平成24年4月26日判決言渡平成23年(行ケ)第10325号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年2月14日判決 原告 X 被告特許庁長官指定代理人新留豊同横尾俊一同唐木以知良同芦葉松美 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2008-19673号事件について平成23年8月16日にした審決を取り消す。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「ウイルス性及び各種アレルギー性鼻炎・皮ふ炎の治療薬としての抗鼻炎剤・抗アレルギー剤」とする特許発明について,平成9年5月22日に出願した(以下「本願」という。)(乙1)。 平成19年6月12日付けで拒絶理由通知がなされ(乙2),原告は,同年7月7日付けで,手続補正(以下「平成19年補正」という。)を行い,発明の名称を「ア レルギー性鼻炎を完治さすために使用する梅干(又は塩とクエン酸の混合物)入の鼻栓付カプセル」に変更すると共に,出願当初の明細書(以下,同明細書を図面を含めて「当初明細書」という。)の特許請求の範囲等につき補正を行った(甲11の2,11の3,乙4)。これに対し,同年11月14日付けで最後の拒絶理由通知がなさ 願当初の明細書(以下,同明細書を図面を含めて「当初明細書」という。)の特許請求の範囲等につき補正を行った(甲11の2,11の3,乙4)。これに対し,同年11月14日付けで最後の拒絶理由通知がなされ(乙5),原告は,平成20年1月7日付けの意見書を提出し(乙6),同年5月29日付けで拒絶査定がなされた(乙7)。 そこで,原告は,同年7月11日,拒絶査定不服審判(不服2008-19673号事件。以下「本件審判」という。)を請求すると同時に,手続補正(以下「平成20年補正」という。)を行い(乙8,9),平成23年8月16日付けで,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)がなされ(乙12),その謄本は,同年9月8日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲及び補正の経緯(1) 当初明細書における特許請求の範囲は,以下のとおりである(以下,当初明細書の特許請求の範囲に記載された各発明を併せて「本願発明」という。)(乙1)。 「【請求項1】各種梅干の製造課程で生じる生産物及びしそづけ梅干を主原料とする抗鼻炎剤【請求項2】請求項(1)に抗アレルギー剤を加える。 【請求項3】請求項(1)の各種梅干の製造課程で生じる生産物及び上記梅干のエキス及びその粉末を主原料とする製剤(図3)【請求項4】上記(請求項1・請求項3)製剤をカプセルに入れて,又はカプセル化して,鼻腔内に挿入すること。そして青梅綿(真綿)コットンボール又は柔かい紙で栓をすること。(図1)(図2)(図5)【請求項5】カプセルと鼻栓が一体となった製剤(図4)【請求項6】上記製剤の成分を主成分とする入浴剤【請求項7】上記製剤と同じ分子構造の化学合成剤を含む。」(2) 平成19年補正の内容 平成19年補正の内容は,以下のとお (図4)【請求項6】上記製剤の成分を主成分とする入浴剤【請求項7】上記製剤と同じ分子構造の化学合成剤を含む。」(2) 平成19年補正の内容 平成19年補正の内容は,以下のとおりである。なお,原告は手書きの書面で手続補正を行ったが,特許庁がこれを電子データ化する際,手続補正1,手続補正2及び手続補正5における「又は塩とクエン酸」を「又は塩化クエン酸」と誤って入力したと認められることから,以下では,「又は塩とクエン酸」と表記する。(甲11の2,11の3,乙4)ア手続補正1発明の名称の変更補正の内容 「アレルギー性鼻炎を完治さすために使用する梅干(又は塩とクエン酸の混合物)入の鼻栓付カプセル」イ手続補正2特許請求の範囲の変更補正の内容「【特許請求の範囲】【請求項1】アレルギー性鼻炎を完治さすために使用する梅干(又は塩とクエン酸の混合物)入の鼻栓付カプセル【請求項2】上記鼻栓付カプセルに鼻粘膜の刺激を緩めるために麻酔薬をコーティングする。」(以下,上記補正後の請求項1及び2に係る発明を併せて「補正後発明」という。)ウ手続補正3【0001】の削除エ手続補正4【0003】の変更補正の内容「【0003】【発明が解決しようとする課題】従来の治療薬と違って,本剤は,完治するまで連用することが出来る。本剤を鼻 腔内に挿入すると,しばらくして,多量の鼻汁が発生する。そして出来るだけ長く(10分~20分)辛抱し,その後,鼻汁をよくかんで出してから,又,同じ様に,本剤を鼻腔内に挿入する。鼻汁が出なくなるまで繰り返す(2~3回)。普通1時程で終わる。完治させるためには,その行為を2~3回,症状が出た時に行えばよい。」オ手続補正5 ら,又,同じ様に,本剤を鼻腔内に挿入する。鼻汁が出なくなるまで繰り返す(2~3回)。普通1時程で終わる。完治させるためには,その行為を2~3回,症状が出た時に行えばよい。」オ手続補正5図面の簡単な説明の変更補正の内容「【図面の簡単な説明】【図1】日本薬局方カプセル【図2】薬剤の入ったボトル【図3】ソフトカプセル(粉末の梅干又はそのエキスと乳化剤等の入ったカプセル)【図4】梅干(又は塩とクエン酸)の入った鼻栓と一体となったカプセル【図5】ハードカプセル」(3) 平成20年補正の内容平成20年補正の内容は,以下のとおりである(乙9)。 ア手続補正1発明の名称の変更補正内容 「アレルギー性鼻炎を完治させるために使用する梅干し入りの鼻栓付カプセル」イ手続補正2特許請求の範囲の請求項1の一部削除補正内容 「アレルギー性鼻炎を完治さすために使用する梅干し(又は塩とクエン酸の混合物)入の鼻栓付カプセル」下線の部分を削除する。 ウ手続補正3特許請求の範囲の請求項2の削除 エ手続補正4図面の簡単な説明の図4の補足補正内容 「梅干(又は塩とクエン酸)の入った鼻栓と一体となったカプセル」下線部分の削除オ手続補正5発明の詳細な説明の補足説明「【0003】【発明が解決しようとする課題】の補足の説明この方法で症状が完治する。もし再発時に初回と同じ方法で処置すればよい,最大3クールの処置をすればアレルギー性鼻炎は完治する。