平成31(ワ)1409 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年7月22日 東京地方裁判所
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令和2年7月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成31年(ワ)第1409号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日令和2年3月24日判決原告X 同訴訟代理人弁護士塩月秀平長坂省伊勢智子髙梨義幸同補佐人弁理士内藤和彦白石真琴北谷賢次被告アムジェン株式会社(旧商号アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社)同訴訟代理人弁護士大野聖二山口裕司多田宏文同補佐人弁理士今野智介 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載のウイルスを使用してはならない。 2 被告は,その占有する別紙物件目録記載のウイルスを廃棄せよ。 3 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告が別紙物件目録記載のウイルスを使用して国内において行っている治験は原告の有する特許権の実施に当たり,同特許権を侵害すると 3 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告が別紙物件目録記載のウイルスを使用して国内において行っている治験は原告の有する特許権の実施に当たり,同特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,同ウイルスの使用の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,同ウイルスの廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者等ア原告は,A大学医科学研究所内の先端医療研究センターがん治療分野教授 及び同研究所附属病院脳腫瘍外科教授を兼任する研究者である。 イ被告は,米国のAmgenInc.(以下「米Amgen社」という。)の子会社であり,医薬品及び医薬部外品並びに医療機器の研究,開発,製造,販売及び輸入等を主な業務とする株式会社である。 (2) 原告の有する特許権 ア原告の有する特許権原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有している。(甲1)発明の名称:ウイルスおよび治療法におけるそれらの使用特許番号:第4212897号 出願日:平成14年3月27日(特願2002-574742)優先日:平成13年3月27日優先権主張国:米国登録日:平成20年11月7日イ本件特許の出願経緯 原告は,本件特許の発明者のうちの一人であるところ,原告が本件特許権 の特許権者として登録された経緯は,以下のとおりである。 月7日イ本件特許の出願経緯 原告は,本件特許の発明者のうちの一人であるところ,原告が本件特許権 の特許権者として登録された経緯は,以下のとおりである。 (ア) いずれも米国法人であるMediGene, Inc.(以下「MediGene社」という。),TheGeneralHospitalCorporation(以下「Hospital社」という。)及びジョージタウン大学は,平成14年(2002年)3月27日,我が国において本件特許出願をした。(甲1,弁論の全趣旨) (イ) MediGene社は,平成17年(2005年)7月15日,Hospital社に対し,本件特許に係る特許を受ける権利の持分等を譲渡した。Hospital社は,同日,MediGene社及びその関連会社との間で,非独占的,無償,サブライセンス不可であることを内容とする,我が国における特許出願及びこれから生じる特許に付与される権利のライセンスを付与する旨の契約(以下 「本件ライセンス契約」といい,同ライセンスを「本件ライセンス」という。)をした。(乙3)(ウ) ジョージタウン大学は,平成17年(2005年)9月30日,Hospital社に対し,本件特許に係る特許を受ける権利の持分等を譲渡した。 (乙6)(エ) Hospital社は,平成18年(2006年)10月26日,原告に対し, 本件特許に係る特許を受ける権利等を譲渡した(以下「本件譲渡契約」という。)。その後,原告を本件特許の出願人とする旨の出願人名義変更手続を経て,原告が本件特許出願の出願人となった。(乙1)ウ本件特許の特許請求の範囲本件特許の請求項1の記載は以下のとおりである(以下,同請求項に係る 発明を 旨の出願人名義変更手続を経て,原告が本件特許出願の出願人となった。(乙1)ウ本件特許の特許請求の範囲本件特許の請求項1の記載は以下のとおりである(以下,同請求項に係る 発明を「本件発明」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。 