東京高裁平成21・3・26316条の20第1項抗告棄却主文本件即時抗告を棄却する。理由 本件即時抗告の趣意は,弁護人J及び弁護人K連名作成名義の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。 論旨は,要するに,弁護人らは,①A協会前事務局員B,C事務局長代理D及びC事務局員Eに対する本件捜査段階の取調べに係る取調官作成の録取メモ又はノート,②警察官が,A協会関係者の取調べに備えて作成し,取調べ時に用いた取調事項マニュアル,③本件の平成19年8月22日付け捜索差押許可状請求(被疑者F外2名分)に際し,「理事長F・Gと,審査統括部長Hが,共謀の上,審査員をして,わいせつ図画の頒布を容易にさせた」という被疑事実の嫌疑を明らかにすべく添付された供述調書,捜査報告書等の根拠資料一式(わいせつ性や販売事実等,上記の嫌疑事実に結び付かないものを除く。)の各証拠開示命令請求をしたが,上記①②の各証拠について,「検察官が開示をすべき証拠を開示していない」(刑訴法316条の26第1項)と認めることはできないとし,上記③の証拠について,「(刑訴法)316条の20第1項の規定による開示をすべき証拠」(刑訴法316条の26第1項)に該当しないとして,上記各証拠開示命令請求を棄却した原決定は不服であるから,原決定を取り消して,上記各証拠の開示を命じる旨の決定を求める,というものと解される(なお,上記即時抗告申立書にI外3名に関する録取メモ又はノートの開示請求を取り下げるとあるのは,この点については不服申立てをしない趣旨と解する。)。 2上記①②の各証拠について所論は,上記①の証拠は犯罪捜査規範13条により公判審理等のために記録化が義務付けられている備忘録に当たり,上記②の証拠は同96条にいう捜査方針の樹立又は同98条にいう捜査会議に当 の各証拠について所論は,上記①の証拠は犯罪捜査規範13条により公判審理等のために記録化が義務付けられている備忘録に当たり,上記②の証拠は同96条にいう捜査方針の樹立又は同98条にいう捜査会議に当たって作成されることが明らかなものであるから,これらの証拠が存在しない旨の検察官の回答を不自然・不合理でないと判断した原決定は異常であるなどと主張する。 そこで検討するに,検察官は,弁護人Kから,上記①の証拠を含むA協会前事務局長I外6名に関する取調官作成の録取メモ又はノート及び②の証拠の開示請求(以下「11月14日付け開示請求」という。)を受けたのに対し,上記Iに係る平成19年12月7日付け取調べ状況報告書1通を任意に開示した上で,「開示請求に係る証拠については,上記取調べ状況報告書を除き,存在しないので,開示には応じられない。組織的に保管されているものではない取調べメモ等については,その存否についても完全な把握は困難であるが,現在確認できる範囲では,組織的に保管されているものではない取調べメモ等は存在しないという趣旨である」旨回答し(平成20年12月3日付け証拠開示請求に対する回答書),さらに,11月14日付け開示請求に係る証拠の開示命令請求について意見を求められた際には,「11月14日付け開示請求に係る各証拠はいずれも存在しない。同証拠の存否に関する調査は,検察官保管の事件記録等の精査のほか,手法を変えて,複数回にわたり,同証拠を作成し又は保管している可能性のある捜査関係者全員に確認するなどして,実施した」旨回答している(平成21年1月29日付け意見書)ところ,以上の経緯にかんがみると,弁護人らがるる主張する事情を考慮しても,検察官が開示すべき証拠を開示していないとは認められない(なお,所論は,最高裁判所第三小法廷平成19年12月25日決 見書)ところ,以上の経緯にかんがみると,弁護人らがるる主張する事情を考慮しても,検察官が開示すべき証拠を開示していないとは認められない(なお,所論は,最高裁判所第三小法廷平成19年12月25日決定及び同平成20年6月25日決定は,検察官の「開示請求に係る証拠は存在しない」との回答を信用できないとして排斥しているのであって,原決定が最高裁の判断に反したものであることは明らかであるとも主張するが,上記各最高裁決定は,本件と事案を異にしており,上記主張は失当である。)