平成21年2月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成19年第7425号損害賠償請求事件( )ワ口頭弁論終結日平成20年11月7日判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告に対し,1億4382万0294円及びこれに対する平成19年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,原告が,被告に対し,被告の開設,運営するA大学医療センターB病院(以下「被告病院」という)において,気管支鏡検査を受けた際に,肺。 から出血が生じた後に脳梗塞を発症し,その結果,左半身不全麻痺の後遺症が残ったことについて,肺出血が生じ脳梗塞が発症したのは,被告病院の担当医師の,事前検査を怠った過失,肺を損傷することのないよう気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を適切に操作する義務を怠った過失が原因であるとして,不法行為(使用者責任)ないし債務不履行に基づき,1億4382万0294円及びこれに対する不法行為日の後であり,訴状送達の日の翌日である平成19年4月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 当事者( )ア原告は,昭和27年3月24日生まれの男性である(甲C4,乙A1, 2。 )イ被告は,東京都大田区aにおいて,被告病院を開設,運営する学校法人である(乙A1。 ) 診療経過等( )ア原告は,平成15年2月下旬ころ(以下特に記載のない限り,日付は平成15年のものである,東京都足立区内にあるC病院において健康診断。)を受診した際,同病院の医師から,一度精密検査を受けるよう勧め 原告は,平成15年2月下旬ころ(以下特に記載のない限り,日付は平成15年のものである,東京都足立区内にあるC病院において健康診断。)を受診した際,同病院の医師から,一度精密検査を受けるよう勧められ,被告病院を紹介された(甲C4,乙A1)。 イ原告は,5月24日,被告病院を受診し,6月13日に被告病院において気管支鏡検査(以下「本件検査」という)を受けたところ,同検査の。 ,最中に,肺の左Bの末梢側より出血が生じ,同時に呼吸状態が悪化し1+2b意識状態の低下も生じた。そして,間もなく左片麻痺が確認され,脳血管。)。 ,撮影等により脳梗塞が確認された(以下「本件事故」という(乙A27)ウその後,被告病院の救命救急センター(ICU)での集中管理が行われ,原告の意識状態・全身状態は徐々に改善したものの,左片麻痺については十分な改善は見られなかった。そのため,原告は,一般病棟へ移った後,継続的にリハビリテーションを受けたが,左片麻痺は十分に回復することはなく,11月8日,被告病院のD医師から,左半身不全麻痺であり,9月23日ころに症状固定しているとの診断を受け,さらに,平成18年7月11日には,肺肉芽腫症手術後,脳梗塞後遺症,左半身不全麻痺,講音障害との診断を受けた(乙A1ないし3)。 争点 事前検査を怠った過失の有無( ) 気管支鏡及び生検鉗子,鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失の有無( ) 上記各過失と結果との因果関係の有無( ) 損害額( ) 争点についての当事者の主張別紙主張要約書のとおりである。 第3当裁判所の判断 事実認定証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 外来受診時の経過( )ア原告は,平成14年に東京都足立区が主催する検診を受診したところ, である。 第3当裁判所の判断 事実認定証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 外来受診時の経過( )ア原告は,平成14年に東京都足立区が主催する検診を受診したところ,左上肺野に異常陰影を指摘され,その後,2月下旬ころ,C病院において健康診断を受診した際,左上肺野の異常陰影について増大傾向にあるとの指摘を受け,同病院の医師から,一度左上肺野の異常陰影について精密検査を受けるよう勧められ,被告病院を紹介された(甲C4,乙A1)。 イ原告は,5月24日,被告病院を受診し,E医師の診察を受けた。検査の結果,左右上葉の肺嚢胞に加え,左上肺野に腫瘤性病変が確認された。 