「ウイルスのBamHIx断片のBstEII-EcoNI断片内の欠失を含む,単純ヘルペスウイルス。」(3) 本件発明の意義並びに原告及び被告の治験の実施対象物 アがんのウイルス治療は,がん細胞のみで増えることのできるウイルスを感 染させ,ウイルスが直接がん細胞を破壊する治療法であり(甲14),本件発明に係るウイルスも「癌の治療のような治療法において使用され得るウイルス」(本件明細書等の段落【0015】)であり,がんのウイルス治療に使用されるものである。 イ本件発明は「ウイルスのBamHIx断片のBstEII-EcoNI断片内の欠失を含む, 単純ヘルペスウイルス」であるが,ここにいう「BamHIx断片のBstEII-EcoNI断片内の欠失」は,本件明細書等の段落【0016】に「本発明のウイルスのいくつかは,ウイルスのICP47遺伝子座の不活化変異を含んでいる単純ヘルペスウイルス(HSV)である。この変異は,例えば,HSV-1のBamHIx断片のBstEII部位とEcoNI部位との間に起こり得て,例えばBstEII-ExoNI断片の欠 失を含み得る。」と記載されているとおり,ICP47遺伝子の不活化変異を含む。 本件明細書等には,本件発明に係るウイルスの具体例としてG47Δが開示されている。このウイルスは,「γ34.5遺伝子中の欠失,ICP6遺伝子の中の不活化挿入,およびICP47遺伝 む。 本件明細書等には,本件発明に係るウイルスの具体例としてG47Δが開示されている。このウイルスは,「γ34.5遺伝子中の欠失,ICP6遺伝子の中の不活化挿入,およびICP47遺伝子中の312塩基対の欠失を含んでいる」(段落 【0021】)ものであり,ICP47遺伝子の欠失に加えて,γ34.5遺伝子及びICP6遺伝子の各遺伝子に改変を加えたものである。原告が商品化を目指して治験を行っているのは,このG47Δである。 ウ被告が治験を実施している別紙物件目録記載の一般名タリモジェンラヘルパレプベク(商品名:イムリジック,略称:T-VEC。以下「T-VEC」という。) は,G47Δが3つの遺伝子に改変を加えているのに対し,ICP34.5(γ34.5)及びICP47の2つの遺伝子を機能的に欠失させることにより弱毒化させた単純ヘルペスウイルスタイプ-1(HSV-1)である(甲7)。このように,T-VECは,ICP47遺伝子の欠失を含むものであり,本件発明の技術的範囲に属する。 (4) 原告によるG47Δの治験の状況 原告の研究グループは,G47Δの商品化を目指し,平成27年頃から,我が国 において,悪性脳腫瘍の一種である膠芽腫を適応症として,第Ⅱ相試験を行っている。G47Δは,希少疾病用再生医療等製品に指定されており,また,先駆け審査指定制度の対象品目に指定されている。(甲9,14)(5) 被告によるT-VECの治験の状況被告は,平成29年(2017年)3月頃から,国内において,再生医療等 製品に当たるT-VECについて,悪性黒色腫を適応症とする治験(以下「本件治験」という。)を行っている。(甲2,8,弁論の全趣旨)米Amgen社は,T-VECについ いて,再生医療等 製品に当たるT-VECについて,悪性黒色腫を適応症とする治験(以下「本件治験」という。)を行っている。(甲2,8,弁論の全趣旨)米Amgen社は,T-VECについて,特定の類型のメラノーマ病変(悪性黒色腫)の治療薬として,平成27年(2015年)10月にFDA(米国食品医薬品局)の,同年12月にEMA(欧州医薬品庁)の各承認を受けており,本件治 験は,これらの外国臨床データを利用するブリッジング試験を行うものである。 ブリッジング試験とは,外国臨床データを新地域の住民集団に外挿するために新地域で実施される臨床試験であり,新地域における有効性,安全性及び用法・用量に関する臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われるものをいう。(乙15) 本件治験は,当初,予想される主要評価完了日が令和元年6月6日,予想される治験完了日が令和3年3月27日とされていたが,その後,主要評価完了日が令和2年3月27日,治験完了日が令和3年4月16日に変更された。(甲8,15)(6) 抗がん剤の治験の仕組み 治験とは,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号(平成26年11月25日施行。以下「平成25年改正法」という。)による改正前の名称は薬事法。以下,同改正の前後を通じて原則として「医薬品医療機器等法」という。)14条3項,23条の25第3項等の規定により提出すべき資料のうち臨床試験の試験成績に関する 資料の収集を目的とする試験の実施をいい(同法2条17項),一般に,その 内容により3段階に区分される。 第Ⅰ相では,通常,治療効果を目的とせず,健康な志願者を対象として,後の臨床試験のために必 収集を目的とする試験の実施をいい(同法2条17項),一般に,その 内容により3段階に区分される。 