令和4(ワ)296 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年8月31日 奈良地方裁判所
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判決文本文10,975 文字)

令和5年8月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第296号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年6月13日判決(当事者の表示:略) 主文 1 被告は、原告に対し、355万8375円及びこれに対する令和4年7月14日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担と する。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、820万7647円及びこれに対する令和4年7月14日 から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、奈良県内の警察署に所属する警察官である原告が、同警察署において発生したとされる拳銃実包(実弾)の窃盗事件の被疑者として奈良県警察の警察官から受けた取調べが違法であると主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国 賠法」という。)1条1項に基づき、損害金合計820万7647円及びこれに対する違法な取調べ終了後の日である令和4年7月14日以降の民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠〔枝番を含む。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 奈良県警察奈良西警察署(以下「奈良西署」という。)の職員は、令和4年 1月7日午前10時半頃、拳銃の手入れのため奈良西署内の拳銃保管庫に入った際、実弾5発が不足していることに気付いた。不足の原因は、奈良県警察本部(以下「県警本部」という。)が令和2年11月の実弾交換(配分)時 前10時半頃、拳銃の手入れのため奈良西署内の拳銃保管庫に入った際、実弾5発が不足していることに気付いた。不足の原因は、奈良県警察本部(以下「県警本部」という。)が令和2年11月の実弾交換(配分)時に納入数量を誤ったことにあり、納入時の確認懈怠によるものであるが、その後の定期点検や日々の点検も適切に行われていなかったため、不足していることの発 覚が遅れた。奈良県警察(以下「県警」という。)は、奈良西署内で実弾5発が紛失したものと誤認し、令和4年1月7日(以下、特に断らない限り、年は令和4年を指す。)、その旨発表し、事実関係について徹底した調査を行う方針を明らかにした。(甲1、12、弁論の全趣旨)(2) 紛失報告後、警察職員が奈良西署内や管内の交番等を調べたが、実弾の発 見に至らなかった。そのため、1月7日午前5時40分頃、拳銃保管庫内において1人で実弾数の点検業務(当番の職員が毎日行うもの)に従事し、異常なしとの報告をしていた原告に実弾窃盗の嫌疑がかけられた(以下、この嫌疑に係る事件を「本件窃盗事件」という。)。なお、原告は、上司に指導されたとおり、目視による実弾の確認をしない方法で点検したため、不足に気付かず、そ の直後に同上司がしたダブルチェックでも不足は判明しなかった。(甲1、10、弁論の全趣旨)(3) 原告は、1月9日に奈良西署の警察官から、同月14日には県警本部の警察官から、それぞれ本件窃盗事件の取調べ(事情聴取)を受け、その際携帯電話機を任意提出したほか、2月28日から3月8日までの3月6日(日曜日) を除く8日間、県警本部の警察官から本件窃盗事件の被疑者として取調べを受け(以下、これらの取調べ(事情聴取)を「本件取調べ」という。)、2月28日深夜には、自宅の捜索を受けた(弁論の全趣旨)。 ( を除く8日間、県警本部の警察官から本件窃盗事件の被疑者として取調べを受け(以下、これらの取調べ(事情聴取)を「本件取調べ」という。)、2月28日深夜には、自宅の捜索を受けた(弁論の全趣旨)。 (4) 原告は、3月9日、選任した弁護人(原告訴訟代理人弁護士)の助言に従い、医療機関を受診し、鬱病により加療を要するとの診断を受けた。