平成23(わ)479 労働安全衛生法違反,業務上過失致死

裁判年月日・裁判所
平成25年4月11日 神戸地方裁判所
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判決文本文21,348 文字)

平成25年4月11日宣告裁判所書記官平成23年第479号労働安全衛生法違反(被告人A組合及び被告人B関係),業務上過失致死(被告人B及び被告人C関係)被告事件                          判決                          主文 1 被告組合を罰金100万円に処する。    訴訟費用のうち証人Dに支給した分の3分の1及びその余の訴訟費用の2分の1は同被告人の負担とする。 2 被告人Bを禁錮1年及び罰金50万円に処する。    同被告人においてその罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。    同被告人に対し,この裁判が確定した日から3年間その禁錮刑の執行を猶予する。    訴訟費用のうち証人Dに支給した分の3分の1及びその余の訴訟費用の2分の1は同被告人の負担とする。 3 被告人Cを罰金70万円に処する。    同被告人においてその罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。    訴訟費用のうち証人Dに支給した分の3分の1は同被告人の負担とする。                              理由【犯罪事実】  被告組合は,兵庫県姫路市ab番地に主たる事務所を,同市c町de番地に姫路工場(第1工場から第3工場までの3棟の工場建物等で構成される。)を置き,冷菓用,製菓用もなか 由【犯罪事実】  被告組合は,兵庫県姫路市ab番地に主たる事務所を,同市c町de番地に姫路工場(第1工場から第3工場までの3棟の工場建物等で構成される。)を置き,冷菓用,製菓用もなかコーンの製造等を業とする事業者であり,平成5年,上記姫路工場第3工場(3階建て,以下「第3工場」という。)内部の南東側に,手動扉式荷物搬送用エレベーター(搬器の床面積約2.89㎡,内部の高さ約1.8m,積載荷重0.65t,以下「本件エレベーター」という。)を設置し,以後,同エレベーターを従業員等による製菓原料や製品の運搬の用に供していた。  被告人Bは,平成2年以降,被告組合の安全管理者として,被告組合内の設備及び作業場所等に危険がある場合における防止措置,危険防止のための設備等の定期点検などの業務に従事し,平成16年以降は,姫路工場副工場長としても,同工場における事務全般,設備等の管理及び修繕等を業務に従事していた。  被告人Cは,被告組合の従業員であり,第3工場における業務全般に従事していた。第1 被告人Bは,被告組合の業務に関し,法定の除外事由がないのに,平成21年2月25日頃,第3工場において,被告組合の従業員に,本件エレベーターを利用して製品運搬の作業を行わせるに当たり 1 エレベーターは,搬器及び昇降路のすべての出入口の戸が閉じていない場合には,搬器を昇降させることができない装置(いわゆるドアスイッチ)及び搬器が昇降路の出入口の戸の位置に停止していない場合には,かぎを用いなければ外から当該出入口の戸を開くことができない装置(いわゆるドアロック)を備えるものでなければならないのに,本件エレベーター昇降路1階出入口についてはドアスイッチが正常に作動しない状態であり,かつ,ドアロックを具備していないことを知りながら,本件 (いわゆるドアロック)を備えるものでなければならないのに,本件エレベーター昇降路1階出入口についてはドアスイッチが正常に作動しない状態であり,かつ,ドアロックを具備していないことを知りながら,本件エレベーターについて前記各装置が有効な状態で使用されるように整備を行わず,もって機械による危険を防止するため必要な措置を講じず 2 エレベーターについては,1か月以内ごとに1回,定期に,安全装置等について自主検査を行わなければならないのに,平成21年1月25日から同年2月24日までの間,本件エレベーターについて自主検査を行わず,もって政令で定める機械等について厚生労働省令で定めるところにより,定期に自主検査を行わなかった。第2 エレベーターは,その性質上,設備の不備が利用者らの死傷事故につながる危険性を有するものである上,本件エレベーターは,経年変化による部品の摩耗,変形等により,遅くとも平成19年頃には,2階出入口につき,ドアロックの先端が同出入口戸のフックとスムーズに係合しない,あるいは,同出入口戸に取り付けられたスイッチがドアロックが掛かる全閉手前位置で通電状態となるなどの理由により,搬器が上記2階出入口に停止していない状態でも同出入口戸が開く危険が生じていた。そして,被告人Bは,本件エレベーターについて,関係法令上義務付けられている定期検査を実施せず,かつ,本件エレベーターにおいて,不定期かつ頻繁に不具合・故障が発生していたこと,搬器が当該階に停止していないにもかかわらず出入口戸が開く不具合が不定期に発生していたことなどの報告を受けていたものであり,このような状態で本件エレベーターの利用を継続すれば,搬器が当該階に停止していないにもかかわらず出入口戸が開くなどの不具合が発生し,被告組合従業員に死傷事故が発生するおそれがあることを予 ものであり,このような状態で本件エレベーターの利用を継続すれば,搬器が当該階に停止していないにもかかわらず出入口戸が開くなどの不具合が発生し,被告組合従業員に死傷事故が発生するおそれがあることを予見できたのであるから,必要に応じて被告組合の代表者であるEに指示や決裁を求めるなどして修理業者に修理を行わせ,かつ,関係法令上義務付けられている定期検査を実施するとともに,本件エレベーターの安全が確認されるまでは従業員の利用を中止させるなどの安全対策を講ずべき業務上の注意義務があった。