平成20年2月22日判決言渡平成16年第27104号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,2510万5293円及びこれに対する平成12年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,776万5058円及びこれに対する平成12年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要等 本件は,不穏及び低カリウム血症等との疑いで,被告が開設しているCセンター(以下「被告病院」という)に入院した患者が,退院から11日後に,。 状態の悪化により再度被告病院に救急搬送され,その後,急性腎不全を原因とする消化管出血により死亡したことにつき,患者の遺族である原告らが,被告に対し,被告病院担当医師らには,第1回目の退院時に,患者の腎機能悪化を疑って,腎臓内科医に相談すべき義務を怠った過失があるなどとして,診療契約上の債務不履行及び不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償を請求した事案である。 争いのない事実等(月日のみの記載は,平成12年を示す。以下同じ)。 ⑴アDは,大正10年5月7日生まれの男性であり,平成12年10月17日,死亡した(甲A1,2。 )原告Aは,亡Dの妻,原告Bは亡Dの長女である。亡Dには,原告らの 他に,長男E,二女F及び三女Gがいたが,二女Fは,平成16年8月6日死亡したため,二女Fの財産は,母である原告Aが相続した(甲A2,弁論の全趣旨。 )イ被告は,東京都板橋区において,被告病院を開設している。被告病院は,21の診療科を有し,100名以上の常勤医が在籍する,高齢者を対象とする高度医療機関である(甲 た(甲A2,弁論の全趣旨。 )イ被告は,東京都板橋区において,被告病院を開設している。被告病院は,21の診療科を有し,100名以上の常勤医が在籍する,高齢者を対象とする高度医療機関である(甲B20。 )⑵亡Dは,8月31日,歩行困難等の主訴で被告病院一般外来を受診し,左上腹部の圧痛及び低カリウム血症がみられたため,精査のため被告病院循環器内科に入院し(第1回入院,遅くともそのころには,被告との間で,亡)Dに関する診療契約が締結された(乙A1。 )被告病院入院中,肉眼的血尿がみられ,尿検査の結果,蛋白尿や変形赤血球が認められた。また,入院時に0.7であった血清クレアチニン(Scr,被告病院における正常値〔男性〕0.8~1.3mg/dl,以下単位は省略する)が退院時には1.4となった。担当医師であったH医師は,9月8日。 及び同月12日,泌尿器科のI医師に対し,亡Dの症状について,相談をしたところ,同医師は,点滴静注腎盂造影(DIP)の施行を指示した(乙A1。 )⑶亡Dは,同月14日,同月26日に被告病院泌尿器科を受診するとの予約をした上で,被告病院を退院した(乙A1。 )⑷亡Dは,同月25日,食事が摂れないなどと訴えて,救急車で被告病院救急外来を受診し,診察の結果,前回入院した被告病院循環器内科に入院した(第2回入院・乙A1。 )入院時,亡Dは,尿素窒素(BUN)138(被告病院における正常値10~25mg/dl ,Scr8.5,乏尿であり,急性腎不全状態と判断された。 )また,肉眼的血尿が認められ,C反応性蛋白(CRP)が32.3(被告病院における正常値0.3mg/dl以下)と高度の炎症所見がみられた(乙A 1。 )⑸亡Dは,同月28日,腎臓内科へ転科となり,同科において,血液透析及び利尿剤の投与等が行われ 32.3(被告病院における正常値0.3mg/dl以下)と高度の炎症所見がみられた(乙A 1。 )⑸亡Dは,同月28日,腎臓内科へ転科となり,同科において,血液透析及び利尿剤の投与等が行われたが,病態の改善はみられず,10月3日,肛門からの大量の出血があり,大腸内視鏡検査の結果,横行結腸中部から下行結腸,S状結腸までにびらん性の大腸炎の所見及び凝血塊が認められた(乙A1。 )同月6日,3日間のステロイドパルス療法(ソルメドロール500mg点滴)が開始され,同月10日及び12日には,二重濾過血漿交換療法が行われたが,亡Dの病態の改善はみられず,同月15日,腸炎からの再出血が認められ,ショック状態となり,同月17日,亡Dは死亡した(甲A1,2,乙A1。 )⑹病理解剖の結果,半月体形成性腎炎と診断され,直接死因は,消化管出血及び尿毒症であるとされた(乙A1。 ) 争点 ⑴第1回入院時の担当医師らに,腎臓内科に併診させなかった過失があるか。 ⑵第1回入院の退院時に,担当医師に療養指導を怠った過失があるか。 ⑶⑴又は⑵の過失と亡Dの死亡との間に因果関係があるか。 ⑷損害額 争点についての当事者の主張争点についての当事者の主張は,別紙当事者の主張のとおりである。 第3当裁判所の判断 事実関係乙A1のほか末尾に掲記の証拠によれば,次の事実が認められる。 ⑴被告病院入院に至る経緯亡Dは,平成9年ないし平成10年ころから,緑内障によりほぼ全盲状態となり,家の中で生活をしていたところ,平成12年8月下旬ころから,ト イレに行く際に逆の方向へ向かう等の不穏行動がみられたため,8月31日,近所のかかりつけ医であるJクリニック(K医師)を受診した。同クリニックでは,大きな病院で精査をするよう勧められ,被告病院を紹介されたことか 逆の方向へ向かう等の不穏行動がみられたため,8月31日,近所のかかりつけ医であるJクリニック(K医師)を受診した。同クリニックでは,大きな病院で精査をするよう勧められ,被告病院を紹介されたことから,亡Dは,同日,原告Bに付き添われ,被告病院一般外来を受診した。 被告病院一般外来では,歩行困難及び腹痛の主訴があり,担当医師が診察したところ,左上腹部の圧痛及び低カリウム血症がみられたことから,精査のため,被告病院循環器内科に入院することとなった。 ⑵第1回入院ア被告病院循環器内科では,歩行障害及び尿失禁の主訴があり,心電図検査及び胸部レントゲン検査が施行されたが,特段の異常所見は指摘されなかった。血液検査の結果は,カリウムが3.0(被告病院における正常値3.5~4.7mEq/l ,CRPが5.6であったため,診察に当たったH)医師は,尿路感染症の疑いと診断した。入院中のScr,BUN,CRPの結果は,別紙検査結果一覧表のとおりである。 亡Dには,第1回入院中,頻繁に尿失禁がみられた。 イ9月1日の尿検査の結果,尿蛋白(±)であり,尿潜血は3+(強陽性)であり,亡Dは,陰嚢部の痛みを訴えたが,排尿時の痛みは訴えなかった。同月2日に腫瘍マーカー検査を行ったが,異常は発見されず,同月4日及び7日には尿細胞診が行われたが,いずれもclassⅠ(正常細胞)であった。 なお,平成15年12月,被告病院腎臓内科のL医師は,診療録上に,9月1日の24時間クレアチニン・クリアランス値を算出し,42.6ml/minと記載した(証人M。 )ウ同月4日には,38.8度の発熱がみられ,抗生物質であるペントシリンが投与された。同月5日も発熱は継続していたが,亡Dが持続点滴用チューブを抜去するため,同日には抗生物質が経口抗生物質であるセフゾン に変更され 8.8度の発熱がみられ,抗生物質であるペントシリンが投与された。同月5日も発熱は継続していたが,亡Dが持続点滴用チューブを抜去するため,同日には抗生物質が経口抗生物質であるセフゾン に変更され,同月8日には,CRP7.9であり,炎症所見に改善がみられず,尿培養で緑膿菌が検出されたことなどから,抗生物質がセフォビッドに変更された。同日の尿培養の結果でも,尿潜血は3+であった。その後,同月11日及び13日にも,37度を超える発熱がみられた。 同月4日,H医師は,被告病院外科に対し,亡Dの痔核に関する相談をした。診察に当たった外科のN医師は,H医師に対し,内痔核が大きくなりポリープ化していること,炎症のためか皮膚架橋が形成されていること,これらの点からすれば手術適応があるが本人が希望していないこと及び下剤と座薬で様子を見て欲しいことを伝えた。 エ同月7日,担当の看護師は,尿の色が「やや茶褐色」であることを確認),し,H医師に報告した。また,同月8日の尿検査の結果,尿蛋白(1+尿潜血は3+(強陽性)であり,同日にも,担当の看護師により,肉眼的血尿がみとめられた。 同日,H医師は,泌尿器科に対し「ご依頼」と題する書面により「低,,カリウム血症にて入院となった患者です。入院中肉眼的血尿を認めます。 疼痛+です。尿細胞診はオーダーしています。貴科的御高診よろしくお願いします(尿培にてグラム(-)桿菌(+)でした」との情報を提供し)。 て,相談をした。診察に当たった泌尿器科のI医師は,H医師に対し,「身体所見異常なしDIPでcheckしたいのですが,当科ワクは1ヶ月位先になりますので,可能なら貴科で早めにDIPをとって頂き,結果を当科で検討したいと思います。尿細胞診数回行ってください」との返事。 をした。 オ同月9日,H医師は,原告A が,当科ワクは1ヶ月位先になりますので,可能なら貴科で早めにDIPをとって頂き,結果を当科で検討したいと思います。尿細胞診数回行ってください」との返事。 をした。 オ同月9日,H医師は,原告A,二女F及び三女Gに対し,今回は,原告Bが入院を希望し,歩行障害といわゆる不穏(反対方向に歩いてしまうこと)について適切に伝えられず,低カリウム血症があったことから,歩行障害として入院となったが,不穏だけであれば入院している必要はないし, 血尿は細胞診の結果2回ともclassⅠで問題はなく,おそらく結石であることから,泌尿器科外来若しくは近くの泌尿器科を受診すれば大丈夫であるとの説明をした。これに対し,原告Aらは,週末に家族で相談をして返事をすると返答した。 同月10日,亡Dは,陰嚢部の痛みを訴えたが,排尿時の痛みはないとのことであった。 カ同月12日の尿検査の結果,尿蛋白(1+,尿潜血は3+(強陽性))であり,変形赤血球が認められた。 同月12日,H医師は,泌尿器科I医師に対し「尿細胞診2度施行し,ましたが,classⅠです。採血にて,CRP11.0,WBC8800と微熱あり,明らかな感染原発部位不明です(当初は尿路かと思いました。 が,尿定性にて否定的です)CRP11.0の原因として(抗生剤に反応。 。 せず)泌尿器科的にどうでしょうか」との情報を提供して,相談をした診察に当たった泌尿器科のI医師は,H医師に対し「本日尿WBC(尿,中白血球数)5~9/HPF(高拡大の視野)なので,尿路感染は考え難いです。RBC(尿中赤血球数)100以下なのでDIPよろしくお願いします」との返事をした。 。 キ同日,腹部超音波検査が行われたが,正常範囲内であり,悪性腫瘍(-)であった。H医師は,患者の家族に対し,腹部エコー,胸部レントゲン,尿 なのでDIPよろしくお願いします」との返事をした。 