視力は,右眼0.02,左眼0.3であった。(乙A1〔81,82頁〕,証人A医師(同人の 日,原告に対し,11月14日に右眼,同月21日に左眼 の白内障手術が実施される予定となった。原告の矯正視力は,右眼0.02,左眼0.3であった。(乙A1〔81,82頁〕,証人A医師(同人の陳述書(乙A12)を含む。以下同じ。5頁),弁論の全趣旨)エ A医師は,11月14日,原告に対し,白内障の治療として右眼の水晶体再建術(水晶体超音波乳化吸引術(PEA)及び眼内レンズ挿入術(I OL))(以下「本件手術1」という。)を実施した(乙A1〔83頁〕,3〔21頁(=乙A9)〕)。 オ A医師は,11月21日,原告に対し,白内障の治療として左眼の水晶体再建術(水晶体超音波乳化吸引術)(以下「本件手術2」という。)を実施したが,チン小帯の断裂があったため,眼内レンズ挿入術は実施でき なかった。(乙A1〔85頁〕,4〔22頁(=乙A10)〕)カ A医師は,12月26日,原告に対し,本件手術2において挿入できなかった眼内レンズを挿入するため,眼内レンズ挿入術及び硝子体茎離断術(以下「本件手術3」という。)を実施した(乙A1〔91頁〕,5〔25頁(=乙A11)〕)。 キ本件手術3の後,原告の左眼の視力は光覚弁なし(明暗を識別できない)となり回復しなかった(乙A1〔93ないし107頁〕,弁論の全趣旨)。 順天堂大学医学部附属順天堂医院のC医師は,平成29年1月6日,原告について両加齢黄斑変性,左網膜中心動脈閉塞症,左失明と診断し,自覚症状と日常生活に及ぼす影響として,右眼中心暗点と左眼失明により, 日常において転倒や転落のリスクが高い,中心視野がないため物を見る事に対する障害が著しいとした(甲C1)。 ⑶ 医学的知見ア白内障白内障とは,水晶体の混濁の総称である(甲B1)。 加齢白内障の 転落のリスクが高い,中心視野がないため物を見る事に対する障害が著しいとした(甲C1)。 ⑶ 医学的知見ア白内障白内障とは,水晶体の混濁の総称である(甲B1)。 加齢白内障の治療法は,薬物療法と手術療法に分けられ,視力,羞明 の改善には手術療法が必要となる。手術適応は,隅角での房水流出の障害となる膨隆白内障,合併症発症のリスクのあるモルガーニ白内障等を除いて相対的適応であり,自覚症状,生活で必要とされる視力,術後の屈折矯正等を勘案して決定する。 医師は,患者に対し,手術をしない場合の予後,術中及び術後の合併 症(眼内レンズ挿入の可否,術中破嚢,眼内組織傷害,術後眼内炎による失明の頻度(5000ないし1万例に1例)等)について情報提供する必要がある。 インフォームドコンセントのポイントとして,①手術を行わない選択肢もあり,通常の加齢白内障であれば急激な視力低下,白内障単独での 失明は生じないこと,②手術のメリットとして,視力の回復,QOLの向上,眼底検査が容易になり眼底病変の発見・経過観察に有利であること,③手術のデメリットとして,感染症を含む視力低下のリスク(5000ないし1万例に1例),術後は調節力が失われることなどが挙げられる。 (甲B1)白内障手術の合併症として最も重篤なものは,術後感染症,眼内炎である。 術中合併症としては,後嚢破嚢が最も多く,ほかに水晶体核の硝子体内落下,虹彩損傷等があり,また,極めて稀なものとして駆逐性 眼内出血がある。抗凝固薬,前立腺肥大薬による術中出血,虹彩変化等や,高齢化に伴う循環器系疾患,糖尿病等にも注意が必要である。 (甲B1,2)b 水晶体超音波乳化吸引術における術中合併症として後嚢破嚢,チン小帯(チン氏帯)断裂があるが,こ 中出血,虹彩変化等や,高齢化に伴う循環器系疾患,糖尿病等にも注意が必要である。 (甲B1,2)b 水晶体超音波乳化吸引術における術中合併症として後嚢破嚢,チン小帯(チン氏帯)断裂があるが,これらが生じると手術目的である眼 内レンズ挿入のための水晶体嚢温存又は眼内隔壁温存を達成できなく なるため,最も避けなければならない合併症の一つである。 チン小帯断裂は,偽落屑症候群等の術前からチン小帯が脆弱な症例に起こることが多い。 札幌医科大学及び関連病院における80歳以上の眼内レンズ移植術施行例101例(以下「高齢者群」という。)における合併症につ いて,同一期間の60歳代129例及び70歳代223例を対照群として比較検討した論文によれば,術中合併症としてチン小帯断裂が高齢者群で5.6%であり,対照群よりも高頻度であった。術後合併症として高眼圧は高齢者群で16.8%であった。また,高齢者群では,術後の視力が0.8以上の視力良好例は約41%にとどまり,70% 前後であった対照群よりも低かった。なお,術前の合併症については,散瞳不良が高齢者群で4.8%であり,1%未満であった対照群よりも高頻度であった。 (甲B2,3)イ眼圧 眼圧とは,角膜,強膜及び視神経で形成される眼球外壁における,眼球形状を維持するための内圧をいう。眼圧を規定する主体は房水量であり,眼圧は房水の産生と排出のバランスに依存し,高眼圧の主因のほとんどは房水の排出障害である。 日本での40歳以上の非緑内障症例の平均眼圧は14.5±2.5mmHg であり,正常眼圧の上限は20mmHg である。 眼圧は一日の中で変動し,一般に午前中に高い。 (甲B1)ウ網膜中心動脈閉塞症網膜動脈閉塞症は,突然重篤な視力障害を発症する眼疾 g であり,正常眼圧の上限は20mmHg である。 眼圧は一日の中で変動し,一般に午前中に高い。 (甲B1)ウ網膜中心動脈閉塞症網膜動脈閉塞症は,突然重篤な視力障害を発症する眼疾患の一つであり, 網膜動脈本幹及びその分枝が急激に閉塞し,網膜への血行が途絶する結果 網膜虚血・壊死に至り,重篤な視機能障害を引き起こす。閉塞部位により網膜中心動脈閉塞症と網膜動脈分枝閉塞症に分類される。臨床的には発症後48時間以内であれば,視機能回復が可能であると考えられている。 発症機序として,①心臓又は大動脈病変からの塞栓子の飛来,②乳頭内での粥状硬化,動脈炎による攣縮のための動脈の閉塞,③緑内障や外力に よる高眼圧がある。 (甲B1,4) 3 争点⑴ カルテの改ざん及び虚偽説明の有無(争点⑴)⑵ 手術適応の前提となる説明義務違反の有無(争点⑵) ⑶ 原告の眼圧を適切に管理する注意義務違反の有無(争点⑶)⑷ 争点⑵の説明義務違反と結果の間の相当因果関係の有無(争点⑷)⑸ 争点⑶の注意義務違反と結果の間の相当因果関係の有無(争点⑸)⑹ 原告の損害(争点⑹) 4 争点に関する当事者の主張の要旨 ⑴ 争点⑴(カルテの改ざん及び虚偽説明の有無)について(原告の主張の要旨)A医師は,故意にカルテの改ざん及び原告に対する虚偽の説明を行った。 すなわち,①A医師は,原告のチン小帯は,両眼とも弱くはなく,また,左眼のチン小帯は,本件手術2の手術手技によって断裂したにもかかわらず, 原告のチン小帯が,両眼とももともと弱く,本件手術2の際に,左眼のチン小帯がもともと断裂していたことが確認されたなどとカルテに記載し,原告に対し,これと同旨の内容を説明した。②また,A医師は,原告の左眼の前房出 が,両眼とももともと弱く,本件手術2の際に,左眼のチン小帯がもともと断裂していたことが確認されたなどとカルテに記載し,原告に対し,これと同旨の内容を説明した。②また,A医師は,原告の左眼の前房出血・硝子体出血が,本件手術2の術中に手術手技によって発生したものであるにもかかわらず,本件手術2の後に出血したとカルテに記載し,原告 に対し,これと同旨の内容を説明した。③さらに,A医師は,11月26日 の原告の左眼眼圧について56mmHg と記載していたにもかかわらず,これを36mmHg と書き換え,原告に対し,これと同旨の内容を説明した。 以上の行為は,診療契約上の顛末報告義務違反又は不法行為を構成する。 (被告の主張の要旨)否認ないし争う。 ①については,原告は,過去に前立腺肥大症の治療としてα遮断薬を服用していたためにIFIS(術中虹彩緊張低下症候群)を発症し,虹彩構造及びチン小帯が脆弱で,チン小帯は部分断裂しており,水晶体の固定が悪化していた。このことは,本件手術2において,㋐前嚢切除の前提として,粘弾性物質を前房内に注入した際,水晶体が下方(硝子体側)に移動したこと, ㋑前嚢切除の際,水晶体が動揺したこと,㋒水晶体の超音波乳化吸引術の開始直後に水晶体の後方移動が確認されたこと及び上記㋐ないし㋒の各時点において原告が痛みを訴えたことからも裏付けられる。 原告は,チン小帯が脆弱であるため,散瞳不良であった。IFISの場合,散瞳薬で散瞳しても,術中操作や眼内圧の変動により縮瞳と散瞳を繰り 返すことになる。原告は,本件手術1・2の際,複数の散瞳薬の投与により多少散瞳が良くなっていたために,手術記録には散瞳良好と記載されたものである。 ②については,原告の眼内組織が脆弱であるために,本件手術2におい 告は,本件手術1・2の際,複数の散瞳薬の投与により多少散瞳が良くなっていたために,手術記録には散瞳良好と記載されたものである。 ②については,原告の眼内組織が脆弱であるために,本件手術2において前房及び硝子体前方に出血が見られたが,これは手術終了時に全て取り除 いている。原告は,眼内の血管組織が脆弱であることに加え,高血圧が継続していたことから,本件手術2の後に再出血したものである。したがって,カルテの記載及び原告への説明に虚偽はない。 ③については,原告の11月26日の左眼眼圧は36mmHg であった。同日の看護記録に原告の左眼眼圧が56mmHg と記載されているのは,看護師 によるカルテの転記ミスである。これは,原告が眼痛等の症状を自覚してい ないことからも裏付けられる。 ⑵ 争点⑵(手術適応の前提となる説明義務違反の有無)について(原告の主張の要旨)白内障に対する手術は,相対的適応であり,術前視力や自覚症状,生活状況を踏まえた不便さ,術後に予想される矯正視力,合併症の危険性等を踏ま え,慎重に検討しつつ,上記の点を十分に患者に説明し,患者と相談しながら手術の実施について判断するものである。したがって,上記の説明を行い,患者のインフォームドコンセントを得ることが手術適応の条件となり,これがなければ,手術適応はない。 以上のことから,A医師は,本件手術1ないし3を実施するにあたり,手 術適応の条件として,原告に対し,手術を実施しない場合の予後,術中・術後の合併症(眼内レンズ挿入の可否,術中の後嚢破損,眼内組織傷害,術後眼内炎による失明の頻度等)について説明する注意義務を負っていた。 