平成11(ワ)19 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成15年2月7日 前橋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6321.txt

判決文本文20,569 文字)

平成15年2月7日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官高瀬美喜男平成11年(ワ)第19号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成14年9月13日判決 主文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金1億2296万4823円及びこれに対する平成10年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して金275万円及びこれに対する平成10年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して金275万円及びこれに対する平成10年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告らの負担とし,その余は被告らの負担とする。 6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金2億0542万0873円及びこれに対する平成10年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して金550万円及びこれに対する平成10年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して金550万円及びこれに対する平成10年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告Aとその父である原告B及び母である原告Cが,被告医療法人一灯会(以下「被告法人」という。)の代表者であり医師である被告Dの過失により,原告Aが仮死状態で出生し,現在首も据わらない状態にあるなど甚大な損害を被ったとして,被告Dに対しては民法709条に基づき,被告法人に対しては債務不履行又は民法7 あり医師である被告Dの過失により,原告Aが仮死状態で出生し,現在首も据わらない状態にあるなど甚大な損害を被ったとして,被告Dに対しては民法709条に基づき,被告法人に対しては債務不履行又は民法715条(なお,被告Dが被告法人の代表者であることから,原告らは医療法68条,民法44条1項に基づく請求も黙示にしているものと解する。)に基づき,それぞれ連帯して原告らが負った損害を賠償するよう求めたのに対し,被告らが,被告Dの医療行為に過失はないなどとして,原告らの請求を争っている事案である。 第3 争いのない事実 1 当事者(1) 原告B及び原告Cは,原告Aの父と母である。 (2) 被告法人は,群馬県伊勢崎市において新生産婦人科医院(以下「被告病院」という。)を営む医療法人である。また,被告Dは,被告法人の代表者であり,被告病院の産婦人科医である。 2 原告Cの分娩の経過(1) 原告Cは,同人の第2子となる原告Aを妊娠したことから,平成9年7月1日,被告法人との間で,診察及び出産についての診療契約を締結した。 (2) 原告Cは,同年8月11日,不正性器出血のため被告病院を受診した際,被告Dから流産のおそれがあると診断され,同日被告病院に入院し,同月23日に子宮口を糸で縛る子宮頚管縫縮術を受け,同月30日に退院した。 (3) 原告Cは,出産予定日である平成10年3月7日を過ぎても陣痛がないため,同月16日,被告病院に入院し陣痛促進剤の投与を受けることとなった。 (4) 同日,被告Dは,原告Cに対し,頚管拡張のために風船(メトロイリーゼ)を挿入し,翌17日朝これを抜き取って,同日8時30分ころ(以下,平成10年3月17日の出来事を記す際に時刻(24時間制)のみを記載することもある。)には陣痛促進剤(プロスタグランジンE2)を1錠投与した。 その後の投 これを抜き取って,同日8時30分ころ(以下,平成10年3月17日の出来事を記す際に時刻(24時間制)のみを記載することもある。)には陣痛促進剤(プロスタグランジンE2)を1錠投与した。 その後の投薬の経過は,以下のとおりであった。 9時30分プロスタグランジンE2を1錠投与10時30分同11時30分同12時30分同13時30分同14時30分同15時30分同16時25分プロスタグランジンF2α(陣痛促進剤)を毎時15ミリリットルの割合で点滴静注17時05分プロスタグランジンF2αを毎時20ミリリットルの割合で点滴静注21時05分プロスタグランジンF2αを毎時25ミリリットルの割合で点滴静注(5) 原告Cは,同日23時ころ,原告Aを娩出したが,原告Aは仮死状態であった。 (6) 娩出後,原告Aは,チューブ・バグによる人工呼吸やメイロンの投与などの蘇生術を施され,同月18日午前零時20分ころ,群馬県立小児医療センターに搬送された。 第4 争点 1 被告Dの過失(注意義務違反)の有無 2 原告Aが仮死状態となった時点 3 原告らの損害の有無及びその額第5 争点に対する当事者の主張 1 争点1について(原告らの主張)(1) 縫縮糸の抜糸被告Dは,原告Cに対し,子宮頚管縫縮術を施していたのであるから,妊娠末期である38週に達したころに縫縮糸を抜糸すれば,経産婦である原告Cに自然な分娩が始まった可能性が高かったにもかかわらず,これを怠った過失がある。 (2) 医学的適応を欠く陣痛促進剤の投与陣痛促進剤を使用した場合,過強陣痛や子宮破裂などが生じ,胎児仮死や妊産婦死亡などの事故が起きる危険があるので,同剤を使用するのは医学的適応があると認められる場合に限られるべきである。 被告Dは,原告Cに対し,出産予定日を10日過ぎた平 宮破裂などが生じ,胎児仮死や妊産婦死亡などの事故が起きる危険があるので,同剤を使用するのは医学的適応があると認められる場合に限られるべきである。 