第Ⅰ相では,通常,治療効果を目的とせず,健康な志願者を対象として,後の臨床試験のために必要と想定される容量範囲の忍容性を決定し,予期される副作用の性質を判断し,薬物の吸収,分布,代謝及び排泄の情報取集等を行う臨床薬理試験が行われる。なお,抗悪性腫瘍薬では,通常,患者を対象として 試験が行われる。 第Ⅱ相では,通常,比較的均質な集団になるように比較的狭い基準に従って選択された患者を対象として,治療効果の探索を主要な目的とする探索的臨床試験が行われる。そこでは,第Ⅲ相で行われる試験の用法・容量の決定や,エンドポイント(治療行為の有効性を示すための評価項目),治療方法,対象と なる患者群の評価が行われる。 第Ⅲ相では,より多数の被験者を対象とし,承認のための適切な根拠となるデータを得ることを目的として,その治験薬が安全で有効であるという第Ⅱ相で蓄積された予備的な証拠の検証的試験が行われる。 抗がん剤の治験では,一般に,第Ⅰ相試験及び第Ⅱ相試験により,あるいは, 更に第Ⅲ相試験を含めた試験で集められた情報をもとに,厚生労働省で承認されると,製造販売が可能となる。(以上,甲18,弁論の全趣旨〔臨床試験の一般指針〕)(7) 医薬品等の製造販売の承認に関する法令上の他の規定ア医薬品医療機器等法の目的 医薬品医療機器等法1条は,同法が,医薬品や再生医療等製品等の品質,有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに,指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか,医療上特にその必要性が高い医薬品や再生医療等製品等の研究開発の促進のため の使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに,指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか,医療上特にその必要性が高い医薬品や再生医療等製品等の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより,保健衛生の 向上を図ることを目的とする旨定めている。 イ医薬品に関する規定(ア) 製造販売の承認申請同法14条1項は,医薬品の製造販売をしようとする者は,品目ごとにその製造販売についての厚生労働大臣の承認を受けなければならない旨を定めており,同条3項前段は,かかる承認を受けようとする者は,厚生 労働省令で定めるところにより,申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他の資料を添付して申請しなければならない旨を定めている。 また,14条2項3号は,申請に係る医薬品の名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項の審査の結果,その物が,その申請に係る効能又は効果を有すると認めら れない場合等には上記承認を与えない旨を定めている。 (イ) 優先審査同法14条7項は,厚生労働大臣が,同条1項の申請に係る医薬品が,希少疾病用医薬品その他の医療上特にその必要性が高いと認められるものであるときは,当該医薬品についての2項3号の規定による審査等を他 の医薬品の審査等に優先して行うこと(優先審査)ができる旨を定めている。 (ウ) 再審査同法14条の4第1項1号イは,既に同法14条等の承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異な る医薬品として厚生労働大臣がその承認の際指示したもの(新医薬品)のうち,希少疾病用医薬品につき同 4条等の承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異な る医薬品として厚生労働大臣がその承認の際指示したもの(新医薬品)のうち,希少疾病用医薬品につき同条の承認を受けた者は,その承認のあった日後6年を超え10年を超えない範囲内において厚生労働大臣の指定する調査期間を経過した日から起算して3月以内の申請期間内に申請して,厚生労働大臣の再審査を受けなければならないとしている。 (エ) 希少疾病用医薬品 希少疾病用医薬品とは,その用途に係る対象者の数が本邦において厚生労働省令で定める人数(原則として5万人(医薬品医療機器等法施行規則251条))に達しないこと,申請に係る医薬品につき,製造販売の承認が与えられるとしたならば,その用途に関し,特に優れた使用価値を有することとなる物であることのいずれにも該当し,厚生労働大臣の指定を受 けた医薬品をいう(同法2条16項)。 ウ再生医療等製品に関する規定(ア) 再生医療等製品の意義再生医療等製品とは,(ⅰ)①人又は動物の身体の構造又は機能の再建,修復又は形成,②人又は動物の疾病の治療又は予防,のいずれかを使用目 的とする物のうち,人又は動物の細胞に培養その他の加工を施したもの,(ⅱ)人又は動物の疾病の治療を使用目的とする物のうち,人又は動物の細胞に導入され,これらの治療の体内で発現する遺伝子を含有させたものであって,政令で定めるものをいう(同法2条9項。