特に,手術に付随する危険性については,失明等の合併症のほか,原告のチン小帯が弱く,これが断裂したり,後嚢が 損,眼内組織傷害,術後眼内炎による失明の頻度等)について説明する注意義務を負っていた。 特に,手術に付随する危険性については,失明等の合併症のほか,原告のチン小帯が弱く,これが断裂したり,後嚢が破損したりして,眼内レンズを 挿入できず,そのため手術が1眼で2回(両眼で4回)に分かれる可能性があり,また,水晶体核が硝子体側に落下する可能性が50%であること,出血・硝子体脱出による眼圧上昇等の合併症発症の可能性があり,全てを勘案した合併症の発生可能性は10%程度であること,原告の白内障手術の難易度は高く100人に一人程度の難易度であったことを説明し,さらに,他に 選択可能な治療方法の内容及び利害得失については,80歳代の高齢者の場合,術後視力良好例は約41%程度であり,手術を実施せず経過観察とする選択肢があり,その場合も通常の加齢白内障では急激な視力低下,白内障単独での失明は生じないことを説明する注意義務があった(以下では,原告が説明すべきであったと主張する事項を「本件説明事項」という。)。 ところが,A医師は,原告から同意書を取得した11月8日までの間に, 原告に対し,一般的な合併症の説明を含むビデオを視聴させたり,原告が白内障であり,その手術を行うこと等は説明したりしたものの,原告の状態に着目した本件説明事項を説明しなかったのであるから,A医師には説明義務違反がある。そして,本件手術1ないし3の手術適応の条件である患者のインフォームドコンセントの前提となる説明がなされていない以上,本件手術 1ないし3に手術適応は認められないから,A医師には手術適応に関する注意義務違反もある。 なお,光覚弁が失われている場合には,いかなる手術も適応はないため,本件手術3については,光覚弁の有無を他覚検査によって確認し 応は認められないから,A医師には手術適応に関する注意義務違反もある。 なお,光覚弁が失われている場合には,いかなる手術も適応はないため,本件手術3については,光覚弁の有無を他覚検査によって確認した上で実施すべきであったのに,これがされないまま実施されたものであり,不要な手 術であったと考えられる。 (被告の主張の要旨)A医師が,本件説明事項について説明義務を負っていたことは認めるが,同説明義務に違反したことは否認する。 A医師は,原告に対し,本件説明事項について,9月24日,10月1 8日,11月8日,同月14日,同月15日,同月20日及び同月21日と繰り返し説明している。11月8日のカルテに記載があるとおり,原告が,加齢黄斑変性をはじめ眼の疾患を多く抱えていたため,チン小帯が弱いこと,チン小帯が断裂している場合,眼内レンズを入れられないこと,感染,網膜剥離,出血による失明について,眼模型と説明図を用いて, 他の患者以上に十分に説明したものである。 なお,A医師は,本件手術3に先立って他覚検査を行い,原告に光覚弁があることを確認しているし,高眼圧の治療及び眼球癆(重大な損傷や疾病により,眼球の形態や機能を失い,眼圧が低下して眼球が萎縮,縮小した状態。)への移行予防を目的に本件手術3を実施することには 意義があった。 ⑶ 争点⑶(原告の眼圧を適切に管理する注意義務違反の有無)について(原告の主張の要旨)高眼圧が継続すると眼内への血液の流入が阻害され,失明に至る可能性があるが,原告は,本件手術2以降出血に起因して高眼圧となり,それが継続していた。したがって,A医師は,11月21日に実施された本件手術2以 降,12月3日までの間,原告を被告センターに入院させ,頻繁に経過観察(眼圧の 2以降出血に起因して高眼圧となり,それが継続していた。したがって,A医師は,11月21日に実施された本件手術2以 降,12月3日までの間,原告を被告センターに入院させ,頻繁に経過観察(眼圧の観察)を行い,適宜グリセオール等の点滴や前房穿刺(パラセン),高眼圧の原因が出血にあると考えた場合には前房洗浄を行い,出血箇所の血液を取り除くなど原告の失明を回避すべく眼圧を管理してコントロールする注意義務を負っていた。 しかるに,A医師は,原告が11月22日に嘔気を訴え,実際に嘔吐するなど体調が悪く,それが眼圧上昇による影響である可能性が高かったにもかかわらず,同月23日,原告を被告センターから退院させ,また,グリセオール等の点滴や前房洗浄も行わず,原告の更なる高眼圧(同月26日に56mmHg,12月3日に60mmHg 超)を招き,これを継続させ,上記注意義務 に違反した。 (被告の主張の要旨)原告が,11月22日に嘔気があったこと,同月23日に被告センターを退院したこと,同月26日に正常眼圧を超える高眼圧となったこと,A医師が,原告に対し,グリセオール等の点滴や前房洗浄を行っていないことは認 めるが,その余は否認ないし争う。 同月22日及び23日の原告の左眼眼圧は正常であったが,A医師は,今後,眼圧が上昇する可能性を予見し,事前に炭酸脱水酵素阻害薬(ダイアモックス)を処方することで,眼圧が上昇しないように予防策を講じた。また,同月26日の時点で,原告の左眼眼圧が36mmHg に上昇したため,緑内障 点眼薬を処方し,さらに前房穿刺を実施して,左眼眼圧を4ないし6mmHg まで低下させているのであって,A医師は,術後の高眼圧及び出血に対して,迅速かつ的確な治療を行っており,眼圧を適切に管理する注 処方し,さらに前房穿刺を実施して,左眼眼圧を4ないし6mmHg まで低下させているのであって,A医師は,術後の高眼圧及び出血に対して,迅速かつ的確な治療を行っており,眼圧を適切に管理する注意義務の違反はない。同日の原告の左眼眼圧が36mmHg であったことは前記⑴(被告の主張の要旨)のとおりである。ただし,眼圧が36mmHg と56mmHg のいずれであろうと速やかに眼圧を低下させるという治療方針は同様である。また, 12月3日に「60オーバー」とあるのは,術後の角膜浮腫により原告の角膜の形状が変化し,非接触型眼圧計の空気圧での測定が不能であったために表示されたもので,実際にはアプラネーショントノメーター(圧平眼圧計)で測定した結果,眼圧は20mmHg であった。 なお,原告は,11月22日(金曜日)に退院予定であったが,嘔気があ ったため,退院を延期した。そして,原告の眼圧は,上記のとおり同月23日(土曜日)の時点で正常であり,退院が可能な状況ではあったものの,A医師は,原告に対し,念のため週が明けるまで入院することを勧めたが,原告が退院を希望したため,退院することとなったのである。また,原告の眼圧が低下しなかったのは,原告が退院時にA医師から処方されたダイアモッ クスを指示通りに内服しなかったことが要因と推認される。 ⑷ 争点⑷(争点⑵の説明義務違反と結果の間の相当因果関係の有無)について(原告の主張の要旨)原告の左眼失明は,本件手術2の手術手技により前房出血・硝子体出血が生じ,それにより高眼圧となり,高眼圧の状態がコントロールされずに長期 間継続した結果,生じたものである。したがって,本件手術2が行われなければ,左眼失明は生じなかった。なお,被告は,原告の左眼失明の機序にIFISが関与 高眼圧の状態がコントロールされずに長期 間継続した結果,生じたものである。したがって,本件手術2が行われなければ,左眼失明は生じなかった。なお,被告は,原告の左眼失明の機序にIFISが関与していると主張するが,カルテ等に記載はなく,原告はIFISを発症していなかったか,発症していたとしても手術の実施を困難にする程度のものではなかった。 そして,本件手術2は,緊急の手術ではなく,原告にとってリスクが大き いにもかかわらず,メリットはわずかであり,かつ原告がメリットを享受できる見込みも小さく,また,原告が総じて手術に対して消極的であったことからすれば,A医師が前記⑵(原告の主張の要旨)の手術適応の条件としての説明義務を果たしていれば,原告は,本件手術2を受けなかった高度の蓋然性がある。 以上より,前記⑵(原告の主張の要旨)の説明義務違反がなければ,原告の左眼失明が生じなかった高度の蓋然性がある。 (被告の主張の要旨)本件手術2が緊急の手術でないことは認めるが,その余は否認する。 原告の左眼失明は,術前から存在した原告の素因によるものと考えられる。 すなわち,原告は,前立腺肥大症の治療の結果,IFISを発症し,チン小帯が脆弱であり,また,①左眼緑内障,②両眼加齢黄斑変性と眼底出血,③左眼網膜下液,網膜剥離,網膜浮腫,④両眼動脈硬化性眼底,網膜循環不全の素因があって,これらが複合的に影響して,本件手術2の術後3日目(11月23日)に眼内出血を来し,動脈血管が閉塞して眼圧が上昇し,失明に 至ったものと考えられる。なお,IFISについてカルテ記載がないのは,原告の前立腺肥大症の治療歴が,診療当時A医師に知らされていなかったためである。 ⑸ 争点⑸(争点⑶の注意義務違反と結果の間の相当因 たものと考えられる。なお,IFISについてカルテ記載がないのは,原告の前立腺肥大症の治療歴が,診療当時A医師に知らされていなかったためである。 ⑸ 争点⑸(争点⑶の注意義務違反と結果の間の相当因果関係の有無)について(原告の主張の要旨) 原告の左眼失明の機序は,前記⑷(原告の主張の要旨)のとおりであり,原告の左眼失明は,出血に伴う高眼圧がコントロールされずに継続したことで生じたものであるから,A医師が,原告の眼圧を適切に管理する注意義務を果たしていれば,原告の左眼失明が生じなかった高度の蓋然性がある。 (被告の主張の要旨) 否認する。 原告の左眼失明の機序は,前記⑷(被告の主張の要旨)のとおりである。 ⑹ 争点⑹(原告の損害)(原告の主張の要旨)被告センター治療費 114万3700円後医治療費,交通費,薬剤代 2万0000円 逸失利益 654万9516円336万1700円×45%(労働能力喪失率)×4.3295(80歳の者の就労可能年数5年に対応するライプニッツ係数)=654万9516円慰謝料 a 傷害慰謝料 116万0000円b 後遺症慰謝料 830万0000円原告の左眼は失明状態にあり,控えめに評価しても後遺障害等級8級1号の「1眼が失明し,又は1眼の視力が0.02以下になったもの」に該当し,これによる精神的苦痛を金銭に換算すると830万円を下回 ることはない。 c 自己決定権侵害による慰謝料 100万0000円原告は,A医師の説明義務違反によって,正しい情報を前提に,眼という重要な器 換算すると830万円を下回 ることはない。 