平成12(わ)1626 競売入札妨害,建設業法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月26日 神戸地方裁判所
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判決文本文12,006 文字)

主文 被告人Aを罰金20万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。 被告人Aは,競売入札妨害の公訴事実については,無罪。 被告人B,同C及び同Dは,いずれも無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,兵庫県宝塚市ab丁目c番d号に本店を設け,土木工事等を業とする株式会社E組(以下「E組」という。)の代表取締役として同社の業務全般を統括・管理していたものであるが,E組の業務に関し,Fと共謀の上,E組が神戸市f区g町h字ij番地のkに神戸支店を開設して特定建設業を営むにあたり,平成11年6月28日ころ,同県西宮市l町m番n号兵庫県西宮土木事務所において,情を知らない行政書士Gを介して,同土木事務所建設課係員に対し,真実は,同支店には専任の技術者を置いていないのにもかかわらず,変更届出書に添付する専任技術者証明書に,同支店に上記Fを専任の技術者として置いている旨虚偽の記載をして,変更届出書とともに提出したものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用) 1 罰条刑法60条,平成15年法律第96号公益法人に係る改革を推進するための国土交通省関係法律の整備に関する法律2条による改正前の建設業法46条1項2号,同改正前の同法48条,建設業法17条,平成11年法律第160号中央省庁等改革関係法施行法1030条により同法による改正前の建設業法11条1項,建設業法15条2号,建設業法施行規則9条,平成12年建設省令第41号中央省庁等改革のための関係建設省令の整備に関する省令2条により同省令による改正前の同法施行規則13条 2 刑種の選 11条1項,建設業法15条2号,建設業法施行規則9条,平成12年建設省令第41号中央省庁等改革のための関係建設省令の整備に関する省令2条により同省令による改正前の同法施行規則13条 2 刑種の選択罰金刑選択 3 労役場留置刑法18条(競売入札妨害の公訴事実についての無罪理由)<以下の説明においては,被告人4名の捜査段階の供述調書(ただし,立証趣旨を供述経過としているため非供述証拠として採用されているものを除く)を併せて「本件自白調書」という。> 1 本件競売入札妨害被告事件の公訴事実は,「被告人Aは,平成10年3月16日に入札が行われた兵庫県宝塚市発注にかかる公共下水道(第L04工区)H汚水幹線管路施設工事の指名競争入札参加業者として指名された株式会社E組の代表取締役,被告人Bは,同社従業員,被告人Cは,同社の営業を担当しているもの,被告人Dは,宝塚市下水道部下水道建設課係長として同市が発注する公共下水道事業に係る工事の設計,施工及び管理監督の職務に従事していたものであるが,共謀の上,設計金額の内報により同工事を同社に有利な金額で落札させようと企て,同月中旬ころ,兵庫県宝塚市o町p番q号宝塚市役所下水道部下水道建設課において,被告人Dが,被告人Bに対し,同工事の予定価格算定の基礎となる設計金額が消費税相当額を控除しておよそ6400万円である旨教示することにより同工事の予定価格を推認させ,よって,同月16日,上記宝塚市役所2-5会議室において行われた同工事の入札に際し,被告人Cが,消費税相当額を控除した予定価格6090万円に極めて近い5900万円で入札して,同工事をE組において落札し,もって,偽計を用いて公の入札の公正を害すべき行為をした。」というものである。 2 本件事案の概要及び争点(1) まず,兵庫県宝塚市発注 て近い5900万円で入札して,同工事をE組において落札し,もって,偽計を用いて公の入札の公正を害すべき行為をした。」