平成21(ワ)16174 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年6月10日 大阪地方裁判所
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判決文本文14,686 文字)

- 1 -主文 被告は,原告に対し,1万2000円及びこれに対する平成14年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する昭和61年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 請求原因の要旨本件は,警察庁長官又はその職員が,故意又は過失により「昭和6,0年10月17日,県警察警察署に暴行罪の被疑事実により検挙さabれた」旨の誤った原告の前歴情報を記録・保持し,複数回に亘って捜査機関に回答し,さらに平成12年9月8日の警察署刑事課における供c述調書において原告が当該前歴の誤りを指摘して訂正を求めたにもかかわらず,原告が甲弁護士会に人権救済申立てをし,同会が調査照会をした平成13年12月まで訂正されないまま放置されたことにより,原告,,,,は誤った前歴情報に基づき検挙のたびに取調べ・処分を受けかつ刑事裁判を受けるという人格権・プライバシー権などの人権を侵害される損害を被ったとして,原告が被告(国)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,精神的苦痛に対する慰謝料300万円と弁護士費用30万円の合計330万円の損害賠償及びこれに対する誤った前歴が判明した後である昭和61年6月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 争いのない事実原告(昭和20年d月f日生の男性)は,平成12年9月8日,g県警察警察署司法警察員から,原告についての平成12年9月8日付けc氏名(前歴)照会結果(甲1)に「検挙年月日,昭和60年10月17日,検挙署名,県警察警察署,罪名,暴行」との記載(以下こ 県警察警察署司法警察員から,原告についての平成12年9月8日付けc氏名(前歴)照会結果(甲1)に「検挙年月日,昭和60年10月17日,検挙署名,県警察警察署,罪名,暴行」との記載(以下この犯ab歴情報を「本件犯歴情報」という)があることを示された上で取調べ。 を受け「これは警察の間違いです。私は昭和60年9月21日に県,ah警察署で窃盗容疑者として逮捕されていますので,私の事件ではありません」と供述した(甲2。 。 )- 2 -警察庁の管理する警察庁情報管理システムに犯歴情報がデータベース化されており,原告が昭和61年5月にg県警察本部に窃盗容疑で逮捕された当時には,そのシステムに本件犯歴情報が登録されていたと推測されるが本件犯歴情報は誤りであった原告による人権救済申立て甲,。 (3)を受け,平成13年12月,甲弁護士会の調査照会が行われ,その頃,警察庁情報管理システムから本件犯歴情報が抹消された。 原告の主張(請求の原因)(1)国の責任原因原告は,昭和61年5月にg県警察本部に窃盗容疑で逮捕勾留され,,。 取調べを受けた際に自らの前歴調書を見せられその説明を求められたその際原告は前歴調書に「昭和60年10月17日,県警察警察署abに暴行罪の被疑事実により検挙された」旨の事実無根の記載がなされていることに気づいた。原告は,前歴調書の誤りを指摘し,その訂正を申し入れたが,取調官は無視して取り合わなかった。その後原告は,以後合計7回の逮捕取調べの都度,その抹消を申し入れたが,結局甲弁護士会に人権救済申立てをし,同会が調査照会をした平成13年12月まで抹消されないまま放置された。そして,その間,被告国(警察庁)は,原告の誤った前歴(本件犯歴情報)を捜査機関に回答し続け,原告は,この誤った 救済申立てをし,同会が調査照会をした平成13年12月まで抹消されないまま放置された。そして,その間,被告国(警察庁)は,原告の誤った前歴(本件犯歴情報)を捜査機関に回答し続け,原告は,この誤った前歴を前提に少なくとも5回有罪判決を受けている。 前歴とは,犯罪歴,すなわち捜査機関によって被疑者として検挙された経歴のことをいう。検挙とは,主として捜査機関で用いられる用語であり,被疑者の検挙という場合には,被疑者を逮捕し,書類送致し,又は微罪処分とすることを指す。