c 自己決定権侵害による慰謝料 100万0000円原告は,A医師の説明義務違反によって,正しい情報を前提に,眼という重要な器官について手術するかどうか主体的に決定する機会を奪われた。これによる精神的苦痛を金銭に換算すると100万円を下回るこ とはない。 d 手術適応に関する注意義務違反の慰謝料及び慰謝料増額事由による加算500万0000円A医師は,本件手術1ないし3を行うに際し,いずれも手術適応の条 件としての説明義務を怠った手術適応に関する注意義務違反があり,そ の結果,原告は,適応がない手術を3回にわたって実施され,違法に身体を侵襲された。 また,本件におけるA医師の過失は術中の手術手技なども含め複数あり,かつ,故意又は重過失に相当する悪質なものであるから,慰謝料の増額事由として考慮すべきである。 以上より,手術適応に関する注意義務違反により原告が受けた精神的苦痛を金銭に換算し,さらに上記の慰謝料増額事由を考慮すると,その額は500万円を下回ることはない。 e カルテ改ざん及び顛末報告義務違反による慰謝料300万0000円 カルテの改ざん及び原告に対する虚偽の説明の回数及び態様の悪質性から,これにより原告が被った精神的苦痛を金銭に換算すると300万円を下回ることはない。 文書料 485円弁護士費用 261万7370円 合計 2879万1071円(被告の主張の要旨)否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実,証拠(原告本人(同人の陳述 合計 2879万1071円(被告の主張の要旨)否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実,証拠(原告本人(同人の陳述書(甲A5)を含む。以下同じ。),証人A医師及び同D(以下「原告長男」という。)(同人の陳述書(甲A6)を含む。以下同じ。)のほかは,掲記のとおり。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の医学的知見及び事実が認められる。 ⑴ 医学的知見 ア眼圧について 眼圧測定機器について眼圧測定機器には,圧平眼圧計(アプラネーショントノメータ―),ノンコンタクトトノメーター(非接触型眼圧計(NCT))等がある。 圧平眼圧計の中でもゴールドマン圧平眼圧計(GAT)は最も標準的な眼圧計とされる。GATは,機器を直接角膜に接触させ,角膜中央を 圧平して眼圧を測定するものであり,測定精度は高いが,測定者のバイアスがかかる可能性があり,客観性には劣るとされる。また,角膜厚が厚い場合,実際よりも高い値が計測される。 NCTは,空気を角膜に噴射して角膜を変形させ,反射光の変化を利用して眼圧を測定するものであり,眼圧を機械的に算出するため客観性 は高いが,測定精度には劣るとされる。 NCTは,GATに比べ角膜厚の影響を受けやすいため,NCTで眼圧が高値に測定された場合には,GATでも測定すべきであり,また,高眼圧の患者にはGATを用いるべきであるとされる。 (甲B1,8,乙B7〔19頁〕,10〔資料7〕) 高眼圧に対する治療眼圧が50mmHg 以上に上昇すると,眼痛,頭痛,嘔気,かすみ等の症状が現れるが,高齢者では,眼の知覚が鈍麻して,高眼圧による自覚症状がない場合もある。眼圧が50mmHg 以上の状態が1週間程度継続 圧が50mmHg 以上に上昇すると,眼痛,頭痛,嘔気,かすみ等の症状が現れるが,高齢者では,眼の知覚が鈍麻して,高眼圧による自覚症状がない場合もある。眼圧が50mmHg 以上の状態が1週間程度継続すると,失明する可能性がある。(乙B7〔18頁〕,10〔資料2〕, 証人A医師(52頁))高眼圧の場合には,速やかに眼圧を下げる必要がある(乙B10〔資料2〕)。術後の一過性の眼圧上昇の場合,眼圧が30mmHg 以上であればダイアモックス等の炭酸脱水酵素阻害薬を投与し,50mmHg を超えるときには,マンニトール等の高圧浸透薬を投与する(乙B7〔35 頁〕,10〔資料5〕)。 イ IFIS(術中虹彩緊張低下症候群)IFISとは,白内障等の眼科手術時にみられる虹彩の異変で,術中の洗浄液流による虹彩のうねり,虹彩の脱出・嵌頓,進行性の縮瞳を三徴とする症候群である(甲B2,乙B3)。 平成17年頃から,前立腺肥大症の治療に用いられるα1遮断薬(α1 アドレナリン受容体遮断薬)が,瞳孔を調節する筋肉(瞳孔散大筋)にも影響を与え,白内障手術時にIFISを発症するという報告がされ始め,α1遮断薬のハルナールD錠及びユリーフ錠のインタビューフォーム(製薬会社が薬剤師等のために作成・提供する,添付文書を補完するための情報等を集約した資料)には,同旨の注意書きが記載されている(乙B1な いし6)。 IFISは,両眼で左右差があることはほとんどない。IFISにより白内障手術において眼内レンズが挿入しにくくなるなど,手術の難易度が上がるが,手術手技が不可能なほど重症のIFISの症例は非常に少ないとされる(乙B4)。 ⑵ 平成12年から平成25年の再受診までの事実経過ア原告は,平成12年2月頃,運転免許証 度が上がるが,手術手技が不可能なほど重症のIFISの症例は非常に少ないとされる(乙B4)。 ⑵ 平成12年から平成25年の再受診までの事実経過ア原告は,平成12年2月頃,運転免許証の更新の際に右眼の視力低下を指摘され,a医院を受診した。同医院受診時の原告の裸眼視力は,右眼0.06,左眼0.07であった。(乙A1〔4頁〕,2〔1頁〕)。 イ原告は,精査目的でa医院より被告センター眼科の紹介を受けて,平成 12年6月27日,同科を受診した。同日の原告の視力は,右眼が裸眼視力0.03,矯正視力0.1,左眼が裸眼視力0.04,矯正視力1.5であった。原告を診察したE医師は,右眼後極部黄斑近傍に網膜下出血を伴う漿液性網膜剥離を認め,右眼について加齢性黄斑変性症と診断した。また,原告の左眼にも加齢黄斑変性が認められた。(乙A1〔1ないし7頁〕, 2〔4頁〕,弁論の全趣旨) ウ原告は,平成12年7月14日,同年9月11日,平成14年1月15日,被告センター眼科において,右眼加齢黄斑変性に対するレーザー治療を受けた(乙A1〔8,11,27,28頁〕)。 エ被告センター眼科のF医師は,平成15年8月9日,原告について右眼加齢黄斑変性,白内障等と診断し,平成16年4月20日には,原告の左 眼についても白内障と診断した(乙A2〔41,45頁〕)。 オ原告は,その後,被告センター眼科を継続的に受診し,加齢黄斑変性及び白内障について診察,治療を受けたが,平成23年9月12日の受診を最後に,一時受診を中断した。同日の原告の矯正視力は,右眼0.08,左眼1.2であった。(乙A1〔45ないし70頁〕,弁論の全趣旨) ⑶ 平成25年の再受診から本件手術1前後までの事実経過ア原告は,平成25年5月初め の原告の矯正視力は,右眼0.08,左眼1.2であった。(乙A1〔45ないし70頁〕,弁論の全趣旨) ⑶ 平成25年の再受診から本件手術1前後までの事実経過ア原告は,平成25年5月初め頃,左眼が急に見えにくくなり,北千住に所在する眼科医院を受診したところ,被告センター眼科の受診を勧められ,同月7日,同科を受診した。原告を診察したB医師は,原告から,病歴として高血圧があり内服をしていること,胆嚢摘出術を受けたこと,前立腺 癌であることを聴取した。同日の原告の視力は,右眼が裸眼視力0.03,矯正視力0.05,左眼が裸眼視力0.06,矯正視力0.4であった。B医師は,原告について両眼の加齢黄斑変性症と診断し,左眼に抗VEGF硝子体注射治療を行う方針とした。(前提事実,乙A1〔71頁〕,2〔36,38頁〕,弁論の全趣旨) イ B医師は,5月21日,6月18日,7月16日の3回にわたって,原告の左眼に,抗VEGF薬であるアイリーアの硝子体注入術を実施した(乙A1〔77ないし79頁〕,2〔43,46,49頁〕,弁論の全趣旨)。 ウ原告は,7月30日,B医師の診察を受けた。同日の原告の左眼矯正 視力は0.4であった。B医師は,同日,A医師から,原告について, 白内障手術はそろそろ実施可能だが,術後網膜色素上皮剥離が出現する可能性があり,そのときはアイリーアを1回追加するよう伝えられた。 (乙A1〔79,80頁〕,弁論の全趣旨)なお,同日のカルテの末尾には,A医師による以下の記載がある(乙A1〔80頁〕)。 「動脈細いので血流悪い。CatOpe(裁判所注:白内障手術)の適応はある。」原告は,7月30日頃までに,B医師から,加齢黄斑変性の合併症として白内障が出現しているとして,手術を勧 「動脈細いので血流悪い。CatOpe(裁判所注:白内障手術)の適応はある。」原告は,7月30日頃までに,B医師から,加齢黄斑変性の合併症として白内障が出現しているとして,手術を勧められていた(弁論の全趣旨)。 エ原告は,8月27日,B医師の診察を受けた。同日の原告の矯正視力は,右眼0.05,左眼0.3であった。B医師は,同日,原告の白内障手術についてA医師に上申することとした。(乙A1〔80,81頁〕)オ原告は,9月24日,被告センター眼科を受診した。同日より原告の担当医がB医師からA医師に変更となった。原告は,同日,白内障手術の実 施を希望し,11月14日に右眼,同月21日に左眼の白内障手術を受ける予定となった。(前提事実,原告本人(甲A5〔2頁〕,3,4頁))A医師は,9月24日,原告が前立腺癌,高血圧,高脂血症についてbクリニック及び三井記念病院で経過観察中のため,両医療機関に白内障手術を実施する上での留意事項等を問い合わせる依頼状を送付した。これ に対し,bクリニックの医師は,原告には高血圧症,脂質異常症,日本医科大学で治療中のアスベスト関連肺疾患,三井記念病院で治療中の前立腺肥大症の疾患があることなどを回答した。また,三井記念病院の医師は,原告の前立腺癌に対し,ホルモン療法を実施しており,癌のコントロールは良好で,これによる白内障手術のリスクとなる事項はないと思われる旨 回答した。(乙A1〔81,82頁〕,2〔56,57頁〕) なお,9月24日のカルテには,A医師による以下のような記載がある(乙A1〔82頁〕)。 「サンドー(裁判所注:散瞳)Ⓡ(裁判所注:右眼)中等度~Ⓛ(裁判所注:左眼)散瞳悪い→チン氏帯弱いと思われる。」「両動脈狭細化あるので血流 による以下のような記載がある(乙A1〔82頁〕)。 