。 そうすると,原決定が,上記①②の各証拠について,開示命令請求を棄却したのは正当であり,所論は採用できない。 上記③の証拠について所論は,㨯原決定は,弁護人らの公訴権濫用の主張につき,「わいせつ性に疑いがあれば,多くの場合,公訴提起の有効性を問題とするまでもなく無罪の判断となる」から,被告人らの防御の必要性が低いとするものであるが,公訴権濫用論は,有罪・無罪をいう以前の問題であり,実体判断と議論のレベルを異にするから,これと同列・選択的に論じるのは誤りであるし,証拠開示請求に際して弁護人らの主張構成自体を制限する視点・発想自体が誤りである,㨯本件での意図的な職権濫用は,わいせつ性の実体判断にもつながるから,開示請求に係る証拠は,無罪主張とも関連性が十二分にあり,開示の必要性は大きく,また,嫌疑なき令状請求の実際等を明らかにすることは,被告人らの供述の任意性の主張立証にも大きく資することにもなる,㨯令状審査にまつわる不正があり,憲法の保障する令状主義の根本を揺るがしかねない捜査の重大な違法が疑われる場面で,情報源の秘匿や捜査の密行性確保の要請といった一般論によりかかる重大な違法が救済されるとすれば,嫌疑なき強制捜査がまかり通ってしまうのであり,原裁判所のバランス感覚には著しい な違法が疑われる場面で,情報源の秘匿や捜査の密行性確保の要請といった一般論によりかかる重大な違法が救済されるとすれば,嫌疑なき強制捜査がまかり通ってしまうのであり,原裁判所のバランス感覚には著しい不備があるなどと主張する。 そこで検討するに,検察官の訴追裁量権の逸脱により公訴の提起が無効となり得るのは,例えば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られると解される(最高裁判所第一小法廷昭和55年12月17日決定・刑集34巻7号672頁参照)ところ,弁護人らは,職権濫用の意図で令状請求がされた疑いの強い本件については,刑法194条の特別公務員職権濫用罪が成立し,公訴提起自体が職務犯罪を構成する場合又は構成するような場合に該当するなどとして,公訴権濫用を理由とする公訴棄却を主張するものの,同主張は具体性が乏しい上,既に,上記③の証拠を疎明資料とする捜索差押許可状請求前に作成されたものも含めて,A協会関係者等の供述調書が相当数,弁護人らに任意開示されていることを考えると,被告人の防御の準備のために,これら開示済みの証拠に加えて上記③の証拠を開示することが必要である理由が明らかにされているとはいい難い。また,所論は,上記③の証拠は,わいせつ性や被告人らの供述の任意性の主張にも関連するとも主張するが,上記③の証拠とわいせつ性や被告人らの供述の任意性の主張との関連性は,所論によっても必ずしも明らかではない。 なお,一般的に,令状請求に係る疎明資料には,情報提供者の通報内容等の捜査の端緒を記載したものや種々の捜査手法等を記載したものが含まれることがあり,そのようなものについては,情報源の秘匿や捜査の密行性の確保が要請され,開示することによって将来の犯罪捜査に悪影響を与える可能性があることは否定できないところである。 以上によれば,原決定 とがあり,そのようなものについては,情報源の秘匿や捜査の密行性の確保が要請され,開示することによって将来の犯罪捜査に悪影響を与える可能性があることは否定できないところである。 以上によれば,原決定が,上記③の証拠について,刑訴法316条の26第1項にいう「(刑訴法)316条の20第1項の規定による開示をすべき証拠」に該当しないとして,開示命令請求を棄却したのは,結局正当であり,所論は採用できない。 以上のとおり,論旨は理由がない。 よって,刑訴法426条1項により,本件即時抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・金谷暁,裁判官・松本圭史,裁判宮・古玉正紀)
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