弁護人は、 同日、奈良西署に対し、診断結果とともに、同日の取調べには応じられず、今 後弁護人が原告への連絡窓口になることを伝えた。原告は、同日以降、病気休暇を経て9月末まで休職した。その間、復職に向けた調整が行われる中、6月20日に県警本部において、弁護人同行の下、原告に対する最後の取調べが行われ、これをもって原告に対する捜査は終了した。(甲5、6、21、弁論の全趣旨) (5) 4月以降、県警内部での調査の結果、実弾5発の不足の原因は令和2年11月の実弾配布時の過誤によるものであって、本件窃盗事件はおろか実弾の紛失すら発生していなかったことが判明した。県警は、7月14日、原告に対してその旨説明して謝罪した(甲12、弁論の全趣旨)。 3 争点及び当事者の主張 本件窃盗事件について原告に対して行われた本件取調べにつき国賠法上違法な部分があったことに争いはなく、そのことについて捜査を担当した警察官らに少なくとも国賠法上の過失があったことにも争いがない。本件の主な争点は、原告の損害額であり、これについての当事者の主張は以下のとおりである。 (1) 原告の主張 原告が本件取調べを含む捜査を受けた日々の不安や恐怖、怒り、無念さからすれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は500万円を下らない。 また、原告は、本件窃盗事件の刑事弁護費用として88万円を支出したほか、本件取調べによ 捜査を受けた日々の不安や恐怖、怒り、無念さからすれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は500万円を下らない。 また、原告は、本件窃盗事件の刑事弁護費用として88万円を支出したほか、本件取調べにより、鬱病を発症し、医療費として2万4420円を支出した上、休職を余儀なくされ、復職後も時短勤務や職務内容を制限されたことにより、 令和4年4月から令和5年4月までの間、休職前と比較して賃金が合計165万3955円減少した。 これらのほか、本件訴訟に係る弁護士費用を加えると、原告の損害は、合計820万7647円である。 (2) 被告の主張 賃金減少額は認める。慰謝料が発生することは認めるが、その額は争う。刑 事弁護費用、医療費及び本件弁護士費用は不知又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に証拠(甲3、21のほか後掲証拠)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件取調べの時間、経過及び態様等について、以下の事実が認められる。 (1) 1月9日原告は、1月8日から休暇を取得して家族で京都旅行に出掛け、翌9日午後9時頃、帰宅したところ、原告宅付近で原告の帰宅を待っていた奈良西署刑事課課長A(以下「A警察官」という。)及び同課署員から、奈良西署内の原告のロッカーと机の確認のための立会いを求められた。原告は、これに応じ、両名 に連れられて警察車両で奈良西署に向かったが、道中、A警察官から、「お前がやったことやから。やってんなら分かるやろ。」などと原告が実弾紛失に関与しているかのように言われた。 原告は、署内の机とロッカーを調べられた後、取調室で事情聴取を受け、その際携帯電話機を任意提出した。原告は、紛失した実弾が充填されていた拳銃 の管理者を尋ねたところ、A警察官から、「犯人にこっちの は、署内の机とロッカーを調べられた後、取調室で事情聴取を受け、その際携帯電話機を任意提出した。原告は、紛失した実弾が充填されていた拳銃 の管理者を尋ねたところ、A警察官から、「犯人にこっちの手札を教えるわけないやろ。」「お前がやったんやろ。」などと実弾紛失に係る嫌疑を告げられ、否定するも、「早く言わな、本部の捜査一課に上げるぞ。」「捜査一課に行ったらこっちの手は離れるぞ。」「後からやりましたと言われへんぞ。」などと追及され、再度否定すると、「じゃあ、お前はそういう態度で通すねんな。今日は帰れ。」 などと言われて取調べを打ち切られた。取調べが終了したのは午後11時頃であり、原告は、奈良西署刑事課署員運転の車で帰宅した。 (2) 1月14日原告は、同日午前に護送業務に従事中、奈良西署留置管理課署員から同行を求められて急遽奈良西署に戻ったが、その際、同署員から「刑事課長からタマ に飛ばれるなよ、と言われているので逃げないでくださいね。」