。 キ同日,腹部超音波検査が行われたが,正常範囲内であり,悪性腫瘍(-)であった。H医師は,患者の家族に対し,腹部エコー,胸部レントゲン,尿細胞診及び腫瘍マーカーで悪性所見はなく,失禁についても,尿意があり,脳梗塞は否定的であり,器質的なもの(年齢的なもの)であろうと考えられること,結石は痛みはそれほど強くないため,経過観察でよいこと,泌尿器科を2回受診しているが,泌尿器科への入院適応はないこと,微熱の原因は,細菌検査で(-)であるため,結石の影響が考えられること等の説明をした。家族らは,長男が帰宅後に退院の日時を決定するとの返事をし,同月14日に退院することが決定された。 退院に当たっては,同月26日に泌尿器科を受診するとの予約がされた。 退院時である同月13日のCRPは13.5と上昇しており,H医師は,その原因としては,痔核による可能性が高いと考えた。 ク同月14日,亡Dは,同月26日に被告病院泌尿器科外来のI医師を受診し,DIPを受けることとして,被告病院を退院した。 退院に伴い,H医師は,亡Dの長男であるEに対して,外来での通院治療となること,日常生活に特に制限はないこと,痔の痛みがひどいようであれば外科に相談することなどを説明するとともに,JクリニックのK医師に対し,診断名を尿路結石とした上で,亡Dについて,今後の経過観察を依頼する目的で「歩行障害にて,貴院より紹介となったpt(患者)で,す。入院時~神経学的異常なく,入院中も歩行障害(-)でした。入院中,CRP10,WBC6000ほどで経過しており,全身の精査行ないました。タン,尿に明らかな細菌(-,chestX-Pn.p(胸部レントゲン特)に異常なし,腹エコーn.p,腫瘍マーカーCEA-CA19-9正常血) 6000ほどで経過しており,全身の精査行ないました。タン,尿に明らかな細菌(-,chestX-Pn.p(胸部レントゲン特)に異常なし,腹エコーn.p,腫瘍マーカーCEA-CA19-9正常血)尿+++ですが,尿細胞診2回施行し,classⅠでした。おそらくCRP高値なのは,結石もしくは痔によるものかと思われます。痔に対しては,ope(手術)適(適応)ですが本人希望せず,ope(-)の方向でみてきました。当院泌尿器科にて外来DIP予定しております。泌尿器外来予約はこちらでやっておきます」などと記載した診療情報提供書を交付した。 。 ⑶第2回入院に至る経緯ア亡Dは,被告病院退院後,自宅で生活をしていたところ,1週間ほどは,状態に特段の変化はなかったが,同月23日ころから,元気がなくなり,食事を摂取できない状態となった(甲A3。 )イ原告Bと原告Aは,同月25日,上記の状況から亡Dの状態が悪いのではないかと考えて,救急車を呼び,同人に被告病院救急外来を受診させた。 診察に当たった医師は,亡Dの状態が,同月23日ころから,食思不振で あり,水分を摂取するとむせる,トイレに行けなくなった(2人がかりでも腰が立たなくなった,下着を脱いでしまう,腹痛がある,尿に血が混)じるとのこと(血圧は142/89,脈拍74,意識は清明,心臓・肺異常なし,腹部平坦,下腿浮腫なし)であったことなどから,誤えん性肺炎疑い,脱水,老年痴呆と診断し,亡Dは,前回入院した被告病院循環器内科に入院することとなった(甲A3。 )⑷第2回入院ア第2回入院時,亡Dは,BUN138,Scr8.5で乏尿であり,急性腎不全状態と診断された。また,肉眼的血尿が認められ,CRP32. 3と高度の炎症所見がみられた。なお,入院時の亡Dの体重は,38kgであった。 イ診 ,BUN138,Scr8.5で乏尿であり,急性腎不全状態と診断された。また,肉眼的血尿が認められ,CRP32. 3と高度の炎症所見がみられた。なお,入院時の亡Dの体重は,38kgであった。 イ診察に当たったO医師は,腎臓内科のM医師に相談し,腹部超音波検査を行ったところ,水腎症はみられず,腎性若しくは腎前性の腎不全と考えられた。同科では,急性腎不全に対し,血液透析を導入し,全身状態の管理,利尿剤の投与が行われたが,状態の改善はみられず,同月28日,腎臓内科へ転科となった(証人M。 )ウ同日,腎臓内科における担当医師であるM医師は,急性腎不全及びCRP高値の原因として,急速進行性糸球体腎炎(RPGN)が疑われると考えた上で,腹部CT検査,腹部超音波検査及び腫瘍マーカー検査実施の予約をした。同日の主な検査結果は,WBC10740,BUN61,Scr5.7であった。 同医師は,原告A,原告B及び長男Eに対し,亡Dは,食事摂取量が低下し,全身衰弱状態となり,急性腎不全(尿毒症)となったこと,今後も血液透析が必要な状況であること,急性腎不全の原因としては,脱水がきっかけとなったと想像されること,RPGNの可能性もあること,血尿があり,尿毒素が除去されても食物を受けつけないので,悪性腫瘍などが存 在する可能性もあること,ただし,詳細は不明であること等を説明した。 エ10月2日,亡Dには38度の発熱があり,同日の主な検査結果は,WBC9110,CRP19.3,BUN59,Scr7.8であった。また,腹部超音波検査の結果では,両腎とも軽度萎縮,中心部エコーの不明瞭化を認め,腎不全の像と合致するとの所見が得られた。また,亡Dの症状は,慢性腎不全から急性腎不全になったようであるものの,感染源は不明であり,病態の説明ができないとされた。 オ腎臓 エコーの不明瞭化を認め,腎不全の像と合致するとの所見が得られた。また,亡Dの症状は,慢性腎不全から急性腎不全になったようであるものの,感染源は不明であり,病態の説明ができないとされた。 オ腎臓内科においても,血液透析及び利尿剤の投与等が継続して行われたが,病態の改善はみられず,同月3日午前4時ころ,肛門からの出血がみられ,その出血量は,オムツごと計測して,約1kgであった(同日の主な検査結果は,WBC10060,CRP13.8,BUN48,Scr6. 5であった。同月4日,大腸内視鏡を行ったところ,横行結腸中部から。)下行結腸,S状結腸までにびらん性の大腸炎の所見及び凝血塊が認められ,この部位が出血源であると判断された。 カM医師は,同月5日,亡Dの病状はRPGNの可能性が大きいと考えるようになり,翌6日,RPGNの診断のため,p-ANCA(perinuclearANCA)及びc-ANCA(cytoplasmic ANCA)の2種類のANCA抗体並びに抗基底膜抗体(抗GBM抗体)等の検査を行った。同検査の結果は,同月13日に報告され,抗GBM抗体のみが陽性であり,ANCA抗体はいずれも陰性であった。 キ同月6日,M医師は,RPGNの確定診断に至らないまま,RPGNを念頭に,3日間のステロイドパルス療法(ソルメドロール500mg点滴)を開始した。また,同月10日及び12日には,二重濾過血漿交換療法を行ったが,亡Dの病態の改善はみられなかった(証人M。 )ク同月15日,腸炎からの再出血と思われる出血及び血圧の低下が認められ,ショック状態となり,同月17日,亡Dは,消化管出血により死亡し た。 同日,病理解剖が行われ,半月体形成性腎炎及び虚血性腸炎と病理診断され,直接死因は,臨床経過を考慮して,消化管出血及び尿毒症であると 態となり,同月17日,亡Dは,消化管出血により死亡し た。 同日,病理解剖が行われ,半月体形成性腎炎及び虚血性腸炎と病理診断され,直接死因は,臨床経過を考慮して,消化管出血及び尿毒症であるとされた。 医学的知見⑴急速進行性糸球体腎炎ア急速進行性糸球体腎炎急速進行性糸球体腎炎(RPGN)とは,肉眼的血尿,蛋白尿,貧血等を伴い,急速に腎不全が進行する臨床症候群である。病理学的には,多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める壊死性半月体形成性糸球体腎炎(necrotizingcrescenticglomerulonephritis)が典型像である(甲B27,甲B28,乙B1。 )糸球体は,血液から老廃物を濾過する働きをするところ,糸球体腎炎によって糸球体の濾過機能に異常を来す。糸球体の濾過機能をみる検査としては,血清クレアチニンや,BUNがあり,濾過機能が悪化すると,これらの値は上昇する(甲B1。 )イ分類RPGNを示す原因疾患は,臨床的に,一次性,全身性疾患に伴うもの,感染症に伴うもの,薬剤性,その他に分類できる。一次性RPGNは,さらに原発性半月体形成性腎炎と半月体形成を伴う一次性糸球体腎炎に分類できる。また,血清学的マーカーを加味した病型分類では,p-ANCA(perinuclear ANCA)型RPGN,c-ANCA(cytoplasmic ANCA)型RPGN,抗GBM抗体型RPGN等に分類される(甲B18,甲B24,甲B28,乙B1。 )1989年度から1999年度までの日本腎臓学会東部会及び西部会における全症例報告6120例のうち,RPGN症例は453例であり,そ のうち,抗GBM抗体陽性のRPGN症例は69例,ANCA関連RPGNは212例報告されている(甲B19,乙B1。 ) 部会における全症例報告6120例のうち,RPGN症例は453例であり,そ のうち,抗GBM抗体陽性のRPGN症例は69例,ANCA関連RPGNは212例報告されている(甲B19,乙B1。 )ウ臨床所見・検査所見RPGNの臨床所見に特徴的なものはなく,非特異的な全身症状から,全く無症状で検診による検尿異常の精密検査から診断されるものまである。 RPGNの前駆症状としては,全身倦怠感,発熱,食欲不振などがあり,また腎症候,尿所見としては,浮腫,肉眼的血尿,乏尿・無尿等があるが,無症候性血・蛋白尿の例も多い。一般検査所見では,血清クレアチニンの上昇がみられ,大半の症例が初診時に高度の腎障害を呈する。さらに急速な腎機能障害の進行を反映して,週当たり0.54の血清クレアチニンの上昇があり,特に抗GBM抗体型RPGNでは,週当たり1.1の上昇が認められたとの報告もある。また,腎機能の割に高度な貧血を認めること,CRP陽性,赤沈亢進などが共通して認めることの多い所見であるとされる。さらに,腎外所見としては,胸部レントゲン異常や肺胞出血,間質性肺炎等の肺病変の合併例が多い。超音波検査では,多くの患者で腎サイズ)。 が正常あるいは腫大している(甲B19,甲B24,甲B28,乙B1エ診断RPGNの予後改善のためには,腎機能障害の軽度な早期にRPGNを疑い,腎生検を含めた病型診断及び治療が可能な腎疾患専門医療機関に速やかに紹介することが重要であるとされる。そのため,厚生省進行性腎障害に関する調査研究RPGN分科会により,平成14年に,平成13年度時点の指針として,以下のとおり,腎疾患を専門としない医師向けの「RPGN早期発見のための診断指針」及び腎疾患専門医療機関向けの「RPGN確定診断指針」が公表された(甲B19,乙B1。 )(RPGN 点の指針として,以下のとおり,腎疾患を専門としない医師向けの「RPGN早期発見のための診断指針」及び腎疾患専門医療機関向けの「RPGN確定診断指針」が公表された(甲B19,乙B1。 )(RPGN早期発見のための診断指針)①尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿) ②血清クレアチニンが正常値よりも上昇③CRP高値や赤沈促進上記の①ないし③を認める場合「RPGNの疑い」として,腎専,門病院への受診を勧める。 ただし,腎臓超音波検査を実施可能な施設では,腎皮質の萎縮がないことを確認する。 なお,急性感染症の合併,慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には,1,2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。 (RPGN確定診断指針)①数週から数カ月の経過で急速に腎不全が進行する。 (病歴の聴取,過去の検診,その他の腎機能データを確認する)。 ②血尿(多くは顕微鏡的血尿,まれに肉眼的血尿,蛋白尿,赤血)球円柱,顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。 ③過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査,CTなどにより,腎のサイズ,腎皮質の厚さ,皮髄境界,尿路閉塞などのチェックにより,慢性腎不全との鑑別を含めて,総合的に判断する。 オ治療治療方法としては,副腎皮質ホルモン製剤と免疫抑制薬,抗血小板薬,抗凝固薬による多剤併用療法が基本となる。症例に応じ血漿交換療法などが行われることがある(甲B24,甲B28,乙B1。 )カ予後1989年度以降の日本腎臓学会東部会及び西部会における全症例報告では,RPGNは,32.6%の患者が経過中に腎死に至り維持透析療法を施行することとなり,さらに維持透析例も含め26.9%の患者が個体死に陥るとされ,死亡原因としては50.0%の患者が感染症 例報告では,RPGNは,32.6%の患者が経過中に腎死に至り維持透析療法を施行することとなり,さらに維持透析例も含め26.9%の患者が個体死に陥るとされ,死亡原因としては50.0%の患者が感染症によるもの で,肺感染症を含む肺合併症による死亡が59.4%に上るとされている。 また,抗GBM抗体型RPGNの腎生存率は6カ月時点で25.9%であるとされている。 抗GBM抗体型RPGNの進行はきわめて急速であり,診断の数週から数か月後にはほとんどの症例が死亡するとする文献もある。 予後不良因子としては,治療開始時の腎機能障害が高度(血清クレアチニン値が高値)であること,発見時年齢が高齢であること,肺病変の有無,炎症所見の程度,透析療法が必要であること,無尿,乏尿が持続すること,高度尿蛋白がみられることなどが指摘されている(甲B19,甲B24,甲B28,乙B1。 )キ重症度基準厚生労働省の進行性腎障害調査研究班が示した,RPGNに関する治療開始時の腎機能,年齢,肺病変の有無,炎症所見の程度に基づく「臨床所見スコア」及び「臨床学的重症度分類」は,以下のとおりである(乙B1。 )(臨床所見スコア)臨床所見血清クレ年齢肺病変血清スコアアチニン値※(歳)CRP値※(mg/dl)(mg/dl) <3.0<60無<2.6 3.0≦□<6.060~692.6~10.0 ≧6.0≧70有>10.0 透析療法※初期治療時の測定値(臨床学的重症度分類)臨床学的総スコア症例数生存率(%) 重症度6か月12か月24か月GradeⅠ0~2 85.785.085.0GradeⅡ3~5 77.274.372.5GradeⅢ6~7 59.250.0 6か月12か月24か月GradeⅠ0~2 85.785.085.0GradeⅡ3~5 77.274.372.5GradeⅢ6~7 59.250.046.4GradeⅣ8~9 53.843.036.9⑵血清クレアチニン,クレアチニン・クリアランスアクレアチニンクレアチニンは,クレアチンの代謝最終産物であり,筋肉細胞内でクレアチンから産生される。血中のクレアチニン濃度は,筋肉での産生量と尿中へのクレアチニン排泄量によって決定される。クレアチニンは,尿素窒素と異なり,外因性あるいは腎以外の影響を受けにくく,腎糸球体を通過した後,尿細管での再吸収,分泌をほとんど受けずに尿中に排泄されることから,GFR(糸球体濾過値・1分間に糸球体から濾過される血漿量)の簡便測定法として繁用されている。すなわちGFRが低下すると,血清クレアチニン値は上昇し,GFRが上昇すれば,血清クレアチニン値は低下する(甲B1,甲B6,甲B7,甲B8。 ),血清クレアチニンの基準値は,その測定法により異なり,Jaffe法では成人男子0.8~1.2mg/dl,成人女子0.6~0.9mg/dl,酵素法では,成人男子0.6~1.0mg/dl,成人女子0.5~0.8mg/dl程度とされている(なお,被告病院における男性の正常値は前記のとおり0.8~1.3mg/dlである。しかし,血清クレアチニン値は,クレアチニン。)が筋肉の代謝産物であることから,筋肉量に比例して高値になるため,筋肉量が少なく普段から血清クレアチニン値が低いと考えられる人の場合は,正常値を示していても,GFRが低下している場合がある。特に,高齢者では,筋肉量が減少しているため,血清クレアチニン値が正常でも既に腎機能低下が生じている場合があ ン値が低いと考えられる人の場合は,正常値を示していても,GFRが低下している場合がある。特に,高齢者では,筋肉量が減少しているため,血清クレアチニン値が正常でも既に腎機能低下が生じている場合があることが指摘されている(甲B8,甲B1 0,甲B11,甲B25,証人M。 )また,GFRが正常値の50%までは,糸球体の予備機能によって,クレアチニン濃度は上昇せず,50%を切ると腎機能障害を反映して増加することになる(甲B2,甲B6,甲B7,甲B8,甲B10,甲B25,甲B26,証人M。 )BUNも,クレアチニンと同じく糸球体の濾過機能を示すものであり,血中の老廃物の指標となるが,脱水,消化管出血など腎以外の因子の影響を受けやすいとされる(甲B1。 )イクレアチニン・クリアランスクレアチニン・クリアランス(Ccr)とは,糸球体濾過値(GFR)を示し,腎機能の指標となる検査方法である。クレアチニン・クリアランスは,腎実質性疾患の障害の程度を直接反映する鋭敏な腎機能検査であるとされ,Ccr=尿中クレアチニン濃度(Ucr)/血清クレアチニン濃度(Scr)×尿量(V)との式で求められる(甲B12。 )その評価については,クレアチニン・クリアランス71~90ml/分が腎機能軽度低下,51~70ml/分が腎機能中等度低下,31~50ml/分が腎機能高度低下,11~30ml/分が腎不全,10ml/分以下~透析前が尿毒症期とされる(甲B5。 )ウクレアチニン・クリアランスの推定式クリアランス法の実施には正確な蓄尿と安静を要し,判定に時間を要するため,日常診療では実施困難なことがしばしばあり,そのようなクレアチニン・クリアランスを測定できない事情がある場合には,血清クレアチニン値からクレアチニン・クリアランス値を試算する方法が用いられる。 め,日常診療では実施困難なことがしばしばあり,そのようなクレアチニン・クリアランスを測定できない事情がある場合には,血清クレアチニン値からクレアチニン・クリアランス値を試算する方法が用いられる。 そのための試算式として,以下のCockcroft & Gaultの式,安田の式等がある(甲B5,甲B11,甲B22の1。 )(Cockcroft & Gaultの式・男性の場合) Ccr=(140-年齢)×体重(kg)/72×Scr(mg/dl)(安田の式・男性の場合)Ccr=(176-年齢)×体重(kg)/100×Scr(mg/dl)⑶血尿ア血尿尿に血液が混入した状態を血尿といい,肉眼でも認識できるものを肉眼的血尿,それ以外を顕微鏡的血尿という。また,疼痛などの自覚症状を伴うものを症候性,ないものを無症候性という(甲B16,甲B23,甲B31。 )血尿は,その形状と,円柱の有無により,内科的と外科的血尿に分類される。内科的血尿の対象科は腎臓内科であり,出血部位は,腎臓実質(糸球体,尿細管,血尿の性状としては,変形あり,大小不同あり,赤血球円)柱あり,肉眼的血尿の色調は黒褐色(コーラ様)であるのに対し,外科的血尿の対象科は,泌尿器科であり,出血部位は,腎杯以下の尿路(腎杯,腎盂,尿管,膀胱,尿道など)であり,血尿の性状としては,変形なし,大小不同なし,赤血球の円柱なし,肉眼的血尿の色調は鮮紅色とされている(甲B4。 )イ血尿の鑑別(ア)血尿を起こす疾患を部位からみると,腎前性,腎性,腎後性に分けられる。血尿を病態で分類すると,腎炎性と非腎炎性若しくは腎性と腎外性(腎前性及び腎後性)に分けられ,腎性血尿は糸球体性と非糸球体性に分けられる(甲B23。 ),糸球体疾患による血尿と,その他の血尿との鑑別は臨床上重要であり ,腎炎性と非腎炎性若しくは腎性と腎外性(腎前性及び腎後性)に分けられ,腎性血尿は糸球体性と非糸球体性に分けられる(甲B23。 ),糸球体疾患による血尿と,その他の血尿との鑑別は臨床上重要であり,浮腫,乏尿,高血圧を伴う場合には糸球体疾患を強く疑い,また尿蛋白赤血球円柱の存在も糸球体疾患を示唆するとされる。尿中赤血球を位相差顕微鏡や走査電子顕微鏡で観察すると,糸球体疾患の場合には変形赤 血球を認めるのに対し,その他の疾患による血尿では変形が少ないとされる(甲B13,甲B14,甲B23,甲B29,甲B30。 )なお,無症候性血尿の場合,50歳以上の男性(特に60歳以上)では,尿路系悪性腫瘍との鑑別が重要になるとされる(甲B13,甲B16,証人M。 ),(イ)このようなことから,血尿患者が受診した際には,最初に腎炎性か非腎炎性であるかを判断する必要があり,さらに尿沈査(変形赤血球や円柱の有無など)によって糸球体由来かどうかを判断する。腎炎の可能性を示唆する既往歴,家族歴,身体所見を有する患者と尿沈査で変形赤血球,赤血球円柱が存在する患者や腎機能低下(血清クレアチニン値の上昇)患者,蛋白尿が出現している患者は,積極的に専門医に紹介する,必要があるとする文献がある。また,50歳以上の男性では,尿細胞診超音波検査,PSA(前立腺特異抗原)の測定により悪性腫瘍を除外する必要がある。さらに,尿路感染症が否定的で血尿が持続する場合,蛋白尿が出現した時点で積極的に腎臓専門医に紹介するとする文献もある(甲B16。 )ウ肉眼的血尿を呈する疾患肉眼的血尿を呈する疾患としては,以下のものなどがあるとされる(甲B13,甲B30。 )①糸球体疾患急性糸球体腎炎,IgA腎症,膜性増殖性腎炎②非糸球体疾患尿路感染症(膀胱炎,前立腺炎 患肉眼的血尿を呈する疾患としては,以下のものなどがあるとされる(甲B13,甲B30。 )①糸球体疾患急性糸球体腎炎,IgA腎症,膜性増殖性腎炎②非糸球体疾患尿路感染症(膀胱炎,前立腺炎)尿路結石尿路悪性腫瘍(腎癌,腎盂癌,尿管癌,膀胱癌,尿道癌)先天性異常など(腎静脈圧迫) ⑷蛋白尿蛋白を含む尿を蛋白尿という。蛋白尿は,良性蛋白尿と病的蛋白病に分類され,病的蛋白尿は,腎前性,腎性,腎後性と分類されている。血漿中にBenceJones蛋白,ミオグロブリン,ヘモグロビン等が増加し,糸球体を通過して尿中に出現してくる場合が腎前性であり,尿管から尿道までの尿路疾患で出現してくる場合が腎後性である。腎性蛋白尿は,糸球体性と尿細管性に分類され,前者の原因として原発性では各種糸球体腎炎が,また続発性ではSLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病,糖尿病・アミロイドーシスなどの代謝性疾患によるものなどが挙げられる(甲B3。 )一般的には,一日尿蛋白定量1.0(0.5)g/日以上かあるいは腎機能が既に低下している場合などは腎生検の適応であるとされ,また,起立性蛋白尿などの生理的蛋白尿でなければ,無症候性蛋白尿は糸球体疾患と考えて腎生検の適応を考え,特に尿潜血反応陽性に加え蛋白尿が認められる場合は糸球体疾患であり,腎臓内科医による治療が必要であり,尿蛋白が0.5g/日〔定性(+)程度〕以下であっても積極的な腎臓内科医による治療が必要であるとされている(甲B3,甲B12,甲B14,甲B15。 )⑸変形赤血球糸球体を通過した赤血球は,尿細管での浸透圧の変化によって変形が生じるところ,こぶ状,発芽状,二重リング状,大小不同,リング状,断片状,ねじれ状などの多彩な形態を示す赤血球を変形赤血球と呼び,糸球体からの出血を意味する重 ,尿細管での浸透圧の変化によって変形が生じるところ,こぶ状,発芽状,二重リング状,大小不同,リング状,断片状,ねじれ状などの多彩な形態を示す赤血球を変形赤血球と呼び,糸球体からの出血を意味する重要な所見である。また,糸球体由来の赤血球が多数存在すると,尿細管内で水分が吸収され,円柱が形成される。変形赤血球,赤血球円柱は,糸球体障害の重要なマーカーであるとされる(甲B4,甲B16。 ) 争点⑴(第1回入院時の担当医師らに,腎臓内科に併診させなかった過失があるか)について⑴循環器内科医師の過失について ア原告らは,第1回入院中の亡Dの血清クレアチニン値,CRP値の上昇,肉眼的血尿,蛋白尿及び変形赤血球がみられたこと等から,被告病院の循環器内科担当医師であるH医師は,腎疾患を疑い,腎臓内科医に併診を依頼すべきであったと主張する。 上記第2・2⑴イのとおり,被告病院が高齢者を対象とする高度医療機関であることからすると,そこに勤務する医師は,老人の疾患,特性等について,他の一般的な開業医よりも深い認識と知見を有していることが求められているというべきである。 そして,血清クレアチニン値は,糸球体の濾過機能の指標としての意味を有し,糸球体濾過機能が低下すると,血清クレアチニン値が上昇することになるところ,本件では,別紙検査結果一覧表のとおり,亡Dのクレアチニン値は,第1回入院中に,上昇を続け,退院の前日である9月13日には1.4と,被告病院における正常値の上限を0.1上回るに至った。 上記2⑵アのとおり,高齢者のように筋肉量が低下している場合,もともと血清クレアチニン値は低めに出る傾向があり,血清クレアチニン値が正常であっても腎機能が正常ではない場合があること,GFRが正常値の50%までは,糸球体の予備機能によって,クレアチニン濃度は もともと血清クレアチニン値は低めに出る傾向があり,血清クレアチニン値が正常であっても腎機能が正常ではない場合があること,GFRが正常値の50%までは,糸球体の予備機能によって,クレアチニン濃度は上昇せず,50%を切ると腎機能障害を反映して増加することになることも考慮すると,第1回入院中の亡Dの血清クレアチニン値の経過は,腎機能の悪化をうかがわせるものであったということができる。また,上記2⑵アのとおり,BUNの値も,糸球体の濾過機能を示すものであるところ,第1回入院中には,いまだ被告病院における正常値の範囲内にあったものの,その数値は上昇を続けており,この推移も,亡Dについては,何らかの腎機能の悪化を疑うべき根拠となり得るものといえる。さらに,クレアチニン・クリアランスについてみると,上記1⑵イのとおり,被告病院腎臓内科のL医師は,亡Dの死亡後に,クレアチニン・クリアランス値を計算し,そ の値を42.6ml/minと記載しているところ,この値は腎機能高度低下を示すものであることからすれば,尿量の測定の正確性に疑問を呈する余地があるとしても(証人M,この値からも,担当医師としては,亡Dの腎)機能低下に留意すべきであったといえる(なお,9月13日の血清クレアチニン値からは,亡Dの年齢を79歳,体重を42kgとして,クレアチニ,ン・クリアランスを計算すると,Cockcroft & Gaultの式では,25.4安田の式では29.1となっている。 。)また,本件では,上記のとおり,第1回入院中に,亡Dには,肉眼的血尿(第1回入院中には,やや茶褐色の血尿がみられていた,蛋白尿及び。)変形赤血球の尿所見が認められているところ,上記2⑶イのとおり,血尿を呈する疾患としては,腎前性,腎性,腎後性のものがあり,そのうち腎性血尿は糸球 やや茶褐色の血尿がみられていた,蛋白尿及び。)変形赤血球の尿所見が認められているところ,上記2⑶イのとおり,血尿を呈する疾患としては,腎前性,腎性,腎後性のものがあり,そのうち腎性血尿は糸球体性と非糸球体性に分けられ,その鑑別として,蛋白尿や変形赤血球がある場合には,糸球体疾患を疑うとされていることからすれば,第1回入院中にみられた上記の尿所見は,糸球体疾患(急性糸球体腎炎もこれに含まれている)を疑わせるものであったといえる。 。 のみならず,上記2⑴エのとおり,平成14年に,平成13年度時点の指針として公表されたRPGN早期発見のための診断指針によれば,①尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿,②血清クレアチニンが正常)値よりも上昇,③CRP高値や赤沈促進との所見がある場合には,RPGNの疑いとして,腎臓専門医への受診を勧めるとされているところ,この診断指針は,平成12年度に原案の段階から公表されていたものである(甲B18。本件では,上記の所見に加え,別紙検査結果一覧表のとお)り,亡DのCRP値は,第1回入院中一貫して高値を示しており,この診断指針に照らすと,亡Dには,RPGNの疑いがあるとして,腎臓専門医への受診を勧めるものであったことになる。また,被告提出にかかる一般的な医学教科書(乙B2)にも,RPGNの症状として,激しい急性腎炎 症状(血尿・高血圧・浮腫,尿蛋白等があり,早期に腎不全となるなら)RPGNを疑えとの記載があるところ,被告は,平成12年当時,H医師がこのような知見を有していたとしている。 さらに,M医師は,亡D死亡後に記載した経過要約において,第1回入院時に既に腎機能が悪化していたと評価しており(乙A1,同じく亡D)死亡後に行われた臨床病理検討会(CPC)においても(甲B21・弁論の全趣旨か は,亡D死亡後に記載した経過要約において,第1回入院時に既に腎機能が悪化していたと評価しており(乙A1,同じく亡D)死亡後に行われた臨床病理検討会(CPC)においても(甲B21・弁論の全趣旨からすると,このCPCの症例は,亡Dについてのものであると認められる,第1回入院時に同医師が診察に当たっていれば,RPGN。)を疑ったとの発言をしており,さらに,書面尋問に対する回答書及び証人尋問においても,第1回入院中の所見を前提とすると,RPGNを疑うべき疾患の一つとして念頭におくとの意見を述べている(証人M。 )以上の点からすれば,第1回入院時の担当医師であるH医師は,亡Dの第1回入院中の検査値,所見から,腎機能の低下を考え,その原因の一つとして,RPGNを含む腎疾患を疑うべきであったと認められる。 なお,M医師は,書面尋問及び証人尋問において,腎臓内科専門医と一般の内科医との腎疾患に対する認識と知見の違いを指摘し,一般の内科医の能力を前提とすると,第1回入院中に腎機能が悪化したとの判断をするのは難しいとの証言をするが,上記のように一般的な教科書等にもRPGNについての記載があること,被告病院が高齢者を対象とする高度医療機関であり,そこに勤務する医師は,老人の疾患,特性等について,他の一般的な開業医よりも深い認識と医学的知見を有していることが求められているというべきことからすれば,上記M医師の証言は採用できない。 イ次に,上記のように,H医師が亡DについてRPGNを含む腎疾患を疑うべきであったとしても,H医師に,第1回入院の退院時までの時点において,腎臓内科医に併診を依頼すべき注意義務違反があったか否かについて検討する。 (ア)上記1⑵エ及びカのとおり,H医師は,9月8日及び12日に血尿及びCRP高値等の鑑別のため,泌尿器科 おいて,腎臓内科医に併診を依頼すべき注意義務違反があったか否かについて検討する。 (ア)上記1⑵エ及びカのとおり,H医師は,9月8日及び12日に血尿及びCRP高値等の鑑別のため,泌尿器科に併診を依頼しているところ,上記2⑶イのとおり,血尿は腎疾患を疑わせる徴候ではあるが,それと同時に,尿路感染症,尿路結石,尿路悪性腫瘍等の腎後性の疾患も鑑別診断を要すべき疾患とされ,無症候性血尿の場合,50歳以上の男性,特に60歳以上の男性では,尿路系悪性腫瘍との鑑別が重要であるとされている。そして,上記1⑵イ,エ及びカのとおり,亡Dについては,尿細胞診及び腫瘍マーカーの結果,悪性腫瘍は否定されており,尿路感染症は否定的と考えられたものの,他の腎後性の疾患については,いまだ否定できていない状態であり,CRP高値の原因としては,痔核の影響も否定することができない状況にあった。さらに,第1回入院時において,亡Dのクレアチニン値は上昇を続けていたものの,数値として異常を呈したのは,退院の前日である13日の1回のみであり,しかも,被告病院における正常値の上限をわずか0.1超えたにすぎず,その腎機能の異常の程度については,原告から提出されたP医師作成の意見書(甲B32の2)においても,十分に着目しなければ見逃す危険性が高い程度のものであるとされているところである。 これらの点からすれば,亡Dの症状・所見としては,RPGNを含む腎疾患を疑うべきであったが,それと同時に,尿路結石等の腎後性の疾患についても疑われ,これらの鑑別を要すべき状態にあったというべきである。そうすると,亡Dの症状・所見について,泌尿器科の疾患を除外診断をすべく,泌尿器科に併診を依頼したH医師の判断が不合理なものであったとはいえない。 