平成22(ワ)6406 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年1月11日 大阪地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-81937.txt

判決文本文18,049 文字)

- 1 - 主文 1 原告らの本訴請求をいずれも棄却する。 2 原告Aは,被告に対し,14万4778円及びこれに対する平成21年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告B,原告C及び原告Dは,被告に対し,それぞれ4万8259円及びこれに対する平成21年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを200分し,その199を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 6 この判決の主文2項及び3項は,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 本訴(1) 被告は,原告Aに対し,2700万円及びこれに対する平成22年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は,原告B,原告C及び原告D(以下「原告子ら」という。)に対し,各900万円及びこれに対する平成22年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 反訴(1) 原告Aは,被告に対し,42万4287円及びこれに対する平成21年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 原告子らは,被告に対し,それぞれ14万1429円及びこれに対する平成21年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,F本線a駅のホームの下の線路上において,E(以下「亡E」とい- 2 -う。)が特急電車に轢かれて死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し,①亡Eの相続人である原告らが,被告に対し,各相続割合に従い,旅客運送契約上の債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法709条ないし711条, て死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し,①亡Eの相続人である原告らが,被告に対し,各相続割合に従い,旅客運送契約上の債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法709条ないし711条,715条)に基づく損害賠償として,合計1億1228万8377円の一部である合計5400万円(原告Aにつき2700万円,原告子らにつき各900万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年5月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴),②被告が,原告らに対し,各相続割合に従い,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として,合計84万8574円(原告Aにつき42万4287円,原告子らにつき各14万1429円)及びこれに対する本件事故の日である平成21年4月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。 2 前提事実(1) 本件事故の発生(甲2,弁論の全趣旨)ア日時平成21年4月15日午後11時38分ころイ場所 F本線a駅上りホーム(大阪方面から京都方面に向かう電車が発着又は通過するホームであり,以下「本件ホーム」という。)の始端(大阪寄りの端)から京都方面へ約54.2mの地点下の上り線路上(以下「本件現場」という。)ウ態様本件現場の線路上に転倒していた亡Eが,上り特急列車(B2302Z,以下「本件列車」という。)に轢かれて死亡した。 (2) 当事者(甲1,弁論の全趣旨)ア亡E(昭和49年6月●日生,本件事故当時34歳)は,会社員であり,本件事故当時,職場の懇親会から帰宅する途中であった。 イ原告A(本件事故当時34歳)は亡Eの妻であり,原告B(同5歳),原告C(同3歳)及び原告D(亡Eの死亡の約4か月後に出生し,死 員であり,本件事故当時,職場の懇親会から帰宅する途中であった。 イ原告A(本件事故当時34歳)は亡Eの妻であり,原告B(同5歳),原告C(同3歳)及び原告D(亡Eの死亡の約4か月後に出生し,死亡時- 3 -には胎児であった。)はいずれも亡Eの子であり,他に亡Eの相続人はいない。したがって,相続により,原告Aが2分の1,原告B,原告C及び原告Dがそれぞれ6分の1の割合で,亡Eの権利義務を承継した。 ウ被告は,鉄道事業法及び軌道法による運輸業等を業とする株式会社である。 (3) 旅客運送契約の成立(争いなし)亡Eは,平成21年4月15日午後10時30分ころ,b駅から自宅の最寄り駅であるc駅に向かうべく,自動改札機による改札を受けてb駅に入場したことにより,被告との間で旅客運送契約を締結した。 