しかし,被告人Bはこれを怠り,これらの安全対策を講じず,漫然と,従業員の利用に供したことにより,平成21年2月25日午後1時過ぎ頃,第3工場2階の本件エレベーターの昇降路出入口において,2階に本件エレベーターの搬器が停止していないにもかかわらず,同出入口の戸が開いたため,同搬器にハンドリフト上のパレットに積載した製品を積み込もうとした被告組合従業員F(当時57歳)をして,同昇降路内の1階に停止していた同搬器天井上面に転落させた。      また,被告人Cは,その頃,従業員から本件エレベーターの様子がおかしいとの報告を受け,第3工場2階の本件エレベーターの昇降路出入口付近の状況を確認したが,その際,同出入口の戸が開いていたものの,2階に搬器は停止しておらず,ハンドリフト上のパレットに積載された製品が同昇降路内に落ちかけていて,かつ,周囲に誰もいないのを認めた。したがって,被告人Cは,同ハンドリフトを積載しようとした従業員が同昇降路内に転落しているのを予見できたのであるから,同昇降路内で搬器を作動させる際には,同昇降路内に転落している従業員の有無及びその安全を確認すべき業務上の注意義務があった。しかし,被告人Cは,これを怠り,同日午後1時14分頃,同昇降 のであるから,同昇降路内で搬器を作動させる際には,同昇降路内に転落している従業員の有無及びその安全を確認すべき業務上の注意義務があった。しかし,被告人Cは,これを怠り,同日午後1時14分頃,同昇降路内の安全確認が不十分なまま,漫然と,本件エレベーターを作動させ,1階付近に停止していた搬器を上昇させた。      これらの過失の競合により,Fを同搬器天井上面から落下させて搬器と昇降路壁面の間に挟み込み,その頃,同所において,同人を左下腿部離断による失血により死亡させた。      【証拠の標目】 省略  【被告人Cに関する争点に対する判断】 1 争点と判断の骨子 公訴事実の要旨及び争点の概要本件公訴事実において,犯罪事実第2に関する被告人Cの過失として指摘されたのは,次の2点である。すなわち,①被告人Cは,第3工場の責任者であり,かつ,被告組合の安全衛生委員会委員であったところ,本件エレベーターについては搬器が当該階に停止していないにもかかわらず出入口戸が開く不具合を含む不具合・故障が不定期に発生していたことを認識していたものであり,その状態で本件エレベーターの利用を継続すれば被告組合従業員に死傷事故が発生するおそれがあることを予見できたのであるから,被告人Bに対して,修理及び定期点検の実施並びに利用中止を具申するとともに,安全が確認されるまで本件エレベーターの利用中止の措置をとるなどの安全対策を講ずべき業務上の注意義務があったのに,これらの安全対策を講じず,漫然と従業員に本件エレベーターの利用を継続させた過失(以下「過失①」という。),②本件事故当日,被告人Cは本件エレベーターの2階出入口付近において,出入口戸が開いていたものの,2階に搬器は停止しておらず,ハンドリフ レベーターの利用を継続させた過失(以下「過失①」という。),②本件事故当日,被告人Cは本件エレベーターの2階出入口付近において,出入口戸が開いていたものの,2階に搬器は停止しておらず,ハンドリフト上のパレットに積載された製品が昇降路内に落ちかけていて,かつ,周囲に誰もいないのを認めたものであり,したがって,被告人Cは,同ハンドリフトを積載しようとした従業員が昇降路内に転落しているのを予見できたのであるから,昇降路内に転落している従業員の有無及びその安全を確認すべき業務上の注意義務があったのに,これを怠って,昇降路内の安全確認不十分なまま本件エレベーターを作動して上昇させた確認義務を負っていたがこれを怠った過失(以下「過失②」という。)である。被告人Cの弁護人(以下,本項においては,単に「弁護人」という。)は,これら2つの過失の存在をいずれも争い,無罪を主張した。その主張の骨子は,過失①については,そもそも被告人Cはその義務を負っておらず,また,仮にその義務を負っていたとしても被告人Cは被告人Bに対して繰り返し修理を進言するなどしていたのであるから義務違反はなく,過失②については,本件事故当日,本件エレベーターの2階出入口付近を通りかかった際,被告人Cが認識した状況等に照らすと,昇降路内に従業員が転落している事実に気付けなかったことには十分な根拠・理由があり,被告人Cは,本件エレベーターを動かせば従業員を死傷させることを具体的に予見することはできなかったというものである。 判断の骨子当裁判所は,2以下に説示する検討により,過失①については,被告人Cの被告組合内における地位及び実際の職務権限の内容に照らすと,被告人Cに第3工場内の設備に関する安全管理を行うべき義務(権限)があったとは認められず,本件エレベーターにつ 過失①については,被告人Cの被告組合内における地位及び実際の職務権限の内容に照らすと,被告人Cに第3工場内の設備に関する安全管理を行うべき義務(権限)があったとは認められず,本件エレベーターについて修理・点検等を具申するなどの措置を講ずべき義務も認められないから,被告人Cには過失が認められないが,過失②については,事故当時の被告人Cの認識内容に照らすと,昇降路内に従業員が転落している可能性を認識することは可能であり,したがって,そのまま本件エレベーターを動かせば従業員が死傷する可能性を予見できたというべきであるから,被告人Cは,昇降路内に従業員が転落していないかをより慎重に確認すべき注意義務があったというべきであり,被告人Cには,その義務に違反した点で過失があったと認定した。 2 前提事実(当事者間に争いがなく,かつ,証拠上容易に認定できる事実) 被告組合及び第3工場の概要被告組合は,冷菓用,製菓用もなかコーン,焼菓子,製菓材料の製造を主たる事業内容とする組合法人であり,平成21年当時,日本国内3箇所にある工場でこれらの製品を製造していた。その一つである姫路工場は3棟の工場建物からなっており,それぞれ第1工場ないし第3工場と呼ばれていた(なお,第2工場は事務所と一体となっている。)。 本件事故が発生した第3工場は鉄骨造り3階建ての建物であり,1階はアイスクリーム用コーンの製造,2階はシュガーコーンの製造,3階は菓子の原料保管倉庫として使用されていた。 