平成23(行ウ)728等 出願取下げを削除する手続補正書却下の処分に対する処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年7月20日 東京地方裁判所
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平成23年(行ウ)第728号出願取下げを削除する手続補正書却下の処分に対する処分取消請求事件(第1事件)平成23年(行ウ)第729号既納手数料返還請求書却下の処分に対する処分取消請求事件(第2事件)判決アメリカ合衆国マサチューセッツ〈以下略〉原告キューリス,インコーポレーテッドアメリカ合衆国カリフォルニア〈以下略〉原告ジェネンテック,インコーポレーテッド両名訴訟代理人特許管理人弁理士滝田清暉同中村成美東京都千代田区〈以下略〉被告国処分行政庁特許庁長官被告指定代理人大西勝同岡野信行同佐藤一行同大江摩弥子同河原研治 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 第1事件 特許庁長官が,特願2007-540083号について,原告らに対し平成22年11月29日付けでした同年7月6日付け手続補正書に係る手続を却下する旨の処分を取り消す。 2 第2事件特許庁長官が,特願2007-540083号について,原告らに対し平成22年8月23日付けでした同年3月30日付け既納手数料返還請求書に る手続を却下する旨の処分を取り消す。 2 第2事件特許庁長官が,特願2007-540083号について,原告らに対し平成22年8月23日付けでした同年3月30日付け既納手数料返還請求書に係る手続を却下する旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,原告らが,自ら行った特許出願について出願取下書を提出した後,特許庁長官に対し,同特許出願の審査請求手数料に係る既納手数料返還請求書を提出し,また,同出願取下書の全文を削除する旨の手続補正書を提出したところ,いずれも特許庁長官から却下処分を受けたことから,これらの処分が違法であると主張して,被告に対し,同手続補正書に係る却下処分の取消し(第1事件)及び同既納手数料返還請求書に係る却下処分の取消し(第2事件)をそれぞれ求める事案である。 2 前提事実〈証拠略〉(1) 原告らによる特許出願,手数料の納付及び同出願の取下げア原告らは,平成17年11月3日,米国特許庁に対し,国際特許出願(PCT/US2005/040054 日本における出願番号は特願2007-540083号。以下「本件特許出願」という。)をし,平成19年5月7日,我が国の特許庁に対し国内書面を提出した。 イ原告らは,平成20年10月6日付けで,本件特許出願について出願審査請求書を提出した。同審査請求に関して原告らが納付しなければならない手数料(以下「本件審査請求料」という。)の額は35万6900円であったので,原告らは,同審査請求に当たり同額の手数料を納付した。 ウその後,原告らは,平成21年9月24日付けで,本件特許出願につき 出願取下書(以下「本件取下書」という。)を提出した。 エ原告らは,本件取下書提出後,特許法195条9項所定の手数料の返還を請求しなかったため,平成22年3 けで,本件特許出願につき 出願取下書(以下「本件取下書」という。)を提出した。 エ原告らは,本件取下書提出後,特許法195条9項所定の手数料の返還を請求しなかったため,平成22年3月24日をもって同条10項所定の6か月の期間が経過した。 (2) 原告らによる手数料の返還請求及び特許庁長官による却下処分ア原告らは,本件取下書提出後6か月が経過した後の平成22年3月30日付けで,特許庁長官に対し,本件審査請求料についての出願審査請求手数料返還請求書を提出するとともに,既納手数料返還請求書(以下「本件返還請求書」という。)を提出した。このうち,本件返還請求書には,「納付済金額」が39万6600円,「適正納付金額」が19万8300円,「返還請求金額」が19万8300円と記載されていたほか,「平成21年9月24日付で,審査請求料の半額の返金を求めるべく出願取り下げ書を提出しましたが,過誤により,平成22年3月24日までに出願審査請求手数料返還請求書を提出しなかったため,本来返還されるべき審査請求料の半額が返還されておりません。