平成28年5月25日判決言渡平成27年(行コ)第380号所得税更正処分等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成24年(行ウ)第799号) 主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人らに関する部分をいずれも取り消す。 2 芝税務署長が平成24年2月28日付けで控訴人P1に対してした同控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額1億5263万6000円,納付すべき税額1719万8600円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。 3 麻布税務署長が平成23年5月31日付けで控訴人P2に対してした同控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額2億9859万円,納付すべき税額4871万5700円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。 4 目黒税務署長が平成23年4月27日付けで控訴人P3に対してした同控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額3億6956万円,納付すべき税額5812万2800円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。 5 佐久税務署長が平成24年3月9日付けで控訴人P4に対してした同控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額3億1749万4000円,納付すべき税額2464万5600円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。 6 渋谷税務署長が平成23年2月28日付けで控訴人P5に対してした同 控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額1億3798万1000円,納付すべき税額1446万1700円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。 7 訴訟費用は 控訴人の平成20年分の所得税に係る更正処分のうち総所得金額1億3798万1000円,納付すべき税額1446万1700円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。 7 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,アメリカ合衆国法人であるP6(以下「P6社」という。)の関連会社に勤務する控訴人らほか5名が,P6社の報奨報酬(インセンティブ賞与)制度に基づき,所定の転換日にP6社の普通株式(以下「P6株式」という。)に転換される「ストック・ユニット」の付与を受けた後,平成20年9月8日に転換日が到来して所定のP6株式をそれぞれ取得したことから(以下,これにより控訴人らほか5名がそれぞれ取得したP6株式を「本件各P6株式」という。),平成20年分の所得税に係る確定申告をするに当たり,本件各P6株式の取得による経済的利益(以下「本件各株式報酬」という。)を給与等の収入金額の一部として評価するための基準日について,社内規則に基づくP6株式の譲渡制限が解除された同月18日とし,同日の株式市場におけるP6株式の高値と安値の単純平均値に基づいて算定した金額を給与等の収入金額としてそれぞれ申告したところ,各処分行政庁が,上記基準日について,いずれも転換日である同月8日とし,同日の株式市場におけるP6株式の終値に基づく評価額により金額を算定すべきであるとして,控訴人らほか5名に対し,同年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をしたことから,控訴人らほか5名が,本件各更正処分等は,本件各株式報酬に係る給与等の収入金額を不当に算定した違法な処分であると主張して, いい,本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をしたことから,控訴人らほか5名が,本件各更正処分等は,本件各株式報酬に係る給与等の収入金額を不当に算定した違法な処分であると主張して,被控訴人に対し,本件各更正処分のうち一定額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しをそれぞれ求めた事案である。 原審が控訴人らほか5名の請求をいずれも棄却したところ,控訴人らのみが各控訴した。