主文 1 被告は,原告に対し,4万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,4万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを15分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 緊急逮捕前の違法な身柄引渡し遅延に基づく損害賠償請求(以下「請求1」という。)被告は,原告に対し,60万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 違法な緊急逮捕に基づく損害賠償請求(以下「請求2」という。) 被告は,原告に対し,60万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は,⑴原告が,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条 約(以下「日米安保条約」という。)に基づきアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)において使用することを許された一般人の立入りの制限されている区域に侵入したとして米軍に身柄を拘束されてから約8時間を経過して海上保安官に身柄を引き渡されたことについて,①海上保安部が原告の身柄を直ちに引き受けなかったこと,及び②米軍が原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さず, その間身柄拘束理由を告知せず,弁護士への連絡の要請を拒否したことは,日本 国憲法(以下「憲法」という。)33条等及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の の要請を拒否したことは,日本 国憲法(以下「憲法」という。)33条等及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「日米地位協定」という。)の趣旨に反し違法であるとして,原告が,うち②の米軍の行為については,米軍の構成員の違法行為について国の公務員の違法行為の例による国の損害賠償責任を定めた「日 本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」(以下「民特法」という。)1条を介した上で,被告国に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,慰謝料50万円及び弁護士費用10万円の合計60万円並びにこれに対する違法行為の日である平成28年 4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに(請求1),⑵原告が,上記の身柄拘束に引き続き,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法」(以下「刑特法」という。)12条2項に基づいて緊急逮捕されたことについて, ①同項の定める緊急逮捕手続は憲法31条及び33条に反して違憲であって,これを立法し,その改廃を怠った国会の行為は違法であり,また,②海上保安官による原告の緊急逮捕は刑特法に従ったとしても違法であるとして,原告が,被告国に対し,国賠法1条1項に基づき,慰謝料50万円及び弁護士費用10万円の合計60万円並びにこれに対する上記緊急逮捕の日である平成28年4月1日 から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害 し,国賠法1条1項に基づき,慰謝料50万円及び弁護士費用10万円の合計60万円並びにこれに対する上記緊急逮捕の日である平成28年4月1日 から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(請求2)事案である。 2 関係法令等の定め⑴ 在日米軍基地等の使用許諾ア日本国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に 寄与するため,アメリカ合衆国は,米軍が日本国において施設及び区域(以 下「米軍施設等」という。)を使用することを許される(日米安保条約6条前段)。個々の米軍施設等に関する協定は,以下のエに定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない(以上,日米地位協定2条1項⒜)。 イアメリカ合衆国は,米軍施設等内において,それらの設定,運営,警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる(日米地位協定3条1 項1文)。 ウ日本国において,日本国の法令を尊重し,及び日米地位協定の精神に反する活動,特に政治的活動を慎むことは,米軍の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である(日米地位協定16条)。 エ日米地位協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に 関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協議機関として,合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)を設置する。日米合同委員会は,特にアメリカ合衆国が日米安保条約の目的の遂行に当たって使用するため必要とされる日本国内の施設及び区域を決定する協議機関として,任務を行う(以上,日米地位協定25条1項)。 ⑵ 米軍施設等を侵す罪正当な理由がないのに,米軍施設等であって入ることを禁じた場所に入り,又は要求を受けてその場所から退去しない者は,1年以下の懲役又は2000円(罰 25条1項)。 ⑵ 米軍施設等を侵す罪正当な理由がないのに,米軍施設等であって入ることを禁じた場所に入り,又は要求を受けてその場所から退去しない者は,1年以下の懲役又は2000円(罰金等臨時措置法1条,2条1項本文により,当分の間,2万円)以下の罰金若しくは科料に処する(刑特法2条)。 ⑶ 日米両国間合意の定める米軍の身柄拘束に関する権限及び義務ア米軍の正規に編成された部隊又は編成隊は,米軍施設等において警察権を行う権利を有する。米軍の軍事警察は,米軍施設等において,秩序及び安全の維持を確保するためすべての適当な措置を執ることができる(以上,日米地位協定17条10項⒜)。 イ米軍当局は,通常,米軍が使用し,かつ,その権限に基づいて警備してい る米軍施設等内ですべての逮捕を行うものとする。米軍当局により逮捕された者で米軍の裁判権に服さないすべてのものは,直ちに日本国の当局に引き渡さなければならない(以上,日米地位協定についての合意された議事録(以下「合意議事録」という。)17条10項⒜,⒝に関する部分1項前段1文,中段2文。甲3)。 ウ日本国の裁判権のみに服する者でアメリカ合衆国の当局によって逮捕されたものは,逮捕を行った現地憲兵司令官から直ちに日本国の当局へ引き渡される。日本国の当局は逮捕者の引渡しに先立って逮捕理由の通知を受けるものとする(以上,日米合同委員会における刑事裁判管轄権に関する合意事項(以下「刑事管轄合意事項」といい,日米地位協定及び合意議事録と併せ て「日米地位協定等」という。)10項。甲4)。 ⑷ 米軍によって身柄を拘束された者の日本国当局による受領ア検察官又は司法警察員(以下「司法警察員等」という。)は,米軍から日本国の法令による罪を犯した 協定等」という。)10項。甲4)。 ⑷ 米軍によって身柄を拘束された者の日本国当局による受領ア検察官又は司法警察員(以下「司法警察員等」という。)は,米軍から日本国の法令による罪を犯した者を引き渡す旨の通知(以下,かかる通知を単に「引き渡す旨の通知」という。)があった場合には,裁判官の発する逮捕 状(以下「通常逮捕状」という。)を示して被疑者の引渡しを受け,又は検察事務官若しくは司法警察職員にその引渡しを受けさせなければならない(刑特法12条1項)。 イ司法警察員等は,引き渡されるべき者が日本国の法令による罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があって,急速を要し,あらかじめ裁判官の逮 捕状を求めることができないときは,その理由を告げてその者の引渡しを受け,又は受けさせなければならない。この場合には,直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは,直ちにその者を釈放し,又は釈放させなければならない(以上,刑特法12条2項)。 ウ刑特法12条1項及び2項の場合を除くほか,司法警察員等は,引き渡さ れる者を受け取った後,直ちにその者を釈放し,又は釈放させなければなら ない(刑特法12条3項)。 エ刑特法12条1項又は2項の規定による引渡しがあった場合には,刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)199条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。ただし,同法203条,204条及び205条2項に規定する時間は,引渡しがあった時から起算する(以上,刑特法1 2条4項)。 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)⑴ 当事者等ア原告は,「A」の筆名で著作活動をしている作家であり,長年にわ 2条4項)。 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)⑴ 当事者等ア原告は,「A」の筆名で著作活動をしている作家であり,長年にわたって, 沖縄県名護市字辺野古に隣接するキャンプ・シュワブ周辺沿岸域における基地建設に対する抗議活動を行ってきた者である(甲32,乙7の3,弁論の全趣旨)。 イ被告は国であり,国土交通省の外局として,海上保安庁を設置,運営しているとともに(海上保安庁法1条1項),日米安保条約に基づき日本国内に ある米軍の構成員又は被用者が,その職務を行うについて日本国内において違法に他人に損害を加えたときは,国の公務員又は被用者がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合の例により,その損害を賠償する責に任ずるものとされている(民特法1条)。 ウ海上保安庁は,海上の安全及び治安の確保を図る任務を達成するため,海 上における犯人の捜査及び逮捕に関する事務等をつかさどり(海上保安庁法2条1項,5条16号),その所掌事務は,海上保安管区ごとに置かれた管区海上保安本部に分掌されているところ,沖縄県の区域及びその沿岸水域を管轄する第11管区海上保安本部の下部に中城海上保安部が設置されている。 一等海上保安士以上の海上保安官は,海上における犯罪について,刑訴法 の規定による司法警察員として職務を行う(海上保安庁法31条1項,「海 上保安官及び海上保安官補の司法警察職員の職務を行う者を指定」(昭和24年海上保安庁告示第33号))。 ⑵ 沖縄県名護市東海岸における米軍施設等の立入り制限の状況(甲29,弁論の全趣旨,公知の事実)ア沖縄県名護市東海岸においては,陸上の米軍施設等としてキャンプ・シュ 告示第33号))。 ⑵ 沖縄県名護市東海岸における米軍施設等の立入り制限の状況(甲29,弁論の全趣旨,公知の事実)ア沖縄県名護市東海岸においては,陸上の米軍施設等としてキャンプ・シュ ワブが提供されているほか,陸軍及び海兵隊訓練区域として,別紙のとおり,大浦湾周辺一帯の第1ないし第5区域が米軍施設等として提供されてきた。 このうち第1区域は,陸上の米軍施設等の保安のために,第2ないし第5区域は水陸両用訓練のために,それぞれ使用され,各区域について,以下の各制限事項が定められてきた(なお,第3区域及び第5区域の使用は予告され る。)。 第1区域常時漁業及び立入りを禁止する。 第2区域常時漁業及び立入りを禁止する。ただし,その使用を妨げない限り小規模漁業(網漁業を除く)に制限はない。 第3区域船舶の停泊,係留,投錨,潜水,その他のすべての継続的行 為を禁止する。ただし,その使用を妨げない限り漁業に制限はない。 第4区域潜水その他のすべての継続的行為を禁止する。ただし,その使用を妨げない限り漁業(網漁業を除く)及び船舶の航行に制限はない。 第5区域その使用を妨げない限り漁業(網漁業を除く)及び船舶の航行に制限はない。 イその後,この水域に普天間飛行場代替施設の建設工事が計画され,日米合同委員会は,平成26年6月20日,従前の用途に加えて同建設に係る区域の保安のため,上記第1区域ないし第5区域にまたがる別紙の位置に臨時制 限区域(以下,単に「臨時制限区域」という。)