そして,泌尿器科医師も腎臓専門医であり,腎疾患 る。そうすると,亡Dの症状・所見について,泌尿器科の疾患を除外診断をすべく,泌尿器科に併診を依頼したH医師の判断が不合理なものであったとはいえない。 そして,泌尿器科医師も腎臓専門医であり,腎疾患についても,一般),内科医以上の知見を有していると考えられることからすれば(証人M腎臓疾患と泌尿器科疾患が並列的に疑われる第1回入院時においては, 一般内科医師たるH医師としては,泌尿器科に併診を依頼し,その判断に委ねれば,ひとまず足りるのであって,それに加えて,腎臓内科医に併診を依頼すべき義務があったとまでは認められない。 なお,上記RPGN早期発見のための診断指針によれば,上記①ないし③の所見が認められる場合には,腎臓専門医への受診を勧めるとされているが,この指針は,腎疾患を専門としない医師(一般内科医)のRPGNに対する認識の程度が低いという平成13年当時の状況に鑑みて,そのような医師等に対する啓蒙,スクリーニングのために定められた指針であり,RPGNでない疾患を幅広く取り込むことになる基準である上(証人M,平成12年当時においても,原案の形で公表されていた)とはいえ,ごく早期のRPGNを発見するためには,以前みられなかった腎炎性検尿異常を認め,明らかに感染症とは異なる炎症所見を伴う場合など臨床経過によりRPGNが疑われる症例については,腎機能が正常範囲であっても,積極的に腎疾患専門医療機関への紹介を行うべきであるとしている(乙B1)ことからも明らかなとおり,平成12年当時の医療水準として,医師が診療に当たるに際しての規範たり得る性質を有するものではなく,この指針をもって,一般内科医師(循環器内科医師)たるH医師に,腎臓内科医に併診を依頼すべき法的義務があったとまでは認めることができない。 (イ)なお付言するに,M医師は, を有するものではなく,この指針をもって,一般内科医師(循環器内科医師)たるH医師に,腎臓内科医に併診を依頼すべき法的義務があったとまでは認めることができない。 (イ)なお付言するに,M医師は,書面尋問に対する回答では,①第1回退院時である9月14日までの所見を前提とすると,この当時において亡D(本件患者)の腎機能が悪化していると判断できましたかとの問に対し「9/11以降腎機能が悪化し始めた可能性はあるが,そのよう,『に確定するにはデータが不足している』本件患者は持続的な強い潜血。 尿と軽度の蛋白尿など尿所見異常があったことは明瞭ですが,腎機能障害を反映する血清クレアチニン(Cr)値上昇は最終データの9/13 (退院前日)に1.4に上昇した1点でのみ確認されます。それ以前の5回の採血結果とも病院検査科の決めた正常範囲内に留まっております。 何らかの腎臓障害(腎機能障害とは異なる)が潜在した可能性は高いが,この時点で明確に腎機能障害が出現し,悪化していたかの判断にはその後のデータの推移をみる必要があります」と,②9月14日に本件患。 者を退院させるという判断に至りましたか,その根拠を含めてお答えくださいとの問に対し「RPGNを強く疑えば退院は早急です。入院の,『ままもう少しCr(血清クレアチニン)値を追います。一方,腎臓内科医であってもそれほど強くRPGNを疑わない場合は全身状態が小康状態と判断されれば,一旦退院し,1~2週間後の外来再診時のデータまで結論を保留する場合もありえます』一般内科医であれば血尿の高齢。 者患者で泌尿器科系の悪性腫瘍が否定でき,発熱,疼痛,全身衰弱等がなければ一旦退院させ1~2週後の外来まで自宅で経過観察させると考える可能性は高いかもしれません」と,③同日に通常の内科医から相。 談を受けたとすると の悪性腫瘍が否定でき,発熱,疼痛,全身衰弱等がなければ一旦退院させ1~2週後の外来まで自宅で経過観察させると考える可能性は高いかもしれません」と,③同日に通常の内科医から相。 談を受けたとすると,腎臓専門医としてどのような対応をしたと考えられますかとの問に対し「内科疾患としてRPGNも疑われる。主治医,『にRPGNの病態につき概説しておき,全身状態が安定しているのであれば一旦退院でも良いが1~2週後の外来で腎機能を確認させる。腎機能の更なる悪化があれば腎生検を念頭に置き再入院が必要となる』と。 対応致します」とそれぞれ回答している。 。 また,M医師は,証人尋問においても,①RPGNの可能性がある場合であっても,全身状態とか,発熱の具合とか,血圧・脈拍等のバイタルサインが落ち着いているのあれば,1度退院させて次のデータまで待つという状況がないわけではなく,次の外来で検査した結果で判断することもあり得る,②第1回入院の退院時に同医師が相談を受けていた場合には,全身状態が悪くないということであれば,1~2週間後に血清 クレアチニンの検査をしようと考えるかもしれない,③RPGNを強く疑えば入院させて経過を見るが,鑑別診断の1つくらいの印象を持つに過ぎない場合には,退院させて1~2週間後にもう1度データをとろうかと判断することもあり得る,④M医師が亡Dについて相談を受けていた場合には,退院させるとしても,第1回入院中にRPGNの診断のための抗体検査を行い,その検査結果が判明する1週間後くらいに外来に来るように指示するが,平成12年当時の被告病院では,特種検査の中には抗基底膜抗体検査(抗GBM抗体検査)が入っておらず,ANCA抗体2種類の検査を実施しただけで済ませた可能性がある,⑤本件患者の場合には抗基底膜抗体が陽性で,ANCA抗体 病院では,特種検査の中には抗基底膜抗体検査(抗GBM抗体検査)が入っておらず,ANCA抗体2種類の検査を実施しただけで済ませた可能性がある,⑤本件患者の場合には抗基底膜抗体が陽性で,ANCA抗体は陰性であるために,RPGNではないと診断された可能性もある,⑥RPGNを強く疑っていれば,2種類のANCA抗体(p-ANCA抗体,c-ANCA抗体)と抗GBM抗体の各検査を行うが,RPGNのスクリーニング的には,2種類のANCA抗体検査,場合により1種類のANCA抗体検査を実施するのが普通であり,本件患者の場合に3種類の抗体検査をしたかどうかは患者を診察した印象によるから,断言することができず,仮に2種類のANCA抗体検査のみを行った場合には,本件患者の場合はANCA抗体陰性であるから,RPGNと診断できなかった可能性もあると証言しているところである。 そして,亡Dは,第2回入院中の9月28日に被告病院腎臓内科に転科となったことから,M医師が同人の診療を担当し,同医師は,第1回入院時の診療録をも検討した上で,同日には,亡Dの症状はRPGNによる可能性もあり,これを除外診断する必要があると判断したものの,RPGNの診断のために,2種類のANCA抗体(p-ANCA,c-ANCA)と抗GBM抗体の各検査を実施したのは,同医師がRPGNの疑いがあると判断した9月28日から8日間が経過した10月6日で あった(乙A1,証人M。このことからすると,仮にH医師が第1回)入院の退院時までに腎臓内科(M医師)に亡Dの症状について併診を依頼していたならば,M医師は亡DにはRPGNの疑いがあると診断したであろうとは認められるが,それ以上に,M医師が9月14日の退院時までにRPGNの診断のために,2種類のANCA抗体(p-ANCA,c-ANCA)と抗G 医師は亡DにはRPGNの疑いがあると診断したであろうとは認められるが,それ以上に,M医師が9月14日の退院時までにRPGNの診断のために,2種類のANCA抗体(p-ANCA,c-ANCA)と抗GBM抗体の各検査を実施したものとは,にわかに認め難いといわざるを得ないところである。 これに加えて,原告らが提出したP医師の意見書(甲B32の2)においても,亡Dの第1回入院の経過では,一貫して頻尿,尿失禁があり,前立腺疾患などを含めた下部尿路疾患を疑い,泌尿器科にまず相談されており,妥当な判断であったと考えられるものの,その後の臨床経過から最終的に尿細胞診で悪性腫瘍は否定され,抗生剤治療にも反応しないCRP悪化があることより尿路感染が腎機能悪化の主たる原因とは考えにくいと泌尿器科で結論を出された時点で,改めて腎臓内科にコンサルト(相談)すべきであったと考えられるとはされているが,亡Dの場合,入院中の看護記録から点滴の自己抜去,見当識障害が出現しており,尿失禁の繰り返しでナースコールも頻回であり,入院継続も困難な状況であったと推定され,この場合,一般医として在宅に療養環境を変えざるを得ないこともよく経験することである,RPGNを明らかに疑った場合は入院を継続するのが通常であろうが,亡Dの入院経過から,退院時の指示として次回1~2週間で自分(一般医)の診察あるいは腎臓専門医に予約し,いつでも具合が悪ければ受診するよう指示することにより,在宅で経過観察する方法も選択の一つであるとされているところであり,P医師の意見も,9月14日の第1回入院の退院時において,1~2週間の診察を予約した上であれば在宅での経過観察も考えられるとするものであって,必ずしも腎臓内科医に併診を依頼させなければならないと はしていない。 これらの事情(医学的知見を含む いて,1~2週間の診察を予約した上であれば在宅での経過観察も考えられるとするものであって,必ずしも腎臓内科医に併診を依頼させなければならないと はしていない。 これらの事情(医学的知見を含む)のほか,被告病院の診療録(乙。 A1)から認められる亡Dの第1回入院中の全身状態の経過等からすると,H医師が腎臓内科医に併診を依頼せずに,9月14日に,同月26日の泌尿器科受診を予約した上で亡Dを退院させて在宅での経過観察としたことに医師としての注意義務違反があるとまではいえないし,また仮に,H医師が第1回入院の退院時までに亡Dについて被告病院の腎臓内科に併診を依頼していたならば,腎臓内科の専門医が亡DについてRPGNの疑いをもったことまでは認められるとしても,亡Dの腎臓機能の悪化がさほど進行していない9月21日ころの段階で適切な措置(ステロイドパルス療法等)を受けることができたものと認めることもできない(なお,原告らは,M医師の過失を前提とする主張はしないとしている。 。)⑵泌尿器科医師の過失についてア原告らは,泌尿器科医師には,腎疾患についてのより高度な知見が求められるところ,第1回入院中の亡Dの血清クレアチニン値,CRP値の上昇,肉眼的血尿,蛋白尿,変形赤血球がみられたこと等から,泌尿器科担当医師たるI医師は,腎疾患を疑い,腎臓内科医に併診を依頼すべきであったと主張する。 泌尿器科医師も広い意味での腎臓専門医であり,腎機能の評価についてもより高度な医学的知見を有するべきと考えられること,そして,第1回入院中の亡Dには,腎疾患を疑わせる複数の徴候が認められたことは上記のとおりである。 イもっとも,上記1⑵エ及びカのとおり,I医師は,H医師に対し,尿細胞診とDIP実施を指示しているところ,これは尿路結石ないし尿路腫瘍等の泌 せる複数の徴候が認められたことは上記のとおりである。 