平成29年2月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成26年(ワ)第8922号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年11月4日判決原告アメリカン・オーソドンティクス・コーポレーション同訴訟代理人弁護士深井俊至同磯田直也被告トミー株式会社同訴訟代理人弁護士井上康一同 伊藤晴國同補佐人弁理士牧野純 主文 1 被告は,原告に対し,14万0174.5米国ドル及びこれに対する平成26年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを30分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 5 原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,437万8500米国ドル及びうち270万0700米国ドルに対する平成26年1月1日から,うち167万7800米国ドルに対する平成28年2月16日から各支払済みまで,各年5分の割合による金員 を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール」とする特許権(特許番号第4444410号)を有していたと主張する被告が,株式会社バイオデント(所在は省略。以下「バイオデント」という。)に対し,原告が製造しバイオデン 歯列矯正ブラケット用ツール」とする特許権(特許番号第4444410号)を有していたと主張する被告が,株式会社バイオデント(所在は省略。以下「バイオデント」という。)に対し,原告が製造しバイオデントが輸入・販売する別紙原告製品目録記載の製品(以下「原告製品」という。)について「被告の保有する特許権(第4444410号)の請求項1に関連する」旨通知したことから,バイオデントが原告製品の輸入・販売を中止せざるを得なくなり原告に損害が生じたことに関し,上記特許権は無効であり,したがって上記通知は虚偽の事実の告知に当たるから,上記被告の行為は平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項14号(改正後は15号であるが,以下改正前の号による。)所定の不正競争行為に当たると主張して,原告が,被告に対し,不競法4条(予備的に民法709条)に基づく損害賠償として437万8500米国ドル及びうち270万0700米国ドルに対する不法行為の後の日である平成26年1月1日から,うち167万7800米国ドルに対する不法行為の後の日である平成28年2月16日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告は,歯列矯正器具等の製造・販売等を業とする米国法人である。 イ被告は,歯列矯正器具等の製造・販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告による原告製品の販売等 原告は,平成22年頃から,原告製品を製造し,日本に向けて輸出し,原告の日本国内における取引先であるバイオデントに対して販売している。バイオデントは,原告製品を日本国内に輸入し,販売し 原告は,平成22年頃から,原告製品を製造し,日本に向けて輸出し,原告の日本国内における取引先であるバイオデントに対して販売している。バイオデントは,原告製品を日本国内に輸入し,販売している。原告は,原告製品を日本国内で販売しておらず,日本国内においては,専らバイオデントが,原告製品を販売している。(甲43,44)(3) 被告が有していた特許権被告は,以下の特許権(請求項の数19。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1にかかる発明を「本件発明」という。 なお,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)の特許権者であった。 発明の名称歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール特許番号第4444410号出願日平成11年10月8日登録日平成22年1月22日発明者 A(以下「A」という。)発明者 B(以下「B」という。)(4) 本件特許の特許請求の範囲及び構成要件ア本件特許の特許請求の範囲請求項1は,次のとおりである。 「歯面に固着されるベースを備え,該ベースから垂直方向に延びるブラケット本体,該ブラケット本体の中央にて近遠心方向に延び前方に開放したアーチワイヤスロットを備えており,前記アーチワイヤスロットを開閉するべく移動可能なロック部材を備えた歯列矯正ブラケットであって,前記ロック部材は,一端側が前記ベース側に該ベースに沿って延びるベース側部と,他端側が前記アーチワイヤスロットの長さと略同じ幅を有してスロット上方側に延びる反ベース側部とを備える断面形状がU字形状になされ,且つ該反ベース側部の中央に切欠き部が設けられた弾性体から構成されており, 前記ブラケット本体には,前記アーチワイヤスロットの る反ベース側部とを備える断面形状がU字形状になされ,且つ該反ベース側部の中央に切欠き部が設けられた弾性体から構成されており, 前記ブラケット本体には,前記アーチワイヤスロットの開放縁部に,前記ロック部材の先端をスロット閉じ位置に係止する閉じ係止溝と,該係止溝とは反対側の縁部に前記ロック部材の先端をスロット開放位置に係止する開放係止凹部が形成されており,該係止溝の長手方向中央部分には,前記切欠き部に対応して該係止溝を埋めるように突出したリブが形成されたことを特徴とする歯列矯正ブラケット。」イ本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。 A 歯面に固着されるベースを備え,該ベースから垂直方向に延びるブラケット本体,該ブラケット本体の中央にて近遠心方向に延び前方に開放したアーチワイヤスロットを備えており,前記アーチワイヤスロットを開閉するべく移動可能なロック部材を備えた歯列矯正ブラケットであって,B 前記ロック部材は,一端側が前記ベース側に該ベースに沿って延びるベース側部と,他端側が前記アーチワイヤスロットの長さと略同じ幅を有してスロット上方側に延びる反ベース側部とを備える断面形状がU字形状になされ,且つ該反ベース側部の中央に切欠き部が設けられた弾性体から構成されており,C 前記ブラケット本体には,前記アーチワイヤスロットの開放縁部に,前記ロック部材の先端をスロット閉じ位置に係止する閉じ係止溝と,該係止溝とは反対側の縁部に前記ロック部材の先端をスロット開放位置に係止する開放係止凹部が形成されており,該係止溝の長手方向中央部分には,前記切欠き部に対応して該係止溝を埋めるように突出したリブが形成されたことを特徴とするD 歯列矯正ブラケット。 (5) 被告による告知及びバイオデントによる原告製品の販売 長手方向中央部分には,前記切欠き部に対応して該係止溝を埋めるように突出したリブが形成されたことを特徴とするD 歯列矯正ブラケット。 (5) 被告による告知及びバイオデントによる原告製品の販売中止ア被告は,バイオデントに対し,平成22年10月15日付け書簡(甲4。 以下「甲4書簡」という。)及び本件特許公報の写しを送付した(以下,甲4書簡による告知を「本件告知1」,同告知行為を「本件告知行為1」という。)。甲4書簡には次のとおり記載されていた。 「さて,貴社が販売されております歯列矯正用のブラケット(商品名:Empower)(判決注:原告製品を指す。)を入手し,分析いたしましたところ,弊社としては,本製品は添付の弊社保有特許(特許第4444410号,発明の名称:歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール)の請求項1に関連するものと思料しております。 つきましては,来たる11月15日までに貴社のご見解を賜りたく,ご検討のほど宜しくお願い申し上げます。」イバイオデント代表取締役C(以下「C」という。)は,平成22年11月26日,Aに対し,照会を受けた特許案件についてお目にかかって意見を賜りたい旨記載したメールを送付した。なお,Aは,被告の常務取締役である。 Aは,上記メールを受け,同年12月28日,Cに対し,「社内で相談の結果,今回は使用許諾をすべきでないとの意見が大勢を占めました。当初のご案内のとおり,弊社からの書簡に対して早めのご回答をお願いします。」と記載したメール(甲23。以下「甲23メール」という。)を返信した(以下,甲23メールによる告知を「本件告知2」,同告知行為を「本件告知行為2」といい,本件告知1及び本件告知2を併せて「本件各告知」,同各告知行為を「本件各告知行為」という。 という。)を返信した(以下,甲23メールによる告知を「本件告知2」,同告知行為を「本件告知行為2」といい,本件告知1及び本件告知2を併せて「本件各告知」,同各告知行為を「本件各告知行為」という。)。(甲23)ウバイオデントは,平成23年1月31日付け書簡(乙19)により,被告に対し,本件特許に抵触する可能性があるとの判断に至ったことから,同年1月末日をもって原告製品の新規販売を中止することとし,販売済みのものについては同年2月末まで猶予期間をいただきたい旨を通知した。(乙19) (6) 本件発明に係る特許の無効ア特許庁は,原告を請求人,被告を被請求人とする特許無効審判請求事件(無効2013-800224)において,平成26年11月12日,本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし18に係る特許について冒認出願及び共同出願違反を理由として無効とする旨の審決をした。(甲22)イ被告は,上記審決について審決取消請求訴訟(知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10275号審決取消請求事件)を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成28年2月24日,本件特許の出願人である被告は,共同発明者であるA及びBのいずれからも特許を受ける権利を承継していないから,本件特許出願は冒認出願に当たると判断して棄却判決をし,同判決は確定した。(甲42) 3 争点(1) 被告による告知が不競法2条1項14号の不正競争行為に当たるか(2) 損害発生の有無及びその額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(被告による告知が不競法2条1項14号の不正競争行為に当たるか)について〔原告の主張〕(1) 告知行為本件では,主位的に,甲4書簡による本件告知行為1を不正競争行為たる「告知行為」であると主張し,予備的に,甲4 1項14号の不正競争行為に当たるか)について〔原告の主張〕(1) 告知行為本件では,主位的に,甲4書簡による本件告知行為1を不正競争行為たる「告知行為」であると主張し,予備的に,甲4書簡による本件告知行為1と甲23メールによる本件告知行為2を併せた本件各告知行為を不正競争行為たる「告知行為」と主張する(以下では,本件告知1又は本件各告知を総称して「本件告知」と,本件告知行為1又は本件各告知行為を総称して「本件告知行為」ということがある。)。 (2) 甲4書簡及び甲23メールの意味 ア甲4書簡には「原告製品が本件特許権の請求項1に関連する」と記載されているが,具体的に特許と製品を特定した上で当該製品が当該特許と「関連する」と主張することは,当該製品が当該特許に係る発明の技術的範囲に属し,当該製品の輸入及び販売が当該特許権を侵害することを意味することは明白であるから,本件告知1は,実質的に,原告製品を輸入・販売していたバイオデントに対する侵害警告にほかならない。このことは,本件告知1を受けたバイオデントが,原告製品が本件特許に抵触するか否かを検討し,被告に対し,新規販売の中止を申し出ていること(乙19)からも明らかである。また,原告が,被告に対し,平成25年10月10日付通知書(甲13)をもって,原告製品の輸入・販売が本件特許に関連する又は本件特許権を侵害する等の告知又は流布をしないこと及び原告製品に関する本件特許権の不行使を要求したのに対し,被告が当該要求を拒否したことからも,被告が,原告製品に関し,バイオデントを含む日本の顧客に対し,本件特許権を行使する意思を有していたことは明らかである。 