を設けて常時立入りを禁止す ることを承認し,平成26年7月2日防衛省告示第123号をもって,その旨が告示された。 ⑶ 原告の身柄拘束に関する事実経過の概略(弁論の全趣旨)ア原告は,平成2 時立入りを禁止す ることを承認し,平成26年7月2日防衛省告示第123号をもって,その旨が告示された。 ⑶ 原告の身柄拘束に関する事実経過の概略(弁論の全趣旨)ア原告は,平成28年4月1日朝,沖縄県名護市字辺野古沿岸における基地建設に対する抗議活動の一環として,その建設作業の監視等のため,沖合に カヌーを漕ぎ出して,同日午前9時20分頃(以下,時刻のみ表記する場合は,同日の時刻を指す。),臨時制限区域に侵入し,午前9時22分頃,米軍によって同真方位279度853メートル付近海上の水深約30センチメートル程度の浅瀬において身柄を拘束された(以下,かかる身柄拘束を「本件拘束」という。)。 イ原告の身柄は,引き続き米軍に拘束されたまま,午後5時22分,キャンプ・シュワブ内において,中城海上保安部所属の海上保安官に引き渡され,海上保安官は,原告が,臨時制限区域である沖縄県名護市長島無番地所在長島灯台から真方位280度900メートル付近海上に侵入し,在日米軍施設キャンプ・シュワブ在沖海兵隊司令部職員の退去警告に応じず退去しなかっ た(以下,この一連の行為に係る事実を「本件被疑事実」という。)として,即時,刑特法12条2項に基づき,原告を緊急逮捕した(以下「本件緊急逮捕」という。)。 原告の身柄は,午後6時55分,中城海上保安部に引致され,中城海上保安部所属の司法警察員である海上保安官は,午後7時6分から午後7時16 分までの間,原告に対し,犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与え,原告は,午後7時53分頃から午後8時32分頃までの間,弁護人となろうとする者と接見した。 ウ中城海上保安部所属の司法警察員である海上保安官は,午後10時27分,沖 げた上,弁解の機会を与え,原告は,午後7時53分頃から午後8時32分頃までの間,弁護人となろうとする者と接見した。 ウ中城海上保安部所属の司法警察員である海上保安官は,午後10時27分,沖縄簡易裁判所裁判官に対し,本件緊急逮捕に係る逮捕状の発付を請求し, 沖縄簡易裁判所裁判官は,平成28年4月2日午前4時35分,逮捕状を発 付した(乙3)。 エ原告は,平成28年4月2日午後3時55分,那覇地方検察庁検察官に送致された後,同日午後7時15分,釈放された。 4 争点本件の争点は次の6点である。 ⑴ 国会に,違憲の刑特法12条2項を立法し又はこれを放置した立法不作為の違法が認められるか否か(争点1。請求2関係)⑵ 海上保安官に,本件拘束後,原告の身柄を米軍から直ちに引き受けなかった違法が認められるか否か(争点2。請求1関係)⑶ 米軍に,本件拘束後,原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さなかった違 法が認められるか否か(争点3。請求1関係)⑷ 米軍に,本件拘束後,原告に対して身柄拘束理由の告知を怠り,弁護人との接見をさせなかった違法が認められるか否か(争点4。請求1関係)⑸ 海上保安官による本件緊急逮捕に違法が認められるか否か(争点5。請求2関係) ⑹ 原告に生じた損害の有無,範囲(争点6。請求1及び2関係) 5 争点に関する当事者の主張⑴ 国会に,違憲の刑特法12条2項を立法し又はこれを放置した立法不作為の違法が認められるか否か(争点1。請求2関係)(原告の主張) ア刑特法12条2項の憲法33条違反憲法33条は,現行犯逮捕の場合を除いて,権限を有する司法官憲が発し,かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ,逮捕されないと規定して ア刑特法12条2項の憲法33条違反憲法33条は,現行犯逮捕の場合を除いて,権限を有する司法官憲が発し,かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ,逮捕されないと規定している。刑訴法210条1項は,現行犯でない無令状逮捕を許容しているが,最高裁昭和30年12月14日大法廷判決・刑集9巻13号276 0頁(以下「最高裁昭和30年判決」という。)は,刑訴法210条1項は, 厳格な制約の下,死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁固にあたる罪状の重い一定の犯罪のみについて,緊急やむを得ない場合に限り,逮捕状の発付を求めることを条件として,憲法33条の規定の趣旨に反するものではないと判断した。 刑特法12条2項は,憲法33条の明文に反している上,法文上,同項に 基づく緊急逮捕の対象となる犯罪について何らの制限もせず,最高裁昭和30年判決が合憲と判断した範囲をも逸脱して,現行犯の場合ですら逮捕の制限される拘留又は科料にのみ処せられるようないかなる微罪についても,現行犯でない無令状逮捕を許容している。実際,本件緊急逮捕がされた本件被疑事実に係る米軍施設等を侵す罪の法定刑も,刑訴法210条1項に基づい て緊急逮捕することができない刑法犯の法定刑をも大きく下回る1年以下の懲役又は2000円以下の罰金であり,このような罪についてまで緊急逮捕を許容することが,憲法33条に違反し,違憲無効であることは明白である。 イ刑特法12条2項の憲法31条違反 刑特法立法当時の政府答弁においては,同法12条2項の定める緊急逮捕は,逮捕時間の起算点以外は,刑訴法210条1項の定める緊急逮捕と要件を同じくするものであると明言されており,引き渡されるべき者に対する被疑事実に係る罪種が死刑又 は,同法12条2項の定める緊急逮捕は,逮捕時間の起算点以外は,刑訴法210条1項の定める緊急逮捕と要件を同じくするものであると明言されており,引き渡されるべき者に対する被疑事実に係る罪種が死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁固にあたる罪でなければ,無令状逮捕を許容する趣旨ではなかった。 にもかかわらず,刑特法12条2項においては,緊急逮捕の要件のうち法定刑に関する要件が条文に明記されておらず,同項に基づく緊急逮捕が可能な罪種が不明確な状態になっており,同項は憲法31条の明確性の要件を欠くから,違憲無効である。 ウ違憲の立法又はその放置の国賠法違反 立法の内容又は立法不作為が,国民の憲法上保障されている権利を違法に 侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合には,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国賠法上違法の評価を受けるところ,国会が,前記のとおり,憲法33条,31条に違 反し,国民の人身の自由や適正手続を受ける権利を違法に侵害するものであることが明白である刑特法12条2項を立法し,また,正当な理由もなく,これが成立した昭和27年5月7日から平成28年4月1日(本件緊急逮捕の日)までの60年以上もの長期間にわたり,その改廃を怠り放置した行為には,国賠法1条1項の違法があり,過失もある。 (被告の主張)ア刑特法12条2項の憲法33条適合性最高裁昭和30年判決は,刑訴法上の緊急逮捕については,これに課される要件に照らして,憲法33条の規定の趣旨に反しない旨を判示したにとどまり,同 主張)ア刑特法12条2項の憲法33条適合性最高裁昭和30年判決は,刑訴法上の緊急逮捕については,これに課される要件に照らして,憲法33条の規定の趣旨に反しない旨を判示したにとどまり,同要件を満たさない逮捕が憲法上およそ許容されないと判示したもの とは解されない。したがって,刑特法12条2項の合憲性は,逮捕を認める罪種が刑訴法上の緊急逮捕と同様に限定されているか否かという一事をもって判断すべきではなく,最高裁昭和30年判決を前提に,刑特法12条2項に規定される要件の下で身柄の引渡しの受領を認めることが,憲法33条の規定の趣旨に反しないかという観点から判断すべきである。 米軍施設等は日本国の領域であり,米軍施設等内においても我が国の法令は適用されるが,その執行に当たっては,日米地位協定3条によってアメリカ合衆国に与えられている管理権との調整が必要になるところ,刑特法12条は,米軍施設等において米軍当局の警察権に基づいて身柄を確保された者であっても,逮捕の必要性が認められる者については,日本の当局において, 逃亡・罪証隠滅の機会を与えることなくその身柄を拘束して捜査を行うこと を可能とする一方,被逮捕者を,日本国の法令による罪を犯した犯人として米軍当局が認識・把握し,身柄を確保した者に限るとともに,身柄を受領する際の手続においても,令状による逮捕の要件(刑特法12条1項の場合)又は令状による逮捕と同質の要件(同条2項の場合)を課している。そして,我が国の領域内における米軍の逮捕権(この逮捕は,必ずしも刑訴法に規定 される逮捕ではなく,日米地位協定17条10項⒜及び⒝に関する合意議事録1項の「逮捕」を意味する。)は,日米地位協定及び合意議事録に規定される各制約に服するから,刑特法12条2項は,同 に規定 される逮捕ではなく,日米地位協定17条10項⒜及び⒝に関する合意議事録1項の「逮捕」を意味する。)は,日米地位協定及び合意議事録に規定される各制約に服するから,刑特法12条2項は,同項に基づき身柄の引渡しを受ける対象者の範囲を無限定としているわけではないし,日米地位協定の実施に必要な範囲を超えて対象者を拡大してもいない。 このように,刑特法12条2項は,刑訴法上の緊急逮捕の要件のうち罪種に係るもの以外の要件を満たせば身柄の引渡しの受領を認めるというものではなく,日米地位協定の趣旨を実現しつつ,被逮捕者の人権及び適正手続の保障を図るために設けられた規定であるから,同項は,恣意的な逮捕を抑制して人権保障を図った憲法33条の趣旨に反するものではない。 イ刑特法12条2項の憲法31条適合性原告は,立法者の意思として,刑特法12条2項の定める緊急逮捕は,刑訴法210条が定める緊急逮捕と同義であり,引き渡されるべき者の被疑事実に係る罪種が刑訴法210条1項の定める緊急逮捕の対象となる罪種と同等のものでなければ無令状逮捕を許容する趣旨ではなかったにもかかわ らず,法定刑に関する要件が条文に明記されていないため,憲法31条の明確性の要件を欠くから違憲無効であると主張するが,上記アのとおり,刑特法12条2項は,罪種の制限以外の要件を満たせば身柄の引渡しの受領を認めるというものではないから,単に同項に罪種の制限がないことをもって,同項が明確性を欠くゆえに違憲であるといった結論を導くことはできず,こ の点に関する原告の主張には,論理の飛躍がある。 むしろ,刑特法の前身である日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法(以下「旧刑特法」という。)1 関する原告の主張には,論理の飛躍がある。 むしろ,刑特法の前身である日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法(以下「旧刑特法」という。)12条には,刑特法12条と同様の規定が存したところ,旧刑特法の立法担当者は,旧刑特法12条2項に基づく緊急逮捕については,刑訴法210条の緊急逮捕と異なって罪種の限定はない旨明言しているのであり,旧刑特法1 2条2項を引き継いだ刑特法12条2項も同様に解釈するのが相当である。 ⑵ 海上保安官に,本件拘束後,原告の身柄を米軍から直ちに引き受けなかった違法が認められるか否か(争点2。請求1関係)(原告の主張)ア海上保安官による原告の身柄引受けの遅滞の違法 合意議事録では,米軍が逮捕した者であってアメリカ合衆国の裁判権に服さない者の身柄は,直ちに日本国に引き渡されなければならないと規定して米軍に拘束された者の人身の自由を図っており,刑訴法214条においても,現行犯人の身柄を拘束した者に対して,直ちに,検察官又は司法警察職員(以下「司法警察職員等」という。)への引渡義務を負わせることにより,被疑者 の人権を保障しようとしている。また,刑特法12条は,米軍が現行犯逮捕した者について,直ちに,日本の司法警察職員等に引き渡されることを前提として,引渡しを受けた司法警察員等をして逮捕の要件を満たすかどうかを判断させ,同要件を満たさない場合には直ちに被疑者を釈放させることとし,その後の手続についても刑訴法の規定を準用し,司法警察員等が留置の必要 性がないと思料するときや,制限時間内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは直ちに,被疑者を釈放しなければならないとして,米軍に逮捕された者が不当に身体拘束を継続されることが が留置の必要 性がないと思料するときや,制限時間内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは直ちに,被疑者を釈放しなければならないとして,米軍に逮捕された者が不当に身体拘束を継続されることがないよう,被疑者の人権保障を図っている。 