昭和46(ネ)51 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
昭和48年4月11日 名古屋高等裁判所
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判決文本文3,994 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。2 控訴審における訴訟費用のうち補助参加により生じた部分は補助参加人らの負担とし、その余の部分は控訴人の負担とする。事実 (申立)控訴人は控訴の趣旨として「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金二九七万三一五七円並之に対する昭和三三年二月二六日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うこと。訴訟費用は第一、二審ともに被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。(事実)当事者双方の事実上の主張は、控訴人において、一、 いわゆる平取締役の監視義務の範囲は取締役会の付議事項に限らるべきものではない。現行法上代表取締役の業務執行についての監査の責は取締役会に委ねられているが、取締役会が右業務監査の実を挙げるためには単に代表取締役が召集した取締役会の付議事項につき受動的に可否を決するのみで足る訳はなく、そのためには取締役会構成員たる個々のいわゆる平取締役において日常積極的に会社の業務執行を監視し、もし不正不当な業務執行のなされていることを発見したときは取締役会付議事項以外であつても代表取締役に対し直接かかる行為の差止を求め、代表取締役がこれを承諾せぬときは宜しく取締役会を自から召集し、自己に召集権のない場合は召集権を持つ取締役にその召集を求め、業務執行に対する取締役会の指揮監督に遺憾なきを期すべき注意義務がある。二、 而してかかるいわゆる平取締役の業務監視義務は事実上の個人経営会社の名目上の取締役で役員報酬も受取つていない者にあつても、これを免れることはできない。三、 代表取締役が株主総会、取締役会を全然召集しない場合は法令違反の業務執行であるから、平 上の個人経営会社の名目上の取締役で役員報酬も受取つていない者にあつても、これを免れることはできない。三、 代表取締役が株主総会、取締役会を全然召集しない場合は法令違反の業務執行であるから、平取締役がその召集を求める等適切な方法に出なかつたときは代表取締役の法令違反行為を看過又は助長したものとしていわゆる平取締役自身の善管義務違反を形成するものである。 集しない場合は法令違反の業務執行であるから、平 上の個人経営会社の名目上の取締役で役員報酬も受取つていない者にあつても、これを免れることはできない。三、 代表取締役が株主総会、取締役会を全然召集しない場合は法令違反の業務執行であるから、平取締役がその召集を求める等適切な方法に出なかつたときは代表取締役の法令違反行為を看過又は助長したものとしていわゆる平取締役自身の善管義務違反を形成するものである。と附陳し、被控訴代理人において右主張を争つた外は原判決におけると同一であるからここにこれを引用する。控訴人補助参加人ら訴訟代理人は、当参加人らはいずれも破産者株式会社に対する破産債権者であり、本件訴訟の結果は破産財団に影響し参加人らに対する配当額にも影響があるから控訴人を補助するため参加申出に及ぶと述べ、控訴人の主張をすべて援用した。(立証)(省略) 理由 一、 訴外株式会社本田商店(以下「本田商店」と略称する。)が昭和三一年二月九日福井地方裁判所において破産宣告を受け同日控訴人がその破産管財人に選任されたこと、被控訴人が昭和二五年一一月一日、右「本田商店」の取締役に就任(同月一一日その旨の登記を経由)し、以後引続きその地位にあつたこと、右「本田商店」は第四決算期(昭和二六年六月一日乃至同年一一月三〇日)以降毎期欠損が累積する状態にあり、ついに第八期(昭和二九年一二月一日乃至同三〇年一月三〇日)末に約七〇〇万円近い累積欠損をかかえて倒産したことはいずれも当事者間に争いのないところである。二、 ところで、本訴請求の要旨とするところは、右「本田商店」において第六決算期以降累積赤字に追われて仕入商品を投売換金して居り、そのため第八決算期において二九七万三一五七円九六銭の純損失を生じた。右は同社代表取締役Aの違法不当な業務執行によるものであるが、被控 第六決算期以降累積赤字に追われて仕入商品を投売換金して居り、そのため第八決算期において二九七万三一五七円九六銭の純損失を生じた。右は同社代表取締役Aの違法不当な業務執行によるものであるが、被控訴人がこれを抑止するため何らの措置をとらなかつたのは取締役としての忠実義務に違反するものである。よつて控訴人は被控訴人に対し商法第二六六条第一項第五号により損害賠償の支払を求める、というにある。