令和6(わ)19 保護責任者遺棄致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年10月29日 青森地方裁判所
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判決文本文13,417 文字)

令和7年10月29日宣告保護責任者遺棄致死被告事件(令和6年(わ)第19号) 主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は、A(当時5歳)及びAの実母である分離前相被告人Bらと生活を共にするなどし、BとともにAを保護する責任のあったものであるが、Bと共謀の上、令和6年1月7日午後5時過ぎ頃、青森県八戸市(住所省略)当時の被告人及びB方において、被告人がAを暖房設備のない浴室に連れて行き、着衣を身につけたままのAを水で濡らし、Aに対し、水のたまった浴槽内に入ってとどまるよう命じて、Aを同浴槽内に入れ、Aが着衣を身につけたまま水に濡れるとともに更に水に濡れることを避け難い状態にして、Aを同浴室に置き去りにし、その頃から同日午後9時30分頃までの間、Aを同浴室に放置して遺棄し、よって、同日午後10時48分頃、搬送先である同市(住所省略)C病院において、Aを低体温症による急性循環不全により死亡させた。 (事実認定の補足説明) 1 被告人は、公判で、判示の日時場所において、Aを浴室に連れて行き、洗い場に「立ってろ」と言い、その場に置き去りにしただけであり、Aを水で濡らしたり、水のたまった浴槽内に入ってとどまるよう命じて、Aを浴槽内に入れたりしたことはなく、Aを浴室に放置したつもりもない旨供述し、弁護人も、被告人の公判供述に依拠して、被告人は無罪であると主張する。 本件の争点は、①被告人が、刑法218条の保護責任者遺棄罪の実行行為である「遺棄」に当たる行為を行ったか、②被告人に「遺棄」の故意があるか、③被告人の行為とAの死亡との間に因果関係があるかである。 2 関係証拠によれば、以下の事実が 任者遺棄罪の実行行為である「遺棄」に当たる行為を行ったか、②被告人に「遺棄」の故意があるか、③被告人の行為とAの死亡との間に因果関係があるかである。 2 関係証拠によれば、以下の事実が容易に認められる。 ⑴ 被告人は、令和4年11月頃、Bと交際を開始し、令和5年6月頃から、青森県八戸市内にある被告人の両親方で、B、Bの長女であるA(当時4歳)及びAの弟(当時0歳)と同居するようになった。被告人は、同年10月頃、Bらとともに両親方を離れて、判示のアパート(以下「被告人方」という。)に転居し、以後、被告人、B、A、Aの弟の4人で生活していた。 ⑵ 被告人及びBは、日常的に、Aをせっかんするなど虐待していた。当初はBがAに暴行を加えるなどしていたが、遅くとも前記転居以降、うつ病や妊娠等の影響によりBの体調が悪くなっていくと、次第に被告人が、BからAへの不満を聞き、自ら暴行を加えるなどするようになった。 被告人は、令和5年11月頃から、更にAを懲らしめるためのせっかんの方法として、嫌がるAを暖房設備のない浴室に無理やり連れて行き、着衣を身に着けたままのAに対し、シャワーの水をかけるなどして濡らし、Aを浴室に置き去りにして放置し、Aを凍えさせるなどの行為(以下「濡らしせっかん」という。)を繰り返すようになった。被告人及びBは、互いに、相手もAを虐待していることを把握しており、Bは、被告人による濡らしせっかんを認識しつつも制止することなく容認していた。濡らしせっかんは、Aが自ら浴室から出て終わるのではなく、被告人又はBが、浴室に放置されたAを迎えに行き、Aの凍えた身体をシャワーの湯で温めてから出していた。両名の間で、いつ誰がAを浴室に迎えに行くのかなどについて話題になったことはなく、その時々の状況に応じて、Aを浴室から出してい たAを迎えに行き、Aの凍えた身体をシャワーの湯で温めてから出していた。