令和2(ワ)3686 取消料支払請求事件、取消料支払請求承継参加事件

裁判年月日・裁判所
令和4年2月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文14,073 文字)

令和4年2月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第3686号取消料支払請求事件令和3年(ワ)第4026号取消料支払請求承継参加事件口頭弁論終結日令和3年12月10日判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 承継参加人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告及び承継参加人の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告の請求被告らは,原告に対し,連帯して,150万0803円及びこれに対する令和2年7月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 承継参加人の請求 被告らは,承継参加人に対し,連帯して,150万0803円及びこれに対する令和2年7月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,ホテルを運営していた原告が,被告らとの間で結婚披露宴契約を締結したところ,結婚披露宴日の90日以内に被告らから上記契約を解約する旨の申 出がされたとして,被告らに対し,上記契約に基づき,上記契約の規約の定めに従い算定された取消料から既払分である申込金及び実費を控除した残金150万0803円及びこれに対する,原告の被告らに対する上記残金の支払請求に係る支払期限の翌日である令和2年7月6日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお,原告は,本件提訴後 の令和3年7月1日,承継参加人に対し,原告のホテル・料飲事業に関する権利 義務を吸収分割により承継させ,これにより,承継参加人は,本件訴えに係る原告の被告らに対する請求権を承継取得した。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨により容易に 義務を吸収分割により承継させ,これにより,承継参加人は,本件訴えに係る原告の被告らに対する請求権を承継取得した。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告は,名古屋市において宿泊業等を行う株式会社である。承継参加人は, 宿泊施設の経営等を目的とする株式会社である。 (2) 被告らは,令和元年9月16日,原告の運営する名古屋観光ホテルで結婚披露宴(以下,単に「披露宴」という。)を開くことを考え,同ホテルを訪れた。 原告の担当者は,被告らから,料理や挙式,衣装等の意向を確認し,被告らに見積書(甲1。以下「甲1の見積書」という。)を提示した。被告らは,甲1の 見積書を確認した上で結婚披露宴規約(甲2の3。以下「本件規約」という。)に同意し,披露宴の申込みをし,申込金20万円を支払った。これにより,原告と被告らとの間で,挙式日を令和2年6月14日,披露宴会場を名古屋観光ホテルの「那古の間」,披露宴出席予定者数を130名とする結婚披露宴利用契約(以下「本件契約」という。)が締結された。披露宴開催までのおおよその 予定としては,令和2年3月23日に招待状の準備等についての打合せを行い,同年4月中頃に招待客宛てに招待状を発送し,披露宴開催の45日前頃から披露宴の詳細についての打合せを行うこととされた(甲8)。 (3) 披露宴の取消料に関して定めた本件規約5項(以下「本件取消料条項」という。)には,披露宴日の90日以内の披露宴の取消しの場合,申込金の全額と見 積金額(見積金額が提示されていない場合は,計算基準額)の30%及び実費を,申込者である被告らが取消料として原告に支払う旨が定められている。なお,本件規約12項には,「当ホテルの契約解除権」として,「③天 (見積金額が提示されていない場合は,計算基準額)の30%及び実費を,申込者である被告らが取消料として原告に支払う旨が定められている。