被告Dは,原告Cに対し,出産予定日を10日過ぎた平成10年3月17日,過期妊娠であるとして陣痛促進剤を投与した。しかし,過期妊娠は妊娠42週を過ぎた状態をいうのであるから,妊娠41週であった原告Cはこれには当てはまらなかった。被告Dは,同日においては縫縮糸を抜糸して自然な分娩の開始を待つべきであった。縫縮糸を抜糸せず,かつ,妊娠42週に達していない時期に陣痛促進剤を投与したことには医学的適応がなく,被告Dには,同剤を投与して計画出産を行った過失がある。 (3) 陣痛促進剤の過剰な投与陣痛促進剤であるプロスタグランジンE2は,1回1錠を1時間ごとに6回投与することを1クールとして,それでも効果が認められないときは,翌朝あるいはそれ以降に投与を再開すべきところ,被告Dは,原告Cに対し,平成10年3月17日午前8時30分ころから同日午後3時30分ころまでの間に合計8錠投与した。 また,同日午後4時25分ころから同じく陣痛促進剤であるプロスタグランジンF2αの点滴静注を開始した。原告Cは,上記の過剰な陣痛促進剤の投与により過強陣痛を生じ,その結果,原告Aが胎児仮死の状態になったのであるから,被告Dには,陣痛促進剤の使用方法を誤った過失がある。 (4) 分娩監視義務違反陣痛促進剤は,過強陣痛に伴う胎児・新生児の死亡又は仮死を惹起することがあるため,能書に定められた方法に従い胎児心拍数と陣痛のモニタリングを厳重に行いながら使用しなければならないが,現在一般的には分娩監視装置の装着による継続的な分娩経過の観察が実施されている。 本件では,被告Dは,原告Cに対し,平成10年3月17日午前8時30分ころから 重に行いながら使用しなければならないが,現在一般的には分娩監視装置の装着による継続的な分娩経過の観察が実施されている。 本件では,被告Dは,原告Cに対し,平成10年3月17日午前8時30分ころから同日午後3時30分ころまでの間,1時間ごとにプロスタグランジンE2を継続投与した後,同じ陣痛促進剤であるプロスタグランジンF2αを点滴静注したのであるから,過強陣痛を起こす危険が大きいことに照らし,分娩監視装置を用いて監視すべきであったところ,出産の約16時間前から約30分間分娩監視装置を装着した後は,間欠的ドプラー法を用いて断片的(1時間ごと)に胎児心音を確認したのみで,分娩監視装置を用いて継続的に胎児心音を監視することを怠った。 したがって,被告Dには,分娩監視装置による経過観察を怠り,原告Aが胎児仮死となる徴候を見過ごした過失がある。 (被告らの主張)(1) 縫縮糸の抜糸について被告Dは,原告Cが出血を繰り返して妊娠の継続が危ぶまれ,切迫流産の可能性が高かったことから,切迫流産の予防効果を高めるために,より内子宮口に近い高い位置で縫縮術を行う必要があったので,同人に対し,そのように子宮頚管縫縮術を施した。したがって,妊娠37週ないし38週での抜糸は困難であった。また,原告Cは,頚管無力症ではなかったのであるから,抜糸後自然に陣痛が発来し順調に推移したものとは考えられない。 仮に,抜糸後自然に陣痛が発来したとしても,原告Cに施した高い位置での縫縮術については,妊娠37週に達したということで無理やり抜糸を行えば,まだ内子宮口に埋没するシロッカー氏糸を切断することになり,子宮頚管裂傷を起こし,出血多量となり,出血性ショックによる緊急帝王切開となったり,分娩後,止血困難のため子宮摘出に至る危険性があった。そこで,被告Dは,安全に娩出するため,出 切断することになり,子宮頚管裂傷を起こし,出血多量となり,出血性ショックによる緊急帝王切開となったり,分娩後,止血困難のため子宮摘出に至る危険性があった。そこで,被告Dは,安全に娩出するため,出産当日である平成10年3月17日の午後2時ころにシロッカー氏糸を切断した。 (2) 陣痛促進剤投与の医学的適応について原告Cには,陣痛促進剤を投与する医学的適応があった。原告らは,原告Cは陣痛促進剤を投与された当時過期妊娠の状態ではなかったのであるから,陣痛促進剤投与の医学的適応を欠くと主張するが,現在では妊娠初期の胎児の大きさ(頭殿長)から算出した出産予定日を1週過ぎれば(妊娠41週),過期妊娠として分娩を誘発すべきであると考えられている。 したがって,当時妊娠41週3日であった原告Cは,陣痛促進剤投与による分娩誘発の医学的適応があった。 また,いつから分娩誘発を行うべきかを画一的に決めるのは困難であり,妊婦の状態や胎児・胎盤機能不全等の合併症等の危険などを総合判断して医師が決すべきものであるから,上記のとおり,妊娠41週3日の妊婦に対して陣痛促進剤の投与を実施しても過失はない。 (3) 陣痛促進剤の投与量について被告Dが原告Cに対して使用した陣痛促進剤の量は極めて少なく,過強陣痛や胎児仮死を招来させることは考えられない。使用された陣痛促進剤のうち,プロスタグランジンE2は効果がマイルドなので,本件では有効な陣痛が発来しなかった。そのため,より強力な陣痛促進剤であるプロスタグランジンF2αを次に使用することとなったが,被告Dは,原告Cに対し,15ミリリットル毎時から25ミリリットル毎時まで,子宮緊縮状態を観察しながら少量ずつ増量したのであり,妥当な処置であった。 (4) 分娩監視について被告Dは,原告Cに対し,平成10年3月16日午後6時こ リットル毎時から25ミリリットル毎時まで,子宮緊縮状態を観察しながら少量ずつ増量したのであり,妥当な処置であった。 (4) 分娩監視について被告Dは,原告Cに対し,平成10年3月16日午後6時ころから約30分間,同月17日午前7時ころから約30分間,分娩監視装置を装着した。その結果,胎児仮死を示す徐脈などの徴候がなかったことから,以後は間欠的ドプラー法で胎児心音を確認していた。 原告らは,被告Dが継続的に分娩監視装置を装着する義務があったとするが,陣痛促進剤の使用中に分娩監視装置を常に装着し続けることは,妊婦を仰臥位に拘束したまま,胎児心音計と陣痛測定装置を腹部に取り付け身動きができない状態にさせるため,特段の徴候がない限り長時間の使用継続は相当でない。また,分娩監視装置の使用と間欠的ドプラー法による管理では胎児の予後に差異はない。