平成16(ワ)405 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成20年2月5日 甲府地方裁判所
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判決文本文12,972 文字)

平成20年2月5日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第405号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年11月14日判決主文 被告は,原告Aに対し,金4432万3980円及びこれに対する平成16年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,金4247万5600円及びこれに対する平成16年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,被告の負担とする。 この判決は,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,金7658万6751円及びこれに対する平成16年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,金7473万8371円及びこれに対する平成16年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,C(平成16年6月29日死亡。以下「本件被害者」という。)の両親で,その相続人である原告らが,被告が本件被害者をわいせつ目的で誘拐し,被告の車のトランクに入れるなどして監禁した後,本件被害者を強姦した上殺害したと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,本件被害者及び原告らが被った損害の賠償並びにこれに対する不法行為時からの遅延損害金の支払を求める事案である。 前提となる事実当事者間に争いがない事実,各項末掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は,次のとおりである(末尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)。 (1)当事者等ア本件被害者(昭和57年(1982年)12月5日生)は,平成16年6月29日,山梨県富士吉田市において被告によって殺害 尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)。 (1)当事者等ア本件被害者(昭和57年(1982年)12月5日生)は,平成16年6月29日,山梨県富士吉田市において被告によって殺害され死亡した。 イ本件被害者の相続人は,中華民国の法律によると,父である原告A(以下「原告A」という。)及び母である原告B(以下「原告B」という。)の2名であり,それ以外にはおらず,その相続分は2分の1ずつである(甲1,18,19)。 ウ被告は,平成16年7月1日,山梨県富士吉田警察署によって,本件被害者に対する死体遺棄容疑で逮捕され,さらに同月30日,甲府地方検察庁によって,わいせつ目的略取誘拐罪,逮捕監禁罪,強姦罪,殺人罪,死体遺棄罪,窃盗罪の各犯罪について起訴された者である。 (2)本件被害者は,死亡した同年6月29日当時,中華民国に所在する私立静宜大学の3学年に在学中の大学生であり,同大学で日本語文学科を専攻して日本語を勉強していた。 (3)本件被害者は,同月27日,本件被害者の実兄とともに,東京周辺の観光地やテーマパークを回る4泊5日の団体観光ツアーに参加して来日し,翌同月28日,兄を含むツアーの観光客とともに山梨県南都留郡富士河口湖町所在の「河口湖パークホテル」(以下「パークホテル」という。)に宿泊した(甲44)。 (4)被告の本件被害者に対する不法行為ア本件被害者は,自己の恋人や知人に電話をかけるため,同日,午後11時30分ころ,パークホテル付近のコンビニエンスストアにおいて販売さ れていた国際通話用のテレフォンカードを購入しようと,同ストアに赴いたが,所持金が足りないことに気が付いて,一旦上記ホテルに引き返すこととした。本件被害者は,上記ホテルに引き返す途中の山梨県南都留郡富士河口湖町の路上において,被告から,被 しようと,同ストアに赴いたが,所持金が足りないことに気が付いて,一旦上記ホテルに引き返すこととした。