前歴を管理するのは,中央は警察庁,出先は,都道府県警察本部(東京都の場合は警視庁。以下同じ。)情報管理課照会センター(犯歴照会センター)である。被疑者が逮捕されると都道府県警察本部情報管理課照会センターが警察庁データベースに逮捕歴情報を発信し,警察庁が全国の情報を一元的に集中管理し,都道府県警察本部情報管理課照会センターから被疑者の過去の犯歴照会があると警察庁がオンラインで回答する体制となっている。 そもそも犯歴の有無はセンシティブ情報であり,最も尊重されなければならないプライバシーである。誤った前歴情報を記載され続けたこと自体,原告の人格権・プライバシー権の侵害である。また,原告の訂正要求を放置し,かつ,誤った回答を繰り返し,それを前提とする処分を受けさせたことも,原告の人格権・プライバシー権などの人権を著しく- 3 -侵害するものである。前歴に関する個人情報は,人格権・プライバシー権に関わるものであって,国に誤った個人情報を保持されることはもちろん,さらにその個人情報を誤って利用されることは,そのこと自体が直ちに,当該個人の人格権・プライバシー権を侵害するものである。 したがって,前歴情報を独占的に収集し,その管理をしている国は,当該情報に誤りがないように収集・保管し,間違 れることは,そのこと自体が直ちに,当該個人の人格権・プライバシー権を侵害するものである。 したがって,前歴情報を独占的に収集し,その管理をしている国は,当該情報に誤りがないように収集・保管し,間違ってもその情報が誤って利用されないようにする高度の義務がある。また,万一その内容に誤り等があることが判明した場合は,速やかにその内容を訂正し,その誤った情報が用いられないようにする高度の義務がある。被告国(警察庁長官又は同庁職員)は,一般市民の前歴の管理者として,原告の前歴情報に誤りがないように収集・保管し,誤った利用がなされないようにする高度の義務,さらに仮に原告の前歴情報に誤りがあった場合には,その内容を速やかに訂正し,誤って用いられないようにする義務を負っていた。ところが,被告国は,原告の本件犯歴情報が明らかに誤情報であるにも関わらず,警察庁職員の故意又は過失により,そのような誤情報を記録・保持し,かつ,捜査機関からの照会に対し,その誤情報を回答し続けた。さらに,被告国は,遅くとも平成12年9月8日の警察署cにおける供述調書において原告は本件犯歴情報の誤りを根拠を付けて供述しているにもかかわらず,前歴を管理している警察庁長官ないし同庁職員の故意又は過失により(仮に,警察庁職員が警察からその旨の連c絡があったにもかかわらず,その訂正をしなかったというのであれば,そのこと自体に故意・過失が存することになるし,警察からその旨のc連絡がなかったとしても,前歴情報を訂正する体制を整備せずに漫然と放置したこと自体に警察庁長官には重大な過失が認められる,その訂。)正をせずに放置し,かつ,その誤った前歴情報に基づき,原告に繰り返し,検挙のたびに取調べ・処分を受けさせ,刑事裁判を受けさせることになったものである。 したがって,国は, 認められる,その訂。)正をせずに放置し,かつ,その誤った前歴情報に基づき,原告に繰り返し,検挙のたびに取調べ・処分を受けさせ,刑事裁判を受けさせることになったものである。 したがって,国は,国家賠償法1条1項に基づき,上記公務員の故意又は過失によって,原告に生じた損害について,その賠償をする義務を有する。 (2)損害①慰謝料300万円原告は,被告国が,自らの誤った前歴情報を保持したこと,その前歴情報を警察署等複数回に亘って捜査機関に回答したこと,さらにかかc- 4 -る誤った前歴情報に基づいて刑事裁判を受けさせたこと,原告が訂正を求めているにもかかわらず,その訂正を行わなかったことにより,多大な精神的苦痛を受けた。その精神的苦痛を慰謝するためには,原告が繰り返しその訂正を求めていたこと,長期間にわたり,その訂正が無視され,かつ,放置されたこと,その結果,原告は誤情報を前提として,繰り返し検挙・裁判を受けたことを考慮すれば,慰謝料の金額は,300万円をくだらない。 ②弁護士費用30万円原告は,本件訴訟を原告代理人らに委任したが,原告の損害・精神的苦痛の程度のほか,本件訴訟の複雑さ・専門性等に鑑みれば,少なくともその弁護士費用のうち30万円が,被告国の不法行為と相当因果関係のある損害である。 