イもっとも,上記1⑵エ及びカのとおり,I医師は,H医師に対し,尿細胞診とDIP実施を指示しているところ,これは尿路結石ないし尿路腫瘍等の泌尿器科疾患の鑑別を目的するものと考えられ(証人M,I医師と) しては,まずは,泌尿器科疾患の鑑別が必要であると判断したものと認められる。 そして,第1回入院時において,RPGNを含む腎疾患を疑うべき状態にあったのは上記のとおりであり,亡Dの血清クレアチニン値は上昇を続けているものの,数値として異常を呈したのは,退院の前日である9月13日の1回のみであって,H医師が泌尿器科担当医であるI医師に対し,亡Dについて併診を依頼したのは,9月8日及び12日のことであり,その当時の検査値は,8日の血清クレアチニン値が0.9,BUN値が19,CRP値が7.9,11日の血清クレアチニン値が1.3,BUN値が24,CRP値が11.1であり,BUN値及び血清クレアチニン値はいずれも被告病院における正常値の範囲内であった。 また,腎臓内科医師であるM医師は,RPGNであるとの疑いを有することを前提にしても,亡Dの全身症状が安定していれば一度退院させた上での経過観察も考えられると述べていること(Mの書面尋問回答書,証人M,P医師作成の意見書においても,RPGNについては除外すべき疾)患の一つとして念頭に置くとされるのみであって,RPGNの診断は,まず数週から数か月にわたる急速な腎機能悪化と有意な尿所見(顕微鏡的血尿,尿沈査で顆粒円柱,赤血球円柱の存在など腎炎を示唆する所見)があり,慢性腎不全を除外できる場合であるとされ,亡Dの入院中の経過からして,在宅で経過観察する方法も選択の一つであるとされていることは(甲B32の2)上記のとおりである。 以上の点からす る所見)があり,慢性腎不全を除外できる場合であるとされ,亡Dの入院中の経過からして,在宅で経過観察する方法も選択の一つであるとされていることは(甲B32の2)上記のとおりである。 以上の点からすれば,第1回入院中において,亡Dに腎機能の悪化があったとしても,早急に確定診断をした上で,治療を開始しなければならないほどの緊急性があったとは認められず,他に,これを認める的確な証拠はない。 そうすると,I医師がH医師から併診の依頼を受けた9月8日及び12 日の段階において,まずは泌尿器科疾患を除外しようと考え,尿細胞診とDIPの実施を指示したのみで,腎臓内科への併診を指示しなかったI医師の判断が誤りであったとまではいえず,被告病院が高齢者を対象とする高度医療機関であり,高齢者の疾患について高度の医学的知見を要求されることを考慮しても,被告病院の泌尿器科医師に,亡Dの第1回入院時において,腎臓内科を併診させるべき義務があったとは認められない。 ウなお,P医師は,泌尿器科において,臨床経過から最終的に尿細胞診で悪性腫瘍が否定され,抗生剤治療にも反応しないCRP値の悪化があることより,尿路感染が腎機能悪化の主たる原因とは考え難いと判断した時点で,腎臓内科医に併診を依頼すべきであったとの意見を述べているが(甲B32の2,泌尿器科医師が泌尿器科疾患の鑑別のために必要と判断し)たDIPの実施前に,腎臓内科に併診を依頼すべきとする根拠は必ずしも明らかではなく,これに泌尿器科医師が亡Dについて相談を受けた当時の上記検査値等をも併せ考えると,P医師の上記意見をもって,亡Dの当時の症状等について,泌尿器科疾患の鑑別に先立ち,腎臓内科医へ併診を行い又は指示すべき義務があったとまでは認めることはできない。 ⑶以上より,第1回入院時に,被告病院担当医師らが をもって,亡Dの当時の症状等について,泌尿器科疾患の鑑別に先立ち,腎臓内科医へ併診を行い又は指示すべき義務があったとまでは認めることはできない。 ⑶以上より,第1回入院時に,被告病院担当医師らが,腎臓内科に併診を依頼すべきであったとする原告らの主張は採用できない。 争点⑵(第1回入院の退院時に,担当医師に療養指導を怠った過失があるか)について⑴原告らは,被告病院担当医師には,第1回入院の退院時に,発熱・血尿があるか,全身状態が不良なときには,重篤な腎疾患に罹患している危険性があるために,早急に被告病院の腎臓内科を受診するように療養指導すべきであり,担当医師であるH医師には,この療養指導義務を怠った過失があると主張するので,この点について判断する。 ⑵ア第1回入院中に,亡Dの症状,所見からは,腎疾患の可能性及び泌尿器 科疾患の可能性が疑われ,その鑑別診断がついていなかったことは,上記のとおりである。そして,H医師は,DIPを予約するとともに,約2週間後の9月26日に泌尿器科受診を指示して,経過観察を前提に,亡Dを退院させたことは,上記1⑵キ及びクのとおりである。 このように,亡Dは,第1回入院時に問題となった症状・疾患が治癒に至ったために退院となったわけではなく,H医師は,継続的な経過観察を行う必要があることを前提に,亡Dの全身状態を考慮して退院させたものであるから,その退院に当たっては,亡D又はその家族に対し,何らかの異常が認められた場合には,被告病院を受診することとの一般的な指示をすべき義務があったものと認めるのが相当である。 イもっとも,上記3のとおり,第1回入院の退院時点においては,入院時にみられた亡Dの症状,所見について診断がついておらず,腎疾患と併せて,泌尿器科疾患も疑われる状態であり,CRP値は上昇している イもっとも,上記3のとおり,第1回入院の退院時点においては,入院時にみられた亡Dの症状,所見について診断がついておらず,腎疾患と併せて,泌尿器科疾患も疑われる状態であり,CRP値は上昇しているとはいえ,クレアチニン値は,数値としては,異常値を示したのは1度のみであって,しかも,被告病院の正常値の上限をわずか0.1上回ったにすぎず,他に,重篤な腎疾患を具体的に予見することが可能であったと認めるに足りる事情はない。そうすると,H医師に,何らかの異常があった場合に被告病院を受診すべきとする一般的な指示を超えて,発熱・血尿があるか,全身状態が不良なときには,重篤な腎疾患に罹患している可能性があること,腎臓内科を受診すべきことまでを具体的に説明すべき義務があったとまでは認めることができない。 ⑶また,本件においては,上記1⑶ア及びイのとおり,原告Bらは,亡Dが元気がなく,食事を摂取できない状態となったが,受診予約をしていた9月26日の前日である25日に被告病院に電話をかけて亡Dの状態等について相談し,同人に被告病院を受診させていること,H医師は,第1回入院の退院時に,亡Dの長男Eに対し,痔の痛みがひどいようであれば外科に相談す ),ることなどを説明していること(上記1⑵ク,さらに,被告病院M医師も退院時には何かあったら受診するようにとの指示をするのが通常であるとの証言をしていること(証人M,H医師は,JクリニックのK医師に対し,)診療情報提供書により亡Dの診療情報を提供して,同人について被告病院退院後の経過観察を依頼していること(上記1⑵ク)などからすれば,H医師は,退院時に,亡Dないしその家族に対し,何らかの異常が認められた場合には,被告病院を受診するよう指示したものと認めるのが相当である。 ⑷以上のことからすれば,第1回 1⑵ク)などからすれば,H医師は,退院時に,亡Dないしその家族に対し,何らかの異常が認められた場合には,被告病院を受診するよう指示したものと認めるのが相当である。 ⑷以上のことからすれば,第1回入院の被告病院担当医師であるH医師は,亡Dを退院させるに当たって必要とされる療養指導義務は尽くしたものと認められるから,H医師に,退院時における療養指導義務違反があり,これによって損害が生じたとする原告らの主張は採用できない。 第4結語以上のとおりであり,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官村田渉裁判官大嶋洋志 裁判官小西安世 別紙当事者の主張第1第1回入院時の担当医師らに,腎臓内科に併診させなかった過失があるか。 (原告らの主張) 被告病院に期待される医療水準被告病院には,高齢者の急性期に対応するための高度専門医療(早期診療・早期治療)の提供が期待されている。また,その提供に当たっては,一つの科にとらわれることなく,各科相互の密な連携のもとで,総合的な医療を提供することが想定されている。さらに,高齢者に多くみられる腎機能障害については,高度な鑑別診断技術とそれに応じた治療体制が求められている。 そして,被告は,被告病院に期待されている医療を実践するために,被告病院に雇用されている医師らに必要な医学的知見を獲得させておかなければならない。 第1回入院中の亡Dの症状・所見⑴血清クレアチニン値及び血中尿素窒素値の推移等第1回入院当初の8月31日,亡Dの血清クレアチニン値は,0.7であ. り,翌9月1日は0.5に下がり,その後上昇を続け,9月13日では,14であった。 被告病院 チニン値及び血中尿素窒素値の推移等第1回入院当初の8月31日,亡Dの血清クレアチニン値は,0.7であ. り,翌9月1日は0.5に下がり,その後上昇を続け,9月13日では,14であった。 被告病院では,血清クレアチニンの正常値を0.8~1.3と設定している(男性)ところ,9月13日の値は正常値を上回っていた。 しかも,GFRが正常時の50%までは糸球体の予備機能があるためにクレアチニン濃度は上昇せず,50%を切ると腎機能障害を反映して増加する。 そのため,血清クレアチニン値が上昇し,正常値を超えたのであれば,既に腎機能障害が相当程度進行していると考えることができる。一般成人男子で,血清クレアチニン値が1.5に達すれば,既に危険な状態に至っていると評価されている。 また,クレアチニンは筋肉中のクレアチンから産出されるから,筋肉量が 減少すると血清クレアチニン値も下がることになる。高齢者では一般に筋肉量が減少している等の理由があるため,普段から血清クレアチニン値は低い値を示すことが多い。そのため,高齢者で筋肉量が少ない亡Dについて,血清クレアチニン値1.4という値に達したことは,危険(腎機能の低下)を知らせる重要なサインであった。 ⑵尿の外観・血尿・蛋白尿・変形赤血球また,尿検査の結果は,以下のとおり,血尿・蛋白尿・変形赤血球等の尿所見異常がみられた。なお,9月7日付看護記録によれば,尿の色は「や,や茶褐色」であった。 蛋白潜血白血球その他9/1±3+-9/81+3+-変形赤血球9/121+3+-変形赤血球⑶CRP値の上昇RPGNにおいても,CRPは上昇するところ,第1回入院当初の8月31日,亡DのCRP値は,5.6であり,翌9月1日は5.1であったが,その後上昇を続け,9月11日では,11.1で CRP値の上昇RPGNにおいても,CRPは上昇するところ,第1回入院当初の8月31日,亡DのCRP値は,5.6であり,翌9月1日は5.1であったが,その後上昇を続け,9月11日では,11.1であった。