- 1 -主文 渋谷労働基準監督署長が原告らに対して平成15年10月27日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1請求の趣旨主文と同旨。 第2事案の概要本件は,株式会社小田急レストランシステム(以下「小田急レストランシステム」という。)に雇用されていたP1(以下「亡P1」という。)が,精神障害(うつ病)を発症して自殺したのは,業務に起因するものであるとして,亡P1の子である原告らが,渋谷労働基準監督署長に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による遺族補償給付の支給を請求したところ,平成15年10月27日付けでいずれも支給しない旨の処分を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 前提となる事実(以下の事実は当事者間に争いがないか,本文中に掲記の証拠又は弁論の全趣旨により,容易に認めることができる。)( )当事者等 ア原告らは,亡P1の子である。 原告らの父である亡P1は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性であり,昭和46年2月16日に小田急レストランシステムに入社し,同社営業第2部給食事業で勤務していたが,平成10年4月16日付けで同社営業第1部レストラン第1事業事業付料理長に配置転換された後,▲月▲日,死亡した。 亡P1の妻であり原告らの母であるP2は,平成▲年▲月▲日,死亡し- 2 -た。 イ小田急レストランシステムは,小田急電鉄沿線地域に洋食及び和食の専門店等各種飲食店を展開するとともに,小田急電鉄及び小田急百貨店の社員食堂,小田急電鉄の車内サービス等を運営する総合フードサービス事業を営む株式会社である。 ( )亡P1の死亡 亡P1は,平成▲年▲月▲日,自宅を出た後,前記配置転換後に勤 及び小田急百貨店の社員食堂,小田急電鉄の車内サービス等を運営する総合フードサービス事業を営む株式会社である。 ( )亡P1の死亡 亡P1は,平成▲年▲月▲日,自宅を出た後,前記配置転換後に勤務することとされていたイタリア料理店に出勤しないまま所在不明となり,そのころ,長野県内の雑木林において縊死した。 ( )亡P1の業務内容や中傷ビラ問題等 ア亡P1の業務内容の概要亡P1は,前記のとおり,昭和46年2月16日に小田急レストランシステムに入社後,一貫して,営業第2部の給食事業部門に配属され,平成7年6月21日に給食事業料理長に就任した後も,その傘下の新宿第2店員食堂等の店長を兼務するなどしていた。そして,亡P1は,専ら給食事業料理長として,傘下の数箇所の各店舗を巡回し,各店舗の調理面からのチェック,指導,メニューの決定等を行っていた。 イ中傷ビラ問題の発生(ア)小田急レストランシステムの給食事業部門の新宿第1店員食堂で稼働する従業員P3は,その処遇に不満を持ち,平成9年2月,亡P1が,①食券を再利用して売上げを着服している,②同人が管理する金庫から1万5000円を盗んだ,③部下の女性職員に対するセクハラをした,④小田急百貨店の酒売場倉庫から窃取されたビールを飲んだ,等の内容を含む,小田急レストランシステムの職員を中傷するビラ(以下「本件ビラ」という。)を,小田急百貨店の労働組合に持ち込んだ。 その結果,亡P1を含む小田急レストランシステムの職員らを対象と- 3 -する調査がされ,結局,職員の一部やP3に対しては,懲戒処分がされた。そして,亡P1には懲戒処分はされなかったものの,亡P1は,同年5月,営業第2部長に対する始末書を提出し,給食事業料理長と兼務していた食堂の店長職を解かれた。 (イ)その後,平成10年3月 れた。そして,亡P1には懲戒処分はされなかったものの,亡P1は,同年5月,営業第2部長に対する始末書を提出し,給食事業料理長と兼務していた食堂の店長職を解かれた。 (イ)その後,平成10年3月になって,P3は雇用契約更新に当たり,再度上記中傷ビラを小田急レストランシステムの上層部へ送付して,これを蒸し返した。 その結果,亡P1に対しても,再び,小田急レストランシステムからの事情聴取がされ,その後,亡P1は,入社以来30年間勤務した給食事業部から,同年4月16日付けでレストラン事業部へ配置転換された。 なお,P3については,契約更新がされた。 ( )行政通達による認定基準 ア厚生労働省(以下,中央省庁等改革基本法等の実施に伴う厚生労働省設置法施行以前の労働省を含む。)では,業務によるストレスを原因としてして精神障害を発症し,あるいは自殺したとして労災保険給付請求(以下「労災請求」という。)が行われる事案が増加していたことから,平成9年12月に,「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」(以下「専門検討会」という。)を設置し,精神医学,心理学,法律学の研究者に対し,精神障害等の労災認定について専門的見地からの検討を依頼した上,平成11年7月29日に取りまとめられた「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」(乙6。以下「専門検討会報告書」という。)を踏まえ,平成11年9月14日付けで厚生労働省労働基準局長通達により「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(基発第544号。乙5。以下「判断指針」という。)を策定し,各都道府県労働基準局長宛てに発出した。 イ判断指針は,心理的負荷による精神障害等の発症が業務上と認定される- 4 -ための具体的条件を定めたものであるところ,その概要は,以下のとおりである。 都道府県労働基準局長宛てに発出した。 イ判断指針は,心理的負荷による精神障害等の発症が業務上と認定される- 4 -ための具体的条件を定めたものであるところ,その概要は,以下のとおりである。 (ア)基本的な考え方労災請求事件の処理に当たっては,まず,精神障害の発症の有無等を明らかにした上で,業務による心理的負荷,業務以外の心理的負荷及び個体側要因の各事項について具体的に検討し,それらと当該労働者に発症した精神障害との関連性について総合的に判断する必要がある。 (イ)対象疾病判断指針で対象とする疾病は,原則として,世界保健機構の定める国際疾病分類第10回修正(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とする。 (ウ)判断要件について次のa,b及びcの要件のいずれをも満たす精神障害は,労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。 a対象疾病に該当する精神障害を発症していること。 b対象疾病の発症前おおむね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発症させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。 c業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発症したとは認められないこと。 (エ)判断要件の運用労災請求事案の業務上外の判断は,まず,後記aにより精神障害の発症の有無等を明らかにし,次に後記bからdまでの事項について検討を加えた上で,後記eに基づき行う。 a精神障害の判断等精神障害の発症の有無,発症時期及び疾患名の判断に当たっては,ICD-10作成の専門家チームによる「臨床記述と診断ガイドライ- 5 -ン」に基づき,治療経過等の関係資料,関係者からの聴取内容,産業医の意見,業務の実態を示す資料,その他の情報から得られた事実関係により行う。 対象 チームによる「臨床記述と診断ガイドライ- 5 -ン」に基づき,治療経過等の関係資料,関係者からの聴取内容,産業医の意見,業務の実態を示す資料,その他の情報から得られた事実関係により行う。 対象疾病のうち主として業務に関連して発症する可能性のある精神障害は,ICD-10のF0からF4に分類される精神障害である。 b業務による心理的負荷の強度の評価①出来事の心理的負荷の評価精神障害発症前おおむね6か月の間に,当該精神障害の発症に関与したと考えられる業務による出来事について,別表1( )により, 平均的な心理的負荷の強度をⅠ(日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷),Ⅱ(Ⅰ及びⅢの中間に位置する心理的負荷)及びⅢ(人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷)のいずれかに評価する。 次に,別表1( )により,その強度を修正する必要はないかを検 討する。 ②出来事に伴う変化等による心理的負荷の評価出来事に伴う変化等について,別表1( )の各項目に基づき,そ れがその後どの程度持続,拡大あるいは改善したかについて検討し,心理的負荷の評価に当たり考慮すべき点があるか否かを検討する。 ③業務による心理的負荷の強度の総合評価原則として,以上の手順により評価した心理的負荷の強度の総合評価として,①別表1( )による修正を加えた心理的負荷の強度が Ⅲと評価され,かつ,別表1( )による評価が「相当程度過重」 (別表1( )の各々の項目に基づき,多方面から検討して,同種の 労働者と比較して業務内容が困難で,業務量も過大である等が認められる状態)であると認められるとき,又は②別表1( )により修 - 6 -正された心理的負荷の強度がⅡと評価され,かつ,別表1( )によ る評価が「特に過重」(別 業務量も過大である等が認められる状態)であると認められるとき,又は②別表1( )により修 - 6 -正された心理的負荷の強度がⅡと評価され,かつ,別表1( )によ る評価が「特に過重」(別表1( )の各々の項目に基づき,多方面 から検討して,同種の労働者と比較して業務内容が困難であり,恒常的な長時間労働が認められ,かつ,過大な責任の発生,支援・協力の欠如等特に困難な状況が認められる状態)であると認められるときには,別表1の総合評価が「強」として,客観的に精神障害を発症させるおそれのある程度の心理的負荷と認めることとする。 c業務以外の心理的負荷の強度の評価発症前おおむね6か月の間に起きた客観的に一定の心理的負荷を引き起こすと考えられる出来事について,別表2により評価する。 d個体側要因の検討既往症等に個体側要因として考慮すべき点が認められれば,それが客観的に精神障害を発症させるおそれのある程度のものであるか否かについて検討する。 e業務上外の判断に当たっての考え方上記bないしdの事項と当該精神障害の発症との関係は,業務による心理的負荷の強度が「強」と認められる場合,業務以外の心理的負荷や個体側要因が精神障害発症の有力な原因となったと認められる状況がある場合等を除き,業務起因性が認められる。 ( )本件訴訟に至る経緯 ア原告らは,労働基準監督署長(新宿労働基準監督署長から渋谷労働基準監督署長に回送された。)に対し,平成14年11月28日,亡P1は小田急レストランシステムにおける業務上の心理的負荷のために精神障害を発症して自殺をするに至ったものであり,その発症及び死亡は業務に起因しているとして,遺族補償給付を請求したが,同署長は,平成15年10月27日付けでこれを支給しない旨の処分をした(以下「本件不支給処- て自殺をするに至ったものであり,その発症及び死亡は業務に起因しているとして,遺族補償給付を請求したが,同署長は,平成15年10月27日付けでこれを支給しない旨の処分をした(以下「本件不支給処- 7 -分」という。)。 イ原告らは,東京労働者災害補償保険審査官に対し,平成15年12月19日,本件不支給処分の取消しを求めて審査請求を行ったが,同審査官は,平成16年11月19日付けでこれを棄却する旨の決定をした。 