平成21(ワ)37543 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年12月9日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-82543.txt

判決文本文27,035 文字)

平成23年12月9日判決言渡平成21年(ワ)第37543号損害賠償請求事件判決主文 1 被告は,原告Aに対し,800万円及びこれに対する平成18年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告Aのその余の請求並びに原告B,原告C,原告D及び原告Eの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告Aと被告との関係では,これを20分し,その19を原告Aの負担とし,その余は被告の負担とし,原告B,原告C,原告D及び原告Eと被告との関係では,全部同原告らの負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,1億5813万9205円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Cに対し,2800万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Dに対し,2800万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は,原告Bに対し,2800万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は,原告Eに対し,2800万円及びこれに対する平成18年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが,被告の開設するF病院(以下「被告病院」という。)において子 宮脱の治療のために手術を受けた原告A(以下「原告A」という。)が肺血栓塞栓症を発症し後遺障害が残ったのは被告病院の医師らの過失によるものであるなどと主張して,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償金及び被告病院に た原告A(以下「原告A」という。)が肺血栓塞栓症を発症し後遺障害が残ったのは被告病院の医師らの過失によるものであるなどと主張して,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償金及び被告病院に入院した日である平成18年11月7日(予備的に肺血栓塞栓症を発症した日である同月11日)からの遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠〔[]内は当該証拠の関係頁である。 以下同じ。〕により容易に認定できる事実) 当事者ア原告Aは,昭和8年10月21日生まれの女性である。原告C(以下「原告C」という。)は原告Aの夫であり,原告D(以下「原告D」という。),原告B(以下「原告B」という。)及び原告E(以下「原告E」という。)は,原告A,原告C夫婦の子である。 イ被告は,被告病院を開設,運営する社会福祉法人である。G医師(以下「G医師」という。)は,被告病院産婦人科の医師であり,H歯科医師(以下「H歯科医師」という。)は,当時,被告病院において医科麻酔科研修を受けていた歯科医師である。  診療経過等ア原告Aは,平成6年6月,I病院を受診して子宮脱との診断を受け,膣内にペッサリー(リング状の医療用具)を装着する治療を受けたが,ペッサリーを膣内に長期間装着したままにすると膀胱や直腸に穴が開くことがあるなどと記載されたG医師の著書を読み,平成18年7月4日(以下,月日のみ記載するときは,全て平成18年である。),被告病院を受診して,G医師の診察を受けた(甲A1[3~21],甲B6,原告C)。 イ原告Aは,G医師から,性器脱(子宮脱)の疑いとの診断を受け,I病院においてペッサリーを抜去した上,8月1日,改めて被告病院を受診した(乙A1の1[11,12])。 ウ G医師は,原告Aを子 告Aは,G医師から,性器脱(子宮脱)の疑いとの診断を受け,I病院においてペッサリーを抜去した上,8月1日,改めて被告病院を受診した(乙A1の1[11,12])。 ウ G医師は,原告Aを子宮脱と診断し,仙棘靱帯子宮頸部固定術,TOTスリング術等の手術(以下「本件手術」という。)を実施することを決定した(乙A1の1[12])。 原告Aは,11月7日,被告病院に入院し,同月9日,G医師を執刀医,H歯科医師を麻酔医とする本件手術を受けた。 エ原告Aは,11月11日午前6時55分頃,トイレに行くため術後初めて歩行した際,低血圧ショック及び意識障害を発症した。 被告病院産婦人科の当直医であるJ医師や,連絡を受けて駆けつけたG医師,被告病院内科のK医師,L医師は,原告Aに対し,心臓マッサージ,アンビューバッグ,気管内挿管による人工呼吸等を実施し,同日午前8時20分頃,原告AをCCU(心筋梗塞等の心臓血管系の重症患者を対象とする集中治療室)に移して治療を継続した(乙A1の2[4,38,39])。 被告病院の医師らは,原告Aを肺塞栓症と疑い,同日午後4時頃,抗凝固剤であるヘパリンの投与を開始し,肺血流シンチグラフィー検査(以下「肺血流シンチ検査」という。)により肺血栓塞栓症との確定診断を得た後の同日午後8時,血栓溶解剤であるクリアクターの投与を開始した。 オ被告病院の医師らは,11月14日及び17日に実施した頭部CT検査の結果に基づき,原告Aを大脳全体の脳浮腫,虚血と診断した(乙A1の4[4,6])。 原告Aは,低酸素脳症を原因とする遷延性意識障害を発症した。原告Aは,その四肢が完全に麻痺し,発声,歩行,排尿,排便,食事等も全く不可能な状態である。なお,原告Aは,平成20年12月4日,東京都から身体障害程度等級1級(疾患による両上 意識障害を発症した。原告Aは,その四肢が完全に麻痺し,発声,歩行,排尿,排便,食事等も全く不可能な状態である。なお,原告Aは,平成20年12月4日,東京都から身体障害程度等級1級(疾患による両上肢機能障害,両下肢機能障害1級)の身体障害者手帳の交付を受けている。  医学的知見等ア子宮脱子宮脱は,加齢による骨盤底の線維組織の弱体化,肥満に伴う骨盤底への負 荷増大等により,次第に骨盤臓器が膣管内に落ち込む病態をいう(乙B12)。 その治療には,ペッサリーを膣内に装着する保存的治療方法(甲B2)と,仙棘靱帯子宮頸部固定術,TOTスリング術等による外科的治療方法とがある(甲B16,乙A6)。 イ肺血栓塞栓症,深部静脈血栓症,静脈血栓塞栓症肺血栓塞栓症は,肺動脈が閉塞する疾患のうち,塞栓子が血栓であるものを,深部静脈血栓症は,深部静脈(深筋膜より深部を走行する静脈)に血栓が生じ,静脈還流に障害を与えるものをいう。肺血栓塞栓症は,そのほとんどが深部静脈血栓症に起因するもので,肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症とは連続した病態(静脈血栓塞栓症)である(甲B8[ⅷ])。 ウガイドライン 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会が平成16年6月に公表した「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」(以下「予防ガイドライン」という。)は,静脈血栓塞栓症発症のリスクレベルを低リスク,中リスク,高リスク及び最高リスクに階層化し,各リスクレベルに対応する予防措置を講ずることを推奨している。  日本循環器学会等の合同研究班が平成16年6月に公表した「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン」(以下「治療ガイドライン」といい,予防ガイドラインと併せて 。  日本循環器学会等の合同研究班が平成16年6月に公表した「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン」(以下「治療ガイドライン」といい,予防ガイドラインと併せて「予防ガイドライン等」という。)