これは出願人の過誤による納付に該当しますので速やかに返金方お願い致します。」と記載されていた。 また,原告らは,特許庁長官に対し,平成22年3月30日付けで上申書を提出した。同上申書には,「本願出願については,審査請求料の半額の返金を求めるべく,平成21年9月24日付で出願取下げ書を提出したところ,・・・代理権を証明する書面を提出するよう手続補正指令書を受領しました。そこで,出願人は平成21年11月24日付で手続補正書を提出して代理権を証明する書面を提出したまま,錯誤によって出願審査請求料返還請求書を提出することなく,出願審査請求料が返還されたかどうか,振替口座をチェックしておりましたところ,・・ で手続補正書を提出して代理権を証明する書面を提出したまま,錯誤によって出願審査請求料返還請求書を提出することなく,出願審査請求料が返還されたかどうか,振替口座をチェックしておりましたところ,・・・,まだ返還されていなかったので,おかしいと気が付き,特許庁に確認したところ,提出から6ヶ月以内に返還請求書を提出すべきところ,未だ提出していなかった ことを確認致しました。従って,期限を1週間過ぎましたが,本来,審査請求が不要となり,出願人に返還すべき金額が特許庁に残ることは筋が通りませんので,期間は過ぎましたが,返還請求に応じて頂きたく,お願い致します。」と記載がされていた。 イ特許庁長官は,上記出願審査請求手数料返還請求書について,平成22年4月19日付けで,同返還請求は特許法195条10項所定の審査請求料の返還請求ができる期間経過後の提出であることを理由として,原告らに対し,却下理由通知を発した。 その後,特許庁長官は,同年8月23日付けで,上記出願審査請求手数料返還請求書に係る手続を却下する旨の処分をした。 ウまた,特許庁長官は,本件返還請求書について,同年4月19日付けで,原告らに対し,手続が相違するとの却下理由通知を発した。 原告らは,上記却下理由通知に対して,同年5月24日付け弁明書を提出し,同弁明書において,本件特許出願の取下げから6か月以内に出願審査請求手数料返還請求書を提出しなかったことは出願人の過誤であり,したがって,同返還請求書の提出期限が過ぎた時点で,その返還請求権は過誤納による返還請求権に変わったものと認定していただきたい旨の弁明をした。 これに対し,特許庁長官は,同年8月23日付けで,過誤納の事実は存在しないとして,本件返還請求書に係る手続を却下する旨の処分(以下「 求権に変わったものと認定していただきたい旨の弁明をした。 これに対し,特許庁長官は,同年8月23日付けで,過誤納の事実は存在しないとして,本件返還請求書に係る手続を却下する旨の処分(以下「本件返還請求書却下処分」という。)をし,同処分は,同月27日に原告らに通知された。 (3) 原告らによる本件取下書の全文を削除する旨の手続補正及び特許庁長官による却下処分ア原告らは,平成22年7月6日付けで手続補正書(以下「本件補正書」という。)を提出し,補正の内容欄に「審査請求料が返還されないため, 平成21年9月24日提出の出願取下書の取り下げを致します。」と記載して,本件取下書の全文を削除する旨の手続補正を求めた。 イこれに対し,特許庁長官は,平成22年8月23日付けで,原告らに対し,出願取下書を削除する手続がないとの却下理由通知を発した。 ウ原告らは,上記却下理由通知に対して,同年9月27日付け弁明書を提出した。同弁明書において,原告らは,このような手続が通常であれば許されない手続であろうことを予想していたが,本件取下書提出後に手数料返還請求書の提出が期限に遅れたため,返還が拒否されているという特殊な状況があったことから,その救済を求めたものであること,手数料返還請求書に係る却下処分については別途不当利得返還請求の訴えを提起して争わざるを得ない状況であるが,そのような訴訟が不毛であることは承知しているので,本件取下書の取下げを認めて,本件特許出願を回復させるという和解を選択してもらいたいなどと弁明した。 エこれに対し,特許庁長官は,同年11月29日付けで,出願取下書を削除する手続がないことを理由として,本件補正書に係る手続を却下する旨の処分(以下「本件補正書却下処分」という。)