加えて,憲法34条は,抑留又は拘禁された者が,直ちに弁護人に連絡し, 弁護人を依頼する権利を有することを規定し,刑訴法30条及び39条は, 憲法34条の保障する弁護人選任権の具体的内容を構成するものであるところ,米軍においては,原告の身柄拘束当時,米軍施設等内で拘束した者を弁護人と連絡,面会させ,かつ,秘密交通権を保障するような体制はとられていなかった。 以上の事情や法規定からすれば,米軍が米軍施設等内で拘束した者であっ て米軍の裁判権に服さないものについて,米軍から連絡を受けた日本の司法警察職員等は,直ちに当該被疑者の身柄の引渡しを受ける義務を負うことは明らかであるが,中城海上保安部所属の海上保安官が,米軍から現行犯逮捕した原告の身柄の引渡しの通知を受けた後,約8時間にもわたって原告の身柄の引渡しを拒み続け,その間,米軍に原告の拘束を継続させた行為は,違 法である。 イ被告の主張について 被告は,海上保安官による原告の身柄の引受けに時間を要した理由として,①米軍からの午前9時25分の連絡は引き渡す旨の通知に該当せず,引き渡す旨の通知は午前11時に受けたものであること,②原告が海上保 安庁による捜査及び逮捕の対象となる「海上における犯人」であるか否かを判断する必要があったこと,③原告の人定事項,犯人性及び嫌疑の充分性並びに身柄引受けの方法を判断するための捜査が必要であったこと,④原告の収容のための警備態勢を整える必要があったことを主 るか否かを判断する必要があったこと,③原告の人定事項,犯人性及び嫌疑の充分性並びに身柄引受けの方法を判断するための捜査が必要であったこと,④原告の収容のための警備態勢を整える必要があったことを主張する。 しかし,上記①について,午前9時25分頃,米軍から海上保安官に された連絡は,刑特法上の引き渡す旨の通知であったというべきである。 本件被疑事実について,米軍に裁判権はなく,被拘束者が日本の捜査機関に直ちに引き渡されるべきことが明らかな典型的事案であり,本件拘束をした米軍の日本人警備員は,原告の本名を呼んで,原告が,米軍関係者でなく,米軍の軍法に服さない者であることを知った上で本件拘束をしてい るのであるから,そのことは尚更明らかであった。米軍において,原告を 拘束後,日本側に逮捕理由の通知のみを行い,引き渡す旨の通知をしないまま,午前11時まで1時間40分程度も監禁を続けておく必要性も合理的な理由もない。沖縄防衛局も沖縄県警察も,午前9時25分の米軍からの連絡が引き渡す旨の通知であることを前提とした行動をとっているし,米軍自身,報道機関に対し,午前9時32分には海上保安庁に引き渡す旨 の通知をしたと発表している。 次に,上記②については,中城海上保安部所属の海上保安官は,本件拘束後間もなく,米軍から「キャンプ・シュワブシアター付近にて,カヌーで抗議に来た『A』なる者を確保した」旨の連絡を受けているところ,キャンプ・シュワブに隣接するすべての周辺海域は制限区域であり,侵入 者がキャンプ・シュワブに上陸するためには必ず制限区域である海上を通過しなければならないのであるから,同保安官において,上記連絡を受け,その後憲兵隊員から,電話でも可能な簡単な事情聴取を終えられる時点におい プ・シュワブに上陸するためには必ず制限区域である海上を通過しなければならないのであるから,同保安官において,上記連絡を受け,その後憲兵隊員から,電話でも可能な簡単な事情聴取を終えられる時点において,本件拘束を受けた者が「海上における犯人」であることは容易に明らかであった。 また,上記③についても,刑特法12条による逮捕の要件を備えていなければならない時点は,米軍から引き渡す旨の通知を受けた時である。 被告の主張は,緊急逮捕に先立って,捜査機関が任意捜査をすることが許される旨をいうものにすぎず,本件のように,捜査機関が任意捜査している間,被拘束者が,米軍により手錠を掛けられた後連行され,銃を持った 兵士に見張られ,監禁が継続されている事案には全く当てはまるものではない。そもそも刑訴法上の緊急逮捕においても,捜査機関には逮捕か釈放かの判断資料を得るための猶予期間など与えられておらず,そのような資料を得るまでもなく逮捕の必要性が明らかな場合にのみ,例外的に緊急逮捕が許容されるにすぎないのであって,逮捕の必要性が明らかでないのに 令状なくして身体拘束を続けることは,刑訴法上も許されていない。刑特 法12条の場合においても,通常逮捕状を取得できたときや緊急逮捕の要件を満たすときには,例外的に身体拘束することができるが,そうでないときは,被疑者を直ちに釈放しなければならないのであり,米軍から引き渡す旨の通知を受けた後,米軍に身柄を拘束させたまま,時間を掛けて捜査をして,捜査の結果,逮捕の要件を満たすとして引受けに赴くことは予 定されていない。 さらに,上記④についても,警備態勢の検討・構築は,被拘束者の身柄を直ちに引き受けなければならないという制約の下で,合理的な範囲内でのみ許される に赴くことは予 定されていない。 さらに,上記④についても,警備態勢の検討・構築は,被拘束者の身柄を直ちに引き受けなければならないという制約の下で,合理的な範囲内でのみ許されるにすぎない。本件において,約8時間という長時間をかけて約40名が警備に当たらなければならないような具体的な事情があっ たわけではなく,中城海上保安部において警備態勢を検討・構築する必要性・許容性は到底認められなかったし,仮に必要性が認められるとしても,警備態勢の準備完了に時間が掛かるのであれば,例えば警察署の留置場を留置場所にするとか,キャンプ・シュワブ内で先に身柄を引き受けてから警備態勢の構築を待つとか,警察官に直ちに警備を要請するとか,容易に 代替的な手段をとることができたのであるから,そのために原告の身柄の引渡し遅延が正当化されることはない。 (被告の主張)ア原告の身柄引受けに所要の時間を要した合理的理由中城海上保安部所属の海上保安官は,午前9時25分頃,米軍から,電 話で,午前9時22分,キャンプ・シュワブシアター付近において,カヌーで抗議に来た「A」なる者を確保した旨の連絡を受けたものの,かかる通知は,米軍が上記被確保者の身柄を確保した理由となった事実に限られており,通知の相手方である海上保安官に対し,被確保者の身柄を引き渡す旨述べたものとは認められないため,引き渡す旨の通知に該当しない。 その後,午前11時頃,米軍から,上記「A」なる人物の身柄を確保し, 拘束中であるが,米軍は,日米地位協定の合意事項により,身柄を確保した場合は,直ちに引き渡さなければならないので,身柄を引き取ってほしいとして,引き渡す旨の通知を受けた。 中城海上保安部所属の海上保安官は,上記被確保者が米軍に 協定の合意事項により,身柄を確保した場合は,直ちに引き渡さなければならないので,身柄を引き取ってほしいとして,引き渡す旨の通知を受けた。 中城海上保安部所属の海上保安官は,上記被確保者が米軍に身柄拘束される原因となった犯罪行為を現認しておらず,犯罪事実の具体的内容を確 認できなかったことはもとより,同人を海上保安庁の所掌事務として捜査及び逮捕の対象となる「海上における犯人」として海上保安官が米軍から身柄の引渡しを受けることができるか否かを判断することができない状況にあったため,憲兵隊員から事情聴取するまでの間,事実関係の確認のために,沖縄県警察や沖縄防衛局から情報収集を行っていた。 中城海上保安部所属の海上保安官は,午前11時52分頃から午後零時20分頃までの間,上記被確保者の身柄確保現場において,その犯罪行為を目撃して身柄を確保した憲兵隊員から,犯罪発生位置,身柄確保時の具体的な状況等に係る事情聴取を実施し,その結果等を検討した結果,上記被確保者の人定事項は明確でないものの,同人が米軍施設等に海上から不 法侵入したことと自体は認められ,海上保安官に捜査及び逮捕の権限があると判断し,午後2時5分頃,中城海上保安部が上記被確保者の引渡しを受けることを決定し,午後2時10分頃,第11管区海上保安本部は,沖縄県警察に対し,その旨の連絡をした。 もっとも,中城海上保安部所属の海上保安官は,上記被確保者の人定事 項は明確でなかった上,同人の犯人性や犯罪事実に関する十分な証拠があるか否かを検討するとともに,刑特法12条の規定するいずれの身柄引受方法によるかの選択についても検討する必要があると判断し,その後も資料・情報の収集を継続していたところ,午後3時20分頃,民間警備会社が撮影した映像を所持しているとの情報を 規定するいずれの身柄引受方法によるかの選択についても検討する必要があると判断し,その後も資料・情報の収集を継続していたところ,午後3時20分頃,民間警備会社が撮影した映像を所持しているとの情報を得て,所要の手続を経た上,午 後3時50分頃から午後4時18分までの間,同映像を確認した結果,本 件被疑事実が客観的に認められると判断するとともに,その犯人の顔貌を他と識別できる程度に認識した。その上で,刑特法12条1項の規定により上記被確保者の引渡しを受けるために逮捕状を請求する場合,更に時間を要することになると判断し,同条2項の規定により上記被確保者の引渡しを受けることとし,午後4時30分,船舶によりその身柄を搬送するた め,中城海上保安部からキャンプ・シュワブに向けて出航したが,5分後にエンジントラブルが発生したため,陸上搬送によることとした。 一方,中城海上保安部は,午後零時30分頃から,上記被確保者の引渡しを受ける際の警備態勢等についても検討を開始し,本件が米軍施設等の辺野古沖への移転を巡る抗議運動に関連して発生した事案であることに 鑑み,被確保者の支援者ら数百名が収容施設を取り囲み,多数の機動隊員の動員が必要となったという過去の同種事案を想定して慎重に検討した結果,午後2時30分頃,安全を確保できるだけの警備態勢等を整えることができると判断した。具体的には,40名程度の職員を中城海上保安部の警備に当てるとともに,沖縄県警察に協力要請を行うことが必要不可欠 と判断したが,当時,同海上保安部には,庁舎管理の任に当たる者が管理職員8名しか在庁しない状況であり,非常参集の呼び掛け等を開始したものの,約40名の警備態勢が整ったのは午後5時頃であった。 以上のような事実経過に照らせば,中城海上保安 任に当たる者が管理職員8名しか在庁しない状況であり,非常参集の呼び掛け等を開始したものの,約40名の警備態勢が整ったのは午後5時頃であった。 以上のような事実経過に照らせば,中城海上保安部所属の海上保安官は,刑特法12条2項の緊急逮捕による引受けの方法によって原告の身柄の 引渡しを受けるために必要な職務を尽くした上でかかる引渡しを受けたものであるから,米軍から原告の身柄の引渡しを受けるまでに所要の時間を要したことについて,合理的な理由があるというべきであって,同所属の海上保安官が,職務上の法的義務に違背して,通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と公権力を行使したものとはいえず,その行為に国 賠法1条1項の違法性は認められない。 イ原告の主張について原告は,米軍から被確保者の身柄を引き渡す旨の通知を受けた後その引渡しを受けるまでの間に,日本の捜査機関において捜査ないし資料・情報の収集を行うことは許されないと主張する。 しかし,一般に,捜査機関が犯罪に係る情報を入手した場合,被疑者を逮 捕するか否かにかかわらず,犯罪行為の特定,犯人性や犯人の人定に関する捜査を行うことは当然のことである。このことは,刑特法12条の規定による被疑者の引渡しを受ける場合も同じであり,このような捜査ないし資料・情報の収集を行う過程で,当該被疑者が特定の犯罪行為を行った犯人であることが相当程度判明し,これに加えて,特別司法警察職員であれば,捜査を 行う権限の存在を確認できた場合に初めて,同条の規定するいずれの引受けの方法によるかを判断することが可能となるのであって,被疑者に係る情報もないまま,引受けに赴いた司法警察員等がその場で直ちに被疑者の引渡しを受ける方法を判断するのは不可能である。刑特法12 の引受けの方法によるかを判断することが可能となるのであって,被疑者に係る情報もないまま,引受けに赴いた司法警察員等がその場で直ちに被疑者の引渡しを受ける方法を判断するのは不可能である。刑特法12条4項は,身柄拘束に係る時間の制限の起算点につき,米軍によって身柄が確保されている間も 日本国の司法警察員等による身柄拘束と同様に扱うという建前を採用せず,米軍から身柄の引渡しを受けた時点をもってその起算点とする制度を採用しているのであるから,米軍によって身柄を確保されている時間は,刑訴法上の緊急逮捕に先立つ時間と質的に異なるものではなく,この間に所要の捜査ないし資料・情報の収集を行うことが許容されていることは,刑訴法上の 緊急逮捕の場合と何ら異なるところはないというべきである。 