平成3(行ウ)6 課税処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成7年4月28日 徳島地方裁判所 租税
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判決文本文12,123 文字)

○ 主文一原告の請求をいずれも棄却する。 二訴訟費用は原告の負担とする。 ○ 事実及び理由第一当事者の求める裁判一請求の趣旨 1 被告が平成元年九月一八日、原告の昭和六一年分、昭和六二年分及び昭和六三年分の所得税についてした各更正決定及び各過少申告加算税の賦課決定(但し過少申告加算税については審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 二請求の趣旨に対する答弁主文同旨第二事案の概要本件は、矯正歯科医を営も原告が、自己の所得税に関し、歯科矯正料の計上時期及び支出の必要経費該当性を争う課税処分取消訴訟である。 (争いのない事実等)一当事者原告は矯正歯科を診療科目とする歯科医であり、みなし法人課税を選択している青色申告者である。 原告の診療報酬の内訳は、初診相談料、検査及び診断料、基本施術料、全顎的治療料、処置料、治療後観察料等であり、その他治療途中で検査や特別処置の料金を受領することになっている(乙第一九号証)。 二課税等の経緯 1 原告は、昭和六一年分、昭和六二年分及び昭和六三年分(以下「各年分」という。)の所得税の青色申告の確定申告書に、患者の症状に応じて契約年数を三年ないし六年とし、治療開始時に受領した基本施術料及び全顎的治療の料金(以下「矯正料」という。)を右年数に等分に分割して、未だ治療行為がなされていない部分については前受金(あるいは預り金)として計上する会計処理をして、別表一から三までの該当欄のとおり記載し確定申告を行った。 これに対し、被告は、平成元年九月一八日付で、右のような会計処理は認められず、矯正料は受領金の全額を矯正装置の装着日(治療開始日)の属する年分の収入金額に計上すべきものとし、かつ、原告の申告した必要経費の額の一部については必要経費と 日付で、右のような会計処理は認められず、矯正料は受領金の全額を矯正装置の装着日(治療開始日)の属する年分の収入金額に計上すべきものとし、かつ、原告の申告した必要経費の額の一部については必要経費と認められないとして、右各年分の所得税について別表一から三までの該当欄のとおり各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 2 原告は、右各処分について、その全部の取消しを求めて平成元年一〇月三〇日に別表一から三までの該当欄のとおりそれぞれ異議申立てを行った。これに対し、被告は平成二年一月三一日付で右異議申立てを別表一から三までの該当欄のとおりいずれも棄却する旨の異議決定を行った。 3 原告は、平成二年二月二七日付で国税不服審判所長に対し、別表一から三までの該当欄のとおりの審査請求を行った。これに対し国税不服審判所長は、平成三年三月二九日付で、(1)右各年分の所得税の更正処分及び昭和六三年分の過少申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求をいずれも棄却する、(2)昭和六一年分及び同六二年分の過少申告加算税の各賦課決定処分の一部を取り消し、それぞれ別表一及び二の審査裁決欄のとおりとする、との裁決を行った。 三納付すべき所得税 1 事業所得(一) 収入の部原告の各年における収入については以下のとおりである。 (1) 社会保険診療の収入金昭和六一年分五八七万二五五四円昭和六二年分五一六万九〇〇一円昭和六三年分五二六万六八九六円(2) 契約により受領した矯正料昭和六一年分四八二一万円昭和六二年分五二七五万円昭和六三年分六二一六万円(3) 矯正料以外の自由診療収入金昭和六一年分一七九一万二〇〇〇円昭和六二年分一九〇〇万一六八〇円昭和六三年分 五二七五万円昭和六三年分六二一六万円(3) 矯正料以外の自由診療収入金昭和六一年分一七九一万二〇〇〇円昭和六二年分一九〇〇万一六八〇円昭和六三年分二四二四万三三五〇円(4) 上記以外の自由診療収入金昭和六一年分三三万九二三〇円昭和六二年分三〇万三九〇〇円昭和六三年分四一一万五五八三円(5) 返金した金額昭和六一年分五五万円昭和六二年分四五万五〇〇〇円昭和六三年分七八万円(二) 費用の部(必要経費)原告が申告した各年分の必要経費の額は昭和六一年分四一九三万七六二七円、昭和六二年分四九八四万八七三六円、昭和六三年分五四九五万六一九七円である。