この腫瘤性病変については,平成14年当時と比べて増大傾向にあったこと,初診時の血液検査の結果,腫瘍マーカーであるCEAが5.5ng/ml(基準値0.0ないし5.0ng/ml)と高値を示していたことから,悪性腫瘍の可能性が疑われた。なお,同日行われた血液検査では,PLT(血小板数:38万個/μl(参照値:15万ないし40万個/μ)l,PT(プロトロンビン時間:12.1秒(参照値:11.4ないし))14.4秒,PT%:117%(参照値:70%以上,APTT(活性))化部分トロンボプラスチン時間:35.5秒(参照値:27.0ないし)40.0秒,フィブリノゲン:303mg/dl(参照値:200ない)し400mg/dl)であり,凝固系の機能に異常は認められなかった。 (乙A1,乙A4,乙A7)ウ6月4日,原告は,再度被告病院を受診し,E医師の診察を受けた。E 医師は,診察の際,原告に対し,5月24日の検査の結果,悪性腫瘍の可能性があることを伝え,6月12日に被告病院に入院し,13日に気管支鏡検査を行うことを決定した(乙A1)。 入院時の 。E 医師は,診察の際,原告に対し,5月24日の検査の結果,悪性腫瘍の可能性があることを伝え,6月12日に被告病院に入院し,13日に気管支鏡検査を行うことを決定した(乙A1)。 入院時の経過( )ア6月12日,原告は,上肺野の異常陰影(腫瘤性病変)の精査目的で被告病院へ入院した。入院時の問診で,原告の過去の病歴等の確認が行われ,虫垂炎,十二指腸潰瘍,胆嚢炎のほかには既往症はないことが確認された。 また,同日,再度血液検査が行われたが,PLT:31.3万個/μl,PT:13.7秒,PT%:92%,APTT:39.2秒,フィブリノゲン:289mg/dlであり,前回の検査と同様に凝固系の異常は認められなかった。なお,Hb値は13.3g/dl(参照値:14.0ないし17.0g/dl,Ht(ヘマトクリット(血液中に占める赤血球の))容積パーセント)値は39.8%(参照値:40.0ないし48.0%)であった(乙A2,4,7)。 イ6月13日午後3時30分ころ,原告は,気管支鏡検査のために検査室に移動した。原告は,検査室へ移動後,ジャクソンスプレーにて4%キシロカイン5mlを経口的に投与され,午後3時40分ころ,経鼻的に酸素2L/分を吸入しながら,F医師により気管支鏡検査(本件検査)が開始された。なお,検査開始時の酸素飽和度は97%ないし98%(室内気)であり,脈拍は70ないし80回/分(洞調律)であった。F医師は,経口的に気管支鏡(気管支ファイバースコープ)を挿入し,気管支腔内に2%キシロカイン10mlを局所投与しながら気管及び気管支腔を検索したが,気管支鏡が到達可能な範囲では,気管・気管支腔内に明らかな粗大病変は確認されなかった。そして,X線透視下で左上葉部の腫瘤性病変に対し,生検鉗子を用いて左B,Bから接近を試みた 支腔を検索したが,気管支鏡が到達可能な範囲では,気管・気管支腔内に明らかな粗大病変は確認されなかった。そして,X線透視下で左上葉部の腫瘤性病変に対し,生検鉗子を用いて左B,Bから接近を試みたが,腫瘤性病変ま1+2b1+2cで到達することはできなかった。そこで,鋭匙鉗子による擦過細胞診に変 更し,左B,B,Bから腫瘤性病変に接近を試みたが,やはり病変1+2b1+2c3cには到達することができず,そのため,左B入口部で洗浄細胞診検査1+2bを行った(乙A2,7,証人F医師)。 ウ午後4時ころ,F医師は,左Bでの鉗子操作後,同部の末梢側から1+2b滲出する出血を確認したため,検査を中断し,原告を左側臥位として,気管支鏡先端で左上葉支口を楔入して閉塞し,同時にトロンビン(計)5000単位を2回に分けて局所投与した。なお,この時の酸素飽和度は92,ないし95%(経鼻酸素2L/分にマスク下酸素10L/分を追加投与)で収縮期血圧は160mmHgであった。午後4時10分ころ,F医師は,楔入を解除し,止血傾向と判断したが,原告が声かけに反応せず,酸素飽和度が87%(10L/分マスク下酸素投与)まで低下していたことから呼吸状態不良と判断し,アンビューバックで加圧した後,気管挿管を行った。この時,収縮期血圧は150mmHg,脈拍は52回/分であり,洞性徐脈がみられた。午後4時15分ころ,酸素飽和度は92ないし93%(10L/分マスク下酸素投与)まで回復し,自発呼吸の再開も確認された。脈拍は,70回/分台で洞調律であり,明らかな不整脈の発現は確認されなかった。なお,F医師が,吸引した血液(洗浄等に使用された生理食塩水を含む)を吸引瓶の目盛りで確認したところ,100mlに達していなかった(乙A2,5,7,証人F医師)。 整脈の発現は確認されなかった。