被告人B及び被告人Cの被告組合における地位被告人Bは,犯罪事実冒頭に記載したとおりの経過で,平成21年2月当時,被告組合の安全管理者であるとともに姫路工場の副工場長であった。被告人Bは,日頃は第2工場内の事務所にいて,事務所の統括,生産管理,工場の施設管 事実冒頭に記載したとおりの経過で,平成21年2月当時,被告組合の安全管理者であるとともに姫路工場の副工場長であった。被告人Bは,日頃は第2工場内の事務所にいて,事務所の統括,生産管理,工場の施設管理等の業務を行っていた。被告人Cは,平成13年に被告組合に就職し,第3工場の業務に従事した。平成16年主任に昇格し,平成17年には第3工場の責任者とされた。平成18年12月いったん被告組合を退職したが,平成19年6月被告組合に再就職し,同年9月主任に昇格,平成20年1月頃第3工場の業務に就き,同年夏頃再び第3工場責任者とされた。なお,再就職後,犯罪事実第2記載の死亡事故が発生するまでの間に,安全衛生委員会の委員となった。 本件エレベーターの概要ア設置状況及び構造本件エレベーターは,平成5年に第3工場の内部の南東側に設置された。        本件エレベーターは1階から3階まで昇降路が通じており,1階部分は東西方向(工場の外側と内側)の双方に出入口ドアが設置され,2階部分及び3階部分には,西方向(工場の内側)のみに出入口ドアが設置されている。各階の出入口(1階については内側外側の両方)には,いずれも手動開閉式の鋼板製扉(以下「外扉」という。)が設置されており,その扉脇には搬器を作動させるための操作盤が設置されている。操作盤には上から赤いランプ,1ないし3の各階を表示するボタン(搬器が存在する階のボタンは点灯する。),非常ボタンが付いている。それぞれの出入口にはシャッターあるいは防虫用ののれんで仕切られた前室が設けられている。昇降路及び各階の出入口付近の構造等は,別紙見取図のとおりである。        本件エレベーターの搬器は,床面積が約2.89㎡,内部の高さ約1.8mであ た前室が設けられている。昇降路及び各階の出入口付近の構造等は,別紙見取図のとおりである。        本件エレベーターの搬器は,床面積が約2.89㎡,内部の高さ約1.8mであり,出入口に接する東西の両面には,それぞれ手動開閉式の金属製の蛇腹扉が設置されている。イ利用目的及び操作手順本件エレベーターは荷物運搬専用であり,主に,菓子の原料を1階から2階又は3階に運び上げるときと,段ボール詰めされた製品を2階から1階に運び降ろすときに利用されるものであった。一例として第3工場の2階で搬器を呼び,製品を積み込んで1階に降ろす場合の通常の作業手順を挙げれば,次のとおりである。まず,前室内にハンドリフトでパレットに載った製品(通常は,15箱の製品入り段ボール箱を1段5箱ずつ,3段に積み上げていた。)を運び込んだ上,搬器が2階にあるかどうかを2階外扉脇の操作盤のボタンの点灯表示で確認し,搬器が別の階にある場合には2階のボタンを押して搬器を2階に移動させる。その後,外扉と搬器内側の蛇腹扉を順次手で横に引いて開けた上,ハンドリフトを搬器の中に押し入れ,パレットを搬器の中に置いてハンドリフトを抜いて搬器外に引き出した後,蛇腹扉と外扉をそれぞれ閉め,操作盤の1階ボタンを押して搬器を移動させる。ウ不具合の発生状況本件エレベーターは,設置後数年が経過した頃から種々の不具合が出現し始めた。 不具合が発覚した場合,被告人Cら,第3工場の従業員が被告人Bに報告し,必要に応じて修理を求めるなどしていた。被告人Bは,修理業者を呼んで修理を行わせたこともあったが,一部の不具合については放置し,十分な修理がされないまま利用が続けられていた。平成21年2月当時,例えば,1階の外扉については,東西(工 Bは,修理業者を呼んで修理を行わせたこともあったが,一部の不具合については放置し,十分な修理がされないまま利用が続けられていた。平成21年2月当時,例えば,1階の外扉については,東西(工場外側及び内側)の扉とも,搬器が1階にないのに開き,また,外扉が開いていても搬器が動く状態であった。2階の外扉についても,搬器が2階にないのに開く不具合が年に数回程度発生していた。 本件事故の概要平成21年2月25日午後1時1分頃,第3工場2階の製造ラインで業務を行っていた従業員のF(以下「被害者」という。)は,段ボール詰めされた製品を1階に運び降ろすため,通常の作業手順どおり,段ボール箱15箱をパレットに載せた上,それをハンドリフトを使用して本件エレベーター2階出入口の前室付近まで運んだ。そのとき,本件エレベーターの搬器は1階に停止しており,本来であれば被害者が2階外扉を開けようとしてもドアロックが掛かるべきところ,何らかの理由でドアロックが機能せず,被害者によって本件エレベーターの2階外扉が開けられた。被害者は,搬器が2階に停止していないことに気付かないまま,ハンドリフトを押し込んだため,ハンドリフトは段ボール箱を載せたパレットごと昇降路内に突入した(以下,「本件突入事故」という。)。その後,具体的な経過は不明であるが,被害者は本件エレベーターの2階出入口から昇降路内に転落し,1階に停止していた搬器の天井板の上面に落下した。      同日午後1時14分頃,被告人Cは,被害者が昇降路内に転落している事実に気付かず,本件エレベーターを作動させて搬器を1階から上昇させた。その結果,被害者は,搬器天井板の上面東側から落下し,上昇する搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれて左下腿部を離断して失血死するに至った(以下,本件突 件エレベーターを作動させて搬器を1階から上昇させた。その結果,被害者は,搬器天井板の上面東側から落下し,上昇する搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれて左下腿部を離断して失血死するに至った(以下,本件突入事故後,被害者が昇降路内に転落し,さらに被告人Cが搬器を上昇させたことにより被害者が死亡するまでの経過全体を「本件事故」という。)