と言われた。原 告は、午前10時35分頃から午後0時頃までの間、奈良西署の相談室において、県警本部刑事部捜査第一課のB巡査部長(以下「B警察官」という。)から、1月6日の出来事や署長の拳銃を触ったかなどについて事情聴取を受け、署長の拳銃に触れたことはないなどと答えた。原告は、この日も携帯電話機を任意提出した。 B警察官と県警本部刑事部捜査第一課警部補C(以下「C警察官」という。)は、原告の勤務終了する午後5時頃、携帯電話機の解析(Googleマップのロケーション履歴及びLINE履歴の取得と解析)に立ち会わせるため、原告を同乗させて車で県警本部に向かった。車中での待機中、原告は、「後出しで申し訳ないが、午前中の聴取で署長の拳銃に触ったことはないと言ったが、昨 NE履歴の取得と解析)に立ち会わせるため、原告を同乗させて車で県警本部に向かった。車中での待機中、原告は、「後出しで申し訳ないが、午前中の聴取で署長の拳銃に触ったことはないと言ったが、昨 年の12月の点検の際、副署長の指示で、署長と副署長の拳銃2丁を保管庫から出したことがあり、その時、署長の拳銃に触っている。」などと申し出たところ、供述の変遷であると指摘された。 携帯電話機の解析は午後10時までには終了し、原告は、警察官運転の車で帰宅した。 (3) 1月下旬頃原告は、その後も奈良西署で通常勤務を続けていたが、精神的に辛くなったため、上司に対して、嫌疑をかけられてしんどいので休みたいなどと相談したところ、他の上司から、2月までは休みを取らないでほしいと言われ、休暇取得を断念した。 (4) 2月28日(県警本部での取調べ1日目)原告は、午前8時20分頃、奈良西署に出勤しようとしたところ、待ち伏せしていたB警察官及びC警察官らから県警本部への同行を求められた。原告は、県警本部で、所持品検査に応じたほか、嫌疑を晴らすため、ポリグラフ検査、口腔内細胞摂取及び携帯電話のデータ抽出に応じた。 県警本部刑事部捜査第一課D警視(以下「D警察官」という。)は、ポリグラ フ検査の後、「結果が出た。お前や。」などと原告を犯人と断定した。また、取調べを担当したB警察官は、原告夫婦の貯金や死亡した親族の調査をしたとか、原告の行動確認をしていたことを示唆する発言をした上、「お前、このまま黙ってれば職場復帰できると思ってるやろ。もう無理やからな。どっちにしろ辞めなあかんくなる。」などと原告には退職するしか選択肢がないかのような発 言をした。原告は、実弾交換時の配布ミスや点検懈怠の可能性を指摘したが、B警察 てるやろ。もう無理やからな。どっちにしろ辞めなあかんくなる。」などと原告には退職するしか選択肢がないかのような発 言をした。原告は、実弾交換時の配布ミスや点検懈怠の可能性を指摘したが、B警察官らは、点検ミスはあり得ないなどと言って聞き入れなかった。 その後、午後11時10分から翌3月1日午前0時13分まで、原告宅の捜索が実施され、タブレット端末1台が押収された(甲4)。捜索を終えたD警察官は、原告に対し、「これだけのことしてるということは、そんだけのもの が上がってる、ということや。」などと原告に対する嫌疑に合理的な根拠があるかのような発言をし、今後、県警本部監察課の警察官らが原告方マンションの駐車場に車を停めて交代で原告宅を監視すること、外出の際は事前に妻の携帯電話で連絡すること、取調べが終わるまで自宅から県警本部まで捜査員らが送迎することなどを伝えた。以後、原告に対する24時間の監視及び取調べの ための県警本部への往復の送迎が3月5日まで続いた。 (5) 3月1日(県警本部での取調べ2日目)B警察官は、前夜の捜索で証拠が発見されなかったことについて、「いくらでも隠す場所はある。ガサで出なかったとしても(捜索は)終わらない。」などと述べ、親族宅の捜索の可能性をちらつかせるなどして原告に実弾の隠し場所 の自供を迫ったり、分厚い捜査資料を持ち出して逮捕状請求が時間の問題であるかのように告げたりした。また、原告を知る他の警察官らが原告を怪しんでいるなどと告げ、原告が止めるように懇願しても聞き入れず、「あいつならやると思っていた」、「名前は言われへんけど、同期何人もお前のLINEブロックしている」、「犯罪者の目をしている。」など原告に対して悪印象を抱いてい る旨の周囲の警察官らの陳述内容を執拗に読み上げた 思っていた」、「名前は言われへんけど、同期何人もお前のLINEブロックしている」、「犯罪者の目をしている。」