平成30(行ウ)26 公文書部分開示決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年8月27日 京都地方裁判所 その他
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判決文本文16,481 文字)

主文 1 城陽市教育委員会が平成30年3月5日付けで原告に対してした公文書部分開示決定のうち,別紙記載の各開示しない部分を不開示とした部分を取り消す。 2 城陽市教育委員会は,原告に対し,前項の公文書部分開示決定に係る公 文書のうち別紙記載の各開示しない部分を開示せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,城陽市情報公開条例(平成14年3月29日条例第8号。 以下「本件条例」という。)に基づき,実施機関(本件条例2条1号)である城陽市教育委員会に対し,その保有する公文書(判決書正本)の開示請求をし たところ,平成30年3月5日付けで,同委員会から,一部を非開示とし,その余の部分を開示する旨の一部開示決定を受けたため,同決定のうち別紙記載の各開示しない部分を不開示とした部分の取消し(行政事件訴訟法3条2項)を求めるとともに,同開示しない部分の開示の義務付けを求める(同条6項2号)事案である。 2 本件条例の定め(ただし,関係部分のみの抜粋)(甲3) 5条(開示請求権)何人も,実施機関に対し,当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる。 7条(公文書の開示義務) 実施機関は,開示請求があった場合は,開示請求に係る公文書に次の各号 に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されているときを除き,請求者に対し,当該公文書を開示しなければならない。 2号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,個人が特定され得るもの(他の情報と照合することにより,個人が 特定され得るもの 開示しなければならない。 2号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,個人が特定され得るもの(他の情報と照合することにより,個人が 特定され得るものを含む。)のうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの又は個人を特定され得ないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ア法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予 定されている情報イ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報ウ 〔省略〕3号 法人その他の団体(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの。 ただし,次に掲げる情報を除く。 ア人の生命又は健康に危害を及ぼすおそれのある事業活動に関する情報イ人の生活又は財産に対して重大な影響を及ぼす違法又は著しく不当な事業活動に関する情報5号市の機関又は国等が行う事務又は事業に関する情報であって,公にする ことにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事 務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものイ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国又は地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ 3 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等) 原告は,平成30年2月16日, 産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ 3 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等) 原告は,平成30年2月16日,本件条例に基づき,実施機関(本件条例2条1号。以下,本件条例の条項を摘示する際には,条例名を省略する。)である城陽市教育委員会(以下「委員会」という。)に対し,「東城陽ふれあいスポーツ広場訴訟判決文」を公文書の件名として,京都地方裁判所平成27年(ワ)第1784号土地明渡等請求事件(以下「別件訴訟」という。) の第1審判決書正本(平成30年2月14日判決言渡し。以下「本件対象文書」という。)の開示を請求した(以下,当該請求を「本件開示請求」という。)(甲1,2)。 