平成8(ワ)199 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成13年11月30日 広島地方裁判所 呉支部
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判決文本文18,448 文字)

主文 1 被告は,原告Aに対し280万円及びこれに対する平成8年9月8日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告Aのその余の請求及び原告Bの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告Aと被告との間に生じたものは9分し,その1を被告の負担とし,その余を同原告の負担とし,原告Bと被告との間に生じたものは全部同原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は, 1 原告A(以下,原告は名のみで表示。)に対し2640万円 2 同Bに対し330万円及びこれらに対する平成8年4月8日から各完済まで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告経営の病院に入院中死亡した患者の遺族等が,医療措置に過誤があったとして債務不履行・不法行為(原告A),不法行為(原告B)を理由に損害賠償請求をする事案である(付加金は患者死亡の日からの遅延損害金。)。訴訟継続中に元原告のCが死亡した。 1 事実経過の概略(争いのない事実及び付記の証拠により認定した事実。) 1 被告は,呉市jk丁目l番m号において中国労災病院(以下「被告病院」という。)を開設し経営している。E医師及びF医師(以下「E医師,F医師」といい,特定の必要のないときは「被告医師」ともいう。)は,いずれも同病院に勤務する医師である。 G(以下「G」と表記。)は,昭和59年6月に脳梗塞で被告病院に入院して以来,平均月1回同病院で外来診療を受けていたが,同病院に入院中の平成8年4月8日に死亡した。 Gの相続人は,妻C(承継前原告),原告A(長女)及び長男Hであった(甲1)が,Hは,本件相続分(Gの慰謝料請求権)を原告Aに譲渡した(弁論の全趣旨)。承継前Cは,平成10年2月17日 た。 Gの相続人は,妻C(承継前原告),原告A(長女)及び長男Hであった(甲1)が,Hは,本件相続分(Gの慰謝料請求権)を原告Aに譲渡した(弁論の全趣旨)。承継前Cは,平成10年2月17日死亡した。同人の相続分(Gの慰謝料請求権)についても遺産分割協議の結果原告Aが相続することとなった(甲20の1から3)。原告Bは,原告Aの夫である(原告B本人)。 2 Gは,平成8年3月18日(以下同月)予約していた定期の外来を受診し,心窩部痛を訴えた。 Gの訴えによると,この痛みは14日ころからのものであったが,食欲不振・嘔気・下痢・黒色便等はなく,排便は毎日あった。 E医師は,この痛みの原因として胃の疾患を疑い,Gの胃内視鏡(胃カメラ)検査施行が7~8年前であったため,まず,同検査から始めることとした(乙1,3)。そこで,22日の同検査予約がされ,Gと被告との間で胃の疾患等の診断,治療を内容とする診療契約が結ばれた。 3 F医師が22日に胃の内視鏡検査を実施し,胃壁から生検(鉗子で組織の一部を採取すること。)したところ,同部から出血し(以下,「本件生検出血」という。),吐血するほどであったため,Gは入院措置となった。F医師は,原告らに対し再出血もあり得ること,胃の硬性癌の可能性があることなどを告げた。この生検結果は後日に判明したが,悪性所見はなかった。 4 入院後3日間絶飲食とされ,23,24日とGの状態は比較的落ち着いていた。25日に二回目の内視鏡検査がF医師により施行された。新たな出血は認められず,生検は行われなかった。(乙1,3)26日午前7時15分(1回目)と午前8時30分(2回目)に吐血(胃の上記部位からの再出血)があり濃厚赤血球が輸血された。28日に37度台の微熱があった。 27日に三 。(乙1,3)26日午前7時15分(1回目)と午前8時30分(2回目)に吐血(胃の上記部位からの再出血)があり濃厚赤血球が輸血された。28日に37度台の微熱があった。 27日に三回目の内視鏡検査が施行された。胃体皺壁に本件生検出血(及び再出血)の痕跡と思われる小びらんが認められた。生検はされなかった。 (乙1,3)。 5 29日の22時,心窩部痛(胃痛)・悪寒戦慄・不穏傾向が出現した。腹部エコー検査・CT・X線検査が施行され腹水の存在と肝臓内に腫瘤影(乙1,3,証人E)が認められた。同日,Gに対し抗生剤のチエナムを投与することとなった(投与開始は日が替わって30日になっていたようである。 乙1〔P18,39〕,証人E。なお,被告は,死亡時まで同剤の投与があったとする〔第二準備書面P10〕。)。 30日午前2時からF医師の病状説明(腹膜炎の発症可能性等)があったが,原告らは,できるだけ内科的な治療を施すよう希望した。同日午後,E医師から原告らに対し「消化器から転移した肝臓癌が疑われる。」等の説明がされた。 6 4月2日(以下同月)からGに高熱がみられた。白血球増多,CRPの著名上昇などの炎症所見から,抗生物質ビブラマイシン100㎎が1日あたり2回投与されることとなった(死亡時まで継続)。E医師から,肝の多発性腫瘤あるいは膿瘍が疑われ,いずれにしても予後は悪い旨の説明がされた。 3日から5日と発熱や下痢が続き,全身衰弱が進行した。