令和4(ワ)276 過労自死損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月4日 熊本地方裁判所
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判決文本文27,350 文字)

主文 1 被告は、原告Aに対し、4033万9486円及びこれに対する平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、1073万0484円及びこれに対する平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、1073万0484円及びこれに対する平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。 6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、原告Aに対しては3200万円、原告B及び原告Cに対しては各800万円の担保を供するときは、その各仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1 請求 1 主位的請求⑴ 被告は、原告Aに対し、5464万6072円及びこれに対する平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、1176万9752円及びこれに対する平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は、原告Cに対し、1176万9752円及びこれに対する平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求⑴ 被告は、原告Aに対し、5464万6072円及びこれに対する令和4年2月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、1176万9752円及びこれに対する令和4年 2月1日から支払済みまで年3%の割合による金員 1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Bに対し、1176万9752円及びこれに対する令和4年 2月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 ⑶ 被告は、原告Cに対し、1176万9752円及びこれに対する令和4年2月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 D(以下「亡D」という。)は、E警察署(以下「本件警察署」という。)の刑事課に所属する警察官であったが、平成▲▲年▲月▲▲日、自殺した(以下「本件自殺」という。)。 本件は、亡Dの相続人である原告らが、本件自殺は刑事課における過重な業務により精神障害を発病したことが原因であるなどと主張して、被告に対し、 主位的に、国家賠償法1条1項に基づき、原告Aにつき損害賠償金5464万6072円、原告B及び原告Cにつき各1176万9752円及びこれらに対する平成▲▲年▲月▲▲日(本件自殺の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、民法415条に基づき、原告Aにつき損害賠償金54 64万6072円、原告B及び原告Cにつき各1176万9752円及びこれらに対する令和4年2月1日(原告Aが被告に対して上記損害の賠償を請求した日より後の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(争いのない事実、後掲各証拠(以下、特記しない限り枝番を含 む。)及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実並びに当裁判所に顕著な事実)(1) 当事者等(甲2、当事者間に争いがない事実)ア亡D(平成△年△月△△日生まれ、本件 番を含 む。)及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実並びに当裁判所に顕著な事実)(1) 当事者等(甲2、当事者間に争いがない事実)ア亡D(平成△年△月△△日生まれ、本件自殺当時24歳)は、高等学校を卒業後、平成24年にF警察に入職し、平成▲▲年▲月▲▲日(以下、 平成29年の日付を月日のみで表記することがある。)に本件自殺により 死亡するまで、警察官として勤務していた者である。亡Dは、本件自殺当時、a市内に所在する職員用の宿舎の一室(以下「本件居室」という。)に居住し、職場まで自家用車(以下「本件車両」という。)で通勤していた。また、亡Dは、平成27年11月頃から職場の同僚である訴外G(以下「訴外G」という。)と交際していた。 亡Dの入職後、本件自殺までの略歴は以下のとおりである。なお、本件警察署に配属された後の略歴の記載は、いずれも本件警察署の内部での異動に関するものである。 (ア) 平成24年4月1日警察学校入校(イ) 平成25年1月28日本件警察署配属、地域課所在地係 (ウ) 同年8月30日地域課d交番(エ) 平成26年3月28日地域課自動車警ら係(オ) 平成27年3月24日総務課留置管理係(カ) 平成29年3月31日刑事課捜査第一係イ原告A、原告B及び原告Cは、それぞれ亡Dの母、兄及び妹である。な お、亡Dの父である訴外Hは、本件自殺後である平成●●年●月●●日に死亡した。 したがって、亡Dの相続につき、原告Aの相続分は4分の3、原告B及び原告Cは各8分の1である。 ウ被告は、F警察を設置する地方公共団体である。 ⑵ 勤務形態等(甲 た。 したがって、亡Dの相続につき、原告Aの相続分は4分の3、原告B及び原告Cは各8分の1である。 ウ被告は、F警察を設置する地方公共団体である。 ⑵ 勤務形態等(甲2、4、弁論の全趣旨)平成29年度における亡Dの勤務形態等の概要は以下のとおりである。 ア日勤の勤務時間は、平日の午前8時30分から午後5時15分まで、休憩時間は午後0時から午後1時までとされていた。 イ日勤以外の勤務形態として、平日の夜間並びに土曜日、日曜日及び祝日 における当直勤務(以下、平日の夜間における当直勤務を「平日の当直勤 務」、土曜日、日曜日及び祝日における当直勤務を「休日の当直勤務」、平日の当直勤務及び休日の当直勤務を併せて「当直勤務」という。)があり、各職員が概ね週1回の頻度で担当することとされていた。平日の当直勤務は、午後5時15分から翌日の午前8時30分まで、休日の当直勤務は、午前8時30分から翌日の午前8時30分までの勤務とされており、 当直勤務における仮眠時間を含む休憩時間は、平日の当直勤務につき7時間30分、休日の当直勤務につき8時間30分とされていたが、その実態等については、当事者間に争いがある。 ⑶ 本件自殺(甲2、甲4の3[4頁、299頁、302頁])平成▲▲年▲月▲▲日、日勤を予定していた亡Dの出勤が確認されず、本 件警察署の職員が亡Dの行方を捜索したところ、b自動車道のサービスエリア内の駐車場において、本件車両及び本件車両内で死亡した状態の亡Dが発見された。本件車両内からは、七輪や燃えかけの練炭等が発見され、亡Dの死亡の原因は、自殺による一酸化炭素中毒と診断された。 ⑷ 公務災害認定(甲1、2、4の1、6の1及び2、7の1ないし3、15、 車両内からは、七輪や燃えかけの練炭等が発見され、亡Dの死亡の原因は、自殺による一酸化炭素中毒と診断された。 ⑷ 公務災害認定(甲1、2、4の1、6の1及び2、7の1ないし3、15、 16)ア原告Aは、令和元年9月5日、地方公務員災害補償基金F支部長(以下「基金」という。)に対し、本件自殺について、公務災害認定請求をした。 これに対し、基金は、令和2年11月13日、本件自殺について、公務上の災害と認定する旨の処分(以下「本件認定処分」という。)をした。 