をし,同処分は, エこれに対し,特許庁長官は,同年11月29日付けで,出願取下書を削除する手続がないことを理由として,本件補正書に係る手続を却下する旨の処分(以下「本件補正書却下処分」という。)をし,同処分は,同年12月3日に原告らに通知された。 (4) 原告らによる行政不服審査法に基づく異議申立て及び特許庁長官による棄却決定ア原告らは,平成22年10月22日,本件返還請求書却下処分の取消しを求めて,また,平成23年1月28日には本件補正書却下処分の取消しを求めて,それぞれ行政不服審査法に基づく異議申立てを行った。 イこれに対し,特許庁長官は,同年8月25日,本件返還請求書却下処分及び本件補正書却下処分はいずれも適法なものであるとして,各処分に対する原告らの異議をいずれも棄却する旨の決定をした。 (5) 原告らによる本件各訴えの提起 原告らは,平成23年12月19日,当庁において,被告に対し,本件補正書却下処分の取消しを求める訴え(第1事件)及び本件返還請求書却下処分の取消しを求める訴え(第2事件)をそれぞれ提起した。 3 争点(1) 本件補正書却下処分の適法性(第1事件)(2) 本件返還請求書却下処分の適法性(第2事件)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(本件補正書却下処分の適法性)について〔被告の主張〕(1) 特許出願の取下げによって特許出願の効果は消滅し,その効力は,取下書の提出のあった時に生じるところ,原告らが平成21年9月24日付けで本件取下書を提出し,特許庁長官がこれを受理したことにより,本件特許出願の特許庁への係属は,同日をもって消滅した。したがって,平成22年7月6日付けで提出された本件補正書は,特許庁に係属していない特許出願についてなされたものであり れを受理したことにより,本件特許出願の特許庁への係属は,同日をもって消滅した。したがって,平成22年7月6日付けで提出された本件補正書は,特許庁に係属していない特許出願についてなされたものであり,不適法である。 よって,特許庁長官が,本件補正書を特許法18条の2第1項の規定により却下した処分(本件補正書却下処分)は,適法である。 (2) この点に関して,原告らは,本件取下げが錯誤に基づきなされた意思表示であるから無効である旨主張する。 しかし,出願取下げが特許庁に対する意思表示であるとしても,特許出願の取下げの取下げを認めることは,特許出願の取下げを信じて当該特許出願に係る発明を実施していた善意の第三者を害し,また,同一の発明についてなされた他の特許出願の実体審査に著しい支障を来すことになるから,公益に反する。したがって,このような善意の第三者の保護や特許審査の安定性の要請など,特許制度の公益性を考慮すれば,特許出願を取り下げた者の内心の意思に重きを置くべきではなく,安易に出願取下げの錯誤無効を認める べきではない。 また,そもそも,本件取下書の提出時に,原告らに本件特許出願を取り下げる意思があったことは明らかであり,その意思表示に錯誤があったとは認められない。原告らは,本件特許出願の価値を低く評価したことなどが錯誤である旨主張するが,それは動機の錯誤にすぎないのであって,そのような動機は本件取下書には表示されておらず,法律行為の内容となっていなかったから,いずれにせよ錯誤は認められない。 よって,原告らの上記主張は失当である。 〔原告らの主張〕(1) 特許出願の取下げは特許庁に対する意思表示であるから,取下げの判断に錯誤があった場合は,出願人は,公益に反しない限り,出願取下げの意思表示を取り下げる権利を有す る。 〔原告らの主張〕(1) 特許出願の取下げは特許庁に対する意思表示であるから,取下げの判断に錯誤があった場合は,出願人は,公益に反しない限り,出願取下げの意思表示を取り下げる権利を有する。本件取下書による原告らの本件特許出願の取下げは,錯誤によるものであり,民法95条により無効である。 すなわち,本件特許出願に係る発明の価値がその出願費用からして100万円を下らないことは容易に理解されるところ,原告らは,その評価を誤って,その価値が本件特許出願を取り下げることによって返還される出願審査請求料の半額以下になったと思い違いをしたために,本件特許出願を取り下げたのであり,これは動機の錯誤に当たる。