別件訴訟は,城陽市が設置する「東城陽ふれあいスポーツ広場」の敷地の一部である土地(以下「別件土地」という。)の所有者兼賃貸人が原告(以 下「別件原告」という。)となり,賃借人である城陽市を被告として,別件土地の明渡し等を求めた事案である。別件訴訟では,争点である有益費(被告が行った工事等による別件土地の価値増加額)の金額の立証のため,当事者双方から,それぞれ2通の不動産鑑定評価書(以下「鑑定書」という。)が提出されていた(甲1,2)。 委員会は,本件開示請求について,平成30年3月5日付けで,本件対象文書のうち一部を開示する旨の部分開示決定(29城文第564号。以下「本件部分開示決定」という。)を行い,同月9日,原告に対し,城陽市公文書部分開示決定通知書(甲1)とともに,非開示部分を墨塗りにした本件対象文書の写しを原告に交付した(甲1,2)。 本件部分開示決定により開示しないものとされた部分(ただし,そのうち 本件訴訟で原告が取消しを求 ともに,非開示部分を墨塗りにした本件対象文書の写しを原告に交付した(甲1,2)。 本件部分開示決定により開示しないものとされた部分(ただし,そのうち 本件訴訟で原告が取消しを求める部分に限る。)及び開示しない理由は,別紙のとおりである。 別紙記載の各開示しない部分に係る情報は,それぞれ以下のとおりである。 (甲1,2,乙2から5まで)ア別紙記載の番号1の不開示情報(以下「不開示情報1」という。) 「原告の不動産の価値増加額」であり,具体的には,別件訴訟で証拠として採用された2通の鑑定書(別件訴訟の甲9号証及び甲10号証。以下,それぞれ「別件甲9」「別件甲10」のようにいう。)について,別件甲10の鑑定評価額から別件甲9の鑑定評価額を差し引いた額が記載されている部分である。 イ別紙記載の番号2の不開示情報(以下「不開示情報2」という。)「事務所所属の不動産鑑定士の氏名」であり,別件甲9及び別件甲10の作成者であるB並びに別件乙21及び別件乙22(いずれも鑑定書)の作成者であるDの氏名又は氏が記載されている部分である。 ウ別紙記載の番号3の不開示情報(以下「不開示情報3」という。) 「原告の鑑定内容」であり,具体的には,別件甲9及び別件甲10の鑑定内容が引用されている部分である。 原告は,平成30年9月7日,本件部分開示決定のうち,別紙記載の各開示しない部分を不開示とした部分の取消しを求めて本件訴えを提起した(顕著な事実)。 4 争点及び当事者の主張本件の争点は,①本件部分開示決定の適法性(別紙記載の各開示しない部分がそれぞれ本件条例の定める不開示情報に該当するか否か)及び②同開示しない部分の開示義務付けの可否である。 本件部 本件の争点は,①本件部分開示決定の適法性(別紙記載の各開示しない部分がそれぞれ本件条例の定める不開示情報に該当するか否か)及び②同開示しない部分の開示義務付けの可否である。 本件部分開示決定の適法性 ア不開示情報1(原告の不動産の価値増加額)関係 (被告の主張)7条3号該当性別件甲9及び別件甲10は,A社に所属する不動産鑑定士Bが作成したものであるが,A社は「法人」,Bは「事業を営む個人」にそれぞれ該当し(7条3号),鑑定書は,不動産鑑定士がその専門的知識と経験 に基づき不動産の価格を評価し,評価の前提事実,評価の過程,評価の結論等を記載するものであって,全体として著作物に当たる。別件甲9及び別件甲10において,依頼者以外の鑑定評価額の開示先及び鑑定評価額の公表の有無についていずれも「無」と記載され,後日鑑定書を公表する場合には事前に鑑定事務所であるA社及び担当鑑定士Bの承諾 を得る必要がある旨の記載がある事実に照らすと,A社及びBが別件甲9及び別件甲10の著作権を有していると推定され,A社及びBは,別件甲9及び別件甲10の内容を無断で引用・公表されない権利がある。 それにもかかわらず,不開示情報1を開示すれば,A社及びBの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」(7条3号)があると いえるから,不開示情報に該当する。また,不開示情報1は7条3号ただし書きのア及びイには該当しない。 原告は,別件原告が提出した鑑定書は,裁判所に証拠として提出された後閲覧され,これを引用した裁判例が公刊物に掲載されることもあり得ることなどを理由に不開示情報1を開示してもA社及びBの正当な 利益を害することはない旨主張するが,訴訟記録の閲覧は制限され得ること,利害関係 を引用した裁判例が公刊物に掲載されることもあり得ることなどを理由に不開示情報1を開示してもA社及びBの正当な 利益を害することはない旨主張するが,訴訟記録の閲覧は制限され得ること,利害関係のない第三者には訴訟記録の謄写が認められていないこと,裁判例の中で公刊されるものはわずかであることに照らすと,原告が主張する点をもってはA社及びBの権利利益侵害の可能性を否定する根拠にはならない。また,不開示情報1が開示されることにより原告 が受ける利益と開示によりA社及びBが被る不利益とを比較衡量して も,前者を後者より優先すべき理由はない。 