米軍は,その使用する米軍施設等に不法侵入した米軍の裁判権に服さない者を「逮捕」することはできるものの,日本の関係法令に基づく捜査権限がないため,捜査資料を作成することも予定されておらず,日本の捜査機関が刑特法12条により被確保者の身柄の引渡しを受ける際に米軍から提供さ れる資料は,刑事管轄合意事項11項⒝に規定する書類以外には予定されて いない。そのため,日本の捜査機関は,米軍から捜査資料を引き継ぐ余地がなく,逮捕状請求の疎明資料等を自ら収集せざるを得ないことに照らせば,同条は,日本の捜査機関が,逮捕状請求のために必要な捜査を行い,その結果を逮捕状請求時の疎明資料とすることを当然の前提としているというべきである。 ⑶ 米軍に,本件拘束後,原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さなかった違法が認められるか否か(争点3。請求1関係)(原告の主張)ア米軍による原告の身柄引渡しの遅滞の違法原告は,日本国内において身体を拘 ,原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さなかった違法が認められるか否か(争点3。請求1関係)(原告の主張)ア米軍による原告の身柄引渡しの遅滞の違法原告は,日本国内において身体を拘束された者であり,憲法31条以下の 保障する人身の自由や適正手続を受ける権利を享有しており,日米地位協定等により,米軍が米軍施設等内において身体拘束した者でアメリカ合衆国の裁判権に服さない者の身柄は,直ちに日本国の当局に引き渡されるべきことが,国家間の合意として成立している。憲法31条の保障する適正手続の内容を構成する刑特法や刑訴法の規定からしても,米軍は,拘束した者を,直 ちに日本国の司法警察員等に引き渡す法的義務を負うことは明らかであるにもかかわらず,本件拘束後,原告の身柄を約8時間にもわたって拘束し続け,原告の身柄を日本国の司法警察職員等に直ちに引き渡さなかった米軍の行為は,違法である。 イ被告の主張について 被告は,米軍は,海上保安官が引渡しを受けに行くのを待つほかないなどと主張するが,米軍が日本の捜査機関に直ちに引き渡す義務を負っていることを前提にしているからこそ,米軍から引渡しを受けた時点から逮捕の制限時間を起算することが辛うじて許容され得るものというべきであり,そうでないと,米軍の下にある間は,令状のないままいつまでも身体拘束が続くこ とになってしまう。米軍において被拘束者を長時間拘束する権限はなく,長 時間拘束することに違法性阻却事由はなく,監禁罪にも該当する不法行為となる以上,拘束時間が一時的といえる時間を超過しても,日本の捜査機関である警察と海上保安庁が押し付け合って被拘束者を引き取りに来ないという異常な事態が生じた場合には,米軍は,被拘束者を釈放しなければならないと解するべ 一時的といえる時間を超過しても,日本の捜査機関である警察と海上保安庁が押し付け合って被拘束者を引き取りに来ないという異常な事態が生じた場合には,米軍は,被拘束者を釈放しなければならないと解するべきである。 (被告の主張)ア原告の身柄の引渡しに所要の時間を要した合理的理由米軍の構成員等は,本件拘束約3分後の午前9時25分,中城海上保安部所属の海上保安官に,電話で,キャンプ・シュワブシアター付近において,カヌーで抗議に来た「A」なる者を確保した旨連絡し,その後も同所属の海 上保安官からの事情聴取に応じるなど,日本の当局が原告の身柄を引き受けるに当たって必要な手続をとることに協力した上で,同所属の海上保安官が原告の身柄を引受けに赴いた際には,直ちにこれに応じ,午後5時22分,原告の身柄を引き渡した。 このように,米軍の構成員等が,原告の身柄の引渡しを拒否し,あるいは これを遅滞させた事実は全くないのであり,米軍の構成員等が,職務上の法的義務に違背して,通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と公権力を行使して,原告の人身の自由や適正手続を受ける権利を侵害したとは認められないから,その行為に民特法1条の違法性は認められない。 イ原告の主張について 米軍の構成員等が身柄を確保してから日本の司法警察職員等にこれを引き渡すまでの時間がどの程度であれば「直ちに」引き渡したといえるのかについては,個々の事案における個別具体的な事情を踏まえた判断を要する事柄であり,原告の主張が,本件拘束後,中城海上保安部所属の海上保安官が原告の身柄を引き受けるまでの約8時間という経過時間のみをもって,「直 ちに」引き渡したものとはいえないと主張するものであれば失当である。 刑特法12条 上保安部所属の海上保安官が原告の身柄を引き受けるまでの約8時間という経過時間のみをもって,「直 ちに」引き渡したものとはいえないと主張するものであれば失当である。 刑特法12条に基づく被確保者の身柄の引渡しには,引渡しの相手である日本の捜査機関による引渡しの受領行為が必要であり,そのための準備等の必要な行為が当然想定されるのであるから,原告の挙げる規定における「直ちに」の文言は,日本の捜査機関が引渡しを受けるために必要な職務を尽くすために要する合理的時間を無視したものと解することはできず,米軍によ る身柄確保から引渡しまでの間の時間的即時性を意味するものではない。上記争点2に係る被告の主張のとおり,中城海上保安部の海上保安官は,米軍から原告の身柄の引渡しを受けるに当たり,必要な職務を尽くしており,所要の時間を要したことについては合理的な理由が認められるものである。米軍としては,まずは海上保安官が引渡しを受けに行くのを待つほかはなく, 海上保安官が身柄を引渡しを受けに赴いた際には,直ちにこれに応じて原告の身柄を引き渡しているのであるから,仮に本件において約8時間という時間が経過していたとしても,米軍は,「直ちに」原告の身柄を引き渡したものというべきである。 なお,被告は,米軍の執り得る行動として,いかなる場合にも日本の捜査 機関による引渡しの受領を待つしかないと主張しているわけではなく,合理的理由が認められる時間の間,まずは海上保安官が引渡しを受けに来るのを待つほかない旨主張しているものである。 ⑷ 米軍に,本件拘束後,原告に対して身柄拘束理由の告知を怠り,弁護人との接見をさせなかった違法が認められるか否か(争点4。請求1関係) (原告の主張)ア米軍による拘束下での憲法34条の保障 に,本件拘束後,原告に対して身柄拘束理由の告知を怠り,弁護人との接見をさせなかった違法が認められるか否か(争点4。請求1関係) (原告の主張)ア米軍による拘束下での憲法34条の保障憲法34条は,抑留又は拘禁された者は,その理由を直ちに告げられるとともに,直ちに弁護人に連絡し,弁護人を依頼する権利を有することを規定し,日米地位協定16条は,米軍は日本法を遵守すべきものと定めており, その保障は本件にも及ぶ。拘束理由を告げられる権利や弁護人選任権,接見 交通権は,国際的にも広く承認された普遍的な人権である。 したがって,米軍は,アメリカ合衆国の裁判権に服さない者を米軍施設等内で拘束し,抑留するに至った場合には,身体拘束の理由と根拠を被拘束者に告げた上,被拘束者の要求に応じ,直ちに被拘束者の指定する弁護士に連絡し,被拘束者を弁護士と接見させ,弁護士の援助を受けさせるようにさせ る法的義務があるというべきである。 イ米軍による憲法34条の不遵守しかしながら,本件拘束後,米軍は,原告に対して身柄拘束理由や根拠を告げなかっただけでなく,原告からの弁護士への連絡の要請を拒否し,原告の指定する弁護士に連絡することのないまま原告を約8時間抑留した行為 は,憲法34条に違反するものとして違法である。 (被告の主張)ア刑特法による逮捕時における憲法34条の保障の内容日米地位協定等において,日本国の裁判権のみに服する者の身柄を確保した場合に,米軍が被確保者に対して身柄確保の理由を告知すべき義務,ある いは弁護人選任権及び接見交通権を保障すべき義務は規定されていない。また,刑特法12条4項は,刑訴法203条等に規定する逮捕制限時間を米軍からの引渡時から起算すると定めており べき義務,ある いは弁護人選任権及び接見交通権を保障すべき義務は規定されていない。また,刑特法12条4項は,刑訴法203条等に規定する逮捕制限時間を米軍からの引渡時から起算すると定めており,これは,司法警察員等が引渡しによって身柄を受領した後に,直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人選任権の存在を告げた上,弁解の機会を与えることを前提としているものと解される。 これらのことからすると,日米地位協定等及び刑特法は,米軍が,日本国の裁判権のみに服する者の身柄を確保した場合に,米軍において,被確保者に対して身柄確保の理由を告知する義務,あるいは弁護人選任権及び接見交通権を保障する義務を負わないことを前提としているというべきである。 憲法上保障される適正手続等が一連のプロセスの中で担保されているか 否かは,米軍によって採られる措置だけを切り取って判断されるべきもので はなく,日米地位協定及びその一部をなす合意議事録並びに刑特法により規定される手続全体を俯瞰して判断されるべきものである。 米軍の構成員等が,職務上の法的義務に違背して,通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と公権力を行使して,原告の拘束理由を告げられる権利又は弁護人選任権及び接見交通権を侵害したとは認められないから,そ の行為に民特法1条の違法性は認められない。 イ米軍による原告の身柄拘束理由の告知なお,本件拘束後,原告が米軍に対して弁護士に連絡するよう求めたところ(ただし,弁護士の指定はしなかった。),米軍が弁護士に連絡しなかったことは認めるが,米軍が原告に対して身柄確保の理由を告げていないとの主 張は否認する。 米軍の構成員等は,午前9時45分頃,原告に対し,日本語の通訳を介して,「米国海兵隊の管 なかったことは認めるが,米軍が原告に対して身柄確保の理由を告げていないとの主 張は否認する。 米軍の構成員等は,午前9時45分頃,原告に対し,日本語の通訳を介して,「米国海兵隊の管理区域内に不法侵入した」旨を述べて,原告の身柄を確保した理由を告げた。 ⑸ 海上保安官による本件緊急逮捕に違法が認められるか否か(争点5。請求2 関係)(原告の主張)刑特法12条2項に基づき緊急逮捕をすることができるのは,①被疑者が日本国の法令による罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があり(以下「嫌疑の充分性の要件」という。),②急速を要し,あらかじめ裁判官の逮捕状を求 めることができないとき(以下「急速性の要件」という。)に,③その理由を告げてその者の引渡しを受ける場合のみである。 しかし,嫌疑の充分性の要件は,米軍から「直ちに」引渡しを受けるべき時に充足するものでなくてはならず,捜査の結果,これを充足し得る状況になったとしても緊急逮捕することは許されない。また,中城海上保安部所属の海上 保安官は,午前9時25分に米軍から引き渡す旨の通知を受けた後,直ちに原 告の身柄を引き受けることをしなかったのであり,自ら違法行為をした結果,急速を要する状況を招来したとしても,急速性の要件を満たすものではない。 したがって,本件緊急逮捕は,刑特法12条2項の要件を満たさずに行われたものであり,違法である。 (被告の主張) 刑特法12条は,米軍から引き渡す旨の通知を受けた後に日本の捜査機関が捜査を行うことを当然予定していると解されるから,同条2項の要件の有無は,日本の捜査機関が被確保者の身柄の引渡しを受ける時点で判断されるものというべきである。 本件において,中城海上保安部所属の海上保安官が米軍から原 予定していると解されるから,同条2項の要件の有無は,日本の捜査機関が被確保者の身柄の引渡しを受ける時点で判断されるものというべきである。 本件において,中城海上保安部所属の海上保安官が米軍から原告の身柄を引 き受けた際,嫌疑の充分性の要件及び急速性の要件が存したことは明らかであるから,本件緊急逮捕は,その要件に欠けるところはなく,適法である。 ⑹ 原告に生じた損害の有無,範囲(争点6。請求1及び2関係)(原告の主張)ア本件拘束後本件緊急逮捕までの拘束期間について(請求1関係) 原告は,海上のカヌーでの行動中に米軍に本件拘束をされ,ウェットスーツの内部に海水が入り,濡れた状態のまま,その後8時間にもわたって米軍による身柄の拘束を受けた。米軍に拘束されている間,寒い中,濡れたウエットスーツのままで過ごすことを余儀なくされ,また,身柄拘束の理由となる犯罪事実の要旨も告げられず,弁護人選任権の告知もされずに弁護人の援 助を受ける権利も保障されず,弁解を述べる機会も与えられず,さらに,引渡しを受けた司法警察員等により,直ちに釈放される機会も遅延させられた上,逮捕時間制限の起算点も不当に遅延させられ,精神的苦痛を被った。 これを慰謝するには,50万円の支払をもってするのが相当であり,上記慰謝料額や本件訴訟の困難性に鑑みれば,弁護士費用に係る損害は10万円 とすべきである。 