そして,特許法195条9項の立法趣旨の1つに「出願人の費用負担の軽減を図ること」が含まれていることや,経験則上,特段の理由がないにもかかわらず特許出願の取下げという不利益行為を選択することがないことからすれば,出願を取り下げて出願審査請求料の半額を返還してもらうということが出願取下げの一般的な動機となっていることは明らかである。その後,原告らは,出願審査請求料の返還請求手続にミスがあったため,その返還を受けることができず,そこで本件取下書の提出が間違いであったと気付いたから,本件特許出願の回復を図るべく本件補正書を提出したものである。 したがって,錯誤によって提出した本件取下書を削除する旨の本件補正書を,単にその提出を許容する規定が存在しないとの理由によって却下した特許庁長官の行為は,違法である。 また,このような本件補正書を却下することは,原告らの財産権を軽視して,それを事実上没収することにほかならないから,民法95条に基づく救済,ひいては憲法29条による国民の権利を奪うものであって,違憲である。 (2) この点に関 下することは,原告らの財産権を軽視して,それを事実上没収することにほかならないから,民法95条に基づく救済,ひいては憲法29条による国民の権利を奪うものであって,違憲である。 (2) この点に関して,被告は,特許出願の取下げがあった時に特許出願の効果が消滅する旨主張する。 しかし,特許出願の効果が消滅するのは取下げが法律行為として有効である場合であって,本件のように取下げが錯誤により無効である場合とは次元が異なるのであって,被告の上記主張は失当である。 また,善意の第三者の保護などについての被告の主張は机上の空論であり,個別具体的な妥当性を欠く本件補正書却下処分は,柔軟で個別具体的な配慮を定めた特許庁方式審査便覧の運用指針にも違反している。 2 争点(2)(本件返還請求書却下処分の適法性)について〔被告の主張〕(1) 原告らが納付した本件審査請求料は適正額であり,過納でも誤納でもないから,特許法195条11項に規定する過誤納の手数料に該当しない。 したがって,同項の規定を根拠として行った原告らの本件返還請求書の提出に係る手続は不適法であるから,特許庁長官が,特許法18条の2第1項の規定により同手続を却下した処分(本件返還請求書却下処分)は適法である。 (2) この点に関して,原告らは,本件特許出願の取下げに基づく出願審査請求料の一部返還請求(特許法195条9項)がその請求期間(同条10項)の徒過により認められないことから,その救済として,過誤納の規定(同条11項)に基づく返還請求が認められるべき旨主張する。 しかし,過誤納に該当するのは,過大な手数料を納付した場合(過納の場合)や特許庁に係属していない事件について手数料を納付した場合(誤納の場合)等,手数料を納付した時点において納付すべき法律上の原因がない し,過誤納に該当するのは,過大な手数料を納付した場合(過納の場合)や特許庁に係属していない事件について手数料を納付した場合(誤納の場合)等,手数料を納付した時点において納付すべき法律上の原因がない場合をいい,事後的に納付を基礎付ける法律関係が消滅した場合は含まれないし,放棄又は取下げがあった特許出願の出願審査請求料の返還について,過誤納の手数料の返還に関する規定の適用を認めることは,同条9項及び10項の存在意義を失わせることになるから,原告らの上記主張は失当である。 また,原告らは,本件特許出願の取下げによって,特許庁が特許審査をしなくて済む状態になった場合は,出願審査請求料を収受する前提がなくなったのであるから,その出願審査請求料を返還することが社会通念であり,これを原告らに返還せず収奪することは,不当利得に該当するとも主張する。 しかし,出願審査請求料は,審査に要する実費ではなく,いわゆる政策手数料であるから,特許出願の取下げ等により審査をしなくても済む状態になったからといって,当然に返還しなければならないものではない。取下げ等に基づく出願審査請求料の返還請求権は,平成15年法律第47号による特許法の改正により認められた権利であり,その内容は,特許出願の放棄又は取下げをした場合に,その後6か月以内に返還請求をすることにより,出願審査請求料のうち政令で定める額の返還を受けることができるというものであるから,6か月以内に返還請求がされなかった場合にこれを返還しないことは,特許法に沿った適法な処分である。 