なお,このように医薬品医療機器等法上は,「医薬品」と「再生医療等製品」とを区別している が,本判決においては,G47Δ及びT-VECを「医薬品等」ということがある。)。 (イ) 医薬品に関する定めとの異同 器等法上は,「医薬品」と「再生医療等製品」とを区別している が,本判決においては,G47Δ及びT-VECを「医薬品等」ということがある。)。 (イ) 医薬品に関する定めとの異同再生医療等製品の製造販売の承認(同法23条の25第1項,同条2項3号),優先審査(同条7項),再審査(同法23条の29第1項1号イ),希少疾病用再生医療等製品(77条の2第1項)に関する同法の定めは, 医薬品と概ね同様である。 他方,再生医療等製品については,医薬品と異なり,その承認申請者が製造販売をしようとする物が,一定の要件を満たす場合には,その適正な使用の確保のために必要な条件及び期限を付してその品目に係る同条1項の承認を与えるという,条件及び期限付承認の制度が設けられている (同法第23条の26第1項)。 エ先駆け審査指定制度厚生労働省は,世界最先端の治療薬を我が国の患者に最も早く提供することを目指し,①治療薬の画期性,②対象疾患の重篤性,③対象疾患に係る極めて高い有効性及び④世界に先駆けて我が国で早期開発・申請する意思の4要件を全て満たす画期的な新薬等について,開発の比較的早期の段階から対 象品目に指定して,製造販売承認の相談・審査において優先的な取扱いの対象とする先駆け審査指定制度を設けている。この指定を受けた場合,優先審査の対象となる。(甲14)(8) 最高裁平成10年(受)第153号同11年4月16日第二小法廷判決・民集53巻4号627頁(以下「平成11年最判」という。) 平成11年最判は,後発医薬品について,薬事法14条所定の承認を申請するため必要な試験を行うことと,特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」との関係 う。) 平成11年最判は,後発医薬品について,薬事法14条所定の承認を申請するため必要な試験を行うことと,特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」との関係について,以下のとおり判示した。 「ある者が化学物質又はそれを有効成分とする医薬品についての特許権を有する場合において,第三者が,特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬 品と有効成分等を同じくする医薬品(以下「後発医薬品」という。)を製造して販売することを目的として,その製造につき薬事法14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特 許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とはならないものと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。 1 特許制度は,発明を公開した者に対し,一定の期間その利用についての独占的な権利を付与することによって発明を奨励するとともに,第三者に対しても,この公開された発明を利用する機会を与え,もって産業の発達に寄与 しようとするものである。このことからすれば,特許権の存続期間が終了し た後は,何人でも自由にその発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるようにすることが,特許制度の根幹の一つであるということができる。 2 薬事法は,医薬品の製造について,その安全性等を確保するため,あらかじめ厚生大臣の承認を得るべきものとしているが,その承認を申請するには, 各種の試験を行った上,試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。後発医薬品につ るため,あらかじめ厚生大臣の承認を得るべきものとしているが,その承認を申請するには, 各種の試験を行った上,試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。後発医薬品についても,その製造の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要する点では同様であって,その試験のためには,特許権者の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し,使用する必要がある。もし特許法 上,右試験が特許法69条1項にいう「試験」に当たらないと解し,特許権存続期間中は右生産等を行えないものとすると,特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間,第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。