- 1 -主文原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,786万4530円及びこれに対する平成16年7月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要等 事案の概要被告を退職した元従業員である原告は,被告に対し,平成12年4月1日一部変更の就業規則及び同就業規則の委任を受けた退職年金規程に従って計算した退職金の残額786万4530円(後記2(4)イ)及びこれに対する支払期限の後である平成16年7月18日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。これに対し,被告は,就業規則は平成15年4月1日一部変更され,この変更後の就業規則に従って計算された退職金を原告に支払済みであるなどと主張して争っている。 基礎となる事実(当事者間に争いがない。)(1)当事者ア被告は,天然色及び一般写真フィルム並びに印画紙の現像,密着,引伸,複写の加工並びに販売等を業とする株式会社である。 イ原告は,昭和▲年▲月▲日生まれであり,昭和50年3月に被告に入社し,平成15年11月30日に自己都合により被告を退社した。勤続期間は28年9か月であった。 (2)平成12年4月1日一部変更の就業規則(乙第29号証)による退職金ア被告の就業規則は,平成12年4月1日一部変更された(同日一部変更- 2 -後の就業規則は乙第29号証のとおりであった。以下,この就業規則を「乙29就業規則」という。)。 イ乙29就業規則は,その第11章(73条ないし81条)において退職金及び退職功労金について定め,73条は,「退職金は退職直前の3か月間の平均1か月基準内賃金に同就業規則別表の支給率を乗じた金額とする」旨定め,80条は, 第11章(73条ないし81条)において退職金及び退職功労金について定め,73条は,「退職金は退職直前の3か月間の平均1か月基準内賃金に同就業規則別表の支給率を乗じた金額とする」旨定め,80条は,「退職金の支給については,第11章による外,別に定める退職年金規程に基づいてこれを支給する」旨,「退職年金規程による給付を受ける者については,当該給付(年金では当該年金源資相当額,一時金では当該一時金額)を73条に定める退職金から控除する」旨定めていた。 ウしたがって,乙29就業規則によれば,退職する従業員は,少なくとも退職年金規程による一時金の給付を受けることができた。 (3)退職年金規程(甲第1号証の2)による一時金ア被告は,平成12年4月26日,松本労働基準監督署に退職年金規程(甲第1号証の2)を届け出た。 イ退職年金規程は,乙29就業規則80条の委任を受けて退職金の細目を定めるものであり,次のとおり定めていた。 (ア)給付額計算の基準となる勤続年数の1年未満の端数は,6か月未満は切り捨て,6か月以上は切り上げる(退職年金規程21条3項)。 (イ)勤続4年以上で旧定年(退職年金規程22条)に達する前に生存退職したときは,退職一時金を支給し(退職年金規程15条イ),退職一時金の支給額は,退職年金規程の別表3に勤続年数別に定められた金額とする(退職年金規程16条イ)。 イ上記の退職年金規程の定めによると,原告は,給付額計算の基準となる勤続年数が29年であり,その退職一時金の金額は1074万6530円と算出される。 - 3 -ウ被告が原告に対し退職年金規程に基づいて支払うべき退職一時金の支払期限は,平成16年1月31日であった。 (4)退職金の支払ア原告は,平成16年1月6日,被告から退職金として288万2000円の支払を 告に対し退職年金規程に基づいて支払うべき退職一時金の支払期限は,平成16年1月31日であった。 (4)退職金の支払ア原告は,平成16年1月6日,被告から退職金として288万2000円の支払を受けた。 イしかし,原告は,支払期限である平成16年1月31日を経過しても,退職年金規程に基づいて算出される退職金1074万6530円から支払済みの288万2000円を差し引いた残額786万4530円について支払を受けていない。 争点 (1)就業規則の変更の有無(2)変更後の就業規則の有効性(3)旧退職年金規程の有効性(4)未払の退職金の有無第3争点に関する当事者の主張 争点(1)(就業規則の変更の有無)(1)原告の主張ア乙29就業規則の末尾には,変更日が「平成6年4月1日一部変更」,「平成9年4月1日一部変更」,「平成12年4月1日一部変更」と記載されているのに対し,被告が平成15年4月1日に一部変更したと主張する就業規則(乙第2号証。以下「乙2就業規則」という。)の末尾には,変更日が「平成6年4月1日一部変更」,「平成15年4月1日一部変更」と記載されているだけである。乙2就業規則は,労働基準監督署に届出がされておらず,労働基準法106条1項所定の方法による従業員への周知もされていなかった。 イ前記アの事情からすると,就業規則について,乙29就業規則から乙2- 4 -就業規則への変更が本当に行われたか疑わしい。 (2)被告の主張乙29就業規則は,平成15年4月1日一部変更され,乙2就業規則となった。 争点(2)(変更後の就業規則の有効性)について(1)原告の主張乙2就業規則は,労働基準監督署に届出がされておらず,また,労働基準法106条1項所定の方法により従業員に周知されていなかったから,効力 2)(変更後の就業規則の有効性)について(1)原告の主張乙2就業規則は,労働基準監督署に届出がされておらず,また,労働基準法106条1項所定の方法により従業員に周知されていなかったから,効力を生じておらず,乙29就業規則が効力を有している。 (2)被告の主張ア原告の主張は争う。 