アレルギー性鼻炎でない症状の時にはこの処置をしても鼻腔内はなんの反応もない。 即ち鼻汁が異常には発生しない。従って症状も治らない。」「【0004 課題を解決するための手段】の補足の説明本発明の鼻栓 鼻炎でない症状の時にはこの処置をしても鼻腔内はなんの反応もない。 即ち鼻汁が異常には発生しない。従って症状も治らない。」「【0004 課題を解決するための手段】の補足の説明本発明の鼻栓付カプセルで処置を続けることにより血液中に流れているアレルギー症状の引き金及び促進する細胞が炎症の局部に集中しなくなり局所の原因物質がある程度以下になった時に完治したと言えるのである。 鼻栓付梅干し入カプセルを鼻腔内にそう入することにより鼻腔内の粘膜層を梅干しが浸透圧の原理とクエン酸による粘膜の軟化とにより,粘膜の浮腫を消滅させるために鼻汁が多量に発生して症状が消えるのである。 カプセルに鼻栓が付いていないと鼻汁と共に梅干しの入ったカプセルが鼻外にすぐ出てしまい腔内での反応を長時間持続させることが出来ないために何回処方しても症状は改善されない。 鼻栓をつけるということ他の発明との比較効果に関して本発明の目的達成のためには必要不可欠のものである。」 3 本件審決の理由本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,以下のとおりである(乙12)。 (1) 平成20年補正について手続補正5が,明細書の段落【0003】及び【0004】を変更するのか,同段落に補足説明を追加するのか不明であるが,いずれにしても,上記の補正は,当初明細書に記載されている事項の範囲内でしたものとはいえず,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第3項(以下,単に「特許法17条の2第3項」という。)に規定する要件を満たさないので,却下する。 (2) 本願について本願は,平成19年補正により補正されているが,平成19年補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものではなく,特許法17条の2第3項に違反するの で,却下する。 (2) 本願について本願は,平成19年補正により補正されているが,平成19年補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものではなく,特許法17条の2第3項に違反するので,本願は拒絶すべきである。 第3 当事者の主張 1 取消事由に関する原告の主張(判決注原告準備書面に沿って記載した。)(1) 取消事由1ア特許庁は,平成19年6月12日付けで拒絶理由通知を行ったが,その理由は,引用文献に記載された技術に基づき,本願発明は当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができないというものであった。しかし,引用文献には,本願発明のように,アレルギー性鼻炎を完治させるという内容のものはなく,原告は,平成19年7月7日付けの意見書において,引用文献と本願発明とは何の因果関係もないと主張すると共に,平成19年補正を行った。 ところが,平成19年11月14日付けで拒絶理由通知がなされた。同拒絶理由通知における理由1は,請求項1における「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」,図面の簡単な説明中の図4の説明における「梅干(又は塩とクエン酸)」,請求項2の「鼻栓付カプセルに鼻粘膜の刺激を緩めるために麻酔薬をコーティングする。」,発明が解決しようとする課題の欄の「(10分~20分)辛抱し」の補正は,特許法 17条の2第3項の規定に違反するものであるというもので,理由2は,補正後発明は,引用文献記載の技術に基づいて,当業者であれば容易になし得たと認めるというものであった。しかし,請求項1及び図4における上記補正の括弧内は,梅干しの成分を説明しているだけであり,梅干しの成分が塩とクエン酸であることは常識であり,このような補正は自明のこととして許されるべきであ あった。しかし,請求項1及び図4における上記補正の括弧内は,梅干しの成分を説明しているだけであり,梅干しの成分が塩とクエン酸であることは常識であり,このような補正は自明のこととして許されるべきである。また,辛抱する時間には個体差があるのであり,上記理由1は誤りである。引用文献から補正後発明が当業者であれば容易になし得たともいえず,上記理由2も誤りである。 イ特許庁は,特許法29条2項の運用を誤っており,前置報告書は無効であり,無効な前置報告書に基づく審判も無効である。 ウ平成19年11月14日付け拒絶理由通知書には,意見があれば,この通知書発送の日から60日以内に意見書を提出してくださいと記載されていたため,原告は,平成20年1月7日付けで意見書を提出した。原告は,同意見書において,図面の詳細な説明の図4に,「梅干し等の入った鼻栓付きカプセル」という説明を追加し,平成19年補正後の請求項1を,「アレルギー性鼻炎を完治させるために使用する梅干しの入った鼻栓付きカプセル」に変更し,平成19年補正後の請求項2を削除し,明細書に「(20分~50分)辛抱し」となっていたのを「(10分~20分)辛抱し」に変更したのを取り消すと記載すると共に,進歩性について反論し,最後に「再度補正追加手続きをお願い出来ないでしょうか,宜しくお願いします。」と記載した。 原告は,上記意見書に対して返答がもらえるものと待っていたが,平成20年5月29日付けで拒絶査定がなされたものであり,これは不意打ちである。特許法に従って,意見書を提出し,手続補正をお願いしていたのであるから,特許庁はそれに対する対応をすべきであり,何の連絡もなくこのような対応をするのは,不当である。 平成20年補正における手続補正1ないし4は,実質的には,平成20年1月7日付意見 たのであるから,特許庁はそれに対する対応をすべきであり,何の連絡もなくこのような対応をするのは,不当である。 平成20年補正における手続補正1ないし4は,実質的には,平成20年1月7日付意見書の中でなされているのであるから,上記手続補正1ないし4は有効にな されているとして,審判すべきである。 