平成15年10月6日判決言渡平成14年(ワ)第6374号学納金返還請求事件(第1事件)平成14年(ワ)第9624号学納金返還請求事件(第2事件)(口頭弁論終結日平成15年7月7日) 主文 1 被告は,第1事件原告に対し,85万円及びこれに対する平成14年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 第1事件原告のその余の請求及び第2事件原告の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用中,第1事件原告と被告との間に生じたものはこれを3分し,その1を第1事件原告の,その余を被告の負担とし,第2事件原告と被告との間に生じたものは第2事件原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 第1事件被告は,第1事件原告に対し,135万円及びこれに対する平成14年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 第2事件被告は,第2事件原告に対し,50万円及びこれに対する平成14年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告らが,被告との間で在学契約を締結し,入学金等を納付した後,上記在学契約を解除したが,入学金等を一切返還しない旨の被告の定める入学試験要項は消費者契約法9条1号,10条及び民法90条により無効であると主張して,在学契約解除に基づき各入学金等(第1事件につき135万円,第2事件につき50万円)の返還及びこれに対する各訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。 2 前提となる事実(争いない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者第1事件原告は,被告が実施した平成14年 よる遅延損害金の支払を求めるものである。 2 前提となる事実(争いない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者第1事件原告は,被告が実施した平成14年度入学試験(推薦入試)を受験して合格し,後記のとおり入学金等を納付した者である。 第2事件原告は,被告が実施した平成14年度入学試験(一般入試)を受験して合格し,後記のとおり入学金を納付した者である。 被告は,教育基本法及び学校教育法に基づき私立学校を設置することを目的とし,神戸薬科大学(以下「被告大学」という。)を設置している学校法人である。 (2) 事実経過等ア入学試験日程被告大学は,平成14年度入学試験を,以下の日程で実施した。 (ア) 推薦入試(公募制,併願可)出願期間平成13年11月1日から同月9日まで試験日同月17日合格発表日同月21日入学手続締切日同年12月4日入学金及び授業料前期分納付平成14年1月24日誓約書提出同年3月25日卒業証明書提出(イ) 一般入試出願期間平成14年1月7日から同月25日まで試験日同年2月4日合格発表日同月9日入学手続締切日同月25日入学金納付同年3月25日授業料前期分納付,誓約書及び卒業証明書提出イ原告らの行った手続第1事件原告は,ア(ア)記載の日程に従い推薦入試を受験してこれに合格し,平成13年12月3日,被告に対し,入学金50万円及び第1学年前期授業料85万円(合計135万円)を納付した(以下,入学手続において納付される入学金等を「学納金」といい,原告らが被告大学への入学手続において納付した入学金及び第1学年前期授業料を総称して「本件学納金」という。)。第1事件原告は,被告に対し,平成14年3月14日,辞退届( 入学金等を「学納金」といい,原告らが被告大学への入学手続において納付した入学金及び第1学年前期授業料を総称して「本件学納金」という。)。第1事件原告は,被告に対し,平成14年3月14日,辞退届(乙2。以下「本件辞退届」という。)を提出し,被告大学への入学を辞退した。 第2事件原告は,ア(イ)記載の日程に従い一般入試を受験してこれに合格し,同年2月18日,被告に対し,入学金50万円を納付したが,同年3月25日までに第1学年前期授業料の支払,誓約書提出等所定の手続をとらず,被告大学への入学を辞退した扱いとなった。 ウ学納金の不返還特約被告の平成14年度入学試験要項(甲2,14)には,推薦入試に関し,「9(4)入学手続きを行った者が,何らかの事由で入学を辞退する場合の申出期限は,平成14年1月24日(木)までとします。」,「平成14年1月24日(木)までに辞退申し出のあった者の納付金については,授業料前期分を返還します。」