も,予防ガイドラインと同じく,静脈血栓塞栓症発症のリスクレベルを階層化し,各リスクレベルに対応する予防措置を講ずることを推奨するほか,腫脹,色調変化,下腿筋の硬化,圧痛の有無等を考慮して深部静脈血栓症発症の有無を診断し(疑診患者については,エコー検査,D-ダイマー値の測定によりこれを鑑別する。),また,呼吸困難,胸痛の有無等を考慮して肺血栓塞栓症発症の有無を診断するとし,そのスクリーニング検査として, 動脈血ガス分析検査,胸部X線検査,心電図検査,心エコー検査等を,確定診断のための検査として,肺動脈造影検査,心臓カテーテル検査,肺血流シンチ検査等を挙げる。 なお,治療ガイドラインは,急性肺血栓塞栓症の治療を,右心不全及び呼吸不全に対するもの(呼吸循環管理等)と,血栓源に対するもの(抗凝固療法,血栓溶解療法等)とに大別した上,① 酸素吸入を実施してもSpO2(酸素飽和度)を90%以上に維持できない場合,気管内挿管による人工呼吸を実施する,② 心肺蘇生が困難な場合や,酸素療法,薬物療法等を実施しても呼吸循環不全が改善しない場合はPCPS(経皮的心肺補助装置)を導入するとしている(甲B1[1088~1105])。 2 争点 被告病院の医師らの注意義務違反及び因果関係の有無 被告病院の医師らの説明義務違反及び因果関係の有無  損害の有無及び損害額 3 争点についての当事者の主張 被告病院の医師らの注意義務違反及び因果関係の有無ア本件手術の適応(原告らの主張) 本件手術は び因果関係の有無  損害の有無及び損害額 3 争点についての当事者の主張 被告病院の医師らの注意義務違反及び因果関係の有無ア本件手術の適応(原告らの主張) 本件手術は,再発症例や難治性の症例につき適応を有する。原告Aの子宮脱は軽度で,上記のような症例ではないから,本件手術の適応はないし,①本件手術の実施により静脈血栓塞栓症を発症する危険性が高いこと,② 本件手術の合併症として感染,メッシュ(本件手術はメッシュを用いる手術である。)の露出によるびらん等が報告されていること,③ 原告Aにペッサリー装着による合併症は出現していなかったことからしても,本件手術の適応はない。 また,① 高齢である場合,② 糖尿病に罹患している場合,③ ペッサリ ーを長期間装着している場合には,メッシュを用いる手術は回避すべきとされているところ,原告Aが,当時73歳で,糖尿病に罹患し,ペッサリーを長期間装着していたことに加え,同原告が,被告との間で,できる限り手術を実施せず,侵襲のより少ない方法で治療をする旨の診療契約を締結し,本件手術の実施を希望していなかったことからすると,G医師は,いずれにしても本件手術の実施を避けるべきであった。  G医師が,本件手術の適応につき適切な判断をし,その実施を避けていれば,静脈血栓塞栓症を発症することも,原告Aに後遺障害が残ることもなかった。 (被告の主張)原告Aは子宮脱であり,本件手術の適応を有していた。原告Aは,I病院の医師に相談してペッサリーを抜去し,自ら希望して本件手術を受けたのであって,G医師において本件手術の実施を避けるべき事情はない。 イ静脈血栓塞栓症に関する注意義務違反 静脈血栓塞栓症に関する検査義務(原告らの主張)原告Aの両下肢の大腿部から足首にか あって,G医師において本件手術の実施を避けるべき事情はない。 イ静脈血栓塞栓症に関する注意義務違反 静脈血栓塞栓症に関する検査義務(原告らの主張)原告Aの両下肢の大腿部から足首にかけて顕著な腫脹,むくみ,発赤等が出現し,また,同原告は疼痛を訴えていたのであるから,G医師としては,深部静脈血栓症を疑い,術前術後を通じて,D-ダイマー値の測定,超音波検査,静脈造影検査,静脈エコー検査,肺血流シンチ検査等を実施すべきところ,同医師は,原告Aの下肢に問題はないとして,上記の各種検査を実施しなかった。 術前に深部静脈血栓症に関する検査が実施されていれば,原告Aが本件手術を受けることはなかった。また,術前に肺血流シンチ検査が実施されていれば,原告Aが肺血栓塞栓症を発症したとの確定診断が可能であったはずである。さらには,術後直ちに上記の各種検査が実施されていれば,抗凝固療法や血栓溶解療法による治療が実施されたはずである。被告病院の医師らに静脈血栓塞栓症に関する検査義務の違反がなければ,いずれにせよ原告Aに後遺障害が残る ことはなかった。 (被告の主張)原告Aが被告病院を受診した7月4日時点で,原告Aの下肢に浮腫等の異状や顕著な静脈瘤は認められなかったのであって,G医師が深部静脈血栓症に関する検査をけ怠したとはいえない。 また,G医師が深部静脈血栓症に関する検査を実施したからといって,肺血栓塞栓症の発症を避け得たともいえない。  静脈血栓塞栓症発症の予防に関する注意義務(原告らの主張)予防ガイドライン等は,静脈血栓塞栓症の予防として,婦人科領域における良性疾患手術(開腹,経膣,腹腔鏡)につき,術前術後を通じて弾性ストッキングを着用すること(以下,これを「弾性ストッキング法」という。),又は十分な歩行が可能となる の予防として,婦人科領域における良性疾患手術(開腹,経膣,腹腔鏡)につき,術前術後を通じて弾性ストッキングを着用すること(以下,これを「弾性ストッキング法」という。),又は十分な歩行が可能となるまで空気により間欠的に圧迫し下肢をマッサージすること(以下,これを「間欠的空気圧迫法」という。)を推奨し,静脈血栓塞栓症の誘発因子として,肥満,全身麻酔等による血流の停滞,静脈内皮障害,血液凝固能の亢進を,婦人科領域における危険因子として,砕石位(下肢を開いて上げる体位)での手術を,産科領域における危険因子として血液濃縮(ヘマトクリットは37%以上)を挙げる。 また,平成16年6月発行の「産婦人科手術№15」(日本産婦人科手術学会編)は,術中の体位によっては静脈血栓塞栓症を誘発することがあるとして,弾性ストッキングと同様の効果を有する弾性包帯を使用し,ヘパリンの投与を行うとする。 本件手術は予防ガイドライン等にいう中リスクレベルの手術であるところ,① 本件手術が全身麻酔により砕石位で実施されたこと,② 原告Aが肥満で,多血症であったこと(原告Aのヘマトクリットは44.6%である。)からすると,G医師は,原告Aに対し,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法を 実施し,ヘパリンの投与を行うべきであったのに,これらの予防措置を一切講じなかった。 弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施され,ヘパリンの投与が行われていれば,深部静脈血栓症を発症することも,下肢の静脈に形成された血栓が遊離して肺血栓塞栓症を発症することもなく,原告Aに後遺障害が残ることもなかった。 (被告の主張)G医師は,原告Aに対し,静脈血栓塞栓症発症の予防として,術後,下肢及び胴体の曲げ伸ばしをし,身体を動かす工夫をすること,本件手術の翌日には座位で食事をし, ることもなかった。 (被告の主張)G医師は,原告Aに対し,静脈血栓塞栓症発症の予防として,術後,下肢及び胴体の曲げ伸ばしをし,身体を動かす工夫をすること,本件手術の翌日には座位で食事をし,翌々日には歩行を開始することを告げるなど,早期離床及び積極的運動につき指導を行っている。G医師の対応は適切であるし,少なくとも,医師としての合理的裁量を逸脱するとまではいえない。予防ガイドライン等によれば,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施が推奨されることになるが,これは静脈血栓塞栓症発症の予防に関する指針の一つにすぎず,個々の症例に対するリスク評価や予防法は最終的には担当医の責任において決定すべきものである。