なお,F医師が,吸引した血液(洗浄等に使用された生理食塩水を含む)を吸引瓶の目盛りで確認したところ,100mlに達していなかった(乙A2,5,7,証人F医師)。 エ午後4時30分ころ,原告は,隣接する被告病院救急外来に移送され,経過観察となった。原告は,声かけに対し頷くことはできる状態であったが,経過観察中,左片麻痺の出現が確認されたため,午後4時50分ころ,緊急に脳のCT検査が行われたが,CT画像上明らかな高吸収域,低吸収域は確認されなかった(乙A2,7)。 オ午後5時25分ころ,原告は,全身管理目的で救命救急センター(ICU)へ入室し,ディプリバン(鎮静剤)による鎮静下で人工呼吸管理が行 われることとなった。ICU入室時,原告は,声かけに対する反応はなく,左への共同偏視も確認される状態であり,入室直後には,全身痙攣を起こした。この痙攣はホリゾン(精神安定剤)の投与により消失したものの,その後,体動が見られるようになってから瞳孔不同が出現し,その際,対光反射も緩慢であったことから,午後7時ころから脳血管撮影が行われることとなった。そして,同撮影の結果,右中大脳動脈に血栓が確認されたことから,ウロキナーゼによる血栓溶解療法が施行された。血栓溶解療法の後に行われたCT検査では明らかな脳梗塞の所見は認められなかった。 (甲A4,乙A2)カ6月14日,CT検査が行われたことろ,左後頭葉にやや大きな,右中大脳領域に小さめの脳梗塞が確認された。 6月16日,脳梗塞の原因検索のため,経食道エコー検査が行われたが,左心房内に血栓は確認できなかった。また,同日,鎮静が解除され,翌17日には人工呼吸器が外されて自発呼吸開始となり,意識状態も徐々に改善し,同月19日には問いかけに反応できる程度まで回復した。その 左心房内に血栓は確認できなかった。また,同日,鎮静が解除され,翌17日には人工呼吸器が外されて自発呼吸開始となり,意識状態も徐々に改善し,同月19日には問いかけに反応できる程度まで回復した。その後,原告は,同月23日にICUから一般病棟に移動した。 なお,6月13日から6月21日までのHb値,Ht値及び輸液量は以下のとおりである(乙A2,乙A4,7)。 6/136/14 6/15 6/166/176/186/196/206/21Hb値(g/dl)13.811.8 10.511.811.811.510.6Ht値(%) 35.530.431.934.335.335.432.5輸液量(ml)865.53597.53096286525893267276429232829キ7月12日,胸部CT検査が行われたところ,左上肺野の病変が被告病院初診時よりも更に増大していることが確認された。そのため,左上葉肺切除手術が行われることが決まり,原告は,同月22日,被告病院で左上葉肺切除手術を受けた。8月7日,7月22日の手術の際に切除された検 体の病理組織検査の結果が判明し,病変は肺癌ではなく,肉芽腫性病変と診断された(乙A2)。 クその後,原告は,被告病院でリハビリテーションを受けたが,11月8日,被告病院のD医師から,左半身不全麻痺であり9月23日ころに症状固定しているとの診断を受けた。 原告は,D医師から上記診断を受けた後も被告病院にて,向精神薬の投与下にリハビリテーションを継続し,平成18年3月ころには,意識障害はなく,杖を使用しての歩行が可能な状態となったものの,言葉が出にくい,呂律が回らないなどの軽度の言語障害が残り,また左半身不全麻痺は改善しないまま,平成18年3月2 成18年3月ころには,意識障害はなく,杖を使用しての歩行が可能な状態となったものの,言葉が出にくい,呂律が回らないなどの軽度の言語障害が残り,また左半身不全麻痺は改善しないまま,平成18年3月27日,被告病院を退院した。なお,退院前の平成18年3月25日ころ,E医師から,原告に対し,気管支鏡検査中に肺内出血した原因について,明らかな因果関係は断定できないが,左肺病巣周囲の血管が破綻して大出血を起こしたか,喫煙による慢性気管支炎があり,ここに分布する気管支動脈が破綻した可能性があるとの説明がなされた。さらに,原告は,平成18年7月11日,D医師から,肺肉芽腫症手術後,脳梗塞後遺症,左半身不全麻痺,講音障害との診断を受けた(甲A1,3,乙A1,乙A2)。 医学的知見証拠によれば次の医学的知見が認められる。 経気管支肺生検の禁忌( )経気管支肺生検は,出血傾向,特に血管病変(動静脈瘻,肺動静脈瘤など)のある患者に対しては絶対禁忌とされる。相対的禁忌としては高度の呼吸不全,コントロール不良の気管支喘息,狭心症・心筋梗塞の急性期などがある(乙B1,証人F医師)。 