エ原告は,拒絶査定において補正後発明が容易想到であると判断されたため,原告の主張が理解してもらえるように,手続補正5において発明の内容を説明せざるを得なかったのである。以上のような事情から,誤記・誤認により,「手続附記」とすべきところを「手続補正5」としてしまったのであり,手続補正5は不要であり,補正却下の決定の取消しを求める。 オ原告は,平成20年補正の手続補正5における各補足説明の内容は,一般的な常識の範囲内のものであり,自明のことであると考えていたので,上記手続補正5における各補足説明が当初明細書の記載から自明の事項ではないとする前置報告書の意味が,本件審決がなされるまで,理解できなかった。したがって,本件審決において平成20年補正を却下したのには理由がなく,違法である。 (2) 取消事由2ア平成20年補正における手続補正5は,本件審判手続においては不必要なものであり,補正の方法も補足説明とされているように,補正には当たらないものである。 イ本件審決は,平成20年補正のうちの手続補正5における段落【0003】の「アレルギー性鼻炎でない症状の時にはこの処置をしても鼻腔内はなんの反応もない。即ち鼻汁が異常には発生しない。」について,当初明細書に何ら記載されていないと判断しているが,これは誤りである。上記段落【0003】の記載は,当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】,【0004】の内容を逆説的に述べ ない。」について,当初明細書に何ら記載されていないと判断しているが,これは誤りである。上記段落【0003】の記載は,当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】,【0004】の内容を逆説的に述べているにすぎない。 また,本件審決は,当初明細書の実施例1ないし3における「鼻づまり」は「かぜの症状」の一つであって,「アレルギー性鼻炎」によるものではないから,上記段落【0003】の記載は上記実施例の記載と整合しないと判断するが,これは誤った事実認識に基づく判断である。それまで春かぜ,夏かぜと一般に思われていた症状がアレルギー性鼻炎(いわゆる杉花粉症)であると医学者によって初めて診断さ れたのは1970年代であり,その後も,十数年から20年前までは,一般人には春かぜ,夏かぜと間違われていた。「鼻づまり」が発熱していないときは,かぜなのかアレルギー性鼻炎なのかは,抗体検査をしなければ,正確には判定できないのであり,上記段落【0003】の補正は,技術常識に照らし,当業者に周知の事項である。 さらに,本件審決は,平成20年補正のうち手続補正5における段落【0004】の補正に関し,同補正における梅干しの抗炎症作用の具体的作用機序については,当初明細書には何ら具体的な記載がなく,当業者に周知の事項であったとも認められないと判断するが,この判断も誤りである。上記作用機序は,当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】ないし【0010】を総合的に理解・解釈すれば理解できること,及び当業者であれば自明のことである。 以上のとおり,平成20年補正の手続補正5は,当初明細書に記載された事項の範囲内でなされたものであるから,平成20年補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではない。 (3) 取消事由3特許法29条1項の「産業上利用すること 正5は,当初明細書に記載された事項の範囲内でなされたものであるから,平成20年補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではない。 (3) 取消事由3特許法29条1項の「産業上利用することができる発明」に関し,審査基準では,人間を手術,治療又は診断する方法(以下「医療行為」という。)は,産業上利用することができる発明には含まれないとしている。しかし,特許法には医療行為が産業上利用することができない発明であるという条文はなく,この審査基準には法的根拠がない。法的根拠に基づかずに発明者の権利を制限することは,国家公務員法96条,98条,憲法14条違反であり,このような審査・審決は無効である。 (4) 取消事由4原告は,平成19年補正の手続補正1,手続補正2及び手続補正5において,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」と補正したにもかかわらず,補正内容が,故意に「梅干(又は塩化クエン酸の混合物)」に変更され,これを前提に審査,審判がなされている。また,拒絶理由通知書では「梅干(又はクエン酸の混合物)」と記載され ている。このような,虚偽の補正内容を前提とした本件審決は,直ちに取り消されるべきである。 2 被告の反論(1) 取消事由1に対してア本件審決は,平成19年補正が特許法17条の2第3項に違反すると判断しているが,図4の「梅干(又は塩化クエン酸)」は,梅干しと塩化クエン酸が有効成分として同じであることを表すものであるものの,当初明細書には「塩化クエン酸」に関する記載は一切ない(判決注被告準備書面に即して,「塩化クエン酸」との表記を用いた。)。 それどころか,原告の主張は,当初明細書の段落【0010】の記載事項と整合しない。すなわち,段落【0010】には,梅干しに含まれる梅,しそ,塩の各品目が,鼻炎症の消 ン酸」との表記を用いた。)。 それどころか,原告の主張は,当初明細書の段落【0010】の記載事項と整合しない。すなわち,段落【0010】には,梅干しに含まれる梅,しそ,塩の各品目が,鼻炎症の消滅に相乗的な効果を示すと記載されているのであって,「塩とクエン酸」のみでは「梅干し」の効果を奏するのに十分であるとはいえず,両者が有効成分として同じであるとはいえない。 また,当初明細書の段落【0003】には「それを出来るだけ長く(20分~50分)辛抱し」と記載されているが,当初明細書には,10分程度の短い時間辛抱するだけで鼻汁が出なくなり完治するとの記載は,一切ない。 さらに,平成19年補正では,新たな請求項2を追加している。 したがって,平成19年補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でなされたものではなく,平成19年補正が特許法17条の2第3項に違反するとした判断に誤りはない。 