したがって,不開示情報1は7条3号に該当する。 7条5号該当性本件対象文書は,別件原告が被告に対して提起した別件訴訟の判決書であるから,当該判決書の記載内容は,「市の機関が行う事務又は事業 に関する情報」(7条5号柱書)に当たる。 そして,別件甲9及び別件甲10には,第三者に開示等する場合には,事前にA社及びBの承諾を得る必要がある旨の記載があるところ,仮にA社及びBが,判決書への引用により鑑定書の内容が公表されることを予定していたのであればそのような記載はしなかったであろうから,A 社及びBは,別件原告に対し,鑑定書の内容が無断で第三者に公表されることを明確に拒否していたと考えられる。それにもかかわらず,被告がA社及びBに無断で不開示情報1を含む判決書を開示した場合には,A社及びBが別件原告に抗議し,それによって別件原告が被告に対し悪感情を抱くなど新たな問題を生ずるおそれがある。他方,被告が不開示 情報1を第三者に開示するためにA社やBの承諾を求める協議を行えば,別件原告が被告に対し不信感や悪感情を抱くおそれがあり,そうなれば控訴審に係属中の別件訴訟における ある。他方,被告が不開示 情報1を第三者に開示するためにA社やBの承諾を求める協議を行えば,別件原告が被告に対し不信感や悪感情を抱くおそれがあり,そうなれば控訴審に係属中の別件訴訟における和解協議や別件原告と被告との間の別件土地をめぐる契約関係に支障を来たすおそれが高い。 また,不開示情報1を開示することによる利益よりも,開示されるこ とによる不利益の方が大きい。 したがって,不開示情報1を開示することにより,「契約又は争訟に係る事務に関し,地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」(7条5号イ)があり,不開示情報1は7条5号に該当する。 (原告の主張) 7条3号に該当しないこと不開示情報1は,別件原告の主張として,別件土地の価値増加額である金額のみが記載されており,当該金額が示されたからといって不動産鑑定士の技術上のノウハウが明らかになるものではない。 別件甲9及び別件甲10は,いずれも,裁判手続において証拠として 提出されることが当初から予定されたものであり,判決中で引用されることも当然の前提となっていた。裁判は公開され,訴訟記録は閲覧できることが明らかであるし,公刊物に裁判例として掲載されることも想定されていたから,不開示情報1のような判決における鑑定書の引用部分について,A社及びBの著作権は及ばない。したがって,A社及びBの 著作権を侵害する旨の被告の主張は理由がない。 被告は,閲覧制限の制度があることを指摘するが,同制度により公開を制限する決定がされていない限り,裁判所において何らの制限なく閲覧できるのであるから,当該制度によって,すべての訴訟記録の公開が制限されるということはできない。また,被告が,訴訟記録の謄写は利 制限する決定がされていない限り,裁判所において何らの制限なく閲覧できるのであるから,当該制度によって,すべての訴訟記録の公開が制限されるということはできない。また,被告が,訴訟記録の謄写は利 害関係のない第三者に認められないと指摘する点も,情報公開条例では閲覧と写しの交付で区別を設けておらず,謄写に関する規定のみをもって情報公開についてまで制限的に解することは適当ではない。さらに,公刊物に掲載される裁判例がごく一部であるとの主張については,ごく一部であっても,掲載される可能性があることに変わりはない。 被告が,原告が開示により受ける利益とA社及びBが被る不利益との比較衡量について主張する点も,被告の自らの主観に基づく一方的なものにすぎないし,本件対象文書が既に民間事業者が運営する裁判例掲載サービスに掲載され,公開されていることに照らすとA社及びBが開示により被る不利益はほとんどない。 したがって,不開示情報1は7条3号に該当しない。 7条5号に該当しないこと不開示情報1は判決の一部であり,鑑定書そのものではないこと,判決において鑑定書の内容が引用されるなどし,公になることは当初から想定されていたといえることから,不開示情報1を開示するためにA社及びBの承諾を得る必要はない。仮に,A社又はBにより,判決書にお いてその内容が引用されることも禁じられていたのであれば,別件訴訟において,民事訴訟法92条の手続がとられていたはずであるが,実際にはそのような手続もとられていない。したがって,A社及びBの承諾を得る必要があることを前提として,別件原告と被告との間の信頼関係が悪化する旨の被告の主張は理由がない。さらに,実際に別件原告が開 示を求めていないなど,個別事情の立証は何らない 及びBの承諾を得る必要があることを前提として,別件原告と被告との間の信頼関係が悪化する旨の被告の主張は理由がない。さらに,実際に別件原告が開 示を求めていないなど,個別事情の立証は何らない。 加えて,本件対象文書は,民間事業者が運営する裁判例掲載サービスに掲載されており,不開示情報1は既に公開されている。 