気管支鏡検査の合併症( )気管支鏡検査時の合併症としては,出血(なお,数ml程度の出血はほぼ 全例に生じる,気胸,炎症の悪化や肺炎などの感染症,気管支喘息,心筋)梗塞・不整脈・心不全などの循環器系疾患などである。最も多い合併症は出血で,50ml以上又は反対の肺への流入例を基準として,発生率は0.05%ないし1.7%とされている。なお,出血については,300ml以上又は輸血を必要とした大量出血が269施設科中,21施設科(7.8%)で経験されているとの報告がある(甲B5,乙B5)。 出血量,出血性ショックの臨床症状等( )出血量と出血性ショックの臨床 又は輸血を必要とした大量出血が269施設科中,21施設科(7.8%)で経験されているとの報告がある(甲B5,乙B5)。 出血量,出血性ショックの臨床症状等( )出血量と出血性ショックの臨床症状については,次のような分類がされている。もっとも,ヘマトクリット値については,出血後短時間内での判定には役立たないとされている(甲B2)。 shockの重症度出血量血圧脈拍Ht症状無症状15%まで正常正常ないしやや42症状はないか,あっても精(750ml)促進神的不安,たちくらみ,め110以下まい,皮膚冷感程度軽症shock15~20%90~100/60~70多少促進,100~1四肢冷感,手足は冷たい,(1250ml)20の頻脈冷汗,倦怠,蒼白,口渇,めまいから失神中等度shock25~35%60~90/40~60120以上の著明34不穏,蒼白,口唇・爪褪色(1750ml)脈圧減少な頻脈,弱い重症shock35~45%40~60/20~40触れにくい,12 30以下意識混濁,極度の蒼白,チ(2250ml)0以上アノーゼ,末梢冷却,反射低下,虚脱状態,呼吸浅迫 危篤shock45%以上40~0触れない20台~10台昏睡様,虚脱,斑状点チア(2300ml以上)ノーゼ,下顎呼吸,不可逆性ショックへ移行する危篤状態 血流,肺動脈及び肺静脈の走行( )全身から戻ってきた血液は,右心房を通り,右心室から肺動脈へ送られ,肺内の毛細血管でガス交換が行われた後,肺静脈へ流れ込み,左心房を経て,左心室から全身へと送られる。なお,肺動脈は気管支に並走しており,肺静脈は肺動脈よりも気管支から離れた位置に存在する(甲B5,乙B4,証。 人F医師) 争点1 (事前検査 れ込み,左心房を経て,左心室から全身へと送られる。なお,肺動脈は気管支に並走しており,肺静脈は肺動脈よりも気管支から離れた位置に存在する(甲B5,乙B4,証。 人F医師) 争点1 (事前検査を怠った過失の有無)について( ) 原告は,被告担当医師らが,本件検査前に原告の基礎疾患や治療歴の確認,( )凝固系の検査を怠っており,被告担当医師らには注意義務違反があると主張する。 しかし,前記12 アのとおり,被告病院の担当医師は,原告が被告病院に( )( )入院した日である6月12日に,原告の病歴等について,虫垂炎,十二指腸潰瘍,胆嚢炎といった既往症があるものの,気管支鏡検査に支障を来すような事情がないことを確認しており,また,血液,凝固系の異常についても,前記12 ア,イのとおり,5月24日及び6月12日の血液検査で異常のな( )いことを確認している。 したがって,被告担当医師らが本件手術前に原告の基礎疾患や治療歴の確認,凝固系の検査を怠ったとの原告の主張には理由がない。 争点2 (気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失の有( )無)について 原告は,F医師が,本件検査において,気管支鏡や鉗子を操作するに当た( ) り,出血をさせないよう注意深く行う必要があるにもかかわらず,これを怠り,急激に気管支鏡や鉗子を操作した過失があると主張する。そして,原告は,前記12 クのとおり,E医師が原告に対する説明の際に大量出血があっ( )たことを認めていること,G医師が800ml以下の出血があったと述べていること(甲B5,本件事故後に原告のヘモグロビン値,ヘマトクリット)値が低下していることなどから,気管支鏡検査の際に800mlから1000ml程度の大量出血があったとし,これをF医師の過失を基礎 いること(甲B5,本件事故後に原告のヘモグロビン値,ヘマトクリット)値が低下していることなどから,気管支鏡検査の際に800mlから1000ml程度の大量出血があったとし,これをF医師の過失を基礎づける事情とする。 しかしながら,E医師の説明は,通常数ml程度である気管支鏡検査にお( )ける出血量が,本件検査では100mlとなったことから,大量出血と表現したとも考えられるところであって,800mlに達する出血があったことを認めるものではないし,G医師も800ml以下と述べているのみで,具体的に800ml程度の出血があったと述べているわけではない。