平成18(あ)417 銃砲刀剣類所持等取締法違反,強盗殺人,死体遺棄被告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年2月20日 最高裁判所第一小法廷 決定 棄却 仙台高等裁判所
ファイル
hanrei-pdf-80526.txt

判決文本文9,090 文字)

- 1 -主文本件各上告を棄却する。 理由 検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は量刑不当の主張であり,被告人Aの弁護人大野貴雄の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,その余は量刑不当の主張であって,いずれも適法な上告理由に当たらない。 所論にかんがみ,被告人両名の量刑につき,職権により判断する。 本件は,被告人両名が,共犯者1名と共に,B及びCを殺害して金品を強取しようと企て,けん銃3丁をこれらと適合する実包18発と共に携帯して所持した上,Bに対し,被告人Dにおいて,上記けん銃のうちの1丁で実包1発を発射し,Bの頭部に命中させ,Cに対しても,同被告人において,同けん銃で実包2発を発射し,いずれもCの頭部等に命中させて,両名を殺害するとともに,B所有に係る現金30万円余り等在中のかばん1個を強取し,さらに,両名の死体を山林内に運び,あらかじめ掘っておいた穴に埋没させて遺棄したという,銃砲刀剣類所持等取締法違反,強盗殺人,死体遺棄の事案である。 Bは,父親が総長をしている暴力団傘下の組織であるB班を率いていたもの,被告人Aはその幹部,被告人D,Cはその構成員であり,被告人Dは,被告人Aの弟分的な立場にあったものであるところ,被告人Aは,自分が交際していた女性が,Bとも交際を始めていることを知り,同女性を横取りされたと考えてBに強い恨みを抱き,目を掛けていた被告人Dら共犯者にBの殺害を持ちかけ,被告人Dらもこれに応じることとし,複数のけん銃を用意するなどして,本件各犯行に及んだもの- 2 -である。このように,犯行の経緯,動機に酌量の余地はなく,その態様は,至近距離から頭部等に向けてけん銃を発射するという冷酷,非情かつ残忍なもので,Bのみならず,Cをも巻き添えにして,年若い2名の -である。このように,犯行の経緯,動機に酌量の余地はなく,その態様は,至近距離から頭部等に向けてけん銃を発射するという冷酷,非情かつ残忍なもので,Bのみならず,Cをも巻き添えにして,年若い2名の生命を奪ったという結果は重大である。各遺族の処罰感情は厳しく,このような犯行が社会に与えた影響も軽視できない。被告人Aは,このような犯行の首謀者で終始犯行を差配したもの,被告人Dは,被害者らの殺害を実行したものであり,両被告人の刑事責任は誠に重大であって,被告人両名に対しては,死刑を選択することも考慮されるところである。 しかし,他方において,本件強盗殺人は,被告人AのBに対する恨みを主たる動機とした犯行であり,被害者らの殺害に用いられたけん銃は,被告人AがもともとBから預けられていたものであること,また,犯行の態様が一般市民を巻き込むようなものではなかったといった事情も認められるところである。 そうすると,被告人Aについては,本件各犯行を主導したものではあるが,自ら警察に出頭し,犯罪事実を大筋で認めていること,比較的若年で前科もないことなどの事情等をも考慮すると,同被告人を極刑に処するほかないものとまでは断定し難く,同被告人を無期懲役に処した第1審判決を維持した原判決について,その量刑がこれを破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。 また,被告人Dについてみると,組織から脱退したいとの思いもあって,従属的に本件各犯行に関与したもので,被害者らの殺害を実行することになったのも被告人Aからの直前の指示によるものであること,真しな反省悔悟の情を示し,事案の解明にも寄与していること,比較的若年で前科もないこと,家族がCの遺族に対して300万円の見舞金を支払っていることなどの事情が認められることからして,同被告人を無期懲役に処した第1審判決 し,事案の解明にも寄与していること,比較的若年で前科もないこと,家族がCの遺族に対して300万円の見舞金を支払っていることなどの事情が認められることからして,同被告人を無期懲役に処した第1審判決を維持した原判決について,その量刑がこ- 3 -れを破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,被告人Aに関する部分につき,裁判官甲斐中辰夫,同才口千晴の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 裁判官甲斐中辰夫の反対意見は,次のとおりである。 