イ(ア)就業規則は,労働基準監督署に届け出なくても,使用者において,従業員に周知させるに足りる相当な方法を講じれば,効力を生ずる。 (イ)確定給付企業年金法の施行により,退職金について適格退職年金制度から中小企業退職金共済制度への移行が必要とされたことから,乙2就業規則は,乙29就業規則を一部変更して新たに制定された。 退職金の金額につき,乙29就業規則73条は,「退職金は退職直前の3か月間の平均1か月基準内賃金に同就業規則別表の支給率を乗じた金額とする」旨定めていたが,乙2就業規則73条は,「中小企業退職金共済制度と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払額とする」旨定めている。 (ウ)被告は,全従業員に対し,退職金について適格退職年金制度から中小企業退職金共済制度への移行が必要とされた経緯及び就業規則の変更の内容を説明し,周知徹底を図るとともに,疑問点又は異議がある場合には遠慮なく申し出てほしい旨伝えた。これに対し,従業員からは異議の申出は一切なく,退職金制度の移行と乙2就業規則の制定- 5 -について全従業員の同意を得た。そして,従業員休憩室に乙2就業規則を常時備え置いた。 (エ)したがって,乙2就業規則は効力を有している。 争点(3)(退職年金規程の有効性)(1)原告の主張ア乙2就業規則は効力を生じておらず,乙29就業規則及び同就業規則80条の委任を受けた退職年金規程が効力を有する。 イ仮に乙2就業規則が効力を 点(3)(退職年金規程の有効性)(1)原告の主張ア乙2就業規則は効力を生じておらず,乙29就業規則及び同就業規則80条の委任を受けた退職年金規程が効力を有する。 イ仮に乙2就業規則が効力を生じているとしても,乙2就業規則は,退職金の金額につき,73条で,「中小企業退職金共済制度と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払額とする」旨定めているのみであり,その計算方法は明らかでないから,労働基準法89条3号の2が定める「退職手当の計算に関する事項」の規定が欠如している。そのため,乙2就業規則が効力を有するとしても,退職金の計算に関しては,乙29就業規則及び同就業規則80条の委任を受けた退職年金規程が依然として効力を有する。 (2)被告の主張ア原告の主張は争う。 イ乙2就業規則が効力を生じており,乙2就業規則に変更される前の乙29就業規則及び同就業規則80条の委任を受けた退職年金規程は効力を有していない。 ウ(ア)退職金の金額につき,乙2就業規則73条は,「中小企業退職金共済制度と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払額とする」旨定めている。 (イ)中小企業退職金共済制度(以下「中退共」という。)から支給される退職金,第一生命保険相互会社(以下「第一生命」という。)の養老保険の解約返還金の金額は,約款等に基づき,次のように定めら- 6 -れている。 a中退共から支給される退職金の金額は,別紙1(被告準備書面(6)(平成17年10月4日付)別紙)記載の計算方法により計算される。 b第一生命の養老保険の解約返還金の金額は,別紙2(被告準備書面(6)(平成17年10月4日付)別紙)の「金額例表の見方と計算方法」,「1.解約返還金額の計算」に記載された計算方法により,別紙3(乙第7号証)に記 保険の解約返還金の金額は,別紙2(被告準備書面(6)(平成17年10月4日付)別紙)の「金額例表の見方と計算方法」,「1.解約返還金額の計算」に記載された計算方法により,別紙3(乙第7号証)に記載された各従業員ごとの契約内容に従い,別紙2に添付された「5年ごと利差配当付養老保険普通保険約款別表5解約返還金額例表(年・半年・月払)」を参照して計算される。 (ウ)したがって,退職金の金額は乙2就業規則73条によって計算することができ,同条は,労働基準法89条3号の2が定める「退職手当の計算に関する事項」の規定に該当する。 争点(4)(未払の退職金の有無)(1)原告の主張退職年金規程に基づいて算出した原告の退職一時金の金額は1074万6530円であり,原告は,平成16年1月6日,被告から退職金として288万2000円の支払を受けたのみであり,残額786万4530円について支払を受けていない(前記第2,2(3),(4))。 (2)被告の主張ア原告の主張は争う。 イ乙2就業規則によれば,退職金は,中退共の退職金と第一生命の養老保険の解約返還金の合計であり,被告は,原告に対し,中退共の退職金288万2000円と養老保険の解約返還金5万5800円を支払っているから,未払の退職金はない。 - 7 -第4 判断 事実の経過後掲各証拠,甲第3号証,証人Aの証言,証人Bの証言,原告本人尋問の結果(ただし,甲第3号証,原告本人尋問の結果のうち,後記の採用することができない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1)乙29就業規則被告の就業規則は,平成12年4月1日一部変更により,乙29就業規則となった。 (2)適格退職年金制度ア被告は,従前から,乙29就業規則のもとにおいても,退職金について,適 )乙29就業規則被告の就業規則は,平成12年4月1日一部変更により,乙29就業規則となった。 (2)適格退職年金制度ア被告は,従前から,乙29就業規則のもとにおいても,退職金について,適格退職年金契約に基づく企業年金制度である適格退職年金制度を採用していた。 イ適格退職年金契約とは,企業が,信託銀行・生命保険会社・全国共済農業協同組合連合会との間で締結する,従業員(役員を除く。)