というものである。 2 本件事案の概要及び争点(1) まず,兵庫県宝塚市発注にかかる公共下水道(第L04工区)H汚水幹線管路施設工事(以下「本件工事」という。)について,以下の事実が認められ,この事実については,特に争いはない。 ア平成10年2月18日,本件工事の設計金額が6411万5000円(消費税込み価格6732万750円)と決定され,また,本件工事の最低制限価格が4260万円(消費税込み価格4473万円),落札予定価格は,6090万円(消費税込み価格6394万5000円)と算定された。 イ同年3月3日,指名業者選定委員会において,E組ほか7社が本件工事の指名業者に選定された。 ウ同月16日,指名競争入札が行われ,E組が,5900万円(消費税込み価格6195万円)で本件工事を落札し,翌17日,宝塚市とE組との間で本件工事の請負契約が締結された。 (2) そして,検察官は,本件工事の入札に関して,起訴状記載の公訴事実のとおり,同月中旬ころ,宝塚市下水道部下水道建設課係長である被告人Dが,宝塚市役所の同課において,E組の従業員である被告人Bに対し,本件工事の設計金額が消費税相当額を控除しておよそ6400万円である旨教示したと主張し,これに沿う証拠として,本件自白調書が存する。検察官が本件の立証において,この本件自白調書に依拠していることは,本件の証拠構造やこれまでの審理状況に照らし明らかである。 これに対し,弁護人らは,被告人Bが,そのころ宝塚市役所の同課に赴き被告人Dと会った事実はないことはもちろん,そもそも被告人Bは,本件工事における指名通知から落札までの一連の経過にも一切関与していないとし 対し,弁護人らは,被告人Bが,そのころ宝塚市役所の同課に赴き被告人Dと会った事実はないことはもちろん,そもそも被告人Bは,本件工事における指名通知から落札までの一連の経過にも一切関与していないとして,本件自白調書の信用性を否定して,被告人4名は無罪である旨主張し,各被告人も,公判廷においてこれに沿う供述をしている。 そこで,以下,本件自白調書の信用性について検討する(なお,弁護人らは,本件自白調書は,捜査官の違法・不当な取調べにより作成されたものであって,いずれも任意性はなく証拠から排除されるべきものである旨主張するところ,当裁判所は,その審理の過程において,既に本件自白調書につき任意性を認めてこれらを取り調べ,あるいは,証拠排除の申出につき職権を発動しない旨判断しているので,この点については改めて判断を行わない。)。 3 本件自白調書の概略本件自白調書の個々の内容は,各被告人の立場からそれぞれ異なる面はあるものの,本件工事における指名通知から落札までの一連の経過に係る基本的部分は相互に符合しており,本件自白調書の内容を,その信用性の判断に必要な点を中心にまとめると,おおよそ以下のとおりである。 (1) 平成10年3月3日,被告人Aは,宝塚市理財課からE組が本件工事の入札業者に指名された旨の通知を受け,同課を訪れ,指名通知書,工事設計書,設計図面等を受領し,E組事務所に戻った。 同日,被告人Aは,本件工事を落札するために,ほかの指名業者との談合を行うことを決意し,E組事務所において,被告人C及び被告人Bに対して,本件工事の上記関係書類を示した上,被告人Cに対し,ほかの指名業者との間の談合を行うように,被告人Bに対し,本件工事の設計金額の積算作業をし,設計金額を予測した上,被告人Dから設計金額の情報を聞き出すよ 事の上記関係書類を示した上,被告人Cに対し,ほかの指名業者との間の談合を行うように,被告人Bに対し,本件工事の設計金額の積算作業をし,設計金額を予測した上,被告人Dから設計金額の情報を聞き出すようにそれぞれ指示した。 (2) そこで,被告人Bは,E組工事部長Iにも手伝わせて,約3日ぐらいをかけて本件工事の設計価格の積算作業をし,本件工事の消費税抜きの設計価格を約6700万円と予測した上,積算作業が終わったことを被告人Aに報告した。 (3) 他方,被告人Cは,E組が本件工事の指名業者となった翌日の同月4日からほかの7指名業者に対し,E組を本件工事の落札予定業者とするよう交渉を開始し,同月10日ころまでには,各業者から承諾を得て,同日ころにはE組が本件工事の落札予定業者となることが決定した。 (4) 被告人Aは,被告人Bから本件工事の設計価格の積算作業が終了した旨の報告を受け,また,被告人Cから,E組が本件工事の落札予定業者となることが決定したとの報告を受けたことから,被告人Bに対し,宝塚市役所に出かけ,被告人Dから本件工事の設計金額を聞いてくることを指示した。 (5) 被告人Bは,同月11日ころ,積算作業により予測した6700万円の設計金額を記載した設計書を持って,宝塚市役所下水道部下水道建設課を訪れ,被告人Dに対し,本件工事の設計金額を教示してくれるよう依頼した。被告人Dは,本件工事の設計金額が記載された予算差引簿で本件工事の正式な設計金額を見て,Bの提示した予測設計金額が,正式の設計金額に比して約5パーセント高いことを確認し,被告人Bに対し,その旨教示し,被告人Bは,被告人Dの教示により,本件工事の正式な設計金額が,消費税を控除して約6400万円であることを確認した。 (6) 被告人Bは,E組事務所に戻り,被告人A及び被告人Cに 対し,その旨教示し,被告人Bは,被告人Dの教示により,本件工事の正式な設計金額が,消費税を控除して約6400万円であることを確認した。 (6) 被告人Bは,E組事務所に戻り,被告人A及び被告人Cに対して,被告人Dからの教示により,本件工事の正式な設計金額が約6400万円であることが判明した旨を伝えた。 そして,被告人A,被告人B及び被告人Cは,被告人Bが聞いてきた約6400万円の設計金額を基にして,E組としての入札金額を決定するためのいわゆる歩引き作業を行い,E組としての入札金額を5900万円とすることに決定した。 (7) 被告人Cは,E組としての入札金額が5900万円と決まったことから,同月13日ころから同月15日ころにほかの指名業者に対して,ほかの指名業者が入札の際に記載すべき金額を伝達した。 (8) 本件工事の指名競争入札は,同月16日,宝塚市役所で行われた。E組からは,被告人Aから委任を受けた被告人Cが参加し,E組が5900万円(消費税込み価格6195万円)で本件工事を落札した。 4 本件自白調書の信用性について(1) そこで,本件自白調書の信用性について検討するに,本件自白調書は,その内容が相応に具体的で,その内容自体に特に不自然・不合理な点はなく,また,基本的部分において相互に符合しているとはいえ,各被告人が公判廷において,一様に被告人らに対する取調べにおいて,取調官から暴行・脅迫ないし誘導があり,これにより意に沿わない自白や虚偽の自白がなされたなどと供述し,本件公訴事実について無罪を主張していることに照らすと,本件自白調書の信用性を安易に認めることは相当ではなく,その判断は厳に慎重でなければならない。 (2) そして,本件自白調書中,被告人Bが本件工事の指名通知から落札に至る一連の経過について関与した点について 書の信用性を安易に認めることは相当ではなく,その判断は厳に慎重でなければならない。 (2) そして,本件自白調書中,被告人Bが本件工事の指名通知から落札に至る一連の経過について関与した点については,これを裏付ける客観的証拠は,全く存しない。 この点,検察官は,押収してある平成9年度工事設計書(工事番号G9ー16)(平成13年押第210号の2,以下「本件工事設計書」という。)に,Iの筆跡と被告人Bの筆跡が存することをもって,被告人Bが本件工事の積算を行ったことを裏付けるものと主張する。 たしかに本件工事設計書には,Iの筆跡のほか,被告人Bの筆跡が存する。 しかしながら,J,K及びRの警察官調書,Iの公判供述,並びに兵庫県弁護士会会長作成の回答通知書等によれば,入札指名業者は,宝塚市から金額抜きの工事設計書を受け取って持ち帰ること,この金額抜きの工事設計書には,第1頁に赤い丸印が押されていること,入札指名業者は,入札の際には,この赤い丸印の押された工事設計書の原本を宝塚市役所に返還することになっていること,そのため,入札指名業者は,積算の際,工事設計書の原本には何も記入せず,各自,原本をコピーするなどして使用していること,そして,宝塚市は,入札の際に返還を受けた赤い丸印の押された工事設計書の中から数通を落札業者に交付し,落札業者が自由に使用しうるようにしていることが認められる。 