令和6年1月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第26763号損害賠償請求事件令和5年(ワ)第3346号損害賠償請求反訴事件口頭弁論終結日令和5年12月4日判決 主文 1 本訴被告は、本訴原告に対し、80万円及びこれに対する令和4年11月23日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 本訴原告のその余の請求及び反訴原告の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを40分し、その1を本訴原告兼反訴被告の、その余を本訴被告兼反訴原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 本訴請求本訴被告は、本訴原告に対し、300万円及びこれに対する令和4年11月23日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 反訴請求反訴被告は、反訴原告に対し、3000万円及びこれに対する令和5年2月17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本訴事件は、落語家である本訴原告兼反訴被告(以下「原告」という。)が、同じく落語家であり、原告の元師匠である本訴被告兼反訴原告(以下「被告」という。)から度重なる理不尽な暴行、暴言などによる制裁を受けて人格権を侵害されたほか、原告に破門を通知したにもかかわらず、破門届を落語協会に提出しなかったことにより、落語家としての業務を妨害されたと主張して、被 告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年11月23日から支払済みまで民法所定の年3分の割合 ての業務を妨害されたと主張して、被 告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年11月23日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 反訴事件は、被告が、インターネット上の記事の配信事業者ら(以下「配信事業者ら」という。)からの取材を受けて原告が写真や音声データ等を提供し、配信事業者らに被告の名誉を毀損する記事を掲載させたと主張して、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料3000万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である令和5年2月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。以下、引用の際には「前提事実⑴ア」などと表記する。)⑴ 当事者ア原告は、一般社団法人落語協会(以下「落語協会」という。)に所属する会員であり、平成21年12月に被告に入門した。平成26年11月1日の二ツ目昇進以降の原告の高座名はAであった。 イ被告は、平成31年3月21日に四代目Bを襲名した落語協会に所属する会員であり、令和4年頃まで同協会の理事でもあった。 ⑵ 原告の被告に対する連絡書の送付原告は、被告に対し、令和4年3月30日付けで、同年2月20日の被告の暴行等がパワーハラスメントに当たること、被告のこれまでの暴行及び一方的な言動の末に破門と言い放ったことについて謝罪及び慰謝料の支払を求めること等を記載した「ご連絡」と題する書面を送付した(乙1の1及び2)。被告は、原告に対し、同年4月14日、原告が修行を続けることを希望する旨記載した「返答書」と題する書面を送付した(乙2の1及び2)。 原告は、被告に対 連絡」と題する書面を送付した(乙1の1及び2)。被告は、原告に対し、同年4月14日、原告が修行を続けることを希望する旨記載した「返答書」と題する書面を送付した(乙2の1及び2)。 原告は、被告に対し、同月25日付けで、慰謝料等合計117万円の支払を求めること、原告の落語家としての活動を妨害するような言動を控えるよう 求めること等を記載した書面を送付した(乙3)。 ⑶ 原告と被告との関係についての記事の掲載等令和4年10月12日に「落語界の名跡「B」の“壮絶暴言&暴力”を弟子が実名告発」と題する記事と「Bの「壮絶パワハラ」を弟子が実名告発しようと思ったワケ」と題する記事がFRIDAYDIGITAL(以下「フライデーデジタル」という。)及びYahoo!ニュースに掲載された(乙5~7。なお、乙6と乙7の本文は同一であるがレイアウトが一部異なる。)。同年11月23日に「「ミスをしたら坊主に」師匠・Bを訴えた元落語家に聞く、パワハラ告発の真相」と題する記事がbizSPA!フレッシュに掲載された(乙8)。同年12月13日に「「通行人の前でビンタ」「坊主を強制され…」 落語界のパワハラを弟子が告発で業界は変わるのか」と題する記事がデイリー新潮に掲載された(乙9)。 ⑷ 破門届の提出被告は、令和4年10月20日、原告の破門届を落語協会に提出した(乙10・3頁、被告本人24頁)。 2 争点及びこれに対する当事者の主張の要旨⑴ 争点⑴(被告による不法行為の有無)(原告の主張)被告は、令和4年2月20日、原告及び同人の弟弟子であるC(以下「C」という。)が興行中に楽屋にいなかったことに腹を立て、原告及びCの頭頂部を平手で強くたたく暴行を加えた。これは師匠の弟子に対する指導の域を超えた違法な権利侵害行為である。