平成12(わ)903 建造物損壊被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年4月17日 神戸地方裁判所
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判決文本文31,059 文字)

主文 被告人を懲役2年2か月に処する。 未決勾留日数中100日をその刑に算入する。 訴訟費用中,証人Hに支給した分のうち2分の1を被告人の負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人は,指定暴力団五代目A組B会C組若頭補佐であるが,以前C組組長Dが神戸市a区b町c丁目d番e号(不動産登記簿上の所在,同市同区b町c丁目d番地のe,23,25)所在のf階のパチンコ店『E』(有限会社F経営)の当時の店長Gに対して暗にみかじめ料の要求をしたがこれを断られたことに報復しよう等と企て,同組組員H,同人の弟分であるI及び分離前の相被告人C組若頭Jと共謀のうえ,平成11年8月13日午前5時15分ころ,上記Iが普通貨物自動車を運転し,上記パチンコ店『E』付近路上から同車を同店に向けて後退させて同車荷台後部を同店南側シャッターに2回衝突させ,同シャッター及び同店ガラスドア等を破壊し(損害額1415万円相当),もって,同店が入居している,K株式会社(代表取締役L)所有の前記建造物を損壊した。 (証拠)(括弧内の検で始まる番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)省略(補足説明)弁護人は,被告人は判示犯行(以下「本件犯行」ともいう。)の実行行為をしていないことはもちろん,被告人には本件犯行につき判示H,同I及び分離前の相被告人Jとの間に共謀もしていないとして無罪を主張し,被告人も,捜査段階から公判段階当初まで本件犯行を争い,第3回公判期日において基本的に公訴事実を認める旨陳述したがその後第6回公判期日で再び否認するに至っている。そこで,当裁判所が公訴事実同様の事実を認定した理由を簡略に示す〔括弧内の検で始まる番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠をその番号で示したも その後第6回公判期日で再び否認するに至っている。そこで,当裁判所が公訴事実同様の事実を認定した理由を簡略に示す〔括弧内の検で始まる番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠をその番号で示したもの(検118ないし121については採用部分)である。〕。 第1 前提事実 1 証拠によれば,以下の各事実が容易に認められるといえ,これらの事実については被告人も特に争っていない。 (一) 被告人は,平成8年8月ころ,神戸市a区f町g丁目h番i号に事務所がある暴力団C組の構成員となり,本件犯行当時はその若頭補佐であった(被告人の公判供述,検66ないし68)。 C組は,本件犯行当時,組長をDとして約15名から構成され,前述のとおり被告人がその若頭補佐であったほか,Jが若頭,Hがその若中(役職のない構成員)であった。C組の上部団体は暴力団B会であり,被告人は平成11年7月はじめころB会の直参扱い若中(準構成員の模様である。)となった。一方,被告人は,C組の傘下組織として,鹿児島市内に自己が組長をする暴力団M会の事務所を置いてもいる〔第13回公判調書と一体となる被告人の供述調書32ページ(以下,「被告人第13回32ページ」と略称。以下証人を含む他の者についても同様。),検32,66ないし68等〕。 C組では,月1回定例会があるほか,事務所当番があり,鹿児島市内に住居がある被告人も定例会に出席したりひと月に1回程度事務所当番をしたりはしていた。なお,被告人は,これとは別に,M会の構成員1名を常時C組の当番員として派遣していた(被告人第13回18ページ,第24回36,37ページ,J第7回7ページ,検66等)。 また,被告人は,本件犯行があった当時,鹿児島市内にクラブ等3軒の飲食店を所有し,相当の利益をあげ (被告人第13回18ページ,第24回36,37ページ,J第7回7ページ,検66等)。 また,被告人は,本件犯行があった当時,鹿児島市内にクラブ等3軒の飲食店を所有し,相当の利益をあげており,同業者間で被告人の店舗が最も稼ぐ存在であった(被告人第24回26ページ,検65等)。 (二) 判示のパチンコ店『E』は,平成9年12月17日,判示場所において営業を開始したパチンコ店である(検22,24,27,28等)。EはC組事務所とは徒歩で1ないし3分の近距離にある(H第8回55ページ,N第12回9ページ,11ページ,検2)。 Dは,Eからみかじめ料が得られると期待していたが,Eから連絡がないとして,平成10年1月初め,息子でC組若中(構成員)のOに連絡をとらせて判示Gと会い,同人に対し暗にみかじめ料の要求をしたが,Gはこれを断り,以後E側がC組ないしDにみかじめ料を支払うことはなかった(検23,24,28,29,32)。 (三) 被告人は,本件犯行当時も鹿児島市内に住んでいたが,C組の事務所当番をするため,本件犯行の前日ないし前々日(検70)にC組事務所に来ており,本件犯行の前日から当日の早朝にかけ,J及びH(以下「Jら2名」という。)等の者と飲食をともにした(被告人第13回8ないし12ページ等。どこに行ったかについては争いがある。)。 (四) 被告人は,本件犯行当日の午後,Hに5万円を手渡した(被告人第13回23ないし24ページ,H第3回30ページ,J第6回37ページ等)。 また,被告人は,本件犯行の約1か月半後である平成11年9月27日,Jの妻の郵便貯金口座に12万5000円を振り込み,Jは,当日,これを引き出した。ついで,Jは,同日,前記妻の口座に15万円を入金し,これをHの前 ,本件犯行の約1か月半後である平成11年9月27日,Jの妻の郵便貯金口座に12万5000円を振り込み,Jは,当日,これを引き出した。ついで,Jは,同日,前記妻の口座に15万円を入金し,これをHの前記口座に送金した(被告人第13回27ページ,H第3回35ないし42ページ,J第7回3ページ。検46,47,49。)。 さらに,Hの前記口座には,同月30日,Oから10万円が振り込まれた(H第3回42,43ページ,検46,47,49)。 (五) Hは,平成11年9月30日ころ,当時住んでいたマンションから転出した(H第3回45ページ,検50)。 2 次に,関係証拠によれば,Eに判示普通貨物自動車(2トントラック,以下「本件トラック」という。)を衝突させたのはHの子分ないし弟分格というべきIであり,これは直接的には判示犯行現場(以下「本件現場」という。)でHに命じられてのものであることが認められる。この点,Iは本件犯行を否定しているが,本件トラックからHとIの指掌紋が検出されていること(検14),Iが本件トラックをレンタカー店で借りた事実及びそのとき及びその後レンタカー会社担当者から連絡を受けた際のIの言動(検33,36),HとIの関係(H第2回8ないし10ページ,25ないし35ページ,検63等),目撃者の供述内容(検16ないし20,51)等に加え,Hの供述内容にも照らすと,Iが本件犯行についての実行犯であることには疑う余地がない。 なお,本件では,被告人はJら2名とともにいわゆる共謀共同正犯としての責任を追及されているところ,IはHの弟分であって,被告人やJが直接本件犯行をIと共謀した事実は認められず,また,Hは本件犯行当時Iとともに本件現場にいたものの,Jは当時同現場には来ておらず,被告人についても,途中で同現 ころ,IはHの弟分であって,被告人やJが直接本件犯行をIと共謀した事実は認められず,また,Hは本件犯行当時Iとともに本件現場にいたものの,Jは当時同現場には来ておらず,被告人についても,途中で同現場付近に来たかについて大きな争いがあるものの,Hとともに同現場に赴いた等の事実が認められるわけではない。しかし,Jら2名と被告人との間に本件犯行についての共謀があり,その後HとIの間に同様の共謀が成立すれば,IとJ及び被告人の間にはいわゆる順次共謀が認められることとなるから,Jや被告人がIと直接共謀していなくても犯罪の成否には影響がない。 第2 そこで,以下,本件の中心的争点である,Jら2名と被告人との共謀を中心に検討を進める。 1 はじめに(一) Hは,被告人との共謀を裏付けるようなこととして,①本件犯行前日(から当日早朝)にJと被告人との3名でいきつけの飲食店『P』等で飲酒した際本件についての共謀をしたというべき事実があった旨,②HはIに命じて2度Eに本件トラックを衝突させているところ,被告人が2度目の衝突(犯行)の前に本件現場付近に来て本件トラックを再度Eに衝突させるような指示を手振りで行ったこと,③犯行後被告人が本件犯行の報酬をくれたこと,等の事実があった旨の供述をしている。 