イ本件緊急逮捕後の拘束期間について(請求2関係)原告は,違憲である刑特法12条2項に基づき,違法に本件緊急逮捕され,釈放されるまで,精神的苦痛を被った。 これを慰謝するには,50万円の支払をもってするのが相当であり,弁護士費用に係る損害は10万円とすべきである。 (被告の主張)原告に損害が発生した れるまで,精神的苦痛を被った。 これを慰謝するには,50万円の支払をもってするのが相当であり,弁護士費用に係る損害は10万円とすべきである。 (被告の主張)原告に損害が発生したとの主張は争う。 仮に海上保安官の行為が国賠法上違法と評価されるとしても,逮捕勾留等された者の慰謝料額の算定に当たっては,その期間の長短,その受けた精神的苦痛及び肉体的苦痛の内容及び程度,各捜査機関の故意過失の有無等一切の事情 を考慮することになると解されるところ,本件拘束後本件緊急逮捕までの8時間という時間自体が殊更長時間にわたったとはいえないこと,原告による犯罪事実の存在及び原告の身柄拘束の必要性自体を否定することはできないところ,原告が受けたとする損害の内容及び程度も,「直ちに」引渡しを受けた場合であれば生じなかったであろう法的利益の侵害の限度に限られること,海上保 安官には職務上の義務違背についての故意はなく,仮に過失があるとしても,その過失の程度も最小限度の範囲にとどまることなどを踏まえると,原告が主張する慰謝料額は大幅に減額されるべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点1(国会に,違憲の刑特法12条2項を立法し又はこれを放置した立法不 作為の違法が認められるか否か)⑴ 憲法33条の趣旨憲法33条は,何人も,現行犯として逮捕される場合を除いては,権限を有する司法官憲が発し,かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ,逮捕されない旨規定している。 これは,憲法が,犯罪を抑止するために犯罪に対する適正な刑罰を実現し, もって公共の治安を維持するという公共の福祉のためには,犯罪の嫌疑がある段階でその者を逮捕してその人身の自由を制限する必要がある場合があるこ 止するために犯罪に対する適正な刑罰を実現し, もって公共の治安を維持するという公共の福祉のためには,犯罪の嫌疑がある段階でその者を逮捕してその人身の自由を制限する必要がある場合があることを認めつつ,現行犯人として犯罪の嫌疑が明らかである者を除いては,犯罪の嫌疑がある者であっても,その嫌疑の相当性及び逮捕の必要性について権限ある司法官憲の審査に服さしめ,その発付する嫌疑犯罪を明示した令状による 場合に限り,被疑者の逮捕を許容することによって,捜査官憲による逮捕権の濫用を防止し,もって我が国におけるすべての者の人身の自由を,刑罰の実現という公益を害しない範囲で最大限保障する趣旨の規定であると解される。 このような憲法33条の規定の趣旨に鑑みれば,司法官憲による犯罪の嫌疑の相当性及び逮捕の必要性の審査は,原則として,捜査官憲による被疑者の逮 捕前に行われるべきものではあるが,特に犯罪の嫌疑が強く,逮捕の必要性が高く,かつ,捜査官憲が逮捕前に司法審査を求める余裕がない場合に限定して,逮捕後直ちに司法官憲から令状が発付されることを条件として,短時間の司法審査前の逮捕を容認することも,直ちに同条の趣旨に反するとまではいえないと解される。刑訴法210条1項が,一般に逮捕の必要性が高いということの できる死刑又は長期3年以上の自由刑を法定する重大な犯罪のみについて,充分な理由がある強い犯罪の嫌疑がある場合であって,捜査官憲にとっても急速を要し,裁判官の逮捕状を求めることができないときに限って,その理由を告げて被疑者を逮捕した後,直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をし,裁判官が逮捕の必要性を認めて逮捕状が発付されることのないときには,直ちに被疑者 を釈放すべきものとする厳格な制約の下に,緊急逮捕を認めたのは,以上 た後,直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をし,裁判官が逮捕の必要性を認めて逮捕状が発付されることのないときには,直ちに被疑者 を釈放すべきものとする厳格な制約の下に,緊急逮捕を認めたのは,以上の意味において憲法33条の規定の趣旨に反するものではないと解するのが相当である(最高裁昭和30年判決参照)。 原告の主張が,この最高裁昭和30年判決の趣旨自体を争う趣旨を含むものであるとすれば,その点については採用の限りでない。 ⑵ 刑特法12条2項の憲法33条適合性の有無 ア対象となる犯罪の法定刑が限定されていないことについて以上のような意味において合憲と考えられる刑訴法210条1項の規定する緊急逮捕とは異なり,刑特法12条2項の規定する緊急逮捕は,対象として許容する犯罪について,日本国の法令による罪という以外に,何ら限定を付していない。 この点,上記⑴に判示したように,刑訴法210条1項が緊急逮捕の対象となる犯罪を一定の法定刑以上の重大なものに限った趣旨が,これらの犯罪については一般に逮捕の必要性が高いということができる点に着目したものであると考えられることに照らせば,憲法33条の規定する司法官憲による令状主義の下で,専ら逮捕後の事後審査に基づく緊急逮捕が許 容されるためには,同様に逮捕の必要性が高い一定の犯罪に限定することは必要であると解される。 もっとも,その方法として,緊急逮捕の許容される対象犯罪を,法定刑以外によって限定することも許される場合があるとは考えられるものの,刑特法12条2項は,米軍施設等あるいはそれらの近傍において米軍によ って身柄を拘束された者で,日本国の法令による罪を犯したものとして日本の裁判権に服するものが日本側に引き渡される場合 のの,刑特法12条2項は,米軍施設等あるいはそれらの近傍において米軍によ って身柄を拘束された者で,日本国の法令による罪を犯したものとして日本の裁判権に服するものが日本側に引き渡される場合の受領の手続の一態様を規定するのみで,日本国の法令による罪という以上にはその対象となる犯罪に何ら罪種の限定を付していない。 しかし,緊急逮捕は逮捕の必要性が高い場合に限って許容されるべきで あるという上記の観点に照らすと,上記の刑特法12条2項の規定振りは,刑訴法による逮捕手続の場合であれば,特に逮捕の必要性が高いと考えられる例外的な事情のある場合を除き現行犯逮捕すらも許容されていない軽微事犯(刑訴法217条)についてすら,文理上,緊急逮捕が許容され得るとも読める点において,その対象犯罪がいささか広きに失している感 は否めない。 他方で,憲法33条は,現行犯として逮捕される場合を除いて,権限を有する司法官憲が発する令状によらなければ,逮捕されない旨を定めているにとどまるものであり,現行犯として逮捕された場合について,特に念を入れて,権限を有する司法官憲の事後審査に服さしめることを禁ずるものではないと解される。 この観点から刑特法12条2項が憲法33条に違反するか否かを検討すると,同項により米軍から身柄が引き渡されるべき者は,実際上,日米地位協定17条10項⒜等の規定に基づいて米軍により現行犯として身柄を拘束された者である場合(以下,このような米軍による身柄拘束を「現行犯的身柄拘束」という。)がほとんどであるとうかがわれるところ(甲 30の6~14),米軍は,日本国の捜査官憲や司法官憲と比して,日本国の法令について必ずしも熟知しているわけではないことから,日本法上現 」という。)がほとんどであるとうかがわれるところ(甲 30の6~14),米軍は,日本国の捜査官憲や司法官憲と比して,日本国の法令について必ずしも熟知しているわけではないことから,日本法上現行犯であると評価し得るかの点を含めた犯罪の嫌疑の充分性及び逮捕の必要性について,直ちに事後的な司法審査に服さしめることには,十分合理的な理由があると解される。もとより現行犯逮捕については,軽微事 犯においては逮捕の必要性に関する一定の要件が求められることはともかく,刑訴法上も対象罪種自体は限定されていないのであるから,刑特法12条2項の緊急逮捕類似の手続は,米軍により現行犯的身柄拘束を受けた者の身柄の引渡しに適用される限りにおいて,何ら憲法33条の規定の趣旨に反するものとはいえないというべきである。 イ身柄拘束が先行していることについて もっとも,刑特法12条2項の手続の憲法33条適合性を判断するに際しては,同項の手続に先行して常に被疑者が米軍により身柄拘束されていることにも,別に留意することが必要である。 この点,上記⑴に判示した憲法33条の規定の趣旨に鑑みれば,犯罪に 対する適正な刑罰の実現という逮捕制度の目的を離れては,人身の自由を 制限することになる逮捕を正当化することはできないものというほかなく,日米地位協定17条10項⒜,⒝に関する合意議事録1項中段2文や刑事管轄合意事項10項が,米軍当局により逮捕された者でその裁判権に服さないすべてのものについて,米軍は,その身柄を裁判権を有する日本の当局(捜査官憲)に直ちに引き渡すべきこととしているのも,上記の憲 法上の要請に配慮したものであると解される。そして,刑特法12条において,日本の司法警察員等は,米軍から引き渡す旨の通知があ の当局(捜査官憲)に直ちに引き渡すべきこととしているのも,上記の憲 法上の要請に配慮したものであると解される。そして,刑特法12条において,日本の司法警察員等は,米軍から引き渡す旨の通知があった場合には,あらかじめ裁判官の発した通常逮捕状を示して被疑者の身柄を引き受ける(1項)か,引き渡されるべき者に逮捕の理由を告げて身柄の引渡しを受けた後に直ちに裁判官の逮捕状を求め,これが発せられないときは, 直ちにその者を釈放する(2項)か,あるいは引き渡される者の身柄を受け取った後,直ちにその者を釈放する(3項)べきものとされ,これらの逮捕後直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げるべきことが定められている(4項により準用される刑訴法203条)のも,人身の自由を最大限保障した憲法33条の規定の趣旨に反して,司 法審査を受けないままでの逮捕期間がいたずらに長期化することのないよう,また,抑留又は拘禁後直ちに理由を告げられ,弁護人に依頼する権利を保障した憲法34条に反することのないよう,米軍による身柄拘束に引き続く逮捕の要件及びその手続を規定したものであると解される。 以上に判示したところに鑑みれば,米軍が現行犯的身柄拘束した者につ いて米軍から引き渡す旨の通知を受けた日本の司法警察員等としては,司法警察職員等が私人による現行犯人の逮捕を探知した場合(刑訴法214条参照)と同様の意味で,直ちに能動的にその身柄の引渡しを受けなければならないものと解される。日本の捜査官憲が,引き渡す旨の通知を受けた後に,米軍からその身柄拘束の原因となった事情を聴き取った上,身柄 の引渡しを受けるのに不可欠な事務上の手続に要する時間を掛けてその 身柄を引き受けることが許されるのは格別,これを超えて,新たな らその身柄拘束の原因となった事情を聴き取った上,身柄 の引渡しを受けるのに不可欠な事務上の手続に要する時間を掛けてその 身柄を引き受けることが許されるのは格別,これを超えて,新たな疎明資料を収集し,これを待ってから身柄を引き受けて逮捕手続に移行することまでが許されるという被告の主張は,米軍により身柄を拘束された者の中には,直ちに司法審査を受ければ,犯罪の嫌疑の充分性や逮捕の必要性を欠いているとして,早期に釈放されるべきと判断される者が含まれる可能 性があるにもかかわらず,司法審査を受けないまま,その身柄拘束をいたずらに継続させるものとして,憲法33条のおよそ想定,許容する解釈とはいえないというべきである。 刑特法12条4項が,逮捕の制限時間の起算点を,米軍による身柄拘束の開始時でなく,その引渡時としているのは,逮捕に先行する任意捜査に おいて捜査機関が一定の捜査情報を得ていることの多い刑訴法上の逮捕とは異なり,刑特法上の逮捕に先行する米軍によって身柄を拘束されている時間においては,日本の捜査機関が十分な捜査情報を収集できず,主に米軍から引き継がれた情報のみに基づいて逮捕の要否を判断することになることが多いと考えられることに鑑み,逮捕に引き続く勾留の準備に時 間的余裕を与えるための特例的扱いを定めたものであると解する余地はあるというべきであるが,このような特例的扱いは,日本の司法警察職員等によって迅速に身柄が引き受けられることが担保されてこそ,身柄を拘束されている被疑者に大きな不利益を与えないものとして,憲法上許容されると解されるものであって,上記の刑特法12条4項の規定は,むしろ 身柄引渡しの迅速性を強く要請する規定として理解するのが相当である。 被告は,この刑特法12条4項の規定を 憲法上許容されると解されるものであって,上記の刑特法12条4項の規定は,むしろ 身柄引渡しの迅速性を強く要請する規定として理解するのが相当である。 