そのうち、昭和六一年分につき三九八一万〇九六〇円、昭和六二年分につき四六二七万〇八三六円、昭和六三年分につき五一一二万六一三一円がそれぞれ各年分の必要経費として認められることについては当事者間に争いがない。 2 不動産所得原告の不動産所得については左記のとおりである。 昭和六一年分五九万五〇〇〇円昭和六二年分一〇二万円昭和六三年分一〇二万円 3 事業主報酬額原告の事業主報酬額は左記のとおりである。 昭和六一年分二七六〇万円昭和六二年分二四〇〇万円昭和六三年分二五五〇万円 4 給与所得原告の給与所得は左記のとおりである(別表八のとおり)。 昭和六一年分二五一九万五〇〇〇円昭和六二年分二三四八万五〇〇〇円昭和六三年分二四九一万円 5 所得控除所得控除は左記のとおりである。 昭和六一年分一六三万五三五一円昭和六二年分 五〇〇〇円昭和六二年分二三四八万五〇〇〇円昭和六三年分二四九一万円 5 所得控除所得控除は左記のとおりである。 昭和六一年分一六三万五三五一円昭和六二年分二三四万九六三一円昭和六三年分二二七万四二三〇円 6 源泉徴収税額源泉徴収税額は左記のとおりである。 昭和六一年分九四八万一二八七円昭和六二年分七七九万九四六六円昭和六三年分八〇〇万七六七九円(争点)一事業所得の収入額(本件矯正料の計上時期) 1 本件矯正料の計上時期について、被告は以下のとおり主張する。 所得税法三六条(収入金額)は、収入金額の計上時期について、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と規定しているところ、この場合の収入すべき金額とは、収入し得る金額すなわち納税者が収入金額として管理・支配し得る金額をいうものと解される。しかるところ、原告は、患者との間の矯正治療契約に基づいて矯正装置装着時に矯正料を請求して一括受領しているから、本件矯正料は矯正装置を装着したときに収入すべき権利が確定したと認めるのが相当である。原告は、これを前受金として計上処理しているが、前受金とは、得意先などから製品や商品の代金や受注工事代金の一部として受け取った前受代金、また不動産業、倉庫業、映画その他役務の給付を営業目的とするものの営業収益の前受額であって、将来営業収益計上時点において、現金をもって返済されることなく、商品や役務の引渡しによって前受金という債務が履行されたことになるものをいうから、本件矯正料はこれにあたらない。 したがって、本件矯正料の収入すべき権利の未確定を前提とする原告の主 済されることなく、商品や役務の引渡しによって前受金という債務が履行されたことになるものをいうから、本件矯正料はこれにあたらない。 したがって、本件矯正料の収入すべき権利の未確定を前提とする原告の主張はいずれも所得税法の解釈を誤ったものであり失当である。 2 これに対し、原告は以下のとおり反論する。 歯科矯正治療は通常三年以上の期間を要し、中には一〇年を越えることもあるため、原告は治療開始に先立ち矯正治療契約書を作成し、治療の中断の場合の治療費の返還について合意している。原告は患者の症状に応じて契約年数を三年ないし六年とし、治療開始時に受領した矯正料を右年数に等分に分割して未だ治療行為がなされていない部分については前受金(あるいは預り金)の性格を有するものとして会計上処理してきた。原告は右会計処理に従い、治療を中断した場合に全て返金している。したがって、実質的に考えれば、原告が治療開始時に受領する矯正料は、単に収入年度における治療の対価にとどまらず、治療終了時までの全治療の対価であることは明白であり、費用収益対応の原則からして、原告の右会計処理には合理性がある。 