令和5(わ)113 詐欺、窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月4日 長崎地方裁判所
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判決文本文25,453 文字)

令和5年(わ)第113号詐欺、窃盗被告事件判決 主文 被告人を懲役6月に処する。 本件公訴事実中、詐欺(第1)及び窃盗(第3)の点については、被告人は 無罪。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年4月4日午後7時頃、長崎県西海市a 町b 番地所在のA店において、同所に設置されている現金自動預払機にB名義のクレジットカード1枚を 挿入して同機を作動させ、同機から株式会社C銀行D管理の現金20万円を引き出してこれを窃取したものである。 (事実認定の補足説明及び一部無罪の理由)第1 本件公訴事実について本件公訴事実は、以下のとおりである。 「被告人は、第1 出会い系アプリで知り合ったBから自己が利用する目的で同人名義のクレジットカードをだまし取ろうと考え、令和3年4月4日、長崎県内を走行中の自動車内において、同人に対し、真実はライブ配信アプリ「E」にクレジットカードを登録してもその利用料金が無料になることがないのに、あたかも無料 にすることができるかのように装い、かつ、自己が利用する目的を秘し、「Eに課金して俺を応援してほしい。俺はEの社長と知り合いで、課金がタダになる方法を知っている。クレジットカードを登録すれば、課金がタダになる。登録は俺がやってあげるから、クレジットカードを俺に渡して。」などと嘘を言い、前記Bをして、被告人にクレジットカードを渡せば被告人が前記利用料金 を無料にするための登録手続を行う旨誤信させ、よって、同日午後6時44分 頃、同県西海市a 町b 番地A店駐車場に駐車中の前記自動車内において、前記Bから同人名義のクレジットカード1枚の交付を受け、もって人を 登録手続を行う旨誤信させ、よって、同日午後6時44分 頃、同県西海市a 町b 番地A店駐車場に駐車中の前記自動車内において、前記Bから同人名義のクレジットカード1枚の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ第2 令和3年4月4日午後7時頃、前記A店において、同所に設置されている現金自動預払機に不正に入手した前記クレジットカードを挿入して同機を作動 させ、同機から株式会社C銀行D管理に係る現金20万円を引き出してこれを窃取し、第3 別表記載のとおり、令和3年4月18日午後7時19分頃から同月27日午後5時9分頃までの間、9回にわたり、長崎市c 町d 番地F店ほか3か所において、同所に設置されている現金自動預払機に不正に入手した前記B名義の キャッシュカードを挿入して同機を作動させ、同機から株式会社C銀行Dほか1名管理に係る現金合計136万3000円を引き出してこれを窃取したものである。」というのである。 第2 本件の争点 1 本件の争点は、次のとおりである。 ⑴ 詐欺(公訴事実第1)の成否(争点1)被告人が、Bに対し、公訴事実第1のとおり、クレジットカードを登録すればライブ配信アプリの課金が無料になるなどと嘘(以下「本件欺罔文言」という。)を言い、Bが、その旨誤信して公訴事実第1のB名義のクレジッ トカード(Gカード)(以下「本件クレジットカード」という。)を交付したか否か。 ⑵ 窃盗(公訴事実第2及び同第3)の成否(争点2)ア Bは、被告人が本件クレジットカードや公訴事実第3のB名義の株式会社H銀行(以下「H銀行」という。)の通常貯金口座のキャッシュカード (以下「本件キャッシュカード」という。)を利用して公訴事実第2及び 同第3の現金の各引出しをすること 名義の株式会社H銀行(以下「H銀行」という。)の通常貯金口座のキャッシュカード (以下「本件キャッシュカード」という。)を利用して公訴事実第2及び 同第3の現金の各引出しをすることを承諾していたか否か(争点2-1)イ Bが上記承諾をしていたとして、公訴事実第2及び同第3の本件クレジットカード及び本件キャッシュカードを使用した現金自動預払機(以下「ATM機」という。)からの現金の各引出しについて、ATM管理者である金融機関(株式会社C銀行(以下「C銀行」という。)又はH銀行)を被 害者とする窃盗罪が成立するか否か(争点2-2) 2 以上について、Bは、被告人から本件欺罔文言を言われて騙されて本件クレジットカードを被告人に交付した旨証言する(争点1)。また、Bは、被告人が本件クレジットカードを利用してキャッシングをするとは認識しておらず、承諾もしていなかった旨証言し、その後、3回にわたり、本件キャッシュカー ドを被告人に交付した理由についても、後述するように、それぞれ被告人から嘘を言われて交付したのであって、被告人が同カードを利用して、ATM機で、H銀行のB名義の口座から貯金を引き出すとは認識しておらず、承諾もしていない旨証言する(争点2―1)。 これに対し、被告人は、Bに対し、「E」に課金して応援してほしいのでク レジットカードを貸して欲しい、支払は月々自分がするから実質無料である旨を述べたのであって本件欺罔文言は言っていないし(争点1)、本件キャッシュカードも月々返済するから使わせてほしいと言って借りたものであり、被告人が公訴事実第2及び同第3の現金の各引出しをすることをBは承諾していたし、少なくとも、被告人としては、Bが承諾していると認識していた旨を供述 する(争点2)。 以上のようにB であり、被告人が公訴事実第2及び同第3の現金の各引出しをすることをBは承諾していたし、少なくとも、被告人としては、Bが承諾していると認識していた旨を供述 する(争点2)。 以上のようにBと被告人の供述は対立している。本件クレジットカード及び本件キャッシュカードの交付やそれに関するやり取りは、専らBと被告人との間でなされており、そのような証拠構造に照らせば、本件各公訴事実の立証の可否はB証言の信用性に委ねられているといえる。 そこで、以下では、B証言とBのスマートフォンに保存されていた被告人と Bとの間のIのトーク履歴を撮影した写真撮影報告書等の客観的な証拠との間の整合性のほか、その証言内容の合理性等を中心として、被告人の公判供述の内容も踏まえて、B証言の信用性を検討した。 その上で、当裁判所としては、被告人の公判供述にも信用性に乏しい部分があるものの、それでもなおB証言の信用性には疑問が残ることから、被告人が 本件欺罔文言を言った事実や、被告人がBの承諾なしに本件クレジットカードや本件キャッシュカードを利用した事実はいずれも認定できないと判断し、その判断を前提として、公訴事実第1及び同第3については無罪とし、同第2については窃盗罪の成立を認めて有罪とした。以下、その理由を詳述する。 第3 本件の概要 関係各証拠により認定することができ、かつ、当事者間におおむね争いのない事実として、以下の事実が認められる。 1 被告人とBは、令和3年1月頃(なお、以下の記述では、年は特に表記しない限り、全て「令和3年」を指すものとする。)、SNS等を通じて交際相手との出会いの場を提供する、いわゆる「出会い系アプリ」を通じて知り合った。 以後、双方いずれからも正式に交際を申し込んではおらず、交際関係には 年」を指すものとする。)