なお,本件規約12項には,「当ホテルの契約解除権」として,「③天災または施設の故障,その他やむを得ない事由により宴会場等を使用することができなくなった場合」等には契約を解約することがある旨の定めがある。(甲2の3) (4) 令和2年3月23日,被告らは,招待状の準備等についての打合せのため名 古屋観光ホテルを訪れ,招待状の手配を依頼した。披露宴の招待客には,東海地区だけでなく,九州,四国,関西,北陸,関東又は東北の各地区の居住者も含まれていた。当時,新型コロナウイルスの感染が広がりつつあったため,被告A(以下「被告A」という。)は,原告の担当者に対し,参加人数が減る可能性もあることを伝えた。(乙1から3まで,被告A本人調書8頁) (5) 令和2年4月初め頃,被告Aは,完成した招待状を受け取るため,名古屋観光ホテルを訪れた。その際,被告Aは,新型コロナウイルスの感染の関係で披露宴を予定どおり開催することができない可能性もあると考え,原告の担当者に本件契約を解約した場合にどうなるかを尋ねたところ,初期の見積金額の30%の取消料が発生するとの回答であった。(乙1,被告A本人調書9~10 頁)(6) 令和2年4月7日,対象区域を埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,大阪府,兵庫県及び福岡県とし,実施期間を同日から同年5月6日までとする新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が発令された(甲25の1及び同2)。 (7) 被告らは,令和2年4月8日,原告に対し,本件契約の解約(以下「本件解 約」という。)の申出をした。 (8) 令和2年4月16日,対象区域を全都道府県とし, (甲25の1及び同2)。 (7) 被告らは,令和2年4月8日,原告に対し,本件契約の解約(以下「本件解 約」という。)の申出をした。 (8) 令和2年4月16日,対象区域を全都道府県とし,実施期間を同年5月6日までとする新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が発令された。 令和2年5月4日,上記緊急事態宣言が同月31日まで延長された。 令和2年5月14日,上記緊急事態宣言の対象区域が,北海道,埼玉県,千 葉県,東京都,神奈川県,京都府,大阪府及び兵庫県に変更された。 令和2年5月21日,上記緊急事態宣言の対象区域が,北海道,埼玉県,千葉県,東京都及び神奈川県に変更された。 令和2年5月25日,上記緊急事態宣言について,緊急事態が終了した旨の宣言がされた。 (9) 被告らは,令和2年6月9日,原告に対し,招待状の実費相当額である7万 3920円を支払った。 (10) 原告は,令和2年6月25日,被告らに対し,本件解約に伴う,本件取消料条項に基づく披露宴の取消料(以下「本件取消料」という。)の残金として,同年7月5日までに150万2992円を支払うよう請求した。 (11) 承継参加人は,令和3年7月1日,原告から,ホテル・料飲事業を吸収分割 により承継し,これにより,本件訴えに係る原告の被告らに対する請求権を取得した(弁論の全趣旨)。 2 本件の争点(1) 本件解約が本件取消料条項の適用対象外であるか(争点(1))(2) 本件取消料条項が消費者契約法9条1号により無効であるか(争点(2)) (3) 本件取消料の基礎となる「見積金額」が定まっていたか(争点(3)) 3 争点に対する当事者の主張(1) 本件解約が本件取消料条項の適用対象外である であるか(争点(2)) (3) 本件取消料の基礎となる「見積金額」が定まっていたか(争点(3)) 3 争点に対する当事者の主張(1) 本件解約が本件取消料条項の適用対象外であるかア被告らの主張本件取消料条項は,平時において,利用者の都合で契約を取り消す場合を 想定しており,いわゆる天災地変等で披露宴の開催が事実上不可能になったような場合は想定されていない。