したがって,不開示情報1は7条5号に該当しない。 イ不開示情報2(事務所所属の不動産鑑定士の氏名)関係 (被告の主張)7条2号該当性不開示情報2は不動産鑑定士であるB及びDの氏名であるところ,これらは所属する法人等に関する情報であるとともに,構成員個人の「個人に関する情報」(7条2号本文)であり,不動産鑑定士であるという 情報と組み合わせると個人を特定できることから「個人が特定され得るもの」(7条2号本文)に当たる。別件訴訟は市民の関心が高く,その判決書の内容も報道されたところ,BやDの氏名が,別件訴訟で被告となっている市と対立する原告に協力した鑑定士として,又は別件訴訟で市に協力した鑑定士として公表されれば,BやDが市民による批判の対 象となったり,SNS等を通じて名誉や信用が害されたりするおそれが あるから,BやDの氏名は「通常他人に知られたくないと望むことが正当と認められるもの」(7条2号本文)に該当する。また,BやDの氏名は,7条2号ただし書きの列挙事由には該当しない。 また,B及びDのプライバシー権よりも不開示情報2を開示することによる利益を優先すべき理由は見当たらない。 したがって,不開示情報2は7条2号に該当する。 7条3号該当性BやDの氏名は所属する「法人その他の団体に関する情報」(7条3号)に該当し,また,「事業を営む個人の当該 い。 したがって,不開示情報2は7条2号に該当する。 7条3号該当性BやDの氏名は所属する「法人その他の団体に関する情報」(7条3号)に該当し,また,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」(7条3号)に該当するところ,公表によってDについては市に協力した鑑 定士として批判の対象となったり,信用が低下したりするおそれが,Bについては裁判所に採用されなかった鑑定士というレッテルを貼られ,信用や評判が低下するおそれがあることから,「公にすることにより,当該法人又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」(7条3号)に該当する。 また,BやDの権利や利益よりも,不開示情報2を開示することによる利益を優先すべき理由は見当たらない。 したがって,不開示情報2は7条3号に該当する。 (原告の主張)7条2号に該当しないこと 被告はBやDの氏名が個人に関する情報であると主張するが,不動産鑑定士という資格を有する者が,不動産鑑定評価という業務のために作成し,不動産鑑定士という肩書とともに氏名を記載していることに鑑みても,BやDは,「事業を営む個人」に該当することが明らかであり,個人に関する情報(7条2号本文)から除外され,これには当たらない。 仮に個人に関する情報に当たるとしても,不動産鑑定士の氏名は,専 ら個人の資格で事業活動に従事する専門職の当該職務に関する情報であるから,「通常他人に知られたくないと望むことが正当である」情報には該当しない。 したがって,いずれにしても,不開示情報2は7条2号に該当しない。 7条3号に該当しないこと 7条3号該当性に関し,被告はDやDの所属するC事務所が批判や攻撃の対象となるお 。 したがって,いずれにしても,不開示情報2は7条2号に該当しない。 7条3号に該当しないこと 7条3号該当性に関し,被告はDやDの所属するC事務所が批判や攻撃の対象となるおそれを指摘するが,不動産鑑定士がその専門である不動産の鑑定評価を行い作成した意見書について,批判や検証を受けることは甘受すべきことであり,「正当な利益を害する」ことにはならない。 通常の批判や検証以上に,Dの生命身体に危害が加えられるおそれがあ るなどの特別の事情があれば別であるが,本件においてそのような事情は認められない。 また,7条3号該当性に関し,被告は,Bの鑑定結果が採用されなかったことから,Bやその所属するA社の信用や評判が低下し,業務に支障を来たすおそれがあると主張する。しかしながら,前記同様に,業務の 結果について批判や評価を受けることは甘受すべきであるし,裁判資料として提出されることが前提となっていたのであるから,公開の法廷で氏名が明らかになることも了承していたはずである。その他,7条3号該当性を認め得るような具体的事情は認められない。 したがって,不開示情報2は7条3号に該当しない。 ウ不開示情報3(原告の鑑定内容)関係(被告の主張) 7条3号該当性不開示情報3は,別件甲9及び別件甲10の鑑定内容が詳細に引用されている部分を指す。 鑑定書が著作物に当たり,A社及びBがその著作権者として,別件甲 9及び別件甲10の内容を無断で引用・公表されない権利があること,それにもかかわらず,別件甲9及び別件甲10の内容が詳細に引用された不開示情報3を開示すれば,A社及びBの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」(7条 用・公表されない権利があること,それにもかかわらず,別件甲9及び別件甲10の内容が詳細に引用された不開示情報3を開示すれば,A社及びBの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」(7条3号)があることは前記ア被告の主張のとおりである。 