5日に腹部エコー検査及び経皮的ドレナージ(PTCD)が施行された。ドレナージに併せ肝左葉からの生検がされた。E医師は,原告Bらに対し,肝腫瘍の可能性が高いと告げた。(乙1,3,証人E)以後,Gの全身状態,呼吸状態は徐々に悪化し,8日午前11時42分死亡した。死亡診断書(甲2) らの生検がされた。E医師は,原告Bらに対し,肝腫瘍の可能性が高いと告げた。(乙1,3,証人E)以後,Gの全身状態,呼吸状態は徐々に悪化し,8日午前11時42分死亡した。死亡診断書(甲2)には多発性肝腫瘍が直接死因であると記載されている。同診断書にはGにつき解剖がされたとあるが,その事実はなかった。 第3 争点 1 Gの死因は何か。 (原告らの主張) 1 Gの死の経過は,腹膜炎が進行して敗血症をもたらし,その結果多臓器不全に陥ったというものである。 被告は,この腹膜炎が癌性のもので肝臓癌が急激に悪化して上記経過を辿ったと主張している。しかし,腹膜炎の原因は感染症にあり,その進展によって死の結果を招いたとみるべきである。 すなわち,Gの肝臓は約3分の1程度が癌に侵されていただけであり,肝機能検査の結果(ビリルビン,GOT,GPT)も死亡直前まで正常範囲内の数値であって,有効に機能していたと考えられる。一方,細菌感染症に関する検査数値(白血球,NYUT,CPR)は,正常値を大きく超えていた。これらから考えると,Gの腹膜炎は感染症によるとみるべきである。 2 Gの死因は,あるいは抗生剤の副作用による偽膜性大腸炎である。すなわちGに投与された抗生剤「チエナム(イミペナム・シラスタチン)」により腸内に菌交代現象が生じて偽膜性大腸炎が発症し,これが悪化して腎・肝機能の低下,播種性血管内凝固症候群などの合併症となり死に至った。 (被告の主張)Gの死因は,癌による免疫不全,悪液質等を含む全身的な癌死である。Gは76歳と高齢で高血圧症と脳梗塞既往(過去3度)もあり,癌への影響も大きい。また,転移性肝癌の発育速度は指数関数的であり,末期状態では日単位で急速に転移癌は大きくなるのである。原告らは,炎症所見がある 6歳と高齢で高血圧症と脳梗塞既往(過去3度)もあり,癌への影響も大きい。また,転移性肝癌の発育速度は指数関数的であり,末期状態では日単位で急速に転移癌は大きくなるのである。原告らは,炎症所見があることを強調するが,癌自体が炎症を伴うこともあるのであり,炎症所見数値が高くても矛盾しない。 2 Gに対する医療措置に過誤があったか。 1 内視鏡(胃カメラ)検査について(原告らの主張)(1) Gは,高齢である上,飲酒歴もあり,平成元年には肝障害及び肝腫瘤が見られ,同5年には肝機能検査の数値も上昇していて腹部超音波検査で肝疾患の病変も認められていた。こうした状況下において,被告が胃の硬性癌を疑ったのであれば,穿孔の恐れもある内視鏡検査ではなく,侵襲が少ないバリウムによる造影検査か腹部超音波検査の方法を選択すべきであった。 しかるに,被告は,内視鏡検査を選択し生検まで行ったため,大量の本件生検出血を招き肝臓癌の発見の遅れを生じさせた。 (2) Gは,昭和59年に脳梗塞に罹患して被告病院で治療を受け,同年10月からは抗血小板剤(パナルジン)1日2錠の継続投与を受けていた。同剤は,血小板の凝集や粘着機能を抑制する効能があるから,その常用者に対する胃の内視鏡検査において生検を行い内部組織に損傷を与えると,薬効から,出血がひどくなったり止血が困難になる恐れがある。したがって,内視鏡検査を予約した平成8年3月(以下同月)18日から検査当日の22日まではパナルジンの投与を中止すべきであったし,そうでなければ,生検の必要を感じた時点で検査を切り上げ,同剤の投与を中止した後にあらためて生検を行うべきであった。 しかるに,被告病院内の連携の悪さから,F医師は,Gがパナルジンの常用者であることを知らずに生検を行い本件生検出 検査を切り上げ,同剤の投与を中止した後にあらためて生検を行うべきであった。 しかるに,被告病院内の連携の悪さから,F医師は,Gがパナルジンの常用者であることを知らずに生検を行い本件生検出血を招いてしまった。 (3) 内視鏡を操作する場合,被験者の検査臓器を損傷しないように注意すべきであるのに,F医師は,二回の胃内視鏡検査(22日,26日)に際し,機器の操作ミスによりGの胃粘膜を損傷した。当該部位には特に異状があったのではなかったから組織を採取する必要はなかった上,同医師は,胃の外側から浸潤してくる癌(スキルス胃癌)を疑い,胃の膨らみが悪いのに無理に深い組織を採取している。この際の出血量(1000ml)からすると胃に穿孔が生じた可能性があり,29日には結小腸内にガスが堆積しサブイレウス(腸閉塞)の症状を呈した。これらがGに腹膜炎を生じさせる結果となった。 (4) 本件生検出血は,患部も原因も明確なのであるから,被告医師が講じたような保存的な方法ではなく,内視鏡を利用して患部に局所注射を射つなり,熱で凝固するなり,クリップで出血部を綴じるなりの方途を採るべきであった。こうすれば再出血の可能性は大幅に減少していたはずである。 しかるに,被告医師は,止血剤の投与などの保存的な方法のみにより止血させた。これによっては止血が完全でなかったため26日の再出血を生じた。1回目の出血(本件生検出血)の際に内視鏡を利用した止血ができなかったとしても,2回目の出血時にはこれを実施すべきであった。この手技選択の誤りにより,その後の出血が止まらず急性の腹膜炎を生じさせた。 (5) 胃生検による出血後は安静にさせ病状管理を行うべきであるのに,被告医師らから安静指示がなかった(かえって,自らリハビリをするよう指導された。)ため,Gは, 急性の腹膜炎を生じさせた。 (5) 胃生検による出血後は安静にさせ病状管理を行うべきであるのに,被告医師らから安静指示がなかった(かえって,自らリハビリをするよう指導された。)ため,Gは,体力を維持しようと歩行訓練をするなどして体調を崩し,26日の再出血を招いてしまった。 (被告の主張)(1) Gの心窩部痛は,食事とは無関係で食欲不振・嘔気・下痢・黒色便等はないとのことであった。E医師は,痛みの原因として,胃・十二指腸潰瘍などの上部消化管病変を考え,まず,内視鏡検査から始めることとした。 被告病院では年間3500例前後の内視鏡検査を行っており,通常の検査である。75歳以上の者についても実施している。E医師は,Gの状態から内視鏡検査に問題がないと判断して実施を決めたものであり,F医師もカルテで適応を確認している。なお,内視鏡検査は胃癌だけを考えて行ったわけではなく,胃潰瘍や胃炎等を見つけるためでもあった。超音波検査はあり得る一方法にすぎず,これを先行すべきであったとはいえない。 生検は,胃体中部から上部大弯にかけての皺襞が腫大していたこと,内視鏡からの送気による胃壁の膨らみが悪かったことから胃癌(硬性癌)を疑って実施した(結果は胃炎。)もので,必要かつ相当な措置であった。 最近は胃炎様に見えるだけの部位からも微小胃癌を診断する時代であり,少しの疑いでもあれば生検を行っている。 (2) パナルジンの使用説明書(能書〔乙21〕)には,内視鏡検査に先立って使用を中止すべき旨の記載はなく,医療水準として同剤の使用中止は要求されていない。中止しなかった理由は,脳梗塞再発の危険性が存したからである。現在でも同様の例で中止の措置を採ってはいない。なお,F医師は,Gにパナルジンが投与されていることを認識した上で内視鏡検査を されていない。中止しなかった理由は,脳梗塞再発の危険性が存したからである。現在でも同様の例で中止の措置を採ってはいない。なお,F医師は,Gにパナルジンが投与されていることを認識した上で内視鏡検査を施行している。 (3) F医師は,血管腫・潰瘍・静脈瘤等出血を誘発すると考えられる所見がないことを確認して本件生検を行っている。同医師が無理に深い組織を採取すべき必要はなく,その事実もない。そもそも血管の損する粘膜下層以下の組織を生検鉗子で取ろうとしても,特に胃の場合は極めて困難である。同医師の手技にミスはなく,偶発的で不可避な出血であった。なお,胃に穿孔が生じた事実はなく,イレウスも考えられない。 (4) 本件生検出血は保存的な止血法のみで止血できている。25日の内視鏡検査(2回目)では胃内に出血はなく,生検も施行していない。27日の内視鏡検査(3回目)において,生検後のびらんからの出血や露出血管もなかったため,内視鏡的止血法は必要がないと判断した。内視鏡的止血法は一種の手術であるために出血を伴う危険があり,一旦止血できた場合には臨床的に保存的治療を選択するものである。また,止血できていても自然に再出血することは時にあることであり,26日の再出血は,この自然再出血と考えられる。 (5) 内視鏡検査後,被告医師がGに自らリハビリをするよう促したことなどなく,自用薬の無断服用禁止や安静を指示していた。 2 感染症(腹膜炎)の発症防止及び原因究明義務について(原告らの主張)(1) Gの腹膜炎は,いかなる原因にせよ被告病院に入院中発症したものであり,腹膜炎を生じさせたこと自体に被告の管理(契約)責任がある。 (2) 血液検査結果からすれば,22日にはGに細菌感染を疑わせる兆候があった。また,27日からの発熱と下血 院中発症したものであり,腹膜炎を生じさせたこと自体に被告の管理(契約)責任がある。 (2) 血液検査結果からすれば,22日にはGに細菌感染を疑わせる兆候があった。また,27日からの発熱と下血は,明らかに細菌性の腹膜炎症が存在することを示していた。28日には腹水の穿刺吸引をしているのであるから細菌培養をすべきであったし,動脈血の培養検査も検討すべきであった。同時点での検査が困難であったとしても,被告医師は,その後も数回にわたる採血や肝生検まで行ったのであるから,遅くとも4月3日までに血液や便培養及び細菌培養による細胞診をすべきであった。しかるに,F医師らは,3月29日にはGに腹膜炎の症状が出ていることを認識し,敗血症のおそれも予測しながら,病原細菌特定のための培養検査など感染症対策をなんら講じず増悪させて敗血症に至らせ死の結果を招いた。 (被告の主張)(1) 原告らは,腹膜炎を発症させたこと自体を被告の過誤と主張するが,診療債務の内容の特定及び注意義務違反に対する具体的事実の主張,立証を欠く不当な立論である。 (2) Gの容態が3月29日午後10時に急変するまで,進行性の炎症は認められなかった(消化管出血自体により白血球増加は見られるし,癌に伴う炎症反応もあり,輸血により一過性の発熱をもたらすこともある。)。翌30日からは感染症に対し広範囲に効くチエナムを投与し,4月2日からはビブラマイシンを追加投与しており,感染症対策は尽くしている。抗生物質の投与に原因菌の特定が不可欠ということはない。原因菌の特定ができないこともあるし,検査結果が出るまでに炎症がが進行してしまう以上,抗生物質の投与が必要であるからである。なお,少量しか腹水がない状況下で無理に採取するのは危険であった。 