被告らがやむを得ず本件解約をしたのは,新型コロナウイルス感染症がまん延し,緊急事態宣言が発出され,大人数を招待しての披露宴の開催が事実上不可能と思われる状況に追い込まれたからであり,新型コロナウイルス感染症のまん延という不測の事態さえ生じな ければ,予定どおり原告において披露宴を開催していた。 令和2年4月当時,新型コロナウイルスは,毒性の強い未知のウイルスとして世間に多大な脅威を及ぼし,政府からも,感染拡大につながるとされる大人数での集会や酒食を伴う宴会等を回避するよう全国的に要請されていた。被告らは,そのような中で,仮に披露宴開催を決行しそれが原因で集団 感染(クラスター)を発生させるようなことになれば,列席者に多大な迷惑 をかけるだけでなく,原告の信用も毀損しかねず,自らの業務にも少なからず影響が出るであろうと考え,やむなく本件解約をしたのであり,当時の状況下で被告らの上記対応は極めて常識的である。なお,披露宴の期日変更については,列席予定者の都合や,被告Aの僧侶という職業柄,友引の日を選ぶ必要があったこと,本件解約当時,新型コロナウィルスの感染状況は終息 の目処が全く立っておらず,大人数での宴会を安心して行うことができるようになる時期など全くわからない状況であったこと,にもかかわらず原告 たこと,本件解約当時,新型コロナウィルスの感染状況は終息 の目処が全く立っておらず,大人数での宴会を安心して行うことができるようになる時期など全くわからない状況であったこと,にもかかわらず原告は少人数での開催を拒絶し大人数での開催にこだわっていたこと等から,代替の候補日が決まらず期日変更は実質的に不可能であった。 いわゆる天災地変の際に原告側が契約を解除することができる旨を定め た本件規約12項には取消料等の記載がないことも考慮すれば,被告らによる本件解約も,本件取消料条項が想定する場合でない。したがって,本件解約に本件取消料条項は適用されず取消料等は発生しないのに,本件取消料条項を適用して被告らに本件取消料を請求するのは権利の濫用に当たる。 イ原告及び承継参加人の主張 民法上,直ちに契約を解除することができる「やむを得ない事由」とは,契約を直ちに終了させなければ当事者の一方が耐え難い不利益を被ることになるような場合をいう(民法628条参照)。本件では,被告らが本件解約の申出をした令和2年4月8日時点で,愛知県に緊急事態宣言は発令されておらず,また,7都府県に発令された緊急事態宣言は同年5月6日までで あったから,同年6月14日に披露宴を行うことは十分可能であり,上記時点で契約を直ちに終了させなければ被告らが耐え難い不利益を被ることになるような事情はなかった。実際,令和2年5月14日には愛知県に対する緊急事態宣言は解除され,同月25日には全国で緊急事態宣言が解除され,披露宴予定日の2日後である同年6月16日にはGoToトラベルキャン ペーンの概要が発表されていた。被告らが予定していた披露宴の参加者は, 9割以上が令和2年4月8日時点で緊急事態宣言の発令されていな である同年6月16日にはGoToトラベルキャン ペーンの概要が発表されていた。被告らが予定していた披露宴の参加者は, 9割以上が令和2年4月8日時点で緊急事態宣言の発令されていない地域に居住する者であり,緊急事態宣言が発令された地域の居住者であっても披露宴への参加が制限されていたわけではなく,原告としても,感染対策を講じ,規模縮小にも応じていた。以上によれば,令和2年6月14日に披露宴を開催することは十分に可能であったものであり,新型コロナウィルス感染 症のまん延は,「やむを得ない事由」に該当しない。 原告には,本件取消料の請求により,被告らを害する意図や不当な利益を獲得しようとする意図がなかっただけでなく,被告らに対し本件取消料を請求しなくて済むように披露宴の延期や規模縮小の提案を複数回にわたり行っていた。被告らに,披露宴の延期や規模縮小にも応ずることのできないや むを得ない事情があったとはいえないから,原告の被告らに対する本件取消料の請求について権利濫用と解し得る事情は存しない。 (2) 本件取消料条項が消費者契約法9条1号により無効であるかア被告らの主張新型コロナウィルスの影響により,全国的に,大人数での宴会等は開催が 自粛されるようになり,原告においても,令和2年4月から同年7月頃までに予定されていた披露宴は,家族や親族のみの少人数のもののみであり,それ以外は一切開催されなかった。