イバイオデント代表取締役のCは,甲4書簡を受領した後の平成22年11月初旬頃,韓国で開催された矯正学会におい トを含む日本の顧客に対し,本件特許権を行使する意思を有していたことは明らかである。 イバイオデント代表取締役のCは,甲4書簡を受領した後の平成22年11月初旬頃,韓国で開催された矯正学会において,被告代表取締役D(以下「D」という。)と会った際,甲4書簡に関連して,本件特許権について使用許諾を受けることも含めて意向を聞いたところ,Dはその件についてはAを窓口としているから同人に連絡するよう回答した。 そこで,Cは,同月26日,Aに対し,甲4書簡の件で面談を要請する内容の電子メールを送信した(甲23)。これに対し,Aは,同年12月28日,Cに対し,「社内で相談の結果,今回は使用許諾をすべきではないとの意見が大勢を占めました。当初のご案内のとおり,弊社からの書簡に対して早めのご回答をお願いします。」との内容の甲23メールを送信し,使用許諾の可能性を明示的に拒絶するとともに,Cによる面談の要請すら事実上拒絶した。使用許諾の可能性を明示的に拒絶し,甲4書簡に対する 回答を迫るということは,原告製品の輸入・販売の中止を明示的に求めたことと同じである。 一切の協議の余地がないことを認識したバイオデントは,やむを得ず,平成23年1月,被告に対し,「日本国内においては貴社(注:被告)の特許に抵触する可能性があるとの判断に至りました。つきましては,1月末日をもちまして当社製品『エンパワー』の新規販売を中止させていただきます。」と回答し(乙19),原告製品の輸入・販売を中止した。 ウところで,本件告知1(予備的に本件各告知)は,本件特許権が有効であり,第三者に対し本件特許権を行使できることを前提とするものであるが,本件発明に係る特許は冒認出願による無効理由を有し,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,被告による本件特許 有効であり,第三者に対し本件特許権を行使できることを前提とするものであるが,本件発明に係る特許は冒認出願による無効理由を有し,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,被告による本件特許権の行使は許されない(特許法104条の3第1項)。 よって,被告は,原告の取引先であるバイオデントに対し,主位的に本件告知行為1により,予備的に本件各告知行為により,虚偽の事実を告知したものである。 (3) 信用毀損及び違法性の有無ア被告は,権利侵害を疑われる行為を行う本人に当たるバイオデントに対する権利侵害の申述は営業誹謗行為には該当しないと主張するが,そのような判断をした裁判例はなく根拠がない。 また,被告は,バイオデントが原告と同一視される地位にあったなどとも主張するが,バイオデントは原告とは別の法人格を有し,原告以外の製造業者の製品も多数取り扱う独立した事業主であり,原告製品についてもこれを原告から輸入して国内で販売しているだけであって原告から指揮命令を受ける立場にはないから,バイオデントが「原告の利益代表者たる地位」や「原告と同一視される地位」にあるものではない。 他方,国外の供給者から被疑侵害品を輸入して国内で販売する国内取扱 業者に対する侵害警告が,国外の供給元に対する営業誹謗行為に該当すると判断された事例は存在しており(知財高裁平成19年5月29日判決〔平成18年(ネ)第10068号〕最高裁ウェブページ),同事例は,被疑侵害製品を製造する外国企業の取引先である国内販売業者に対し警告文書を送付したというものであって,本件と事実関係を共通にする。 イ被告は,本件告知行為が正当な権利行使に該当し違法性が阻却されると主張する。 しかし,本件特許の無効理由は冒認出願であり,被告は,自ら願書に発明者として記 て,本件と事実関係を共通にする。 イ被告は,本件告知行為が正当な権利行使に該当し違法性が阻却されると主張する。 しかし,本件特許の無効理由は冒認出願であり,被告は,自ら願書に発明者として記載した共同発明者であるBから特許を受ける権利の譲渡を受けていないことを熟知しながら(又は少なくとも過失によりこれを知らず),被告が単独名義で日本国における出願を行うことを出願前後を通じてBに一切告げずに,あえて被告の単独名義による出願に及んだものである。 したがって,被告は,本件告知行為時において,本件特許に冒認出願の無効理由があることを認識していたのであり,特許権者として,特許権侵害訴訟を提起するために通常必要とされる事実調査及び法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得た。それにもかかわらず被告は侵害警告である本件告知行為に及んでいるのであるから,これが正当な権利行使に該当しないことは明らかである。 (4) 故意過失の有無ア被告は,本件告知行為について故意過失がないと主張する。 しかし,前記(3)のとおり,被告は,冒認出願であることを熟知しながら(又は少なくとも過失によりこれを知らずに)本件特許出願に及び,その後,侵害警告に当たる本件告知行為に及んだのであるから,被告に故意(又は少なくとも過失)があったことは明らかである。 イまた,被告は,本件告知行為の約5年前にバイオデントに対し極めて友好的な形で,被告の有する別の特許権について実施許諾をしていたという 経緯に照らしても,本件告知行為に対するバイオデントの対応は予想外のものであったなどとも主張する。 しかし,被告が上記実施許諾をしたのは,被告にとっての大得意でありかつ当該特許の発明者である東京医科歯科大学のE教授(当時)の要請に応じたもの ントの対応は予想外のものであったなどとも主張する。 しかし,被告が上記実施許諾をしたのは,被告にとっての大得意でありかつ当該特許の発明者である東京医科歯科大学のE教授(当時)の要請に応じたものにすぎず,被告とバイオデントとの間に友好的な関係があったからではない。 したがって,バイオデントとの間の友好的な関係を強調して,バイオデントが原告製品の輸入・販売を中止することの予見が困難であったとする被告の主張は失当である。 〔被告の主張〕(1) 甲4書簡の意味について被告は,甲4書簡において,バイオデントに対し,原告製品と本件発明に係る特許との関連性を指摘したのみであるから,「虚偽の事実の告知」をしていない。 甲4書簡の文面は,「弊社としては,[原告製品]は[本件特許]の請求項1に関連するものと思料しております。つきましては,来たる11月15日までに貴社のご見解を賜りたく,ご検討のほど宜しくお願い申し上げます。」というものであり,原告製品が本件特許を侵害する旨断定する内容ではなく,あくまで侵害の成否の検討をバイオデントに要望したものにすぎない。 このような特許侵害の成否の検討を依頼する内容の書面が直ちに侵害警告とみなされ,後に当該特許が無効となれば「虚偽の告知」に該当することになるというのであれば,特許権者はライセンス交渉の打診すらもできなくなり,特許権者の権利行使を不当に制約し,萎縮させることになる。 したがって,本件告知行為1は正当な特許権の行使であり,不競法2条1項14号にいう「虚偽の事実の告知」には該当しないものと解すべきである。 (2) 信用毀損及び違法性の有無について ア権利侵害を疑われる行為を行う本人に対して権利侵害の事実を申述する行為は,それによって,当該本人の外部的評価であるところの信 である。 (2) 信用毀損及び違法性の有無について ア権利侵害を疑われる行為を行う本人に対して権利侵害の事実を申述する行為は,それによって,当該本人の外部的評価であるところの信用が毀損されることはないから,営業誹謗行為(不競法2条1項14号の不正競争)には該当しない。被疑侵害製品の販売者に対する侵害告知行為が当該製品の製造者との関係で,営業誹謗行為に該当することはあり得るが,それは,当該製造者に対して直接権利主張を行うことができる場合に限られるというべきであり,被疑侵害製品の製造者の行為自体は権利侵害を構成せず,したがってその製造者に対して権利主張を行うことができないような事情の下においては,当該製品の販売者に対する侵害告知行為は類型的に営業誹謗行為に該当しないと解すべきである。 本件において,原告は原告製品を海外で生産し,バイオデントがこれを原告から購入し,日本に輸入して販売していたから,日本国内で本件発明を実施していたのは原告ではなくバイオデントであった。そして,バイオデントは日本における原告の販売代理店であり,日本における原告製品の販売に関し原告の利益代表者たる地位にあった。つまり本件特許の被疑侵害行為である日本における原告製品の販売に関し,バイオデントは製造者である原告と同一視されるべき地位にあったのであり,バイオデントに対する本件告知行為は原告に対するそれと同一視されるべきである。 よって,被告がバイオデントに対して行った本件告知行為は,営業誹謗行為を構成しない。 イまた,本件告知行為は被告による本件特許の正当な権利行使としてなされたものであり,違法性が阻却される。すなわち,競業者が,特許権を侵害していると疑われる商品を製造・販売している場合に,特許権者が競業者の取引先に対して,当該商品が自己 許の正当な権利行使としてなされたものであり,違法性が阻却される。すなわち,競業者が,特許権を侵害していると疑われる商品を製造・販売している場合に,特許権者が競業者の取引先に対して,当該商品が自己の特許権を侵害する旨を告知する行為は,後日,当該特許権の無効が審決等により確定したときには虚偽の事 実の告知に一応該当するものの,特許権者による告知行為が,取引先自身に対する特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には,違法性が阻却される(東京高裁平成14年8月29日判決・判時1807号128頁)。 本件では,本件発明に至る経緯及び出願前後の経緯に照らせば,本件発明について特許を受ける権利の共有持分はBから被告に対し有効に譲渡されたものと被告が信じるのは全く無理からぬことであった。 したがって,被告が,本件告知行為時,本件特許に無効理由があることを知っていた又はこれを容易に知り得る状況にあったとはいえない。 しかも,本件において,原告自身は本件発明の実施行為を行っておらず,これを行っていたのはバイオデントのみであるところ,被告による告知行為の相手方は実施行為者であるバイオデントに限られていたこと,バイオデントに対する告知行為は一回のみである上,その内容もあくまでバイオデントとの間で原告製品が本件特許に抵触するか否かの討議を行う端緒として,侵害の成否の検討をバイオデントに要望したものにすぎず,「侵害警告」と評されるべきものではないこと,バイオデントが原告製品の輸入・販売を中止したのは,原告との協議を経た上で,原告製品が本件特許に抵触する可能性があると判断したことに基づく自主的な決定によるものであったこと,バイオデントには本件告知行為に対する対応能力が十分あったこと等の事情に鑑みれば,被告によ た上で,原告製品が本件特許に抵触する可能性があると判断したことに基づく自主的な決定によるものであったこと,バイオデントには本件告知行為に対する対応能力が十分あったこと等の事情に鑑みれば,被告による本件告知行為は,特許権者の権利行使の一環として行われたものであって,社会通念上必要と認められる範囲を超えた内容,態様ではないことが明らかである。 以上のとおり,本件告知行為は,被告のバイオデントに対する特許権の正当な権利行使の一環としてされたものであり,違法性がない。 (3) 故意過失の有無について仮に,本件告知が「虚偽の事実の告知」に該当するとしても,被告には故 意過失がない。 すなわち,不競法2条1項14号に基づく告知者の損害賠償責任に関する故意過失の判断にあたっては,「特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮」(知財高裁平成23年2月24日判決・判タ1382号335頁)することが必要であるところ,本件発明とその出願の経緯さらには出願後の経緯からすれば,少なくとも本件告知時において,本件特許に無効理由が存することを疑わしめる合理的な理由はないから,被告に,無効理由について十分な検討をしなかったという注意義務の懈怠があったとはいえない。 