ウ原告らは,労働保険審査会に対し,平成16年12月21日,本件不支給処分の取消しを求めて再審査請求を行ったが,同審査会は,平成19年7月30日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。 争点 亡P1の精神障害の発症及び死亡が業務に起因するものと認められるか否か(亡P1が業務により受けた心理的負荷の強度,業務とうつ病発症及び自殺との因果関係)が本件の争点である。 争点に関する当事者の主張の要旨【原告らの主張の要旨】( )業務起因性に関する法的判断の枠組みについて ア業務起因性に関する法的判断の枠組みについての被告の主張は争う。業務と精神障害発症との相当因果関係の判断のうち,業務の危険性ないし業務による心理的負荷の強度について,平均的な労働者(日常業務を支障なく遂行できる労働者)を基準とするとする見解(平均人基準説)は誤りであり,個々の労働者が置かれた個別的・具体的状況を前提としつつ,社会通念に照らして,当該状況の下で当該労働者が従事していた業務の危険性を評価・検討すべきである。 イ専門検討会報告書及びそれに基づく判断指針は,一つの参考にすぎず,業務上外の判断に当たり,これらのみに依拠するのは失当である。判断指針には,心理的負荷の内容を限られた数の項目に限定し,かつ,多くの項目の強度を過小に評価している点や,心理的負 一つの参考にすぎず,業務上外の判断に当たり,これらのみに依拠するのは失当である。判断指針には,心理的負荷の内容を限られた数の項目に限定し,かつ,多くの項目の強度を過小に評価している点や,心理的負荷の項目が複数あっても,これらを総合的に評価して判断する構造となっていない点など,問題点が- 8 -多い。 ウ職場における嫌がらせ・いじめは心理的負荷が重く,精神障害の発症と関連性を有していること,管理職の支援が発症予防に重要であることは,医学的・疫学的に裏付けられている。 エ心理的負荷の要因となる複数の出来事が存在する場合,それらを総合的に評価して,精神障害の発症の危険性を検討すべきである。 ( )うつ病の発症時期と心理的負荷の評価期間について ア亡P1は,平成10年3月17日(亡P1が,P4営業第2部長(当時。 以下「P4部長」という。)及びP5業務課長(当時。以下「P5課長」という。)による事情聴取を受けた日)から▲年▲月▲日までの間にうつ病を発症したと考えられる。 イ被告は,専門検討会報告書に基づき,精神障害発症前6か月以上前の事柄は,「出来事」として評価するべきものではない旨主張するが,心理的負荷の評価期間はより長期にわたるべきであり,平成9年春ころの亡P1に対するP3の嫌がらせ行為やこれに対する小田急レストランシステムの対応も,心理的負荷の評価の対象とすべきである。 ウ自殺事案には,精神障害発症直後に自殺する事案もあれば,精神障害発症後に負荷が加わり病状が増悪して自殺する事案もある。本件では,亡P1のうつ病の発症時期を厳密に特定するのは困難であり,仮に平成▲年▲月▲日の自殺直前に発症したとすれば,亡P1は同日ころまでの出来事を原因として発症した直後に自殺したことになり,仮に同年3月17日に発症したとすれば,亡P1は発 定するのは困難であり,仮に平成▲年▲月▲日の自殺直前に発症したとすれば,亡P1は同日ころまでの出来事を原因として発症した直後に自殺したことになり,仮に同年3月17日に発症したとすれば,亡P1は発症後の出来事により病状が増悪して自殺したことになるもので,いずれにしても精神障害発症及び自殺の業務起因性は明白である。 ( )亡P1が業務により受けた心理的負荷の強度について ア平成9年のP3作成に係る本件ビラによる亡P1に対する事実無根の中- 9 -傷と小田急レストランシステムの対応本件ビラには,料理長ないし店長としての立場で各店舗を管理・監督する立場の亡P1に対する信頼を失墜させ,小田急レストランシステム及び小田急百貨店における亡P1の評価を著しく低下させる事実が記載されていた(以下,本件ビラ記載の不祥事及びP3がその事実関係の調査を求めたことを総じて「本件ビラ問題」という。)。特に,食券の問題は,亡P1が業務連絡・報告書(甲8)及び始末書(乙34の1)を作成させられるなど,重大な問題として取り上げられていた。 しかし,本件ビラのうち亡P1に関するものは,事実無根の内容であった。それにもかかわらず,小田急レストランシステムは,平成9年の時点において,何ら非がない亡P1を支援するどころか,亡P1に業務連絡・報告書や始末書を作成させ,上司であったP6(以下「P6」又は「P6支配人」という。)及び部下のP7を懲戒処分とするなど,亡P1らの重大な業務上のミスとして取り扱い,同人らの責任を問う形で問題を処理した。 これは,①「会社にとって重大な仕事上のミスをした」(心理的負荷の強度Ⅲ)に該当するとともに,②「悲惨な事故や災害の体験をした」(同Ⅱ)に該当し,かつ,P3の嫌がらせの悪質性にかんがみ心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきであり, 事上のミスをした」(心理的負荷の強度Ⅲ)に該当するとともに,②「悲惨な事故や災害の体験をした」(同Ⅱ)に該当し,かつ,P3の嫌がらせの悪質性にかんがみ心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきであり,③「会社で起きた事件について責任を問われた」(同Ⅱ)に該当し,かつ,亡P1への負荷の重大性に鑑み心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきであり,④「部下とのトラブルがあった」(同Ⅰ)に該当し,かつ,P3に一方的な非があることやその行為の悪質性から心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきものである。 イ平成10年のP3による嫌がらせ・脅迫P3は,平成10年の契約更新に当たり,再び本件ビラ問題を持ち出した上,亡P1について,「自宅近隣にビラをまく」,「新宿は歩けなくな- 10 -るぞ」などと発言し,亡P1の家族構成や人相等を他人に話すなどして,本人及び家族の生命,身体及び名誉に対する加害を告知する執拗な嫌がらせないし脅迫を行った。 これは,①「悲惨な事故や災害の体験をした」(心理的負荷の強度Ⅱ)に該当し,かつ,亡P1が,職場での信用や名誉への影響のみならず,妻と当時22歳及び18歳の娘2人(原告ら)という家族の生命・身体の安全や名誉にまで危害を加えられるかもしれないという恐怖心等を有していたこと,P3の嫌がらせ・脅迫は悪質であり,1年以上にわたり執拗に継続していたことにかんがみれば,心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきであり,②「部下とのトラブルがあった」(同Ⅰ)に該当し,かつ,P3に一方的な非があることやその行為の悪質性から心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきものである。 なお,被告は,亡P1がP3から直接脅迫された事実がないとして,心理的負荷がなかった旨主張するが,間接的な伝聞の方が嫌がらせないし脅迫の不快感ないし恐怖感が増幅されるものであり, るべきものである。 なお,被告は,亡P1がP3から直接脅迫された事実がないとして,心理的負荷がなかった旨主張するが,間接的な伝聞の方が嫌がらせないし脅迫の不快感ないし恐怖感が増幅されるものであり,そもそもP3の脅迫は,P6に対するものでも「おまえなんかもうコンクリート詰めになって東京湾に沈められてもおかしくないんだぞぐらいにすごまれたり」したという,一般に人に脅威を与えるのに十分なものであった。 ウ平成10年の本件ビラ問題に対する小田急レストランシステムの懲罰委員会設置及び査問小田急レストランシステムは,本件ビラ問題の再燃を受けて,亡P1に対する再調査を実施することとし,平成10年3月17日ころ,P4部長及びP5課長を中心とする懲罰委員会による亡P1の査問が実施された。 平成9年の時点で,小田急レストランシステムは本件ビラの亡P1に関する記載が虚偽であること,P3は雇用契約上の待遇変更への不満から本件ビラを持ち出しており,本件ビラの信用性が全くないことを認識していた- 11 -にもかかわらず,P4部長が小田急レストランシステムの上司から平成9年の調査時に亡P1に手心を加えて見逃したのではないかと叱責されたことを受けて,同委員会の査問内容は,亡P1に嫌疑をかけ,同人を糾問するような内容で,しかも2時間もの長時間にわたり行われた。 これは,亡P1に多大な心理的負荷を与えるとともに,会社からの支援の不存在として,出来事に伴う変化等による心理的負荷を重く評価されるべきものである。 エ平成10年に小田急百貨店から小田急レストランシステムが厳しい対応を迫られたこと小田急百貨店においては,景気悪化の影響でリストラの波が押し寄せており,小田急百貨店労働組合からの,従前の外部委託事業を自社事業として余剰人員を吸収すべき旨の要望を受けて,その系列 を迫られたこと小田急百貨店においては,景気悪化の影響でリストラの波が押し寄せており,小田急百貨店労働組合からの,従前の外部委託事業を自社事業として余剰人員を吸収すべき旨の要望を受けて,その系列会社である小田急レストランシステムに対し,給食事業委託の打切りを盾に,事業内容の改善を厳しく求めていた。そのため,平成10年になって,亡P1は,前年に報告を行った店員食堂改善案(甲9)を作成し直さねばならず,これは小田急レストランシステムにとって大きな損害であったため,給食事業関係者が全店長会議に出席することにつき「社長が気分を害する」と言われるなど,給食事業に対する風当たりは強かった。(なお,平成10年に,P4部長とP6支配人は,小田急百貨店の酒売場に謝罪に行くなどしたほか,P6支配人は,同年の降格人事の理由について,平成9年の懲戒処分と同様の「監督不行届と会社に損失を与えたこと」であると述べている。)これは,①「会社にとって重大な仕事上のミスをした」(心理的負荷の強度Ⅲ)に該当するとともに,②「会社で起きた事件について責任を問われた」(同Ⅱ)に該当し,かつ,亡P1への負荷の重大性に鑑み心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきであり,③「顧客とのトラブルがあった」(同Ⅰ)に該当し,かつ,亡P1への負荷の重大性にかんがみ心理的負荷- 12 -の強度をⅢと修正されるべきものである。 オ亡P1が入社以来約30年間勤務した給食事業からレストラン事業への配置転換をされたこと亡P1は,約30年間にわたり,給食事業一筋に従事していたが,小田急レストランシステムが小田急百貨店に対し,本件ビラ問題の解決を含む改善案を提示するために給食事業の担当者を変更することとし,レストラン事業部門に配置転換されることになった。これは,P6支配人が千葉県市原市所在の高 ムが小田急百貨店に対し,本件ビラ問題の解決を含む改善案を提示するために給食事業の担当者を変更することとし,レストラン事業部門に配置転換されることになった。これは,P6支配人が千葉県市原市所在の高速道路のサービスエリアの担当部署に降格処分となり,P4部長も同部署に異動になったことと軌を一にしており,亡P1が店長を解任され,業務内容もそれまで10年以上行っていなかった調理現場業務に変更となり,料理長らの指示に従う立場となったことなども考慮すると,降格人事に他ならない。しかも,亡P1の配置転換について,小田急レストランシステムからは適切な説明がなかったのであるから,亡P1は,本件ビラにより小田急レストランシステムに迷惑を掛けたことによる降格人事であると理解するのも当然である。それにもかかわらず,中傷ビラを作成したP3は,亡P1の配転後も,契約を更新されていた。 