,「(5) いったん納入された納付金は,前出(4)の場合を除きいかなる場合も返還しません。」という規定がある。 上記入学試験要項には,一般入試に関し,「10(4) 入学手続きを行った者が,何らかの事由で入学を辞退する場合の申出期限は,平成14年3月25日(月)までとします。」,「平成14年3月25日(月)までに辞退申し出のあった者の納付金については,授業料前期分を返還します。」,「(5) いったん納入された納付金は,前出(4)の場合を除きいかなる場合も返還しません。」という規定がある(以下,推薦入試を含め上記規定に基づく学納金の返還に関する特約を「本件特約」と総称する。)。 エ被告大学の入学者数等被告大学の各年度5月1日における定員,入学者数及び在籍者数は以下のとおりである。なお,在籍者数とは,入学者に,留 学納金の返還に関する特約を「本件特約」と総称する。)。 エ被告大学の入学者数等被告大学の各年度5月1日における定員,入学者数及び在籍者数は以下のとおりである。なお,在籍者数とは,入学者に,留年者,休学者等を合わせたものである。 │年度 │定員 │入学者数 │在籍者数 ││平成10年度 │240 │296 │314 ││平成11年度 │240 │308 │319 ││平成12年度 │240 │274 │301 ││平成13年度 │240 │306 │322 ││平成14年度 │240 │270 │289 │ 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件特約は,消費者契約法9条1号により,平均的な損害の額を超える部分が無効となるか。 (原告らの主張)ア前提となる法律関係在学契約は,大学が教育役務を提供し,学生はその役務提供の対価として入学金,授業料等を支払うことを本質とするから,その法的性格は準委任契約である。 そして,大学の入学手続は,①学生募集,②願書提出,③合格発表通知,④学納金納付義務の履行,⑤教育役務の提供により構成されるが,①が在学契約申込みの誘引,②が在学契約の申込み,③が申込みに対する承諾であり,この時点で在学契 ,①学生募集,②願書提出,③合格発表通知,④学納金納付義務の履行,⑤教育役務の提供により構成されるが,①が在学契約申込みの誘引,②が在学契約の申込み,③が申込みに対する承諾であり,この時点で在学契約が成立する。④及び⑤は在学契約に基づくそれぞれの債務の履行である。 第1事件においては,推薦入試合格発表日である平成13年11月21日に在学契約が成立し,第1事件原告は,本件辞退届を提出して上記在学契約を解除した(656条,651条1項)。 第2事件においては,一般入試合格発表日である平成14年2月9日に在学契約が成立し(以下,第1事件原告,第2事件原告と被告との間の各在学契約を「本件在学契約」と総称する。),第2事件原告が,同年3月25日までに第1学年前期授業料の支払等所定の手続をとらなかったため,解除条件が成就し,本件在学契約は終了した。 学納金は,受任者の前払費用(民法656条,649条)ないし前払報酬(民法656条,648条)であるから,被告は,原告らに対し,在学契約の終了に基づき,本件学納金を不当利得として返還すべき義務を負う(民法703条)。 イ消費者契約法9条1号の要件該当性(ア) 本件在学契約は消費者契約か個人である原告らは「消費者」であり,法人である被告は「事業者」であるから,本件在学契約は消費者契約である(消費者契約法2条)。 (イ) 損害賠償額の予定本件特約は,本件在学契約の解除時に消費者である原告らの前納した本件学納金を,違約金又は解約料として没収するものであるから,消費者契約法9条1号に定める「契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当する(以下,損害賠償予定額及び違約金を「損害賠償予定額」と総称する。)。 (ウ) 平均的な損害a 主張立証責任事業者たる被告において,損害賠償 害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当する(以下,損害賠償予定額及び違約金を「損害賠償予定額」と総称する。)。 (ウ) 平均的な損害a 主張立証責任事業者たる被告において,損害賠償予定額が平均的な損害の額を超えていないことを主張立証する必要がある。被告はその主張立証をしていないから,本件特約は,消費者契約法9条1号により,学納金全額につき無効である。 b 平均的な損害の額本件在学契約の終了による平均的な損害は,存在しないか又は存在するとしても特定商取引法49条2項に規定されている程度である。理由は以下のとおりである。 (a) 本件特約は,目的との間の合理的関係がない。 