両名の間で、いつ誰がAを浴室に迎えに行くのかなどについて話題になったことはなく、その時々の状況に応じて、Aを浴室から出していた。 ⑶ 被告人は、令和6年1月7日(以下「本件当日」という。)午後5時過ぎ頃、買い物を終えて帰宅したBから、A(当時5歳)が座っていた居間の床面が濡れていると聞かされ、Aが尿を漏らしたと考え、Aを問い詰めたが、Aが尿を漏らしたことを認めなかったこと等に腹を立てるなどし、嫌がるAの手を引っ張ってAを浴室に連れて行った。その約1分後、被告人は、Aを浴室に置き去 りにし、一人で居間に戻り、近くにいたBに対し、「具合悪いのに怒らせるなよ」などと言って、布団の上に横になった。Bは、被告人の前記行動を見て、被告人が、従前と同様、Aに対し、濡らしせっかんをしていることを認識したが、それを制止することなく容認した。 その後、Aは、約4時間半にわたって浴室内に放置され続けた。Bが、同日午後9時30分頃、Aを連れ出すために浴室へ行ったところ、水(水位約14. 5センチメートル)のたまった浴槽内で、水に濡れた着衣(長袖シャツ、半袖シャツ、スパッツ、おむつ)を身に着けた状態でうつ伏せに倒れているAを発見した。Bは、寝室で寝ていた被告人を呼び寄せ、119番通報をした。Aは、C病院に救急搬送されたが、同日午後10時48分頃、死亡した。 ⑷ 本件当日午後6時頃から同日午後9時頃までの青森県八戸市内の外気温は、約マイナス1.2度から約マイナス0.9度であり、当時の被告人方浴室内の気温は、約8度と推定される。 司法解剖の結果等によれば、Aの死因は、低体温症による急性循環不全である。Aが死に至った機序は、外気温が低い状況下、着衣が水に濡れた状態で暖房設備 の被告人方浴室内の気温は、約8度と推定される。 司法解剖の結果等によれば、Aの死因は、低体温症による急性循環不全である。Aが死に至った機序は、外気温が低い状況下、着衣が水に濡れた状態で暖房設備のない浴室内に長時間放置されたことによって低体温症に陥り、運動障害や意識障害等が生じ、やがて不整脈等が生じたことで急性循環不全になり、死亡したものと推定される。加えて、Aは当時5歳であり、成人と比べて一般に低体温を来しやすい上、成長不良・栄養不良であったことが示唆され、正常の成長・栄養状態にある5歳児に比べても低体温症のリスクが高いと考えられる。 なお、Aの全身には、鈍体の打撲・圧迫によるものと判断される新旧混在した多数の変色が認められるが、それらは死因ではないと考えられる。その他、単独で急死の原因となる所見は認められない。 3 Bの公判供述について⑴ Bは、公判で、要旨、次のとおり供述する。 ア令和5年11月頃から、被告人がAに対し、濡らしせっかんをするようになった。週に一、二回程度していたと思う。私が入浴以外の目的でAを浴室に連れて行ったことはなく、直接濡らしせっかんをしたことはない。当時私にはAを心配する気持ちはなく、被告人の怒りの矛先が自分に向くのが怖かったという気持ちもあり、被告人の濡らしせっかんを止めなかった。私がAを浴室に迎えに行くタイミングは、Aを浴室外に出した場合に被告人が怒らないかどうかをその場の雰囲気等で判断するなどして、その都度決めていた。 長いときは、Aを2時間くらい放置することもあった。その間、被告人から、浴室に放置されたAの様子を見ておいてほしいとか浴室の外に出してほしいとか頼まれたことはない。私がAを迎えに浴室へ行くと、Aは濡れた着衣を身に着けた状態で浴槽内に放置されていた。濡らしせっ 人から、浴室に放置されたAの様子を見ておいてほしいとか浴室の外に出してほしいとか頼まれたことはない。私がAを迎えに浴室へ行くと、Aは濡れた着衣を身に着けた状態で浴槽内に放置されていた。濡らしせっかんの際、Aが自ら浴室から出たことはない。Aが一度だけ自ら浴槽の中から洗い場に出て、被告人に怒鳴られて浴槽内に戻されたことがあり、以後、Aが自ら浴槽の中から洗い場に出たことはない。本件以前に2回、被告人が浴室内でAを水で濡らしているのを見たことがある。