そして,① 本件手術は骨盤内深部静脈に侵襲が及ぶような大手術ではなく,手術に要する時間も1時間余りであること,② 術後速やかに下肢を動かすことが可能であったこと,③ 本件手術は砕石位(高位砕石位)により行われ,術中に弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法を実施して下肢を圧迫すると,コンパートメント症候群,神経麻痺等を発症する危険性が高まることからすると,本件において,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法を実施するのはむしろ不適切である。 また,仮に,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法を実施したとしても,静脈血栓塞栓症の発症等を避け得たとは限らない。 ウ無資格医業(原告らの主張) H歯科医師は,本件手術において,原告Aの同意を得ることも,研修指導医の立会いを得ることもなく,同原告に対する全身麻酔を実施した。これを歯科医師の医科麻酔科研修ということはできず,H歯科医師の行為は,無資格医業として医師法17条に違反する。 原告Aは,被告病院の「手術を受けられる患者様へ」と題する書面に「麻酔医 H」と記載されて 科医師の医科麻酔科研修ということはできず,H歯科医師の行為は,無資格医業として医師法17条に違反する。 原告Aは,被告病院の「手術を受けられる患者様へ」と題する書面に「麻酔医 H」と記載されていたことから,H歯科医師が被告病院の常勤麻酔標榜医であると認識していた。H歯科医師による麻酔が無資格医業であること,同歯科医師が本件手術の2週間前に他の患者に対する麻酔を実施し,当該患者をいわゆる植物状態にしたことを知っていれば,原告Aは,H歯科医師による麻酔の実施を拒否したはずであり,その場合,本件手術自体が中止され,静脈血栓塞栓症を発症することも,原告Aに後遺障害が残ることもなかった。 (被告の主張)H歯科医師が実施した麻酔自体に不備はなく,原告Aは当該麻酔により静脈血栓塞栓症を発症したわけでもない。 また,歯科医師が麻酔科研修として歯科及び口腔外科以外の症例につき麻酔を実施することは医療制度上予定されており,歯科医師が麻酔科研修として麻酔を実施する旨を告げたからといって,患者においてこれを拒否するとは考えられない(なお,患者が歯科医師による麻酔の実施を拒否する場合,麻酔医による麻酔が実施されることになる。)。原告Aは,ペッサリー抜去後数か月を経てようやく本件手術を受けることになったのであって,歯科医師による麻酔科研修としての麻酔であるというだけで,その実施を拒否するとは考えられず,いずれにしても,H歯科医師による麻酔の実施と静脈血栓塞栓症発症との間に因果関係はない。 エ麻酔の実施に関する注意義務 麻酔医らによる術前術後管理(原告らの主張) 被告病院の麻酔医ら(H歯科医師を含む。以下同じ。)は,術前,診療録の内容を確認したり,肺血流シンチ検査等を実施したりして,原告Aの既往症,全身状態等を確認すべきであり,ま 告らの主張) 被告病院の麻酔医ら(H歯科医師を含む。以下同じ。)は,術前,診療録の内容を確認したり,肺血流シンチ検査等を実施したりして,原告Aの既往症,全身状態等を確認すべきであり,また,術後,D-ダイマー値の測定,静脈エコー検査等を実施したりすべきであるのに,これらを行わず,H歯科医師自身,D-ダイマー値を測定することも,輸液により血液の希釈を図ったり,輸液の内容を工夫したりして静脈血栓塞栓症の発症を予防することも行っていない。 (被告の主張)被告病院の麻酔医らは,術前術後に原告Aを回診し,その全身状態の把握に努めているし,H歯科医師も,本件手術の際,出血量に対応した適切な輸液を実施している。  麻酔方法の適否(原告らの主張)被告病院の麻酔医らは,① 局所麻酔の場合,全身麻酔の場合に比して静脈血栓塞栓症の発症率は55%減少するとされていること,② 全身麻酔は肺血栓塞栓症の発症を誘発する因子とされていること,③ 原告Aが高齢,肥満及び多血症で糖尿病にも罹患していたこと,また,同原告の両下肢に浮腫があり,本件手術の体位が砕石位であったこと,④ 原告Aが,被告との間で,できる限り侵襲の少ない方法で治療をする旨の診療契約を締結していること,⑤ そもそも身体の基本的な機能を全て抑制する全身麻酔の実施はできる限り避けるべきであることに鑑みると,本件手術においては局所麻酔を実施すべきであるのに,全身麻酔を実施した。 局所麻酔の実施により静脈血栓塞栓症の発症率が低減するのは上記のとおりである。被告病院の麻酔医らが,局所麻酔を実施し,全身麻酔を実施しなければ,原告Aは静脈血栓塞栓症を発症しなかった。 (被告の主張)本件手術の手技は広範囲に及ぶ上,手術に要する時間も1時間余りであるこ とからすると,本件手術にお し,全身麻酔を実施しなければ,原告Aは静脈血栓塞栓症を発症しなかった。 (被告の主張)本件手術の手技は広範囲に及ぶ上,手術に要する時間も1時間余りであるこ とからすると,本件手術において局所麻酔の実施を選択することはできない。 この場合,全身麻酔又は腰椎麻酔を実施することになるが,静脈血栓塞栓症発症の予防を考えると,長時間の安静を要する腰椎麻酔より全身麻酔の方が適切であり,被告病院の麻酔医らが全身麻酔の実施を選択したことに注意義務の違反はない。 オ救急医療行為に関する注意義務(原告らの主張)被告病院の医師らは,11月11日早朝,原告Aがショック状態に陥ったにもかかわらず,直ちに麻酔科医,内科医等の救急医療の専門医を招集せず,その結果,輸液,気管内挿管による人工呼吸の実施,肺血栓塞栓症の診断とヘパリンの投与,血栓溶解療法の開始等が遅滞し,適切な循環管理,呼吸管理や,適切な診断とそれに対応する治療が実施されなかった。 また,治療ガイドラインは,心肺停止状態で発症して心肺蘇生が困難な場合や,酸素療法や薬物療法によっても低酸素血症や低血圧症が進行し,呼吸循環不全を安定化できない場合には,速やかにPCPS(経皮的心肺補助装置)を導入すべきとするところ,被告病院の医師らは,11月11日午前7時13分に原告Aが心肺停止状態になったにもかかわらず,PCPSを導入しなかった。 被告病院の医師らにより適切な循環管理,呼吸管理や,適切な診断とそれに対応する治療が実施されていれば,原告Aに後遺障害が残ることはなかった。 (被告の主張)被告病院の医師らは,原告Aの容体が急変した後,心臓マッサージ,アンビューバッグ,気管内挿管による人工呼吸等,分担して適時適切な蘇生措置を講じ,現に11月11日午前7時45分には心肺蘇生に成功しているの 病院の医師らは,原告Aの容体が急変した後,心臓マッサージ,アンビューバッグ,気管内挿管による人工呼吸等,分担して適時適切な蘇生措置を講じ,現に11月11日午前7時45分には心肺蘇生に成功しているのであって,その対応に注意義務違反はない。 また,客観的な検査所見は肺血栓塞栓症の発症を否定するものであったこと,手術直後であり出血の危険性が高かったことからすると,同日午後4時頃から ヘパリンの投与を開始し,肺血流シンチ検査の結果により肺血栓塞栓症との確定診断を得た後に血栓溶解療法を開始したことが不適切とはいえない。 なお,PCPSは,急性心筋梗塞症例のうち重篤な心原性ショックを伴う最重症例等に対して用いられ,カニューレ挿入時の血管合併症(出血,血腫,動脈損傷),下肢虚血,空気混入による空気塞栓等が発症する危険性もあるのであって,肺血栓塞栓症の患者につきその導入が絶対的に義務付けられるものではない。  被告病院の医師らの説明義務違反及び因果関係の有無(原告らの主張)G医師は,原告Aに対し,① 疾病名と現状,② 治療内容とこれによる症状の改善の程度,③ 治療の危険性,④ 他に選択可能な治療方法の有無,その有効性及び危険性,⑤ 疾病の将来予測(治療を実施しない場合の予測を含む。)のほか,⑥ 肺血栓塞栓症発症のリスクレベルが中リスクであること,⑦弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施,ヘパリンの投与等が必要であること,また,これによって静脈血栓塞栓症の発症を完全に防止することができるわけではないこと,⑧ 肺血栓塞栓症を発症した場合に必要となる医療費の額を説明した上,本件手術の実施につき同意を得るべきであるのに,これらの説明を全くしなかった。 