主文 一原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。 二被控訴人の処分取消請求を棄却する。 三訴訟費用は、第1・2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第一控訴の趣旨主文同旨第二事案の概要一事案の要旨本件は、被控訴人が、亡父の遺産の相続に関し、共同相続人間で成立した遺産分割協議に基づき、控訴人に対して相続税の申告をした後、被控訴人以外の相続人が被控訴人を被告として提起した同協議無効確認の訴えにおいて、同協議が相続人間の通謀虚偽表示であるという理由により、無効であることを確認する旨の判決が確定したために、「申告に係る税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」(国税通則法[以下「法」という。]23条2項1号)に該当すると主張して、上記相続税について更正の請求をしたが、控訴人により、更正すべき理由がない旨の通知処分を受けたことから、被控訴人が、同通知処分の取消しを求めている事案である(なお、被控訴人は、主位的には同通知処分の無効確認を求めていたが、原判決において、同請求は棄却され、これについては不服申立がないので、当審では審判の対象とならない。)。(以下、証拠の記載について、乙9[A別訴事件記録]中の証拠については、「別件甲1」「別件B本人尋問調書」のように、「別件」を付して示す。)二争いのない事実等 1 (一)Cは、昭和60年10月26日死亡した。 (二) Cの相続人である被控訴人(長男)、B(妻)、D(二男)、E(三男)及びF(長女)(以下、相続人らは名のみで表示し、これらの相続人5名を一括して「本件相続人ら」といい、被控訴人以外の相続人4名を「他の相続人ら」という。)の間において、昭和61年4月21日ころ、Cの遺 びF(長女)(以下、相続人らは名のみで表示し、これらの相続人5名を一括して「本件相続人ら」といい、被控訴人以外の相続人4名を「他の相続人ら」という。)の間において、昭和61年4月21日ころ、Cの遺産についての遺産分割協議(以下「体件協議」という。)が成立した。その協議の内容は、Cの遺産の大部分をB(約50%)と被控訴人(約48%)が取得し、一部をD(約1%)とE(約1%)が取得し、Fの取得分はなく、債務はすべて被控訴人が負担するというものである(乙2、別件甲6)。 (三) 被控訴人は、控訴人に対し、Cの相続に伴う相続税につき、本件協議に基づき、課税価格を3億6838万5000円、納付すべき税額を1億6761万3500円とした申告書を法定申告期限内である昭和61年4月25日に提出した。 (四) 被控訴人は、控訴人に対し、同年7月3日、課税価格を3億6838万5000円、納付すべき税額を1億6796万2700円とする修正申告書を提出した。(以下、(三)及び(四)を併せて「本件申告」という。)本件申告による各相続人の申告内容及び相続税額は以下のとおりである(乙1、2)。 (表1)所得財産の価額(各人の合計)750,641,570 (B)372,272,721 (被控訴人)372,474,515 (D)2,947,167 (E)2,947, 債務等の価額(各人の合計)8,889,061 (B)0 (被控訴人)8,889,061(D)0 (E)0純資産価額(各人の合計)741,752,509 (B)372,272,721 (被控訴人)363,585,454 (D)2,947,167 (E)2,947, 贈与財産価額(各人の合計)19,200,000 (B)4,800,000 (被控訴人)4,800,000 (D)4,8 363,585,454 (D)2,947,167 (E)2,947, 贈与財産価額(各人の合計)19,200,000 (B)4,800,000 (被控訴人)4,800,000 (D)4,800,000 (E)4,800,000課税価格(各人の合計)760,951,000 (B)377,072,000 (被控訴人)368,385,000 (D)7,747,000 (E)7,747, 算出税額(各人の合計)347,818,498 (B)172,353,457 (被控訴人)168,382,761 (D)3,541,140 3,541,140税額控除(各人の合計)173,613,457 (B)172,353,457 (被控訴人)420,000 (D)420,000 (E)420,000税額(各人の合計)174,204,900 (B)0 (被控訴人)167,962,700 (D)3,121,100 (E)3,121,100 2 本件協議を巡る紛争(一) 他の相続人らは、被控訴人を被告として、昭和62年9月4日、本件協議が通謀虚偽表示によるものであること等を理由として、同協議の無効確認の訴えを熊本地方裁判所に提起した(同裁判所昭和62年(ワ)第873号。