イ平成19年11月14日付け拒絶理由通知書に対しては,原告は,同通知書を受領した後及び本件審判請求時の2回,意見を述べる機会と補正をする機会があった。しかも,平成20年1月7日付け意見書の末尾に「再度補正追加手続きをお願い出来ないでしょうか」と記載されているものの,どのような事項を補正追加するのか,また,どのような事情により再度補正する必要があるのかについて,具 体的な理由が記載されていない以上,原告の意図を審査官が把握することはできないから,審査官が,再度,補正の機会を与えることなく拒絶査定をしたことが,不意打ちであるということはできない。 さらに,審査官は,前置報告書において,平成20年補正の手続補正5は当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるから,平成14年法律第24号に に,審査官は,前置報告書において,平成20年補正の手続補正5は当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるから,平成14年法律第24号による改正前の特許法53条1項の規定により却下されるべきものであると指摘し,審判官は,平成23年2月24日付けで,上記前置報告書を引用した審尋を行っているが,これに対して,原告は,同年4月19日付けで回答書を提出しているものの,上記指摘事項に対する反論はなされていない。原告は,上記審尋によって,平成20年補正が却下されるおそれがあることを予見でき,反論する機会も与えられていたのであるから,本件審決において,平成20年補正を却下したことに手続上の違法はない。 ウ原告は,拒絶査定に対して手続補正5で発明の内容を説明せざるを得なかった旨主張するが,説明が必要であれば,意見書あるいは審判請求書の請求の理由において説明すべきであって,手続補正5で説明せざるを得なかったという特段の事情があったとも解せない。 (2) 取消事由2に対して原告は,平成20年補正のうちの手続補正5における段落【0003】の記載は,当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】,【0004】の内容を逆説的に述べているにすぎないと主張するが,段落【0003】及び【0004】における「鼻炎」には多数の種類がある。したがって,当初明細書の段落【0003】及び【0004】の記載からは,「アレルギー性鼻炎」だけでなく,「ウイルス性鼻炎」,「萎縮性鼻炎」,「血管運動神経性鼻炎」などの場合にも,完治することができる旨が記載されていると解される。 また,当初明細書の実施例1ないし3の記載からは,これらの実施例における「鼻づまり」はかぜの症状の一つであって,アレルギー性鼻炎によるものではない 治することができる旨が記載されていると解される。 また,当初明細書の実施例1ないし3の記載からは,これらの実施例における「鼻づまり」はかぜの症状の一つであって,アレルギー性鼻炎によるものではないと解 さざるを得ない。 さらに,本願発明の特徴が,アレルギー性鼻炎が鼻栓付梅干カプセルを使用して治癒することにあるのだとするならば,アレルギー性鼻炎は治癒するが,アレルギー性鼻炎でない症状は治癒しないという上記カプセルの効果は,当初明細書に記載されていない新規なものとなる。 したがって,手続補正5の段落【0003】に関する補正は,当初明細書に記載されている事項の範囲内でしたものであるということはできない。 また,平成20年補正のうち手続補正5の段落【0004】における梅干しの抗炎症作用の具体的作用機序に関しては,当初明細書には記載がなく,これが技術常識であると認めることもできない。したがって,これについても,当初明細書に記載されている事項の範囲内でしたものであるということはできない。 (3) 取消事由3に対して本件審決においては,特許法29条1項柱書に規定する要件は,何ら問題にしていないのであるから,原告の主張は理由がない。 (4) 取消事由4に対して原告の主張は,本件審決の違法性とは無関係である。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由は,いずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。事案にかんがみ,先に,平成19年補正及び平成20年補正の適法性から判断する。 1 平成19年補正及び平成20年補正について(1) 事実認定ア手続の経過(ア) 原告は,平成9年5月22日に本願(請求項の数7)を申し立てた。 (イ) 平成19年6月12日付けで拒絶理由通知がされた。通知書には,5点 補正について(1) 事実認定ア手続の経過(ア) 原告は,平成9年5月22日に本願(請求項の数7)を申し立てた。 (イ) 平成19年6月12日付けで拒絶理由通知がされた。通知書には,5点にわたり拒絶理由が示されているが,そのうち3点の概要は,以下のとおりである。(乙 2)① 梅やしそに抗アレルギー作用があること,アレルギー等の鼻炎にカプセル剤を使用すること,花粉症等によって生じた鼻汁が流れ出るのを防止するために綿等により鼻栓をすることは本願前周知技術であり,請求項1~4に記載された発明は,当業者であれば容易になし得たものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 ② 請求項2に記載された「抗アレルギー剤」,請求項4に記載された「青梅(真綿)コットンボール又は柔かい紙」,請求項6に記載された「入浴剤」について,発明の詳細な説明に記載されておらず,請求項2,4,6に係る発明は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号(以下,単に「特許法36条6項1号」という。)に規定する要件を満たしていない。 ③ 請求項1,3に記載された「各種梅干の製造課程で生じる生産物」,請求項2に記載された「抗アレルギー剤」,請求項7に記載された「上記製剤と同じ分子構造の化学合成剤」が,具体的にどのようなものか,どのような化合物が包含されるのか不明瞭である。