3 偽膜性大腸炎に対する処置について し,検査結果が出るまでに炎症がが進行してしまう以上,抗生物質の投与が必要であるからである。なお,少量しか腹水がない状況下で無理に採取するのは危険であった。 3 偽膜性大腸炎に対する処置について(原告らの主張)(1) チエナムには偽膜性大腸炎を招く副作用があった。また,4月(以下同月)1日からGに追加投与された抗生剤「ビブラマイシン(ドキシサイクリン)」には下痢の副作用があり,これも相乗して同大腸炎を助長させた。 広域性抗生剤を投与すると3日から10日後に偽膜性大腸炎の病変が発生するとされるところ,2日以降Gに継続した下痢と発熱は,この抗生剤投与による同炎の発症と見られる。 (2) E医師は,遅くとも4日の時点では,この偽膜性大腸炎の存在に気づき,これら抗生剤の投与を中止して糞便及び動脈血の培養を行い,下痢の原因菌を特定して感受性の強い抗生剤(バイコマイシン)を投与すべきであった。 しかるに,同医師は,2日以降の下痢,発熱等を重要視せず,病態の変化を転移性肝癌の急激な進展によるものと解釈したため,前記抗生剤の投与を継続し,偽膜性大腸炎の悪化を招いてしまった。 (被告の主張)(1) 文献上,偽膜性大腸炎は,抗生物質投与後10~20日で症状が発現し比較的緩徐に発症することが特徴であるとされる。ところが,本症例ではチエナム投与後4日目に突然発症しており,明らかに異なった病態をとっている。4月2日の下痢は,その前日に内服した下剤(検査の前処置)の影響やビブラマイシンの作用も考えられる。 (2) この経過からすると,Gに偽膜性大腸炎が発症していたとはいえず,仮に発症していたとしても,文献上の情報からは偽膜性大腸炎と診断することは不可能であって,担当医師の処置は医療水準にもとるものではなかっ の経過からすると,Gに偽膜性大腸炎が発症していたとはいえず,仮に発症していたとしても,文献上の情報からは偽膜性大腸炎と診断することは不可能であって,担当医師の処置は医療水準にもとるものではなかった。バイコマイシンには肝機能を悪化させる副作用などがあり,投与は必ずしも最善ではない。 4 無用な治療により死期を早めたといえるか。 (原告らの主張)前記のとおり,Gの死因は,癌の転移による多臓器不全ではなく,偽膜性大腸炎の悪化による合併症である。 Gは,2日以降,下痢,発熱等に加え瀕脈・瀕呼吸もあって全身状態が悪化していた。このような容体下で5日に行われた肝ドレナージは,偽膜性大腸炎の治療には無用のものであり,Gに無用の苦しみを与え,体力低下をもたらして死期を早める結果となった。 (被告の主張)肝ドレナージは,CT画像等で認められた肝腫瘤の鑑別及び治療を意図して行った有用な処置であった(偽膜性大腸炎については上記3の②。)。 3 Gの症状に関する説明義務,死因の究明について(原告らの主張)被告医師は,Gの症状につき,「胃の硬性癌」(3月22日),「肝臓の炎症」(同月29日),「肝臓癌」(同月30日),「肝臓の炎症」(4月1日)と説明を変転させ,解剖もせずに死因を究明しなかった。これは,Gに対する関係では債務不履行,原告らに対する関係では不法行為である。 (被告の主張)被告医師は,胃癌の疑いがあるので生検を行ったと説明した(3月22日)が,組織検査の結果,それが否定されたのでその旨告げ(同月30日),肝の病変については考えられる疾患を告げたのであって説明を変転させたのではない。 死因については,肝臓ドレナージにより転移性肝癌との診断がされており,解明義務は果たしている。なお, 日),肝の病変については考えられる疾患を告げたのであって説明を変転させたのではない。 死因については,肝臓ドレナージにより転移性肝癌との診断がされており,解明義務は果たしている。なお,遺族から解剖の希望はなかった。 4 損害(原告らの主張) 1 Gは,被告病院で内視鏡検査を受けるまでは特別に治療を要する症状がなかったのであり,癌に罹患していたとしても,被告の医療過誤がなければ延命できた可能性は十分にあった。入院中の無用で苦痛な治療を受けさせられたこと,入院後20日にも満たずに不慮の死を迎えたこと,病状の説明を十分に受けなかった(死因の究明もされていない)ことによりGが受けた精神的打撃は甚大であり,同人の慰謝料として2400万円が相当である。(なお,Gの死が肝臓癌の転移拡大によるものとしても,それに至るまでの被告の医療過誤による精神的肉体的苦痛は500万円を下らない慰謝に値する。)。 Gの症状に関する説明及び死因の究明義務がGに対する関係で債務不履行とならないとすれば,原告Aに対する不法行為であり,その場合の同原告に生じた慰謝料請求権をGの上記請求権(説明義務等違反に相当する額を除いたもの)と併せると2400万円となる。 2 原告Bは,義父にあたるGと長年同居して親子同様に生活してきたものであり,Gの死により実の父親を失った以上の精神的苦痛を被った。また,被告病院の病状説明が二転三転したため,看病に振り回され,Gと十分に話もできなかった悲しみも深い。被告病院は,解剖も行わず死因についての説明もしておらず,遺族に対する義務を果たしていない。これらを総合した原告Bの固有の慰謝料としては300万円が相当である。 3 弁護士費用として,原告A分240万円,同B分30万円が相当である。 5 証拠の関係は,記録 対する義務を果たしていない。これらを総合した原告Bの固有の慰謝料としては300万円が相当である。 3 弁護士費用として,原告A分240万円,同B分30万円が相当である。 5 証拠の関係は,記録中の書証・証人等目録の記載を引用する。 