以下「別件訴訟」という。)。 (二) 熊本地方裁判所は、平成5年9月14日、別件訴訟につき、他の相続人らの請求を棄却する旨の判決を言い渡した。他の相続人らは、これを不服として、福岡高等裁判所に控訴を提起し、平成8年10月24日、同裁判所は、原判決を取り消して、他の相続人らの請求を認容する旨の判決を言い渡した(以下「別件控訴審判決」という。)。これに対し、被控訴人は最高裁判所に上告を提起したが、平成9年3月13日、上告棄却の判決が言い渡され(以下「別件上告審判決」という。)、別 る旨の判決を言い渡した(以下「別件控訴審判決」という。)。これに対し、被控訴人は最高裁判所に上告を提起したが、平成9年3月13日、上告棄却の判決が言い渡され(以下「別件上告審判決」という。)、別件控訴審判決が確定した。 (三) 別件控訴審判決は、本件協議が無効である理由につき、「本件相続人らは、被控訴人の主導のもとに、Cが築き上げた香川商事グループの存続を図る目的で、配偶者に対する相続税額軽減規定の適用による利益を最大限に受けるべく、相続税の申告期限内に遺産分割が成立したことにするために本件協議を成立させたもので、各人とも、真意としては、本件協議の内容どおりに遺産を分割する意思はなく、通謀の上、仮装の合意として、本件協議を成立させた。」と認定している(乙5)。 3 更正の請求及び通知処分被控訴人は、平成9年4月14日、別件上告審判決により、本件協議の無効が確定したために、Cの遺産は未分割となり、法定相続分により計算した相続税を超える額について、本件申告に係る課税価格及び納付すべき税額が過大になったとして、税額等の更正の請求要件を定めた法23条2項1号(その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。その確定した日の翌日から起算して2月以内)に基づき、控訴人に対し、課税価格を3億6838万5000円から9751万6000円、納付すべき税額を1億6796万2700円から4415万4300円とする更正の請求をした(以下「本件更正の請求」という。)。 (二) これに対し、控訴人は、被控訴人に対し、同年6月30日付で、被控訴人は、遺産未分割の状況にあることを認識しながら 415万4300円とする更正の請求をした(以下「本件更正の請求」という。)。 (二) これに対し、控訴人は、被控訴人に対し、同年6月30日付で、被控訴人は、遺産未分割の状況にあることを認識しながら、仮装の遺産分割協議に基づいて相続税の申告を行ったものと認められるから、当該遺産分割協議の無効が裁判により確認されたとしても、法23条2項1号に規定する「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」には該当しないことを理由として、更正をすべき理由がない旨の通知をした(以下「本件通知処分」という。)。 4 被控訴人の不服申立(一) 被控訴人は、本件通知処分につき、平成9年8月22日、控訴人に対し、異議申立をしたが、控訴人は、同年11月21日、同申立を棄却する旨の決定をした。 (二) 被控訴人は、異議申立の棄却決定に対し、同年12月22日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成11年3月17日付で同請求を棄却する旨の裁決をした。 (三) 被控訴人は、平成11年4月28日、本件訴えを熊本地方裁判所に提起した。 三争点と当事者の主張 1 本件の争点は、本件通知処分の適否のみである。 2 控訴人の主張(一) 法23条2項は、納税申告時には予想し得なかった事由が後発的に生じ、これにより課税標準等に変更を生じ、税額の減額をすべき場合にも、更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果が生じる場合等があると考えられることから、例外的に、一定の場合に更正の請求を認め、保護されるべき納税者の救済の途を拡充した規定である。 そして、かかる制度趣旨に照らし、法23条2項1号の「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)」(以下「判決等」という。)とは、納税者において、課税当時若しくはその後の法23条 。 そして、かかる制度趣旨に照らし、法23条2項1号の「判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)」(以下「判決等」という。)とは、納税者において、課税当時若しくはその後の法23条1項の期間内に適切に権利の主張ができなかったようなやむを得ない事由と評価できるものでなければならず、結局、課税当時、その権利関係の帰属が明確になっていなかった場合に、その後の訴訟による判決等の結果、権利関係が明確になり、課税当時の権利関係と異なった権利関係が確定した等というような場合の判決等に限られるのであって、判決等であれば、何らの制限なしに更正の請求を認めることができるものではないことは明らかである。 