したがって,少なくとも上記時期においては,被告らが仮に披露宴の予約をしていなかったとしても,原告が甲1の見積書に記載されるような内容の披露宴を令和2年6月14日に開催して利 益を得ることができた可能性は皆無であった。本件取消料条項は本来期日変更の場合であっても適用されるも しても,原告が甲1の見積書に記載されるような内容の披露宴を令和2年6月14日に開催して利 益を得ることができた可能性は皆無であった。本件取消料条項は本来期日変更の場合であっても適用されるものであるのに,原告自身,期日変更の場合は取消料を請求しないという対応をしていたこと自体,これを裏付けている。 そうである以上,本件取消料条項は,本件披露宴の開催予定日であった令和2年6月14日及び被告らが本件解約の申出をした同年4月8日のいずれ の時点においても,平均的損害を超える状態となっていたといえる。したが って,本件取消料条項は,消費者契約法9条1号により無効となる。 イ原告及び承継参加人の主張本件取消料条項による取消料は,民法420条の賠償額の予定であり,消費者契約法9条1号の「平均的な損害」は逸失利益も含むものである。そして,上記「平均的損害」に含まれる逸失利益は,契約が解約されなかったと した場合に得べかりし利益であり,その算定はサービス料を含む解約時見積額に,契約に係る粗利率を乗じることで行うのが合理的である。したがって,本件契約に係る披露宴の予定日であった令和2年6月14日の前後3箇月間,名古屋観光ホテルの「那古の間」からは全く利益が生み出されていないとする被告らの主張を前提としても,平均的損害の計算に影響するものでは ない。本件取消料合計157万4723円は,被告らの平均的損害(解約時の見積額の平均に粗利率を乗じた金額)である177万8951円を超えないから,消費者契約法9条1号によっても有効である。 (3) 本件取消料の基礎となる「見積金額」が定まっていたかア原告及び承継参加人の主張 本件取消料は,解約申出時の見積り(令和2年4月12日発行 っても有効である。 (3) 本件取消料の基礎となる「見積金額」が定まっていたかア原告及び承継参加人の主張 本件取消料は,解約申出時の見積り(令和2年4月12日発行の見積書[甲3]。以下「甲3の見積書」という。)を基準に算定したものであり,①婚礼取消料(申込金全額)20万円,②婚礼取消料(甲3の見積書の見積金額[ただし,計上漏れの招待状筆耕料3万2240円を加算し,二重計上された手提袋料4万1600円を控除した金額]の30%相当額)150万0803円 及び③招待状(実費作成分)7万3920円の合計額である。 令和元年9月16日に作成された甲1の見積書は,被告らが原告の担当者に対し,披露宴の内容,要望等を詳しく話し,担当者が更に被告らと質疑応答しながら作成したものである。そして,被告らは,その内容を確認し了解した上で「結婚式・披露宴申込書」(甲2の1)に署名したから,甲1の見積 書は被告らの意図した披露宴の内容の詳細が反映されている。その後,被告 らは原告に対し披露宴内容を一部変更する申入れをしており,これらを反映した本件解約申出時の見積りは甲3の見積書である。 原告は,被告らから本件解約について相談された際,被告らに対し甲3の見積書に基づく取消料の概算(約150万円)を伝えており,併せて延期の場合は取消料を請求しないことを伝え延期を勧めていた。 イ被告らの主張披露宴の申込みに当たって,通常,申込みの時点から披露宴の詳細について打合せを行うということはなく,披露宴当日の2箇月ないし3箇月前から詳細な打合せを重ね,これに基づき詳細な見積りを作成するものである。 被告らが原告に対して本件契約の申込みをした令和元年9月16日の際 はなく,披露宴当日の2箇月ないし3箇月前から詳細な打合せを重ね,これに基づき詳細な見積りを作成するものである。 被告らが原告に対して本件契約の申込みをした令和元年9月16日の際 も,詳細な打合せは追って行うことを前提に,招待客の大まかな人数を伝えた上で,原告において用意されているプランのうち一般的に採用されやすいプランに基づき甲1の見積書が作成されたにすぎない。