関係法令等の定め,前提事実,被控訴人の主張する本件各更正処分等の根拠及び適法性,争点並びに争点に対する当事者の主張の要旨は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり控訴人らの当審における主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1ないし5に記載のとおりであるから(控訴人ら関係部分に限る。),これを引用する。 2 原判決の補正(1) 原判決4頁19行目の「「アワード」」を「アワード(賞与)」に改める。 (2) 同頁23行目の「①」の次に「株式報奨報酬制度」を,同25行目の「②」の次に「従業員株式積立制度」を,同5頁1行目の「③」の次に「税金繰延資本参加制度」をそれぞれ加える。 (3) 原判決5頁9行目の「①」の次に「P6株式報奨報酬制度2003年任意保有賞与・賞与証書」を,同12行目の「②」の次に「P6株式報奨報酬制度2004年任意保有賞与・賞与証書」を,同15行目の「③」の次に「P6株式報奨報酬制度2005年任意保有賞与・賞与証書」を,同18行目の「④」の次に「P6従業員株式積立制度2006年任意保有賞与・賞与証書」を,同21行目の「⑤」の次に「P6税金繰延資本参加制度2006年任意保有賞与・ストックユニットの賞与証書」をそれぞれ加える。 (4) 原判決7頁2行目の「ウインドウ・ピリオド」の次に「 賞与証書」を,同21行目の「⑤」の次に「P6税金繰延資本参加制度2006年任意保有賞与・ストックユニットの賞与証書」をそれぞれ加える。 (4) 原判決7頁2行目の「ウインドウ・ピリオド」の次に「(P6社の利益発表後最初の営業日に始まり,アクセスパーソンである従業員についてはその後20営業日に,アクセスパーソンでない従業員については各財務四半期の最終営業日にそれぞれ終期を迎える期間。乙8)」を加える。 (5) 原判決15頁4行目の「乙7」の次に「,以下「本件確認書」という。」を加える。 (6) 原判決88頁6行目の「(以下「原告P4」を「(以下「控訴人P4」 という。)」に改める。 3 控訴人らの当審における補充主張本件各報酬証書(乙12ないし16)が,ストック・ユニットとは,その転換日にP6株式1株を被付与者に支払う支払保証のないP6社の約束から成るものである旨定めているとしても(同証書各1条),本件各報酬証書はストック・ユニットの制度概要を記載したものにすぎないから,本件転換日をもって,転換によるP6株式支払の履行日であるとして,評価の基準日とするのは妥当でない。本件転換日に本件各P6株式の受領権を取得するストック・ユニット被付与者に対する株式転換に関する本件確認書(乙7)は,転換-取得日を平成20年9月8日としつつ,本件各P6株式の各被付与者に係る証券口座への移管につき,転換後5営業日以内に完了する見込みである旨を記載しているのであり,現に,控訴人らの証券口座に本件各P6株式が移管されたのは,控訴人P5を除いて平成20年9月11日になってからであった。このように,P6社のストック・ユニット制度は,転換日において,P6株式を引き渡すことを予定しているものではないことが明らかであるから,本件転換日をもって,P6株 年9月11日になってからであった。このように,P6社のストック・ユニット制度は,転換日において,P6株式を引き渡すことを予定しているものではないことが明らかであるから,本件転換日をもって,P6株式支払の履行日と見るべき根拠を欠いているし,本件各株式報酬について,本件転換日に収入の原因となる権利が確定したともいえない。 また,本件各P6株式については,本件譲渡制限により,本件制限解除日が到来するまで一切処分できない状態に置かれており,控訴人らが現実に本件各P6株式を換価したり,その市場価値に見合う資金を自由に使用したりすることは一切できず,本件各株式報酬について現実に収入が実現したとは到底いえない状況であった。控訴人らの本件各P6株式の取得は,P6社の株式報酬制度によるストック・ユニット制度に基づくものであり,控訴人らは,P6グループの従業員として,P6取引方針に基づく規制に服するものであるから,本件各株式報酬については,本件制限解除日まで処分可能性が認められない。したがって,本件転換日をもって本件各株式報酬に係る給与等の収入すべき日と 判断するのは相当でない。 控訴人らは,いずれも本件制限解除日が到来して初めて本件各P6株式の処分が可能になるのであるから,本件においては,本件制限解除日である平成20年9月18日をもって本件各株式報酬に係る給与等の収入すべき日と判断するの相当である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人らの請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり控訴人らの当審における補充主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第 3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから(控訴人ら関係部分に限る。),これを引用する。 