請求項4の発明は,カプセルを鼻腔内に挿入し,鼻栓をする方法の発明か,鼻栓に真綿や柔らかい紙を用いることを特徴とする製剤(もの)の発明か,発明のカテゴリーが不明瞭である。よって,請求項1~4,7に係る発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 なお,拒絶理由③の末尾に「(なお,鼻腔内に挿入し,鼻栓をする方法の発明である場合は,治療方 瞭である。よって,請求項1~4,7に係る発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 なお,拒絶理由③の末尾に「(なお,鼻腔内に挿入し,鼻栓をする方法の発明である場合は,治療方法の発明と認められ,特許法第29条柱書に規定する要件に違反していると判断される点に注意すること。)」と記載されていた。 (ウ) 原告は,平成19年7月7日付けで,意見書を提出した。原告は,同意見書において,拒絶理由①に対して,本願発明は,梅干しの抗アレルギー作用によって,アレルギー性鼻炎を治すのではなく,梅干しに含まれている塩とクエン酸ナトリウムが鼻粘膜に作用して,浮腫を解消し,鼻粘膜にあったアレルギー性鼻炎の原因物質を鼻汁と共に排出し,アレルギー性鼻炎を完治するというものであり,鼻栓は, 鼻汁が出るのを止めるためではなく,鼻粘膜の浮腫に対して,梅干しの成分のより強い反応を持続させるためのものであると反論した。また,拒絶理由②に対して,請求項2,4及び6を削除することとし,拒絶理由③に対して,請求項4及び5を一体とする手続補正を行うと述べた。(乙3)(エ) 原告は,上記意見書の提出と併せて,平成19年7月7日付けで,平成19年補正を行った。 (オ) 平成19年11月14日付けで最後の拒絶理由通知がされた。通知書に記載された2点の拒絶理由の概要は,以下のとおりである。(乙5)① 平成19年補正のうち,請求項1の「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」及び図面の簡単な説明の図4の「梅干(又は塩とクエン酸)」(判決注拒絶理由通知書には,請求項1及び図4の説明に「梅干(又はクエン酸の混合物)」と記載がされている旨を摘示しているが,拒絶理由通知書中の同摘示部分は,明白な誤記と認められる。),請求項2の「鼻栓付カプセルに鼻粘膜の刺激を緩めるた 及び図4の説明に「梅干(又はクエン酸の混合物)」と記載がされている旨を摘示しているが,拒絶理由通知書中の同摘示部分は,明白な誤記と認められる。),請求項2の「鼻栓付カプセルに鼻粘膜の刺激を緩めるために麻酔薬をコーティングする。」,発明が解決しようとする課題の欄の「(10分~20分)辛抱し」の記載は,当初明細書に記載されておらず,かつ,梅干しに代えてクエン酸混合物を用いることや,鼻栓付カプセルに麻酔薬をコーディングすること,当初明細書に「(20分~50分)辛抱し」とあるのを「(10分~20分)辛抱し」に変更することは,当業者にとって自明であるとも認められないので,これらの補正は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものではなく,特許法17条の2第3項の規定に違反する。 ② 梅やしそに抗アレルギー作用があること,アレルギー等の鼻炎にカプセル剤を使用すること,花粉症等によって生じた鼻汁が流れ出るのを防止するために綿等により鼻栓をすることは本願前周知技術である。本願のカプセルに入れられる梅干しは刺激性で,かつ,本願のカプセルはアレルギー性鼻炎のような鼻汁がたまる病気に適用されるのであるから,カプセルの適用時に生じる鼻汁が出るのを防ぐために,予めカプセルと鼻栓を一体化することは,当業者が必要に応じ適宜なし得るこ とである。実際に鼻栓付カプセルを使用してどのような効果が得られたかについて,当初明細書には記載されていない。よって,請求項1,2に記載された発明は,当業者であれば容易になし得たものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 なお,意見書の提出期間は,通知書発送の日から60日以内とされ,発送日は同年11月20日であった。(乙5)(カ) 原告は,平成20年1月7日付けで意見書を により,特許を受けることができない。 なお,意見書の提出期間は,通知書発送の日から60日以内とされ,発送日は同年11月20日であった。(乙5)(カ) 原告は,平成20年1月7日付けで意見書を提出した。同意見書において,原告は,上記最後の拒絶理由通知における拒絶理由の②に対する反論を行ったほか,図面の簡単な説明の図4に,「梅干し等の入った鼻栓つきカプセル」に関する説明を追加し,平成19年補正による補正後の請求項1を「アレルギー性鼻炎を完治させるために使用する梅干しの入った鼻栓つきカプセル」に変更し,同補正後の請求項2の内容をすべて削除し,明細書に「(20分~50分)辛抱し」とあるのを「(10分~20分)辛抱し」に変更したのを取り消す旨記載した。さらに,原告は,意見書の末尾に,「再度補正追加手続きをお願い出来ないでしょうか,宜引くお願い申し上げます。」と記載した。(乙6)(キ) 平成20年5月29日付けで,平成19年11月14日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶理由の①及び②により,拒絶査定がされた。なお,査定書の備考欄に,上記拒絶理由の①については,補正書が提出されていないので,同じ拒絶理由が存在し,拒絶理由の②については,上記意見書における原告の主張を検討しても,補正後発明は,引用文献等に基づいて,当業者が容易になし得ることであると認められ,さらに,補正後発明は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項及び特許法36条6項1号に規定された要件も充足していないと記載されていた。(乙7)(ク) 原告は,平成20年7月11日,本件審判を請求すると共に,平成20年補正を行った。 (ケ) 平成23年2月24日付けで書面による審尋がなされた。審尋書には,本件 審判事件については,審査官による審査の結果,前置報告 日,本件審判を請求すると共に,平成20年補正を行った。 (ケ) 平成23年2月24日付けで書面による審尋がなされた。