なお、原告は矯正契約締結時に、右契約に基づく矯正料(前受金部分も含む。)を請求・受領しており、矯正装置装着時ではない。 二事業所得の経費の額 1 はじめに原告は、各年分の必要経費の額を昭和六一年分四一九三万七六二七円、昭和六二年分四九八四万八七三六円、昭和六三年分五四九五万六一九七円とそれぞれ申告しているが、被告はそのうち、昭和六一年分につき三九八一万〇九六〇円、昭和六二年分につき四六二七万〇八三六円、昭和六三年分につき五一一二万六一三一円の限度で各年分の必要経費として認め、その余のものについては、以下記載のとおり、支出の有無自体を否定するほか、仮に支出が認められるとしても必要 二七万〇八三六円、昭和六三年分につき五一一二万六一三一円の限度で各年分の必要経費として認め、その余のものについては、以下記載のとおり、支出の有無自体を否定するほか、仮に支出が認められるとしても必要経費にあたらない旨主張する。 2 被告が認めない費目(一) 接待交際費(1) 被告は、原告の主張する費用のうち、別表五記載の交際費(左記のとおり)が支出されたこと自体につき否認する。 昭和六一年分八二万二九八三円昭和六二年分九三万六七一〇円昭和六三年分一〇一万一三〇六円(2) また、支出自体が仮に認められるとしても、被告は、原告の事業の態様からみてこのような接待交際費の支出は事業遂行上必要であるとは認められない旨以下のとおり主張する。 所得税法にいわゆる必要経費とは、当該収入を得るために必要な直接間接の費用であって、接待費ないし交際費は、当該接待ないし交際の理由・目的・相手方・金額等諸般の事情からみて、専ら事業の遂行上の必要に基づくものと考えられる場合に限って必要な経費になるものと解されるところ、原告の右各年分の接待交際費は、支出の目的・接待の相手方・支出の必要性を明らかにしていないから、原告の飲食・趣味・嗜好を反映した支出とみられるほか、事業の態様からみてかかる接待交際費の支出が事業遂行上必要であると認めることはできない。また、原告が主張する支出の中に、事業との関連性が全くないということができないものがあったとしても、所得税法上の必要経費は「専ら業務の遂行上の必要から支出されたものと認められるか否かを基準として判断すべきものである」と解されているから、原告が主張する程度の事業との関連性をもって、必要経費にあたるということはできない。 (3) これに対し、原告は、患者については一般の歯科医からの紹介が最も多く べきものである」と解されているから、原告が主張する程度の事業との関連性をもって、必要経費にあたるということはできない。 (3) これに対し、原告は、患者については一般の歯科医からの紹介が最も多く、また友人・知人の関係で紹介を受けることも多く、いわゆる飛び込みの客は皆無であり、このような実情からして患者の獲得について歯科医だけでなく友人・知人との交際接待が重要な意味をもつのであるから、このような接待交際費の支出が事業遂行上必要であると主張する。 (二) 諸会費・研究費(1) 被告は、原告の主張する費用のうち、別表六記載の諸会費・研究費(左記のとおり)が支出されたこと自体につき否認する。 昭和六一年分八〇万円昭和六二年分二二〇万円昭和六三年分二四〇万円(2) また、被告は、仮に右金額の支出が認められるとしても、事業の態様からみてこのような諸会費・研究費の支出は事業遂行上必要であるとは認められない旨次のように主張する。 右各支出は、いずれも「曽根矯正歯科臨床講習会」の会費の名目で支出しているが、当該研究会は、原告、日本歯科大学のA助教授及び和歌山市在住のB医師の三名からなる任意の集合で、金額も多額でその支出の目的・必要性ないし業務との関連性等を証するものがなく、事業遂行上必要であると認めることはできない。また、原告が主張する支出の中に、事業との関連性が全くないということができないものがあったとしても、所得税法上の必要経費は「専ら業務の遂行上の必要から支出されたものと認められるか否かを基準として判断すべきものである」と解されているから、原告が主張する程度の事業との関連性をもって、必要経費にあたるということはできない。 (3) 被告の右主張に対し、原告は右支出の事実を主張するほか、曽根矯正歯科臨床講習会は、原告とB れているから、原告が主張する程度の事業との関連性をもって、必要経費にあたるということはできない。 (3) 被告の右主張に対し、原告は右支出の事実を主張するほか、曽根矯正歯科臨床講習会は、原告とB医師がA助教授から歯科矯正医療技術について直接教授してもらうための会であり、その会費は日進月歩の治療技術の進歩についてゆくためのいわば個人教授料としての性格を持つものであり、必要経費として認められてしかるべきものであると主張する。 (三) 旅費交通費(1) 被告は、原告の主張する費用のうち、別表七記載の旅費交通費(左記のとおり)が支出されたこと自体につき否認する。 昭和六一年分五〇万三六八〇円昭和六二年分三九万二一九〇円昭和六三年分四一万八七六〇円(2) また、被告は、仮に右金額の支出が認められるとしても、事業の態様からみてこのような旅費交通費の支出は事業遂行上必要であるとは認められない旨次のように主張する。 右各支出は、旅行目的が同窓会への出席、親戚知人の冠婚葬祭への参列、前記のA助教授らとの会合及び原告の健康診断受診のための旅費交通費で、業務遂行上必要不可欠なものとはいえない。また、原告が主張する支出の中に、事業との関連性が全くないということができないものがあったとしても、所得税法上の必要経費は「専ら業務の遂行上の必要から支出されたものと認められるか否かを基準として判断すべきものである」と解されているから、原告が主張する程度の事業との関連性をもって、必要経費にあたるということはできない。 (3) 被告の右主張に対し、原告は業務の遂行上必要な支出である旨反論する。 (四) 福利厚生費(1) 原告は左記金額を福利厚生費として申告した。 昭和六二年分四万九〇〇〇円(2) 被告は右金額の支出自体を否認し、また、事業 業務の遂行上必要な支出である旨反論する。 (四) 福利厚生費(1) 原告は左記金額を福利厚生費として申告した。 昭和六二年分四万九〇〇〇円(2) 被告は右金額の支出自体を否認し、また、事業の態様からみてこのような福利厚生費の支出は事業遂行上必要であるとは認められない旨次のとおり主張する。 原告の定期健康診断料として支出している右福利厚生費は業務の遂行上不可欠なものとはいえない。 また、原告が主張する支出の中に、事業との関連性が全くないということができないものがあったとしても、所得税法上の必要経費は「専ら業務の遂行上の必要から支出されたものと認められるか否かを基準として判断すべきものである」と解されているから、原告が主張する程度の事業との関連性をもって、必要経費にあたるということはできない。 (3) 被告の右主張に対し、原告は業務の遂行上必要な支出である旨主張する。 第三証拠(省略)第四争点に対する判断一事業所得の収入額(本件矯正料の収入計上時期)について 1 甲第一、第二及び第六ないし第九号証、乙第一八、第二一及び第二二号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (一) 歯列の矯正診療は、基本的には、相談、検査、診断、矯正施術(装置の装着)、その後の処置(調整)、観察等の経過を経て完了するのが一般的であるところ、原告は、矯正装置を装着した時点において、患者又は保護者(以下「患者ら」という。)と治療矯正契約書(甲第一号証)を交わした上、矯正料金規程(乙第一九号証)による矯正料を患者らに請求し、その金額を患者らから一括して受領し、契約書(甲第一号証)第三項に定める「治療の中断」を生じたときは、所定の割合(零パーセントないし三〇バーセント)の返済を行うものの、右「治療の中断」という事実が生じない を患者らから一括して受領し、契約書(甲第一号証)第三項に定める「治療の中断」を生じたときは、所定の割合(零パーセントないし三〇バーセント)の返済を行うものの、右「治療の中断」という事実が生じない限りその返済をせず、矯正装置装着の前後を問わず何らかの処置を行った場合には、三〇〇〇円以上の「処置料」をその都度収受し、また治療後の観察料として、その都度一〇〇〇円以上の「治療後観察料」を収受している。 (二) 原告は、開業当初は治療の都度それに応じた料金を患者から受領していたが、昭和四六年ころ、大病を患って自分では患者の治療を行うことが困難になった際、臨時に医師を雇う(あるいは派遣してもらう)ためには週当たり約一〇万円もの高額の報酬を支払う必要があり、原告の資力によっては実施不可能であったことから、将来同様の必要が生じた場合の資金を蓄えるため、前記のように矯正料を一括して受領するようになったものである。 (三) 係争年における返金の実績をみると、三年間の患者数が六五一人であるのに対し、返金をした患者数は一三名であって、全体の一・九九パーセントである。 金額面でも、三年間に受領した矯正料が金一億六三一二万円であるのに対し、返金額は合計一七八万五〇〇〇円であって、全体の一・〇九パーセントにすぎない。また、原告の作成する治療矯正契約書(甲第一号証)によれば、治療期間の経過による残治療期間の割合と返金割合とは合致しておらず、また、別件の係争事案においても経過年数の割合と計上金額の割合は一定していない(甲第二号証の事案では、治療期間を三年とし、初年度に五〇パーセント、次年分及び第三年分各二五パーセントとして申告しており、乙第一八号証・同第二一号証の事業では、初年度に四〇パーセント、第二年度四〇パーセント、第三年度二〇パーセントとして申告している。)。 原 ト、次年分及び第三年分各二五パーセントとして申告しており、乙第一八号証・同第二一号証の事業では、初年度に四〇パーセント、第二年度四〇パーセント、第三年度二〇パーセントとして申告している。)。 原告が行っている按分計算は、足掛け年数による按分であって、治療の初年又は終年については、治療期間が、たとえ一週間あるいは数日というわずかな期間であろうと、これを一年として按分計算している。また、実際に按分した金額は万円単位であって、一万円未満については按分していない。以上の事実が認められる。 2 ところで、所得税法三六条一項は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と規定しているところ、右にいう「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべきことが確定し、相手方にその支払を請求しうることとなった金額、換言すれば、納税者が収入金額として管理・支配しうることになった金額をいうものと解される。したがって、当該金額がこれにあたるか否かは、専ら現実に利得を管理し、それを享受しているかどうかという事実関係に着目して判断すべきである。 これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば、原告は、検査・診断の際、その結果に基づいて矯正料金規定を示し、矯正治療契約を締結し、同時に矯正料を請求してそれを一括して受領しているものであり、本件矯正治療契約には、「人的役務の提供による報酬を経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合」(所得税基本通達三六-八)に該当するような特約は存在せず、矯正歯科契約に基づき受領した矯正料は、患者等のやむを得ない事情(転勤等)がある場合には治療の進行状態に応じて一部返金するとされているものの、 所得税基本通達三六-八)に該当するような特約は存在せず、矯正歯科契約に基づき受領した矯正料は、患者等のやむを得ない事情(転勤等)がある場合には治療の進行状態に応じて一部返金するとされているものの、このようなことは全体の一パーセント強にすぎず、また患者等の一方的都合により治療の中断や中止をした場合及び治療予定期間の七〇パーセントを経過したときは返金されないことされている上、原告は、治療装置装着後に行われる治療・調節等については別途、治療の都度その内容に応じた対価を受領しているというのであるから、本件矯正料は、遅くとも矯正装置の装着日には原告において収入金額として管理・支配しうることになったものであり、その時点において収入すべき権利が確定したと認めるのが相当である。 