、SNS等を通じて交際相手との出会いの場を提供する、いわゆる「出会い系アプリ」を通じて知り合った。 以後、双方いずれからも正式に交際を申し込んではおらず、交際関係には至っていなかったものの、Iを通じて頻繁に連絡を取り合いながら、ドライブをしたり、飲食等を共にしたりして親しく交遊する間柄となった。被告人は、Bに対し、自分がEの動画の配信者(以下「ライバー」という。)として活躍していることや、短期間に相当額の収入を得たことがあったことなどを披歴するな どし、Bは、被告人には相当に経済力があると認識しており、被告人に対して好意を抱き、5月上旬頃までの間、上記のような関係が続いていた。また、発言の具体的内容については、Bと被告人とでは、その内容に齟齬があるものの、両者の会話の中で、被告人がBに対し、自己がEの社長と接点(伝手)があるかのような話をしたことがあった。 2 Eとは、インターネット上でライブ配信サービスを提供する、若者を中心に 人気があるライブコミュニケーションアプリであるところ、被告人は、令和元年11月頃からライバーとして活動していた。動画の視聴者は、アプリ内で課金をして取得したコインを用いてアイテムを購入しそれを使用してエフェクトを表示させることで配信を盛り上げ、ライバーは、配信時間や盛り上りの度合い等に応じて報酬を獲得するとともに、レベルやランクを上げることができ、 それによって獲得する報酬額も上がるという仕組みになっている。 3 被告人は、4月4日、Bとドライブに行った帰りに長崎県内を走行中の自動車内において、Bに対し、クレジットカードの交付を申し入れ、A店の駐車場に駐車中の自動車内において、Bから、本件クレジットカード1枚のほか同人名義のクレジットカード2枚(Jカ 長崎県内を走行中の自動車内において、Bに対し、クレジットカードの交付を申し入れ、A店の駐車場に駐車中の自動車内において、Bから、本件クレジットカード1枚のほか同人名義のクレジットカード2枚(Jカード、Kカード)の交付を受け、各カード を利用するために必要な暗証番号も教えられた。その後、被告人は、本件クレジットカードを持って一人で入店し、同日午後7時頃、同カードを用いて店内のATM機で現金20万円を引き出した。この間、Bは、駐車中の車内で待機していた。その後、被告人は、前記自動車内に戻り、本件クレジットカードを返却し、Bに1万円を交付した。 4 Bは、4月4日夜、Gカードを含む複数のカード会社からカード利用に関し問合せが来たことから、Iで、被告人に対し、「カード利用のお知らせメールは無視してよかったですかね?御指導お願いします!」「めっちゃメールきます。Kのカードはクレジット0円って書いてたけど一応電話して聞いたがいいんですか?」「電話しなくても大丈夫ですか?」「Jのカード電話したらIし ます!」等と送信し、各カード会社からクレジットカードの本人利用の確認が来ていることなどを被告人に伝えた。これに対し、被告人は、Bに対し、Iを通じて、これらのカード会社からの連絡は無視するように指示するなどし、Bは、実際には自分がクレジットカードを利用していないのに利用しているとの虚偽の回答をするなどして、被告人の指示に従った対応を取った。 5 Bは、4月5日、Iで、被告人に対し、「Lからカード利用の件で電話して くださいって連絡あったんですがなんて言ったらいいですかね?」と送信し、これに対し、被告人は、Bに対し、「それは、ロックかけた!って電話だから解除してください!っていえばいい」「使用した!っていって」「それ って連絡あったんですがなんて言ったらいいですかね?」と送信し、これに対し、被告人は、Bに対し、「それは、ロックかけた!って電話だから解除してください!っていえばいい」「使用した!っていって」「それで大丈夫」と返信した。被告人のこのような回答を受けて、Bは、被告人に対し、「わかりました!かけてみてまた連絡します」「無事ロック解除してもらえました。 Jのカードはキャッシングついてないです!」等と送信し、実際には自分がクレジットカードを利用していないのに利用した旨をカード会社に回答することで、カードの利用が可能となるように対応し、そのようにしてカードの利用が可能となったことなどを被告人に伝えた。 6 Bは、4月7日、Iで、被告人に対し、「Jからもカード利用の確認が来た けど利用したって答えて大丈夫ですよね?」「10分くらいでロック解除されるらしいです!」等と送信し、カード会社からの本人利用の確認に対し、実際には自分がカードを利用していないのにカード会社に自分が利用した旨虚偽の回答をすることでカードの利用が可能になるよう対応したことや、その結果カードの利用が可能になったことを被告人に伝えた。これに対して、被告人は、 Bに対し、お礼のメッセージ等を送信し、Bは、「そちらこそ優しですね」等と返信して、被告人と友好的にメッセージのやり取りをした。また、Bは、翌8日、被告人に対し、「限度額いっぱいって言われたけどどうしたらいいですか?」「早く払うか限度額あげる審査してくださいって言われました」「なんか怖いんですけど大丈夫ですか?」等と送信し、カードの利用限度額を引き上 げることなどに対する不安を示すメッセージを送信したが、被告人は、確認だから心配しなくて大丈夫である旨のメッセージを返信した。Bは、「Kのはそのまましてていいの 、カードの利用限度額を引き上 げることなどに対する不安を示すメッセージを送信したが、被告人は、確認だから心配しなくて大丈夫である旨のメッセージを返信した。Bは、「Kのはそのまましてていいの?」と返信し、被告人がそれでよい旨答えると、それを了解して、その点についての話題を終えており、被告人に対し、更なる不安や苦情を言ったり、詳しい説明を求めたりすることはなかった。 7 被告人は、4月18日、長崎県内を走行中の自動車の車内において、Bに対 し、本件キャッシュカードの交付を依頼した。Bは、被告人の依頼に応じて、同日午後7時過ぎ頃、F店の駐車場に駐車中の自動車内において、被告人に対し、本件キャッシュカードを交付するとともに、同カードを利用するために必要な暗証番号を教えた(1回目の交付)。被告人は、本件キャッシュカードを持って一人で入店し、同日午後7時19分頃から午後7時21分頃の間に、同 カードを用いて店内のATM機で3回にわたり現金合計50万円を引き出した。この間、Bは、駐車中の車内で待機していた。その後、被告人は、本件キャッシュカードをBに返還した。 8 被告人は、4月23日、Bに対し、M店の駐車場に駐車中の自動車内において、再び本件キャッシュカードの交付(2回目の交付)を依頼し、Bは、被告 人の依頼に応じて、被告人に同カードを交付した。被告人は、本件キャッシュカードを持って一人で入店し、同日午前9時50分頃から午前9時51分頃までの間に、同カードを用いて店内のATM機で2回にわたり現金合計31万円を引き出した。この間、Bは駐車中の車内で待機していた。 9 被告人は、4月24日、Bに対し、長崎市内のN駐車場内に駐車中の自動車 内において、Oとの間でキャッシング契約を締結することを依頼し、Bは、被 。この間、Bは駐車中の車内で待機していた。 9 被告人は、4月24日、Bに対し、長崎市内のN駐車場内に駐車中の自動車 内において、Oとの間でキャッシング契約を締結することを依頼し、Bは、被告人の依頼に応じて、Oのカードを作るべく、登録手続を行うことにし、車内及び自宅において、登録手続を行い、同日中に同手続を完了させた。 