1回目は、浴槽内に立たせてシャワーの水をかけていた。2回目は、水のたまった浴槽内に座らせて水に浸からせていた。 イ本件当日、被告人が嫌がるAの腕などをつかんで浴室に連れて行った。その前日か前々日に、浴槽に水(水位約14.5センチメートル)がたまっているのを見ていたので、本件当日も浴槽に水がたまっていると思っていた。 私は、被告人がいつもどおりAに濡らしせっかんをして浴槽の中に放置するのだろうと思ったが、止めなかった。被告人は、1分くらいで居間に一人で戻ってきた後、私に「具合悪いのに怒らせるなよ」と怒鳴ったが、「Aを頼むわ」などとは言われていない。浴室から、Aの「ごめんなさい、ごめんなさい」という声が聞こえてきたが、私は何も思わず、Aを浴室に放置した。 午後7時30分頃から午後8時頃までの間に、寝室で横になっていた被告人 に居間の電気を消すよう言われ、立ったついでに浴室内に放置していたAの様子を見に行くと、Aは浴槽内で下を向いて立っていた。被告人がどれくらい怒っているか分からず、まだ出すのは早いと思い、そのまま放置を続けた。 午後9時30分頃、被告人が寝た様子だったので、Aを連れ出すために浴室へ行くと、水のたまった浴槽内でうつ伏せに倒れていた。 ⑵ そこで、B供述の信用性について検討 いと思い、そのまま放置を続けた。 午後9時30分頃、被告人が寝た様子だったので、Aを連れ出すために浴室へ行くと、水のたまった浴槽内でうつ伏せに倒れていた。 ⑵ そこで、B供述の信用性について検討すると、Bは、捜査段階の当初、被告人及び自己の関与を否定していたが、本件発生から8日後の令和6年1月15日に行われた任意の取調べで、自白に転じると同時に被告人の関与についても認め、その後の取調べや自身の公判でも同様の供述をしており、自白後の供述が基本的に一貫している。また、Bは、共犯者ではあるが、自身の公判で罪を認め、懲役9年の有罪の判決を受け、同判決はBが上訴権を放棄して既に確定し、Bの公判供述は、同人が服役中になされたものであって、Bの刑に与える影響はないから、Bが自己の責任軽減を図るために虚偽の供述をするおそれは高くない。さらに、B供述の内容は、B自身がAに暴行を加えていたことなど自己に不利益な事実を含めて従前の虐待の状況や本件当日の状況等が具体的に述べられている上、記憶が曖昧なところや分からないところはその旨が率直に述べられており、虚偽の供述をしている様子もうかがわれない。そして、B供述の内容が不自然、不合理であるとか客観的証拠に抵触するとかという点も見当たらない。 以上によれば、Bの公判供述は、全体として信用性の高いものであるということができ、この判断は、Bには被告人に責任転嫁を図るために虚偽の供述をする可能性がある旨の弁護人の主張を踏まえて検討しても動かない。 4 被告人が、着衣を身に着けたままのAに対し、水のたまった浴槽内に入ってとどまるよう命じて、Aを浴槽内に入れたことについて⑴ 浴槽に水がたまっていたこと前記2で認定した事実経過及びB供述によれば、本件当日の午後9時30分 頃、Bが浴槽内でAを発見し てとどまるよう命じて、Aを浴槽内に入れたことについて⑴ 浴槽に水がたまっていたこと前記2で認定した事実経過及びB供述によれば、本件当日の午後9時30分 頃、Bが浴槽内でAを発見したとき、浴槽に水(水位約14.5センチメートル)がたまっていたところ、被告人が同日午後5時過ぎ頃にAを浴室に置き去りにして居間に戻って以降、被告人又はBが浴槽に水をためた事実はないと認められ、当時そのような行為をした第三者の存在もうかがわれない。また、Aは、従前から濡らしせっかんを受ける度に身体が凍えるなどの辛い経験をしており、本件当日も、被告人に浴室に連れて行かれようとしただけで強く拒否し、嫌がっていたことからすれば、Aが自ら浴槽に水をためたとは考え難い。さらに、被告人がAを浴室に連れて行ってから居間に戻ってくるまでの時間は1分程度であったことからすると、そのような短時間で空の浴槽に水位が約14. 