本件被害者は,上記ホテルに引き返す途中の山梨県南都留郡富士河口湖町の路上において,被告から,被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)に乗るよう声を掛けられた(なお,その後,被告が本件被害者をわいせつ目的で誘拐し,本件被害者の手足をビニールテープで縛った上で被告車両のトランクの中に本件被害者を入れたりしながら富士河口湖町内から静岡県沼津市,御殿場市内を走行するなどして本件被害者を監禁した上,山梨県富士吉田市上吉田にある東富士五湖有料道路の側道脇において,本件被害者を強姦した事実の存否については,後述のとおり争いがある。)。 イ被告は,同月29日午後3時30分ころ,被告車両の車内において,マフラーなどで本件被害者の首を絞めて本件被害者を殺害し,その後,本件被害者の遺体を上記側道脇の側溝内に遺棄した後,本件被害者の所持していた現金500円を窃取した(以下,一連の被告の犯罪行為を「本件事件」という。)。 (5)本件事件後の経緯被告は,同年7月1日,山梨県富士吉田警察署によって,本件被害者に対する死体遺棄容疑で逮捕された。その後,被告は,わいせつ目的で本件被害者を被告車両に無理矢理連れ込み略取した行為,本件被害者の手足をビニールテープで縛った上,上記車両のトランクに入れるなどして,同県南都留郡富士河口湖町内,同県富士吉田市内及び静岡県沼津市内などを連れ回すなどして本件被害者を逮捕監禁した行為及びその際本件被害者を強姦した後,殺害し,本件被害者の死体を遺棄した行為などの公訴事実により,甲府地方裁判所に公訴提起され,同裁判所は,それらの事実をいずれも認めて,平成19年4月26日,被告に対し,無期懲役の判決を言い渡した(甲20 し,本件被害者の死体を遺棄した行為などの公訴事実により,甲府地方裁判所に公訴提起され,同裁判所は,それらの事実をいずれも認めて,平成19年4月26日,被告に対し,無期懲役の判決を言い渡した(甲20,44, 弁論の全趣旨)。被告は,この第一審判決を不服として控訴し,同年10月23日に東京高等裁判所において第1回公判が開かれたが,同裁判所は被告人質問を行ったのみで結審し,判決の宣告の期日を同年11月29日と指定した(弁論の全趣旨)。 準拠法上記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,原告らの被告に対する本件請求は,法例11条1項により日本の法律がその準拠法となる。 争点 (1)不法行為の態様(2)損害額 争点に対する当事者の主張(1)争点(1)(不法行為の態様)について(原告らの主張)被告は,平成16年6月28日,午後11時30分ころ,山梨県南都留郡富士河口湖町の路上において,いわゆるナンパをする目的で本件被害者に声を掛けたが,本件被害者から拒否されたために立腹し,「ぶっ殺すぞ。」などと脅迫した上,無理矢理,本件被害者を自己が運転する被告車両の車内に連れ込んだ。さらに,被告は,本件被害者が「ホテルへ帰りたい」と申し立てると,刃物で本件被害者を脅迫して,その手足を上記車内にあったビニールテープで縛った上,途中からは上記車両のトランクに入れるなどして,その間,本件被害者を逮捕監禁して,同町内から静岡県沼津市内,神奈川県御殿場市内などを走行して連れ回した。その後,被告は,山梨県富士吉田市上吉田の東富士五湖有料道路の側道脇に被告車両を止め,同車内において,本件被害者を強姦した上,翌同月29日午後3時30分ころ,同車内において,マフラーなどで本件被害者の首を絞めて殺害し,さらに,本件被害者の遺体を上記側道脇付近の側溝に遺 車両を止め,同車内において,本件被害者を強姦した上,翌同月29日午後3時30分ころ,同車内において,マフラーなどで本件被害者の首を絞めて殺害し,さらに,本件被害者の遺体を上記側道脇付近の側溝に遺棄した後,本件被害者の所持していた現金50 0円を窃取した。 以上の被告の行為が不法行為に該当することは明らかである。 (被告の主張)原告らの上記主張のうち,被告が本件被害者を殺害したこと,その死体を遺棄したこと及び約500円を窃取したことは認めるが,その余の犯行態様等は否認する。 すなわち,①わいせつ目的で略取した行為については,本件被害者を無理矢理車に乗せることはしていないし,わいせつ目的もない。②逮捕監禁した行為については,本件被害者の手足をビニールテープで縛ったり,トランクに入れたりしていない。③強姦行為については,本件被害者と性交はしたが,本件被害者の意志に反して姦淫していない。 (2)争点(2)(損害額)について(原告らの主張)ア積極損害合計184万8380円①渡航費用18万9800円②宿泊費用8万4000円③滞在費用9万5580円④葬儀費用147万9000円以上の支出は,原告Aが負担した。 