2 原判決 控訴人らの当審における補充主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第 3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから(控訴人ら関係部分に限る。),これを引用する。 2 原判決の補正(1) 原判決22頁11行目の「ストック・アワード」の次に「(株式報酬)」を,同行目の「ストック・ユニット・アワード」の次に「(ストック・ユニット報酬)」を,同12行目の「オプション・アワード」の次に「(オプション報酬)」を,同行目の「SARアワード」の次に「SAR報酬」をそれぞれ加える。 (2) 原判決31頁19行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「(5) ストック・ユニットの確定日及び転換日の繰上げア P6社報酬委員会は,平成19年12月11日,それまでに確定していない一定のストック・ユニットの予定確定日及び予定転換日を繰り上げることとし,①付与済みのストック・ユニットについて,各アワードの他の条件に従って,平成20年9月8日を転換日(本件転換日)として,同日,ストック・ユニット数に応じたP6株式の引渡しにより支払われること,②同日現在において確定していない付与済みのストック・ユニットは,同日をもって確定すること,③上記決議に伴うストック・ ユニットの転換によって引き渡されるP6株式は,証券取引法又はP6社の方針から生じる制限以外の取引制限の対象にはならず,取消条項の対象にもならないこと等を決議した(乙5)。 イ P6社人事部は,上記決議を受けて,平成19年12月14日,各ストック・ユニット被付与者に宛てて,「株式報奨報酬に関する重要なお知らせ」との件名の覚書で,付与済みのストック・ユニットについて,元々の引渡日より引渡日が早められたことを伝えるとともに,「早められた引渡日」として,本件転換日である平成2 報奨報酬に関する重要なお知らせ」との件名の覚書で,付与済みのストック・ユニットについて,元々の引渡日より引渡日が早められたことを伝えるとともに,「早められた引渡日」として,本件転換日である平成20年9月8日を記載した。 その上で,同覚書は,賞与が株式に転換されて従業員に引き渡された後の取扱いについて,「従業員にはその後の制限はありませんが,従業員取引ポリシーに従うことが求められます。」との内容を告知した(乙6)。同時に,同覚書は,「多くの場合,これらの賞与の引渡しにより所得税が発生します。P6社ではクライアントに税や租税会計問題に関するアドバイスを行いません。この取引に関する個人的な財務上の問題に関しては税務・財務アドバイザーに相談してください。」と注意喚起している。」(3) 同頁20行目の「(5)」を「(6)」に,同34頁12行目の「(6)」を「(7)」にそれぞれ改める。 (4) 原判決42頁10行目の「確認書」,同43頁6行目及び同8行目の各「上記確認書」を「本件確認書」にそれぞれ改める。 3 控訴人らの当審における補充主張に対する判断(1) 控訴人らは,本件各株式報酬に係る給与等の収入すべき日は,本件制限解除日(平成20年9月18日)であると主張する。 (2) 前記認定事実によると,本件各報酬プランは,P6社の発展及び利益に貢献した主要な従業員に対し,報奨を与え,P6株式の所有を勧奨することで,従業員を惹き付け,雇用を継続させ,そのモチベーションを高めること を主な目的とし,上記報奨のうちストック・ユニット報酬について,報酬契約書又は報酬証書が規定する確定及び支払の条件を満たした場合に,委員会により,当該従業員(被付与者)に対して,P6株式又は支払時の1株当たりの公正価格に相当する現金が支払われる旨定め