平成17(わ)6060 殺人未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年6月9日 大阪地方裁判所
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判決文本文4,898 文字)

主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 【犯行に至る経緯】被告人は,平成17年6月ころから,内妻A及び同女の実子B(当時2歳)(以下「被害者」という。)と共に大阪府堺市a町b丁c番d号(現在は大阪府堺市e区a町b丁c番d号)所在のfビルg号室(以下「A方」という。)において生活していたものであるが,被害者が自分には懐かないのに,しばしばA方を訪れていた実父のCにはよく懐いていたことや,同年7月ころから,Aが被告人に隠れて夜中に携帯電話で何者かと電話やメールをするようになったことから,Aが上記Cと隠れて会っているか,他に男ができたのではないかなどと考えて苛立ちを募らせるようになっていた。同年8月23日から24日にかけての深夜,Aが電話で何者かと,「あの場所行くわ,明日。」などと話しているのを聞いて,Aが浮気相手と会う約束をしているに違いないと思っていたところ,案の定翌24日朝,Aが被告人に行き先を告げずに被害者をA方に残して外出し,連絡が取れなくなったことから,Aがホテルなどで男と浮気をしているに違いないと確信して苛立ちを高めていた。 【罪となるべき事実】被告人は,平成17年8月24日,朝からAが外出したことから,A方で被害者の世話をしていたが,同日午前11時40分ころ,A方リビングにおいて,被害者が茶碗を投げる素振りをしたり,被告人に向かってミニカーを投げつけるなどしたため,被害者の手を叩いて叱責したところ,被害者がこれに反抗して牛乳瓶を手に持って被告人の顔面を叩いたことからこれに激高し,とっさに被害者を殺害しようと決意し,被害者の腹部をリビングの南東隅に置かれていた電気炬燵の天板(以下「本件炬燵天板」という。)に押し付けた上,被害者の背後から上半身で覆いかぶさり,そのまま上半身に自 さに被害者を殺害しようと決意し,被害者の腹部をリビングの南東隅に置かれていた電気炬燵の天板(以下「本件炬燵天板」という。)に押し付けた上,被害者の背後から上半身で覆いかぶさり,そのまま上半身に自己の体重をかけ,本件炬燵天板の角部で被害者の腹部を 強圧したが,間もなく帰宅したAが被害者の異変に気付き,救急車の出動を要請したことから,病院に搬送された被害者に対して医療措置が講じられたため,被害者に全治約3か月間を要する十二指腸断裂等の傷害を負わせたにとどまり,被害者を殺害するに至らなかったものである。 【事実認定の補足説明】第1弁護人の主張弁護人は,被告人が被害者の腹部を本件炬燵天板に押し付けて,その十二指腸を断裂させたことは争わないものの,殺意はなく,被害者の腹部を強いて炬燵天板の角部に押し付けたこともない旨主張し,被告人も,当公判廷においてこの主張に副う供述をするので,以下検討する。 第2検討 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1)被告人が,被害者の腹部を本件炬燵天板に押し付けたことにより,被害者は,十二指腸断裂,腸間膜損傷の傷害を負い,これら受傷により腹腔内に大量の出血を来たし,救急病院に搬送された時点では,出血性ショック状態にあり,その生命は非常に危険な状況にあった。 (2)被告人は犯行時31歳の成人男性であったのに対し,被害者は当時身長約85センチメートルの2歳児であった。本件炬燵天板は,高さ36.5センチメートル,縦75.5センチメートル,横75.5センチメートル,4つ角は丸みを帯びた半径4センチメートルの円の4分の1の弧という形状であったが,部屋の隅に置かれていたため,手前に引かない限り動かない状態にあった。 (3)十二指腸は,みぞおち付近奥の脊椎の前を横断している管腔臓器であるところ,被害者 円の4分の1の弧という形状であったが,部屋の隅に置かれていたため,手前に引かない限り動かない状態にあった。 (3)十二指腸は,みぞおち付近奥の脊椎の前を横断している管腔臓器であるところ,被害者の十二指腸は,外圧により背後にある脊椎に押し付けられたことにより,その断裂が生じたものと認められる。被害者の外表に打撲痕等がなく,胃,小腸,大腸,肝臓,脾臓及び肋骨等にも何ら損傷がないことや, 十二指腸が完全に断裂していることから,被害者の十二指腸には,固い物体をゆっくりと,単に押し付けるだけでなく,例えば,グニュグニュと半円を描くように押し付けるといった特殊な方法で局所的に外圧が加えられたものと推認される。そして,本件炬燵天板の角部に2歳児の腹部を押し付けて,その上から成人男性が体重をかけて押さえ付ければ,十二指腸断裂が生じる可能性が十分にあると認められる。これに対し,被害者の腹部を本件炬燵天板の縁の直線部分で圧迫した場合には,局所的な外圧とならないため,十二指腸以外の臓器にも損傷が生じる可能性が高いと認められる。 (4)被告人は,犯行後異様な声を上げ,その場に横から崩れるようにして倒れ,仰向けになって大きな声で泣き叫び,両足をばたつかせていた被害者が,泣かなくなり,ばたつかせていた足も動かさなくなって目も閉じ,嘔吐をするなどした被害者を前にしても,救急車を呼ぶなどの救命措置を取ることを一切せず,かえって,吐物によって汚れた被害者の服を着替えさせるなどして犯行を隠ぺいし,さらに,顔面蒼白で唇も紫色の状態で,救急隊員の呼びかけに反応しない被害者を前にしても,平成17年10月6日になるまで,本件犯行を黙っていた。 上記(1)ないし(3)で認定した事実からは,被告人が,被害者の腹部を本件炬燵天板の角部に当てた状態で,ゆっくりと自己の体重を 前にしても,平成17年10月6日になるまで,本件犯行を黙っていた。 上記(1)ないし(3)で認定した事実からは,被告人が,被害者の腹部を本件炬燵天板の角部に当てた状態で,ゆっくりと自己の体重をかけ,その結果被害者の十二指腸が炬燵天板の角部とその背後の脊椎とに挟まれ,その圧迫により十二指腸が完全に断裂する程の強い力で押し付けたことが推認されるところ,被告人の捜査段階における供述内容も,これに沿うものであって,上記推認に係る攻撃態様を裏付けるものといえる。 以上,1,2で認定した創傷の部位・程度,攻撃態様,犯行後の情況等からすると,被告人は,被害者が,身体的に未成熟な2歳児と認識した上で,泣き叫ぶ以外抵抗できない被害者に対し,重要臓器の位置する身体の枢要部である腹部を炬燵天板の角部に押し付け,その結果,炬燵天板が腹部に喰い込み,十 二指腸が炬燵天板角部と脊椎とに挟まれて,完全に断裂するほど強力かつ執拗な攻撃を加えたことが認められる。このように身体的に,特に腹筋の発達が未熟な2歳児の腹部を炬燵天板の角部に押し付け,腹部に喰い込んだ炬燵天板の角部によって十二指腸が脊椎に圧迫され,遂には断裂に至る程の強烈かつ執拗な攻撃を加えれば,腹部の内臓破裂等死に至る重大な結果が発生する危険性があることは,一般人において通常予測可能というべきであり,犯行時かかる攻撃態様を認識していた被告人においても,被害者が死に至る危険性があることを認識・認容していたものと推認できる。また,被告人は,犯行後,刻一刻と被害者の容態が悪化していく様子を目の当たりにして,被害者の生命に危険が差し迫っていることを認識しても,被害者を介抱するどころか,犯行を隠ぺいする行動に終始していたのであって,かかる行動からも被告人が犯行時被害者の生命に対して何らの配慮をしていなかった の生命に危険が差し迫っていることを認識しても,被害者を介抱するどころか,犯行を隠ぺいする行動に終始していたのであって,かかる行動からも被告人が犯行時被害者の生命に対して何らの配慮をしていなかったことが推認される。