3 争点(1) 被告の安全配慮義務違反又は注意義務違反の有無―本訴関係(原告らの主張)被告は,以下のとおり旅客運送契約上の安全配慮義務又は不法行為上の注意義務を負っていたが,これらに違反した。 ア本件ホームは,幅が狭く,列車等が高速で通過し,小学生の乗降者が多いなどの特徴があり,危険性が高い。したがって,被告は,本件ホーム上に駅員を配置し,駅務室の駅員に定期的に本件ホームを見回らせ,又は本件ホーム上の監視カメラの映像を駅務室内のモニターに映し出して同室の駅員が本件ホームの様子を確認することができるようにして,鉄道利用客(以下「利用客」という。)が本件ホームから転落した場合は,速やかにこれを把握し,救助すべき人的体制及び物的設備を整える義務を負っていたが,これらをいずれも怠った。 イ本件事故当時,全国の駅でホーム柵又はホームドアの設置が進んでおり,国から鉄道事業者に対し,それらの設置を検討するよう指導されている状 備を整える義務を負っていたが,これらをいずれも怠った。 イ本件事故当時,全国の駅でホーム柵又はホームドアの設置が進んでおり,国から鉄道事業者に対し,それらの設置を検討するよう指導されている状況にあった。したがって,被告は,前記のとおり危険性が高い本件ホームにホーム柵又はホームドアを設置して,利用客の転落を防止すべき義務を- 4 -負っていたが,これを怠った。 ウ本件事故直前にa駅に停車した下り普通列車(以下「本件下り列車」という。)の運転士は,前方を注視し,a駅の上り線路上にいた亡Eを発見して救助措置をとるべき義務を負っていたが,これを怠り,亡Eを発見せず,又は発見しても救助措置をとらなかった。 (被告の主張)ア鉄道交通の社会的効用と危険性に照らせば,利用客は,自ら危険を避けるべき注意義務を負い,列車に乗降する場合や混雑等でやむを得ない場合を除き,ホーム上では白線又は点字ブロックの内側にいるべきである。したがって,鉄道事業者は,特段の事情がない限り,利用客が安全維持のために必要な行動をとるものと信頼してよい。また,被告は,日頃から利用客に対し,ホームの端に近付かないよう注意喚起し,利用客が線路敷に転落等した場合に備えて,本件ホームに非常通報ボタンを8個設置し,本件ホーム直下に転落検知装置を設置するなど,相応の事故防止策を講じていた。これらによれば,原告らが主張するような人的体制及び物的設備を整える義務までを被告が負っていたとすべき根拠はない。 イ本件事故当時,日本全国の全駅のうち,可動式ホーム柵又はホームドアが設置されていた駅の割合は5%に満たなかった。国土交通省が設けた検討会は,平成23年に,1日当たりの乗降者数が10万人以上の駅でホームドア等による転落防止策をホームの状況等に応じて実施するよう努めるべきで ていた駅の割合は5%に満たなかった。国土交通省が設けた検討会は,平成23年に,1日当たりの乗降者数が10万人以上の駅でホームドア等による転落防止策をホームの状況等に応じて実施するよう努めるべきであるとしたが,a駅の本件事故当時の1日当たりの乗降者数は2万人台であった。以上によれば,被告がa駅に可動式ホーム柵又はホームドアを設置すべき義務を負っていたとはいえない。 ウ本件事故当日の運行表示データから計算すれば,本件列車は,本件下り列車より先にa駅に達していたから,本件下り列車の運転士が本件事故前に亡Eを発見することは不可能であった。 - 5 -(2) 原告らの損害―本訴関係(原告らの主張)ア逸失利益 7678万8377円基礎収入を事故前の実収入685万5034円,生活費控除割合を3割,就労可能年数を死亡時の34歳から67歳まで33年間(対応するライプニッツ係数16.0025)とすれば,逸失利益は7678万8377円となる。 イ慰謝料(亡E本人分) 2400万円ウ慰謝料(原告ら固有分) 各100万円エ葬儀費用(原告Aに生じた損害) 150万円オ弁護士費用(原告Aに生じた損害) 600万円カ原告Aの損害額上記ア,イの合計額の2分の1相当額5039万4188円にウないしオの合計額を加えると,原告Aの損害額は5889万4188円となる。 キ原告子らの各損害額上記ア,イの合計額の6分の1相当額1679万8063円にウの額を加えると,原告子らの損害額は各1779万8063円となる。 (被告の主張)損害に関する事実は知らず,主張は争う。 (3) 亡Eの注意義務違反の有無―反訴関係(被告の主張)ア鉄道交通の社会的効用と危険性に照らせば,利用客は,ホームから線路敷に転落等する 張)損害に関する事実は知らず,主張は争う。 (3) 亡Eの注意義務違反の有無―反訴関係(被告の主張)ア鉄道交通の社会的効用と危険性に照らせば,利用客は,ホームから線路敷に転落等することにより列車の運行を妨害しないようにすべき不法行為上の注意義務を負うというべきであるが,亡Eはこれを怠り,自らの不注意によりホームから線路敷に転落し,本件列車に轢かれた。 イ仮に,亡Eが,本件ホームから転落した時点において,自己の行為の責- 6 -任を弁識する能力を欠いていたとしても,自己の許容量を超える多量の飲酒という故意又は過失によって一時的にその状態を招いたのであるから,民法713条ただし書により,不法行為責任を免れない。 (原告らの主張)ア本件事故は,亡Eの不注意により発生したものではなく,被告の安全配慮義務又は注意義務違反により発生したものである。 