また,被告病院の麻酔医らも,原告Aに対し,全身麻酔の危険性を説明した上,その 合に必要となる医療費の額を説明した上,本件手術の実施につき同意を得るべきであるのに,これらの説明を全くしなかった。 また,被告病院の麻酔医らも,原告Aに対し,全身麻酔の危険性を説明した上,その同意を得るべきであるのに,これを説明することも,原告Aの同意を得ることもしなかった。 G医師が上記の説明をしていれば,原告Aが本件手術の実施につき同意をしなかったことは明らかであり,そうであれば,静脈血栓塞栓症を発症することも,原告Aに後遺障害が残ることもなかった。また,被告病院の麻酔医らが上記の説明をしていれば,原告Aは全身麻酔の実施につき同意をせず,結果的に本件手術も実施されなかった。 (被告の主張)G医師は,原告Aに対し,血栓症を発症する可能性があることを告げている。 また,被告病院の医師らは,原告Aに対し,全身麻酔の方法により本件手術を実施することを告げ,G医師も,原告Aに対し,「帰室時に言葉でやりとりできる状態になっている。ただし,完全に全身麻酔が抜けるのには通常2,3時間かかる。それまで眠気や興奮などが見られるかもしれない」と,全身麻酔の方法により本件手術を実施することを前提とした説明をしている。  損害の有無及び損害額(原告らの主張)ア原告A 心遣い費 10万円原告Aは,11月8日,G医師に対し,心遣いとして10万円を交付したが,被告病院の医師らの過失により後遺障害が残った以上,これは原告Aの損害というべきである。  医療費 1051万2309円被告は,原告Aに対し,11月7日から平成21年9月30日までの医療費として230万5990円を請求している。また,原告Aの医療費は月額6万5885円であり,その平均余命は15.18年(ライプニッツ係数10.3796)であるから,将来の医療費は82 0日までの医療費として230万5990円を請求している。また,原告Aの医療費は月額6万5885円であり,その平均余命は15.18年(ライプニッツ係数10.3796)であるから,将来の医療費は820万6319円となる。  医療具費 139万9291円原告Aは,被告に対し,11月7日から平成21年9月30日までの医療具費として30万6942円を支払った。また,原告Aの医療具費は月額8770円であり,その平均余命は15.18年であるから,将来の医療具費は109万2349円となる。  入院雑費 727万1331円原告Aの11月7日から平成21年9月30日までの入院雑費は158万 8500円(1日当たり1500円)であり,また,その平均余命は15.18年であるから,将来の入院雑費は568万2831円となる。  看護費 3878万0432円原告Aの11月7日から平成21年9月30日までの看護費は847万2000円(1日当たり8000円)であり,また,その平均余命は15.18年であるから,将来の看護費は3030万8432円となる。  看護交通費 1445万1458円11月7日から平成21年9月30日までの近親者(原告C,原告D,原告B及び原告E)の看護交通費は合計315万7780円(1日平均2981円)であり,また,その平均余命は15.18年であるから,将来の看護交通費は合計1129万3678円となる。  休業損害及び逸失利益 1755万1072円原告Aは,11月から平成21年9月までの間,休業を余儀なくされた。原告Aの収入は月額11万円であるから,その休業損害は385万円となる。 また,原告A(平均余命15.18年)は労働能力を100%喪失したのであるから,その逸失利益は1370万1072円となる。  Aの収入は月額11万円であるから,その休業損害は385万円となる。 また,原告A(平均余命15.18年)は労働能力を100%喪失したのであるから,その逸失利益は1370万1072円となる。  入院慰謝料 1207万3312円原告Aの11月7日から平成21年9月30日までの入院に係る慰謝料は460万円が相当であり,将来にわたる入院に係る慰謝料は747万3312円が相当である。  後遺障害慰謝料 5600万円被告病院の医師らの過失により原告Aに後遺障害等級1級に該当する後遺障害が残ったことに加え,静脈血栓塞栓症に関する説明がされず,また,無資格医業が行われたことなど,同医師らの背信性が極めて大きいことを考慮すると,原告Aの後遺障害慰謝料は5600万円が相当である。 イ原告C,原告D,原告B及び原告E(慰謝料各2800万円) 原告Aの近親者である原告C,原告D,原告B及び原告Eの慰謝料は各2800万円が相当である。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実に加え,掲記の証拠(次の認定に反する部分は,いずれも採用することができない。)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aの診療経過等につき次の事実を認めることができる。  原告Aは,平成6年6月,I病院を受診して子宮脱との診断を受け,膣内にペッサリーを装着する治療を受けたが,ペッサリーを長期間装着したままにすると膀胱や直腸に穴が開いてしまうことさえある,一生ペッサリーの使用に頼って手術を回避するのは少し無理があるなどと記載されたG医師の著書を読み,7月4日,被告病院を受診して,G医師の診察を受けた(甲A1[3~21])。 なお,原告Aが被告病院に提出した「御依頼」と題する書面には,約10年間,子宮脱の治療のためペッサリーを装着していること,約 日,被告病院を受診して,G医師の診察を受けた(甲A1[3~21])。 なお,原告Aが被告病院に提出した「御依頼」と題する書面には,約10年間,子宮脱の治療のためペッサリーを装着していること,約2か月前から若干の尿排泄症状が出現し,違和感を強く感じるようになったこと,高齢であることからできる限り手術を実施せず,侵襲のより少ない治療方法を希望することなどが記載されている(乙A1の1[35])。  G医師は,ペッサリーが装着された状態では確定的な診断ができないことから,原告Aを子宮脱の疑いと診断した上,同原告に対し,外科的治療に伴うリスクはあるものの,ペッサリーの装着を継続しても,疼痛,悪臭,出血,瘻孔形成等のリスクはあるとして,手術を受けるかどうかI病院の担当医に相談して考えるよう指導するとともに,手術を受ける場合には,I病院においてペッサリーを抜去しておく必要がある旨を告げた(乙A1の1[11,32,33],乙A2[2],証人G)。  原告Aは,被告病院において手術を受けることを決め,7月6日,I病院にお いてペッサリーを抜去した(甲A1[21],乙A1の1[12])。 歯科医師である原告Dは,7月11日,原告Aに代わって,被告病院に診察の申込みをするとともに(甲A26[2,3]),同月21日,被告病院の看護師に対し,電話で,ペッサリー抜去後,原告Aの両下肢に浮腫が生じ,歩行も困難であるとして,予定日(8月1日)より前に診察するよう求め,G医師に対しても,両下肢が重くて疼痛があり,ふらつきが続くので,急患として診察してほしい旨記載した書面をファクシミリで送信した(原告Aも,7月24日,被告病院の看護師に対し,電話で,ペッサリー抜去後,子宮脱が出現し,炎症も生じているとして,予定日より前に診察するよう求めている。乙A1 旨記載した書面をファクシミリで送信した(原告Aも,7月24日,被告病院の看護師に対し,電話で,ペッサリー抜去後,子宮脱が出現し,炎症も生じているとして,予定日より前に診察するよう求めている。乙A1の1[11],乙A3)。 しかし,被告病院の看護師は,子宮脱により下肢が重くなることはないとして,内科,整形外科等を受診するよう返答し,G医師も,原告Dに対し,ファクシミリでは原告Aの身体の状態はよく分からないので,一般再来を受診した方が確実であるなどと記載した書面をファクシミリで送信するにとどめた(甲A9,乙A1の1[11])。  原告Aは,8月1日,被告病院を受診して,G医師の診察を受け,同医師は,原告Aを子宮脱と診断し,本件手術の実施を決定した。 その際,G医師は,原告Aが「下肢が重い感じがする」,「下降感があり,気持ちが悪い」などと訴えたことから,その下肢を観察したが,浮腫等の異状は認められなかった。