三、 そこで右「本田商店」の経営の実態につき考えるに、成立に各争いない甲第一乃至第四号証、原審証人A、同B、右Cの各証言、被控訴本人の原審における供述並に弁論の全趣旨を綜合すると次の各事実を認めることができる。 がこれを抑止するため何らの措置をとらなかつたのは取締役としての忠実義務に違反するものである。よつて控訴人は被控訴人に対し商法第二六六条第一項第五号により損害賠償の支払を求める、というにある。三、 そこで右「本田商店」の経営の実態につき考えるに、成立に各争いない甲第一乃至第四号証、原審証人A、同B、右Cの各証言、被控訴本人の原審における供述並に弁論の全趣旨を綜合すると次の各事実を認めることができる。すなわち、右「本田商店」は昭和二四年一二月一日に設立された絹、人絹など各種織物及び各種原糸の売買等を目的とする資本金一〇〇万円の株式会社であつて訴外Aが設立以来終始代表取締役の任にあつたこと、右「本田商店」の資本金全額を右Aが払込んで居り発行済株式二万株は全部同訴外人に帰属するものであるが、名義上は過半数を同人名義にし、その余は同人の妻など七、八人の名義にしてあつたこと、右「本田商店」では設立以来株主総会や取締役会を一度も開いたことがなく、形式だけの議事録を整えていたこと、右「本田商店」の業務一切は右Aが一人で切廻して居たこと、被控訴人並訴外Cはいずれも右「本田商店」の債権者の一人であり、右Aの依頼により取締役の法定数を充たすため同社取締役に就任したが非常勤で担当業務とてなく、時折被控訴人がAの依頼により同会社に融資した外はほとんど同会社の業務に接したことはなく、株主総会、取締役会に出席したこともないし、役員報酬も受取つていないこと、前出、「本田商店」の換金投売もAが一人で行なつたもので被控訴人並にCはこれに関与しなかつたこと、結局株式会社本 たことはなく、株主総会、取締役会に出席したこともないし、役員報酬も受取つていないこと、前出、「本田商店」の換金投売もAが一人で行なつたもので被控訴人並にCはこれに関与しなかつたこと、結局株式会社本田商店は株式会社形式はとつているがその実質はAの個人経営と何ら変りなく、同社の営業活動はいわばAの独断により行なわれるし、右営業活動の結果生じた同社の損益はそのままA個人の損益に帰着するようになつていた―いわゆる「一人会社」に当る―こと、を各認め得るものであり、他にこれに反する証拠もない(原審証人D、当審証人Eの各証言も右認定を左右するに足りるものではない。)。<要旨>四、 前述した如く控訴人は被控訴人が本田商店の取締役としてその換金投売行為を抑止しなかつたことを義務</要旨>違反として損害金の請求をしているが、右請求については以上の事実から次のとおり考えられる。 の損益に帰着するようになつていた―いわゆる「一人会社」に当る―こと、を各認め得るものであり、他にこれに反する証拠もない(原審証人D、当審証人Eの各証言も右認定を左右するに足りるものではない。)。<要旨>四、 前述した如く控訴人は被控訴人が本田商店の取締役としてその換金投売行為を抑止しなかつたことを義務</要旨>違反として損害金の請求をしているが、右請求については以上の事実から次のとおり考えられる。すなわち同会社の右換金投売行為が違法又は不当な業務執行であつたとしても、上記の如く右は同社代表取締役A自身がいわば独断専行したものである―被控訴人が格別これに影響を与えたことの証明はない―ところ、右Aは単に同会社の代表者であるだけではなく、経済上は同会社と同一視すべき存在であること、上述したとおりである。然らば前記のようにいわゆる「一人会社」と見るべき「本田商店」が被控訴人に対しAの違法不当な業務執行を抑止しなかつたことの責を問うことは、自から違法不当な行為をしながら、これを抑止しなかつた他人を責めてその損失を他人に転嫁する―いわば「顧みて他をいう」―に均しいものであり、如何にも社会的常軌・衡平にそわないものというほかなく、しよせん信義に反し許さるべきではないと考える。そして、このことはもとより控訴人が破産者「本田商店」の破産管財人として、その管理処分権に基づき、商法第二六六条 ・衡平にそわないものというほかなく、しよせん信義に反し許さるべきではないと考える。そして、このことはもとより控訴人が破産者「本田商店」の破産管財人として、その管理処分権に基づき、商法第二六六条に則るものとしてなす―同法第二六六条ノ三によるものではない―本訴についても、その理を異にすべきいわれはなく、控訴人の被控訴人に対する本訴請求も信義に反し許し難いものと考える。五、 然らばその余の点につき考える迄もなく本訴請求は既に失当であるから排斥すべきであり、これと結論を同じくする原判決は相当である。よつて本件控訴は棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第八九条第九四条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。(裁判長裁判官三和田大士裁判官夏目仲次裁判官山下薫)

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