平成26(う)980 強制わいせつ致傷被告事件

裁判年月日・裁判所
平成27年2月13日 大阪高等裁判所 破棄自判 京都地方裁判所
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判決文本文9,875 文字)

平成26年(う)第980号強制わいせつ致傷被告事件平成27年2月13日大阪高等裁判所第6刑事部 主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,論旨は訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張である。 第1 訴訟手続の法令違反の主張について論旨は,要するに,①原判決は,原判示の女性Aの原審証言のうち,被告人が原判示の時刻に同判示の店舗(以下「本件店舗」という。)を訪れていたこと,Aが本件店舗を飛び出して,その直後にタクシーに乗ったことは間違いのない事実であるとした上で,Aの身に何らかの突発的な事態が生じなければ,このような行動に出ることは通常考えられないから,この頃,Aの身に何らかの突発的な事態が生じたことは間違いがないとして,この「突発的な事態」を有罪認定の出発点としているが,原審の公判前整理手続においてそのような争点整理は一切されておらず,また,②原判決は,検察官が主張する「被告人がAに対して,平成25年5月下旬から交際をしつこく求め,6月3日にも交際を求めたものの断られ,犯行に及んだ」というストーリーではなく,それとは全く異なる「酒に酔った上,Aの言動をきっかけに衝動的に行われた」という新たなストーリーを創作して有罪認定に至っているところ,これらの有罪認定の手法は当事者主義違反であり,争点逸脱認定であるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。 ①についてみると,記録によれば,原審の公判前整理手続において,検察官は,犯 行状況等として,被告人が原判示の時刻に本件店舗を訪れていたこと及びAは被告人がひるんだすきをみて店外に出て,その直後にタクシーに乗ったことを含む事 ,原審の公判前整理手続において,検察官は,犯 行状況等として,被告人が原判示の時刻に本件店舗を訪れていたこと及びAは被告人がひるんだすきをみて店外に出て,その直後にタクシーに乗ったことを含む事実を挙示するとともに,A供述の信用性について,客観的証拠との合致及びA供述が具体的かつ詳細であること等を主張し,本件の争点は,(1)Aが強制わいせつの被害にあったか否か(事件性),(2)被告人が犯人であるか(犯人性),(3)仮に,被告人が有罪の場合は量刑,と整理されたことが認められる。これらからすると,被告人が原判示の時刻に本件店舗を訪れていたこと及びAが本件店舗を飛び出してその直後にタクシーに乗ったことは,原審の公判前整理手続で主張されていた事実である一方,争点に関する判断の前提となる事実や間接事実,A供述の信用性の評価方法,あるいは用いるべき経験則等を限定するような整理はされていない。そもそも,証拠の評価やどのような経験則等を用いるかは,本来,裁判所が判断すべき事項であって,当事者の主張に必ずしも拘束されるものではない。そうすると,所論指摘の点が,当事者主義違反や争点逸脱認定であるとはいえない。 ②についてみると, 所論指摘の原判決の説示は,量刑理由中でされたものであるところ,証拠上,被告人が事前に犯意を抱いていたとまでは認められないことからそのように説示したものであることは明らかである。また,所論指摘の検察官の主張自体,本件犯行時に,交際を求めたものの断られ,犯行に及んだ旨いうものであって,被告人がAに対する強制わいせつ行為を計画していたというものではない。したがって,「酒に酔った上,Aの言動をきっかけに衝動的に行われた」との原判決の認定は,当事者主義違反や争点逸脱認定であるとはいえない。 論旨は理由がない。 第2 事実誤認の主 うものではない。したがって,「酒に酔った上,Aの言動をきっかけに衝動的に行われた」との原判決の認定は,当事者主義違反や争点逸脱認定であるとはいえない。 論旨は理由がない。 