「サンドー(裁判所注:散瞳)Ⓡ(裁判所注:右眼)中等度~Ⓛ(裁判所注:左眼)散瞳悪い→チン氏帯弱いと思われる。」「両動脈狭細化あるので血流悪いと思われる。」 カ原告は,10月18日,被告センター眼科を受診し,白内障手術実施予定の他の患者とともに,白内障手術の説明用のビデオを視聴した。また,原告は,同日,被告センターの看護師から,「白内障手術のしおり」(乙A6),「施術に関する説明書」(乙A2〔66頁〕)等の書類を受け取った。(乙A1〔82頁〕,4〔23頁〕,原告本人(甲A5〔3頁〕, 3,4頁),証人A医師(7,8,23,24頁))「白内障手術のしおり」には,手術方法に関し,水晶体の皮の中に人工レンズを挿入するが,その皮(袋)は非常に薄く,もろいため,手術中に破損(破嚢)することがあること,手術後の視力の改善には個人差があり,白内障以外の眼疾患を有する場合には視力が思ったように改善しない こと,手術の合併症として,①血圧,血糖値,気分,体調の変動,②薬剤アレルギー,③破嚢,④駆逐性出血,⑤疼痛,異物感,充血,炎症,眼圧の変動,⑥感染,⑦角膜障害,⑧眼内レンズ度数のずれ,視力の変化,⑨網膜剥離,黄斑浮腫,緑内障,⑩後発白内障,⑪眼内レンズ脱臼があり,駆逐性出血及び感染については失明する可能性があることなどが記載され ていた(乙A6)。 「施術に関する説明書」には,施術に伴う危険及び予後として,破嚢,二次挿入,駆逐性出血,薬剤アレルギー,術後炎症,高眼圧,核落下,感染,網膜剥離,後発白内障,人工レンズ度数のずれ,角膜・網膜の障害,失明の可能性がある旨記載されていた(乙A2〔66頁〕)。 キ原告は,原告長男に,「白内障手術のしおり」,「施 核落下,感染,網膜剥離,後発白内障,人工レンズ度数のずれ,角膜・網膜の障害,失明の可能性がある旨記載されていた(乙A2〔66頁〕)。 キ原告は,原告長男に,「白内障手術のしおり」,「施術に関する説明書」 等の書類の内容を確認してもらった上で,11月8日までに本件手術1及び2の実施に同意する旨の同意書に署名押印し,同日,被告センター眼科に提出した(乙A2〔66頁〕,原告本人(甲A5〔3頁〕,5,6,15頁),証人原告長男(甲A6〔1,2頁〕,4,7,8頁),弁論の全趣旨)。 なお,11月8日のカルテには,A医師による以下の記載がある(乙A1〔83頁〕)。 「個別に術前説明チン氏帯断裂→IOL(裁判所注:眼内レンズ)入れられない。出血あれば,Ope2回にわける。感染,RD(裁判所注:網膜剥離),出血 による失明後嚢破損について→失明合併症説明」ク原告は,11月13日,被告センター眼科に入院した。同日の原告の矯正視力は,右眼0.05,左眼0.3であり,眼圧は,NCTで右眼12 mmHg,左眼13mmHg であった(乙A1〔83頁〕)。 原告は,同日,看護師から既往歴を聴取され,50歳で前立腺肥大症を発症したほか,これまでに胆嚢摘出を受けたことや前立腺癌であることなどを回答した(乙A2〔68頁〕,原告本人(6頁))。 また,原告は,同日,看護師に対し,治療方法等の説明内容で不明な点 はない旨回答した(乙A3〔12頁〕)。 ケ原告は,11月14日午前10時から,手術に向けて炎症予防薬のジクロード並びに散瞳薬のミドリンP及びネオシネジンの点眼を30分毎に受け,同日午後0時20分に手術室に入室した(乙A3〔6,18頁〕,弁論の全趣旨)。 A医師は,同日午後0時32分, のジクロード並びに散瞳薬のミドリンP及びネオシネジンの点眼を30分毎に受け,同日午後0時20分に手術室に入室した(乙A3〔6,18頁〕,弁論の全趣旨)。 A医師は,同日午後0時32分,原告に対し,右眼の水晶体再建術(水 晶体超音波乳化吸引術(PEA)及び眼内レンズ挿入術(IOL))(本件手術1)を開始した。原告の右眼の散瞳は良好(8.5㎜)であり,A医師は,眼内レンズを挿入し,同日午後0時56分,手術を終了した。 (前提事実,乙A1〔83頁〕,3〔5,21頁(=乙A9)〕)。 なお,同日のカルテには,本件手術1について,A医師による以下の記 載がある(乙A1〔83頁〕)。 「予定通り終了。合併症なし。チン氏帯少し弱め→Ⓛの時も注意!!」(以下「11月14日カルテ記載①」という。)また,同日のカルテには,原告に対する術後の説明内容として,A医師による以下の記載がある(乙A1〔83,84頁〕)。 「手術後手術の説明合併症なく無事終了した。水晶体ささえる袋(チン氏帯)が弱いので,手術としては難しかった。左は,もっとOpeが難い(ママ)と思われます。経過良ければ,明日退院とします。 ♯両)典型AMD(裁判所注:加齢黄斑変性),動脈狭細の為血流悪い ♯両)Cat チン氏帯弱い→Ope」(以下「11月14日カルテ記載②」という。)コ原告は,11月15日,被告センター眼科を退院した。同日の原告の右眼の裸眼視力は0.06,矯正視力は0.07であった(乙A1〔84頁〕)。 なお,同日のカルテには,A医師による以下の記載がある(乙A1〔84頁〕)。 「ⓇのCatOpe時チン氏帯弱く,Ⓛの時もチン氏帯断裂している可能性あり→その場合にはIOL入れずに,2回目のOpeでIOL縫着する には,A医師による以下の記載がある(乙A1〔84頁〕)。 「ⓇのCatOpe時チン氏帯弱く,Ⓛの時もチン氏帯断裂している可能性あり→その場合にはIOL入れずに,2回目のOpeでIOL縫着すると説明。」(以下「11月15日カルテ記載」という。) ⑷ 本件手術2前後の事実経過 ア原告は,11月20日,被告センター眼科に入院した。同日の原告の視力は,右眼が裸眼視力0.06,矯正視力0.08,左眼が矯正視力0.3であり,眼圧は,NCTで両眼とも12mmHg であった(乙A1〔84頁〕)。 原告は,同日,看護師による入院時の情報収集のための聴取(データベ ース聴取)に対し,治療方針について医師から手術を勧められ,その判断に任せるつもりである旨回答した(乙A4〔18,19頁〕,弁論の全趣旨)。 なお,同日のカルテには,A医師による以下の記載がある(乙A1〔85頁〕)。 「術前説明Ⓡ経過良好だが,チン氏帯弱いのでⓁもOpe難しいと説明。 前回同様,術後感染,術後網膜剥離,出血による失明について説明。 血圧高いと力が入り,Ope中に出血する。 Ope後の出血にも注意(AMDもある)。 チン氏帯断裂があれば,眼内レンズは入れない。2回目の手術で硝子体をとって,眼内レンズは縫着する方が良いので,Opeは2回に分けると説明。黄斑変性は白内障Ope後再発する可能性あり,再発したら抗VEGF硝子体注射追加。」(以下「11月20日カルテ記載」という。) イ原告は,11月21日午前10時から,手術に向けてジクロード並びにミドリンP及びネオシネジンの点眼を30分毎に受け,同日午後0時50分に手術室に入室した(乙A4〔14,18頁〕,弁論の全趣旨)。 A医師は,同日午後1時7分,原告に対し,左眼 けてジクロード並びにミドリンP及びネオシネジンの点眼を30分毎に受け,同日午後0時50分に手術室に入室した(乙A4〔14,18頁〕,弁論の全趣旨)。 A医師は,同日午後1時7分,原告に対し,左眼水晶体超音波乳化吸引術(本件手術2)を開始した。原告の左眼の散瞳は良好(9㎜)であった。 術中,チン小帯が6時から12時方向に半周断裂し,水晶体の核小片が落 下したため,核小片を吸引し,A-Vit(前部硝子体切除術)を施行した。原告には硝子体出血もみられた。原告は,術中,前房出血を来し,A医師は,IOLを挿入せず,同日午後1時53分,手術を終了した。(乙A1〔85頁〕,4〔14,18,22頁(=乙A10)〕,弁論の全趣旨) 原告の血圧は,手術室入室時に186/88mmHg で,術中は収縮期血圧が157ないし189mmHg,拡張期血圧が88ないし104mmHg で推移した(乙A4〔14頁〕)。 なお,同日のカルテには,本件手術2について,A医師による以下の記載がある(乙A1〔85頁〕)。 「Opeもともとチン氏帯断裂しており(予想通り)IOL入れられず中断手術による合併症○-(裁判所注:なし)破嚢なし」(以下「11月21日カルテ記載①」という。)「Ⓛもともとチン氏帯断裂していた。硝子体をA-Vitで処理」(以下 「11月21日カルテ記載②」という。)また,同日のカルテには,原告及び家族に対する術後の説明内容として,A医師による以下の記載がある(乙A1〔85頁〕)。 「術後,本人と家族に説明もともと水晶体の袋(チン氏帯)が切れている為,眼内レンズを入れる と後ろに落ちるので,今回は入れなかった。予定通りOpeは2回に分けて,次回,硝子体切除と眼内レンズ縫着検討します。血圧高いので ともと水晶体の袋(チン氏帯)が切れている為,眼内レンズを入れる と後ろに落ちるので,今回は入れなかった。予定通りOpeは2回に分けて,次回,硝子体切除と眼内レンズ縫着検討します。血圧高いので,Ope後の出血に気をつけて,あと感染で失明することもあります。」(以下「11月21日カルテ記載③」という。)ウ原告は,11月22日に退院予定であったが,同日朝から頭痛及び嘔気 があった。A医師は,同日午後1時45分頃,原告を診察し,退院を同月 23日に延期し,プリンペラン及びダイアモックスを3日分処方した。原告は,同月22日午後2時40分,嘔吐した。この際の原告の血圧は,200/100mmHg(再検時210/110mmHg)であった。(乙A1〔86頁〕,4〔16頁〕)原告には,同日朝の診察において,水晶体落下,合併症,硝子体出血, 網膜剥離はみられず,その後,同日午後2時,午後4時,午後6時の診察においても眼内はきれいで,出血はみられなかった(乙A1〔85,86頁〕)。 また,原告の同日の左眼眼圧は,午前7時30分に16mmHg,午後2時の診察時に14mmHg であった(乙A1〔85,86頁〕)。 なお,同日のカルテには,A医師による以下の記載がある(乙A1〔86頁〕)。 「再度Opeについて説明した。 今後IOLを縫着する追加Opeが必要。できたら年内に検討します。 手術による合併はなく,もともと水晶体の袋を支える部分がちぎれてい た為,眼内レンズは入れられない。」(以下「11月22日記載」という。)エ原告は,11月23日午前7時頃,頭痛及び嘔気が改善し,血圧は126/76mmHg であった。前眼部及び眼底ともに出血はなく,網膜の状態は良かった。同日午前7時30分の左眼眼圧は16m う。)エ原告は,11月23日午前7時頃,頭痛及び嘔気が改善し,血圧は126/76mmHg であった。