私は,原判決のうち被告人Aに対する判決は,刑の量定が甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認めるので,原判決のうち被告人Aに対する部分を破棄し,事件を原審に差し戻すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。 原判決は,本件の動機,経緯,態様,結果の重大性,遺族の被害感情及び社会的影響等について,「本件が強盗殺人としてはその形成過程が典型的なものとは類型を異にするとはいえ,極めて凶悪な計画的犯罪であり,動機,経緯に酌量すべきものはなく,特にCに対しては全くなく,殺害手段は強烈かつ残虐であり,被告人両名同様年若い2名もの貴重な生命を一瞬のうちに奪い去った結果は重大であり,遺族の被害感情も峻烈を極めており,社会的にも,特に地域社会に大きな衝撃を与えていること等に徴すると,被告人両名の罪責は誠に重大といわざるを得ない。」とした上で,被告人Aの主観的,個別的事情については,「被告人Aについては,終始このような重大凶悪犯罪の首謀,主導者であって,本件を差配しており,本件一連の犯行で最も重い責任を負うべきものであり,なお,犯行後の情状も芳しくない。さらに,犯行を大筋認めるものの,責任回避的な供述が目立ち, 重大凶悪犯罪の首謀,主導者であって,本件を差配しており,本件一連の犯行で最も重い責任を負うべきものであり,なお,犯行後の情状も芳しくない。さらに,犯行を大筋認めるものの,責任回避的な供述が目立ち,また,各被害者やその遺族に対し謝罪の言葉を口にするものの,原審公判供述の内容等に照らすと表面的であり,真しなものとは到底認めがたい。遺族に対し何ら慰謝の努力もし- 4 -ていないのも誠に遺憾というほかなく,遺族の心情は察するに余りある。しかも,本件一連の犯行についてEのみならず,被告人Dに比しても,最も重い責任を負うべき立場にあることにも照らすと,被告人Aに対しては,極刑は避けがたいと考えられなくもない。」としており,多数意見もおおむねこれを是認するところである。 本件は,暴力団幹部である被告人Aほか2名によるけん銃使用にかかる被殺者2名の強盗殺人等被告事件である。被告人Aはその首謀者であり,上記のとおりその罪責は誠に重大であって,当審の過去の先例に照らしても,特に酌量すべき事情がない限り,死刑の選択をするほかないものといわざるを得ない。原判決の上記判示は,この限りにおいては妥当なものといえよう。 ところが,原判決は,被告人Aについて情状を酌量し,死刑を回避すべき事情として,①本件強盗殺人は,被告人AのBに対する恨みを主たる動機とした犯行であり,典型的な強盗殺人とは類型が異なること,②被告人Aの独善的,反規範的,狡猾な性格は,暴力団組織の中で助長されてきた側面があり,被告人Aのみを全面的に責めることができないこと,③本件が暴力団組織内で生じた犯行であること,④被害者らの殺害に用いられたけん銃は,Bが被告人Aに預けていたものであり,Bの非として一定程度しん酌せざるを得ないこと,⑤被告人Aは比較的若年で前科もなく,自ら警察に出頭し,犯罪事実を大 ること,④被害者らの殺害に用いられたけん銃は,Bが被告人Aに預けていたものであり,Bの非として一定程度しん酌せざるを得ないこと,⑤被告人Aは比較的若年で前科もなく,自ら警察に出頭し,犯罪事実を大筋で認めており,改善更生の可能性は残されていることなどを挙げ,被告人Aを死刑に処するにはなおしゅん巡せざるを得ないと判断した。多数意見も上記事情の相当部分を是認し,同じく被告人Aを極刑に処するほかないとまでは断定し難いものと判断した。 しかし,原判決と多数意見が挙げる上記の事情は,被告人Aの刑を量定するに当- 5 -たり特に酌量すべき事情とは認められないものと考える。以下順次説明する。 ①については,本件が,被告人AのBに対する女性関係をめぐるえん恨がB殺害の目的であり,金品強奪についてはB殺害を決断した後に決意したものであることは,原判決指摘のとおりである。