5センチメートルに達するまで水がたまったとも考え難い。加えて、これらの事情は、本件の前日か前々日に、浴槽に水(水位約14.5センチメートル)がたまっているのを見た旨のBの公判供述と整合する。以上によれば、本件当日、被告人がAを浴室に連れて行った時点で、水位が正確に14.5センチメートルであったかはともかくとして、浴槽に水が一定程度たまっており、かつ、Aを浴室に置き去りにした時点でも、浴槽に水がたまっていたことを合理的に推認することができる。 これに対し、被告人は、公判で、当時の被告人方の生活状況等に照らすと、浴槽にためた水が何日も残っていることはあり得ないなどと供述する一方、本件当日、Aを浴室に連れて行ったとき、浴槽の中を確認しておらず、水がたまっていたかどうかは分からないと述べるにとどまり、前記認定を左右するものではない。 ⑵ 被告人がA いなどと供述する一方、本件当日、Aを浴室に連れて行ったとき、浴槽の中を確認しておらず、水がたまっていたかどうかは分からないと述べるにとどまり、前記認定を左右するものではない。 ⑵ 被告人がAに対し、浴槽内に入ってとどまるよう命じて、Aを浴槽内に入れたこと前記認定の事実経過及びB供述によれば、本件当日、被告人による置き去りから約2時間半ないし約3時間経過後の午後7時30分頃から午後8時頃の時点で、Aは水のたまった浴槽内で下を向いて立っていた事実が認められるとこ ろ、被告人が同日午後5時過ぎ頃にAを浴室に置き去りにして居間に戻って以降、被告人又はBがAを浴槽に入れた事実はないと認められ、当時そのような行為をした第三者の存在もうかがわれない。また、前述したAが置かれていた状況やAの心理状態等に照らせば、Aが進んで自ら水のたまった浴槽内に入ってとどまり続けたとは考え難い。加えて、被告人は、従前の濡らしせっかんではAを浴槽内に立たせていた。これらの事情によれば、本件当日、被告人がAに対し、従前と同様、浴槽内に入ってとどまるよう命じて、Aを浴槽内に入れたことを合理的に推認することができる。 これに対し、被告人は、公判で、Aに対し、洗い場に「立ってろ」と言っただけであり、浴槽内に入ってとどまるよう命じて、Aを浴槽内に入れたことはないと供述する。しかし、被告人が洗い場に「立ってろ」と言ったにすぎないのであれば、Aはそれに従えばよく、進んで自ら水のたまった浴槽内に入ってとどまる必要はないのであって、被告人の命令があったからこそ凍えた状態で低体温症等に陥るまで浴槽内にとどまらざるを得なかったとしか考えられない。 したがって、被告人の前記公判供述は信用し難いものであり、これにより前記認定が左右されるものではない。 5 被告人が、着衣を身 体温症等に陥るまで浴槽内にとどまらざるを得なかったとしか考えられない。 したがって、被告人の前記公判供述は信用し難いものであり、これにより前記認定が左右されるものではない。 5 被告人が、着衣を身に着けたままのAを水で濡らしたことについて⑴ 前記認定の事実経過及びB供述によれば、本件当日の午後9時30分頃、Aは、身に着けた着衣が水に濡れた状態で浴槽内で発見されたところ、被告人が同日午後5時過ぎ頃にAを浴室に置き去りにして居間に戻って以降、被告人又はBが浴室内で着衣を身に着けたままのAにシャワーの水をかけるなどして濡らした事実はないと認められ、当時そのような行為をした第三者の存在もうかがわれない。また、前述したAが置かれていた状況やAの心理状態等に照らせば、Aが進んで自ら身体にシャワーの水をかけるなどして濡れたとは考え難い。 さらに、被告人は、従前の濡らしせっかんでは、Aにシャワーの水をかけるなどして濡らしていた。これらの事情からすれば、本件当日、被告人がAに対し、 従前と同様、浴室内でシャワーの水をかけるなどして濡らしたことを一定程度推認することができる。 ⑵ 被告人の捜査段階の供述についてアそして、被告人は、検察官調書(乙18)において、本件当日、浴室内で着衣を身に着けたままのAにシャワーの水をかけて濡らした旨を供述しているところ、その供述は、前記の事実経過に基づく推認におおむね合致している上、その内容も、「Aと向かい合った状態で、右手でシャワーヘッドを持ち、左手で蛇口の冷水が出るほうの栓を二、三回くらい回してシャワーヘッドから冷水を出し、シャワーヘッドを少し左右に振りながら、立っているAの胸の辺りに二、三秒くらい冷水をかけ続けた。その後、いったんシャワーヘッドを下に向け、左手で蛇口の湯が出るほうの栓を1回転半く ドから冷水を出し、シャワーヘッドを少し左右に振りながら、立っているAの胸の辺りに二、三秒くらい冷水をかけ続けた。その後、いったんシャワーヘッドを下に向け、左手で蛇口の湯が出るほうの栓を1回転半くらい回して、シャワーヘッドから出てくる水が冷水と湯が混ざる状態にし、水の温度が気休め程度のぬるま湯くらいになるのを確かめた上、シャワーヘッドを左右に揺らしながら、Aの胸の辺りに2秒くらいぬるま湯をかけ続けた」などという行為態様を具体的かつ詳細に述べるものであり、直接体験した者でなければ述べられないような迫真性を有している。そして、その供述内容が格別不自然、不合理であるとか客観的証拠に抵触するとかという点も見当たらない。 したがって、被告人の前記検察官調書は、Bの公判供述と符合する限りで、その信用性を肯定することができる。 イこれに対し、弁護人は、被告人の捜査段階の供述は変遷しており信用できないと主張する。そこで、被告人の供述経過を見ると、被告人は、当初、BがAを浴室に連れて行ったなどと述べていたが、Bの供述内容等を知ると、被告人が嫌がるAを浴室に無理やり連れて行き、しつけのためAにシャワーの水をかけて濡らしたことを認めるに至り、また、逮捕後の検察官の弁解録取において、Aを湯船に浸からせるため浴槽内にシャワーで湯をためた際、出始めの水がAにかかったかもしれないなどと述べたが、その後、警察官が 実施した「浴槽内に湯を入れて温度変化を確かめる実験」で被告人の同弁解に沿わない結果が出たことを指摘されると、「これまで刑務所に入るのが怖く、本当のことを話せば自分の刑期が長くなると思い、嘘の話をしていたが、実際には、しつけのため、Aに故意にシャワーで水をかけた」旨を供述するに至り、以後、本件で起訴されるまで同供述を維持していた。このような被 ことを話せば自分の刑期が長くなると思い、嘘の話をしていたが、実際には、しつけのため、Aに故意にシャワーで水をかけた」旨を供述するに至り、以後、本件で起訴されるまで同供述を維持していた。このような被告人の供述経過は、自己保身のため極力事実を否認しようとしたが、否認を突き通すことができないような証拠を突き付けられると、やむなくそれに即応した事実は認めるが、新たに自分に都合のよい弁解を考え出して供述を変遷させたものとみるべきであり、これにより、被告人が浴室内で着衣を身に着けたままのAにシャワーの水をかけて濡らしたという、被告人の前記検察官調書の核心部分の信用性を揺るがすものではない。 また、被告人は、公判では、「本件当日、浴室でAを水で濡らしていない。 捜査段階では、Bをかばうため、あるいは、投げやりな気持ちから、虚偽の供述をした」旨を供述する。しかし、被告人が、捜査段階の当初、BがAを浴室に連れて行ったなどと嘘の弁解をしていたことや、公判で、BがAを水で濡らしたと思うなどと不合理な弁解をしていること等からすると、Bをかばうために殊更自己に不利な虚偽の自白をした疑いは少ないと考えられる。 また、関係証拠を検討しても、被告人の取調べ状況自体に特段問題は見られず、投げやりな気持ちから虚偽の自白をしたという説明についても納得できるものではない。したがって、被告人の公判供述は、前記検察官調書の信用性を揺るがすものではない。 ⑶ 弁護人は、本件当日、被告人が浴室でAを水で濡らしたことを否定的に評価する事情として、①本件当日、被告人は高熱が出て体調が悪かったこと、②従前の濡らしせっかんでは、被告人がAを浴室に連れて行き、Aを水で濡らした後、Aを置き去りにして居間に戻ってくるのに5分程度かかっていたのに対し、本件当日は1分程度で居間に戻ってきており、 こと、②従前の濡らしせっかんでは、被告人がAを浴室に連れて行き、Aを水で濡らした後、Aを置き去りにして居間に戻ってくるのに5分程度かかっていたのに対し、本件当日は1分程度で居間に戻ってきており、浴室でAを水で濡らす時間的余 裕はなかったと考えられること、③居間にいたBが、浴室から、「ドン」という何かがぶつかるような音を聞いている一方、シャワーの音を聞いていないことなどを挙げる。しかし、①については、本件当日、被告人は、尿を漏らしたことを認めなかったAに腹を立て、Aを懲らしめるために嫌がるAを無理やり浴室に連れて行き、Bに対し、「具合悪いのに怒らせるなよ」と怒鳴っていることなどに照らせば、当時被告人の体調が悪かったことを踏まえても、従前の濡らしせっかんと同様、被告人がAを水で濡らすことは十分あり得ると考えられる。②については、被告人の前記検察官調書の内容等からすれば、1分程度で居間に戻ってきたという被告人の行動状況等を踏まえても、被告人が浴室でAを水で濡らすことは時間的に可能であったと考えられる。③については、当時Bにとって被告人の濡らしせっかんは常態化しており、浴室内の状況を特に意識していた様子はうかがわれない上、Bは居間でゲームをしており、同所に設置されたテレビからパチンコ動画の音声も流れていたことや、被告人の前記検察官調書によれば、被告人がAにシャワーの水をかけるなどして濡らしたのが短時間であったことからすれば、シャワーから出る水の勢いなどの事情によっては、Bがシャワーの音に気付かなかった可能性も考えられる。 ⑷ 以上によれば、本件当日、被告人が、浴室で着衣を身に着けたままのAを水で濡らした事実を認定することができる。 6 以上の認定事実を前提に、各争点について判断する。 ⑴ 争点①(被告人が、刑法218条の保護 れば、本件当日、被告人が、浴室で着衣を身に着けたままのAを水で濡らした事実を認定することができる。 6 以上の認定事実を前提に、各争点について判断する。 ⑴ 争点①(被告人が、刑法218条の保護責任者遺棄罪の実行行為である「遺棄」に当たる行為を行ったか)について被告人は、真冬の氷点下の日に、当時5歳の薄着をした状態のAを、暖房設備がなく室温が約8度と推定される浴室内に無理やり連れて行き、着衣を身に着けたままのAを水で濡らし、Aに対し、水のたまった浴槽内に入ってとどまるよう命じるなどして、Aを一人浴室に置き去りして、放置している。 そして、本件時浴室のドアは完全に閉め切られていなかったため、Aが自 ら浴室から出ることは物理的には可能であったといえるが、当時5歳のAは、周囲の助力なしには自己の健康への危険を回避する能力が低いと考えられる幼児である上、周囲から孤立した閉鎖的な生活環境に置かれ、本来であれば助けてくれるはずの被告人とBから日常的に虐待を受けており、従前の濡らしせっかんの際も、被告人に逆らって浴槽から出たことなどは基本的になかったというのであるから、本件当日、Aが心理的に被告人に逆らって浴槽から出て浴室の外に出るなどの危険回避行為をすることは著しく困難であったと認められる。また、前述したとおり、当時Aは、被告人方において、被告人、B及びAの弟と4人暮らしであり、Aが放置された浴室は、被告人及びB以外の第三者に助けを求めることができない場所にあった。そして、Bは、従前から被告人とともにAを虐待していた上、被告人による濡らしせっかんを認識しつつも制止することなく容認しており、このような従前の経緯や本件当日の状況等に照らすと、共犯者であるBが早期にAを浴室から連れ出す現実的な可能性も低い状況にあったと認められ、当時そ せっかんを認識しつつも制止することなく容認しており、このような従前の経緯や本件当日の状況等に照らすと、共犯者であるBが早期にAを浴室から連れ出す現実的な可能性も低い状況にあったと認められ、当時そのような行動を期待できる第三者も周囲に存在しなかった。 