これは,「配置転換された」(心理的負荷の強度Ⅲ)に該当し,かつ,長年給食事業一筋に勤続してきた亡P1の立場,亡P1の配置転換の原因となったP3が給食事業に残りながら亡P1が配置転換される不合理さ,従来の管理職としての業務から調理業務への職務内容の変化等にかんがみ心理的負荷の強度をⅢと修正されるべきであるとともに,管理職の地位から他の事業料理長の指示に従う裁量性のない地位に置かれたことや,人間関係の変化及び会社からの支援の不存在として,出来事に伴う変化等による心理的負荷を重く評価されるべきものである。 【被告の主張の要旨】( )業務起因性に関する法的判断の枠組みについて - 13 -ア「ストレス-脆弱性」理論(脆弱性・ストレスモデル)は,病気の成因を考えるときに,個体側の要因としての脆弱性(病気のかかりやすさ)と環境因としてのストレス(有害かつ侵害的な出来事)の両方を取り上 ア「ストレス-脆弱性」理論(脆弱性・ストレスモデル)は,病気の成因を考えるときに,個体側の要因としての脆弱性(病気のかかりやすさ)と環境因としてのストレス(有害かつ侵害的な出来事)の両方を取り上げ,総合的に病気の成因を考える医学的モデルであり,これは,精神障害の業務起因性の判断における基本的な理論である。 イまず,業務と精神障害の発症との条件関係が認められるためには,一定以上の大きさを伴う客観的に意味のある業務上のストレスが精神障害の発症に寄与しており(少なくとも一原因となっており),当該ストレスがなければ精神障害は発症していなかったとの関係が高度の蓋然性をもって認められる場合でなければならないというべきである。 ウ次に,業務と精神障害発症との間に条件関係が認められるとしても,それらの間に相当因果関係が認められるためには,①当該業務が危険であること(危険性の要件)が必要であり,さらに,②当該精神障害が当該業務に内在する危険の現実化として発症したと認められること(現実化の要件)が必要というべきである。 ①業務の危険性につき,当該労働者を基準に判断すべきであるとする見解(本人基準説)は,業務の危険性がその内容や性質に基づいて客観的に判断されるべき事柄であり,本人の脆弱性は,判断の対象である「業務」に内包されない業務外の要因であるから,本人の脆弱性の程度によって業務の危険性が左右されるのは不合理である。労災補償制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任に基づく無過失責任であり,労災補償制度が使用者の保険料の拠出により運営されていることに照らせば,脆弱性の大きな労働者に発生した精神障害まで労災補償制度で救済することは,制度の趣旨に反するというべきである。しかも,「ストレス-脆弱性」理論においては,ストレスの大きさを客観的に観察し,それ ば,脆弱性の大きな労働者に発生した精神障害まで労災補償制度で救済することは,制度の趣旨に反するというべきである。しかも,「ストレス-脆弱性」理論においては,ストレスの大きさを客観的に観察し,それほどでもないストレスに対して過大に反応したとすれば,それは当該特定人の個体側の脆弱性の- 14 -問題として理解することとされており,本人基準説はこれに反している。 また,ストレスにも様々なものがあるため,業務起因性の判断の観点からは,ストレスを業務上のものと業務外のものとに分けることが必要であるところ,業務外のストレスの有無・程度及び個体側の脆弱性が外面からは確認できない場合であっても,業務によるストレスが客観的に精神障害を発症させるほどの強さでない場合には,業務外のストレス又は当該労働者の脆弱性に主な原因があったと解するのが相当である。 以上のことからすれば,業務の危険性は,平均的な労働者,すなわち日常業務を支障なく遂行できる労働者を基準として,業務によるストレスが客観的に精神障害を発症させるに足りる程度のものであるといえる場合に,初めて危険性の要件を肯定し得るものというべき(平均人基準説)である。 ①現実化の要件については,仮に精神障害の発症に業務が何らかの寄与をしていることが認められる場合であっても,業務外の要因がより強力な原因となって精神障害の発症をもたらした場合には,当該精神障害は,業務に内在する危険が現実化して発症したものではなく,業務外に存在した危険(当該労働者の私的領域に属する危険)が現実化して発症したものであるから,相当因果関係は認められないというべきである。したがって,当該精神障害の発症が,業務に内在する危険の現実化といえるためには,当該発症に対して,業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因と 認められないというべきである。したがって,当該精神障害の発症が,業務に内在する危険の現実化といえるためには,当該発症に対して,業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となったと認められることが必要というべきである。 したがって,精神障害の発症と業務との相当因果関係が認められるためには,①当該業務による負荷が,平均的な労働者,すなわち日常業務を支障なく遂行できる労働者にとって,業務によるストレスが客観的に精神障害を発症させるに足りる程度の負荷であると認められること(危険性の要件),②当該業務による負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,当該精神障害を発症させたと認められること(現実- 15 -化の要件)が必要と解すべきである。そして,その判断基準としては,最新の専門的知見に基づく専門検討会報告書を踏まえて策定された判断指針に依拠するのが最も適当と言うべきである。 ( )うつ病の発症時期と発症後の出来事について ア亡P1のうつ病の発症時期は,平成10年3月ころ(同年4月を数日以上超えて含む趣旨ではない。)である。 イうつ病は,いったん発症すると,多少動揺しながら悪化し(前駆期),底に達してしばらく持続し(極期),その後,自然に徐々に回復する(回復期)という過程を経て一つの周期が終わる。各病相期は大小の変動を伴い動揺しており,病気の初期と回復期には気分変動が激しく,自殺企図が生じやすい。しかも,自殺を決行するきっかけは,必ずしも強いストレスにさらされた場合に限らない。したがって,うつ病は,いったん発症すると,その症状の一つである希死念慮によって自殺するということがその自然的経過のうちにあり得るものである。他方,うつ病の自然経過が上記のようなものである上,個々の患者によって変動の幅 いったん発症すると,その症状の一つである希死念慮によって自殺するということがその自然的経過のうちにあり得るものである。他方,うつ病の自然経過が上記のようなものである上,個々の患者によって変動の幅や態様が相違するため,うつ病の増悪とは,個々の患者ごとに医学的に検討した上で明らかに通常予想され得る病状の経過の変動の幅を超えるような大きな症状の増悪があったか否かにより判断するほかない。 ( )亡P1が業務により受けた心理的負荷の強度について ア平成9年の本件ビラ問題について平成9年の本件ビラ問題は,亡P1のうつ病発症より6か月以上前の事柄であって,本来,出来事として考慮すべきものではない。しかも,亡P1に関して,本件ビラの内容が事実であると確認されたものは一つもなく,小田急レストランシステムも,平成9年5月23日にP7,P6及びP3にそれぞれ懲戒処分を行ったが,亡P1に対しては懲戒処分を行っていない。亡P1は,P4部長に対し,同月13日付けで始末書を提出している- 16 -が,これは,懲戒処分の趣旨を含まず,P4部長が「昔は職場で余った酒を飲むようなことは問題にもならなかったが,今は時代が変わった,というような例え話をしながら,形ばかりだけれど書いてほしい,と説明して出してもらったものです。」というとおりである。また,亡P1は,同月16日に新宿第2店員食堂の店長兼務を解かれたが,給食事業料理長の地位はそのままであり,これも,小田急レストランシステムとしては,関係者の処分の意図はなく,単に小田急百貨店向けに担当を替えてみせるというにすぎなかったのであり,そのことは,亡P1の後任の店長が,亡P1同様本件ビラに名前が挙がったP6であったことからも明らかである。 なお,原告らは,平成9年の本件ビラ問題によるストレスが平成10年まで持続 なかったのであり,そのことは,亡P1の後任の店長が,亡P1同様本件ビラに名前が挙がったP6であったことからも明らかである。 なお,原告らは,平成9年の本件ビラ問題によるストレスが平成10年まで持続した旨主張するが,同問題は,平成9年5月にP3らの懲戒処分が行われるなどして一旦収束していたのであるから,上記主張は失当である。 イ平成10年の本件ビラ問題について平成10年の本件ビラ問題についても,亡P1に関して,本件ビラの内容が事実であると認められたものはなかった。平成9年時点で,P4部長が本件ビラのうち,小田急百貨店の酒売場のビールを窃取した件を知らされていなかったことから,P4部長及びP5課長が亡P1に対して,平成10年3月17日あるいは同月18日に当該内容について事情聴取を行っているが,その際,P4部長らは,「新しいビラが出たので,去年聞いた話も改めてもう一度尋ねる。」旨説明して聴取を行ったものである。なお,P6は,同事情聴取を懲罰委員会としての聴取であるとしているが,その根拠は,懲罰委員会の委員であった両名が聴取したからであるというところ,懲罰委員会は部長以上の役職者を委員として構成されており,課長であるP5課長は委員ではなかったのであるから,P6の説明は必ずしも正確とはいえない。また,この時期に,小田急レストランシステムの従業員- 17 -や上層部の中で,亡P1の評判が下がったという事実も,亡P1が小田急レストランシステムから処分を受けたという事実も,小田急レストランシステムと小田急百貨店との間で本件ビラが問題となったという事実も認められない。 ウ平成10年のP3の言動についてP3が,平成10年3月ころ,亡P1に対して脅迫等を行っていた事実は認められない。P3は,信用もなく,およそ口先だけの人間であることが知られてお 認められない。 ウ平成10年のP3の言動についてP3が,平成10年3月ころ,亡P1に対して脅迫等を行っていた事実は認められない。P3は,信用もなく,およそ口先だけの人間であることが知られており,かかる人物の発言が強度の心理的負荷を与えるとは考え難い。P6支配人,P4部長及び給食事業チーフのP8も,P3から,脅迫的な言動等を受けているが,いずれも畏怖を感じたりはしていない。仮に亡P1がP3の言動で強度の心理的負荷を受けたとすれば,それは亡P1の脆弱性の証左である。 エ亡P1の配置転換について亡P1の配置転換は,降格には当たらない。小田急レストランシステムでは,部門を跨いだ異動は珍しいことではない。料理長が事業を跨いで異動するに当たって,事業付料理長として入るという例は,本件異動が初めてだとしても,そもそも料理長とは実際に調理をする者が就く管理職であり,給食事業に料理長が誕生したのは平成7年6月に亡P1が就いたのが初めてであり,料理長出身者が初めて部長に昇進したのは平成10年より後という状況であったのであるから,亡P1が,レストラン第1事業事業付料理長という形態で異動したとしても,そのことをもって本件異動が特別なものであったとはいえない。レストラン第1事業に料理長が2人配属されることになるのも,小田急レストランシステムが同事業に注力していたからであって,何ら不合理ではない。さらに,本件異動は時期的にも定期異動であり,亡P1の将来的な昇進等にも必要と思われるものであって,通常の配置転換といえるものであるから,本件異動を格段の心理的負荷と評- 18 -価するべきではない。 第3当裁判所の判断 認定事実前記第2の1の前提となる事実並びに証拠(甲4,5,7,8,10,11,13,14,18,19,乙8,9,10の3及び4,乙1 - 18 -価するべきではない。 