被告の主張(争点)(1)警察庁職員の対応に国家賠償法1条1項の違法性は認められないこと本件における警察庁の対応について,国家賠償法1条1項の違法性が認められる余地はない。よって,被告は原告に対し,同条項に基づく損害賠償責任を負うことはない。 警察署において被疑者を検挙した場合,当該被疑者に係る犯歴情報の登録等については,おおむね別添1(犯歴登録フローチャート,別添)2(犯歴照会フローチャート)のような流れで実施され 負うことはない。 警察署において被疑者を検挙した場合,当該被疑者に係る犯歴情報の登録等については,おおむね別添1(犯歴登録フローチャート,別添)2(犯歴照会フローチャート)のような流れで実施される。その根拠となる通達(乙1~4)は,いずれも現時点のものであるが,昭和60年10月17日(本件犯歴情報の検挙年月日)から平成13年12月(本件犯歴情報が削除された時期)にかけても,おおむね同様の仕組みであった。 原告は,被告が,誤りである本件犯歴情報を登録,保持し,かつ捜査機関からの照会に対して回答し続けた点を違法と主張する。しかし,犯歴情報の登録手続を行うのは,都道府県警察であって,警察庁ではないから,被告が本件犯歴情報を登録したことを違法とする原告の主張は,前提を誤るものである。また,犯歴情報照会に対する回答は,原則として,照会があった場合,警察庁情報管理システムにおいて管理されている情報から自動的に引き出されるものである。そうすると,この点の違法を問題とする原告の主張は,被告が,誤った情報である本件犯歴情報,,を保持していたことの違法性を前提とするものであって結局のところ- 5 -本件においては,被告が,警察庁情報管理システムに登録された本件犯歴情報を削除することなくそのまま保持していたことが問題となる。しかし,警察庁職員は,本件犯歴情報が誤りであることを認識する立場にはない。犯歴情報の登録の場面において,警察庁は,登録された結果としての犯歴情報自体を確認することはできても,当該犯歴情報の正誤について確認することはできない。そうすると,警察庁は,本件犯歴情報が誤りであることを認識する立場にないのであるから,これを削除すべき義務を負うことはなく,したがって,国家賠償法1条1項の違法性が認められる余地はない。 原告は,遅くとも と,警察庁は,本件犯歴情報が誤りであることを認識する立場にないのであるから,これを削除すべき義務を負うことはなく,したがって,国家賠償法1条1項の違法性が認められる余地はない。 原告は,遅くとも平成12年9月8日の警察署刑事課における供述c,,調書において原告が本件犯歴情報の誤りを供述したことを前提に仮に警察庁職員が警察からその旨の連絡があったにもかかわらず,その訂c正をしなかったというのであれば,そのこと自体に故意・過失が存すると主張するが,警察庁職員が警察署職員から上記原告の供述内容を聞c,,かされたとする具体的な根拠も存在しないことから原告の上記主張は前提事実を欠くものであり,失当である。 犯歴情報として登録された事項を削除する体制に何らの不備もない。 原告は,警察からその旨の連絡がなかったとしても,前歴情報を訂正cする体制を整備せずに漫然と放置したこと自体に警察庁長官には重大な過失が認められるとも主張する。しかしながら,犯歴情報として登録された事項を削除する場合の手続が平成12年当時定められており(乙3・第2の1,第3の1(1,これに基づく運用がされていたのである))から,その体制が整備されていなかったとする原告の主張は,前提を欠くものといわざるを得ない。 犯歴情報の管理については,警察庁において,犯歴情報が登録された警察庁情報管理システムの管理を行い,各都道府県警察において,犯歴情報の内容についての登録,削除等の手続を行うこととされている。これは,警察法において,中央の警察行政機関(警察庁)は,国家的又は全国的な見地から国がつかさどり,統轄し,又は調整すべき事項を所掌し,そのために必要な特定の事項について都道府県に一定の関与を行うものである一方(警察庁の所掌事務については,警察法17条,5条2 全国的な見地から国がつかさどり,統轄し,又は調整すべき事項を所掌し,そのために必要な特定の事項について都道府県に一定の関与を行うものである一方(警察庁の所掌事務については,警察法17条,5条2項,3項参照,都道府県警察は,警察職務の執行を行う機関とされて)いる(その責務については,警察法36条,2条参照。