第2 事実誤認の主張について論旨は,要するに,原判決は,被告人が,本件店舗内において,Aの両肩を両手でつかみ,抵抗するAともみ合いになる中,その身体を床に押し倒し,履いていたタイ ツ及びショーツを脱がせて下半身を露出させるなどのわいせつな行為に及び,その際,一連の暴行により,Aに約1週間の通院加療を要する右下腿打撲傷,右大腿打撲傷の傷害を負わせた事実を認定しているが,被告人は,Aに対し,そのような強制わいせつ行為をしていないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 本件公訴事実は,被告人が,両手でAの両肩をつかんでその身体を揺さぶるなどした上,両手でAの身体を床に押し倒して,仰向けになったAの両肩を床に押さえつけ,さらに,Aが履いていたタイツ及びショーツを脱がせるなどの暴行を加え,左手で着衣の上からAの乳房を揉むとともに,その陰部を手指で弄ぶなどし,もって強いてわいせつな行為をし,その際,一連の暴行により,Aに前記傷害を負わせたというものであるところ,原判決は,Aの原審証言には疑問を抱かざるを得ない部分が少なくないものの,原判示の限度では信用できるとして,原判示の事実を認定している。しかし,その認定は論理則,経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ない。以下,その理由を説明する。 1 原判決の判断原判決の判断の概要は,次のとおりである。 Aの原審証言は,その供述態度や供述の変遷状況等に照らして全面的に信用できるものではなく,後に知った事実をもとに辻褄を合わせようとしたり,誇張して供述したりしているので 概要は,次のとおりである。 Aの原審証言は,その供述態度や供述の変遷状況等に照らして全面的に信用できるものではなく,後に知った事実をもとに辻褄を合わせようとしたり,誇張して供述したりしているのではないかと疑われる部分もあるが,被告人が原判示の時刻頃に本件店舗を訪れていたこと,Aが本件店舗を飛び出して,その直後にタクシーに乗ったことは間違いのない事実であり,Aの身に何らかの突発的な事態が生じなければ,このような行動に出ることは通常考えられないから,この頃,Aの身に何らかの突発的な事態が生じたことは間違いがなく,Aの原審証言のうち,この「突発的な事態」の中身を,被告人からのわいせつ被害であったとする部分が信用できるかが問題となる。 そして,本件当日に,Aから,被告人に襲われた,パンストを脱がされたか脱がされかけたという相談を受けた旨のBの原審証言は基本的に信用でき,Aは,少なくとも,被告人から下着を脱がされたことを内容とするわいせつ行為を受けたことについて,本件当日から,一貫して述べている付近から,Aの供述する,被告人が両手でカウンターテーブルを叩くという行為と適の診察を受けた際,Aの供述する,押し倒されたことなどの暴行態様と矛盾しない傷害をAが負っていたAと被告人は,本件まで1度しか会ったことがなく,Aにおいて,ありもしないわいせつ被害をねつ造して被告人を罪に陥れる動機や利益があるとは考えられないことから,A証言のうち,信用でき,その限度で原判示の事実が認定できる。 2 当審の判断認定判断の基礎となる統合捜査報告書(原審甲22)には,被告人の左右の掌紋は,指先がカウンター内側を向いている旨記載されているところ,当審の事実取調べの結果によると,その向きが誤りであることが明らかであり,その点は当事者間にも争いがない。そこで には,被告人の左右の掌紋は,指先がカウンター内側を向いている旨記載されているところ,当審の事実取調べの結果によると,その向きが誤りであることが明らかであり,その点は当事者間にも争いがない。そこで,まず,その点につき検討した上,当審の事実取調べの結果に基づく弁論も踏まえ,原判決がAの原審証言の信用性に関して説示するその他の点について検討する。 (1) A証言の信用性を補強する この点のAの原審証言は,被告人に閉店時間であることなどから帰るように言ったところ,被告人が憤慨してカウンターを両手で叩くなどしたので,被告人を店の外に出そうと近づき,タイツとショーツを脱がされるなどしたというものであり,統合捜査報告書(原審甲22)には,店内入り口に近い位置のカウンター上面に,いずれも指先がカウンター内側を向くようにして,被告人の左右掌紋が採取されたような記載 があり,写真7(左手),8(右手)も,両方指先が上を向くように並べられている。 しかし,所論が指摘するように,両写真には,掌紋とともに木目様のものと思われる筋が写っているところ,その方向が約90度違っており,写真の向きが違っていることが疑われる。当審で取り調べた捜査報告書(当審検1),遺留指掌紋確認通知書(同2),実況見分調書(同3)及び「強制わいせつ事件の実況見分立ち会い結果について」と題する報告書(同4)によれば,前記統合捜査報告書における被告人の左右掌紋の向きに関する記載及び写真の並べ方は,その原証拠である電話聴取書を作成した検察官が指掌紋を採取した警察官から聴取した内容が不正確なものであったこと等に起因する誤ったものであり,被告人の左右掌紋は,正しくは,カウンター上面(天板)ではなく,外側縁部分に遺留されていたものであり,左手の指先は,カウンターの外側を向き,右手の指先は,カ あったこと等に起因する誤ったものであり,被告人の左右掌紋は,正しくは,カウンター上面(天板)ではなく,外側縁部分に遺留されていたものであり,左手の指先は,カウンターの外側を向き,右手の指先は,カウンター内側より右側を向くような形で,それぞれ遺留されていたと認められる。