- 1 -平成27年4月28日判決言渡平成26年(行ケ)第10224号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成27年4月23日判決 原告有限会社日新電気 被告特許庁長官指定代理人森川元嗣大内俊彦佐 々 木訓窪田治彦田中敬規 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた裁判特許庁が不服2013-23482号事件について平成26年8月26日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。 - 2 -争点は,進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成23年1月4日,名称を「紫照明付き安全マスク」とする発明につき,特許出願(甲2,3。特願2011-11377号)をしたが,平成25年10月9日付けで拒絶査定を受けた(甲7)ので,同年11月13日,これに対する不服審判請求をした(甲8,9。不服2013-23482号)。 特許庁は,平成26年8月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年9月17日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨本願発明は,本願明細書(甲2,3)に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】マスクと照明装置を別個に容易に着脱できる構造とし,紫色の照明が発生させる小型の電球やLED等の照明を設置し,紫色が点灯するように電源を有した装置をマスク とおりのものである。 「【請求項1】マスクと照明装置を別個に容易に着脱できる構造とし,紫色の照明が発生させる小型の電球やLED等の照明を設置し,紫色が点灯するように電源を有した装置をマスク表面にドッキングさせる。マスク表面は紫色の照明で紫の可視光線と不可視光線の紫外線の波長が照射される,その波長の特性を応用して,マスク表面のウイルスを殺菌する。マスク裏側は紫外線の影響及び皮膚への弊害を考慮して,紫外線が中和する色彩,又は波長が届かない布やガーゼ等の素材で覆う構造とする。ウイルスは紫外線に対しては何の抵抗力は持ちえないので,紫外線を照射されると簡単に殺菌される。マスクと照明装置は単体で容易に着脱できる構造からなっており,マスクが汚れたら分離して洗濯が出来るので常に清潔で新鮮なマスクを使用できることを特徴とした『紫照明付き安全マスク』をここに提供する。」 3 審決の理由の要点本願発明は,甲1(特開2009-213853号公報)に記載された引用発明並びに下記の乙1~3に記載された周知技術及び技術常識に基づいて,本願出願当 - 3 -時,当業者が容易に発明をすることができたものである。 乙1:特開2008-110184号公報乙2:特開平11-332962号公報乙3:特開2010-269280号公報(1) 引用発明について甲1には,以下の引用発明が記載されている。 「マスク表面は紫の可視光線と不可視光線の紫外線が照射される,殺菌作用のある,紫の可視光線と不可視光線の近紫外線の働きにより,マスク表面のウイルスを殺菌し,マスクの内側は紫外線の波長が直接肌に届かないように,紫外線が中和する色彩,あるいはやや厚みのある布(衛生ガーゼ布)を用いており,紫外線は強力な殺菌作用があるので,ウイルスによる風邪や他の原 菌し,マスクの内側は紫外線の波長が直接肌に届かないように,紫外線が中和する色彩,あるいはやや厚みのある布(衛生ガーゼ布)を用いており,紫外線は強力な殺菌作用があるので,ウイルスによる風邪や他の原因不明の病気を予防する「紫の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する安全マスク」(2) 一致点及び相違点【一致点】マスク表面は紫の可視光線と不可視光線の紫外線の波長が照射される,その波長の特性を応用して,マスク表面のウイルスを殺菌する。マスク裏側は紫外線の影響及び皮膚への弊害を考慮して,紫外線が中和する色彩,又は波長が届かない布やガーゼ等の素材で覆う構造とする。ウイルスは紫外線に対しては何の抵抗力は持ち得ないので,紫外線を照射されると簡単に殺菌される安全マスクである点。 