被告は,この刑特法12条4項の規定を根拠に,身柄の引渡し時までの時間は,刑訴法上の緊急逮捕に先立つ時間と質的に同じであると主張するが,同条による身柄の引渡しに際してはその前に米軍による身柄拘束が先行し,被疑者の人身の自由が奪われているという,刑訴法上の緊急逮捕と は根本的に異なる事情を軽視するものであって,採用することができない。 ウ刑特法12条2項の憲法33条適合的解釈刑特法12条2項は,以上のような解釈の下,少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束を受けた者に適用される限りにおいては,憲法33条に違反するものではないと解される。 ⑶ 刑特法12条2項の憲法31条適合性の有無 上記⑵アのように,刑特法12条2項は,少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束を受けた者の身柄の引渡しに適用される限りにおいて,対象罪種が限定されていないこと自体が憲法33条に反するとはいえない。 原告は,刑特法立法当時の政府答弁において,同法12条2項の定める緊急逮捕は,逮捕時間の起算点以外は,刑訴法210条1項の緊急逮捕と要件を同 じくするものであると明言されている旨主張するが,当該政府答弁(甲22)は,文脈上,手続的要件について上記の点以外は同じくするという意味のものであると解され,実体法的な対象罪種についてまで同じくすることを意味する答弁ではないと解される。 したがって,刑特法12条2項に基づく緊急逮捕の対象罪種が刑訴法210 条1項の緊急逮捕の対象罪種に限定されるという独自の解釈を前提として,刑特法12条2項が明確性を ないと解される。 したがって,刑特法12条2項に基づく緊急逮捕の対象罪種が刑訴法210 条1項の緊急逮捕の対象罪種に限定されるという独自の解釈を前提として,刑特法12条2項が明確性を欠き,憲法31条に違反する旨の原告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。 ⑷ 違憲の立法又はその放置の有無前記第2の3の前提事実⑶アによれば,原告に対する本件拘束は,現行犯的 身柄拘束に当たることは明らかであり,その本件拘束後の原告の身柄の引渡しに刑特法12条2項を適用することそれ自体について,憲法33条,31条に違反して違憲であるということはできない。 したがって,違憲の刑特法12条2項を立法し,これを改廃せずに放置した立法不作為が国賠法上違法であるとする原告の主張は,その余の点につき判断 するまでもなく,同条項が原告に対する関係で違憲であるという前提を欠くも のとして,理由がない。 2 争点2(海上保安官に,本件拘束後,原告の身柄を米軍から直ちに引き受けなかった違法が認められるか否か。請求1関係)⑴ 司法警察員等の注意義務前記1⑵イに判示したところによれば,米軍が身柄を拘束した者について, 米軍から引き渡す旨の通知を受けた司法警察員等は,職務上直ちにその身柄を引き受けるべき高度の注意義務を負っているというべきであり,現にその者の人身の自由が制約されている状態が先行していることに照らし,その身柄の引受けには迅速性が強く要請されると解される。そうすると,司法警察員等が直ちにその身柄を引き受けたといえるか,すなわち,身柄拘束後引渡しまでの時 間の経過に合理性があるといえるかについては,これを厳格に吟味する必要があるというべきである。 ⑵ 認定事実これを 柄を引き受けたといえるか,すなわち,身柄拘束後引渡しまでの時 間の経過に合理性があるといえるかについては,これを厳格に吟味する必要があるというべきである。 ⑵ 認定事実これを本件についてみると,前記前提事実並びに証拠(甲32,乙1,3,5,6(枝番含む。以下同様。),8,証人B,原告本人)及び弁論の全趣旨に よれば,原告の身柄の引渡しをめぐる事実経過について,以下の事実が認められる。 ア原告が午前9時22分頃に米軍に現行犯的身柄拘束(本件拘束)されてから約3分後の午前9時25分頃,中城海上保安部は,米軍から電話で,「午前9時22分,キャンプ・シュワブシアター付近にて,カヌーで抗議に来た『A』 なる者を確保した」旨の連絡を受け,さらに,午前9時30分頃,沖縄防衛局から電話で,「辺野古崎において,上陸した男性1名を憲兵隊が拘束した。 憲兵隊が拘束した理由は,辺野古崎に上陸したためである」旨の連絡を受けた。 第11管区海上保安本部は,午前9時45分頃,沖縄県警察から,警察に おいても米軍に拘束された者がいるとの情報を得ている旨を聞くとともに, 海上保安庁がその身柄の引渡しを受けるか否かについて問合せを受け,これに対して,事実関係を確認中である旨を回答した。 イ第11管区海上保安本部は,午前11時頃,米軍から電話で,「キャンプ・シュワブに海上から不法侵入した『A』なる人物の身柄を確保した。現在,キャンプ・シュワブ内で拘束中である。米軍は,日米地位協定の合意事項に より,身柄を確保した場合は,直ちに引き渡さなければならないので,身柄を引き取ってほしい」旨の連絡を受けた。 ウさらに,中城海上保安部は,午前11時40分頃,米軍から電話で,「憲兵隊が『A』を確保した現場に警察官が到着し ,直ちに引き渡さなければならないので,身柄を引き取ってほしい」旨の連絡を受けた。 ウさらに,中城海上保安部は,午前11時40分頃,米軍から電話で,「憲兵隊が『A』を確保した現場に警察官が到着した。状況確認のため,海上保安庁の職員を向かわせて下さい。」という旨の連絡を受け,午前9時25分頃 の時点で既にキャンプ・シュワブ内の詰所にいた同海上保安部所属の海上保安官1名は上記現場に赴き,午前11時52分から午後0時20分までの間,同所において,被拘束者の米軍施設等侵入行為を目撃してその身柄を拘束した日本人の憲兵隊員から,被拘束者の侵入位置,身柄確保時の具体的な状況等に係る事情を聴取した。その際,当該憲兵隊員は,当該海上保安官に対し, 「憲兵隊員が,カヌーに乗り制限区域内に侵入した60代と思われる男性に手を掛け,制限区域外に出るよう警告していたところ,これを海上から目撃していた『A』なる者が,カヌーを降り,米軍施設敷地内に上陸し,上記男性を奪還しようとして憲兵隊と揉み合う形になったため,奪還しようとした者の身柄を確保した。現在その者の身柄は,キャンプ・シュワブ内憲兵隊事 務所内で確保中である。」旨説明した。 エ第11管区海上保安本部は,午後2時頃,米軍から上記の身柄確保中の者の引渡しに関する問合せを受け,午後2時5分頃,中城海上保安部がその身柄の引渡しを受けることを決定し,午後2時10分頃には,沖縄県警察に対して,中城海上保安部において刑特法12条の規定によりその身柄の引渡し を受ける旨を連絡するとともに,午後2時30分頃には,米軍に対しても, その身柄の引渡しを受ける旨を伝えた。 オその後,中城海上保安部所属の海上保安官は,午後3時20分頃,沖縄防衛局の委託により警備を行っていた民間警備会社の警 分頃には,米軍に対しても, その身柄の引渡しを受ける旨を伝えた。 オその後,中城海上保安部所属の海上保安官は,午後3時20分頃,沖縄防衛局の委託により警備を行っていた民間警備会社の警備員が,不法侵入時の状況を撮影した映像を所持しているとの情報を得たため,午後3時30分頃,上記会社に対して映像提供を依頼してその応諾を得,午後3時50分頃から 午後4時18分頃までの間,キャンプ・シュワブ内の憲兵隊事務所において,上記映像を確認した。 カ中城海上保安部所属の海上保安官は,午後5時22分,キャンプ・シュワブ内の憲兵隊事務所敷地において,米軍から,本件拘束を受けていた者(原告)の身柄の引渡しを受けるとともに,その本名が記載され,罪名等として 不法侵入が記載されるなどした書面(乙6)の交付を受け,刑特法12条2項に基づく手続として,原告を本件被疑事実で逮捕した(本件緊急逮捕)。 ⑶ 本件拘束に係る引き渡す旨の通知の時期上記⑵の認定事実によれば,午前9時25分の米軍から中城海上保安部への電話連絡後間もない午前9時45分頃には,既に,第11管区海上保安本部と 沖縄県警察との間で,いずれの機関が身柄の引渡しを受けるかの協議がされていることが明らかである。 この点,上記⑴に判示したように,司法警察員等としては,被拘束者の人身の自由に対する制限を憲法上許される最小限のものにとどめるべき観点から,米軍からの積極的要請がなかったとしても,米軍の裁判権に服さない者の身柄 を能動的に直ちに引き受けるべき高度の注意義務を負っているものと解されるところ,上記の午前9時25分の米軍からの電話連絡において,拘束した者の身柄を引き渡すとの趣旨が明瞭に言語化まではされていなかったとしても,その電話連絡の内容からは,被拘束 負っているものと解されるところ,上記の午前9時25分の米軍からの電話連絡において,拘束した者の身柄を引き渡すとの趣旨が明瞭に言語化まではされていなかったとしても,その電話連絡の内容からは,被拘束者が米軍の裁判権に服さない者であることは明らかになっていたと考えられる。一方の米軍にとっても,米軍の裁判権に 服さない者の身柄を長時間その拘束下に置いておく必要性も許容性も乏しい と考えられることからすると,伝達された身柄拘束理由に照らして米軍の裁判権に服さないことが明らかである者については,米軍が日本国の当局にその者の身柄を拘束した旨通知しただけであっても,合意議事録に従って直ちに身柄を引き渡そうとする意思の発現として認識することは,文脈上,十分に可能であると考えられるものである。実際上も,上記のとおり,午前9時25分の米 軍からの電話連絡後間もない時間帯に,第11管区海上保安本部と沖縄県警察との間で,いずれの機関において身柄を引き受けるべきかの協議がされている上,米軍においても,7分のずれがあるとはいえ,報道機関に対し,午前9時32分には海上保安庁に原告の身柄を引き渡す旨の通知をしたと説明したとうかがわれること(甲1の1・3)は,上記の電話連絡がされた頃において, 米軍及び日本国の関係官憲の間で,そのような文脈の認識が共有されていたことの証左というべきである。 以上によれば,午前9時25分の米軍から中城海上保安部への電話連絡は,刑特法上の引き渡す旨の通知に当たると解するのが相当である(以下,この電話連絡を「本件引き渡す旨の通知」という。)。米軍から,午前11時頃,第1 1管区海上保安本部に対して,日米地位協定の合意事項に言及する形で,原告の身柄を引き取ってほしい旨の改めて連絡された事実があるとしても, 渡す旨の通知」という。)。米軍から,午前11時頃,第1 1管区海上保安本部に対して,日米地位協定の合意事項に言及する形で,原告の身柄を引き取ってほしい旨の改めて連絡された事実があるとしても,これは,日本の当局が原告の身柄の引受けに現れないことに米軍がいわばしびれを切らし,確認的に注意喚起をしてその早急の引取りを要望した行為として理解するのが相当というべきであり,同連絡をもって初めての引き渡す旨の通知とし て理解するのは相当でない。 以上に反する被告の主張は,採用することができない。 ⑷ 原告の身柄の引渡しまでに要した時間の合理性アそうすると,中城海上保安部は,午前9時25分に米軍から本件引き渡す旨の通知を受けてから,現実に同所属の海上保安官がその身柄を引き受けた 午後5時22分まで,約8時間を要しているというべきであり,当該時間の 経過について合理性があるといえなければ直ちに身柄を引き受けたとはいえず,その身柄引受け行為は,上記の注意義務に違反して国賠法上違法というべきである。 これについて,被告は,①特別司法警察職員である海上保安官としての権限の確認,②身柄を引き受けるべき者の人定事項及び逮捕要件の有無並びに 身柄引受けの方法を判断するための捜査,並びに③収容時の警備態勢の整備に要した合理的時間であったと主張するため,以下,かかる被告の主張の当否を検討する。 イこの点,まず,上記ア①の特別司法警察職員である海上保安官としての権限の確認については,本件において,米軍は,中城海上保安部に対し,午前 9時25分に身柄を拘束した者がカヌーで抗議に来た者であることを知らせているものであるから(本件引き渡す旨の通知),当該被拘束者は,「海上における犯人」に当たる蓋然性が強く疑われる状況 午前 9時25分に身柄を拘束した者がカヌーで抗議に来た者であることを知らせているものであるから(本件引き渡す旨の通知),当該被拘束者は,「海上における犯人」に当たる蓋然性が強く疑われる状況にあったといえる。上記⑴に判示したように,日本の司法警察員等としては,米軍に拘束されている米軍の裁判権に服さない者の身柄を能動的に直ちに引き受けるべき憲法規 範上の高度の注意義務を負っていると解されることに照らせば,引き渡す旨の通知において,上記のように米軍の裁判権に服さないことの明らかな被拘束者が「海上における犯人」であることが強く疑われる状況下においては,海上保安官としては,米軍側から能動的に情報を収集して「海上における犯人」にむしろ当たらないことを積極的に確認したといった事情の存在しない 限り,その身柄を直ちに引き受けるべき注意義務を免れることはないというべきである。 