主文 1 被告人を懲役7年に処する。 2 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は、平成9年5月、自分の両親の反対を押し切ってA子と婚姻し、妻の姓を称してA子の実家でA子の母らと共に生活するようになり、婚姻前に博打に手を出して作ったサラ金からの借金を一旦は返済したものの、その後もパチンコに明け暮れる生活を続け、サラ金から合計約300万円の借入れをし、平成10年4月2日、A子との間に長男をもうけたものの、その数か月後には当時の勤務先を退職したうえ、自分で会社を設立して事業を始めるなどと周りに話し、A子の母から2回にわたり約500万円を借り受けたほか、A子をして資材購入名目でサラ金から合計150万円の借入れをさせ、友人からも借金するなどして多額の金を集めたのに、事業を始めるのに必要な行動を何らとることなく、集めた金をパチンコ等で費消し、さらに、友人からの借金の返済やパチンコの軍資金を得るため友人からの新たな借金を繰り返していたため、その借入金額は合計2600万円以上にも達した。 被告人は、平成12年4月頃、A子の母に対し会社を設立する話は嘘であり先物取引で金を使ったと説明したことなどから、同年5月にA子と離婚するに至り、元の姓に戻って自分の実家で生活していた。 しかるに、A子が離婚の約1か月後に長男を連れて被告人の許に来たため、被告人は、再びA子らと一緒に暮らすことを決意し、福井県内で賃貸アパートを借りて3人で生活を始めたが、この頃には、被告人の借金返済のために必要な金額は月額約20万円に達していた。被告人は、働いて稼ぐ給料全額を借金返済に充てるくらいなら、好きなパチンコをして毎月の返済資金を稼ごうと考え、職に就かないま 頃には、被告人の借金返済のために必要な金額は月額約20万円に達していた。被告人は、働いて稼ぐ給料全額を借金返済に充てるくらいなら、好きなパチンコをして毎月の返済資金を稼ごうと考え、職に就かないまま、毎日パチンコに明け暮れる生活を続けたが、当然のことながら思うようにパチンコで稼げなかったことから、友人からの新たな借金を重ねたため、平成13年3月頃には毎月必要な返済金額が約50万円にも達し、その資金繰りの目処が立たなくなった。そこで、被告人とA子は、対処を話し合った結果、親子3人で心中するという結論に達し、長男を連れて九州へ赴き、それぞれの親に遺書を送るなどしたが、結局、心中するには至らず、被告人は上記アパートに一人で戻り、A子と長男はA子の実家で被告人と別れて暮らすことになった。 その際、当時合計約1870万円に達していた被告人の借金は、被告人の父が750万円を支出してその一部を返済し、残額の約1120万円は被告人が6年間で分割返済することとなったが、被告人は、相変わらず、働いて稼ぐ給料で借金を返済するのは無理だからパチンコで稼いだ金や友人からの新たな借金で返済しようと考え、職に就こうともしないままパチンコ三昧の生活を続けていた。 他方、A子は、平成13年9月頃、同居中の実家の母に対し長男を連れて被告人の許へ行くと言い出し、母の説得により長男を連れて行くことは思いとどまったものの、長男を実家に残して上記アパートへ赴き、被告人と二人で生活するようになり、それまで勤務していた病院で働く一方、パチンコ三昧の怠惰な生活を続ける被告人とともに、借金返済資金が不足すると、適当な口実を告げて友人に借金を申し込むなどしたが、生活が好転する兆しは全くなかった。 しかるに、A子は、平成14年10月頃、長男を実家から上記アパートに引き取って3人での 返済資金が不足すると、適当な口実を告げて友人に借金を申し込むなどしたが、生活が好転する兆しは全くなかった。 しかるに、A子は、平成14年10月頃、長男を実家から上記アパートに引き取って3人での生活を始め、その頃からA子の母に対し借金の整理等のために金を無心するようになり、平成15年1月には、父が残した財産のうちから700万円を受領し、そのうちの約300万円で被告人が友人からの借金の一部を返済したものの、借金の整理も成功せず、A子が調達した金も平成15年3月頃に底をついたため、被告人は、友人から新たな借金をしてパチンコの軍資金や借金の返済に充てたが、同年7月頃には借金返済資金はもとより生活費までも不足する状態となった。 平成15年8月25日、被告人とA子は、手持ちの現金も2万円を切るに至って経済的には完全に破綻したため、その日の朝、A子が長男を保育園に送り届けたのち、上記アパートでこれからどうするか話し合ったところ、A子が3人一緒に心中しようと持ちかけたので、A子の心中するとの決意を翻意させることができなかった被告人は、最終的にこれに同意した。