また,不開示情報3が開示されることにより原告が受ける利益とA社及びBが被る不利益とを比較すると,前者を後者より優先すべき理由は見当たらない。 したがって,不開示情報3は7条3号に該当する。 7条5号該当性 本件対象文書の記載内容が「市の機関が行う事務又は事業に関する情報」(7条5号柱書)に当たること,被告がA社及びBに無断で不開示情報3を含む判決書を開示しても,被告が不開示情報3を第三者に開示するためにA社及びBの承諾を求める協議を行っても,別件原告に被告に対する不信感や悪感情を生じさせるおそれがあり,控訴審に係属中の 別件訴訟における和解協議や別件原告と被告との間の別件土地をめぐる契約関係に支障を来たすおそれが高いことは前記ア被告の主張のとおりである。 したがって,不開示情報3を開示することにより,「契約又は争訟に係る事務に関し,地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位 を不当に害するおそれ」(7条5号イ)がある。 また,不開示情報3が開示されることによる利益よりも,開示されることにより生じる不利益の方が大きいといえる。 したがって,不開示情報3は7条5号に該当する。 (原告の主張) 7条3号に該当しないこと 不開示情報3は,鑑定書そのものが記載されているのではなく,判決において,別件原告の主張の一環として鑑定書の内容に言及している 告の主張) 7条3号に該当しないこと 不開示情報3は,鑑定書そのものが記載されているのではなく,判決において,別件原告の主張の一環として鑑定書の内容に言及しているにすぎない。不開示情報3のような判決における鑑定書の引用部分について,A社及びBの著作権が及ばないことは前記ア原告の主張のとおりである。したがって,A社及びBの著作権を侵害する旨の被告の主張は 理由がなく,不開示情報3は7条3号に該当しない。 7条5号に該当しないこと判決の一部であり,鑑定書そのものではない不開示情報3についてA社及びBの承諾を得る必要はなく,その必要性を前提として,別件原告と被告との間の信頼関係が悪化するとする被告の主張は理由がないこ とは前記ア原告の主張のとおりである。さらに,実際に別件原告が開示を求めていないなど,個別事情の立証は何らない。 したがって,不開示情報3は7条5号に該当しない。 開示義務付けの可否(原告の主張) 本件部分開示決定は違法であり,取り消されるべきものであるから,原告は被告に対し,不開示部分を開示するよう義務付けることを求めることができる。 (被告の主張)本件部分開示決定が適法である以上,本件訴えのうち,義務付けに係る部 分は行政事件訴訟法37条の3第1項に定める訴訟要件を欠き,却下されるべきものである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実 が認められる。 別件訴訟の内容ア別件訴訟は,別件土地を城陽市に賃貸した別件原告が,同市を被告として,別件土地に係る賃貸借契約の終了を主張して別件土地の明渡し が認められる。 別件訴訟の内容ア別件訴訟は,別件土地を城陽市に賃貸した別件原告が,同市を被告として,別件土地に係る賃貸借契約の終了を主張して別件土地の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めた事案である(甲2)。 イ別件訴訟では,別件土地賃貸借契約終了の有無のほか,被告の留置権の 有無,すなわち,被告が別件土地にグラウンドを整備するため資金を投じて測量や工事を実施したことにより別件土地の価値が増加し,被告が別件原告に対する有益費償還請求権を取得したか否か及びその額が争点となった(甲2)。 各鑑定書 ア有益費償還請求権の有無及び額に関する立証のため,別件原告は,A社に所属する不動産鑑定士Bが作成した鑑定書2通(価格時点を平成20年4月1日とするもの〔別件甲9〕及び価格時点を平成27年10月1日とするもの〔別件甲10〕)を提出した。他方,被告は,C事務所に所属する不動産鑑定士Dが作成した鑑定書2通(価格時点を平成20年4月1日 とするもの〔別件乙21〕及び価格時点を平成27年10月1日とするもの〔別件乙22〕)を提出した。(甲2,乙2から5まで)イ別件甲9及び別件甲10には,「鑑定評価の依頼目的」欄に「平成27年(ワ)1784号土地明渡請求事件の参考資料として」と記載され,「依頼者以外の提出先等」として以下の記載がされていた(乙2,3)。 依頼者以外の提出先:有(上記訴訟の相手方,京都地方裁判所等)依頼者以外への鑑定評価額の開示先:無鑑定評価額の公表の有無:無後日,本鑑定書の依頼者以外の提出先若しくは開示先が広がる場合,又は公表する場合には,当該提出若しくは開示又は公表の前に当社あて 文書を交付して当社及び本鑑定評価 定評価額の公表の有無:無後日,本鑑定書の依頼者以外の提出先若しくは開示先が広がる場合,又は公表する場合には,当該提出若しくは開示又は公表の前に当社あて 文書を交付して当社及び本鑑定評価の担当不動産鑑定士の承諾を得る 必要がある。 