イ亡Eは,本件事故前に本件ホームに降り立ったときには既にほとんど事理弁識能力を欠いた状態にあり,本件ホームから転落したとき以降は完全に事理弁識能力を欠いた状態にあったため,結果回避可能性がなく,過失はない。亡Eは,本件事故前の飲酒量が普段と同程度であったことから,飲酒により酩酊していたわけではなく,花粉症で体調が万全でなかったことにより,又は花粉症の薬の副作用により,上記状態に至ったものであって,事理弁識能力を欠く状態に至ったことについて過失はない。 ウ仮に亡Eに過失が認められたとしても,被告にも前記の重大な過失があり,損害額を定める際にはこれを斟酌すべきである。 (4) 被告の損害―反訴関係(被告の主張)ア被告従業員らの時間外労働に伴う人件費 41万9110円イ株式会社G従業員らの時間外労働に伴う人件費 26万8255円ウ最終連絡の公共交通 被告の損害―反訴関係(被告の主張)ア被告従業員らの時間外労働に伴う人件費 41万9110円イ株式会社G従業員らの時間外労働に伴う人件費 26万8255円ウ最終連絡の公共交通機関を利用することができなくなった利用客らのタクシー代 13万1210円エ車両修理費 3万円なお,修理費は6万6525円であったが,損害保険免責額3万円を超える部分については,損害保険金の支払を受けたため,被告に残存している損害額は3万円である。 オ被告は,本件事故により以上の合計84万8575円の損害を被った。 - 7 -(原告らの主張)被告の損害額は知らない。 第3 当裁判所の判断 1 事実関係前提事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) a駅及び本件ホームについて(甲10(枝番を含む。以下,枝番を特記しない限り同じ。),11,45,78,乙3の1)a駅では,上りホーム(本件ホーム)と下りホームが向かい合って設けられ,その間に上り線路と下り線路が敷かれている(相対式2面2線)。同駅では,上記2つのホームを跨ぐ陸橋の上に改札口及び駅務室が設けられている(橋上駅舎)。同駅は,F本線上り線の進行方向から見て右カーブの途中に設けられている。 本件ホームの幅は,本件現場付近では,約2.1mないし2.8mである。 本件ホームには,カメラ4個及びこれらが撮影した映像が映し出されるモニター5個が設置されている。これらは,主に車掌が列車の扉の開閉の際に本件ホームの状況を確認するためのものであり,本件ホームの映像を駅務室のモニターで見ることはできない。ただし,上記4個のカメラのうち1個は,専らエレベーター内の状況を確認するためにエレベーター前に設置されたものであり,その映像だけは であり,本件ホームの映像を駅務室のモニターで見ることはできない。ただし,上記4個のカメラのうち1個は,専らエレベーター内の状況を確認するためにエレベーター前に設置されたものであり,その映像だけは駅務室のモニターで見ることができる。 本件ホームには,8個の非常通報ボタンが設置されている。 本件ホームの直下には,転落検知装置が設置されている。もっとも,これは主に列車の乗降時に利用客が転落した場合を想定して設置されたものであり,列車が停車していないときに利用客が転落した場合にはこれを検知できない場合がある。 本件ホームでは,利用客に対し,列車が通過する前にその旨のアナウンス- 8 -により注意喚起がされている。 本件事故当時,本件ホーム上に駅員は配置されておらず,駅務室の駅員が本件ホームを定期的に見回る体制もとられていなかった。 F本線では,快速特急,特急,通勤快急,快速急行,深夜急行,急行,通勤準急,準急,区間急行,普通の10種類の列車が運行しているが,a駅では,通勤準急,準急,区間急行,普通の各列車のみが停車し,他の列車は通過する。特急である本件列車は,同駅を時速約90kmで通過する。 平成20年におけるa駅の1日当たりの乗降者数は,2万2938人である。これは,周辺のd駅(6万9476人),e駅(6万2230人),c駅(8万9849人)より少ないが,f駅(1万8767人)より多い。 (2) 本件事故までの亡Eの行動等について(甲3,4,48,77,証人H,証人I)ア亡Eは,本件事故当日(水曜日)の午後6時30分ころから午後8時ころまで,b駅付近の居酒屋で行われた職場の懇親会の1次会に出席し,ビールを細めの中ジョッキで4,5杯飲んだ。その後,ダーツバーで行われた2次会にも出席し,小瓶のビールを2本程度飲んだ。上記飲酒 時ころまで,b駅付近の居酒屋で行われた職場の懇親会の1次会に出席し,ビールを細めの中ジョッキで4,5杯飲んだ。その後,ダーツバーで行われた2次会にも出席し,小瓶のビールを2本程度飲んだ。上記飲酒量は,亡Eの普段の飲酒量と変わらず,亡Eは,1次会,2次会を通じて,陽気に歓談しており,変わった様子はなかった。亡Eは,翌朝午前7時くらいに京都駅を出発する新幹線に乗って東京に出張する予定になっており,普段以上に飲酒する状況にもなかった。午後10時30分ころ解散となり,亡Eは,同僚のH(本件事故当時24歳)とともにb駅午後10時39分発のF本線上り快速急行列車に乗った。亡Eは,c駅で降りる予定であり,Hはその3駅先のg駅で降りる予定であった。快速急行列車は,b駅を出た後,6駅を通過してhに停車し,5駅を通過してd駅,e駅に停車し,2駅(a駅,f駅)を通過してc駅に停車する。 イ亡Eは,上記快速急行列車に乗るまでは陽気に話をしていたが,乗車後- 9 -2,3分して口数が減り,つり革に両手でつかまって眠ったような様子になった。