これに対し,被告人は,前述のとおり,いったん本件犯行を基本的に自白した時期もあるが,現在Jら2名との共謀を否定し,①については,本件犯行前日Jら2名等の者と飲酒したことはあるが,自分は『P』には行っていないとし,②については,HとIが本件犯行をした当時同所に行ったりそこでHが供述するような指示をしてもいないとし,③については,Hの本件犯行後同人に金銭を渡したりしたことはあるがこれは本件犯行の報酬ではないと供述している。 J した当時同所に行ったりそこでHが供述するような指示をしてもいないとし,③については,Hの本件犯行後同人に金銭を渡したりしたことはあるがこれは本件犯行の報酬ではないと供述している。 Jは,被告人同様,公判段階初期まで本件犯行を否認した後,第3回公判期日において基本的に本件を自白するに至り,さらに同人はその後も自白を維持したが,被告人との共謀についてはその後もある程度否定的供述をし,①『P』に被告人が来たことはH供述のとおりであるがそこではHが言うような本件犯行の共謀はなかったとし,②③についてはほぼ被告人と同様の供述をしている。 (二) 当裁判所は,このうち,②の本件現場での被告人の指示についてのHの供述には十分な信用性が認められず,被告人が本件犯行当時本件現場に赴いたことの立証はないと考えた。しかし,それでも,①の『P』での共謀及び③の報酬支払についてのHの供述には信用性があり,同人の供述等関係証拠からは,これらの点についてはおおむねHの供述のような事実が認められ,これら認定事実等からは被告人が本件犯行前に同犯行について資金面で協力する旨の了解をしていた事実が認定され,この事実や資金協力の重要性に加え,被告人の地位等にかんがみ,被告人については単なる幇助犯ではなく共謀共同正犯が成立すると判断した。 2 H供述の概要(一貫している供述を中心とする)(1) Hは,平成11年7月ころ,D,J,Oと共に鹿児島市にいるM会幹部に会いに行ったが,その帰りの車内でJから「Eのできが悪いんや。」などと聞いた(H第2回48ないし54ページ)。 (2) Hは,同年8月はじめころ,Jと共に姫路方面に行ったが,その際,Jに,自分(H)が近く無免許運転で服役しなければならないかもしれない旨述べた。すると,Jは,「どうせ行く 4ページ)。 (2) Hは,同年8月はじめころ,Jと共に姫路方面に行ったが,その際,Jに,自分(H)が近く無免許運転で服役しなければならないかもしれない旨述べた。すると,Jは,「どうせ行くんやったら組のことでいかんかい。」「Eのできが悪いから,トラックで突っ込め」等と言った(H第2回57ページ,第6回5ページ。なお,Hは当時実際に無免許運転罪で服役する可能性が強かった。H第2回59ページ,検102)。 (3) Hは,本件犯行の3日前の平成11年8月10日ころ,C組事務所で,Jから,「Eにヤカラ(嫌がらせ)を言うてこい。」などと言われたが,Eに行くふりをしたものの何もしなかった(H第2回65ないし67ページ)。 (4) その後,本件犯行までの間,HはJの家に行き,その際Jの母から家を改造するので荷物を運んで欲しいと引っ越しの手伝いを依頼されたことがあった。また,Hは,このころ,レンタカー会社から自動車(車種キューブ,以下「キューブ」という。)を借りた。 (5) Hは,同月12日昼頃,Jからの電話で同人から「トラックを借りてくれ。」と言われ,金がないと言ったところC組事務所に来いと言われた(H第2回74ページ)。 そこで,Hは同組事務所に行ったが,そこにはJと一緒に被告人もいた。 Hが「レンタカー代を下さい。」等と言うと,Jは被告人に「出しとってくれ。」と言い,被告人はHに「なんぼいるの。」と尋ね,Hが3万円というと「高いのう。」と言いながらも3万円をHに渡した(H第2回77ページ)。 さらに,Hは,その際,被告人から,「今晩一緒に飲みに行く。『P』に予約を入れている。7時か8時までにトラックを持って事務所に来い。」等と命じれられた(H第2回82ページ)。 Hは,遅くともこ Hは,その際,被告人から,「今晩一緒に飲みに行く。『P』に予約を入れている。7時か8時までにトラックを持って事務所に来い。」等と命じれられた(H第2回82ページ)。 Hは,遅くともこのころまでに,Jが単に引っ越しのためでなくEに突っ込ませるトラックを借りさせるのではないかと感じ取った(H第2回83ページ)。 (6) Hは,その後Iとレンタカーを見に行き,Iに本件トラックを借りさせた(H第2回84ないし86ページ)。 (7) Hは,その夜,C組事務所近くに本件トラックを停めてC組事務所に行き,本件トラックのキー(鍵)をJに渡した(H第2回91ないし94ページ)。 その後,Hは,J及び被告人と『P』に行き,カウンターに,Jと被告人に挟まれ真ん中に座るように腰掛けた。Jは,『P』で,Hに,「服役中も金を出してやる。」「毎月15万で,自分(J)から5万,Q(被告人)から5万,事務所から5万を出す。」旨話した。Hは,JがEにトラックで突っ込めばその後金を払うという趣旨を述べていると感じ取った。なお,被告人は『P』では特段発言しなかった。Hは,その後,Jや被告人と2,3軒のスナックに行き,この間,Oや他の暴力団員とも会った。この間,Hは,Jに対し,自分が本件トラックでEに突っ込む旨述べた(H第2回94ないし106ページ,検119)(8) Hはその後Jや被告人とともにC組事務所近くまで戻ったが,Jに本件トラックの鍵を渡すように言ったところJが「もうええ。」等と返事をしたので,真意を試されていると思いJに「もういいですからキー貸してください。」等と言ってJから本件トラックの鍵を受け取り,被告人やJと別れた(H第2回113ないし116ページ)。 (9) Hは,その後,本件トラックのところに行き,あ いいですからキー貸してください。」等と言ってJから本件トラックの鍵を受け取り,被告人やJと別れた(H第2回113ないし116ページ)。 (9) Hは,その後,本件トラックのところに行き,あらかじめ呼んでいたIと合流した。Hは,その上で,本件犯行を決行することとし,Iと朝食をとった後C組事務所に電話し,電話に出た相手方に「今から行きます。」と本件犯行を決行する旨伝え,これに対し相手方は「分かりました。」と答えた。この相手方は被告人と思う(H第2回117ないし121ページ,第13回1ないし5ページ,なお検119)。 Hは,その後Iとともに判示日時ころ本件犯行に及んだが,その際,Hは,まず,Iに本件トラックを運転させた上,これをEの南側シャッター部分にバックで1回衝突させ,本件トラックをそのままにして,Iとともに,別に用意して来ていたキューブに乗車していったん逃走した。 しかし,その後Hが本件現場の様子をみようとキューブに乗ってE南側付近に戻ったところ,被告人がE南東角付近に立ってEの方を指さしもう一度本件トラックを同シャッターに衝突させるよう指示するしぐさをした。Hはこれを見て自分でも前記シャッターのへこみが少ないと感じたので,Iに指示してもう一度本件トラックをバックで前記シャッターに衝突させ,Iと二人でキューブに乗って逃走した。その際,自分もIも被告人と会話してはいない(なお,Iから被告人のことを尋ねられたこともなかった。H第3回16ないし22ページ,65ページ,第8回1,2ページ,41ページ,57ないし59ページ)。 (10) その後,Hは,C組事務所に電話し,電話に出た者に「今行ってきました。兄貴に連絡しといてくれ。」などと告げ,電話の相手から「頭が警察に連絡しとけとのことです。」とJの指示 ージ)。 (10) その後,Hは,C組事務所に電話し,電話に出た者に「今行ってきました。兄貴に連絡しといてくれ。」などと告げ,電話の相手から「頭が警察に連絡しとけとのことです。」とJの指示を伝え聞いたので,兵庫県a警察署に自損事故を起こした旨連絡した(H第3回47ないし49ページ)。 (11) Hは,その後本件犯行当日夕方,本件犯行の謝礼の一部をもらうためJと待ち合わせをしてC組事務所付近の喫茶店前に行ったところ,被告人が来て5万円をくれた上「後のことは心配しないように。」などと言った(H第3回31ないし33ページ)。 (12) Hは,同年9月18日ころ,Jの家で,Jに対し本件犯行の報酬を要求しようと考えたが,直接報酬を要求することはできないので,家賃を滞納している等と言って暗に報酬を要求した。すると,Jは,直ちに被告人に電話し,Hに金を渡すように言ってくれた(H第3回38ないし42ページ)。 その後,Hの貯金口座に,Jの妻名義で15万円の入金があった(H第3回35ないし37ページ,42ページ。)。そこで,Hは被告人に礼の電話をした(検119)。 (13) Hは平成11年11月ころ本件についての取り調べを受け,その際は事故である旨話した。その後Hは前記無免許運転により服役したが,服役中である平成12年4月初めころ本件での取り調べを受け,当初は事故と述べたがその後自白した(H第8回4ないし7ページ)。 3 本件現場に被告人が来たかについて(一) H供述の概要等HはIに命じて2度Eに本件トラックを衝突させており,その間が約5分であったことは目撃者の供述等から明らかであるところ,Hは,被告人が2度目の衝突(犯行)の前に犯行現場付近に来て本件トラックを再度Eに衝突させるような に本件トラックを衝突させており,その間が約5分であったことは目撃者の供述等から明らかであるところ,Hは,被告人が2度目の衝突(犯行)の前に犯行現場付近に来て本件トラックを再度Eに衝突させるような指示を手振りで行った(以下「被告人の指示」等ともいう。)