しかも,被告はその約5年前に,バイオデントの求めに応じ,極めて友好的な形で,被告の有する別の特許権についてバイオデントに実施権を許諾しており,そのような経緯に照らしても,本件告知行為に対するバイオデントの対応は予想外のものであった。本件告知行為を受けたバイオデントが,被告と何らの協議もしないまま自主的に原告製品の輸入・販売を中止するということは,通常人を基準として考えてもおよそ予見することが困難であったというべき であった。本件告知行為を受けたバイオデントが,被告と何らの協議もしないまま自主的に原告製品の輸入・販売を中止するということは,通常人を基準として考えてもおよそ予見することが困難であったというべきである。 2 争点(2)(損害発生の有無及びその額)について〔原告の主張〕(1) 因果関係の存在ア原告は,平成22年5月から,原告製品を製造し,日本に向けて輸出し,原告の日本国内における取引先であるバイオデントが原告製品を輸入し,販売していた。ところが,バイオデントは,被告から本件告知を受けたために,平成23年1月以降,原告から原告製品を購入することを止め,日本における原告製品の販売を中止し,そのため,原告は,原告製品を日本に輸出することができなくなった。なお,その後,原告が本件特許について無効審判を請求し,本訴を提起した上,バイオデントに対し,本件特許 には無効理由がある旨の説明等をしたことにより,バイオデントは,平成26年から,原告製品の日本における販売を再開した。 このように,バイオデントは,特許権者である被告から本件特許の侵害警告に当たる本件告知行為を受けたからこそ,原告製品の新規の輸入・販売を中止したものである。そして,被告は,バイオデントに対し,原告製品の輸入・販売を中止させることを目的として,又は少なくともバイオデントが原告製品の輸入・販売を中止することがあり得ることを認識しながら,本件告知行為をした。 したがって,本件告知行為とバイオデントの原告製品の輸入・販売の中止によって発生した原告の損害との間に相当因果関係があることは明らかである。 イ被告の主張に対する反論この点に関して被告は,バイオデントが原告製品の新規の輸入・販売を自主的に中止したものであり,本件告知行為と原告の損害の間 間に相当因果関係があることは明らかである。 イ被告の主張に対する反論この点に関して被告は,バイオデントが原告製品の新規の輸入・販売を自主的に中止したものであり,本件告知行為と原告の損害の間に因果関係が存在しないなどと主張する。 しかし,被告の上記主張は,営業誹謗の被告知者に自主的な判断のできる能力さえあれば損害との因果関係を欠くとするものに他ならず,行為と損害との間に相当因果関係があれば足りるとする通説判例に背くものであって失当である。 (2) 損害額ア原告製品の市場について原告製品及び被告の製造・販売に係る「クリッピー」との名称のセルフライゲーションブラケット製品(以下「被告製品」という。甲90)は,いずれも本件発明の実施品である歯列矯正ブラケット(以下,本件発明の実施品である歯列矯正ブラケットを「対象製品」という。)である。本件発明の優れた作用効果から,対象製品は需要が高く,いわゆる売れ筋の製品で ある。 そして,日本における対象製品の市場規模は,平成22年から現在に至るまで,1年当たり,少なくとも8億円,販売数量は少なくとも88万個であるが,平成22年以降現在に至るまで,日本において販売されている対象製品は,被告製品と原告製品の2製品のみであり,両者は二者択一的な競合関係にある。 ところが,被告は,本件告知行為によって,平成23年1月から平成25年12月までの間,原告製品を市場から排除し,対象製品の市場を独占し,他方で,原告は,同期間中に原告製品をバイオデントに販売することにより得られたはずの利益を失った。 また,平成26年に,原告製品の日本における販売が再開されたが,一旦市場から排除された原告製品について,再び顧客を獲得して販売を拡大することは容易ではなかったから,販売再開後 はずの利益を失った。 また,平成26年に,原告製品の日本における販売が再開されたが,一旦市場から排除された原告製品について,再び顧客を獲得して販売を拡大することは容易ではなかったから,販売再開後においても,原告は,本来,本件告知行為がなければ販売できた原告製品に係る利益を失った。 イ原告製品の種類(ア) 原告製品には,メタル製品,クリア製品,DB(ダイレクトボンド)チューブ製品及びウェルダブルチューブ製品の合計4種類の製品が存在する。 メタル製品(以下「原告製品①」という。)は,金属製の歯列矯正ブラケットである。 クリア製品(以下「原告製品②」という。)は,セラミック製の歯列矯正ブラケットである。 DB(ダイレクトボンド)チューブ製品(以下「原告製品③」という。)は,特に口腔内最奥の臼歯用とされ,歯に直接装着される歯列矯正ブラケットである。「チューブ」とは特に口腔内最奥の臼歯用とされた歯列矯正ブラケットを意味し,「ダイレクトボンド」とは歯に直接装着され ることを意味する。 ウェルダブルチューブ製品(以下「原告製品④」という。)は,特に口腔内最奥の臼歯用とされた歯列矯正ブラケットで,バンドに溶接して歯に装着される歯列矯正ブラケットである。 (イ) 以上の各原告製品は,いずれも被告製品と同様のセルフライゲーションブラケットであり,かつ,本件発明の特徴的部分である(a)ロック部材の反ベース側部の中央に切欠き部が設けられている構成及び(b)ブラケット本体の係止溝を埋めるように突出したリブが形成されている構成を有し,本件発明の各構成要件を充足する実施品である。 なお,被告は,原告製品④は本件特許の実施品ではないと主張するが,仮に原告製品④が「歯面に固着されるベース」(構成要件A)を文言上充足しないとしても ,本件発明の各構成要件を充足する実施品である。 なお,被告は,原告製品④は本件特許の実施品ではないと主張するが,仮に原告製品④が「歯面に固着されるベース」(構成要件A)を文言上充足しないとしても,均等論の適用により原告製品④は本件発明の技術的範囲に属する。また,少なくとも,「原告製品④がバンドに溶接された状態の物」は本件発明の実施品であるといえるから,原告製品④は本件発明の実施品の生産にのみ用いる製品として間接侵害品(特許法101条1号)に当たる。そして,均等論の適用により本件発明の技術的範囲に含まれる製品や間接侵害品も対象製品に含まれる。 ウ原告製品の1個当たりの利益額(ア) 原告製品の1個当たりの限界利益は次の表のとおりである(単位は米国ドル)。 ●省略●(イ) 原告が,本件告知行為時にバイオデントに販売していたものは原告製品①のみであり,原告製品②ないし④は,本件告知行為の後に,原告が開発を完了し,世界各国で販売開始したものであるが,バイオデントは,本件告知が,本件発明の技術的範囲に属する製品に対する侵害警告であり,原告製品②ないし④を販売すると本件特許の侵害となると考えたこ とから,原告製品②ないし④についても原告から購入して日本市場で販売しようとはしなかった。 被告による本件告知行為時においてバイオデントが販売していた原告製品が原告製品①だけであったとしても,原告がその後も引き続き,材料や形状の異なる対象製品を開発し,バイオデントが当該対象製品を販売することがあり得ることは,被告において当然に想定できたから,本件告知行為によって,現に販売していた原告製品①のみならず,その後に原告によって開発される本件発明の実施品をもバイオデントが販売しなくなることは想定し得た。 したがって,バイオ 想定できたから,本件告知行為によって,現に販売していた原告製品①のみならず,その後に原告によって開発される本件発明の実施品をもバイオデントが販売しなくなることは想定し得た。 したがって,バイオデントによる原告製品①の販売中止のみならず,原告製品②ないし④の販売不開始についても,本件告知行為と相当因果関係がある。 そして,原告は,原告製品②について平成24年(2012年)5月に米国,カナダ及び欧州で,原告製品③について同年1月に米国,カナダ及び欧州で,原告製品④について同年3月に米国及びカナダで,それぞれ販売を開始しており,本件告知行為がなければ,薬事法上の認証に要する期間(約半月ないし2か月余)を考慮しても,原告はバイオデントに対し,同年4月,遅くとも5月から原告製品②ないし④を販売することができた。 (ウ) 原告の逸失利益を算出するに当たり,原告製品①ないし④の全体を捉えて,その平均的限界利益を考える場合には,原告製品①ないし④の販売量をも考慮した加重平均の考え方が採用されるべきである。 平成27年の1年間を通じて,原告はバイオデントに対し,原告製品①ないし④を販売しており,その量は,原告製品①が●(省略)●個,原告製品②が●(省略)●個,原告製品③が●(省略)●個,原告製品④が●(省略)●個であった(合計●(省略)●個)。これを基に,各製 品の販売量を考慮した加重平均の考え方で,原告製品1個の限界利益を計算すると,以下のとおり●(省略)●米国ドルである。 ●(省略)●したがって,本件告知行為がなければ,原告がバイオデントに販売できた原告製品の1個当たりの平均利益額は,平成24年3月(遅くとも4月)までは,●(省略)●米国ドル(原告製品①の限界利益),同年4月(遅くとも5月)からは,●(省略)● 原告がバイオデントに販売できた原告製品の1個当たりの平均利益額は,平成24年3月(遅くとも4月)までは,●(省略)●米国ドル(原告製品①の限界利益),同年4月(遅くとも5月)からは,●(省略)●米国ドル(原告製品①ないし④の加重平均による限界利益)である。 エ本件告知行為がなければ原告製品を販売できた数量及び損害(ア) 平成23年1月1日から平成25年12月31日まで前記アのとおり,対象製品の市場規模は,平成22年から現在に至るまで,1年当たり,少なくとも8億円,販売数量は少なくとも88万個であるから,平成23年1月1日から平成25年12月31日まで(3年間)の対象製品の市場規模は,販売数量にして,少なくとも264万個(88万個×3)である。 ところで,対象製品についてみると,原告製品と被告製品は市場において特段の価格差はない。また,バイオデントと被告の対象製品の販売力について,その比率は,バイオデントを少なく見積もっても,●(省略)●である。 したがって,本件告知行為がなければ,バイオデントは,対象製品の市場の少なくとも●(省略)●を獲得していたといえるから,本件告知行為がなければ,同期間において,バイオデントは,少なくとも●(省略)●個(264万個の●(省略)●)の原告製品を販売することができ,原告はバイオデントに対し,同数の原告製品を販売することができた。 よって,原告は,同期間において,少なくとも270万0700米国 ドル(●(省略)●米国ドル×●(省略)●個。100米国ドル未満は切り捨て,以下同じ。)の損害(逸失利益)を被った。 (判決注:原告は,当初原告製品1個当たりの利益額を●(省略)●米国ドルであると主張しており,同主張は後に上記ウ(ウ)のとおりの主張に変更したものの,損害額の総額 。)の損害(逸失利益)を被った。 (判決注:原告は,当初原告製品1個当たりの利益額を●(省略)●米国ドルであると主張しており,同主張は後に上記ウ(ウ)のとおりの主張に変更したものの,損害額の総額の主張においては,上記1個当たりの利益額を基礎として算出した額による主張を変更していない。下記(イ)も同じ。)(イ) 平成26年1月1日から平成28年2月15日まで上記期間(25.5か月)の対象製品の市場規模は,販売数量にして,少なくとも187万個(88万個×25.5/12)であるから,本件告知行為がなければ,バイオデントは,同期間において,少なくとも●(省略)●個(187万個の●(省略)●)の原告製品を販売することができ,原告はバイオデントに対し,同数の原告製品を販売することができた。 ところが,原告は,同期間において,バイオデントに対し,原告製品を●(省略)●個販売したにすぎないから(甲91・第4項),本件告知行為がなければ,原告は,同期間において,さらに少なくとも●(省略)●個(●(省略)●個-●(省略)●個)を販売して利益を得ることができた。 したがって,原告は,同期間において,少なくとも137万7800ドル(●(省略)●米国ドル×●(省略)●個)の損害(逸失利益)を被った。 オ弁護士費用原告は,被告の本件不法行為による損害を回復するため本件訴訟を提起せざるを得ず,そのために弁護士費用相当額の損害を被った。 本件訴訟にかかる相当弁護士費用は,30万米国ドルである。 