第3当裁判所の判断 認定事実前記第2の1の前提となる事実並びに証拠(甲4,5,7,8,10,11,13,14,18,19,乙8,9,10の3及び4,乙11ないし15,16の1ないし14,乙17ないし19,20の1ないし13,乙21ないし31,32の1ないし7,乙33,34の1ないし3,乙35ないし40,41の1及び2,乙42ないし46,47の1ないし7,61,62,63の1ないし6,乙65ないし67,証人P9,原告P10本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ( )亡P1について ア亡P1の家族状況亡P1は,昭和47年2月17日,亡P2と婚姻し,昭和▲年に長女である原告P10が,昭和▲年に次女である原告P11が生まれた。亡P1の死亡当時,同人,原告ら及び亡P2は神奈川県相模原市に居住していた。 また,亡P1の父であるP12は,昭和▲年に死亡しており,母であるP13は,埼玉県川口市に居住していた。 イ亡P1の性格傾向等亡P1は「親分肌,世話好き,社交的」であり,職場組織での人間関係,組織適応性,上司・部下の対応状況,人付き合い及び友人関係について特に問題があるとされるところはなく,小田急レストランシステムの同僚等の評判も,「まじめ」,「几帳面で回りに気を使う」,「仕事ができる」,「頼りにされていた」というものであった。 また,原告P10も,亡P1の性格等を「几帳面」,「あまり強く意思表示はしない」と述べ,亡P1の母であるP13も,「やさしく,まじめで,誰も悪く言う人のいない息子でした。」と述べている。 - 19 -ウ亡P1の健康状態等亡P1は,健康診断において,平成5年11月は日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,平成6年5月には治療が必要な高脂血症,経 いない息子でした。」と述べている。 - 19 -ウ亡P1の健康状態等亡P1は,健康診断において,平成5年11月は日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,平成6年5月には治療が必要な高脂血症,経過観察が必要な高尿酸血症及び日常生活に注意を要する肥満等の診断を受け,同年10月には経過観察が必要な高血圧及び日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,平成7年4月には治療が必要な高血圧,経過観察が必要な心電図測定結果,高コレステロール血症及び肝障害疑並びに日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,同年9月には治療が必要な高血圧及び日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,平成8年4月には経過観察が必要な心電図測定結果,治療が必要な高脂血症及び日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,同年11月には日常生活に注意を要する肥満の診断を受け,平成9年10月の精密検査では,日常生活に注意を要する肥満の診断を受けた。 また,亡P1は,平成10年4月20日,両扁桃炎により,医師の診察を受けた。 ( )小田急レストランシステムの組織と亡P1の社歴 ア小田急レストランシステムの組織は,平成9年ないし平成10年当時,大別して,総務部,経理部,人事部及び営業本部に分かれ,営業本部の下には営業推進部,営業第1部ないし第3部,サービスエリア事業部があり,営業第1部ないし第3部及びサービスエリア事業部の下には1ないし4の事業が所属して,事業長である支配人の下,それぞれ店舗の運営を分担するなどしていた。 営業第1部(当時の部長はP14(以下「P14部長」という。)であった。)にはレストラン第1事業が属し,営業第2部(当時の部長はP4部長であった。)には和食・そば事業,ロッテリア事業,給食事業が属していた。 - 20 -イ給食事業は,小田急百貨店の社員食堂である新 )にはレストラン第1事業が属し,営業第2部(当時の部長はP4部長であった。)には和食・そば事業,ロッテリア事業,給食事業が属していた。 - 20 -イ給食事業は,小田急百貨店の社員食堂である新宿第1店員食堂,新宿第2店員食堂,町田店員食堂及び厚木店員食堂並びに小田急電鉄の社員食堂である喜多見社員食堂,大野社員食堂,海老名社員食堂及び海老名クラブの合計8店舗の運営を担当していた。 給食事業の責任者は,給食事業支配人(当時はP6支配人であった。)であり,その下に給食事業料理長と各店舗の店長が置かれていた。 給食事業料理長は,同事業支配人の下にあって,各店舗を巡回してその管理や技術指導等(原価率及び生産性を考慮して年間予定表を作成し,メニューを決定した上,レシピ,マニュアルを作成し,それらが実行されているかをチェックし,指示・指導するなど。)を行うものであり,実際に調理を担当することはなかった。なお,事業料理長は,平成10年当時,小田急レストランシステム内では3名しかいなかった。 各店舗の店長は,同事業支配人の下にあって,各店舗に置かれ,各店舗の従業員の管理(シフト表の作成,出退勤管理,新人の採用及び教育),売上金等の管理及び営業状況の分析・把握等を行っていた。また,各店舗のパート・アルバイト従業員の採用は,本来給食事業支配人の業務であるが,実際には店舗単位で店長が行っていた。 ウレストラン第1事業は,α新宿店等合計11店舗のイタリア料理店ないしファミリーレストランの運営を担当しており,平成10年4月当時,同事業支配人はP15であり,同事業料理長はP16であった。 エ亡P1は,昭和46年2月16日,小田急レストランシステムに給食事業調理係として採用された後一貫して給食事業に配属されており,平成7年6月21日に給食事業料理長に就任した後 長はP16であった。 エ亡P1は,昭和46年2月16日,小田急レストランシステムに給食事業調理係として採用された後一貫して給食事業に配属されており,平成7年6月21日に給食事業料理長に就任した後も,平成10年4月まで,新宿第2,大野,海老名,町田,厚木,喜多見の各社員食堂の店長を兼務しながら,給食事業に所属し,店舗の管理や技術指導等の業務に従事した。 ( )平成9年本件ビラ問題 - 21 -ア亡P1は,新宿第2店員食堂店長であった平成7年ころ,小田急レストランシステムが元従業員であったP3を契約社員として採用するに際し,同人を推薦した。 その後,P3は,平成8年4月ころ,契約期間がそれまでの1年から半年となり,期間満了となる同年10月ころ,小田急レストランシステムから契約打切りを持ちかけられたが,最終的にはパート従業員として残留することになり,その際,一般的なパート従業員の時給(1000円未満)より高額な時給(1500円)の支払を受ける旨の雇用契約を締結した。 イ小田急レストランシステムにおいては,平成9年ころ,60ないし65歳以上の高齢のパート従業員の人員整理を行っており,給食事業ではP4部長及びP6がその業務を担当していた。 P3は,平成9年2月当時,給食事業の新宿第1店員食堂調理係であり,未だ50歳代であったが,退職勧告対象者の名簿に名前が記載されており,P6との間で契約打切りの交渉を行った。しかし,P3は退職には応じず,時給の減額に応じ,その上で雇用を維持されることとなった。 その後,P3は,P6支配人や亡P1,同人の部下で調理係チーフであったP7などの小田急レストランシステムの従業員を中傷するビラ(本件ビラ)を作成し,小田急レストランシステムの店員食堂の顧客である小田急百貨店の労働組合に持ち込んだ。 本件ビラ(乙3 理係チーフであったP7などの小田急レストランシステムの従業員を中傷するビラ(本件ビラ)を作成し,小田急レストランシステムの店員食堂の顧客である小田急百貨店の労働組合に持ち込んだ。 本件ビラ(乙32の1ないし7)は,以下の趣旨の内容を記載したものであった。 ①亡P1は,一度使用した社員食堂の食券を再度券売機に入れて利用し,売上げとして計上する金額との差額を着服している。 ②亡P1が管理していた新宿第2店員食堂の金庫から1万5000円が紛失したが,盗んだ当人である亡P1は,平気で勤務に就いており,これをP6も隠そうとしている。 - 22 -③亡P1は,部下の女性従業員(P17)に対し,尾行したり,部屋を夜中に花束を持参して訪ねて口説いたりした。そのため,その女性従業員は会社を退職した。 ④亡P1の部下の従業員らが,小田急百貨店の酒売場倉庫のビールを盗み,これを亡P1らが飲んでいる。 ⑤P7が,女性従業員と不適切な関係を持ったり,商品(焼そば等)を駅長室に持ち出して駅長から切符をもらったり,さらには料理学校の調味料を盗んでいる。 このため,小田急レストランシステムは,小田急百貨店及び小田急百貨店労働組合から店員食堂の規律に強い疑念を示されてしまい,調査の上報告する旨表明した上,P4部長に事実関係の調査を指示した。 ウ小田急レストランシステムは,役員で構成する懲罰委員会において,P4部長と営業推進部部長代理のP5課長が,ビラに名前が記載されていた亡P1,P6,P7等から事情聴取した(ただし,その経緯は不明であるが,前記④の内容が記載されたビラ(乙32の7)については,P4部長らの手には渡らず,前記④の酒売場倉庫のビール窃取等に関する件についての事情聴取は行われなかった。)。 その結果,P7が調理場で作った焼そばを社外に持ち出したこ ビラ(乙32の7)については,P4部長らの手には渡らず,前記④の酒売場倉庫のビール窃取等に関する件についての事情聴取は行われなかった。)。 その結果,P7が調理場で作った焼そばを社外に持ち出したことがあった事実は確認したが,それ以外の事実は確認できなかった。 エ小田急レストランシステムは,P4部長らの調査の結果を踏まえ,まず,亡P1に対し,平成9年4月16日付けで,P6支配人に宛てて,金庫を購入して現金管理をより厳格に行うことや食券のナンバーを揃え,回収後は廃棄するなど食券管理を適正に行うことなどを内容とする,現金管理及び食券管理に関する業務連絡・報告書を提出させた。 なお,亡P1の手帳の平成9年5月5日及び同月6日の欄には,「5/ 本社18:30事前の説得店長,料理長とレシピー通りに指導監- 23 -督をおこたった給食事業の危機改革案,改善案,解決策コミュニケーション不足の反省ルールの徹底綱紀粛清食券の取扱い」との記載がある。 また,亡P1は,平成9年5月13日,P4部長宛てに,「今回小田急百貨店ならびに小田急百貨店労働組合に当社の信用を損う問題が起きました一因に私の業務上の行為が従業員から誤解を招くに至り,その事が信頼を欠くことになってしまいました。ご迷惑をお掛け致しました事をお詫します。現金,食券等の取扱いについては別途報告。料理長としてレシピー作成に当り良質で安価な食材を導入し原価率の低減に努めて来たつもりでありましたが,調理人達の同意を得るまで説明をすべきであったと考えます。」などと記載した始末書(乙34の1)を提出した。その草稿(乙34の2及び3)には,「食券の取扱いについて誤解を招く行為があった,(略)ただこの事を多くの従業員に説明しないまま行った(略)今迄各店ともレシピー通りに行っているとも思え を提出した。その草稿(乙34の2及び3)には,「食券の取扱いについて誤解を招く行為があった,(略)ただこの事を多くの従業員に説明しないまま行った(略)今迄各店ともレシピー通りに行っているとも思えません。今後,共通メニューに付いてはレシピーの徹底,味付の基本を見直し。」などと記載されている。 なお,亡P1のこの始末書作成は,小田急レストランシステムが小田急百貨店に対する信用回復を図る措置の一つとして行われたものである。 オ小田急レストランシステムは,平成9年5月16日付けで,亡P1を,当時給食事業料理長と兼務していた新宿第2店員食堂,町田店員食堂の両店長職から解任した(これに伴い,P6支配人を,同日付けで,両食堂店長兼務とした。)