警察制度研究会編「全訂版警察法解説」東京法令出版72頁参照)ことによるものであ- 6 -る。そして,警察庁は,全国的に調整が必要な警察庁情報管理システムの管理を行い,一方,個々の犯歴情報の内容については,実際に犯罪の捜査等に当たる都道府県警察が登録,削除等を行うことにしており,これは,それぞれの機関の具体的な職責の違いからして当然のことといえる。よって,警察庁において犯歴情報の管理体制に不備があったとされることもない。 (2)仮に原告の主張する損害賠償請求権があるとしても時効消滅していること本件犯歴情報は,平成13年12月において既に削除されていることから,翌月である平成14年1月以降において,仮に原告が,刑事事件で取調べ,検察官の処分ないし刑事裁判等を受けているとしても,そこでは,本件犯歴情報は前提とされていないのであるから,もはやそれによる原告の精神的損害は発生していない。そうすると,万が一,被告が原告に対して国家賠償法1条項に基づく損害賠償責任を負うことがあ るとしても,それは,遅くとも平成13年12月31日までに発生していたことになる。ところで,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する(国家賠償法4条,民法724条前段。これを本件についてみると,原告は,平成13年3月7),,,日の時点で本件犯歴情報 及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する(国家賠償法4条,民法724条前段。これを本件についてみると,原告は,平成13年3月7),,,日の時点で本件犯歴情報について甲弁護士会人権擁護委員会に対し人権救済申立てをするなどしていたというのであるから,同年12月3,。 1日の時点において損害及び加害者を知っていたことは明らかであるそうすると,仮に被告が原告に対し,何らかの損害賠償責任を負うとしても,本訴が提起された平成21年10月20日の時点では,既に消滅時効期間である3年(民法724条前段)が経過していることから,原告の被告に対する損害賠償請求権は時効により消滅している。被告は,上記時効を援用する。 第3裁判所の判断 要約当裁判所は,犯歴情報の管理は,警察庁の通達に基づき,警察庁の職務として行われている行政事務であり,本件犯歴情報を誤ってデータベースに登録した県警察の職員の過失による行為は,通達に基づき警察a庁の事務を補助するために行われた行為であるから,誤った犯歴の登録について警察庁職員が全く関知していなかったとしても,警察庁の行政- 7 -事務を補助させている以上,警察庁の職員の職務上の過失による違法行為と評価されるべきものと判断する。 被告の消滅時効の抗弁は,原告が加害者を知ったとは認められないから採用することができない。 本件犯歴情報が誤って登録されて利用され,これによって原告が人格権を侵害されたことによる損害は,慰謝料1万円,弁護士費用2000。 ,円の合計1万2000円が相当であると認める遅延損害金の起算日は最終の違法行為の後である平成14年1月1日とするのが相当である。 被告国(警察庁)の責任について(1)認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め であると認める遅延損害金の起算日は最終の違法行為の後である平成14年1月1日とするのが相当である。 被告国(警察庁)の責任について(1)認定事実証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 警察庁は,都道府県警察において検挙した者に係る犯罪経歴に関する事項(以下「犯歴」という)について「犯歴A登録原票及び犯歴A登。 ,」(。 「」。 )録補助票の作成要領別紙のとおり以下作成要領という乙4を定めて都道府県警察に通達している。警察庁は,作成要領に基づき登録される犯歴について,これを「犯歴Aファイル」という名称のデータベースとして「警察庁情報管理システム(警察庁が設置した電子計算,」機,端末装置及びこれらを接続するデータ伝送回線並びにこれらの用に。)供するプログラムを情報の管理を行うために組み合わせたものをいうにより一元的に管理している(乙1。 )犯歴Aファイル等のデータベースのファイル(これらを関係ファイルという)を作成し,利用することにより,関係ファイルを利用するこ。 とを「個人照会業務」といい,警察庁は,個人照会業務の実施要領について「警察庁情報管理システムによる個人照会業務実施要領(別紙の,」とおり。