なお,被告病院におけるCRPの正常値は,0.3以下である。 ⑷その他の症状・所見ア発熱亡Dは,9月4日より発熱し,いったんは体温が38.8度までに上昇した。抗生剤としてペントシリンが投与されたが,すぐには反応せず,9月5日中は37.0度を上回ったままであった。その後,8日に36.3度まで下がったが,11日,13日と37.0度を上回った。 イ胸部レントゲン肺野には特に異常はなかった。 ウ尿細胞診2度にわたる尿細胞診でclassⅠ(正常細胞)と診断された。 エ腫瘍マーカー9月1日の免疫検査によれば,CEAは3.6,CA19-9は14であった。これらは,積極的に悪性腫瘍を疑うような値ではなかった。 オ腹部エコー9月12日に実施された腹部エコーの結果,悪性腫瘍の可能性も否定された。 カ24時間クレアチニン・クリアランス9月1日付検査報告に,L医師(腎臓内科)が,24時間クレアチニン・クリアランスとして「42.6ml/m」と記載している(乙A1,95,頁。第1回入院中,亡Dは腎臓内科で診察を受けていないので,後日に)記載されたものと考えられる。 24時間クレアチニン・クリアランスの基準値は,一般に91~130ml/分と言われており,この「42.6ml/m」という値は,腎機能が高度に低下していると評価されるレベルである。 キクレアチニン・クリアランスの試算GFRを正確に推測するには,クレアチニン・クリアランスを測定する必要がある。クレアチニン・クリアランスは,糸球体腎炎等の腎実質性疾患の障害の程度を直接反映する最も クレアチニン・クリアランスの試算GFRを正確に推測するには,クレアチニン・クリアランスを測定する必要がある。クレアチニン・クリアランスは,糸球体腎炎等の腎実質性疾患の障害の程度を直接反映する最も鋭敏な腎機能検査である。クレアチニ,ン・クリアランス(mg/分)は,一般に,71~90なら腎機能軽度低下51~70なら腎機能中等度低下,31~50なら腎機能高度低下,11~30なら腎不全と評価される。 クレアチニン・クリアランスの試算のための式として,広く用いられて いるCockcroft & Gaultによる糸球体濾過量推定式によって亡Dのクレアチニン・クリアランスを計算すると,9月13日の段階で,25.4となり,腎機能が相当程度悪化していると考えられる状態であった。この点,第2回入院時に亡Dを担当した被告病院腎臓内科のM医師は,第1回入院の退院時に腎機能が増悪していたと総括しているところである。 ⑸急速進行性腎炎症候群早期発見のための診断指針について厚生省進行性腎障害に関する調査研究RPGN分科会の急速進行性腎炎症。 ,候群早期発見のための診断指針(以下「早期発見診断指針」という)では「①尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿,②血清クレアチニ)ンが正常値よりも上昇,③CRP高値や赤沈促進上記の①ないし③を認める場合「急速進行性糸球体腎炎の疑い」として,腎専門病院への受診を,勧める。なお,急性感染症の合併,慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には,1,2週間以内に血清クレアチニン値を再検する」と定め。 られている。この診断指針は,平成14年に発表されたものであるが,平成12年当時,案の段階から確たる異論は出ておらず,またその内容は目新しいものではなく,従来の知見を確認したものに過ぎない。これによれば,亡D この診断指針は,平成14年に発表されたものであるが,平成12年当時,案の段階から確たる異論は出ておらず,またその内容は目新しいものではなく,従来の知見を確認したものに過ぎない。これによれば,亡Dの場合には,RPGNの疑いがあるというべきである。 腎臓内科への併診を依頼すべきこと及び担当医師がそれを怠ったこと2のとおり,第1回入院中の亡Dの症状,所見からは,腎機能の悪化がみられ,その腎機能悪化の原因としては,腎疾患が一つの可能性として考えられた。 したがって,被告病院の担当医師であるH医師は,腎機能悪化の原因を究明するために,泌尿器科のみならず,腎臓内科に相談し,併診を依頼すべきであった。 また,I医師は,9月12日,H医師から亡Dの診察を依頼された際,腎臓専門医として亡Dの症状・所見などから,腎機能の悪化があると判断し,その原因としてRPGNの可能性があると考え,自ら腎臓内科に相談して併診する か,H医師に対してそのような指示をすべきであった。 ところが,H医師は,腎機能悪化を軽視し,血清クレアチニンの上昇,血尿,蛋白尿,抗生物質投与にもかかわらず上昇するCRP,不明熱といった症状・所見につき「痔核と結石で全ての症状・所見の説明がつく」と考えた,にすぎなかった。また,I医師も,亡Dの腎機能の悪化に気がつかなかったか,これを軽視し,H医師に対して点滴静注腎孟造影実施の指示しかしなかった。そのため,H医師は,確定診断に至らぬまま,退院中の症状の推移について具体的指示をすることなく亡Dを退院させた。その結果,亡Dは退院後に腎機能の悪化が進行し,第2回入院時には,血清クレアチニン値が8. 5,BUN値が138と,明らかな急性腎不全状態に陥った。 なお,急性腎不全で,血清クレアチニン値が5.0,BUN値が50を超えると,もはや自分の腎では し,第2回入院時には,血清クレアチニン値が8. 5,BUN値が138と,明らかな急性腎不全状態に陥った。 なお,急性腎不全で,血清クレアチニン値が5.0,BUN値が50を超えると,もはや自分の腎では対応できず,人工透析に頼らざるを得ないとされているところから,第2回入院時の亡Dの腎不全は相当程度進行していたと評価できる。 (被告の主張) 第1回入院中の亡Dの症状・所見についての担当医師の認識及び評価⑴血清クレアチニン値及び血中尿素窒素値について血清クレアチニン値が1.5というだけでは,生命に危険な状態に至っていると評価されることはないし,溶連菌感染に伴う急性糸球体腎炎,伝染性単核症に伴う腎炎,O157感染などでも血清クレアチニンの検査値は上昇することが知られている。また,急性感染症による全身状態の悪化,脱水症などで血清クレアチニン値が1.5程度に上昇することは稀ではない。 本件における血清クレアチニン値は,退院前日に1.4と正常範囲上限(1.3)をわずか0.1上回ったのみで,それ以外は,正常範囲内又は正常下限(0.8)以下であり,急速進行性糸球体腎炎の早期発見診断指針からみても全く問題にならない程度である。 また,BUN値も入院中を通じて正常範囲内であった。 ⑵尿の外観・血尿・蛋白尿・変形赤血球亡Dには血尿が認められた。また,肉眼的血尿も確認され,尿失禁も認められている。これらの症状・所見からすると,まず亡Dのような高齢者においては,腎・尿路系の悪性腫瘍による出血を疑うべきものである。 なお,9月12日の尿検査では変形赤血球が認められているが,そのことにより,腎・尿路系の悪性腫瘍の可能性を否定することはできず,また糸球体由来の出血と断定することもできない。 ⑶CRP値亡Dについては,発熱やCRP上昇があっても,当初クレアチ ているが,そのことにより,腎・尿路系の悪性腫瘍の可能性を否定することはできず,また糸球体由来の出血と断定することもできない。 ⑶CRP値亡Dについては,発熱やCRP上昇があっても,当初クレアチニンの上昇や腎不全が全く疑われない状況であった。そのため,CRP上昇の原因としては,①手術を勧められるほどの痔核,②悪性腫瘍(尿路以外も含む,③。)尿路感染症が考えられた。 ⑷その他の症状・所見尿蛋白については,亡Dには,44歳時に急性心筋梗塞の既往があったため,動脈硬化症の進行による軽度の腎障害による尿蛋白ではないかと考えられた。また,動脈硬化により軽度尿蛋白が検出されることは,高齢者においては必発とも言えるものであり,亡Dの尿蛋白の検査結果も,高齢者によくみられる(1+)程度であった。さらに,顆粒円柱などの尿沈渣は検出されておらず,この時点で内科的な腎疾患を疑うことは困難である。 腎不全の際にはカリウムが高値になるのが一般的であるが,亡Dは入院時,にはむしろ低カリウム血症であり,第1回入院期間中の入院経過を通じてカリウムは正常範囲内である。 クレアチニン・クリアランス値については,原告らの主張する算定式にあてはめると,被告病院での血清クレアチニンの正常範囲下限(0.8)と上限(1.3)に対応するクレアチニン・クリアランス値は,それぞれ,44. 5,27.4となり,正常範囲上限では腎不全との評価となり,下限であっても腎機能高度低下となることになる。腎機能の評価を,単に血清クレアチニンの検査力の推定で算出されたクレアチニン・クリアランス値をもってすることが不適切であることは明らかである。 ⑸早期発見診断指針について平成14年に発表された早期発見診断指針は,RPGNの早期発見という目的のために極めて広い範囲で疑いを持つことを推奨 をもってすることが不適切であることは明らかである。 ⑸早期発見診断指針について平成14年に発表された早期発見診断指針は,RPGNの早期発見という目的のために極めて広い範囲で疑いを持つことを推奨するものであり,極めて広汎かつ厳格な指針である。このような認識が平成12年段階で内科医一般の認識であったとはいえない。 1の所見からして,腎臓内科への併診を依頼すべき義務はないこと第1回入院中,亡Dの全身状態は安定しており特に悪くなく,また腎機能を示す検査結果値はいずれも正常範囲内であった。 第1回退院の前日にクレアチニン値が正常範囲をわずかに上回ったが,全身状態に変化はなく,退院から12日後の再診時までに腎機能が急激に悪化し,全身状態が悪化することを予見することは不可能であった。 亡Dの第1回入院中の血清クレアチニン値を含む臨床症状,検査所見及び全身状態とを総合的に評価すれば,経過観察を継続すれば足る範囲内のものである。 被告病院循環器内科担当医師及び泌尿器科担当医師が,9月14日の退院時に,亡Dにつき有意な腎機能悪化を疑わなかったこと,腎臓内科への併診をしなかったこと(循環器内科担当医師が,退院から12日後に泌尿器科受診を指示・予約して亡Dを退院させたこと)は,何ら注意義務違反となるものではない。 第2第1回入院の退院時に,担当医師に療養指導を怠った過失があるか(原告らの主張) 退院時に,療養指導を行うべきこと 亡Dの退院時における症状及び各種検査結果に照らすと,H医師は,退院後は自ら亡Dの症状及び検査数値の推移の観察をすることができなくなるばかりでなく,被告病院腎臓内科へも相談・併診することができなくなるのであるから,退院時に,亡D及びその家族らに対し,発熱・血尿等があるか,全身状態が不良なときは,重篤な腎疾患に罹患してい なくなるばかりでなく,被告病院腎臓内科へも相談・併診することができなくなるのであるから,退院時に,亡D及びその家族らに対し,発熱・血尿等があるか,全身状態が不良なときは,重篤な腎疾患に罹患している危険性があるため,早急に,被告病院の腎臓内科を受診するように療養指導すべきであった。 