第4 争点に対する判断 1 Gの死因について 1 被告は,経皮経肝ドレナージ(4月5日実施)の際に採取していたGの肝組織の病理組織学的検査結果から,同月10日,線癌と診断した(転移性か原発性かの鑑別は困難としている。乙1〔入院診療録P59〕,20。)。 鑑定人Iの鑑定結果(以下「I鑑定」ともいう。)も,入院中に実施されたUS(腹部超音波)及びCT(コンピューター画像)検査,腫瘍マーカーの検索結果等からGに発育速度の相当急速な肝癌があった(転移性か原発性かの判断は同様に留保。)としており,Gには進行性の肝癌(線癌)があったものと認められる。 2 被告は,Gの死因を,この肝癌の悪化による免疫不全,悪液質等を含む全身的な癌死と主張する。 一方,I鑑定は,4月1日時点で癌病巣の臓器に占める範囲は5割以下であって肝機能(検査数値は乙1〔P95〕。)は十分に保たれていたこと,同月5日以降の肝機能障害の進行には,アシドーシス(酸性血症),腎・肺機能障害,DIC(播種性血管内凝固症候群)の併発が関わっているとみられることから考えて,この肝機能障害は肝癌(転移性あるいは原発性)のみに起因するのではなく多臓器不全の1つの表れとみるべきであるとし,Gの死因は,肝癌のみの急激な進展による肝不全ではないと結論している。 証拠(乙3,5,12,証人E)によると,転移性肝癌の末期には症状が指数関数的に悪化することがあると認められるが,Gの場合,剖検もされておらず,肝癌の急激な進展が直接に死の結果をもたらしたと認 証拠(乙3,5,12,証人E)によると,転移性肝癌の末期には症状が指数関数的に悪化することがあると認められるが,Gの場合,剖検もされておらず,肝癌の急激な進展が直接に死の結果をもたらしたと認めるに足りる証拠はない(なお,以下,3,4項で説示する。)。 3 3月29日に認められた心窩部の筋性防御(デファンス)及びブルンベルグ徴候(反跳圧痛。いずれも疑陽性〔軽度〕。),白血球数,CRP(C反応性蛋白検査)の上昇(乙1〔P11〕,3)は,急性続発性細菌性腹膜炎を疑わせる徴候であり,翌30日(前記事実経過の概略の5)から投与された抗生剤チエナム(広範囲の細菌に効果〔乙19〕。)によりGの症状(心窩部痛,悪寒戦慄,発熱)が小康を得ていることからすると,その頃,Gは,細菌性腹膜炎を発症していたものと判断される(甲8,乙1,鑑定)。 また,末期癌においては,悪性腫瘍が血行性,リンパ行性の経路で腹膜に散布され広がって癌性腹膜炎を引き起こすことがあり,Gの場合,癌症状が進行していたと見られることからして,この癌性腹膜炎を併発していたことは否定できない(乙3,18,証人E,鑑定)。 4 そこで,この腹膜炎(細菌性及び癌性)がGの死の直接原因となったといえるかであるが,I鑑定はこれを否定している。すなわち,同鑑定は,炎症反応を示す検査数値こそ高かったものの,3月30日(鑑定では29日投与開始とされるが,前記のとおり,同日投与方針決定,翌30日早々の投与開始のようである。)からの抗生剤(チエナム)の投与により,Gの脈拍,体温及び尿量が4月1日(以下同月。)までは安定していて(乙1〔P136~139,171~176〕),細菌性腹膜炎の急変は考え難いこと,癌性腹膜炎についても,これが急激に進展し悪液質を呈した事実は裏付けられないことなどから 下同月。)までは安定していて(乙1〔P136~139,171~176〕),細菌性腹膜炎の急変は考え難いこと,癌性腹膜炎についても,これが急激に進展し悪液質を呈した事実は裏付けられないことなどから,この腹膜炎が死の直接原因となったことを否定するのである。 5 そして,I鑑定は,Gの急速な症状の悪化と死の原因は次のように説明できるとする。すなわち,広域スペクトラムを有する抗生剤チエナムの使用(乙1〔P39〕では明確でないが,被告は,死亡時まで投与したとしている(前記事実関係の概略5。)により細菌性腹膜炎は軽快したが,一方で腸内細菌叢に菌交代現象が起こり,その結果,2日には薬剤性腸炎特に偽膜性大腸炎またはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌による腸炎が生じ,これが見逃された上,抗生剤のビブラマイシンが追加投与された(前記同6)ため,さらに重篤な病態となり急激な死への経過をたどったとする。 偽膜性大腸炎は,抗生物質投与を起因とする代表的な疾患であり,抗生物質の投与で腸内細菌の菌交代現象が生じ,グラム陽性桿菌(C.difficile)が異常増殖して大腸粘膜を傷害することで発症する。高齢者に多く,下痢,腹痛,発熱が見られるが血便を見ることは少ない。抗生物質投与の量,期間,方法に明らかな相関は見られないが,10日~2週間続けた場合に多く,投与期間中に半数が発症する。治療は,抗生物質投与の中止と原因菌の除去のためのバンコマイシンの投与である。(乙25)被告は,偽膜性大腸炎は抗生物質投与後10日以上して発症するものであるところ,Gの場合,チエナム投与後4日目に発症しているとして,この病変に該当しないと主張する。しかしながら,上記成書(乙25)は,抗生物質投与の量や期間と発症の間には明らかな相関は見られないとしているのであり,Gの症例がこ 投与後4日目に発症しているとして,この病変に該当しないと主張する。しかしながら,上記成書(乙25)は,抗生物質投与の量や期間と発症の間には明らかな相関は見られないとしているのであり,Gの症例がこれに矛盾するとはいえない。