したがって,原告らの上記主張も失当である。 〔原告らの主張〕(1) 原告らが出願審査を請求した時点では,その手数料の納付が過納や誤納でなかったとしても,その後原告らが本件取下書を提出した時点で,原告らには,その取下げに基づい である。 〔原告らの主張〕(1) 原告らが出願審査を請求した時点では,その手数料の納付が過納や誤納でなかったとしても,その後原告らが本件取下書を提出した時点で,原告らには,その取下げに基づいて出願審査請求料の一部に対する返還請求権が発生した(特許法195条9項)。そして,原告らが出願取下げに基づく返還請 求権を行使しなかったのは,請求期間を失念したという原告らの過失に基づくものであるから,過誤に当たる。 そもそも特許法195条9項の規定に基づく返還請求には同条10項の期間制限を設けるべきではなかったのであり,単に被告の便宜を図るにすぎない期間制限規定に依拠して,社会通念上当然に返還すべき出願審査請求料を返還しないことは具体的妥当性に欠ける。 したがって,6か月以内の返還請求により返還するという正規のルートでは返還されないと取り扱う以上,この時点で過誤納の状態が発生したと解するのが妥当であり,過誤納の規定に基づいて返還請求することは合理的である。 (2) また,本件特許出願の取下げによって特許庁が特許審査をしなくて済む状態になった場合は,出願審査請求料を収受する前提がなくなったのであるから,その出願審査請求料を返還することが社会通念であり,これを原告らに返還せず収奪することは不当利得に該当する。 すなわち,平成15年改正法による改正以前は,出願審査請求をした後に出願を公開したくないというような特段の事情が発生した場合など,出願審査請求料を棒に振ってでも出願を取り下げたり,放棄したりする必要が生じた場合にのみ出願の取下げや放棄がなされており,その場合には,被告が出願審査請求料を返還しなくとも非難されることはなかったが,審査請求の滞貨を減少させるために特許法195条9項の規定による返還制度を導入した後は,不要 下げや放棄がなされており,その場合には,被告が出願審査請求料を返還しなくとも非難されることはなかったが,審査請求の滞貨を減少させるために特許法195条9項の規定による返還制度を導入した後は,不要な出願の取下げや放棄をすれば出願審査請求料の一部を返還することが,被告と国民との間の約束となっていた。 したがって,このように当然返還されるべき金員について,請求期間を徒過するミスがあった場合には,過誤納とみなして救済することが,同条項による返還制度導入の趣旨からしても妥当である。 以上のとおり,本件返還請求書却下処分は,不当利得を実現するものであ り,違法である。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件補正書却下処分の適法性)について(1) 前記第2,2(1)ウのとおり,本件特許出願は,原告らが平成21年9月24日付け本件取下書を提出したことにより取り下げられているから,それに伴って,特許庁における本件特許出願に係る手続は終了したものと解される。 そうすると,その後に,原告らが本件取下書の全文を削除するとして提出した本件補正書は,特許庁に係属していない手続について補正をしようとするものであるから,特許法17条1項本文に反する不適法なものであり,かつ,その補正をすることができないものであったと認められる。 したがって,特許庁長官が特許法18条の2第1項に基づき本件補正書に係る手続を却下した処分(本件補正書却下処分)は,適法というべきであって,同処分の取消しを求める原告らの主張は理由がない。 (2) この点に関して,原告らは,本件特許出願に係る発明の価値の評価を誤り,その価値が本件特許出願を取り下げることによって返還される本件審査請求料の半額以下になったと思い違いをしたために,本件特許出願を取り下げたものであるから,それ 特許出願に係る発明の価値の評価を誤り,その価値が本件特許出願を取り下げることによって返還される本件審査請求料の半額以下になったと思い違いをしたために,本件特許出願を取り下げたものであるから,それは動機の錯誤に当たり,本件取下書による取下げは民法95条により無効である旨主張する。 