イ消極損害本件被害者の逸失利益5547万6742円(ア)外国人の逸失利益も日本人と同一の基準で算定されるべきである。 すなわち,外国人が被害者の場合に母国の所得水準や物価水準に基づきその逸失利益を算定することは,憲法14条の平等原則に反し,許されないというべきである。 また,被害者の救済や損害の公平な分担という観点からみても,実際 には,我が国での犯罪被害者給付金制度が外国人には適用されないことや,アジアの発展途上国等においては社会福祉保障に関する制度が極めて不整備であることなどを考慮すると,母 いう観点からみても,実際 には,我が国での犯罪被害者給付金制度が外国人には適用されないことや,アジアの発展途上国等においては社会福祉保障に関する制度が極めて不整備であることなどを考慮すると,母国水準に基づき算定することが妥当でない結果となる。 したがって,本件被害者の逸失利益は,日本人と同一の基準に基づいて算定すべきである。 仮に,上記主張が認められない場合でも,本件被害者は,本件事件当時,21歳の大学生であり,中華民国所在の私立静宜大学日本語文学科に在籍し,日本語能力試験2級取得の認定を受け,同学科内でもトップクラスの成績を収めるほど日本語に堪能で,同大学を卒業した後は,日本の大学院へ留学し,さらに大学院を卒業した後には日本の企業に就職することを希望しており,その能力も十分あった。そして,本件被害者の実父である原告Aが中華民国において公務員として勤務し,本件被害者の実母である原告Bが保険外交員として稼働し,本件被害者の実兄が技術系の大学院に在学していることに照らせば,本件被害者が将来的に高学歴を積んで,日本の大学卒業者と同等の賃金を獲得し得た蓋然性は十分推認できる。 したがって,本件被害者の逸失利益は,日本人と同一の基準により算定されるべきである。 そうすると,平成15年賃金センサスによる産業計・企業規模計・大卒・全年齢平均の女子労働者の平均年収額445万8900円を基礎として,稼働期間を22歳から67歳までの45年間,生活費控除率を30パーセントとし,ライプニッツ方式により年5分の中間利息を控除して,本件被害者の逸失利益を算定すると,その額は,5547万6742円となる。 (イ)予備的主張 仮に万が一,本件被害者が中華民国での就職を選択した場合でも,本件被害者が日本語能力を生かして中華民国にある日系企業に勤務したいと ,その額は,5547万6742円となる。 (イ)予備的主張 仮に万が一,本件被害者が中華民国での就職を選択した場合でも,本件被害者が日本語能力を生かして中華民国にある日系企業に勤務したいとの希望を持っていたことに照らせば,本件被害者が,少なくとも,中華民国にある日系企業に就職していた可能性は極めて高かったというべきである。 したがって,本件被害者の逸失利益の算定に当たり,日本の大学院修士号取得者が中華民国の日系企業に就職した場合の平均賃金を基礎とすべきであるから,この場合の平均年収は,約334万4000円とすべきである。また,生活費控除の算定においては中華民国の物価水準が日本の4分の1ないし5分の1程度であることを考慮し,生活費控除率は20パーセントを越えないことを前提に算定すべきである。 ウ本件被害者の慰謝料(ア)外国人が被害者の場合に母国の所得水準や物価水準に基づき慰謝料を算定することは,憲法14条の平等原則に反し,許されないというべきである。 また,被害者の救済や損害の公平な分担という観点からみても,母国水準に基づき算定することが妥当でない結果となることは前記のとおりである。 したがって,本件被害者の慰謝料も,日本人と同一の基準で算定すべきである。 なお,仮に万が一,逸失利益を母国の所得水準に基づき低額に算定される場合には,慰謝料の補完的機能に照らせば,むしろ日本人よりも高額の慰謝料を算定すべきである。 (イ)そして,本件被害者は,被告に無理矢理車中に連れ込まれ,その密室状態の車中で,刃物を突きつけられるなどして脅され,ビニールテープで手足を縛られた挙げ句,長時間にわたって,車中又は車両のトラ ンクに押し込まれたのであって,その恐怖感は想像を絶するものがある。 しかも,本件被害者は,見ず知らずの被告から,強姦され ニールテープで手足を縛られた挙げ句,長時間にわたって,車中又は車両のトラ ンクに押し込まれたのであって,その恐怖感は想像を絶するものがある。 しかも,本件被害者は,見ず知らずの被告から,強姦された上,首を絞められ殺害された挙げ句,側溝に無惨にも遺棄され,所持していたわずかの金員さえも奪われ,人間にとってこれ以上ない屈辱を受け,わずか21歳の若さで絶命させられた。