前眼部及び眼底ともに出血はなく,網膜の状態は良かった。同日午前7時30分の左眼眼圧は16mmHg であった。原告は, 同日,被告センター眼科を退院し,同月26日に再診を受ける予定となった。(乙A1〔86頁〕,4〔16頁〕,弁論の全趣旨)なお,同日のカルテには,A医師による以下の記載がある(乙A1〔86頁〕)。 「昨日は出血○-だったが,血圧高く,硝子体出血した可能性あり。」 「血圧高く,手術後(裁判所注:この後ろに挿入記号を付して「今日朝」 と記載されている。)に出血した可能性ある。」⑸ 本件手術3前後の事実経過ア原告は,11月26日午前8時45分頃,被告センター眼科を受診したが,嘔気,全身倦怠感の訴えがあり,詳細な検査を受けることはできなかった。原告は,被告センターの看護師に,同月23日の退院時に処方され たダイアモックスは,服用すると気持ち悪くなったため,服用していなかったと伝えた。この際の原告の血圧は153/82mmHg,脈拍は72回/分,体温は36.0℃で,末梢冷感や頭痛はみられなかった。(乙A2〔69頁〕)また,同日の原告の左眼視力は手動弁(眼前の手の動きが判別できる) 程度であった(乙A1〔86頁〕)。 A医師は,同日午前8時55分頃,原告に対し,眼圧が高すぎるため嘔気等の症状が出ていると思われることを説明した上で,前房穿刺(パラセン)を施行した。これにより,原告の左眼眼圧は4ないし6mmHg となった。A医師は,原告に対し,眼圧が再上昇する可能性が高いため,眼圧 を下げる内服薬及び点眼薬を継続し,体調不良や眼の痛み,嘔気があれば我慢せずに受診するよう伝えた は4ないし6mmHg となった。A医師は,原告に対し,眼圧が再上昇する可能性が高いため,眼圧 を下げる内服薬及び点眼薬を継続し,体調不良や眼の痛み,嘔気があれば我慢せずに受診するよう伝えた。(乙A1〔86頁〕,2〔69頁〕,証人A医師(15頁),弁論の全趣旨)なお,前房穿刺施行前の原告の左眼眼圧について,カルテには36mmHg と記載され(乙A1〔86頁〕),看護記録には56mmHg と2か所 に記載(乙A2〔69頁〕)されている。 A医師は,同日午前9時10分頃,原告の嘔気及び体調不良について,被告センター内科に診察依頼した。原告を診察した同科医師は,A医師に対し,退院後から食事が摂れず,脱水を認めたため補液500ml を施行したこと,脱水のため腎機能障害が出現しているがそのほかに異常は認め られないことを報告するとともに,高眼圧が悪心嘔吐の原因である可能性 がないか尋ねる内容の応答をした。(乙A2〔69,109頁〕)イ被告センターの看護師は,11月27日,原告から1日に3回ダイアモックスを服用したところムカムカした旨の電話を受け,A医師に確認の上,ダイアモックスの服用を中止し,次回の診察予約日よりも前に体調が悪くなった場合には受診するよう伝えた(乙A1〔86頁〕)。 ウ原告は,12月1日及び同月2日,血圧が200mmHg 以上となり,被告センターに救急搬送され,同センター救急外来を受診した(乙A1〔87頁〕,原告本人(甲A5〔4頁〕),証人原告長男(甲A6〔2頁〕),弁論の全趣旨)。 エ原告は,12月3日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受け た。原告の同日の左眼視力は,光覚弁(明暗を識別できる)程度であった(乙A1〔87頁〕)。 原告の同日の左眼眼圧は,NCT 原告は,12月3日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受け た。原告の同日の左眼視力は,光覚弁(明暗を識別できる)程度であった(乙A1〔87頁〕)。 原告の同日の左眼眼圧は,NCTで60mmHg 超であったが,カルテ上,GATでは20mmHg と記載されている。A医師は,同日,原告に対し,前房穿刺を施行し,これにより原告の左眼眼圧は8mmHg に下がった。 (乙A1〔87頁〕,原告本人(甲A5〔4,5頁〕),証人原告長男(甲A6〔2頁〕))A医師は,同日,原告に対する2回目の左眼硝子体手術を同月26日に実施する予定とした(乙A1〔87頁〕)。 オ原告は,12月6日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受け た。原告の同日の左眼眼圧は27mmHg であり,前房穿刺の施行により8mmHg に下がった。(乙A1〔87頁〕)A医師は,同日,原告に対する左眼の眼内レンズ挿入術及び硝子体切除術を同月26日に実施する予定とした(乙A1〔87ないし89頁〕)。 なお,同日のカルテには,原告の眼底はぼんやりとしているがきれいで あるものの,血圧の上昇による出血がまだ残ると考えられる旨の記載があ る(乙A1〔87頁〕)。 カ原告は,12月13日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受けた。原告の同日の左眼視力は手動弁程度,左眼眼圧は30mmHg であり,前房穿刺の施行により5mmHg に下がった。原告の左眼には残存皮質と角膜浮腫が認められ,眼底はぼんやりとしているが網膜はきれいであった。 (乙A1〔89頁〕,弁論の全趣旨)キ原告は,12月20日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受けた。原告は,同日,自身の指の動きは判別でき,左眼視力は手動弁以上程度と考えられた。また,原 乙A1〔89頁〕,弁論の全趣旨)キ原告は,12月20日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受けた。原告は,同日,自身の指の動きは判別でき,左眼視力は手動弁以上程度と考えられた。また,原告の左眼に網膜剥離,出血,裂孔,核落下はみられなかった。 原告は,A医師から,左眼の眼内レンズ挿入術及び硝子体切除術(本件手術3)についての説明を受け,同意書に署名した。(乙A1〔89頁〕,2〔71頁〕,弁論の全趣旨)ク原告は,12月25日,被告センター眼科に入院した。原告の同日の視力は,右眼が矯正視力0.07,左眼は明室では光覚弁なしだったが,瞳 孔反応はあるため,光覚弁ないし手動弁程度と考えられた。(乙A1〔90頁〕)ケ原告の12月26日の左眼眼圧は26mmHg であり,前房穿刺の施行により10mmHg に下がった(乙A1〔91頁〕)。 A医師は,同日午後2時58分,原告に対し,左眼眼内レンズ挿入術及 び硝子体茎離断術(本件手術3)を開始し,同日午後4時11分,手術を終了した(乙A1〔91頁〕,5〔4,25頁(=乙A11)〕)。 コ原告の12月27日午前7時30分の左眼眼圧は32mmHg であり,前房穿刺の施行により16mmHg に下がった。原告に網膜剥離,裂孔はみられず,網膜はきれいで,硝子体出血もみられなかった(乙A1〔91 頁〕)。 原告は,同日,A医師に対し,手術後も左眼の視力が改善しないことを伝えた(乙A1〔93頁〕)。 サ原告の12月28日の左眼眼圧は21mmHg であり,左眼視力は手動弁で矯正不能であることが疑われた。A医師は,原告に脳梗塞を疑わせる所見がなく,眼内もきれいであり,視力が改善しない原因は不明だが,眼動 脈の閉塞の可能性があると考えた。(乙A1〔9 視力は手動弁で矯正不能であることが疑われた。A医師は,原告に脳梗塞を疑わせる所見がなく,眼内もきれいであり,視力が改善しない原因は不明だが,眼動 脈の閉塞の可能性があると考えた。(乙A1〔93頁〕)原告は,同日,被告センター眼科を退院した(乙A1〔94頁〕)。 ⑹ その後の事実経過ア原告は,平成26年1月7日,被告センター眼科を受診し,A医師の診察を受けた。原告の同日の視力は,右眼が矯正視力0.07,左眼は光覚 弁なし(明室ペンライト)であった。(乙A1〔94頁〕)なお,A医師は,同日のカルテに,原告の左眼視力が光覚弁なしであることについて,光刺激で瞳孔反応があるため,光覚弁はあると思われること,手術の合併症はなく,手術の影響とは考えられず,動脈閉塞によるものと考えられ,その場合,視力は回復不能である旨記載した(乙A1〔9 4頁〕)。 A医師は,同日,原告の左眼が光覚弁なしであることについて脳梗塞等を疑い,cクリニックに原告の頭部MRI検査を依頼した。同クリニックによる頭部MRI検査の結果,原告の脳に梗塞の所見はなく,右側脳室の上衣下や左視床に出血瘢痕があるが,眼球や外眼筋,視神経に明らかな異 常は認められなかった。(乙A1〔95頁〕,2〔72,73頁〕)イ原告は,平成26年1月14日,被告センター眼科を受診し,A医師から,上記アの頭部MRI検査の結果について説明を受けた。原告の同日の左眼視力は光覚弁があるかないかという程度であった。(乙A1〔95頁〕) ウ原告は,平成26年1月24日,被告センター眼科を受診し,A医師の 診察を受けた。原告の同日の視力は,右眼が矯正視力0.08,左眼が光覚弁なしであった。(乙A1〔96頁〕)A医師は,同日,原告がdクリニックのセカンド 告センター眼科を受診し,A医師の 診察を受けた。原告の同日の視力は,右眼が矯正視力0.08,左眼が光覚弁なしであった。(乙A1〔96頁〕)A医師は,同日,原告がdクリニックのセカンドオピニオンを希望したため,同クリニック院長宛てに紹介・診療情報提供書を作成し,原告に交付した(乙A1〔96頁〕,2〔74,75頁〕,弁論の全趣旨)。 上記紹介・診療情報提供書には,本件手術2に関し,概要以下のような記載がある(乙A2〔74頁〕)。 本件手術2の際,血圧が200mmHg 以上となり,眼球に力が入り,下方のチン小帯断裂が認められた。水晶体を摘出したところで,チン小帯断裂のためIOLの縫着を検討したものの,硝子体出血を起こしたため,I OLは挿入せずに手術を終了した。 術直後より高血圧,片頭痛,眼圧が20ないし40mmHg となり,ダイアモックスを内服させ,内科でフォローした。 エ原告は,平成26年2月5日,セカンドオピニオン目的でdクリニックを受診した。原告の同日の視力は,右眼が0.05,左眼が光覚弁なしで あった。原告を診察した同クリニックのG医師は,両眼の偽水晶体眼,加齢黄斑変性,左眼の緑内障と診断し,原告に対し,左眼については回復が難しい旨説明し,被告センター眼科の受診を継続させることとした。