主文 1 控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人において,控訴人aに対しては金銭消費貸借契約に基づき,控訴人bに対しては連帯保証契約に基づき,それぞれ分割弁済の期限の利益を喪失したことを主張して,各自に残元本及び確定利息の合計688万5410円及びうち残元本686万3248円に対する期限の利益喪失の日の翌日である平成13年4月3日から支払済みまで年18パーセントの割合による約定損害金の支払を求めたところ,原審がこれを全部認容する判決を言い渡し,これに対して控訴人らが控訴した事案である。 2 前提事実(争いがない)(1) 被控訴人は,控訴人aに対し,平成元年6月9日,1000万円を次の約定により貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。 ① 最終弁済期日平成26年5月31日② 利息年5.7パーセント③ 弁済方法元利均等弁済の方法により,平成元年6月30日から最終弁済期日まで毎月末日に元利金6万2608円を支払う。 ④ 遅延損害金年18パーセント⑤ 期限の利益喪失約款債権保全を必要とする相当の事由があるときには被控訴人の請求により期限の利益を失う(以下「本件約款」という。)。 ⑥ 差引計算期限の到来又は期限の利益喪失により債務を履行しなくてはならない場合,被控訴人は主債務者である控訴人a及びその連帯保証人の被控訴人に対する預金等の債権につき期限のいかんにかかわらず相殺することができる。 (2) 控訴人 失により債務を履行しなくてはならない場合,被控訴人は主債務者である控訴人a及びその連帯保証人の被控訴人に対する預金等の債権につき期限のいかんにかかわらず相殺することができる。 (2) 控訴人bは,被控訴人に対し,平成元年6月9日,本件貸付債務を連帯保証した。 (3) 被控訴人は,控訴人らに対し,平成13年3月26日ころ到達の同月23日付け書面をもって,本件貸付債務の返済について,同月30日までに被控訴人が引き続き控訴人aの返済口座から返済金を引き落とすことを承諾する旨の連絡がないときは,本件約款に基づく請求により,同年4月2日限り期限の利益を喪失させる旨を通知した。 (4) なお,控訴人らは,夫婦である。 3 当事者の主張(1) 控訴人らの主張① 本件約款の効力本件約款は,次のとおり無効である。 ア本件約款は,債権者である被控訴人が債務者である控訴人らの資力が悪化するなどの「債権保全を必要とする相当の事由」という漠然として客観的に確定し得ない事実を条件とするものであるので,消費者である控訴人らの利益を不当に害するから,消費者契約法10条の直接適用又は同条の準用ないし類推適用により無効である。 なお,消費者契約法10条は,現行民法では必ずしも無効とされない契約条項について,これを無効とする旨規定した条項である。 イ本件約款は,消費者の法律上の権利を合理的な理由なくして制限するものであるので,消費者契約法の趣旨を踏まえると,民法1条2項により無効である。 ② 期限の利益喪失の有無仮に,本件約款が有効であるとしても,次の事情があるので,「債権保全を必要とする相当の事由」は存在しないから,被控訴人が主張する期限の利益喪失は認められない。 ア被控訴人は 有無仮に,本件約款が有効であるとしても,次の事情があるので,「債権保全を必要とする相当の事由」は存在しないから,被控訴人が主張する期限の利益喪失は認められない。 ア被控訴人は,控訴人らに対し,平成11年9月7日,控訴人らが本件借入金の返済を1度も怠ったことがないにもかかわらず,追加担保を要求し,この要求に応じない場合には,本件貸付にかかる金銭消費貸借契約を破棄し,本件貸付の残債務約750万円の一括返済を請求することになるとともに,強制的な手段を取らざるを得ない旨を通告した。 イ上記アの追加担保の要求については,銀行取引約定上も控訴人らに義務のないものであって,何らの法的根拠がないものであるから,これは被控訴人の控訴人らに対する脅迫行為である。 ウ控訴人bが被控訴人に対し,分割弁済に応じないものと受けとめられるような言動をしたとしても,これは,上記アの追加担保の要求を発端とするトラブルに基づいて,控訴人らと被控訴人との間で本件貸付を白紙撤回するかどうかについての交渉がなされていた際のやりとりにすぎないものである。 エ控訴人aが被控訴人に対し,平成13年3月,100万円を返済口座に預け入れ,控訴人らには返済能力があることを示した。 ③ 弁済の提供の有無ア控訴人aは,被控訴人に対し,平成13年3月,100万円を返済口座に預け入れた上,これから本件貸付債務の弁済に充てることを認めた。 イしたがって,控訴人aの被控訴人に対する弁済の提供があるので,本件約款の適用が排除される。 ④ 信義則違反の有無仮に,本件約款の「債権保全を必要とする相当の事由」が存在するとしても,次の事情があるので,被控訴人が控訴人らの期限の利益喪失を請求することは信義則に反し許されない ④ 信義則違反の有無仮に,本件約款の「債権保全を必要とする相当の事由」が存在するとしても,次の事情があるので,被控訴人が控訴人らの期限の利益喪失を請求することは信義則に反し許されない。 ア上記②アないしエと同旨。 イしたがって,本件約款により期限の利益喪失を請求した被控訴人の対応は,契約関係における信義則上の信頼関係を害するものであるので,行き過ぎであり許されない。 ⑤ 権利濫用の有無仮に,本件約款の「債権保全を必要とする相当の事由」が存在するとしても,次の事情があるので,被控訴人が控訴人らの期限の利益喪失を請求することは権利の濫用に当たるから許されない。 ア上記②アないしエと同旨。 イしたがって,本件約款により期限の利益喪失を請求した被控訴人の対応は,債権者としての正当な権利の行使の範囲を超えており許されない。 ⑥ 契約解除ア被控訴人による上記②ア及びイの不当な追加担保の要求は,金銭消費貸借契約上の信義則違反である。 イ控訴人らは,被控訴人に対し,信義則違反による債務不履行を理由に,当審の本件第1回口頭弁論期日である平成14年8月22日において,本件貸付にかかる消費貸借契約を解除する旨の意思表示をした。 ⑦ 相殺ア控訴人らは,被控訴人による上記②ア及びイの理不尽な追加担保の要求によって精神的に動揺し,打撃を受けた。 イ控訴人らの精神的苦痛を慰謝するためには,それぞれ50万円が相当である。 ウ控訴人らは,被控訴人に対し,当審の本件第1回口頭弁論期日である平成14年8月22日において,不法行為損害賠償(慰謝料)請求権をもって,被控訴人の本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。 (2) 被控 ,当審の本件第1回口頭弁論期日である平成14年8月22日において,不法行為損害賠償(慰謝料)請求権をもって,被控訴人の本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。 (2) 被控訴人の主張① 本件約款の効力ア平成13年4月1日施行にかかる消費者契約法は,法適用における不遡及の原則に基づき,その施行後に締結された消費者契約についてのみ適用されるから,平成元年6月9日成立の本件貸付にかかる本件約款の効力には影響を来さない。 イ本件約款の「債権保全を必要とする相当の事由」については,債務者との信頼関係が破壊され,将来正常な弁済の期待ができない合理的な理由がある場合に解釈適用されるものであって,当事者の合意として客観的合理性があり,本件貸付についても有効に適用される。 ② 期限の利益喪失の有無次の事情があるので,被控訴人は,控訴人らに「債権保全を必要とする相当の事由」が存在するものとしてその期限の利益喪失を請求したものである。 ア被控訴人が控訴人らに対して追加担保の要求をし,この追加担保がない場合には(一括返済を求めるということも含めて)強制的な手段を取らざるを得ないことにもなる旨を説明したが,これはいずれも銀行取引約定書に明記されている事柄である。 イ控訴人bは,被控訴人に対し,控訴人aの本件貸付債務について,(ア) 控訴人aの借入金1000万円を被控訴人に返却すること,(イ) 貸付時(平成元年6月9日)から平成13年2月28日までに返済した元利合計890万5940円を(ア)から相殺すること,(ウ) この相殺残金109万4060円から控訴人らが被控訴人から被った慰謝料100万円を相殺すること,(エ) したがって,相殺後の残金9万4060円を被控訴人に支払うことを (ア)から相殺すること,(ウ) この相殺残金109万4060円から控訴人らが被控訴人から被った慰謝料100万円を相殺すること,(エ) したがって,相殺後の残金9万4060円を被控訴人に支払うことをそれぞれ記載した同年3月13日付け「申入書」及び同月15日付け「aの賃借契約清算明細書」と各題する書面を送付した。 ウ被控訴人福山支店の次長cは,控訴人bに対し,平成13年3月26日,控訴人aから返済口座へ預け入れられた100万円の趣旨を確認するため,電話により「この3月末の借入金の返済はどうされるんでしょうか。」と問い質したところ,控訴人bは,「銀行へは入っている。