本件特約は,被告において一定数の入学者を確保する必要性の限りにおいてせいぜい合理性を有するものと考えられるが,このような目的は,学納金の不返還によって実現されるのではなく,被告において把握している入学者数の状況から必要な合格者数を算定することによって実現されるべきであり,被告は実際そのようにしている。したがって,本件特約が定められているからといって一定数の入学者が確保されるという関係にはないから,一定数の入学者確保の必要性は本件特約を合理化するための根拠とならない。 (b) 被告には具体的損害が生じていない。 原告らが入学しなくても,被告は十分に定員が確保できているのであるから,被告には具体的損害が発生していない。したがって,平均的な損害の額は0円である。 文部省は,大学設置基準(昭和31年10月22日文部省令第28号)を定め,収容定員に応じた施設整備等を義務づけている。被告の定員に見合った選任教員数及び校舎面積等は,具体的に原告らの受験,合格,その後の入学手続の履行によって生じたものではなく,ましてや,原告らが入学を辞退したことによって被告に具体 務づけている。被告の定員に見合った選任教員数及び校舎面積等は,具体的に原告らの受験,合格,その後の入学手続の履行によって生じたものではなく,ましてや,原告らが入学を辞退したことによって被告に具体的に生じた損害ではない。この観点からも,平均的な損害は発生していない。 (c) 特定商取引法との比較特定商取引法は,特定継続的役務提供において,中途解約制度を設けるとともに,中途解約に伴い事業者が請求し得る金額の上限を規定している(特定商取引法49条2項)。そして,同法施行令16条は,当該特定継続的役務提供の類型ごとに商慣習や事業者の経営実態,消費者の負担能力等を考慮して,契約締結費用及び履行費用として通常必要とされる合理的な範囲の金額(例えば,語学教室の場合,役務提供前における「契約の締結及び履行のために通常生ずる損害の額」として1万5000円,役務提供後における「通常生ずる損害の額」を損害賠償等の額として5万円又は契約残額の100分の20に相当する額のいずれか低い方)を上限として規定し,これによって,損害賠償額が高額であるために中途解約権の行使が無意味になる事態を防止しようとしている。 本件で,原告の解約権行使(又は解除条件成就)に伴い事業者たる被告に生ずべき損害額としては,せいぜい上記金額程度である。 (被告らの主張)ア前提となる法律関係在学契約は,準委任契約ではなく,文部省の定めた教育課程に従った教育を実施するという債務を本質とする複合的無名契約と解するのが相当である。 在学契約の成立時期は,一連の入学手続において学生が学納金を納付したとき,すなわち第1事件において平成13年12月3日,第2事件においては平成14年2月18日である。合格発表通知には,「入学許可」という用語を使用しているが,今日の大学の複数校受験状況にかんがみ たとき,すなわち第1事件において平成13年12月3日,第2事件においては平成14年2月18日である。合格発表通知には,「入学許可」という用語を使用しているが,今日の大学の複数校受験状況にかんがみれば,複数の合格校の中から受験生の選択により入学大学を決定するのが一般的であり,そうすれば,入試の合格通知のみで在学契約成立と解するのは余りに実体と乖離している。今日の上記受験状況にかんがみれば,在学契約成立時期は,学納金(少なくとも入学金)の納付時と解すべきである。 イ消費者契約法9条1号の要件該当性(ア) 本件在学契約は消費者契約か消費者契約法9条1号の趣旨は,事業者が不当な利益を得ることを認めないことにある。被告は設立から運営までのあらゆる面で規制,行政指導を受けている私立学校法人であって,同法の想定する事業者の典型例には該当しないものである。 (イ) 損害賠償額の予定本件特約は,損害賠償等の文言は全く用いられてないのみならず,その実態上も,消費者契約法9条1号に定める損害賠償額の予定等とは解し得ない。 被告においては,推薦入試については,学納金の納付後,一般入試実施の出願期間の締切前日である平成14年1月24日までは入学辞退を認め,この期間内の辞退には第1学年授業料前期分の返還を行うこととし,この期間を徒過した場合は,一般入試の実施の関係から,当該学生の入学意思が確定したものと扱い,一般入試の諸手続を行うものである。仮に,入学辞退者の補充が補欠合格制度の運用により結果として可能であったとしても,正規合格者による学校運営が大学の本来の姿であることはいうまでもない。 被告大学における上記の入試事情と,一方では複数の合格校からの進学大学の選別可能性という立場を確保しておくためにする学納金の納付という受験生の意向とを比較すれば,学納 あることはいうまでもない。 