。 3 過失①についての判断   検察官は,被告人Cが第3工場の責任者であるとともに安全衛生委員会委員であったことなどを根拠に,被告人Cには,第3工場において業務に従事する全従業員の生命・身体に対する安全を確保すべき職務上及び条理上の義務を負っていたと主張する。   しかし,以下に説示するとおり,被告人Cがそのような義務を負っていたとは認められない。    ア事業場における労働災害を防止すべき一般的注意義務(以下「労働安全管理義務」という。)は,事業場において労働者を使用して活動する事業者が負い(労働安全衛生法3条1項),事業者が法人である場合には,一般的には業務執行権限を有する代表者が負うものである(防火管理上の注意義務に関する最一小判平成3年11月14日刑集45巻8号221頁等の示された解釈は,労働安全管理義務にも同様に妥当すると解すべきである。)。 もっとも,労働安全衛生法は,被告組合のような規模の事業者は,安全管理者を選任し,労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関する業務のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならないとしている(同法11条1項)から,その限度においては安全管理者にその権限と義務を委譲すべきものとしていると解される。被告組合においても,前記のとおり,安全管理者として被告人Bを選任し,同人は,姫路工場の副工場長として姫路工場に常駐して,事務所の統 安全管理者にその権限と義務を委譲すべきものとしていると解される。被告組合においても,前記のとおり,安全管理者として被告人Bを選任し,同人は,姫路工場の副工場長として姫路工場に常駐して,事務所の統括,工場の施設管理等の業務を行っていた。したがって,被告人Bは,被告組合の代表理事(理事長)であるEから,労働安全管理義務の一部を委譲されていたというべきである。  イ  これに対し,被告人Cが理事長であるE又は安全管理者である被告人Bから労働安全管理義務を委譲されていたと認めるべき事情はない。      前記のとおり,被告人Cは,被告組合の内部において第3工場の責任者とされてはいたが,その地位は労働安全衛生法令に根拠を有するものでないことはもちろん,被告組合の内規等で義務や権限が明確に定められている地位でもない。被告人Cが責任者となるに当たって,被告人Cが格別の義務や権限を負うことについて指示や説明があった形跡はなく,被告組合内部において責任者の権限・義務に関する共通認識があったことをうかがわせる事情も認められない。証拠上認定できる被告人Cの責任者としての具体的な職務としては,第3工場において菓子製造等の作業を行う際,製品の焼き具合の確認,焼成機械の調整,生地の補充のほか,従業員に対して生産予定個数を指示し,従業員が休憩でラインから離れた際にはその作業を補うといったもの過ぎない。本件で問題となる労働安全管理については,第3工場内の機械に不具合があった場合,事実上,それに気付いた従業員が責任者である被告人Cに連絡をすることが多かったとの事情はうかがわれるが,被告人C自ら修理業者を呼ぶなどする権限がなかったことは明らかであるし,前記のとおり,被告人Cが被告人Bに本件エレベーターの不具合を報告して修理を依頼したにもかかわ 多かったとの事情はうかがわれるが,被告人C自ら修理業者を呼ぶなどする権限がなかったことは明らかであるし,前記のとおり,被告人Cが被告人Bに本件エレベーターの不具合を報告して修理を依頼したにもかかわらず,被告人Bが修理を行わず,不具合が放置されていたこともあり,被告人Cの報告や進言が,その固有の権限に基づくものとして尊重される体制にはなっていなかった。こうしてみると,責任者とは,第3工場内の日常業務における事実上のリーダーという程度の地位に過ぎないというべきであり,これを根拠に,被告人Cに法律上の安全管理義務が委譲されたと認めることは到底できない。        また,被告人Cは,被告組合が労働安全衛生法17条ないし19条に基づき設置した安全衛生委員会の委員であったが,安全衛生委員会は,労働者の危険や健康障害を防止するための基本となるべき対策等について調査審議し、事業者に対して意見を述べることを目的に設置されるものであり,同委員会が設置されているからといって,直ちに事業者から同委員会又は委員に安全管理義務が委譲されるという性質のものではない。被告組合の安全衛生委員会の実情をみても,会合の開催は定期的になされておらず,会合では被告人Bから委員に安全等に関する注意事項が伝えられる程度のことしか行われていないなど委員会本来の目的に照らしてすら形骸化しており,被告人Cの委員としての立場も名目的であったと認められるから,そこに,委員自ら労働安全管理の義務を負う素地を見出すことはおよそできない。そうすると,被告人Cが安全衛生委員会の委員であったことを根拠に安全管理義務があるとする検察官の主張は失当というほかない。  ウなお,検察官が主張する条理上の義務については(検察官は具体的な根拠を示しておらず,その主張自体明確でない ったことを根拠に安全管理義務があるとする検察官の主張は失当というほかない。  ウなお,検察官が主張する条理上の義務については(検察官は具体的な根拠を示しておらず,その主張自体明確でないが),例えば従業員が作業場において自ら積極的に他の従業員に対する危険を作出したなどの事情がある場合には,当該従業員は,その職務上の地位にかかわらず,当該危険の現実化を防止すべき条理上の義務を負うと解する余地が仮にあるとしても,被告人Cについて,そのような格別の事情があったとは認められない。 したがって,条理上の義務があったとする検察官の主張にも理由がない。   以上のとおり,被告人Cが,その職務上,労働安全管理義務の委譲を受けていたとはいえず,また,条理上の義務も認められないことから,過失①については,被告人Cに公訴事実記載の注意義務があったとはいえず,過失は成立しない。 