また,I鑑定は,広域性抗生剤投与後,一般的には3日から10日後に発症するとしており,本件が特異な症例とみることはできない。 6 以上認定の偽膜性大腸炎発症の機序に,Gの症状の経過,すなわち,1日の大腸内視鏡検査では炎症所見は認められなかったが,2日から下痢,腹痛,発熱が見られるようになり,解熱剤の投与により熱は抑えられたものの下痢は死亡まで続いていること,同日以降もチエナムと併せてビブラマイシンの投与が続けられたこと,5日の検査では炎症反応が高値を示していること(乙1,鑑定)を総合すると,鑑定人が指摘するように,Gは,2日に偽膜性大腸炎を発症し,これが重篤化して急激な死への経過をたどったと認めるのが相当である。なお,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌による腸炎の発生も否定できないと思われるが,原因菌の培養はされておらず,確定はできない。 2 Gに対する医療措置の過誤の有無 1 胃の内視鏡検査について(1) 原告らは,高齢で肝疾患もあったGに対し穿孔のおそれもある内視鏡検査をしたこと自体が過失であると主張し,生検の必要性も問題にする。 しかし,胃の内視鏡検査は,疾患が疑われる被験者に対し日常診療で一般的になされる検査方法であり,熟達した医師が通常の注意の下に施行する限り特に危険なものではない。F医師の内視鏡検査の経験に不足はなく,Gの心窩部痛の訴えに対し上部消化管の疾患を疑って内視鏡検査を施行したことは,Gの年齢や肝疾患等の治療歴を考えても不当であったとはいえない。(甲3,4,証人E,同F,鑑定) 査の経験に不足はなく,Gの心窩部痛の訴えに対し上部消化管の疾患を疑って内視鏡検査を施行したことは,Gの年齢や肝疾患等の治療歴を考えても不当であったとはいえない。(甲3,4,証人E,同F,鑑定)また,内視鏡検査の際認められた胃の状態(胃角の小びらん,胃壁の伸展不良,胃体部大弯の皺襞腫大)からすれば,硬性癌を疑い同部の生検を行ったことが一般的な日常診療方法として妥当を欠くとは評価できない。 (乙4の1,証人E,同F,鑑定)(2) 次に,原告らは,抗血小板剤(パナルジン)の継続的投与を受けていて(この事実は被告も認めており,昭和59年10月以来脳梗塞の発症を防ぐために1日2錠投与していたとする。)出血しやすい状態にあったGに対しては,同剤の投与中止後に生検すべきであった上,F医師は,機器の操作ミスにより胃粘膜を損傷したと主張する。 イ胃壁の構造は,内腔面から,粘膜,粘膜筋板,粘膜下層,固有筋層,漿膜下層,漿膜と連なっている。血管が多いのは粘膜下層である。生検の場合,一般的には粘膜筋板までの場合が多い。生検には必ず出血を伴うが,通常はごくわずかで自然に止血する。本件生検の際の内視鏡の所見では,静脈瘤,露出血管,血管腫など出血の恐れのある胃壁の病変は認められなかった。本件生検出血は胃管からの局所止血剤の注入により止血した。出血量は750ml程度(1000mlの出血があったとの記載〔乙1のP140,146〕は,胃液等の分泌物を含む数字と推認される。なお,予定の検査であったから食物残渣があったとは考えにくい。)と推定される。(甲4,乙1,4の1,証人E,同F,鑑定)。 ロ抗血小板剤パナルジン(塩酸チクロビジン製剤)は,虚血性脳血管障害等に伴う血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善に用いられる薬剤である。血液凝 甲4,乙1,4の1,証人E,同F,鑑定)。 ロ抗血小板剤パナルジン(塩酸チクロビジン製剤)は,虚血性脳血管障害等に伴う血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善に用いられる薬剤である。血液凝固因子の働きを抑制するため,出血している患者には禁忌とされ,出血傾向(素因)のある患者,高齢者(造血機能等の低下がある。)等への投与も慎重にすべきであるとされている。また,手術の場合には,出血を増強するおそれがあるので,10~14日前に投与を中止することと注意されている。(乙21〔能書〕)以上からすると,本件生検出血が吐血を伴うほどに多量となったのは,パナルジンの継続的服用により出血傾向(素因)のあったGに対し,粘膜筋板(前記のとおり,生検は,一般的には同層までの場合が多いとされる。)を超えて,より密な血管走行がある粘膜下層の組織を採取したために生じたものと推認される。 生検は,少量にせよ出血を伴うものであり,パナルジンが出血を増強するおそれがあることからすれば,内視鏡検査を担当したF医師(同人がGの同剤服用を知っていたことは被告も認めている。)としては,生検の必要を認めても,検査を中断してパナルジンの服用中止を待つか,可能であれば血管に届かない粘膜筋板の浅い組織までの採取にとどめるべきであったということができる。 したがって,F医師の医療処置には,この点において過誤があったと認めるのが相当である。 被告は,脳梗塞再発の危険が存したからパナルジンの投与は中止できなかったと反論するが,同剤の投与が再発予防の唯一の手段であったことを示す証拠はなく,再発の危険性がどの程度のものであったか,Gに危惧すべき徴候があったかについても不明であるから採用できない。また,被告は,内視鏡検査の際に出血することはごく稀で, 手段であったことを示す証拠はなく,再発の危険性がどの程度のものであったか,Gに危惧すべき徴候があったかについても不明であるから採用できない。また,被告は,内視鏡検査の際に出血することはごく稀で,偶発症というべきであるから過誤はないとも主張するが,Gの場合のような条件下での当否を判断すべきであり,理由がない。 (3) 原告らは,止血方法についても過誤があり,出血後の病状管理も適切を欠いたと主張する。 I鑑定は,本件生検出血に対し内視鏡的止血法を試みてもよかったのではないかとしているが,F医師らの執った手法が誤りであったとする趣旨には解されず,同止血法は一種の手術であるため出血を伴う危険がある(弁論の全趣旨。パナルジンの服用下では,なおのこと危険があったわけである。)ことからすれば,同医師らが内視鏡的止血法を選択しなかったことをもって過誤ということはできない。出血後の安静指示等については,原告らの主張に沿うような証拠(甲15,原告B)もあるが,カルテ(乙1〔P153等〕)記載に照らし,直ちに措信できない。 (4) 前記(2)の過誤とGの死との間の因果関係について考える。 Gの死は,細菌性腹膜炎の治療として投与されたチエナムにより腸内細菌叢に菌交代現象が起こり,その結果発症した偽膜性大腸炎が悪化して重篤な病態となり死の転帰をとったものである(前記1)。この細菌性腹膜炎の発症について,I鑑定は,本件生検出血そのものが細菌性腹膜炎の原因となったことは否定している。しかし,同鑑定によれば,もともと進行性肝癌のために全身的免疫力が低下していたところに,本件生検出血(含む再出血。)とそれに対する処置の影響(一時的なショック状態,多量〔1800㏄〕の輸血,抗潰瘍剤の投与による胃内PHの上昇)のため腸管内細菌の活動が活 免疫力が低下していたところに,本件生検出血(含む再出血。)とそれに対する処置の影響(一時的なショック状態,多量〔1800㏄〕の輸血,抗潰瘍剤の投与による胃内PHの上昇)のため腸管内細菌の活動が活性化して細菌性腹膜炎が発症したと認められる。そして,この細菌性腹膜炎治療のために投与された抗生剤が結果的に偽膜性大腸炎を発症させたのであるから,前記②の過誤とGの死との間には相当因果関係があるとみるべきである。 2 感染症(腹膜炎)の発症とこれに対する医療措置について(1) Gが3月29日には細菌性腹膜炎を発症していたとみるべきことは前記1の3のとおりである。 原告らは,入院中に同疾病を発症させたこと自体が被告の過誤(過失)であると主張するが,この主張だけでは被告の具体的な過誤や過失の内容が特定されているとはいえず,失当である。 (2) 原告らは,被告が細菌性腹膜炎の原因菌の確定及びそれに対応した治療を怠ったと主張する。 しかしながら,前記1の4のとおり,Gの細菌性腹膜炎は,抗生剤チエナムの効果により快方に向かい症状が安定していたのであり,これがGの死の直接原因となったとは認め難いところである。そうすると,細菌培養等により原因菌を確定しなかったこと(被告も争わない。)とGの死との間に相当因果関係があると認めるのは困難である。また,細菌性腹膜炎に対する治療に過誤があったとも認めることはできない。 3 偽膜性大腸炎に対する処置について被告は,文献上の情報からは偽膜性大腸炎と診断することは不可能であったとして,被告医師の処置は医療水準にもとるものではないと主張する。 しかしながら,先に説示した(1の5)ように,Gの症例が文献資料から外れた特異なものであったとみることはできない。前記1の6の症状経過 被告医師の処置は医療水準にもとるものではないと主張する。 しかしながら,先に説示した(1の5)ように,Gの症例が文献資料から外れた特異なものであったとみることはできない。前記1の6の症状経過からすると,被告医師としては,4月3日か4日の時点では,この偽膜性大腸炎の存在を疑い,抗生剤の投与を中止し,感受性の強い抗生剤(バイコマイシン)を投与すべきであったということができる。同剤は,肝機能障害のある患者に対しては慎重投与すべきとされる(乙25)が,投与を控えるべきほどにGの肝機能が障害されていたとは認めることができない。 被告医師は,この徴候を見逃し,転移性肝癌の急激な進展による病態の悪化と判断してしまったもので,その医療処置には過誤があったというべきである。 この過誤とGの死との間に相当因果関係を認めるべきことは,以上の説示から明らかである。 4 原告らは,Gに対し4月5日に実施された肝ドレナージ(実施の事実は争いがない。)は,偽膜性大腸炎の治療には無用のものであり,体力低下をもたらして死期を早める結果となった旨主張する。 偽膜性大腸炎の治療としてこの肝ドレナージは有用ではなかったといえる(鑑定)が,それによってGの死期が早まったとの点については,カルテ(乙1)からも格別の状況は窺えず,これを認めるに足りる的確な証拠がない。 3 被告の責任について 1 以上によれば,被告にはGに対する関係で医療契約上の債務不履行があったというべきであり,被告がその責を免れるべき事由は認められない。 原告らは,被告医師が,Gの症状につき説明を変転させ,解剖もせずに死因を究明しなかったこともGに対する関係で債務不履行にあたると主張する。しかし,前者は,以上で説示した被告の債務不履行に包含される事情と は,被告医師が,Gの症状につき説明を変転させ,解剖もせずに死因を究明しなかったこともGに対する関係で債務不履行にあたると主張する。しかし,前者は,以上で説示した被告の債務不履行に包含される事情とみるべきであって,慰謝料の算定にあたって考慮することはできても,独立の債務不履行と構成すべき事実関係ではない(無用な肝ドレナージを施行したという点も同様である。)。後者は,Gの死後の事実経過であり,Gに対する関係で債務不履行を問うべき対象ではない。 