また、被告 るC(以下「C」という。)が興行中に楽屋にいなかったことに腹を立て、原告及びCの頭頂部を平手で強くたたく暴行を加えた。これは師匠の弟子に対する指導の域を超えた違法な権利侵害行為である。また、被告は、上記の際に破門を通告しておきながら落語協会に対して破門届を提出せず、廃業届を出すように圧力をかけて、原告の人格権を侵害し、同人の落語家としての業務を妨害するパワーハラスメントを行っている。 被告は、上記暴行を行う以前にも、①平成22年秋、a市中央公民館にお いて、弟子が着替えていないことに激高し、原告を含む弟子全員に対して坊主にするよう強要し、②平成25年1月27日、居酒屋さかな道場において、原告の弟弟子であるD(以下「D」という。)の服装に激怒し、原告を含む弟子3名を店内のすのこ板に正座することを強要し、③平成29年7月11日、すしまみれb店に原告及びCを呼び出し、激高しながら原告の眼鏡を外させて顔面を激しく殴るなどの暴行を加え、④同月12日、原告及びCによる先代B(以下「三代目B」という。)の墓掃除が不十分であると激高し、炎天下に墓場全体の掃除を強要し、⑤令和元年11月4日、福岡空港ロビーにおいて、行程表と異なる交通機関を利用した被告に付いて来なかった原告に憤慨し、航空券を没収して自腹での購入を強要した上、没収した航空券等を床にばらまき、⑥令和2年12月12日、被告の自宅玄関において、汗で濡れた被告の着物が洗われていないことについて激高していた被告に対し、土下座して謝罪していた原告の頭を足で蹴るなどの暴行を加え、⑦同月25日、横浜のホテルでの落語会において、原告に対して「視界に入るな」と怒鳴り、原告にトイレで着替えることを余儀なくさせ、⑧同月28日、c演芸ホール楽屋において、原告に対して「視界に入るな。帰れ。」と伝えて激高 ホテルでの落語会において、原告に対して「視界に入るな」と怒鳴り、原告にトイレで着替えることを余儀なくさせ、⑧同月28日、c演芸ホール楽屋において、原告に対して「視界に入るな。帰れ。」と伝えて激高し、⑨同月31日、原告に対して「俺の視界に入るな」、「dから引っ越せ」などのショートメールを送信して引越しを強要し、⑩令和4年1月3日、原告が元旦の寄席に行っていないことに怒り、電話で原告に対して大声で怒鳴るなど、数々のパワーハラスメントによる人格権侵害行為や強要行為を行ってきた。 (被告の主張)原告が問題視する被告の行為は、全般的に師匠としての指導の一環として行われたものであり、落語という文化芸術の伝承における師匠と弟子との関係性を踏まえると、可罰的違法性が認められるものではない。また、原告は、被告の行為の態様や発言の意図、各出来事に至る経緯について大げさに脚色 して師匠である被告を陥れようとしている。 被告が原告の破門届を出さなかったのは、Cと同様に原告が内省した上で復帰してくれることを期待していたからであり、圧力をかける趣旨ではない。 ⑵ 争点⑵(原告の損害)(原告の主張)原告は、被告の人格権侵害行為により深刻な精神的損害を被り、落語家としての業務を妨害されたのであり、原告の損害額は300万円を下らない。 (被告の主張)原告の主張を争う。 ⑶ 争点⑶(原告の配信事業者らに対する情報提供行為が不法行為といえるかどうか)(被告の主張)原告は、別紙のとおり、配信事業者らに内容虚偽の事実を摘示した記事をインターネット上に掲載させ、被告の名誉を著しく毀損した。 原告の上記行為は不法行為を構成し、これにより被告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円を下らない。 (原告の主張) 事をインターネット上に掲載させ、被告の名誉を著しく毀損した。 原告の上記行為は不法行為を構成し、これにより被告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円を下らない。 (原告の主張)被告が主張する記事内容・表現は配信事業者らの責任において決定し掲載・報道しているものである。原告の取材に応じた行為や情報を提供した行為が名誉毀損行為であると評価される余地はない上、配信事業者らの表現内容はいずれも被告の名誉を毀損するものではなく、不法行為ではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(以下、引用の際には「認定事実⑴」などと表記する。)前提事実のほか、証拠(各項末尾に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。 ⑴ 原告が二ツ目に昇進するまでの被告との関係 原告は、隣県出身の被告の落語を子どもの頃からよく聞いており、大学を卒業する頃には被告に憧れて弟子入りを志願するようになり、その5年後の平成21年12月に被告に入門した(前提事実⑴、乙5)。原告は、被告への入門後から二ツ目昇進前までは、毎日、掃除のために被告の自宅を訪れ、被告から稽古を付けてもらうなどしていた(原告本人53頁)。原告の兄弟子が平成24年頃に落語家を辞めてから、原告は被告の一番弟子となった(甲28、原告本人66頁、被告本人40頁)。 被告は、弟子に対しては、師匠の姿を見て学び、弟子自身が感じ、考えて、師匠である自分にぶつかってくるべきであるとの思いを持っており、原告については、自分と三代目Bの姿から被告が考える師弟関係を理解しているはずだと認識していた。また、被告は、高座に上がった時にどのような客であるかをより早く把握できる噺家が大成するという考えから、弟子に対しては周囲への気遣いについて特に力を入れて指導し、弟 解しているはずだと認識していた。