4 過失②についての判断   関係証拠によれば,本件事故前後の,被告人Cをはじめとする関係者の行動,認識等は,次のとおりであったと認められる(なお,以下の記載の日時,場所は全て平成21年2月25日午後,第3工場内のものである。)。    ア  前記2記載のとおり,1時1分頃,被害者は,2階の製造ラインを離れて,製品入りの段ボール箱15箱を1階に降ろすため本件エレベーター前に向かい,その後,昇降路内に転落した。    イその頃,同じ製造ラインで作業を行っていた従業員のGは,被害者が製品を降ろす作業に取りかかったことに気付いていたが,通常であれば二,三分で戻るはずの被害者がなかなか戻って来ないことが気になり,1時6分頃,本件エレベーター前に様子を見に向かった。その時,本件エレベーターの2階出入口前の前室のシャッターは開いていたが, あれば二,三分で戻るはずの被害者がなかなか戻って来ないことが気になり,1時6分頃,本件エレベーター前に様子を見に向かった。その時,本件エレベーターの2階出入口前の前室のシャッターは開いていたが,室内の電灯は点いていなかった。薄暗い中で,Gがその出入口付近を見ると,外扉は開いていたが搬器はなく,ハンドリフトが段ボール箱を載せたパレットごとエレベーターの昇降路内に突っ込んで前方に傾いているのが見えた。その際,エレベーターの近くに被害者の姿はなかった。Gは,被害者は1階に男の人を呼びに行ったのかもしれないなどと考え,自身は,元のラインの作業に戻った上,1時7分頃,ラインで作業を行っていた被告人Cに「エレベーターおかしいから見てきて。」などと伝えた。ウ被告人Cは,1時9分頃,本件エレベーター2階出入口付近の様子を見に行ったところ,Gが見たのとほぼ同様の状況を認めた。これを見て,被告人Cは,従業員の誰かが,製品入りの段ボール箱を積んだパレットをハンドリフトで搬器内に積み込もうとした際,搬器がないのに外扉が開いてしまい,その従業員が,搬器がないことに気付かずにハンドリフトを突っ込んだため,このような状態が生じたのであろうと推測した。その際,ハンドリフトを操作していたはずの従業員の姿は周囲になかったが,これについて,被告人Cは,その従業員は,責任者である被告人Cを捜そうとして1階に降りたのかもしれないなどと考えた。被告人Cは,ひとまず昇降路内に突っ込んだハンドリフトや製品を引き出そうと考えたが,一人では無理だと判断し,男性従業員であるHに手伝ってもらうため,他の従業員に指示してHを呼びに行かせた。まもなくHが到着し,1時10分頃から,被告人CはHと二人で引き出し作業に取りかかった。このとき,パレットに製品を積んだ状態のハンドリフト うため,他の従業員に指示してHを呼びに行かせた。まもなくHが到着し,1時10分頃から,被告人CはHと二人で引き出し作業に取りかかった。このとき,パレットに製品を積んだ状態のハンドリフトは,その後輪が浮き上がり,前の部分は昇降路内に落ちかかっていて,パレット上には製品入りの段ボール箱が13箱又は14箱載っていたが,少なくとも1箱は昇降路内に落下しており,パレット前部に載っていた段ボール箱の一部は昇降路内の中央付近にあるワイヤーに引っかかり,かろうじて落ちずにいる状況であった。被告人Cはパレットの右側から,昇降路内に向かって傾いているパレットが落ちないように,パレットの手前側に片足で重心を掛けた上,前方に身を乗りだして手で段ボール箱を持ち上げて順次引き出した。パレット上にあった段ボール箱の大部分を引き出した後,Hと二人でハンドリフトをパレットごと引き出した。 作業の途中,被告人Cは,1階から上がってきた従業員のDから声を掛けられ,同人に状況を簡単に説明するなどした。Dは引き出し作業には加わらず,そのまま1階に降りた。エ 1時13分頃,引き出し作業を終え,Hは,被告人Cの指示で2階の焼成機の方に向かった。その後,被告人Cは,昇降路内に落ちた段ボール箱がないかを確認するため,2階の外扉を少し開いた状態にして,そこから昇降路内の下方をのぞき込んだ。そうすると,1階に停止中の搬器の天井板の上面東側(被告人Cから見て奥側)に段ボール箱が2箱落ちているのが,暗がりの中でうっすら見えた。なお,このとき,搬器の天井板上面の西側(被告人Cから見て手前側)には気を失った被害者がいたとみられるが,被告人Cはその姿には気付かなかった。被告人Cは,落ちた2つの段ボール箱を回収するため,搬器を上昇させようと考え,その際,1階に停止している搬 側)には気を失った被害者がいたとみられるが,被告人Cはその姿には気付かなかった。被告人Cは,落ちた2つの段ボール箱を回収するため,搬器を上昇させようと考え,その際,1階に停止している搬器の中にD又はその他の従業員がいると危ないので,搬器の中に人がいないかを念のため確認しようと,昇降路内の下方に向かって「誰かおらんか,動かすで。」などと声を掛けたが何の反応もなかった(なお,被告人Cの検察官調書(乙17)には,上記声掛けの際には昇降路内に人が転落しているかもしれないとも考えたとの記載があるが,公判廷で被告人Cはこれを否定する供述を行っており,他の証拠からも,上記検察官調書の記載に信用性を認めるべき事情は見当たらないので,その記載は信用しない。)。そこで,被告人Cは,1時14分頃,2階の外扉を閉め,扉脇の操作盤の2階ボタンを押して搬器を上昇させた。搬器上昇中,被告人Cは,2階の外扉について,搬器がないのに扉が開いてしまう不具合が生じているのかどうかを確認しようと思い付き,操作盤の非常ボタンを押して搬器を途中で停止させた(この間に,被害者は搬器天井板の上面東側から落下し,上昇する搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれて左下腿部を離断したと考えられる。)。被告人Cが,2階の外扉を開けようと,扉を横に引いたところ,搬器がある場合のようにスムーズには開かなかったが,強く力を込めると開いた。すると,昇降路内の下方から,人のうめき声が聞こえた。