被告大学における上記の入試事情と,一方では複数の合格校からの進学大学の選別可能性という立場を確保しておくためにする学納金の納付という受験生の意向とを比較すれば,学納金不返還という本件特約は,辞退期間を徒過した後までも入学しうる立場を確保しておいた学生(受験生)に不当な損害を与えるものではなく,消費者契約法9条1号にいう損害賠償額の予定等には当たらない。 (ウ) 平均的な損害a 主張立証責任損害賠償予定額が平均的な損害の額を超えていることについては,消費者たる原告においてこれを主張立証すべきである。 b 平均的損害の額(a) 消費者契約法が想定する平均的な損害とは,正に,「解除(本件では入学辞退)によって生ずる通常の事態を想定した平均的な損害」と解すべきであり,本件においては,入学辞退の時期(例えば,一般入試の前か後か),当該時期における辞退者補充の現実的な可能性,さらには,定員充足という大学運営上の必要性から補充入学を求めるという大学としての姿勢の適否とこれによる大学に対する社会の評価という様々な要素を平均的損害額算出の要素と考えねばならない。 (b) 被告大学では,2(2)ア記載のとおり,平成14年2月4日に一般入試を実施し,同月9日に同入試の合格発表を行い,平成14年度の新入学生を特定した。原告らが被告大学への入学を辞退したのは,これらの手続が完了した後の同年3月14日及び同月25日である。第1事件について,被告は,入学辞退申出期限(同年1月24日)の徒過により第1事件原告の入学意思は確定したものと理解し,その後に,一般入試を実施した。仮に,第1事件原告の入学辞退が一般入試の前であれば,入学辞退者の補充が可能であったとしても,一般入試の合格発表後,更に3月14日という時点での入学辞退は,私立大学の その後に,一般入試を実施した。仮に,第1事件原告の入学辞退が一般入試の前であれば,入学辞退者の補充が可能であったとしても,一般入試の合格発表後,更に3月14日という時点での入学辞退は,私立大学の経営基盤としての定員確保という観点からは極めて遅きに失するものである。このような時期の入学辞退においては,被告としては定員不足による運営も当然想定せざるを得ない。仮に,定員不足となれば,この補充を4年間の在学期間の途中(例えば,2年進級時)に実現することは不可能であり,結局,通常の在学期間である4年間は定員不足の状態が継続されたままと想定しなければならない。したがって,4年間の授業料相当額が平均的な損害の額となる。 これに対し,原告らは,被告大学の定員数が確保されているから具体的な損害は生じていないと主張している。しかし,これは被告が各観点から様々な検討を踏まえた努力の結果にすぎない。消費者契約法9条1号の定める平均的な損害の額とは,具体的な結果としての損害額ではなく通常生じる事態を想定した損害額を指すものであるから,原告らの主張は失当である。原告らの入学辞退時期は平成14年3月14日又は同月25日と極めて遅く,このような時期の入学辞退によって被告大学に定員割れの事態が生じることは通常予想されるものである。 (c) また,平均的な損害には,得べかりし収入という概念も含まれるべきであり,そうすれば,被告の被った損害は,広義では4年間の授業料相当額,最狭義でも編入可能性のあり得ない第1学年前期の授業料相当額である。 (2) 本件特約は消費者契約法10条により無効となるか。 (原告らの主張)本件特約は,準委任契約の解除に基づく消費者の前払報酬及び前払費用の返還請求権を排除する内容の契約条項であり,消費者契約法10条によって無効である。 民法上 により無効となるか。 (原告らの主張)本件特約は,準委任契約の解除に基づく消費者の前払報酬及び前払費用の返還請求権を排除する内容の契約条項であり,消費者契約法10条によって無効である。 民法上準委任契約の解除時に認められる消費者の前払報酬及び前払費用の返還請求権を排除する内容の本件特約は,同条前段に規定された「民法…の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限…する消費者契約の条項」に該当する。 また,本件特約は,準委任契約の解除による事業者の役務提供義務の消滅を前提としつつ,本来事業者による役務の提供に伴うはずの報酬及び費用に関する消費者の返還請求権を排除しており,同条後段に規定された「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する」契約条項に該当する。 (被告の主張)今日の受験生は,数校の大学を併願し,合格校に対しては学納金の不返還特約を了解したうえですべり止めとして学納金を納付し,合格済みの数校から自分の希望で進学大学を選択するのが一般的である。