あんたとこの口座に入っているがね。(もっとも)おれは3月15日付けで決済しておりあんたの所とは貸し借りはないはずや。だから書面も返してもらって,担保も外してもらい,ちゃんとしてもらわねば困る。」「あんたらは好きにすればいい。決済が済んでいるのにあんたらが,勝手に取るということは,人のものを黙って取るのと同じことなんだ。」と回答(甲8)した。 エ控訴人bは,平成13年3月27日,被控訴人福山支店を訪れた上,c次長に対し,「この口座には100万円入れている。いっぺんたりともこの問題で取ってみろただでは済まさんぞ。お前らに払うために,泥みたいなやつらのためにおれはお金を入れているわけではない。その口座から取ってみろただでは済まさんぞ。」と発言した。 オその後被控訴人福山支店行員らにおいて控訴人らに対し,複数回にわたり弁済の翻意を求めたが,控訴人らはこれに応じなかった。 カ上記アないしオにより,控訴人らが被控訴人に対する今後の弁済を一切拒絶する強固な意思を表明したことは明白であり,今後の弁済についての控訴人らと被控訴人との間の信頼関係が完全に破壊され 。 カ上記アないしオにより,控訴人らが被控訴人に対する今後の弁済を一切拒絶する強固な意思を表明したことは明白であり,今後の弁済についての控訴人らと被控訴人との間の信頼関係が完全に破壊された。 ③ 弁済の提供の有無控訴人aが被控訴人に対し,平成13年3月,100万円を返済口座に預け入れたが,控訴人らにおいては本件貸付債務への引き落としを拒絶していたので,弁済の提供には当たらない。 ④ 信義則違反の有無次の事情があるので,被控訴人が控訴人らの期限の利益喪失を請求したことは信義則に反しない。 ア上記②アないしカと同旨。 イしたがって,被控訴人には何ら違法不当な点はない。 ⑤ 権利濫用の有無次の事情があるので,被控訴人が控訴人らの期限の利益喪失を請求したことは権利の濫用には当たらない。 ア上記②アないしカと同旨。 イしたがって,被控訴人には何ら違法不当な点はない。 ⑥ 解除控訴人らの解除の主張は,その前提を欠いているので,それ自体失当である。 ⑦ 相殺控訴人らの相殺の主張は,控訴人らに不法行為損害賠償(慰謝料)請求権が発生しないので,相殺の対象となる自働債権が存在しないから理由がない。 第3 証拠原審の書証目録及び証人等目録並びに当審の書証目録に記載のとおりであるから,ここにこれを引用する。 第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は,以下のとおりいずれも正当としてこれを認容すべきものであると判断する。 (1) 本件約款の有効性① 控訴人らは,ア本件約款が「債権保全を必要とする相当の事由」という漠然として客観的に確定し得ない事実を条件とするものであるので,消費者であ あると判断する。 (1) 本件約款の有効性① 控訴人らは,ア本件約款が「債権保全を必要とする相当の事由」という漠然として客観的に確定し得ない事実を条件とするものであるので,消費者である控訴人らの利益を不当に害するから,消費者契約法10条の直接適用又は同条の準用ないし類推適用により無効であること,イ本件約款が消費者の法律上の権利を合理的な理由なくして制限するものであるので,消費者契約法の趣旨を踏まえると,民法1条2項により無効であることを理由として,控訴人らが本件約款によっては期限の利益を喪失しないと主張する。 ② しかし,消費者契約法の附則によると,平成13年4月1日施行にかかる消費者契約法は,その施行前の消費者契約については適用されないことが明らかである。 のみならず,当事者において債務者の期限の利益喪失にかかる合意をすることは契約自由の原則上有効であるというべきであるから(最高裁判所昭和39年(オ)第155号同45年6月24日判決・民集24巻6号587頁参照),消費者契約法の趣旨や民法1条2項に照らしても,本件約款の効力を否定することはできないものというべきである。 そして,証拠(甲1)によると,本件貸付にかかる金銭消費貸借契約証書(甲1)の第5条(期限の利益の喪失)は,第1項において所定の要件があれば通知催告等がなくても当然に債務者の期限の利益喪失が生じることを定めているが,更に第2項においては下記のとおり定め,所定の要件があれば債権者の請求によって債務者の期限の利益喪失が生じることを規定していることが認められる。 記次の各場合において,債権保全を必要とする相当の事由があるときには,貴行の請求によって貴行に対するいっさいの債務の期限の利益を失い,直ちに債務を弁済します。 とが認められる。 