被告人は、4月25日午前、Iで、Bから、Oに免許証を提出したところ契約を促すメールを受信したとの報告を受け、契約してネットで現金を引き出せ るようにするよう指示をした。これに対し、Bは、被告人に対し、「限度額50万ってなってますやってみます!」「ローン限度額が50万クレジット100万です」「利用目的適当にしていいですか?」「どうやってネットでおろせるようにできますか?」等と質問し、被告人は、Oのアプリがあるのでそれでできるとか、分からなければ電話して聞くようにと指示し、Bはそれを了承し た。しばらくして、Bは、「契約しました!ネットでおろすのがわかりません。」 「アプリログインできました!」「どうやっておろすの?」等と送信して、Oと契約を締結した旨やインターネットで現金を引き出す方法が分からないので教えてほしい旨を被告人に伝えた。被告人は、Bに対し、「借りる!ってやつあるから」「それおして」「口座登録すればいい」「そしたら、いくらか設定できるから50万にしたら口座に振り込まれる」等と返信し、50万円の借入 手続を指示し、その後、Bは、手続が終わったことを被告人に伝えるとともに、被告人と待ち合わせて会う約束をしたが、Oと契約すること自体に関して、被告人に苦情を言ったり、詳しい理由を尋ねたりすることはなかった。 11 Bは、4月25日、上記やり取りの後、被告人と会い、被告人からの依頼に 合わせて会う約束をしたが、Oと契約すること自体に関して、被告人に苦情を言ったり、詳しい理由を尋ねたりすることはなかった。 11 Bは、4月25日、上記やり取りの後、被告人と会い、被告人からの依頼により、P店の駐車場に駐車中の自動車内において、被告人に本件キャッシュカ ードを交付(3回目の交付)し、翌26日まで被告人が同カードを預かることを承諾した。Bは、このことにも特に異論は述べなかった。被告人は、同日午後0時25分頃から午後0時27分頃までの間に、本件キャッシュカードを用いて、Q店内のATM機において、3回にわたり現金合計50万円を引き出した。 12 Bは、4月26日、被告人から、Iで、「今日さ、6時から仕事になったんだけど、カード明日でも大丈夫?」と聞かれて、「そうなんですね!わかりました。明日で大丈夫です!」と返信し、翌27日まで本件キャッシュカードを預けることを了承した。その際も、Bは、本件キャッシュカードの返却が遅れることについて何ら苦情を言うなどせずに、被告人の要望に応じた。 被告人は、4月27日午後5時9分頃、本件キャッシュカードを用いて、R店内のATM機で現金5万3000円を引き出した。 その後、被告人は、同日中に本件キャッシュカードをBに返却した。 13 Bは、4月27日、Iで、被告人に対し、Oから給料の明細を提出するよう指示されたが、面倒くさいので嫌である旨を告げて断ったことを報告した。 Bは、5月2日、被告人に対し、Oからカードが送付されてきたことを報告 し、被告人と会って、同カードを交付した。また、Bは、同日、Iで、被告人に対し、Oから本人利用の確認の電話があったことを伝え、被告人は、お礼のメッセージを送信した。 Bは、被告人に対し、Oから本人利用の確認の電話があった ードを交付した。また、Bは、同日、Iで、被告人に対し、Oから本人利用の確認の電話があったことを伝え、被告人は、お礼のメッセージを送信した。 Bは、被告人に対し、Oから本人利用の確認の電話があった理由等について、特に確認をすることはなかったし、Oのカードの返却を求めることもなかった。 結局、被告人からBに対し、Oのカードは返却されていない。 14 被告人は、5月3日、別件被疑事件で逮捕されたが、翌4日、釈放された。 被告人は、同月17日、別件被疑事件で再び逮捕され、6月7日には本件で逮捕されるなど、その後も一時期身柄を拘束されていた。 Bは、5月3日に被告人とIでやり取りをしたが、それ以降連絡がとれず、 同月6日、被告人に対し、Iで、入金がないがどのようにすればよいか対応を尋ねるとともに、明日の午前中に入金がなかった場合には警察に相談に行くことにする旨のメッセージを送信したが、被告人から応答はなかった。 Bは、5月6日、両親に対し、同月の連休の後、友達にお金とカードを貸したら金銭トラブルになったなどと相談し、父親に依頼してその返済資金として 427万円を借りた。Bは、翌7日、S警察署に匿名で電話をして、4月に男性の友人から金銭面の相談を受け、クレジットカードとキャッシュカードを貸したが、支払期日前に口座に現金を振り込む約束にしていたのに一向に返済してくれない旨の相談をしたが、被告人から本件欺罔文言を言われたことや、クレジットカードでEに使用した分が入金されるはずであったことなどについて は全く説明しなかった。また、Bは、弁護士にも、友人にカードを渡したところ使われてしまったとの内容の相談をしたが、被告人の氏名等の情報については告げず、対応した弁護士からは、自分から相手にカードを渡しているのであれば、相手の Bは、弁護士にも、友人にカードを渡したところ使われてしまったとの内容の相談をしたが、被告人の氏名等の情報については告げず、対応した弁護士からは、自分から相手にカードを渡しているのであれば、相手のことを詐欺で立件するのは難しい旨言われた。 16 その後、Bは、5月中旬頃、T警察署から、被告人を別件詐欺事件で逮捕し たが、詐欺被害に遭っていないかと尋ねられ、被告人の氏名やEのアカウント 名を申告して詐欺の被害届を提出した。被告人は、令和4年1月、本件について不起訴処分となり、その後、Bは、検察審査会への申立てを行い、同年7月、起訴相当の議決がされ、再起立件されたが、同年11月、再び不起訴処分となり、検察審査会で再審査が行われ、令和5年3月9日、再び起訴相当の議決がされた。指定弁護士は、同年8月1日、本件につき公訴を提起した。 第4 詐欺(公訴事実1)の成否(争点1) 1 前記認定事実によれば、被告人とBは、いわゆる「出会い系アプリ」を通じて知り合い、Iを通じてやり取りをする中で親密に交遊し飲食を共にしていたこと、Bにおいて、被告人はライバーとして活躍し経済力があると認識していたことが認められるから、Bは被告人に対し異性として関心を持ち、将来的に は交際関係になることを期待しつつ、良好な関係を維持したいと考えていたと認めるのが自然である。この点については、Bも被告人に好意を抱いていた旨を述べている。被告人もBがそのような感情を抱いていることを認識していたはずである。このように、被告人がBを騙してクレジットカードやキャッシュカードの交付を受けることを可能にするような関係性が両者の間にはあったと いえる。また、本件クレジットカードを含むB名義のクレジットカード3枚の利用履歴をまとめた捜査報告書によれば、4 ッシュカードの交付を受けることを可能にするような関係性が両者の間にはあったと いえる。また、本件クレジットカードを含むB名義のクレジットカード3枚の利用履歴をまとめた捜査報告書によれば、4月4日から5月2日までの間、被告人が、これらのカードを利用して、60回にわたり、合計324万円余りをEに課金していることが認められるところ、通常このように頻繁に多数回にわたり、自己名義のクレジットカードを第三者に利用させるということは考え難 いともいえる。