被告のこのような残虐な行為によって殺害された本件被害者の無念は筆舌に尽くし難い。他方,本件が残虐かつ悪質な故意による犯罪であるにもかかわらず,被告は,本件被害者が被告のナンパに乗ってきたり,性交に応じたなどと身勝手かつ不合理な弁解に終始し,本訴訟における和解の話合いの中でも被告側の態度は不誠実極まりないことに照らせば,本件被害者の精神的苦痛を慰謝するために相当な額は4000万円を下ることはない。 エ原告ら固有の慰謝料各自につき2000万円原告らは,被告の卑劣かつ残虐な本件不法行為によって本件被害者が殺害されたことにより,絶望的な深い怒り,悲しみに沈んでいる。しかも,その後の被告の不誠実極まりない態度によっても原告らは精神的苦痛を受けている。このように原告らが受けた精神的苦痛は極めて大きく,原告らの慰謝料は各2000万円が相当である。 オ原告らの弁護士費用各自につき700万円カ相続関係原告らは,上記イ及びウの各損害に係る本件被害者の損害賠償請求権を各2分の1ずつ相続承継した。 キまとめ上記アないしカによれば,原告Aの損害賠償請求権の額は,7658万6751円であり,原告Bの損害賠償請求権の額は,7473万8371円である。 (被告の主張) ア原告の上記主張のうち,本件被害者が日本の大学卒業者と同等の賃金を獲得し得た蓋然性が推認されるとする点は否認し,損害 告Bの損害賠償請求権の額は,7473万8371円である。 (被告の主張) ア原告の上記主張のうち,本件被害者が日本の大学卒業者と同等の賃金を獲得し得た蓋然性が推認されるとする点は否認し,損害額は争う。 イ本件被害者の逸失利益について被害者は,中華民国在住の大学生であり,日本には初めての旅行で来ていたのであって,日本において稼働するであろう蓋然性や日本人と同等の収入を得るであろう蓋然性はほとんど認められないから,日本における賃金センサスを適用すべきではない。 ウ本件被害者及び原告ら固有の慰謝料について原告が主張する上記被告の犯行態様のうち,被告が否認する事実は前記のとおりである。 また,外国人が,日本とは経済事情の異なる外国で慰謝料を費消する場合,その国の物価水準ないし所得水準により実質的価値が大きく異なってくるところ,それを考慮せずに日本と同一の水準により慰謝料を算定することは,結果として精神的苦痛や損害の程度に差を設けるのと同じことになると解すべきである。 したがって,本件被害者及び原告らは,共に中華民国に生活の本拠を置き,慰謝料を費消するのも中華民国であるところ,中華民国における物価水準及び所得水準を十分に考慮して,慰謝料の算定をすべきである。 第3当裁判所の判断 争点(1)(不法行為の態様)について前提事実及び証拠(甲21,44ないし67)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 被告は,平成16年6月28日,女性をナンパするために河口湖周辺を自動車で徘徊していたところ,パークホテル近くにあるコンビニエンスストア内にいた本件被害者を認め,本件被害者をナンパしようと考え,本件被害者が一人であることを確かめたうえ,同日午後11時30分ころ,山梨県南都留郡富士 河口湖町船津282番地1付近の歩道上をコンビ 内にいた本件被害者を認め,本件被害者をナンパしようと考え,本件被害者が一人であることを確かめたうえ,同日午後11時30分ころ,山梨県南都留郡富士 河口湖町船津282番地1付近の歩道上をコンビニエンスストアからパークホテルに戻るために歩いていた本件被害者の傍に自己の運転する被告車両を横付けするとともに,本件被害者の行く手を妨げようと歩道上に同車両を乗り上げて停車し,同車両から降りて,本件被害者に対し,「ドライブ行かない。」などと声を掛けて執拗に助手席に乗せようと試みた。しかし,本件被害者が被告の誘いを頑なに拒否したために,被告は,無理矢理にでも本件被害者を被告車両に乗せて人気のないところで強姦しようと考え,同月29日午前零時ころ,同所において,手拳で被告車両の助手席の背もたれを殴って,「ぶっ殺すぞ。」などと怒声を上げて脅迫したうえ,被告車両の助手席に本件被害者の両足を抱えて押し込み,被告車両を発進させた。本件被害者は,被告車両内で被告に対し,「帰して」と繰り返し訴えたが,被告は,その都度脅迫して黙らせ,また,サバイバルナイフを見せて脅迫し,それに乗じてわいせつな行為をした。 