記次の各場合において,債権保全を必要とする相当の事由があるときには,貴行の請求によって貴行に対するいっさいの債務の期限の利益を失い,直ちに債務を弁済します。 (1) 借主が債務の一部でも履行を遅滞したとき。 (2) 担保の目的物について,差押または競売手続の開始があったとき。 (3) 貴行の請求する担保,もしくは増担保の差し入れ,あるいは保証人の追加を怠ったとき,その他借主が貴行とのいっさいの取引約定の一にでも違反したとき。 (4) 手形交換所(これに準ずる施設を含む)の不渡報告があったとき。 (5) 貴行に対する預金,積金を貴行の承諾なく,他に譲渡,もしくは質入したとき。 (6) 貴行の承諾なく担保物を処分し,または物件,賃借権を設定し,もしくはこれが保全に必要な行為を怠ったとき。 (7) 死亡,その他一身上の変動を生じたとき。 (8) 刑事上の訴追を受けたとき。 (9) 借主または保証人の振出,裏書,引受,参加引受または保証にかかる手形,小切手で貴行の所持するものの関係人,または借主の保証する本人が,前項各号または本項各号の一にでも該当したとき。 (10) 保証人が前項各号または本項各号の一にでも該当したとき。 (11) 前各号のほか,債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき。 ③ 上記認定事実にかんがみると,本件約款(上記(11))は,上記(1)から(10)に列挙した具体的事由に準ずる客観的にみて債権保全の客観的必要性があるとき,すなわち債務者の信用度がかなり低下し,本件貸付債権回収を弁済期到来まで待つことを債権者である被控訴人に期待することが社会通念上無理であるときに,被控訴人に期限の利益喪失形成権が発生することを規定 ,すなわち債務者の信用度がかなり低下し,本件貸付債権回収を弁済期到来まで待つことを債権者である被控訴人に期待することが社会通念上無理であるときに,被控訴人に期限の利益喪失形成権が発生することを規定したものと解するのが相当である。 そうすると,本件約款については,控訴人らに不当な不利益を強いるものではなく,また法律関係を不当に混乱させるものでもないから,有効なものというべきである。 したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。 (2) 期限の利益喪失の有無① 被控訴人は,控訴人らに「債権保全を必要とする相当の事由」が存在するものとして,本件約款に基づいて適法にその期限の利益喪失を請求したものであると主張する。 これに対し控訴人らは,ア被控訴人が控訴人らに対し,平成11年9月7日,控訴人らが本件借入金の返済を1度も怠ったことがないにもかかわらず,追加担保を要求し,この要求に応じない場合には本件貸付にかかる金銭消費貸借契約を破棄し,本件貸付の残債務約750万円の一括返済を請求することになるとともに,強制的な手段を取らざるを得ない旨を通告したこと,イ上記追加担保の要求は,銀行取引約定上も控訴人らに義務のないものであって,何らの法的根拠もないものであるから,被控訴人の控訴人らに対する脅迫行為であること,ウ控訴人bが分割弁済に応じないものと受けとめられるような言動をしたとしても,上記追加担保の要求を発端とするトラブルに基づき,控訴人らと被控訴人との間で本件貸付を白紙撤回するかどうかについての交渉がなされていた際のものにすぎないこと,エ控訴人aが被控訴人に対し,平成13年3月,100万円を返済口座に預け入れたので,控訴人らには返済能力があったことを理由として,「債権保全を必要とする相当の事 されていた際のものにすぎないこと,エ控訴人aが被控訴人に対し,平成13年3月,100万円を返済口座に預け入れたので,控訴人らには返済能力があったことを理由として,「債権保全を必要とする相当の事由」は存在しないから,被控訴人が主張する期限の利益の喪失は認められないと主張する。 ② 上記前提事実に加えて,証拠(甲1,3,4,5ないし7の各1及び2,8,9,10の1,10の4の1の1及び2,10の4の2,10の4の3の1ないし3,10の4の4ないし6,10の4の7の1及び2,10の4の8,10の4の9,10の4の10の1及び2,10の4の11ないし15,10の4の16の1ないし3,10の4の17の1及び2,10の4の18,10の4の30ないし32,10の4の33の1及び2,10の4の34ないし40,10の4の41及び42の各1及び2,10の4の43の1ないし5,10の4の44,10の4の45の1及び2,10の4の46,乙1ないし3,原審証人c,原審の控訴人b)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 ア被控訴人福山支店は,控訴人aに対し,下記土地(以下「本件土地」という。)