また,ヘモグロビン値,ヘマトクリット値の低下についても,前記12 カのとおり,( )6月13日には,865.5mlの輸液が行われ,同月14日以降は,連日3000ml前後の輸液が行われていることを考慮すれば,これらの低下が直ちに800mlの出血を基礎付けるものとは認められない。さらに,800mlから1000mlもの出血があった場合,左上葉支口を楔入して閉塞し,これを維持することは困難と考えられるが,本件では,前記12 ウのと( )おり,F医師が楔入を解除するまで,楔入が維持されていることが認められる。そして,本件では,前記12 ウのとおり,出血が確認されてから10分( )程度で止血傾向にあることが確認されているところ,本件のような滲出する出血で,10分という短時間に800mlから1000mlもの出血があったとは考え難い。仮に,前記23 のとおり,800mlから1000mlも( )の出血があった場合には,血圧の軽度低下,脈拍の促進が生じるものとされているが,本件では,前記12 ウのとおり,午後4時10分ころの原告の収( ) 縮期血圧は150mmHg,脈拍は52回/分であり,血 あった場合には,血圧の軽度低下,脈拍の促進が生じるものとされているが,本件では,前記12 ウのとおり,午後4時10分ころの原告の収( ) 縮期血圧は150mmHg,脈拍は52回/分であり,血圧の低下も脈拍の促進も生じていない。以上のことからすると,気管支鏡検査の際の原告の出血量が,800mlから1000mlであったと認めることはできず,前記 12 ウのとおり,F医師が持続吸入瓶内の血液(洗浄のために使用した生理( )食塩水を含む)が100ml未満であったことを止血後に確認していることからすると,出血量は100ml程度であったと認めるのが相当である。 また,前記22 のとおり,50ml以上の出血又は対側の肺への血液の流( )( )入の発生率は0.05%ないし1.7%とされ,300ml以上の出血又は輸血を必要とした出血が269施設科中,21施設科(7.8%)で経験されているとの報告もあるように,出血は気管支鏡検査の最も多い合併症の一つとされているのであるから,気管支鏡検査の際に100ml程度の出血があったからといって,そのことのみから,出血が医師の過失によるものと推認することはできないというべきである。 そして,本件検査について,F医師は慎重に手技を行った旨述べていると( )ころであるし,他に手技上の過失があったと認めるに足りる証拠もないことから,F医師に気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際に,急激に気管支鏡や鉗子を操作するなどの手技上の過失があったとする原告の主張には理由がない。 上記のとおり,被告担当医師らには何ら過失は認められないのであるから,因果関係について検討する必要はないが,念のため,気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失と原告の後遺症との因果関係の有無についても付言する。 過失は認められないのであるから,因果関係について検討する必要はないが,念のため,気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失と原告の後遺症との因果関係の有無についても付言する。 1 ア脳梗塞の機序について,原告は,G医師の意見書(甲B5)を根拠に,( )出血により生じた血栓が肺静脈に吸収され左心房,左心室を通じて心臓から拍出され,脳に達して塞栓を生じた可能性が最も高いと主張する。 イしかしながら,本件の出血は,前記12 ウのとおり,左Bの末梢側( )1+2b から生じたものであるが,肺の末梢側の血管径は非常に小さいものであることからすると,そのような部位の出血によって,本件のように脳の主幹動脈である中大脳動脈を閉塞するような大きさの血栓が生じたとは考え難い。 また,原告の上記主張は,本件出血が肺静脈からの出血であることを前提とするものと思われるが,前記24 のとおり,肺動脈が気管支に併走し( )ているのに対し,肺静脈は肺動脈よりも気管支から離れた位置に存在することから,本件で損傷されたのは肺静脈ではなく肺動脈である可能性が高く,原告の主張するように肺静脈を損傷したと断定することはできない。 そして,仮に,肺動脈を損傷した場合には,前記24 のとおり,肺動脈を( )流れる血液は毛細血管を経て心臓に戻り,全身へ拍出されるのであるから,肺動脈の血栓が脳に到達するためには,血栓が毛細血管を通過する必要がある。