別件訴訟の判決等ア別件訴訟において,第1審裁判所は,平成30年2月14日,被告に対し,別件原告から有益費4163万円の支払を受けるのと引換えに別件土地を別件原告に明け渡すよう命じることなどを内容とする判決(以下「別 件判決」という。)を言い渡した(甲2)。 イ別件判決は,その理由中で,平成20年4月1日時点における別件土地の最有効使用に関して,別件乙21の意見が別件甲9の意見に比してより合理的であること,平成27年10月1日時点における別件土地の価格について,別件乙22の意見が信用できるのに対し,別件甲10の意見はそ のまま採用することができないことなどを判示している(甲2)。 ウ別件判決に対しては,控訴が提起され,現在控訴審に係属している(争いがない)。 別件判決の言渡し後,同判決の内容が複数の新聞に掲載され,報道された(乙7の1,2,乙8)。 また,同判決は,民間事業者が運営する裁判例掲載サービスにも個人名が仮名処理された上で掲載された(甲8)。 2 本件処分の適法性について不開示情報1についてア 7条3号該当性について 不開示情報1は,別件土地の価値増加額についての別件原告の主張として,別件甲10の鑑定評価額から別件甲9の鑑定評価額を引いた差額が記載された部分である。 被告は,不開示情報1について,A社及びBの著作物であると主張するが,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したもので 10の鑑定評価額から別件甲9の鑑定評価額を引いた差額が記載された部分である。 被告は,不開示情報1について,A社及びBの著作物であると主張するが,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸, 学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいうところ(著作権法2条1項 1号),2件の鑑定評価額の単なる差額を記載した部分が上記にいう著作物に該当するとは認められない。 また,別件甲9及び別件甲10について,後日鑑定書を公表する場合には事前にA社及びBの承諾を得る必要がある旨の記載があるとしても(上記1),単なる差額の記載にすぎない不開示情報1の開示が鑑定書の 公表に当たるとはいえないし,これを開示することにより,A社及びBの何らかの正当な利益を害するおそれがあるとも認められない。その他,不開示情報1の開示により,A社及びBの正当な利益を害するおそれがあると認め得る事情はない。 なお,被告は,不開示情報1を開示することにより原告が受ける利益と, 開示によりA社又はBが被る不利益とを比較衡量し,前者を後者より優先すべき理由がないとも主張するが,上記のとおり,不開示情報1の開示により,A社又はBが具体的な不利益を被るおそれがあるとは認められないから,被告の上記主張は,採用することができない。 したがって,不開示情報1を開示することにより,A社及びBの「権利, 競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」があるとはいえないから,不開示情報1が7条3号の不開示情報に該当するとの被告の主張は理由がない。 イ 7条5号該当性について被告は,A社及びBの事前の承諾を得ることなく不開示情報1を開示す るにしても,A社及びBの事前の承諾を得るにしても,別件原告が被告に対し不信感又は イ 7条5号該当性について被告は,A社及びBの事前の承諾を得ることなく不開示情報1を開示す るにしても,A社及びBの事前の承諾を得るにしても,別件原告が被告に対し不信感又は悪感情を抱くおそれがあるなどとして,不開示情報1は7条5号イに該当すると主張する。 しかしながら,不開示情報1の内容は,前記のとおり,単なる2通の鑑定評価書の差額にすぎないところ,別件甲9及び別件甲10は,その差額 の立証のために別件原告が裁判所に書証として提出することを目的として 作成されたものであるから,A社及びBを含む関係者らにおいて,当該差額が原告の主張として又は理由中の判断として判決書に引用されることは当然に予定していたはずである。そうすると,開示請求に応じて判決書正本が開示される際,不開示情報1の内容が判決書の一部として開示の対象に含まれることにつき改めてA社及びBの承諾を得る必要があるとは解さ れず,それをしなかったことによってA社及びBないし別件原告が被告に対し不信感又は悪感情を抱く合理的な理由も見出しがたい。 また,アに判示したとおり,不開示情報1を含む判決書の開示は鑑定書そのものの開示ではないから,別件甲9及び別件甲10に,第三者に開示等する場合には,事前にA社及びBの承諾を得る必要がある旨の記載があ ることは,上記判断に影響を及ぼさない。