消費者契約法10条の趣旨は,事業者が不当な利益を得ることを認めないことにあるが,被告は,学納金納付者は入学するものとして定員配置及び諸設備を準備しなければならなかったのであって,本件のように,納付済学納金の返還時期を徒過し,一般入試も終了した後の入学辞退者に対する学納金の不返還は,被告に不当な利得をもたらすものではなく,定員数不足のリスクに対する当然の代償である。 (3) 本件特約は民法90条により無効となるか。 (原告らの主張)本件特約は,暴利行為に該当し,公序良俗に反する無効な特約である。 民法上暴利行為として無効とされる要件は,他人の無思慮,窮迫に乗じること及び甚だしく不相当な財産的給付を約させることの2点である。 本件で は,暴利行為に該当し,公序良俗に反する無効な特約である。 民法上暴利行為として無効とされる要件は,他人の無思慮,窮迫に乗じること及び甚だしく不相当な財産的給付を約させることの2点である。 本件では,被告は,学納金の納付期限を他大学の合格発表前に設定し,原告らは,国立大学等の希望する他大学の合否が未定の段階で,被告大学への入学手続をするか否かの決断をせざるを得ない立場に立たされていたのであり,本件学納金の納付は,原告らの窮迫に乗じたものである。また,準委任契約たる本件在学契約が解除された場合,学納金は,対価としての委任事務の履行又は教育役務の提供がされていない以上,経済的対価性が全く認められないものであり,暴利行為に該当する。 (被告の主張)前記(2)に同じ。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる法律関係について(1) 在学契約は,大学等の学校(以下,単に「大学」という。)が,学生に対し,学生としての身分を取得させ,文部省の定めた一定の基準に従って教育施設を提供し,あらかじめ設定した教育課程に従って授業等の教育を行うなどの義務を負い,他方,学生は,その対価である授業料等を学校に支払う義務を負うことを主たる内容とする契約であって,主として準委任契約,付随的に施設利用契約等の性質を併せ持つ有償双務の無名契約であり,本件在学契約も,このような性質を有する有償双務契約であると認められる。 そして,入学試験に合格した者(以下,既に入学した者を合わせて,単に「学生」という。)が,合格発表時から直ちに在学契約関係の拘束を受けると解することは当事者の合理的意思に合致しないものであって相当でなく,社会通念上,学生が入学金を納付した場合には,その時点においてその大学に入学する意思を表示したと理解することができるから,入学金支払時である平成13年12 理的意思に合致しないものであって相当でなく,社会通念上,学生が入学金を納付した場合には,その時点においてその大学に入学する意思を表示したと理解することができるから,入学金支払時である平成13年12月3日(第1事件)及び平成14年2月18日(第2事件)に原告らと被告との間でそれぞれ本件在学契約が成立したと認められる。 (2) また,在学契約は,前記のとおり,主として準委任契約の性質を有する契約であるから,学生はいつでも在学契約を将来に向かって解除できるものであると解されることに加え,教育を受ける権利を保障する憲法26条1項の趣旨をも勘案すると,学生の就学意思は通常の準委任契約にも増して最大限尊重されるべきであって,何処でどのような教育を受けるかということについては,当該学生の自由な意思や選択が第一に考慮されるべきである。 そして,このような在学契約の特質にかんがみると,学生が,在学契約を解除した場合には,授業料等を納付したにもかかわらず教育役務等反対債務の履行を受けていない部分があればその返還を受け,未だ納付していない授業料等についてはその支払義務を免れるものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに,第2の2(2)イ記載のとおり,第1事件原告は被告に対し平成14年3月14日に本件辞退届を提出し,第2事件原告は授業料等納付期限である同月25日を経過しても被告に対し授業料等を納付せず,それぞれ被告大学への入学を辞退しているところ,本件在学契約は,第1事件については本件辞退届の提出をもってした解除の意思表示によって,第2事件については授業料等納付期限の経過をもって解除条件が成就したことにより,それぞれ将来に向かって効力を失ったものである。 したがって,原告らは,原則として,被告が既に履行した債務の対価部分を除き,納付した学納金の 等納付期限の経過をもって解除条件が成就したことにより,それぞれ将来に向かって効力を失ったものである。 