基金は、本件認定処分を踏まえ、令和3年7月30日までに、原告Aに対し、遺族補償一時金1497万3000円及び葬祭補償89万8380円に加え、遺族特別支給金300万円、遺族特別援護金1860万円及び遺族特別給付金(一時金)299万4600円を支給する旨の決定(以下「第一次支給決定」という。)をした。原告Aは、同年8月5日、上記金 額を受給した。 イ原告Aは、第一次支給決定について、審査請求をした。これに対し、基金は、令和3年10月28日、遺族補償一時金等の算定に用いる平均給与額に誤りがあったことを理由に、第一次支給決定を取り消し、遺族補償一時金につき1000円増額した1497万4000円、葬祭補償につき60円増額した89万8440円に加え、遺族特別支給金300万円、遺族 特別援護金1860万円及び遺族特別給付金(一時金)299万4800円を支給する旨の決定(以下「第二次支給決定」という。)をした。原告Aは、同年11月4日、上記金額と第一次支給決定による支給額との差額分を受給した。 ウ原告Aは、第二次支給決定について、審査請求をした。これに対し、基 金は、令和4年5月2日、第二次支給決定を取り消し、「原 記金額と第一次支給決定による支給額との差額分を受給した。 ウ原告Aは、第二次支給決定について、審査請求をした。これに対し、基 金は、令和4年5月2日、第二次支給決定を取り消し、「原処分の平均給与額の算定に当たり、当直時の休憩時間については、一律で規定された時間とするのではなく、調査において確認された勤務実態を踏まえて特定することとなる」ことを理由に、遺族補償一時金につき213万3000円増額した1710万7000円、葬祭補償につき12万7980円増額し た102万6420円に加え、遺族特別支給金300万円、遺族特別援護金1860万円及び遺族特別給付金(一時金)342万1400円を支給する旨の決定(以下「第三次支給決定」という。)をした。原告Aは、同月25日、上記金額と第一次支給決定及び第二次支給決定による支給額との差額分を受給した。 ⑸ 原告Aは、令和3年12月22日、被告が本件自殺に係る安全配慮義務違反又は国家賠償法1条1項に基づく責任を負うとして、被告に対し、第一次支給決定及び第二次支給額に基づき受給した遺族補償一時金及び葬祭補償の合計額を除く解決金として9382万2691円の支払を求める旨の書面を送付し、同書面は、同月23日、被告に到達した。(甲8の1及び2) 3 争点 ⑴ 本件自殺と業務の因果関係(争点1)⑵ 被告の注意義務違反・過失の有無(争点2)⑶ 亡D及び原告らに生じた損害の有無及び額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(本件自殺と業務の因果関係) (原告らの主張)ア精神障害の発病の有無及び時期亡Dは、3月31日に刑事課に配属された直後から多忙となり、徐々に疲労が蓄積した。そして、亡Dは、8月中旬以降、交際相手である訴外G ) (原告らの主張)ア精神障害の発病の有無及び時期亡Dは、3月31日に刑事課に配属された直後から多忙となり、徐々に疲労が蓄積した。そして、亡Dは、8月中旬以降、交際相手である訴外Gに対し、精神状態の悪化を窺わせる内容のメールを送るようになった。以 上の経過等によれば、亡Dは、ICD-10(国際疾病分類第10回修正版)のF32「うつ病エピソード」を発症したといえ、その発症の時期について、主位的に9月10日頃、予備的に8月31日頃と主張する。 イ業務の過重性亡Dがうつ病エピソードを発病するまでの時間外労働時間数(週40時 間を超える労働を「時間外労働」といい、時間外労働を行った時間数を「時間外労働時間数」という。)は、以下のとおりである。そして、亡Dの時間外労働時間数及び時間外労働における業務の内容に照らすと、「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日付け地基補第61号理事長通達。以下「認定基準」という。)における精神的又は肉 体的負荷を与える事象とされる出来事のうち「⑤発症直前の連続した2か月間に1月当たりおおむね120時間以上の、又は発症直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」(以下「認定基準⑤」という。)及び「⑥発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月 当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」 (以下「認定基準⑥」という。)に当たる。したがって、亡Dの業務は過重である。そうすると、亡Dは、このような過重な業務により精神障害を発病して本件自殺に至ったのであり、本件自殺と業務の間には因果関係がある。 (ア) 主位的主張 、亡Dの業務は過重である。そうすると、亡Dは、このような過重な業務により精神障害を発病して本件自殺に至ったのであり、本件自殺と業務の間には因果関係がある。 (ア) 主位的主張 3月15日から4月13日まで 44時間00分4月14日から5月13日まで 132時間55分5月14日から6月12日まで 154時間55分6月13日から7月12日まで 146時間30分7月13日から8月11日まで 187時間45分 8月12日から9月10日まで 135時間30分(イ) 予備的主張3月5日から4月3日まで 0時間4月4日から5月3日まで 159時間10分5月4日から6月2日まで 143時間25分 6月3日から7月2日まで 148時間15分7月3日から8月1日まで 185時間30分8月2日から8月31日まで 149時間30分(被告の主張)ア精神障害の発病時期 精神障害の発病及び時期を争う。本件自殺前に「うつ病エピソード」の発病を窺わせる症状及びその継続はない。むしろ、亡Dが9月9日にいわゆる合コンに参加したことは、うつ病エピソードの典型的な症状(抑うつ気分、興味と喜びの喪失及び易疲労性)と矛盾するものである。 イ業務の過重性 原告らの主張する時間外労働時間数は、以下の時間外労働時間数(勤務 指定表、勤務記録簿及び時間外等勤務承認(実績)簿の記載に基づき算定したもの。以下「当直勤務の時間を除く時間外労働時間数」という。)を超える部分については、否認する。 当直勤務 勤務 指定表、勤務記録簿及び時間外等勤務承認(実績)簿の記載に基づき算定したもの。以下「当直勤務の時間を除く時間外労働時間数」という。)を超える部分については、否認する。 当直勤務は断続的労働として人事委員会の許可を得て適正に実施していたものであり、その業務内容や警察事象の発生頻度等からすると、業務負 荷の低い断続的労働であり、仮眠時間もあるから、当直勤務は時間外労働時間に算入すべきではない。 4月1日から4月30日まで 80時間25分5月1日から5月31日まで 96時間40分6月1日から6月30日まで 71時間00分 7月1日から7月31日まで 143時間00分8月1日から8月31日まで 88時間30分⑵ 争点2(被告の注意義務違反・過失の有無)(原告らの主張)ア予見可能性 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うところ、その趣旨は、労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を 損なう危険のあることが周知の事実であることに照らし、当該危険の発生を防止することにある。そのため、使用者において、就労環境に照らして労働者の健康状態が悪化するおそれ(業務の過重性)についての認識可能性があれば、予見可能性があったといえる。 そうすると、被告において、亡Dが客観的に過重な業務に従事していた ことについて認識していた以上、予見可能性があったのは明らかである。 イ注意義務の内容被告は、刑事 と、被告において、亡Dが客観的に過重な業務に従事していた ことについて認識していた以上、予見可能性があったのは明らかである。 