なお,G医師は,腎機能の確認を目的として血液検査を実施しているが,D-ダイマー値の測定,静脈エコー検査等は実施していない(乙A1の1[12],乙A2[4])。  原告Aは,8月3日,被告病院を受診して心電図検査を受けた。また,原告Aは,9月9日,被告病院を臨時に受診して,具合が悪いなどと訴えたが,G医師は,抗炎症作用を有するアズノール軟膏を処方し,具体的な手術日が決定するまで待機するよう指示するにとどめた。 G医師は,9月30日,他の患者の手術の予定が取り消されたことから,本件手術を11月9日に実施することとして,原告Aに対し,電話でその旨を告げた。なお,G医師は,10月17日,原告Aの申し出により血糖等に関する血液検査を実施しているが(その結果,軽症の糖尿病に罹患していることが判明した。),その際も,D-ダイマー値 ,電話でその旨を告げた。なお,G医師は,10月17日,原告Aの申し出により血糖等に関する血液検査を実施しているが(その結果,軽症の糖尿病に罹患していることが判明した。),その際も,D-ダイマー値の測定,静脈エコー検査等は実施していない(乙A1の1[12~15],乙A1の2[9],乙2[4,5],証人G)。  原告Aは,11月7日,被告病院に入院した。 G医師は,同月8日,原告Aに対し,本件手術の手順,担当看護師,麻酔医等が記載された「手術を受けられる患者様へ」と題する書面(甲A10)を交付した上,① 子宮脱であること,② ペッサリー装着による管理も可能であるが,自然治癒は期待できず,根治には手術が必要であること,③ 本件手術は,経膣的に,脱出した膣及び子宮を還納し,メッシュの埋没により支持不良部位を補強するもので,その成功率は約95%であること,④ 本件手術においてメッシュが露出する可能性があり,また,合併症としては,細菌感染,血腫形成,下肢圧迫による皮膚障害(潰瘍形成),神経麻痺,血栓症,筋肉痛,関節痛等があること,⑤ 術後,麻酔が抜けるのに2,3時間を要し,それまでは眠気,興奮等が生ずる場合があることを説明して,本件手術の実施につき同意を得るとともに,⑥ 本件手術の翌日には座位で食事をし,その翌々日には歩行を開始することを告げ,床ずれ,血栓症等の発症を予防するため,寝返り,下肢及び胴体の曲げ伸ばし等,身体を動かす工夫をするよう指導した(乙A2[6~8])。 もっとも,G医師は,被告病院において患者に交付することとされていた「静脈血栓塞栓症の予防に関する説明書」(以下「本件説明書」という。本件説明書には,① 被告病院では,予防ガイドラインに準拠し,静脈血栓塞栓症の予防を行っていること,② 予防法には,早期離床,積極的な運動, 栓塞栓症の予防に関する説明書」(以下「本件説明書」という。本件説明書には,① 被告病院では,予防ガイドラインに準拠し,静脈血栓塞栓症の予防を行っていること,② 予防法には,早期離床,積極的な運動,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施,ヘパリンの投与等があること,③ これ らの方法によっても静脈血栓塞栓症は完全には防止できない可能性があることなどが記載されている。甲A12)を原告Aに交付しておらず,また,静脈血栓塞栓症発症の予防措置を講ずることについて同意も得ていない。  G医師は,11月9日午後3時25分から午後4時35分まで本件手術を実施したが,その際,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施,ヘパリンの投与等の措置は講じていない。また,本件手術の麻酔はH歯科医師が実施したが,歯科医師が医科麻酔科研修として麻酔を実施することについて,原告Aに対する説明はなく,その同意も得ていない(乙A1の2[30],甲A5[16])。 なお,被告病院の麻酔医は,11月9日及び同月10日,原告Aに対する術前術後(術前はM医師及びN医師,術後はO医師)の回診を実施している(乙A1の2[9,32])。  原告Aは,11月11日午前6時55分頃,トイレに行くため術後初めて歩行した際,低血圧ショック(血圧測定不可能),意識障害(意識レベルはJCSⅡ―10〔普通の呼びかけで目を開けるなど,刺激をすると覚醒する状態〕)等を発症して転倒した。 同日午前7時頃に当直医であるJ医師が,午前7時13分頃にはG医師が到着し,酸素吸引,心臓マッサージ,アンビューバッグによる人工呼吸を実施するなどし(原告Aの意識レベルはJCSⅢ-300〔痛み刺激に反応せず,刺激をしても覚醒しない状態〕であり,自発呼吸も消失した。),また,午前7時20分頃には,連 ンビューバッグによる人工呼吸を実施するなどし(原告Aの意識レベルはJCSⅢ-300〔痛み刺激に反応せず,刺激をしても覚醒しない状態〕であり,自発呼吸も消失した。),また,午前7時20分頃には,連絡を受けた被告病院内科のK医師及びL医師が到着し,午前7時35分頃,L医師において気管内挿管を実施するなどした結果,午前7時45分頃,自発呼吸が再開し,SpO2も77%から88%までに改善した(乙A1の2[4,38,39])。  被告病院の医師らは,11月11日午前8時20分頃,原告AをCCUに移して治療を継続した。 被告病院の医師らは,同日午前9時25分頃に実施したCT検査によっても, 午前11時頃に実施した心エコー検査によっても,肺血栓塞栓症を示す所見は確認されなかったものの,その症状から肺塞栓症を疑い,午後4時頃,ヘパリンの投与を開始した(乙A1の2[41],乙A1の4[1,3],乙A1の5[2])。  被告病院の医師らは,11月11日午後5時15分頃に実施した肺血流シンチ検査により両肺末梢に多発する陰影欠損を認め,原告Aを肺血栓塞栓症と確定的に診断した。 被告病院の医師らは,術創からの出血がないこと,原告Aの呼吸状態が不良であることなどを考慮して,血栓溶解療法を実施することとし,同日午後7時頃,原告Dに対し,本件説明書を交付して,同原告から,血栓溶解療法の実施につき同意を得た上,午後8時頃から,原告Aに対するクリアクター(80万単位)の投与を開始した(乙A1の2[41,42],乙A1の5[2])。  原告Aは,11月11日午後11時頃,出血性ショック状態に陥り,血圧も80mmHg(収縮期)/70mmHg(拡張期)(以下,単位を省略し「収縮期圧/拡張期圧」の要領で示す。)まで低下したが,翌12日には出血傾向は改善し,血 後11時頃,出血性ショック状態に陥り,血圧も80mmHg(収縮期)/70mmHg(拡張期)(以下,単位を省略し「収縮期圧/拡張期圧」の要領で示す。)まで低下したが,翌12日には出血傾向は改善し,血圧も同日午後6時頃には130/90まで改善した(乙A1の2[47],乙A1の5[3])。 被告病院の医師らは,11月14日に実施した頭部CT検査において,原告Aの大脳全体に脳浮腫が出現し,虚血状態であることが確認され,同月17日に実施した検査においても,格別変化が見られないことから,同原告を大脳全体の脳浮腫,虚血と診断した(乙A1の4[4,6])。  補足説明ア原告らは,原告Aは本件手術の実施を希望しておらず,これはG医師の勧めによるものであるなどと主張し,原告Cもこれに沿う供述をするが,証拠(乙A1の1[32~34],証人G)及び弁論の全趣旨によれば,① G医師は,原告Aがペッサリー装着による不具合があるため手術を希望して被告病院を受診した旨,及び,子宮脱の状態が明らかになった時点で治療を引き継ぐので, ペッサリーの抜去後,再度連絡するよう指導した旨を記載した診療情報提供書をI病院の担当医に交付し,同担当医も,原告Aは,当初手術を希望していなかったものの,膣の異物感等により,現時点では被告病院での手術を希望している旨を記載した「紹介状・診療情報提供書」をG医師に交付していること,② G医師は,原告Dに対し,書面で,ペッサリーを抜去して子宮脱の状態を確認する必要があることを報告するとともに,手術までの待機期間の苦痛の程度は判定できず,それでも外科的に根治する方向で努力するかどうか,I病院の担当医とよく検討するよう依頼していることが認められるのであって,原告Aは,G医師の指導等を考慮し,最終的には自らの判断で本件手術を受け きず,それでも外科的に根治する方向で努力するかどうか,I病院の担当医とよく検討するよう依頼していることが認められるのであって,原告Aは,G医師の指導等を考慮し,最終的には自らの判断で本件手術を受けることを決めたというべきである。 