したがって、例えば、当事者が専ら納税を免れる目的で、馴れ合いによって得た判決、専ら租税負担を回避する目的でされた裁判上又は起訴前の和解、真実に反する事実を確認する裁判上の和解等については、形式的には法23条2項1号の「判決等」に該当するとしても、上記制度趣旨に照らして、やむを得ない事由があるとはいえず、これらに基づいて更正を請求することはできないと解されている。 (二) 被控訴人は、本件申告の基礎となった本件協議が無効であることを宣言する別件控訴審判決が確定したことを理由として、本件更正の請求をしたものであるが、同判決によれば、本件協議は当初から無効であり、かつ、そのことを被控訴人自身は当初から知っていたことになるから、被控訴人は、別件訴訟が提起されれば、本件協議が無効であると確認されることを本件申告の時点で十分に予想することができたものである。 したがって、本件申告について、後発的事由による更正の請求を認める理由はないし、本件協議は、当初から無効であり、上記判決は、その無効であることを確認するに過ぎず、当初は有効であった意思表示を判決に したがって、本件申告について、後発的事由による更正の請求を認める理由はないし、本件協議は、当初から無効であり、上記判決は、その無効であることを確認するに過ぎず、当初は有効であった意思表示を判決により無効とするものではなく、本件申告には、いわば原始瑕疵があったのであるから、同判決は、本件申告に係る課税標準等に事後的に変更を生じさせたものではなく、後発的事由による更正の請求の要件には当たらない。 さらに、別件控訴審判決で認定されているとおり、被控訴人の主導の下に通謀虚偽表示による無効な遺産分割協議が成立したというのであるから、被控訴人は「帰責事由のない納税者」であるということはできず、上記判決による限り、本件申告が事実を反映しない過誤のある申告であることを当初から知っていたのであるから、法23条1項による「通常の更正の請求」により、本件申告を是正できる機会があったことになり、本件更正の請求を認めないことにより、被控訴人に酷な結果を生じるともいえない。 (三) さらに、本件更正の請求を認めることになれば、却って、不合理な結果を招来する。すなわち、本件申告は、配偶者に対する相続税額軽減規定の適用を受ける目的で、真実と異なる遺産分割協議書を作成し、これにより約1億7000万円もの相続税の軽減を図ったものであるところ、別件訴訟の判決結果に従って被控訴人の課税関係を是正するということは、本件相続税の総額からみれば、本来は配偶者に対する相続税額軽減規定の適用も否定されるべきことを意味する(上記約1億7000万円が増額されるべきことになる。)。しかるに、控訴人は、本件更正の請求がされた時点において、上記約1億7000万円について、更正の期間制限により、もはやその課税関係を是正することは不可能であったのであるから、本件更正の請求を認めることは、上記約 人は、本件更正の請求がされた時点において、上記約1億7000万円について、更正の期間制限により、もはやその課税関係を是正することは不可能であったのであるから、本件更正の請求を認めることは、上記約1億7000万円の税負担が不当に軽減された上で、さらに、被控訴人の税額計算において税額軽減を行うことになり、極めて不合理な結果となる。 (四) 以上によれば、別件控訴審判決は、法23条2項1号にいう「判決」には当たらない。 (五) 被控訴人は、当審において、本件協議の無効原因である通謀虚偽表示を否認している。 しかしながら、ある判決が法23条2項1号の「判決」に当たるか否かを判断するに際し、当該判決を援用して更正を請求する納税者が、その判決の根拠となる事実を争うことは、判決自体を否定することになり、矛盾する訴訟行為として禁反言の原則に照らして許されない。また、別件の訴訟で無効と認定された法律関係が確定判決の認定事実と異なることの主張、立証を納税者に許すときには、当該訴訟に関与していない処分庁に比し、納税者に有利で不公平であるばかりか、上記条項の「判決」に該当するか否かの判断を困難にし、その地位を不安定にする上に、納税者に実質的な主張の蒸し返しを認めることになるから、信義則上許されべきではない。 (六) 当審における控訴人の新たな主張―信義則違反現行税法は、相続税について申告納税制度を採用しており、納税者の誠実な申告にその基礎を置いている。したがって、かかる制度を悪用して、真実と異なる事実を税額の計算の基礎として申告し、税の軽減を図りながら、税務署長の更正の権限が消滅した後、申告時に税額の計算の基礎とした事実は真実と異る旨主張してさらに税額の軽減を受けようとすることは、納税者の申告を基礎として法律関係を形成した国の利益を著しく阻害する行為で の更正の権限が消滅した後、申告時に税額の計算の基礎とした事実は真実と異る旨主張してさらに税額の軽減を受けようとすることは、納税者の申告を基礎として法律関係を形成した国の利益を著しく阻害する行為であり、信義則に反する。 