の退職年金に関する信託・生命保険又は生命共済契約で,法人税法施行令附則16条1項に規定する14の適格要件を全て備えたものとして,国税庁長官が承認したものをいう(法人税法附則20条,法人税法施行令附則16条1項)。 ウ適格退職年金制度は,昭和37年3月の税制改革において税法上の制度として創設されたものである。それ以前の税法においては,企業が従業員に対する将来の年金支払原資を確保するために社外積立を行った場合,当該積立金は,積立時点で従業員への給料とみなされて課税されていた。それを,適格退職年金制度の創設により,前記14の適格要件を備え国税庁長官の承認を得た積立については,当該積立金全額を損金扱いとして,従業員への所得課税を行わないこととし,更には年金原資の運用利益には課税しない等の税法上の優遇措置が講じられた(法人税法附則20条,法人- 8 -税法施行令附則13条,14条)。これによって,将来の年金支払原資の確保が容易となるとともに,厚生年金基金に比し,必要加入者数も少なく特別法人を設立する必要もないこと等から,適格退職年金制度は,一般に中小企業において広く普及するようになった。 (3)適格退職年金制度の行き詰まりアところで,適格退職年金制度においては,掛金及び給付額の算定に当たって,あらかじめ,国債の金利水準の動向を勘案して財務省令で定め て広く普及するようになった。 (3)適格退職年金制度の行き詰まりアところで,適格退職年金制度においては,掛金及び給付額の算定に当たって,あらかじめ,国債の金利水準の動向を勘案して財務省令で定める基準利率以上の金利(予定利率)を見込むこととされている(法人税法施行令附則16条1項5号,同条3項)。そして,適格退職年金制度の創設後,いわゆるバブル経済の崩壊前まで,日本経済は概ね成長期であったため,いわゆるバブル経済の崩壊前に適格退職年金制度を採用した企業の予定利率は全て年5.5%に設定されていた。 すなわち,適格退職年金制度は,企業が積み立てた年金資産が年5.5%以上の利回りで運用されることを前提に掛金及び給付額が計算されている。したがって,実際の年金資産の運用利回りが年5.5%を下回ると,当然積立不足が発生し,積立不足が続くとその累積額が増加する。 イ適格退職年金制度においては,積立金の不足の防止,解消について,企業が自由意思によって不足額を支払うことは許されておらず,1年当たりの額が積立不足金の合計額の35%以下に相当するような一定額若しくは給料の一定率の掛金,又は1年当たりの額が積立不足金の現在額の50%以下となるような積立不足金の一定率である掛金であって,これらのいずれによるべきかがあらかじめ定められた掛金を支払うことが認められているのみで(法人税法施行令附則16条1項7号),他には何ら定めがない。 しかし,上記の方法によっては,積立不足を解消することは困難である。 その一方で,給付額を減額することは厳しく制限されている(法人税法施行令附則16条1項11号)。 - 9 -ウそこで,積立不足の拡大を解消,防止するためには,企業において,5年以内の一定期ごとに行う再計算時において,予定利率を引き下げ,予定利率を引き下げたことに 令附則16条1項11号)。 - 9 -ウそこで,積立不足の拡大を解消,防止するためには,企業において,5年以内の一定期ごとに行う再計算時において,予定利率を引き下げ,予定利率を引き下げたことに反比例して生じる増加分及び積立不足分を填補するために生じる増加分を加味した額まで掛金を引き上げることによって,対処せざるを得ないこととなる(法人税法施行令附則16条1項4号,5号)。 しかし,いわゆるバブル経済崩壊後,資産運用の利回りが年5.5%を大きく下回って1%以下となってしまい,低金利・資産運用難の状況下で,中小企業は,保険会社等に支払う事務費すら賄えなくなり,積立不足の累積額は膨大なものとなっている。予定利率(年5.5%)と実利率との差が大きければ大きいほど,また積立不足の累積額が多額であれば多額であるほど,必然的に,積立不足の拡大の解消,防止のために引き上げられる掛金額も,それ相応にかなりの高額となる。したがって,積立不足の拡大の解消,防止のための掛金の引上は,いわゆるバブル崩壊後の不況下でその存続自体も危ぶまれる中小企業にとって,更に重い負担を強いるものであり,その実施の可能性はほとんどなかった。 (4)他制度への移行の必要性ア平成14年4月1日,確定給付企業年金法が施行され,実情にそぐわなくなった適格退職年金制度を廃止し,10年の猶予期間を設けて他の退職金確保のための制度へ移行させることとなった(確定給付企業年金法附則)。すなわち,同日以降における適格退職年金契約の締結を認めない一方,平成24年4月1日以降適格退職年金契約を継続していても,退職年金の積立金に対する税法上の優遇措置を受けられないようにして,適格退職年金制度を採用する利点をなくし,適格退職年金制度から他の制度への移行を促すことになった。 イ低金利・資産運用 ていても,退職年金の積立金に対する税法上の優遇措置を受けられないようにして,適格退職年金制度を採用する利点をなくし,適格退職年金制度から他の制度への移行を促すことになった。 イ低金利・資産運用難が続く中で,適格退職年金制度を採用している中小- 10 -企業の積立不足は拡大しているから,他制度への移行は,できるだけ早期にされる必要があった。 ウ被告においても,適格退職年金制度の採用時に設定された予定利率は年5.5%であり,いわゆるバブル経済崩壊後に利回りが1%以下になった状況下で,積立不足は拡大し,予定利率の変更,掛金の引上も到底できない状況にあった。すなわち,平成15年5月31日における責任準備金(予定利率5.5%のもとで計算上積み立てられているべき累積積立金額)は4911万8109円であるのに対し,年度末保険料積立金(実際の積立金の累計額)は1558万8159円であり,当年度(平成14年6月1日ないし平成15年5月31日)の積立不足金は201万6196円,過去勤務債務現在額(当年度より前の積立不足金の累計額)は3151万3754円であった。