。 また,小田急レストランシステムは,同月26日,P7に対し,「会社の金品を無断で持ち出し又は持ち出そうとしたとき」に該当するとして減給3回の懲戒処分をし,P6に対し,「業務上の過失怠慢又は監督不行届により事故を発生させ若しくは発生させようとしこれによって会社に損害を与え若しくは与えようとしたとき」に該当するとしてけん責処分をし,- 24 -P3に対し,「仕事上の秘密又は会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」に該当するとして厳重注意とした上始末書を提出させる懲戒処分(ただし,社報には記載しない。)をした。 ( )平成10年本件ビラ問題 ア小田急レストランシステムは,平成10年2月ころ,小田急百貨店労働組合の要望を受けた小田急百貨店から,給食事業の委託打切りもあり得ることを示唆されながら,給食事業の事業改善を強く求められた。 そこで,亡P1は,給食事業料理長として,店員食堂改善案(甲9の1及び2)を作成し,同年3月6日ころまでに,小田急百貨店側に提出した。 この改善案は,衛生管理,メニュー関係,接客 善を強く求められた。 そこで,亡P1は,給食事業料理長として,店員食堂改善案(甲9の1及び2)を作成し,同年3月6日ころまでに,小田急百貨店側に提出した。 この改善案は,衛生管理,メニュー関係,接客サービス関係,人事関係,管理関係,総括と多岐にわたっており,管理関係については,「金銭管理」,「食券管理」という項目が設けられ,金銭管理については「責任所在の明確化,システムによる明朗化」,食券管理については「食券入出庫の記録,棚卸表の作成」,(使用済み)食券の「確実廃棄,プリペードカード方式の推進」といった方策を打ち出すものであり,また,小田急百貨店及び小田急百貨店労働組合との密接なコミュニケーションを図るために少なくとも2か月に1度以上は報告と意見を聞く機会を設けることを提案していた。 イこのころ,P3は,平成10年の雇用契約更新に当たり,本件ビラを小田急レストランシステムの上層部(社長)に送付して,本件ビラ問題を蒸し返した。このときのビラには,亡P1の部下が小田急百貨店の酒売場のビールを盗み,これを亡P1らが飲んだという前記( )ア④のビラも含ま れていた。 そのため,小田急レストランシステムは,再度調査を行うこととするとともに,謝罪のため,P4部長とP6支配人を小田急百貨店の酒売場に出向かせた。 - 25 -ウ平成9年当時に懲罰委員会の構成員であったP4部長とP5課長は,平成10年3月17日午後4時30分から午後6時30分まで,小田急レストランシステム本社第2会議室において,亡P1の事情聴取を行ったほか,亡P1に対し,小田急百貨店事業所には出向かないよう申し渡した(乙45。なお,被告は,亡P1の手帳の記載はうつ病の発症により客観的思考ができない状態で書かれたものであって,客観的事実を裏付ける的確な証拠とはならない旨主張する 業所には出向かないよう申し渡した(乙45。なお,被告は,亡P1の手帳の記載はうつ病の発症により客観的思考ができない状態で書かれたものであって,客観的事実を裏付ける的確な証拠とはならない旨主張するが,同手帳の記載は前記事情聴取におけるやり取り等,亡P1が直接体験した事実を記した限度では他の客観的証拠と合致する部分が多く認められ,その記載内容のとおりの事実の存在を認めることができる。)。 事情聴取におけるやり取りは,以下のとおりである(「聴取者」とは,P4部長又はP5課長のいずれかを指す。)。 ①1万5000円の紛失の件について聴取者「ビラの内容でP3氏は,P1料理長が盗ったと言っているが。」亡P1「盗った憶えはない,盗難騒動は後日の事情聴取の中で知った位で身に憶えはない。」聴取者「P18代理とP19さんが,前日まで5000円札があったと確認しているが。またP3氏はP1料理長が事務所の引き出しから抜き取り財布中に入れる所を見た,と言っているが。」亡P1「そんな事実はない。」聴取者「P3氏は何故告訴してこないかと言っているが。」亡P1「告訴には金がかかる,今家のローンと教育ローンでそれどころではない。」②酒売場倉庫のビールの件聴取者「P3氏はP1料理長が盗むよう指示した,また盗んだビ- 26 -ールを飲んだと言っているが。」亡P1「命じた憶えはない,職場で飲んだ事実はあるが,閉店後タイムカードを打刻した後である。外で飲むと金と時間がかかる,通達以後は飲んでいない。」聴取者「飲むビールはどうしたか。」亡P1「金を払って買いに行かせた事はある。」聴取者「P1料理長が金を出さない時もビールを飲んでいた事もあるのでは。」亡P1「P20さんが金を出すときもあった。」聴取者「P3氏は若い者に水割りを作って飲ませていた 買いに行かせた事はある。」聴取者「P1料理長が金を出さない時もビールを飲んでいた事もあるのでは。」亡P1「P20さんが金を出すときもあった。」聴取者「P3氏は若い者に水割りを作って飲ませていたと言っているが。」亡P1「売場の宴会(場所店食)の余りもののウイスキーで水割りを飲んだ憶えはある。飲んだ仲間としては,P21,P22,P23,P24等を記憶している。」③パート社員P17の件聴取者「P17さんの家に行ったことは。」亡P1「1度,引っ越しの手伝いに行ったことがある。それ以外花束を持って行った事実はない。」聴取者「P25,P26も,P17さんから,花束を持って訪問してきたと聞かされているが。」亡P1「多分,酒の席でそんな話がでたのでは。P17さんは酒を飲むと翌日には何を話したのか憶えていない位になる。」聴取者「P17さんの採用経緯は。」亡P1「β街の<γ>の経営者のママから知人(P17)を2年位使ってくれないか,と頼まれた。」(中略)- 27 -「家の訪問はP17さんが幾回かに分けて引っ越しをしている内の1回で重いものを運ぶ時に自分1人が行った。店食で働き始めて間もない頃である。」聴取者「P17の元主人の刑務所の話は?」亡P1「P17さん本人から聞いた話であるが,どういう状況で聞いたか定かでないが,P17さんの主人が数年前暴力団対策法ができる前の頃であるが,当時の宮沢首相を狙って上京した時,新宿警察署にシャブと拳銃不法所持で捕まって2年の刑を受けた。」聴取者「オッパイ花束等のセクハラのためP1料理長を避けるためのP17さんの作り話ともとれるが」亡P1「退職後,お母さんと共に<お世話になりました>と職場に挨拶に来た。パート仲間にも挨拶していた。その後再婚が決まり,夫婦で上京しパーティにも招待を受け ためのP17さんの作り話ともとれるが」亡P1「退職後,お母さんと共に<お世話になりました>と職場に挨拶に来た。パート仲間にも挨拶していた。その後再婚が決まり,夫婦で上京しパーティにも招待を受けた。都合で出席できなかったが,もしセクハラ等で退社であれば,招待も受けるはずがない。」エ亡P1は,前記の事情聴取の際,P4部長及びP5課長に対し,給食事業チーフのP8等から以下のような話を聞いていると述べていた。 ①P3から電話で面会を申し込まれ,これを断ったところ,P3から「会いたくなければ新宿を歩けないようにしてやる。」旨言われた。 ②P3がδ駅西口地下で露天商をやっている人間と親しいと言っており,それを取り仕切っているのが○○組であるから,P3を押さえるには総長に話をつければいい。 ③P3が「P1の奥さんは眼鏡をかけている」と言っていた。 オ小田急レストランシステムは,同年3月末までに,P3との雇用契約を同人から「会社の不名誉になることをこれ以上しない」とする誓約書を提出させた上で更新した。 P6を始めとする亡P1の上司等が,このP3との契約更新について異- 28 -議を述べた形跡はない。 ( )亡P1の死亡に至る経緯 ア死亡日以前6か月間の亡P1の就労状況死亡前6か月間における亡P1の1か月当たりの労働時間は以下のとおりである。 死亡前1か月目171時間53分(時間外労働時間22時間33分)死亡前2か月目219時間28分(同59時間28分)死亡前3か月目224時間12分(同48時間12分)死亡前4か月目158時間09分(同15時間36分)死亡前5か月目224時間40分(同56時間40分)死亡前6か月目223時間08分(同47時間08分)イ亡P1の死亡前の状況(ア)亡P1は,平成10年3月1 9分(同15時間36分)死亡前5か月目224時間40分(同56時間40分)死亡前6か月目223時間08分(同47時間08分)イ亡P1の死亡前の状況(ア)亡P1は,平成10年3月11日以降,手帳に詳細な記載を始めた(乙45)。その中には以下のようなうつ病の症状を示唆する情報も含んだ記載がある(以下,記載日の年表示は省略する。また,誤字や略語表記部分についても,適宜補正して表記することとする。)。 3月11日「自宅近隣にビラをまくとの脅し有り」「家族の事,家庭の事を考えると滅入る」「(小田急レストランシステム)社長と(小田急百貨店)専務のトップ会談にゆだねられたらしいが自分に対する処分は必至」「現在会社をやめるわけにはいかない」「自分の運命が他人に委ねられているのがおもしろくない」「暴力の前に対策が無い事がくやまれる」同月12日「一日中生死について考える」,「昨日は眠れない夜だった」「死に場所についても考えている。バカバカしい」同月13日「家庭,家族は守らねばならない。」「もし自分が死ぬ様な事があったら,葬儀一切必要なし,遺灰にして山にまいてくれ」「墓- 29 -の必要もなし。思いある人々が記憶の片スミにとどめておいてくれればそれでいい。」同月16日「第一は家庭,家族を守る事とする」「私が厚木,町田からも締出しをされるのであれば当社の対応,後手後手に回り皆にバカにされる・・・私自身は配転も覚悟します。」「30年間給食一筋でやって来ましたがこんな最後になってしまい非常に残念です。」同月17日「本日,本社呼出16:30,午前中彼(P3と解される。)が呼ばれていた模様,何が問題かわからない。精神的に疲れた。」「今回の印象として部長は自分を初めから疑っている様子,はなはだ心外。」「私はやはり家族の事がいちばん 30,午前中彼(P3と解される。)が呼ばれていた模様,何が問題かわからない。精神的に疲れた。」「今回の印象として部長は自分を初めから疑っている様子,はなはだ心外。」「私はやはり家族の事がいちばん気掛り」「配転やむなし」同月24日「上司もあてにならない。自分は信用して申しのべたつもりが相手がこう言っていたよなどと教えてしまっている。彼をあおり立てるだけだ。」「支配人と自分の異動は不動であろう。早く結着を。」「彼が我家の構成,人相等迄,他人にもらしている事が不安のタネでもある。」同月25日「30年間続けて来た仕事を奪われることはつらい。」「自分が去った後のメニューを書くのもむなしい。」同月30日「しかしよくよく考えると何故,脅迫者たる者が会社に居残り,私などが異動を余儀なくされるのは異常な事態としか思えない。」4月3日「常務,人事部長が動いている。」「小田急百貨店に対し担当を変えるむね小田急百貨店専務にお話したとの事・・・皆が納得のゆく異動が可能であろうか?」「自分もどうなるかわからない・・・部長,支配人,自分,どこに落ち着くのか?・・・最悪は箱そば,又はカレーショップかも」- 30 -同月9日「身分保証がされた事で家族への暴力は回避されたかもしれない。後は対小田急百貨店をにらんだ異動であろう」「仕事の有るセクションであれば良いがたいくつな部所であったらどう過ごしていいやら。現場しか経験のない私は仕事のない時のむなしさはやりきれない。」「この一年間の我慢はなんであったのであろう。」同月13日「10日,小田急百貨店専務が当社を訪れ当社社長と会見。 組合,提出の改善案が昨年と同様の内容であると指摘。組合はかなり強硬姿勢である。」「自分が本社で仕事もなくいる場面を想うとゾッとする。」同月16日「P4部長より, 務が当社を訪れ当社社長と会見。 組合,提出の改善案が昨年と同様の内容であると指摘。組合はかなり強硬姿勢である。」「自分が本社で仕事もなくいる場面を想うとゾッとする。」