しかし,毛細血管の血管径が極めて小さいことからすれば,中大脳動脈を閉塞するに足りる大きさの血栓が毛細血管を通過できたとは考え難いところである。 ウ以上のことからすると,出血により生じた血栓が肺静脈に吸収され左心房,左心室を通じて心臓から拍出され,脳に達して塞栓を生じたG医師の意見を採用することはできない。 たとは考え難いところである。 ウ以上のことからすると,出血により生じた血栓が肺静脈に吸収され左心房,左心室を通じて心臓から拍出され,脳に達して塞栓を生じたG医師の意見を採用することはできない。 2 アさらに,原告は,本件脳梗塞が,上記機序により生じたものではないと( )すれば,本件の大量出血により酸素欠乏が起こり,それにより心不全が起こって,その結果,脳血流の低下が生じ脳梗塞が発生したとも主張し,これを基礎づける事情としてF医師の証言を挙げる。 イしかしながら,既に述べたとおり,本件では,原告が主張するように800mlから1000mlもの出血が生じたとは認められない。また,F医師は,出血により酸素欠乏が起こり,それにより心不全が起こって,その結果,脳血流の低下が生じ脳梗塞が発生した可能性があると証言してい るものの,結論としては,本件における出血と脳梗塞の因果関係は不明と述べていることからすると,上記の脳梗塞の発症機序は,考え得る可能性の一つとして述べたものに過ぎないというべきである(なお,E医師も,原告の脳梗塞の原因について,出血により酸素欠乏が起こり,それにより心不全が起こって,その結果,脳血栓ができた可能性があると考えていたが(甲A2,乙A2,その趣旨はF医師の上記供述と同旨と認められる)(証人F医師。これに加えて,脳梗塞の生じた機序については,その)。)ほかにも,気管支鏡検査によって迷走神経が刺激され,血行動態に変化が生じ脳梗塞が発症した可能性,気管支鏡検査の際に偶然脳梗塞が生じた可能性なども考えられるところであり,また,100ml程度の出血であれば体内の酸素化に必要な肺の機能は確保されていて,通常は酸素欠乏が生じるとは考え難いとされていること(証人F医師)をも併せ考えれば,本件出血により脳梗塞が生じたと ,また,100ml程度の出血であれば体内の酸素化に必要な肺の機能は確保されていて,通常は酸素欠乏が生じるとは考え難いとされていること(証人F医師)をも併せ考えれば,本件出血により脳梗塞が生じたとは認められないというべきである。 ウしたがって,本件出血により酸素欠乏が起こり,それにより心不全が起こって,その結果脳血流の低下が生じ脳梗塞が発生したとの原告の主張も採用することはできない。 以上のとおり,原告に生じた脳梗塞が本件検査による肺出血に起因するも( )のとは認めらないから,脳梗塞の発症機序についての原告の主張には理由がない。 結論 以上のとおりであり,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部 裁判長裁判官村田渉裁判官松本展幸裁判官小野本敦 (別紙)主張要約書第1事前検査を怠った過失の有無(原告の主張) 出血事故を予防するためには,血液疾患・肝硬変・尿毒素・肺高血圧症といった基礎疾患や抗凝固剤内服の有無等の治療歴の確認が必要であり,リスクを有する患者や生検が必要な患者では,血小板・PT・APTT・出血時間など,最低限度の凝固系の検査も必要となる。 しかも,本件では,原告の左上葉肺に「肉芽腫」が存在していたのであり,その肉芽腫の周辺は,乙A第2号証204頁に「癌だと疑われていた周囲には,血が巡りやすくなっています」との記載があることからも分かるように,血。 流が豊かで,出血傾向の高い箇所であった。 したがって,被告担当医師には,気管支鏡検査施行前に,血小板数,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,出血時間,凝固時間などを確認し,血液・凝固系異常の有無を確認する義務があった あった。 したがって,被告担当医師には,気管支鏡検査施行前に,血小板数,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,出血時間,凝固時間などを確認し,血液・凝固系異常の有無を確認する義務があった。 然るに,被告病院の医師は,原告の基礎疾患や治療歴の確認,凝固系の検査を怠ったのであり,被告担当医師には注意義務違反がある。 (被告の主張)本件では,平成15年5月24日の外来受診時,及び同年6月12日の計2回にわたり検査前の血液検査を行っているところ,両検査において,原告に凝固系の異常を示す所見は認められていない。