そして、被告人は、これらのカードの利用分をBに対して全く支払っておらず、これらのカードを利用したことによるBのカード会社に対する負債は全てB側が負担していることからすれば、被告人には当初からこれらのカードの利用分をBに返済する意図がなかったのではないかとも思われる。 以上のような事情を踏まえると、被告人は、前記のように、Bと親密な関係と なり、Bが、被告人に好意を持ち、経済力もあることから、クレジットカード を一時的に利用させても、返済する意思も能力もあると信じていることを利用し、さらに、BがEの仕組みを詳しく知らないことに付け込んで、課金が無料になるなどと本件欺罔文言を言って、Bから本件クレジットカード等の交付を受け、これらをだまし取った可能性は十分にあるようにも考えられる。また、Iのトーク履歴に関する前記写真撮影報告書によれば、被告人がBに対し、4 月18日に領収書を忘れず持参するように告げるメッセージを送信していることが認められるところ、これは、被告人から領収書を集めてくれれば、手数料を渡す旨を言われたというB証言と親和する内容である一方、被告人の供述にはそぐわないようにも思われる。その他のIでのやり取りから認められるBの行動についても、Bが被告人を盲目的に信 くれれば、手数料を渡す旨を言われたというB証言と親和する内容である一方、被告人の供述にはそぐわないようにも思われる。その他のIでのやり取りから認められるBの行動についても、Bが被告人を盲目的に信頼して、被告人が説明するままに行 動していたことを前提とすれば、そのような状況に陥っていた者の行動としてBのとった行動が不自然であるとまではいえないようにも思われる。 しかしながら、先に見たような被告人とBとの関係性等に照らせば、Bは、被告人に好意を抱いていたため被告人からEでライブ配信を行うライバーをしていることなどを告げられ、自分に課金して応援してほしいと依頼を受けて、 被告人との関係性を悪くしたくないとの思い、あるいは被告人を応援したいとの気持ちから、両者の間で月々支払うつもりであるといった程度の話はあったかもしれないが、特にそれ以上明確に返済期限や返済方法を定めることなく、最終的に被告人から返済を受けることができればそれで構わないと考えて、本件クレジットカードを交付し利用させていた可能性があることもまた一概には 否定できないところである。確かに、通常であれば、このような行為に及ばないであろうといえなくはないものの、後述するとおり、被告人との間での本件クレジットカードや本件キャッシュカードに関する一連の経過におけるBの行動には客観的に見て合理性や一貫性を欠く部分が数多く見られ、Bが被告人に対し信頼を置きすぎていた余り、冷静さを欠いた状態で、上記のように考えて、 本件クレジットカードや本件キャッシュカードの利用を承諾していた可能性も あり得ないことではないように思われる。実際そのような事象は世上においても稀有なことであるとはいえない。 ところで、Bは、被告人が、「クレジットカードを登録すれば、課金がタダ た可能性も あり得ないことではないように思われる。実際そのような事象は世上においても稀有なことであるとはいえない。 ところで、Bは、被告人が、「クレジットカードを登録すれば、課金がタダになる」等と言った旨証言しており、公訴事実第1の本件欺罔文言もそれに即して構成されている。これは、文字どおり理解すれば、被告人が、Bに対し、 自身がEの社長と懇意であるといった縁故を利用して、一部の者しか知らない裏技的な課金の方法があることを持ち掛け、Bに経済的な負担のかからない方法で自己を応援してほしいと依頼したものと理解できる。しかし、ここでいう「課金がタダ」という意味一つを取ってみても、登録すれば、即時に無料で課金できることになるとの趣旨であるのか、最終的にBに金銭的な負担を掛けな いとの趣旨にすぎないのか、それ以外の趣旨があるのか、一義的に明らかではなく、その会話の正確な内容や全体の文脈を踏まえなければ、その意味内容は確定できないようにも思われる。Bが、被告人に本件クレジットカードを交付する原因となった言葉が本件欺罔文言のとおりであったことが合理的な疑いを容れない程度に証明されたといえるには、その言葉の文言や意味内容が正確に 認定できなければならず、仮に、Bがそのような趣旨の言葉を被告人から言われたといった程度の曖昧な記憶等に基づいて証言しているとすれば、そのような証言によって、被告人が本件欺罔文言を言ったことを認定することはできない。 したがって、本件欺罔文言等を含む被告人の言動に関するB証言の信用性は 十分吟味する必要があり、その知覚、記憶、表現、叙述の過程の正確性は慎重に判断しなくてはならない(この点につき、付言するに、被告人は、本件と近接する時期に行った詐欺、窃盗により有罪判決を受け受刑中であり、その る必要があり、その知覚、記憶、表現、叙述の過程の正確性は慎重に判断しなくてはならない(この点につき、付言するに、被告人は、本件と近接する時期に行った詐欺、窃盗により有罪判決を受け受刑中であり、その中には婚活アプリで知り合った女性に対する本件と類似の詐欺、窃盗も含まれていることから、本件についても同様に詐欺等に及んだことが推認できると考える 向きもあるのかもしれない。しかし、クレジットカード等を交付した経緯や理 由はそれぞれ事案ごとに異なり、その認定は被害者とされる者の供述の信用性に大きく依拠するのであって、本件においては、Bの証言の信用性がその立証の根幹をなしているといえる。したがって、B証言の信用性が重要であり、同証言が信用できない場合に、被告人が本件と近接する時期に類似の詐欺等に及んでいた事実から、本件クレジットカード等の利用に関するBの承諾がなかっ たことなどを認定することはできない。)。 2 そこで、以上の点を踏まえた上で、被告人が本件欺罔文言を言った旨のB証言が、一連の経過に照らして合理的であるかを検討する。 Bは、4月4日、被告人の依頼に基づき、被告人に対し、本件クレジットカードを交付しているところ、同日夜に複数のカード会社からカード利用のお知 らせメールが届いたことから、被告人に対しそれらを無視してよいかを確認するなどしている。Bは、これらが被告人に対して本件クレジットカード等を交付したことに起因するものであることを当然認識していたといえるし、カード会社から送られてきた上記メールの内容から合理的に判断して、その時点で被告人が同カード等を利用してキャッシング等をしていることは認識していたと 認められる。 この点について、Bは、この時点ではメールの内容を詳しく確認していなかったかのような して、その時点で被告人が同カード等を利用してキャッシング等をしていることは認識していたと 認められる。 この点について、Bは、この時点ではメールの内容を詳しく確認していなかったかのような曖昧な証言をしているが、被告人に対し、「カード利用のお知らせメールは無視してよかったですかね?」等と送信していることからすると、詳細はともかく、被告人が本件クレジットカード等を利用しキャッシング等を していることは理解していたといえる。 そして、Bによれば、被告人は、Eへの課金をタダにするためにはクレジットカードを登録する必要があるので貸して欲しい旨言って、本件クレジットカードの交付を受けたというところ、被告人が同カードを利用してキャッシング等をするというのは、被告人がBに言ったとされる本件欺罔文言の内容とは全 く異なっており、およそ理解しがたい、想定外の事態といえる。したがって、 Bの立場にある者であれば、そのことについて被告人に苦情を言ったり、詳しい説明を求めたりするのが通常であるといえる。