イ原告らは,術前,原告Aの両下肢の大腿部から足首にかけて顕著な腫脹,むくみ,発赤が出現し,また,同原告は疼痛を訴えていた旨の主張もし,原告Cはこれに沿う供述をする。 しかしながら,証拠(甲A8,乙A1の1[11,12] ,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,① G医師は,原告Dから原告Aの両下肢に浮腫がある旨の連絡を受け,また,8月1日の診察の際,原告Aにおいて下肢の異状を訴えたことから,その状態を観察したが,特に異状は認められなかったこと,② 原告Aは,その後,G医師に対し,下肢の異状を訴えていないことが認められ,少なくとも,8月1日以降,原告Aの両下肢の大腿部から足首にかけて顕著な腫脹,むくみ,発赤が出現し,また,同原告が疼痛を訴えていたと認めることはできない。 2 争点(被告病院の医師らの注意義務違反及び因果関係の有無) 本件手術の適応原告らは,原告Aに本件手術の適応はなく,また,G医師は本件手術の実施を避けるべきであった旨の主張をする。 しかしながら,前記のとおり,① 子宮脱に対する治療には保存的治療方法 のほか,外科的治療方法(本件手術)があること,② 原告Aは,ペッサリーを膣内に装着する保存的治療方法を受けていたが,G医師の著書を読み,その指導を受けるなどして,自らの判断で本件手術を受けたことが認められ,原告Aに本件手術の適応がなかったとも,G医師は本件手術の実施を避けるべきであったともいえない。 原告らは,医学文献(甲B32[566,567])を根拠に,本件手術の適応 を受けたことが認められ,原告Aに本件手術の適応がなかったとも,G医師は本件手術の実施を避けるべきであったともいえない。 原告らは,医学文献(甲B32[566,567])を根拠に,本件手術の適応は再発症例や難治性の症例に限られる旨の主張をするが,上記文献は,本件手術が再発症例や難治性の症例に用いられるとするものであり,その適応を上記症例に限定する趣旨と解することはできない。また,原告らは,他の医学文献(甲B12[1654])を根拠として,① 高齢である場合,② 糖尿病に罹患している場合,③ ペッサリーを長期間装着している場合は,本件手術を避けるべきである旨の主張もするが,上記文献(甲B12)の著者であるG医師の供述に鑑みると,これも患者の状態により手術の実施が不可能となる場合があることにつき注意を喚起する趣旨のものというべきである。 いずれにしても,G医師は本件手術の実施を避けるべきであったとはいえず,原告らの上記主張は採用することができない。  静脈血栓塞栓症に関する注意義務違反ア静脈血栓塞栓症に関する検査義務原告らは,G医師が静脈血栓塞栓症等に関する検査をけ怠したと主張し,その根拠として多数の医学文献を提出するが,これらは,① 婦人科悪性腫瘍や骨盤内巨大腫瘍の患者に関するもの(甲B30[1014]),② 救急医療の現場における鑑別診断に関するもの(甲B10[422]),③ 一般的な術前検査として凝固系検査,肺血流シンチ検査等があることを紹介するもの(甲B27[185]),④ 術後1日目から3日目までに深部静脈血栓症が発症することが多いとして,医療従事者に注意を喚起するもの(甲B31[30])にすぎず,上記文献により,G医師において上記検査をすべきであることが直ちに基礎付 けられるわけではない。なお,顕著な静脈 とが多いとして,医療従事者に注意を喚起するもの(甲B31[30])にすぎず,上記文献により,G医師において上記検査をすべきであることが直ちに基礎付 けられるわけではない。なお,顕著な静脈瘤が存在する患者については術前に静脈エコー検査を実施し,血栓の有無を事前に確認すべきとする医学文献(甲B7[655])や,腫脹,色調変化,下腿筋の硬化,圧痛,Homans 兆候(膝を軽く押さえ足関節を背屈させると,腓腹部に疼痛が生じること),lowenberg 兆候(下腿を加圧すると痛みが生じること)等の有無を診察し,深部静脈血栓症が疑われる患者については,D-ダイマー値の測定,エコー検査を行うとする医学文献(甲B1[1113~1114])もあるが,前記認定事実のとおり,8月1日時点では原告Aの両下肢に異状は確認されず,その後も同原告において下肢の異状を訴えていたわけではないのであって,これらを考慮しても,G医師が上記検査をけ怠したとはいえず,注意義務違反があるとはいえない。 イ静脈血栓塞栓症発症の予防に関する注意義務 前記前提事実のとおり,予防ガイドライン等は,静脈血栓塞栓症発症のリスクレベルを低リスク,中リスク,高リスク及び最高リスクに階層化し,各リスクレベルに対応する予防措置を講ずることを推奨している(なお,予防ガイドライン等は,リスクレベルを付加的な危険因子の有無,内容を総合考慮して定めるものとし,弱い危険因子として肥満,下肢静脈瘤等,中等度の危険因子として高齢,長期臥床等,強い危険因子として静脈血栓塞栓症の既往等を,婦人科領域における危険因子として砕石位による手術を挙げる。)。 そして,予防ガイドラインは,婦人科領域に関し,① 30分以内の小手術を低リスク,② 良性疾患手術(開腹,経膣,腹腔鏡)等を中リスク,③ 骨盤内悪性 る危険因子として砕石位による手術を挙げる。)。 そして,予防ガイドラインは,婦人科領域に関し,① 30分以内の小手術を低リスク,② 良性疾患手術(開腹,経膣,腹腔鏡)等を中リスク,③ 骨盤内悪性腫瘍根治術等を高リスク,④ 静脈血栓塞栓症の既往,あるいは血栓性素因の悪性腫瘍根治術を最高リスクと,また,治療ガイドラインは,①0歳未満の患者の非大手術及び40歳未満の患者の大手術(基本的に45分以上を要する手術)を低リスク,② 60歳以上又は危険因子を有する患者の非大手術,40歳以上又は危険因子を有する患者の大手術を中リスク(婦人科手術のうち良性疾患手術は中リスクとみなされる。),③ 40歳以上の患者の癌 の大手術を高リスク,④ 静脈血栓塞栓症の既往,あるいは血栓性素因のある大手術を最高リスクと分類した上,静脈血栓塞栓症の予防として,低リスクの場合には早期離床及び積極的運動を,中リスクの場合には弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施を,高リスクの場合には間欠的空気圧迫法の実施又はヘパリン(低用量未分画ヘパリン)の投与を,最高リスクの場合には弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施とヘパリンの投与との併用を推奨する(甲B1[1121~1123],甲B8[12,13,53])。 そして,前記のとおり,本件手術は経膣による良性疾患に対するもので,これに要した時間は約1時間10分であるから,予防ガイドライン等によれば,そのリスクレベルは中リスク以上と評価され,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施が推奨されることとなる。  この点,被告は,予防ガイドライン等は一つの指針にすぎず,肺血栓塞栓症発症の予防は最終的には担当医の判断と責任の下に実施されるべきである,G医師が早期離床や積極的運動を指導したことは,医師としての合 この点,被告は,予防ガイドライン等は一つの指針にすぎず,肺血栓塞栓症発症の予防は最終的には担当医の判断と責任の下に実施されるべきである,G医師が早期離床や積極的運動を指導したことは,医師としての合理的裁量の範囲内であるし,本件において,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法を実施することは却って不適切である旨の主張もする。 確かに,個々の患者に対していかなる医療行為を行うかは,患者と十分に協議した上,最終的には担当医の責任において決定すべきものであって,医療ガイドラインは,その決定を支援するための指針にすぎず,担当医の医療行為を制限するものでも,当該ガイドラインの推奨する医療行為を実施することを医療従事者に義務付けるものでもない(甲B8[3])。 