オこれを聞いて,被告人Cは,昇降路内に従業員が落ちていることに気付き,持っていたペンライトを用いて昇降路内の下方を照らしたが,搬器の天井板の上には人の姿を発見できなかった(前記のとおり,このとき既に被害者は搬器の天井板から落下し,搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれていたとみられる。なお,被告人Cは,ペン の下方を照らしたが,搬器の天井板の上には人の姿を発見できなかった(前記のとおり,このとき既に被害者は搬器の天井板から落下し,搬器と昇降路壁面の間に挟み込まれていたとみられる。なお,被告人Cは,ペンライトを用いて昇降路内の下方を照らした時期について,搬器を上昇させる前後のいずれであったか分からないと供述するが,搬器を上昇させる前の時点では被害者は搬器の天井板の上面東側にいたのであり,仮にそのとき照らしていたのであれば被害者の姿を発見できなかったとは考えられないから,被告人Cがペンライトで昇降路内を照らしたのは搬器を上昇させた後であったと認められる。)。その後,被告人Cは,2階で作業中のGらに,昇降路内に誰かが転落している旨大声で伝えた後,1階に降り,搬器の下に入り込んで被害者の救出を試みたが,挟み込まれた被害者を救出することはできなかった。その後,救急隊員が到着し,被害者を運び出したが,被害者は既に死亡していた。   予見可能性を肯定した理由アエレベーターの昇降路内に人が落下している可能性がある場合に搬器を作動させれば,その人を死傷させる結果をもたらすことは当然予想できることであるから,過失②の予見可能性の有無は,結局,被告人Cが,本件エレベーターを上昇させるまで(午後1時14分まで)の時点で,本件突入事故を起こした従業員が昇降路内に転落している可能性(以下,これを「転落可能性」という。)に気付くことが可能であったか否かによる。イこの点,前記認定のとおり,被告人Cは,第3工場2階でハンドリフト等が昇降路内に突入している状況を認めたのであるから,少なくとも,製品を搬器に載せようとしていた従業員が,搬器がないのに2階外扉を開けようとし,その際,ドアロックが機能せず,本来開かないはずの外扉が開き,さらに,当 入している状況を認めたのであるから,少なくとも,製品を搬器に載せようとしていた従業員が,搬器がないのに2階外扉を開けようとし,その際,ドアロックが機能せず,本来開かないはずの外扉が開き,さらに,当該従業員は搬器がないことに気付かないままハンドリフトを押し入れて昇降路内に突入させるという異常な事態(本件突入事故)が発生したことを認識していた。加えて,被告人Cは,Hとともにハンドリフト等を運び出す作業を行った際などに,製品の一部は昇降路中央付近まで入り込んでいたこと,段ボール箱の一部が昇降路内に落下していたことなどを,具体的に目にしていた。        こうした状況下で,ハンドリフトの操作を行っていたはずの従業員の姿が,本件突入事故が発生した後,数分間にわたって確認できなかったのであるから,被告人Cは,当該従業員の安否について相当慎重に思いを巡らすべきであった。そのような慎重な検討がされていれば,本件突入事故の発生と当該従業員の行方が知れないこととを関連付けて捉え,転落可能性に思い至ることも十分可能であったというべきである。    ウさらに,被告人Cは,前記のとおり,昇降路内に突入したパレット上の段ボール箱を引き出そうと考え,実際にその作業を行ったが,その際,昇降路の中心付近まで達している段ボール箱に手を伸ばすために,上半身を昇降路内に乗り出さざるを得ず,しかも,パレットに段ボール箱を積んだ状態のハンドリフトの後輪が浮き上がり,昇降路内に落ちかかっている状態であったため,相当不安定な足場の上でその作業を強いられる経験をした。これについては,被告人C自身,その作業中,昇降路内に身体が落ちてしまいかねないとの恐怖を感じたと述べている。        こうした事情からすれば,被告人Cは,本件突入事 した。これについては,被告人C自身,その作業中,昇降路内に身体が落ちてしまいかねないとの恐怖を感じたと述べている。        こうした事情からすれば,被告人Cは,本件突入事故を発生させた従業員も,パレット上の段ボール箱が昇降路内に落下するのを防ごうとしたり,段ボール箱を昇降路外に引き出そうとした可能性を十分想起しうる状況であった上,当該従業員がそのような作業をしようとして,誤って昇降路内に転落した可能性を想定することも可能であったというべきである。    エ以上によれば,被告人Cは,転落可能性に気付くことが可能であり,したがって,その状況下で搬器を作動させれば,転落している従業員が死傷することを予見することも可能であったというべきである。   予見可能性はなかったとする弁護人の主張について    弁護人は,以下の事情を理由に,被告人Cの予見可能性は否定される旨主張するが,当裁判所は,いずれの事情も前記判断を左右しないと判断した。    アまず,弁護人は,本件突入事故後,被告人Cが認識したハンドリフト等の状況からすれば,転落可能性に気付くことは不可能であったと主張する。     具体的にはまず,ハンドリフトは一般に押して動かすものであり,搬器にパレットを積み込む際の通常の作業手順も,搬器にハンドリフトを押し入れるというものであったから,本件突入事故の発生時点では被害者は前室内にいたはずであり,その際,ハンドリフトの前輪が昇降路内に落ち込むなどしたときの衝撃から2階に搬器が停止していないことに気付いたはずであって,それにもかかわらず被害者が昇降路内に落下するという事態は想定できないことを挙げる。          本件突入事故の発生 階に搬器が停止していないことに気付いたはずであって,それにもかかわらず被害者が昇降路内に落下するという事態は想定できないことを挙げる。          本件突入事故の発生時点で被害者は前室内にいたと考えられることや,本件突入事故の発生により,被害者は,2階に搬器が停止していないことに気付いたであろうことは弁護人が指摘するとおりである。