しかし,仮に特許出願手続における出願取下げ行為について意思表示の瑕疵に関する民法の規定をそのまま適用し得ると解することができるとしても,本件において原告らが主張する錯誤は,原告らが本件取下書を提出した縁由であって,原告らの自認するとおり,いわゆる動機の錯誤にすぎず,このような動機は,表意者が当該意思表示の内容としてこれを相手方に表示した場合でなければ法律行為の要素とはならないと解すべきところ(最高裁昭和27年(オ)第938号,同29年11月26日第二小法廷判決民集8巻11号2087頁参照),証拠〈略〉及び弁論の全趣旨によれば,本件取下書 には,原告らが本件特許出願を取り下げる理由等は何ら記載されていなかったことが認められ,他に原告らが本件取下書の提出に伴って原告らが主張する上記動機を表示したことを認めるに足りる証拠はないから,原告ら主張の動機が本件取下書提出の際において表示され,法律行為の要素になっていたとは認められない。 なお,原告らは,特許法195条9項の立法趣旨や特許出願の取下げについての経験則を挙げて,出願審査請求料の半額を返還してもらうことが出願取下げの一般的な動機となっていることが明らかであるとも主張するが,出願取下げの動機が一般的にそのような動機に限られるとは認められないし,仮にそういい得るとしても,原告らの出願取下げにおいて,そのような動機が表示されていたということにはならないから,原告らの取下げが動機の錯誤により無効にな のような動機に限られるとは認められないし,仮にそういい得るとしても,原告らの出願取下げにおいて,そのような動機が表示されていたということにはならないから,原告らの取下げが動機の錯誤により無効になるとは認められない。 また,原告らは,本件特許出願に係る発明の価値が100万円を下らないにもかかわらず,その価値を本件審査請求料の半額以下であると思い違いをしたことが錯誤である旨主張する。 しかし,原告らは,出願費用が100万円以上であったということ以外に,本件特許出願に係る発明の客観的な価値について何ら主張立証していないから,本件においては,原告ら主張の錯誤の存在を認めることができない。むしろ,前記第2,2(2)及び(3)で認定した原告らが本件返還請求書及び本件補正書を提出するに至った経緯並びに本件補正書及びその却下理由通知に対する弁明書の各記載によれば,原告らは,本件特許出願の取下げによって本件審査請求料の半額の返還を受けようとしたが,その請求の期限を徒過してしまった結果,その返還を受けることができず,出願取下げが無意味になってしまったことから,その取下げを事後的に撤回しようとして,本件補正書を提出したことが窺われるのであり,そうすると,本件取下書の提出自体には,何ら錯誤がなかったというべきである。 よって,原告らの錯誤無効の主張は理由がなく,そのほか原告らが縷々主張する点を考慮しても,本件補正書却下処分の違法性を見いだすことはできない。 なお,原告らは,本件補正書を却下することは,原告らの財産権を軽視して,それを事実上没収することにほかならないから,憲法29条による国民の権利を奪うものであって違憲である旨主張するが,上記のとおり,本件補正書却下処分には何ら違法な点は認められない以上,同処分が違憲となるもので 上没収することにほかならないから,憲法29条による国民の権利を奪うものであって違憲である旨主張するが,上記のとおり,本件補正書却下処分には何ら違法な点は認められない以上,同処分が違憲となるものではない。原告らの同主張は独自の解釈に基づくものにすぎず失当である。 (3) 以上のとおり,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。 2 争点(2)(本件返還請求書却下処分の適法性)について(1) 前記第2,2(2)アのとおり,原告らは,本件特許出願の取下げ後に,本件審査請求料の半額の返還を求めて,特許法195条9項に基づいて,出願審査請求手数料返還請求書を提出するとともに,それとは別に,原告らが納付した出願審査請求料の半額が過誤納に当たるとして,同条11項に基づいて,その返還を求める本件返還請求書を提出したことが認められる。 しかし,前記第2,2(1)イのとおり,本件審査請求料の適正額は35万6900円であり,原告らは同額を納付したのであるから,原告らによる本件審査請求料の納付が過誤納であったとはいえない。