これらの事情によれば、本件当日の状況下、被告人が、Aを暖房設備のない浴室に連れて行き、着衣を身に着けたままのAに対し、水のたまった浴槽内に入ってとどまるよう命じるなどして、Aを浴室に置き去りにして放置する行為自体、Aを更に水に濡れることを避け難い状態にして低体温症等に陥らせるなどの危険性を持つ行為であり、保護責任者遺棄罪による処罰に値する程度にAの健康を害する危険性を有する行為、すなわち「遺棄」に当たる行為と認めるのに十分である。加えて、被告人が、着衣を身に着けたままのAにシャワーの水をかけるなどして濡らしたことは、被告人の行為が「遺棄」に当たることをなお一層肯定するものであるといえる。 ⑵ 争点②(被告人に「遺棄」の故意があるか)についてア本件当日のような真冬の氷点下の日に、当時5歳の薄着をしたAが、暖房 設備がなく室温が約8度と推定される浴室内に連れて行かれ、着衣を身に着けたままの状態で水で濡らされ、水のたまった浴槽内に入って長時間とどまり続けた場合、常識的に考えても、Aの健康に問題が生じかねないことは明らかであり、被告人もその危険について認識していたものと認められる。そして、被告人は、濡らしせっかんをすると、Aが凍えてその身体が冷たくなることを認識していた上、Aが被告人を怖がっており、被告人の命令に逆らって自ら浴槽から出たり浴室の外に出たりする可能性が低いことも認識していたと認められる。また、Bは、従前から被告人による濡らしせっかんを認識しつつも制止することな を怖がっており、被告人の命令に逆らって自ら浴槽から出たり浴室の外に出たりする可能性が低いことも認識していたと認められる。また、Bは、従前から被告人による濡らしせっかんを認識しつつも制止することなく容認しており、被告人もそのことを認識していた。加えて、従前の濡らしせっかんの際、Aが2時間程度放置されることもあったという経緯も考え合わせると、本件当日、被告人及びBは、状況によってはAを放置するのが長時間にわたる可能性があることを各認識しており、互いにその旨の意思を通じ合っていたと認められる。 これらの事情によれば、被告人は、Aを浴室に置き去りにして放置した段階で、保護責任者遺棄罪による処罰に値する程度にAの健康を害する危険性を認識していたと認めるのが相当である。したがって、被告人に「遺棄」の故意があると認められる。 イこれに対し、被告人は、公判で、「Aを浴室に置き去りにして居間に戻ってきた後、自分は体調不良で寝た。その際、Bに「Aを頼むわ」と言っており、BがAを外に連れ出すと思っていた。約4時間半もAを浴室に放置するつもりはなかった」旨供述する。しかし、そもそも被告人がBに対し、「Aを頼むわ」と言ったという供述部分については、信用できるB供述に反する上、被告人が、Aを置き去りにしてから約2時間半ないし約3時間後、Bに居間の電気を消すように伝えた時点で、未だAが浴室にいる可能性を認識したにもかかわらず、被告人にAを気遣う様子は見られず、その後もAを放置し続けていることと整合しない。また、弁護人が主張するとおり、従前から 被告人は濡らしせっかんを繰り返しており、それらの際にはAが本件時よりも早く浴室外に連れ出され、Aの健康に重大な問題が生じていなかったことから、本件当日、被告人において、Aが重度の低体温症等に陥る蓋然 告人は濡らしせっかんを繰り返しており、それらの際にはAが本件時よりも早く浴室外に連れ出され、Aの健康に重大な問題が生じていなかったことから、本件当日、被告人において、Aが重度の低体温症等に陥る蓋然性を具体的に予測していなかったとしても、それは危険を軽く考えていたといえるだけであって、前述した危険性の認識を妨げるものではない。したがって、被告人の公判供述を踏まえて検討しても、前記認定が左右されるものではない。 ⑶ 争点③(被告人の行為とAの死亡との間に因果関係があるか)について前述したとおり、被告人は、Bと共謀の上、Aを遺棄しているところ、被告人らの遺棄行為は、Aを低体温症等に陥らせる危険性を持つ行為であり、低体温症は不整脈等による急性循環不全による死亡の結果をもたらし得る症状である。