そればかりか,分娩監視装置を用いると,陣痛が強くなるに従い余分な情報を拾い出すことによる誤診から帝王切開率を高め,母体・胎児への悪影響と別の医療紛争を招く懸念がある。 被告Dは,分娩監視装置で胎児仮死などの徴候がないことを確認した後,原告Cへの負担が軽い間欠的ドプラー法による胎児心音の観察をしたのであり,分娩監視義務に違反するものではない。 2 争点2について(原告らの主張)原告Aは,娩出前に胎児仮死となった。 (被告らの主張)原告Aについては,娩出直前まで胎児仮死を示す徴候はなかったのであるから,娩出過程又は娩出と同時に仮死状態になったものであり,新生児仮死であった。 3 争点3について(原告らの主張)(1) 原告Aについて合計金2億0542万0873円ア逸失利益金9312万2000円賃金センサス平成8年第1巻第1表男子労働者学歴計 (1) 原告Aについて合計金2億0542万0873円ア逸失利益金9312万2000円賃金センサス平成8年第1巻第1表男子労働者学歴計の年収に零歳男子に適用する就労可能年数の新ホフマン係数を乗じた(労働能力喪失率100パーセント)。 567万1600円×16.419=9312万2000円イ介護費金6829万8873円原告Aは脳性麻痺により平均余命まで生活のすべてにわたって他人の介護を要する。 6000円×365日×31.1867(平均余命77年新ホフマン係数)=6829万8873円ウ慰謝料金2600万円エ弁護士費用金1800万円(2) 原告B及び同Cについて合計各金550万円ア慰謝料各金500万円イ弁護士費用各金50万円(被告の主張)争う。 なお,逸失利益について全年齢平均賃金を用いた場合,ライプニッツ係数を用いるべきである。 また,介護費については具体的費用を請求できるにすぎないから,本件では定期金賠償とするのが公平である。 第6 当裁判所の判断 1 前記争いのない事実の外,後掲各証拠によれば,以下のような事実が認められる。 (1) 原告Cが分娩した当時における被告病院の状況(証人E)被告病院の看護師であったEは,16時ころ被告病院に出勤し,17時30分ころから一人で当直勤務を始めた。当日入院患者は13人いたが,出産予定者は原告Cだけであった。Eは2階のナースルーム,原告Cはその隣の陣痛室,被告Dは1階の医局にそれぞれい 院に出勤し,17時30分ころから一人で当直勤務を始めた。当日入院患者は13人いたが,出産予定者は原告Cだけであった。Eは2階のナースルーム,原告Cはその隣の陣痛室,被告Dは1階の医局にそれぞれいた。 そして,Eは,原告Cについて,主として以下のような事項を確認(注意)していた。 ①陣痛の程度②羊水の状態③肛門圧迫感(胎児が出口に近づいたとき頭で臀部が押される感じ)④胎児心音(2) 原告Cに対する分娩監視(甲10,証人E(なお後記採用しない部分を除く。))ア被告病院では,胎児心音の確認について,時には分娩監視装置を使用することもあるが,主としてドプラーを使用している。ドプラーは,直径3センチメートル,長さ5センチメートル程の丸い棒状の機械がコードで器具につながっており,丸い棒状の機械を妊婦の腹部,すなわち胎児の背中の辺りに当てて胎児の心音を耳で聞くものである。基本的には胎児の心音を5秒間ごとに3回測ることになっており,耳で聞くほか,その記録が機械にも顕出される。 そして,別紙パルトグラム(添付略)(甲10の末尾2枚,分娩の進行状態,陣痛の状態,胎児心音の状態,その時施行した処置を経時的に示した図,乙30,34)には,原告Cについて1時間ごとに1回,胎児心音を計測した旨の記載があり,その記載によれば徐脈などの胎児心音の異常は認められない。 イなお,被告らは,原告Cに陣痛発作が生じた後,毎回胎児心音を聞いていたが,パルトグラムの記録紙が小さいことから全部記載しきれないため,心音が良好な場合にはパルトグラムには1時間ごとに1回しか記載していなかったと主張し,Eは証人尋問においてこの主張に沿った供述をする。 しかしながら,被告らの上記主張を裏付けるに足りる客観的証拠は何もない。かえって,E自身が証人尋問で認めているように,看護学校において ったと主張し,Eは証人尋問においてこの主張に沿った供述をする。 しかしながら,被告らの上記主張を裏付けるに足りる客観的証拠は何もない。かえって,E自身が証人尋問で認めているように,看護学校において看護記録には看護師が行ったこと,見たことをすべて書くように指導されていたところ,その看護記録にもEの証言に沿う事実は全く記載されていない(甲10)。 ウしたがって,被告病院では,平成10年3月17日における原告Cに対する分娩監視として,7時ころから約30分間分娩監視装置を装着した(争いのない事実)外は,1時間ごとに1回,ドプラーを使用して胎児心音を計測していたものと認めるのが相当である。 (3) 平成10年3月17日における原告Cの状態及び投薬状況(甲10,11)6時00分陣痛開始8時27分破水8時30分プロスタグランジンE2を1錠投与9時30分プロスタグランジンE2を1錠投与10時30分プロスタグランジンE2を1錠投与11時30分プロスタグランジンE2を1錠投与弱い張りと強い張りがあるが,まだ笑っていた。 羊水様のものが少量流出した。 12時30分プロスタグランジンE2を1錠投与13時30分プロスタグランジンE2を1錠投与14時00分子宮口の糸の抜糸術施術。脈拍60。血圧130/70。 14時30分プロスタグランジンE2を1錠投与張りが強くなってきた。 15時30分プロスタグランジンE2を1錠投与張りが少し弱くなってる。 16時25分プロスタグランジンF2αを毎時15ミリリットルの割合で点滴静注張りは変わらない。 17時05分プロスタグランジンF2αを毎時20ミリリットルの割合で点滴静注つらそうになってきた。メリハリついてきた。 18時00分押される感じがあり,血性分泌物もある。 19時00分少し怒責感がある 05分プロスタグランジンF2αを毎時20ミリリットルの割合で点滴静注つらそうになってきた。メリハリついてきた。 18時00分押される感じがあり,血性分泌物もある。 19時00分少し怒責感がある。 