ついて,報酬契約書又は報酬証書が規定する確定及び支払の条件を満たした場合に,委員会により,当該従業員(被付与者)に対して,P6株式又は支払時の1株当たりの公正価格に相当する現金が支払われる旨定めていること(乙2ないし4),本件各報酬証書は,ストック・ユニットとは,転換日にP6株式1株を被付与者に支払う支払保証のないP6社の約束から成るものである旨定め(乙12ないし16),ストック・ユニットの転換日にP6株式が支払われることを明らかにしていること,本件各報酬プラン及び本件各報酬証書は,ストック・ユニット報酬の支払日について,転換日と異なる日とする旨の規定を設けていないこと,本件転換日に先立って,P6社人事部が各ストック・ユニット被付与者に宛てた覚書(乙6)において,転換日を株式の引渡日(DeliveryDate)と表記し,本件転換日である平成20年9月8日を「早められた引渡日」(AcceleratedDeliveryDate)と記載していること,本件各報酬証書は,ストック・ユニットの転換に基づいて引き渡された株式は,証券取引法又はP6グループの従業員取引ポリシーから生じる可能性のある制限を除き,あらゆる譲渡制限を受けない上,当該従業員が競業する活動に及んだ場合など本件各報酬証書所定の状況が認められる場合であっても,転換後においてはもはや取り消されないものとしていること(乙12ないし16),P6社人事部の上記覚書において,賞与が株式に転換されて従業員に引き渡された後の取扱いについて,「従業員にはその後の制限はありませんが,従業員取引ポリシーに従うことが求められます。」と記載されていること(乙6),本件譲渡制限は,P6グループの従業員取引ポリシーから生じる制限であるものの,P6従業員等に対する包括的な定めであって,本件各報酬プラ シーに従うことが求められます。」と記載されていること(乙6),本件譲渡制限は,P6グループの従業員取引ポリシーから生じる制限であるものの,P6従業員等に対する包括的な定めであって,本件各報酬プランに特化して定められたものではないこと,P6グループの従業員取引ポリシーには,本件譲渡制限のほか,P6有価証券の保有期間に関する定めとして,アクセス・パーソ ンでない従業員につき最低30日間,アクセス・パーソンである従業員につき6か月間を保有する義務がある期間として定めていること(乙8)等の事実が認められる。 以上によると,控訴人らが取得した本件各P6株式に関するP6社の株式報奨報酬制度の定めによると,ストック・ユニット報酬については,本件転換日をもって同報酬の支払日とし,同日をもって本件各P6株式の控訴人らストック・ユニットの付与を受けた者に対する引渡日としていると解するのが相当であり,控訴人らは,同日以降,P6株式の引渡しを求めることができるものといえる。したがって,控訴人らは,本件転換日をもって本件各P6株式に係る権利を取得したと認められるから,同日における本件各P6株式の市場価格をもって,所得税法36条1項にいう「収入すべき金額(その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)」と認めるのが相当である。 なお,本件確認書(乙7)が,本件各P6株式の各被付与者の証券口座への移管につき,転換後5営業日以内に完了する見込みである旨を記載しているが,本件確認書の作成者(人事部エグゼクティブ・コンペイセイション部門)及び作成の趣旨等に照らし,これは移管の手続についての事務手続上の連絡と解するのが相当であって,この記載をもって,収入すべき日についての判断が左右されるとは考え難い。また,本件譲渡制限は,P6グループの従業員 旨等に照らし,これは移管の手続についての事務手続上の連絡と解するのが相当であって,この記載をもって,収入すべき日についての判断が左右されるとは考え難い。また,本件譲渡制限は,P6グループの従業員取引ポリシーによるものであって,控訴人らは,P6グループの従業員として上記従業員取引ポリシーに従うことが求められているものの,これにより本件各P6株式の譲渡が法的に不可能になるものではないことからしても,本件譲渡制限の存在が本件転換日をもって本件各P6株式に係る権利を取得した日と解することを否定する根拠となるとはいえない。また,本件譲渡制限のほか,P6グループの従業員取引ポリシーによるならば,アクセス・パーソンでない従業員の場合には最低30日間,アクセス・パーソン である従業員の場合には6か月間,それぞれ保有する義務があることから,本件各P6株式を譲渡できないことになるのであり,本件制限解除日をもって譲渡可能となると解するべき根拠に乏しい。 以上によると,本件各P6株式の取得日は本件転換日であり,本件転換日(平成20年9月8日)をもって,本件各株式報酬に係る給与等の収入すべき日と解するのが相当である。 (3) よって,控訴人らの前記(1)の主張は採用できない。 4 以上のとおりであるから,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は正当であって,本件各控訴はいずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官杉原則彦 裁判官山口均 裁判官渡邉和義 裁判官 山口 均 裁判官 渡邉 和義
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