したがって,被害者が昇降路内に転落した具体的な経過は証拠上確定できないとしても,本件突入事故の発生と同時に被害者が昇降路内に転落するという事態はほとんど想定不可能であるし,被害者が搬器が2階に停止していないことに気付かないまま転落したという可能性もほぼないと認められる。          しかし,そうであるとしても,前記のとおり,被害者がハンドリフト等を昇降路に突入させた後,搬器が2階に停止していないことに気付いた上で,パレット上の段ボール箱が昇降路内に落下するのを防ごうとしたり,さらに段ボール箱の引き出し作業を行おうとしたりした可能性は十分考えられ,その際に昇降路内に転落することは想定可能であるから,上記の事情だけでは従業員が昇降路内に落下したことに気付くことが不可能とはいえない。       次に,弁護人は,被告人Cが,ハンドリフト等が昇降路内に突入している状況を認めた際,パレット上に段ボール箱がほぼ全て積載されており,2階外扉を全開にした場合でも,扉の外枠と積載された段ボール箱との間の隙間は,左右の隙間を合計してもせいぜい30㎝前後しかなかったことに加えて,当初パレット上に積まれた15箱の段ボール箱はほぼ荷崩れを起こさずに,パレット上に載ったままであったことに照らせば,その状況を見た被告人Cが転落可能性に気付くことは不可能であったと たことに加えて,当初パレット上に積まれた15箱の段ボール箱はほぼ荷崩れを起こさずに,パレット上に載ったままであったことに照らせば,その状況を見た被告人Cが転落可能性に気付くことは不可能であったと主張する。          確かに,本件突入事故発生直後,本件エレベーターの出入口は,ハンドリフトとそれに積み上げられた段ボールによって一見ふさがれているかのような状態であったと考えられ,その奥(昇降路側)に人が立ち入ることが容易に想定されたとはいえない。しかし,当裁判所の検証などによれば,段ボールの脇の隙間を人が通り抜けることがおよそ不可能であったとはいえず(弁護人も,物理的に不可能であったとまでは主張していない。)。 その際,大きな荷崩れを起こすことなく通り抜けることがあり得ないともいえない。加えて,前記のとおり,被告人Cは,段ボール箱の引き出し作業を行い,その際転落の危険を身をもって感じたという事情がある。こうしたことからすれば,上記も,転落可能性の予見を不可能とする事情とはいえない。          もとより,被告人Cにとって,その予見が容易であったとはいえないが,搬器がないのに外扉が開き,昇降路内にハンドリフトが突入しているという異常かつ重大な事態に直面していたことに照らすと,作業に当たっていた従業員の安否については,小さな可能性も含めて慎重に検討することが求められたというべきであり,そうした慎重さがあれば,転落可能性に気付くことはなお可能であったというべきである。    イまた,弁護人は,被告人Cとほぼ同じ状況を目撃したG,H,Dのいずれもが,転落可能性について,当時は思いもよらなかったと供述していることを指摘し,これは,被告人Cが転落可能性に気付くことが不可能であったこ 弁護人は,被告人Cとほぼ同じ状況を目撃したG,H,Dのいずれもが,転落可能性について,当時は思いもよらなかったと供述していることを指摘し,これは,被告人Cが転落可能性に気付くことが不可能であったことの裏付けである旨主張する。この点,GとDについては,ハンドリフト等が搬器に突入している状況を見たのは一瞬のことであるし,間近で注意深く観察したわけでもないから,被告人Cと同列に考えることはできないが,Hについては,被告人Cとほぼ同様の状況を認識していたと認められる。そして,そのHが転落可能性に気付かなかったとの事情は,被告人Cにおいても転落可能性に気付くことが容易ではなかったことを示唆する。また,HとGは,被告人Cと同様に,ハンドリフトを操作していた従業員は,他の従業員に助けを求めるために現場を離れたのであろうと推測した旨供述しており,当時の状況からすれば,当該従業員が現場にいない理由について,そのように推測することが比較的自然なことであったと評価できる(それが転落可能性に気付くことを阻んだ一つの要因になったと考えられる。)。しかし他方,当該従業員が他の従業員を呼びに行ったことを積極的に推測させる事情があったわけではないから,慎重さをもって検討していれば,従業員が誰かを呼びに行ったのではなく,段ボール箱の落下を防ごうとしたり,段ボール箱を引き出そうとして昇降路内に転落した可能性にも思い至ることが不可能であったとはいえない。Hらが被告人Cと同様に転落可能性に気付くことができなかったとの事情も,先に示した判断を左右しない。 結果の回避可能性      これまでに検討したとおり,被告人Cは,転落可能性に気付くことが可能であったと認められる。したがって,その状況下で1階に停止中の搬器を上昇させれば,転落して 果の回避可能性      これまでに検討したとおり,被告人Cは,転落可能性に気付くことが可能であったと認められる。したがって,その状況下で1階に停止中の搬器を上昇させれば,転落している従業員が死傷することを予見できたというべきであるから,被告人Cには,搬器を作動させる前に,昇降路内に転落している従業員の有無を慎重に確認すべき注意義務があったというべきである。具体的には,被告人Cは,例えば持っていたペンライトを用いて昇降路内の下方を照らすなどして昇降路内に従業員が落下していないかを慎重に確認すべきであった。それを行っていれば,その時点で搬器の上面にいた被害者を発見,救出することが可能であったと認められる。 結論以上のとおり,被告人Cには,搬器を作動させる前に,昇降路内に転落している従業員の有無を慎重に確認すべき注意義務があるのに,これを怠った過失があったと認められ,過失②による業務上過失致死罪が成立する。