その後,被告は,本件被害者が逃げたり,騒いだりすることができないようにするために,同町西湖2068番地1野鳥の森公園から北方約10メートルの空き地において,本件被害者の手足をビニールテープで縛りつけてその身体を拘束し,さらには,本件被害者を被告車両のトランクに入れて人目がつかないようにしたうえで,同町内,同県富士吉田市内及び静岡県沼津市内などを連れ回し,強姦する機会を窺っていた。そして,本件被害者を連れ回した同日午後3時10分ころ,被告は,同県富士吉田市上吉田5601番地8東富士五湖有料道路上り線2.8キロポスト先側道に被告車両を駐車し,その車内において,上 窺っていた。そして,本件被害者を連れ回した同日午後3時10分ころ,被告は,同県富士吉田市上吉田5601番地8東富士五湖有料道路上り線2.8キロポスト先側道に被告車両を駐車し,その車内において,上記監禁により衰弱して抵抗することもままならない本件被害者を強姦した。 強姦した直後である同日午後3時20分ころ,被告は,本件被害者から「警察」,「レイプ」,「誘拐」などと被告の犯行を非難する言葉を告げられたことから,このまま本件被害者を帰せば警察に捕まって刑務所に行かなければならなくなるなどと考え,犯行の発覚を免れるために本件被害者を殺害することを企て,上記側道に駐車した被告車両の車内において,本件被害者の背後から 本件被害者の頚部にマフラーを巻き付けて締め上げ,さらに,とどめを刺すために,その頚部を両手で絞め付けて本件被害者を窒息死させた。被告は,本件被害者を殺害後,自己の犯行を隠蔽するために,本件被害者の死体を捨てて処分しようと考え,本件被害者の顔面にウイスキーをかけ,その頭部にビニール袋をかぶせ,上記側道脇の側溝内に死体を捨てて,死体の上から草をかけるなどして死体の発見を困難にした上,本件被害者が所持していた現金500円を窃取した。 上記認定に反する被告の供述(甲66,67,乙2,3,4,5,10)は,自己の責任を軽減するために不自然・不合理な弁解に終始しており,到底信用することができない。 以上のとおり,被告がわいせつ目的で本件被害者を略取誘拐した上,その手足をビニールテープで縛り,途中からは自動車のトランクに入れるなどして逮捕監禁し,さらには本件被害者を強姦した挙げ句殺害した後,本件被害者の死体を遺棄し,本件被害者が所持していた現金を窃取したとの原告の主張事実は,優に認定できるものである。 争点(2)(損害額)についてア積 には本件被害者を強姦した挙げ句殺害した後,本件被害者の死体を遺棄し,本件被害者が所持していた現金を窃取したとの原告の主張事実は,優に認定できるものである。 争点(2)(損害額)についてア積極損害について証拠(甲17の1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,本件被害者の死亡を知らされた原告らが来日するための渡航費用,宿泊費用及び滞在費用として,合計36万9380円を,本件被害者の葬儀費用として147万9000円,総合計184万8380円を原告Aが支出したことが認められ,これらの損害は,すべて本件被害者の死亡と相当な因果関係を有するものであるから,原告Aの損害として認められる。 イ本件被害者の逸失利益について財産上の損害としての逸失利益は,不法行為がなかったら存したであろう利益の喪失分として評価算定されるものであり,その性質上,種々の証拠資 料に基づき,相当程度の蓋然性をもって推定される当該被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定せざるを得ず,その算定は,被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当である。したがって,本件被害者のように観光目的で一時的に我が国に滞在し,出国が予定される外国人の事故による逸失利益を算定するに当たっては,予測される我が国での就労可能期間内は我が国での収入等を基礎とし,その後は想定される出国先での収入等を基礎とするのが合理的であり,その際,我が国における就労可能期間は,来日目的,事故の時点における本人の意思,在留資格の有無,在留資格の内容,在留期間,在留期間更新の実績及び蓋然性,就労資格の有無,就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して,これを認定するのが相当である(最三小判平成9・1・28民集51巻1号78頁参照)。そして,この算定基準は,当該不法行為が加害者の過失に基づく事故であ の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して,これを認定するのが相当である(最三小判平成9・1・28民集51巻1号78頁参照)。