もっとも,本件においては,沖縄防衛局から中城海上保安部に対して,辺野古崎に上陸したために身柄を拘束された者がいるという旨の連絡が午前9時30分にあり(前記⑵認定事実ア),そこでの被疑事実は陸上の犯罪で あることが前提とされており,また,沖縄県警察から中城海上保安部に対し ても身柄の引受けの意向が確認されていたことからすれば,米軍においても,日本の捜査官憲の所掌分担を理解した上で,海上における犯人に関する事務を所掌する海上保安部には海上犯罪として,沖縄県警察等の一般の関係機関には陸上犯罪として,それぞれ身柄拘束の理由を告知することで,いずれの機関でもよいから身柄を引受けに来るよう求める趣旨の連絡をしていた可 能性がある(米軍がその裁判権に服さない者を直ちに日本の当局に引き渡すべきものとされた日米地位協定等上の義務内容に鑑みれば,海上か でもよいから身柄を引受けに来るよう求める趣旨の連絡をしていた可 能性がある(米軍がその裁判権に服さない者を直ちに日本の当局に引き渡すべきものとされた日米地位協定等上の義務内容に鑑みれば,海上から陸上にかけて行われた一連の行為を構成する犯罪について,米軍が,所轄権限を有するいずれの捜査機関でもよいから身柄を引き受けられたいとの趣旨で日本の当局に引き渡す旨の通知をすること自体は,一定の合理性があると考え られる。)。 しかし,仮に,上記の一般の関係機関に対してされた可能性のある連絡のように,当該被拘束者について辺野古崎に上陸したことが問題とされる余地があるとしても,当該被拘束者がカヌーで抗議に来たという本件引き渡す旨の通知における連絡内容と,辺野古崎と臨時制限区域との位置関係(別紙参 照)からは,その上陸以前に海上の臨時制限区域に侵入したものとして,やはり当該被拘束者が「海上における犯人」であることが疑われる状況にあったというべきであり,このことに照らせば,上記のように,米軍から中城海上保安部に直接された本件引き渡す旨の通知とは若干内容を異にする連絡が沖縄防衛局からあったとしても,これをもって,米軍に拘束されている者 の身柄を直ちに引き受けるべき海上保安官の前記注意義務が軽減される状況にあったとはいえない。 そもそも,本件被疑事実に係る侵入場所とされた海上の臨時制限区域とキャンプ・シュワブのように,刑特法2条所定の罪の対象となる米軍施設等として海上の区域と陸上の施設又は区域が隣接,連続していて,前者を経由し て後者に侵入したような場合,これらは一連の行為として,別個に処罰の対 象になることはない「同一の犯罪」(憲法39条)の関係にあると解されるところ,このような「同一の犯罪」について,一 て後者に侵入したような場合,これらは一連の行為として,別個に処罰の対 象になることはない「同一の犯罪」(憲法39条)の関係にあると解されるところ,このような「同一の犯罪」について,一般の司法警察職員と特別司法警察職員である海上保安官とが,重複して捜査権限を有する事態が発生し得ることは,本件拘束以前から十分に想定することができたと考えられる。そして,そのような事態が発生した場合に備え,海上保安庁と警察庁との間な どで,そうした場合において引き渡す旨の通知に対応すべき官憲を,あらかじめ協議ないし申し合わせておくこと(海上保安庁法28条の2も参照)も可能であったと考えられることに照らしても,特別司法警察職員である海上保安官としての権限の確認に時間を要することが,原告の身柄の引受けを遅延したことの合理的理由になるものではないと解するのが相当である。 ウ次に,上記ア②のうち,身柄を引き受けるべき者の逮捕要件の有無を判断するための捜査については,憲が,引き渡す旨の通知を受けた後に,米軍からその身柄拘束の原因となった事情を聴き取り,身柄を引き受けるのに不可欠な事務上の手続に必要な時間を超えて,新たな疎明資料を収集し,これを待ってから身柄を引き受けて 逮捕手続に移行するようなことは,憲法33条の想定,許容するところではないというべきである。 これを本件についてみると,前記⑵の認定事実ウによれば,中城海上保安部所属の海上保安官は,米軍から本件引き渡す旨の通知を受けた午前9時25分には,既にキャンプ・シュワブ内の詰所におり,同所は,本件拘束の現 場まで12分以内に赴くことのできる位置にあったと認められるところ,同海上保安官が,上記の通知後直ちに現場に赴いて原告による本件被疑事実に係る行為を目撃した憲 所におり,同所は,本件拘束の現 場まで12分以内に赴くことのできる位置にあったと認められるところ,同海上保安官が,上記の通知後直ちに現場に赴いて原告による本件被疑事実に係る行為を目撃した憲兵隊員から,実際の時系列においては午前11時52分から午後0時20分までの間に実施されたのと同様の事情聴取を行うことを妨げるべき事情があったとは特段うかがわれないことからすれば,中城 海上保安部としては,遅くとも本件引き渡す旨の通知後1時間以内には,上 記海上保安官をして上記憲兵隊員からの事情聴取を完了することが十分可能であったと考えられる。 そして,実際の時系列においても,上記の事情聴取から,同認定事実エのとおり,中城海上保安部が午後2時5分頃に原告の身柄を引き受けることを決定するまでの間に,その決定の動機となった格別の事情が存在したともう かがわれず,人定事項についても,これが特定されないままでも写真等によって人物を特定して逮捕することは可能であり,人定のための捜査が逮捕前に不可欠であるとはいえないことに照らせば,中城海上保安部ないし第11管区海上保安本部としては,専ら上記の事情聴取結果に基づいて,原告の身柄を直ちに引き受けることは可能であったと考えられるものであり,身柄引 受けのために不可欠な事務上の手続に要する時間を考慮しても,本件においては,遅くとも本件引き渡す旨の通知後2時間以内には,現実に原告の身柄を引き受けることができたものと認めるのが相当である。 なお,身柄引受けの方法を刑特法12条1項と2項のいずれの手続によるべきかについては,上記のような合理的時間内に,これと並行的に通常逮捕 状を取得することができる状況にあるかという観点から検討されるべきであり,これまでに判示したように 項のいずれの手続によるべきかについては,上記のような合理的時間内に,これと並行的に通常逮捕 状を取得することができる状況にあるかという観点から検討されるべきであり,これまでに判示したように,同条による身柄の引受けには迅速性が強く要請されることに照らせば,専らその身柄引受けの方法の決定のために身柄の引受け自体を遅延させることに,憲法上の合理性を見出すことはできないというべきである。 以上によれば,原告の人定事項を捜査し,身柄引受けの方法を判断するために要したとする時間については,原告の身柄の引受けを遅延したことの合理的理由にはならず,逮捕要件の有無を判断するために要した時間も,本件引き渡す旨の通知から2時間を超えて原告の身柄の引受けを遅延させる合理的理由にはならないというべきである。 エさらに,上記ア③の収容時の警備態勢の整備についても,刑特法12条に よる身柄の引受けには迅速性が強く要請され,身柄拘束の原因となった犯罪事実に係る嫌疑の有無及び逮捕の必要性についての司法審査と,身柄を拘束された者が釈放されない場合には犯罪事実の要旨及び弁護人選任権の告知とが,いずれも直ちに保障されるべきである一方,刑訴法上も,必要のある場合には逮捕した者を引致すべき場所を官公署に限らないものとされてい ること(刑特法12条4項,刑訴法210条2項,200条)に照らせば,本件においても,原告の身柄を直ちに引き受けて緊急逮捕し,その身柄をキャンプ・シュワブ内の海上保安官の詰所等に引致後,同キャンプ外の警備態勢を整えてからしかるべき留置場所に身柄を移すこともできたと解される。 以上のような運用も法的に許容されていることからすると,警備態勢の整備 のために身柄の引受けを遅延させるというのは本末転倒であるといわざ らしかるべき留置場所に身柄を移すこともできたと解される。 以上のような運用も法的に許容されていることからすると,警備態勢の整備 のために身柄の引受けを遅延させるというのは本末転倒であるといわざるを得ず,その整備に要したとする時間をもって,原告の身柄の引受けを遅延する合理的な理由になると認めることはできない。 ⑸ 小括以上によれば,本件引き渡す旨の通知後,海上保安官が,憲兵隊員から事情 聴取を行った上,原告の身柄の引受けに不可欠な事務上の手続に要したと考えられる長くても2時間を超えて,原告の身柄の引受けを遅延させたことについて,合理的理由があると認めることはできないから,中城海上保安部所属の海上保安官には,職務上の注意義務に違反して,本件拘束を受けた原告の身柄を直ちに引き受けなかった国賠法上の違法があると認められる。 3 争点3(米軍に,本件拘束後,原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さなかった違法が認められるか否か。請求1関係)⑴刑特法は,米軍が身柄を拘束したその裁判権に服さない者について,日米地位協定等上,その身柄は直ちに米軍から日本の当局に引き渡されるべきであることを前提として,その後の憲法上の権利を 保障するための手続を,日本の司法警察員等において適正に行うことを予定し ていると解されるものであり,これが遵守されている限り,その手続が直ちに違憲であるとはいえないと解されることに照らせば,米軍がその裁判権に服さない者の身柄を拘束した場合,米軍としては,直ちに日本国の当局に対して引き渡す旨の通知を行っていれば,その後,刑特法上日本の捜査官憲が直ちにこれを引き受けるべきことが予定された時間までの間,引き続きその身柄を留め 置くことは,憲法上の要請に違反して違法であるとまで き渡す旨の通知を行っていれば,その後,刑特法上日本の捜査官憲が直ちにこれを引き受けるべきことが予定された時間までの間,引き続きその身柄を留め 置くことは,憲法上の要請に違反して違法であるとまではいえないと解される。 これを本件についてみると,前記2⑵の認定事実のとおり,米軍は,午前9時22分頃に原告の身柄を拘束した(本件拘束)約3分後の午前9時25分頃には,中城海上保安部所属の海上保安官に対し,その旨を連絡して,本件引き渡す旨の通知を行っていることからすれば,米軍としては,日本国の捜査機関 当局に対して直ちに刑特法上予定された引き渡す旨の通知を行ったというべきであり,刑特法上,海上保安官が原告の身柄を引き受けることができたと考えられる同通知後2時間までの間は,米軍に,原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さない違法行為があったとは認められないというべきである。 ⑵ 次に,原告の身柄の拘束が本件引き渡す旨の通知後2時間を超えて米軍の下 で継続されたことについては,上記2のとおり,中城海上保安部所属の海上保安官に,その身柄を直ちに引き受けなかった国賠法上の違法が認められるところ,この時間については,仮に米軍に原告の身柄を日本の当局に直ちに引き渡さない違法行為があったと認められるとしても,これにより原告に生じた損害は,上記の海上保安官の違法により生じた損害と完全に重なり合う。そして, 当該米軍の行為について賠償責任を負う法主体が,民特法1条により,海上保安官の違法行為について賠償責任を負うべき法主体と同一の被告国とされていることに照らせば,上記のとおり海上保安官の行為が違法であるとの認定に重ねて,この時間に係る米軍の行為の適否を判断する要をみない。 4 争点4(米軍に,本件拘束後,原告に対して身柄拘束理由の れていることに照らせば,上記のとおり海上保安官の行為が違法であるとの認定に重ねて,この時間に係る米軍の行為の適否を判断する要をみない。 4 争点4(米軍に,本件拘束後,原告に対して身柄拘束理由の告知を怠り,弁護 人との接見をさせなかった違法が認められるか否か。請求1関係) ⑴ 米軍の行為が憲法34条に違反するか否かについても,基本的に争点3について上記3に判示したところと同様というべきであり,刑特法上,中城海上保安部所属の海上保安官が原告の身柄を引き受けるべきことが予定された本件引き渡す旨の通知後2時間までの間は,仮に,米軍が原告に対して身柄拘束理由の告知をせず,弁護人と接見させなかったとしても,そのことが違法である とまではいえないと解される。 ⑵ そして,原告が,本件引き渡す旨の通知後2時間後の本来あるべき時期に身柄拘束理由を告知されず,弁護人との接見を認められなかったとしても,そのことは,前記2に判示した海上保安官の違法行為とも相当因果関係があるというべきであるから,これに重ねて,米軍の行為の適否を判断する要をみない。 5 争点5(海上保安官による本件緊急逮捕に違法が認められるか否か。