以上の事実からすると,その第1頁に赤い丸印が押されている本件工事設計書は,入札日,すなわち,平成10年3月16日以降に,E組が宝塚市から受け取ったものといえるから,本件工事設計書への書込みも当然同日以降になされたものということができる。 そうすると,本件工事設計書に,被告人Bの筆跡が存するとしても,被告人Bが入札前に本件の積算を ったものといえるから,本件工事設計書への書込みも当然同日以降になされたものということができる。 そうすると,本件工事設計書に,被告人Bの筆跡が存するとしても,被告人Bが入札前に本件の積算をしたことにはならないから,本件工事設計書は,被告人Bの関与を裏付けるものとはいえない。 また,検察官は,・本件工事の積算が行われた当時,E組では,被告人BとIの2人が積算を担当していたところ,Iは,主に民間が発注した工事の積算を担当しており,I1人では公共工事の積算をすることはできないから,被告人Bが,本件工事の入札前にこの積算をしたことは明らかであり,・本件工事では,談合により,E組が本件工事を落札することが決まっていたため,本件工事設計書に積算金額を記載したまま,宝塚市役所に提出し,それを含めた数部をE組に持ち帰ったものと考えれば,被告人Bが本件工事の積算をしたことと矛盾しないと主張する。 しかしながら,・については,宝塚市役所下水道建設課長作成の「被告人Dに対する競売入札妨害被告事件について(回答)」と題する書面によれば,E組は平成9年10月31日を契約日とする公共下水道(第L8工区)L汚水幹線管路施設工事を受注していることが認められる一方,捜査復命書(152,ただし,不同意部分を除く。)によれば,被告人Bは,平成9年10月16日から同年11月14日までの間,国立循環器病センターに手術前の検査診療のために検査入院していることが認められることからすれば,E組は,被告人Bが入院中においても,被告人Bによる積算を要することなく公共工事を受注していることが明らかであるから,検察官の主張は採り得ず,・についても,談合ができているとはいえいわゆる談合やぶりの可能性があることや,談合ができているからといって,あえて工事設計書の原本を利用して ていることが明らかであるから,検察官の主張は採り得ず,・についても,談合ができているとはいえいわゆる談合やぶりの可能性があることや,談合ができているからといって,あえて工事設計書の原本を利用して積算をしなければならない理由も必要性もないことなどからすると,その主張内容自体が不自然である上,この主張は推測の域を出るものでないから,この主張も採用の限りでない。 (3) さらに,被告人Dが被告人BないしE組に対し,本件工事の設計価格を教示するのであれば,そのような行為をする理由や背景事情が存してしかるべきであるのに,本件自白調書中にはこうした点についての記載がないか,あっても説得力に欠けたものといえる。 すなわち,アまず,本件自白調書中には,本件工事の設計価格を教示するいわば見返りとして,被告人BないしE組から,被告人Dに対し,金品の授受等何らかの利益供与ないしその約束がなされたなどの記載はない。そして,その他関係証拠中にもこれをうかがわせるものは皆無といえる。 イ次に,本件自白調書中には,被告人Dと被告人Bや被告人Aとの関係について,被告人DがE組の事務所を訪ねたことがあるとか,E組が被告人Dに対し年賀状を出しているといった両者の間の交友関係に関する記載があるものの,その内容は業者と役所の関係部署の担当者との間の通常の付き合いの程度を超えるものではなく,いわゆる癒着をうかがわせるようなものとはいい難い。 