イ注意義務の内容被告は、刑事課の人員配置及び業務体制を整備した上で、亡Dの労働時間及び休日等を適切に把握し、同人の疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務を負っていたところ、具体的には、人員を増やしたり、勤務体制を見直したりするなどして、時 間外労働時間数を削減すべきであった。それにもかかわらず、被告は、過重な業務により、亡Dを精神障害の発病及び本件自殺に追い込んだから、上記義務に違反したといえる。 (被告の主張)ア予見可能性 亡Dについて、健康障害防止のための面接指導が4回実施されたところ、その問診結果は「仕事負担度低」との判定であり、亡Dは産業医との面接受診を希望しなかった。また、その他にも、亡Dが業務上過重な負担を負い、精神障害を発病するおそれを窺わせる出来事はなかった。そのため、被告において、精神障害の発病及び本件自殺を予見することはできなかっ た。 なお、原告らは、注意義務の前提となる予見可能性につき、業務が過重であることを予見していれば足りる旨を主張するが、勤務が長時間に及ぶことが直ちに違法となるものではないし、亡Dの業務は量的にも質的にも過重な業務ではなかったことからすると、同主張はその前提を欠く。 イ注意義務の内容安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なり、使用者としては、具体的事案に即して必要かつ可能な措置を講じれば足りる。そうすると、安全配慮義務 容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なり、使用者としては、具体的事案に即して必要かつ可能な措置を講じれば足りる。そうすると、安全配慮義務の具体的内容として、原告らの主張する義務を課す ことは、警察の業務内容の特質に照らして不合理であり、被告としては、 各職員の経験及び能力に応じた職務を割り振りつつ、時間外労働時間数が多くなった際には個別面談を実施するなどして具体的な負荷とその影響の程度を確認し、個別に対応する義務を負うにとどまる。そして、被告は、亡Dを含む職員らに対し、面接や問診等を適時に実施し、朝礼等で休暇を取得するよう指示を繰り返していたほか、各自の具体的勤務状況等を踏ま え、不調の速やかな把握に努めており、上記義務に違反していない。 ⑶ 争点3(亡D及び原告らに生じた損害の有無及び額)(原告らの主張)ア逸失利益 5535万8016円基礎収入は、第二次支給決定における平均給与日額である1万4974 円の365日分に、期末勤勉手当の額84万4570円を加えた631万0080円とすべきである。また、本件自殺の当時、亡Dは、独身の24歳であるから、就労可能年数43年(ライプニッツ係数17.5459)、生活費控除率50%として計算すべきである。そうすると、本件自殺と相当因果関係のある亡Dの逸失利益は、5535万8016円である。 イ死亡慰謝料 3000万円亡Dは、刑事課における常軌を逸した過酷な長時間労働により心身ともに追い詰められた結果、24歳の若さで命を奪われた。警察官の仕事を続け、結婚により家庭を持つこと等が叶わぬ夢となった無念は計り知れず、その精神的苦痛を金銭的に評価すれば、3000万円 により心身ともに追い詰められた結果、24歳の若さで命を奪われた。警察官の仕事を続け、結婚により家庭を持つこと等が叶わぬ夢となった無念は計り知れず、その精神的苦痛を金銭的に評価すれば、3000万円を下らない。 なお、仮に亡Dの死亡慰謝料が3000万円を下回る場合、予備的に、固有の慰謝料として、原告Aにつき600万円、原告B及び原告Cにつき各200万円を主張する。 ウ葬儀費用 150万円原告Aにおいて、葬儀費用150万円を支出した。 エ損益相殺 ▲1587万2440円 原告Aは、遺族補償一時金1497万4000円及び89万8440円を受給した。 オ弁護士費用本件自殺と相当因果関係のある弁護士費用は、原告Aにつき500万円、原告B及び原告Cにつき各110万円である。 (被告の主張)争う。 亡Dは、刑事課に配属される前から不眠症を患っており、個人輸入した薬剤を常用したり、アルコールを多量に摂取したりしていた。また、亡Dは、自ら不調等を申告しないのみならず、面談の際、業務負荷や体調について、 あえて事実に反する説明を繰り返していた。したがって、仮に被告が本件自殺について責任を負うとしても、損害を算定するに当たり、上記事情を斟酌して過失相殺又は素因減額をするべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 刑事課配属以前亡Dは、かねてより刑事課での勤務を希望しており、平成25年12月頃から平成29年3月頃までの間、本務の傍ら、たびたび本件警察署の刑事課に赴き、刑事課員の業務を学んでいた。その当時、本件警察署の刑事課第一 係 刑事課での勤務を希望しており、平成25年12月頃から平成29年3月頃までの間、本務の傍ら、たびたび本件警察署の刑事課に赴き、刑事課員の業務を学んでいた。その当時、本件警察署の刑事課第一 係には訴外Gが所属しており、亡Dと訴外Gは、平成27年11月頃から、交際を開始した(ただし、亡Dらは、本件自殺が発生するまでの間、その他の職場の者に対し、交際関係にあることを明かさなかった。)。(甲2[8頁]、4の3[10、23頁]、4の55[1頁]、17[1、2頁]、訴外G[3頁]) なお、亡Dが刑事課に異動する直前の3か月における時間外労働時間数 (勤務指定表、勤務記録簿及び時間外等勤務承認(実績)簿の記載に基づき算定したもの。)は、各月13時間ないし30時間であった。(甲2[8頁]、甲4の3[316頁])。 ⑵ 刑事課配属後ア亡Dは、平成29年3月31日、定期異動により、刑事課第一係に配属 され、強行犯捜査に従事することになった。平成29年当時、刑事課には捜査第一係、捜査第二係及び鑑識係の各係が置かれ、全体で刑事課長以下16人が所属していたところ、亡Dは、刑事課において最も若手の職員であった。(甲2[8、9頁]、甲4の3[316、317頁])イ時間外労働時間数 (ア) 亡Dを含む刑事課員は、刑事事件の捜査等のために時間外労働を行うことがあったところ、勤務指定表、勤務記録簿及び時間外等勤務承認(実績)簿の記載に基づき算定された亡Dの時間外労働時間数(当直勤務の時間を除く時間外労働時間数)は、以下のとおりである。ただし、勤務指定表、勤務記録簿及び時間外等勤務承認(実績)簿には、当直勤 務の時間は含まれていない。なお、本件警察署全体における4月から8月までの平均時間外労働時 )は、以下のとおりである。ただし、勤務指定表、勤務記録簿及び時間外等勤務承認(実績)簿には、当直勤 務の時間は含まれていない。なお、本件警察署全体における4月から8月までの平均時間外労働時間数は、25時間31分であり、捜査第一係における4月から8月までの平均時間外労働時間数は、81時間22分である。(甲4の3[80ないし93頁、103ないし216頁、316頁]、4の26、4の27及び4の60、訴外G[7頁]) 4月1日から4月30日まで 80時間25分5月1日から5月31日まで 96時間40分6月1日から6月30日まで 71時間00分7月1日から7月31日まで 143時間00分8月1日から8月31日まで 88時間30分 (イ) 当直勤務の時間を除く時間外労働時間数に、当直割当表、当直変更申 請簿及び当直日誌の記載に基づき算定された当直勤務の時間数を加算し、1回の当直勤務につき休憩時間1時間を控除した時間外労働時間数(8月31日を起算日とするもの。以下「当直勤務の時間を含む時間外労働時間数」という。)は以下のとおりである。(甲4の3[80ないし93頁、103ないし216頁、221ないし270頁、271ないし29 6頁、316頁]、4の26、4の27、4の28、4の60、甲54、55及び58)3月5日から4月3日まで 0時間4月4日から5月3日まで 159時間10分5月4日から6月2日まで 143時間25分 6月3日から7月2日まで 148時間15分7月3日から8月1日まで 185時間30分8月2日から8月31日まで 149時間30分ウ訴外Gとのやり取り等( 月2日まで 148時間15分7月3日から8月1日まで 185時間30分8月2日から8月31日まで 149時間30分ウ訴外Gとのやり取り等(ア) 亡Dと訴外Gは、4月末までは1か月当たり数回程度の頻度で食事等 のために会っていたが、訴外Gが亡Dの刑事課第一係への異動と同日付けで刑事課第一係からF本部に異動となり、4月末にa市内からc市内に転居したことで、その頻度は減少した。