と供述し,これは捜査官から被告人が現場にいたことを目撃した者がいると言われたことをきっかけに,単に本件現場に被告人がいたことだけでなく再突入の指示があったことまで思い出した旨述べている(H第8回9ページ以下)。 (二) 検討(1) 被告人の指示を窺わせる事情等(なお,この点は,後述する事前共謀への参加,事後の報酬支払の点におけるHの供述の信用性判断にも関連するので,ある程度詳細に述べることとした。)アまず,Hにおいて,被告人が現場に来て指示したという内容の虚偽を述べる積極的理由は,Hが自己あるいはJの刑事責任を軽減するか,被告人に対する恨みを晴らす等の理由程度しか考えられない。しかし,被告人に責任を転嫁するつもりであれば,後述する『P』での共謀などについてもより被告人の関与を強調する供述をなしうるはずであり,そもそもH自身も述べるように(H第8回9ページ,13ページ等),本件の経緯からみて(後記6も参照)Hが被告人に対して強い恨みを持つとは考え難い。 さらに,Jは,C組事務所2階にいたときにHから同人が本件犯行を行った旨(明示的にか黙示的にかはともかく)連絡を受け,事務所1階にいた者に『Hが事故したらしい』『ちょっと行って,見てきてくれ』等と言った旨(J第4回55ページ,第6回33,34ページ)及びその際事務所1階に被告人がいた旨(J第4回56ないし58ページ,第6回34,35ページ)供述するが,まず,C組若頭であるJが一度見てこ と言った旨(J第4回55ページ,第6回33,34ページ)及びその際事務所1階に被告人がいた旨(J第4回56ないし58ページ,第6回34,35ページ)供述するが,まず,C組若頭であるJが一度見てこいと指示したとすれば同組の誰かが本件現場に行った可能性が生じ,一方,Hにおいて,被告人以外の者が本件現場に来たのにこれが被告人であると虚偽を述べる理由はさらにない(なお,『事故したらしいから見てこい』というだけでEに行けという指示と分かるのは,HがEへの報復ないし示威行動をすることがC組組員の中で知れ渡っていたか,Jにおいてこれを予想できる人物に対し特に本件現場に行くことを指示したかのどちらかであろうが,後者とすれば,後述のようにJからEに嫌がらせをするよう命じられたことがあり,本件犯行前日Hらと行動を共にしていた被告人に対する指示という可能性はさらに高くなる。そして,Jのこの供述はHのそれとさほど食い違っていない。)。 イ弁護人は,Hが捜査官の誤導により被告人が現場に来たかのような虚偽の供述をした可能性が高いとするが,まず一般論の部分は採用し難い。 ⅰ 第1に,弁護人は,捜査側は被告人が資金面で関与していると思われたのでHを執拗に追及し,同人の迎合を得て本件現場での指示をはじめとする被告人の関与を肯定する供述を引き出したように主張する。 しかし,Hや本件の捜査をした警察官Nの供述等によれば,Hが被告人の関与を供述しだしたのは平成12年4月10日ころのことであり(H第8回54ページ,N第10回11,12ページ),本件現場での被告人の指示を供述したのは同月21日ころのことである(N第11回30ないし34ページ))。ところが,証拠(検47添付の郵便局の捜査照会回答書は同年5月19日付けで 回11,12ページ),本件現場での被告人の指示を供述したのは同月21日ころのことである(N第11回30ないし34ページ))。ところが,証拠(検47添付の郵便局の捜査照会回答書は同年5月19日付けであるし,それをさらに報告書化した検47は同年6月7日付けである。)によれば,捜査側が被告人からJないしHへの金銭の流れを捜査していたのはこれより後である同年5,6月のことと認められる(なお,この段階で捜査側がC組内で被告人のみが多額の収入を得ている等,被告人が関与している以上被告人以外に資金協力をする者がないと考えたであろうことを裏付けるような事情もない。)。とすれば,捜査側は,Hが被告人の関与を供述した後にこれを裏付ける資料として被告人からJらへの金銭の流れを発見でき,そのためHの前記平成12年4月10日ないし21日ころ以降の供述が裏付けられたと考えるのが自然である。 いずれにせよ,捜査側には弁護人の主張するHへの執拗な追及の前提がなかったこととなる。 なお,そうすると,Hの公判供述中,捜査官の追及を受けた結果被告人の指示を思い出したという部分(例えばH第8回45ないし49ページ)も信用できないこととなる。 ⅱ 次に,Hの立場を考えると,被告人という関与者を増やせばそれだけ自己の責任が軽減されるような立場であるかのようにも考えられる。 しかし,Hは,既に,自分の親分ないし兄貴分でC組若頭であるJから本件犯行をそそのかされたように供述しているのであり,これに加えて被告人が関与していたことを供述してもその責任がさらに大きく軽減されるとは考えられない立場にある。そうすると,Hには後に虚偽であると発覚するおそれのあることを述べる動機は生じ難いと言うべきであ えて被告人が関与していたことを供述してもその責任がさらに大きく軽減されるとは考えられない立場にある。そうすると,Hには後に虚偽であると発覚するおそれのあることを述べる動機は生じ難いと言うべきである。 加えて,逆に,本件犯行への被告人の関与が明らかになれば,本件犯行がC組全体の組織的犯行という色彩の強いものと思われやすくなり,そのような組織的犯行の事案では関与者の責任は組織とは関係の乏しい犯行に比べ相当程度重くなるといえる。とすれば,Hは被告人の関与を供述することによってかえって自己に不利な結果を招きかねないのであるから,安易に捜査官に迎合するとは思われない。なお,捜査官がHに対し具体的な利益誘導をしたことを窺わせる証拠もない。 ⅲ さらに,Nら捜査官の立場を考えると,Hが犯行前日にⅱでみたような立場のJとも飲酒していた疑いが生じた段階や犯行に使用した本件トラックに関しJの不自然な関与が疑われた段階(平成11年11月5日ころ。N第10回3ページ,第11回7ページ等)では,本件がHが供述するような事故ではなく,C組上層部の者が関与した建造物損壊事案であるという疑いをもってこれを裏付ける証拠がないか検討していたであろうし,犯行の全貌を明らかにする必要は当然あったとしても,あえてJの格下である被告人の関与をことさら重要視するとまでは思えない。とすれば,捜査官側が虚偽を述べてまでHに被告人の関与を供述させる必要性は高くないと思われる。特に,犯行直後被告人がEのシャッターの下から内部を覗いていたのを目撃した者がいる(H第3回79ページ)等と具体的に虚構を述べて追及すれば,Hが被告人が来ていないと知っているならば,逆にHからその者の名を教えろ等といわれたり,Hに弁護人が付された場合弁護人から捜査方法の問 がいる(H第3回79ページ)等と具体的に虚構を述べて追及すれば,Hが被告人が来ていないと知っているならば,逆にHからその者の名を教えろ等といわれたり,Hに弁護人が付された場合弁護人から捜査方法の問題を追及される恐れも十分にある。このような危険な取り調べをすることに匹敵する利点(メリット)が捜査官にあったとも考えられない。 ⅳ 一方,捜査官はそのころ目撃者がいたことを察知していたから,自己の関与を否定するHに目撃者がいることを前提とした追及をしていたことは容易に予想される(N第10回8,9ページによれば,Nは平成11年12月ころには目撃供述を得ており,また平成12年4月11日にHを取り調べ,事故を主張するHに対し他の証拠をつきつけて追及している。)。 ⅴ しかも,捜査官の追及があったとするHの公判供述もそれ自体あいまいで不合理な点を多く含むものである。たとえば,Hは,被告人の写真を示されてその関与を追及されたという(H第3回80ないし82ページ)が,これは被告人の顔を知っているHに対する追及の仕方としていかにも不自然である。 そして,Hの立場を考えると,同人は金銭面ではむしろ被告人に恩義を感じる立場にあったというべきであるから,被告人の面前ではたとえ真実であっても被告人に不利なことを話しづらいことは明らかであり,被告人(やJ)より先に被告人(やJ)の関与を供述してしまった理由として,自分(H)の本件犯行についての捜査官からの追及方法を被告人の関与に関する追及等にすり替え,捜査官に誘導されて思い出したと公判廷で虚偽の弁解をしてしまう動機は十分である。 ⅵ なお,弁護人は,この点,Hが別件の無免許運転罪で刑を受けた後刑務所から出所するとき(平成12年6月12日。 されて思い出したと公判廷で虚偽の弁解をしてしまう動機は十分である。 ⅵ なお,弁護人は,この点,Hが別件の無免許運転罪で刑を受けた後刑務所から出所するとき(平成12年6月12日。N第11回3ページ)に逮捕されたため精神的に動揺しており,これがHの供述に影響していると主張する。