そして,午後10時54分ころ,e駅に着いたところで,ふらふらと下車しようとしたため,Hが「まだeですよ」と声をかけたが,「乗り換えるから」と言って下車したため,Hは,付き添って下車した。亡Eは,降りたホームの柱に寄りかかり,しゃがみ込んでうずくまったまま動かなくなった。Hは,しばらく見守った後,「帰りましょう」と声をかけ,亡Eとともにe駅午後10時58分発の準急列車に乗った。準急列車は,同駅を出た後,a駅,f駅,c駅の各駅に停車する。 亡Eは,上記準急列車に乗ると,少しすっきりした様子になり,ドア付近で立っていたが,午後11時ころa駅に着いたところで,再び下車しようとしたため,Hは,引き留めようか一緒に降りようか に停車する。 亡Eは,上記準急列車に乗ると,少しすっきりした様子になり,ドア付近で立っていたが,午後11時ころa駅に着いたところで,再び下車しようとしたため,Hは,引き留めようか一緒に降りようかと迷いながら近寄ったところ,亡Eは,手で制するそぶりをして本件ホームに降りたため,Hはそのまま上記準急列車に乗ってa駅を出発した。 その後,午後11時29分までの間に6本の上り列車が本件ホームで停止又は通過した後,午後11時38分ころ本件ホームを通過した本件列車に,上り線路上にいた亡Eが轢かれた(本件事故)。 ウ本件事故の少し前,a駅の階段から下りホームに下りた女子大学生が,上り線路上の亡Eを発見した。同大学生は,亡Eが線路上で大の字になり,ネクタイもゆるんで酒に酔って気持ちよく寝ているような様子であると感じた。本件ホームに利用客はおらず,下りホームには上記大学生のいた場所より京都寄りに2名程度利用客がいたが,いずれも亡Eに気付いている様子はなかった。上記大学生は,階段を駆け上がり,駅務室の駅員に上記状況を慌てて説明したが,うまく伝わらないうちに,警笛とともに本件列車が上り線路を走行し,本件事故が発生した。 エ本件ホーム上には,亡Eの鞄が置いてあり,その周りのホーム上に2箇所,ホーム下の線路までの間に1箇所の合計3箇所に嘔吐の跡があった。 - 10 -この3箇所は上から見た場合に概ね半径1mの円の中にあった。 (3) 本件事故前にa駅を通った列車について(甲5)本件事故前にa駅を通った列車は,以下のとおりである。なお,下線を付した特急及び急行の通過時刻は必ずしも正確なものではなく,2駅京都寄りにあるc駅の到着時刻の3分前ころ(上りの場合)又は同駅の発車時刻の3分後ころ(下りの場合)と推定したものである。 上り列車(大阪方面→ 及び急行の通過時刻は必ずしも正確なものではなく,2駅京都寄りにあるc駅の到着時刻の3分前ころ(上りの場合)又は同駅の発車時刻の3分後ころ(下りの場合)と推定したものである。 上り列車(大阪方面→京都方面) 下り列車23:00 準急停車 23:02前後特急通過(亡Eの降車した列車)23:03前後特急通過 23:04 普通停車23:11 準急停車 23:11 準急停車23:18前後特急通過 23:20 普通停車23:21 準急停車 23:21前後急行通過23:27前後快速急行通過 23:29前後特急通過23:29 準急停車 23:31 普通停車23:38前後特急通過 23:38 普通停車(本件列車) (本件下り列車)(4) 亡Eの花粉症について(甲69~72,76)亡Eは,本件事故当時,花粉症に悩まされ,目のかゆみや鼻水で夜もよく眠れないことがあり,週末には花粉よけの特殊サングラスを着用するほどであった。そのために病院に通っており,薬(①アレロック,②ニポラジン,③セレスタミン)を処方されて服用していた。上記①ないし③の薬の添付文書には,いずれも眠気を催すことがあるので投与中の患者には自動車の運転等に従事させてはならない旨が,上記②の薬の添付文書には,眠気等があらわれることがあるので,アルコール等の摂取に注意すべき旨が,上記③の薬の添付文書には,アルコールと併用すると,相互に作用を増強することがあ- 11 -る旨が,それぞれ記載されている。亡Eは,上記薬を購入した際,薬局から「アルコール含有飲料水等と服用しますと眠気等が強くあらわれま アルコールと併用すると,相互に作用を増強することがあ- 11 -る旨が,それぞれ記載されている。亡Eは,上記薬を購入した際,薬局から「アルコール含有飲料水等と服用しますと眠気等が強くあらわれますので注意して下さい」,「薬の作用が強く出ることがありますので,飲酒は控えてください」などの注意事項の記載がある薬剤情報提供書を受け取っていた。 2 争点(1)(被告の安全配慮義務違反又は注意義務違反の有無―本訴関係)について(1) 利用客が本件ホームから転落した場合にこれを把握し,救助すべき人的体制又は物的設備を整える義務の有無についてア一般に,駅のホームは,利用客に近接した場所を列車がときに高速で走行する構造となっており,利用客がホームから転落するなどして線路敷に入った場合には,列車と接触するなどして重大な事故につながる高度の危険性があることは明らかである。したがって,鉄道事業者は,利用客と旅客運送契約を締結して列車による運送サービスを提供するものとして,ホームにおける事故防止のために人的体制及び物的設備を整えるべき旅客運送契約上の安全配慮義務又は不法行為上の注意義務を負うものというべきである。 