同日夜、被告人とA子は、長男が寝た後に心中の方法について話し合い、長男の首を絞めて殺したのち二人で自殺することとし、自分たち及び長男が人生を終える旨を記載した遺書を作成した。 (犯罪事実)被告人は、A子と共謀のうえ、長男(当時5歳)を殺害しようと決意し、平成15年8月26日午前1時頃、当時の被告人方である福井県内のアパートの6畳和室において、A子が、就寝中の長男の頸部を両手で絞めて気道を閉塞し、A子の求めに応じた被告人が、顔を左右に振るなどして抵抗する長男の鼻や口を覆うように、4つ折りにした重さ約428グラムのバスタオル1枚を被せて、鼻口部を閉塞するなどし、よって、その頃同所において、長 子の求めに応じた被告人が、顔を左右に振るなどして抵抗する長男の鼻や口を覆うように、4つ折りにした重さ約428グラムのバスタオル1枚を被せて、鼻口部を閉塞するなどし、よって、その頃同所において、長男を窒息により死亡させたものである。 (法令の適用) 1 罰条刑法60条、199条 2 刑種の選択有期懲役刑 3 未決勾留日数の算入刑法21条 4 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の事情) 1 本件は、被告人がパチンコに明け暮れる怠惰な生活を続けた結果、多額の借金を抱えて生活が破綻し、同居中の元妻から持ちかけられた一家心中に同意し、元妻と共謀のうえ、当時5歳であった長男の首を絞めるなどして殺害した事案である。 被告人と元妻が一家心中を決意するに至る最大の原因は、被告人が、過去に借金の返済に行き詰まったことがあるのに、相変わらず借金を重ねてパチンコに明け暮れるという無計画かつ怠惰な生活を続けたことにある。しかも、長男の生命だけは助けることを真剣に検討しようともせず、元妻が提案した一家心中に同意した点は、長男に対する親としての責任を放棄したに等しいものと断ぜざるをえない。しかるに、被告人は、当公判廷においてもなお、破綻を回避しなかったことや長男を助けなかったことについて弁解に終始し、本件犯行に至る自己の責任をいまだに直視しようとはしない。 また、長男の就寝中に両手でその首を絞め、その口と鼻をタオルで塞ぐという犯行態様は残忍かつ悪質である。経済的破綻に何らの責任もない長男は、この世の中で最も信頼したであろう被告人ら両親に裏切られ、その手で殺害されたのである。長男を道連れにするという被告人らの自己中心的な考えの犠牲となって、いまだ5歳という幼さでこの世を去ることになった長男の無念さ 最も信頼したであろう被告人ら両親に裏切られ、その手で殺害されたのである。長男を道連れにするという被告人らの自己中心的な考えの犠牲となって、いまだ5歳という幼さでこの世を去ることになった長男の無念さは察するに余りあり、本件犯行の結果は重大である。のみならず、長男の死体は、5日間も室内に放置されたことにより腐敗が進行し、発見時には無惨な姿を晒していたのであって、長男は、殺害された後も両親にその尊厳を踏みにじられたというべきである。 なお、被告人は、平成15年8月31日に自首したものであるが、元妻と数回自殺を試みたものの死にきれず、その後元妻が一人で自殺した後に自首したという経緯に照らせば、その自首は、長男殺害を反省悔悟してその責任を受け止めようと決意した結果というよりは、元妻の自殺により途方に暮れて警察に出頭した面が大きいものと認められる。 これらの事情によれば、被告人の本件犯行による刑事責任は相当に重い。 2 他方、本件犯行の立案及び実行において主導的な役割を果たしたのは元妻であり、怠惰な生活を続ける被告人の許に長男を連れてきたのも元妻である。また、長男の命を助ける努力をしなかったのは被告人と元妻の両名である。これらの事情に照らし、被告人のみを親としての責任を怠ったとして非難することはできない。 しかも、被告人は、これまで道路交通法違反による罰金以外に前科がなく、長男を殺害したこと自体は一貫して認めたことなど、被告人のために斟酌すべき情状もないではない。 3 以上の事情のほか諸般の事情をも考慮して、主文のとおり量刑した。 平成16年2月26日福井地方裁判所刑事部裁判長裁判官松永眞明裁判官中山大行 平成16年2月26日福井地方裁判所刑事部裁判長裁判官松永眞明裁判官中山大行裁判官松本展幸
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