など原告に対して悪印象を抱いてい る旨の周囲の警察官らの陳述内容を執拗に読み上げた。このように原告の人格 を非難したり、侮辱的な言辞を繰り返したり、精神的に追い詰めて自供を迫ったりする取調べは、その後も同様に行われた。 (6) 3月2日(県警本部での取調べ3日目)取調べ前の所持品検査では、原告が持参した所持品全てを開被され、食べ物に至るまでくまなく検査された。 取調べでは、B警察官が、原告には双極性障害やADHDの特徴があるなどと合理的な根拠もないのに障害の疑いを告げ、実弾紛失発覚前後の原告の行動を挙げ連ね、「行動がおかしいからお前に行きついとんねん。」、「他の人に目を向けてください、それ通用せえへん。」、「お前みたいな行動、ゼロ人。」、「行動がおかしいのが何よりちゃうん?」、「精神状態がおかしい。まともじゃない。」、 「お前の反応はおかしいよと(ポリグラフ検査の結果に)出ている。」、「科学の力や。」、「(ポリグラフ検査の結果は)鑑定書という形で最終証拠になる。」、「もう(犯人は)お前しかおらへんやんか。」など、侮辱的な言辞を用いて原告を犯人と断定して自供を迫った。 (7) 3月3日(県警本部での取調べ4日目) 原告は犯行を否認したが、取調官は、「お前しかおらん。嘘つくな。」と怒鳴り、「嫁にも愛想つかされ、家族にも見放され、嘘つきのまま独りぼっちで後悔して死ぬんか。」などと家族との断絶の不安をあおって自供を迫った。 (8) 3月4日(県警本部での取調べ5日目)取調官は、「同期がお前のことどう思っているか知ってるか?」、「LINE も何人も(お前のこと)ブロックしてる。 不安をあおって自供を迫った。 (8) 3月4日(県警本部での取調べ5日目)取調官は、「同期がお前のことどう思っているか知ってるか?」、「LINE も何人も(お前のこと)ブロックしてる。」「〇〇(原告の仲の良い同僚)は、嘘つきやから構いたくないと言ってるぞ。」などと、他の警察官から聴取したという原告の悪評を告げたり、「双極性障害かもしらんから、自分の行動をよく思い出せ。」と根拠のない障害の疑いを持ち出したりして自供を迫った。また、「犯人やったとしたら、探して欲しいところはないのか。」「例えばの話で いいから。」「日常会話やんか。なんで言われへんねん。やましいことあるんか。」 と隠匿場所に関する供述を引き出そうとした。 (9) 3月5日(県警本部での取調べ6日目)取調官は、原告の過去の勤務中の不適切な行動を挙げ連ね、実弾紛失発覚前後の原告の行動についてについて尋ね、「こうしている間にも、過去の件の捜査はどんどん進んでいる。はよせんと時間ないで。」などと強制捜査が間近で あるように告げた。C警察官は、「お前が犯人やと考えて、ふと頭に浮かぶ景色や、行ったことない場所でフラッシュバックで蘇る風景を現場見取り図で描いてよ。」「自分やったらこう隠すかな、という図を描いて。例えば、一斉捜索していない場所とか、銃弾があるかもしれない場所。」と言い、原告に警察署周辺の地図を描かせ、日付の記入と署名をさせた。原告が「これ、犯行現場案 内ちゃいますん?」と聞くと、C警察官は「お前が記憶から消してる場所か、別の人格が隠してる場所かもしれんから。言ってくれたらそこ人集めて中心的に探す。」と告げ、5か所の地図を作成させた。 また、帰宅時には、警察官から「一日やるから、家族と話し合ってよく考えろ。」と言われた。 る場所かもしれんから。言ってくれたらそこ人集めて中心的に探す。」と告げ、5か所の地図を作成させた。 また、帰宅時には、警察官から「一日やるから、家族と話し合ってよく考えろ。」と言われた。 同日は、原告の妻も、参考人として県警生駒警察署に呼び出されてB警察官から事情聴取を受け、「あいつは、しょうもないことはよく覚えてて、大事なことを忘れているので記憶が飛んでる可能性がある。そういうのって、ADHDや双極性障害の特徴だからね。」などと原告に対する障害の疑いを告げられた。 (10) 3月7日(県警本部での取調べ7日目)原告は、前回の取調べ後に幹部警察官らから指示されたとおり、この日から電車を利用して県警本部に出頭することとなった。 取調官は、実弾紛失発覚前後の原告の行動を挙げ連ね、「犯人の行動でしかない。」、「(犯人でないとしたら)矛盾している。」、「普通の人はそうならない。」 などと捜査側の思い込みを押し付けた。 この日は取調べが長引いたため、D警察官に原告宅まで送り届けられたが、帰り際には、「よう考えろよ。」