以下「実施要領」という。乙2「警察庁情報管理システムに),よる個人照会業務実施細則(別紙のとおり。以下「実施細則」という。 乙3)を定めて都道府県警察に通達している。 作成要領,実施要領及び実施細則など上記各通達の内容は,昭和60年10月17日本件犯歴情報の検挙年月日)から平成13年12月(本(件犯歴情報が削除された時期)にかけても現在とほぼ同じである。 ,,,,個人照会業務については実施要領第4により警察庁管区警察局都道府県警察本部にそれぞれの運用責任者を置き,警察庁刑事 件犯歴情報が削除された時期)にかけても現在とほぼ同じである。 ,,,,個人照会業務については実施要領第4により警察庁管区警察局都道府県警察本部にそれぞれの運用責任者を置き,警察庁刑事局刑事企画課長が警察庁における運用体制の責任者として,個人照会業務の適正かつ円滑な実施のための指導及び調整業務を行い,府県警察本部の運用- 8 -責任者は,警察庁運用責任者及び管区運用責任者との連絡を密にし,個人照会業務の適正かつ円滑な運用を行うものとされている。 犯歴Aファイルへの犯歴情報の登録及び登録された事項の削除は,実施細則第2,第3に従い,原則として,都道府県警察本部に設置された照会センター(以下「照会センター」という)が,警察庁情報管理シ。 ステムに接続された端末装置に入力し,これにより警察庁情報管理システムの犯歴Aファイルが変更されることによって行われる。 都道府県警察の職員が行う犯歴情報照会は,実施要領第3の5・6,第7,実施細則第6ないし第10に従い,警察職員が各警察本部の照会センターに犯歴情報の照会を行い,照会センターの端末操作担当者が,端末装置を用いて犯歴Aファイルの利用に必要な事項を警察庁情報管理システムに入力し,これを受けて警察庁情報管理システムが処理した情報が,照会センターに設置された端末装置の表示装置に表示され又は印字装置若しくは外部記録媒体に出力され,照会センターの端末操作担当者が,端末装置の表示装置に表示されるなどした警察庁情報管理システムからの回答に基づき,照会を行った警察職員に対して回答することによってなされている。 (2)検討前記認定事実によれば,警察庁は,警察庁に構築された情報管理システムである警察庁情報管理システムを用いて,犯歴を一元的に管理するデータベースである犯歴Aファイルを管理しているこ ている。 (2)検討前記認定事実によれば,警察庁は,警察庁に構築された情報管理システムである警察庁情報管理システムを用いて,犯歴を一元的に管理するデータベースである犯歴Aファイルを管理していること,そして,犯歴データベースに登録すべき犯歴登録事項の作成要領,犯歴データベースへの犯歴の登録・照会の手続実施要領及び実施細則を全国一律に定め,都道府県警察に通達し,これら通達に定められた手続を都道府県警察が順守し,その適正かつ円滑な運用が図られるように都道府県警察を指導していることが認められる。 そうであるとすれば,犯歴のデータベースを管理し,これに犯歴を登録し,全国の都道府県警察職員からの照会に回答する事務は,警察行政の調整に関する事務であり,警察庁が,警察法2条,5条2項22号,,。 17条に基づきつかさどっている事務であると認めるのが相当であるすなわち,犯歴を全国一元的なデータベースとして管理する目的は,電子計算機を用いた一元的な情報管理の効率性を生かすことにあるのみならず,犯罪が往々にして都道府県警察の管轄(都道府県の区域,警察法36条2項)を越えて広域的に行われるため,都道府県警察が警察の責- 9 -務である犯罪の捜査(警察法2条)を行うにあたっては,当該犯罪の捜査にあたる都道府県警察の管轄区域以外で行われた犯歴についても把握する必要があるからであると考えられる。したがって,犯歴を全国一元的に管理するという犯歴管理の行政事務の特性は,このような犯歴情報管理の性質ないし目的から必然的に導かれる本質的なものであり,犯歴情報管理は,その性質上,全国一律に行われるべき警察行政の調整に関する事務に属し,その行政主体は,これをつかさどる警察庁(国)以外にはありえないと考えられるのである。 たしかに被告の主張するように,外形的には,警察 性質上,全国一律に行われるべき警察行政の調整に関する事務に属し,その行政主体は,これをつかさどる警察庁(国)以外にはありえないと考えられるのである。 