原告は、矯正料は治療期間が経過していなければ患者に返還しなければならないものであるから、これは原告において管理はし得ても支配はできない金額である旨主張し、矯正装置装着の日(治療の開始の日)においては収入すべき権利が確定していないと主張する。しかしながら、前記認定の事実によれば、原告は、開業当初は治療の都度それに応じた料金を患者から受領していたが、昭和四六年ころ、大病を患って自分では患者の治療を行うことが困難になった際、臨時に医師を雇う(あるいは派遣してもらう)ためには週当たり約一〇万円もの高額の報酬を支払う必要があり、原告の資力によっては実施不可能であったことから、将来同様の必要が生じた場合の資金を蓄えるため、矯正料を一括して受領するようになったというのであるから、一括受領した矯正料が原告の必要に応じて支出するために蓄えられているものであることが明らかであり、本件矯正料は原告において支配することができる金銭であるといわざるを得ない。また、原告のいう返金はその件数・金額のいずれ が原告の必要に応じて支出するために蓄えられているものであることが明らかであり、本件矯正料は原告において支配することができる金銭であるといわざるを得ない。また、原告のいう返金はその件数・金額のいずれの点からも極めて例外的なものである上、治療の中断により本件矯正料の一部が患者らに返済された場合にはその返済された金額をその年分の必要経費に算入するとしているのが現行所得税法の規定であること(同法五一条、同法施行令一四一条)をも併せ考慮すると、本件における返金の点をもって、本件矯正料の収入すべき時期に異同は生じないというべきである。 なお、原告は、矯正料を治療期間に応じて按分するのが合理的であると主張するが、前記認定のとおり、治療期間の経過による残治療期間の割合と返金割合とは合致していないのであり、また、契約上治療期間が明記されていても、それは治療開始前における単なる予測にすぎず、実際の治療期間が予測と異なる場合もあるのであるから、原告の右主張も採用できない。 3 以上のとおりであり、原告が一括受領する矯正料は、矯正装置の装着日には収入すべき権利が確定していると認められるから、矯正料全額を矯正装置装着の日(治療の開始の日)の属する年分の収入金額に計上するものとした被告の更正処分は正当である。 二事業所得の必要経費について 1 はじめに法人税も所得税も所得に対し課税するものではあるが、法人の場合と違って個人の場合には活動の全てが利益追求活動ではなく、所得獲得活動のほかにいわゆる消費生活があるので、個人の支出の中には収入を得るために支出される費用とは言い難い、むしろ所得の処分としての性質を有しているというべきものがある。例えば食費・住居費等がその代表である。所得税法はこれらを家事費と呼び必要経費に含めないことを明記している(所得税法四五条一項)。 い、むしろ所得の処分としての性質を有しているというべきものがある。例えば食費・住居費等がその代表である。所得税法はこれらを家事費と呼び必要経費に含めないことを明記している(所得税法四五条一項)。しかし、ある支出が家事上の経費であるかそれとも事業上の経費であるか明確に区分けできない場合も多く、また例えば店舗兼用住宅の減価償却費のように家事上の経費と事業上の経費とが混在している場合も少なくない。そこで、所得税法は両方の要素を有している支出を家事関連費と呼び、必要経費になる部分が明らかでないためこれを原則として必要経費に含めないとしつつ、事業の遂行上必要であることが明らかにできる一定部分に限ってこれを必要経費に算入することを認めた(所得税法四五条、所得税施行令九六条)。このように所得税法は明確に事業の経費といえないものは原則として必要経費としないこととしているのである。 以下各費目ごとに検討する。 2 接待交際費甲第二三号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、別表五記載のとおり支出したことが認められる。右支出につき、原告は、一般の歯医者から患者の紹介を受けることが最も多く、友人知人の関係で紹介を受けることも多くあり、患者の獲得について歯科医のみならず友人知人との交際が重要な意味をもっているとして、これらが必要経費に該当すると主張する。 