もっとも,鉄道事業は公共性を有し,極めて多数の利用客に対してできるだけ効率的な交通手段を安価に提供することが社会的に要請されているところ,鉄道事業者に対し,ホームにおける事故防止のために,全駅について時間帯を問わず,万全の人的体制をとり,最高水準の物的設備を導入するよう求めることは,上記要請に十分に応えられない結果を招きかねないといえる。加えて,ホームにおける前記の高度の危険性については,利用客も容易に認識可能であるといえることや,被告を含む各鉄道事業者の駅において利用客に対してアナウンス等による注意喚起がされているのは公知の事 加えて,ホームにおける前記の高度の危険性については,利用客も容易に認識可能であるといえることや,被告を含む各鉄道事業者の駅において利用客に対してアナウンス等による注意喚起がされているのは公知の事実であることからすれば,利用客の側でも,ホーム上では,前記の高度の危険性に常に留意し,必要でやむを得ない場合を除いては,白線,- 12 -黄線又は点字ブロックの外側に出ないようにするなどして自ら危険から身を守るよう心掛け,ホームの安全維持に協力することが求められているというべきである。 そうすると,鉄道事業者としては,特段の事情がない限り,利用客が,自ら危険から身を守るよう心掛けるであろうことを踏まえて,当該時間帯におけるホームの状況及び列車の運行状況に照らし,相応といえる事故防止措置をとっていれば,前記の安全配慮義務又は注意義務を尽くしているものと解すべきである。上記特段の事情があるとされる場合として,視覚障害者をはじめとする障害者,年少者及び急病人等との関係で通常と異なる対応を求められる場合や,通勤時間帯等にホーム上が多数の利用客で混雑して,ホームのスペース等に照らして通常時以上の危険性が生じている場合等が挙げられるが,これらは本件には直接関係がない。 本件についてみると,①平成20年におけるa駅の1日当たりの乗降者数は2万2938人であり,これは周辺のd駅,e駅及びc駅の半分ないし3分の1以下の人数であること,②本件事故当時は,水曜日の午後11時台という時間帯であって,本件事故直前には本件ホーム上が利用客で混雑する状況になかったこと,③本件ホームでは,列車の通過時にその旨がアナウンスされ注意喚起がされていたこと,④本件ホームには8個の非常通報ボタンが設置されていたこと,⑤本件ホームの直下には,列車が停車中に利用客が転落する場合 本件ホームでは,列車の通過時にその旨がアナウンスされ注意喚起がされていたこと,④本件ホームには8個の非常通報ボタンが設置されていたこと,⑤本件ホームの直下には,列車が停車中に利用客が転落する場合を主に想定したものであるが,転落検知装置が設置されていたことが認められる。これらによれば,被告は,本件事故当時の時間帯におけるホームの状況及び列車の運行状況に照らし,相応の事故防止措置をとっていたというべきであり,安全配慮義務違反又は注意義務違反があったということはできない。 したがって,被告が,これに加えて,本件ホームに駅員を配置し,駅務室の駅員に定期的に本件ホームを見回らせ,又は本件ホーム上のカメラの- 13 -映像を駅務室内のモニターに映し出して同室の駅員が本件ホーム上の様子を確認することができるようにすべき安全配慮義務又は注意義務を負っていた旨の原告らの主張は,採用することができない。 イ原告らは,本件ホームは,幅が狭いこと,列車が高速で通過すること,小学生の乗降者が多いことなどを指摘し,被告の安全配慮義務又は注意義務の程度は高かった旨主張する。 しかしながら,本件事故当時は水曜日の午後11時台であり,通常は小学生の乗降者がいる時間帯であるとはいえない。また,本件ホームは,事故現場付近における幅が約2.1mないし2.8mと狭く,列車がときに時速90kmという高速で通過することは前記認定のとおりであるが,亡Eが本件ホームから転落した経緯は不明であるから,本件ホームの幅が狭いために本件ホームから転落したとはいえない。本件ホーム上の利用客が多い時間帯ではなかったこと,列車の通過前にその旨がアナウンスにより注意喚起されていたことなどの前記各事情に照らせば,原告らの指摘する事情をもって,本件事故当時,本件ホームの危険性が通常以上に高 が多い時間帯ではなかったこと,列車の通過前にその旨がアナウンスにより注意喚起されていたことなどの前記各事情に照らせば,原告らの指摘する事情をもって,本件事故当時,本件ホームの危険性が通常以上に高い状況であったということはできない。利用客が少ない時間帯であるので,異常な状態にある者が発見しにくい状況にあったといえるが,それをもって本件ホームの危険性が高まっている状態であるとはいえない。 よって,原告らの上記主張は採用することができない。 ウ原告らは,亡Eが本件ホーム上で30分間以上留まり,その後最大9分間程度線路上に仰臥していたという異常な状態であったのに,駅員がこれを把握できなかったことにつき被告に責任がある旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,鉄道事業者としては,特段の事情がない限り,利用客が自ら危険から身を守るよう心掛けるであろうことを踏まえて,当該時間帯におけるホームの状況及び列車の運行状況に照らし,相応といえる事故防止措置をとっていれば,安全配慮義務又は注意義務を尽く- 14 -しているものというべきである。