そして,例えば,甲1の見積書に記載のある「花嫁車 30,000円」について,被告らは即座に不要である旨を原告の担当者に伝えたが,甲3の見積書でも上記金額が 加算されている。そもそも被告らは,本件解約の前に甲3の見積書を提示されたこともないが,解約に伴い取消料を請求する以上,解約しようとする消費者にとって解約した場合にいくらの取消料が請求されるのかが明確にされている必要がある。被告らが原告に対し本件解約を申し出た時点では,概算で作成された甲1の見積書が提示されていたにとどまるから,本件解約の 時点で取消料算定の基礎となる「見積金額」は存在していなかった。 本件取消料条項にも,見積金額が提示されていない場合は申込書記載の人数1 人当たり2万5000円とする計算基準額を適用する旨が定められているが,これは申込時点では詳細な見積りが作成されていないことから,詳細な打合せに基づく正式な見積書が作成されるまでは計算基準額を適用し て取消料額を算出すべきことを定めたものと解するのが相当である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件解約が本件取消料条項の適用対象外であるか)について(1) 被告らは,本件取消料条項は平時に利用者の都合で契約を取り消す場合を想定したものであり,いわゆる天災地変等で披露宴の開催が事実上不可能 解約が本件取消料条項の適用対象外であるか)について(1) 被告らは,本件取消料条項は平時に利用者の都合で契約を取り消す場合を想定したものであり,いわゆる天災地変等で披露宴の開催が事実上不可能になった場合は想定されていない旨主張するので,この点についてまず検討する。 本件取消料条項は,「ご契約いただきましたご披露宴の取消,または期日変更の場合は下記の取消料を頂戴いたします。」として,取消料について,「披露宴日の365日以前の場合」は「申込金の20%及び実費」,「披露宴日の180日以前の場合」は「申込金の50%及び実費」,「披露宴日の150日以内の場合」は「申込金の全額と見積金額(計算基準額)の10%及び実費」,「披露 宴日の90日以内の場合」は「申込金の全額と見積金額(計算基準額)の30%及び実費」,「披露宴日の60日以内の場合」は「申込金の全額と見積金額(計算基準額)の40%及び実費」,披露宴日の30日以内の場合」は「申込金の全額と見積金額(計算基準額)の50%及び実費」,「披露宴日の7日以内の場合」は「申込金の全額と見積金額(計算基準額)の80%及び実費」,「披露宴前日・ 当日の取消」は「披露宴見積金額の全額」と定めており(甲2の3),利用者による取消し等の時期に応じて,利用者に,申込金及び実費に加え,見積金額(計算基準額)を基準とした一定割合の金額を支払うべき義務を負わせている。一般的に,利用者側の事情で披露宴利用契約が解約されると,原告は披露宴の開催により得られたであろう利益を得られなくなるなどの損害を被るから,契約 を解約した利用者にその損害を補填させる必要があり,本件取消料条項はこれを定めたものと解される。 他方,本件規約12項は,「当ホテルの契約解除権」として,「天災または 被るから,契約 を解約した利用者にその損害を補填させる必要があり,本件取消料条項はこれを定めたものと解される。 他方,本件規約12項は,「当ホテルの契約解除権」として,「天災または施設の故障,その他やむを得ない事由により宴会場等を使用することができなくなった場合」等には契約を解約することがあるとして,原告の解約権を定めて いるが(前提事実(3)),取消料等については何らの定めもないから,本件規約 12項に基づき原告が契約を解約する場合は,契約の他方当事者である利用者に対する損害賠償は予定されていないものと解される。本件規約12項は原告が契約を解約する場合についてのみ定めたものであり,利用者について同様の定めは本件規約に存しない。しかし,天災等,やむを得ない事由により利用者が契約を解約した場合においても本件取消料条項がそのまま適用されるとす ると,解約について利用者側に帰責事由がないにもかかわらず利用者側の負担によって事業者である原告が通常どおり損害の補填を得られることになり,損害の衡平な分担の観点から妥当でなく,特に本件規約(結婚披露宴規約)の場合,利用者は常に個人であるから,個人の負担において事業者側のみを保護することになる点で相当でない。