(甲4の3[23、24頁])他方、亡Dと訴外Gは、LINEで1日に数回程度メッセージのやり取りをしており、4月末以降も、概ね毎日メッセージのやり取りをして いた。メッセージの内容は、主に、互いにその日の業務の概要を伝えてねぎらいあったり、業務時間後や休日に会うための予定を調整したりするものであった。(甲17、訴外G[5頁])(イ) 亡Dは、5月3日、休日の予定であったが強制わいせつ事件の捜査のために出勤し、同月5日に訴外Gと会った際には「捜査が楽しい。」と 述べるなどした。(甲4の3[24、93、124、125頁]、17[3 2ないし34頁]、訴外G[11頁])(ウ) 亡Dは、6月頃から本件自殺までの間、訴外Gのメッセージに対する返信が遅れるようになったほか、職場で怒られて落ち込んだことや上司との人間関係に悩みを抱えていることを内容とするメッセージを訴外Gに対して送るようになり、それに対し、訴外Gが亡Dを励ます内容の返 信をすることが増えていった。(甲4の3[24頁]、17[59ないし133頁]、訴外G[11頁])(エ) 亡Dの7月の当直勤務の時間を除く時間外労働時間数は、上記イ(ア)のとおり、亡Dの刑事課での勤務期間を通じて最長であったが、7月は、同月14日に 59ないし133頁]、訴外G[11頁])(エ) 亡Dの7月の当直勤務の時間を除く時間外労働時間数は、上記イ(ア)のとおり、亡Dの刑事課での勤務期間を通じて最長であったが、7月は、同月14日に本件警察署管内で発生した強盗致傷被疑事件の捜査のため に強行犯捜査の担当者を中心に刑事課全体が多忙となり、訴外Gが同月22日に亡Dと会った際には、亡Dはすぐに眠ってしまい、疲労の蓄積が窺われた。また、亡Dは、訴外Gに対し、同月26日には「最近0時過ぎに帰るのが普通になっててやばいです(T‐T)」、同月27日には「しゃぶ中毒死が入りました(T‐T)地獄…」などとするメッセー ジを送った。(甲4の3[24、25頁]、17[103頁]、訴外G[11ないし13頁])(オ) 亡Dは、8月に入ると、訴外Gと会う予定を仕事の都合で断ることが続き、亡Dと訴外Gが同月中に会ったのは同月26日の1回のみであったが(これが訴外Gと亡Dの最後の面会である。)、その際、亡Dは憔 悴して気分が沈んだ様子であり、書類作成の仕事がたまっていることを嘆いた。また、亡Dは、訴外Gに対し、同月17日、書類作成の仕事がたまる一方であり、仕事量が自ら処理可能な範囲を超えた状態にあるとの趣旨のメッセージを、同月28日、取調官として初めて被疑者の取調べを担当し、書類の作成に要した時間が過大であるとして上司に怒られ た旨のメッセージを、それぞれ送った。(甲4の3[24ないし26頁]、 17[105ないし124頁]、訴外G[14ないし17頁])(カ) 亡Dは、9月2日、訴外Gに対し、明日も見えない状態であるため、同月中に連休があることを知らなかった旨のメッセージを、同月3日、休日である同日を夕方まで寝て過ごしたことを嘆く旨の表現とともに、「仕事 Dは、9月2日、訴外Gに対し、明日も見えない状態であるため、同月中に連休があることを知らなかった旨のメッセージを、同月3日、休日である同日を夕方まで寝て過ごしたことを嘆く旨の表現とともに、「仕事して無いから爆発しそうです」とのメッセージを、同月5日、書 類作成の仕事がたまっており、全く着手できないことを嘆く旨のメッセージを、同月8日、疲労が蓄積している旨の表現とともに、我が国の近隣でミサイルが発射されたとの報道に関連し、「ミサイルこっちに飛んでこないすかね」とのメッセージを、それぞれ送った。(甲4の3[26頁]、17[125ないし133頁]、訴外G「17ないし19頁」)。 エ亡Dは、9月9日の夜から同月10日の朝方にかけて、職場の同僚とともに合コンに参加した。亡Dは、一次会(同月10日午後8時頃開始)から三次会(同月10日午前3時頃終了)まで参加し、他の参加者から見て、亡Dの思い詰めた様子等は特に窺われなかった。(甲2[18ないし20頁]、4の18、4の55[19頁]) ⑶ 当直勤務についてア当直勤務における業務内容は、主に、電話対応、窓口対応、警察事象の処理、庁舎警戒等である。そして、当直業務に対応する時間以外の時間の過ごし方については、各職員の自由であるところ、一般的には、当直用の執務室内で、当該職員が普段担当している書類作成等の業務を行うほか、 食事や雑談をするなどして過ごすことが多いとされる。(甲2[22、23頁]、4の51[6ないし12頁]、4の54[10、11頁])イ当直勤務における亡Dの業務内容等について(ア) 亡Dとともに当直勤務をした経験のある複数の職員によれば、亡Dは、当直勤務の際、当直業務のほか、刑事課第一係において担当していた捜 査書類の 当直勤務における亡Dの業務内容等について(ア) 亡Dとともに当直勤務をした経験のある複数の職員によれば、亡Dは、当直勤務の際、当直業務のほか、刑事課第一係において担当していた捜 査書類の作成等の業務を行うなど、常に何らかの仕事をしており、時に は仮眠時間帯になっても就寝せずに業務を続けていることがあった。 (甲2[22、23頁]、4の51[7ないし12頁]、4の54[10、11頁]、)(イ) 亡Dの当直勤務中、コンピューターの操作が行われた時間帯や本件警察署の管内における警察事象(いわゆる事案)が発生したタイミングは、 別紙「D 労働時間帯グラフ」のとおりである。なお、亡Dの当直時間勤務中に発生した警察事象のうち、当直日誌の「刑事当直」欄にチェックマークが付されたものは、亡Dが対応した警察事象であるところ、その「事案名」は、以下のとおりである。(甲4の3[221ないし270頁]、49ないし55、訴外G[7頁]) 4月5日午後5時43分 「CPA事案」同月13日午後9時50分 「CPA事案」同月14日午前7時43分 「CPA事案」同月21日又は同月22日(時間帯不明)「特異行方不明(事故遭遇のおそれ)」 同月22日午前2時7分 「泥酔者」同月29日午前10時51分 「CPA(病死)※前当直継続事案」同月29日午後1時10分 「傷病人」同日午後2時45分 「CPA(病死)」同月30日午前3時25分 「変死(検視対応中)」 同日午前7時50分 「CPA(検視対応中)」同日午前8時20分 「CPA 指令番号52」5月15日午後11時55分 「労災被災者の死亡」 同日午前7時50分 「CPA(検視対応中)」同日午前8時20分 「CPA 指令番号52」5月15日午後11時55分 「労災被災者の死亡」6月16日午後5時10分 「相談(業務上横領事案)」同月18日午後6時32分 「CPA(事件性なし)」 同月24日午前8時30分 「車上ねらい」 7月10日午後7時1分 「建物火災」同月11日午前0時15分 「相談」同月18日午後5時35分 「車上ねらい容疑事案」同月19日午前6時16分 「CPA」同月26日午後9時45分 「不審者の通報」 同日午後10時57分 「夫婦喧嘩の通報」8月4日午前2時10分 「窃盗(部品ねらい)被疑者逃走」同日午前6時25分 「CPA」同月11日午後0時44分 「変死」同月12日午前7時30分 「盗難容疑事案(被害申告なし)」 同月19日午後1時30分 「労災(負傷なし)」同日午後8時25分 「ケンカ口論」同月27日午前10時26分 「変死(首つり)」同日午後1時7分 「物損事故」同日午後7時30分 「相談(息子の金銭要求)」 同月28日午前2時50分 「建物火災(空き家)」同月30日午後5時00分 「火災」同日午後8時50分 「特異行方不明者の届出」同日午後11時43分 「変死」同月31日午前6時10分 「変死」 30日午後5時00分 「火災」同日午後8時50分 「特異行方不明者の届出」同日午後11時43分 「変死」同月31日午前6時10分 「変死」 ⑷ 亡Dの生活状況等ア本件自殺当時、亡Dの預金口座には少なくとも約80万円の残高があり、借金として、本件車両のローン約50万円があった。