平成24(行ク)134 執行停止の申立て事件

裁判年月日・裁判所
平成24年4月19日 東京地方裁判所 公物・公企業など
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判決文本文7,783 文字)

主文 1 処分行政庁が平成24年4月5日付けで申立人に対してしたと畜場設置許可取消処分(○八健衛発第○号)の効力は,本案事件(当庁平成○年(行ウ)第○号と畜場設置許可取消処分取消請求事件)の第一審判決の言渡しまで停止する。 2 申立人のその余の申立てを却下する。 3 申立費用は,相手方の負担とする。 事実 及び理由第1 申立て処分行政庁が平成24年4月5日付けで申立人に対してしたと畜場設置許可取消処分(○八健衛発第○号)の効力は,本案事件の判決確定まで停止する。 第2 事案の概要本件は,処分行政庁が平成24年4月5日付けで申立人に係ると畜場設置許可処分を取り消す処分をしたため,申立人が上記処分の取消しを求める当庁平成○年(行ウ)第○号と畜場設置許可取消処分取消請求事件(以下「本案事件」という。)を提起した上,上記処分による生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると主張して,行政事件訴訟法25条2項本文に基づき,上記処分の効力の停止を求める事案である。 1 と畜場法の定め(1) 3条(定義)ア 1項この法律で「獣畜」とは,牛,馬,豚,めん羊及び山羊をいう。 イ 2項この法律で「と畜場」とは,食用に供する目的で獣畜をとさつし,又は解体するために設置された施設をいう。 ウ 3項この法律で「一般と畜場」とは,通例として生後一年以上の牛若しくは馬又は一日に十頭を超える獣畜をとさつし,又は解体する規模を有すると畜場をいう。 (2) 4条(と畜場の設置の許可)一般と畜場又は簡易と畜場は,都道府県知事(保健所を設置する市にあっては,市長。以下同じ。)の許可を受けなければ,設置してはならない。 (3) 5条1項都道府県知事は,前条第1項の規定による許可の申請があった場合において,・・・ 知事(保健所を設置する市にあっては,市長。以下同じ。)の許可を受けなければ,設置してはならない。 (3) 5条1項都道府県知事は,前条第1項の規定による許可の申請があった場合において,・・・(中略)・・・当該と畜場の構造設備が政令で定める一般と畜場若しくは簡易と畜場の基準に合わないと認めるときは,同項の許可を与えないことができる。 (4) 13条(獣畜のとさつ又は解体)ア 1項本文何人も,と畜場以外の場所において,食用に供する目的で獣畜をとさつしてはならない。 イ 2項本文何人も,と畜場以外の場所において,食用に供する目的で獣畜を解体してはならない。 (5) 14条(獣畜のとさつ又は解体の検査)ア 1項と畜場においては,都道府県知事の行う検査を経た獣畜以外の獣畜をとさつしてはならない。 イ 2項と畜場においては,とさつ後都道府県知事の行う検査を経た獣畜以外の獣畜を解体してはならない。 ウ 3項本文と畜場内で解体された獣畜の肉,内臓,血液,骨及び皮は,都道府県知事の行う検査を経た後でなければ,と畜場外に持ち出してはならない。 (6) 19条(と畜検査員)1項第14条に規定する検査の事務に従事させ,並びに第16条及び第17条第1項に規定する当該職員の職務並びに食用に供するために行う獣畜の処理の適正の確保に関する指導の職務を行わせるため,都道府県知事は、当該都道府県の職員のうちからと畜検査員を命ずるものとする。 2 前提事実一件記録によれば,以下の事実を一応認めることができる。なお,当事者間に争いがない事実以外については,認定の根拠を各末尾に付記した。 (1) 当事者等ア申立人は,組合員のためにすると畜場の運営に関する事業や共同と畜解体処理事業等を目的として,東京都知事から中小企業等協同組 事実以外については,認定の根拠を各末尾に付記した。 (1) 当事者等ア申立人は,組合員のためにすると畜場の運営に関する事業や共同と畜解体処理事業等を目的として,東京都知事から中小企業等協同組合法27条の2第1項に基づく認可を受けて平成16年3月4日に設立された中小企業等協同組合である。 イ相手方は,平成19年4月1日,地域保健法5条1項及び地域保健法施行令1条3号に基づき,保健所を設置する市となったことにより,八王子市長(処分行政庁)がと畜場の設置許可及び取消しに関する権限を東京都知事から承継した。 (2) 申立人に対する一般と畜場設置許可処分及びその取消処分の経緯ア申立人は,平成16年3月29日付けで,東京都知事から,と畜場法4条1項の規定に基づき,申立人の住所地をと畜場所在地,同年4月1日を許可開始日として,一般と畜場の設置許可を得た。 