審尋書には,本件 審判事件については,審査官による審査の結果,前置報告書のとおり,特許をすべき旨の査定ができない旨の報告がなされたので,今後,前置報告書の内容を踏まえて審理を行うとの方針,及び前置報告書の内容について意見があれば回答するようにとの指示が記載されていた。(乙10)なお,前置報告書には,平成20年補正における発明の詳細な説明の段落【0003】及び【0004】に記載された事項は,当初明細書の記載から自明な事項ではないので,同補正は特許法17条の2第3項の規定に違反するとの趣旨が記載されていた。(乙10)(コ) 原告は,平成23年4月19日付けで回答書を提出し,回答書において,平成19年6月12日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶理由の①,及び拒絶査定書の備考欄に記載された事項のうち平成19年11月14日付け拒絶理由通知書における拒絶理由の②に係わる主張に対して反論をした。さらに,本願に係る明細書の発明の名称,要約,課題,解決手段及び特許請求の範囲の請求項1を更に補正する方針である旨記載した。(乙11)(サ) 平成23年8月16日付けで本件審決がなされた。 イ当初明細書の記載当初明細書には,以下の記載がある(乙1)。 「【発明の詳細な説明】【0001】[発明の属する技術分野]本発明は,ウイルス・細菌・その他異物(アレルゲン)が鼻腔内粘膜及び体内に附着・内在して生じる鼻炎・皮ふ炎の治療に有効な抗鼻炎剤・抗アレルギー剤・入浴剤」「【0003】[発明が解決しようとする課題]従来の治療薬と違って本剤は,完治するまで連用することが出来る。本剤を鼻腔内に挿入すると,しばらくして,多量の鼻汁 な抗鼻炎剤・抗アレルギー剤・入浴剤」「【0003】[発明が解決しようとする課題]従来の治療薬と違って本剤は,完治するまで連用することが出来る。本剤を鼻腔内に挿入すると,しばらくして,多量の鼻汁が発生する。それを出来るだけ長く(20分~50分)辛抱し,その後,鼻汁をよくかんでから,又,同じ様に,本剤を鼻腔内に挿入し,鼻汁が出なくなるまで繰り返えす(2~3回)。そして,鼻汁が出なくなれば,それで完治する。普通 2~4時間で鼻炎を完治することが出来る。 【0004】[課題を解決するための手段]上記目的を達成するために,本発明は,各種梅干の製造過程で生じる生産物及びしそづけ梅干そしてそれらのエキス及び粉末をカプセルに注入して,又は,カプセル化,ソフトカプセル化して鼻腔内に挿入し,鼻栓をして鼻汁の出なくなるまで反復挿入することによって鼻炎をなんの後遺症も残すことなく完治さす。」「【00010】鼻腔内に本剤を挿入することによって,生じる鼻炎症の消滅は,梅,しそ,塩の各品目の各々の成分による作用と,この3品目によって作られた梅干には,その相乗効果によって効能が強化され,強力な抗炎症が発生するものと想像される。それによって,ウイルスの死滅,細菌の死滅,アレルゲンの消滅,抗アレルゲン体質化して,症状がなくなるのではないかと思われる。」「【図面の簡単な説明】・・・【図4】鼻栓と一体となったカプセル」(2) 平成19年補正及び平成20年補正の適法性に関する判断ア特許出願人は,明細書又は図面の補正をするときは,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定されている(平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第1項(以下,単に「特許法17条の2第1項」という。),特許法17条の 又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定されている(平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第1項(以下,単に「特許法17条の2第1項」という。),特許法17条の2第3項)。 前記のとおり,原告は,平成19年6月12日付けで拒絶理由通知がされた後,平成19年補正をし,さらに,本件審判の請求と共に平成20年補正をしたが,いずれも特許法17の2第3項の規定に反する。その理由は,以下のとおりである。 イ平成19年補正について平成19年補正では,手続補正2で,請求項1について「アレルギー性鼻炎を完治さすために使用する梅干(又は塩とクエン酸の混合物)入の鼻栓付カプセル」に,請求項2について「上記鼻栓付カプセルに鼻粘膜の刺激を緩めるために麻酔薬をコーティングする。」に,それぞれ変更し,手続補正5で,図面の簡単な説明における 図4の説明について「梅干(又は塩とクエン酸)の入った鼻栓と一体となったカプセル」に,変更した。しかし,当初明細書では,「鼻炎剤」として「各種梅干の製造課程で生じる生産物及びしそづけ梅干」又は「各種梅干の製造課程で生じる生産物及びしそづけ梅干並びにそれらのエキス及び粉末」と記載されていること,また,「発明の効果」として「鼻腔内に本剤を挿入することによって,生じる鼻炎症の消滅は,梅,しそ,塩の各品目の各々の成分による作用と,この3品目によって作られた梅干には,その相乗効果によって効能が強化され,強力な抗炎症が発生する」と記載されていることに照らすならば,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」を用いる旨の開示はないと解される。また,鼻栓付カプセルに,麻酔剤をコーティングする旨の記載もない。また,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」を用いることや,鼻栓付カプセルに,麻酔剤をコーティングする いる旨の開示はないと解される。また,鼻栓付カプセルに,麻酔剤をコーティングする旨の記載もない。また,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」を用いることや,鼻栓付カプセルに,麻酔剤をコーティングすることが,当業者によって当初明細書の記載から導かれる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるに足りる証拠もない。したがって,上記各補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。 