第1回入院担当医師が,退院時に,療養指導を怠ったことH医師は,退院から約2週間後の9月26日における被告病院泌尿器科への受診のみを指示して亡Dを退院させたため,亡Dの第2回入院を症状が著しく悪化した9月25日まで遅延させて,早期における適切な治療を受ける機会を喪失させた。そのため,H医師は,医師の患者に対する退院時における療養指導義務(医師法23条参照)に違反したものというべきである。 (被告の主張)第1回入院中,亡Dの全身状態は安定しており,特に悪くはなく,腎機能を示す検査結果はいずれも正常範囲内であって,退院の前日に,クレアチニン値が正常範囲の上限値を0.1上回ったのみで全身状態に変化はなかったことから,退院から12日後の再診日までに腎機能が急激に悪化し,全身状態が悪化することを予見することは不可能であった。 このような状況において,被告病院担当医師は,紹介医療機関であるJクリニックのK医師に対し,亡Dの退院後の観察を依頼して退院をさせているのであるから,その療養指導が適切になされていたことは明らかである。 第3第1又は第2の過失と亡Dの死亡との間に因果関係があるか。 (原告らの主張) 亡Dが死亡に至る経過第1回入院中には,亡Dに,蛋白尿,血尿,血清クレアチニン値の上昇,CRP値の上昇,発熱等の症状・所見がみられ,9月14日の退院時には「腎機 能が増悪」と評価される状態であったが,H医師は確定診断に至ることのないまま,退院を指示した。 亡D アチニン値の上昇,CRP値の上昇,発熱等の症状・所見がみられ,9月14日の退院時には「腎機 能が増悪」と評価される状態であったが,H医師は確定診断に至ることのないまま,退院を指示した。 亡Dは,退院直後から食欲不振に陥り,全身状態が悪化し,同月25日,被告病院の救急外来を受診し,再び入院となった。この入院の時点で,亡Dは,血清クレアチニン値が8.5,BUN値が138と,既に急性腎不全の状態にあった。同月28日,腎臓内科に転科し,急速進行性腎炎の疑いのもと,ステロイドパルス療法,二重濾過血漿交換療法等を受けたが,急性腎不全から消化管出血(虚血性腸炎)を合併し,10月17日,死亡に至った。 臨床検査上,抗基底膜(GBM)抗体が陽性だったことから,亡Dの急速進行性腎炎(半月体形成性腎炎)は,抗GBM抗体型であった。 なお,解剖の結果,半月体形成性腎炎であったことが裏付けられた。 腎臓内科に併診を依頼していれば,RPGNを前提とした治療がより早期に開始できたことH医師又はI医師が,被告病院の腎臓内科に併診を依頼していれば,腎臓内科の専門医が亡Dの腎機能悪化の原因の一つの可能性としてRPGNを疑ったと考えられる。その結果,亡Dは,各種検査(腎生検,血液検査等,p-ANCA及びc-ANCAの2種類のANCA抗体並びに抗GBM抗体)の実施によって,確定診断のために約1週間程度の日数を要するとしても,腎機能の悪化がさほど進行していない9月21日ころの段階でRPGNであることを前提とした適切な措置(診断的治療としてのステロイドパルス療法)を受けることができた。 早期に2の治療を開始すれば,亡Dの予後が有意に改善されたこと⑴スコアによる判定RPGNの生命予後に大きな影響を与える因子として,治療開始時の腎機能,年齢,肺病変の有無,炎症所見の きた。 早期に2の治療を開始すれば,亡Dの予後が有意に改善されたこと⑴スコアによる判定RPGNの生命予後に大きな影響を与える因子として,治療開始時の腎機能,年齢,肺病変の有無,炎症所見の程度が重要であると言われている。 亡Dは,9月11日の時点でCRPは10.0を超えており,現実に治療 開始されるまで肺病変はみられなかったので,血清クレアチニン値が6.0未満の段階で亡Dの治療が開始されていれば,臨床所見スコアは5となる。 その場合の臨床学的重症度はGradeⅡで,24ヶ月生存率は72.5%となっていた(乙B1・62頁,図6「臨床所見のスコア化と重症度分類」参照。 )しかし,現実に治療が開始されたときには,既に血清クレアチニン値が8. 5に達し,臨床学的重症度がGradeⅢ(24ヶ月生存率は46.4%)に悪化していた。 ⑵抗GBM抗体型の予後抗GBM抗体型RPGNの生命予後は,新しい治療法の導入等により,著明に改善した「わが国の抗GBM抗体型急速進行性糸球体腎炎における治。 療法と予後(乙B1・77頁,表24)によれば,44名中9名死亡で,」死亡率は約2割に過ぎない。 ⑶H医師又はI医師が,被告病院の腎臓内科に併診を依頼していれば,腎臓内科の専門医が亡Dの腎機能悪化の原因の一つの可能性としてRPGNを疑ったと考えられる。その結果,亡Dは,腎機能の悪化がさほど進行していない9月21日ころの段階で適切な措置(診断的治療としてのステロイドパルス療法)を受けることができ,救命された可能性は高い。少なくとも亡Dが死亡した10月17日の時点では生存していた蓋然性は極めて高い。 したがって,H医師又はI医師の前記注意義務違反(過失)行為とRPGNに起因する消化管出血(出血性腸炎)の合併による10月17日の亡Dの死亡との間に,法的因果 点では生存していた蓋然性は極めて高い。 したがって,H医師又はI医師の前記注意義務違反(過失)行為とRPGNに起因する消化管出血(出血性腸炎)の合併による10月17日の亡Dの死亡との間に,法的因果関係が存することは明らかである。 (被告の主張) 亡Dが死亡に至る経過9月25日,亡Dは全身状態の急激な悪化から被告病院救急外来を受診し,腎不全の急激な悪化,進行が認められ,意識レベルは傾眠との評価であり,同 日,入院となった。被告病院では,腎臓内科に併診とするとともに,急性腎不全との診断の下,直ちに血液透析を行った。 9月28日,被告病院腎臓内科のM医師がRPGNの可能性があることを亡Dの家族に説明した後,腹部CT検査,腹部超音波検査,腫瘍マーカー検査,大腸内視鏡検査等を行った。 10月6日,各種検査結果を踏まえ,RPGNの可能性が大きいと疑うに至り,ANCA抗体,抗GBM抗体検査を行うとともに,RPGNとの確定診断はなし得なかったが,RPGNを前提にステロイドパルス療法を開始し,同月10日に1回目の二重濾過血漿交換療法を施行した。 その後も,ステロイドパルス療法,血液透析及び血漿交換を施行したが,同月17日,RPGNの合併症であると考えられる消化管出血により死亡するに至った。 10月6日以前に,2の治療を開始することはできなかったことRPGNに対する治療としては,ステロイドパルス療法や血漿交換療法などがある。 しかし,RPGNに対する治療として血漿交換,ステロイドパルス療法を行うためには,RPGNとの確定診断が必要である。 確定診断には腎生検が必須であり,腎生検は生検針を刺入して組織を採取するものであるため,凝血による自然止血を待つほかなく,24時間安静が必要とされるところ,亡Dは,痴呆,不穏,せん妄などにより点滴を自己抜去して 生検が必須であり,腎生検は生検針を刺入して組織を採取するものであるため,凝血による自然止血を待つほかなく,24時間安静が必要とされるところ,亡Dは,痴呆,不穏,せん妄などにより点滴を自己抜去してしまうような状態であり,腎生検中の絶対安静が保てず,生検後に出血死に至るような重大事故を招くことが明らかであったため,腎生検を施行できなかった。 そのため,RPGNとの確定診断をなし得ず,第2回入院後直ちに血漿交換,ステロイドパルス療法を開始することができなかった。 亡Dに対し,10月6日に開始されたステロイドパルス療法は,RPGNと の確定診断によるものではなく,全身状態の急激な悪化,腎機能を示す検査値の急激な悪化,その他の各種検査結果の悪化によって,RPGNを前提に開始したものである。 したがって,9月14日に亡Dを退院させず,入院を継続させていたとしても,RPGNとの確定診断に至るものではなく,ステロイドパルス療法の開始時期を左右することもないから,抗GBM抗体型RPGNの合併症であると思われる消化管出血による死亡という結果は回避不能であった。 第4損害額(原告らの主張) 葬儀関係費用亡Dの葬儀は原告Bが主宰したが,被告に対して負担を求める葬儀関係費用(仏具購入費・墓石建立費を含む)は,150万円が相当である。 逸失利益亡Dは,被告病院において,平成12年10月17日に死亡するまでは毎月厚生年金(退職共済年金や老齢基礎年金)を受けていたが,本件死亡によって,平均余命までの86歳までの間における年金額である952万0471円を受給する権利を喪失したため同額の損害を蒙った。 したがって,妻である原告Aの逸失利益は,上記金員の2分の1相当額の476万0235円に,亡D死亡後に死亡した三女Fの相続分(8分の1)相当額を同女から相続 る権利を喪失したため同額の損害を蒙った。 したがって,妻である原告Aの逸失利益は,上記金員の2分の1相当額の476万0235円に,亡D死亡後に死亡した三女Fの相続分(8分の1)相当額を同女から相続した119万0058円を加算した595万0293円であり,長女である原告Bの逸失利益は,上記金員の8分の1相当額の119万0058円である。 慰謝料⑴亡Dの慰謝料亡Dは,被告病院において最善の治療が受けられると思っていたにもかかわらず,不本意にも退院させられ,その後は全身状態が悪化し,手遅れのた めに死亡するに至ったものであり,亡Dの受けた精神的苦痛を金銭に評価すると,少なくとも1500万円は下らない。 ⑵原告ら固有の慰謝料合計額原告Aは,最愛の夫を失ったものであり,その後A自身も体調が悪化した。 原告Aの受けた精神的苦痛を金銭に評価すると,少なくとも750万円は下らない。 原告Bの受けた精神的苦痛を金銭に評価すると,少なくとも250万円は下らない。 ⑶原告らの慰謝料合計額原告Aの慰謝料は,亡Dから相続した2分の1相当額の750万円,亡D死亡後に死亡した三女Fから相続した8分の1相当額の187万5000円,原告Aの固有の慰謝料750万円の合計額の1687万5000円となる。 また,原告Bの慰謝料は,亡Dから相続した8分の1相当額の187万5000円,原告Bの固有の慰謝料250万円の合計額の437万5000円となる。 弁護士費用被告は,原告らが被った上記各損害の合計額(原告Aが2282万5293円,原告Bが706万5058円)の1割相当額(原告Aが228万円,原告Bが70万円)を相当因果関係を有する弁護士費用として負担すべきである。 (被告の主張)争う。 相当額(原告Aが228万円,原告Bが70万円)を相当因果関係を有する弁護士費用として負担すべきである。 (被告の主張)争う。
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