したがって,原告らは,原則として,被告が既に履行した債務の対価部分を除き,納付した学納金の返還を請求することができることとなる。 (3) 本件学納金は,入学金及び第1学年の前期授業料を内容とするところ,以上を前提に,本件学納金の返還請求の可否について,以下検討する。 2 入学金について(1) 大学への入学は,第一次的には,当該学生が大学から教育役務等の提供を受けるための前提となる手続であり,大学に入学した者は,当該大学の学生として,現実に教育役務等の提供を受ける立場に就くものであるが,大学に入学するということの意味は,それにとどまるものではなく,当該学生にとり,対外的に一定の社会的価値を有する「当該大学の学生」という身分を取得するという側面をも有しているのであって,学生にとっては,大学に入学することそれ自体により,教育役務等の提供を待たずして,一定の価値の提供を受けたと評価することができるものである。また,大学入学に関する社会的実態をみると,学生の中には,自らが第一に志望する大学のほか,いわゆるすべり止めを含め複数の大学を受験し,第一志望あるいは志望順位の高い大学への合否が明らかでない時点において,次善の策として,既に合格が判明した志望順位の低い大学に対し入学手続を行い,志望順位の高い大学の合否結果をみたうえで最終的に入学する大学を決定する者も広く一般に認められるところである。 そして,このような学生にとっては,志望順位の低い大学であったとしても,その大学に入学金を納付して在学契約を締結し,当該大学に入学し得る地位を取得することそれ自体が一定の価値を有しているというべきであり,入学金が入学手続の際に一度のみ支払う金員であることにもか ても,その大学に入学金を納付して在学契約を締結し,当該大学に入学し得る地位を取得することそれ自体が一定の価値を有しているというべきであり,入学金が入学手続の際に一度のみ支払う金員であることにもかんがみると,入学金は,当該大学に入学し得る地位を取得することへの対価としての性質を有していると認めるのが相当である。 さらに,このような性質に加え,大学は,学生が入学金を納付して在学契約を締結した以上,その学生が現実に入学するか否かにかかわらず,直ちに教育を実施するために必要な人的,物的設備を準備する義務を負っていることなどに照らせば,入学金の一部は,全体としての教育役務等の提供のうち,入学段階における人的物的設備の準備,事務手続費用等,大学が学生を受け入れるために必要な準備行為の対価としての性質をも併せ有していると考えられる。 (2) これを本件についてみるに,原告らが納付した入学金は50万円であり,この入学金が上記認定に係る入学金の一般的性質以外の性質を有するものであることを推認させる特段の事情は窺われないから,原告らの納付した入学金は,入学し得る地位及び入学準備行為の対価としての実質を有するものであると認められる。そして,原告らは,いったん入学金を納付し,本件在学契約が成立したことにより,被告から,被告大学へ入学し得る地位の付与を受けているのであり,また,本件在学契約が解除された時点までに,被告は既に原告らを受け入れるための具体的諸準備を既に行っていたと考えられる。 以上によると,原告らは,被告から,入学金に対応する反対給付の履行を既に受けているということができるから,原告らが本件在学契約を解除したからといって,被告に対し,入学金の返還を請求することはできないものというべきである。 (3) よって,本件特約の効力について判断するまでもな いるということができるから,原告らが本件在学契約を解除したからといって,被告に対し,入学金の返還を請求することはできないものというべきである。 (3) よって,本件特約の効力について判断するまでもなく,入学金に関する原告らの主張は,理由がない。 3 第1学年の前期授業料について(第1事件に関し)(1) 学生が大学に納付する授業料は,例えば第1学年の前期等,大学における教育課程の各期毎に納付されるものであるから,文字どおり,学生が入学後に各期毎に受けるべき教育役務等の提供の対価であり,本件のように教育役務等の履行を受ける以前での授業料の納付は,その前払であると認められる。 本件において,前記のとおり,第1事件原告は,現実に教育役務等の提供を受けるべき最初の日(平成14年4月1日又は入学式の日と解される。)以前に本件在学契約を解除しており,第1事件原告は,授業料に対応した教育役務等の提供を受けていないことが明らかであるから,被告は,第1事件原告に対し,原則として授業料を返還する義務を負うこととなる。 しかしながら,本件特約には,授業料の不返還を規定した部分(以下「本件授業料不返還規定」という。)