令和5(わ)641 傷害致死等

裁判年月日・裁判所
令和6年9月19日 大阪地方裁判所
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判決文本文9,056 文字)

主文 被告人を懲役1年8月に処する。 未決勾留日数中480日をその刑に算入する。 本件公訴事実中傷害致死の点については、被告人は無罪。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、A(当時68歳)から現金を脅し取ろうと考え、令和4年10月29日午前11時56分頃から同日午前11時59分頃までの間、大阪市(以下略)において、歩いているAに近寄って、Aに対し、その右肩に自己の右肩をぶつけて、左手でその上着をつかんで押し倒し、その顔付近に複数回手等を当てるなどの暴行を加え、現金の交付を要求し、もしその要求に応じなければ、Aの身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示してAを怖がらせ、よって、その頃、同所において、Aから現金300円の交付を受けた。 【証拠の標目】(省略)【事実認定の補足説明】 1 判示事実についての争点は、恐喝行為の有無である。当裁判所は、判示のとおり恐喝行為が認められ、被告人に恐喝罪が成立すると判断したので、その理由を説明する。 2 防犯カメラの映像(甲51)から、商店街を歩いていた被告人が、向かいから歩いてくるAの方にわざわざ近寄っていき、その右肩に自己の右肩をぶつけ、左手でその上着をつかんでAを押し倒したことが確認できる。また、Aの供述や被告人の公判供述等によれば、このあとAが被告人に300円を手渡したことも明らかである。そして、Aが見ず知らずの被告人に自ら進んで現金を渡すとは考えられないことなどに照らすと、Aは被告人から要求されて現金を交付したものと認められる。さらに、Aは、被告人から倒された後、左頬を右の拳で2回殴られ たと供述している。この点、防犯カメラの映像からは、Aの前に立っている被告人がAの顔付近に手を複数回伸ばしている様子は確認できるが、実際に殴る様 被告人から倒された後、左頬を右の拳で2回殴られ たと供述している。この点、防犯カメラの映像からは、Aの前に立っている被告人がAの顔付近に手を複数回伸ばしている様子は確認できるが、実際に殴る様子までは確認できない。しかし、向かいの店舗の店先等から犯行の様子を目撃していたBは、被告人の伸ばした手がAの顔や頭付近に当たっていた旨の上記防犯カメラの映像と整合する証言をしている。また、Aがうそをつく理由は見当たらないところ、被告人の手が頬付近に当たったことを殴られたと表現した可能性等が考えられる。そうすると、証拠上、被告人がAの顔付近に手あるいは手に持っていたウイスキーのボトルを当てるなどしたことは認めることができる。 これに対し、被告人は、Aには酒代を無心しただけであるなどと供述するが、防犯カメラの映像から明らかな自身の行動と整合せず、信用できない。 以上によれば、被告人は、Aに対し、その右肩に自己の右肩をぶつけて、左手でその上着をつかんで押し倒し、その顔付近に複数回手等を当てるなどした上、現金の交付を要求したことが認められる。そして、被告人が身長約183cm、体重85kg(当時49歳)であったのに対して、Aは身長164cm、体重40kg(当時68歳)であったことからすると、上記暴行等の程度がAを怖がらせるに足るものであったことは明らかである。 3 よって、恐喝行為があったと認められ、被告人に恐喝罪が成立する。 【傷害致死の点につき無罪の理由】第1 公訴事実及び争点等 1 傷害致死の公訴事実(令和5年2月27日付け起訴状、令和6年1月18日付け訴因変更請求書による変更後のもの)は、「被告人は、令和4年11月1日午後2時11分頃から同日午後11時42分頃までの間に、大阪市(以下略)当時の被告人方において、C(当時60歳) 年1月18日付け訴因変更請求書による変更後のもの)は、「被告人は、令和4年11月1日午後2時11分頃から同日午後11時42分頃までの間に、大阪市(以下略)当時の被告人方において、C(当時60歳)に対し、拳骨でその顔面を殴打し、同殴打又は何らかの暴行を加えて同人の左後頭部を同所にあった卓上鏡の縁又は何らかの鈍体に打ち付けさせ、よって、同人に急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ、その頃、同所において、同人を前記傷害により死亡さ せた」というものである。 