しかしながら,証拠(甲A12,甲B1,8)及び弁論の全趣旨によれば,予防ガイドラインは,日本血栓止血学会等の10学会又は研究会が参加して作成され,また,治療ガイドラインも,日本循環器学会等の7学会が参加した合同研究班により作成されたもので,その公表後,被告病院を含む多数の医療機関等において,現に予防ガイドライン等に準拠した静脈血栓塞栓症発症の予防 措置が講じられていることが認められるのであって,このような予防ガイドライン等の作成経緯,その実施状況等に鑑みると,少なくとも本件において,予防ガイドライン等に従った医療行為が実施されなかった場合には,このことにつき特段の合理的理由があると認められない限り,これは医師としての合理的裁量の範囲を逸脱するものというべきである。 被告は,① 本件手術による侵襲の範囲は限定的で,手術に要した時間も1時間余りであること,② 原告Aは,全身麻酔から覚醒した後,直ちに下肢を動かすことができたこと,③ 本件手術は高位砕石位によるもので,術中,弾性ストッ よる侵襲の範囲は限定的で,手術に要した時間も1時間余りであること,② 原告Aは,全身麻酔から覚醒した後,直ちに下肢を動かすことができたこと,③ 本件手術は高位砕石位によるもので,術中,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法を実施して下肢を圧迫するとコンパートメント症候群や神経麻痺の発症の危険性が高まること(乙B6)などから,予防ガイドライン等に従った予防措置を講じなかったことにつき合理的な理由がある旨の主張もするが,そもそも,予防ガイドラインは,侵襲の範囲が限定的である場合でも,手術に要する時間が30分を超えるときは,そのリスクレベルを中リスクと位置付け,静脈血栓塞栓症の予防措置として,早期離床及び積極的運動の指導ではなく,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施を推奨していること,これらの理学的予防法については合併症を発症する可能性が比較的少ないこと(甲B8[11~13]。砕石位による手術の場合,間欠的空気圧迫法の実施によりコンパートメント症候群を発症することがある旨の指摘はあるが〔乙B9の2〕,これは手術に要する時間が8時間程度であることを前提とするもので,本件に直ちに妥当するものではない。),そして,前記認定事実のとおり,G医師が,原告Aに対し,本件説明書を交付することも,静脈血栓塞栓症発症の予防措置を講ずることについて同意を得ることもせず,どのような予防措置を講ずるかについて,同原告と十分な協議をしたわけではないことからすると,本件において,上記合理的理由があったと認めるのは困難というほかない。 G医師は,原告Aのリスクレベルは予防ガイドライン等にいう中リスクと評 価され,この場合,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施が推奨されるにもかかわらず,早期離床や積極的運動を指導するほかは,静脈血栓塞栓症発症 は予防ガイドライン等にいう中リスクと評 価され,この場合,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法の実施が推奨されるにもかかわらず,早期離床や積極的運動を指導するほかは,静脈血栓塞栓症発症の予防措置を講じず,弾性ストッキング法も間欠的空気圧迫法も実施しなかったのであるから,上記の医療ガイドラインの一般的な性質を考慮しても,同医師には,静脈血栓塞栓症発症の予防に関し注意義務違反があるというべきである。  ところで,原告らは,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症を発症することも,原告Aに後遺障害が残ることもなかった旨の主張をする。 しかしながら,全証拠によるも,原告Aの肺血栓塞栓症の塞栓子となった血栓の形成時期及び形成部位は不明といわざるを得ないところであり,血栓が術前に形成されていた可能性や原告Aがショック状態に陥った後に形成された可能性,あるいは骨盤内に血栓が形成された可能性も否定できないことからすると(証人G),弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症は発症しなかったという高度の蓋然性があるとまで認めることはできない。 もっとも,① 本件手術は予防ガイドライン等にいう中リスクの手術であり,肺血栓塞栓症発症の危険性が一定程度存在したことは否定できないこと,②医学文献(甲B7[653],甲B9[216],甲B31[28,29])上も,肺血栓塞栓症の多くは下肢に形成された血栓に起因するものであるとされ,また,術前に形成された小血栓が,術中術後に発育し,深部静脈血栓症を発症することもあるとされていること,③ 予防ガイドライン等において,上記中リスクの患者につき,術後,弾性ストッキング法を実施することにより,肺血栓塞栓症発症の確率は有意に減少し,また,間欠的空気 発症することもあるとされていること,③ 予防ガイドライン等において,上記中リスクの患者につき,術後,弾性ストッキング法を実施することにより,肺血栓塞栓症発症の確率は有意に減少し,また,間欠的空気圧迫法は弾性ストッキング法より効果が高いとされていること(甲B8[12~13])などからすると,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞 栓症が発症せず,原告Aに後遺障害が残らなかった相当程度の可能性があると認められ,原告AはG医師の注意義務違反により,上記可能性を侵害されたというべきである。  無資格医業歯科医師が,麻酔科における研修として患者に対して麻酔を実施する場合には,歯科医師の医科麻酔科研修ガイドラインに基づき,研修指導医又は研修指導補助医が歯科医師に対して必要な指導,監督を行うこと,歯科医師が歯科及び歯科口腔外科疾患以外の症例に関する行為に関与する場合については,歯科医師であることを患者に説明し,原則として患者の同意を得ることとされている(甲A6[別添])。 この点,証拠(甲A5[16],甲A6[3],甲A7[7])及び弁論の全趣旨によれば,① 当時,被告病院の歯科医師に対する指導監督態勢には不備があり,H歯科医師による麻酔も研修指導医等による十分な指導監督の下で実施されたわけではないこと,② 被告病院は,原告Aに対し,「麻酔医 H」と記載した「手術を受けられる患者様へ」と題する書面を交付するのみで,歯科医師が麻酔を実施することにつき何らの説明もせず,このことにつき原告Aの同意を得ることもしなかったことが認められ,H歯科医師による麻酔の実施は上記ガイドラインを著しく逸脱するものといわざるを得ない。 ただ,そうではあるものの,本件において,H歯科医師の実施した麻酔自体に何らかの不備があっ ったことが認められ,H歯科医師による麻酔の実施は上記ガイドラインを著しく逸脱するものといわざるを得ない。 ただ,そうではあるものの,本件において,H歯科医師の実施した麻酔自体に何らかの不備があったとは認められず,研修指導医等がH医師に対して必要な指導監督を行い,また,H歯科医師が歯科医師であることを説明していれば,肺血栓塞栓症は発症しなかったという高度の蓋然性があるとは認められないし,このことにつき相当程度の可能性があるとも認められない。原告らの上記主張は採用することができない。  麻酔の実施に関する注意義務ア麻酔医らによる術前術後管理 原告らは,被告病院の麻酔医らによる術前,術後の管理に不備がある旨の主張をする。 しかしながら,そもそも麻酔医を含む被告病院の医師らが静脈血栓塞栓症に関する検査をけ怠したといえないことは前記のとおりであるし,麻酔科標榜医であるM医師及びN医師において術前回診を実施し,O医師において術後回診を実施するなどして術前術後の管理を行っていることも前記のとおりであって,被告病院の麻酔医らによる術前術後の管理に不備があるとは認められない。