この結果は,前示特許制度の根幹に反するものというべきである。 3 他方,第三者が,特許権存続期間中に,薬事法に基づく製造承認申請のた めの試験に必要な範囲を超えて,同期間終了後に譲渡する後発医薬品を生産し,又はその成分とするため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは,特許権を侵害するものとして許されないと解すべきである。そして,そう解する限り,特許権者にとっては,特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益は確保されるのであって,もしこれを,同期間中は後発医薬 品の製造承認申請に必要な試験のための右生産等をも排除し得るものと解すると,特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果となるが,これは特許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものといわなければならない。」(なお,本判決を通じ,「後発医薬品」とは,特許発明に係る医薬品と,成 分,用法,効能等を同一にするものをいう。) 3 争点(1) 本件治験が特許法6 ない。」(なお,本判決を通じ,「後発医薬品」とは,特許発明に係る医薬品と,成 分,用法,効能等を同一にするものをいう。) 3 争点(1) 本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるか(争点1)(2) 被告が本件発明に係る通常実施権を有するか(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるか(被告の主張)本件治験は,特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるから,本件特許権の効力が及ばない。 (1) 平成11年最判は,「ある者が化学物質又はそれを有効成分とする医薬品についての特許権を有する場合において,第三者が,特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じくする医薬品…を製造して販売することを目的として,その製造につき薬事法14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を 生産し,これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とはならない」と判示する。 同判決が指摘する薬事法14条(当時)は,先発医薬品と後発医薬品の区別なく,医薬品等の承認申請とそれに必要な治験等について定めており,同判決 にいう「薬事法14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験」は,先発医薬品,後発医薬品の区別なく必要 申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して右申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験」は,先発医薬品,後発医薬品の区別なく必要な試験である。同判決が「後発医薬品についても,その製造の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うこ とを要する点では同様であって,」と判示しているのは,後発医薬品と他の医 薬品とを区別する必要がないことを前提としている。 また,先発医薬品は,後発医薬品よりも製造販売承認を得るのにより多くの試験を行う必要があり,承認までに長期間を要することから,本件治験が特許法69条1項にいう「試験」に当たらないと解し,本件特許権の存続期間中は本件治験に必要な生産等を行えないとすると,「特許権の存続期間が終了した 後も,なお相当の期間,本件発明を自由に利用し得ない結果とな」り,「特許制度の根幹に反する」事態を招くことになる。 したがって,先発医薬品の製造販売承認のための本件治験は,平成11年最判の趣旨に照らして,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当する。 (2) 原告は,東京地裁昭和60年(ワ)第7463号等同62年7月10日除草剤事件判決・判タ655号233(以下「除草剤事件判決」という。)などに基づき,先発医薬品の治験が特許法69条1項の「試験」に該当するためには,技術の進歩を目的とするものであることを要すると主張する。 アしかし,平成11年最判は,「技術の進歩」を要件とする除草剤事件判決 の考え方を否定したものである。 仮に,技術の進歩を目的とするものであることが要件となるとしても,新薬(先発医薬品)の治験は,①医薬品の有効性及び 進歩」を要件とする除草剤事件判決 の考え方を否定したものである。 