それにもかかわらず、Bは、そのような対応はとっておらず、むしろ、自ら進んでカード会社から本人利用の確認があったことを被告人に報告し、被告人に指示を仰いだ上ではあるが、実際には自己がクレジットカードを利用してはいないのに利用したという虚偽 の回答をしている(なお、Bは、4月18日、Eの支払についてカード会社から問合せが数多くきていることに対する対応を被告人に尋ねてはいるが、被告人からは、カードの引落日までに現金が振り込まれるようにカード会社の上の人に言っておく旨説明されて、カードの支払を自分で負担することはないと思って安心したと証言している。しかし、本件欺罔文言のような説明を受けてい たのであれば、キャッシング等をしてい 会社の上の人に言っておく旨説明されて、カードの支払を自分で負担することはないと思って安心したと証言している。しかし、本件欺罔文言のような説明を受けてい たのであれば、キャッシング等をしていること自体が当初の説明とは大きく異なるのであり、そのような説明で納得したというのは不合理といえる。)。 さらに、Bは、それにとどまらず、同月5日、カード会社から連絡があり、被告人からロックを解除するよう指示されるなどすると、そのことに対しても、特に疑問を呈したり、説明を求めたりすることもなく、カード会社に対し、自 分が利用した旨を即座に回答し、ロックを解除してもらい、カード利用が可能になるように対応するなどしている。また、同月7日には、Bの方から被告人に対し、Jからもカード利用の確認があったが、自分が利用したと回答して大丈夫かなどといったことを確認した上、自分が利用したとの虚偽の回答をし、その結果、前同様にカード利用が可能になるように対応するなどしている。 このようなカード会社からの利用確認は、クレジットカードが利用されていることを前提に、その利用が不正利用でなく、本人の意思に基づくものであることを確認する趣旨でなされていることは常識的に理解できるはずであり、Bの職業や社会経験の長さ(高校卒業後税理士事務所で勤務している。)等に照らしても、当然にそのようなことは理解していたと認められる。 以上のような一連のBの言動に見られるように、Bは、被告人が本件クレジ ットカード等を利用してキャッシング等をしているであろうことを認識しながら、被告人に対して、特に苦情を言ったり、詳しい説明を求めたりするなどせず、放置していたことになる。このようなBの対応状況は、被告人から本件欺罔文言を言われた旨のB証言とは大きく齟齬する一 識しながら、被告人に対して、特に苦情を言ったり、詳しい説明を求めたりするなどせず、放置していたことになる。このようなBの対応状況は、被告人から本件欺罔文言を言われた旨のB証言とは大きく齟齬する一方、Bが、被告人が本件クレジットカードを利用してキャッシング等をすることを容認していたのではな いかとの疑問を生じさせる事情である。 また、Bは、4月18日、同月23日、同月25日と3回にわたり、被告人に対し、本件キャッシュカードを交付し、被告人は、公訴事実第3のとおり、貯金を引き出しているが、Bは、被告人に対し、苦情を言ったり、詳しい説明を求めたりはしていない。また、Bは、自ら手続をして、Oから50万円をキ ャッシングするなどしている。後述するように、これらの一連の経過に現れたBの行動は、Bが被告人による本件キャッシュカードの利用を承諾していたのではないかとの疑問を抱かせる事情であるところ、このような事情は、それに先立つ本件クレジットカードの交付に関しても、Bが、被告人が同カードを利用することを認識した上で、その利用を承諾して交付したことと整合する事情 であり、上記の疑問を強めるということができる。 3 以上のとおり、Bは、被告人から本件欺罔文言を言われた旨を証言しているものの、4月4日以降のBの対応状況は、その内容とは整合しない点が散見される。このような事情に照らせば、Bが、被告人の本件クレジットカードを利用したキャッシングについて容認していたのではないかとの疑いを払拭するこ とができない。 したがって、被告人から本件欺罔文言を言われて本件クレジットカードを交付した旨を述べるB証言の信用性には疑問が生じる。 4 また、Bは、前記のとおり、当初両親や警察に対し、友人に金銭やカードを貸していたなどと説明しており、本 罔文言を言われて本件クレジットカードを交付した旨を述べるB証言の信用性には疑問が生じる。 4 また、Bは、前記のとおり、当初両親や警察に対し、友人に金銭やカードを貸していたなどと説明しており、本件欺罔文言を言われたとは説明していない。 また、Bの実母の検察官調書によれば、Bは、両親に対して、「家を買うのに 頭金が足りないと言われた」とも発言していたことが認められる。Bは、その後、弁護士にも相談しているが、これらいずれの相談においても、被告人の名前等の情報を告げることはなかった。仮に被告人から本件欺罔文言を言われて本件クレジットカード等を交付したのであれば、種々の感情(被告人のことを信じる気持ち、あるいは、自分が被告人に騙されたと思いたくないとの気持ち や詐欺の被害に遭ったことを恥ずかしく思う気持ちなど)があったとしても、被告人と全く連絡が取れない状況に陥ったのであるから、本件欺罔文言を言われたことを含めて、事の経緯を嘘偽りなく、ありのまま伝えるのが通常であるといえる。しかし、Bは、友人にカードを貸したなどと法廷での証言とは異なる内容を各相談時には告げている。これは被告人から本件欺罔文言を言われた こととは整合しない対応である。そして、そのような説明をした理由に関する公判廷におけるBの説明も、その時は上手く説明することができなかったなどといった曖昧なものに終始しているのであって十分に納得のいくものとはなっていない。 5 加えて、Bは、警察から被告人が別件詐欺事件で逮捕されておりBも被害者 ではないかと言われて初めて被害届を提出している。そして、当初は、前記のような説明をしていたにもかかわらず、その後、被告人から本件欺罔文言を言われて本件クレジットカード等を騙し取られたと申告している。このように欺罔文 初めて被害届を提出している。そして、当初は、前記のような説明をしていたにもかかわらず、その後、被告人から本件欺罔文言を言われて本件クレジットカード等を騙し取られたと申告している。このように欺罔文言やカード交付の趣旨といった詐欺罪の成否に関する核心部分に関して一貫性の乏しい供述をしていることは、証言の信用性を判断する上で無視するこ とのできない事情である。また、Bは、先に述べたように、被告人から本件欺罔文言を言われて本件クレジットカードを交付したこととは整合せず明らかに不自然というほかない、被告人からの指示や依頼に対して、特に苦情を言うことも、説明を求めることもせずに、本件キャッシュカードの交付にも繰り返し応じているが、その理由についても、公判廷において、合理的で納得できる十 分な説明をできていない。 6 以上のようにB証言には、種々の疑問点があるが、他方で、被告人の供述が全面的に信用できるわけでもない。例えば、被告人が供述する当時の被告人の収入等の経済状況や生活状況は、実際のものとは齟齬する事実も含まれているし、Eへの課金の状況についても、課金記録から認められる課金状況と齟齬が見られる。しかし、これらの事実は、被告人がBから本件クレジットカード等 を騙し取ったことを推認させる方向に働く事情であるとはいえるものの、このような事情のみから被告人がBに対し本件欺罔文言を言ったとまで認められるものではない。