カ結語よって,原告は,被告に対し,不競法4条本文及び民法709条に基づき,損害賠償金437万8500米国ドル及びうち270万0700米国ドルに対する平成26年1月1日から,うち167万7800米国ドル(137万780 被告に対し,不競法4条本文及び民法709条に基づき,損害賠償金437万8500米国ドル及びうち270万0700米国ドルに対する平成26年1月1日から,うち167万7800米国ドル(137万7800米国ドルと30万米国ドルの合計額)に対する平成28年2月16日から各支払済みまで,年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (3) 損害額に係る被告の主張に対する反論ア原告製品②ないし④の販売開始時期について(ア) 原告製品②について被告は,原告製品②に関し,米国食品医薬品局(以下「FDA」という。)のクリアランスを得た平成24年(2012年)12月14日までの間,原告には法的保護に値する逸失利益は存在しないと主張するが失当である。 クラスⅡに属する医療機器(原告製品②はこれに属する。)については,連邦食品医薬品化粧品法(FederalFood, Drug, andCosmeticAct(FD&CAct))セクション510(k)に基づき,FDAに対し市販前届出を行い,FDAのクリアランスを得る必要がある場合と,市販前届出を要せず,FDAの承認を得る必要がない場合の二つの場合がある。 そして,FDAの定めるガイドライン(甲168別紙3)によれば,市販前届出をしてクリアランスを得ている医療機器を改良した製品については,「例えば,デザイン,材料,化学組成,エネルギー源又は製造方法における重大な変更もしくは改良のように,当該医療機器の安全性もしくは有効性に重大な影響を与える」場合又は「当該医療機器の用途に主要な変更又は改良をする」場合に該当しないのであれば,新規の510(k)の届出及びクリアランスは不要である。原告は,原告製品② について,平成20年8月4日付けでFDAのクリアランス(乙115)を得 をする」場合に該当しないのであれば,新規の510(k)の届出及びクリアランスは不要である。原告は,原告製品② について,平成20年8月4日付けでFDAのクリアランス(乙115)を得ていた「Radiance」という名称のセラミック製ブラケットを改良したものであり,新規の510(k)の届出は不要であると判断して,FDAへの届出をすることなく販売を開始した。後に,原告は,平成24年(2012年)12月14日付けのクリアランスの書面(乙89)を受領しているが,同書面において原告製品②は「Radiance」と実質的に同等の製品と判断されており,上記原告の判断が正しかったことが同書面により確認されたといえる。 よって,平成24年12月14日以前の原告製品②の米国内での販売が適法であったことは明らかである。 (イ) 原告製品③及び④について被告は,原告作成の新製品情報資料(甲142)が不自然な体裁であるなどと指摘し,原告製品③及び④の宣伝開始時期について疑義があるかのような主張をする。 しかし,原告従業員が,平成24年1月10日に電子メール(甲170)により,上記資料を修正した資料(甲169)を原告社内及び社外の販売担当者に宛てて送付したという事実からしても,原告が,原告製品③及び④について,平成24年(2012年)1月上旬に,新製品として市場において宣伝を開始したことは明らかである。 イバイオデントの販売力について被告は,被告製品の販売会社である株式会社トミーインターナショナル(以下「トミーインターナショナル」という。)とバイオデントの販売実績の数値を踏まえると,バイオデントの販売力は高くなく,原告製品のシェアは2割程度であるなどと主張する。 しかし,トミーインターナショナルの扱う歯列矯正ブラケットには,相当の割 イオデントの販売実績の数値を踏まえると,バイオデントの販売力は高くなく,原告製品のシェアは2割程度であるなどと主張する。 しかし,トミーインターナショナルの扱う歯列矯正ブラケットには,相当の割合で,本件発明の構成を採用したものがあるのであり,無効な本件 特許権によって不当に市場を独占したためにトミーインターナショナルの販売実績が高いものとなっているにすぎない。 よって,バイオデントの本来の販売力(本件特許権によって不当に市場から排除されなかった場合の販売力)は,歯列矯正ブラケットの各実績数値の比率から推測されるバイオデントの販売力よりも,大きいと推認される。 ウ被告製品Cの構成要件該当性について被告は,被告製品のうち,「クリッピーLリンガル」(以下「被告製品C」という。)については,本件発明の実施品ではないと主張するが,失当である。 被告製品Cにおいては,「ロック部材は,一端側が前記ベース側に該ベースに沿って延びるベース側部と,他端側がアーチワイヤスロットの長さと略同じ幅を有してスロット上方側に延びる反ベース側部とを備え」ており,本件発明の構成要件Bを充足する。被告は,被告製品Cは,被告が保有する特許第4411573号(以下「573号特許」という。)の実施品であると主張するが,573号特許の実施例の図面(乙80,図2及び4)をみても,明確に「ベースに沿って延びるベース側部」を備えた「ロック部材」が記載されている。 また,被告は,均等論の適用に関し,置換容易性の要件の充足を争っている。しかし,被告の置換容易性の判断時期に関する主張は,置換容易性の判断基準時を「対象製品等の製造等の時点」と判示する最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決(民集52巻1号113頁)に反するものである。被告は,被告製品Cが 断時期に関する主張は,置換容易性の判断基準時を「対象製品等の製造等の時点」と判示する最高裁判所平成10年2月24日第三小法廷判決(民集52巻1号113頁)に反するものである。被告は,被告製品Cが573号特許の実施品であることをもって置換容易性がない旨主張しているが,別の特許の実施の有無は置換可能性とは関係がない。すなわち,「別の発明」の出願人が当該発明について特許登録を受けても,当該「別の発明」の実施がそれとは異なる特許発明の 実施にも該当するのであれば,利用発明の関係にあることになるにすぎないし,均等論で問題になっている置換部分とは,問題となっている発明の構成要件のうち被疑侵害製品が充足しない構成部分をいうのであって,当該部分以外の構成について別の特許が成立していたとしても置換容易性の判断には関係がないからである。 エ限界利益額について(ア) 被告は,原告の主張する原告製品の平均販売価格に重大な疑義があるなどと主張する。 しかし,インボイス(甲101ないし139)をみれば,原告製品①,③及び④について,それぞれ,製品1個当たり●(省略)●米国ドル,●(省略)●米国ドル,●(省略)●米国ドルという一種類の販売価格しか存在しなかったことが分かる。これらは,原告従業員Fの宣誓供述書(甲91・第5項)で報告された「バイオデントに対する2015年製品毎の平均的販売価格」の数字そのものである。 これに対して,原告製品②については,●(省略)●米国ドルと●(省略)●米国ドル(●(省略)●米国ドルの10%引)の二種類の販売価格が存在したことが分かる。これは,原告が,当時,原告製品②につきバイオデントに対し,月ごとに購入数量基準を設け,これをクリアした場合には翌月に10%割引の価格を適用するという取り決めをしていたこ 格が存在したことが分かる。これは,原告が,当時,原告製品②につきバイオデントに対し,月ごとに購入数量基準を設け,これをクリアした場合には翌月に10%割引の価格を適用するという取り決めをしていたことによる。上記宣誓供述書の「バイオデントに対する2015年製品毎の平均的販売価格」における「8.05米国ドル」という原告製品②の平均的販売価格はかかる2種類の販売価格による取引から平均価格を算出したものである。 したがって,被告が主張するような「重大な疑義」は存在しない。 (イ) 被告は,限界利益の算出において,インサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用を控除すべきであると主張する。 しかし,インサイド・キャパシティ費用は,製品製造の各工程の直接労務費用を示したもので,原告社内の従業員の労務に相当する金額を原告社内の基準により定めてこれを便宜的に各製品に割り当てたものにすぎない。また,キャパシティ・オーバーヘッド費用は,各製品の製造のために要する各種の変動間接費を示したもので,実際に原告製品が1個製造される度に支出が必要となる費用ではなく,原告社内の従業員の労務等に相当する金額を原告社内の基準により定めてこれを便宜的に各製品に割り当てたものにすぎない。 したがって,かかるインサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用は原告製品1個当たりを追加的に製造,販売する際に直接必要となる費用(直接変動費)ではないから,被告の主張は失当である。 また,原告は,バイオデントに納品する原告製品については個別パッケージをしていないから,パッケージ費用を控除すべきである旨の被告の主張も失当である。 (ウ) 被告は,Bに対するライセンス料についても控除すべきであると主張する。 しかし,本件告知行為 別パッケージをしていないから,パッケージ費用を控除すべきである旨の被告の主張も失当である。 (ウ) 被告は,Bに対するライセンス料についても控除すべきであると主張する。 しかし,本件告知行為により,原告がバイオデントに原告製品を販売できなかったことによる不正競争ないし不法行為に基づく損害賠償請求において,原告とBとの間の原告製品に関するライセンス料の支払いの要否は原告とBとの内部関係の問題にすぎないから,原告の損害額から控除すべき理由がない。 また,仮に,将来原告がBに対しライセンス料を支払うことになったとしても,それを被告の原告に対する損害賠償金の金額から予め控除することは不合理である。なぜなら,そもそも,本件訴訟において,原告がバイオデントに日本市場で本来販売できたと主張する分(損害賠償対 象分)については,ライセンス料の支払は要しないと解される上,本件発明にかかる特許は無効審判で確定的に無効となり,原告とBとの間の契約が想定していたこととは異なる事態となっているから,原告がBに対してライセンス料相当分を支払う必要があるか否かについては原告とBの協議を要する事項であって,未だその額も確定しない状況である。 したがって,被告の上記主張は失当である。 (エ) 被告は,原告とバイオデントの間の取引には1米国ドル100円の優遇為替レートがあったと主張するがそのような事実はない。原告とバイオデントとの間の原告製品に関する取引はドル建てで行われており,両者間で為替レートについて合意したことはない。 また,被告は,バイオデントの日本国内での原告製品②の割引販売価格(被告主張によると960円)が原告からの仕入れ価格(同974円)を下回っていたなどと主張するが,上記割引販売価格は平成27年9月14日から同年11月30日ま の日本国内での原告製品②の割引販売価格(被告主張によると960円)が原告からの仕入れ価格(同974円)を下回っていたなどと主張するが,上記割引販売価格は平成27年9月14日から同年11月30日までの期間限定の割引であるし,同期間において,バイオデントは,原告製品②について10%の割引価格●(省略)●米国ドル(被告主張の為替レートである1米国ドル当たり約121円により計算すると●(省略)●円)の適用を受けていたから,被告主張の為替レートを前提としても原価割れは生じていない。 オ損益相殺について被告は,バイオデントによる「矯正材料・消耗品の販売実績」について,本件告知行為による原告製品①の販売中止前よりも,販売中止後の方が上回っていることを理由として,原告には逸失利益が発生していないと主張する。 しかし,本件告知行為に起因する原告製品の販売中止による逸失利益の算定において問題となるのは,本件告知行為がなかったとした場合に原告製品がどの程度販売され,どの程度利益を得られたかということであり, 原告製品以外の製品の販売状況は関係がない。仮に原告製品以外の製品の売上が増大したとの事実が存在したとしても,本件告知行為がなければ原告製品が販売中止されることもなく他の製品と同様に販売されていたはずであり,原告に逸失利益が発生することに何らの変わりはない。 したがって,被告の上記主張は失当である。 