仮に,技術の進歩を目的とするものであることが要件となるとしても,新薬(先発医薬品)の治験は,①医薬品の有効性及び安全性の確保という極めて公益性の強い目的を有し,②従来の医薬品になかった新たな薬効があることを確認することにより医薬品分野の技術の進歩にも寄与するものである ので,試験研究のための実施に当たる(東京地裁平成8年(ワ)第8627号同10年2月9日コンセンサス・インターフェロン事件判決・判タ966号263頁(以下「コンセンサス・インターフェロン事件判決」という。)参照)。 すなわち,新薬に関する薬事法上の製造承認審査に必要な治験は,一般に, 極めて高い公益性を有するものであり,そのために提出される資料は,従来 の医薬品にはなかった新たな改良点を含む新薬について,副作用等も含めて真に医薬としての効果があるか否かを明らかにするためのものであるから,医薬品分野の技術の進歩に寄与するものであるということができる。本件治験も,先発医薬品の製造承認申請のための資料を得るために行われているものであるから,上記①,②を具備しており,試験研究のための実施に当たる。 イこれに対し,原告は,T-VECは,平成27年に欧米で既に承認されているので,本件治験は,従来の医薬品になかった新たな薬効があることを確認するものではないと主張する。 しかし,先発医薬品は,その性質上,従来の医薬品になかった新たな薬効を確認するものであるからこそ,医薬品医療機器等法上,先発医薬品と同一 の薬効を有すべきものとされる後発医薬品と異なり,実際に治験を行ってその薬効を確認する必要があるとされているのである。 また であるからこそ,医薬品医療機器等法上,先発医薬品と同一 の薬効を有すべきものとされる後発医薬品と異なり,実際に治験を行ってその薬効を確認する必要があるとされているのである。 また,先発医薬品に関して各国でそれぞれ治験が必要とされるのは,各国がそれぞれ薬事行政を行っていることに加え,人種によって薬効や副作用が異なる可能性があることによるものである。このように,各国における治験 は,従来の医薬品になかった新たな薬効があることを確認するものである。 (3)ア原告は,被告が本件特許権の存続期間内において直ちにT-VECの使用を開始するおそれがある場合には,特許権の存続期間内に治験薬の製造販売を開始することを目的として行うものとみなされ,特許法69条1項の「試験」に該当しないと主張する。 しかし,平成11年最判は,存続期間満了後に譲渡する医薬品を前もって特許存続期間中に生産すること及び存続期間満了後に譲渡する医薬品の成分とするために特許発明に係る化学物質を生産,使用することを禁止する限り,特許権者の利益は確保されると判示している。同判決は,本件特許権の存続期間内において直ちにT-VECの使用を開始するおそれがあるかどうか, また,特許権の存続期間内に治験薬の製造販売を開始することを目的として いるかどうかなどを問題としていない。 また,原告の主張するように,本件特許権の存続期間中にT-VECの製造販売承認を取得することができるどうかというタイミングを問題にすると,第三者は,予測し難い諸事情を考慮して治験開始の時期を決定しなければならないことになるが,治験完了時期や薬事承認,薬価収載の時期は客観的に確 定し難いので,治験が適法となる時期を一義的に確定し難く,差止めのリ し難い諸事情を考慮して治験開始の時期を決定しなければならないことになるが,治験完了時期や薬事承認,薬価収載の時期は客観的に確 定し難いので,治験が適法となる時期を一義的に確定し難く,差止めのリスクを考慮して,非常に遅い時期に治験を開始せざるを得なくなる。そうすると,実際に第三者が製造販売の承認を得られるのは,特許権存続期間が終了して相当期間が経過後とならざるを得ないが,これは,平成11年最判にいう「特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間,第三者が当該発明 を自由に利用し得ない結果」を招くもので,特許制度の根幹に反する。 イもっとも,被告は,●(省略)●(乙11)。 本件治験は,現在,第Ⅰ相臨床試験(フェーズⅠ,臨床薬理試験)の段階にあるが,既に欧米で承認された製品を対象とするものであるから,第Ⅱ相臨床試験(フェーズⅡ,探索的試験)及び第Ⅲ相臨床試験(フェーズⅢ,検 証的試験)を省略して承認申請を行うことも可能である。 しかし,本件治験が外国臨床データを利用するブリッジング試験を行うものであるとしても,「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針」(乙15・4頁)に「新地域における有効性,安全性及び用法・用量に関する臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的とし て行われる。」と記載されているとおり,同試験は,安全性を示せば足りるものではない。実際上,本件治験は,T-VECの「日本人被験者における安全性及び有効性を評価するための試験」(甲8の1・2頁)であって,安全性のみを評価するものではない。 