申立人は,平成16年4月1日,相手方との間で,相手方が所有する土地及び建物等について,貸付期間を同日から平成17年3月31日まで,貸付料を定額貸付料135万9759円及び頭数割貸付料(と畜頭数に1頭当たりの金額を乗じて算出されるもの)の合計額として,市有財産貸付契約(以下「本件貸付契約」という。)を締結した(疎乙13)。 申立人は,平成16年4月1日から,本件貸付契約に基づき借り受けた建物(以下「本件建物」という。)をと畜場(以下「本件と畜場」という。)として利用し,組合員のためにと畜業を行っていた。 イ本件貸付契約は,平成17年以降毎年更新され,平成23年4月1日に更新された契約では,貸付期間が同日から平成24年3月31日まで,貸 付料が定額貸付料138万2821円及び頭数割貸付料の合計額と定まっていた(疎甲3)。 ウ相手方は,平成23年6月30日,申立人に対し, は,貸付期間が同日から平成24年3月31日まで,貸 付料が定額貸付料138万2821円及び頭数割貸付料の合計額と定まっていた(疎甲3)。 ウ相手方は,平成23年6月30日,申立人に対し,平成24年4月1日以降の本件貸付契約の更新には応じられないとの通知をし(疎乙6),相手方は,平成24年4月5日付けで,申立人に対し,「と畜場設置許可に係る土地・建物等について,八王子市からの貸付期間が同年3月31日に満了し,A協同組合がこれらの施設を使用できなくなったため」という理由で,と畜場法4条1項に基づく一般と畜場の設置許可処分の取消処分をした(以下「本件取消処分」という。)。 (3) 仮処分事件申立人は,相手方を債務者として,東京地方裁判所立川支部に対し,本件建物について賃借権を有することを仮に定めることなどを求める仮処分を申し立てた。同支部は,平成24年4月9日,本件貸付契約のうち本件建物を賃貸借の目的とする部分は,借地借家法26条1項に基づき,同月1日以降も法定更新され,期間の定めのないものとして存続しているとして,申立人が本件建物について同日から平成25年3月31日まで,賃借権を有することを仮に定める旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした(甲6)。 (4) 訴えの提起申立人は,平成24年4月12日,東京地方裁判所に対し,本件取消処分の取消しを求める訴え(本案事件)を提起した。 3 争点本件の争点は,①本件が「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行政事件訴訟法25条2項本文)に当たるか,②本件取消処分の効力停止が「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(同条4項)に当たるか,③「本案について理由がないとみえるとき」(同項)に当たるかである。 4 当事者の主張申立人の 処分の効力停止が「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(同条4項)に当たるか,③「本案について理由がないとみえるとき」(同項)に当たるかである。 4 当事者の主張申立人の主張は,別紙1(執行停止申立書写し)及び別紙2(準備書面写し)記載のとおりであり,相手方の主張は,別紙3(意見書写し)記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 争点①(本件が「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に当たるか。)について(1) 一件記録によれば,以下の事実が一応認められる。なお,当事者間に争いがない事実以外については,認定の根拠を各末尾に付記した。 ア申立人は,本件と畜場の運営を目的に,畜産農家や家畜商を組合員として設立された中小企業等協同組合であり,本件と畜場において,東京都多摩地域を中心とする畜産農家や家畜商が持ち込んだ牛,馬,豚等のと畜を業として行っている(疎甲14,乙2の2,乙4)。 申立人は,平成22年4月から平成23年3月までの会計年度に約2万3000頭のと畜を行い,約5600万円の収入を得たところ,その収入は同会計年度の全収入約6100万円の9割以上を占めていた(疎甲9,乙2の1)。また,申立人は,上記会計年度において,人件費,賃借料及び水道光熱費等で約6100万円の経費を支出していた(疎甲9)。 イ東京都多摩地域の近辺には,本件と畜場のほか,α(東京都港区所在),β(山梨県笛吹市所在),γ(埼玉県和光市所在),δ(埼玉県さいたま市所在)及びε(神奈川県厚木市所在)の5か所にと畜場が存在する。 ウ申立人は,本件仮処分決定により,平成24年4月1日から平成25年3月31日まで,本件建物の賃借権を有すると仮に定められたため,本件建物の使用を継続することができる法的地位にあるものの,平成24 ウ申立人は,本件仮処分決定により,平成24年4月1日から平成25年3月31日まで,本件建物の賃借権を有すると仮に定められたため,本件建物の使用を継続することができる法的地位にあるものの,平成24年4月5日付けで,本件取消処分がされたことにより,本件と畜場においてと畜を行うことができない状態にある。 (2) 上記各事実によれば,申立人は,組合員のためにすると畜場の運営事業及び共同と畜解体処理事業等を目的として中小企業等協同組合法に基づいて設立された中小企業等協同組合であり,その収入の9割以上を本件と畜場から得られると畜料等に依存しているところ,本件と畜場においてと畜ができないことになれば,申立人はと畜による収入が得られずその存立自体が危機に瀕することはもとより,組合員として本件と畜場を利用してきた中小零細の畜産農家等において,本件取消処分によって本件と畜場を利用することができなくなり,遠隔地のと畜場を利用せざるを得なくなるため,その輸送に伴う経済的・時間的負担や輸送中に獣畜に生ずる死亡等の事故のリスクなどから廃業を余儀なくされる事態が生じかねない。このような申立人やその組合員に生ずる事態は,中小規模の事業者らが相互扶助の精神に基づいて協同して事業を行うことで公正な経済活動の機会を確保し,もってその自主的な経済活動を促進し,かつ,その経済的地位の向上を図るという中小企業等協同組合法の目的を没却しかねないものであって,その損害は,社会通念上,事後的な金銭賠償等で回復させることは不可能あるいは著しく困難であるというべきである。 (3) 一方,本件取消処分の内容及び性質を見ても,本件取消処分は,申立人が本件建物を使用することができなくなったことを理由として,申立人に対すると畜場設置の許可を取り消すものであり,本件と畜場について, 一方,本件取消処分の内容及び性質を見ても,本件取消処分は,申立人が本件建物を使用することができなくなったことを理由として,申立人に対すると畜場設置の許可を取り消すものであり,本件と畜場について,公衆衛生の見地からと畜場の設置を取り消すべき事由(と畜場法18条1項,5条から8条まで参照)が存在するものではないから,本件取消処分の効力が停止されて,申立人が本件と畜場においてと畜を行ったとしても,公衆衛生上の問題が生ずるなどの公益上の重大な問題が生ずるとはいえない。 (4) 以上によれば,本件においては,本件取消処分によって申立人が被る損害は,社会通念上,事後的な金銭賠償等で損害を回復させるのが容易でない程度に達しているだけでなく,そのような損害の発生が切迫しており,本件 取消処分の行政目的達成を一時的に犠牲にしてもなお申立人を救済しなければならない緊急の必要性が存在するものというべきであって,「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(行政事件訴訟法25条2項本文)に当たる。 2 争点②(本件取消処分の効力停止が「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に当たるか。)について(1) 相手方は,八王子市内の畜産農家の減少に伴い,市内農家による本件と畜場の利用率は著しく低下しているため,本件と畜場の運営を相手方のみで担うことは行財政政策上著しく困難な状況となっていること,平成23年度をもって東京都によると畜検査業務費の補助及び職員の派遣が打ち切られることが決定しており,平成24年度以降,東京都が本件と畜場に派遣していたのと同程度のと畜検査員等を相手方が確保することは極めて困難であること,本件と畜場の運営が継続すれば,相手方はと畜検査員の派遣等で年間約1億2000万円程度の負担を強いられることからすれば,本件取消処分 同程度のと畜検査員等を相手方が確保することは極めて困難であること,本件と畜場の運営が継続すれば,相手方はと畜検査員の派遣等で年間約1億2000万円程度の負担を強いられることからすれば,本件取消処分の効力停止が認められれば,行財政政策上重大な支障が生ずるので,「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(行政事件訴訟法25条4項)に当たると主張する。 (2) 確かに,疎明資料(疎甲10,乙4,20)によれば,本件取消処分の効力が停止され,本件と畜場の運営が継続すれば,相手方は,と畜場法に基づき,本件と畜場にと畜検査員を派遣して獣畜の検査等を行わせる必要があるところ,そのためには,相手方においてと畜検査員等の人員及びその人件費を確保しなければならないことが認められ,本件取消処分の効力停止は,相手方の行財政政策に一定の影響を及ぼす可能性があるものといえる。 (3) しかしながら,相手方は,人口50万人を超える比較的大規模な地方公共団体(公知の事実)であり,その行財政規模も相当大きいものと推認されるところ,上記のようなと畜検査員等の人員及び人件費の確保が必要となっ たとしても,相手方の行財政に大きな混乱を来すなどの重大な支障が直ちに生ずるものとは通常考え難いし,このような重大な支障が生ずることを認めるに足りる疎明はない。