〔被告の主張〕(1) 因果関係の有無について本件告知と原告の主張する損害との間には相当因果関係がない。 すなわち,本件告知の内容は,原告製品が本件特許を侵害する旨断定するものではなく,あくまで侵害の成否の検討をバイオデントに要望したものにすぎず,バイオデントは,原告の関連資料を確認し,さらに原告との協議を経たうえで, 内容は,原告製品が本件特許を侵害する旨断定するものではなく,あくまで侵害の成否の検討をバイオデントに要望したものにすぎず,バイオデントは,原告の関連資料を確認し,さらに原告との協議を経たうえで,原告製品が本件特許に抵触する可能性があるとの判断を自ら行い,原告製品の新規の輸入・販売を自主的に中止したものである。 したがって,仮にバイオデントが原告製品の輸入・販売を中止したことにより,原告が何らかの損害を受けたとしても,それは,専らバイオデントによる自主的な取引中止の判断から生じた結果であって,本件告知行為を直接の原因とするものではなく,本件告知と相当因果関係にある損害ではない。 (2) 損害額についてア被告製品について(ア) 原告が指摘する被告製品(被告の製造・販売に係るセルフライゲーションブラケット製品「クリッピー」)には,「ミニクリッピー」(以下「被告製品A」という。),「クリッピーC」(以下「被告製品B」という。)及び「クリッピーLリンガル」(被告製品C)の三つがある。 (イ) 被告製品のうち,被告製品A及びBが,対象製品(本件発明の実施品である歯列矯正ブラケット)であることは認めるが,被告製品Cについては,対象製品であることを否認する。 被告製品Cは,本件特許とは別に被告が保有する573号特許の実施品であり,本件発明の「ベースに沿って延びるベース側部」を備えた「ロック部材」という構成要件(構成要件B)を欠くので,対象製品に該当しない。そもそも,被告製品Cは,歯の裏側に装着して使用するいわゆるリンガルブラケットであり,歯の表側に装着して使用する原告製品や被告製品A及びBとは具体的用途が異なるのであり,実質的に考えても,原告の損害を算定するにあたって考慮されるべき製品ではない。 また,原告は, ブラケットであり,歯の表側に装着して使用する原告製品や被告製品A及びBとは具体的用途が異なるのであり,実質的に考えても,原告の損害を算定するにあたって考慮されるべき製品ではない。 また,原告は,被告製品Cについて均等論を適用する旨主張する。 しかし,被告は,本件特許出願後に,本件発明のようにロック部材(クリップ)をスライドさせるのではなく,これを回転させて開閉する構成に想到し,かかる構成に関する発明について573号特許を取得したのであり,当該構成を採用した被告製品Cが均等論適用の要件である容易想到性(置換容易性)を欠くことは明らかであるから,原告の上記主張は失当である。なお,容易想到性の判断は,被疑侵害行為が,均等論の対象である特許発明の公開後に出願された別の特許発明を実施するものである場合には,当該別の発明が出願後に公開されることにより容易想到性が認められることになると不合理なので,当該別の発明について特許出願がされた時点(本件では平成13年8月24日時点)を基準とすべきである。 イ原告の逸失利益算定方法について(ア) 原告の主張する市場シェアに基づく逸失利益の算定方法は,少なくとも次の二点において不合理である。 a 原告は自らの主張を証明する証拠を何ら提出していない。 b 対象製品が一つの市場を構成しているという想定には合理性がない。 原告製品①の販売が再開された平成26年における被告製品Aの販売数量が平成25年よりも増加していることからわかるように,原告 製品の売上が増加すれば被告製品の売上が減少するという関係にない。 また,本件発明の実施品ではない製品であっても,例えば,フォレスタデント・ジャパン株式会社が日本において販売している「クイックブラケット」(乙81)など,本件発明の実施品とほぼ同様の 係にない。 また,本件発明の実施品ではない製品であっても,例えば,フォレスタデント・ジャパン株式会社が日本において販売している「クイックブラケット」(乙81)など,本件発明の実施品とほぼ同様の効果を奏する競合品が存在する。そして,これらの競合品を除外した市場を想定すべき理由がない。 (イ) 仮に原告のいう対象製品からなる一つの市場を想定するとしても,その市場規模が1年当たり少なくとも88万個である旨の原告の主張は事実に反する。 原告の主張に沿って,原告製品①ないし④及び被告製品AないしCの全てを対象製品に含めたとしても(もっとも,前記のとおり被告製品Cは対象製品ではない。),平成22年から平成27年まで間の実際の販売数量は下表のとおりであり(甲91,乙82,94),●(省略)●にすぎない。 ●(省略)●なお,被告製品Cは対象製品ではないから,これを除くと,販売数量は下表のとおりとなり,●(省略)●にすぎない。 ●(省略)●(ウ) さらに,バイオデントと被告の対象製品の販売力の比率は●(省略)●で,本件告知行為がなければバイオデントが対象製品の市場の●(省略)●を獲得していたという原告のシェアに関する主張には何の根拠もない。 株式会社アールアンドディの統計資料(乙97ないし103)に示される過去の販売実績でいえば,「矯正材料・消耗品」というカテゴリーにおいても,「ブラケット」というカテゴリーにおいても,バイオデントのシェアは●(省略)●に満たない。そして,本件告知行為の前後を 通じ,それらのシェアに顕著な変化は認められない。そうすると,仮に対象製品の市場が存在すると仮定しても,そこにおける原告製品のシェアはせいぜい2割程度と推認される。 また,原告が損害賠償請求対象期間中,常に一定のシェアを有し 変化は認められない。そうすると,仮に対象製品の市場が存在すると仮定しても,そこにおける原告製品のシェアはせいぜい2割程度と推認される。 また,原告が損害賠償請求対象期間中,常に一定のシェアを有していたものと認めることはできない。原告製品は,平成26年から平成27年にかけて販売数量を倍増させているが,その要因は製品ラインナップの拡大や原告製品の市場への浸透が考えられる。そうすると,原告製品のシェアは平成22年における●(省略)●を出発点として漸増し,平成27年に約●(省略)●の本来的シェアに到達したと認めるべきであり,これを損害賠償請求の対象となっている全期間に均せば,約●(省略)●程度となる。 (エ) 以上のとおり,原告の逸失利益算定方法が完全な誤りであることは明らかであり,採用の余地は全くない。 ウ原告製品の1個当たりの平均利益額について(ア) 原告製品②ないし④について原告は,本件告知行為のためにバイオデントが原告製品②ないし④を原告から購入して日本で発売開始する時期が遅れ,これによって原告に生じた逸失利益も本件告知行為との間に相当因果関係が認められるなどと主張する。 しかし,そもそも原告製品④については対象製品該当性自体が問題となるうえ(原告は原告製品④について「バンドに溶接して歯に装着する歯列矯正ブラケット」であると主張しているところ,そうであるとすれば,歯面に固着されるのはバンドであるから,「歯面に固着されるベース」(構成要件A)を備えておらず,本件発明の実施品に当たらない。),その点を措くとしても,被告製品②ないし④に関して本件告知行為と相当因果関係のある損害が生じたということはできない。 すなわち,被告が本件告知の対象としたのは原告製品①のみであり,その時点で開発すらされていなかっ ないし④に関して本件告知行為と相当因果関係のある損害が生じたということはできない。 すなわち,被告が本件告知の対象としたのは原告製品①のみであり,その時点で開発すらされていなかった原告製品②ないし④に関する損害の発生が,同時点で被告に予見可能であったということはできない。原告は,原告製品を発売する以前から,「T3」,「VisionLP」という別の2種類のセルフライゲーションブラケットを販売していたが,それらはいずれもメタル製ブラケット製品であり,セラミック製ブラケット製品や奥歯用のチューブ製品のラインナップは有していなかった。 このことからしても,原告が原告製品②ないし④を開発し,バイオデントを通じて日本で発売するなどということは,本件告知行為の時点において被告に予見できることではなかった。 したがって,本件告知行為に起因して原告に損害が発生したとしても,それは原告製品①に関するもののみである。 (イ) 原告製品①に係る損害についてバイオデントの被告に対する平成23年1月31日付書簡(乙19)には,「[平成23年]1月末日をもちまして当社製品『エンパワー』の新規販売を中止とさせていただきます。」,「ただし……すでに販売させていただいた得意先につきましては,迷惑をおかけすることのないよう,2月末日まで猶予期間をいただければ幸いに存じます。」と記載されており,バイオデントは平成23年1月以降も原告から原告製品を購入していた疑いが強い。したがって,平成23年1月1日からバイオデントに対する原告製品の販売を中止したという原告の主張には根拠がない。 また,平成26年1月の販売再開後には,原告に損害が生じたとは認められないから,原告製品①について逸失利益が認められるとしても,その最大額は,同製品の販売が中止された期間 告の主張には根拠がない。 また,平成26年1月の販売再開後には,原告に損害が生じたとは認められないから,原告製品①について逸失利益が認められるとしても,その最大額は,同製品の販売が中止された期間に係るものに限られる。 ところで,原告製品①の逸失利益とは,本件告知行為がなく,原告がバイオデントに対して原告製品①の販売を継続していれば本来得られてい たであろう利益をいうのであり,本件告知行為前における原告製品①の販売実績に基づいて算定されるべきである。万が一,販売再開後の原告製品①の販売実績が考慮対象になるとしても,以下に述べる理由から,少なくとも平成27年以降の販売実績は参酌されるべきでない。 日本では,一般に,歯列矯正患者は,前歯については審美性を重視してセラミック製ブラケットを選択し,奥歯については安価であり機能的にも優れているメタル製ブラケットを用いる傾向にあるから,セラミック製ブラケットの販売数量が増加すると,対応するメタル製ブラケットの販売数量も増加する。原告製品①の販売数量実績を見ると,平成26年6月以前の販売数量と原告製品②が発売された同年7月以降の販売数量は大きく異なり,ほぼ倍増している。したがって,原告製品②が発売された後の販売数量を基礎として,販売中止期間中の原告製品①の逸失利益を算定するのは不合理である。さらに,平成22年の販売開始時にはなかったパッシブタイプの原告製品①(乙88)が,平成26年10月以降販売されている(甲50,52,56)。パッシブタイプのブラケットとは,クリップが(比較的太い)アーチワイヤをアーチワイヤスロットの底面方向に押さえつけない仕様になっているセルフライゲーションブラケットをいうが,被告製品Aにはこのような仕様の製品は存在しない。このようなパッシブタイプの製品がライ ワイヤをアーチワイヤスロットの底面方向に押さえつけない仕様になっているセルフライゲーションブラケットをいうが,被告製品Aにはこのような仕様の製品は存在しない。このようなパッシブタイプの製品がラインナップに加わったことが,平成22年と比較して平成26年の原告製品①の販売数量が伸びている一因と考えられる。 (ウ) 原告製品②ないし④の販売開始時期について原告は,原告製品②ないし④を平成24年4月,遅くとも同年5月には日本で販売開始したはずであると主張するが失当である。 原告製品②を米国内で販売するには,連邦食品医薬品化粧品法セクション510(k)に基づく申請をして,合法的に市販されている医療機器 との実質的同等性の確認を受けることが必要である。そして,原告は,FDAのクリアランスを平成24年(2012年)12月14日に得ているから(乙89),同日までは合法的に米国内で原告製品②を販売することはできなかった。 したがって,原告が,同日以前に日本国内で原告製品②を販売開始することはあり得ない。 次に,メタル製ブラケットである原告製品③及び④は,市販化にあたって510(k)申請は要求されないものの,米国以外の他の外国における原告製品③及び④の発売時期が米国での発売時期から数か月遅れていること(甲94・訳文10頁の表参照),原告製品①の日本での発売が米国での発売から2か月遅れていること,原告製品③及び④の実際の日本における販売時期が原告製品①の販売再開の時期から数か月遅れ,原告製品③と④の販売時期もずれていること等の事情からすれば,本件告知行為がなければ,平成24年4月,遅くとも同年5月には原告製品③及び④を発売していたという原告の主張は到底認められない。