2 その争点は、Cが左後頭部を打ち付けたのは被告人の暴行によるものか、それに関連してCが顔面に傷害を負ったのは被告人の暴行によるものかである。 検察官は、1のとおりと主張するのに対し、弁護人は、被告人は、Cに何らの暴行を加えていないし、Cがてんかん発作や飲酒の影響により転倒して左後頭部を打ち付けた可能性がある旨主張する。 当裁判所は、傷害致死について、Cが左後頭部を打ち付けたのも、顔面に傷害を負ったのも、被告人の暴行によるものと認められず、被告人は無罪であると判断した。以下、その理由を説明する。 第2 当裁判所の判断 1 Cが左後頭部を打ち付けたのは被告人の暴行によるものかについて⑴ 死亡推定時刻と死因となる傷害の受傷時期令和4年11月1日午後11時42分頃(以下、年号の記載のない日付は令和4年のことを指す。)、被告人からの110番通報を受け、その7分後に被告人方に臨場した警察官が、その室内にCが倒れているのを発見した(甲46)。 解剖結果(甲48)によれば、Cは、解剖着手時刻である11月2日午前11時の時点で、死後およそ半日から1日程度が経過していたと認められる。 Cが、少なくとも11月1日午後2時11分時点では生きていたと確認できること(甲46)を踏まえ 解剖着手時刻である11月2日午前11時の時点で、死後およそ半日から1日程度が経過していたと認められる。 Cが、少なくとも11月1日午後2時11分時点では生きていたと確認できること(甲46)を踏まえると、Cは、11月1日午後2時11分頃から同日午後11時頃(遅くとも同日午後11時42分頃)までの間に死亡したことになる。 また、解剖結果によれば、Cは左後頭部への鈍体の打撲作用による急性硬膜下血腫により死亡したこと、Cの①左後頭部には挫創(以下「①頭の傷」という。)があることが認められる。そして、D医師の証言によると、①頭の傷は、死亡する30分から数時間前に、稜(角)のある鈍体により成傷さ れ、これと同一の作用によってCに急性硬膜下血腫が生じたことが認められる(なお、D医師は、解剖に関与しておらず、解剖担当医作成の鑑定書や解剖写真等に基づき意見を述べるものであるが、法医学の専門家であるD医師の証言に疑わしい点はなく、信用できる。)。 そうすると、Cが死因となる①頭の傷を受傷したのは、11月1日午後2時11分前頃から同日午後11時前頃までという相当幅のある間ということになる。 ⑵ ①頭の傷の受傷原因についてD医師の証言によると、Cの左右前頭極部に脳挫傷があることから、①頭の傷は、「よほどの勢い」で左後頭部をぶつけたことで生じたと考えられる。 そして、そのような場面としては、例えば、Cが顔の前面を殴られたり、後ろに突き飛ばされたりして、後方に転倒した場面等が想定される。 他方で、D医師の証言によると、Cが飲酒等の影響で受け身を全くとらずに立位から後方に転倒したような場合も、「よほどの勢い」に十分該当し得ると認められる。そして、解剖時のCの血液から中等度ないし強度酩酊状態と評価できる量のエタノールが検出されて で受け身を全くとらずに立位から後方に転倒したような場合も、「よほどの勢い」に十分該当し得ると認められる。そして、解剖時のCの血液から中等度ないし強度酩酊状態と評価できる量のエタノールが検出されており、死亡時頃のCは意識不明瞭や歩行不能(立位の保持が困難)などの症状を呈していた可能性がある。そうすると、Cが、飲酒による酩酊状態によって、立位の状態から、全く受け身をとらないで後方に自己転倒し、これが原因で①頭の傷(これに伴う脳挫傷)が生じた可能性があるといえる。 この点、Cの顔面には②右眼窩内部の皮下出血(以下「②目の傷」という。)が認められ、D医師によれば、これは他人の殴打行為により生じたと考えるのが自然であり、①頭の傷とほぼ同じ時期にできたと考えられるという。しかし、D医師によれば、ほぼ同じ時期とはいえ、30分から1時間程度の幅があり得るというのであり、②目の傷と①頭の傷とが連続して生じたといえるわけではないから、②目の傷があるからといって、①頭の傷が自己 転倒により生じたことが否定されるわけではない(そもそも②目の傷が被告人の暴行により生じたことに疑問があることは後述のとおり。)