本件においては、申告時に遺産が未分割であったが、被控訴人は遺産全部が分割されたとして、相続税の申告書を提出した。このような場合、課税庁である税務署長は、遺産が未分割であることを立証し得る確実な証拠がない限り、上記申告を前提として租税法律関係を形成せざるを得ないが、国は、相続税の法定申告期限から3年を経過した後は本来法定相続分に従って相続税の納付義務を負うべきBら他の相続人に対し、相続税の更正を行うことができなくなる(法70条1項1号)ので、同人らから相続税を徴収することは不可能になる。このように、被控訴人は、自ら過大申告をしながら、法定申告期限から3年経過後、過大申告の基礎となった遺産分割協議は通謀虚偽表示により無効である旨の判決を得て更正の請求をしているが、かかる事態を認めた場合、共同相続人全体として不当な税の軽減を図る手段を認めることになり、税制度上、極めて甚大な弊害を招くことになる。これに対し、上記更正の請求を認めなかったとしても、過大な申告をした共同相続人の1名(被控訴人)は、法定相続分を超えて負担した税額を、他の相続人に対し、不当利得として請求することにより取り戻すことが可能である。 したがって、仮に別件控訴審判決が法23条2項1号の「判決」に該当するとしても、被控訴人の本件更正の請求は信義則に反して許されない。 3 被控訴人の主張(一) 法23条2項1号の「判決」について、控訴人の主張するように厳格に解すべき必要性はない。すなわち、同規定は、判決等により税額計算の基礎が異なることが確定したときには、国が間 被控訴人の主張(一) 法23条2項1号の「判決」について、控訴人の主張するように厳格に解すべき必要性はない。すなわち、同規定は、判決等により税額計算の基礎が異なることが確定したときには、国が間違った事実に基づいて過大に徴収した税金をそのまま不当に利得して保有するのではなく、判決等により確定した事実を基礎として税額を再計算し、納税者に返還するのが租税負担の公正、実質課税の原則に合致するものと考えているものであるから、できるだけ、本来の課税に是正し、納税者を救済する方向で解釈すべきである。 (二) 被控訴人は、別件訴訟で他の相続人らと本件協議の効力を争ったが、同訴訟は1審と2審が結論を異にする等、事実関係についての裁判所の判断が分かれる微妙な事案であった。したがって、被控訴人に対し、法23条1項の通常の更正の請求を法定期間内に行うことを求めることは不可能であり、後発的事由に基づく更正の請求を許さなければ、結果として税金を納めすぎている被控訴人としては、採り得る手段がないことになる。 控訴人は、通謀虚偽表示は原始的瑕疵であり、後発的事由に該当しないというが、その瑕疵は事後的な判断である「判決」が確定したからこそいえることであり、判決が確定しなければ分からないことであるから、「判決」により税額計算の基礎が異なることになった場合に当たるというべきである。なお、被控訴人は、本件協議が通謀虚偽表示にあたること自体、否認する。 控訴人の主張によれば、争う理由のある裁判でも、争うことをせずに敗訴に甘んじなければ(更正請求の期間内に相手方の言い分を早期に認めて裁判を終わらせなければ)救済されないことになるが、そのような応訴の権利を奪うようなことを法が定めているとはいえない。 (三) 控訴人は、本件更正の請求を認めることになれば、却って、不合理な結果 て裁判を終わらせなければ)救済されないことになるが、そのような応訴の権利を奪うようなことを法が定めているとはいえない。 (三) 控訴人は、本件更正の請求を認めることになれば、却って、不合理な結果を招来する旨主張するが、相続税は、相続分に応じて負担するのであるから、配偶者に対する相続税軽減措置が間違っていれば、軽減された者からその返還を求め、税金を取りすぎている者があれば、その者に返還すべきであることは当然であり、当事者間の関係によって異なった取扱いをするのは、税負担の公正、実質課税の原則に反し、極めて不公平な結果になり許されるべきではない。 (四) 当審における控訴人の主張に対する反論控訴人の主張は、当事者が、申告当初から事後的な裁判所の判断を知っているものとして論じている点で間違っているし、同主張に従えば、本件においては、期限内の更正の請求も許されないことになる。国は事実に即して税金を徴収し直せば良いのであるから、何ら利益を損なうことはないし、仮に利益を損なうことがあるとしても、納税者に損失を被らせることで、国が利益を守るのは不合理である。 控訴人は、他の相続人に対して不当利得返還請求ができるというが、法律上は必ずしもそうはならない。払い過ぎた税金の返還を求めることが、なぜ信義則に反するのか明らかでない。 