の購入資金として本件貸付をした。 記福山市m町字np番雑種地 421㎡福山市m町字oq番s雑種地 23㎡福山市m町字or番t雑種地 128㎡イ控訴人aは,本件貸付の主債務者(借主)として,また控訴人bは,その連帯保証人として,それぞれ金銭消費貸借契約証書(甲1)に署名押印したが,同契約証書の第4条(担保)の第1項には「債権保全を必要とする相当の事由が生じたときは,請求によって直ちに貴行の承認する担保もしくは増担保を差し入れ,または保証人を立て,または )に署名押印したが,同契約証書の第4条(担保)の第1項には「債権保全を必要とする相当の事由が生じたときは,請求によって直ちに貴行の承認する担保もしくは増担保を差し入れ,または保証人を立て,またはこれを追加します。」と定められている。 ウ控訴人aは,被控訴人に対し,平成元年6月9日,本件土地について,本件貸付債務を被担保債務とする抵当権を設定したが,同設定契約証(甲10の4の1の2)の第3条(抵当物件の保全)には「1 抵当権設定者は,書面によって貴行に対し特に申し出たものをのぞき,抵当物件のうえに貴行の抵当権に影響をおよぼす権利が存在していないことを確約しました。2 抵当権設定者は,抵当物件につき,貴行の書面による承諾がなければ譲渡行為,物権的負担もしくは債権的負担を生ぜしめる行為または原状を変更する行為をしません。」と,また同第4条(補償金等の譲渡)第1項には「抵当物件につき滅失,毀損または公用徴収その他抵当権に影響を生じる事実が発生した場合,その他重大な変化を生じ,または生じるおそれのあるときは,抵当権設定者は直ちに貴行にその旨を通知します。」と定められている。 エ控訴人bが代表取締役として経営するd株式会社は,被控訴人福山支店から,平成2年11月7日,事務所兼倉庫建築資金として1000万円を借り入れた上,本件土地上に建物を建築したが(以下「本件建物」という。),平成6年1月14日,同借入金を完済した。 オ d株式会社は,被控訴人福山支店から,平成9年5月30日,運転資金として1000万円を借り入れたが,平成11年9月ころ,経営不振となったため,控訴人bにおいて被控訴人に対し,その個人資産を売却して一括返済をすることを条件にd株式会社による約定返済の猶予を申し出た。 カこれに対し,被控訴人福山支店 9月ころ,経営不振となったため,控訴人bにおいて被控訴人に対し,その個人資産を売却して一括返済をすることを条件にd株式会社による約定返済の猶予を申し出た。 カこれに対し,被控訴人福山支店の融資担当者は,控訴人らの個人資産を再調査したところ,控訴人aから上記抵当権設定契約証(甲10の4の1の2)の第4条第1項に基づく本件建物に関する通知がなかったため,本件貸付の担保として本件建物の提供を受けていないことが判明したことから,平成11年9月上旬,控訴人らに対し,上記金銭消費貸借契約証書(甲1)の第4条及び抵当権設定契約証(甲10の4の1の2)の第3条に基づき,その追加担保として本件建物の提供を求めるとともに(以下「本件追加担保の要求」という。),これに応じないときは,本件貸付債務につき一括返済請求を含めて強制的な手段を取らざるを得ないことになる旨を説明した。 キその後,d株式会社は,被控訴人福山支店に対し,上記約定返済の猶予の申出を撤回し,平成11年12月6日までにその債務を完済した。 クところで,控訴人らは,被控訴人福山支店に対し,平成11年12月15日付け書面(甲10の4の7の2)をもって,本件追加担保の要求については,被控訴人福山支店の融資担当者において本件建物が完成した平成2年にこれをすることができたはずであり,現在ではすでに10年が経過していることに加えて,本件貸付債務につき一括返済請求を含めて強制的な手段を取る旨の説明が控訴人らに対する脅迫的要求であるとして抗議をした。 ケ被控訴人福山支店のe支店長代理は,控訴人bに対し,平成11年12月20日,本件追加担保の要求は正当であるが,その説明には担当行員の不適切な表現があったとして謝罪した。 コしかし,控訴人bは,控訴人aの代理人として, 理は,控訴人bに対し,平成11年12月20日,本件追加担保の要求は正当であるが,その説明には担当行員の不適切な表現があったとして謝罪した。 