そのほか,本件取消処分の効力停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることをうかがわせる疎明資料は見当たらない。 (4) したがって,本件取消処分の効力停止が「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に当たるとはいえない。 3 争点③(「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか。)について(1) 相手方は,本件貸付契約が平成24年3月31日の経過により終了したことにより,同年4月1日以 当たるとはいえない。 3 争点③(「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか。)について(1) 相手方は,本件貸付契約が平成24年3月31日の経過により終了したことにより,同年4月1日以降,申立人はと畜場の設置に適した構造設備を喪失し,と畜場を設置する当然の前提を欠くに至ったので,当然なすべき処分として申立人に対すると畜場の設置許可を取り消したものであるから,本件取消処分が適法であることは明らかであり,「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)に当たると主張する。 そして,相手方は,本件取消処分の根拠として,本件貸付契約が終了したことにより,申立人がと畜場の設置に適した構造設備を喪失したことのみを主張し,本件貸付契約が終了した理由について,本件貸付契約は,使用貸借契約に該当するか,仮に使用貸借契約に該当しないとしても,一時使用目的の建物賃貸借契約に該当するから,借地借家法の適用を受けず,平成24年3月31日の期間満了により当然に終了したものであると主張する。 (2) しかしながら,前記前提事実によれば,東京地方裁判所立川支部は,平成24年4月9日,本件貸付契約のうち本件建物を賃貸借の目的とする部分は終了していないことが疎明されていると判断して,申立人が本件建物について同月1日から平成25年3月31日まで,賃借権を有することを仮に定める旨の本件仮処分決定をしていることが認められるところ,本件仮処分決定が取り消されたといった事情はうかがわれない。 そして,一件記録を精査しても,貸付料が固定資産税等の算出額に比べて低額であるなどの事情があるとしても,本件貸付契約は使用貸借契約ではなく賃貸借契約に該当するとし,申立人と相手方との間で覚書(疎乙1の1及び2)が締結されているなどの事情があるとしても, 額に比べて低額であるなどの事情があるとしても,本件貸付契約は使用貸借契約ではなく賃貸借契約に該当するとし,申立人と相手方との間で覚書(疎乙1の1及び2)が締結されているなどの事情があるとしても,一時使用の合意があったとはいえず,借地借家法28条に規定する更新拒絶の正当事由も認められないから,本件建物に係る賃貸借契約は終了していないと判断した本件仮処分決定が効力を有しない無効なものであるというような疎明がされているとは到底いえない。 そうすると,申立人が本件建物の使用権原を失い,と畜場の設置に適した構造設備を喪失したことが明らかであるとはいえないから,本件取消処分に関する手続上の瑕疵の有無について判断するまでもなく,本件取消処分が違法であるという申立人の主張に理由がないことが明らかであるとはいえない。 (3) したがって,本件について,「本案について理由がないとみえるとき」に当たるとはいえない。 4 効力停止の期間について上記3の「本案について理由がないとみえるとき」に当たるかどうかの判断は,本案事件の第一審判決の結論によって影響を受けるものであるから,効力停止をすべき期間については,本案事件の第一審判決の結論を踏まえて改めて判断すべきである。 したがって,本件取消処分の効力停止の期間は,本案事件の第一審判決の言渡しの時までとするのが相当である。 第4 結論よって,本件申立ては,本案事件の第一審判決の言渡しまで本件取消処分の効力停止を求める限度で理由があるから,この限度で認容し,その余は理由がないからこれを却下することとし,申立費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 平成24年4月19日東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官 費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 主文 平成24年4月19日東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官定塚誠 裁判官竹林俊憲 裁判官馬場俊宏

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