第三当裁判所の判断一本件通知処分の適否について1法23条1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が誤っていたこと等の事由により、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等には、その国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、更正の請求をすることができる旨定めているが、さらに、同条2項1号は、1項の期間経過後であっても、申告等に係る課税標準又は税額等の計算 は、その国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、更正の請求をすることができる旨定めているが、さらに、同条2項1号は、1項の期間経過後であっても、申告等に係る課税標準又は税額等の計算の基礎となった事実(以下「基礎事実」という。)に関する訴えについての判決等により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときには、確定日の翌日から起算して2か月以内において、更正の請求ができる旨定めている。これは、申告時には予想し得なかった事由がその後において生じたことにより、課税標準又は税額等の計算の基礎に変更を生じ、さかのぼって税額の減額等をなすべきこととなった場合に、申告期限から1年を経過していることを理由に更正の請求を認めないとすると、帰責性のない納税者に酷な結果となることがあるため、例外的に、納税者の側からもその更正を請求し得ることとして、納税者の権利救済の途を拡充したものであると解される。 そして、法23条2項は、納税者が更正を請求できる場合を列挙している(同項3号は、その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるときと規定し、国税通則法施行令6条1項は、これを受けて、やむを得ない理由がある場合を列挙している。)ところ、上記規定の趣旨と各列挙事由の内容に照らすと、同項1号の「判決」に基づいて更正を請求するためには、当該訴訟が基礎事実の存否、効力等を直接、審判の対象とし、判決により基礎事実と異なることが確定されるとともに、申告時、納税者が、基礎事実と異なることを知らなかったことが必要であると解される。けだし、納税者が、申告時に基礎事実と異なることを知っていたならば、当該認識に従って、申告を行うことは可能であったのであるし、かえって、認識に反して申告を行うことは、虚偽の申告 要であると解される。けだし、納税者が、申告時に基礎事実と異なることを知っていたならば、当該認識に従って、申告を行うことは可能であったのであるし、かえって、認識に反して申告を行うことは、虚偽の申告を行ったことにもなるから、後に基礎事実と異なることが判決で確定されたからといって、申告期限後において、なお、その権利を救済する必要はないといわざるを得ないからである。 2(一) ところで、本件においては、本件協議が有効に成立したことは、被控訴人の相続税の申告に係る税額等の計算の基礎となった事実に当たるところ、申告期限から1年が経過した後、別件訴訟において、本件協議が無効であること、すなわち、基礎事実と異なる旨の判断が確定したことになる。 そこで、被控訴人が、本件申告時、本件協議が無効であることを知っていたか否かについて、以下、検討する(本件協議が通謀虚偽表示であることを被控訴人において否認することが信義則に反する旨の控訴人の主張は採らない。)。 (二) 証拠(別件甲6、17、Bの本人尋問調書[1審]、Gの証人尋問調書[1審]、Hの証人尋問調書[1・2審]、Fの本人尋問調書[1・2審]、Dの本人尋問調書[1・2審]、Eの本人尋問調書[1審]、被控訴人の本人尋問調書[1・2審])によれば、被控訴人は、Cが死亡した後の昭和61年1月ころ、Cの経営していた香川商事グループ(香川商事有限会社、有限会社香川商事倉庫、有限会社香川商事電話部、有限会社香川不動産部の総称)の税務を担当してきたHから紹介されたG税理士に、Cの相続に係る相続税の申告事務を依頼したこと、G税理士は、同年2月下旬ころ、本件相続人らに対し、Cの課税対象となる遺産総額を7億0303万9000円とした上で、配偶者(B)に対する相続税額軽減の規定(相続税法19条の2)の適用を受けられない場合 理士は、同年2月下旬ころ、本件相続人らに対し、Cの課税対象となる遺産総額を7億0303万9000円とした上で、配偶者(B)に対する相続税額軽減の規定(相続税法19条の2)の適用を受けられない場合の相続税総額が3億3703万1300円となることを説明したこと、被控訴人はもとより、他の相続人らも、同規定の適用を受けることなく、上記税額をそのまま負担することは、Cが築き上げた香川商事グループの存続を困難にし、相当ではないと考えていたこと、被控訴人は、同年4月初め頃、B及びDに本件協議書の草案を交付し、「会社(香川商事グループ)のためには、これが一番いい。