また、趣味は、いわゆるパチスロ機での遊技であり、頻度は月5回程度、使用する金額は1回当たり2万円が限度であった。 なお、亡Dが、本件自殺当時、不倫、借金、ギャンブル等によるトラブ ルを抱えていたことや非違行為等に及んでいたことは確認できない。(甲4の3[34、311、313頁])イ亡Dと業務上接していた職員に対して行われた本件自殺に関する聴取では、亡Dの性格や能力に関して、真面目、一生懸命、素直、おとなしい、人当たりが良いとの点のほかに、事務処理能力が低い、要領が悪い、弱音 を吐けないといった点が指摘されている。また、上記聴取の結果によれば、亡Dには、週3、4回の頻度で晩酌をする習慣があったほか、食事等でアルコールを摂取すると陽気になる傾向があった。(甲2[21、24ないし28]4の3[313頁]、4の20)ウ亡Dの周囲の職員によれば、特に6月から8月までの期間は刑事課全体 が多忙であり、亡Dもこの期間を中心に忙しいと述べたり、悲観的な言動をしたりしたことがあった。他方、周囲の職員から見て、刑事課に配属されてから本件自殺が発生するまでの期間につき、亡Dの精神状態の悪化が窺われる程の特異な様子は確認できなかった。(甲2[8ないし21、31]、4の3[312及び313頁]、4の17) エ亡Dに精神障害の既往歴はなく、平成 つき、亡Dの精神状態の悪化が窺われる程の特異な様子は確認できなかった。(甲2[8ないし21、31]、4の3[312及び313頁]、4の17) エ亡Dに精神障害の既往歴はなく、平成25年度から平成29年度までの各年度の健康診断において異常所見はない(なお、肝機能の数値の異常もない。)。亡Dは、刑事課異動後、健康障害防止のために実施された面接指導(5月10日、6月9日、8月3日及び9月5日に実施。)において、仕事による負担度点数(0~7点により評価)を「0点」と記入し、心身 に異常がないなどとして医師による面接指導を希望しない旨申告した。 (甲2[24頁]、4の3[217ないし220頁]、4の22、4の34)オ本件自殺後に本件車両内で発見された亡D名義の文書には、以下の記載がある。ただし、日付の記載のうち「9」の部分については、「6」との記載を訂正した痕跡がある。(甲4の3[33頁]) 記 すみません。 つかれたので休みます。 今までたくさんの人に迷惑、心配をかけました。 今回、人生最大の迷惑をかけますが、許して下さい。 多くの人にお世話になりました。 一人一人の名前をかくと、とてもではありませんが、書ききれません。 本当にありがとうございました。 親不孝な息子でごめんなさい。 長生きしてください。 官舎にあるものは全て売ってもらっていいです。 ※このような結果になったのは、ただ毎日のばく然とした不安のせいです。 死んで地獄にいくのも怖いですが、何もないところに行き消えてしまうのも怖いのです。 しかし、明日がくることがもっと怖いのです。 警 日のばく然とした不安のせいです。 死んで地獄にいくのも怖いですが、何もないところに行き消えてしまうのも怖いのです。 しかし、明日がくることがもっと怖いのです。 警察官、刑事になれてよかったです。みんなに会えて本当によかったで す。 すみません。 平成▲▲年▲月▲▲日D以上 ⑸ 薬剤等ア本件自殺後、本件車両内において、抗ヒスタミン薬の一種である「Atarax 25mg」(以下「アタラックス」という。)の錠剤が25錠発見された。また、本件自殺後、本件居室から、アタラックスの錠剤25錠及び睡眠薬の一種であるゾピコンの錠剤62錠が発見された。なお、亡D は、平成29年3月1日以前、訴外Gに対し、アタラックスの外箱が映り 込んだ写真を送信したことがある。(甲21、乙1ないし3)イ本件自殺後の本件居室は物等で散らかった様子であり、酒の空き瓶や空き缶が相当量放置された状態であった。(乙2)⑹ 基金の認定等ア本件認定処分(甲2) (ア) 時間外労働時間数本件認定処分において認定された亡Dの時間外労働時間数は、以下のとおりである(なお、起算日は8月31日とされている。)。 算定根拠は、時間外等勤務承認(実績)簿に記載された時間に、更に当直勤務の時間を加え、そこから1週間当たり40時間を控除した時間 であると記載されている。なお、当直勤務の時間については、正規の休憩時間(仮眠時間を含む。)が控除されており、平日の当直勤務については7時間30分、休日の当直勤務については8時間30分が控除されている。 3月5日から4月3日まで 27時間00分 時間を含む。)が控除されており、平日の当直勤務については7時間30分、休日の当直勤務については8時間30分が控除されている。 3月5日から4月3日まで 27時間00分 4月4日から5月3日まで 135時間25分5月4日から6月2日まで 112時間25分6月3日から7月2日まで 116時間15分7月3日から8月1日まで 163時間00分8月2日から8月31日まで 116時間30分 (イ) 精神障害の発病時期に関する医学的知見基金本部専門医師による医学的知見として、6月から8月までの期間は刑事課全体が多忙であったこと、当直勤務の時間を含む亡Dの1月当たりの時間外労働時間数は、連続して100時間を超えていること、亡Dが刑事課に配属されたのは今回が初めてであったことに照らし、病名 を確定することはできないが、8月末頃、何らかの精神障害を発症した と考えられる旨の記載がある。 (ウ) 公務起因性について本件認定処分は、上記(ア)及び(イ)の認定等を踏まえ、亡Dについて、認定基準⑤に該当する肉体的又は精神的負荷が認められ、業務以外の負荷及び個体側要因は確認されないとして、上記精神障害及び本件自殺は 公務と相当因果関係をもって発生したことが明らかな疾病であると認定した。 イ第一次支給決定及び第二次支給決定(甲6の1及び2、甲7の1ないし3)基金は、本件認定処分で認定された時間外労働時間数に基づき、第一次 支給決定及び第二次支給決定をした。なお、第二次支給決定は、第一次支給決定における平均給与額の計算の誤りを是正して差額分の遺族補償一時金等を支給したも された時間外労働時間数に基づき、第一次 支給決定及び第二次支給決定をした。なお、第二次支給決定は、第一次支給決定における平均給与額の計算の誤りを是正して差額分の遺族補償一時金等を支給したものであり、算定の基礎となる時間外労働時間数の認定について変更したものではない。 ウ第三次支給決定(甲15、16、53) 基金は、第三次支給決定において、当直勤務の勤務時間のうち、実態を伴う休憩時間は1時間のみであり、それ以外の時間は時間外労働に当たることを前提に時間外労働時間数を算定し、差額分の遺族補償一時金等を支給した。 ⑺ 本件警察署における内部調査の結果(甲4の3[311ないし324頁]) 本件警察署の警察署長(E警察署長)は、9月19日付けで、F警察本部長に対し、本件自殺の原因等について本件警察署における内部調査の結果を報告する旨の書面(以下「内部調査報告書」という。)を送付した。内部調査報告書においては、本件自殺の原因として、①刑事課において常態化していた長時間勤務、②亡Dの性格(真面目で、悩みを素直に吐露できないなど) 等が挙げられている。 ⑻ 精神障害の発病等に関する医師の意見ア I医師の意見(甲73。以下「I意見」という。)I意見の要旨は以下のとおりである。 (ア) 精神障害の発病の有無及び時期亡Dの訴外Gに対する言動等のうち、精神的に参っている旨の発言や 訴外Gの前で沈んだ様子であったことは抑うつ気分、楽しいと語っていた刑事課での職務について「地獄」、「明日も見えない」と語ったことは興味や喜びの喪失、疲れた旨のメッセージや訴外Gの自宅ですぐに眠ってしまったことは活動性の減退による易疲労感の増大等を裏付けるもの た刑事課での職務について「地獄」、「明日も見えない」と語ったことは興味や喜びの喪失、疲れた旨のメッセージや訴外Gの自宅ですぐに眠ってしまったことは活動性の減退による易疲労感の増大等を裏付けるものである。