また,原告には,気管支鏡検査が禁忌となる基礎疾患や既往は存在せず,本件の事前検査につき不適切な点はない。 第2気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失の有無(原告の主張) 気管支鏡検査を行う際には,合併症とりわけ出血をさせないよう注意深く行う必要があり,気管支鏡は,出血の有無に注意しながら慎重にゆっくりと進めなければならない。そして,気管支鏡検査時に生検鉗子や鋭匙鉗子を用いて細胞を採取する際も,いきなり鉗子を挿入し病変部まで到達させてはならず,周辺部位に気管支鏡を軽く触れさせて,そこから出血がないことを確認しながら,徐々に進めていかなければならないのである。特に,本件のように,X線透視下で出血の傾向の高い患者に対し,気管支鏡検査を行う場合には,より慎重に気管支鏡や鉗子を操作する義務がある。また,出血が認められた場合には,大出血に至らぬよう早急に検査を中止して止血のための処置を採らなくてはならない。 然るに,被告担当医師は,上記注意義務を怠り,急激に気管支鏡や鉗子を操作したため原告の左亜区域枝Bからの出血を惹起したのであり,被告担当1+2b医師には注意義務違反がある。 なお,6月13日の本件 るに,被告担当医師は,上記注意義務を怠り,急激に気管支鏡や鉗子を操作したため原告の左亜区域枝Bからの出血を惹起したのであり,被告担当1+2b医師には注意義務違反がある。 なお,6月13日の本件事故後,原告のHt値は8ないし10低下し,Hb値も低下している。Ht値が1減少すれば100mlの出血があったものとされていることからすると,本件事故の際の原告の出血量は800ないし1000mlであったと認められ,このように本件事故の際に大量の出血があったことからしても,本件事故が被告担当医師の手技ミスによって惹起されたものであることは明らかである。 (被告の主張)本件を後方視的に見ると,本件検査中に確認された出血は,重喫煙及び肉芽腫増大を原因として,本件腫瘤付近の気管支壁に徐々に増生したと考えられる気管支動脈からのものであったと推測されるが,かかる気管支動脈の増生について,事前にこれを予測することは不可能である。 そもそも,気管支鏡検査では,ごく少量のものまで含めれば,ほぼ全例で出血が生じるものであることに加え,本件のような透視下での手技の場合には,検査者がどんなに慎重に手技を進めても一定の割合で出血が生じることを避けることはできない。 本件において,被告担当医師は,慎重に手技を進めていたにもかかわらず,検査中,左Bの末梢側より滲出する出血が確認されたものであって,1+2b本件出血は不可避的な合併症,偶発症である。また,出血の確認後には,速やかに適切な止血処置が行われたものであり,本件経過をもって,不適切と評価されるべき理由はない。 なお,本件検査における出血量は,約100ml以内であったものである(なお,この数値には,気管支洗浄等に使用した生理食塩水も若干量含まれているものである。一般に,全ての気管支内に血液が入る量としては。 本件検査における出血量は,約100ml以内であったものである(なお,この数値には,気管支洗浄等に使用した生理食塩水も若干量含まれているものである。一般に,全ての気管支内に血液が入る量としては。)解剖学的に150mlが限界である。仮に,本件検査時に,800mlから1000mlもの出血があれば,気管支ファイバースコープの楔入を維持することは不可能であり,その結果,オーバーフローによって気管支全体に血液が充満することにより窒息死に至ることが予測されるが,そのような事態は生じていない。また,800ml程度の出血があれば,血液が左上葉気管支腔内からあふれ出ていてしかるべきであるのに,術後のレントゲン所見においても明らかなとおり,出血は左上葉に限局している。このような本件の経過からすれば,原告主張の大量出血の事実が存しないことは明らかである。 第3上記各過失と結果との因果関係の有無(原告の主張) 原告の脳梗塞の発生機序原告に生じた脳梗塞は,本件事故の際の出血量からして,本件気管支鏡検査中に発生した出血によって出血部位から生じた血栓が,血流によって流され, 脳組織に到達することにより生じたものであると考えられ,具体的な経路としては,血栓が肺静脈に吸収され左心房,左心室を通じて心臓から拍出され,脳に達して塞栓を生じた可能性が最も高い。そして,脳動脈を塞栓するに足りる血栓を生じさせる出血量としては100ml程度で十分であるから,仮に本件の出血量が100ml程度であったとしても,上記機序により生じた可能性が最も高いことに変わりはない。 