しかしながら、大学医学部の関係者らを接待する費用や歯科医師会の会合費用等は、その目的や金額が相当な範囲のものである場合には必要経費にされるものの、別表五記載の接待交際費は、単なる情報交換の会食や二次会の費用、慶弔、贈答等であって、これらによって患者の紹介を受けうるなど医院経営に有益なものと期待されることがあるとしても、右支出はいずれも家事関連費に該当し必要経費にならないものというべきであ 次会の費用、慶弔、贈答等であって、これらによって患者の紹介を受けうるなど医院経営に有益なものと期待されることがあるとしても、右支出はいずれも家事関連費に該当し必要経費にならないものというべきである。また、ゴルフの費用について、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、複数のゴルフ会員権を有し、定期的にゴルフ場でプレーしており、ゴルフ場主催の大会等への参加が多く、体調の悪いときはゴルフをせず、しかも少額で自己のプレー代を負担しているにすぎず、接待の部分のないものが多いことが認められるのであって、これらの点に照らすと、原告はゴルフを個人の趣味・娯楽として行っているものと認められるから、原告が事業の遂行上の必要性からゴルフを行っていると認めることはできない。そして、本件においては、他に格別の主張立証もないから、別表五記載の交際費はいずれも必要経費にあたらないものというべきである。 3 諸会費・研究費原告は、別表六記載の諸会費、研究費につき、「曽根矯正歯科臨床講習会」と称する会において、A助教授から歯科矯正医療技術や経営のノウ・ハウについて、個人的に直接指導をしてもらったことに対する同助教授への授業料である旨主張する。 しかし、原告の主張を裏づけるに足る証拠はなく、原告が主張するような研修が実施され、これに一回当たり二〇万円あるいは三〇万円もの高額な研修費が支出されているとは認めることができない。 4 旅費交通費別表七記載の旅費交通費につき、原告は、右曽根矯正歯科の講習会出席への交通費である旨主張しているところ、右交通費は必要経費として認められない詣会費・研究会費に関連する旅費交通費であるから、必要経費に計上することを認めることはできない。また、健康診断及び大学の同窓会のための交通費も必要経費とは認めることができない。 なお、原告 られない詣会費・研究会費に関連する旅費交通費であるから、必要経費に計上することを認めることはできない。また、健康診断及び大学の同窓会のための交通費も必要経費とは認めることができない。 なお、原告は、昭和六一年四月二二日、IACEトラベルに対して支出した金三一万円につき、原告が教わった先生の弟子であり米国の矯正学の権威者であった故C医師の一周忌に、東京医科歯科大学教授の依頼により、日本代表として出席したときの費用であって、到底私事ではかたづけられるものではない等として、必要経費に該当する旨を主張する。しかしながら、右C医師と原告とが師弟関係あるいはこれに類する関係にあり、又は原告が日本代表として出席したとの点が事実であったとしても、原告の事業の遂行のために直接関連するものとは認められないから、必要経費に算入することはできない。 5 福利厚生費本件全証拠に照らしても、昭和六二年六月一一日に支出している健康診断料金四万九〇〇〇円は、必要経費として認められない。 三小括以上によれば、別表一ないし三記載の被告の更正処分及び同表記載の過少申告加算税賦課決定処分(但し過少申告加算税賦課決定処分については審査裁決により一部取り消された後のもの)は適法なものとして是認できる。昭和六二年分の事業所得の金額は三〇四九万八七四五円と認められるけれども、この点は右各処分の適法性を左右するものではない。 第四結論よって、原告に対する被告の本件各処分はいずれも適法なものであるから、原告の本訴請求はいずれも理由がなく棄却すべきである。 (裁判官朴木俊彦近藤壽邦三浦隆志)別表四~八(省略) 主文 浦隆志)別表四~八(省略)

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