と言われた。 (11) 3月8日(県警本部での取調べ8日目・最終日)取調官は、「徹底的にやる。」、「色んな罪名を掘り下げて何度でも逮捕する。」と述べ、B警察官は、「お前こうしてる間にもお前の捜査は進んでる。俺が何 とか止めてるけど、早く言わな、お前が恐れている最悪の結果になるで。うちの調査監(D警察官)、ほんまに怖いからな。」と自供しないと強制捜査が続き、不利益が大きいことを告げた。追い詰められた原告が「言いたいことは分かりますけど、盗んだなんて記憶全くないです。もうパクってください。」と述べると、C警察官は、「分かった。パクったるから待っとけ。」と応じた。B警察 げた。追い詰められた原告が「言いたいことは分かりますけど、盗んだなんて記憶全くないです。もうパクってください。」と述べると、C警察官は、「分かった。パクったるから待っとけ。」と応じた。B警察 官は、「今までも同じように嘘ついていたやつも、浮気とかどんなやつとか全部周りの人に聞いて徹底的にやった。そして、そういうやつは結局自供した。」と、過去の事件を引き合いに、原告を更に追い詰めることを示唆した。それでも原告が否認すると、B警察官は、「まあ聞けって。このままやとお前もそうなるぞ、って話。お前も、この仕事辞めて、早く別の仕事したいんやろ?2か 月3か月留置おったらそれこそスタート遅れるし、しんどくなるで。だから全部今のうち言うとけ。早くせな、Dさんもいつまでも待ってへんで。」と将来の不安を掻き立てるような発言をしたり、「ほぼ皆お前を怪しいと思っている。」「目がやばい。」「おどおどしている。」「話が通じているか分からない。」「サイコパス」などの周囲の悪評を繰り返したりし、「昼休憩中、お前いつも取調室 の窓から監視されてるの知ってるか?」と監視状態にあることを意識させ、原告が「仕事辞めたいです。」と言うと、「この問題終わるまで無理。」と、自供する以外の選択肢がないかのように告げて原告を追い詰めた。 (12) 2月28日から3月8日までの県警本部における取調べの時間本件取調べのうち2月28日から3月8日までの県警本部における取調べ の時間は、別紙「取調べ時間一覧表」記載のとおりである。 2 争点に対する判断任意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容されるものと解す 意捜査の一環としての被疑者に対する取調べは、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容されるものと解すべきである(最高裁昭和57年(あ)第301号同59年2月29日第二小法廷判決・刑集第38 巻3号479頁参照)。 上記1の本件取調べのうち、同(1)(2)の取調べ(事情聴取)は、実弾の所在不明という重大事象が発生し、早期に事実関係を解明する必要がある状況下で行われたものであり、事態が発覚する直前に点検業務に当たった原告に対する事情聴取の必要性は高かったから、捜査官の発言に不穏当な部分はあるものの、その状 況や態様等を勘案すると、社会通念上相当と認められる限度を超えた違法な取調べであったとまではいえない。 これに対し、同(4)から(11)までの取調べについてみると、同取調べ時には本件窃盗事件に関与していない旨の原告の言い分が明らかになっており、同じことを重ねて聴取する必要性は高くない。そして、奈良西署では実弾数を目視により 確認しないなど杜撰な点検方法が常態化していたのであるから(そうであるからこそ発覚が遅れたのである。)、直前の点検業務に従事したことをもって原告のみに嫌疑をかけることに合理性はなく、むしろ、原告から実弾交換時の配布ミスや点検懈怠の可能性を指摘されていたのに、県警本部の警察官らは、これを真摯に検討した形跡がないことからすると、上記取調べの時点における原告に対する本 件窃盗事件の嫌疑の根拠は薄弱であったといわざるを得ない。そうであるのに、同警察官らは、連日かつ長時間にわたり、原告を人格的に非難したり侮辱的言辞を用いたり、親族も対象に含めた強制捜査の可能性を示唆したりして、原告の不安や無力感を掻き立てながら 得ない。そうであるのに、同警察官らは、連日かつ長時間にわたり、原告を人格的に非難したり侮辱的言辞を用いたり、親族も対象に含めた強制捜査の可能性を示唆したりして、原告の不安や無力感を掻き立てながら、原告が犯人であるとの捜査官の見立てに間違いがないかのように繰り返し告げ、原告を心理的に追い詰めて、捜査側の薄弱な証拠 を埋め合わせるように執拗に自供を迫っている。