なお,原告が提出した原告製品③及び④に関する同年1月上旬作成の れば,本件告知行為がなければ,平成24年4月,遅くとも同年5月には原告製品③及び④を発売していたという原告の主張は到底認められない。なお,原告が提出した原告製品③及び④に関する同年1月上旬作成の新製品情報資料(甲142)は不自然な体裁となっており,これをもって同月頃に原告製品③及び④の販売活動がされていたことが立証されているとはいえない。 (エ) 限界利益額について原告の限界利益額の算出方法には誤りがある。 すなわち,原告は,原告製品①の限界利益は●(省略)●米国ドルであり,その前提として平均販売価格が●(省略)●米国ドルであると主張するが,原告従業員の陳述書(甲91・第4項)によれば,平成22年(2010年)の原告製品①の平均販売価格は●(省略)●,平成26年(2014年)は●(省略)●であり,原告の主張する額とは異なる。 また,原告は,原告製品②の平均販売価格が●(省略)●米国ドルであると主張するが,原告提出のインボイス(甲70,72,74)によれば,原告製品②の平均販売価格は●(省略)●米国ドルにすぎない。このように,原告が,限界利益額の算定の前提として主張する平均販売価格には重大な疑義がある。 次に,原告の主張する限界利益額においては,控除すべき費用が考慮されていない。 すなわち,インサイド・キャパシティ費用(直接労務費用)及びキャパシティ・オーバーヘッド費用(変動間接費)は原告製品の製造・販売に係る直接変動費に該当するから,原告製品の限界利益を算定するにあたって控除すべきである。また,原告はバイオデントに原告製品を納入する際,個別のパッケージをしていると思われるところ,パッケージ費用(包装材料費等)は直接変動費に該当するから,これを控除すべきである。 そして,原告が,独占的ライセンス契約に基 トに原告製品を納入する際,個別のパッケージをしていると思われるところ,パッケージ費用(包装材料費等)は直接変動費に該当するから,これを控除すべきである。 そして,原告が,独占的ライセンス契約に基づきBに支払うランニングロイヤリティも直接変動費に該当するからこれを控除すべきである。 さらには,平成27年当時,原告とバイオデントの間の取引には1米国ドル100円の優遇為替レートによる価格調整メカニズムの適用があったはずであり,かかる価格調整メカニズムの合意の存在は,同年の日本矯正歯科学会キャンペーンにおけるバイオデントの割引販売価格(960円)が原価(8.05米国ドル=約974円。同年の三菱東京UFJ銀行の対米国ドル平均為替レート1米国ドル当たり約121円で計算。)割れしていることから裏付けられる。このような優遇為替レートの適用は,販売代金の実質的な割引にほかならず,当該割引額は原告の利益額を算定するに当たり控除されなければならない。 エ損益相殺について平成19年から平成26年までの8年間において,バイオデントとトミ ーインターナショナルの国内市場シェア比率に顕著な増減はない。 バイオデントは平成23年から3年間,原告製品①の販売を中止したとされているにもかかわらず,その間,バイオデントの販売実績が特に減少したという事実はなく,むしろ矯正材料・消耗品についてもっとも高い販売実績をあげたのは販売中止期間中の平成24年である(3億7800万円)。また,平成19年から平成22年までの4年間におけるバイオデントの1年当たりの矯正材料・消耗品の平均売上額は2億7875万円であるのに対し,原告製品①の販売を中止していたとされる平成23年から平成25年までの3年間における同社の1年当たりの矯正材料・消耗品の平均売上額は3億3 材料・消耗品の平均売上額は2億7875万円であるのに対し,原告製品①の販売を中止していたとされる平成23年から平成25年までの3年間における同社の1年当たりの矯正材料・消耗品の平均売上額は3億3500万円であり,販売中止前を上回っている。このように原告製品の販売中止期間中,バイオデントがこれだけの販売実績を残したのは,原告製造に係る他のブラケット製品の売上が増大したためと考えられるから,同製品をバイオデントに販売した原告の利益も増大したといえる。そして,販売中止期間中における原告のバイオデントに対する売上からの利得額は,販売中止期間前のそれを上回っていると推認されるから,原告は,本件告知行為によって原告製品の販売が中止された期間につき,損害を上回る利益を得たといえる。 すなわち,販売中止期間中,バイオデントは,本来であれば原告製品を販売するであろう機会を利用して,本件特許に抵触しない他の原告の製品を顧客に販売し,これによってそれまで以上の売上を得ていたものと認められるのであるから,損益相殺により,他の原告の製品の売上による原告の利得額は原告の損害額から控除されなければならない。 第4 当裁判所の判断 1 前記第2,2の前提事実に加え後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 (1) 本件特許出願前後の事実経緯 ア AとBは,本件発明の共同発明者である。なお,Aは,被告の常務取締役である。(甲23)イ被告は,平成11年10月8日,AとBを共同発明者として,本件特許を出願した。 ウ Bは,本件特許の出願に先立つ平成11年9月下旬,被告から出願書類の少なくとも一部についての英訳文(乙21)を受領し,その内容についてコメントを返すなどしており,被告が,本件特許出願の手続きを進めていることは認 の出願に先立つ平成11年9月下旬,被告から出願書類の少なくとも一部についての英訳文(乙21)を受領し,その内容についてコメントを返すなどしており,被告が,本件特許出願の手続きを進めていることは認識していた。(乙55ないし57)エしかし,Bは,被告に対し,本件発明について特許を受ける権利を譲渡することについて同意する旨の意思表示をしたことはなく,また,Aの共同持分権を被告に譲渡することに同意する旨の意思表示をしたこともない。 (甲12,19,42)オこのように,被告は,Bから特許を受ける権利の譲渡を受けておらず,また,Aから特許を受ける権利の譲渡を受けることについてBの同意を得ていなかったから,被告による本件特許出願は,特許を受ける権利を有しない者による冒認出願であった。 カ Bは,平成12年2月,被告に対し,本件特許出願における発明者欄の記載について,Bの名前を先にすることができるか確認をしたことがあり,Aは,出願書類における名前の順番が異なっていても何ら違いはない旨及び欧州及び米国の出願においてはBの名前を先に記載する旨を返答した。 (乙7,8)キ Aは,Bに対し,平成12年10月以降,複数回にわたり,本件特許出願を優先権の基礎とする米国特許出願(米国特許第6368105号にかかる出願。以下,同特許を「本件米国特許」という。)に関し,譲渡書を被告に送付するよう求めたが,Bが譲渡書を被告に送付することはなかった。その結果,Bは,被告とともに,本件米国特許(平成12年〔200 0年〕10月6日出願,平成14〔2002年〕年4月9日登録)の特許権者となっている。(甲18,42,乙9ないし16,63)ク Bは,平成25年1月10日付けの書簡(乙17)を送付するまで13年以上にわたり,被告に対し,本件特許にかか 年〕年4月9日登録)の特許権者となっている。(甲18,42,乙9ないし16,63)ク Bは,平成25年1月10日付けの書簡(乙17)を送付するまで13年以上にわたり,被告に対し,本件特許にかかる権利を主張したことはなかった。(甲42,乙17)(2) 本件告知にかかる事実経緯ア被告は,平成22年10月15日付けで,バイオデントに対し,甲4書簡及び本件特許公報の写しを送付した。甲4書簡には次のとおり記載されていた。 「さて,貴社が販売されております歯列矯正用のブラケット(商品名:Empower)を入手し,分析いたしましたところ,弊社としては,本製品は添付の弊社保有特許(特許第4444410号,発明の名称:歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール)の請求項1に関連するものと思料しております。 つきましては,来たる11月15日までに貴社のご見解を賜りたく,ご検討のほど宜しくお願い申し上げます。」イバイオデントは,被告に対し,平成22年11月10日付文書により,「弊社は輸入元のアメリカンオーソドンティックス社より『開発者から製造許可を受けている。』との回答を受けておりました。現在アメリカンオーソドンティックス社に再度関連資料を確認中です。つきましては大変恐縮ではございますが,11月30日まで返答期間を延長していただければ幸いに存じます。」と回答した。(乙18)ウバイオデント代表取締役のCは,その後,韓国で開催された矯正学会において被告代表取締役のDに会い,Dから,甲4書簡に関しては,Aを窓口として法務部門と話をするようにと言われた。(甲23)エそこで,Cは,同年11月26日,Aに対し,上記ウの経緯を説明すると ともに「一度お目にかかりまして,ご意見を承りたく存じます。誠に恐縮ではござ するようにと言われた。(甲23)エそこで,Cは,同年11月26日,Aに対し,上記ウの経緯を説明すると ともに「一度お目にかかりまして,ご意見を承りたく存じます。誠に恐縮ではございますが,12月6日以降でご都合のよい日時をご連絡賜りたく,何とぞよろしくお願い申し上げます。」と記載したメールを送付した。(甲23)オ Aは,上記メールを受け,同年12月28日,Cに対し,「社内で相談の結果,今回は使用許諾をすべきでないとの意見が大勢を占めました。当初のご案内のとおり,弊社からの書簡に対して早めのご回答をお願いします。」と記載した甲23メールを返信した。(甲23)カバイオデントは,平成23年1月31日付け書簡により,被告に対し,「輸入元のアメリカンオーソドンティックス社の関連資料を確認し協議した結果,日本国内においては貴社の特許に抵触する可能性があるとの判断に至りました。つきましては,1月末日をもちまして当社製品「エンパワー」の新規販売を中止とさせていただきます。ただし,大変恐縮ではございますが,すでに販売させていただいた得意先につきましては,迷惑をおかけすることのないよう,2月末日まで猶予期間をいただければ幸いに存じます。」と通知した。(乙19)(3) 原告製品及び被告製品の販売等ア原告製品(商品名「Empower」)には,金属製のメタル製品「エンパワー・メタル」A100(原告製品①),セラミック製のクリア製品「エンパワー・クリア」C050(原告製品②),ダイレクトボンドチューブ製品「DBチューブ・エンパワー」D050(原告製品③)及びウェルダブルチューブ製品「ウェルダブルチューブ・エンパワー」G050(原告製品④)の4製品がある。(甲89,91ないし93)イ原告は,平成22年5月,バイオデントに対 050(原告製品③)及びウェルダブルチューブ製品「ウェルダブルチューブ・エンパワー」G050(原告製品④)の4製品がある。(甲89,91ないし93)イ原告は,平成22年5月,バイオデントに対し,原告製品①の販売を開始し,バイオデントは,原告製品①を輸入し,日本国内において原告製品①を販売した。(甲43,44,91,93) ウバイオデントは,本件各告知を受けたことから,平成23年1月末をもって原告製品①の新規販売を停止した。そのため,原告のバイオデントに対する原告製品①の販売は,平成22年12月で停止された。なお,この時点においては,原告製品②ないし④は開発されておらず,日本国外においても販売されていなかった。(甲91,93,乙19)エ原告は,平成26年1月,バイオデントに対する原告製品①の販売を再開した。また,原告は,同年7月に原告製品②,同年3月に原告製品③,平成27年1月に原告製品④のバイオデントに対する販売を開始した。(甲91,93,乙83)オなお,米国及びカナダにおける原告製品の販売開始時期は,原告製品①が平成22年3月,原告製品②が平成24年5月,原告製品③が同年1月,原告製品④が同年3月である。(甲94,142ないし146,151ないし160)カ被告は,「クリッピー」シリーズと呼ばれるメタル製ブラケット「ミニクリッピー」(被告製品A),セラミック製ブラケット「クリッピーC」(被告製品B),及びリンガルブラケット「クリッピーLリンガル」(被告製品C)を製造し,トミーインターナショナルがこれを販売している。