【相違点1】「安全マスク」に関して,本願発明においては,「マスクと照明装置を別個に容易に着脱できる構造とし,紫色の照明が発生させる小型の電球やLED等の照明を設置し,紫色が点灯するように電源を有した装置をマスク表面にドッキングさせる」「紫照明付き安全マスク」であるのに対し,引用発明においては,そのような照明装置を有しない「紫の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する安全マスク」である点。 - 4 -【相違点2】「安全マスク」に関して,本願発明においては,「マスクと照明装置は単体で容易に着脱できる構造からなっており,マスクが汚れたら分離して洗濯が出来るので常に清潔で新鮮なマスクを使用できる」「紫照明付き安全マスク」であるのに対し,引用発明においては,そのような照明装置を有しない「紫の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する安全マスク」である点。 (3) 相違点に対する判断ア相違点1について室内など可視光線や紫外線がほと そのような照明装置を有しない「紫の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する安全マスク」である点。 (3) 相違点に対する判断ア相違点1について室内など可視光線や紫外線がほとんど存在しない場所でも殺菌効果を発生させるために,マスクと照明装置を別個に着脱できる構造とし,可視光又は紫外線LEDの照明を設置し,可視光又は紫外線LEDが点灯するように電源を有した装置をマスクにドッキングさせることは周知(乙1~3等参照。以下「周知技術」という。)である。ここで,マスクのどの部分に照明装置をドッキングさせるかは,殺菌効果やマスクの形状,構造等によって決めることであるので,当業者が適宜なし得る程度の設計事項である。なお,マスクの表面にドッキングさせることは,乙3の【0032】ないし【0034】等に記載されている。 さらに,照明装置において,紫色の可視光線や紫外線により殺菌することができることは技術常識(乙4(特開2006-34340号公報)の【0015】,乙5特開平10-296246号公報)の【0004】等参照。以下「技術常識」という。)である。 してみると,「マスク表面は紫の可視光線と不可視光線の紫外線の波長が照射される,その波長の特性を応用して,マスク表面のウイルスを殺菌する」という引用発明において,日没や消灯時間においても殺菌効果を発生させようとすることは,当業者の当然の発意であるので,上記周知技術を適用し,その際に上記技術常識を参酌しつつ,上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 - 5 -イ相違点2について上記周知技術で示したように,マスクと照明装置を単体で容易に着脱できる構造とすることは周知であり,また,マスクを洗濯して清潔にすることは通 とである。 - 5 -イ相違点2について上記周知技術で示したように,マスクと照明装置を単体で容易に着脱できる構造とすることは周知であり,また,マスクを洗濯して清潔にすることは通常行われているので,マスクと照明装置を分離した際にマスクを洗濯して常に清潔で新鮮なマスクとして使用することは,当業者であれば容易に想到し得たことである。 ウそして,本願発明を全体として検討しても,引用発明並びに周知技術及び技術常識から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができないから,本願発明は,引用発明並びに周知技術及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 原告主張の審決取消事由 1 本願発明と引用発明とは,構造原理を全く異にする別の発明である。被告は,引用発明として,本願出願前に,本願発明と同様に紫色の電気照明を照射し,紫波長でマスク表面のウイルス菌を確実に殺菌するという構造原理の発明が存したことを提示するのでなければ,本願を拒絶することはできない。 また,乙1ないし3に記載されたマスクは,マスクの内側に光触媒物質としての金属酸化物粒子を入れ,光触媒に電気光線又は自然光線で光を照射して化学反応を誘発し,光触媒の励起エネルギーでウイルス菌をマスクの内部で殺菌するもので,光触媒と光との組合せが必要であり,光触媒及び光のいずれか一方では殺菌できないという点で,本願発明と異なる。 