そして,鉄道事業者側が,一見して明らかに自ら危険から身を守るよう心掛けることが期待できない身体的,精神的状態にある利用客の存在を把握した場合には,特段の事情があるものとして,その状態に応じて事故防止のために対応すべきであるといえるものの,本件では,亡Eは準急列車から降りてから,本件ホーム上にそのまま留まっていたと認められ,橋上駅舎であったから,被告側が本件ホーム上の亡Eの存在を把握していたとは認められない。利用客が少ない時間帯において,利用客から何らかの異変が通報される可能性が小さくなることから,特別の注意義務があるということもできない。結果として,亡Eが線路上に仰臥した直後にこれを把握していれば,本件列 少ない時間帯において,利用客から何らかの異変が通報される可能性が小さくなることから,特別の注意義務があるということもできない。結果として,亡Eが線路上に仰臥した直後にこれを把握していれば,本件列車が通過するまでに救助する時間的余裕がなかったとはいい切れないことから,遺族である原告らの無念の気持ちを思えば胸が痛むというほかないが,被告においてこれを把握することができなかったことにつき安全配慮義務違反又は注意義務違反があったといえないことは前記のとおりである。 よって,原告らの上記主張は,採用することができない。 (2) ホーム柵又はホームドアを設置すべき義務の有無についてア原告らは,被告が本件ホームにホーム柵又はホームドアを設置すべき義務を負っていた旨主張するので,以下検討する。 イ一般に,ホームドアとは,ホームと線路敷の間に天井付近までの仕切りを設け,仕切りに取り付けられた扉と電車の扉が連動して開閉するタイプのものを指すことが多く,可動式ホーム柵とは,ホームと線路敷の間のホーム上に概ね腰の高さの柵を設け,柵に取り付けられた扉と電車の扉が連動して開閉するタイプのものを指すことが多い(甲43,以下,ホームドア及び可動式ホーム柵を併せて「ホームドア等」という。)。本件事故は,扉のない固定式ホーム柵により防止することができたとは解されないため,以下,被告にホームドア等を設置すべき義務があったかどうかを検討する。 - 15 -国土交通省は,平成13年に「ホーム柵等の設置促進に関する検討会」を設け(甲12),同検討会は,平成15年12月に「ホーム柵の設置は,様々な課題が残されているもののホームにおける事故防止に対し有効であり,また,バリアフリー化,人身障害事故による列車遅延の防止等,鉄道サービスの向上方策としても設置促進のため に「ホーム柵の設置は,様々な課題が残されているもののホームにおける事故防止に対し有効であり,また,バリアフリー化,人身障害事故による列車遅延の防止等,鉄道サービスの向上方策としても設置促進のための検討を進めていく必要がある」とする報告書を提出した(甲13)。これを受けて同月に国土交通省鉄道局長から各地方運輸局長に「建設中の路線及び列車の速度が高く,運転本数の多い路線については,ホーム柵の設置可能性の検討を行うよう指導されたい」旨が求められた(甲14)。国家公安委員会,総務省及び国土交通省は,平成18年6月に制定された高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律第3条1項に基づき,同年12月15日に「移動等円滑化の促進に関する基本方針」を定め,その中で「1日当たりの平均的な利用者数が5000人以上である鉄道駅及び軌道停留場については,平成22年までに,原則としてすべての鉄道駅及び軌道停留場について,(中略)ホームドア,可動式ホーム柵,点状ブロックその他の視覚障害者の転落を防止するための設備の整備(中略)等の移動等円滑化を実施する」とした(甲15)。 これらによれば,本件事故のかなり前から,国から鉄道事業者に対し,ホームドア等の設置がホームにおける事故防止に有効であるとして,できるだけこれを設置する方向で検討を進めるよう指導されている状況であったことが認められる。 ウしかしながら,①全国の約9500駅のうち,ホームドア等が設置されていたのは,平成20年末の時点で約420駅であり(甲44,全体に占める割合は約4.4%,1日当たりの乗降者数が5000人を超える約2800駅に占める割合は約15%),平成22年3月末時点で449駅であったこと(甲46,上記各割合は約4.7%,約16%),- 16 -②上記のホームドア等が設置 降者数が5000人を超える約2800駅に占める割合は約15%),平成22年3月末時点で449駅であったこと(甲46,上記各割合は約4.7%,約16%),- 16 -②上記のホームドア等が設置されていた駅の中では,新設の路線の駅がかなりの割合を占めていたこと(甲17~43),③在来の路線でホームドア等の設置が速やかに進まない理由として,その設置に高額の費用がかかるという資金的な問題や(JR西日本の東西線北新地駅における可動式ホーム柵の設置費用は約3億5000万円とされる),扉の数及び位置が異なる複数の種類の列車が運行している路線ではホームドア等の扉と列車の扉を合わせるのが困難であるという技術的な問題があること(甲38,46),④本件事故後である平成23年1月28日時点でも,関西圏のJR西日本及び被告を含む大手私鉄5社では,ホームドア等が設置されていた駅はなかったこと(弁論の全趣旨),⑤JR東日本管内の在来線の駅でホームドア等が設置されたのは本件事故後である平成22年6月26日の恵比寿駅が初めてであったこと(甲26),⑥国土交通省が設けた「ホームドアの整備促進等に関する検討会」が平成23年8月に提出した報告書には「利用客10万人以上の駅においては,(中略)原則として,ホームドア等又は内方線付きJIS規格化点状ブロックの整備による転落防止対策を,ホームに応じ,優先して速やかに実施するよう努める」との記載があるところ(乙5),a駅の乗降者数は1日当たり2万2938人であったことが認められる。 