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主文 原判決を破棄する。被告人を懲役一年に処する。但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。第一審及び原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。理由 弁護人本村善太郎、同安平政吉、同高橋諦の上告趣意第一点ないし第五点は、いずれも事実誤認の主張、同第六点は、事実誤認、単なる法令違反の主張、同第七点は、事実誤認、単なる法令違反の主張のほか判例違反をも主張するが、その違反する判例を具体的に示しておらず、同第八点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由に当らない(同弁護人ら提出の昭和三六年一二月八日付上告趣意書追完の申立書は、上告趣意書を差し出すべき最終日を経過した後の提出にかかるもので採用することをえない)。なお、職権により調査すると、原判決は、被告人がその職務に関し請託を受けAをしてBにその代金合計三一八万三〇〇〇円を受領させて合計四八万八〇〇〇円の利益を供与せしめたとの第一審判決の確定した事実につき、金四八万八〇〇〇円は情を知つた第三者たるBが収受した賄賂で、これを没収することができないものとして、昭和三三年法律第一〇七号附則第二項および同法律による改正前の刑法第一九七条の四により同人からこれを追徴しているのである。しかし、憲法二九条一項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同三一条は、何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているところ、前記第三者に対する追徴は、被告人に対する刑と共に言渡されるものであるが、没収に代わる処分として直接に第三者に対し一定額の金員の納付を命ずるものであるから、当該第三者- 1 -に対し告知せず、弁解、防禦の機会を与え 追徴は、被告人に対する刑と共に言渡されるものであるが、没収に代わる処分として直接に第三者に対し一定額の金員の納付を命ずるものであるから、当該第三者- 1 -に対し告知せず、弁解、防禦の機会を与えないで追徴を命ずることは、適正な法律手続によらないで財産権を侵害する制裁を科するものであつて、憲法の右規定に違反するものといわなければならない。 、当該第三者- 1 -に対し告知せず、弁解、防禦の機会を与え 追徴は、被告人に対する刑と共に言渡されるものであるが、没収に代わる処分として直接に第三者に対し一定額の金員の納付を命ずるものであるから、当該第三者- 1 -に対し告知せず、弁解、防禦の機会を与えないで追徴を命ずることは、適正な法律手続によらないで財産権を侵害する制裁を科するものであつて、憲法の右規定に違反するものといわなければならない。然るに、前記刑法一九七条の四は、情を知つた第三者の収受した賄賂の全部又は一部を没収することができないときはその価額を追徴する旨を規定しながら、その追徴を命ぜられる第三者に対する告知の手続及び弁解、防禦の機会を与える手続に関しては刑訴法その他の法令になんら規定するところがなく、本件においても、第三者たるBは単に証人として第一審裁判所及び原審裁判所において取調べられているのに過ぎないのであるから、右手続を履むことなく刑法の右規定によつて同人から賄賂に代わる価額を追徴することは、憲法三一条、二九条に違反するものと断ぜざるをえない。原判決は、この点において破棄を免れない。よつて刑訴法四一〇条一項本文、四〇五条一号、四一三条但書により原判決を破棄し、被告事件につき更に判決する。原審の是認する第一審判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の判示所為は刑法一九七条の二に該当するので、その刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二五条一項を適用して本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用につき刑訴法一八一条一項本文を適用し主文のとおり判決する。この判決は、裁判官山田作之助の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。裁判官山田作之助の意見は次の通りである。