また、被告人は、ライバーとして高収入を得る見込みがあり、Bから借りた金を返せる見通しがあったものの、別件詐欺事件で逮捕されたことで返済ができない状態になったとも供述するが、客観的に判断して、被告人 が供述するような高収入が得られたかは疑問である。しかしながら、少なくとも、被告人としては、主観的にはそれが 捕されたことで返済ができない状態になったとも供述するが、客観的に判断して、被告人 が供述するような高収入が得られたかは疑問である。しかしながら、少なくとも、被告人としては、主観的にはそれが可能であると考えていたとすれば、Bに収入が増加するかのように思わせる言動をとった可能性はあるし、Bも、Eの仕組みに精通していなかったことから、被告人を信頼して、被告人が本件クレジットカードや本件キャッシュカードを利用することを認識した上でその利 用を承諾したということも考えられないことではない。もっとも、この場合、被告人の言動には自己の支払能力を偽るような嘘が含まれていた可能性は否定できないが、やはり、そのことのみをもって本件欺罔文言を言ったとまで認定できるものではない。 したがって、被告人の供述にも信用性に乏しい部分が存在し、全面的に信用 することができないものの、そのことを踏まえても、B証言の信用性にはなお払拭し難い疑問があると言わざるを得ない。 7 以上によれば、被告人がBに対し4月4日に本件欺罔文言を言って、Bを騙して本件クレジットカードの交付を受けたと認定することについては合理的な疑いを差し挟む余地がある。 したがって、公訴事実第1の詐欺罪の成立を認めることはできない。 第5 窃盗(公訴事実第2及び同第3)の成否(争点2―1) 1 前記のとおり、4月4日に被告人がBに対し本件欺罔文言を言って、Bを騙して本件クレジットカードの交付を受けたと認定することはできず、Bが被告人による同カードの利用を容認していた可能性は否定できない。そうすると、被告人が本件クレジットカードを利用してキャッシングをして公訴事実第2の 現金の引出しをすることについて、Bの承諾がなかったと認定することについては合理的な疑い 能性は否定できない。そうすると、被告人が本件クレジットカードを利用してキャッシングをして公訴事実第2の 現金の引出しをすることについて、Bの承諾がなかったと認定することについては合理的な疑いを容れる余地がある。 2 次に、公訴事実第3について検討する。Bは、前記のとおり、被告人に対し、4月18日と同月23日の2回にわたり、本件キャッシュカードを交付し、被告人は、これを利用して、各日に50万円と31万円を引き出していること、 Bは、同月24日、Oの登録手続を行い、翌25日、借入金50万円の入金先口座のキャッシュカードである本件キャッシュカードを被告人に交付し、被告人は、同月26日に合計50万円、翌27日に5万3000円を引き出していることが認められる。このような一連の被告人の行為が、4月4日にBが言われたという本件欺罔文言にある課金を無料にするためにクレジットカードを登 録するとの説明とは全く異なるものであることは明らかである。 この点については、確かに、先に述べたとおり、このような多額の貯金の引出し等をBが容認することは通常であれば考え難いようにも思われる。しかしながら、先に述べたとおり、Bは、被告人に好意を抱いて信頼していたことから、被告人であれば、最終的に返済してくれると思い込んでいた可能性は否定 できない。そうすると、Bにおいて、被告人が本件キャッシュカードを利用して貯金を引き出すことを包括的に容認していたということも考えられなくはない。 また、Bは、貯金の残高がほとんどなくなっているのを知ったのは4月27日であると述べているが、B名義のH銀行の口座は、日常的に使用している給 与の振込口座である。しかも、本件欺罔文言を言われたというB証言を前提と しても、Bは、その時点では、課金が無料 であると述べているが、B名義のH銀行の口座は、日常的に使用している給 与の振込口座である。しかも、本件欺罔文言を言われたというB証言を前提と しても、Bは、その時点では、課金が無料になるための登録をすると言って交付を受けた本件クレジットカード等で被告人がキャッシング等をしていることは認識していたことになるから、そのような事情があるにもかかわらず、Bが上記口座の入出金状況を全く確認していなかったというのは不自然さを否めない。仮にBが同日まで残高を確認していなかったとしても、同日に残高を確認 して異変に気付いた後も、残高がほとんどないことについて、被告人に苦情を述べず、被告人から後述するような説明を受けただけで納得し、H銀行に確認するなど、それ以上には事実関係を確認したりするなどの行動に全く出ていないことは不自然である。このような事情に照らすと、Bとしては、最終的に被告人から返済を受けることができればそれで構わないと考えて、被告人による 貯金の引出しを包括的に容認していたのではないかとの疑いを払拭することはできない。 3 この点について、Bは、本件キャッシュカードを3回にわたり被告人に交付した理由について、要旨、①4月18日に被告人に領収書を交付した際に手数料が入る口座を登録する必要があると言われて、同カードと暗証番号を教えた、 ②同月23日には被告人から手数料が振り込まれる口座の登録ができなかったから再度手続をする必要があると言われて同カードを交付し、その後、手続ができたと言われて返還された、③同月25日にはOから借り入れた50万円が振り込まれているか確認するために同カードを交付したが、入金されていなかったから預かっておくなどと言われた、等と証言する。しかし、Bが証言する 本件キャッシュカードの から借り入れた50万円が振り込まれているか確認するために同カードを交付したが、入金されていなかったから預かっておくなどと言われた、等と証言する。しかし、Bが証言する 本件キャッシュカードの交付理由は、いずれも客観的に見れば、およそ合理性を欠くことが明らかなものばかりであり、Bが被告人から実際にそのようなことを言われて、その言葉に納得して本件キャッシュカードを交付したのか疑問に思われる。もっとも、Bにすれば、完全に被告人に騙されていたため、冷静に考えれば、不合理と思われる被告人の説明を信用したのかもしれない。しか し、B証言によっても、Bは、本件キャッシュカードの交付に先んじて、課金 が無料になるように登録すると言って交付を受けた本件クレジットカード等を利用して被告人がキャッシング等をしていることを認識していたのであるから、当然のことながら被告人に対して不審を抱いて問い正したり、自ら口座登録の手続やOからの振込があるかを確認することを被告人に申入れたりするのが通常取る対応であると考えられる。それにもかかわらず、Bは一切そのよう な対応を取っておらず、この点においても、Bの行動は不自然、不可解である。 また、Bは、Oでキャッシングをした理由について、被告人からクレジットカードの支払分がOのクレジットカードに振り込まれるように手続しないといけないと言われたと証言する。しかし、その内容はにわかに理解し難いものである上、被告人とBの4月25日のIのやり取りによれば、Bが自己名義でO から50万円を借り入れることになることを認識しながら所定の手続を進めていたことは明らかであり、上記のように説明されたというB証言には疑問がある。