エ以上によれば,本件事故当時ないし現在も,在来の路線では,ホームドア等が設置された駅の割合は低い割合に留まっている状況にあり,本件事故後に国土交通省により設けられた検討会が示した基準によっても,a駅は,その乗降者数に照らし,未だホームドア等 の路線では,ホームドア等が設置された駅の割合は低い割合に留まっている状況にあり,本件事故後に国土交通省により設けられた検討会が示した基準によっても,a駅は,その乗降者数に照らし,未だホームドア等の導入等の転落防止策を優先的に速やかに実施するよう努めるべきとされる駅に含まれていない。これに,前記(1)で検討したところを総合すれば,被告がa駅にホームドア等を設置していなかったことをもって,安全配慮義務違反又は注意義務違反に当たるということはできない。 - 17 -本件ホームの狭さ,高速で通過する列車の多さ等の事情から,ホームドア等が設置されれば,それが望ましいことは言うまでもないが,以上の検討に照らし,これらの事情は上記判断を左右するものとはいえない。 (3) 本件下り列車の運転士の前方注視義務違反の有無について原告らは,本件事故の前にa駅に入った本件下り列車の運転士には,前方注視を尽くさず,上り線路上の亡Eを発見することができなかった過失がある旨主張する。 しかしながら,本件事故当日の運行表示データ等の証拠(乙1~3)及び弁論の全趣旨からは,本件列車は,本件下り列車より先にa駅に達していたことが認められるから,本件下り列車が同駅に入ったときには,本件事故は既に発生していたものといえる。 原告らは,本件事故後の日の同時刻ころに,本件下り列車と同じQ2207A列車が本件列車と同じB2302Z列車より先にa駅に入っている映像(甲6,47)を提出するが,本件事故当日の事実を立証するものとして不十分であり,これは前記認定を左右するものではない。 よって,原告らの前記主張は採用することができない。 3 争点(3)(亡Eの注意義務違反の有無―反訴関係)について(1) 前示のとおり,一般に,ホーム上の高度の危険性に関しては,鉄道事 ない。 よって,原告らの前記主張は採用することができない。 3 争点(3)(亡Eの注意義務違反の有無―反訴関係)について(1) 前示のとおり,一般に,ホーム上の高度の危険性に関しては,鉄道事業者が事故防止のために人的体制及び物的設備を整えるべき注意義務を負っている一方,利用客も自ら危険から身を守るよう心掛けることを求められており,鉄道事業の公共性の観点からも,鉄道事業者と利用客の双方が,事故防止に向けて対策を講じ,また注意して行動することにより,協力してホームにおける安全維持が実現されている状況にあるものといえる。 そうすると,利用客がホームから転落して列車に接触するなどした事故に関し,鉄道事業者がその利用客に対して不法行為責任を追及する場合において,その利用客の過失の有無や程度を判断する際には,鉄道事業者の注意義- 18 -務の程度や,その公共性や社会的要請に照らして,万全の人的体制や最高水準の物的設備までを求めることができないことを踏まえた上で,その利用客の立場から,事故を予見し防止し得た可能性の程度や行為の態様等を総合考慮して,社会通念上,事故により鉄道事業者に生じた損害を当該利用客に負担させるのが公平であるといえるかどうかという観点から検討すべきである。 (2) 本件についてみると,亡Eは,本件ホームから転落し,その後速やかに上り線路上から待避しなかったものであり,これら一連の行為については,利用客として自ら危険から身を守るべき注意義務に違反した過失(民法709条)があるといわざるを得ない。 しかし,亡Eは,本件ホームに降り立った後,本件ホーム上で約30分間にわたりほとんど移動していないこと,複数回嘔吐したこと,線路敷に転落したにもかかわらず,そのことに気付かずに眠っている様子であったことが認められ,自分に対 に降り立った後,本件ホーム上で約30分間にわたりほとんど移動していないこと,複数回嘔吐したこと,線路敷に転落したにもかかわらず,そのことに気付かずに眠っている様子であったことが認められ,自分に対する危険を回避する行動をとったとは全く認められない。 以上の事情からは,本件事故当時,亡Eは,自己の責任を弁識する能力を欠く状態にあったものと認められる(民法713条本文)。 そこで,亡Eが,上記のとおり一時的に責任弁識能力を欠く状態を招いたことについて,過失があったかどうか(民法713条ただし書)について検討する。亡Eは,花粉症の薬を薬局で購入した際に,服用後は飲酒を控えるべき旨の注意事項の記載がある薬剤情報提供書を受け取っていたことが認められるところ,亡Eは,この注意事項を読む機会があったのに実際には読んでいないか,読んでもさほど気にしないで,普段どおり飲酒してしまったものであって,飲酒した時点で,自らが責任弁識能力を欠く状態に至ることを予見し防止し得た可能性があったといわざるを得ない。 