20時00分肛門が開いてきた。 21時05分プロスタグランジンF2αを毎時25ミリリットルの割合で点滴静注22時30分四つんばいになっていきんでいる。陣痛が強度になる。 羊水が流出する。 22時40分全開大23時ころ原告Aを強度の仮死状態で娩出した。アプガースコア1-2-2。 2 争点1(被告Dの過失)について(1) 被告病院における分娩監視や原告Cの状態等として,上記1のような事実が認められる。 (2) ところで,医薬品の添付文書(能書)の記載事項は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が,投与を受ける患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから,医師が医薬品を使用するに当たって能書に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が推定されるものというべきである(最高裁平成4年(オ)第251号同8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)。 (3) 各陣痛促進剤(プロスタグランジンE2,プロスタグランジンF2α)の各能書の記載についてア平成10年3月に改訂された科研製薬株式会社作成のプロスタグランジンE2錠(成分はジノプロストン)の能書(乙32)には,以下のような記載がある。 「【警告】過強陣痛や強直性子宮収縮により,胎児仮死,子宮破裂,頸管裂傷,羊水塞栓等が起こることがあり,母体あるいは児が重篤な転帰に至った プロストン)の能書(乙32)には,以下のような記載がある。 「【警告】過強陣痛や強直性子宮収縮により,胎児仮死,子宮破裂,頸管裂傷,羊水塞栓等が起こることがあり,母体あるいは児が重篤な転帰に至った症例が報告されているので,本剤の投与にあたっては以下の事項を遵守し慎重に行うこと。 1 患者及び胎児の状態を十分観察して,本剤の有益性及び危険性を考慮した上で,慎重に適応を判断すること。特に子宮破裂,頸管裂傷等は経産婦,帝王切開あるいは子宮切開術既往歴のある患者で起こりやすいので注意すること。 2 本剤は点滴注射剤に比べ調節性に欠けるので,分娩監視装置等を用いて胎児の心音,子宮収縮の状態を十分に監視出来る状態で使用すること。 3 オキシトシン,ジノプロスト(PGF2α)との同時併用は行わないこと。また,前後して使用する場合も,過強陣痛を起こすおそれがあるので,十分な分娩監視を行い,慎重に投与すること。(「相互作用」の項参照)本剤の使用にあたっては,添付文書を熟読すること。 【用法・用量】 1 通常1回1錠を1時間毎に6回,1日総量6錠(ジノプロストンとして3mg)を1クールとし,経口投与する。 2 体重,症状及び経過に応じ適宜増減する。 3 本剤の投与開始後,陣痛誘発,分娩進行効果を認めたとき,本剤の投与を中止する。 4 1日総量ジノプロストンとして1クール3mg(6錠)を投与し,効果の認められない場合は本剤の投与を中止し,翌日あるいは以降に投与を再開する。 【使用上の注意】 2 重要な基本的注意本剤は点滴注射剤に比べ,調節性に欠けるので,分娩監視装置等を用いて子宮収縮の状態及び胎児心音の観察を行い,投与間隔を保つよう十分注意し,陣痛誘発効果,分娩進行効果を認めたときは中止し,過量投与にならないよう慎重に投与すること。 3 相互作用(1) 併用 用いて子宮収縮の状態及び胎児心音の観察を行い,投与間隔を保つよう十分注意し,陣痛誘発効果,分娩進行効果を認めたときは中止し,過量投与にならないよう慎重に投与すること。 3 相互作用(1) 併用禁忌(同時併用しないこと)薬剤名等オキシトシン(アトニン-O),ジノプロスト(プロスタルモン・F,注射液1000)臨床症状・措置方法これらの薬剤と同時併用することにより過強陣痛を起こしやすい。 機序・危険因子本剤は子宮収縮作用を有するため,類似の作用を持つ薬剤を併用することにより作用を増強する。 (2) 併用注意(前後して使用する場合は注意すること)薬剤名等陣痛誘発・促進剤(オキシトシン,ジノプロスト)臨床症状・措置方法これらの薬剤と前後して使用する場合も,過強陣痛を起こしやすいので投与間隔を保ち十分な分娩監視を行い,慎重に投与すること。 機序・危険因子本剤は子宮収縮作用を有するため,類似の作用を持つ薬剤を前後して使用することにより作用を増強する。 4 副作用総症例5721例中,副作用が認められたのは144例(2.52%)190件で,母体副作用は117件(2.05%),胎児副作用は73件(1.28%)であった。その主なものは,母体副作用では嘔気・嘔吐51件(0.89%),顔面潮紅19件(0.33%),過強陣痛12件(0.21%),下痢11件(0.19%)等が,胎児副作用では羊水混濁29件(0.51%),胎児徐脈22件(0.38%),胎児頻脈11件(0.19%),胎児仮死10件(0.17%)等が認められている。 (1) 重大な副作用1) 過強陣痛過強陣痛(0.1~5%未満)があらわれることがある。また,それに伴い子宮破裂,頸管裂傷をきたすことがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し適切な処置を行う ) 過強陣痛過強陣痛(0.1~5%未満)があらわれることがある。また,それに伴い子宮破裂,頸管裂傷をきたすことがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止し適切な処置を行うこと。 2) 胎児仮死徴候胎児仮死徴候(0.1~5%未満)(仮死,徐脈,頻脈,羊水の混濁等)をきたすことがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,投与を中止すること。 投与を中止してもこのような症状があらわれた場合には,急速遂娩等の適切な処置を行うこと。 」そして,平成8年2月に改訂されたPGE2(プロスタグランジンE2錠)に関する注意書(乙12の1)にも同様の注意事項が記載されている上,その「用法」欄には,「日母では,当薬剤使用後,他の子宮収縮剤を使用する場合,1時間以上待って使用することとしている。」