以上によれば、亡Dは、ICD-10のF32「うつ病エピ ソード」の診断基準を満たしており、実際に自殺に至ったことに鑑みれば、「うつ病エピソード」の中でもF32.2「精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード」を発病した。 また、上記精神障害の発病時期については、7月においては訴外Gに対するメッセージの内容に「地獄」といったネガティブな表現が使用さ れていること、8月においてはメッセージの内容が一層ネガティブなものになっており、同月26日に訴外Gが亡Dと会った際、亡Dは憔悴した様子であったことからすると、7月から8月にかけてうつ病エピソードを発病したと考えるのが相当である。 なお、5月の時点において、訴外Gに対し、「捜査が楽しい」と語っ ていたこと、6月末の時点の訴外Gに対するメッセージにおける悲観の程度に照らすと、6月末までの時点で、明らかにうつ病を発病していたとは考え難い。 (イ) 公務起因性亡Dは、上記精神障害の発病前6月以内に、少なくとも月80時間以 上の時間外労働をしており、業務により上記精神障害を発病し本件自殺 に至ったと考えられる。 (ウ) 薬剤等の影響不眠のためアタラックスを購入していたとしても、直ちにICD-10のF2からF4の精神障害を発病していたとはいえない。仮にそのような精神障害を発病していたとすれば、本務の傍ら、刑事課登用を目指 し、刑事課の業務を積極的に手伝いながら、激務が予想される刑事課への異動を希望す 精神障害を発病していたとはいえない。仮にそのような精神障害を発病していたとすれば、本務の傍ら、刑事課登用を目指 し、刑事課の業務を積極的に手伝いながら、激務が予想される刑事課への異動を希望するはずがない。また、亡Dが、5月5日、訴外Gに対して、「捜査が楽しい」と語ったことからすると、少なくともその時点で上記精神障害を発病していたとは考えられない。 また、我が国においては不眠症の対処のためにアルコールを使用する ことは一般的であることからすると、亡Dに飲酒の習慣があったことから直ちにアルコール依存の個体側要因を示すものとは考えられない。 イ J医師の意見(乙4。以下「J意見」という。)J意見の要旨は、以下のとおりである。 (ア) アタラックス及びゾピコンの影響等 アタラックスは、抗ヒスタミン作用及び中枢神経抑制作用を有し、皮膚疾患や神経症における不安、緊張及び抑うつに効果があるとされている。また、我が国では市販されておらず、医師の処方箋が必要である。 アタラックスの服用による希死念慮の発現の可能性は不詳だが、アルコールの併用によりアタラックスの作用が増強されるおそれがあることが 指摘されていることを踏まえると、その程度は不明であるものの、何らかのメカニズムでアタラックスによる希死念慮が発現した可能性も否定できない。 ゾピコンは、不眠症等に効果があるとされ、作用が翌朝にまで及び注意力等の低下が生じるおそれがある。 アタラックス及びゾピコンのいずれについても、中枢神経抑制作用の ため、業務の遂行機能を低下させるおそれがあるが、亡Dにおいてこのような作用が生じていたかは不明である。 (イ) 亡Dの精神障害の発 ンのいずれについても、中枢神経抑制作用の ため、業務の遂行機能を低下させるおそれがあるが、亡Dにおいてこのような作用が生じていたかは不明である。 (イ) 亡Dの精神障害の発病及び時期一般に自殺行動には、精神疾患等が関連しているとされるため、亡Dが、本件自殺の時点で、何らかの精神疾患を発病していた可能性は否定 できないものの、実際に発病していたか否かは不明である。 経時的に亡Dの状況を検討すると、3月まではうつ病を疑う事情はないが、訴外Gとのやり取り等からすると、この時点で、不眠症を発症し、又はアタラックス等の薬剤やアルコールを常用していた可能性は否定できない。そして、7月以降は、疲労感、自身の能力に対する不安、自信 の喪失等が窺える。ただし、亡Dは、周囲を信頼していなかったせいか、職場の同僚に対して、抑うつ感や無力感を見せないような言動をしており、仮に亡Dが抑うつ状態であったとしても、他の職員がこれに気付くことは困難である。 ウ K医師の意見(乙5。以下「K意見」という。) K意見の要旨は以下のとおりである。 (ア) 亡Dのパーソナリティ亡Dは、まじめな性格であり、他人と衝突しない穏やかな人物であろうと努めていたことが窺える。 (イ) 亡Dの精神状況等 アタラックス及びゾピコンは、アルコールとの併用により作用が増強する可能性があるところ、亡Dに飲酒習慣があったことに照らすと、アタラックスを服用していた2月の時点で、強い不安や不眠を自覚していた可能性が高い。しかし、亡Dは、周囲の人物に対して、そのような精神状態を隠すよう努めており、周囲の人物において、本件自殺の数日前 の亡Dがうつ状態であ 月の時点で、強い不安や不眠を自覚していた可能性が高い。しかし、亡Dは、周囲の人物に対して、そのような精神状態を隠すよう努めており、周囲の人物において、本件自殺の数日前 の亡Dがうつ状態であると判断することは非常に困難であると考えられ る。 2 争点1(本件自殺と業務の因果関係)について⑴ 判断枠組み労働者が、精神障害にり患し、自殺をした場合に、その自殺が使用者との雇用関係に基づく業務と因果関係があるといえるためには、当該精神障害が、 当該業務に起因してり患したものと認められること、及び当該自殺が、当該精神疾患の症状に起因して行われたものであることの双方が認められることが必要であるところ、当該労働者の置かれた具体的状況を踏まえ、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させる程度に過重であるときは、特段の事情がない限り、精神障害の発症及びこれを原因 とする死亡(自殺)は、当該業務に内在する危険が現実化したものであるといえるから、上記因果関係が認められる。そして、このような検討に当たっては、業務による心理的負荷の有無、程度、労働者側の要因(負荷への反応性、脆弱性等)の有無、程度等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきである。 本件認定処分において本件自殺の業務起因性の有無を判断するために用いられた認定基準は、上記見地及び精神障害に関する医学的知見等に照らし、一定の合理性を有すると認められるから、業務の過重性を判断するに当たり、その内容を斟酌して検討するのが相当である。 ⑵ 精神障害の発病の有無及び時期 亡Dの精神障害の発病の有無及び時期につき、I意見は、上記1⑻アのとおり、亡Dの精神障害の発病の有無及び時期につき、7月から8月にかけてう る。 ⑵ 精神障害の発病の有無及び時期 亡Dの精神障害の発病の有無及び時期につき、I意見は、上記1⑻アのとおり、亡Dの精神障害の発病の有無及び時期につき、7月から8月にかけてうつ病エピソードを発病したとの結論を採るものである。そして、上記結論の根拠とされた事実関係は、上記1⑵ウで認定した事実と隔たりがあるものではなく、その推認過程も不合理ではない。また、上記1⑹ア(イ)のとおり、 基金本部専門医師においても、具体的な事実経過に照らし、亡Dは8月末に 何らかの精神障害を発病したと判断しており、I意見と整合する。さらに、J意見については、本件自殺直前における亡Dの精神障害の発病の可能性は否定できないとの判断を示したものであること(上記⑻イ)、K意見については、本件自殺の直前における精神障害の発病の有無につき一定の結論が記載されたものではないこと(上記⑻ウ)からすると、J意見及びK意見は、 I意見と矛盾するものではない。以上によれば、亡Dの精神障害の発病の有無及び時期について、I意見を採用するのが相当であり、亡Dは、遅くとも8月末までにICD-10のF32「うつ病エピソード」を発病したと認められる。 