しかし,亡Eの本件事故前の飲酒量が普段と変わらず,本人の許容量を超えるものであったといえないこと,同人が本件事故のころ,夜も眠れないほどの重い花粉症の症状を訴えて病院に通っていたこと,同人が服用していた- 19 -花粉症の薬は,眠気等を催させ,アルコールと併用するとその作用が増強するものであったことに照らせば,亡Eが責任弁識能力を欠く状態に至ったことについては,飲酒も原因とはいえるものの,花粉症の症状や薬による作用も相当寄与していたものといえる。薬剤情報提供書の注意事項の記載だけで,普段の飲酒量でどの程度の体調の変化が現れるかを予想することは困難であるし,亡Eが医師から飲酒について個別具体的注意を受けていたとも認められない。 上記の経緯によれば, 書の注意事項の記載だけで,普段の飲酒量でどの程度の体調の変化が現れるかを予想することは困難であるし,亡Eが医師から飲酒について個別具体的注意を受けていたとも認められない。 上記の経緯によれば,亡Eが責任弁識能力を欠く状態に至り,本件ホームから転落し,線路上に仰臥していたことについての予見可能性の程度は低く,その過失の程度は相当軽いということができる。これは,自殺を企図してホームから線路に飛び降りた場合など,故意に列車と接触するなどした場合とは,かなり事情が異なることはいうまでもなく,また線路上の落下物をとるために故意に線路上に下りたり,自ら許容量を超えて飲酒し酩酊してホームから転落したりした場合など,自ら明らかに危険な行為に及んで列車と接触するなどしたといえる場合とも,事情が異なることは同様である。 特に本件のような場合には,鉄道事業者に求められている注意義務の程度が万全・最高のものではないことも考慮すると,社会通念上,本件事故により,被告に生じた損害の全部について亡Eに負担させるのが,公平であるということはできない。 よって,亡Eには,一時的に責任弁識能力を欠く状態を招いたことについての過失(民法713条ただし書)はあるものの,上記事情を考慮して,民法722条2項を類推適用し,被告に生じた損害の5割をもって,原告らに負担させるのが相当である。反訴請求において,民法722条2項を類推適用する際に考慮する上記事情は,本訴請求において,被告の法的責任を基礎付けることにならないことはいうまでもなく,被告に生じた損害を原告らが事実上一部負担する結果となることは,本件において,被告に亡Eに生じた- 20 -損害につき法的責任がないとする判断と矛盾するものではない。 4 争点(4)(被告の損害―反訴関係)について(1) 被告従業 る結果となることは,本件において,被告に亡Eに生じた- 20 -損害につき法的責任がないとする判断と矛盾するものではない。 4 争点(4)(被告の損害―反訴関係)について(1) 被告従業員らの時間外労働に伴う人件費 41万9110円被告従業員らの時間外労働に伴う人件費41万9110円は,証拠(甲7の3)及び弁論の全趣旨により,本件事故による損害と認めることができる。 (2) 株式会社G従業員らの時間外労働に伴う人件費 0円株式会社Gの従業員らの人件費(甲7の4)は,同社に生じた損害であって,同社は被告とは別の会社であるから,被告の損害とは認められない。 (3) 利用客らのタクシー代 10万円被告が利用客らに対し,最終連絡の公共交通機関を利用することができなくなったことにつき13万1210円を支払ったことが認められるが(甲7の6),各利用客のタクシー乗車の必要性や相当性について具体的に個別の立証がない。しかし,本件事故の発生時刻が午後11時38分ころであったことからすると,本件事故による列車の遅延から最終連絡の公共交通機関を利用できなくなった乗客が存在したことは推認できるので,上記支払額のうち10万円の限度で本件事故により発生した損害と認める。 (4) 車両修理費 6万6525円車両修理費6万6525円は,証拠(甲7の5)及び弁論の全趣旨により,本件事故による損害と認めることができる。 (5) 民法722条2項の類推適用及び受領した保険金の充当ア上記(1),(3)の損害合計51万9110円については,民法722条2項の類推適用により,5割相当の25万9555円を原告らが被告に支払うべきである。 イ上記(4)の損害については,民法722条2項の類推適用により,原告ら及び被告の負担分は,それぞ 法722条2項の類推適用により,5割相当の25万9555円を原告らが被告に支払うべきである。 イ上記(4)の損害については,民法722条2項の類推適用により,原告ら及び被告の負担分は,それぞれ3万3262円となるところ,被告が保険会社から支払を受けた車両修理費に関する保険金3万6525円は,先ず- 21 -被告の負担部分に充当され,それを超える分が原告の負担部分に充当されるというべきであるから,この充当後の残額として原告らが被告に対して支払うべき金額は3万円となる。 ウよって,被告の原告らに対する反訴請求は,上記合計28万9555円の限度で理由がある。原告らの相続割合に従えば,被告の原告Aに対する請求は14万4778円の限度で理由があり,原告子らに対する請求は,各4万8259円の限度で理由がある。 5 結論以上の次第で,原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,被告の反訴請求は主文の限度で理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第15民事部 裁判長裁判官稻葉重子 裁判官宮崎朋紀 裁判官川崎志織

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る