。また、Cには、右臀部の擦過性表皮剥脱も認められ、これは、D医師の証言から、後方転倒で尻もちをつく際によくできるものと考えられるが、同損傷はいつできたものか明らかではなく、Cが全く受け身をとらずに後方転倒した可能性は否定されない。 ⑶ ①頭の傷の受傷場所について11月3日、被告人方において実施された検証の時点で、床上に落ちていた鏡の表面、ベッド東側の床面、ベッドマットレスの南東角部分の3か所にCの血痕が付着していたが、それ以外の場所にCの血痕は付着していなかった(甲47)。このことは、①頭の傷が被告人方のベッド周辺において生じたことをうかが 床面、ベッドマットレスの南東角部分の3か所にCの血痕が付着していたが、それ以外の場所にCの血痕は付着していなかった(甲47)。このことは、①頭の傷が被告人方のベッド周辺において生じたことをうかがわせる事情といえる。 もっとも、上記の各血痕の付着時期が証拠上明らかではない上、D医師の証言によれば、Cは①頭の傷の受傷後に即死したということはなく、一定時間は動くことが可能であったというのであるから、①頭の傷が被告人方のベッド周辺で生じたと断じることはできない。また、①頭の傷の出血が多量でなかったと考えられることからすれば、他の場所に血痕がないからといって①頭の傷が他の場所で生じたものではないと断じることもできない。加えて、被告人方周辺の防犯カメラ映像等(甲46、職5)を前提にしても、Cが、①頭の傷の受傷時期である11月1日午後2時11分前頃から同日午後11時前頃までの間に被告人方から外出していた可能性を否定できない(被告人も、酒に酔っていたので詳細な時刻は不明であるが、その間にCが被告人方から出ていって戻ってきたことがあると供述している。)。確かに、被告人方で被告人と酒を飲んで過ごしていたCが、被告人をおいてわざわざ一人で外出するというのはあまり考え難いが、およそあり得ないといえるほどの根拠もない。そうすると、①頭の傷が被告人方の外において生じた可能性は否 定されない。 検察官は、被告人方のベッド東側の床上に、鏡台部分から鏡面が外れた卓上鏡(以下「本件卓上鏡」という。)が落ちていたことは、①頭の傷が被告人方のベッド周辺において生じたことと整合的である旨主張する。確かに、D医師は、①頭の傷について、本件卓上鏡の鏡面の縁部分で打撲して成傷されたとしておかしくないと証言する。しかし、D医師は、稜(角)のある鈍体であれば成傷器として説 と整合的である旨主張する。確かに、D医師は、①頭の傷について、本件卓上鏡の鏡面の縁部分で打撲して成傷されたとしておかしくないと証言する。しかし、D医師は、稜(角)のある鈍体であれば成傷器として説明が可能である旨証言している。また、Cの受傷時点において本件卓上鏡がどのような状態であったかは明らかとはいえない。 そうすると、本件卓上鏡が壊れていたとしても、これによって受傷した可能性があるというにとどまり、①頭の傷が被告人方のベッド周辺において生じたと断じる根拠とはならない。 ⑷ Eが聞いた声と音についてEは、被告人方隣の建物の喫煙所にいた11月1日午後5時50分頃、被告人方から、「こら」「おら」というような被告人の怒鳴り声が聞こえ、その後少ししてから、「どん」という響き渡るような大きな音が聞こえ、それから5分も経たないうちに、再度「どん」という大きな音が聞こえた旨証言する。Eにはうそをつく理由はない上、被告人の声を聴いたことがあり、声や音のする方向について十分に判別できると考えられる場所にいたことにも照らすと、その証言は信用できる。 しかし、証拠上、どのような経緯でこれらの声や音が発されたのかは不明といわざるを得ない。確かに、被告人がCに対し何らかの暴行に及んでいる際の声と音と見ることも可能ではあるが、それに限られるものでもなく、被告人の供述するようにCがラックを倒した際に鳴った大きな音である可能性や、Cが自己転倒した際の音である可能性など、それ以外の原因によって生じた声や音であるとしても十分に説明が可能である。 そうすると、同日午後6時頃に被告人方で発せられた被告人の声や物音は、 被告人がCに対して何らかの暴行に及んだことをうかがわせるものとはいえない。 ⑸ 被告人の捜査段階における供述について被告人は、11月 時頃に被告人方で発せられた被告人の声や物音は、 被告人がCに対して何らかの暴行に及んだことをうかがわせるものとはいえない。 ⑸ 被告人の捜査段階における供述について被告人は、11月7日に実施された傷害致死事件についての任意取調べにおいて、11月1日の深夜に、Cの言動に腹が立ち、お互いが中腰でつかみ合う状態になり、自分もCも後ろに倒れたところ、Cはすぐに起き上がってウイスキーを飲んでいたが、10分くらいして急に仰向けに倒れ反応がなくなった旨供述している(乙19)。 上記供述は、自分に不利益な事実も含むそれなりに具体的な内容であるし、D医師の証言とも整合的であって、真実を語っている部分があるようにも思われる。しかし、同供述は、別件(前記恐喝を強盗の被疑事実とするもの)での勾留中に行われた、傷害致死事件についての最初の取調べにおける供述であり、取調べ当日にCが死亡したことを知らされたとの状況からすると、被告人は取調べ当時、相当に動揺していた可能性がある。また、当該取調べに先立ってポリグラフ検査が実施されるなど、被告人が上記供述をするに至るまでの状況は証拠上明らかではない。そうすると、その取調べ時の状況が録音・録画されていたことを踏まえても、録音等の前に捜査官からCを殴ったのではないかなどと追及を受けていた被告人が、それを否定するために、わざとでないと強調しようと、それまでCとの間で起こった出来事などをつなぎ合わせ、場当たり的にうそを述べた可能性を否定できない。 以上によれば、被告人の上記供述をそのまま信用することはできないというべきである(もっとも、仮に、同供述を前提にするとしても、①頭の傷が生じたのは死亡する30分から数時間前であることからすると、被告人が供述するCの後方転倒とは別の機会に、Cが後方に自己転倒し というべきである(もっとも、仮に、同供述を前提にするとしても、①頭の傷が生じたのは死亡する30分から数時間前であることからすると、被告人が供述するCの後方転倒とは別の機会に、Cが後方に自己転倒し、これが原因で①頭の傷が生じた可能性も排斥できない。)。 ⑹ 被告人がCの転倒や①頭の傷に気付いた可能性について 検察官は、被告人が、Cが意識を失っていることに気付く直前まで、床上で自分とCの頭が隣り合う形で寝ていたなどと供述していることから、Cが自己転倒したとすると、被告人がこの自己転倒に気付かないことは考え難い旨主張する。しかし、前述のとおり、Cは①頭の傷の受傷後一定時間は動くことができたのであり、被告人が気付かない場所で自己転倒していた可能性が十分にある。また、被告人とCは、被告人方で一緒に飲酒しており、被告人もCと同程度の酩酊状態にあった可能性は排斥できず(なお、被告人に対する飲酒検知がされたか否かやその結果は証拠上不明である。)、被告人がCの自己転倒や①頭の傷の存在に気づかなかったとしても不自然ではない。 ⑺ 検討以上の諸事情を踏まえて、Cが左後頭部を打ち付けたのは被告人の暴行によるものかについて検討すると、Cの死因となった①頭の傷(これによる急性硬膜下血腫)は、Cの自己転倒で生じた可能性があるし、被告人方の外で生じたことも否定しきれない、すなわち、Cが飲酒等の影響により被告人方内あるいは外で自己転倒して成傷された可能性も、被告人方の外で被告人以外の者の暴行等によって成傷された可能性も、排斥できないというべきである。確かに、被告人がCの言動に腹を立てて顔面を殴打し、それによってCが尻もちをつくとともに後方に転倒して後頭部を本件卓上鏡に打ち付けて①頭の傷が生じ、その際に出血したという状況を想定すれば、前 ある。確かに、被告人がCの言動に腹を立てて顔面を殴打し、それによってCが尻もちをつくとともに後方に転倒して後頭部を本件卓上鏡に打ち付けて①頭の傷が生じ、その際に出血したという状況を想定すれば、前記の諸事情を整合的に説明できるとはいえるが、そのような状況があったと言い切れるほどの確かな証拠は見当たらない。 よって、Cが左後頭部を打ち付けたのは被告人の暴行によるものであると認めるには合理的な疑いが残る。 2 Cが顔面に傷害を負ったのは被告人の暴行によるものかについて⑴ 解剖結果によると、Cの顔面には、②目の傷のほか、③右前額部の皮下出血、④上口唇粘膜部の挫創、⑤下口唇粘膜部の粘膜下出血が認められた。ま た、D医師の証言によると、②目の傷は、死亡の30分から数時間前に柔軟なものによる打撲によって成傷されたこと、③は、②目の傷とほぼ同じ時間帯に柔軟なものによる打撲又は圧迫によって成傷されたこと、④及び⑤は、柔軟なものによる打撲又は圧迫によって成傷されたことが認められる。