なお,原告らは,H歯科医師も,D-ダイマー値を測定し,あるいは,輸液により血液の希釈を図ったり,輸液の内容を工夫したりすべきであったと主張するが,同歯科医師に上記の義務があることを認めるに足りる証拠はない。原告らの上記主張は,採用することができない。 イ麻酔方法の適否原告らは,被告病院の麻酔医らは,局所麻酔を実施すべきであるのに,全身麻酔を実施した旨の主張をする。 しかしながら,医学文献(甲B27[82],甲B23[779],甲B8[6])によっても,被告病院の麻酔医らが全身麻酔を避けるべきであったとは認められないし,本件手術の手技の範囲,全身麻酔に る。 しかしながら,医学文献(甲B27[82],甲B23[779],甲B8[6])によっても,被告病院の麻酔医らが全身麻酔を避けるべきであったとは認められないし,本件手術の手技の範囲,全身麻酔には麻酔から覚醒後速やかに下肢を動かすことができるという利点もあること(乙A5[2])などからすると,被告病院の麻酔医らが全身麻酔を実施したことに合理的な裁量の逸脱があるとまでいうのも困難である。原告らの上記主張は,採用することができない。  救急医療行為に関する注意義務原告らは,被告病院の医師らは,原告Aがショック状態に陥った際,救急医療の専門医を招集せず,また,原告Aに対して適切な医療行為を行わなかったと主張する。 確かに,前記認定事実に加え,証拠(甲A5[19])及び弁論の全趣旨によれば,被告病院には,緊急事態発生時の対応に関する明確な申合せがなく,本 件においても,気管内挿管による人工呼吸等の心肺蘇生術が開始されるまでには時間を要したことが認められるものの,他方で,原告Aがショック状態に陥ってから約5分後にJ医師が,約18分後にはG医師が到着し,直ちに酸素吸入,心臓マッサージ,アンビューバックによる人工呼吸が実施され,また,約25分後には内科医であるL医師らも到着して,気管内挿管による人工呼吸が実施されて,結果的に心肺蘇生に成功したことも認められるのであって,上記の経過に照らすと,被告病院の医師らによる救急医療行為に何らかの不備があったとまで認めることはできない。 なお,原告らは,① 原告Aがショック状態に陥った後,直ちにヘパリンの投与を開始し,速やかに血栓溶解療法を開始すべきであった,② 11月11日午前7時13分時点でPCPSを導入すべきであったとも主張する。 しかしながら,本件手術の実施から間がなく,ヘパリンの投 ンの投与を開始し,速やかに血栓溶解療法を開始すべきであった,② 11月11日午前7時13分時点でPCPSを導入すべきであったとも主張する。 しかしながら,本件手術の実施から間がなく,ヘパリンの投与により手術部位から出血する危険性があったことからすると,肺血栓塞栓症の所見が確認されないにもかかわらず,ヘパリンを投与すべきとまではいえないし,原告Aの全身状態の管理を優先し,肺血流シンチ検査により肺血栓塞栓症との確定診断を経た後に血栓溶解療法を開始したことを注意義務違反とまでいうことはできない。また,治療ガイドラインは,心肺蘇生が困難な場合や,酸素療法,薬物療法等を実施しても呼吸循環不全が改善しない場合はPCPSを導入するとしているところ(甲B1[1093]),原告Aは,被告病院の医師らの心肺蘇生措置により,11月11日午前7時45分に自発呼吸が再開し,午前8時10分に血圧が180/100,心拍数が100,あるいは110になったのであるから(乙A1の2[4]),被告病院の医師らがPCPSを導入しなかったことを注意義務違反とまでいうことはできない。原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。 3 争点(被告病院の医師らの説明義務違反の有無等)証拠(甲A12,甲B8[54],甲B14[935,936])及び弁論の全趣 旨によれば,① 予防ガイドラインは,患者及びその家族に対し,静脈血栓塞栓症につき十分な説明を行い,その発症の危険性を認識させる必要があるとし,医学文献も,静脈血栓塞栓症のリスクレベル,これに対応する予防措置とその合併症,そして,予防措置を講じてもこれを完全に防止できず,発症した場合には致死的になり得ることなどを説明すべきとしていること,② 被告病院においても,当時,患者に対し,本件説明書を交付して,静脈血 併症,そして,予防措置を講じてもこれを完全に防止できず,発症した場合には致死的になり得ることなどを説明すべきとしていること,② 被告病院においても,当時,患者に対し,本件説明書を交付して,静脈血栓塞栓症発症のリスクレベル,これに対応する予防措置とその合併症,そして,予防措置を講じてもこれを完全に防止できないことなどを説明し,上記の予防措置を講ずることについて患者の同意を得ることになっていたことが認められる。 そうであるにもかかわらず,G医師は,前記認定事実のとおり,術前,原告Aに対し,本件手術の必要性,内容,成功率,合併症等を説明し,床ずれ,血栓症等を防止するため,早期離床及び積極的運動を指導しているものの,静脈血栓塞栓症発症のリスクレベル,これに対応する予防措置とその合併症,そして,予防措置を講じてもこれを完全に防止できないことなどについては何ら説明をせず,本件説明書を交付することも,静脈血栓塞栓症発症の予防措置を講ずることについて同意を得ることもしていないのであって,G医師には説明義務違反があるというほかない。 もっとも,前記認定事実のとおり,① 原告Aは自らの判断で本件手術を受けたこと,② G医師は,血栓症等の予防のために積極的に運動するよう指導するなど,血栓症について一応の説明をしていることなどからすると,G医師に説明義務違反がなければ,原告Aが本件手術を受けなかったという高度の蓋然性があるとは認められないし,このことにつき相当程度の可能性があるとも認められない。 なお,原告らは,被告病院の麻酔医らが,全身麻酔の危険性を説明せず,これを実施することについて同意も得ていないとも主張するが,G医師は,全身麻酔を実施すること,その場合,麻酔が抜けるのに2,3時間を要し,それまでは眠気,興奮等が生ずる場合があることを説明して,本件 れを実施することについて同意も得ていないとも主張するが,G医師は,全身麻酔を実施すること,その場合,麻酔が抜けるのに2,3時間を要し,それまでは眠気,興奮等が生ずる場合があることを説明して,本件手術の実施につき同意を得ているのであって,この点について,麻酔医らを含む被告病院の医師らに説明義務違反があ ったということはできない。 4 争点(損害の有無及び損害額)前記のとおり,G医師には,静脈血栓塞栓症発症の予防に関し注意義務違反があり,原告Aは,上記注意義務違反により,弾性ストッキング法又は間欠的空気圧迫法が実施されていれば,肺血栓塞栓症が発症せず,原告Aに後遺障害が残らなかった相当程度の可能性を侵害されたものといわざるを得ない。原告Aは,これにより相応の精神的苦痛を被ったものと認められるところ(なお,原告Aは,十分な予防措置が講じられず,その結果,重大な後遺障害が残ったことも理由の一つとして,慰謝料請求をするのであり,これには上記侵害に係るものも含まれると解される。),上記侵害の態様及びその程度,原告Aの年齢,後遺障害の程度等,一切の事情を総合考慮すると,原告Aに対する慰謝料は800万円と認めるのが相当であるが,原告C,原告D,原告B及び原告Eにつき個別に損害が発生したとまではいえない。 5 以上によれば,原告Aの請求は,慰謝料800万円及びこれに対する不法行為の後である11月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,同原告のその余の請求並びに原告C,原告D,原告B及び原告Eの請求にはいずれも理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官森冨義明 裁判官大澤知子 主文 はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官森冨義明 裁判官大澤知子 裁判官西澤健太郎

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る