税務署に出すための書類だから、この形がいい。」と話したこと、被控訴人は、Fが、形式的なものであるにせよ、自己の取得分を零とする本件協議書の内容に疑問を呈したことに対し、同月20日ごろ、「こうやって遺産分割協議書があるけれども、このように分けるんじゃないんだ。 母(B)の分になっているのは母のものではないし、被控訴人のものになっているものも被控訴人のものではない。相続税の申告期限が迫っているから、とりあえずこのような形にした。」と説明したこと、被控訴人は、翌21日にも、本件協議書を持参し、他の相続人らに対し、同様の説明をし、「このまま放っておくと、父(C)が零から作り上げた香川商事グル一プが大変なことになる。」と念を押し、他の相続人らも、被控訴人の言を信じ、真実は、同協議書どおりに遺産を分割するものでないことを知りながら、その場でこれに署名押印したこと、本件協議の内容は、法定相続分の割合が同一であるにもかかわらず、D及びEに比して、被控訴人に著しく有利なものとなっており、また、F(法定相続分の割合は上記3名と同じ。)については、特段の理由もなく、その取得分を零とする等、真実、協議が成立したと もかかわらず、D及びEに比して、被控訴人に著しく有利なものとなっており、また、F(法定相続分の割合は上記3名と同じ。)については、特段の理由もなく、その取得分を零とする等、真実、協議が成立したとするには不自然な内容となっていること、その結果、前記表1のとおり、配偶者の税額軽減額1億7193万3457円全額が控除されることになり、被控訴人らの税額は同表のとおりとなったこと、本件協議成立後、被控訴人は、同協議においてBが相続することになっていたC名義の預金の払戻しを受け、Bに無断で香川商事グループの経営のために使用したりしている一方で、遺産である各不動産の登記名義の変更等が実行されることなく放置されていること等の事実が認められる。以上の各事実によれば、本件協議は、Cの相続に関し、相続税軽減規定の適用を受けることを目的として、真実、協議どおりに遺産を分割する意思がないにもかかわらず、相続税の申告期限内に相続人間で遺産分割が成立した外形を作出するために、相続人間の通謀による虚偽、仮装の合意を行ったものであって、通謀虚偽表示により無効であると認められるところ、被控訴人は、自ら、外形の作出を企図し、他の相続人らに働きかける等して、これを主導したものであるから、本件申告時、本件協議が通謀虚偽表示により無効であることを知っていたものと認められる。 (三) そうすると、被控訴人は、法23条2項1号に基づいて、本件更正の請求を行うことはできないから、本件通知処分は適法ということができる。 3 被控訴人は、別件訴訟は事実関係が1審と2審とで判断が分かれ、結論を異にする微妙な事案であるから、通常の更正の請求を法定期間内に行うことは不可能であると主張する。確かに、1審と2審で結論が分かれたことは明らかであるが、これは、相続人らが仮装の分割協議書を作成しながら、 する微妙な事案であるから、通常の更正の請求を法定期間内に行うことは不可能であると主張する。確かに、1審と2審で結論が分かれたことは明らかであるが、これは、相続人らが仮装の分割協議書を作成しながら、その事実を客観的に示す念書等の証憑作成していなかったため、多数の相異なる関係者の供述を外形的な諸事情を勘案しつつ分析し、真相に迫っていくほかはない裁判となったためであり、その判断が困難であることと、虚偽表示をした当事者自身の認識とはまったく異なる問題であって、上記2(二)で認定した事実関係に照らすと、本件事案が被控訴人の申告の内容や通常の更正の請求を行うべきか否かについての判断を困難にする程度に事実の認定や評価が分かれるものであるということはできないから、被控訴人の上記主張は採用できない。 また、被控訴人は、通謀虚偽表示は「判決」による事後的な判断であって、判決が確定しなければ分からないと主張するが、遺産分割協議の無効確認の訴えは、過去の事実の確認を求めるものであり、新たに事実関係を形成するものではなく、当該協議を無効ならしめる事由自体は協議の時点から原始的に存在し、本件では当事者も、当初からこれを知っていたのであるから、上記主張は採り得ない。 他に被控訴人が主張する点についても、いずれも独自の見解として採用できない。 二結論よって、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消し、被控訴人の処分取消請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第3民事部裁判長裁判官井垣敏生裁判官金光健二裁判官高橋亮介
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