(甲90,乙82,94) 2 争点(1)(被告による告知が不競法2条1項14号の不正競争行為に当たるか)について(1) 虚偽の事実の告知の有無について甲4書簡には,原告製品 販売している。(甲90,乙82,94) 2 争点(1)(被告による告知が不競法2条1項14号の不正競争行為に当たるか)について(1) 虚偽の事実の告知の有無について甲4書簡には,原告製品について「本製品は添付の弊社保有特許(特許第4444410号,発明の名称:歯列矯正ブラケットおよび歯列矯正ブラケット用ツール)の請求項1に関連するものと思料しております。」と記載されているところ,本件発明に係る特許に「関連する」という文言は,本件発明の技術的範囲に属する可能性があることを指摘するものと理解するのが素 直である。そして,被告の常務取締役であるAが,バイオデントに送付した甲23メールには,本件発明に係る特許について「使用許諾をすべきでないとの意見が大勢を占めました。」と記載されており,被告がバイオデントに対し,本件発明に係る特許の実施許諾をする意思がないことが明らかにされている。これらの事実を考慮すると,被告は,バイオデントに対し,原告製品が本件発明の技術的範囲に属しているという事実及び被告が本件発明に係る特許について実施許諾をする意思がないという事実を通知したということができる。そして,特許権は独占的排他的権利であり,特許権者において実施許諾をする意思がない場合には,当該特許を業として実施している者は実施行為を中止するほかないところ,実際にバイオデントは原告製品の販売を中止しているから,バイオデントも,本件各告知は原告製品の輸入及び販売の中止を求めるものと認識していたものと認められることからすれば,甲4書簡による本件告知1の意義がやや不明瞭であるとしても,甲23メールによる本件告知2を併せてみれば,本件各告知は,被告が,バイオデントに対し,本件特許権侵害を理由として本件発明の実施行為である原告製品の輸入及び販売 1の意義がやや不明瞭であるとしても,甲23メールによる本件告知2を併せてみれば,本件各告知は,被告が,バイオデントに対し,本件特許権侵害を理由として本件発明の実施行為である原告製品の輸入及び販売の中止を求める侵害警告に当たると認めるのが相当である。 そして,被告の上記侵害警告は,バイオデントが原告から輸入して販売する原告製品が特許侵害品である旨の告知であるから,原告の営業上の信用を害する事実の告知であると認められる。 ところで,本件発明に係る特許については,冒認出願であることを理由として,これを無効とすべき旨の審決が確定しており,同特許権は初めから存在しなかったものとみなされるので(特許法125条),バイオデントによる原告製品の輸入及び販売は,被告の特許権を侵害しないし,また,被告は特許権に基づいて権利行使することはできない。 したがって,被告のバイオデントに対する本件各告知は,本件発明に係る特許が存在しないにもかかわらず,原告製品の輸入及び販売がその特許権を 侵害するという事実を告知したものであって,虚偽の事実の告知に当たると認めるのが相当である。 (2) 違法性及び故意過失の有無について次に,本件各告知行為の違法性及び被告に故意又は過失があったといえるかにつき,検討する。 登録された特許権について,後にその有効性が争われて結果として無効とする審決が確定したことによって特許権が存在しないとみなされたために,当該特許権の特許権者による侵害警告行為が不競法2条1項14号の虚偽の事実の告知に当たる場合において,当該特許権者が損害賠償責任を負うか否かを検討するに当たっては,無効理由が告知行為の時点において明確なものであったか否か,無効理由の有無について特許権者が十分な検討をしたか否か,告知行為の内容や態様が社会通 者が損害賠償責任を負うか否かを検討するに当たっては,無効理由が告知行為の時点において明確なものであったか否か,無効理由の有無について特許権者が十分な検討をしたか否か,告知行為の内容や態様が社会通念上不相当であったか否か,特許権者の権利行使を不必要に委縮させるおそれの有無,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,当該告知行為が登録された権利に基づく権利行使の範囲を逸脱する違法性の有無及び告知者の故意過失の有無を判断すべきである。 これを本件について検討すると,前記1(1)のとおり,被告は,本件発明がAとBによる共同発明であり,しかも,本件特許出願においてBを発明者の一人として掲げていたにもかかわらず,Bの同意を得ることなく本件特許を出願したものであるが,Bが被告に対し,本件発明に係る特許を,被告が単独で出願することについて明示の同意をしたことはないのであるから,本件各告知行為の時点において,本件特許出願に冒認出願若しくは共同出願違反の無効理由があることが明らかであり,被告は,本件特許出願に当たり,Bの同意を得ていないことを当然に認識していたか,少なくとも容易に認識し得る状況であったというべきである。また,仮に被告が本件発明はAの単独発明であると信じていたか,又は,Bの黙示の同意があるものと信じていた としても,Bが,本件特許出願に関し,発明者名の記載の順番にこだわっていたという事実,及び本件特許に対応する本件米国特許についてはBが譲渡書を提出せず,そのために米国においては被告とBの両者が権利者であるものとして特許出願したという経緯に照らせば,被告において,Bによる本件発明に対する寄与があること及びBに本件発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡する意思がないことは容易に推測できるというべきであるから, て特許出願したという経緯に照らせば,被告において,Bによる本件発明に対する寄与があること及びBに本件発明に係る特許を受ける権利を被告に譲渡する意思がないことは容易に推測できるというべきであるから,冒認出願という無効理由の有無について特許権者である被告が十分な検討をしていたということはできない。さらに,前記(1)で説示したとおり,本件各告知は,原告に対してではなく,原告製品の販売業者であるバイオデントに対して直接原告製品の輸入及び販売の中止を求め,話し合いに応じることなく一方的に実施許諾を拒否する内容のものと認められるから,被告が本件特許権の無効理由の有無について十分な検討をしていなかったことを踏まえれば,本件各告知は,その内容や態様に照らし社会通念上相当ということはできない。 そして,上記のとおり,被告は本件特許について冒認出願の無効理由があることを知り得たといえること及び本件各告知行為が,バイオデントによる原告製品①の日本国内での販売を中止させるという重大な結果を生じさせるものであることからすれば,被告には,本件各告知行為前に,Bに発明の経緯に係る事情や特許を受ける権利の譲渡に関する意向を確認するなどの調査をすべき義務があったというべきである。ところが,被告は何ら調査をすることなく,本件各告知行為に及んだ。 以上の事実を総合考慮すると,被告のバイオデントに対する本件各告知行為には,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱する違法があり,被告には,バイオデントに対し本件各告知による虚偽の事実の告知をしたことについて,少なくとも過失があるといわざるを得ない。 (3) 被告の主張に対する判断 被告は,権利侵害を疑われる行為を行う本人に対して権利侵害の事実を申述する行為は,不競法2条1項14号の不正競争行為に当たらない いわざるを得ない。 (3) 被告の主張に対する判断 被告は,権利侵害を疑われる行為を行う本人に対して権利侵害の事実を申述する行為は,不競法2条1項14号の不正競争行為に当たらないと主張する。 しかし,バイオデントは権利侵害を疑われる行為を行う本人ではあるものの,バイオデントに対し,本件各告知がされることにより,バイオデントではなく,原告製品の製造元である原告の営業上の信用が害されるのであるから,上記告知は,「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知」に当たるというべきである。この点に関して被告は,バイオデントは原告と同一視されるべき地位にあるなどとも主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 また,被告は,本件各告知は正当な権利行使であり違法性が阻却されるとも主張するが,上記(2)で説示したとおり,被告のバイオデントに対する本件各告知行為には,登録された権利に基づく権利行使の範囲を逸脱する違法があるというべきであるから,本件各告知は,正当な権利行使には当たらないというほかない。 したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。 (4) 以上のとおり,被告による本件各告知は,不競法2条1項14号の不正競争行為に当たると認めるのが相当である。 3 争点(2)(損害発生の有無及びその額)について(1) 損害の発生の有無についてア被告は,バイオデントに対し,原告製品の輸入及び販売の中止を求める意思をもって,甲4書簡により,原告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるものであり,原告製品の輸入及び販売が本件特許権を侵害するものであることを通知し,甲23メールにより,本件発明に係る特許についての実施許諾をしない旨を通知したものであるから,本件各告知を受けたバイオデントが,原告製品の輸入及び販売を 本件特許権を侵害するものであることを通知し,甲23メールにより,本件発明に係る特許についての実施許諾をしない旨を通知したものであるから,本件各告知を受けたバイオデントが,原告製品の輸入及び販売を中止し,そのために原告に逸失利 益が生じることは,通常起こり得ることであるといえる。 したがって,本件各告知行為がされた時点において,バイオデントが現に輸入販売していた原告製品①については,損害が発生していると認めるのが相当である。 イところで,原告は,原告製品は4種類あり,本件各告知行為当時販売していた原告製品①が販売中止されたことによる損害の他に,原告製品②ないし④についても当時販売されていなかったものの販売開始が控えられたことによる損害が生じ,これらの損害と被告の不正競争行為との間に相当因果関係があると主張する。 しかし,前記1(3)の事実によれば,バイオデントが甲4書簡及び甲23メールを受領した当時,販売していた原告製品は,原告製品①のみであるから,甲4書簡により指摘された「原告製品」は原告製品①のみを指すというほかない。 そして,上記当時,原告は,原告製品②ないし④については開発も終了しておらず,確実な販売開始予定も有していなかったのであるから,原告製品②ないし④の販売不開始により逸失利益が生じたとしても,被告にとって,本件各告知当時,当該損害については予見可能性がなかったというべきであり,被告による本件各告知行為と原告製品②ないし④に係る損害との間に相当因果関係があるということはできない。 ウしたがって,被告による本件不正競争行為と相当因果関係のある損害は,原告製品①の販売中止による逸失利益のみであると認めるのが相当である。 以下,その損害額について検討する。 (2) 損害額についてアバイオデ による本件不正競争行為と相当因果関係のある損害は,原告製品①の販売中止による逸失利益のみであると認めるのが相当である。 以下,その損害額について検討する。 (2) 損害額についてアバイオデントは,本件各告知を受けた結果,平成23年1月から平成25年12月までの間,原告からの原告製品①の購入を中止したが,本件各告知がなければ,バイオデントは同期間中も原告から原告製品①の購入を 継続したと推認されるから,同期間中に原告製品①をバイオデントに対して販売することによって得ることができたであろう利益額が,被告による本件不正競争行為により生じた原告の損害額に当たる。 イ証拠(甲91)によれば,原告は,平成22年5月から同年12月までの間に,原告製品①を●(省略)●個販売したことが認められ,これを年当たりの販売数に換算すると,●(省略)●個(●(省略)●個÷8か月×12か月)である。また,同証拠によれば,原告は,原告製品①の販売を再開した平成26年1月から同年12月までの1年間に,原告製品①を●(省略)●個販売したことが認められる。