また、被告は、高座に上がった時にどのような客であるかをより早く把握できる噺家が大成するという考えから、弟子に対しては周囲への気遣いについて特に力を入れて指導し、弟子の周囲への気遣いが十分でない場合には、それを強く指摘し、叱責した。被告から見て、弟子の行動や態度が人としての道、噺家としての道に外れると感じたときは、叱責するだけでなく、たたいたりすることもあった。(被告本人20、21、33、34、40~43頁)そのような中で以下のような出来事があった。 ア a市中央公民館での出来事平成22年秋、原告を含む被告の弟子らが、a市中央公民館での落語会において、会場の準備作業を行っていたところ、同人らが着替えを済ませていないことに怒った被告は、弟子ら全員に対して坊主にするよう命じ、同人らはこれに従って坊主頭にした(甲28、甲32・19、20頁、乙10・3頁)。 イ居酒屋さかな道場での出来事原告と他の弟子たちは、被告の自宅近くの居酒屋さかな道場の2階で落 語会を行った後、1階で常連客らと食事を共にするということを定期的に行っていた。 被告は、平成25年1月27日の落語会後の食事会に顔を出すと、弟子のDの服装がだらしないと怒り、原告を含む弟子3名を店内の階段前に置かれたすのこ板の上に正座させた。これを見た常連客の一人が被告に対して「こういう罰はやめさせてほしい」と伝えたが、被告はこれを聞き入れず、原告らを正座させ続けたため、原告は、会計を終えて店を出る常連客に対する挨拶をすることもできなかった。 (甲16~20、甲32・17~19頁、乙10・4頁、被告本人28~30頁)⑵ 原告の二ツ目昇進以降の被告との関わり方前記⑴のような事実はあったものの、被告は、平成26年11月に 。 (甲16~20、甲32・17~19頁、乙10・4頁、被告本人28~30頁)⑵ 原告の二ツ目昇進以降の被告との関わり方前記⑴のような事実はあったものの、被告は、平成26年11月に二ツ目に昇進した原告に、自らが尊敬するEの一文字を取って「A」の高座名を与えた。昇進後は、被告の自宅への原告の訪問回数は月に二、三回程度となり、そのほかに原告が被告と顔を合わせるのは寄席で共演する際に限られるようになった。被告は、二ツ目は寄席で落語をする機会が少ないことから、他の師匠方に原告を覚えてもらうため、自分が寄席に出演する際には原告に着物の準備を行わせるようにしていた。また、被告は、原告の気遣いが十分でないと感じ、原告に対して叱責するときやその後のやり取りの中で、破門するという厳しい言葉を発することがあった。しかしながら、その言葉とは裏腹に、自分の師匠である三代目Bが弟子を36回破門してもその度に許していたことや、三代目Bとの間で弟子は破門しないと約束していたことから、自ら辞めていくのであればやむを得ないが、自分の弟子は破門にはしないと思い定めており、原告についても実際に破門にすることはなかった。(原告本人53、54頁、被告本人35、38、42頁)原告は、被告から破門という強い言葉と共に叱責されると非常につらく感 じ、その度に師弟関係が終わったかとも思ったが、一方で、高座での被告に対する尊敬の念も持ち続けていたため、自分の中で折り合いをつけつつ、被告の怒りを受け止め、被告の様子をうかがい、その意を酌みながら被告との関係を修復するよう努め、師事を続けていた(原告本人33、55、62頁)。 ⑶ すしまみれb店での出来事ア被告は、平成29年7月11日、原告及びCが、被告に秘して師弟関係を離れて他の師匠のもとに移籍しようと試 努め、師事を続けていた(原告本人33、55、62頁)。 ⑶ すしまみれb店での出来事ア被告は、平成29年7月11日、原告及びCが、被告に秘して師弟関係を離れて他の師匠のもとに移籍しようと試みていたことを知って怒り、原告及びCをすしまみれb店に呼び出した。被告は、同店に来た原告に対し、「出ろ!表へ!」と申し向けて店外に出て、「何を考えて生きてんだ、おめぇ!」、「メガネ外せ。何でうちにこねぇんだ。」と怒鳴りながら頬の部分を平手打ちにし、「なめてんのかてめぇ、俺のことを。」、「何でこねぇんだ。謝りに。理由を言え。」、「うん。破門。アホかお前は!何でうちにこねぇんだ、土下座しに。」、「破門。いいもう帰れ。」などと原告の謝罪にもかかわらず怒鳴り続けた。被告がCに対して暴行を加えた際には、原告に対しても「そういう教育をお前がやってないから駄目なんだぞ!」、「お前のしつけも悪い!」などと怒鳴った。これらの被告の一連の言動により、通行人が止めに入ったり、通報を受けた警察官が臨場する事態となった。(甲5の1、甲32・14、15頁、甲33・1、2頁、乙10・4頁、原告本人26、27頁)イ前記アの翌日、原告及びCは、被告に謝罪するために同人の自宅へ向かった。その際に被告が原告及びCに対して三代目Bの墓のある墓地全体の掃除を指示したため、同人らは、最高気温が30度を超える炎天下で夕方頃まで墓掃除を行った。(甲21、27、甲32・15~17頁、乙10・4頁、原告本人27、28頁)⑷ 福岡空港での出来事 被告は、令和元年に全国33か所での四代目B襲名披露公演を行っており、原告もこれに同行していたが、令和元年11月4日に福岡空港から沖縄へ向かうことになっていたところ、e駅への到着が行程表の予定に遅れたため、にわかに行程を変更し、より早く福 襲名披露公演を行っており、原告もこれに同行していたが、令和元年11月4日に福岡空港から沖縄へ向かうことになっていたところ、e駅への到着が行程表の予定に遅れたため、にわかに行程を変更し、より早く福岡空港に到着できる地下鉄を利用することとした。