さらに,乙4は「パチンコ機の照明付きハンドル」,乙5は「浴水循環装置」であり,本願発明の「紫照明付き安全マスク」とは,あまりにも用途が異なっており,構造原理を異にする別の発明である。 したがって,このように別の発明で本願発明を拒絶することはできず,審決は誤りである。 - 6 - マスク」とは,あまりにも用途が異なっており,構造原理を異にする別の発明である。 したがって,このように別の発明で本願発明を拒絶することはできず,審決は誤りである。 - 6 - 2 本願発明と引用発明との相違点の看過審決は,以下の相違点を認定しておらず,相違点を看過した違法がある。 (1) 本願発明は,「紫色の電気照明の紫波長を単体で24時間フルにマスクの表面を照射し続け,変異が早く強力な新型ウイルス菌を確実に殺菌するという構造原理の発明」であるのに対し,引用発明は,この点を備えていない。 (2) 本願発明は,マスク上周辺に浮遊しているウイルス菌に向かって紫色光線を浴びせるように,紫照射装置の外部からLED又は豆電球の電気照射で照りつけ,紫照射装置の外部で殺菌してウイルスの侵入を排除するものである。これに対し,引用発明は,透過光であり,自然光線であるから,夕方に太陽が没して暗くなれば殺菌効果が全くない。また,引用発明は,取替用衛生ガーゼ内側で殺菌するものである。 3 本願発明の効果の看過本願発明は,紫色の光を電気照明で24時間フルに照射して,変化の早いウイルスのDNAを損傷させ,変異が早く伝染力がいかに強力な新型ウイルスでも確実に殺菌することができる。また,本願発明は,紫色の照明装置と安全マスクとを組み合わせたセットであり,マスクは呼吸位置の鼻,口,耳にしっかりと密着しているので,人が頭や顔を動かしたり身体を移動したりしても何ら差し支えない。さらに,本願発明に,波長の短い紫色を発光するLEDを用いれば,照明装置の寿命が数倍も長持ちし,消費電力は10分の1に激減するので維持費も大幅に改善される。 第4 被告の反論 1 原告の主張1について争う。 2 原告の主張2について 明装置の寿命が数倍も長持ちし,消費電力は10分の1に激減するので維持費も大幅に改善される。 第4 被告の反論 1 原告の主張1について争う。 2 原告の主張2について - 7 -原告が相違点の看過であると主張する①「24時間フルにマスクの表面を紫色の電気照明で照射すること」に関し,引用発明が「紫色の照明が発生させる小型の電球やLED等の照明を設置し,紫色が点灯するように電源を有した装置」である照明装置を有しないことは,審決が,相違点1として認定しているから,審決には相違点の看過はない。 また,原告が相違点の看過であると主張する②「変異が早く伝染力がいかに強力な新型ウイルスでも確実に殺菌すること」については,本願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面のいずれにおいても殺菌するウイルスの種類は記載されておらず,特許請求の範囲でも特定されていないのであるから,相違点ではない。 3 原告の主張3について本願発明が奏する,紫外線により殺菌する効果(引用発明及び技術常識から予測可能な効果),24時間フルに機能を発揮する効果(周知技術から予測可能な効果),マスクと照明装置とを分離できる効果(周知技術から予測可能な効果)は,いずれも,引用発明,周知技術及び技術常識から当業者が予測できた効果にすぎない。特に,周知技術は,室内や夜間など,可視光線や紫外線がほとんど存在しない状況でも殺菌効果を発揮させるためのものであり,24時間フルに機能を発揮するものといってよいから,24時間フルに機能を発揮する効果は,周知技術から予測できたものである。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明について本願明細書(甲2,3)によれば,本願発明につき,以下のことを認めることができる。 本願発明は,発明の名称を から予測できたものである。 第5 当裁判所の判断 1 本願発明について本願明細書(甲2,3)によれば,本願発明につき,以下のことを認めることができる。 本願発明は,発明の名称を「紫照明付き安全マスク」とする発明である。 紫外線にウイルスを殺菌する威力があることは周知であり,近年多発しているイ - 8 -ンフルエンザ等のウイルスの人体侵入(呼吸による空気感染)を防ぐためには,紫外線でウイルスを殺菌するしかないと言われている(【0001】)。