しかし,金品強奪は,殺害実行の19日前に,被告人Aにおいて金融業を営むBが普段多額の現金をバッグに入れて所持していることに着目して発案し,犯行現場において被告人A自らが素早く本件バッグを強奪したものであって,利欲性は高く,強盗殺人の類型として特に酌量すべき要素はない。本件について犯行の動機や犯意形成過程を考察するのであれば,B及びCに対するそれぞれの殺害等の犯意形成過程全体を考察すべきである。被告人Aは,Bが自分と関係がある女性と男女関係を持ったことから,たとえBが自分と女性との関係を知らなかったにせよ自分の女に手を出したから殺すという独善的,短絡的発想で殺害を決意するとともに,多額の現金を持っていることに着目して金品強奪を決意するに至ったものであり,Cに至っては単に現場にいたという理由で,何の落ち度もないのに犯行発覚を防ぐために殺害したものである。このような動機や犯意形成過程について, いることに着目して金品強奪を決意するに至ったものであり,Cに至っては単に現場にいたという理由で,何の落ち度もないのに犯行発覚を防ぐために殺害したものである。このような動機や犯意形成過程について,常軌を逸した悪質性,残虐性を認めることは容易であるが,どの部分においても酌量すべき事情があると評価することはできない。 ②については,もともと被告人Aの反社会的性格や危険性が,所属する暴力団組織により助長されたとする証拠は存在しないが,仮にそうであったとしても,被告人Aが自らの意思で暴力団に加入し,その影響により反社会的性格を深めたからといって,そのことは,刑の量定上不利な事情として評価するのが当然であり,これを有利な事情として評価することは明らかな誤りである。暴力団組織に所属し,暴力団特有の短絡的,独善的発想を身に付けて行った本件のような事案について,こ- 6 -れを酌量すべき事情と評価するなどという論理は,到底国民の理解を得られないであろう。 ③については,本件は,被告人も被害者も共に暴力団関係者であることはそのとおりである。しかしながら,一般に,被告人及び被害者が暴力団関係者の場合に情状が酌量されることが多いのは,示談が成立している場合が多かったり,被害者にも一定の非があることなどが考慮されるからであって,単純に被害者が暴力団関係者であるというだけの理由で情状が酌量されているわけではない。 本件においては,被害者両名に落ち度はなく,自分の女に手を出したからという短絡的理由や犯行発覚を防ぐ口封じのため殺害の対象となり,多額の現金を所持しているから金品強奪の対象となったものであって,相手が一般人であっても十分起こりうる事件である。このような動機や理由で殺害された被害者が暴力団員であったからといって,これを酌量すべき事情と評価すべきものとは考え 品強奪の対象となったものであって,相手が一般人であっても十分起こりうる事件である。このような動機や理由で殺害された被害者が暴力団員であったからといって,これを酌量すべき事情と評価すべきものとは考えられない。 ④については,被告人Aは,もともとけん銃1丁(S&W)を所有していたが,Bから預かったけん銃2丁のうち軍用けん銃であるマカロフが暴発の危険がなく,弾丸を込めていつでも使用できる状態にしておいても安全なことから,これを主に持ち歩き,本件犯行に使用したものである。Bがけん銃を所持していたことは,違法行為としてB自身が刑責を負うべきではあるが,このことが被告人Aに対する関係で非があることにはならないし,被告人AがBら殺害のために自分のけん銃より使い勝手がよい上記マカロフを使用したことが,いかなる意味でも酌量すべき事情になると評価することはできない。 本件では,けん銃の持主を云々するよりも,本件がけん銃を使用した凶悪犯罪であることを重視すべきである。我が国の治安は,厳しい銃規制により維持されてお- 7 -り,簡単,確実,大量に人を殺害することができる銃による犯罪は,社会の脅威であり,厳しく非難されるべきである。被告人AがBから預かったマカロフを用いて,本件犯罪を行ったことは,酌量すべき事情どころか犯行態様の悪質性,残虐性を端的に示す事情にほかならない。 ⑤に挙げる被告人Aの主観的,個別的事情のうち,被告人Aが自ら警察に出頭したとする点については,被告人Aは,被告人Dが逮捕された後も共犯者Eとともに逃亡し,同人が警察に出頭することとした後も1人逃走を続け,犯行の約20日後にようやく暴力団組織からの報復を逃れるために警察に出頭したもので,反省の情に基づくものではない。