仮に脳梗塞が上記機序により生じたものでないとしても,F医師が,呼吸状態の悪化によって酸素欠乏が起こり,その結果,大量の酸素を有する心機能に何らかの傷害が起こる心不全が起こり,脳への血流の低下が起こり得ると 塞が上記機序により生じたものでないとしても,F医師が,呼吸状態の悪化によって酸素欠乏が起こり,その結果,大量の酸素を有する心機能に何らかの傷害が起こる心不全が起こり,脳への血流の低下が起こり得ると述べていることからすると,本件では,大量出血により酸素欠乏が起こり,それにより心不全が起こって,その結果脳梗塞が発生したと考えるべきである。 事前検査を怠った過失と結果との因果関係被告担当医師は,事前検査を怠ったことにより,本件患者の出血傾向についての診断を誤った。その結果,本件出血事故が発生し,上記機序により原告に脳梗塞が生じたのであるから,事前検査を怠った過失と原告の後遺症との間には因果関係がある。 気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失と結果との因果関係被告担当医師の気管支鏡検査中の手技上の過失により,左亜区域枝Bか1+2bらの出血を生じさせ,その結果,上記いずれかの機序により原告に脳梗塞が生じたのであるから,気管支鏡,生検鉗子及び鋭匙鉗子を操作する際の手技上の過失と原告の後遺症との間には因果関係がある。 (被告の主張) 原告の脳梗塞の発生機序本件検査後の脳梗塞の発生機序について,医学的に,これを明確に特定することはできない。本件検査と関連性を有さない機序により生じた可能 性も排斥することはできないところである。 原告主張の機序は極めて否定的であることそもそもの前提として,本件では,解剖学的に,肺静脈の損傷は考えられない。気管支の近傍には「肺静脈」ではなく「肺動脈」が走行して,,おり,本件の検査手技により,気管支から離れた位置にある「肺静脈」を損傷したとは考えられないところである。 上記の点を措くとしても,肺静脈に生じた血栓が血管壁から遊離し左心房から左心室を経て脳主幹動脈を閉塞することは 技により,気管支から離れた位置にある「肺静脈」を損傷したとは考えられないところである。 上記の点を措くとしても,肺静脈に生じた血栓が血管壁から遊離し左心房から左心室を経て脳主幹動脈を閉塞することは,ある程度の太い径をもち,血流の豊富な肺静脈でないと起こり得ない。 本件出血の発症部位は,気管支の径が細く,検査自体が透視下での手技にならざるを得ない左上葉の末梢側であり,同部付近の肺静脈は,気管支の径と同様に小さなものである。このように小さな血管系から脳の主幹動脈を閉塞する塞栓子が形成されることは極めて考え難いところである。 本件検査における出血量なお,本件検査における出血量が,約100ml以内であったことは前記のとおりである第4損害額(原告の主張) 逸失利益1億0075万0294円原告は,左半身不全麻痺で,左腕及び左足はまったく動かない。これは,それぞれ「1上肢の用を全廃したもの(後遺障害等級第5級の6「1下肢の」),用を全廃したもの(同第5級の7)に該当する。そして,第5級以上に該当」する後遺障害が2つ以上あることから,原告の後遺障害等級は3級繰上がることとなり,2級相当となる。 また,原告の本件事故の年齢は51歳で,同事故が発生する以前は,機械設 計業によって年間約929万6280円の収入を得ていたが,現在,原告が受給している生活保護費は手取りで月額5万9740円に過ぎない。したがって,逸失利益は,929万6280×10.8377(労働能力喪失期間16年に対応するライプニッツ係数)×100%=1億0075万0294円となる。 後遺症慰謝料3000万0000円原告は,単なる検査目的による施術であるのに重大な過失によって重大な後遺症を負わされ,労働不能・離婚という被害を負わせられてしまったのであり,また 円となる。 後遺症慰謝料3000万0000円原告は,単なる検査目的による施術であるのに重大な過失によって重大な後遺症を負わされ,労働不能・離婚という被害を負わせられてしまったのであり,また,医療機関に対する信頼を裏切られた精神的苦痛は甚大である。よって後遺症慰謝料は3000万円を下らない。 弁護士費用1307万0000円弁護士費用は,1307万円(逸失利益及び後遺症慰謝料の合計の1割)を下らない。 合計よって,原告が被った損害は,合計1億4382万0294円を下らない。 (被告の主張)全て争う。
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