さらに、Bは、H銀行の口座の残高が減っているのは、被告人から説明されたように、実際には とを認識しながら所定の手続を進めていたことは明らかであり、上記のように説明されたというB証言には疑問がある。さらに、Bは、H銀行の口座の残高が減っているのは、被告人から説明されたように、実際には貯金は増減していないが、バグ(プログラム上の不具合や誤りのこと。)で貯金額が増減しているにすぎないと思っていた旨も証言す るが、そのような事態は通常あり得ないことであり、にわかに信じがたいことである。そうであるにもかかわらず、Bは、H銀行に確認することも、被告人にそのような現象が生じる原因について詳しい説明を求めることもしておらず、このようなBの行動もまた不可解である。また、Bは、被告人からは、クレジットカードの引落日であるゴールデンウィーク明けまでに入金されるよう にカード会社の上の人に言っておく旨言われて納得したとも証言する。しかし、Bは、被告人からバグであって貯金が増減していないと言われて、そのように認識していたというところ、口座の残高が現実に減っていることを前提とした被告人の上記説明に納得したというBの説明には一貫性がなく、その信用性に疑問を抱かせる。 4 以上のとおりB証言は全体的に見て不自然、不合理な点が多い。その原因に ついては、前記のとおり、被告人が言った客観的には不合理な嘘をBが無批判に信用してしまった結果であるという可能性も考えられなくはない。しかし他方で、BがOでの借入やバグによる口座残高の変動等にわかに信用し難い事項について、何ら被告人に対して苦情を述べたり、詳細を確認したりしていないというのは余りに不自然である。繰り返しになるが、Bが被告人を信頼してい たことから、被告人から最終的に返済を受けることができれば構わないと考えていた可能性は否定できない。そうすると、前記のとおり、両者の 余りに不自然である。繰り返しになるが、Bが被告人を信頼してい たことから、被告人から最終的に返済を受けることができれば構わないと考えていた可能性は否定できない。そうすると、前記のとおり、両者の間で月々返済するという程度の話がなされた可能性はあるにせよ、Bが、特に明確に引出し額やその後の返済条件等を決めることなく、被告人に対し本件キャッシュカードを利用してH銀行のB名義の口座から貯金を引き出すことについて包括的 に承諾を与えて、同カードを交付していたのではないかとの疑いが残ることになる。 5 以上に照らせば、被告人による公訴事実第2及び同第3の現金の各引出しが、Bの承諾に基づくものでないと認定することについては合理的な疑いを容れる余地がある。 第6 窃盗(公訴事実第2及び同第3)の成否(争点2-2) 1 公訴事実第2の事実について以上によれば、Bが、被告人に対し、本件クレジットカードを利用してキャッシングをすることを容認していたことは否定できない。もっとも、後述するように、預貯金の引出しが金融機関に設けられた口座から残高の範囲で現金を 引き出すにとどまるのとは異なり、クレジットカードを用いたキャッシングは、会員の個人的な信用を担保として新たに金銭を貸し付けるものであり、利用者と会員との同一性は、金融機関の貸付の判断の基礎となる重要な事項であるといえ、その提携先のATM管理者にとっても、同様に現金の引出しに応じるかを判断する上で重要な事項といえる。したがって、会員本人以外の第三者がク レジットカードを利用してキャッシングの申込みを行い、カード会社の審査を 通過させて融資を実行させることで提携先の金融機関のATM機から現金を引き出す行為は窃盗罪を構成し、会員の承諾を得ていることは窃盗罪の成否を キャッシングの申込みを行い、カード会社の審査を 通過させて融資を実行させることで提携先の金融機関のATM機から現金を引き出す行為は窃盗罪を構成し、会員の承諾を得ていることは窃盗罪の成否を左右しないと解するのが相当である。この点については、ATM機を利用したものではなく、かつ、詐欺罪の成否に関するものであるが、最高裁判所平成16年2月9日第2小法廷決定・刑集58巻2号89頁が同趣旨の判断を示してい る。 弁護人は、被告人がATM機でキャッシングの手続をしていた時間は数分程度であり、Bはその間駐車場で待機していたことから、現金の引出しはBの管理下で行われており、被告人は使者であり、B自身がキャッシングをしたのと同視することができると主張する。しかし、上記のとおり、キャッシングにお ける利用者と会員の同一性確認の重要性に照らせば、会員本人が手続を行うことには重要な意味がある。また、今日では、クレジットカードの使用権限を会員のみに認める運用は広く浸透しており、社会的な共通認識が得られていると解される。そうすると、会員以外のクレジットカードの使用は、ATM機を利用する方法による場合であったとしても、例えば、身体的な障害により暗証番 号の入力等の手続が困難である会員本人の面前でその承諾の下に代理として手続を行うなどの例外的な場合は格別、窃盗罪を構成すると解するのが相当である。したがって、弁護人指摘の事情は窃盗罪を否定する理由にはならない。また、弁護人は、会員本人がキャッシングで引き出した現金をカードの使用者である第三者にその場で交付するのと実態としてはほとんど変わらないとも主張 するが、それは会員側にとって変わらないということにすぎず、契約の相手方であるカード会社にとっては、利用者と会員の同一性の確認は判断の の場で交付するのと実態としてはほとんど変わらないとも主張 するが、それは会員側にとって変わらないということにすぎず、契約の相手方であるカード会社にとっては、利用者と会員の同一性の確認は判断の重要な要素である以上、両者は同じものではなく、このことはATM管理者にとっても同様である。さらに、弁護人は、ATM機によるキャッシングの場合には厳格な本人確認が求められておらず、会員以外の者がキャッシングをしてもATM 管理者は免責されるとの合意もあるはずであると主張する。なるほど、Gカー ド規約によれば、Gカードでは99万円を利用可能枠の上限としてATM機を利用したキャッシングサービスを提供していることが認められ、簡易かつ迅速な取引を可能にするために、契約時において利用者と会員の同一性確認の手続を事実上一定程度緩和していることは否定できない。しかし、カード会社は、不正利用の可能性があれば、会員本人の意思に基づくカード利用か否かを事後 に会員本人にメールや電話等で問い合せるなどして確認等しているのが通常である(なお、Bは、4月4日にGカードからその旨メールで連絡を受けている。)。 会員本人の個人的な信用を担保に貸付を行うというクレジットカードを用いたキャッシングの性質に照らして、ATM機でのキャッシングについても、カード会社はカード利用者と会員の同一性をキャッシングの判断に際して重要視し ていることに変わりはないのであって、会員本人以外の第三者がクレジットカードを利用することをカード会社が包括的に承諾しているとは認められないし、その提携先のATM管理者も、同様に包括的な承諾をしているとは認められない。また、免責の点については、確かに、前記規約には、他人にカードを不正使用された場合は、カード使用により生じた一切の債務は し、その提携先のATM管理者も、同様に包括的な承諾をしているとは認められない。