さらに,被告人Aが犯罪事実を大筋で認めているとする点も,被告人Aは,共犯者に 続け,犯行の約20日後にようやく暴力団組織からの報復を逃れるために警察に出頭したもので,反省の情に基づくものではない。さらに,被告人Aが犯罪事実を大筋で認めているとする点も,被告人Aは,共犯者に責任を転嫁したり,重要な事実である強盗の犯意を殊更に否認するなど責任回避的な供述が目立つことは,原判決も認めるところであり,反省悔悟の情を見いだすことはできない。被告人Aが,犯行当時25歳であり,前科もないことは,量刑上考慮すべき一事情ではあるが,本件犯行全体を通じて見られる人間としての情感に欠ける独善的,反規範的発想が,公判においても改善の兆しすら見られないことを考え合わせると,改善更生の可能性を看取することはできず,これを特に酌量すべきものと評価することはできない。 本件公判を傍聴していたCの遺族が,被告人Aについて,被告人Dが自分の罪の重さに心から思い悩んでいるのと比較し,あまりにも反省の態度がなくどうしても許すことができず,強く極刑を望むが,このことは社会一般の人であれば皆等しく思うはずであると感情を抑えつつも切々と供述していることは,十分に理解できるところである。 もとより死刑は窮極の刑罰であり,その適用には慎重でなければならず,被害者- 8 -の遺族の厳罰を求める声には耳を傾けるべきではあるが,刑の量定は罪刑の均衡と客観性,合理性を重視しなければならない。また,若年の被告人の場合には,真しな反省の態度など有利な事情があればこれを可能な限り汲み取り量刑に反映させるべきである。私はこれまで常にこのようなことを心がけて裁判に当たってきた。しかしながら,被告人Aについては,あらゆる事情を検討してもその罪責は重大であり,もはや改善更生の可能性は見いだせないのであって,新たに特に酌量すべき事情がない限り死刑を回避することはできないものと判断せ ながら,被告人Aについては,あらゆる事情を検討してもその罪責は重大であり,もはや改善更生の可能性は見いだせないのであって,新たに特に酌量すべき事情がない限り死刑を回避することはできないものと判断せざるを得ない。原判決及び多数意見が被告人Aについて酌量すべき事情として述べるところは,いずれも是認することができないばかりか,本来刑の量定に当たって考慮すべき重要な要素ではなく,派生的なことがらにすぎないのであって,到底同調することはできない。 以上のとおり,原判決の被告人Aに対する刑の量定は甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するので,原判決のうち被告人Aに対する部分を破棄し,被告人Aについて死刑を回避するに足りる特に酌量すべき事情があるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,原裁判所に差し戻すべきであると考える。 裁判官才口千晴の反対意見は,次のとおりである。 私も,甲斐中裁判官の反対意見と同様に,原判決のうち被告人Aに対する判決は,刑の量定が甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認め,原判決のうちAに対する部分を破棄し,同人について死刑を回避すべき特段の事情があるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,事件を原裁判所に差し戻すべきであると考える。 その理由は,次のとおりである。 事件の経緯,態様等及び原判決の認定と刑の量定並びに多数意見が是認するAに- 9 -関する事情等は,甲斐中裁判官が反対意見において詳細に述べられており,私も基本的にこれと同意見である。 同裁判官の反対意見に敷衍する事項は,次のとおりである。 Aの刑を量定するに当たり特に斟酌すべき事情本件は,銃刀法違反,強盗殺人,死体遺棄事件であるが,暴力団の組織の内部の紛争であり,被告人らがあらかじめ殺害後の死体遺棄場所を準備し,けん銃3丁及 。 Aの刑を量定するに当たり特に斟酌すべき事情本件は,銃刀法違反,強盗殺人,死体遺棄事件であるが,暴力団の組織の内部の紛争であり,被告人らがあらかじめ殺害後の死体遺棄場所を準備し,けん銃3丁及び実包18発を用いた計画的な銃器使用犯罪であり,一般市民を巻き込んだ犯行ではないものの,被殺者2名という結果を惹起している凶悪な事件である。 本件犯行において,Aの果たした役割は極めて重要であり,同人の量刑は共犯者である被告人Dと差異があってしかるべきである。