そして、これらのうち②目の傷については、D医師も証言するとおり、目のくぼんだ部分のみを損傷させられるような人の手や指により成傷されたとみるのが自然であるし、転倒等の拍子に偶然にも何らかの出っ張った物体とぶつかるという事態は通常想定し難いというべきであるから、何者かの殴打行為によってできたものと認められる。 ⑵ そして、Cの死亡の30分前から数時間前頃の間である11月1日午後2時11分前頃から同日午後11時前頃までの間のうちCと大半の時間を一緒に過ごしていたのが被告人であることからすれば、被告人がCの顔面を殴ったことが推認されるとはいえる。しかし、前記認定のとおり、上記の時間帯にCが被告人方の外に出た可能性がある。また、被告人の供述によれば、以前Cが殴ら 告人であることからすれば、被告人がCの顔面を殴ったことが推認されるとはいえる。しかし、前記認定のとおり、上記の時間帯にCが被告人方の外に出た可能性がある。また、被告人の供述によれば、以前Cが殴られている場面を見たことがあり、今回Cと飲むことになったきっかけもCがいじめられていたからであるというのであり、これをうそであるとして排斥できるほどの証拠もない。そうすると、②目の傷が被告人方の外で、被告人以外の者による殴打行為によって生じた可能性は否定できないというべきである。 ⑶ 被告人は、11月1日の時点でCの顔の傷に気付かなかった旨供述している。しかし、顔の損傷が生じた時期は不明であるし、被告人自身も相当の量の飲酒をして酔っていたものと考えられることなどに照らすと、前記の可能性を否定する事情とはならない。 また、被告人は、令和5年2月24日の取調べにおいて、11月1日にCの目と鼻の辺りを手で殴ったと供述している。しかし、被告人はそれまでの取調べの際には、Cの顔面を殴ったことを否定したり、黙秘をしたりしてい たのであり、供述に一貫性がない。また、傷害致死事件について追及を受ける被告人が、このままでは重い求刑をされるかもしれず、これを避けるためには比較的軽微な傷害の事実について認めた方がよいなどと考え、場当たり的に証拠と整合するような真実とは異なる供述をした可能性を否定できない。 そうである以上、被告人の上記供述の信用性には疑いが残るといわざるを得ない。 ⑷ 以上によれば、Cが被告人以外の者による暴行によって顔面に傷害を負った可能性は否定できず、この傷害が被告人の暴行によるものと認めるには合理的な疑いが残る。 3 結論よって、本件公訴事実中の傷害致死の点については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条 た可能性は否定できず、この傷害が被告人の暴行によるものと認めるには合理的な疑いが残る。 3 結論よって、本件公訴事実中の傷害致死の点については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により被告人に無罪の言渡しをする。 【法令の適用】(省略)【量刑の理由】被告人は、自分より明らかに体格の劣る高齢の被害者に近寄っていき、わざと肩をぶつけて、上着をつかんで押し倒し、その前に立ちふさがって容易に逃げられない状況を作り出した上で、2度にわたって現金を出させている。殴る蹴るといったあからさまな暴行がないとはいえ、執拗で悪質な犯行である。また、被害金額は300円と少額ではあるが、被害者は大きな恐怖を感じたと考えられるのであって、結果を軽くみることはできない。さらに、犯行動機も酒代欲しさという身勝手なものである。 以上の事情に加えて、被告人は、前科が20犯もあるにもかかわらず、前刑の執行終了から約1年半後に本件犯行に及んでおり、遵法意識を著しく欠いていると認められること、酒代を無心していただけであるとの弁解に終始し、事の重さを理解して真に反省しているようには見受けられないことなど、犯罪行為以外の事情も考 慮して、同種事案の量刑も参考にした上で、被告人を主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑―懲役6年)令和6年9月19日大阪地方裁判所第14刑事部 裁判長裁判官大森直子 裁判官倉成章 裁判官尾藤淳哉

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