よって,A社及びBの承諾を得る必要があることを前提とする被告の主張は理由がなく,その他,不開示情報1を開示することにより,被告の事務に何らかの支障が生じるおそれがあると認めることはできない。 したがって,不開示情報1を開示することにより,被告の「財産上の利 益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるとはいえない 支障が生じるおそれがあると認めることはできない。 したがって,不開示情報1を開示することにより,被告の「財産上の利 益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるとはいえないから,不開示情報1が7条5号イに該当するとする被告の主張は理由がない。 不開示情報2についてア 7条2号該当性について 不開示情報2は,別件甲9及び別件甲10の作 成者である不動産鑑定士B並びに別件乙21及び別件乙22の作成者である不動産鑑定士Dの氏名であるところ,被告は,不開示情報2が7条2号本文の個人情報に該当すると主張する。 しかしながら,7条2号本文にいう「個人に関する情報」からは,事業を営む個人の当該事業に関する情報を除くとされているところ,不開示情 報2は,不動産鑑定士の資格を有するB及びDが,業務として依頼を受け て作成した鑑定書について,その所属する会社や事務所名とともに,不動産鑑定士の肩書の下,当該鑑定書の作成名義人としてその氏名を記載した部分であると認められる。そうすると,不開示情報2は,事業を営む個人の当該事業に関する情報の一部と解するのが相当であるから,7条2号本文の個人情報には該当しない。 また,仮に,不開示情報2が「個人に関する情報」に該当すると解したとしても,B及びDは,その作成に係る各鑑定書が裁判所に証拠として提出される予定であることを認識した上で,不動産鑑定士の肩書を付してその氏名を記載したものであるから,訴訟記録上その氏名が明らかにされることも,当該事件の判決書で各鑑定書がその作成者の氏名とともに引用さ れることも当然想定していたはずであるところ,それを防止するような措置は一切とられていない。このことに照らしても,鑑定 れることも,当該事件の判決書で各鑑定書がその作成者の氏名とともに引用さ れることも当然想定していたはずであるところ,それを防止するような措置は一切とられていない。このことに照らしても,鑑定書作成者としてのB及びDの氏名が「通常他人に知られたくないと望むことが正当である」情報に該当するということはできない。 なお,被告は,B及びDのプライバシー権よりも不開示情報2を開示す ることによる利益を優先すべき理由は見当たらないと主張するが,本件において,BやDの氏名を記載した不開示情報2がプライバシーとして保護すべき情報に当たるといえないことは上記のとおりであるから,被告の上記主張は,失当である。 したがって,不開示情報2が7条2号に該当するとする被告の主張は, 理由がない。 イ 7条3号該当性について被告は,B及びDの氏名は「事業を営む個人の当該事業に関する情報」(7条3号)に該当するところ,これらを公表することにより,Dについては,被告側に協力した鑑定士として批判の対象になり信用が低下するお それがあり,Bについては,裁判所に採用されなかった鑑定士として信用 や評判が低下するおそれがあるから,「公にすることにより,当該法人又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」と主張する。 しかしながら,別件判決の理由中で,別件乙21及び別件乙22(いずれも作成者D)の鑑定評価が採用され,別件甲9及び別件甲10(いずれ も作成者B)の鑑定評価が採用されなかったと判示されたとしても,そのことによって直ちにBの信用が低下するなどと認めることはできないし,また,被告に協力したことによってDが批判を受けたりその信用が低下したりするおそれがあることを れなかったと判示されたとしても,そのことによって直ちにBの信用が低下するなどと認めることはできないし,また,被告に協力したことによってDが批判を受けたりその信用が低下したりするおそれがあることを窺わせる事情も認められない。そもそも,B及びDは,別件訴訟に証拠として提出する予定であることを認識した上で, そのための資料として,不動産鑑定士としての専門的知見を活かして鑑定評価を行ったものであるから,仮に,その評価内容について批判的な意見にさらされることがあったとしても,それが意見としての批判にとどまる限りは「正当な利益を害する」ものということはできない。そして,本件において,B及びDが,その氏名を公表されることにより,上記のような 意見ないし批判の範疇を超えて誹謗中傷や業務妨害を受けたり,生命や身体に危害を加えられたりするなどのおそれがあるといった事情は認められない。 