このような掌紋が遺留された位置や特に左掌紋の向きに照らせば,それらの掌紋が,カウンター内の人を脅すために被告人がカウンターを叩いた際に付いたものであるとは認め難く,被告人の掌紋の付着状況がAの原審証言に適合するものとはいえない。 なお,被告人は,本件に先立つ5月29日から30日にかけての夜間に本件店舗を訪れているところ,Aの原審証言によれば,Aは,閉店時に,ダスターという紙素材の布巾でカウンターを大雑把に拭いている程度だというのであり,前記7,8の掌紋の位置がカウンター内側から遠い位置にある縁であることも考慮すると,前回来店時のものが残っていた可能性も排斥し難い。 以上からすると,掌紋が,Aの原審証言を補強するとはいえない。 (2) Aの原審証言の信用性全般について被害状況に関するAの主尋問に対する原審証言は,大要,同人が働いていたカウンターバーの当日の営業を終えようとして閉店準備をしてカウンター内にいたときに被 告人が入ってきた,帰るよう言ったが,被告人は乱暴な言葉で威嚇し,カウンターを両手で叩くなどした,Aがカウンターから出て,帰るよう言っていたところ,被告人は,Aの肩や腕をつかんでキスをしようとしたり,胸や尻を触ったりし,さらに,Aを押し倒して,タイツ及びショーツを一瞬の隙に脱がせ,陰部を触った,Aは,被告人の股間を蹴るなどし,被告人がひるんだ隙にタイツ等を手に取り,パンプスを履いて店の外に出たら,四つん這いになった被告人が店の表に出たので,ドアを閉め,急 を一瞬の隙に脱がせ,陰部を触った,Aは,被告人の股間を蹴るなどし,被告人がひるんだ隙にタイツ等を手に取り,パンプスを履いて店の外に出たら,四つん這いになった被告人が店の表に出たので,ドアを閉め,急いで道路に走っていって,タクシーに乗った,被告人は,タクシーを叩くなどして,発車を妨害した,などというものである。 しかし,Aは,捜査段階の初期には,胸を揉まれたり陰部を触られたりした旨の供述をしていなかったことが認められ,Aの原審証言は,その他に触られた部位についても捜査段階よりも増えていることがうかがわれる。また,タイツ等を脱がされた状況については,捜査段階では,脱がされまいと抵抗したが,力ずくで脱がされたような供述をしていた。さらに,Aが負ったという右下腿打撲傷,右大腿打撲傷についても,Aは,捜査段階では,押し倒されたときや,その後抵抗しようとしてもがいているときに,擦りむいたのだと思う旨供述していたのに対し,原審証言では,すねの傷は,被告人の靴に蹴られたときにできたもの,太ももの傷は,斜めに倒された後に,仰向けにされたときにできた傷だと思う旨,捜査段階とは異なる,あるいは捜査段階よりも詳細な証言をしている。 以上のような供述の変遷は,原判決が指摘するように,後に知った事実をもとに辻褄を合わせようとしたり,誇張して供述しているのではないかと疑わせるものであり,被害状況という原審証言の核心部分に限ってみても,その証言には看過できない変遷がみられる。また,Aの原審証言は,後述のように,被害状況について,不自然な点が見られ,被害状況以外についても,変遷等が少なからずみられる。したがって,Aの原審証言を,全面的に信用することはできない。 (3) Aが本件店舗を飛び出して,その直後にタクシーに乗ったことが間違いのない事実といえるかについ 変遷等が少なからずみられる。したがって,Aの原審証言を,全面的に信用することはできない。 (3) Aが本件店舗を飛び出して,その直後にタクシーに乗ったことが間違いのない事実といえるかについて関係証拠によれば,Aは,カウンターバーである本件店舗の営業を一人で任されていた者であること,被告人は,本件に先立つ平成25年5月29日から翌30日にかけての夜間に,本件店舗で客として飲食するとともに,その前後の時間に,本件店舗以外の飲食店でAと同席したが,それまで両者の間に面識等はなかったこと,原判示の日時である同年6月3日午前1時過ぎ頃,被告人が本件店舗を訪れたこと,Aが本件店舗を出て,その後にタクシーに乗ったことは,間違いのない事実である。そこで,原判決が説示するように,Aが「飛び出した」といえるか,「直後に」タクシーに乗ったといえるかについてみると,Aは,閉店準備をしてカウンター内にいたときに被告人が入ってきた,被告人に帰るよう言ったが出て行かないので,カウンターから出て,帰るよう言っていたところ,前述のような強制わいせつの被害に遭った,被告人の股間を蹴るなどし,被告人がひるんだ隙に転がるようにしてタイツ等を手に取り,パンプスを履いて店の外に出たら,四つん這いになった被告人が店の表に出たので,ドアを閉め,鍵をかけて,急いで道路に走っていって,タクシーに乗った旨証言する。 