わたくしは、多数意見と、その結論を同じくするのであるが、その理由を異にするので、その次第を次のように述べる。一、憲法三一条 致の意見によるものである。裁判官山田作之助の意見は次の通りである。わたくしは、多数意見と、その結論を同じくするのであるが、その理由を異にするので、その次第を次のように述べる。一、憲法三一条が「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定し、同三二条において、「何人も、裁判所において裁判を受ける権- 2 -利を奪はれない」と定められている以上、国家に、実体法上(刑法、関税法等)の刑罰権(処分権)が認められていても、これを具体的に実現するためには、厳格なる法的手続が要求されている。 その次第を次のように述べる。一、憲法三一条が「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定し、同三二条において、「何人も、裁判所において裁判を受ける権- 2 -利を奪はれない」と定められている以上、国家に、実体法上(刑法、関税法等)の刑罰権(処分権)が認められていても、これを具体的に実現するためには、厳格なる法的手続が要求されている。そして、近代的刑事手続にあつては、被告人の利益を保護するために、当事者訴訟の構造をとつているのであつて、我が国の刑事訴訟法もまた、当事者訴訟主義をとつていることはいうまでもない。二、右のように、当事者訴訟の構造をとつている我が刑事訴訟法においては、被告人に対してなされたる訴訟手続にもとづき、被告人に対して言い渡される判決の直接の効力が、訴訟当事者となつていない被告人以外の第三者にまで及ぶということは認められていない(このことは当事者訴訟主義をとつている近代訴訟における民事訴訟法、刑事訴訟法、破産法等を通じて確立されている訴訟法上の基礎原理の一つである―昭和三〇年(あ)第二九六一号同三七年一一月二八日言渡大法廷判決〔刑集一六巻一一号一五九三頁〕におけるわたくしの少数意見参照)。多数意見が、原判決は、第三者たるBに対し告知せず、弁解、防禦の機会を与えずして同人より追徴をなすこととした点において違法があるとしているが、わたくしは、Bを、訴訟上の防禦並びに不服申立等の権限を有する訴訟当事者として参加せしめて、はじめて同人より追徴をなすことを得ると解するものである。三、原判決主文四項は「本件により るとしているが、わたくしは、Bを、訴訟上の防禦並びに不服申立等の権限を有する訴訟当事者として参加せしめて、はじめて同人より追徴をなすことを得ると解するものである。三、原判決主文四項は「本件により収受した利益金四八万八〇〇〇円はBからこれを追徴する」としているのであるが、右Bは、本件訴訟において起訴されていないばかりでなく、訴訟手続上防禦並びに不服申立等の権限を保障された者として本件訴訟手続に参加もしていないから、本件の訴訟当事者とはいえないものである。被告人Cに対する本件刑事訴訟手続で同被告人に対して言い渡された本件判決は、第三者たるBに対しては、法律上何等の効力を及ぼすものでないことは論をまたない(前掲大法廷判決におけるわたくしの少数意見参照)。 るのであるが、右Bは、本件訴訟において起訴されていないばかりでなく、訴訟手続上防禦並びに不服申立等の権限を保障された者として本件訴訟手続に参加もしていないから、本件の訴訟当事者とはいえないものである。被告人Cに対する本件刑事訴訟手続で同被告人に対して言い渡された本件判決は、第三者たるBに対しては、法律上何等の効力を及ぼすものでないことは論をまたない(前掲大法廷判決におけるわたくしの少数意見参照)。従つて、「Bから追徴する」との部分は、法律効果を伴わない無意味の記載というほかなく、しかもこの記載に- 3 -より世人に何等かの誤解を生ぜしめるおそれなしとしない。いうまでもなく、判決主文は、判決中最も重要なる部分であるから、その主文にこのような法律上意味のない事項の記載を容認するが如きことは到底許されざる処で、原判決中、この点に関する部分は、破棄を免かれないものである。検察官平出禾公判出席昭和四〇年四月二八日最高裁判所大法廷裁判長裁判官横田喜三郎裁判官入江俊郎裁判官奥野健一裁判官石坂修一裁判官山田作之助裁判官五鬼上堅磐裁判官横田正 一裁判官山田作之助裁判官五鬼上堅磐裁判官横田正俊裁判官草鹿浅之介裁判官長部謹吾裁判官城戸芳彦裁判官石田和外裁判官柏原語六裁判官田中二郎裁判官松田二郎裁判官岩田誠- 4 -
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