以上に加えて,被告人が捜査段階において,Aが誰かと浮気していると疑い,かなり苛立っている状態であったときに,被害者がガラス製の牛乳瓶でこめかみを殴ってきたため,我を忘れるほどの激しい怒りを感じ「このクソガキ,殺したろ。」と思いながら,被害者の腹部を圧迫したが,その際,「キレた状態であり,頭の中を激しい怒りが駆けめぐり」「その怒りに任せて,Bのお腹を圧迫し続け,Bが苦しんだりしているかどうかは全く気にしませんでした。」と述べていること(乙11)を併せ考えると,被告人が殺意をもって本件犯行に及んだことは優に認定できるというべきである。弁護人の主張は採用できない。 【法令の適用】被告人の判示所為は刑法203条,199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中150日をその刑に算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 【量刑の理由】 本件は,被告人が,殺意をもって,2歳児の腹部を炬燵天板に押し付け,その上に自己の体重をかけて,十二指腸断裂等の傷害を負わせたが,被害者を殺害するには至らなかったという殺人未遂の事案である。 被告人は,内妻が浮気をしていると確信して苛立っていたところに,かねてから自己に懐かなかった被害者が,牛乳瓶で被告人の頭部を叩くなどの反抗的な態度をとったことから,これに激高して,本件犯行に及んだのであって,その犯行動機は,あまりにも自己中心的かつ短絡的であって,酌量の余地は皆無であ った被害者が,牛乳瓶で被告人の頭部を叩くなどの反抗的な態度をとったことから,これに激高して,本件犯行に及んだのであって,その犯行動機は,あまりにも自己中心的かつ短絡的であって,酌量の余地は皆無である。その犯行態様は,成人男性である被告人が,2歳児の腹部を炬燵天板の角部に押し付けて体重をかけ,被害者が激しく泣き叫ぶのもかまわず,炬燵天板が腹部に喰い込み,これにより十二指腸を脊椎に圧迫し,これを断裂させる程強力かつ執拗に押し付けたというものであって,危険性の高い悪質な犯行というほかない。その結果,被害者は,十二指腸断裂等の重篤な傷害を負わされ,これによる腹腔内の大量出血により出血性ショック状態に陥り,一命が危ぶまれる状況に立ち至ったものであって,幸い医師による救命措置により一命をとりとめたものの,全治約3か月間を要する十二指腸断裂等の重大な傷害を負わされた被害者が被った肉体的・精神的苦痛には察して余りあるものがある。被告人は,かかる被害の重大さにもかかわらず,何ら被害回復の措置を講じておらず,被害者の母親の怒りが大きいのも当然というべきである。 加えて,被告人は,犯行後,被害者の救命措置をとるどころか,犯行の隠ぺい行為に終始するなど,犯行後の情状も芳しくない。以上のとおり,被告人の刑責を軽視することはできない。 しかしながら,他方,本件犯行が,継続的な幼児虐待の結果敢行されたものでなく,一時的な激情に駆られた偶発的犯行であることは否定できないこと,被告人は自己の行為により被害者に重大な傷害を負わせたことについては,これを認めて反省の弁を述べるとともに,今後は,兄が紹介する建築関係の仕事に就く旨述べて更生への意欲を示していること,被告人の母親が,当公判廷に出廷し,家族で被告人を監督する旨誓っていること,被告人には,これまで前科がなかったことな に,今後は,兄が紹介する建築関係の仕事に就く旨述べて更生への意欲を示していること,被告人の母親が,当公判廷に出廷し,家族で被告人を監督する旨誓っていること,被告人には,これまで前科がなかったことなどの酌 むべき事情も認められる。 そこで,以上諸般の情状を総合勘案して主文のとおり刑を量定した次第である。 よって,主文のとおり判決する。(求刑懲役8年)平成18年6月9日大阪地方裁判所第6刑事部裁判長裁判官水島和男裁判官中川綾子裁判官堀田秀一

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