請求2関係)⑴ 前記1⑵イに判示したとおり,刑特法12条2項は,憲法33条の規定の趣旨に反して,司法審査を受けないままでの逮捕期間がいたずらに長期化することのないよう,日本の司法警察員等に,身柄の引渡しを受けた後直ちに裁判官 の逮捕状を求めなければならない義務を課しているものであり,同項による緊急逮捕が,司法審査を受けないままでもいたずらに身柄拘束が長期していないものとして合憲であるといえるためには,それに先立つ身柄の引受けも直ちに行われていることが必要不可欠であるものと解される。 ⑵ これを本 法審査を受けないままでもいたずらに身柄拘束が長期していないものとして合憲であるといえるためには,それに先立つ身柄の引受けも直ちに行われていることが必要不可欠であるものと解される。 ⑵ これを本件についてみると,前記2で検討したとおり,中城海上保安部とし ては,遅くとも午前9時25分の本件引き渡す旨の通知後2時間を経過した時点では原告の身柄を引き受けるべきであったものであり,これを遅延させたことに合理的理由を認めることはできない以上,これに引き続いてされた本件緊急逮捕が憲法に適合した適法なものであると解する余地はない。 なお,原告は,中城海上保安部所属の海上保安官が直ちに原告の身柄を引き 受けなかったという事実に基づき,本件緊急逮捕が,法律上嫌疑の充分性の要 件及び急速性の要件を欠く旨主張しているが,中城海上保安部所属の海上保安官が直ちに原告の身柄を引き受けなかった事実に基づいて,本件緊急逮捕の適法性がどのように考えられるかは,専ら法律上の評価にかかわるものとして,裁判所の専権判断に属する事項というべきである。 ⑶ 中城海上保安部所属の海上保安官は,適法に緊急逮捕を行うべき職務上の注 意義務に違反して本件緊急逮捕を行ったものというべきであるから,本件緊急逮捕は,国賠法上違法であると認められる。 6 争点6(原告に生じた損害の有無,範囲)⑴ 前記2及び5の検討結果によると,本件引き渡す旨の通知後の海上保安官による原告の身柄の引受けの遅延及びその後の本件緊急逮捕は,いずれも海上保 安官が,職務上の注意義務に少なくとも過失により違反してした国賠法上違法な行為というべきであり,被告は,同法1条1項に基づき,上記各違法行為によって生じた原告の損害を賠償すべき義務を負うから,以下,原告に生じた損害 意義務に少なくとも過失により違反してした国賠法上違法な行為というべきであり,被告は,同法1条1項に基づき,上記各違法行為によって生じた原告の損害を賠償すべき義務を負うから,以下,原告に生じた損害の有無,範囲について検討する。 ⑵ この点,前記第2の3の前提事実並びに証拠(甲32,原告本人)及び弁論 の全趣旨によれば,本件拘束後の原告の処遇の状況について,以下の事実が認められる。以下のアないしウの事実に沿う原告の供述は,具体的で迫真性に富むものと認められ,その信用性を疑うべき事情は格別見当たらない。 ア原告は,午前9時22分に臨時制限区域内の浅瀬で身柄を拘束された(本件拘束)後,米軍の憲兵隊員らによって,辺野古崎付近の陸上に引き揚げら れ,その頃,原告の身柄を拘束した日本人憲兵隊員により,本名の姓を呼ばれて,陸に上がっていることが刑特法違反である旨を告げられた。原告は,その後,徒歩と通訳の同乗する車両とでキャンプ・シュワブ内の憲兵隊事務所に連行されたが,途中,休憩と所持品検査などの時間を挟んだため,到着したのは正午前頃になっていた。この間の車両での移動中には,原告には手 錠が掛けられ,原告は,車両を降ろされて憲兵隊事務所に移動するまでの間 に,通訳に対し,弁護士への連絡も求めたが,通訳は,そうしたことは警察署に移ってからになる旨告げて,これに取り合わなかった。 イ原告は,連行された憲兵隊事務所において,壁に両手を付くように言われて改めて所持品検査をされた。原告が着用していたウェットスーツからは水が滴り落ちて床が濡れ,やがて通り掛かった米軍の上官が叱責して部下にモ ップで床を拭かせるほどであった。原告は,上記所持品検査後,同事務所玄関ホールの壁際に設置された長椅子に座らされ,その正面約2メートル程度 が濡れ,やがて通り掛かった米軍の上官が叱責して部下にモ ップで床を拭かせるほどであった。原告は,上記所持品検査後,同事務所玄関ホールの壁際に設置された長椅子に座らされ,その正面約2メートル程度の距離に,拳銃を携帯した米軍のアメリカ人軍警官3名が,15分ないし20分ごとに交替で立哨して,原告を常時監視する状態が,午後5時に同事務所が閉められるまで概ね続いた。 もっとも,この間,米軍は,着替えを許されずにいた原告が,時折現れた通訳を介して寒さを訴えると,温風機を持ってきて原告に使わせたり,食事としてハンバーガーと水を原告に差し入れたり,やがて寒さに耐えきれなくなった原告が,体を温めるため,立ち上がってその場で運動するのは黙認したりしていた。 ウ午後5時頃,上記の憲兵隊事務所を出された原告は,車両でキャンプ・シュワブのゲート付近まで移動させられ,10分ほど待機していると,中城海上保安部所属の海上保安官が原告の身柄を引受けに現れ,同保安官は,午後5時22分,原告を刑特法違反の罪に当たる本件被疑事実で逮捕する旨告げて緊急逮捕した(本件緊急逮捕)。 エその後,原告の身柄は中城海上保安部に引致され,同所において,中城海上保安部所属の司法警察員である海上保安官は,原告に対し,午後7時6分から午後7時16分までの間,犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上,弁解の機会を与えた。原告は,午後7時53分頃から午後8時32分頃までの間,中城海上保安部において,弁護人となろうとす る者と接見した。 オ中城海上保安部所属の司法警察員である海上保安官は,午後10時27分,沖縄簡易裁判所裁判官に対し,本件緊急逮捕に係る逮捕状の発付を請求し,沖縄簡易裁判所裁判官は,平成28年4月2日 オ中城海上保安部所属の司法警察員である海上保安官は,午後10時27分,沖縄簡易裁判所裁判官に対し,本件緊急逮捕に係る逮捕状の発付を請求し,沖縄簡易裁判所裁判官は,平成28年4月2日午前4時35分,同逮捕状を発付した。 原告は,同日午後3時55分,那覇地方検察庁検察官に送致された後,同 日午後7時15分,釈放された。 ⑶ 上記⑵に認定した事実によれば,原告は,本件拘束後2時間程度の時間を掛けてキャンプ・シュワブ内の憲兵隊事務所に連行された上,濡れたウェットスーツからの着替えも許されないまま,同所に事実上留め置かれ,言葉の通じない米軍の武装した軍警官により監視され続けて,寒さや不安や恐怖による精神 的苦痛を感じる状況に長く置かれたと認めることができる。この間,温風機や食事が差し入れられるなどの事情があったとしても,その後も,原告がその場で運動して体を温めようとするのを軍警官も黙認するような状況にあったことからすると,上記の憲兵隊事務所は,留置に適切,十分な環境にあったとはいい難いというべきである。この憲兵隊事務所に事実上留め置かれた時間が, 前記2のとおり海上保安官による身柄の引受けが可能であったと解される本件引き渡す旨の通知から2時間経過後の時間と概ね一致するとうかがわれることにも鑑みれば,原告が以上のとおり憲兵隊事務所において被ったと認められる精神的苦痛は,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによって原告に生じた損害として認められるというべきである。 また,原告は,本件拘束後陸上に引き揚げられて間もなく,米軍の日本人憲兵隊員から犯罪事実を告知されている外形が一応存在するものの,その告知内容は,臨時制限区域内の浅瀬での本件拘束が先行しているにもかかわらず,その後に上陸したこと き揚げられて間もなく,米軍の日本人憲兵隊員から犯罪事実を告知されている外形が一応存在するものの,その告知内容は,臨時制限区域内の浅瀬での本件拘束が先行しているにもかかわらず,その後に上陸したことを犯罪事実として告知するものであるから,当該犯罪事実は,これに先行する浅瀬での本件拘束に係る身柄拘束理由にはなり得ないもの であり,その告知内容は,憲法34条の要求する身柄拘束理由の告知としては 不十分ないし不正確なものにとどまっている。弁論の全趣旨によれば,原告は,本件緊急逮捕時に,身柄拘束の理由として正確な本件被疑事実を初めて告げられたものとうかがわれるところ,米軍による拘束時間が長引いた結果,早期に正確な身柄拘束理由や弁護人選任権の告知を受けたり,弁護人と接見したりする機会が奪われたものといえることからすると,これらによる精神的苦痛もま た,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによって原告に生じた損害として認められるというべきである。 原告には,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによって,以上の精神的苦痛が生じたものというべきであるが,他方,海上保安官が適切な時刻に身柄を引き受けていれば,原告の本件被疑事実については,その時刻 において判明していた事実のみによっても,緊急逮捕のための嫌疑の充分性の要件と急速性の要件を満たすとともに逮捕の必要性があったことも直ちには否定し難かったと考えられるところであって,適法に緊急逮捕されていた蓋然性が高いことに照らすと,原告がこの間身柄を拘束され続けた事実自体を,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによる損害として重視す ることまではできない。 以上の事情を総合考慮すると,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによって 体を,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによる損害として重視す ることまではできない。 以上の事情を総合考慮すると,海上保安官による原告の身柄の引受けが遅延したことによって原告の被った精神的苦痛を慰謝するための金額として3万円を認めるのが相当であり,この金額その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると,同慰謝料を請求するための弁護士費用のうち1万円も,上記の遅延行為 と相当因果関係のある原告の損害として認めるのが相当である。 ⑷ また,前記5に判示したとおり,本件緊急逮捕は,先行する身柄の引受けが遅延したことにより違憲,違法な手続であったと考えられ,遅延して原告の身柄を引き受けた海上保安官としては,憲法33条の規定の趣旨に照らし,原告を直ちに釈放すべきであったと解されることに照らすと,原告の身柄引受けと 同時にされた違法な本件緊急逮捕により原告がその身柄を拘束され続けたこ とも,原告に生じた損害というべきである。 本件緊急逮捕後原告が実際に釈放されたまでの約26時間の身柄拘束時間は,本件引き渡す旨の通知2時間経過後から本件緊急逮捕までの約6時間の身柄拘束時間よりも相当に長い時間といえる一方で,原告にとって言葉の通じる日本の当局による押送,留置下の環境は,キャンプ・シュワブ内の憲兵隊事務 所において事実上留め置かれていた間と比べると,相当程度は改善されたものであったと推認されるなどの事情を総合考慮すると,本件緊急逮捕により原告が身柄の拘束を継続されたことによって原告の被った精神的苦痛を慰謝するための金額としても,3万円を認めるのが相当であり,この金額その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると,同慰謝料を請求するための弁護士費用のうち 1万円も,違法な本件緊急逮捕と相当因果関係のある ための金額としても,3万円を認めるのが相当であり,この金額その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると,同慰謝料を請求するための弁護士費用のうち 1万円も,違法な本件緊急逮捕と相当因果関係のある原告の損害として認めるのが相当である。 ⑸ 以上によれば,原告に生じた損害額として,海上保安官による原告の身柄の引受けの遅延によるものとして4万円,本件緊急逮捕によるものとして4万円を,それぞれ認めるのが相当である。 第4 結論被告は,上記各4万円に対して,それぞれ違法行為の日である平成28年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うから,原告の本件各請求は,主文第1項及び第2項の限度でそれぞれ理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 なお,仮執行宣言については,必要があるとは認められないからこれを付さないこととする。 那覇地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官平山馨 裁判官小西圭一 裁判官山村涼 別紙は掲載省略
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