同月16日「P4部長より,電話で,異動先がレストラン第1事業で決定との事」同月18日「P6支配人より電話があり,4月23日午前9時30分に本社に出社して指示を仰ぐとのこと。西ピッコロ配属のようだ。」同月20日「給食の資料は全部廃棄」「大胆な内部異動だと思う。」「いままで順風満帆に過ごしてきたが終盤近くなり負けてしまった。30年間築いてきたものは何んだったんだろう。」「この年令での異動であるからあとはイヂワル,イヂメしかないかも」同月22日「自分に味方をする人間は皆無と再認識。追われる者には誰も付いてこない。」(イ)亡P1は,原告P10に対し,同年3月末ころ,夕食時に「お父さんは仕事でミスをしちゃったから大変なんだ。」と言ったことがあった(甲18)。 (ウ)小田急レストランシステムは,同年4月16日付けで,亡P1とP6支配人を配置転換した。 亡P1は,営業第2部給食事業料理長から営業第1部レストラン第1事業の事業付料理長に配置転換され,同月23日から当分の間,基幹店- 31 -舗であるα新宿店において現場勤務をした後,調理課課長代理を兼任していたP16料理長と店舗を分担し,給食事業料理長の業務と同様の指導管理業務に従事することが予定されていた。 P6支配人は,給食事業支配人兼新宿第2店員食堂店長・町田店員食堂店長から,営業推進部部付課長に配置転換された後,サービスエリア事業に異動となった。 なお,P4部長も,同月,総務課に異動した後,サービスエリア事業部に異動した。 (エ)亡P1は,同月22日,全店長会議に出席した。その際,特に変わった様子は見られな スエリア事業に異動となった。 なお,P4部長も,同月,総務課に異動した後,サービスエリア事業部に異動した。 (エ)亡P1は,同月22日,全店長会議に出席した。その際,特に変わった様子は見られなかったが,当時,少額のお金がなくなったとか,お酒を持ち出して飲んでいたといった噂があったことについて,出席していたP27総務課長(以下「P27課長」という。)から「どうなの。」と尋ねられ,「まいったよ。」と答えていた。 また,P6も,同会議に出席していたが,その出席にあたり,小田急レストランシステム総務部の担当者から「社長が(P6など給食事業の旧担当者の)顔を見ると気分を害するよ。」と告げられていた。 (オ)亡P1は,同月23日午前9時30分ころ,小田急レストランシステム本社に出勤し,営業第1部のP14部長,P15,及びP16と面談した。 面談では,P14部長が亡P1に対し,「給食事業からレストラン第1事業への異動についての説明を部長又は支配人より受けたのですか。」と尋ねると,亡P1は,思い詰めたように,「私は潔白です。」と返事をした。P14部長が重ねて尋ねると,亡P1は,「異動の理由については何も聞かされていない。また,レストラン第1事業への異動についても電話で指示を受けただけで直接会っていない。」と答えた。 P14部長が,「異動理由も含めて何の説明もされていないの。レスト- 32 -ラン第1事業も含めて普通は担当支配人又は部長より説明があるはずだ。 まして部が変わるんでしょう。」と言うと,亡P1は,「異動理由,異動先,異動日も含めて電話でのみ連絡をもらっただけです。何故なのか何も知らされていません。」と答えた。 P14部長は,「P1料理長自身ここ10年くらいフライパンを振られたことはないそうですが。」と尋ね,「はい」と答えた亡P1に対し, をもらっただけです。何故なのか何も知らされていません。」と答えた。 P14部長は,「P1料理長自身ここ10年くらいフライパンを振られたことはないそうですが。」と尋ね,「はい」と答えた亡P1に対し,「ずっと給食事業に従事していたのでイタリアの基礎を一から学んで欲しいと思うので,とりあえずα12Fにシフトに入って働いてもらいたい。αにはP28調理長がいるので,お店ではP28調理長の指示に当面従って欲しい。また,レストラン第1事業全体としてはP16料理長がいるので,全体的なことについてはP16料理長の指示に従って頂きたい。そういうことなので,当面,名刺は作りません。大変だとは思うが頑張って下さい。」と告げた。 (カ)亡P1は,P14部長らとの面談を終え,同日午前10時ころ,現場研修先である新宿のイタリアンレストラン「α新宿店」に出勤し,挨拶と着替えを済ませた後,同日午前11時ころから現場の仕事の流れを見学し,同日午後3時ころ退社した。 ウ亡P1の死亡亡P1は,▲月▲日,自宅を出た後,同日午前8時30分ころ,α新宿店に電話をかけ(甲14),体調が悪いから休ませて欲しい旨連絡した後,α新宿店に出勤しないまま所在不明となり,同日,長野県南安曇郡<以下略>の雑木林において縊死した。死因は窒息であり,死亡したのは,同日午後7時ころと推定された。 亡P1は,死亡する前,亡P2,原告ら及びP13に宛てた遺書を作成していた。 ( )うつ病に関する医学的知見 - 33 -ア「うつ病」の意義うつ病とは,精神障害の一つである気分障害(感情障害)の一類型であり,症状としては,抑うつ気分,集中力の低下,睡眠障害,将来に対する希望のない悲観的な見方,興味と喜びの低下,易疲労感の増大や活動性の減少等がある。 ICD-10では,感情障害は,気分(感情)障 あり,症状としては,抑うつ気分,集中力の低下,睡眠障害,将来に対する希望のない悲観的な見方,興味と喜びの低下,易疲労感の増大や活動性の減少等がある。 ICD-10では,感情障害は,気分(感情)障害とされ,主として,従来の躁うつ病に相当する①躁病エピソード,②双極性感情障害,③うつ病エピソード,④反復性うつ病性障害と,従来気質・人格の障害とされていた⑤持続性気分(感情)障害とから構成されている。 上記分類のうち,①躁病エピソード及び③うつ病エピソードは,躁病エピソード又はうつ病エピソードが1回だけ起こったものを指す。 ICD-10における「 うつ病エピソード」は,単一の(最初Fの)うつ病エピソードにのみ用いられ,それ以後にうつ病エピソードがあれば「 反復性うつ病性障害」に分類される。 Fうつ病エピソードと診断されるためには,エピソードが少なくても2週間続く必要があるとされているが,もし症状が極めて重症で急激な発症であれば,より短い期間であってもかまわないともされている。 (甲16,乙52,68)イうつ病の経過うつ病は,いったん発症すると,多少動揺しながら悪化し(前駆期),底に達してしばらく持続し(極期),その後,自然に徐々に回復する(回復期)という典型的な過程を経て1つの病相(周期)が終わる。1回の病相の長さは,数週間から1年,あるいは1年以上と個人差が非常に大きく,また,同一患者でも各病相により異なるが,多くは3ないし9か月である。 各病相期の変動については,これらの各段階には明確な境界線は存在せず,1つの段階の持続期間も1週間のこともあれば,重症である場合は半- 34 -年以上も続くことがある。 また,すべてのうつ病罹患者がこの典型的な過程を経るわけでもなく,極期に至らずに前駆期段階から回復に向かう場合もある。 週間のこともあれば,重症である場合は半- 34 -年以上も続くことがある。 また,すべてのうつ病罹患者がこの典型的な過程を経るわけでもなく,極期に至らずに前駆期段階から回復に向かう場合もある。 (乙49ないし51)ウうつ病と自殺うつ病罹患者には「希死念慮に至ることがほとんど必発である」とまで言われており,一般的に,うつ病の前駆期後半から回復期前半において,希死念慮が生じ得るとされ,特に,治療歴がないうつ病患者には希死念慮を生じる危険性がより高いことが報告されている。 また,うつ病による自殺は,通常の病状の経過の中でも,増悪期(極期)や増悪期(極期)からの緩解期(回復期)にも起こり得るが,前駆期後半と回復期前半では変動が大きく,自殺企図が生じやすいとされている。 そして,いったんうつ病に罹患すれば,病的状態に起因した思考により,自責・自罰的となり,客観的思考を失う,すなわち,個体の脆弱性が増大するため,「ささいな不祥事などを極端に悪いことのように」思い込み,ささいな出来事が契機となって自殺に至ることが少なくないことが指摘されている。 (乙49ないし51,54,55)エうつ病の発症とストレスとの関係統合失調症,うつ病などの精神疾患については,同じ家系内での発病率が一般人口よりはるかに高く,特別のストレス(身体あるいは精神に有害な歪みを与える強い外的刺激を言い,「侵害的刺激」ともいう。)なしでも発症することが多いので,何らかの内的な原因によって起こるものと考えられ,長い間「内因精神病」と呼ばれてきた。 しかし,近年,前記精神疾患がストレスなどの精神的な原因に関連して発症することもまれではないので,内因だけによって起こると考えるのは- 35 -無理であることが明らかになっており,これらの病気は,性格特徴等の内因(素因)と,身体疾患 どの精神的な原因に関連して発症することもまれではないので,内因だけによって起こると考えるのは- 35 -無理であることが明らかになっており,これらの病気は,性格特徴等の内因(素因)と,身体疾患,転職,昇進,退職,転居,近親者の死などによるストレスなどの外因(環境)の両方が関与して発症するものと考えられるようになっている。 このように,うつ病を含む一定の精神疾患は,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性との関係で発症する(精神破綻が生じる)のであり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じると帰結される(いわゆる「ストレス-脆弱性」理論)。 (乙6)オ精神疾患を引き起こすストレス等に関する研究報告(ア)平成14年度厚生労働省委託研究(平成15年3月)(甲15)労働者が感じるストレッサーの強度を測定すべく,厚生労働省から委託をうけ,P29教授らは,平成15年3月,「ストレス評価表の充実強化に関する研究」を報告した(甲15)。 同報告によれば,同項目で測定した91項目のストレッサーのうち,健常者群のストレス強度は「嫌がらせ,いじめ,または暴行を受けた」が最も強いストレッサーである。 (イ)職場でのいじめと心疾患・うつ病の発症(甲24)P30らは,職場でのいじめ(社会的に孤立させたり疎外して,仕事や努力を低く評価し,脅したり,不在時に悪口を囁いたり,その他苦痛を与える目的で否定的な態度をとり,心身共に参らせたり,欲求不満にさせたりするようなものをいう。)と心疾患,うつ病の発症との関連性の調査を行い,いじめとうつ病罹病との間の明確な『累積的関係』を示している。 すなわち,「いじめに長く暴露されていればいるほど,うつ病発症の- 36 ものをいう。)と心疾患,うつ病の発症との関連性の調査を行い,いじめとうつ病罹病との間の明確な『累積的関係』を示している。 すなわち,「いじめに長く暴露されていればいるほど,うつ病発症の- 36 -リスクは高くなる」と述べ,労働者の2年間の追跡調査の結果として,全くいじめを受けなかった労働者のうつ病発症のリスクを1とした場合,1回いじめを経験した場合には2.27倍,2回経験した場合には4. 81倍にリスクが上昇するとして,いじめが精神の健康問題の原因であるとしている。 (ウ)職場での対人葛藤と精神病罹患率(甲25)P31らは,職場での対人葛藤と精神病罹患率に関する調査を行っているが,全般的な健康状態などの背景要因を調整した結果,職場における対人葛藤があった労働者が,なかった労働者と比べ,精神疾患発症のリスクが2.18倍に高まっていたことが示され,職場での対人葛藤と医師の診断による精神病罹患率との関連は有意であったと結論づけている。 (エ)社会的サポートの有無と職場でのストレスと抑うつ症状の関係(甲26)P32らは,社会的サポートの有無と職場でのストレスと抑うつ症状の関係について報告している。 この研究で社会的ストレッサーとして測定しているものは,「社会的敵意性,同僚や上司との対立,及び集団内のマイナスの雰囲気」である。 