があるところ,本件授業料不返還規定に従えば,被告は授業料返還義務を免れることとなるため,以下,同規定の有効性について判断する。 (2) 消費者契約法9条1号に関してア本件において,第1事件原告が個人であること及び被告が法人であることは当事者間に争いがないから,第1事件原告は消費者契約法2条1項に規定する「消費者」に当たり,被告は同条2項に規定する「事業者」に当たるものである。消費者契約法の規定する消費者契約が,学校法人と学生との間における大学への入学を目的とする在学契約を予定しているかということについては,疑問の余地がないわけではないものの, 者」に当たるものである。消費者契約法の規定する消費者契約が,学校法人と学生との間における大学への入学を目的とする在学契約を予定しているかということについては,疑問の余地がないわけではないものの,以上によると,本件在学契約は同条3項に規定する「消費者契約」に当たるというほかない。また,本件在学契約が解除された以上,被告が本件在学契約に基づき授業料を保持しうる理由はないから,本件授業料不返還規定は,消費者契約法9条1号に規定する「損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項」に該当するというべきである。 イ次に,消費者契約法9条1号は,その構造上,平均的な損害の額を超えると認められる部分に限り損害賠償額の予定等を無効とする旨規定しているところ,損害賠償予定額が平均的な損害の額を超えることにつき消費者が立証責任を負うのか,損害賠償予定額が平均的な損害の額を超えないことにつき事業者が立証責任を負うのかということがまず問題となる。 この点については,上記のとおり平均的な損害の額を超える部分に限って損害賠償額の予定等を無効とするという同条の構造や,いったんは双方に合意が成立している以上,合意の効力を否定する者がその効果発生障害事実の立証責任を負うと解するのが法の原則であることなどに照らせば,消費者において損害賠償予定額が平均的な損害の額を超えることの立証責任を負うと解すべきである。 これに対し,原告らは,消費者保護の理念,消費者による立証困難等を根拠に,法人等の事業者が平均的な損害の額を超えないことの立証責任を負うと主張する。 しかし,締結された契約が消費者契約であること,すなわち契約主体が「事業者」と「個人」であることのみを要件として,いったん有効に成立した合意の効果を原則的に否定するのは,合理的根拠に乏しく,また,立証困難等の不都合は事実 が消費者契約であること,すなわち契約主体が「事業者」と「個人」であることのみを要件として,いったん有効に成立した合意の効果を原則的に否定するのは,合理的根拠に乏しく,また,立証困難等の不都合は事実上の推定等他の方策により解決すべき問題であって,かつそれで足りるというべきである。 ウ以上を前提に,本件において,平均的な損害の額を超える部分は認められるかについて検討する。 (ア) 消費者契約法9条1号に規定する「平均的な損害の額」とは,当該当事者が締結する多数の同種契約事案について,当該契約の性質,解除事由,解除時期,損害填補の可能性,解除により事業者が出捐を免れた経費等諸般の事情を考慮して,契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値をいうと解するのが相当である。 (イ) 被告は,第1事件原告の入学辞退時期が一般入試合格発表後であったことからすると,被告が第1事件原告の入学辞退に対応して追加合格等の措置をとることは困難であるから,他の者から収入を得る機会を失ったとして,4年分の授業料相当額が平均的な損害の額となる旨主張していると解される。 たしかに,第1事件原告の入学辞退時期は一般入試の合格発表より後の平成14年3月14日であったから,一般入試の合格発表により最終入学者を調整することは不可能であり,補充合格者による調整についても,1人の入学辞退者に対応して1人ずつ補充を行うことは,上記入学辞退時期をも考慮すると,不可能といえないまでも相当困難であったと考えられ,これらの事情によれば,被告が第1事件原告に替わる入学者を填補することは困難というほかないから,第1事件原告の入学辞退により他の者から収入を得る機会を失ったという被告の主張にも,全く合理性が認められないわけではない。 しかしながら,前記のとおり,そもそも在学契約は, 困難というほかないから,第1事件原告の入学辞退により他の者から収入を得る機会を失ったという被告の主張にも,全く合理性が認められないわけではない。 