2 原告Bは,被告の債務不履行(症状説明の変転,死因不究明を含む。)が自己に対する関係で不法行為にあたると主張する。しかし,本件において被告の不法行為が問題となるのはGに対する関係においてであり,原告Bに対する関係で不法行為が成立するとみるべき特別の事情はない。同原告において死因究明のためGの解剖を求めたが拒否されたというような事実はなく,被告に解剖を勧める義務があったと認めるのは困難である。 この主張は,民法711条の類推適用により慰謝料請求ができるとの趣旨にも解される。しかし,同原告に同条の類推適用を認めることはできない。 その理由は次のとおりである。 原告Bは,昭和52年に原告A(Gの子)と婚姻し同62年ころからGらと同居してきたこと,Gの本件入院から死亡まで付添看護等に努めてきたこと,Gの死亡により精神的打撃を受けていることは認められる(甲15,同原告本人,弁論の全趣旨)が,本件が医療処置上の過誤であって積極的な加害侵襲という行為類型ではないこと,同原告が経済面や精神面でGに依存していたような状況はないこと,Gには長男もおり(甲16。同人が手術の同意もしている〔乙1P34〕。),同原告がGから後事を託されていたような状況は窺えないこと,本件訴訟では妻のAがGの実子として共 ていたような状況はないこと,Gには長男もおり(甲16。同人が手術の同意もしている〔乙1P34〕。),同原告がGから後事を託されていたような状況は窺えないこと,本件訴訟では妻のAがGの実子として共同原告となって慰謝料請求をしているという事実関係からすると,同条の類推適用を認めるべき場合にはあたらないと解すべきである。 よって,その余の判断をするまでもなく,原告Bの請求は理由がない。 3 原告Aは,被告医師が,Gの症状につき説明を変転させ,解剖もせずに死因を究明しなかったことが自己に対する関係で不法行為にあたると主張する。しかし,上記2と同じ理由で,その主張を認めることはできない。 4 損害額について 1 Gの急激な死が偽膜性大腸炎の悪化によるものであることは前記認定のとおりである。これがなければ,4月7日の死の転帰を招くことはなかったものと推認される。(鑑定)しかしながら,Gには一方で進行性の肝癌があり,I鑑定によれば,発育速度の相当急速な病変であったことが認められる。末期癌が指数関数的に進行し生命を脅かすことは,同鑑定及び成書(乙6,14)でも指摘されており,証拠(乙1,3,証人E,同F,鑑定)からすると,Gの場合も死の直前には肝癌が急激に進展していたものと推認される。 したがって,本件医療過誤(胃出血,薬剤性腸炎)がなかったとしても,Gの死は早晩免れなかったものと判断される。I鑑定は,この医療過誤がなく癌病巣のみの進展で死に至ったであろう期間として3~4か月間(癌性腹膜炎,癌性胸膜炎の併発があれば2か月前後)を推定している。この推論は,上記成書の記載とも格別矛盾せず,他の証拠(乙1,3,証人E,同F)とも整合するものと考えられる。そこで,以上を総合して考えると,本件医療過誤がなければ,Gは,なお3か を推定している。この推論は,上記成書の記載とも格別矛盾せず,他の証拠(乙1,3,証人E,同F)とも整合するものと考えられる。そこで,以上を総合して考えると,本件医療過誤がなければ,Gは,なお3か月程度は生存できたものと判断される。 2 したがって,Gの慰謝料算定にあたっては,まず,この延命利益の喪失を考えるべきである。次に,本件生検出血(及びこれに起因する再出血)により,Gは,少なからざる肉体的・精神的苦痛を受けたものと認められ,また,偽膜性大腸炎の診断が可能であった後に同症に有効でない肝ドレナージを施行されたことも不当な苦痛であったといえる。一方,偽膜性大腸炎の診断が可能となるまでの段階において,被告医師の病状説明が胃の硬性癌,肝癌,肝膿瘍の疑いなどと必ずしも定まらなかった点は,Gの症状や各種検査結果からしてやむを得なかったものがあると認められ(乙1,3,証人E,同F,鑑定),慰謝料算定にあたり特別に考慮すべき事情とはみなし難い。 その他,Gの年齢,その家庭環境や生活状況,被告病院における治療経過等本件に顕れた一切の事情を総合すると,Gの慰謝料(原告Aが相続)として250万円を認めるのが相当である。 本件訴訟の経過,認容額等に照らし,本件債務不履行と相当因果関係があるものとして被告に負担させるべき弁護士費用損害(同相続)は30万円を相当と認める。 3 原告Aは,G死亡の日からの遅延損害金を請求するが,債務不履行を理由とする請求であるから,被告への訴状送達の翌日である平成8年9月8日(記録上認められる。)からの分を認容すべきである。 第5 結論したがって,原告Aの請求は,280万円及びこれに対する平成8年9月8日から完済まで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告Bの請 主文 したがって,原告Aの請求は,280万円及びこれに対する平成8年9月8日から完済まで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告Bの請求は,全て理由がない。 なお,原告Aの勝訴部分につき仮執行宣言は相当と認めない。 よって,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所呉支部 裁判官廣田聰

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