ウ平成20年補正について平成20年補正では,手続補正5において,段落【0003】についての補足説明をしているが,同補足説明中には,「アレルギー性鼻炎でない症状の時にはこの処置をしても鼻腔内はなんの反応もない。即ち鼻汁が異常には発生しない。従って症状も治らない。」と記載されている。他方,当初明細書には,発明の属する技術分野として「ウイルス・細菌・その他異物(アレルゲン)が鼻腔内粘膜及び体内に附着・内在して生じる鼻炎」と,発明の効果として,「ウイルスの死滅,細菌の死滅,アレルゲンの消滅,抗アレルゲン体質化して,症状がなくなるのではないかと思われる。」と記載され,実施例1ないし3には,かぜの症状を呈したとか,かぜにかかりそうに感じたときに,鼻腔内にカプセルを挿入した事例が記載され,上記各記載によると,本願に係る鼻炎剤は,アレルギー性鼻炎のみならず,かぜによる鼻炎に対しても効果があることが示されているものと認められ,当初明細書中に「アレルギー性 鼻炎でない症状の時にはこの処置をしても鼻腔内はなんの反応もない。」との記載はない。そして,同事項が,当業者によって当初明細書の記載から導かれる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものではないとも認められない。 また,手続補正5における段落【0004】の補足説明には, そして,同事項が,当業者によって当初明細書の記載から導かれる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものではないとも認められない。 また,手続補正5における段落【0004】の補足説明には,○a鼻栓付カプセルの処置により,血液中に流れているアレルギー症状に関連する細胞が炎症の局部に集中しなくなる,○b同カプセルを鼻腔内に挿入することにより,梅干しが浸透圧の原理とクエン酸による粘膜の軟化とにより,鼻腔内粘膜の浮腫を消滅させ,鼻汁が多量に発生する,○cカプセルに鼻栓が付いていないと,鼻汁と共に梅干しの入ったカプセルが鼻外に出て,鼻腔内での反応を長時間持続させることができない旨が記載されている。他方,当初明細書には,本願に係る発明の作用機序に関して,「鼻腔内に本剤を挿入することによって,生じる鼻炎症の消滅は,梅,しそ,塩の各品目の各々の成分による作用と,この3品目によって作られた梅干には,その相乗効果によって効能が強化され,強力な抗炎症が発生するものと想像される。それによって,ウイルスの死滅,細菌の死滅,アレルゲンの消滅,抗アレルゲン体質化して,症状がなくなるのではないかと思われる。」との記載があるのみで,上記○a及び○bに関する記載はない。また,上記○a及び○bが,当業者によって当初明細書の記載から導かれる技術的事項との関係で,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるに足りる証拠もない。 したがって,手続補正5は,当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものではない。 (3) 小括以上のとおり,平成19年補正及び平成20年補正はいずれも当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものではなく,特許法17条の2第3項の規定に反するものであるから,平成20年補正を却下し,本願は拒絶すべきであるとした本件審決の判断には 20年補正はいずれも当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものではなく,特許法17条の2第3項の規定に反するものであるから,平成20年補正を却下し,本願は拒絶すべきであるとした本件審決の判断には誤りはない。 2 取消事由1について 取消事由1に係る原告の主張は,以下のとおり,いずれも失当である。すなわち,(1) 原告は,平成19年補正のうち,特許請求の範囲の請求項1及び図面の簡単な説明の図4の説明における補正で,「梅干し(又は塩とクエン酸の混合物)」又は「梅干(又は塩とクエン酸)」と記載したのは,括弧内で梅干しの成分を説明しているだけであり,梅干しの成分が塩とクエン酸であることは常識であり,このような補正は自明のこととして許されるべきであると主張する。 しかし,上記括弧内の記載は,鼻炎剤として「塩とクエン酸の混合物」又は「塩とクエン酸」を使用することもできるという趣旨と解すべきであり,単に梅干しの成分を説明しただけであると解することはできない。また,梅干しの成分として塩とクエン酸が含まれることが当業者の常識であるとしても,塩とクエン酸の混合物で本願に係る鼻炎剤に代替できるということが,新たな技術的事項を導入するものではないと認めることもできない。したがって,原告の主張は理由がない。 (2) 原告は,鼻炎剤を鼻腔内に挿入してから辛抱する時間には個体差があるのであり,平成19年補正において段落【0003】中の記載を「(10分~20分)辛抱し」に変更した補正は,特許法17条の2第3項の規定には違反しないと主張する。 しかし,当初明細書の実施例は,いずれも鼻汁が発生するのを30分以上辛抱したものであり,他に,10分~20分辛抱する旨の記載はなく,鼻炎剤を鼻腔内に挿入してから辛抱する時間には個体差があるとしても,当初明細書の段 細書の実施例は,いずれも鼻汁が発生するのを30分以上辛抱したものであり,他に,10分~20分辛抱する旨の記載はなく,鼻炎剤を鼻腔内に挿入してから辛抱する時間には個体差があるとしても,当初明細書の段落【0003】の記載から,10分~20分辛抱することが,新たな技術的事項を導入するものではないとは認められない。したがって,「(20分~50分)辛抱し」を「(10分~20分)辛抱し」と変更した補正が,特許法17条の2第3項の規定には違反しないとする原告の主張は,採用できない。 (3) 原告は,平成20年1月7日付意見書において,手続補正を予定している内容を示した上で,手続補正を願い出ていたにもかかわらず,特許庁はこれに応答することなく,拒絶査定をしたのであり,このような対応は不当であると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,最後の拒絶理由通知を受けた場合に,同通知において指定された意見書の提出期間内でなければ明細書や図面の補正をすることができない旨規定されている(特許法17条の2第1項2号)。