そして、浴室内に放置されたAの低体温症が進行して死亡の結果発生までの間に、Aが水のたまった浴槽内で転倒したり座り込んだりするなどして更に水に濡れたという事情が介在していたとしても、それは被告人らの遺棄行為から誘発された、あり得る事態といえるから、被告人らの遺棄行為とAの死亡との間の因果関係を否定する事情になるとは解されない。そうすると、Aの死亡は、まさに被告人の行為の危険性が現実化したものであり、両者の間に因果関係を認めることができる。 7 結論以上の次第で、被告人に保護責任者遺棄致死罪の成立を肯定した。 (量刑の理由)本件犯行の態様は、被告人らから日常的な虐待を受け、その命令に逆らうことが著しく困難であった当時5歳のAに対し、Aが居間で尿を漏らしたことを認めなかったことなどから、せっかんとして、真冬で外気温が氷点下の中、嫌がるAを薄着の状態のまま暖房設備のない浴室に無理やり連れて行き、着衣を身に着けたままのAを水で濡らし、水のたまった したことを認めなかったことなどから、せっかんとして、真冬で外気温が氷点下の中、嫌がるAを薄着の状態のまま暖房設備のない浴室に無理やり連れて行き、着衣を身に着けたままのAを水で濡らし、水のたまった浴槽内に入ってとどまるよう命じるなどして置き去 りにし、約4時間半もの長時間にわたり浴室内に放置したというもので、それ自体、陰惨かつAの生命等への危険性の高い悪質なものである。被告人らは、日常的にAに暴行を加えるなどの虐待を繰り返し、令和5年11月頃からは、被告人が本件同様の濡らしせっかんをするようになるなど虐待をエスカレートさせていく中で、本件犯行に及んだというもので、その身勝手な動機、経緯に酌量の余地はなく、Aの法益を軽視する態度は甚だしい。 元々明るく元気であった当時5歳のAを理不尽にも死亡させた結果は重大である。 Aは、周囲に被告人とBしか頼る人がいないという孤立した環境に置かれ、日常的に被告人らから虐待を受けた挙げ句、本件犯行により冷たく寒い浴槽の中に長時間立たされ、繰り返し謝っても誰も助けてくれないという絶望的な状況の中、徐々に体温が低下して衰弱していき、ついに亡くなったのであり、Aが極めて大きな恐怖や苦痛を感じたであろうことは察するに余りある。遺族であるAの祖母が深い悲しみと強い憤りを示しているのも当然である。 そして、被告人は、Aに罰としてより大きな恐怖や苦痛を感じさせるため、濡らしせっかんという方法を自ら考案して繰り返した上、本件当日も、主要な実行行為を行うなど本件犯行を主導しており、その責任は共犯者のBと比べて重い。 以上の事情からすれば、本件は、同種事案(保護責任者遺棄致死、共犯、処断罪と同一又は同種の件数:1件、被告人から見た被害者の立場:子)の中で、重い部類に属する事案と評価すべきであり、被告人の刑事責任は 上の事情からすれば、本件は、同種事案(保護責任者遺棄致死、共犯、処断罪と同一又は同種の件数:1件、被告人から見た被害者の立場:子)の中で、重い部類に属する事案と評価すべきであり、被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ない。 加えて、被告人は、公判で、Aに責任を転嫁するなどの不合理な弁解に終始し、自身の罪と向き合う姿勢を示さず、反省の情をうかがうことはできない。そうすると、前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を考慮しても、被告人に対しては、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑:懲役15年)令和7年10月29日 青森地方裁判所刑事部 裁判長裁判官藏本匡成 裁判官三塚祐太郎 裁判官大井俊哉

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