(乙第15号証)そのため,被告においても,適格退職年金制度から他の制度へ速やかに移行する必要があった。 エ適格退職年金制度から移行すべき制度としては,厚生年金基金,確定拠出年金,確定給付企業年金,中退共があった。 (5)被告における他制度への移行ア第一生命は,平成15年2月,被告に対し,「退職金準備制度のご提案」と題する書面(乙第3号証)を交付し,被告の退職金準備制度を,適格退職年金制度から他の制度へ移行することを提案し,被告は,他制度への移行を検討した。 イ前記(4)エのとおり,適格退職年金制度から移行すべき制度としては,厚生年金基金,確定拠出年金,確定給付企業年金,中退共があ ら他の制度へ移行することを提案し,被告は,他制度への移行を検討した。 イ前記(4)エのとおり,適格退職年金制度から移行すべき制度としては,厚生年金基金,確定拠出年金,確定給付企業年金,中退共があった。 しかし,厚生年金基金は,設立要件として500名以上の正規従業員が必要であったため,被告においては採用されなかった。 確定拠出年金は,移行の条件として積立不足を解消するために相当額の- 11 -不足金の拠出を必要としたが,被告は相当額の不足金を拠出することができなかったため,採用されなかった。 確定給付企業年金は,予定利率を大幅に下げた制度であるため,従前の適格年金(予定利率5.5%のもの)を移行すると掛金が大幅に増大すること,積立不足の解消のために費用負担が更に増大することから,被告においては採用されなかった。 ウ被告は,中退共を採用することにしたが,その理由は,①掛金建ての制度であり確定拠出型の性格となっていること,②計算上の予定利率と実際の運用利率が等しいため今後の積立不足が発生しないこと,③既に積み立てられた基本退職金額は利率が引き下げられても既得権として保証されること,④掛金は損金として全額非課税であること,⑤採択時の予定運用利回りは1%でありかつ手数料がないため,他の金融商品に比べ有利であること,⑥中小企業法に定める中小企業のみ移行できることなどであった。 ただし,①現存する積立金をそのまま中退共に移行するだけでは積立不足の解消は解決されないこと,②中退共は掛金建てで掛金が固定的であるため,中退共だけでは被告が望む退職金額にそぐわないことから,中退共とともに企業内積立として養老保険を採用することとなった。養老保険は,①一定の要件(全員加入すること,原則全員一律の保険金額とすること)を満たすことで保険料の2分の1相当額を損金 いことから,中退共とともに企業内積立として養老保険を採用することとなった。養老保険は,①一定の要件(全員加入すること,原則全員一律の保険金額とすること)を満たすことで保険料の2分の1相当額を損金算入することができること,②福利厚生制度(死亡弔慰金と退職金制度)の充実を図ることができることなどの利点もあった。 (上記(2)ないし(5)につき,乙第3号証,第8号証,第13ないし第17号証)(6)被告における制度変更に伴う諸手続ア平成15年3月14日,被告の取締役会において,C社長が,退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命の養老保険に移行する- 12 -こと,役職定年を55歳から60歳に変更すること,これらのために就業規則の変更が必要であること,これにより60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明し,これらの事項は異議なく承認された。 イ平成15年3月17日,被告の部課長以上により構成される経営会議において,C社長が,前記アの取締役会におけるのと同様に,就業規則中の退職金に関する規定の変更の必要性とその内容などについて説明を行い,出席者から異議はなかった。 上記経営会議には,C社長,A専務,B総務課長,D課長のほか,営業課長であった原告が出席していた。 ウ平成15年3月18日,被告の全体の朝礼において,C社長,A専務が,全従業員に対し,退職金準備制度を適格退職年金制度から中退共及び第一生命の養老保険に移行すること,役職定年を55歳から60歳に変更すること,これらのために就業規則の変更が必要であること,これにより,中途退職すると退職金が現在より減額される場合があるが,60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明し,質問のある者はA専務に問い合わせ 必要であること,これにより,中途退職すると退職金が現在より減額される場合があるが,60歳の定年まで在職した場合の給料及び退職金の合計額が増額することなどを説明し,質問のある者はA専務に問い合わせるように伝えた。原告は,この朝礼に出席していた。 エ前記ウの朝礼における説明から2週間を経過するまでに,Bから,直ちに退職した場合の退職金の金額について問い合わせがあったが,それ以外には,従業員からの問い合わせはなかった。C社長は,平成15年4月1日,全体の朝礼において,改めて,就業規則中の退職金に関する規定の変更について質問等がないか尋ね,質問があればその場で申し出るように述べたが,誰も質問等をしなかった。 そこで,C社長は,従業員に対し,「従業員全員が退職金に関する規定の変更に関する報告,説明を理解し,その変更に同意したと解釈する。つ- 13 -いては,代表者を選任してその旨の意見書を提出してほしい」旨述べた。 D課長から,総務課長であるBを代表とするのが適当であるという推薦があり,出席者全員の挙手により,全員一致でBが代表に選ばれ,Bが従業員代表として意見書を提出することになった。