と記載されている。 イ一方,日本医薬情報センター編「1996年10月版日本医薬品集」(甲12。各薬品の能書を集めたもの)のうちプロスタグランジンF2α(成分はジノプロスト)の説明部分には,以下の記載がある。 「注意妊娠末期における陣痛誘発,陣痛促進,分娩促進の目的で使用するに当たって,分娩監視装置等を用いて十分な監視のもとで使用する。オキシトシン,ジノプロストン(PGE2)等と同時併用はしない。また,これらの薬剤と前後して使用する場合も,過強陣痛を起こすことがあるので,十分な分娩監視を行い,慎重に投与する。 警告妊娠末期の使用に当たっては子宮破裂あるいは胎児仮死が起こることがあり,母体あるいは児が重篤な転帰に至った症例が報告されている。 一般的注意過強陣痛や強直性子宮収縮により,胎児死亡,頸管裂傷,子宮破裂,羊水塞栓等を起こす可能性があるので,分娩監視装置等を用いて子宮収縮の状態及び胎児心音 転帰に至った症例が報告されている。 一般的注意過強陣痛や強直性子宮収縮により,胎児死亡,頸管裂傷,子宮破裂,羊水塞栓等を起こす可能性があるので,分娩監視装置等を用いて子宮収縮の状態及び胎児心音の観察等十分な分娩監視を行う。過強陣痛等は,点滴開始初期に起こることが多いので,特に注意が必要である。 相互作用併用禁忌:オキシトシン,ジノプロストン等と同時併用しない[過強陣痛を起こしやすい]併用注意:オキシトシン,ジノプロストン等を前後して使用する場合は,十分な分娩監視を行い,慎重に投与する[過強陣痛を起こしやすい]副作用重大な副作用過強陣痛:ときに過強陣痛が現われることがある。またそれに伴い子宮破裂,頸管裂傷を来したとの報告があるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合は,中止し適切な処置を行う。 胎児仮死徴候:ときに胎児に仮死徴候(徐脈,頻脈,羊水の混濁)を来すことがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には減量又は中止する。中止してもこのような症状が認められる場合には,急速遂娩等の適切な処置を行う。 副作用 11.7%(370/3149)に499件,母体側では過強収縮0.44%,顔面潮紅3.14%,嘔気・嘔吐4.6%,下痢0.35%,頭痛・頭重0.7%など,胎児側では羊水混濁1.52%,切迫仮死徴候1.11%,徐脈1.33%,頻脈0.79%)など」また,平成8年2月に改訂された日局ジノプロスト(プロスタグランジンF2α)に関する注意書(乙12の2)にも同様の注意事項が記載されている。 (4) 以上の記載によれば,同じ陣痛促進剤であるプロスタグランジンE2及びプロスタグランジンF2αはともに,能書上,単独で用いる場合であっても,過強陣痛となり,胎児仮死状態になるおそれがあ いる。 (4) 以上の記載によれば,同じ陣痛促進剤であるプロスタグランジンE2及びプロスタグランジンF2αはともに,能書上,単独で用いる場合であっても,過強陣痛となり,胎児仮死状態になるおそれがあることから,分娩監視装置などを用いて十分な監視のもとで慎重に投与することが求められているものといえ,プロスタグランジンE2を使用した後にプロスタグランジンF2αを使用する場合には,過強陣痛,胎児仮死の可能性がより高まることから,更に十分な分娩監視を行いながら,慎重に投与する必要があるものといえる。 (5) ところが,被告Dは,前記争いのない事実2(4)記載のとおり,原告Cに対し,大量の陣痛促進剤(プロスタグランジンE2とプロスタグランジンF2α)を投与した。 つまり,被告Dは,原告Cに対し,まず8時30分ころから15時30分ころまでの7時間に1時間ごとにプロスタグランジンE2を合計8錠投与し,その後,更に16時25分からプロスタグランジンF2αを点滴静注した。 また,上記1(2)で認定したとおり,被告病院では,原告Cの分娩監視について,7時ころから約30分間分娩監視装置を装着した外は,1時間ごとに1回,ドプラーを使用して胎児心音を計測したにすぎない。しかしながら,間欠的ドプラー法では,胎児心拍数のカウントにばらつきが大きく不正確なため,陣痛がある期間(発作時)やその直後に胎児心音を聴取し,正確な心拍数を測ることは困難であり,胎児心拍の細変動や子宮収縮と胎児心拍の変動との関連を分析することはできない(鑑定の結果)。実際にドプラーにより胎児心音を計測していたEも,証人尋問において,計測につき,「基本的に5秒掛ける3回です。」,「陣痛のときは測れないので,陣痛でないときに測ります。」などと供述する。つまり,5秒間の計測によって1分間の心拍数を算出するも も,証人尋問において,計測につき,「基本的に5秒掛ける3回です。」,「陣痛のときは測れないので,陣痛でないときに測ります。」などと供述する。つまり,5秒間の計測によって1分間の心拍数を算出するものであって,たとえ計測を3回繰り返すとしても,ばらつきが大きく不正確なものである。したがって,陣痛促進剤(プロスタグランジンE2やプロスタグランジンF2α)の投与に当たり,胎児仮死に関する情報がきちんとモニターされていたとは到底いえない(鑑定の結果)。 そのため,被告Dには,陣痛促進剤であるプロスタグランジンE2やプロスタグランジンF2αを原告Cに投与するに当たり,それぞれの能書に記載された使用上の注意事項に従わなかった過失,すなわち,少なくともプロスタグランジンF2αの点滴を開始するに当たっては,十分な時間を取るか,翌日まで点滴の開始を控えるべきであり,もしあえて十分な時間間隔を取らずに点滴を開始するのであれば,より厳重な監視(例えば分娩監視装置を用いるなど)の下で慎重に薬剤の増量を行うべきであった(鑑定の結果)にもかかわらず,1時間ごとに1回,ドプラーを使用して胎児心音を計測するだけの監視の下で漫然とプロスタグランジンF2αの点滴を開始し,増量した過失があるものといわざるを得ない。 (6) 被告らの反論についてアこれに対し,被告らは,8時30分ころから15時30分ころまでの間にプロスタグランジンE2を1時間ごとに合計8錠投与したことについて,原告Cに対して投与した陣痛促進剤の量は極めて少なく,過強陣痛や胎児仮死を招来することは考えられない,プロスタグランジンE2は効果がマイルドなので,本件では有効な陣痛が発来しなかったなどと主張する。 しかしながら,上記(3)アで指摘したとおり,プロスタグランジンE2の能書(乙32)によれば,その用法・用 タグランジンE2は効果がマイルドなので,本件では有効な陣痛が発来しなかったなどと主張する。 しかしながら,上記(3)アで指摘したとおり,プロスタグランジンE2の能書(乙32)によれば,その用法・用量は以下のとおりである。 ① 通常1回1錠を1時間毎に6回,1日総量6錠(ジノプロストンとして3mg,なお1錠当たりのジノプロストンは0.5mg)を1クールとし,経口投与する。 ② 体重,症状及び経過に応じ適宜増減する。 ③ 本剤の投与開始後,陣痛誘発,分娩進行効果を認めたとき,本剤の投与を中止する。 ④ 1日総量ジノプロストンとして1クール3mg(6錠)を投与し,効果の認められない場合は本剤の投与を中止し,翌日あるいは以降に投与を再開する。 そのため,原告C(身長157センチメートル)が妊娠前(約65キログラム)から分娩時(約80キログラム)にかけて約15キログラム体重が増加していたこと(甲9)の外,前記争いのない事実及び上記1(3)で認定した原告の症状,その経過などを考慮したとしても,プロスタグランジンE2を合計8錠投与した時点で,既に通常用いられる量よりも多い量のプロスタグランジンE2が投与されていたのであるから,決して極めて少ないといえるような量でないことは明らかである。 イまた,被告らは,被告Dが原告Cの子宮緊縮状態を観察しながら,同人に対しプロスタグランジンF2αを毎時15ミリリットルの点滴静注から毎時25ミリリットルの点滴静注まで少量ずつ増量したのであって,被告Dの処置は妥当な処置であったなどとも主張する。そして,被告Dは,本人尋問において,プロスタグランジンF2αを16時25分から毎時15ミリリットルの割合で,17時05分からは毎時20ミリリットルの割合で,さらに21時05分からは毎時25ミリリットルの割合で点滴静注したことに て,プロスタグランジンF2αを16時25分から毎時15ミリリットルの割合で,17時05分からは毎時20ミリリットルの割合で,さらに21時05分からは毎時25ミリリットルの割合で点滴静注したことについて,原告Cに対するプロスタグランジンF2αの投与量は極めて少量であり,安全限界の3分の1ないし7分の1の量にすぎないなどと供述する。 しかしながら,上記(3)で指摘したとおり,プロスタグランジンE2とプロスタグランジンF2αの各能書(乙32,甲12)によれば,プロスタグランジンE2とプロスタグランジンF2αを相前後して使用する場合には,過強陣痛を起こしやすいので,投与間隔を保ち十分な分娩監視を行いながら慎重に投与することが求められている。 ところが,被告Dは,原告Cに対し,プロスタグランジンF2αを投与する前に,既に8時30分ころから15時30分ころまでの間にプロスタグランジンE2を1時間ごとに合計8錠投与していた。つまり,被告Dは,プロスタグランジンE2を7時間かけて1時間ごとに合計8錠投与した上に,約1時間の間隔しか置かずにプロスタグランジンF2αの点滴静注を開始したのである。そのため,仮にプロスタグランジンF2αだけを見た場合に安全限界の3分の1ないし7分の1の量にすぎなかったとしても,被告DはプロスタグランジンF2αだけを投与したわけではないので,被告Dの上記供述を採用することはできない。それどころか,かえってプロスタグランジンE2の投与量を考えた場合には,プロスタグランジンE2とプロスタグランジンF2αの各能書に記載された許容投与量をはるかに越える大量の陣痛促進剤(プロスタグランジンE2とプロスタグランジンF2α)が投与されたものといわざるを得ない。 しかも,上記1(2)で認定したとおり,被告病院では,原告Cの分娩監視について, るかに越える大量の陣痛促進剤(プロスタグランジンE2とプロスタグランジンF2α)が投与されたものといわざるを得ない。 しかも,上記1(2)で認定したとおり,被告病院では,原告Cの分娩監視について,7時ころから約30分間分娩監視装置を装着した外は,1時間ごとに1回,ドプラーを使用して胎児心音を計測したにすぎない。このように原告Cの分娩監視が不十分であったといわざるを得ない以上,不十分な分娩監視に基づいて原告CにプロスタグランジンF2αを投与し,しかも,2回にわたって増量したのが妥当な処置であったということもできない。 ウさらに,被告らは,被告Dは分娩監視装置で胎児仮死などの徴候がないことを確認した後,原告Cへの負担が軽い間欠的ドプラー法による胎児心音の観察をしており,分娩監視義務に違反するものではないと主張し,これを裏付ける証拠として乙14(文献)の以下の記載を引用する。 「 すべての産婦に入院時から分娩にいたるまで分娩監視装置を装着する必要は必ずしも要求されていない。FIGO(国際産婦人科連合)の分娩監視専門委員会の勧告によれば,入院時最初の30分間の胎児心拍モニタリングを行い,もしこの間に異常所見がなければローリスクであり,1時間ごとの短期間胎児心拍モニタリングを行い記録をとるだけでよいとしている。 」そして,乙4,被告D本人及び弁論の全趣旨によれば,被告Dは,ネオメトロを挿入した後の平成10年3月16日午後6時と,陣痛発来時の同月17日午前7時に,それぞれ30分間分娩監視装置を原告Cに装着し,胎児心音などのモニタリングを行ったところ,胎児仮死を示す徐脈などの徴候がなかったことが認められる。 しかしながら,上記ア,イで指摘したとおり,被告Dは陣痛促進剤として,プロスタグランジンE2を ,胎児心音などのモニタリングを行ったところ,胎児仮死を示す徐脈などの徴候がなかったことが認められる。 しかしながら,上記ア,イで指摘したとおり,被告Dは陣痛促進剤として,プロスタグランジンE2を通常量よりも多く投与した後,引き続いてプロスタグランジンF2αを点滴静注した。