コしかし,控訴人bは,控訴人aの代理人として,被控訴人福山支店に対し,「私は不当な要求を受けた日から支店長代理に謝罪されるまでの間に理不尽な要求を受け入れ,追加担保に建物を入れるべきか,一括返済をするとなれば資金を確保出来るかなど,大変な精神的苦痛のなかで,辛うじて一括返済出来る資金を確保することが出来たが,その為に受けた経済的損失も又甚大であった。」などと記載した平成12年1月11日付け書面(甲10の4の10の1)を送付した。 サこのため被控訴人福山支店のf副支店長及びe支店長代理は,控訴人らに対し,平成12年1月13日,上記抵当権設定契約証(甲10の4の1の2)の第3条等に基づき,その追加担保として本件建物の提供を求めていることを説明したところ,控訴人bにおいては,本件追加担保の要求の約定は理解したものの,本件貸付債務の一括返済請求を含めて強制的手段を取るとした点の説明については納得しなかった。 シその後,被控訴人福山支店の行員と控訴人bとの間で度々話し合いが行われ,控訴人bは,被控訴人の謝罪を要求するとともに被控訴人に対する損害賠償の請求をほのめかしていたが,平成12年2月15日,被控訴人に対して,控訴人ら側が作成,準備した「被控訴人福山支店は追加担保不当請求によって多大な迷惑をかけたことでその弁済処置案の提示を求める件で,その提示された内容がいかなるものであろうと検討課題として受け入れるものであり,それ以外他意なきことを約束します。」旨の被控訴人福山支店副支店長名の「誓約書」(甲10の4の17の2)に調印するよう要求するなどした。被控訴人は,控訴人ら側の要求は不 題として受け入れるものであり,それ以外他意なきことを約束します。」旨の被控訴人福山支店副支店長名の「誓約書」(甲10の4の17の2)に調印するよう要求するなどした。被控訴人は,控訴人ら側の要求は不当なものであるとしてこれに応じることを拒否した。ところが,同月25日,控訴人bから被控訴人福山支店に対して問題の解決を他の者に委任した旨の電話があり,その後の同年4月17日,控訴人bから委任を受けたと言って右翼団体政治結社gの者が被控訴人福山支店を訪れ,「常識ある回答をj氏にしてほしい。1週間待って何の進展も見られないならば抗議文を持って来る。市民の皆さんに被控訴人はこんなことをしているということを岡山,福山で聞いてもらう。岡山にh協議会の支部があり一緒に行動を起こす。」などと発言したが,被控訴人福山支店は控訴人らの件については第三者とは交渉しない旨回答した。しかし,その後も,上記gの者が被控訴人福山支店を訪れて「抗議文を持って来る。その後すぐ運動に入る。玄関でみんなのおる前で大きい声でバッという。戦闘服を着て入って来る。」などと言ったり,g名で被控訴人福山支店に「誠意ある対応をしない場合には,広く世論へ訴える目的で街宣運動を展開する用意がある。」などの内容の申入書(甲10の4の24の1ないし3)を送付するなどした。 ス控訴人bは,被控訴人福山支店のi支店長及びc次長に対し,平成12年7月13日,上記コの平成12年1月11日付け書面(甲10の4の10の1)に対して書面で回答すること,控訴人らに対するお詫びの文書を提出することを求めた。 セこのため被控訴人福山支店のi支店長ら5名は,控訴人らに対し,平成12年8月1日,本件追加担保の要求交渉の際の被控訴人福山支店行員による説明に不適切な点があったことについて口頭で謝罪したが, セこのため被控訴人福山支店のi支店長ら5名は,控訴人らに対し,平成12年8月1日,本件追加担保の要求交渉の際の被控訴人福山支店行員による説明に不適切な点があったことについて口頭で謝罪したが,控訴人らはこれに納得しなかった。 ソ控訴人bは,被控訴人福山支店に対し,平成12年8月21日付け書面(甲10の4の33の1)をもって,「aに対する脅迫的に追加担保を強要されたことに起因するトラブルにつき」「誠意ある謝罪と償い」を求める旨を申し入れた。 タ上記i支店長及びc次長は,控訴人bに対し,平成12年11月13日,再度本件追加担保の要求交渉の際の被控訴人福山支店行員による説明に不適切な点があったことについて口頭で謝罪するとともに,上記追加担保についても通常に返済されている限り,強力にお願いすることはない旨を説明したが,控訴人bはこれに納得しなかった。 チ控訴人bは,被控訴人福山支店に対し,「1 本件貸借契約日(平成1年6月9日)にさかのぼり,契約を白紙撤回し,金銭的にすべて清算すること。 2 トラブル発生から1年6ケ月にも及ぶ期間に受けた精神的苦痛,及び経済的損失等々に対する慰謝料金100万円也を支払うこと。」と記載した平成13年3月13日付け申入書(甲3,10の4の39)を提出した。 