しかし,上記のような流れの中で,Aが,いつどのようにしてドアの鍵を手にしたのかは必ずしも明らかでない。また,パンプスを履き被告人が出てきたところで鍵を閉めてからその場を離れるというのは,被告人に襲われている状況であることに照らすと,いささか不自然であり,むしろ,靴を履いたり鍵をかけたりしたというのは,Aにある程度の時間的,精神的余裕があったことをうかがわせる。 ま るというのは,被告人に襲われている状況であることに照らすと,いささか不自然であり,むしろ,靴を履いたり鍵をかけたりしたというのは,Aにある程度の時間的,精神的余裕があったことをうかがわせる。 また,Aがタクシーに乗ったのは,本件店舗の前ではなく,そこから約150メートル離れた交通量の多い交差点まで移動した後である。なお,Aは,タクシーに乗るまで被告人から羽交い締めにされたり,腕を捕まれたりし,また乗ってからも発車を妨害された旨証言するが,Aが述べるような状況で約150メートルもの距離を移動 できたということや,強制わいせつの犯人が,交通量の多い場所で,しかも,第三者であるタクシー運転手に目撃されるのが確実な状況になってもなお被害者を追い続けようとしたということは,事実経過として,いささか不自然であり,にわかに信じ難い。 以上からすると,Aが本件店舗を出たこと,その後にタクシーに乗ったことは間違いのない事実であるとしても,Aが本件店舗を「飛び出した」とか,「直後に」タクシーに乗ったというのは,それぞれの言葉の意味に若干の幅があるにせよ,無条件に間違いのない事実とまでは言い難い。少なくとも,Aが,ドアの鍵をかけたりすることができないほどに切羽詰った状況や,本件店舗の前でタクシーに飛び乗ったような状況であったとはいえない。 (4) Aの身に何らかの突発的な事態が生じたことは間違いがないといえるかについてAの原審証言によれば,同人は,午前1時に閉店するつもりで,その準備をしていたこと,同人は,本件当日以外にも,閉店後にタクシーを利用することがあったというのである。そうすると,閉店時刻後の午前1時過ぎにAが店を出たこともタクシーに乗ったことも特段異常なこととはいえない。Aが被告人に対し,帰るよう強く言ったことや,Aがかなりの勢いで本 があったというのである。そうすると,閉店時刻後の午前1時過ぎにAが店を出たこともタクシーに乗ったことも特段異常なこととはいえない。Aが被告人に対し,帰るよう強く言ったことや,Aがかなりの勢いで本件店舗から出て道路に飛び出していったことは,被告人も原審において,これを認める供述をしていることからすると,Aが急いで本件店舗を出たことは認められるにせよ,そのことや,Aがタクシーに乗ったことから,Aの身に何らかの突発的な事態が生じたことは間違いがないと直ちにはいえない。 また,A及びBの原審証言によれば,Aは,最初に会ったときから被告人を嫌い,Bに相談して,被告人を出入り禁止にしようとしていたというのであるから,Aの身に何らかの突発的な事態が生じなくても,急いで本件店舗を出ることは十分に考えられる。 これらに照らすと,Aが急いで本件店舗から出たこと等から直ちにAの身に何らかの突発的な事態が生じたことまで推認することはできないというべきである。 (5) A証言の信用性を補強するB証言との整合性,下着を脱がされたことについての供述の一貫性)についてBの原審証言は,本件の次の夜(日付は本件と同日),Aから,被告人に襲われ,パンストを脱がされたか脱がされかけたという相談を受けたというものである。しかし,同証言は,Aが受けたというわいせつ行為の内容があいまいであり,パンストないしタイツを脱がされたか否かが不明であるし,ショーツについては証言もしていない。前記のとおり,Aの原審証言は,被害状況に限ってみても変遷がみられるのであるから,下着を脱がされたことを一貫して述べていたといえるか否かについても慎重に評価する必要がある。そうすると,前記のようにあいまいなBの原審証言により,Aが,被告人に下着を脱がされたことについて,本件当日から一貫して述 たことを一貫して述べていたといえるか否かについても慎重に評価する必要がある。そうすると,前記のようにあいまいなBの原審証言により,Aが,被告人に下着を脱がされたことについて,本件当日から一貫して述べていたとまでは評価できないというべきである。なお,Bの原審証言は,被告人がAのタイツを脱がせようとしたという限度では,一定程度Aの原審証言を補強するともいい得るが,Bの原審証言はAの供述から独立したものではなく,Aの原審証言を補強する力はさほど強いものではない。 (6) A証言の信用性を補強するAの負傷との整合性)について関係証拠によれば,Aは,Bに相談した際,足の痛みを訴え,本件の2日後に医師の診察を受け,約1週間の通院加療を要する右下腿打撲傷,右大腿打撲傷と診断されたことが認められる。確かに,これらの傷害は,Aの証言する,被告人に押し倒されたことなどにより生じたものとみても矛盾はしない。しかし,それは,日常生活や酔余の転倒等によっても生じ得る部位及び程度のものであり,Aの原審証言との整合性が特に高いとはいえない。のみならず,前述のとおり,Aは,受傷の機序について,捜査段階では明確には供述していなかったのに,公判では,客観証拠に沿うような形 で具体的な供述をしている。以上からすると,Aの負傷状況が,Aの原審証言を補強する程度は,さほど高くないというべきである。 (7) A証言の信用性を補強する 関係証拠によれば,Aが被告人と会ったのは,本件時で2回目であるが,Aは,1回目に会った際に,被告人から,2回服役していた話や暴力団と関係があるような話を聞くなどして,被告人に対して恐怖感等の否定的感情を抱き,Bにその旨伝えて,被告人を出入り禁止にすることにしていたことが認められる。それだけで,わいせつ被害に遭ったとの虚偽申告をするま るような話を聞くなどして,被告人に対して恐怖感等の否定的感情を抱き,Bにその旨伝えて,被告人を出入り禁止にすることにしていたことが認められる。それだけで,わいせつ被害に遭ったとの虚偽申告をするまでの動機とはいい難く,その点では原判決の説示するところも直ちに誤りとはいえない。とはいえ,1回会っただけで強い否定的感情を抱いた相手が再び店に来た状況であることからすると,そのような相手が2度と店に来ないようにする手段として,虚偽申告をすることがおよそないとまでいうことはできない。 (8) 結論以上のとおり,Aの原審証言の信用性を認めた理由のうち,掌紋と整合するとの点は明らかに前提事実を誤ったものであり,それを踏まえて,改めてAの原審証言の信用性に関して原判決が説示する点を検討すると,そもそもAの原審証言には,核心部分等に種々問題があり,それ自体全面的に信用できるようなものではなく,原判決が動かし難いとした事実やその事実から推認した内容にも疑問があり,Bの原審証言や負傷状況との整合性がAの原審証言を補強する力はさほど強いものではなく,また,Aに虚偽申告の動機がおよそないとまでいえない。そうすると,認定の核となるべきAの原審証言の核心部分が信用できないことに帰するのであるから,Aから相談を受けた者の証言がAの一部証言と整合することや,Aがその証言と矛盾しない傷を負っていることがあったとしても,原判示の事実の限度とはいえAの原審証言の信用性を認め,原判示の事実について合理的疑いを容れない程度の立証がされているとした原 判決は,論理則,経験則等に照らして不合理というほかない。 論旨は理由がある。 第3 破棄自判よって,刑訴法397条1項,382条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に次のとおり判 に照らして不合理というほかない。 論旨は理由がある。 第3 破棄自判よって,刑訴法397条1項,382条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,被告事件について更に次のとおり判決をする。 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成25年6月3日午前1時頃から同日午前1時36分頃までの間,京都市a区b町c番地d所在のカウンターバー「C」店内において,Aに対し,強いてわいせつな行為をしようと企て,「われ,ただで済むと思うなよ。分かってんのか。われ,承知せえへんぞ。」などと語気鋭く申し向け,両手で同女の両肩をつかんでその身体を揺さぶるなどした上,両手で同女の身体を床に押し倒して,仰向けになった同女の両肩を床に押さえつけ,さらに,同女が履いていたタイツ及びショーツを脱がせるなどの暴行を加え,左手で着衣の上から同女の乳房を揉むとともに,その陰部を手指で弄ぶなどし,もって強いてわいせつな行為をし,その際,前記一連の暴行により,同女に約1週間の通院加療を要する右下腿打撲傷,右大腿打撲傷の傷害を負わせた」というものであるが,前述のとおり,同公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。 平成27年2月13日大阪高等裁判所第6刑事部 裁判長裁判官笹野明義 裁判官飯 島 健太郎 裁判官後藤有己

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