なお,被告は,原告製品②が発売された後の同年7月以降,原告製品①の販売個数が倍増しており,原告製品②発売後の販売数量を基礎として,販売中止期間中の原告製品①の逸失利益を算定するのは不合理であると主張するが,証拠(甲91)によれば,原告製品①の販売個数は平成26年を通じて月ごとのばらつきが大きく,同年7月以降の月別の販売個数(●(省略)●個ないし●(省略)●個)は,同年6月より前の月ごとの販売個数(●(省略)●個ないし●(省略)●個)を下回る月もあり,一概に同年7月以降の販売数が特異に増大しており,これを参照することが不合理であるとまでいうことはできないから,平成26年の1年間における販売個数を 略)●個ないし●(省略)●個)を下回る月もあり,一概に同年7月以降の販売数が特異に増大しており,これを参照することが不合理であるとまでいうことはできないから,平成26年の1年間における販売個数を参照して原告の逸失利益を検討することとする。 ところで,原告は平成22年5月に原告製品①を販売開始したものであるが,3年間の販売停止期間を経て,販売再開後には販売停止前の売り上げ個数を上回る売り上げ実績をあげていること,証拠(乙82)によれば,本件特許の実施品であることについて争いがない被告製品A及びBについても,●(省略)●は原告製品①の平成22年における現実の販売個数(●(省略)●個)を上回っていることが認められることから,平成22年以降,本件特許の実施品の販売数量は増加しているものと認めるのが相当で ある。したがって,平成23年から平成25年において原告製品①が販売可能であったと考えられる数量を推定するに当たり,平成22年の販売個数のみを参照することは相当ではなく,平成22年の年当たりの販売数及び平成26年の販売数の平均を算出して,平成23年ないし平成25年において販売可能であった数量を推定することが相当である。 そこで,平成22年の年当たりの販売数量と平成26年の年当たりの販売数量の平均を算出すると,●(省略)●個(〔●(省略)●個+●(省略)●個〕÷2)である。 そして,原告は,平成23年1月から平成25年12月までの間,日本国内を市場とする原告製品①の販売ができなかったから,原告が上記期間において販売可能であった原告製品①の個数は,●(省略)●個(●(省略)●個×3年)であると推認される。 ウそして,証拠(甲91)によれば,原告製品①の一個当たりの平均販売価格は,平成22年において●(省略)●米国ドル(●( 品①の個数は,●(省略)●個(●(省略)●個×3年)であると推認される。 ウそして,証拠(甲91)によれば,原告製品①の一個当たりの平均販売価格は,平成22年において●(省略)●米国ドル(●(省略)●米国ドル÷●(省略)●個。小数点第三位以下を四捨五入,以下同じ。),平成26年において●(省略)●米国ドル(●(省略)●米国ドル÷●(省略)●個)であることが認められる。原告が原告製品①を販売することができなかった平成23年ないし平成25年における原告製品①の平均販売価格は,平成22年の平均販売価格と平成26年の平均販売価格を平均した額と同額であると認めるのが相当であり,その額は●(省略)●米国ドルである。 また,平成23年ないし平成25年における原告製品①を一個製造するために要する費用は証拠上明らかではないものの,証拠(甲91,94,102ないし111)によれば,平成27年において,原告製品①を一個製造するために要する原材料費及び外注費は●(省略)●米国ドルであると認められるから,平成23年ないし平成25年においても同額相当の原材料費及び外注費を要したと推認することが相当である。 そうすると,平成23年ないし平成25年において原告製品①を販売することによる限界利益は●(省略)●米国ドル(●(省略)●米国ドル-●(省略)●米国ドル)であったと推認される。 したがって,原告が,原告製品①を販売できなかったことによる逸失利益は,12万7174.50米国ドル(●(省略)●個×●(省略)●米国ドル)と認めるのが相当である。 (3) 損害額に関する当事者の主張に対する判断ア原告の主張について(ア) 原告は,原告製品及び被告製品の市場が年当たり合計88万個であり,原告製品はそのうち●(省略)●のシェアを得ることができた 損害額に関する当事者の主張に対する判断ア原告の主張について(ア) 原告は,原告製品及び被告製品の市場が年当たり合計88万個であり,原告製品はそのうち●(省略)●のシェアを得ることができたものとして原告の逸失利益を算定すべきであると主張する。 しかし,原告製品と被告製品の市場が年当たり合計88万個であること,原告製品のシェアが●(省略)●を得ることができたはずであることについていずれもこれを認めるに足りる証拠がない。 むしろ,証拠(甲91,乙82,94)によれば,原告製品①並びに被告製品A,B及びCの販売数の合計は,平成22年において●(省略)●にすぎず,平成23年ないし平成25年においても●(省略)●にすぎないことが認められ,また,原告製品の販売会社であるバイオデントの販売力についてみても,証拠(乙103)によれば,平成26年度及び平成27年度(平成27年度は予測)におけるバイオデントのブラケットの販売額は,それぞれ195及び235(単位:百万円)であり,トミーインターナショナルの販売額(それぞれ870及び950〔単位:百万円〕)と比較して,4分の1ないし5分の1程度であることが認められるから,上記原告の主張には裏付けがないというほかない。 (イ) 次に,原告は,原告製品の平成27年の販売数及び販売価格を基準として原告の逸失利益を算出すべきと主張するが,平成27年の販売数量 及び販売価格の方が,販売停止期間(平成23年ないし平成25年)の直近の平成22年及び平成26年における販売数量及び販売価格よりも,販売停止期間における原告製品の販売数量及び販売価格に近いものと認めるべき理由はなく,平成22年から平成27年を通じて被告製品の販売数量にも年ごとの変動があることなどに照らしても,前記(2)のとおり,販売停 間における原告製品の販売数量及び販売価格に近いものと認めるべき理由はなく,平成22年から平成27年を通じて被告製品の販売数量にも年ごとの変動があることなどに照らしても,前記(2)のとおり,販売停止期間の直近である平成22年及び平成26年の販売数量及び販売価格を基準として原告の逸失利益を算出することが相当である。 (ウ) また,原告は,平成26年以降についても逸失利益が生じていると主張するが,原告製品①の販売数量が販売停止前の平成22年よりも増加していることを踏まえると,本件各告知がなければ平成26年以降において,より多い原告製品①を販売できたと認めるに足りる証拠がないというほかない。 したがって,原告に,本件各告知行為により,平成26年1月1日以降に損害が生じたと認めることはできない。 イ被告の主張について(ア) 被告は,バイオデントからの平成23年1月31日付け書簡(乙19)に,「1月末日をもちまして・・新規販売を中止させていただきます。」「すでに販売させていただいた得意先につきましては,・・2月末日まで猶予期間をいただければ幸いに存じます。」といった記載があることをもって,バイオデントは平成23年1月以降も原告製品を購入していた疑いが強いと主張する。 しかし,原告は,平成23年には何ら売り上げがなかったと主張し,それに沿う証拠として原告従業員の宣誓供述書(甲91)を提出している。そして,原告がバイオデントに販売した時期とバイオデントが日本国内の顧客に販売した時期との間に時間差が生じ,原告が平成22年12月までにバイオデントに販売した原告製品①を,バイオデントが平成 23年1月又は2月に日本国内の顧客に対して販売したとしても何ら不自然ではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 ( 販売した原告製品①を,バイオデントが平成 23年1月又は2月に日本国内の顧客に対して販売したとしても何ら不自然ではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (イ) 被告は,原告製品①の利益額からインサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用を控除すべきであると主張する。 しかし,証拠(甲94)によれば,インサイド・キャパシティ費用は原告製品の製造工程に携わる原告従業員の労務費であり,キャパシティ・オーバーヘッド費用は,超過勤務,間接労働,臨時雇いの賃金や,従業員の福利厚生,製造供給,設備メンテナンス及び操作に係る費用であることが認められる。そうすると,インサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用は,原告従業員の労務費及び設備管理費に当たるのであって,原告製品①を一個製造するために増加する変動費に当たるということはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (ウ) また,被告は,個別のパッケージに要した費用を控除すべきとも主張している。 しかし,原告は,バイオデントに販売する際,原告製品に個別のパッケージを施していない旨主張しており,また,原告がバイオデントに販売する際,原告製品について個別包装して出荷していることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告の上記主張も採用することができない。 (エ) 被告は,原告製品①の利益額から,Bに対するライセンス費用の支払額を控除すべきであると主張する。 しかし,上記主張においてライセンス費用の対象と想定される本件特許権は存在しないものである上,原告が,原告製品を製造するに当たりBにライセンス費用を支払う旨の契約が成立していたこと及びその内容 を認めるに足りる証拠もないから 象と想定される本件特許権は存在しないものである上,原告が,原告製品を製造するに当たりBにライセンス費用を支払う旨の契約が成立していたこと及びその内容 を認めるに足りる証拠もないから,被告の上記主張は採用することができない。 (オ) 被告は,原告とバイオデントの間の取引においては1米国ドル100円とする優遇為替レートが採用されていたから,原告の逸失利益額の算出においてこれを考慮すべきであると主張する。 しかし,被告がバイオデントに発行したインボイス(甲102ないし111)には,原告製品①の価格はドル建てで記載されており,平成27年を通じてその額に変動が見られないことからして,原告とバイオデントとの間に,1米国ドル100円とする優遇為替レートが採用されていたと認めることはできない。 したがって,被告の上記主張も採用することができない。 (カ) 被告は,原告が原告製品①をバイオデントに販売することができなかった期間において,バイオデントの売上げは増加しており,それに応じて原告の売上げも増加しているから,これを本件の損害額の算定において,損益相殺として考慮すべきであると主張する。 しかし,仮に平成23年の原告の利益が平成22年よりも増加していたとしても,このことが,原告製品①の日本における販売を中止したことと因果関係があるものと認めるべき事情は何ら存しない。 したがって,上記被告の主張は独自の主張というほかはなく採用することができない。 (4) 弁護士費用被告の不正競争行為による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,本件の事案の性質等を考慮すると,1万3000米国ドルと認めることが相当である。 (5) 合計額したがって,原告の損害額は合計14万0174.5米国ドルである。 4 結論以 本件の事案の性質等を考慮すると、1万3000米国ドルと認めることが相当である。合計額したがって、原告の損害額は合計14万0174.5米国ドルである。 4 結論以上によれば、原告の請求は14万0174.5米国ドル及びこれに対する本件各告知行為の後の日である平成26年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 瀬孝 裁判官 勝又来未子 (別紙)原告製品目録 製品名を「Empower」とする歯列矯正ブラケット (別添;特許公報は省略)
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