ツ次いで控訴人bは,被控訴人福山支店に対し,「Aaの借入金1000万円也を返却する。B 平成1年6月9日から平成13年2月28日までの間に返済した元利合計金額金890万5940円也をAから相殺する。C 相殺残金109万4060円から慰謝料100万円を相殺する。D 慰謝料相殺残金9万4060円也を返却する。」旨を記載した平成13年3月15日付け「aの賃借契約清算明細書」と題する書面(甲4,10の4の41の1)及び額面9万 円から慰謝料100万円を相殺する。D 慰謝料相殺残金9万4060円也を返却する。」旨を記載した平成13年3月15日付け「aの賃借契約清算明細書」と題する書面(甲4,10の4の41の1)及び額面9万4060円の普通為替証書(郵政省同月15日発行。甲10の4の41の2)を送付した。 テこれに対して被控訴人福山支店は,控訴人bの上記チ及びツの申入れは受け入れがたいとして,直ちに上記普通為替証書を返送したものの,控訴人bから受取りを拒否されたため,平成13年3月23日,広島法務局福山支局に9万4060円を供託するに至った。 ト上記i支店長は,控訴人らに対し,平成13年3月26日ころ到達の同月23日付け書面をもって,本件貸付債務の返済について,同月30日までに被控訴人が引き続き控訴人aの返済口座から返済金を引き落とすことを承諾する旨の連絡がないときは,本件約款に基づく請求により,同年4月2日限り期限の利益を喪失させる旨を通知した。 ナまた,c次長は,控訴人bに対し,平成13年3月26日,電話をもって,控訴人bの上記チ及びツの申入れは受け入れられないこと並びに9万4060円を供託したことを説明するとともに,控訴人aから返済口座へ預け入れられた100万円の趣旨を確認するため,「この3月末の借入金の返済はどうされるんでしょうか。」と問い質したところ,控訴人bは,「銀行へは入っている。あんたとこの口座に入っているがね。おれは3月15日付けで決済しておりあんたの所とは貸し借りはないはずや。だから書面も返してもらって,担保も外してもらい,ちゃんとしてもらわねば困る。」「あんたらは好きにすればいい。決済が済んでいるのにあんたらが,勝手に取るということは,人の物を黙って取るのと同じことなんだ。」と返答をした。 ニ控訴人bは ちゃんとしてもらわねば困る。」「あんたらは好きにすればいい。決済が済んでいるのにあんたらが,勝手に取るということは,人の物を黙って取るのと同じことなんだ。」と返答をした。 ニ控訴人bは,平成13年3月27日,被控訴人福山支店を訪れた上,i支店長及びc次長に対し,「この口座には100万円入れている。いっぺんたりともこの問題で取ってみろただでは済まさんぞ。お前らに払うために,泥みたいなやつらのためにおれはお金を入れているわけではない。その口座から取ってみろただでは済まさんぞ。」と発言するとともに,「迷惑になるのなら,営業妨害でも何でもやればいい。」などと怒号した。そのため,他の顧客の迷惑になると考えた被控訴人福山支店行員が警察署へ通報し,控訴人bは,駆け付けた警察官により同支店外に連れ出された。 ヌその後控訴人bは,平成13年3月28日,再度被控訴人福山支店を訪れた上,i支店長及びc次長に対し,「貸し借りの債務はない。」「貸し借り契約書を返してもらいたい。」などと要求したが,同支店長らは,本件貸付債務の弁済が未了であるとしてこれに応じなかった。 ネ控訴人らにおいて被控訴人が引き続き控訴人aの返済口座から返済金を引き落とすことを承諾する旨の連絡をしなかったため,上記トの催告期限である平成13年3月30日が経過した。 ノなお,被控訴人は,この間に控訴人bが被控訴人に対してとった言動は,被控訴人並びにその役員及び従業員に対して面会又は架電をする等の方法で違法,不当に交渉を要求するなどして被控訴人の業務を妨害する危険性のあるものであるとして,これを理由に,平成13年4月3日,控訴人bを債務者として,広島地方裁判所福山支部に,「控訴人bは,自ら若しくは控訴人bの従業員又は第三者をして,被控訴人の役員及び従業員 性のあるものであるとして,これを理由に,平成13年4月3日,控訴人bを債務者として,広島地方裁判所福山支部に,「控訴人bは,自ら若しくは控訴人bの従業員又は第三者をして,被控訴人の役員及び従業員に対し面会又は架電を強要する方法で被控訴人の業務の遂行を妨害する一切の行為をしてはならない。」旨の仮処分命令を求める申立てをし,同年5月28日,同裁判所同支部によるこれを認める仮処分命令を得た。 