原告は,この朝礼にも出席していた。 オBは,平成15年4月1日,従業員代表としてC社長宛に,就業規則中の退職金に関する規定の変更について異議がない旨の意見書を提出した。 被告は,同日,乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則とした。 カ平成15年8月1日,従業員の全員が,中退共の契約である中小企業退職金共済契約の申込書(勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部宛)に自筆で署名し又は押印した。原告も,同申込書に自筆で署名した。 (乙第4号証)キ平成15年8月26日,第一生命との間で養老保険の契約が締結され,同月29日,適格退職年金制度による積立金が中 部宛)に自筆で署名し又は押印した。原告も,同申込書に自筆で署名した。 (乙第4号証)キ平成15年8月26日,第一生命との間で養老保険の契約が締結され,同月29日,適格退職年金制度による積立金が中退共の掛金に移行され,中退共への移行が完了した。 (上記アないしキにつき,乙第18ないし第23号証)(7)中退共による退職金等の算出方法ア中退共から支給される退職金の金額は,別紙1(被告準備書面(6)(平成17年10月4日付)別紙)記載の計算方法により計算される。 イ第一生命の養老保険の解約返還金の金額は,別紙2(被告準備書面(6)(平成17年10月4日付)別紙)の「金額例表の見方と計算方法」,「1.解約返還金額の計算」に記載された計算方法により,別紙3(乙第7号証)に記載された各従業員ごとの契約内容に従い,別紙2に添付された「5年ごと利差配当付養老保険普通保険約款別表5解約返還金額例表(年・半年・月払)」(以下「金額例表」という。)を参照して計算される。なお,金額例表に記載されていない年齢,払込年数等に該当- 14 -する場合については,金額例表のみでは正確な金額は計算できないが,約款等に基づき,正確な金額を計算することは可能である。 (8)就業規則の変更前後の原告の退職金ア乙29就業規則による給料及び退職金乙29就業規則に基づき,原告が60歳の定年まで被告に在職したと仮定した場合に得られたであろう給料及び退職金を計算すると,次のとおりである。 (ア)給料a乙29就業規則では,従業員の定年は満60歳に達した誕生月の月末とされる一方,役職に就いている者の定年(役職定年)は満55歳に達した誕生月の月末とされていた。また,役職定年に達した者の給料額は,役職定年時の給料額の60%以上70%以下とするものとされていた。(乙2 る一方,役職に就いている者の定年(役職定年)は満55歳に達した誕生月の月末とされていた。また,役職定年に達した者の給料額は,役職定年時の給料額の60%以上70%以下とするものとされていた。(乙29就業規則64条)b原告は昭和▲年▲月▲日生まれであり,実際に退職した平成15年11月30日当時,課長の役職に就いていた。原告が退職しなかったとすれば,役職定年となるのは,平成17年11月30日であった。 被告における給料計算の締め日は毎月20日であるので,原告が役職定年となるとした場合に得られる給料は,平成17年12月分までとなる。そのため,原告が退職しなかったとすれば,役職定年までに,平成15年12月から平成17年12月までの25か月分の給料を得られたはずである。 原告の平成15年11月の給料は33万3920円であった。 したがって,原告が退職しなかったとすれば役職定年までに得られたであろう給料は,平成15年11月の給料に25か月を乗じた834万8000円(33万3920円×25か月=834万8000円)と計算される。 - 15 -c役職定年となる55歳から定年となる60歳までの間の給料は,役職定年時の給料額の60%以上70%以下とするものとされていたが(前記a),これを最も高い70%とすると,この間の原告の月額給料は,平成15年11月の給料の70%である23万3800円(33万3920円×0.7=23万3744円,10円の単位を切り上げ)となる。 原告が退職しなかったとすれば役職定年から定年までに得られたであろう給料は,上記23万3800円に5年間の60か月を乗じた1402万8000円(23万3800円×60か月=1402万8000円)と計算される。 dしたがって,原告が定年まで被告に在職したであろう場合に得られる給料額は,前 円に5年間の60か月を乗じた1402万8000円(23万3800円×60か月=1402万8000円)と計算される。 dしたがって,原告が定年まで被告に在職したであろう場合に得られる給料額は,前記bの834万8000円と前記cの1402万8000円の合計2237万6000円(834万8000円+1402万8000円=2237万6000円)と計算される。 (イ)退職金a退職金は,役職定年時に精算され,支払われる。 退職金は,退職直前の3か月間の平均1か月基準内賃金に勤続年数に応じた支給率を乗じた金額とされている。 b原告の実際の退職時である平成15年11月の基準内賃金(基本給と職務手当の合計額)は24万3420円(21万3420円+3万円=24万3420円)であった。(乙第28号証)c原告の役職定年までの勤続年数は,昭和50年3月から平成17年11月までの30年9か月であり,これに対応する支給率は30.2か月である(乙29就業規則73条別表1。勤続年数30年の支給率は30.0,勤続年数31年の支給率は30.2である。30.0+(30.2-30.0)×9/12≒30.2)。 - 16 -dしたがって,原告が定年まで被告に在職すれば役職定年時に得られたであろう退職金は,上記bの24万3420円に前記cの30.2を乗じた735万1284円(24万3420円×30.2=735万1284円)と計算される。 (ウ)原告が60歳の定年まで被告に在職したと仮定した場合に得られたであろう給料及び退職金は,前記(ア)dの2237万6000円と前記(イ)dの735万1284円の合計である2972万7284円(2237万6000円+735万1284円=2972万7284円)と計算される。 イ乙2就業規則による給料及び退職金乙2就業規則に基づ イ)dの735万1284円の合計である2972万7284円(2237万6000円+735万1284円=2972万7284円)と計算される。 イ乙2就業規則による給料及び退職金乙2就業規則に基づき,原告が60歳の定年まで被告に在職したと仮定した場合に得られたであろう給料及び退職金を計算すると,次のとおりである。 (ア)給料a乙2就業規則では,従業員の定年は満60歳に達した誕生月の月末とされている(乙2就業規則64条)。 b原告は昭和▲年▲月▲日生まれであり,平成15年11月30日に退職したが,退職しなかったとすれば,定年となるのは,平成22年11月30日であった。 被告における給料計算の締め日は毎月20日であるので,原告が定年となるとした場合に得られる給料は,平成22年12月分までとなる。そのため,原告が退職しなかったとすれば,定年までに,平成15年12月から平成22年12月までの85か月分の給料を得られたはずである。 原告の平成15年11月の給料は33万3920円であった。 したがって,原告が退職しなかったとすれば定年までに得られたで- 17 -あろう給料は,平成15年11月の給料に85か月を乗じた2838万3200円(33万3920円×85か月=2838万3200円)と計算される。 (イ)退職金a中退共の退職金適格退職年金制度から中退共への移行に伴う原告の適格退職年金の解約返還金は283万8429円であった。この解約返還金を中退共の掛金に充当した上で原告が満60歳の定年退職時に500万円の支払が受けられるようにするため,掛金を月額2万2000円とし,上記解約返還金のうち277万4640円を中退共の掛金に充当し,月額2万2000円の掛金を通算120か月納付したと同等の効果が発生することとされた。中退共への移行は, 掛金を月額2万2000円とし,上記解約返還金のうち277万4640円を中退共の掛金に充当し,月額2万2000円の掛金を通算120か月納付したと同等の効果が発生することとされた。中退共への移行は,平成15年8月1日付けで行われたから,同月分の掛金が,原告にとって121か月目の掛金とされた。 原告は,退職しなければ平成22年11月30日に定年となったが,被告における給料計算の締め日は毎月20日であるので,中退共の掛金も平成22年12月分まで掛けられることとなる。 そのため,原告は,退職しなければ,中退共の掛金の通算納付月数が209か月(120か月と,平成15年8月から平成22年12月までの89か月の合計は,209か月である。)となる。 通算209か月掛金を納付した場合の退職金額は,掛金1000円当たり22万9120円であり(乙第6号証),原告の掛金は2万2000円であるから,原告の中退共の退職金額は,504万0640円(22万9120円×(2万2000円÷1000円)=504万0640円)となる。 b養老保険- 18 -原告が60歳の定年まで勤務した場合の養老保険からの支払金額は,満期保険金300万円である(乙第7号証)。 c退職金額したがって,原告が退職しなかったとすれば定年時に得られたであろう退職金は,前記aの504万0640円と前記bの300万円の合計804万0640円(504万0640円+300万円=804万0640円)と計算される。 (ウ)原告が60歳の定年まで被告に在職したと仮定した場合に得られたであろう給料及び退職金は,前記(ア)bの2838万3200円と前記(イ)cの804万0640円の合計である3642万3840円(2838万3200円+804万0640円=3642万3840円)と計算される。 (9)原告 前記(ア)bの2838万3200円と前記(イ)cの804万0640円の合計である3642万3840円(2838万3200円+804万0640円=3642万3840円)と計算される。 (9)原告の退職ア原告は,平成15年11月,被告に退職願を提出し,同月30日,被告を退職した。 イ原告が退職願を提出した際,被告の会長,社長,専務は,原告を慰留し,その時点で退職すると退職金が288万円ほどであるのに対し,定年まで在職すると退職金が多くなる旨述べたが,原告は,被告を退職した。(乙第21号証)ウ原告は,退職を被告に申し出た後,有給休暇の期間中に,被告に対して就業規則を被告の会社外に持ち出すことを申し入れ,被告はこれを了承し,原告は乙2就業規則を被告の会社外に持ち出した。原告は,退職後に再度,被告に対して就業規則を被告の会社外に持ち出すことを申し入れたが,被告はこれに応じなかった。 (10)実際の退職時の退職金ア(ア)中退共の退職金- 19 -原告は平成15年11月30日に退職したから,中退共の掛金の通算納付月数は124か月(120か月と,平成15年8月から同年11月までの4か月の合計は,124か月である。)となる。 通算124か月掛金を納付した場合の退職金額は,掛金1000円当たり13万1000円であり(乙第6号証),原告の掛金は2万2000円であるから,原告の中退共の退職金額は,288万2000円(13万1000円×(2万2000円÷1000円)=288万2000円)となる。 (イ)養老保険の解約返還金原告の養老保険の解約返還金は5万5800円であった。(乙第9号証)(ウ)退職金額乙2就業規則による退職金の金額は,前記(ア)の288万2000円と前記(イ)の5万5800円の合計293万7800円である。 