しかし,Hはその刑での受刑中,平成12年4月から本件について取り調べを受け,その後本件を自白しJや被告人の関与を供述してもいたのであり(H第8回5,6ページ,38ページ等),本件犯行の重大性や関与者から考えれば,暴力団員であるHが通常これについて出所後身柄を拘束されずに捜査を受けると予想するとは考え難い。そうすると,出所時に逮捕されたことによるHの動揺はさほど大きくなかったと考えられる。 ウさらに,弁護人は,Hの供述(特に捜査段階のそれ)にはいくつか不合理な点があると主張するが,その主張の多くは採用できない。 ⅰ まず,弁護人は,Hが被告人の前記指示を取り調べ開始から1か月後になってようやく思い出したことが不自然であるとする。しかし,Hが前記被告人の指示を供述し始めたのは取り調べ開始後10日程度後の平成12年4月21日ころのことであると認められる(H第8回54ページ,N第10回11ページ)上,Hが単に被告人の指示を隠していたにすぎないとすると,取り調べ開始からある程度の期間経過後に供述することにも不自然はない上,Hとしては,本件犯行につき被告人の関与が否定されれば,C組内部では自分とJのみが本件犯行に関与したこととなってかえってC組内での立場上都合がよいともいえる(Hが同組内での手柄を狙っていたことは疑いがない。)し,関与を疑われたくないであろう被告人にも黙っていたことにより恩を売れることとなる。 てかえってC組内での立場上都合がよいともいえる(Hが同組内での手柄を狙っていたことは疑いがない。)し,関与を疑われたくないであろう被告人にも黙っていたことにより恩を売れることとなる。 ⅱ 次に,弁護人は,Hが本件現場で被告人と会っていながら声をかけたり被告人を逃走用の自動車に乗せていないことが不合理であるとする。しかし,被告人が本件現場に来ていれば通行人などを装うことが当然であり,Hが被告人と不用意に接触行動をとれば,被告人が関係者であることが目撃者などに発覚してしまうのであって,Hのこの供述には不合理はない。 ⅲ また,弁護人は,Hにおいて被告人が本件現場に来ていたと言いながらその被告人をよく見ていないとするのが不自然であるとする。しかし,Hのこの供述が不自然であると考えたとしても,これも,弁護人主張のように被告人が本件現場に来ていたという点の信用性を減殺するともいえようが,逆にHが被告人をよく見ていないと言う点が虚偽であるといえるのであって,弁護人の主張は一面的である。そして,この点も,ⅱ同様,そもそも,通行人等を装うであろう被告人の関与が発覚しないようにするためには,Hは被告人が本件現場に来たことを知ってもこれを注視することはないであろうから,結局弁護人の主張は採用できない。 ⅳ 弁護人は,Hが本件現場で被告人から指示を受けながらIとの間で被告人のことを話さなかったことが不自然であるとし,また,被告人は,本件現場にIの知らない自分(被告人)がいたらIは本件犯行に及ばないはずであるとする(被告人第3回22ページ)。 しかし,この点も,IがC組に行ったことがあり(H第2回29ぺージ),したがってまたHがC組組員であることやその事務所がE付近にあることも る(被告人第3回22ページ)。 しかし,この点も,IがC組に行ったことがあり(H第2回29ぺージ),したがってまたHがC組組員であることやその事務所がE付近にあることも知っていたと認められるから,Hと被告人の様子を少しみれば,Iにもおおよそのことは分かるはずであって,さほど不自然な供述とはいえない。 なお,Hの前記供述が信用できないとしても,これはHの供述中被告人の指示があったという部分に信用性がないことのみに結びつくものではなく,HがIに被告人のことを話していないという部分が虚偽であるという可能性も十分ある。すなわち,Iは,本件犯行後行方知れずとなり,その後警察に出頭したものである(N第10回2ページ)が,その後のIの供述は,裏付けがあって免れ得ないというべき,本件トラックをレンタカー業者から借りたこと以外では本件犯行への関与を否定するもので,Hの当初の虚偽供述とほぼ同一である。このことからすれば,HとIとの間に,Iが本件に関与していないとすることを含んだ口裏合わせがなされた可能性が高く,HにおいてIは何も知らないと言い続けることにも一定の理由がある。 そうすると,弁護人の主張や被告人の指摘も直ちに採用できない。 ⅴ さらに,弁護人は,本件犯行後HがC組事務所に寄りつかなくなったことが不自然であるとする。しかし,暴力団関係者がその組織に関した犯行の実行役を担った場合,その後しばらく身を隠して同一組織の者との直接的接触を断ったり暴力団事務所に(さほど)寄りつかなくなることは特に珍しいことではない。 本件の場合も同様であり,本件犯行は早晩Eの関係者にはC組関係者の報復ないし示威行動であると感じられるであろう事件であり,そうすると捜査官がC組に注目 )寄りつかなくなることは特に珍しいことではない。 本件の場合も同様であり,本件犯行は早晩Eの関係者にはC組関係者の報復ないし示威行動であると感じられるであろう事件であり,そうすると捜査官がC組に注目するであろうから,HがC組事務所にあまり来なくなったのは不自然ではない。さらに,この間Hが思っていた報酬が得られなかったことなどからさらにC組から離れることにも不合理はない。 (2) それでも被告人が本件現場に来たことを認定しない理由ア被告人の平素の行動との矛盾しかし,被告人は,本件犯行前,JからEに嫌がらせをしてくるよう言われ,自分は仕事をしているから目立つことはしたくない等と理由を言ってこれを直ちに断っている。そして,被告人は,現に金銭面でC組に貢献しており,実際の行動をしなくてもよい存在であって,Jから被告人は金だけの者である旨批判されるほどであるから(被告人第24回7,8ページ),実際にもC組内で外部から分かる行動をとってはいなかったと認められる。このような被告人が,目撃される危険をおかして本件現場に行くにはそれなりの理由が必要と考えられるが,前述((1)ア)したJの命令以外にはその理由となるほどのものはない。 特に,Hが供述するように被告人が金銭面でHやJの本件犯行に協力するならさらに見届け人まですることはありえないという被告人の弁解(被告人第13回43ページ)にも一定の合理性がある(ただし,このことからは被告人が資金協力をしていたことを肯定しやすくなるともいえる。)。 イ次に,本件犯行を目撃した者の中には,Hを見ていながら,本件トラック付近には不審な者はいなかったと供述する者があり(検19),同人がどの範囲で本件現場の周囲を見たのかは不明であ イ次に,本件犯行を目撃した者の中には,Hを見ていながら,本件トラック付近には不審な者はいなかったと供述する者があり(検19),同人がどの範囲で本件現場の周囲を見たのかは不明であるが,同人の供述を前提とする限り,HとI以外本件現場に誰もいなかった可能性を考えないわけにはいかない。 ウさらに,被告人が本件犯行の見届け役をしたとすると,Hが本件犯行後C組事務所に電話して本件犯行の報告をしたことが不合理に思われる。 ⅰ この点,HはJの配下であるから,たとえ被告人が本件犯行を見届けていたとしてもJには報告しなければならないようにも思われる(Jが供述するように,HがJを指定して電話をかけてきたとすればなおさらである。(1)ア参照。)。しかし,単なる若中(構成員)が見届けに来たのではなく,C組若頭補佐という被告人が来ているのに自分(H)もJに報告するというのは,暴力団の論理に従えば被告人の対面(めんつ)を潰す行為とも考えられなくはない。とすると,Hの前記電話の不合理は解消しないともいえる。 ⅱ なお,この点については,HがC組事務所に電話報告したのが第1回目の衝突後第2回目の前であるとすればなんら不自然はない。Hの連絡後被告人が本件現場に行った際には1回目の衝突でさほどEに被害が出ていない状態であったところHが本件トラックで戻ってきたので被告人がHに再度衝突するよう指示したと言う事実経過を考えると極めて自然でもある。 しかし,Hは2回目の衝突後にC組に電話をしたとしているので,このような推論は証拠上とり難い。 エそして,(1)イ,ウでみたように,Hの供述に対する弁護人の疑問のうち多くがさほど不合理なものではないとしても,Hの公判供述に たとしているので,このような推論は証拠上とり難い。 エそして,(1)イ,ウでみたように,Hの供述に対する弁護人の疑問のうち多くがさほど不合理なものではないとしても,Hの公判供述に変遷や質問者への迎合を疑われるような点があることは完全には否定できず,これはHの質問者の問いに対する理解不足に起因すると思われるものもあるが,公判廷でのHの供述に信用できない点がある以上捜査段階のそれに対する信用性判断もまた慎重であるべきである。 オポリグラフ検査についてこれらの点については,結局,本件現場での指示を否定する被告人の弁解が虚偽であると断定できないということに帰する。そこで,本件現場での指示について被告人が認識を有していた可能性があるとするポリグラフ鑑定書(検109)についてみる。 まず,本件ポリグラフ鑑定書は,検査者であるRの供述内容(これに使用された器具の性能や検査方法についての点を含む。)等に照らし,本件との関連性も十分であり,刑事訴訟法321条4項により証拠能力を有するというべきである。 