ウまた,被告人Dの警察官調書中には,被告人Dが,被告人Bに対し,本件工事の設計価格を教示した理由について,Bさんのように年を取りたいと思うほど慕っていたとか,役所を定年退職後は,E組に雇って貰おうという気持ちがあったといったふうに,被告人BやE組に対する好意から本件犯行を行ったかのような記載があるものの,本件 うに年を取りたいと思うほど慕っていたとか,役所を定年退職後は,E組に雇って貰おうという気持ちがあったといったふうに,被告人BやE組に対する好意から本件犯行を行ったかのような記載があるものの,本件犯行を行う理由としては納得しうるものとはいえない。 そうすると,本件自白調書中には,被告人Dが被告人BないしE組に対し,本件工事の設計価格を教示する理由や背景事情について,納得しうる記載がないのであって,これらの点についての記載を欠いている点で,本件自白調書は,不自然なものといえる。 (4) 上記(1)ないし(3)で指摘したことからすると,本件自白調書の信用性は,それ自体でも決して十分なものとはいい難いのであるが,さらに,本件では,後記のとおり,弁護人らが,本件工事の指名通知から落札に至る一連の経過に被告人Bが一切関与していないことについて,被告人Bの当時の健康状態,勤務状況及び行動等に即して,具体的な根拠を示して積極的な主張をしているところ,この主張が認められれば,本件自白調書の信用性が全く覆されることは明らかといえる。 そこで,以下項を改め,この弁護人らの主張について,更に詳細に検討する。 5 被告人Bが本件工事の指名通知から落札に至る一連の経過に関与していないとする弁護人らの主張について(1) 弁護人らは, 被告人Bは,本件当時,病気のためE組を退職し,自宅療養を続けていたものであって,E組には出勤しておらず,しかも本件で被告人Aが被告人Bに対し積算を指示したとされる平成10年3月3日や,それに続く積算がなされたとされる時期には,被告人Bは親戚の葬儀等のため宮崎県にいたもので,E組ないし宝塚市役所に行くことができず,さらに,被告人Bは,本件犯行日に近い同月10日ころには,E組の事務員であるNから健康保険証の返却を求められて 被告人Bは親戚の葬儀等のため宮崎県にいたもので,E組ないし宝塚市役所に行くことができず,さらに,被告人Bは,本件犯行日に近い同月10日ころには,E組の事務員であるNから健康保険証の返却を求められて怒ってこれを返却しているのであるから,そのような被告人Bが,E組が本件工事において行った設計金額の積算や入札価格の決定等といった本件工事の指名通知から落札に至る一連の経過に関与することはありえないと主張する。 (2) そして,被告人Bは,公判廷において,本件工事における自らの関与を全面的に否定した上,そのようにいえる根拠について,以下のとおり,具体的かつ詳細な供述をしている。すなわち,・被告人Bは,平成9年9月ころ,心臓病のため手術が必要なことがわかり,大阪の循環器病センターに入院して手術を受け,翌平成10年1月10日ころに退院した。そして,その後は,ずっと自宅で療養をしており,平成10年3月ころも自宅療養を続けていた。 ・被告人Bは,上記の病気のため,平成9年秋の入院したころにE組を退社した。E組にもその旨を伝えており,E組からの給料は,平成9年9月ころまで銀行振込によりもらっていたが,同年10月以降の分はもらっていない。 ・被告人Bは,保険証が退職後1年間は有効であり,療養中でもあるので,E組を退社しても,この保険証を継続して使用していた。それにもかかわらず,平成10年3月9日ころ,E組の事務員であるNから,保険証を返すように言われ腹が立った。 翌10日ころ,被告人Bは,E組に行き,保険証と平成10年3月9日付けの書面(裁判所注,「現在使わしていただいている保険証は持ってきました。一応返しておきます。誰が側について恰好つけたのか知らないが?覚えておけよ。N殿。3/9 B」との記載されている。平成13年押第210号 裁判所注,「現在使わしていただいている保険証は持ってきました。一応返しておきます。誰が側について恰好つけたのか知らないが?覚えておけよ。N殿。3/9 B」との記載されている。平成13年押第210号の3)とを一緒にE組に持参して,Nに保険証と上記書面をたたきつけるようにして渡して帰った。 ・被告人Bは,同人の妻の妹に当たるOが同月2日に死亡したので,同月3日に宮崎県まで行き,翌4日の葬儀に出席するなどし,同月5日か6日ころに兵庫県宝塚市の自宅に戻った。 以上のとおりである。 また,公判廷において,被告人A及び被告人Cも,被告人Bは当時E組には出勤しておらず,本件工事には関与していないとして,被告人Bの公判供述に符合する供述をし,被告人Dも本件工事に関し,被告人Bと関わりを持ったことはないとして,その範囲でこれに沿う供述をするに至っている。 (3) 被告人Bの公判供述の裏付けについてこの被告人Bの公判供述には以下のとおり,多くの裏付けがある。 ア ①について,捜査関係事項照会書謄本,捜査復命書(不同意部分を除く。)及び捜査関係事項照会回答書によれば,被告人Bは平成9年9月29日,S病院の紹介で国立循環器病センターを受診し,心臓大動脈弁閉鎖不全,肥大型心筋症の手当を受けた上,同年12月10日には腹部大動脈瘤人工血管置換手術を受け,平成10年1月7日に退院していること,退院時の状態は,中等度の心臓弁膜症(大動脈閉鎖不全症)であり,中等度以上の運動や肉体労働は困難であったが,短時間の軽度の身体活動(平地歩行)や短時間の事務作業は可能であったこと,退院後は同月29日に同センターに通院し,その後,S病院に通院し,同年3月9日,同月23日,同年4月20日に投薬を受けていることが認められる。 イ・について,T信用金 務作業は可能であったこと,退院後は同月29日に同センターに通院し,その後,S病院に通院し,同年3月9日,同月23日,同年4月20日に投薬を受けていることが認められる。 イ・について,T信用金庫作成の総合振込金受取書によれば,被告人BにはE組から平成9年9月分まで,T信用金庫への振込によって給料が支払われていたが,同年10月分からは支払われていないことが認められる。 また,兵庫県弁護士会会長作成の回答通知書によれば,被告人Bは,兵庫労働局職業安定部に対し,平成9年10日5日にE組を退職したとして,同年11月17日に離職票を提出して雇用保険請求手続きを行っていることが認められる。 さらに,兵庫県弁護士会会長作成の回答通知書によれば,被告人Bは,平成10年3月1日,建設業退職金共済事業本部に対し,E組を退職したことを理由として,退職金を請求し,同年4月30日,退職金83万5080円が支給されたことが認められる。 加えて,押収してある出勤簿(平成13年押第210号の1)によれば,同出勤簿には,平成9年10月の上旬を中心に被告人Bが10日間出勤している旨の記載を最後に,平成10年1月まで被告人Bが出勤している旨の記載はなく,同年2月からは被告人Bの名前自体が出勤簿から消えていることが認められる。 ウ・について,Nの公判供述,押収してある「現在使わして」で始まる書面1枚(平成13年押第210号の3)によれば,E組の事務員であったNは,平成10年3月9日に健康保険組合から「本人(裁判所注,被告人Bを指す。)が辞めたと言っているけど,辞めたんやったら保険証を返してもらわんと」という電話があったので,被告人Bに連絡をしたこと,翌10日ころ,被告人Bが,E組に来て,Nに対し,誰が横におって恰好付けたんや,ひと たと言っているけど,辞めたんやったら保険証を返してもらわんと」という電話があったので,被告人Bに連絡をしたこと,翌10日ころ,被告人Bが,E組に来て,Nに対し,誰が横におって恰好付けたんや,ひとまず返すと怒鳴り,上記の書面と保険証を渡し,怒って帰って行ったことが認められる。 エ・について,戸籍謄本,押収してある香典袋1枚(平成13年押第210号の4)並びに,P及びQの警察官調書,捜査復命書等によれば,被告人Bの妻の妹Oが平成10年3月2日に死亡したこと,被告人Bは,宮崎県西臼杵郡r町で行われた同月3日の通夜,4日の葬儀,5日の身内での寺参りにそれぞれ参列し,6日の昼頃に自宅に向け帰ったことが認められる。 なお,これらの・ないし・の各事実が存在すること自体については,検察官から格別具体的反論や反証はなされていない。 (4) そうすると,上記(2)の被告人Bの公判供述は,その主要な点において裏付けられており,十分に信用することができる。 