なお,本件取消料条項について,原告は民法4 20条の損害賠償額の予定を定めたものである旨主張するが,同条の損害賠償額の予定が合意された場合であっても,債務の不履行が不可抗力によるものであるなど債務者に帰責事由がないと認められる場合は,債務者は損害賠償額の支払を免れると解するのが相当である。 そうすると,利用者による契約の解約等について本件規約12項のような定 めはないものの,利用者による契約の解約等について利用者側に帰責事由がないと認 を免れると解するのが相当である。 そうすると,利用者による契約の解約等について本件規約12項のような定 めはないものの,利用者による契約の解約等について利用者側に帰責事由がないと認められる場合は,本件取消料条項の想定する場面ではなく,その適用の対象にならないと解するのが相当である。 (2) そこで,本件解約について,被告らに帰責事由がなく,本件取消料条項の適用の対象にならないと認められるか否かにつき,以下検討する。 ア本件解約の理由について,被告らは,新型コロナウイルス感染症のまん延という不測の事態が生じ,大人数を招待しての披露宴の開催が事実上不可能と思われる状況に追い込まれたためやむを得ずにしたものである旨主張し,被告Aはこれに沿う旨述べる(被告A本人調書10,14頁)。これに対し,原告及び承継参加人は,被告らが本件解約の申出をした時点(令和2年4月 8日)では愛知県に緊急事態宣言は発令されていなかったこと,同時点で7 都府県を対象に発令されていた緊急事態宣言も(披露宴が予定されていた同年6月14日より前の)同年5月6日までであったこと等から,同年6月14日に披露宴を開催することは十分可能であり,上記時点で本件契約を直ちに解約せざるを得ない状況にはなかった旨主張する。 イ新型コロナウイルス感染症は,令和元年12月に中華人民共和国において その発生が報告されて以来,世界各地で感染の報告がされるようになり,令和2年3月11日には世界保健機構(WHO)により新型コロナウイルス感染症はパンデミック(世界的な大流行)の状態にある旨の表明がされた(甲26等)。 日本国内でも,令和2年1月以降,新型コロナウイルスの感染が広がり始 め,集団感染(クラスター)も確 染症はパンデミック(世界的な大流行)の状態にある旨の表明がされた(甲26等)。 日本国内でも,令和2年1月以降,新型コロナウイルスの感染が広がり始 め,集団感染(クラスター)も確認されるようになったため,同年3月頃から,新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために「3つの密(密閉,密集,密接)」を避けて行動するよう繰り返し要請されるほか,不要不急の外出や県をまたいだ移動の自粛が要請されるようになった。そして,令和2年4月7日に7都府県を対象区域とする緊急事態宣言が発令され(前提事実(6)), 同月16日には全都道府県を対象区域とする緊急事態宣言が発令された(同(8))。 ウ被告らは,上記7都府県を対象区域とする緊急事態宣言が発令されたその翌日である令和2年4月8日に原告に対し本件解約の申出をしているが(前提事実(7)),当時,新型コロナウイルスについては,解明されていない部分 の多い未知のウイルスであるとの受け止めが一般的にされており,上記緊急事態宣言においては,「(新型コロナウイルス感染症については)国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあり,かつ,全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生したと認められる」として(甲25の2),緊急事態宣言の対象 区域に限らず全国的に新型コロナウイルスの感染が急速に拡大し,国民の健 康や生活等に甚大な被害又は影響を及ぼすおそれがあるとする政府の認識が示されていた。他方,上記緊急事態宣言が発令された令和2年4月7日時点で,その実施時期の終期とされた同年5月6日までに新型コロナウイルスの感染の拡大が収束に向かうとの見通しを持ち得るような事情は,(少なくとも一般の国民の認識としては)特 令された令和2年4月7日時点で,その実施時期の終期とされた同年5月6日までに新型コロナウイルスの感染の拡大が収束に向かうとの見通しを持ち得るような事情は,(少なくとも一般の国民の認識としては)特に見当たらない状況であった。