しかし,本件では,被告人が同鑑定書に記載のポリグラフ検査を受ける前に,Hにおいて被告人がいたと供述している位置(E南東側の交差点角。以下「角部分」という。)を捜査官が被告人に示して追及を行った可能性があり(被告人第13回10ないし13ページ,25,26ページ),これは前記ポリグラフ検査の前提とされてはいなかったことである。そうすると同検査の結果から被告人が本件現場に来ていないという被告人の弁解を虚偽であると排斥できない。この点,捜査官Sは,被告人に対し,Eの『前付近』にいて,そこから指示したのではないかと被告人を追及はしたが,角部分にいたのではないかとい 場に来ていないという被告人の弁解を虚偽であると排斥できない。この点,捜査官Sは,被告人に対し,Eの『前付近』にいて,そこから指示したのではないかと被告人を追及はしたが,角部分にいたのではないかという取り調べをしてはいないとする(S8ページ等)。しかし,Sは,被告人とHの供述の矛盾点のうち,本件現場での被告人の位置ないし指示地点以外の点についてはHの供述を被告人に直接話した上で被告人を追及したとしながら,指示の場所のみについてはこれをしなかったというのであるが(同29,30ページ),その理由について結局明確な返答を避けている(同)。しかも,Sは,『前』というのは自分の口癖であるからそのとおりの取り調べをしたという。しかし,それではもし被告人がHに犯行を指示した場所がまさにEの『前』というべき場所であった場合に取り調べに窮してしまうのであり,そもそも被疑者がいた位置という,時として重要な点になるべき点について口癖で取り調べを行うというのが極めていい加減で到底信用できない。そして,Sは,被告人がポリグラフ検査を受けることを前提とした取り調べはしていない(同31ページ)というのである。そうすると,結局,Sの供述によっては,被告人が本件現場のどこに来て指示したかという点についてポリグラフ検査前にHの供述内容を知っていた可能性が否定できない(この点,前記Rは,被告人は本件指示をした場所についての情報を与えられていると訴えてはいないとする(R58ページ)が,仮にそうだとしても,被告人においてポリグラフ検査を軽視していれば検査者には取り調べ状況のすべてを訴えないことがあり得るから,前記可能性が否定できないという結論に影響はない。なお,弁護人は,ポリグラフ検査を犯罪事実認定の直接証拠として用いてはならないとするが,この点の当否はともかく,本件では被告 ないことがあり得るから,前記可能性が否定できないという結論に影響はない。なお,弁護人は,ポリグラフ検査を犯罪事実認定の直接証拠として用いてはならないとするが,この点の当否はともかく,本件では被告人の弁解の信用性の判断にこれを用いたのであって,仮にポリグラフ検査の結果被告人の弁解が虚偽であるとされてしまった結果,他の証拠から犯罪事実が認定されたとしても,これはポリグラフによって犯罪事実を直接認定したとはいえないと考えるが,本件では弁護人のこの主張はこれ以上検討の要がない。)。 (3) (2)の諸点を考えると,(1)で検討したことを前提としても,なお,被告人が本件犯行当時本件現場に赴いてHの供述するような指示をしたと断定するには疑問が残り,Hの供述の信用性もその範囲で認めがたいと考えた。 4 『P』等での共謀(一) Jら2名の共謀とその内容(1) 『P』に至るまでのJとHの共謀アまず,Jが供述する,Eのできが悪いということがC組内で話題になっていたこと(J第6回8,9ページ)は,前記H供述(2(1))とも符合し,他に証拠上特に疑問を差し挟むべき事情もないので事実と認められる。 次に,Hは,平成11年8月初めに,JからトラックでEに突っ込め等と言われ,さらに本件犯行3日前である同月10日ころにはEに嫌がらせ(ヤカラ)をしてくるよう言われたと供述している(2(2)(3))。この点Jはこれらを否定し(J第6回4ページ,10,11ページ),さらに,これらの点についてはHだけが極めて積極的で自分はHがそのようなことをしたいのであればすればいいという態度であったように供述する(J第6回4ページ)。しかし,Jのその際の供述は,Hが無免許運転罪で服役することが分かっていたので, めて積極的で自分はHがそのようなことをしたいのであればすればいいという態度であったように供述する(J第6回4ページ)。しかし,Jのその際の供述は,Hが無免許運転罪で服役することが分かっていたので,どうせ服役するのであれば本件犯行のようなことをするのがいいんじゃないかという話になっていた旨(J第6回3ページ),トラックで突っ込もうかなという話はあり,そのトラックはHが準備することとなっていた旨(同15ないし17パージ)などというものであって,本件犯行のような重大な犯罪についての会話として極めてあいまいである。さらに,Hが本件犯行のようなことをすればその直属の親分ないし兄貴分であるJも重い責任を問われかねないから,HがしたいのであればすればいいなどというJの供述は不自然である。そして,被告人もその前後ころJから同様のことを言われており(被告人第13回4ページ,第24回64ページ,H第8回32ページ),Jら2名の関係からすればJが被告人にEに対する嫌がらせを指示していながらHにこれを命じないとは考えられないこと,前述(3(1))のように,Hの供述には弁護人の指摘するほどの問題はなく,Jからの嫌がらせなどの指示の点については基本的に一貫しており,この点についてHが虚偽を述べる理由は,公判廷の供述にJの面前では話しにくいと考えられる点以外ないというべきこと等に照らすと,JがHにトラックで突っ込めとか嫌がらせをしてこいと言ったこともまた認められる。 イそして,前記Hの供述(2(4)ないし(7))とJの供述(J第4回37ページ等)をはじめとする関係証拠によれば,Jが,アでみたような状況下で,本件犯行前日である平成11年8月12日昼ころHに電話をかけてトラックを借りるよう指示し,Hがこれに応じてレンタカー業者から本件トラックを借り, とする関係証拠によれば,Jが,アでみたような状況下で,本件犯行前日である平成11年8月12日昼ころHに電話をかけてトラックを借りるよう指示し,Hがこれに応じてレンタカー業者から本件トラックを借り,その後Jの指示に従ってこれをC組近くに搬送したことが認められる〔なお,Jは,本件トラックはHが独自に用意してきたように供述を変遷させている(J第6回17ページ,19ページ,22ページ)が,あいまいであって信用できない〕。 Hは,本件トラックを借りる時点ではいまだこれをEに突っ込ませるとは確定的には考えておらず,それ以前から話題になっていたJの家の引っ越しに本件トラックを使うと考えていたとか,だからレンタカーについても当初4トントラックを借りようと思ったがこれではJ方近くの路地に入らないので当時レンタカー業者から出払っていた2トントラックが帰ってくるのを待って本件トラックを借りたが,その後本件トラックをC組事務所に持ってくるよう指示されたため本件トラックでEに突っ込むのではないかと考えるようになったと供述している(H第2回74ないし83ページ)。 しかし,この点,イで認定したところに加え,Jが本件犯行日である平成11年8月13日前の同月10日ころから子供が入院したため妻と共にこれに付き添うなどしていた(同46ページ,J第7回6,7ページ,検91)こと,Jやその妻が,この日本件トラックを借りたというHとの間で引っ越しの具体的手順などを話した形跡が全くないこと(検48参照)等からすると,Jが本件犯行前日に本件トラックを引っ越しのため使用しようと考えてHにトラックを借りるよう指示したというのは疑わしい。一方,レンタカー業者従業員の供述によれば,確かにHは当初4トントラックを借りようとしているが,その後より小さ クを引っ越しのため使用しようと考えてHにトラックを借りるよう指示したというのは疑わしい。一方,レンタカー業者従業員の供述によれば,確かにHは当初4トントラックを借りようとしているが,その後より小さいトラックでよい等という話になった際本件トラックは同業者車庫にあった(検33)もので,トラックの帰りを待っていたというHの供述は信用できない。さらに,Hはその際前記従業員に引っ越しの内容を告げた上すぐに本件トラックを返すような話もしているが(同),Hがこの発言通り直ちに引っ越しがなされると考えるべき事情がない上,もしHがすぐ引っ越しがなされるとしか思っていなかったとすれば,Hも,Jやその妻に引っ越しの要領を聞くなどしているはずであるが,前述のとおりそのような形跡もない。そして,JがHに引っ越しの予定がないのにこれがあるように偽ってトラックを借りさせる動機もない。 なお,Jら2名は,自分たちの間で,本件トラックを突っ込むような犯行をするべき相手がE以外にあったということを窺わせるような供述を全くしておらず,そのような証拠もない。 