この研究は,上記のような社会的ストレッサーと抑うつ症状の関係を示唆し,職場において上司が行うサポートがストレス及び抑うつ症状の関連を緩和・調整する効果を持つことが明らかとなったとしている。 (オ)「職場における心理社会的因子と抑うつ症状に関するガゼル・コホート研究」(甲27)ストレスフルな仕事上の出来事が0個の者がうつ病に罹患するリスクを1とした場合に,ストレスフルな仕事上の出来事を1個経験した者は1.57倍 因子と抑うつ症状に関するガゼル・コホート研究」(甲27)ストレスフルな仕事上の出来事が0個の者がうつ病に罹患するリスクを1とした場合に,ストレスフルな仕事上の出来事を1個経験した者は1.57倍,2個以上経験した者は1.73倍,うつ病に罹患するリス- 37 -クが高まることを示している。 (カ)平成18年度厚生労働省委託研究(平成19年3月)(甲28)労働者のストレス度を評価するため,厚生労働省から委託を受け,P29教授らは,平成19年3月,「精神障害を引き起こすストレス調査に関する研究」を報告した(甲28)。 同報告によれば,勤労者等を対象に0から10の11段階でストレス度を評価した場合,比較的強いストレスと評価されたもの(6点以上)のうち,「職場で嫌がらせ,いじめを受けた」が6.1点となり(2頁),「対人関係上の問題として,嫌がらせ,いじめ()が高いストレbullyingス要因となる」(4頁)とされている。 ( )亡P1の死亡に関する医学的見解等 ア東京労働局地方労災医員協議会精神障害等専門部会の見解(乙48の2。 以下「専門部会の見解」という。)(ア)亡P1に発病した精神障害は,ICD-10の診断基準,F3の「うつ病」であり,発症時期は,平成10年3月ころである。 (イ)発病前おおむね6か月の間の業務に係る出来事としては,平成10年初旬ころ,P3が小田急レストランシステムを中傷するビラを小田急百貨店に提出し,亡P1がP4部長らの面談調査を受けたことがあり,これは,判断指針の別表1にいう「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。心理的負荷の強度の修正の必要は認められない。 また,亡P1に恒常的長時間労働はなく,心理的負荷の総合評価は「中」である。 さらに,発病後で われた」に該当し,平均的な心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。心理的負荷の強度の修正の必要は認められない。 また,亡P1に恒常的長時間労働はなく,心理的負荷の総合評価は「中」である。 さらに,発病後である平成10年4月16日付け異動は,平均的心理的負荷の強度「Ⅱ」,発病後の心理的負荷の総合評価は「中」である。 なお,発病前おおむね6ヶ月の間に,業務以外の心理的負荷要因は認- 38 -められず,個体側要因も特筆すべきものはない。 したがって,本件は,心理的負荷の程度が,判断指針にいう「強」とは認められないから,職場における心理的負荷が発病の有力な原因とはいえず,業務外として処理するのが妥当である。 イメンタルクリニックε所長P33医師の意見(甲16。以下「P33医師の意見」という。)(ア)ICD-10の場合,うつ病(エピソード)と診断するには,『ふつう少なくとも2週間の持続が診断に必要』とされるところ,亡P1についてうつ病の諸症状の存在を示唆する情報は,手帳の記載が始まった平成10年3月11日からすでに認められるが,それらが前後で持続していたか否かについての十分な情報を得ることができなかったことから,遅くとも平成▲年▲月▲日ころまでに発症していたと判断せざるを得ないとするのが妥当である。 (イ)判断指針の策定根拠となった専門検討会報告書に忠実に従った場合でも,平成10年3月にP3による本件ビラの蒸し返しについて責任を問われたことによる心理的負荷の強度が,「会社で起きた事件について責任を問われた」とする出来事と「部下とのトラブルがあった」とする出来事との「複数の出来事が重なって認められる場合」に該当し,「総合的に評価」して,「Ⅱ」ではなく「Ⅲ」とするのが妥当であり,小田急百貨店との対応を余儀なくされた仕事の質の変化,問題の解決を自分 出来事との「複数の出来事が重なって認められる場合」に該当し,「総合的に評価」して,「Ⅱ」ではなく「Ⅲ」とするのが妥当であり,小田急百貨店との対応を余儀なくされた仕事の質の変化,問題の解決を自分では制御できないという裁量性の低下,P4部長ら上司や同僚の周囲の支援・協力の欠如から,「同種の労働者と比較して業務内容が困難」であり,その負荷の強度は「相当程度過重」といえるから,亡P1のうつ病の原因は亡P1の経験していた業務にあったとするのが妥当と判断される。 仮に亡P1のうつ病の発症時期が平成10年3月ころであったとして- 39 -も,レストラン第1事業事業付料理長への配置転換による心理的負荷の強度が判断指針における「Ⅱ」であるならば,同人のうつ病は改善する余地は全くなかった(精神科治療を受けていないことも明白である。)のであるから,同人の自殺はうつ病が原因であることは明らかである。 そして,業務以外の心理的負荷,個体側要因に特段検討すべきこともかった。 したがって,判断指針によっても,亡P1のうつ病発症及び自殺と業務との相当因果関係を肯定できる。 ウ産業医科大学P34准教授の意見(乙68。以下「P34准教授の意見」という。)(ア)一般に,精神疾患,特にうつ病の症状は,自発的に本人が訴えるもののほか,診断する側(多くの場合は主治医)が本人にその有無を尋ねることによって初めてその存在が明らかになるものが少なくない。このため,本人の遺した文章や関係者の証言からは,うつ病を診断するだけの症状の存在を裏付ける事項が得られなかったとしても,実際には発病していた例も少なくないはずである。本事案もその点を斟酌して推定を行う必要があり,平成10年3月中旬から下旬と推定するのが妥当である。 (イ)P3から亡P1を中傷するビラ(本件ビラ)を小田急レ 病していた例も少なくないはずである。本事案もその点を斟酌して推定を行う必要があり,平成10年3月中旬から下旬と推定するのが妥当である。 (イ)P3から亡P1を中傷するビラ(本件ビラ)を小田急レストランシステムの社長宛てに送られたことは,判断指針の「部下とのトラブルがあった」に該当し,その平均的心理的負荷は「Ⅰ」であるところ,P3の脅迫の影響等を考慮しても「Ⅱ」程度である(亡P1の手帳の記載は本人の不安感,焦燥感,悲観的な見方が強まっていることがうかがえるが,確認できる客観的な社内状況とは必ずしも合致していない。)。 また,亡P1が平成10年3月に店員食堂改善案を提出しているが,これがP3の本件ビラに伴ったものであるとした場合は,判断指針の- 40 -「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当し,その平均的心理的負荷は「Ⅱ」である。 そして,亡P1は仕事上のミスをしたのではなく言いがかりに巻き込まれたにすぎないこと,P3の言動が「悲惨な事故や災害の体験」とはいえないこと,レストラン第1事業付料理長への配置転換が左遷に該当するものではなく,降格でもなく,通常の配置転換よりも強い心理的負荷を生じさせたものであったとは考えにくいことをふまえると,亡P1の業務による心理的負荷の強度は「中」程度であると判断される。 したがって,業務以外の強い心理的負荷の存在を確認することができないけれども,亡P1のうつ病発症・増悪と業務との間に相当因果関係を認めることは困難である。 争点に対する判断( )業務起因性に関する法的判断の枠組みについて 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡について行われるが,業務上死亡した場合とは,労働者が業務に起因して死亡した場合をいい,業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡について行われるが,業務上死亡した場合とは,労働者が業務に起因して死亡した場合をいい,業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 また,労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は,業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に,使用者等に過失がなくとも,その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから,上記にいう,業務と死亡との相当因果関係の有無は,その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。 そして,精神障害の病因には,個体側の要因としての脆弱性と環境因としてのストレスがあり得るところ,上記の危険責任の法理にかんがみれば,業- 41 -務の危険性の判断は,当該労働者と同種の平均的な労働者,すなわち,何らかの個体側の脆弱性を有しながらも,当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種の者であって,特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきであり,このような意味での平均的労働者にとって,当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる危険性を有しているといえ,特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には,業務と精神障害発症及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。 ここで,当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷とは,精神障害発症以前の6か月間等,一定期間のうちに同人が経験した出来事による心理的負荷に限定して検討されるべきものではないが,ある出来事 ここで,当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷とは,精神障害発症以前の6か月間等,一定期間のうちに同人が経験した出来事による心理的負荷に限定して検討されるべきものではないが,ある出来事による心理的負荷が時間の経過とともに受容されるという心理的過程を考慮して,その負荷の程度を判断すべきである。 また,精神疾患を引き起こすストレス等に関する研究報告等をふまえるときは,心理的負荷を伴う複数の出来事が問題となる場合,これらが相互に関連し一体となって精神障害の発症に寄与していると認められるのであれば,これらの出来事による心理的負荷を総合的に判断するのが相当である。 なお,厚生労働省基準局通達による「判断指針」は,その策定経緯や内容に照らして不合理なものとはいえず,業務と精神障害発症(及び死亡)との間に相当因果関係を判断するにあたっては,医学的知見に基づいた判断指針をふまえつつ,これを上記観点から修正して行うのが相当であると解される。 ( )亡P1のうつ病の発症時期について 亡P1のうつ病の発症時期について,専門部会の見解では,平成10年3月ころであると判断しており,P34准教授の意見でも,平成10年3月中旬から下旬と推定するのが妥当であるとしているが,これらの見解又は意見は,その判断の基礎となった情報には一定の限界があるものの,その情報の- 42 -なかで得られうる事情をふまえ,ICD-10の診断基準に照らした専門家の判断であり,不合理であるとはいえない。 