(乙A2〔75頁〕,原告本人(甲A5〔5,6頁〕))オ A医師は,平成26年2月14日,原告について身体障害者診断書・意 見書を作成し,両眼の加齢黄斑変性及び緑内障並びに左眼の網膜動脈閉塞症により,身体障害者福祉法施行規則別表の障害程度等級上,視力3級,視野2級で併せて1級に相当する旨の意見を記載した(乙A2〔76頁〕)。 カ原告は,その後も平成26年9月27日まで被告センター眼科の受診を 祉法施行規則別表の障害程度等級上,視力3級,視野2級で併せて1級に相当する旨の意見を記載した(乙A2〔76頁〕)。 カ原告は,その後も平成26年9月27日まで被告センター眼科の受診を 継続したが,左眼視力は光覚弁なしのまま改善しなかった(乙A1〔98 ないし107頁〕,原告本人(甲A5〔6頁〕),証人原告長男(甲A6〔3頁〕),弁論の全趣旨)。 キ原告及び原告長男は,平成26年4月30日及び同年5月7日,被告センター相談室に電話を掛け,白内障手術後に失明したこと,術前にインフォームドコンセントがなかったことなどを訴えた(乙A2〔82,83 頁〕)。 ク A医師は,平成28年3月25日,被告センターにおいて,原告,原告長男及び原告代理人らに対し,説明会(以下「本件説明会」という。)を開催した。 A医師は,本件説明会において,概要以下の内容の説明をした。 原告の白内障及びその手術適応については,7月30日以降の診察時に説明し,白内障手術の合併症等の詳細については,9月24日,11月8日,同月14日,同月15日,同月20日,同月21日にそれぞれ説明した。 手術申込み前に,選択肢として,このまま手術を実施しないで経過を みるか,手術により白内障の混濁を取る方法があり,手術は必ずしも急いで実施すべきものではないことを説明した。 また,手術を実施する場合,血圧による出血のリスクがあること,黄斑変性が再発したときは,抗VEGFという血管を縮める注射をする必要があること,術中合併症が起きたときは手術を2回に分けること,手術に よる視力回復は1,2段階であることを説明した。 手術によるチン小帯断裂の可能性は50%であり,チン小帯が弱い場合,手術は1回では終わらないことを説明した。 本件手術2の けること,手術に よる視力回復は1,2段階であることを説明した。 手術によるチン小帯断裂の可能性は50%であり,チン小帯が弱い場合,手術は1回では終わらないことを説明した。 本件手術2の術前診断の際,本件手術1においてチン小帯が弱かったことを踏まえると,左眼のチン小帯断裂が起きている可能性が高く,手術を 1回で終えられる可能性は半々であると説明した。 (争いのない事実,甲A1,2,原告本人(甲A5〔6頁〕),証人原告長男(6,7頁),弁論の全趣旨)ケ順天堂大学医学部附属順天堂医院のC医師は,平成29年1月6日,原告について両加齢黄斑変性,左網膜中心動脈閉塞症,左失明と診断した(前提事実)。 2 争点⑴(カルテ改ざん及び虚偽説明の有無)について⑴ 原告は,A医師は,①原告のチン小帯の脆弱性及び断裂時期,②左眼の前房出血及び硝子体出血の時期,③原告の11月26日の左眼眼圧について,それぞれカルテを改ざんし,改ざん後のカルテ記載に基づき,原告に対し,虚偽の説明をしたと主張する。 ⑵ 医師は,患者に対して適正な医療を提供するため,診療記録を正確な内容に保つべきであり,意図的に診療記録に作成者の事実認識と異なる加除訂正,追記等をすることは,カルテの改ざんに該当し,患者に対する不法行為を構成するというべきである。 証拠(証人A医師(33,34,54頁))及び弁論の全趣旨によれば, 手術記録は,手術中に起きたこと,術中合併症等をありのままに記載するものであり,被告センター眼科においては,記録医が手術中に記録し,術後,手術室において執刀医が必要に応じて追記して作成されていたものと認められる。そうすると,手術記録の記載内容は,手術の経過を経時的・客観的に記録したものとして信用することができ, 術中に記録し,術後,手術室において執刀医が必要に応じて追記して作成されていたものと認められる。そうすると,手術記録の記載内容は,手術の経過を経時的・客観的に記録したものとして信用することができ,同記載内容に反し,又は整合しな いカルテの記載は信用性が極めて低いというべきである。以下,この観点を踏まえて,カルテの改ざんの有無等について検討する。 ア ①原告のチン小帯の脆弱性及び断裂時期について原告のチン小帯の脆弱性に関し,11月14日のカルテには,本件手術1を踏まえて,右眼のチン小帯が少し弱いため,左眼手術の際に注意 が必要である旨の記載(11月14日カルテ記載①),水晶体を支える 袋(チン小帯)が弱いので手術としては難しかった,左眼はもっと手術が難しいと思われ,その旨説明したとの記載(11月14日カルテ記載②)があり(前記認定事実⑶ケ),同月15日のカルテにも,本件手術1の際に右眼のチン小帯が弱く,左眼もチン小帯が断裂している可能性があり,その旨説明したとの記載(11月15日カルテ記載)があり (前記認定事実⑶コ),同月20日のカルテにも,右眼のチン小帯が弱いので左眼も手術が難しい旨説明したとの記載(11月20日カルテ記載)がある(前記認定事実⑷イ)。 水晶体超音波乳化吸引術におけるチン小帯断裂は,手術目的である眼内レンズ挿入のための水晶体嚢温存あるいは眼内隔壁温存を達成できな くなるため,最も避けなければならない合併症の一つであるところ,チン小帯断裂は術前からチン小帯が脆弱な症例に起こることが多いとされている(前記前提事実⑶アb)。そのため,本件手術1の際に原告の右眼のチン小帯が脆弱であったのであれば,手術記録に記載されるのが自然であるが,本件手術1の手術記録には,原告の右眼のチン小帯の されている(前記前提事実⑶アb)。そのため,本件手術1の際に原告の右眼のチン小帯が脆弱であったのであれば,手術記録に記載されるのが自然であるが,本件手術1の手術記録には,原告の右眼のチン小帯の脆 弱性に関する記載は全くない(乙A3〔21頁(=乙A9)〕)。 そうすると,手術記録の記載内容と整合しない上記のカルテの各記載は,いずれも信用性が極めて低く,これらの記載が,他の記載をした後に右上方に挿入されるような形で記載されていたり(11月14日記載①,②及び11月15日記載)(乙A1〔83,84頁〕),検査用紙 の上に記載されていたりする(11月20日記載)(乙A1〔85頁〕)という体裁の不自然さも併せて考慮すると,A医師が右眼のチン小帯の脆弱性及びこれを踏まえた原告らへの説明について,事実認識と異なる内容を意図的に追記したものといわざるを得ない。 被告は,原告から前立腺肥大症の治療歴についての申告がなかったた めに,IFISと診断することはできなかったが,本件当時,原告は過 去の前立腺肥大症の治療によりIFISを発症しており,原告のチン小帯は脆弱であったと主張する。 しかしながら,前記認定事実⑶オ,クのとおり,原告に前立腺肥大症の治療歴があることは,bクリニックからの診療情報提供書及び本件手術1の際の入院時の原告からの申告により,A医師に伝えられていたの であり,原告から前立腺肥大症の治療歴について申告がなかったという被告の上記主張は事実に反する。そして,カルテ上,IFISの記載はなく,白内障手術の手術手技が不可能なほど重症なIFISの症例は稀であること(前記認定事実⑴イ)も踏まえると,原告に前立腺肥大症の治療歴があることから,直ちに本件手術1・2の難易度に影響を与える ようなチン小帯の 手技が不可能なほど重症なIFISの症例は稀であること(前記認定事実⑴イ)も踏まえると,原告に前立腺肥大症の治療歴があることから,直ちに本件手術1・2の難易度に影響を与える ようなチン小帯の脆弱性があったと認めることはできず,被告の主張は採用できない。 本件手術2に関し,11月21日のカルテには,A医師による原告の左眼のチン小帯がもともと断裂していた旨の記載(11月21日記載①及び②)やその旨原告と原告の家族に説明したとの記載(11月21日 記載③)があり(前記認定事実⑷イ),11月22日のカルテにももともとチン小帯がちぎれていたため眼内レンズを入れられなかった旨の記載(11月22日記載)がある(前記認定事実⑷ウ)。 しかしながら,前記認定事実⑷イのとおり,本件手術2の手術記録(乙A4〔22頁(=乙A10)〕)には,原告のチン小帯が本件手術 2の術中に,6時から12時方向に半周断裂したとの記載がある。 そうすると,手術記録の記載内容と整合しない上記のカルテの各記載の信用性は極めて低く,これらの記載が,本件手術2の術式及び執刀医等の押印の右上方に11月20日の記載欄にはみ出す形で記載されていたり(11月21日記載①),カルテの右側に枠囲いで挿入されていた りする(11月21日記載③)という体裁の不自然さ(乙A1〔85 頁〕)も併せて考慮すると,A医師がチン小帯の断裂時期及びこれを踏まえた原告らへの説明について,事実認識と異なる内容を意図的に追記したものといわざるを得ない。 被告は,チン小帯線維は無数にあり,本件手術2以前の時点で少なくとも一部の線維が断裂しており,完全断裂と部分断裂の違いはあるもの の断裂はしていたと主張するが,本件手術2の手術記録には術前からチン小帯が部分断裂していた旨の り,本件手術2以前の時点で少なくとも一部の線維が断裂しており,完全断裂と部分断裂の違いはあるもの の断裂はしていたと主張するが,本件手術2の手術記録には術前からチン小帯が部分断裂していた旨の記載はなく,他に被告の主張を裏付ける証拠はないから,被告の主張は採用できない。 以上によれば,原告の右眼のチン小帯が弱く,その旨説明したとのカルテの記載及び原告の左眼のチン小帯が本件手術2以前に断裂しており, その旨原告と原告の家族に説明したとのカルテの記載は,いずれもA医師が,事実認識と異なる内容を意図的に追記したものといわざるを得ず,カルテの改ざんに該当する。 イ ②左眼の前房出血及び硝子体出血の時期について本件手術2の手術記録によれば,本件手術2の術中,原告に硝子体出血 及び前房出血が生じたことが認められる(前記認定事実⑷イ)。 被告は,本件手術2の術中に硝子体出血及び前房出血が生じたことは認めており,A医師は,これらの出血を手術終了時までに吸引除去したと主張する。 11月21日のカルテには,本件手術2の術中に生じた上記出血につい ての記載はないものの,出血の事実を否定する記載はない。 