原告が補正の意向を示していたとしても,特許庁において,期間内に手続補正を行うよう指導,助言をすべき義務が発生するものではないから,指導,助言をしなかった手続が違法となるものとはいえない。 (4) 原告は,平成20年補正における手続補正1ないし4は,実質的には,平成20年1月7日付け意見書の中でなされているのであるから,上記手続補正1ないし4は有効になされているとして,審判すべきであると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,手続を明確化するため,手続の補正は手続補正書の提出によって行わなければならないと定められている(特許法17条4項)。本件において,原告は,平成19年11月14日 以下のとおり採用できない。すなわち,手続を明確化するため,手続の補正は手続補正書の提出によって行わなければならないと定められている(特許法17条4項)。本件において,原告は,平成19年11月14日付け拒絶理由通知がなされた後,平成20年補正を行うまでの間に,手続補正書を提出することによる手続補正を行っていない以上,平成20年1月7日付け意見書の中で補正の意向が示されていたとしても,そのことをもって,実質的に手続補正がなされていたということはできない。 (5) 原告は,拒絶査定において補正後発明が容易想到であると判断されたため,平成20年補正において,手続補正5で発明の内容を説明する必要が生じたのであり,手続補正5は,本来不要であったから,補正却下の決定の取消しを求めると主張する。 しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,平成20年補正の手続補正書において,「手続補正5」と明記した上,発明の詳細な説明の補足説明をする旨記載されている以上,平成20年補正の手続補正5が,手続補正の趣旨ではないと解することはできない。原告の主張は理由がない。 3 取消事由2について原告は,取消事由2として縷々主張するが,以下のとおり,いずれも理由がない。 (1) 原告は,平成20年補正における手続補正5は不必要であったと主張するが,前記のとおり,平成20年補正の手続補正書からは,そのように解することはできない。 (2) 原告は,十数年から20年前までは,一般人にはアレルギー性鼻炎(いわゆる杉花粉症)はかぜと間違えられていたのであり,当初明細書の実施例1ないし3の鼻づまりはかぜの症状であって,アレルギー性鼻炎によるものではないとは判断できないとして,平成20年補正における段落【0003】の補正が上記実施例の記載と整合しないとい 初明細書の実施例1ないし3の鼻づまりはかぜの症状であって,アレルギー性鼻炎によるものではないとは判断できないとして,平成20年補正における段落【0003】の補正が上記実施例の記載と整合しないという審決の判断は誤っていると主張する。 しかし,原告の主張によっても,本願がなされた平成9年当時は,既にアレルギー性鼻炎は知られていたと認められること,前記のとおり,当初明細書には,本願に係る鼻炎剤はウイルス・細菌・その他の異物(アレルゲン)による鼻炎の治療に有効であること,梅干しは,梅,しそ,塩の相乗効果によって効能が強化され,ウイルスの死滅,細菌の死滅,アレルゲンの消滅,抗アレルゲン体質化して,症状がなくなるのではないかと思われることが記載されていること,実施例1では,微熱がして,鼻づまりが生じて,かぜの症状を呈したと記載されており,これはアレルギー性鼻炎ではなくかぜによるものであると推測されることからすると,平成20年補正における段落【0003】中の「アレルギー性鼻炎でない症状の時にはこの処置をしても鼻腔内はなんの反応もない。」とする補正は,実施例を含めた当初明細書の記載と整合せず,当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。 4 取消事由3について原告は,審査基準では,医療行為は,産業上利用することができる発明には含まれないとしているのは違憲,違法であると主張する。 しかし,本願発明が上記審査基準に反するとの点は,本件審決の結論を導く理由とされていない以上,原告の上記主張は,その主張自体失当である。 5 取消事由4について原告は,平成19年補正において,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」と補正 したにもかかわらず,電子データ上,補正内容が,「梅干(又は塩化クエン酸の混合物)」と表記され,また,拒絶理由通知書 告は,平成19年補正において,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」と補正 したにもかかわらず,電子データ上,補正内容が,「梅干(又は塩化クエン酸の混合物)」と表記され,また,拒絶理由通知書では「梅干(又はクエン酸の混合物)」と記載されていることに照らすならば,本件審決は,誤りであると主張する。 確かに,電子データ上,「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」が「梅干(又は塩化クエン酸の混合物)」と表記され,また,拒絶理由通知書では「梅干(又はクエン酸の混合物)」と記載されていることが認められる。 しかし,原告が,平成19年補正において「梅干(又は塩とクエン酸の混合物)」と補正したことを前提としても,平成19年補正は前記のとおり特許法17条の2第3項の規定に反すると認められるのであり,上記の誤記を理由に,本件審決が違法であるということはできない。 6 結論以上のとおり,原告主張に係る取消事由には理由がない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決には取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官知野明
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