また,前記第2,2(2)アのとおり,原告らの本件返還請求書による請求は,実質的に,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還(特許法195条9項)を求める趣旨のものであったと認められるところ,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還は,過誤納の手数料の返還(同条11項)とは異なる手続であって,原告らが提出した本件返還請求書では求めることができないものである(特許法施行規則76条及び77条参照。なお,前記のとおり,原告らも自ら,別途,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求手続を採っている。)。 そうすると,原告らの本件返還請求書に係る手続は不適法であり,かつそ の補正が不可能なものであったから,特許庁長官が,特許法1 下げに基づく出願審査請求料の返還請求手続を採っている。)。 そうすると,原告らの本件返還請求書に係る手続は不適法であり,かつそ の補正が不可能なものであったから,特許庁長官が,特許法18条の2第1項により本件返還請求書に係る手続を却下した処分(本件返還請求書却下処分)は,適法なものであったと認めるのが相当である。 (2) この点に関して,原告らは,被告が本件審査請求料を返還しないことが不当利得に該当する旨主張するが,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料の額は,法定どおりの適正額であったのであるから,その納付が法律上の原因を欠くものとはいえず,被告がこれを収受し,原告らに返還しないことが不当利得に当たるとは認められない。 また,原告らは,原告らが出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求権を過失で行使しなかったことが過誤であるから,過誤納に関する特許法195条11項の規定に基づいて返還請求ができるとも主張するが,同条項の「過誤納」とは,過大な額の手数料が納付された場合や,手数料を納付すべき理由がないのに手数料が納付された場合など,その手数料の納付が当初から法律上の原因を欠き,納付した手数料を被告が収受することが不当利得となるような場合をいうものと解されるところ,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料は適正額であり,それが不当利得に該当することはないのであるから,これを同条項の「過誤納」に当たると解する余地はない。 このことは,特許法が,過誤納に係る規定(特許法195条11項)とは別に,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求について,同条9項の規定を設けていることからも明らかである。 さらに,原告らは,特許法195条9項に基づく返還請求ができなくなったことを挙げて,その結果 げに基づく出願審査請求料の返還請求について,同条9項の規定を設けていることからも明らかである。 さらに,原告らは,特許法195条9項に基づく返還請求ができなくなったことを挙げて,その結果の不当性を縷々主張するが,前記第2,2(1)ウ及びエのとおり,原告らが同条項による返還を受けられなくなったのは,原告らがその過失によって,同条10項所定の6か月の請求期間内の返還請求を怠ったからにすぎないのであるから,そのような原告ら自らの過誤による不利益を,同条11項の規定によって救済すべき合理的な理由はない。 なお,原告らは,前記請求期間の制限自体が不当である旨主張するようであるが,そのような主張は,単なる立法政策についての独自の見解にすぎず,採用できない。 よって,本件返還請求書却下処分の違法をいう原告らの主張はいずれも採用することができず,このほかにも,同処分の適法性を疑わせるに足りる事情は認められない。 3 結論以上のとおり,本件補正書却下処分及び本件返還請求書却下処分の各取消しを求める原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官東海林保 裁判官田中孝一 裁判官足立拓人

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