そして,この算定基準は,当該不法行為が加害者の過失に基づく事故である場合と加害者の故意に基づく犯罪である場合とで異なることはないというべきである。 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,本件被害者は,本件事故当時中華民国に所在する私立静宜大学の3学年に在学中の大学生で,観光目的で短期的に来日し,4泊5日の観光ツアーが終了すれば中華民国に再び帰国する予定であったことが認められる。これによれば,本件被害者は,未だ我が国の会社等に就職していないのであるから,逸失利益算定の基礎となる収入については,中華民国で得られたであろう収入を基礎として算定するのが相当である。 原告らは,本件被害者は,本件事件当時,日本語能力試験2級取得の認定を受けており,在籍していた私立静宜大学日本語文学科内でもトップクラスの成績を収めるほど日本語に堪能で,同大学を卒業した後は,日本の大学院へ留学し,さらに大学院を卒業した後には日本の企業に就職することを希望しており,その能力も十分あったのであるから,本件被害者の逸失利益の算定に当たっては,日本人と同じ基準によるべきであり,仮に本件被害者が中 華民国において就職したとしても,日系企業に就職した可能性は極めて高いのであるから,日本の大学院修士号取得者が中華民国の日系企業に就職した場合の平均年収である約334万4000円を基礎とすべきであると主張する。確かに,証拠(甲25ないし40,42及び43)によれば,本件被害者は,在籍していた日本語文学科において優秀な成績を収め,平成16年2月10日には日本語能力試験2級に合格するなど日本語能力に優れ,将来的には日本の大学院に留学し,その後,日本 )によれば,本件被害者は,在籍していた日本語文学科において優秀な成績を収め,平成16年2月10日には日本語能力試験2級に合格するなど日本語能力に優れ,将来的には日本の大学院に留学し,その後,日本の企業に就職するか中華民国の日系企業に就職したいとの希望を持っており,本件被害者が在籍していた私立静宜大学日本語文学科の卒業生の中には日本の大学に留学する者や日本の商社又は日系企業に就職する者も多くいたことから,本件被害者も日本の大学院に進学し,又は日本若しくは中華民国の日系企業に就職した可能性もあったことが認められる。しかしながら,本件事件当時,本件被害者は未だ私立静宜大学3学年で,同大学を卒業した後,日本の大学院へ留学する具体的な予定があったことを認めるに足りる証拠はなく,また,証拠(甲25及び36)によれば,平成15年(2003年)に同大学日本語文学科を卒業した1期生51名のうち日本の大学院に進学した者は1名にとどまり,本件被害者が上記の者と同様の経歴をたどる相当程度の蓋然性があったとまでは認めるに足りない。したがって,原告の上記主張を採用することはできず,本件被害者の場合には,本来の居住国(母国)である中華民国の収入実績等を基に逸失利益を算定するのが相当である。 証拠(甲36,41,乙25)及び弁論の全趣旨によれば,中華民国においては,工業及びサービス業労働者の一人当たりの月平均給与額が約4万3021新台湾ドルであること及び中華民国では1月中旬から2月中旬に2か月分ほどのボーナスが支払われる習慣があることが認められる。そして,証拠(乙26)及び弁論の全趣旨によれば,平成19年7月20日における新台湾ドルの為替換算は1新台湾ドル(台湾元)当たり3.73円であること が認められるので,本件被害者の逸失利益の算定の基礎となる基礎収入額 及び弁論の全趣旨によれば,平成19年7月20日における新台湾ドルの為替換算は1新台湾ドル(台湾元)当たり3.73円であること が認められるので,本件被害者の逸失利益の算定の基礎となる基礎収入額は,以下のとおり224万6556円となる。 43,021×14×3.73=224万6556円また,原告らは,中華民国における上記平均収入が我が国の平均年収の2分の1程度であるのに比し,中華民国における物価水準が我が国の物価水準の4又は5分の1程度であることを考慮し,生活費控除率は20パーセントを越えないことを前提に算定すべきであると主張する。しかしながら,中華民国における物価水準が我が国の4又は5分の1であることを明確に認める証拠はないが,仮に,中華民国における物価水準が原告らの主張するとおりであるとしても,そのことから直ちに生活費控除率を20パーセントとすべきであるとはいえない。したがって,本件では,本件被害者が女子であること等を考慮して,生活費控除率を30パーセントとするのが相当である。 