また,同月23日のカルテには,原告の血圧が高く,同日に硝子体出血を起こした可能性がある旨の記載があるが(前記認定事実⑷エ),A医師が,当時このことを認識していなかったと認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,左眼の前房出血及び硝子体出血の時期について,A医師 がカルテに事実認識と異なる記載をしたとは認められず,また,この点に 関し虚偽の説明をしたとも認められない。 ウ ③原告の11月26日の左眼眼圧について原告の11月26日の左眼眼圧について,同日のカルテには36mmHgとの記載があり,看護記録に 点に 関し虚偽の説明をしたとも認められない。 ウ ③原告の11月26日の左眼眼圧について原告の11月26日の左眼眼圧について,同日のカルテには36mmHgとの記載があり,看護記録には56mmHg の記載が2か所ある(前記認定事実⑸ア)。上記カルテ上の「3」の文字は,上からなぞられた形跡があ り(乙A1〔86頁〕,弁論の全趣旨),この点についてA医師は,初めから「36」と記載していたが,「3」の文字が「5」と誤読されるおそれがあるため,改めてなぞった旨証言する(証人A医師(12ないし14頁))。 しかしながら,上記のとおり,看護記録には56mmHg との記載が2か 所ある上,眼圧が50mmHg 以上に上昇すると,眼痛,頭痛,嘔気,かすみ等の症状が現れるとされているところ(,原告は,11月26日の受診時に嘔気及び全身倦怠感を訴え,これに対しA医師は眼圧が高すぎて嘔気等の症状が出ていると思うと説明しており(前記認定事実⑸ア),上記の原告の症状及びA医師の説明は原告の眼圧が56mmHg であることと整合していること,カルテの記載を訂正する場合,訂正前の記載が分かるように訂正すべきであるにもかかわらず,A医師は上記のとおり訂正前の記載の上からなぞり,訂正前の記載が判明しないような方法で訂正をしていること,カルテ上の他の記載に照らしても,A医師が記載した「3」の文字を「5」と誤解するような記載は認められず,A医師の 上記証言は不合理であることからすると,A医師は,カルテ上の「56mmHg」との記載を事後的に「36mmHg」と修正したものと評価されてもやむを得ないというべきである。 なお,原告の眼圧は,12月3日にはNCTにより60mmHg 超と測定されているが, が計測された場合,GATでも測 6mmHg」と修正したものと評価されてもやむを得ないというべきである。 なお,原告の眼圧は,12月3日にはNCTにより60mmHg 超と測定されているが, が計測された場合,GATでも測定すべきであるとされるところ,GAT による測定の結果,同日の原告の左眼眼圧は20mmHg であり,これが同日の原告の左眼眼圧と認められる。原告は,同日のGATによる測定結果について26又は28mmHg と記載したものを20mmHg に書き換えたものであると主張するが,同日以降のカルテにも,原告の左眼眼圧について26mmHg や30mmHg,32mmHg といった測定結果が記載されているもので あり(乙A1〔87ないし92頁〕),同日の測定結果についてのみ26又は28mmHg であったものを20mmHg に書き換える動機は認め難く,原告の主張は採用できない。 以上によれば,A医師は,原告の11月26日の左眼眼圧について事後的に「36mmHg」と事実認識と異なる修正を加えたものであり,カルテを 改ざんしたものと認められる。 エ上記ア及びウのとおり,A医師は,右眼のチン小帯の脆弱性及び左眼のチン小帯の断裂時期並びに各事項を踏まえた原告らへの説明について,事実認識と異なる内容を意図的に追記し,また,左眼眼圧の数値について事実認識と異なる修正を意図的に加えて,それぞれカルテを改ざんしたもの と認められるから,上記各行為について,A医師には不法行為が成立する。 3 争点⑵(手術適応の前提となる説明義務違反の有無)について⑴ A医師が本件説明事項の説明義務を負うことについて争いはないことから,以下では,A医師が,原告に対し,本件手術1ないし3の実施に際し,本件説明事項を説明したか否かを検討する。 ⑵ア被告は, 医師が本件説明事項の説明義務を負うことについて争いはないことから,以下では,A医師が,原告に対し,本件手術1ないし3の実施に際し,本件説明事項を説明したか否かを検討する。 ⑵ア被告は,A医師は,原告に対し,本件説明事項について,9月24日,10月18日,11月8日,同月14日,同月15日,同月20日及び同月21日と繰り返し説明している旨主張し,A医師はこれに沿う証言をしており(証人A医師(乙A12〔1ないし4,12ないし17頁〕,5ないし9,25ないし27,30,31,35,38,40,48, 49頁),カルテ上も白内障手術のリスクを説明した旨の記載がある (前記認定事実⑶カ,キ,ケ,コ,同⑷アないしウ)。 しかしながら,前記2⑵アのとおり,本件では,原告のチン小帯がもともと脆弱であり,その旨説明したとのカルテ記載(11月14日カルテ記載①,②,11月15日カルテ記載及び11月20日カルテ記載)及び左眼のチン小帯がもともと断裂しており,その旨説明したとのカルテ記載 (11月21日カルテ記載①ないし③)は,いずれも改ざんされたものと認められるから,信用することはできない。 これを措くとしても,原告及び原告長男はいずれもA医師から本件説明事項の説明を受けたことはない旨供述ないし証言しているところ(原告本人(4ないし6頁),原告長男(3ないし7頁)),9月24日,10月 18日,11月8日,同月14日,同月15日,同月20日及び同月21日のいずれのカルテにおいても,A医師が,原告に対し,水晶体核が硝子体側に落下する可能性が50%であること,全てを勘案した合併症の発生可能性は10%程度であること,原告の白内障手術の難易度は高く100人に一人程度の難易度であったこと,80歳代の高齢者の場合,術後視力 落下する可能性が50%であること,全てを勘案した合併症の発生可能性は10%程度であること,原告の白内障手術の難易度は高く100人に一人程度の難易度であったこと,80歳代の高齢者の場合,術後視力 良好例は約41%程度であり,手術を実施せず経過観察とした場合でも通常の加齢白内障では急激な視力低下,白内障単独での失明は生じないことを説明した旨の記載はなく,他にA医師の上記証言を裏付ける的確な証拠はないから,A医師の上記証言を採用することはできず,A医師は,本件説明事項を説明していないものといわざるを得ない。 したがって,A医師には,本件説明事項について説明義務違反が認められる。 イ原告は,本件説明事項について説明した上で,原告のインフォームドコンセントを取得することが,本件手術1ないし3の手術適応の条件であるところ,A医師は本件説明事項について説明していないから,本件手術1 ないし3について手術適応はなかったと主張する。 しかしながら,手術侵襲に対するインフォームドコンセントの有無と,医学的な手術適応の有無は区別して考えるべき事柄であり,インフォームドコンセントの前提となる説明がなされていないために,手術侵襲に対する有効なインフォームドコンセントがないことが,直ちに手術適応がなかったことを意味するものと解することはできない。 そして,証拠(乙A1〔42頁〕)によれば,原告は,平成15年10月10日の時点で右眼について白内障手術の適応があるとされており,平成25年5月7日,左眼の見えにくさを訴えて被告センター眼科を受診し,同日以降,両眼の白内障について診察を受け,7月30日頃までに,B医師から診療経過を踏まえて白内障手術を勧められていたものであることか らすれば(前記認定事実⑶アないしウ) ター眼科を受診し,同日以降,両眼の白内障について診察を受け,7月30日頃までに,B医師から診療経過を踏まえて白内障手術を勧められていたものであることか らすれば(前記認定事実⑶アないしウ),原告に白内障手術の医学的な適応がなかったということはできない。 なお,原告は,本件手術3について,原告に光覚弁がなければ手術適応はないとも主張するが,前記認定事実⑸アないしクのとおり,本件手術3以前の時点で原告に光覚弁がなかったとは認められず,本件手術3に手術 適応がなかったということもできない。 4 争点⑶(原告の眼圧を適切に管理する注意義務違反の有無)について⑴ 原告は,A医師は,本件手術2以降,12月3日までの間に原告を入院させ,グリセオールの点滴や前房穿刺,前房洗浄等を実施して,眼圧を適切に管理する注意義務を負っていたが,これを怠ったと主張する。 ⑵ 前記2⑵ウのとおり,原告の11月26日の左眼眼圧は56mmHg と認められ,A医師は,同日,原告に前房穿刺を実施した上,ダイアモックスを処方したものである(前記認定事実⑸ア)。 高眼圧の場合には,速やかに眼圧を下げる必要があり,眼圧が50mmHg を超えるときには,マンニトール等の高圧浸透薬を投与するとされているが, A医師の上記処置により,原告の左眼眼圧は4ないし6mmHg と下がったの であるから(前記認定事実⑸ア),上記処置が不合理なものとはいえない。 また,原告は,同月27日,被告センターの看護師に,ダイアモックスの服用によりムカムカする旨訴え,その服用を中止しているが,この際,同看護師は,次回の診察予約日よりも前に体調が悪くなった場合には受診するよう伝えているものであって(前記認定事実⑸ア),この対応に不備があると もいえない。 原告 用を中止しているが,この際,同看護師は,次回の診察予約日よりも前に体調が悪くなった場合には受診するよう伝えているものであって(前記認定事実⑸ア),この対応に不備があると もいえない。 原告は,12月1日及び同月2日,高血圧により被告センター救急外来を受診しているものの(前記認定事実⑸ウ),前方視的に見たときに,同月3日までの間に,原告を眼圧管理のために被告センター眼科に入院させる注意義務を基礎付ける事情は認められないというべきである。 原告は,11月23日に原告を退院させたこと自体不適切であり,注意義務違反を構成するとも主張するが,同月22日の原告の左眼眼圧は14ないし16mmHg と正常で(前記認定事実⑷ウ),同日,原告にみられた嘔気,嘔吐について,前方視的に見て高眼圧によるものと考えることは相当でなく,収縮期血圧が200mmHg を超えていたからといって直ちに入院を継続させ るべき注意義務があるということはできない。そして,A医師は,同日,原告に対し,ダイアモックスを処方しており(前記認定事実⑷ウ),同月23日の時点で原告の眼圧は16mmHg と正常で,血圧は126/76mmHg となり嘔気も改善していたこと(前記認定事実⑷エ)からすれば,同日,原告を退院させたことがA医師の注意義務違反に当たるということはできない。 