これらのこととHの捜査段階の供述(検118等)を併せ考慮すると,Jは,Hにトラックを借りるよう電話で指示した時点で本件犯行を企図していたもので,HもJの電話を受けた際にはその企図を察していた(Jら2名が本件トラックをJ方の引っ越しのため借りたとしているのは後日事故である等の弁解をするためである)と考えるのがむしろ相当であるが,少なくとも,これら関係証拠によれば,JがHに対しC組事務所近くに本件トラックを運ぶよう指示し,Hがこれに応じた段階では,JとHとの間に本件トラックを使ってEに突っ込むという本件犯行の概略についての共謀が成立したと認められる。この点,Hは,公判廷でこれを否 くに本件トラックを運ぶよう指示し,Hがこれに応じた段階では,JとHとの間に本件トラックを使ってEに突っ込むという本件犯行の概略についての共謀が成立したと認められる。この点,Hは,公判廷でこれを否定するかのような供述もしているが,Hのこの公判供述は一貫しないあいまいなものであってさほど信用できないといえ,本項で検討したところに照らすと,前記のとおり認めるのが相当であり,Hの公判供述はこの認定を左右しない。 (2) 『P』等での共謀とその内容Hは,『P』で,Jから,服役してもC組から金を出してやる旨言われ,その金額として,Jから5万円,被告人から5万円,C組から5万円の合計15万円を出すと言われ,Hはこれを聞いてEに本件トラックに突っ込めばHの服役後月額15万円を支払ってやるという趣旨と考え,『P』ないしその後に行った店で,やります等と言って本件犯行を実行する旨発言をした旨供述している(H第2回99ないし107ページ,検119)。これはほぼ一貫した供述であり,また,HがC組とは無関係の事件で服役するのに同組やさらに被告人までがHの生活費を拠出するというのは不自然である(後記5(2)アⅲ参照)から,Jの発言はHが同組のために何らかの行動をすることが前提となる発言であって,これまで述べてきた当時の状況下では,その行動とは本件犯行のようなものを意味すると考えるほかない。 これに対し,Jは,『P』では具体的な言葉は出していない旨供述している(J第6回52ページ)。しかし,Hの前記供述は,本件現場での指示に関する部分についてと異なり,前記のとおりHが自白当初から一貫して述べていることがらであり,特に不合理な点もない。また,3(二)(1)イ,ウで検討したとおり,Hの供述にはもともと弁護人が指摘するほど信 る部分についてと異なり,前記のとおりHが自白当初から一貫して述べていることがらであり,特に不合理な点もない。また,3(二)(1)イ,ウで検討したとおり,Hの供述にはもともと弁護人が指摘するほど信用できない不合理な点が多いということもなく,確かに,結論として本件現場での被告人の指示についての認定ができなかった以上その限度でHの供述には信用性がないこととなるが,これはHの他の供述部分の信用性をさほど減殺しない。一方,Jは,同時に,本件犯行以外の点で金の話をした(同第4回40ページ)とした上でHが本件犯行をするので組で面倒を見るという意識はあった(同41ページ),さらには「それはわしらで考えてする」とは言った,その「ら」とは被告人である(J第6回12,13ページ)などと,あいまいで,実際にはHの供述を裏付けるような供述をしている(J第4回23ページ,39,40ページ。第6回3ページ等も参照)。 そして,Hに本件トラックをC組事務所近くまで持ってこさせた上同人を同事務所に来させ,その後Hを『P』等に誘って報酬の話をしながら本件犯行を指示したという,Hの供述するJの行動は極めて合理的なものとなる。したがって,JとHが本件前日に『P』等で飲酒したこと,その際のJの発言内容はHの供述通りであったと認められ,この間両名が本件についての最終的な共謀をしていると認められる。 (二) 被告人が『P』にいたかJら2名の供述等関係証拠によれば,その際C組関係者では被告人のみが『P』でJとHに同席していたことが認められる。 この点,被告人は本件前日Jらと飲酒したことは認めるものの『P』に行ったことを否定するが,被告人の関与を否定し,後記((三)(4))のとおり被告人をかばう供述もしていると認められるJ自身が被 この点,被告人は本件前日Jらと飲酒したことは認めるものの『P』に行ったことを否定するが,被告人の関与を否定し,後記((三)(4))のとおり被告人をかばう供述もしていると認められるJ自身が被告人の『P』での同席を認めていること(J第4回39ページ,第6回22ページ,52ページ)や飲酒をしていた時間,『P』等へ行く方法としてJら2名と被告人の述べるところの対比などからみても,被告人の前記供述は信用できない。 また,この点に関し,Hは『P』での3名の席順が,Jと被告人でHを挟むようなものであったと供述している(H第2回98ページ等)が,弁護人はこれが不合理であるとするところ,Jも供述する(J第6回50ページ)とおり,これは3名のC組での地位から考えると通常では不合理と思われる。しかし,JとHが本件犯行について共謀する場面であればこのような席順も不合理ではなく,また,これが壮行会であったとさほど強調していないHがこの点についてあえて虚偽の供述をするほどの動機も見当たらない。さらに,Jは,この日は懇親のためあえてHと被告人を『P』に連れて行った等と(J第7回12ページ,検97),平素の場合と異なる状況があったことを認める供述をしている上,一般論でしかHの供述を否定していない。 そうすると,弁護人の主張は採用できず,被告人が『P』でJとHに同席し,その際Hが供述するような席順であったことが優に認められる。 (三) 被告人の共謀(1) まず,被告人が平成11年6,7月ころJからEに嫌がらせをしてこいと言われたことは被告人自身認めるところである(前掲被告人第13回4ページ,第24回64ページ)上,Eのできが悪いということはC組内で話題になっており,C組には常時被告人の配下の者がいたのであるから(前 われたことは被告人自身認めるところである(前掲被告人第13回4ページ,第24回64ページ)上,Eのできが悪いということはC組内で話題になっており,C組には常時被告人の配下の者がいたのであるから(前記第1の1(一),検66),被告人において本件犯行前Eへの対応がC組内で問題になっているのを知っていたことが認められる。 (2) 『P』での共謀についての被告人の関与については,H自身が被告人は『P』では積極的発言をしていないと供述している。しかし,被告人はJら2名と3名で『P』に行って(二)で認定したような配置で並んで座っていたのであり,Jら2名の会話を聞いていないはずがない。 なお,被告人は,その後に行ったと認められるスナック等で他の者がしていた会話について,自分は鹿児島市内で経営していたスナック等の内装との比較などが気になって他の者の会話は聞いていないとするが,これはそれ自体会話の全部を聞いていない理由として不十分である上,『P』はスナックやクラブではないから被告人がその内装等に気を取られることもない。そして,Jは被告人の兄貴分,またHはJの子分であるから,同人にJが犯行を促す説得をしているのに被告人が口出しをするとも考え難いから,『P』で被告人がさほど話していないとしても全く不自然ではない。 (3) そして,被告人はC組の者でこの日ただ一人Jら2名に同行して『P』に行き,その後も同人らと行動を共にしているのであり,その直後と言ってよい時に本件犯行が行われたことに照らすと,被告人がJら2名の間で前記のようなH供述のごとき会話がなされた『P』に行き,その後行動を共にしていた事実は,被告人とJら2名の間に本件共謀があったことを推認させる重要な間接事実である。 なお,被告人は,『P』等で H供述のごとき会話がなされた『P』に行き,その後行動を共にしていた事実は,被告人とJら2名の間に本件共謀があったことを推認させる重要な間接事実である。 なお,被告人は,『P』等でことさら発言をしていない模様であるが,Jの発言を知りつつ特に異論を差し挟まなかったことは,被告人がJの発言内容を理解し,これに同意していることをHに示すこととなるから,被告人が共謀成立の過程でHに対し特に発言をしていないとしても,共謀認定の妨げにはならない。 (4) ところで,この点に関し,弁護人は,Jは被告人をかばってはいないからその公判供述が信用できる旨主張する。しかし,例えば,Jは,被告人自身がJからEに嫌がらせ(ヤカラ)をいってこいと言われた旨述べているのに,被告人にEのことを言ったことはないとしたり(J第6回9ページ),Eのできが悪いらしいぞ等と言ったことはあるがそのような会話が自分と被告人ないしC組事務所内であった時には被告人は自分は(商売関係があるので)そういう話には寄りたくない旨言っていたということは明言する(同14ページ,J第4回6ページ,48ページ)など,被告人をかばうあいまいな供述態度が見られる。また,JはHに対してもEへいやがらせをするようには言っていないと供述したり,前述のように自分自信の本件犯行への関与をはじめ本件犯行全体についても極めてあいまいな供述をしており,その中で関係者をかばう態度も明らかである。 なお,そのように弁護人が主張するJが,被告人がJら2名の共謀をうすうす分かっていたと思うと供述している点(J第4回67ページ)も被告人の共謀を裏付ける事情である。 