原告は、行程表に従ってタクシーで福岡空港へ向かうべくe駅のタクシー乗り場で被告が来るのを待っていたが、イベントのスタッフから被告が一人で福岡空港へ向かったとの話を聞いた。原告はスタッフと共にタクシーで福岡空港へと向かったが、被告は、師匠である自分について来なかった原告を快く思わず、前の公演において、共演する他の師匠の出迎えを一人だけ怠った原告に対する不満も相まって憤慨し、原告の航空券などを取り上げて放り投げた。原告は、床に放られた航空券を拾ってキャンセルの手続をとり、福岡から沖縄までの航空券代3万0220円を自ら支出した。その後、キャンセルした航空券の払戻金はイベントの主催者へと支払われた。(甲22、甲32・12~14頁、乙10・4頁、原告本人23~25、58頁、被告本人7~9、26~28頁)⑸ 新型コロナウイルス感染拡大後の原告と被告との関わり方原告の二ツ目昇進以降の原告と被告との関わり方は、前記⑵のとおりであったが、新型コロナウイルス感染拡大後の令和2年以降は原告が被告の自宅を訪問することもなくなった(原告本人53、54頁、被告本人34頁)。 ⑹ 被告の自宅玄関での出来事ア原告は、令和2年12月11日にfのホールで行われた落語会に被告と共に出演した後、いつもどおり、被告が高座で着用していた着物を被告の自宅に届けた。汗かきである被告は、平素は洗える着物を着用することが多いが、その日は四代目B襲名に際して作った高級な着物を着用していた。 被告は、原告が着物を被告の妻に届ける 着用していた着物を被告の自宅に届けた。汗かきである被告は、平素は洗える着物を着用することが多いが、その日は四代目B襲名に際して作った高級な着物を着用していた。 被告は、原告が着物を被告の妻に届ける際、着物が濡れたまま放置されることがないよう特に気を遣ってくれるものと期待していたが、原告は、カ バンに入れた状態で被告の妻に手渡せば洗濯されるものと認識し、普段どおり被告の妻に着物を届けたところ、被告の妻が対応を失念し、着物が洗われずに汗で濡れたまま放置されることとなった。これに怒った被告は、同日の夜、原告に電話をした。 上記電話で被告の怒りを知った原告は、その翌日である令和2年12月12日、被告の自宅に謝罪のために向かったが、玄関先で、被告に「破門だって言ってんだろ!てめぇ!」、「土下座せぇ!馬鹿野郎!」、「言ったのか言ってねぇのか聞いただけじゃねぇか!この野郎!分かりません? どっちなんだ!?」、「なんで11年もいやがって、そんなことも言えねぇんだよ!馬鹿野郎!」、「なんで汗ばんでますが言えねえんだよ!気配りがねぇんだよ!」などと怒鳴られた。これに対して原告が土下座したところを、被告は続けて「帰れつってんだろ!この野郎!ぶん殴るぞ!」と怒鳴り、原告の頭部を殴打した。 (甲6の1、甲26、甲32・7~9頁、甲33・2頁、乙10・4、5頁、原告本人11~17、45~49頁、被告本人9~16頁)イ原告は、令和2年12月25日、横浜のホテルでの落語会において、前記アの件について被告に謝罪するため、被告が訪れるのをロビーで待っていた。ロビーを訪れた被告は、待っていた原告が着替えていなかったことに腹を立て、原告に対して「視界に入るな」と言った。そのため、原告は、被告の目に触れないよう、トイレで着替えることとなった。(甲32・9、 を訪れた被告は、待っていた原告が着替えていなかったことに腹を立て、原告に対して「視界に入るな」と言った。そのため、原告は、被告の目に触れないよう、トイレで着替えることとなった。(甲32・9、10頁、乙10・5頁、原告本人17~19頁、被告本人16、17頁)ウ原告は、令和2年12月28日、c演芸ホールの楽屋において、被告に対して再び謝罪しようと試みたが、被告は原告に対して「視界に入るな」と言った(乙10・5頁、原告本人19、20頁、被告本人18頁)。 エ被告は、原告に対し、令和2年12月31日、「俺から連絡するまで、かみさんにも連絡するな!俺の視界にはいるな!真から反省してない。d 市から出て行け。」との記載があるショートメールを送信した(甲7)。 ⑺ 令和4年元旦の寄席をめぐるやり取り落語協会は新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて、令和2年6月の総会において「寄席出演後は速やかにお帰りいただくようにお願いいたします」との方針を示していた。原告は、令和4年の元旦については、事前に被告の妻から被告の自宅まで挨拶に来なくてよいとの連絡を受けていたことから、鈴本演芸場での元旦の寄席にも行く必要はないと考えていたところ、元旦に体調不良となったこともあり、寄席に行くことを控えた。その一方で、被告は、元旦の寄席では二ツ目から前座、囃子方らにお年玉と手拭いを渡すという習慣があるため、原告も寄席に来るべきであると考えており、原告から体調不良の連絡も受けていなかったことから、令和4年1月3日、元旦の寄席に来なかったことについて原告を叱責した。(甲29の1及び2、甲32・1、11、12頁、乙10・5頁、原告本人21~23、37~39頁、被告本人26頁)⑻ c演芸ホールでの出来事ア原告及びCは、令和4年2月11日から20日ま 。(甲29の1及び2、甲32・1、11、12頁、乙10・5頁、原告本人21~23、37~39頁、被告本人26頁)⑻ c演芸ホールでの出来事ア原告及びCは、令和4年2月11日から20日までのc演芸ホールでの興行について、被告から頼まれている用事がなく、楽屋に残る必要もないことを被告の妻に事前に確認し、落語協会も前記⑺の方針を明らかにしていたことから、寄席の木戸口で被告を待つ必要があるとは考えていなかった。