現在,大気中の紫外線を活用してウイルスを殺菌して抜群の効果を上げているマスクとして,①炭素繊維で作成された白いマスクに酸化チタンを展着させたものの表面から,大気中の太陽光線や照明光線が照射する紫外線と,炭素繊維の白いマスクに展着された酸化チタンとが,紫外線と光触媒とによる化学反応を起こしてウイルスを殺菌するもの,②紫色で作成した紫色のマスクを介して紫の可視光線と不可視光線の近紫外線の波長が透過し,その紫と紫外線の波長の特性を応用してウイルスを殺菌し,かつ,マスク裏側は紫外線が直接皮膚に浸透しない構造としたものが知られている(【0001】,【0002】,【0004】)。 しかし,これらのマスクは,太陽光線があるときや電気照明が点灯しているときは威力を発揮するが,日没後や電気照明の消灯後は紫外線によるウイルスの殺菌効果は皆無となるので,紫外線の効果がなくなり,ウイルスの侵入は仕方がないという大きな欠点があった(【0001】,【0004】)。 そこで,本願発明は,マスク表面を紫色に照明する紫色の照明器具(小型の電球,LED等)をマスクの表面に設置し,紫色の照明器具から発生する紫の可視光線とそこに付属している紫外線の特性の波長を応用してウイルスを殺菌するものであり(【0001】 する紫色の照明器具(小型の電球,LED等)をマスクの表面に設置し,紫色の照明器具から発生する紫の可視光線とそこに付属している紫外線の特性の波長を応用してウイルスを殺菌するものであり(【0001】,【0004】),マスクと,紫色の照明器具と電源とからなる照明装置とを別個として容易に着脱できる構造とし(【0001】,【0004】,【図1】),マスク裏側(呼吸側)は,紫外線の波長が中和する色彩の素材又は紫外線の波長が届かないガーゼ等の素材で覆ったものである(【0004】)。 これにより,本願発明は,①マスク表面を紫色に照明する紫色の照明器具をマスクの表面に設置し,電源で点灯させるから,マスクの表面を紫外線が照射し,ウイルスは紫外線には全く抵抗力がないので簡単にウイルスを殺菌することができ,マスク表面にはウイルスは存在しなくなるので常に清潔な空気を呼吸することができ,呼吸器系統からウイルスが侵入しない(【0001】,【0004】,【0007】),② - 9 -マスク表面を紫色に照明する紫色の照明器具をマスクの表面に設置し,電源で点灯させるから,暗いところでも照明器具が点灯して日没や消灯などに左右されることなくウイルスを常時殺菌することができ,照明器具を24時間点灯させれば24時間フルにウイルスの侵入を防御することができる(【0001】,【0004】,【0007】),③マスクと照明装置とは別個のものとして容易に着脱できる構造としたから,マスクが汚れたら照明装置から分離して洗濯することができ,いつも清潔で新鮮な状態で着用することができる(【0001】,【0007】),④マスク裏側(呼吸側)は紫外線の波長が中和する色彩の素材又は紫外線の波長が届かないガーゼ等の素材で覆ったから,皮膚への影響はない(【0004】),という効果を奏するものである 】,【0007】),④マスク裏側(呼吸側)は紫外線の波長が中和する色彩の素材又は紫外線の波長が届かないガーゼ等の素材で覆ったから,皮膚への影響はない(【0004】),という効果を奏するものである。 2 引用発明について甲1によれば,引用発明について,以下のことが認められる。 引用発明は,発明の名称を「紫の可視光線と不可視光線近紫外線を透過する安全マスク」とするもので,ウイルス等による風邪や他の病気を予防するために使用するマスクに関するものである。 紫色又は紫を透かして見えるように透明にして光を透過させれば,そこから出てくる光線は,紫の可視光線及び不可視光線の近紫外線となるところ,紫外線は,強力な殺菌作用という利点がある一方,長時間浴びると殺菌する性質があるから害になるとされる。 そこで,引用発明は,紫外線の強力な殺菌作用に着目し,紫の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過するマスクで呼吸気系の鼻や口を覆うものを1次側(外側)とし,2次側(内側)に,紫外線の波長が直接肌に届かないように,やや厚みのある布,又は紫外線が中和する色彩の布を用いることにより,2次側の衛生ガーゼ布の表面が常に殺菌されているから,清潔で健康的な空気を常時鼻から呼吸することになり,ウイルスによる風邪や他の原因不明の病気を予防し,また,飛散を防止す - 10 -ることができるというものである(【請求項1】,【技術分野】)。 