たしかに被告の主張するように,外形的には,警察庁は,犯歴が登録されるデータベースを警察庁情報管理システムにおいて保存管理しているのみであり,犯歴の登録や抹消などの情報の変更や照会に関する事務は,都道府県警察本部の照会センターの端末操作担当者が,端末装置を用いて直接データベースにアクセスすることによって行っているという見方もできなくはない。しかし,都道府県警察本部の照会センターがデータベースに直接アクセスして登録や照会をするのは,前記のとおり,警察庁の通達に基づいて権限を与えられ,その権限の範囲内でアクセスしているにすぎないのである。そうであるとすれば,都道府県警察本部の照会センターなどの警察職員が行う犯歴情報の登録・照会に関する事務は,それが当該都道府県で行われた犯罪の捜査に関連する事務であるという面では,都道府県警察の事務としての側面も有するが,他方で,警察庁から与えられた権限に基づき,警察庁の行うべき犯歴情報データベースの管理に関する事務を補助している側面をも有するものと評価できるのである。 そして,国家賠償法1条1項の解釈に当たっては,国の公権力の行使にあたる公務員が,その職務を行うについて,第三者に職務を補助させた場合には,その第三者の行為も含めて,国の公権力の行使にあたる公務員が行った職務行為と評価するのが相当であり,また,その第三者に故意又は過失があったときは,職務を補助させた国の公権力の行使にあたる公務員の故意又は過失があったものと評価するのが相当である。 前記第2の2の争いのない事実及び上記認定事実によれば,本件犯歴,,情報は警察庁通達に基づき県警察の職員が登録 の公権力の行使にあたる公務員の故意又は過失があったものと評価するのが相当である。 前記第2の2の争いのない事実及び上記認定事実によれば,本件犯歴,,情報は警察庁通達に基づき県警察の職員が登録したものと推認できa犯歴が事実無根の誤ったものであり,原告は誤った犯歴情報を登録されるという損害を被ったのであるから,その登録をした県警察の職員にaは過失があったと認められる。 県警察の職員が過失により本件犯歴情a- 10 -報を警察庁情報管理システムに登録したことは,通達を発出して都道府県警察の職員に犯歴情報の登録を補助させていた警察庁の職員についても,過失によってこれを登録させたものと評価されることになる。したがって,本件犯歴情報を警察庁情報管理システムに登録したことについて,国の公権力の行使にあたる公務員が,その職務を行うについて,過失によって,誤った犯歴情報を登録されるという損害を違法に原告に加えたものと認められる(この損害の評価について,後記4において検討する。この判断は,県警察の職員の過失による行為が,事柄の性質。)a上当然に警察庁の職員の過失による行為と評価されることによるものであるから,本件犯歴情報が登録されたことを,警察庁の特定の職員が現実に知っていたか否かによって左右されるものではない。 消滅時効の抗弁について被告は,原告が,甲弁護士会に人権救済申立てをした平成13年3月7日の時点では,原告は,損害及び加害者を知っていたとして,国家賠償法4条によって準用される民法724条前段による3年の消滅時効を援用する。 しかし,上記人権救済申立ての申立書(甲3)には,原告は「私の,前歴に,昭和60年10月17日,県警察署に暴行の事犯で検挙とab記載されている事件について調査していただきたいのです(中 。 しかし,上記人権救済申立ての申立書(甲3)には,原告は「私の,前歴に,昭和60年10月17日,県警察署に暴行の事犯で検挙とab記載されている事件について調査していただきたいのです(中略)私。 の犯行でないのに,なぜ,このようなことをされるのか,はげしい怒りをおぼえます。いったい,この事犯(暴行)をした人間は誰なのか,調査していただきたいのです(中略)まったく見も知らない人間の犯罪。 を,まったく第三者の前歴をコンピュータに導入するなんて事は,人道上,絶対に許せない事犯であります。どうか,これらにかかわった人間に厳しい警告を出して下さい」と記載しているにすぎない。この申立。 書の記載によれば,原告は,この人権救済申立てによって,本件犯歴情報を登録した者を明らかにすることを甲弁護士会に求めており,加害者というべき登録した者を知っていたことは窺えない。 