これに対し、被告は、亡Dが本件自殺の直前である9月9日の夜から同月 10日の朝方にかけて合コンに参加したこと(上記1⑵エ)を指摘し、こうした亡Dの行動は、抑うつ気分、興味と喜びの喪失及び易疲労性が最も典型的な症状とされるうつ病エピソードと矛盾するから、上記時期に精神障害を発病したものではない旨を主張する。 しかしながら、うつ病にり患した者のうち多数を占める軽症ないし中等症 の者は、苦痛に堪えながらも相手に気取られないように努力して、滑らかに話をし、笑顔で応対するものであり、 主張する。 しかしながら、うつ病にり患した者のうち多数を占める軽症ないし中等症 の者は、苦痛に堪えながらも相手に気取られないように努力して、滑らかに話をし、笑顔で応対するものであり、これにより、周囲の者は本人がそれほど苦しんでいると思わず、突然の自殺等に驚く原因になるとされていること(甲44)、不安・焦燥優位のうつ病では、家族を含む周囲の者が異常に気付きにくいのみならず、本人自身においても、本来の状態と比べて集中力等 が落ち、不眠があったにもかかわらず、病識が欠如していることも多いとされていること(甲45)などの医学的知見によれば、被告が指摘する前記事情は、亡Dにおいて周囲の者に不調を気取られないように振る舞おうとする意識や亡Dにおける精神障害の病識の欠如に起因するものとも考えられ、亡Dが遅くとも8月末までにうつ病エピソードを発病していたことと必ずしも 矛盾するものではないから、被告の上記主張は採用できない。 ⑶ 亡Dの時間外労働時間数労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、これに該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まると解されるところ、当直勤務の時間を除く時間外労働時間数は、上記1⑵イ(ア)のとおりであり、 刑事事件の捜査等のために時間外労働を行うことを要したものであるから、亡Dの業務の過重性を検討する基礎となることは明らかである。 他方、当直勤務の時間を含む時間外労働時間数(上記1⑵イ(イ))につき、被告は、亡Dの業務の過重性を判断するに際し、当直勤務の時間を含む時間外労働時間数を考慮すべきではない旨を主張するところ、当直勤務における 業務内容は、上記1⑶アのと 記1⑵イ(イ))につき、被告は、亡Dの業務の過重性を判断するに際し、当直勤務の時間を含む時間外労働時間数を考慮すべきではない旨を主張するところ、当直勤務における 業務内容は、上記1⑶アのとおり、主に、電話対応、窓口対応、警察事象の処理、庁舎警戒等であり、これらの当直業務に対応する時間は、使用者の指揮命令下に置かれている時間として、時間外労働時間に当たる。 また、これらの当直業務に対応する時間以外の時間の過ごし方は各職員の自由であるとされているが、本件警察署の管内において警察事象が発生した 際には、休憩時間や仮眠時間であると否とを問わず、当直勤務の時間を通じて、当直業務に従事する職員において直ちに対応すべき義務があり、亡Dの当直勤務中に上記警察事象が発生した頻度及び内容等の事情を考慮すると、当直業務に対応する時間以外の時間についても、少なくとも第三次支給決定において時間外労働時間から除外された休憩時間1時間を除いては、労働か らの解放が保障されているものではなく、使用者の指揮命令下に置かれているといえ、時間外労働時間に当たると認められる。 なお、当直勤務が、断続的労働として人事委員会の許可を得ていたとしても、それにより上記判断が左右されるものではない。 以上によれば、当直勤務の時間を含む時間外労働時間数(上記1⑵イ(イ)) をもって、本件自殺と業務の因果関係の判断の基礎となる時間外労働時間数 と認めるのが相当である。 ⑷ 本件自殺と業務との因果関係の有無ア上記⑵及び⑶によれば、亡Dの時間外労働の具体的状況は、認定基準上の業務により強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象のうち認定基準⑤に当たると認められるところ、亡Dの警察官としての経験年数や刑事課に び⑶によれば、亡Dの時間外労働の具体的状況は、認定基準上の業務により強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象のうち認定基準⑤に当たると認められるところ、亡Dの警察官としての経験年数や刑事課に 異動するまでの経歴(上記1⑴、同⑵)等に照らすと、亡Dが刑事課の業務を要領よく処理していくことは必ずしも容易ではなかったこと、亡Dは、刑事課異動後、訴外Gに対し、書類作成の業務がたまっていくことを嘆いたり、上司から怒られたことに落ち込む趣旨のメッセージを送っていたりしたこと(上記1⑵ウ)等の事情から窺われる亡Dの精神状況の推移も考 慮すると、亡Dの刑事課異動後の業務による精神的・肉体的な負荷は強度のものであったと認められる。 そして、本件自殺当時、亡Dが不倫、借金、ギャンブル等によるトラブルを抱えていたことや非違行為等に及んでいたことは確認されておらず(上記1⑷ア)、本件認定処分において、亡Dの業務以外の負荷及び個体 側要因は確認されないとされていること(上記1⑹ア(ウ))からすると、亡Dが業務外の要因や個体側要因により上記精神障害を発症し、本件自殺に至ったとは認められない。 以上によれば、亡Dは、刑事課の業務により上記精神障害を発症し、本件自殺に至ったものであり、業務と本件自殺との因果関係が認められる。 イこれに対し、被告は、亡Dは、刑事課に異動する以前から不眠症を発症したり、アタラックス等の薬剤やアルコールを常用したりしていたことに照らし、亡Dは、不眠症並びに薬剤及びアルコールの常用それ自体又はその原因となった精神障害から本件自殺に至った可能性があるとして、亡Dの業務と本件自殺の因果関係は認められない旨を主張する。 しかしながら、刑事課に異動する以前から、亡Dが刑事課登 の原因となった精神障害から本件自殺に至った可能性があるとして、亡Dの業務と本件自殺の因果関係は認められない旨を主張する。 しかしながら、刑事課に異動する以前から、亡Dが刑事課登用を目指し、 本務の傍らで刑事課の業務を積極的に手伝いながら、激務が予想される刑事課への異動を希望していたこと(上記1⑴)からすれば、少なくともこの時期において、本件自殺に至るような精神障害を発病していたとはにわかに認め難い。そして、本件全証拠を精査しても、刑事課に異動する以前における亡Dの不眠症の症状の程度は不明であり、アルコールの摂取が重 度の依存症といえる程度に至っていたことを裏付ける証拠は見当たらず、アタラックス等の薬剤についても、亡Dが医師の処方箋によることなく個人で輸入し服用していたことが窺われるものの、服用の頻度や方法等は不明であるし、アタラックス等の薬剤が本件自殺を招いたことを窺わせる的確な証拠は見当たらない。 したがって、被告の上記主張は採用できない。 3 争点2(被告の注意義務違反・過失の有無)について⑴ 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険があることから、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めて これを管理するに際し、職務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である(最高裁平成10年(オ)第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 上記2のとおり、亡Dの時間外労働の具体的状況は、精神障害を発症させ る程度の心理的負荷を与え 第217号、第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 上記2のとおり、亡Dの時間外労働の具体的状況は、精神障害を発症させ る程度の心理的負荷を与えるものであるところ、亡Dの上司である刑事課長等の職員は、その立場上、亡Dの当直勤務の時間を含む時間外労働時間数を当然に認識し、又は容易に認識し得たというべきであるが、上記職員は、亡Dの時間外労働時間数を削減するなどして、その業務の過重性を解消する措置を講じておらず、上記注意義務に違反したと認められる。 ⑵ これに対し、被告は、①亡Dの健康障害防止のための面接指導の問診結果 は、いずれも「仕事負担度低」との判定であり、亡Dも産業医との面接受診を希望していなかったこと等からすると、被告において、精神障害の発病及び本件自殺を予見することはできなかった、②警察の業務内容の特殊性等に鑑みれば、被告らに課された注意義務の内容は、各職員の経験及び能力に応じた職務を割り振りつつ、時間外労働時間数が多くなった際には個別面談を 実施するなどして具体的な負荷とその影響の程度を確認し、個別に対応する義務を負うにとどまる旨を主張する。 しかしながら、上記⑴のとおり、長時間労働の継続等により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なうおそれがあることは周知のところであり、労働者が精神障害にり患し、その影響により自殺に 及ぶことは、上記おそれの具体的発現の一態様といえる。そうすると、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることにあると定められている(警察法2条1項)警察の責務の特殊性等を踏まえても、使用者である被告は、亡Dに対 、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることにあると定められている(警察法2条1項)警察の責務の特殊性等を踏まえても、使用者である被告は、亡Dに対して、上記のようなおそれを生じさせる原因となる 危険な状態の発生そのもの、すなわち業務の過重性を回避すべき注意義務を負うものと解すべきであり、上記②の主張は採用できない。また、以上で述べたことからすると、使用者が上記注意義務を負う前提としての予見可能性は、労働者が過重な業務に従事しており、その結果、当該労働者の心身の健康を損なうおそれがあることについて認識し、あるいは認識し得たと認めら れれば足りるものと解され、仮に被告において、亡Dの具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、そのことのみで上記注意義務を負う前提としての予見可能性が否定されるものではなく、上記主張①は採用できない。 4 争点3(亡D及び原告らに生じた損害の有無及び額)について ⑴ 死亡逸失利益 4840万3874円 証拠(甲4の3[46頁ないし61頁])によれば、亡Dの平成28年9月から平成29年8月までの支給総額及び期末・勤勉手当の支給総額の合計額は、以下の計算式のとおり、467万8695円であるところ、亡Dの死亡時の年齢が24歳と若年であったことや亡Dが公務員であって加齢に応じて賃金も上昇する可能性が高いことに照らすと、基礎収入の額は、上記の額 を上回る平成29年の賃金センサス・男性・学歴計の額である551万7400円によるのが相当である。 (計算式)259,083+269,813+261,604+295,674+232,298+369,660+331,074+297,044+356,431+425 円によるのが相当である。 (計算式)259,083+269,813+261,604+295,674+232,298+369,660+331,074+297,044+356,431+425,656+361,638+374,150+430,009+414,561=4,678,695 そして、亡Dの就労可能年数を24歳から67歳までの43年(ライプニッツ係数17.5459)、亡Dが独身者であったことから生活費控除率を50%として算定するのが相当であるから、亡Dの死亡逸失利益は、以下の計算式のとおり、4840万3874円と認める。 (計算式) 5,517,400×0.5×17.5459=48,403,874(円、円未満切捨て)⑵ 死亡慰謝料及び原告ら固有の慰謝料合計2440万円本件に顕れた一切の事情を考慮すると、亡Dの死亡による慰謝料として2000万円、原告ら固有の慰謝料として原告Aにつき200万円、原告B及び同Cにつき各120万円を相当と認める。 ⑶ 原告らによる相続原告らは、亡Dの被告に対する損害賠償請求権6840万3874円を、原告Aにつき4分の3、原告B及び原告Cにつき各8分の1をそれぞれ相続したことから、原告らの各取得額は、原告Aにつき5130万2906円、原告B及び同Cにつき各855万0484円である。 また、原告ら固有の慰謝料との合計額は、原告Aにつき5330万290 6円、原告B及び原告Cにつき975万0484円である。 ⑷ 葬儀費用(原告A) 150万円本件に顕れた一切の事情によれば、150万円を相当と認める。 ⑸ 過失相殺被告は、亡Dによる薬剤の服用状況や亡Dの面談時における説明内容を指 摘し、過失相殺又 150万円本件に顕れた一切の事情によれば、150万円を相当と認める。 ⑸ 過失相殺被告は、亡Dによる薬剤の服用状況や亡Dの面談時における説明内容を指 摘し、過失相殺又は素因減額をすべきであると主張するが、亡Dによる薬剤の服用が本件自殺を惹起したと認めることができないのは上記2⑷イ記載のとおりである。また、亡Dの面談時における説明内容につき、亡Dの上司である刑事課長等の職員が本件自殺に至るまでの亡Dにおける業務の過重性を容易に認識しえたことは上記3⑴記載のとおりであり、本件全証拠を精査し ても、亡Dの面談時における説明内容が前記認識可能性を減殺するものとは認められないから、亡Dの面談時における説明内容を本件自殺に係る亡Dの過失と評価することはできない。 したがって、過失相殺又は素因減額に係る被告の主張は採用できない。 ⑹ 損益相殺 ▲1813万3420円 原告Aは、遺族補償一時金1710万7000円及び葬祭料102万6420円の支給を受けており(前提事実⑷)、死亡逸失利益及び葬儀費用について損害の填補がなされたものと認められることから、被告は、原告Aとの関係で1813万3420円の損害賠償義務を免れ、同額を控除した金額は3666万9486円である。 なお、第三次支給決定に基づき原告が給付を受けた遺族特別支給金、遺族特別援護金及び遺族特別給付金(一時金)は、いずれも、地方公務員災害補償法47条1項、同法施行規則38条に基づき、地方公務員災害補償基金が、被災職員及びその遺族に対する福祉事業の一環として行っているものであって、本件自殺に係る被告の不法行為による損害の填補として支給されたもの とはいえないから、損益相殺の対象とはならないと解するのが相当である。 祉事業の一環として行っているものであって、本件自殺に係る被告の不法行為による損害の填補として支給されたもの とはいえないから、損益相殺の対象とはならないと解するのが相当である。 ⑺ 弁護士費用事案の性質、難易度、審理経過等の事情を総合すれば、本件と相当因果関係のある弁護士費用は、原告Aにつき367万円、原告B及び原告Cにつき各98万円である。 ⑻ 上記⑴ないし⑺によれば、原告らが被告に対してそれぞれ支払を求めるこ とができる金額は、原告Aにつき4033万9486円、原告B及び原告Cにつき各1073万0484円である。そして、以上で認定したところによれば、上記3の被告の注意義務違反に係る行為は、本件警察署における刑事課長等の本件警察署の職員の違法な公権力の行使として行われたものであるから、被告は、原告らに対し、国家賠償法1条1項に基づき上記各金額及び これに対する亡Dの死亡した日である平成▲▲年▲月▲▲日から支払済みまでの遅延損害金を支払う義務を負うと認められる。 第4 結論よって、原告らの請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 熊本地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官品川英基 裁判官片岡甲斐 裁判官若松亮太 亮太

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