3 原告の主張1について原告は,被告が,本願出願前に,本願発明と同様に,紫色の電気照明を照射し,紫波長でマスク表面のウイルス菌を確実に殺菌するという構造原理の発明が存することを提示するのでなければ,本願を拒絶することはできず,審決は誤りであると主張する。 しかし,審決は,本願発明が進歩性を欠くことを理由とし ウイルス菌を確実に殺菌するという構造原理の発明が存することを提示するのでなければ,本願を拒絶することはできず,審決は誤りであると主張する。 しかし,審決は,本願発明が進歩性を欠くことを理由として本願出願が特許を受けることができないとするのであって,本願発明と引用発明との間に相違点があり,実質的に同一の発明ではないことを前提として,当業者が引用発明並びに周知技術及び技術常識に基づいて,本願発明を容易に発明することができたとするもの(特許法29条2項)であるから,本願発明と同一の公知発明を提示すべきとする原告の上記主張は,審決の取消事由とはならず,それ自体失当である。 また,審決が周知技術として摘示した乙1ないし3,並びに,技術常識として摘示した乙4及び5と,本願発明とが異なる旨の原告の主張についても,上記各文献は,本願発明が新規性を欠く旨を示す資料として用いられたものではないから,それ自体失当である。もっとも,この主張は,本願発明に周知技術(乙1~3)を適用することはできないとの主張も併せ含んでいるものと理解して,後記4(2)において,検討することとする(なお,乙4及び5については,紫色の可視光線や紫外線により殺菌できるとの技術常識を示すものであり,原告は,この技術常識を争うものではない。)。 4 進歩性判断について(1) 原告の主張2についてア原告は,本願発明が,「①紫色の電気照明の紫波長を単体で24時間フルにマスクの表面を照射し続け,②変異が早く強力な新型ウイルス菌を確実に殺菌す - 11 -るという構造原理の発明」であるのに対し,引用発明はこの点を備えていないにもかかわらず,審決は,この相違点を認定しておらず,相違点を看過した違法がある旨主張する。 上記①の「紫色の電気照明の紫波長を単体で 造原理の発明」であるのに対し,引用発明はこの点を備えていないにもかかわらず,審決は,この相違点を認定しておらず,相違点を看過した違法がある旨主張する。 上記①の「紫色の電気照明の紫波長を単体で24時間フルにマスクの表面を照射し続け」ることのできる構造とは,前記1に認定した本願発明の構成及び効果からすれば,本願発明のマスク表面を紫色に照射する照明装置をマスクの表面に設置し,電源で点灯させる構造のことを指摘するものと解されるところ,審決は,相違点1において,本願発明が「マスクと照明装置を別個に容易に着脱できる構造とし,紫色の照明が発生させる小型の電球やLED等の照明を設置し,紫色が点灯するように電源を有した装置をマスク表面にドッキングさせる」「紫照明付き安全マスク」であるのに対し,引用発明はそのような照明装置を有しない「紫の可視光線と不可視光線の近紫外線を透過する安全マスク」と認定し,原告が指摘する電源を有する外部照明装置を備えた構造を,明確に相違点として認定しているから,審決に相違点の看過があったということはできない。なお,原告は,本願発明が照射光であるのに対し,引用発明が透過光であることも相違すると主張するが,この相違点は,マスク表面に光源を設けた構成によるものであり,上記の相違点1に含まれているから,相違点の看過はない。 また,上記②については,本願発明の請求項1には,本願発明を特定する事項として,「マスク表面は紫色の照明で紫の可視光線と不可視光線の紫外線の波長が照射される,その波長の特性を応用して,マスク表面のウイルスを殺菌する。」,「ウイルスは紫外線に対しては何の抵抗力は持ちえないので,紫外線を照射されると簡単に殺菌される。」という記載はあるものの,「ウイルス」が「変異が早く強力な新型ウイルス菌」であることは特定されて 」,「ウイルスは紫外線に対しては何の抵抗力は持ちえないので,紫外線を照射されると簡単に殺菌される。」という記載はあるものの,「ウイルス」が「変異が早く強力な新型ウイルス菌」であることは特定されておらず,本願明細書の記載を参酌しても,請求項1に記載された「ウイルス」を「変異が早く強力な新型ウイルス菌」に限定して解釈すべき事情は見当たらない。 したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲に記載されていない対象物を前 - 12 -提とする効果に係る主張であって,採用することはできない。 