また、免責の点については、確かに、前記規約には、他人にカードを不正使用された場合は、カード使用により生じた一切の債務は、所定の手続を 執った場合を除いて、原則として会員が負担する旨規定されており、これによれば、ATM管理者が会員以外の第三者からの現金の引出しに応じたことに伴う民事上の責任を負うことは基本的にはなさそうである。しかし、そうであるとしても、ATM管理者が法的リスクを負わされる可能性があることは否定できず、その経済的な利益を左右する可能性はあるといえ、そのような状態で現 金を交付したことそれ自体がATM管理者にとっては損害であるといえる。したがって、民事上の免責の点のみをもって、包括的な承諾の範囲内であるということはできない。 したがって、被告人の公訴事実第2の引出し行為は窃取行為に当たる。また、先に述べたとおり、クレジットカードの利用が会員本人のみに限定されている との理解は広く社会に浸透していることや、被告人がBにカード会社からの本 人確認に対してBが利用したと虚偽の回答をさせていることなどに照らせば、被告人には、ATM機での上記引出しがATM管理者の意思に反しており、かつ、それが犯罪を構成することについての認識もあったと認められるから、窃盗の故意も認められる。 したがって、被告人の公訴事実第2の引出しについては窃盗罪が成立する。 2 公訴事実第3の事実についてこの点についても、Bが、被告人に対しH銀行のB名義の口座の残高の範囲内で本件キャッシュカードを利用して貯金を引き出すことを容認していたことは否定できない。そして、キャッシュカードは、カードの名義人本人が使用することが予定されており、カードの不正 の口座の残高の範囲内で本件キャッシュカードを利用して貯金を引き出すことを容認していたことは否定できない。そして、キャッシュカードは、カードの名義人本人が使用することが予定されており、カードの不正利用の防止等に関する社会的要請の高 まりなどを反映して、各種の規約上もその旨が規定されており、金融機関の窓口では取引時における本人確認が厳格化されているのが通常であるところ、名義人以外の第三者がこれを所持し使用することは本来的には許容されていない。しかし、預貯金の引出しは、先に述べたキャッシングとは異なり新たな契約を締結するものではなく、口座残高を上限として、所定の払戻限度額の範囲 で預貯金を引き下ろす行為であるところ、ATM管理者である金融機関(本件では、H銀行ないしその提携先であるC銀行)はATM機での現金の引出しに関しては、利用者の利便性や取引の大量処理に係る経済的効率性を重視し、民事上の免責可能性(民法478条等)等も踏まえて、当該カードが偽変造されたものや、権限のない者による不正使用である場合等を除いて、所持人が所持 しているカードが正規に発行されたカードであることや暗証番号の入力等の定型的な処理によりカードの所持人と名義人との同一性を確認しカードの使用が名義人の意思に基づくことを確認することで、預貯金の引出しに応じているのが実情である。そうすると、ATM管理者は、当該口座内の現金が振込詐欺等の被害者が振り込んだものであるなど特別な場合については、別としても、そ うでなければ、払戻権限のある真正なキャッシュカードが利用されていること を条件として、ATM機から現金を引き出すことを包括的に承諾していると解するのが相当である。なお、被告人による公訴事実第3の各引出しは複数日にわたり繰り返されており、B 用されていること を条件として、ATM機から現金を引き出すことを包括的に承諾していると解するのが相当である。なお、被告人による公訴事実第3の各引出しは複数日にわたり繰り返されており、Bは引出し額を指定せず、被告人はBに事後報告もしていない。しかし、引出しの回数、頻度それ自体は客観的には通常の範囲外のものとはいえない。また、ATM管理者にとって最も重要なのは所持人の権 限の有無であるから、名義人本人の真意に基づいて権限が付与されている以上、それが金額を指定しない包括的なものか否かは、払戻の拒否を左右する決定的な要素とまではいえないと解される。もちろん、実質的に見て、キャッシュカードが第三者に譲渡されたと同視できる場合には通帳や引出用のカードの譲渡が処罰対象になっていること(犯罪による収益の移転防止に関する法律参照) からすると、窃盗罪が成立し得ると解されるが、3回目の交付の際には3日間カードを被告人に預けていることなどを踏まえても、本件はそのような場合とはいえない。したがって、公訴事実第3の各引出しは包括的な承諾の範囲を超えるものとはいえず窃取行為には当たらない。加えて、一般人において、名義人の承諾があってもキャッシュカードを利用してATM機で現金を引き出すこ とは金融機関の規約に反するとの認識はあるとしても、それが犯罪として処罰の対象となるとの共通認識が社会に広く浸透しているとまでは言い難いように思われる(少なくとも、証拠上そのような共通認識があることが立証されているとはいえない。)。被告人について、特にこれと異なる認識を有していたことをうかがわせる事情はなく、被告人に窃盗の故意を認定することについては 合理的な疑いを容れる余地もある。 したがって、被告人の公訴事実第3の各引出しはいずれも窃盗罪を構 る認識を有していたことをうかがわせる事情はなく、被告人に窃盗の故意を認定することについては 合理的な疑いを容れる余地もある。 したがって、被告人の公訴事実第3の各引出しはいずれも窃盗罪を構成しないから、被告人は無罪である。 第7 結論以上によれば、本件公訴事実中、第2については、被告人に窃盗罪が成立する。 また、第1及び第3については、いずれも犯罪の証明がないことに帰するから、 刑事訴訟法336条により、被告人に対し、無罪の言渡しをする。 (量刑の理由)知人女性との関係を利用して他人名義のクレジットカードを私的に利用しており、利欲性は高い。キャッシングによりATM機から引き出した現金額は20万円と比較的多額である。前記確定裁判に係る犯行と近接する時期に行われていること のほか、前記累犯前科の存在も踏まえると、被告人のこの種行為に対する抵抗感は乏しい。以上によれば、ATM管理者に実質的な損失はなかったであろうことを考慮しても、被告人の刑事責任は軽くはない。そこで、本件と確定裁判に係る罪が併合審理されていた場合における量刑も考慮に入れて、主文のとおり刑を量定した。 (指定弁護士U、同V、弁護人W各出席) (求刑-懲役3年)令和6年9月4日長崎地方裁判所刑事部 裁判長裁判官太田寅彦 裁判官上原美也子 裁判官平川優希 別表 番号年月日時間(頃)場所管理者出金額 令和3年4月18日午後7時19分長崎市c町d番地所在のF店株式会社C銀行D20万円 同上午後7時20分同上同上20万円 同上午 者出金額 令和3年4月18日午後7時19分長崎市c町d番地所在のF店株式会社C銀行D20万円 同上午後7時20分同上同上20万円 同上午後7時21分同上同上10万円 令和3年4月23日午前9時50分長崎県佐世保市e町f番地所在のM店株式会社H銀行X20万円 同上午前9時51分同上同上11万円 令和3年4月26日午後0時25分長崎県佐世保市g町h番地所在のQ店株式会社C銀行D20万円 同上午後0時26分同上同上20万円 同上午後0時27分同上同上10万円 令和3年4月27日午後5時9分長崎県佐世保市i町j番地所在のR店同上5万3000円合計136万3000円

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