5 金銭の支払と被告人のこれへの関与(一)(1) レンタカー代検察官は,被告人が簡単にこれを 述している点(J第4回67ページ)も被告人の共謀を裏付ける事情である。 5 金銭の支払と被告人のこれへの関与(一)(1) レンタカー代検察官は,被告人が簡単にこれを支払っている点からみて被告人の共謀が裏付けられるとする。確かに,JがHに本件トラックの手配を指示する電話をする際に,被告人に対しても本件犯行について話している等とすればこの点は理解しやすい。しかし,これが共謀の裏付けとなるというには証拠が足りない。 (2) 本件犯行当日の5万円ア報酬性ⅰ Hが本件犯行後その日の夕方にJに対して金銭の交付を求め,Jがこれに応じてこれを被告人から出させ,被告人がJの指示にしたがってC組事務所外でHに会い,5万円を手渡していることはこの3名が一致して供述するところである(J第6回36ページ等)。 ⅱ これが報酬であるかについて,まず,弁護人は,報酬であればもっと高額であるはずであるとし,被告人もこれに沿う供述をする。しかし,まず,JがHに対して約束した報酬は,Hが服役を開始した後月額15万円を支払う等という,同人が服役中妻子の生活保障を得るための条件であり,Hはこの条件で本件犯行を請け負っている。そうすると,金額の面から前記5万円を報酬でないとすることはできない。また,弁護人や被告人の主張を前提としても,Hが本件犯行を行ったことは事実であるから,これに対する報酬が支払われなければならないはずである。 ⅲ また,弁護人は,Hが報酬として前記5万円を請求せず,家賃が足りないと言ってJに金銭的援助を求めた結果払われたものであるから,報酬ではないとし,Jは,「組事で行こうが,個人ごとで行こうが,フォローするのが当たり前」であると,弁護 記5万円を請求せず,家賃が足りないと言ってJに金銭的援助を求めた結果払われたものであるから,報酬ではないとし,Jは,「組事で行こうが,個人ごとで行こうが,フォローするのが当たり前」であると,弁護人の主張を裏付けるような供述をしている(J第6回11ないし12ページ)。 しかし,家賃であれば本来Jや被告人が支払う必要はない。また,Jは,自分自身は本件で逮捕された後C組から差し入れもない等前記供述と矛盾する供述をしている(J第6回40ぺージ)。 さらに,報酬をどのように使うかは本来これを受け取る者の自由であり(Jもこれを認める供述をしている。J第4回43ページ。),どのように使用する金銭を報酬というかは一義的,普遍的に定まるものではない。そして,前述のとおり,本件犯行に対する報酬は本来Hの服役中に支払われるものであるが,Hの生活保障をするという趣旨で払われるのであるから,Hとしては,この時期に家賃が足りないとJに言えば,『P』での約束の延長のように,本件犯行を実行した者に対する報酬としてその支払いが受けられると考えても不自然でなく,Jも,Hのそのような意図を了解したからこそ,5万円を支払うことを承知し,被告人にその負担を求め,さらには他にC組構成員がいるはずであるのにあえて被告人にHへの交付を指示したと推認される。 ⅳ このほか,前記5万円が報酬ではないというJや被告人の供述(後記イⅰ掲記の部分など)は,あいまいであったり,不合理なものであり,採用できない(ただし,ポリグラフ検査の結果については,質問に弁護人主張のとおりの問題があって採用できない。)。 そうすると,前記5万円は報酬の趣旨でHに渡された金銭であると認められる。 イ の結果については,質問に弁護人主張のとおりの問題があって採用できない。)。 そうすると,前記5万円は報酬の趣旨でHに渡された金銭であると認められる。 イ被告人の認識ⅰ 被告人は,前記5万円をHに払う時点までに本件犯行を知っていたと認められる。この点,被告人は否定的な供述もしている(被告人第24回51ないし52ページ等)が,これはあいまいなものである上(被告人第3回27ページ),被告人が本件犯行当時ないしその前後にC組事務所にいたこと,Hが本件犯行後C組に犯行を報告する電話をしていることやJの供述内容等に照らしこれは明らかである。また,被告人はJに言われて前記5万円をC組事務所外でHに渡しているが,HがC組事務所の外で,J以外の者から前記5万円を受け取る理由は,前述のとおり,Hが本件犯行を実行したためC組事務所に近寄ったり直ちに共謀が疑われる(直属の親分格の)Jと接触しない方がよいという判断があった以外には考えられず,この点被告人が直接Hに手渡した理由についてJや被告人が供述するところ(J第6回37ページ,被告人第13回23ページ等)は,被告人とHの仲が相当悪いというJの供述(Jの第6回公判調書53ページ)と矛盾する等,不自然,不合理である上,被告人がこの5万円の授受時期や趣旨について虚偽の供述をしていたこと(被告人第13回16ページ,20ないし24ページ,検70)に照らし容易に信用できない。 ⅱ さらに,被告人の供述(被告人第13回23ページ等)どおり,Jが被告人に対し,Hに対する5万円の趣旨につきHが支払うべき家賃の不足分であると説明していたとしても,アⅲでみたとおり,JはHの無心の趣旨を報酬の性質を有する金銭の要求であると理解し,その負担を被告人に 告人に対し,Hに対する5万円の趣旨につきHが支払うべき家賃の不足分であると説明していたとしても,アⅲでみたとおり,JはHの無心の趣旨を報酬の性質を有する金銭の要求であると理解し,その負担を被告人に求めたと認められ,これまで検討したところによれば,被告人もJと同様の理解をしたからこそ前記5万円を支払うことを了解し,これをJが求めるままC組事務所の外に出てHに交付したと推認できる。 この点,確かに,被告人は,それまでもJにある程度金銭の融通をしている。しかし,被告人の供述によっても,個人的な融通は少額であり,(C)組のための支出が中心であったという(被告人第13回28ページ)のであるから,被告人がJに融通したことがあった点も前記推認を左右しない。 ⅲ そうすると,被告人は前記5万円が本件犯行の報酬であることを知っていたと認めるのが相当である。 (3) 平成11年9月27日の12万5000円の送金この点についてのHの供述も一貫していて合理性があり,信用でき,Hが前述のようにJから送金を受けた後被告人に礼の電話をしていることも認定できる。そうすると,これについても,(2)の5万円と同様,報酬性があると認められ(なお,ポリグラフ検査の結果については,(2)同様質問に弁護人主張のとおりの問題があって採用できない。),同様の理由で,被告人はこれを認識して送金をしたと認められる。 なお,この点に関し,Hは,被告人に礼の電話をした際被告人が30万円送金したと話した旨供述するところ,これは客観的事実と齟齬している。これがHや被告人の記憶違いなどではないとすると,Hの虚構である可能性はある(捜査側にはそのような客観的に検証できる事実をねつ造するメリットがない)。しか るところ,これは客観的事実と齟齬している。これがHや被告人の記憶違いなどではないとすると,Hの虚構である可能性はある(捜査側にはそのような客観的に検証できる事実をねつ造するメリットがない)。しかし,Hがこの点につき虚偽を述べていたとしても,これはJに不利な情状を加えるものであるとは考えられるものの,被告人を陥れようとすると構築すべき動機が生じる虚偽とはいえず,被告人の認識に関する前記認定を左右しない(なお,Hがこの点につき虚偽を述べているとすると,一般論とすれば他の点でも虚偽を述べている可能性を疑うべきこととなるが,この点は他と独立している上,この点の虚偽はこれを踏まえても他の点での検討結果を左右する程度ではないと判断する。)。 (二) そうすると,(一)(2)でみた5万円の交付と同(3)でみた12万5000円の送金は本件犯行に対する報酬の趣旨で被告人からHないしJに交付,送金されたことが認められ,一方,本件犯行後初めて被告人がその報酬をHに渡す理由が生じたことを窺わせる証拠はない。そうすると,これらの金銭交付等は被告人とJら2名との間に本件犯行の共謀があったことを推認させる重要な事実である。 6 被告人の動機について弁護人は,被告人には本件に関与する動機がないとするので検討する。 (一) 被告人は,C組内ではJの弟分にあたるが,飲食店を経営するなど実際に資金的余裕があり,C組に対する資金面での貢献も大きい状況であったところ,Jは,本件の前に,みかじめ料の請求に応じないEに対するいやがらせを被告人に命じたが,その際資金的協力しかしないことを非難するような発言をし(被告人第13回36ページ),被告人は商売をしているからとの理由でこれを拒絶した(J第4回5ページ,被告人第13回1,2ページ等)。 一 金的協力しかしないことを非難するような発言をし(被告人第13回36ページ),被告人は商売をしているからとの理由でこれを拒絶した(J第4回5ページ,被告人第13回1,2ページ等)。 一方,JとHは,前述のとおり,平成11年7月ころから,Hが本件のような犯行(自動車でE店舗を損壊すること)をする旨の話をしているが,それにはHが本件当時別件の無免許運転事件のため服役することになっていたことが一因となっており,Hには服役中の家族の生活費やH自身の引っ越し等のため金銭が必要であって,それは服役期間が増えればそれだけ高額になるべきものであった。