イ(ア 還金は5万5800円であった。(乙第9号証)(ウ)退職金額乙2就業規則による退職金の金額は,前記(ア)の288万2000円と前記(イ)の5万5800円の合計293万7800円である。 イ(ア)被告は,原告に対し,平成16年1月6日,前記(ア)の退職金288万2000円を支払った(前記第2,2(4)ア)。 (イ)養老保険の解約返還金第一生命は,平成15年12月19日,原告の養老保険につき返還の手続を取り,被告は,平成16年2月25日,内金5万2404円を原告の預金口座に振り込み(乙第10号証),同年9月3日,内金3396円を原告の預金口座に振り込み(乙第11号証),前記ア(イ)の5万5800円を支払った。 以上の事実が認められ,甲第3号証,原告本人尋問の結果のうち,この認定に反する部分は,上記の他の証拠に照らし,採用することができない。 争点(1)(就業規則の変更の有無)について(1)乙第2号証,第29号証によれば,乙29就業規則の末尾には,変更日- 20 -が「平成6年4月1日一部変更」,「平成9年4月1日一部変更」,「平成12年4月1日一部変更」と記載されているのに対し,乙2就業規則の末尾には,変更日が「平成6年4月1日一部変更」,「平成15年4月1日一部変更」と記載されているだけであり,乙2就業規則には,変更の経過がすべて記載されているわけではないことが認められる。 また,原告の実際の退職時の退職金は,乙29就業規則及び同就業規則80条の委任を受けた退職年金規程によれば1074万6530円(前記第2,2(3)イ)であるのに対し,乙2就業規則によれば中退共の退職金288万2000円と養老保険の解約返還金5万5800円の合計293万7800円(前記1(10)ア(ウ))であり,その点で乙29就業規則から乙2就業規則への 対し,乙2就業規則によれば中退共の退職金288万2000円と養老保険の解約返還金5万5800円の合計293万7800円(前記1(10)ア(ウ))であり,その点で乙29就業規則から乙2就業規則への変更は労働者にとって不利益になると解する余地がある。 (2)しかし,平成14年4月1日に確定給付企業年金法が施行され,全国の企業に対して,退職金準備制度を適格退職年金制度から他の制度への移行することが求められ,被告においても移行のための手続が採られ(前記1(4)ないし(6)),乙29就業規則を一部変更して乙2就業規則とされたものである。 また,原告が60歳の定年まで被告に在職したと仮定した場合に得られたであろう給料及び退職金は,乙29就業規則によれば2972万7284円(前記1(8)アc)と計算されるのに対し,乙2就業規則によれば3642万3840円(前記1(8)イc)と計算され,変更後の乙2就業規則による方が高額となる。 さらに,後記3のとおり,乙2就業規則は従業員に実質的に周知されていたものと認められる。 したがって,乙29就業規則から乙2就業規則への変更は合理性を有していたものと認められ,実際にも乙29就業規則が一部変更されて乙2就業規則が成立したものと認められる。 - 21 - 争点(2)(変更後の就業規則の有効性)について(1)弁論の全趣旨によれば,乙2就業規則は,労働基準監督署への届出が行われなかったと認められる。しかし,労働基準監督署への届出が行われなくても,そのことによって就業規則の効力の発生は妨げられないというべきである。 (2)ア労働基準法106条1項は,就業規則等を同項所定の方法により労働者に周知させなければならない旨規定する。しかし,同項所定の方法が採られていなくても,実質的に従業員に周知が図られていれば,就業 2)ア労働基準法106条1項は,就業規則等を同項所定の方法により労働者に周知させなければならない旨規定する。しかし,同項所定の方法が採られていなくても,実質的に従業員に周知が図られていれば,就業規則の効力の発生は妨げられないというべきである。 イ(ア)乙第19ないし第22号証,第25ないし第27号証,証人Aの証言,証人Bの証言には,被告の就業規則が休憩室の壁に掛けてあり,そのことを被告の従業員は知っていた旨の陳述がある。 (イ)もっとも,原告の陳述書である甲第3号証,原告本人尋問の結果には,被告の休憩室の壁に就業規則が掛けられていることはなかった旨の陳述がある。また,甲第4号証は,昭和48年3月から平成10年7月まで被告に勤務したEの陳述書,甲第5号証は,昭和56年から平成13年8月まで被告に勤務したFの陳述書,甲第6号証は,平成5年10月21日から平成13年2月まで被告に勤務したGの陳述書,甲第7号証は,平成7年から平成11年9月まで被告に勤務したH(旧姓○○)の陳述書であり,いずれにも,被告の休憩室の壁に就業規則が掛けられていることはなかった旨記載されている。 しかし,乙第31ないし第45号証によれば,E,F,Gは,被告から集配業務の委託を受けていた者であり,「嘱託」に該当し,就業規則の適用を受ける従業員ではなかったこと,Hは,パートタイマー従業員で,その他の従業員とは異なりパートタイマー就業規- 22 -則の適用を受ける者であり,被告からパートタイマー就業規則の交付を受けていたことが認められ,E,F,G,Hは,いずれも就業規則の適用を受ける従業員ではなかったことが認められるから,それらの者の就業規則に関する陳述は,直ちには信用し難い面がある。 また,E,F,G,Hらが被告に勤務していた時期は,上記のとおりであり,現在 則の適用を受ける従業員ではなかったことが認められるから,それらの者の就業規則に関する陳述は,直ちには信用し難い面がある。 また,E,F,G,Hらが被告に勤務していた時期は,上記のとおりであり,現在に最も近い時期まで勤務したFにしても,平成13年8月までであり,その後の事情を知る立場にはない。 (ウ)退職金準備制度の移行に関し,被告においては,朝礼での説明等が行われ,Bが従業員代表として意見書を提出し,中退共の契約の申込書に全従業員の自筆の署名又は押印がされたことなど(前記1(6))からすると,制度の変更及びそれに伴う就業規則の変更については,従業員に周知が図られたものと認められる。 そして,退職金準備制度の移行は被告にとって重大な事項であったはずであり,その移行の検討の中で,就業規則の変更の必要性が議論され,就業規則の変更を従業員に示すために就業規則の開示,設置等も意識されたはずであるから,そのための措置が採られたと解するのが自然である。 (エ)原告は,退職を被告に申し出た後,有給休暇の期間中に,被告に対して就業規則を被告の会社外に持ち出すことを申し入れ,被告はこれを了承し,原告は乙2就業規則を被告の会社外に持ち出したものであり(前記1(9)ウ),被告は,従業員の求めがあれば就業規則の会社外への持出し等に応じることができる態勢にあったと認められる。 (オ)乙第19号証,第21号証,第26,第27号証,証人Aの証言,証人Bの証言によれば,休憩室には,従業員であればだれでも自由に立ち寄ることができたことが認められ,就業規則が休憩室の- 23 -壁に掛けられていれば,従業員が自由に見ることができたものと認められる。 (カ)上記(ア)ないし(オ)の事情に鑑みれば,少なくとも退職金制度の移行に伴って変更された乙2就業規則については, 3 -壁に掛けられていれば,従業員が自由に見ることができたものと認められる。 (カ)上記(ア)ないし(オ)の事情に鑑みれば,少なくとも退職金制度の移行に伴って変更された乙2就業規則については,休憩室の壁に掛ける方法により従業員の閲覧に供されていたものと認められ,実質的に従業員に周知されていたものと認められる。 ウ前記イ(オ)のとおり,就業規則が休憩室の壁に掛けられていれば,従業員は自由に見ることができたから,休憩室の壁に掛けるという方法は,労働基準法106条1項の「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること」に該当すると解される。また,仮に同項所定の周知方法に該当しないとしても,乙2就業規則は従業員に実質的に周知されていたものと認められる。 したがって,乙2就業規則は効力を有しているものと認められる。 争点(3)(退職年金規程の有効性)について(1)前記3(1),(2)ウのとおり,乙2就業規則は効力を有しているというべきである。 (2)ア乙2就業規則は,退職金の金額につき,73条で,「中小企業退職金共済制度と第一生命保険相互会社の養老保険への加入を行い,その支払額とする」旨定めているが,中退共の退職金及び第一生命の養老保険の解約返還金の計算方法は,約款等により決められており,その計算方法に従ってそれらの金額を計算することは可能であり,乙2就業規則73条に定める退職金の額を計算することは可能である(前記1(7),(8),(10))。 イ労働基準法89条3号の2は,退職手当の定めをする場合には,就業規則に「退職手当の計算に関する事項」を定めなければならない旨規定する。ここでいう「退職手当の計算に関する事項」には,退職手当の計- 24 -算方法が含まれると解されるが,退職手当の金額の算出に必要なすべての事項を 算に関する事項」を定めなければならない旨規定する。ここでいう「退職手当の計算に関する事項」には,退職手当の計- 24 -算方法が含まれると解されるが,退職手当の金額の算出に必要なすべての事項をいうのではなく,退職手当の計算方法を客観的に特定するために必要な事項が示されていれば足りるものと解される。退職手当の計算は,実際上複雑な場合があり,その計算に必要なすべての事項を就業規則に定めるのは困難であるが,他方,労働者の保護などの観点からは,退職手当の計算方法を客観的に特定するに足りる事項は,就業規則に定める必要があると解されるからである。 ウ前記アのとおり,中退共の退職金及び第一生命の養老保険の解約返還金の額を計算することは可能であるから,乙2就業規則73条に定められた退職金の額を計算することは可能であり,同条は,退職手当の計算方法を客観的に特定するに足りる事項を定めているものと認められる。 したがって,乙2就業規則73条は,労働基準法89条3号の2が定める「退職手当の計算に関する事項」の規定に該当するものと解され,乙2就業規則は,73条を含めて有効と認められる。そのため,乙2就業規則に変更される前の乙29就業規則及び同就業規則の委任を受けた退職年金規程が効力を有しているということはない。 争点(4)(未払の退職金の有無)について(1)乙2就業規則73条によれば,被告の退職金は,中退共の退職金と第一生命の養老保険の解約返還金である(前記1(10)ア)。そして,原告の中退共の退職金額は288万2000円であり,被告は,原告に対し,これを支払った(前記1(10)イ(ア))。また,第一生命の養老保険の解約返還金は5万5800円であり,被告は,原告に対し,これを支払った(前記1(10)イ(イ))。 (2)したがって,被告は,原告に対 支払った(前記1(10)イ(ア))。また,第一生命の養老保険の解約返還金は5万5800円であり,被告は,原告に対し,これを支払った(前記1(10)イ(イ))。 (2)したがって,被告は,原告に対して支払うべき退職金を既に全額支払っており,未払の退職金はない。 結論 - 25 -よって,原告の請求は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。 長野地方裁判所松本支部裁判官中平健
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