イまた,原告は,本願発明は,マスク上周辺に浮遊しているウイルス菌に向かって紫色光線を浴びせるように,紫照射装置の外部からLED又は豆電球の電気照射で照りつけ,紫照射装置の外部で殺菌してウイルスの侵入を排除するものである旨主張し,この点において引用発明と相違する旨主張する。 しかし,本願発明の請求項1には,「マスク表面は紫色の照明で紫の可視光線と不可視光線の紫外線の波長が照射される,その波長の特性を応用して,マスク表面のウイルスを殺菌する。」と記載されているのであり,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない構成及び効果を前提とするものであって,失当というほかない。 さらに,原告は,引用発明が,取替用衛生ガーゼ内側で殺菌している旨主張するが,引用発明は,前記2のとおり,紫外線を長時間浴びると有害であることから,紫外線の波長が直接肌に届かないように,やや厚みのある布,又は紫外線が中和する色彩の布を用い,その表面(外側)を殺菌することとしたもので,甲1の【図1】の記載に照らしても,取替用衛生ガーゼ内側で殺菌をするものではないから,上記主張は採用できない。 なお,原告が,甲1において,「(4)の衛生ガーゼ布の表面は常に殺菌されてい もので,甲1の【図1】の記載に照らしても,取替用衛生ガーゼ内側で殺菌をするものではないから,上記主張は採用できない。 なお,原告が,甲1において,「(4)の衛生ガーゼ布の表面は常に殺菌されている」との記載があることをもって,本願発明における「マスクの表面のウイルスを殺菌」するものと異なる旨主張すると解したとしても,紫色の可視光線や紫外線の照射によって殺菌されることは技術常識であり,当業者が,甲1 の記載に触れたときには,引用発明におけるマスクの表面がまず殺菌され,次いで当該ガーゼ布の表面が殺菌されているものと理解できることが明らかであるから,審決に相違点の看過があるということはできない。 (2) 引用発明への周知技術の適用について原告は,乙1ないし乙3に記載されたマスクは,マスクの内側に入れた光触媒物質に電気光線又は自然光線で光を照射して化学反応を誘発し,光触媒の励起エネル - 13 -ギーでウイルス菌をマスクの内部で殺菌するものである点で,本願発明と異なる旨主張するところ,前記のとおり,この主張には,引用発明に乙1~3に記載された周知技術を適用することはできない旨の主張が含まれていると善解して,以下検討する。 ア乙1ないし3の記載事項について(ア) 乙1には,光触媒酸化チタンが付着,固定されたマスク生地の両端に掛け紐を布設して形成し,紫外線を利用して殺菌及び有害物質除去効果を発生させる光触媒マスクには,紫外線が強く照射されている環境でしか十分な効果を得ることができず,室内などの紫外線がほとんど存在しない場所では効果を発揮しないという問題点があり(【0001】~【0004】,【0006】),それを解決するためには,光触媒の活性光源である紫外線LEDを備えるLED付き光触媒担持シートを,電源に接 い場所では効果を発揮しないという問題点があり(【0001】~【0004】,【0006】),それを解決するためには,光触媒の活性光源である紫外線LEDを備えるLED付き光触媒担持シートを,電源に接続した上で,マスクフレームの内部に装着することとし(【0007】~【0012】),その結果,外部に光源が存在しない環境においても有害物質除去効果が得られること(【0013】),及び,LED付き光触媒担持シートとマスクフレームとは,容易に着脱できること(【0016】~【0018】,図1,2)が記載されている。 (イ) 乙2には,安全性に対する信頼性が高く,再生性があり,永続的に新鮮な空気を得ることができ,取扱いも簡便な防臭抗菌マスクを提供するため(【0002】~【0004】),マスクの吸気流入口の流路部に光触媒部材からなるフィルター部を設けて光触媒の光酸化分解作用により,吸気を無害化し,光触媒部材を紫外線で光励起させる光源を上記流路部に有し,かつ,光源に電力を供給するためのコードで連結されたバッテリーを入れるケースを有する構成としたこと(【0006】,【0011】,【0014】,【0021】,【0022】,【0024】,【0026】)が記載されている。 (ウ) 乙3には,光触媒機能を利用して抗菌性,消臭性を向上させたマスクには,光源が太陽光の場合,夜間には光触媒の作用効果が見込めないという問題点 - 14 -があり(【0001】~【0005】),それを解決するためには,電池が接続されたシート状の光源である可視光LEDに光触媒をコーティングした抗菌フィルターを,マスク本体のポケットに入れることで,太陽光が届きにくい夜間等であっても光触媒機能を有効に活用して優れた抗菌性,消臭性を得ること(【0006】,【0007】,【00 ティングした抗菌フィルターを,マスク本体のポケットに入れることで,太陽光が届きにくい夜間等であっても光触媒機能を有効に活用して優れた抗菌性,消臭性を得ること(【0006】,【0007】,【0031】~【0041】,図1,2)が記載されている。 イ以上の文献の記載によれば,光触媒を利用して殺菌を行うマスクにおいて,外部に光源が存在しない環境や太陽光が利用できない夜間でも,紫外線又は可視光を照射して光触媒による殺菌機能を発揮させるために,電源が接続された光源であるLEDとマスク本体とを容易に着脱可能に設けることは,本願前の当業者に周知の技術であると認められる。 ウ引用発明への周知技術の適用について引用発明は,前記のとおり,「マスク表面は紫の可視光線と不可視光線の紫外線が照射される,殺菌作用のある,紫の可視光線と不可視光線の近紫外線の働きにより,マスク表面のウイルスを殺菌」するものであるところ,甲1の発明の詳細な説明の記載(2頁9ないし15行),図面の説明(「(3) 自然光の光線」),及び原告が日没後において殺菌効果がない旨述べていることから明らかなように,ここにおける光源は,太陽光を意味する。そうすると,「殺菌作用のある,紫の可視光線と不可視光線の近紫外線の働きにより,常に清潔で健康的な空気を供給すること」(甲1の2頁3ないし4行)を企図する引用発明において,太陽光がなくても清潔で健康的な空気を供給することができれば,より好ましいことが明らかであるから,引用発明に接した当業者であれば,太陽光がなくても使用できるようにすることを,引用発明における解決すべき課題として認識すると認められる。 一方,前記の周知技術は,マスクの技術分野に属し,また,マスクに照射される可視光又は紫外線を殺菌に利用する技術である点でも共通し とを,引用発明における解決すべき課題として認識すると認められる。 一方,前記の周知技術は,マスクの技術分野に属し,また,マスクに照射される可視光又は紫外線を殺菌に利用する技術である点でも共通し,外部に光源が存在しない環境や太陽光が利用できない夜間でも光触媒の殺菌機能を発揮させるという課題を解決するものである点においても共通する。 - 15 -そうすると,当業者において,引用発明に周知技術を適用することに格別の困難性はない。引用発明と周知例において殺菌機能を発揮させる機序が異なる点について,そのことが,上記の適用を阻むとする根拠はない。 したがって,引用発明に上記周知技術及び技術常識を適用して,相違点に係る構成を得ることが容易であるとした審決の判断に誤りはない。 (3) 効果について原告の主張する「変化の早いウイルスのDNAを損傷させ,変異が早く伝染力がいかに強力な新型ウイルスでも確実に殺菌する」との点については,本願明細書にもそのような記載は全くなく,本願発明に係る効果と認めることができない。 また,原告の主張する「紫色の光を電気照明で24時間フルに照射」とは,本願発明がマスク表面を紫色に照射する照明装置をマスクの表面に設置し,電源で点灯させる構造を有することから得られる効果であり,引用発明に周知技術を適用することにより予測可能なものである。 さらに,原告が主張するその余の効果は,マスク自体の効果,あるいは,LEDを採用したことによる効果にすぎず,引用発明に周知技術を適用することにより予測可能なものであって,進歩性を裏付けるべき顕著な効果と見ることはできない。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。原告は他にるる主張するが,いずれも採用できない。 よって,原告の請求を棄却す 歩性を裏付けるべき顕著な効果と見ることはできない。 第6 結論以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。原告は他にるる主張するが,いずれも採用できない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官清水恭 裁判官中村恭 裁判官中武由紀
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