以上の諸事情に加え、その他取 調べの態様等を勘案すると、同警察官らによる原告に対する上記取調べ(以下「本件違法取調べ」という。)は、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度を超えた違法な取調べであり、担当した警察官らは職務上の法的義務に違反したものというべきである。 これを前提にすると、原告の損害は、以下のとおりであると認められる。 (1) 慰謝料 70万0000円本件違法取調べの時間は、別紙「取調べ時間一覧表」のとおり、2月28日から3月8日までの間、3月6日を除き、連日約7時間から約10時間もの長時間に及ぶものであり、この間、原告は身柄拘束を受けてはいなかったものの、業務命令か否かも明らかではないまま(弁論の全趣旨)、自宅を訪れるなどし た県警本部の警察官らから県警本部への同行や取調べを求められたものであって、現職の警察官という立場上、取調べを拒否することは事実上困難であったものといえる。 そして、犯罪の予防や捜査を責務とする警察官が自らの職場における犯罪の被疑者であると疑われること自体が多大な精神的負担を伴うものであるとこ ろ、その取調べの態様は、前記のとおりであり、県警本部の警察官らは、原告に対する嫌疑の根拠は薄弱であるのに、犯人であると断定し、原告の人格的尊厳を傷つける発言を繰り返して自供を迫ったのであり、その結果、 その取調べの態様は、前記のとおりであり、県警本部の警察官らは、原告に対する嫌疑の根拠は薄弱であるのに、犯人であると断定し、原告の人格的尊厳を傷つける発言を繰り返して自供を迫ったのであり、その結果、原告は鬱病を発症するに至ったのである。 これらの事情に加えて、事件性の誤認の原因は県警本部による実弾配分時の 確認不足及びその後の奈良西署内における杜撰な点検体制の継続にあること、他方で、原告は身柄拘束を受けておらず、本件違法取調べの約4か月後には無実であることが判明して県警の謝罪を受けたこと、その他本件に現れた一切の事情を踏まえると、本件違法取調べにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は70万円と認めるのが相当である。 (2) 刑事弁護費用 88万0000円 原告は、本件違法取調べにより精神的に追い詰められた結果、弁護人に本件窃盗事件の弁護活動を依頼することを余儀なくされ、弁護人に対し、その着手金及び成功報酬として88万円を支払ったものであると認められるところ(甲14、21)、弁護人選任後の原告に対する捜査の状況、上記費用の相当性についての被告の認否の状況等を踏まえると、上記刑事弁護費用は全て本件違法 取調べと相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。 (3) 医療費 2万4420円(甲15)原告は、本件違法取調べにより鬱病を発症したものと認められるから、その治療にかかった上記金額は、本件違法取調べと相当因果関係のある損害であると認められる。 (4) 賃金減少額 165万3955円(争いがない。)(5) 弁護士費用 30万0000円前記(1)から(4)の合計額に加えて、本件事案の内容、本件訴訟の経過等に照らせば、本件取調べと相当因果関係のある弁護士費用は30万円 円(争いがない。)(5) 弁護士費用 30万0000円前記(1)から(4)の合計額に加えて、本件事案の内容、本件訴訟の経過等に照らせば、本件取調べと相当因果関係のある弁護士費用は30万円と認めるのが相当である。 (6) 合計 355万8375円以上によれば、本件違法取調べと相当因果関係のある原告の損害額は、合計355万8375円である。 第4 結論よって、原告の請求は上記金額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度 で理由があるから同限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、被告による仮執行免脱宣言の申立ては相当ではないから、これを却下する。 奈良地方裁判所民事部 裁判長裁判官寺本佳子 裁判官太田雅之 裁判官田畑恭彦

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