すなわち,Aは,殺害の実行行為を行っていないものの,終始犯行を差配し,財物強取を実行した首謀者である。 Aらは,凶行の19日前である平成15年11月5日夜から翌6日未明にかけ,山中に1時間半から2時間ほどかけて深さ1メ-トルくらい,幅1メ-トルくらい,長さ1.2メ-トルくらいの穴を掘り,あらかじめ殺害後の死体遺棄場所を準備したうえで実行に及んでおり,用意周到な計画的な犯行である。その動機は,Aの交際女性をめぐっての被害者B(当時26歳)に対する自己の独善的怨恨にあり,同人の殺害は短絡的であって宥恕すべき事情はない。被害者C(当時24歳)は当初から計画されていない被殺者であり,無関係者を口封じのため巻き添えにしたものであってこれも弁解の余地はない。また,Aは,自ら殺害を実行する準備をしていながら,犯行の直前になって突然Dに殺害を命じて実行させ,犯行後も血痕や遺留指紋の拭き取り等の罪証隠滅を共犯者に任せ,自らは前記交際女性と遊興に耽っていた。これら凶悪,計画,狡猾性などが同人の悪性の徴表であることはいうまでも- 10 -ない。加えて,暴力団組織の構成員相互間の犯行が減刑の理由とはならず,むしろ犯行場所であるB班事務所は住宅街にあり,付近住民に与えた衝撃は甚大であったといえる。遺族の被害感情も までも- 10 -ない。加えて,暴力団組織の構成員相互間の犯行が減刑の理由とはならず,むしろ犯行場所であるB班事務所は住宅街にあり,付近住民に与えた衝撃は甚大であったといえる。遺族の被害感情も峻烈であるにもかかわらず,現在に至るも被害者らに対して何らの慰謝の措置も講じられていない。なお,Aには,捜査,公判を通じて反省悔悟の情が微塵も見られず,そのうえ自ら有期懲役刑が相当であるとして上告に及んでいる。 これらの事情を斟酌すれば,現段階においてAには同情すべき何らの事情も見出すことはできず,また,同人に有期懲役刑を適用すべき余地はない。 死刑の選択私は,死刑制度の存続あるいは廃止について特段の見解を持つ者,あるいは死刑停止の国連決議等に目をつむる者でもなく,憲法及び法律に拘束され,良心に従い独立して職権を行使するため,事件記録を精査し,審議を尽くし,英知を結集して適正かつ公平に職務を遂行している裁判官である。特に,死刑事件の刑の量定については,細心の注意を払って被告人に斟酌すべきなんらかの事情がないかを詮索するように心掛けている。 現在,死刑の選択は,その選択の判断上重要な量刑要素と判断方法の一般的基準を判示した永山判決(昭和58年7月8日第二小法廷)をよすがとして,多くの先輩や現役裁判官が判決の集積と敷衍により最高裁判所判決の明確化を図り,死刑適用に関する客観的な一般的基準が判例上定着化しつつあるところである。これらの量刑要素と判断方法もあくまでも一般的基準であって,絶対的要件ではないが,法律の解釈のみならず,刑の量定等に関する判例の統一を図ることも最高裁判所の責務であり,また,裁判員制度の実施を目前にして死刑と無期懲役との量刑基準を可- 11 -能な限り明確にする必要もある。 これらの状況を踏まえて,Aについて酌量すべき事情を を図ることも最高裁判所の責務であり,また,裁判員制度の実施を目前にして死刑と無期懲役との量刑基準を可- 11 -能な限り明確にする必要もある。 これらの状況を踏まえて,Aについて酌量すべき事情を詳細に検討してみても,前述のとおりAの罪責は極めて重大であって,特に酌量すべき事情が見出せない限り,死刑の選択をするほかないと断ぜざるを得ない。 したがって,私は,原判決の刑の量定並びにこれを是認する多数意見には,私が裁判官として関与した死刑事件の刑の量定との比較において著しく公平・均衡を失するものであるから,到底同調することができない。 結語以上のとおり,原判決の刑の量定は甚だ不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するので,原判決のうちAに対する部分について検察官の上告を容れて破棄するとともにAの上告を棄却し,被告人Dについて検察官の上告を棄却したうえ,Aについて死刑を回避するに足りる特に酌量すべき事情があるか否かにつき更に審理を尽くさせるため,事件を原裁判所に差し戻すべきであるとの結論を導くものである。 (裁判長裁判官涌井紀夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官才口千晴)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る