このような申立書の記載内容から窺える原告の認識の内容に加え,前記2のとおり,警察に関する権限は,警察庁(国)と都道府県警察とによって分担され,その権限分担の中で犯歴情報を誰がいかなる権限に基づいてコンピュータに登録するかなどの犯歴情報管理の具体的な方法は,警察庁通達等を検討して初めて明らかになるものであるという犯歴管理に関する行政の実情も考慮すれば,上記申立ての時点では,いまだ- 11 -原告が,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもと,それが可能な程度にこれを知ったとは認められない。 したがって,上記人権救済申立ての時点において,原告が「加害者を知った」とはいえないから,被告の消滅時効の抗弁は,採用できない。 損害について(1)認定事実,(,,第2の2の争いのない事実上記2の認定事実並びに証拠甲1 12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め 告の消滅時効の抗弁は,採用できない。 損害について(1)認定事実,(,,第2の2の争いのない事実上記2の認定事実並びに証拠甲1 12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 原告は,昭和60年10月17日頃,県警察の職員により「昭和6a,0年10月17日,県警察警察署に暴行罪の被疑事実により検挙さabれた」旨の事実無根の犯歴(本件犯歴情報)を誤って警察庁情報管理システムに登録され,平成13年12月にこれが削除されるまで,犯罪の捜査を受けるたびに,都道府県警察からの犯歴照会に基づき,同システムにより自動的に本件犯歴情報が回答された。もっとも,本件犯歴情報には,処分結果の登録がない。原告は,本件犯歴情報が登録されていた昭和60年10月17日から平成13年12月までの間に,以下の①~⑤の事犯を含め6回検挙され,誤った情報である本件犯歴情報を含む氏名(前歴)照会結果が,これらの犯罪の捜査,起訴処分,刑事裁判の資料として使われ,そのうち①~⑤の事犯では実刑に処せられた。 ①昭和61年5月14日,g県警察捜査1課により窃盗(空巣)で検挙され,昭和61年9月22日,g簡易裁判所において懲役5か月の刑に処せられ,刑務所に服役した。 i②昭和62年9月30日,g県警察j警察署により窃盗(空巣)で検挙され,昭和63年1月22日,g地方裁判所において,盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律違反(以下「盗犯防止法違反」という。原告が検挙された盗犯防止法違反の罪は,以下も含めてすべて同法3条の常習累。),,犯窃盗罪と推認されるの罪により懲役1年8か月の刑に処せられk刑務所に服役した。 ③平成元年12月2日,l県警察m警察署により盗犯防止法違反で検挙され,平成元年12月27日,地方裁判所支部において懲役 認されるの罪により懲役1年8か月の刑に処せられk刑務所に服役した。 ③平成元年12月2日,l県警察m警察署により盗犯防止法違反で検挙され,平成元年12月27日,地方裁判所支部において懲役2nm年6か月の刑に処せられ,刑務所に服役した。 o④平成5年7月19日,県警察警察署により盗犯防止法違反でpq検挙され,その後,地方裁判所において懲役2年6か月の刑に処せらpれ,刑務所に服役した。 o- 12 -⑤平成8年9月26日,県警察警察署により盗犯防止法違反でlr検挙され,平成9年6月9日,地方裁判所支部において懲役3年のms刑に処せられ,刑務所に服役した。 o原告は,平成12年9月8日,g県警察警察署により窃盗で検挙さcれ,同日,同警察署司法警察員の取調べに対し,本件犯歴情報は,警察の間違いであり,原告の事件ではない旨供述した。 (2)検討以上の認定事実によれば,原告は,昭和60年10月から平成13年12月まで約16年間,本件犯歴情報が誤って登録され,刑事手続で利用され,その間に少なくとも,6回検挙され,うち5回は起訴されて実刑判決を受けていることが認められる。原告は,本件犯歴情報が登録された直後の昭和61年5月に検挙された上記(1)①の事件の捜査の際にも取調べにあたった警察官に本件犯歴情報が誤りであることを言ったが全くとりあってもらえなかった旨陳述書(甲12)で述べており,この原告の陳述は,本件犯歴情報が登録されてから15年もたった平成12年9月になっても捜査官に対して本件犯歴情報が誤りであることを申し立てている前記認定事実に照らしても,一応信用することができる。 