そして,HはJの直接の子分であるのに,J自身は当時さほど金銭的な余裕がなかった。さらに,本件のような犯行を行うにはそれなりの報酬が支払われてしかるべきであることは,共謀を最も強く否定する被告人においても自認するところである(被告人第13回42ページ)。 (二) そして,被告人はJから金銭の出捐だけで地位を得たと言われているのであり,M会の者も被告人の指示等なくしては動かないというのである(被告人第13回21ページ)から,自分が金銭の出資をも断ればさらにJからなにがしかの文句を言われかねない立場であった。 このような客観的というべき状況を前提とすれば,Jが他人に対しHに本件犯行を行わせるについて資金面での協力を要請する必要があったこと及びその他人としては被告人以外なかったこと,また被告人もJらC組のための金銭的協力については(金額にもよるであろうが)基本的にはこれを拒む意志がなく,また犯罪(的)行為を直接行うこと以外はこれを拒む理由が(特にJとの関係では)見いだせない立場にあったことが合理的に推認される。 (三) なお,弁護人は,本件犯行についてのJら2名の動機を考える 犯罪(的)行為を直接行うこと以外はこれを拒む理由が(特にJとの関係では)見いだせない立場にあったことが合理的に推認される。 (三) なお,弁護人は,本件犯行についてのJら2名の動機を考えると,これは両名が被告人を排除して行ったものであると主張する。 しかし,そうだとすれば,Jら2名が平素鹿児島市内に居住する被告人が事務所当番で来ていた時期に本件犯行に出るのは偶然というには不自然であり,また,Jら2名が被告人の同席する場所で本件犯行に関する会話をするはずもないと考えられる。なお,Jら2名が本件トラックのキー(鍵)を取り合うようになった際被告人がこれに関与しなかった等という点についても,被告人は本件犯行の実行に直接関与せず,Jらが実行するのであれば資金面で協力するというのみであり,実行犯はHであって,同人はJの子分であるということを前提とすると,Jら2名が本件犯行実行計画を二人の計画として話をする面があるのはさほど不自然ではなく,また,Jら2名はある程度酔っていたのであるからなおさらである。むしろ,Jら2名が,原因が被告人に理解できない状況下で被告人の供述するようなけんかをしはじめたのであれば,被告人としてもこれを放っておくのは不自然であり,被告人は,Jら2名のこのときの争いが本件犯行に関するものと分かったからこそしばらく静観していたと考えるのが自然である。 (四) そうすると,被告人には,Jから頼まれれば,資金協力の面では本件犯行のような行動に参加すべき動機ないし理由が生じると認められる。なお,弁護人は,この点に関連し,被告人が本件後逮捕されてその営業打撃を受けた点を指摘するが,これは事後のことであり,本件犯行当時被告人がJの要請に応じるかの判断をする際の材料にはならない。 7 結論(1) 4で し,被告人が本件後逮捕されてその営業打撃を受けた点を指摘するが,これは事後のことであり,本件犯行当時被告人がJの要請に応じるかの判断をする際の材料にはならない。 7 結論(1) 4でみた事前共謀を裏付ける事実に加え,5でみた事後の報酬支払いに関する被告人の関与,6で検討したように被告人に動機があることに照らすと,被告人の関与内容に関するHの供述は本件現場での被告人の指示の点を除き検察官主張のとおり基本的な部分では合理性があり,したがって信用性も高いというべきである(Hの供述で信用できない点のうち,被告人の指示以外の部分は,基本的に被告人やJの面前で行われた公判供述で(1)イⅴでみたような弁解と考えられるか,本件トラックの準備の点等本件犯行が計画的でなかったことを捜査側に印象づけようとした弁解と考えられ,さらに被告人の指示に関する捜査段階での供述も,これまで検討したところに照らすと,被告人の関与を実際より強調してしまったと考えるのが自然であり,4ないし6でみた点とは独立しており,前記の点についてHの供述に信用できない部分があることによって被告人の本件犯行への関与そのものを認定するのが不十分となることはない。)。 (2) また,被告人やJがHと『P』等で行動を共にした後別れるまでにHが準備していたのが本件トラックだけであること,その段階では本件犯行等の実行役はHのみであると認識,了解されていたことになること,当時E以外にHが報復行動等をする対象は考えられず,一方本件以前に考えられていたEに対する報復行動等は嫌がらせ程度であったこと,本件犯行のような行動が暴力団の行う報復行動等として特に珍しいものではないこと,JがHにした報酬約束の内容,程度等からすれば,これら状況下でHが本件トラックを使って行う行動としては,Eに対する こと,本件犯行のような行動が暴力団の行う報復行動等として特に珍しいものではないこと,JがHにした報酬約束の内容,程度等からすれば,これら状況下でHが本件トラックを使って行う行動としては,Eに対する本件犯行のようなものが典型的と考えられるから,被告人は,Hが本件犯行のような態様の行動をするであろうことを認識しつつ,Jら2名の共謀に加わったものと認められ,一方本件現場での被告人の指示が認められないことからすれば,本件証拠からはこれ以上の認定はできないものの,この程度の共謀であっても,これを本件犯行についての共謀と認定する妨げにはならないというべきである。 (3) したがって,被告人とJら2名間には,遅くとも,本件犯行前に『P』等で飲酒した後C組事務所付近でHが被告人及びJと別れるまでには本件犯行についての共謀が成立し,本件犯行はこの共謀のもと敢行された(本件犯行時にはこのような共謀が存在していた)と認めるのが相当である。これまで検討してきた以外の弁護人主張の点は,いずれもさほど大きい問題点ではないか,反対の解釈が十分可能であって,これまでの認定に影響しない。 なお,本件犯行の共犯者3名共通の動機についてみると,前提事実によれば,Jら2名の本件犯行動機が金銭をせしめることができなかったことに対する報復(みせしめ)ないし示威行動であったことは優に認められ,被告人もこれを承知で本件に加担したことも疑う余地がない。 第3 以上のように考え,Hの供述を始めとする前掲各証拠から本件犯罪事実を認定した。 (累犯前科) 1 事実(一) 平成10年3月4日福岡高等裁判所I支部宣告暴行,傷害,暴力行為等処罰に関する法律違反罪により懲役1年4月(二) 平成10年11月20日刑執行終了 2 前科調書により認定(法令の適用) 10年3月4日福岡高等裁判所I支部宣告暴行,傷害,暴力行為等処罰に関する法律違反罪により懲役1年4月(二) 平成10年11月20日刑執行終了 2 前科調書により認定(法令の適用) 1 罰条刑法60条,260条前段 2 再犯加重刑法56条1項,57条 3 未決勾留日数の算入刑法21条 4 訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由) 1 不利な事情(一) 暴力団特有の反社会的動機に基づいた犯行である。動機には全く酌量の余地がない。 (二) 犯行態様も暴力団特有の,粗暴かつ危険なものであった。地域社会に与えた影響も大きく,暴力団に対する恐怖感や不安を増大した点も特に非難されるべきである。 (三) 被害総額は1415万円と高額であり,直接的な金銭的被害を受けたパチンコ店への被害弁償はなされていない。同店関係者の被害感情は当然ながら厳しい。 (四) 被告人は,本件でも,後述する点を考慮しても,共犯者(J)が実行を担当させようとした者(H)に本件犯行の決意をさせてこれを犯行に駆り立てた際資金協力という重要な応援行為(共同正犯にあたることは前述のとおり)を果たしている。なお,JはHに対して「もうええ」等と犯行を中止するように発言しているが,これは,その前後の言動からして犯行を思いとどまらせるための真摯な発言ではなかったと認められる。 (五) 本件犯行への関与を否定しその責任を共犯者に押しつける供述に終始していたといわざるを得ず,犯行を反省する態度がない。 (六) 長年暴力団員として活動してきた挙げ句の犯行であること自体も悪い情状と言うほかない。 2 有利にしん酌すべき事情(一) 本件犯行の主犯は共犯者(J)であり,被告人の資金協力も自ら申し (六) 長年暴力団員として活動してきた挙げ句の犯行であること自体も悪い情状と言うほかない。 2 有利にしん酌すべき事情(一) 本件犯行の主犯は共犯者(J)であり,被告人の資金協力も自ら申し出た積極的なものであったとは認められず,また他の共犯者(H)が犯行に供した自動車を選択していることなどにも照らすと,犯行を実行するについては,同人自身の犯行欲求が相当あったことも窺われる。 (二) 暴力団を離脱する意志があるようである。 (三) 正業も行っている。 (四) 養うべき妻子がある。 (求刑,懲役3年6月)平成15年4月17日神戸地方裁判所第11刑事係乙裁判官橋本一

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