以上によれば,A医師に,原告の眼圧を適切に管理する注意義務の違反は認められない。 5 争点⑷(争点⑵の説明義務違反と結果の間の相当因果関係の有無)について⑴ 前記認定事実⑷イのとおり,原告は,本件手術2の術中に前房出血を起こし,A医師は,これにより眼内レンズを挿入することができなかった。 原告の左眼視力は,本件手術2の術前は矯正視力0.3であったが,11月 26日に ,本件手術2の術中に前房出血を起こし,A医師は,これにより眼内レンズを挿入することができなかった。 原告の左眼視力は,本件手術2の術前は矯正視力0.3であったが,11月 26日には手動弁程度となり,12月3日以降は,光覚弁があるかどうかという程度にまで低下し,本件手術3の後,失明するに至ったものである(前記認定事実⑷ア,⑸ア,⑹カ,ケ)。 そして,原告は,平成29年1月6日,左網膜中心動脈閉塞症と診断されており(前記認定事実⑹ケ),網膜中心動脈閉塞症の発生機序として,緑内 障や外力による高眼圧があるところ(前記前提事実⑶ウ),原告の左眼眼圧は,本件手術2の術前はNCTによる測定ではあるが12mmHg 程度で正常眼圧であったものが,11月26日には56mmHg となり,その後20mmHgを超える高眼圧が継続したものである(前記認定事実⑷ア,⑸ア,エないしサ)。 以上の経過に鑑みると,原告は,本件手術2における術中の前房出血を契機として眼圧が上昇し,それとともに視力が低下して左網膜中心動脈閉塞症となり,失明に至ったものと認められ,本件手術2と原告の左眼失明の間には事実的な因果関係があるというべきである。 被告は,本件手術2の術中に起きた出血は全て除去しており,原告は,本 件手術2の術後3日目(11月23日)に起きた,原告の素因に起因する眼内出血によって失明に至ったものであると主張する。11月23日のカルテには,同日に高血圧が原因で眼内出血した可能性がある旨の記載があるが,同記載の信用性を措くとしても,可能性の指摘にとどまるものである上,同記載のほかに術後の眼内出血を積極的に裏付ける証拠及び事実がないことか らすると,術後の眼内出血が原告の左眼失明を招いたとは認められず,被告の主張は上記認定判 の指摘にとどまるものである上,同記載のほかに術後の眼内出血を積極的に裏付ける証拠及び事実がないことか らすると,術後の眼内出血が原告の左眼失明を招いたとは認められず,被告の主張は上記認定判断を左右するものではない。 ⑵ 本件説明事項は,原告のチン小帯が脆弱である可能性があることを前提に,手術に付随する危険性として失明等の合併症のほか,チン小帯断裂及び後嚢破損により眼内レンズを挿入できず,手術が1眼で2回(両眼で4 回)に分かれる可能性があり,また,水晶体核が硝子体側に落下する可能 性が50%であること,出血・硝子体脱出による眼圧上昇等の合併症発症の可能性があり,全てを勘案した合併症の発生可能性は10%程度であり,原告の白内障手術の難易度は高く100人に一人程度の難易度であったこと,他方で,80歳代の高齢者の場合,術後視力良好例は約41%程度であり,手術を行わず経過観察とする選択肢があり,その場合も通常の加齢 白内障では急激な視力低下,白内障単独での失明は生じないというものである。 このように本件説明事項は,本件手術1・2は,リスクがかなり高く,手術が多数回に及ぶ可能性があるのに対し,必ずしも視力の改善を保証するものではなくその効果は限定的であり,手術を実施しなくても直ちに失明する ものではないという内容のものであるところ,原告が,A医師から本件説明事項について説明を受けていた場合には,本件手術1・2の実施に同意することはなかったというべきである。 ⑶ 以上によれば,A医師が,争点⑵の説明義務を果たしていた場合には,原告は,本件手術1・2の実施に同意せず,本件手術2が行われなかった 場合には,原告が左眼失明に至ることはなかったと認められるから,A医師の上記説明義務違反と原告の左眼失明の間には 場合には,原告は,本件手術1・2の実施に同意せず,本件手術2が行われなかった 場合には,原告が左眼失明に至ることはなかったと認められるから,A医師の上記説明義務違反と原告の左眼失明の間には相当因果関係が認められるというべきである。 6 争点⑹(原告の損害)について⑴ 説明義務違反による損害 ア治療費 9万8838円証拠(甲C2,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件手術1ないし3の実施に係る治療費として8万8800円を支払ったほか,本件手術1以降,被告センター眼科における治療費として1万0038円(本件手術1から平成26年3月までの保険点数11万4370点(ただし,1 1月の初診料135点を除く。)から,本件手術1ないし3に係る保険点 数10万4332点を除いた1万0038点に対応する後期高齢者の自己負担額)を支払ったと認められ,これらはA医師の前記説明義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。 なお,後医の治療費は,これに係る治療内容が明らかでなく,A医師の前記説明義務違反と相当因果関係のある損害とは認められない。 イ逸失利益は,原告の就労の蓋然性を認めるに足りる証拠がないから,認められない。 ウ慰謝料(自己決定権侵害による慰謝料を含む。)入通院慰謝料 116万0000円原告は,本件手術1ないし3のために,被告センター眼科に合計10 日間入院し,その後も平成26年9月27日まで被告センター眼科への通院を継続したことなどからすれば,入通院慰謝料は116万円と認めるのが相当である。 後遺症慰謝料 650万0000円前記5⑴のとおり,原告の左眼視力は,本件 への通院を継続したことなどからすれば,入通院慰謝料は116万円と認めるのが相当である。 後遺症慰謝料 650万0000円前記5⑴のとおり,原告の左眼視力は,本件手術2の術前は矯正視力 0.3(自動車損害賠償保障法施行令別表第2の等級13級に相当するもの)であったところ,その後失明するに至ったものであり,この後遺障害の程度は,同別表の等級8級1号に該当するものと認めるのが相当である。そして,原告の後遺障害の内容及び程度のほか,A医師の説明義務違反の態様等本件に現れた一切の事情を考慮すると,原告の後遺障 害に対する慰謝料の額は,650万円と認めるのが相当である。 エ文書料は,原告がこれを支払ったことを認めるに足りる証拠がないから,認められない。 オ弁護士費用 77万5883円上記合計775万8838円の1割に相当する弁護士費用も,A医師の 前記説明義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。 カ合計 853万4721円⑵ カルテの改ざんによる損害ア慰謝料 100万0000円前記2⑵エのとおり,A医師は,右眼のチン小帯の脆弱性及び左眼のチン小帯の断裂時期並びに各事項を踏まえた原告らへの説明について事実認 識と異なる内容を意図的に追記し,また,左眼眼圧の数値について事実認識と異なる修正を意図的に加えて,それぞれカルテを改ざんしたものである。上記の各カルテの改ざんは,説明義務違反とは別個に不法行為を構成するところ,その態様は,主として本件説明事項に係る改ざんであり,この改ざんの事実が発覚しなければ,A医師の責任(説明義務違反)が否定 され テの改ざんは,説明義務違反とは別個に不法行為を構成するところ,その態様は,主として本件説明事項に係る改ざんであり,この改ざんの事実が発覚しなければ,A医師の責任(説明義務違反)が否定 されることにつながり得る悪質なものであることや改ざん箇所が多数に及んでいることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると,これにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円と認めるのが相当である。 イ弁護士費用 10万0000円上記慰謝料の1割に相当する弁護士費用も,A医師の上記不法行為と相 当因果関係のある損害と認められる。 ウ合計 110万0000円⑶ なお,前記5⑴のとおり,原告の左眼失明の契機となったのは本件手術2であるから,原告は,前記⑴カの金員については,本件手術2が実施された平成25年11月21日から遅延損害金を請求することができる。ま た,証拠(乙A1)及び弁論の全趣旨によれば,A医師は,遅くとも原告や原告代理人に対し説明を行った本件説明会の日までに,カルテの改ざんの不法行為を行ったものといえるから,原告は,前記⑵ウの金員については,本件説明会が開催された平成28年3月25日から遅延損害金を請求することができる。 7 まとめ 以上によれば,被告は,原告に対し,A医師の説明義務違反及びカルテの改ざんについて,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として合計963万4721円及びうち853万4721円については,不法行為の日以後の日である平成25年11月21日(本件手術2が実施された日)から支払済みまで,うち110万円については不法行為の日以後の日である平成28 年3月25日(本件説明会が開催された日)から支払 以後の日である平成25年11月21日(本件手術2が実施された日)から支払済みまで,うち110万円については不法行為の日以後の日である平成28 年3月25日(本件説明会が開催された日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべきである。 なお,上記請求と選択的併合の関係にある債務不履行に基づく損害賠償請求については,同請求によって上記請求を超える金額が認容されるとは認められないから,判断する必要がない。 第4 結論よって,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官桃崎剛 裁判官清光成実 裁判官稲玉祐は,転官のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官桃崎剛

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