以上認定の事実を総合し,本件約款の適用について判断すると,控訴人らが被控訴人に対し,本件貸付債務の弁済を今後一切しないとの意思を表明し,上記i支店長の催告期限である平成13年3月30日までに被控訴人において引き続き控訴人aの返済口座から返済金を引き落とすことを承諾する旨の連絡をしなかったものであるから,客観的にみて本件貸付債権保全の客観的必要性があることは明らかであって,本件貸付債権を弁済期到来まで待つことを債権者である被控訴人に期待することは社会通念上無理であると認められるから,上記の状況は,本件約款の「債権保全を必要とする相当な事由が生じたとき」に該当するものというべきである。 したがって,被控訴人には本件約款に基づく期限の利益喪失形成権が認められるから,これの行使により控訴人らが本件貸付債務につき期限の利益を喪失しているものというべきである。 (3) 弁済の提供の有無控訴人らは控訴人aが弁済の提供をしたので,本件約款の適用が排除されると主張する。 確かに,控訴人aが被控訴人に対し,平成13年3月,100万円を返済口座に預け入れた事実は,当事者間に争いがない。 しかし,上記(2)②の認定事実によれば,控訴人らにおいては被控訴人による上記返済口座から本件貸付債務への引き落としを拒絶していることは明ら 済口座に預け入れた事実は,当事者間に争いがない。 しかし,上記(2)②の認定事実によれば,控訴人らにおいては被控訴人による上記返済口座から本件貸付債務への引き落としを拒絶していることは明らかであるから,弁済の提供には当たらないものというべきである。 したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。 (4) 信義則違反の有無控訴人らは,本件約款により期限の利益を喪失させた被控訴人の対応は行き過ぎであるので,契約関係における信頼関係を害しているから,被控訴人が控訴人らの期限の利益の喪失をさせることは信義則に違反し許されないと主張する。 しかしながら,上記(2)のとおり被控訴人が控訴人らに対し,本件約款により期限の利益の喪失請求をしたのは正当であって,信義則に反するものではないというべきであるから,控訴人らの上記主張を採用することができない。 (5) 権利濫用の有無控訴人らは,本件約款により期限の利益を喪失させた被控訴人の対応は正当な権利の行使の範囲を超えているので権利の濫用に当たるから許されないと主張する。 しかしながら,上記(2)のとおり被控訴人が控訴人らに対し,本件約款により期限の利益の喪失請求をしたのは適法というべきであるから,控訴人らの上記主張を採用することができない。 (6) 解除控訴人らは,被控訴人による不当な本件追加担保の要求が金銭消費貸借契約上の信義則違反であることを理由に,本件貸付にかかる消費貸借契約を解除する旨の意思表示をしたと主張する。 しかし,上記(2)②の認定事実にかんがみると,被控訴人による本件追加担保の要求は違法不当なものと断定することはできないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており理由がない。 したがって,控訴人 上記(2)②の認定事実にかんがみると,被控訴人による本件追加担保の要求は違法不当なものと断定することはできないから,控訴人らの上記主張はその前提を欠いており理由がない。 したがって,控訴人らの解除の主張は失当である。 (7) 相殺控訴人らは,被控訴人による理不尽な本件追加担保の要求によって精神的に動揺し,打撃を受けたとして,当該不法行為損害賠償(慰謝料)請求権をもって,被控訴人の本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたと主張する。 しかしながら,上記(2)②の認定事実にかんがみると,被控訴人による本件追加担保の要求が違法不当なものと断定することはできないから,控訴人ら主張にかかる自働債権を認定することができない。 したがって,控訴人らの相殺の主張は失当である。 (8) まとめ以上によると,控訴人らは,被控訴人に対し,各自残元本及び確定利息の合計688万5410円及びうち残元本686万3248円に対する期限の利益喪失の日の翌日である平成13年4月3日から支払済みまで年18パーセントの割合による約定損害金の支払義務があるものというべきである。 2 よって,原判決は相当であり,控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第4部裁判長裁判官竹中省吾裁判官廣永伸行裁判官河野清孝
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