また,亡P1のうつ病の症状及びそれに関連した変化に関する事項が確認できるのは,おおむね亡P1の手帳(乙45)の記載のみであるところ,前記1( )イ(ア)のとおり,平成10年3月11日ないし17日,21日,2 3日ないし25日,同年4月3日,9日,13日,16日,20日,22 おむね亡P1の手帳(乙45)の記載のみであるところ,前記1( )イ(ア)のとおり,平成10年3月11日ないし17日,21日,2 3日ないし25日,同年4月3日,9日,13日,16日,20日,22日に,うつ病の症状を示唆する情報が記載されており,その中には,3月12日ないし16日といった比較的早い時期に,自殺念慮を窺わせる記載があることが認められる。そして,うつ病の経過は,気分の水準に動揺を来たしながら悪化することが認められる(前記1( ))のであるから,亡P1の手帳 に一部うつ病の症状を否定する情報の記載があるとしても,うつ病の症状を示唆する情報が上記のように継続的に認められることからすれば,亡P1が,平成10年3月11日ころ以降,継続してうつ病の症状を経験し,▲年▲月▲日に自殺するに至ったとしても,うつ病の有する前記特質からみて不合理ではない。 P33医師の意見でも,亡P1のうつ病の諸症状の存在を示唆する情報が平成10年3月11日からすでに認められるとしており,うつ病の前記特質を考慮しつつ,うつ病(エピソード)と診断するには2週間の持続が診断に必要であるとされていることを踏まえるときは,発症時期を同月(3月)下旬としたとしても,「遅くとも平成▲年▲月▲日ころまで」に発症したとする同医師の意見に反するものではない。 したがって,亡P1は,遅くとも平成10年3月下旬ころには,うつ病を発症していたと認めるのが相当である。 ( )亡P1が業務により受けた心理的負荷の強度について ア発症前の業務による心理的負荷(ア)専門部会の見解及びP34准教授の意見によれば,平成10年3月- 43 -ころ生じた平成10年本件ビラ問題について亡P1がP4部長等から事情聴取を受けたことが判断指針における「会社で起きた事件について責任を問われた 34准教授の意見によれば,平成10年3月- 43 -ころ生じた平成10年本件ビラ問題について亡P1がP4部長等から事情聴取を受けたことが判断指針における「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当するとしている。 (イ)この平成10年の本件ビラ問題は,亡P1の部下であるP3によるものであり,前年に生じた本件ビラ問題の蒸し返しであった。そして,本件ビラの内容については,亡P1に関する部分については事実であることを確認できていないのであるから,これを「仕事上のミス」ということはできない。 しかしながら,P3が小田急百貨店労働組合に本件ビラを持ち込んだことで,顧客である小田急百貨店から小田急レストランシステムの給食事業の管理責任を問われることに発展し,平成9年には,上司のP6支配人や部下のP7が懲戒処分を受けるとともに,亡P1も自らが疑われた金銭の管理に関する事項を含む始末書を提出させられた上(亡P1の同始末書は小田急百貨店に対する信用回復の措置としてされたものであったことは前記認定のとおりである。),給食事業料理長の地位には変化はなかったが,当時兼務していた店長職を解任されているし,平成10年3月には,亡P1が店員食堂改善案を提出しているところ,これは小田急百貨店から給食事業の委託を打ち切られかねない状況のなか,亡P1が,小田急レストランシステムの給食事業の委託の継続に向けての責任の一端を負わされたものであるということができる。 そのような状況下で再び本件ビラ問題が再燃したのであり,しかも,平成9年には把握されていなかった酒売場倉庫のビール窃取の件について,P6支配人らが小田急百貨店に出向いて謝罪していることからして,小田急レストランシステムは本件ビラ問題を小田急百貨店との関係を悪化させかねない重大問題として扱っていたものと認 ール窃取の件について,P6支配人らが小田急百貨店に出向いて謝罪していることからして,小田急レストランシステムは本件ビラ問題を小田急百貨店との関係を悪化させかねない重大問題として扱っていたものと認められる。 そして,P4部長らの事実聴取は,本件ビラの内容が事実でないとし- 44 -ながらも,約2時間にわたり,逐一詳細に亡P1に尋ねており,かつ,その質問内容も本件ビラに直接的に記載されていないものにも及んでいる上,その態様も相当に糾問的であったといわざるを得ない。そして,亡P1は,平成10年3月末までの間に,自らの手帳に「自分に対する処分は必至」,「配転やむなし」,「支配人と自分の異動は不動であろう。早く結着を。」,「30年間続けて来た仕事を奪われることはつらい。」等と記載し,自分が給食事業から外されることを予想しているが,事情聴取時に「小田急百貨店事業所に立入り禁止」と告げられ小田急百貨店との関係悪化の責任を感じさせられていること及び同年4月にはP6とともに給食事業から外されていることからすれば,同年3月当時の亡P1の予想は,職種,職場における立場,経験が類似の労働者からみても,そのように受け止めることができるものであったと認めるのが相当である。 加えて,亡P1はP3を雇用契約時に推薦していたことがあり,いわば小田急レストランシステムにとってのトラブルメーカーを積極的に推薦してしまった負い目を感じていたとしても不自然ではない(平成10年3月末の原告P10に対して「ミスをしてしまった」と述べた言葉には,このことが表れているともいい得る。)。 このように,平成10年3月ころ生じた平成10年本件ビラ問題について亡P1がP4部長等から事情聴取を受けたことは,判断指針における「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当するとしても,そ このように,平成10年3月ころ生じた平成10年本件ビラ問題について亡P1がP4部長等から事情聴取を受けたことは,判断指針における「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当するとしても,その心理的負荷の強度は,事件の内容,関与・責任の大きさを考慮して修正されるべきであるし,これに伴う変化としても,自らが長年従事していた給食事業を外されるという仕事の質の変化が客観的に予想される事態であったことを考慮するのが相当である。 (ウ)加えて,P3が本件ビラを小田急レストランシステムの上層部(社- 45 -長)あてに送付したり,家族への脅迫を疑わせる行動を(間接的にでも)したことは判断指針の「部下とのトラブル」に該当するし,本件ビラ問題が小田急レストランシステムと小田急百貨店との関係悪化の要因になったことは「顧客とのトラブル」にも該当するところ,これらは,前記事情聴取と相互に関連するものであって,一体となって亡P1に心理的負荷を与えたと認められる。 (エ)してみると,平成10年3月ころ生じた平成10年本件ビラ問題について亡P1がP4部長等から事情聴取を受けたことが判断指針における「会社で起きた事件について責任を問われた」に該当するとしても,その心理的負荷の強度は,「Ⅱ」ではなく「Ⅲ」に修正されるべきであり,この出来事に伴う変化として,自らが長年従事していた給食事業を外されるという仕事の質の変化が客観的に予想される事態であったこと,P3の言動による「部下とのトラブル」,小田急百貨店との関係悪化の要因になった「顧客とのトラブル」とも一体となって亡P1に心理的負荷を与えたと認められることから,その心理的負荷の総合評価は「特に過重」なものとして「強」であるというのが相当である(これに反する専門部会の見解及びP34准教授の見解は採用できない 亡P1に心理的負荷を与えたと認められることから,その心理的負荷の総合評価は「特に過重」なものとして「強」であるというのが相当である(これに反する専門部会の見解及びP34准教授の見解は採用できない。)。 イ発症後の業務による心理的負荷亡P1は,発病後の平成10年4月16日付でレストラン第1事業事業付料理長に配置転換されているところ,専門部会の見解及びP34准教授の意見によっても,判断指針の「配置転換があった」に該当するとしている。 この配置転換について,小田急レストランシステムの総務担当者やP6は降格や左遷ではないとするが,平成10年3月の事情聴取の後に行われた人事異動であること,同時期にされた給食事業支配人のP6の配置転換は監督不行届を理由とした降格であったこと,当時社内には3名しかいな- 46 -かった事業料理長から事業付料理長という例外的地位への異動であったこと,亡P1が長年従事してきた給食事業(の管理業務)から外れ長年離れていた現場作業(調理)を担当することになったこと,異動理由が明確に告げられておらず,将来的に管理業務に戻ることが予定されていたことも告げられていなかったこと,上層部が給食事業を担当していた者を疎ましく思うような態度を示していたことからして,組織上・人事管理上はともかく,少なくとも職種,職場における立場,経験が類似の労働者からみて,「左遷」と受け止めても不自然ではない異動であったと認めるのが相当である。 そして,この配置転換により,営業第2部から営業第1部へ所属が変わり,勤務場所も変わったことから,職場の人的・物的環境の変化があったといえるほか,自らの裁量で行う管理業務から他の料理長の指示を受けて行う現場作業業務(調理)へと仕事の質も変わったのである。 そうすると,亡P1の平成10年の配置転換による心理的 的環境の変化があったといえるほか,自らの裁量で行う管理業務から他の料理長の指示を受けて行う現場作業業務(調理)へと仕事の質も変わったのである。 そうすると,亡P1の平成10年の配置転換による心理的負荷の強度については,少なくとも「中」であり,すでに罹患していたうつ病を悪化させる可能性があったとはいえ,逆に軽減させるものではなかったと評価するのが相当である。 ウ業務以外の心理的負荷や個体側要因の検討専門部会の見解,P33医師の意見及びP34准教授の意見が一致して示すとおり,亡P1に業務以外のうつ病等の精神障害が発病する原因となるべき心理的負荷要因や精神障害の既往症もなく,うつ病の発症につながる個体側要因は存在しない。 エ検討以上,認定したとおり,亡P1のうつ病発症前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり,うつ病の発症につながる業務以外の心理的負荷や亡P1の個体側要因もないのであるから,判断指針によっても,亡P1の- 47 -うつ病発症が同人の業務に起因するものであると認めることができる。 また,亡P1のうつ病発症後の業務の心理的負荷の強度についても,少なくとも「中」程度のものであって,うつ病に特徴的な希死念慮の他に亡P1が自殺をするような要因・動機を認めるに足りる証拠はないから,亡P1の自殺についても,同人が従事した業務に内在する危険が現実化したものと評価するのが相当である。 ( )まとめ 以上によれば,亡P1の精神障害の発症及び自殺は,亡P1が,その業務の中で,同種の平均的労働者にとって,一般的に精神障害を発症させる危険性を有する心理的負荷を受けたことに起因して生じたものと見るのが相当であり,亡P1の業務と同人の精神障害の発症及び自殺との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。 結語以上の次第で,亡P1の 有する心理的負荷を受けたことに起因して生じたものと見るのが相当であり,亡P1の業務と同人の精神障害の発症及び自殺との間に相当因果関係の存在を肯定することができる。 結語以上の次第で,亡P1の精神障害の発症及び自殺は業務上の事由によるものとは認められないとして原告らに対する遺族補償給付を支給しないとした本件不支給処分は違法であり,取消しを免れない。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部裁判長裁判官白石哲裁判官鈴木拓児- 48 -裁判官高嶋由子
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