その一方で、被告は、落語協会の上記方針は、寄席の木戸口で弟子が師匠を待つことまで控えるよう求めたものとは認識しておらず、原告及びCが楽屋に残らなくてよいと被告の妻に伝えた覚えもなかったので、原告及びCが木戸口に来るだろうと考えていたが、原告らが興行開始後に木戸口に来なかったため、同月19日、被告の妻を通じて、原告及びCに対し、興行の最終日である翌日20日の被告の出番の際に顔を出すよう指示した。 (甲2の1及び2、甲9、10、29の2ないし3、甲32・1、2頁、 原告本人2~5頁、被告本人22、35頁)イ前記アのとおり、原告及びCを呼び出した被告は、令和4年2月20日、原告及びCが被告を待つため寄席の木戸口にすらいなかったことに怒り、正座している原告及びCの頭頂部を平手で叩き、「どんな了見で生きてんだ、てめぇらは。何で残ってないんだ。言え。」と発言した。被告の妻に確認した上で木戸口に残らず帰ったことを原告が伝えると、被告は、「は?言ってないけどな。」、「俺がトリのときにちょっと来りゃいいじゃねえかよ。そういう了見にならねぇのか、てめぇらは。」、「口答えするな、この野郎。」などと発言した。原告が「いきなり手をあげることはないと思いますけど。」などと抗議すると、被告は、「なんだとこの野郎。 師匠に逆らうのか?」、「そうい か、てめぇらは。」、「口答えするな、この野郎。」などと発言した。原告が「いきなり手をあげることはないと思いますけど。」などと抗議すると、被告は、「なんだとこの野郎。 師匠に逆らうのか?」、「そういう了見が気に入らない。破門だ。帰れ。」、「二度と俺の前にツラを出すんじゃねぇぞ。」などと発言した。 (甲1の1、甲8、32・1~4頁、33・2~3頁、乙10・3頁、原告本人5~9、39~43頁、被告本人1~4、20~23頁)⑼ 破門届をめぐるやり取り前提事実⑵の令和4年4月25日付け原告の書面に対する被告からの回答がない中、原告は、被告に破門届を出してもらわなければ落語家として再起を図ることもできないと考えたため、同年6月10日、落語協会会長に対して、被告が破門届を出してくれないことや被告から暴力行為を受けてきたことなどを伝えた。被告は、弟子を辞めることが原告の真意であるとはにわかに信じられなかったため、落語協会の定例理事会の翌日である令和4年6月17日、原告に対し、「廃業届けを私に出して下さい。それがないと破門届けが出せません。宮崎の親御さんに会いに行きます。」との記載があるショートメールを送信し、同日夕方頃、原告の父に電話し、原告が小さい頃にいじめにあっていたことがトラウマとなり、厳しい指導に耐えられないとの話をした。その後、被告は、原告が謝罪して自分の下に戻って来るのを待つこ ととし、自ら原告側へ連絡を取らずにいたが、同年10月12日に前提事実⑶のとおりの記事が掲載されたことを受けて、原告の真意を理解し、同月20日に原告の破門届を落語協会に提出した(前提事実⑷)。それ以降、本件訴訟提起に至るまで、原告と被告との間の直接のやり取りはなかった。(甲4、30、31、32・4~7頁、乙10・1~3頁、原告本人9~11、55~58 落語協会に提出した(前提事実⑷)。それ以降、本件訴訟提起に至るまで、原告と被告との間の直接のやり取りはなかった。(甲4、30、31、32・4~7頁、乙10・1~3頁、原告本人9~11、55~58頁、被告本人4~7、23~25頁、弁論の全趣旨)⑽ 原告に対する取材原告が、メディア関係に人脈を有している知人に対して被告から受けた行為等について相談したところ、フライデーデジタルの関係者から取材の申入れがあった。原告は、令和4年9月、フライデーデジタルの取材に応じ、本件訴訟で主張している事実などを伝え、本件訴訟でも証拠として提出しているメールや録音データなどを提供した。その後、前提事実⑶のフライデーデジタルの記事が配信され、原告は、他の配信事業者からも取材を受けることとなった。(原告本人29~31頁)⑾ 破門と落語協会からの除名ア落語協会の定款10条、細則1条及び3条は、師匠により破門を言い渡された会員について、除名することができる旨定める(甲3、25)。 イ落語家の弟子は、師匠から破門されても、許されて師弟関係を続けることがままある。弟子が破門されて元の師匠のもとへ戻ることが許されなかったとき(前記アの規定に定める破門)は、他の師匠の門下となって落語家としての活動を継続する可能性があるものの、いわゆる傷物として見られてしまうことになる。(原告本人9、10、55~63頁) 2 事実認定の補足説明⑴ 被告の自宅玄関における暴行原告は、令和2年12月12日の被告自宅玄関において、被告が土下座している原告の頭頂部付近を下駄を履いた足で強く蹴る暴行を加えたと主張し、 これに沿う供述をする。しかしながら、原告が当時録音した音声データ(甲6の1)には、被告の「ぶん殴るぞ!」との発言に続いて、被告が原告に暴行 近を下駄を履いた足で強く蹴る暴行を加えたと主張し、 これに沿う供述をする。しかしながら、原告が当時録音した音声データ(甲6の1)には、被告の「ぶん殴るぞ!」との発言に続いて、被告が原告に暴行を加えた打撃音と、原告の「ううっ」といううめき声が残っているものの、打撃音の後に被告の下駄が地面に着く音は残されておらず、頭頂部を被告に向けて土下座している体勢の原告が被告の暴行態様を視認することは困難であったと考えられることから、この時の被告の暴行は、原告の頭部を殴打するものと推認するのが相当であり、上記原告の供述部分は信用できず、その主張を採用することはできない。 ⑵ c演芸ホールにおける暴行被告は、令和4年2月20日のc演芸ホール楽屋において、被告が原告の頬を平手打ちにした際、同人がどうぞ打ってくださいとばかりに顔を差し出してきたと主張し、これに沿う供述をする。しかしながら、原告が当時録音した音声データ(甲1の1)では、まず被告が原告を殴打する音があり、これに続いて、被告の「破門だ。」との発言に対して原告が「はい。分かりました。失礼します。」と発言する際に、衣擦れの音が入っている。そうすると、原告は、被告に殴打された後に原告が楽屋から立ち去るために立ち上がった、すなわち、被告に殴打された時は正座していたと認めるのが相当であり、立っている被告に対して原告が顔を差し出したというのは不自然であるから、上記被告の供述部分を信用することができず、その主張を採用することはできない。 3 争点⑴(被告による不法行為の有無)について⑴ 原告と被告との師弟関係被告は、原告が主張する行為は、師匠としての指導の一環であり、落語という文化芸術の伝承における師匠と弟子との関係性を踏まえると、可罰的違法性が認められるものではないと主張する。 被告との師弟関係被告は、原告が主張する行為は、師匠としての指導の一環であり、落語という文化芸術の伝承における師匠と弟子との関係性を踏まえると、可罰的違法性が認められるものではないと主張する。 たしかに、落語界では、弟子は、入門後、師匠の自宅の掃除など身の回り の世話、かばん持ちなどを続けて、師匠との濃密な関係を構築し、その関係性の中で芸の伝承が行われる側面があるということができる(認定事実⑴、乙2の1)。その一方で、師匠は弟子を破門することができ、破門された弟子は、落語協会を除名され得る立場となる(認定事実⑾)。 そうすると、落語界における師弟関係は、いわば職業上の親子関係ともいえるような濃密な人間関係であると同時に、師匠と弟子との間には師匠の優越的立場を背景とする歴然たる上下関係が存在するのであり、パワーハラスメントのような不法行為が生じる可能性をはらんだものということができるから、師匠としての指導の一環であるからといって、一般的に可罰的違法性が否定されるというものではなく、上記被告の主張を採用することはできない。 ⑵ 平成22年秋のa市中央公民館での出来事被告が、平成22年秋、原告に対して坊主頭になるよう命じ、同人がこれに従ったことについては(認定事実⑴ア)、原告が被告の意を酌んで行った可能性も排除できず、被告による害悪の告知や暴行等の具体的な態様を示す証拠はないから、不法行為(強要行為)としての違法性を認めるに足りない。 ⑶ 居酒屋さかな道場での出来事認定事実⑴イのとおり、被告は、平成25年1月27日、居酒屋さかな道場店内において、弟弟子のDの服装がだらしないことを理由として、兄弟子である原告についてはその監督不行届きを理由として、それぞれすのこ板の上に正座させた。また、原告が会計を終えて店を出る常 さかな道場店内において、弟弟子のDの服装がだらしないことを理由として、兄弟子である原告についてはその監督不行届きを理由として、それぞれすのこ板の上に正座させた。また、原告が会計を終えて店を出る常連客に挨拶が出来なかったこと、同店に居合わせた常連客がやめてくれるよう頼み込んでも原告が正座を続けていたことから、その時間も相当長時間に及んだものと推認される。本来正座する場所でないすのこ板の上に他の客の視線にさらされながら正座していたというその態様からすると、原告は、師弟関係を背景とする絶対的上位者である被告に命じられたからこそ、このような場所に長時間正 座せざるを得なかったものと認められる。そして、長時間の正座が身体的な痛みを伴うことも考慮すると、被告が原告に上記の態様で正座を命じた行為は、原告に対する指導として社会的に相当な範囲を逸脱したものであり、不法行為としての違法性が認められる。 ⑷ すしまみれb店での出来事及び墓掃除についてア認定事実⑶アのとおり、被告は、平成29年7月11日、すしまみれb店に原告とCを呼び出した上、同店前路上で怒鳴りながら原告の頬を平手打ちにした上、原告が謝罪しているにもかかわらず、かなりの長時間にわたって「破門」などと怒鳴り続けている。その後も被告は、Cに対して暴行を加える一方、原告に対しても兄弟子としての指導が悪いなどと怒鳴りながら暴言を浴びせている。被告が、原告及びCに対する怒りを抑えられなかったのは、同人らが被告に秘して他の師匠の下への移籍を企てていたからであり、これが師匠である被告にとって許し難いと感じられたことは想像に難くない。しかしながら、上記一連の経過の中では、通行人が被告を止めに入ったり、通報を受けた警察官が臨場するに至っていることから、被告による暴行や暴言の態様は社会的に し難いと感じられたことは想像に難くない。しかしながら、上記一連の経過の中では、通行人が被告を止めに入ったり、通報を受けた警察官が臨場するに至っていることから、被告による暴行や暴言の態様は社会的に許容される範囲を逸脱したものというほかなく、不法行為としての違法性が認められる。 イ被告は、平成29年7月12日、原告に対し、三代目Bの墓のある墓場全体の掃除をするよう指示し、原告がこれに従って墓掃除をした(認定事実⑶イ)と認められるが、実際に行った墓掃除の範囲を示す証拠はなく、上記被告の発言や指示の具体的態様を示す直接的な証拠も存在しない一方、原告がその前日に被告に叱責された経緯からすると、被告の指示を原告なりに受け止めて墓掃除を行った可能性もあることからすると、不法行為(強要行為)としての違法性を認めるに足りない。 ⑸ 福岡空港での出来事被告は、令和元年11月4日、公演の際の原告の行動が他の師匠たちに対 して礼を失していたと感じ、原告に対して怒りを覚えていたが、そのような状況の中、移動に際しての行き違いから原告に怒り、原告の航空券を没収して、これを床に放り投げた(認定事実⑷)ことが認められる。 被告の上記行為を原告が不快に感じたことは間違いないが、このような被告と原告との間の短時間のやり取りの中で生じた出来事が、それを超えて、社会的に許容される範囲を逸脱するものとして違法とまで評価されるとはいえず、被告の上記行為について不法行為が成立するとは認められない。 ⑹ 被告の自宅玄関での出来事認定事実⑹のとおり、被告は、令和2年12月12日、自らの自宅まで謝罪に来た原告に対し、いきなり「破門」などと怒鳴り、原告の謝罪の言葉を聞き入れることもなく同人を玄関先に土下座させ、原告が繰り返し謝罪しているにもかかわらず、「破門」、「 月12日、自らの自宅まで謝罪に来た原告に対し、いきなり「破門」などと怒鳴り、原告の謝罪の言葉を聞き入れることもなく同人を玄関先に土下座させ、原告が繰り返し謝罪しているにもかかわらず、「破門」、「ぶん殴るぞ」と怒鳴り続け、さらに、同人の頭部を殴打していることが認められる。その際に殴打された原告がうめき声をあげるなどその態様も強度であったことを考慮すると、上記一連の被告の行為は、社会的に許容される範囲を逸脱するというべきである。その後、被告は、原告が反省しているようには見えないという一方的な理由で、同人に対して、「視界に入るな」と繰り返し申し向け、最終的には原告と被告が居住している「d市から出て行け」とのメッセージを送信したが、これらはいずれも弟子に対する指導の文脈で理解することはできないし、原告にとってみると、被告の言葉どおりに引っ越す以外対処方法が見当たらず、絶対的上位者である被告からの嫌がらせと感じるほかないものであり、被告の自宅前の暴言・暴行以来、原告と被告との関係性が改善されることがない中での出来事であることから、上記暴言・暴行と一連の違法な行為と認められ、これについて不法行為が成立するというべきである。 ⑺ 令和4年元旦の寄席をめぐるやり取り認定事実⑺のとおり、被告は、令和4年1月3日、元旦の寄席に原告が来 なかったことを叱責したことが認められるが、そのことが社会的に許容される範囲を逸脱したということはできず、その経過において何らかの不法行為が成立するとは認められない。 ⑻ c演芸ホールでの出来事認定事実⑻のとおり、被告は、令和4年2月20日、c演芸ホール楽屋において、原告の頭頂部を平手で叩いたことが認められる。被告の上記行為は、師匠である被告に対する敬意を欠いていることを叱責する趣旨であったと解すること 、被告は、令和4年2月20日、c演芸ホール楽屋において、原告の頭頂部を平手で叩いたことが認められる。被告の上記行為は、師匠である被告に対する敬意を欠いていることを叱責する趣旨であったと解することができるが、原告の言い分を聞くこともなく問答無用とばかりに暴行に及んでおり、原告が経過を説明しても「口答えするな」などと言って原告の言い分を聞き入れることなく、「破門」などと申し向けていることから、被告の原告に対する上記暴行及びその後の一方的な追及は社会的に許容される範囲を逸脱する違法なものであり、不法行為が成立するというべきである。 ⑼ 破門届をめぐるやり取り被告は、令和4年2月20日のc演芸ホールでの原告とのやり取りの後、同年10月20日に至るまで、同人が他の師匠の下へ弟子入りして再出発を図るために必要となる破門届を落語協会に提出していない(前提事実⑷)。 また、被告は、原告に対して、あたかも破門届を提出する前提として原告による廃業届の提出が必要であり、廃業に関して原告の両親に会いに行くように読み取れるメッセージを送信したり、原告の父に電話し、原告の身に覚えがない話をするなどしている(認定事実⑼)。これについて、原告は、被告が長期間にわたって破門届を提出せず、師匠としての地位を背景に廃業届を出すように圧力をかけ、原告の人格権を侵害し、落語家としての業務を妨害したと主張する。 しかしながら、認定事実⑵のとおり、被告は原告を叱責する際に何度も破門すると発言しているが、その度に原告が被告の意を酌んだ行動をするなどして関係を修復するよう努め、被告もその様子を見ながら原告を弟子として 扱い、師弟関係が継続されてきた経過があることからすると、認定事実⑻イのとおりc演芸ホールにおいて被告が原告に破門と言ったからといって、直ちにこれが真に 告もその様子を見ながら原告を弟子として 扱い、師弟関係が継続されてきた経過があることからすると、認定事実⑻イのとおりc演芸ホールにおいて被告が原告に破門と言ったからといって、直ちにこれが真に原告を破門にしたものと解することはできない。これに加え、被告が、認定事実⑼のとおり、令和4年10月12日の記事が掲載されたことを受けて破門届を提出したという経過を踏まえると、被告は、それまでと同様に引き続き原告が自分の弟子であり続けることを前提として、そのことを弟子である原告から明言させるための契機を求めて、あえて廃業届の提出を要求したり、原告の父に電話するなどしていたが、上記記事が掲載された事実を知って、原告が被告のもとを離れるとの意向が真意に基づくものとようやく理解し、破門届を提出したものと認めるのが相当である。 