【法令の適用】 1 被告組合について      罰条              犯罪事実第1の1の行為  労働安全衛生法119条1号,20条1号,122条(同法42条,同法施行令13条3項17号,労働安全衛生規則27条,エレベーター構造規格30条1項1号,同項2号)        犯罪事実第1の2の行為  労働安全衛生法120条1号,45条1項,122条(同法施行令15条1項1号,13条3項17号,クレーン等安全規則155条1項)      併合罪の処理刑法45条前段,48条2項      訴訟費用          刑事訴訟法181条1項本文            併合罪の処理刑法45条前段,48条2項      訴訟費用          刑事訴訟法181条1項本文       2 被告人Bについて       罰条              犯罪事実第1の1の行為    労働安全衛生法119条1号,20条1号,122条(同法42条,同法施行令13条3項17号,労働安全衛生規則27条,エレベーター構造規格30条1項1号,同項2号)        犯罪事実第1の2の行為労働安全衛生法120条,45条1項,122条(同法施行令15条1項1号,13条3項17号,クレーン等安全規則155条1項)        犯罪事実第2の行為刑法211条1項前段      刑種の選択              犯罪事実第1の1の罪罰金刑を選択        犯罪事実第2の罪  禁錮刑を選択      併合罪の処理        刑法45条前段,48条1項,2項      労役場留置      刑法18条      刑の執行猶予               禁錮刑について刑法25条1項      訴訟費用          刑事訴訟法181条1項本文       3 被告人Cについて      罰条        犯罪事実第2の行為  刑法211条1   刑事訴訟法181条1項本文       3 被告人Cについて      罰条        犯罪事実第2の行為  刑法211条1項前段      刑種の選択          罰金刑を選択      労役場留置        刑法18条      訴訟費用          刑事訴訟法181条1項本文        【量刑の理由】 1 労働安全衛生法違反の罪について 被告人Bについて副工場長兼安全管理者として,工場内の危険を除去し,また,法令に従って定期点検を行うべき立場にあったにもかかわらず,本件エレベータについて法令上必要な整備,点検を行わずに放置していたものである。違法性の確定的認識まではなかったと認められる上,弁護人が指摘するとおり,被告人B自身が従業員の安全を殊更に軽視していたというよりも,経費節減を徹底しようとする理事長の強い意向を受け,支出を要する決裁の上申を行うことに萎縮しがちになっていたことが背景となっており,被告人Bだけを責めるのはいささか酷な面がある。ただ,被告人Bは,理事長に修理,点検等を具申し,決裁を求めることができた唯一の存在であったことを踏まえると,その職責を果たさずに本件の各違反を犯したことには相応の非難を向けるべきであり,主文程度の罰金刑に処すべきと判断した。 被告組合について姫路工場においては,かねてより労働災害が頻発し,労働基準監督署から度々指導を受けてきたにもかかわらず,被告組合のワンマン経営者である理事長は,姫路工場の安全体制の見直しを十分に行わず,また,被告人Bに対しては過 ては,かねてより労働災害が頻発し,労働基準監督署から度々指導を受けてきたにもかかわらず,被告組合のワンマン経営者である理事長は,姫路工場の安全体制の見直しを十分に行わず,また,被告人Bに対しては過度な経費の節減を強いて,その結果,組合内に安全軽視の風潮を蔓延させた。このことが本件の各違反を招来したとみるべきである。被告組合の監督責任は極めて重いといわざるを得ず,本件後,労働安全体制を改善する取組みがなされていることを考慮しても,法律上科し得る上限の額の罰金刑をもって臨むのが相当である。 2 業務上過失致死罪について 被告人Bについて被告人Bが安全管理者としての職責をなおざりにして本件エレベーターの不具合を放置したことが本件事故の根本原因であって,被害者遺族の処罰感情が厳しいのも当然である。搬器がないのに外扉が開く状態を放置すれば,従業員を重大な危険にさらすことは容易に予想できることであり,被告人Bの過失の程度は決して小さくない。理事長の経営姿勢から,被告人Bが安全対策を提言することに萎縮していた点について一定の同情の余地があることを踏まえても,主文程度の禁錮刑は免れない。他方で,被告人Bが自身の落ち度を認めて反省する態度を示すとともに,被害者遺族に合計185万円を支払って和解を成立させたことなどの事情を考慮し,禁錮刑の執行を猶予することとした。 被告人Cについて被告人Cの過失は,昇降路内の安全確認を怠って本件エレベーターを作動させたことにあるが,そのような安全確認は,エレベーターの通常の操作において求められる基本的手順ではなく,その落ち度は,あくまでも転落事故発生後という異常事態において,その対応に慎重さを欠いたというものにとどまる。加えて,先に検討したとおり,昇降路内に被害者が転落している可能性に 基本的手順ではなく,その落ち度は,あくまでも転落事故発生後という異常事態において,その対応に慎重さを欠いたというものにとどまる。加えて,先に検討したとおり,昇降路内に被害者が転落している可能性に気付くことを困難にさせる事情があったことも否定できない。したがって,被告人Cの過失の程度は相当小さいとみるべきであり,禁錮刑ではなく罰金刑を選択するのが相当である。罰金額については,被告人Cが真摯な反省の態度を示すとともに,被害者遺族に合計115万円を支払って和解を成立させたことをも併せて考慮し,主文の刑を科すこととした。        (求刑被告組合につき罰金100万円,被告人Bにつき禁錮1年及び罰金50万円,被告人Cにつき禁錮8月)    平成25年4月12日神戸地方裁判所第4刑事部                         裁判長裁判官丸田顕裁判官片田真志裁判官倉方ユリ

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