そのため, 緊急事態宣言の対象区域以外に居住する者であっても,今後,全国的に急速に感染が拡大し日常生活や健康に甚大な影響や被害が生ずることになる可能性もあることを念頭に,3つの密を避け,外出を控えるなど,感染防止のための行動を具体的にとる必要があることが強く意識される状況であった。 エ他方,披露宴は,一般的に,1つの部屋に大人数が集まり食事をしながら 話をするなどの点で,密閉,密集及び密接の3つの密が発生する状況になりやすく,また,被告らが予定していた披露宴の招待客には,愛知県内だけでなく九州から東北までの各地に居住する者が含まれているから(前提事実(4)),披露宴を開催するとなると,これらの者に都府県を大きくまたいだ移動を求めることになり,外出や県をまたいだ移動の自粛要請にも反すること になる。 したがって,緊急事態宣言が発令された令和2年4月7日当時の一般的な認識(前記ウ)を前提とすると,披露宴の開催については,当時,感染防止のために要請されていた行動にむしろ逆行するものであり,感染拡大を招くおそれがあるから控えるべきであるとする考え方が一般的であったと考え られる。そのため,仮に被告らが披露宴を開催して新型コロナウイルスの集団感染等が発生した場合には,感染者が多大な不利益を被るだけでなく,披露宴を開催した被告らやこれに参加した招待客らに対しても世間から厳しい非難等が向けられることが予想される状況であったといえる。 オそうすると,(7都府県を対象区域とする緊急 るだけでなく,披露宴を開催した被告らやこれに参加した招待客らに対しても世間から厳しい非難等が向けられることが予想される状況であったといえる。 オそうすると,(7都府県を対象区域とする緊急事態宣言が発令された翌日 である)令和2年4月8日の時点においては,新型コロナウイルス感染症の 全国的かつ急速なまん延及びこれによる国民生活等への甚大な影響の可能性が指摘され,3つの密を避けるなど感染防止対策をとる必要性が強く意識される一方,感染収束に向かうとの具体的な見通しを(少なくとも一般の国民の認識としては)持ち得ない状況であったから,その約2箇月後の同年6月14日の披露宴の開催について,新型コロナウイルスの感染防止等との関 係でも問題なく行い得るとの見通しを持つことは困難であり,むしろ,感染防止のため取りやめる必要があるとの判断に至らざるを得なかったものと認められる。実際,被告らが披露宴の開催を予定していた名古屋観光ホテルの「那古の間」では,令和2年5月1日から同年7月31日までの間に,被告ら以外に合計17組の披露宴の開催が予定されていたが,これらの披露宴 が全て延期又は取消しになっていること(甲11)からも,被告らが本件解約をした当時,少なくともその後2,3箇月内に披露宴を開催することは現実的に不可能であるとの認識が一般的であったと認め得る。 したがって,被告らが本件解約を申し出た時点で愛知県に緊急事態宣言が発令されていなかったことや7都府県に発令された緊急事態宣言が令和2 年5月6日までであったことをもって,同年6月14日の披露宴の開催は十分可能であったとする原告及び承継参加人の主張は採用することができない。なお,原告及び承継参加人は,令和2年5月14日に愛知県に対する緊急事態宣言 ったことをもって,同年6月14日の披露宴の開催は十分可能であったとする原告及び承継参加人の主張は採用することができない。なお,原告及び承継参加人は,令和2年5月14日に愛知県に対する緊急事態宣言が解除されたことや,同年6月16日にGoToトラベルキャンペーンの概要が発表されたことも指摘するが,同年4月8日より後に生じた 事情をもって上記認定が左右されるものではない。また,原告及び承継参加人は,緊急事態宣言の対象区域の居住者であっても披露宴への参加が制限されていたわけではないなどとも主張するが,明示的な制限がないことをもって直ちに披露宴への参加に問題がなかったものと認められないことは前記エにおいて述べたとおりである。 