そうすると、被告が長期間にわたって破門届を提出せず、原告に廃業届を出すように求めたことや、原告の父親に電話をしたことが、原告の人格権を侵害したり、業務を妨害したりする意図に基づくものであったということはできず、濃密な人間関係である師弟関係を前提とすると、師匠の立場で弟子が自分のもとに戻ってくると信じ、そのような認識に基づいて行動したことに過失があるとまでいうことはできないから、被告の上記各行為が不法行為であるということはできない。 ⑽ まとめ以上のとおり、原告が不法行為であると主張する被告の行為のうち、前記⑶、⑷ア、⑹及び⑻に係るものについては、いずれも不法行為が成立すると認められ、その余については不法行為の成立を認めることができない。 4 争点⑵(原告の損害)について前記において不法行為と認めた前記3の⑶、⑷ア、⑹及び⑻の各行為(以下「本件不法行為」という。)はいずれも、落語界の師弟関係において師匠が弟 ことができない。 4 争点⑵(原告の損害)について前記において不法行為と認めた前記3の⑶、⑷ア、⑹及び⑻の各行為(以下「本件不法行為」という。)はいずれも、落語界の師弟関係において師匠が弟子に対して絶対的上位者の地位にあることを背景として、一方的に強要し、暴行を伴う苛烈な叱責を加えるという社会的に許容される範囲を逸脱した態様の ものであって、弟子である原告の落語家としての活動及びその前提となる生活環境に悪影響を与えるパワーハラスメントというほかないのであり、弟子という立場にとどまる以上、これらを甘受せざるを得ず、逃げ場がなかった原告の精神的苦痛は看過し難い。 もっとも、認定された本件不法行為は、平成25年、平成29年、令和2年及び令和4年に起きたものであり、原告と被告との師弟関係が12年以上に及ぶことに照らすと、頻回であったということはできない。 また、被告が本件不法行為に及んだのは、原告が気遣いや気配りが行き届いた立派な噺家として大成することを望んで指導しつつ、その方針に沿わない行動を諫め、改めさせる趣旨に出たものであると認められ、指導の態様が適切でなかったことは責められるべきであるが、被告の動機において考慮すべき点もあるということができる。 他方において、被告の暴行によって、原告が具体的な傷害を負ったことを示す証拠はなく、原告は、師匠である被告との間のやり取りの経過から、確実に叱責を受けると考えた場合は、あらかじめ準備した録音機で被告とのやり取りを録音するなど(甲33、原告本人50~52、59、60頁)、冷静に対応している側面もあり、そのようにして得た資料を活用して、前提事実⑶のとおり、被告によるパワーハラスメントを告発するという内容の記事がインターネット上で掲載されるに至ったことにより、その精神的苦痛は一定程 いる側面もあり、そのようにして得た資料を活用して、前提事実⑶のとおり、被告によるパワーハラスメントを告発するという内容の記事がインターネット上で掲載されるに至ったことにより、その精神的苦痛は一定程度慰謝されているということができる。 以上の事情から原告の精神的損害を金銭に換算すると、その額は80万円と評価するのが相当である。 5 争点⑶(原告の配信事業者らに対する情報提供行為が不法行為といえるかどうか)について被告は、別紙のとおり、原告が配信事業者らに対して情報提供を行うなどして積極的に働きかけて、被告の社会的評価を低下させるような前提事実⑶の各 記事をインターネット上に掲載させたことが、原告の不法行為になる旨主張する。 しかしながら、一般的に配信事業者らのような報道機関は、与えられた情報をそのまま記事とするのではなく、編集権を行使して、自らの判断の下、記事を掲載するに至るのであるから、仮に上記記事が被告の社会的評価を低下させるようなものであったとしても、その第一次的責任を負うのは上記配信事業者らである。 したがって、原告がこれらの記事掲載につき不法行為法上の責任を負い得るのは、自らが提供した情報等がそのまま記事に掲載されることにつき、原告においても認識していた場合など原告の情報提供行為と配信事業者らの記事掲載との間に相当因果関係が認められる場合に限られるというべきである。 本件においては、認定事実⑽のとおり、原告は、配信事業者らの取材を受ける形で各種情報提供を行っているにすぎず、それ以上の原告の積極的な関与は認められないから、上記配信事業者らは、自らの判断の下、前提事実⑶の各記事を掲載したものと考えるほかなく、原告の情報提供行為と配信事業者らの記事掲載との間に相当因果関係があるとは認められないから、各記事の れないから、上記配信事業者らは、自らの判断の下、前提事実⑶の各記事を掲載したものと考えるほかなく、原告の情報提供行為と配信事業者らの記事掲載との間に相当因果関係があるとは認められないから、各記事の内容について審理するまでもなく、原告は不法行為責任を負わないというべきである。 第4 結論以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、80万円及びこれに対する令和4年11月23日から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないからこれらを棄却することとし、被告の反訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第37部 裁判長裁判官杜下弘記 裁判官安川秀方 裁判官髙岡遼大
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