しかしながら,前記のとおり,そもそも在学契約は,その法的性質等にかんがみ,学生の就学意思が通常の準委任契約にも増して最大限尊重されるべきであること,また,大学は,中途退学した学生に対しても,卒業に至るまでの将来分の授業料を徴収することを予定しておらず,実際にもそのような将来分の授業料を徴収した例をみないことにも照らすと,在学契約は,その性質上,学生の解除により大学が他の者から収入を得る機会を失うことがあり得ることも当然に予定しているものというべきであって,たとい学生がした在学契約の解除により大学が他の者から収入を得る機会を失ったとしても,それを大学の被る損害として観念することはできないものと認めるのが相当である。 したがって,被告が,第1事件原告の入学辞退により他の者から収入を得る機会を失ったとしても,被告に平均的な損害は生じていないものと認められる。 (ウ) また,被告は,第1事件原告の入学辞退により定員割れが生ずる可能性がある旨主張する。この点,私立学校振興助成法5条3号は,在学している学生の数が学則に定めた収容定員に満たない場合に,国は補助金を減額し得る旨規定しており,本件のように,填補困難な時期に辞退が行われた場合には,大学の予想に反して定員割れの事態が生じ,大学に補助金削減等の経済的不利益が生じることは,通常あり得る事態と認められる。 しかしながら,前記の在学契約の性質にかんがみると,大学は,入学辞退により定員割れが生じ得ることを踏まえたうえであらかじめ合格者の調整を図るべきであり,定員割れのリスクは大学において甘受すべきであるから,その予測が外れ,定員割れの事態が生じたとして 学は,入学辞退により定員割れが生じ得ることを踏まえたうえであらかじめ合格者の調整を図るべきであり,定員割れのリスクは大学において甘受すべきであるから,その予測が外れ,定員割れの事態が生じたとしても,それを学生の入学辞退による平均的な損害と評価することはできないものと認めるのが相当である。 したがって,定員割れによる補助金削減等が平均的な損害の内容になるということも認められない。 (エ) 被告は,平均的な損害には得べかりし収入という概念も含まれるべきであり,そうすれば,被告の被った損害は,広義では4年間の授業料相当額,最狭義でも編入可能性のあり得ない第1学年前期の授業料相当額である旨主張する。 前記のとおり,本件在学契約は主として準委任契約の性質を有する無名契約であるが,民法は,準委任契約につき,原則として自由に解除し得るとしつつ,相手方の不利な時期に解除した場合は,やむを得ない事由のあるときを除きその損害を賠償しなければならない旨規定しているが(民法656条,651条1項,2項),ここにいう損害とは,委任契約が解除されたこと自体から生ずる損害ではなく,一方が他方に不利な時期に解除したことによる損害,すなわち,委任者による解除であれば,受任者が準委任契約が継続することを想定していたため他の収入を得る機会を失った場合など,その解除が相手方に不利益な時期であったことから生ずる損害に限定すべきである。 そうすると,被告の主張する得べかりし利益相当損害は,解除が被告にとって不利益な時期であるために生じた損害ではなく,解除がされたこと自体から生じる損害であることは明らかであるから,これをもって平均的な損害と評価することはできないというべきである。 (オ) なお,被告は,第1事件原告のために入学手続費用等を要したことが認められるが,これは既に入 害であることは明らかであるから,これをもって平均的な損害と評価することはできないというべきである。 (オ) なお,被告は,第1事件原告のために入学手続費用等を要したことが認められるが,これは既に入学金として受領済みであるから,これが平均的な損害とならないことは明らかである。 エ以上によれば,本件において,被告には平均的な損害が発生していないと認められるから,本件授業料不返還規定の定める第1学年前期授業料85万円相当額は,その全額が平均的な損害の額を超えるものと認められ,前期授業料85万円を返還しない旨の本件授業料不返還規定は消費者契約法9条1号により無効であり,被告は,第1事件原告に対し,本件学納金のうち,第1学年前期授業料に相当する85万円の限度で返還義務を負う。 4 よって,その余の点につき判断するまでもなく,第1事件原告の請求は,被告に対し,85万円及びこれに対する訴状送達による催告日の翌日である平成14年7月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容することとし,第1事件原告のその余の請求及び第2事件原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第18民事部裁判長裁判官佐賀義史裁判官永谷幸恵裁判官神原浩・
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