以上のとおり,被告らが本件解約を申し出た令和2年4月8日当時,その 後2,3箇月内の披露宴の開催は感染拡大を招くおそれがあり現実的に不可能であると一般的に認識されていた以上,被告らが同様に考えて本件解約をしたのもやむを得ないことであったと認めるのが相当である。なお,緊急事態宣言自体は令和2年5月14日以降順次解除されているが(前提事実(8)),当時は新型コロナウイルスについて未知のウイルスであるとの受け止めが されていたことや,3つの密を避けるなど感染防止のための行動をとることが強く要請されていたこと等の事情に変わりがない以上,上記解除によって直ちに同年6月14日の披露宴の開催に支障がなかったと認めることはできない。 (3) 以上によれば,被告らによる本件解約は,やむを得ない事由によるものと認 めるのが相当であり,被告らに帰責事由があるとは認められない。そして,(原告及び承継参加人の主張するように)令和2年6月14日の披露宴の開催は物理的には不可能ではなかったといい よるものと認 めるのが相当であり,被告らに帰責事由があるとは認められない。そして,(原告及び承継参加人の主張するように)令和2年6月14日の披露宴の開催は物理的には不可能ではなかったといい得るものの,そのことをもって,当時の状況下で被告らがやむを得ず本件解約をしたことにつき原告(承継参加人)の損害の補填として被告らに150万円を超える本件取消料の支払義務を負わせ るのは,原告及び被告らのいずれにも帰責性のない事情により披露宴の開催が事実上困難になった場合の不利益を個人である被告らにのみ負わせるものであり,損害の(実質的に)衡平な分担や結果の妥当性の観点から相当でないというべきである。このような点も踏まえれば,本件解約は,本件取消料条項の想定する場面ではなく,その適用はないと解するのが相当である。なお,原告及 び承継参加人は,被告らが披露宴の延期に応じなかったことをもって被告らに帰責事由があるとも主張するようであるが,そもそも本件取消料条項は,前記(1)のとおり披露宴日の変更の場合も適用されるものであって,披露宴の延期に応じたか否かによって,当初予定された日時の披露宴の取消し(又は変更)がやむを得ないものであったか否かの判断が影響を受けるものではないから,被 告らが披露宴の延期に応じなかったことは上記認定を左右しない。 以上のとおり本件取消料条項は本件解約に適用されないものであるが,本件取消料のうち申込金については,被告らが原告との間で本件契約を締結して被告らの希望する日時に名古屋観光ホテルの「那古の間」で披露宴を開催し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものと解されるから,被告らが申込金を支払った後に本件契約を解約しても,原則として被告 らは申込金相当額の返還請求権を 那古の間」で披露宴を開催し得る地位を取得するための対価としての性質を有するものと解されるから,被告らが申込金を支払った後に本件契約を解約しても,原則として被告 らは申込金相当額の返還請求権を有しないと解するのが相当である。また,本件取消料のうち招待状の実費相当額についても,本件契約に基づく原告の既履行分の実費として被告らが原告に支払ったものである以上,被告らは返還請求権を有しないと解するのが相当である。 2 小括 以上検討したところによれば,本件解約について本件取消料条項は適用されないから,承継参加人の本件取消料条項に基づく本件取消料の残金(本件取消料から入会金及び実費相当額を控除した額)の支払請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がない。なお,原告は,令和3年7月1日に原告のホテル・料飲事業を承継参加人に承継させたことにより本件訴えに係る請求権自体を失っ ているから(前提事実(11)),原告の本件請求に理由がないことは明らかである。 第4 結論よって,原告及び承継参加人の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官岩井直幸 裁判官松田敦子 裁判官和賀千紘

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