したがって,不開示情報2が開示されることにより,B及びDの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」とは認められない から,不開示情報2が7条3号に該当するとの被告の主張は,理由がない。 不開示情報3についてア 7条3号該当性について不開示情報3は,裁判所の認定事実として別件甲9及び別件甲10の鑑定内容が引用されている部分である。 被告は,鑑定書が著作物に当たり,これが引用された判決書を開示する ことがA社又はBの著作権侵害に該当する旨主張する。 しかしながら,鑑定書そのものについては,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当する「その他の言語の著作物」(同法10条1項1号)として,作成者の著作権が及 思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当する「その他の言語の著作物」(同法10条1項1号)として,作成者の著作権が及ぶと解する余地があるとして も,不開示情報3は,裁判所が作成する別件判決の中で,証拠として提出された鑑定書(別件甲9及び別件甲10)の内容を判断に必要な範囲で引用しているにすぎないところ,裁判所の判決は著作権の目的とはならないとされている(同法13条3号)。そうすると,鑑定書自体は著作物であるとしても,それが証拠として提出され,裁判所が作成する判決中でその 判断の一部として引用される限りにおいては,著作権の目的とはならないと解するのが相当である。 したがって,不開示情報3の開示によって,A社又はBの著作権が侵害されるということはできない。また,前記のとおり,A社及びBは,別件訴訟に証拠として提出する予定であることを認識した上でそのための資料 として別件甲9及び別件甲10を作成したものであるから,別件判決において,証拠として採用された別件甲9及び別件甲10の内容が裁判官の判断資料とされ,判決書に証拠として引用されることは当然想定していたはずであること,一般に,判決書は,公共性,公益性を有する情報として広く報道されたり,裁判所のホームページや各種判例雑誌等を通じて公表さ れたりする場合があることなどに鑑みれば,別件判決の内容が情報公開等の手続を通じて開示されることに伴い,別件甲9及び別件甲10の鑑定書のうち判決中で引用された部分の内容が公にされることによって,鑑定書の作成者であるA社又はBの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」があるとは認め難く,他に上記のおそれが存在することを認 めるに足りる証拠 の内容が公にされることによって,鑑定書の作成者であるA社又はBの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」があるとは認め難く,他に上記のおそれが存在することを認 めるに足りる証拠はない。 したがって,不開示情報3が開示されることにより,A社又はBの「権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」とは認められないから,不開示情報3が7条3号に該当するとの被告の主張は,理由がない。 イ 7条5号該当性について 不開示情報3の開示に当たり,A社又はB若しくは別件原告の承諾を得る必要があるとは認められない。 そうすると,不開示情報3の開示に当たりA社及びB並びに別件原告の承諾を得る必要性があることを前提とする被告の主張は,理由がない。その他,不開示情報3を開示することにより,被告の「契約又は争訟に係る 事務に関し,地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,不開示情報3が7条5号に該当するとの被告の主張は,理由がない。 小括 以上によれば,不開示情報1から3までは,いずれも不開示情報に該当しないから,不開示情報に該当することを理由としてされた本件部分開示決定中,別紙記載の各開示しない部分を不開示とした処分は違法であり,取り消されるべきである。 3 開示義務付けの可否 上記のとおり,別紙記載の各開示しない部分を不開示とした処分は取り消されるべきものであるところ,城陽市教育委員会が,原告に対し,当該部分を開示する旨の決定をすべきであることは明らかであると認められる(行政事件訴訟法37条の3第5項)。 4 まとめ 以上によ のであるところ,城陽市教育委員会が,原告に対し,当該部分を開示する旨の決定をすべきであることは明らかであると認められる(行政事件訴訟法37条の3第5項)。 4 まとめ 以上によれば,原告の本件請求は,いずれも理由がある。 第4 結論 以上の次第で,原告の請求は理由があるから,これらをいずれも認容することとして,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官 増森珠美 裁判官 佐藤彩香 裁判官 牛島賢

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