なお,被告人Bの公判供述やこれに沿う他の被告人らの公判供述に対しては,被告人4名は,いずれも捜査段階において,被告人Bの関与を含めて本件の犯行を認める供述をしていたにもかかわらず,公判段階に至って突如否認に転じ,被告人Bの関与を否定し始めたものであって,こうした供述の経緯からすると,被告人4名の公判供述は,自己の刑責を免れるためのものであって,信用することができない,とする反論も考えられる。 しかしながら,被告人4名が,本件について取り調べを受けた時期は,平成12年12月であって本件の公訴事実である平成10年3月ころから約2年9か月が経過している上,被告人4名が供述を求められた公共工事の入札や積算といった事項は,各被告人にとって日常的な業務に関する事柄であって,それ あって本件の公訴事実である平成10年3月ころから約2年9か月が経過している上,被告人4名が供述を求められた公共工事の入札や積算といった事項は,各被告人にとって日常的な業務に関する事柄であって,それ自体格別鮮明な記憶が残るものとはいえないことからすると,被告人4名が,取調べの時点において,被告人Bの本件当時の状況等について直ちに思い出せなかったとしても,必ずしも不合理とはいえないから,上記の反論は説得的なものとはいえない。 6 本件自白調書の信用性についてのまとめ以上の検討によると,被告人Bは,平成10年3月3日から6日ころまでの間は親戚の葬儀等のため宮崎県にいたのであるから,被告人Bが,同月3日にE組の事務所において,被告人Aから本件工事の積算を頼まれることや,その後数日間にわたって積算をすることはあり得ず,さらに,被告人Bは,E組を退職し,病気療養中の身で,同月10日ころには使用していた保険証を返すようにいわれてE組に対したたきつけるように返しているのであるから,このような立場にある被告人Bが,その翌日の11日ころに宝塚市役所まで赴き,E組のために被告人Dから設計金額を聞き出し,さらに,被告人Aや被告人Cとともに,入札金額を決めるなどというのは,極めて不自然・不合理であって,本件自白調書の基本的部分の信用性は,完全に覆されたものというほかない。 これに対し,検察官は,被告人Bは,平成10年1月7日に国立循環器病センターを退院した後,病院に同年3月までの間4回しか通院しておらず,その間数時間程度の事務作業は可能であったと思われるから,被告人Bが本件当時,積算を行うなど本件工事に関与することは可能であった旨主張する。 しかしながら,そのような特異な状況の下で,被告人Bが,真実,積算をしたのであるならば,被告人Bの自白調書中には 告人Bが本件当時,積算を行うなど本件工事に関与することは可能であった旨主張する。 しかしながら,そのような特異な状況の下で,被告人Bが,真実,積算をしたのであるならば,被告人Bの自白調書中には,上記5(2)に記載したような本件当時の事情に関する供述が何かしらなされていてしかるべきであるのに,被告人Bの自白調書中にこうした事情に関する供述が一切ないのは,不自然であり,検察官のこの主張は採用することができない。 7 結論以上の次第で,被告人4名の本件自白調書は,被告人Bが本件工事に関与していたとするその基本的部分において,その信用性が完全に覆されている。そして,本件自白調書を除いたとき,その他に本件公訴事実を認めるに足りる証拠はないから,本件競売入札妨害の公訴事実については,結局,犯罪の証明がないことに帰着する。 よって,刑訴法336条により,本件競売入札妨害の公訴事実については,被告人4名全員に対し,無罪の言渡しをする。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑被告人A及び同Dにつき懲役1年6月,被告人B及び同Cにつき懲役10月)平成16年4月26日神戸地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官小山裕子

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