そして,既に上記(4)で指摘したとおり,プロスタグランジンE2もプロスタグランジンF2αもともに,能書上,分娩監視装置などを用いて十分な監視の下で慎重に投与することが求められている。そもそも乙14の上記記載はあくまでも一般的なことを述べたものにすぎないのであって(被告D本人),何らかの問題を有する産婦の分娩管理に当たっては,細心の注意を払い,より多くの情報を収集し,いつでも対応できる態勢を用意しておくことが必要である(鑑定の結果)。原告Cは,妊娠初期に流産のおそれがあったため縫縮術が施行された外,妊娠中の体重増加が著しく,また予定日を約1週間過ぎても陣痛がない状態であった(争いのない事実,被告D本人)。このような産婦に対して人工的に薬物を用いて陣痛を誘発・促進するといった処置が行われた本件では,やはり分娩監視装置などを用いた十分な分娩監視が必要であったものといえる(鑑定の結果)。ところが,上記1(2)で認定したとおり,被告病院では,原告Cの分娩監視について,7時ころから約30分間分娩監視装置を装着した外は,1時間ごとに1回,ドプラーを使用して胎児心音を計測したにすぎない。そのため,被告Dは,プロスタグランジンE2やプロスタグランジンF2αの各能書上求められている十分な分娩監視を怠ったものといわざるを得ない。 エこれに加え,被告らは,本件において分娩監視装置を用いたしても,原告Aの仮死を防ぐことができたとはいえないなどとも主張する。 しかしながら,被告らの上記主張は 視を怠ったものといわざるを得ない。 エこれに加え,被告らは,本件において分娩監視装置を用いたしても,原告Aの仮死を防ぐことができたとはいえないなどとも主張する。 しかしながら,被告らの上記主張は,結局のところ,原告Cの分娩に当たり,被告Dにおいてその義務に反して分娩監視装置などによる十分な分娩監視をしていなかったがために,胎児仮死に関する情報がきちんとモニターされていなかったにもかかわらず,胎児仮死を示す徴候が本件では認められないから,分娩監視装置を用いたとしても原告Aの仮死を防ぐことはできなかったと主張するものであって,到底採用することができない。 そもそも既に指摘したとおり,7時30分ころから23時ころにかけての原告Aに関する胎児心拍などの情報の不足は,被告Dが分娩監視装置などによる十分な分娩監視をしていなかったためであり,その結果胎児仮死などの徴候が認められなかったとしても,それは被告Dの義務懈怠によって生じたものでしかなく,このような事態を当の被告Dの不利益にではなく,患者側である原告らの不利益に帰することは,条理にも反するものと考えるからである。 (7) したがって,結局のところ被告Dには,陣痛促進剤であるプロスタグランジンE2やプロスタグランジンF2αを原告Cに投与するに当たって,各能書に記載された用法・用量に従い,各能書において要求されている分娩監視装置などを用いて十分な監視の下で慎重に投与するとの注意義務を怠った過失があるものといえる。 3 争点2(原告Aが仮死状態となった時点)について(1) 被告らは,原告Aが娩出過程又は娩出と同時に仮死状態になったものであり,新生児仮死であったと主張して,上記被告Dの過失と原告Aの仮死との間の因果関係を争うかのようである。 (2) 被告Dの過失と原告Aの仮死との間の因果関係について 出と同時に仮死状態になったものであり,新生児仮死であったと主張して,上記被告Dの過失と原告Aの仮死との間の因果関係を争うかのようである。 (2) 被告Dの過失と原告Aの仮死との間の因果関係については,鑑定の結果によれば以下のとおりと認められる。 アまず,少なくともプロスタグランジンE2を投与する前に原告Aが仮死となった可能性は極めて低く,他方,娩出時に原告Aが仮死状態であったことは明らかであるが,更にどの時点で仮死状態となったかについてまでは特定できない。 イところで,胎児仮死あるいは新生児仮死については未解明の点も多数あるが,一般的に以下のような事情が影響を与える可能性があるといわれている。 ① 妊娠初期の胎芽や胎児の時期に発生した異常・障害② 分娩に伴う非生理的なストレス③ 妊娠中の母胎と胎児・胎盤の状態しかしながら,本件では,妊娠中の母胎の状態として,体重増加が正常の範囲を超えている(妊娠前(約65キログラム)から分娩時(約80キログラム)にかけて約15キログラム体重が増加していた。)こと以外は認められない。 ウこれに対し,薬剤による分娩誘発は,一般論として,リスクとなる要因を含んでおり,特に,薬剤により誘発・促進された子宮収縮は時に過強となる危険性を伴うことがあって,このような状態にさらされた胎児が分娩時に仮死となることもある(なお,これらのことは,上記2(3)で指摘した各能書において,繰り返し記載されているところである。)。 エ特に本件では,上記2(6)で指摘したとおり,被告Dは陣痛促進剤として,プロスタグランジンE2を通常量よりも多く投与した後,引き続いてプロスタグランジンF2αを点滴静注した。 オそのため,他に特段の事情が認められない限り,薬剤(プロスタグランジンE2及びプロスタグランジンF2α)の過剰投与によ 量よりも多く投与した後,引き続いてプロスタグランジンF2αを点滴静注した。 オそのため,他に特段の事情が認められない限り,薬剤(プロスタグランジンE2及びプロスタグランジンF2α)の過剰投与による過強陣痛により,原告Aの仮死が生じたものと認めるのが相当といえる(なお,上記2(6)エで指摘したとおり,原告Cの分娩に当たり分娩監視装置などによる十分な分娩監視をしなかったという被告Dの注意義務の懈怠により生じた7時30分ころから23時ころにかけての原告Aに関する胎児心拍などの情報の不足については,被告Dの不利益に帰すこととする。)。 (3) なお,この点について,鑑定人Fは,鑑定書において,原告Aの仮死の原因として,過強陣痛による可能性を除外できないが,それ以外の原因を考慮すべきと考えるとも指摘する。確かに,上記(2)イで指摘したような事情を仮死の原因として考慮する必要があることは一般論としてはそのとおりである。 また,被告らは,原告Aの仮死の原因として,以下のようなものが考えられる旨主張し,被告Dは本人尋問においてその旨供述する。 ① 臍帯下垂(臍緒が垂れ,娩出直前に胎児を圧迫すること)② 胎児期から中枢神経の構造異常があり,脳幹部の周辺が娩出時の環境の変化により発現し,新生児仮死となった。娩出時は胎児にとってかなり大きな衝撃であり,環境の変化である。 ③ GBS(B群溶血性連鎖球菌)への感染しかしながら,本件において上記①ないし③の事態が生じたものと認めるに足りる客観的な証拠は何もない。確かに原告CはGBSに感染していたが,分娩時までに治療済みであって(甲10),その後再感染したことを疑わせるような事情は存在しない。 本件において,過強陣痛以外の事情で仮死の原因として考慮すべきものとしては,母胎の体重増加が正常の範囲を超えている(妊娠前 であって(甲10),その後再感染したことを疑わせるような事情は存在しない。 本件において,過強陣痛以外の事情で仮死の原因として考慮すべきものとしては,母胎の体重増加が正常の範囲を超えている(妊娠前(約65キログラム)から分娩時(約80キログラム)にかけて約15キログラム体重が増加していた)ことくらいであって(鑑定の結果),結局のところ,上記①ないし③のような特段の事情が生じたものと認めることはできない。 (4) したがって,一般論としてはともかく,本件においては,特段の事情は認められず,被告Dの過失と原告Aの仮死との間に因果関係があるものと認めるのが相当である。 4 以上の認定及び判断によれば,被告Dは,原告らに対し,自己の診療行為に関する不法行為責任(民法709条)を免れず,また,被告法人も,原告らに対し,被告法人の代表者である被告Dの職務である診療行為に関する過失による不法行為責任(医療法68条,民法44条1項)を免れず,したがって,被告らは,原告らに生じた損害を連帯して賠償する責任を負うものというべきである。 5 争点(3)(原告らの損害の有無及びその額)について(1) 甲18,19,原告B及び原告C各本人によれば,以下の事実が認められる。 原告Aは,現在4歳であるが,週1回リハビリのため小児医療センターに通院する外,月1回神経内科に行き,毎日3回抗けいれん剤を服用している。原告Aには,脳波上けいれん波があり,首が据わらず,自力での飲食はできず,声は「アアー,アアー」としか出せない状態である。原告Aの上記症状が治癒する可能性は認められない。 そして,原告B及び原告Cは,両名の第2子である原告Aに上記後遺障害が残ったことにより,同人が死亡した場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けたものと認められる。 (2) これまでの認定事実及び弁論の そして,原告B及び原告Cは,両名の第2子である原告Aに上記後遺障害が残ったことにより,同人が死亡した場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けたものと認められる。 (2) これまでの認定事実及び弁論の全趣旨に基づき,以下のとおり判断する。 ア原告Aの逸失利益上記(1)で認定した原告Aの後遺障害の程度からすると,同人の労働能力喪失率は終生にわたり100パーセントと認めるのが相当である。 基礎収入を平成10年の男子労働者の全年齢平均賃金である569万6800円とし,これに上記の労働能力喪失率100パーセント及び零歳から67歳までの67年の労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数である19.2390から就労開始までの期間である零歳から18歳までの18年に対応するライプニッツ係数である11.6895を差し引いた7.5495を乗じて算定すると,以下の計算式のとおり,原告Aの逸失利益は4300万7991円となる。 569万6800円×100/100×7.5495=4300万7991円イ原告Aの介護費上記(1)で認定した原告Aの後遺障害の程度からすると,同人については今後も終生常時介護を必要とし,その介護費用は1日当たり6000円を下らないと認められる。そして,零歳男子の平均余命が77年であることは当裁判所に顕著な事実であるところ,同期間の介護費をライプニッツ式計算法により計算すると,その額は,以下の計算式のとおり,4277万6832円となる。 6000円×365×19.5328=4277万6832円ウ原告Aの慰謝料上記(1)で認定した原告Aの後遺障害の程度などに照らすと,原告Aの慰謝料額は2600万円とするのが相当である。 エ原告B及び原告Cの慰謝料前記の認定事実によれば,原告B及び原告Cは,両名の第2子である原告Aに前記のような重大な後遺 程度などに照らすと,原告Aの慰謝料額は2600万円とするのが相当である。 エ原告B及び原告Cの慰謝料前記の認定事実によれば,原告B及び原告Cは,両名の第2子である原告Aに前記のような重大な後遺障害が残ったことにより,同人が死亡した場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けたものであるから,原告Aの後遺障害の程度などの諸般の事情にかんがみ,その慰謝料額を各250万円とするのが相当である。 オ原告らの弁護士費用上記認容額などに照らせば,本件医療事故と相当因果関係のある損害として被告らに対し請求することのできる弁護士費用は,原告Aにつき1118万円,原告B及び原告Cにつき各25万円とするのが相当である。 第7 結論以上によれば,原告らの本訴請求は,被告らに対し,原告Aは金1億2296万4823円及びこれに対する平成10年3月17日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,原告B及び原告Cはそれぞれ金275万円及びこれに対する平成10年3月17日(不法行為日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 前橋地方裁判所民事第2部裁判長裁判官東條宏裁判官原克也裁判官高橋正幸

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る