前記作成要領(別紙)の第2の1によれば,都道府県警察の捜査機関も,犯歴の登録にあたって役割を果たすことが警察庁通達によっ ることを申し立てている前記認定事実に照らしても,一応信用することができる。 前記作成要領(別紙)の第2の1によれば,都道府県警察の捜査機関も,犯歴の登録にあたって役割を果たすことが警察庁通達によって求められているから,この通達の趣旨からすれば,被疑者から犯歴の誤りについての申入れを受けた捜査機関は,犯歴情報の正確性を担保するために必要な調査をすべき義務があると解するのが相当であり,昭和61年と平成12年の2度にわたって原告の申入れを受けたg県警察の捜査担当の警察職員が誤った犯歴の是正のための調査を怠った点も,都道府県警察の補助のもとで犯歴情報を管理している警察庁職員の過失と評価することができる。 ところで,犯歴(前歴)は,犯歴照会のたびに回答され,刑事事件の起訴・不起訴の処分,刑事裁判における情状の判断においても重要な資料となるものであるから,誤った犯歴が16年間登録され,それを利用されて上記のとおりたびたび捜査,起訴,裁判を受けたことにより,原告は,本件犯歴情報が起訴処分の決定や裁判の量刑に具体的な影響を及ぼしたか否かを問うまでもなく,そのこと自体によって人格権を侵害され,相当程度の精神的苦痛を受けたものと認めることができる。 しかし,原告は,本件犯歴情報が登録される前に,昭和39年6月か- 13 -ら昭和60年9月までの間に実に14件もの犯歴(そのうち12件は窃盗を含む犯歴,甲1)があること,本件犯歴情報には処分結果が含まれていないこと,原告が窃盗ないし常習累犯窃盗の犯罪を繰り返した事実自体が,刑事手続において重要な事実として評価されることなどを考慮すれば,本件犯歴情報が,刑事手続において原告に不利益に考慮された可能性を全く否定することはできないとしても,不利益に考慮された可能性ないしその程度は,さほど大きいものとはいえない ることなどを考慮すれば,本件犯歴情報が,刑事手続において原告に不利益に考慮された可能性を全く否定することはできないとしても,不利益に考慮された可能性ないしその程度は,さほど大きいものとはいえないと考えられる。 以上の事情を考慮し,さらに本件犯歴情報は既に抹消されていることなど本件の一切の事情を考慮すれば,本件犯歴情報が誤って登録され,抹消されるまでの約16年の間,刑事事件の捜査・裁判にたびたび利用されたことによって,原告が人格権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料としては,1万円が相当であると認める。 また,犯歴情報を誤って登録したという本件における国の違法行為の内容及び性質,本件訴訟の審理経過等に照らし,国の上記違法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は,2000円が相当であると認める。 遅延損害金の起算日については,昭和60年10月に本件犯歴情報が登録され,平成13年12月にこれが抹消されるまでの国の継続的な違法行為による損害を最終の違法行為時点である平成13年12月の時点において評価したものであるから,最終の違法行為の後である平成14年1月1日とするのが相当である。 結論 以上によれば,被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,1万2000円の損害賠償とこれに対する平成14年1月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。 原告の請求は,上記限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却する。なお,訴訟費用については,本件犯歴情報が登録されてから抹消されるまでの経緯や本件訴訟の経過等に照らし,民事訴訟法64条ただし書を適用して,全部被告の負担とする。仮執行宣言の申立ては,相当でないから却下する。 大阪地方裁判所第13民事部小林久起裁判長裁判官- 本件訴訟の経過等に照らし,民事訴訟法64条ただし書を適用して,全部被告の負担とする。仮執行宣言の申立ては,相当でないから却下する。 大阪地方裁判所第13民事部小林久起裁判長裁判官- 14 -加藤員祥裁判官田之脇崇洋裁判官

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