よって,上記金額を基礎収入額とし,生活費の控除に加え,ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除し,稼働期間を45年間として本件被害者の逸失利益を算定すると,次のとおり金2795万1200円となる(1円未満切捨て)。 2,246,556×(1-0.3)×17.7740≒27,951,200ウ本件被害者の慰謝料について本件被害者は,被告に脅迫されて無理矢理車に連れ込まれて手足をビニールテープで縛られ,途中からは自動車のトランクに入れられるなどして長時間にわたって監禁されて極度の恐怖感を与えられた上,被告によって強姦された挙げ句,犯行の発覚をおそれた被告により首を絞められて殺害されるという理不尽かつ残虐な犯行によって突然にその生命を絶たれたも 間にわたって監禁されて極度の恐怖感を与えられた上,被告によって強姦された挙げ句,犯行の発覚をおそれた被告により首を絞められて殺害されるという理不尽かつ残虐な犯行によって突然にその生命を絶たれたもので,このような本件被害者の人間としての尊厳を踏みにじる被告の凶行により21歳という若さで異国において生命を奪われ,その後のあらゆる希望と可能性を失わされた本件被害者の無念さは,筆舌に尽くし難いというべきである。し かも,その後,殺害した本件被害者の顔面にウイスキーをかけ,その頭部にビニール袋をかぶせて縛るなどして遺体を側道脇の側溝内に遺棄したという人間の仕業とはいえない残虐極まりない被告の行為は,死者に対する許し難い冒涜であるというべきである。このように被告の本件不法行為の態様が極めて悪質であることに加え,被告は自己の罪責を免れるために不可解かつ不合理な弁解に終始し,また,証拠(甲68)及び弁論の全趣旨からも明らかなように,被告側の本件被害者及び原告らに対する対応には誠意が見られないこと,その他,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件被害者の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は,3500万円が相当である。 エ原告ら固有の慰謝料について人間性を逸脱し野獣化した被告の理不尽かつ残虐な犯行によって我が子を突然奪われた原告らの悲嘆と苦痛は,察するに余りある。これに加え,前記認定事実並びに証拠(原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告は不可解かつ不合理な弁解に終始するばかりか,原告Aが刑事裁判において情状証人として出頭し,被告を1発殴りたいと証言した際,被告は,殴りたかったら殴ってみろよと,原告Aに対して挑発的な態度をとるなど,原告らに対し不誠実極まりない態度をとっていたことが認められる。これら一切の事情を考慮すると,原告らが受けた精 言した際,被告は,殴りたかったら殴ってみろよと,原告Aに対して挑発的な態度をとるなど,原告らに対し不誠実極まりない態度をとっていたことが認められる。これら一切の事情を考慮すると,原告らが受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額としては,それぞれ750万円をもって相当とする。 オ相続関係そして,前記前提となる事実によれば,本件被害者の死亡により,その両親である原告らが,本件被害者の損害賠償請求権(逸失利益及び慰謝料)を各2分の1ずつ相続し,その結果,原告ら固有の損害賠償請求権と併せ,原告Aの損害賠償請求権は,4082万3980円となり,原告Bの損害賠償請求権は,3897万5600円となったことが認められる。 カ原告らの弁護士費用について 弁論の全趣旨によれば,被告が上記損害の賠償を任意に行わないため,原告らは訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任せざるを得なかったことが認められる。 上記アないしエに基づく原告らの被告に対する損害賠償請求の額などを考慮して,原告A及び原告Bの弁護士費用として,被告の不法行為と因果関係を有する額は,それぞれ350万円であると認める。 以上によれば,原告らの請求は,主文第1ないし2項掲記の限度で理由があり,その余は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 甲府地方裁判所民事部裁判長裁判官太田武聖裁判官宮崎拓也裁判官村上典子

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