更に具体的にいうと,本件治験においては,修正版WHO応答基準を用いた DRR(DurableResponseRate(持続性奏効率))によ 安全性のみを評価するものではない。 更に具体的にいうと,本件治験においては,修正版WHO応答基準を用いた DRR(DurableResponseRate(持続性奏効率))によって評価されるT-VECの 抗腫瘍活性が主要評価項目となっている(甲8の1・4頁)。このDRRは,「最初の12か月以内に開始する完全奏功(CR)及び部分奏功(PR)が6か月連続して継続した割合として定義される」(乙14)ものであるから,本件治験では,被験者の最終組入れから18か月間は主要評価のためのデータが揃わないと考えられる。●(省略)●主要評価項目のデータが取得できるのは, その18か月後の●(省略)●となる。 その後,本件治験データを分析し,総括報告書を作成するのに約7か月を要し,これを承認申請資料に組み入れるのに約2か月必要となる。T-VECの承認のための審査が通常審査,優先審査のいずれの対象になるかは未定であるが,仮に優先審査の対象となり,9か月で承認を得られるとすれば,その 後,薬価の評価に2か月程度必要なので,医薬としての上市が可能となるのは,●(省略)●から20か月後の●(省略)●となる。 このように,本件治験は,本件特許権の存続期間終了前の製造販売を目的とするものではない。 (4) 原告は,本件発明のような革新的なバイオ医薬品については,特許出願から 製品化までの間に時間がかかり,特許権存続期間終了後すぐに競合他社が参入できるのは不当であるから,同期間終了後も特許権者の独占状態を維持することができるようにすべきであると主張する。 しかし,特許法は,特許権者の利益と第三者の利益を衡量した上で,特許発明の種類や技術的価値の大小等にかかわらず,一律に特許権存続期間を出願 持することができるようにすべきであると主張する。 しかし,特許法は,特許権者の利益と第三者の利益を衡量した上で,特許発明の種類や技術的価値の大小等にかかわらず,一律に特許権存続期間を出願の 日から20年と定め(特許法67条1項),例外的に,医薬品等については明文で延長登録制度を設け(同条2項),この範囲においてのみ特許権者に独占権を与えることを意図し,これを法定したものであって,特許発明の種類や技術的価値によって特許権存続期間終了後にも特許権者に独占の利益を付与するなどといったことを全く予定していない。 原告は,平成11年最判は革新的なバイオ医薬品を想定していないと主張す るが,同判決当時から特許発明には様々なカテゴリーのものがあり,技術的価値の大小も存在していたのであり,同判決は,こうした事情を前提としつつ,これらを区別せず特許法69条1項の適用につき一律な基準を示したものである。 (5) 原告は,原告のグループが開発中の製品の販売開始時に本件特許権の存続期 間がほとんど残存しないのは不当である旨の主張をする。 しかし,それは,原告らの出願戦略や共同研究開発開始の遅れ,開発の遅滞等に起因するものであり,これによる不利益を,被告を含む第三者に転嫁することはできない。原告らの製品が先駆け審査指定制度等の指定を受けて優先的な審査を受けられる立場にありながら開発が遅れているのだとすれば,それは 原告ら自らの責任である。 (原告の主張)本件治験は,特許法69条にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たらない。 (1) 特許法69条1項の立法趣旨は,試験又は研究は本来技術を次の段階に進歩 せしめることを目的とするものであって,特許に係る物の生 又は研究のためにする特許発明の実施」に当たらない。 (1) 特許法69条1項の立法趣旨は,試験又は研究は本来技術を次の段階に進歩 せしめることを目的とするものであって,特許に係る物の生産,譲渡等を目的とするものではないので,特許権の効力をこのような試験,研究にまで及ぼすことは,かえって技術の進歩を阻害することになる(除草剤事件判決参照)。 また,平成11年最判は,後発医薬品の販売を目的とする承認申請のための試験に関するものであり,新薬(先発医薬品)の製造販売の承認申請のための 臨床試験は,その射程外である。 そうすると,特許法69条にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に該当するためには,①技術の進歩を目的とするものであるか,又は,②後発医薬品の製造承認のためのものであることを要するというべきである。 本件治験は,先発医薬品の治験であり,後発医薬品の製造承認のためのもの ではないので,本件治験が試験研究のための実施に当たるというためには,技 術の進歩を目的とするもの,すなわち,従来の医薬品になかった新たな薬効があることを確認するものでなければならない(コンセンサス・インターフェロン事件判決参照)。 しかるに,T-VECは,平成27年に欧米で既に承認されており,本件治験は,その薬効を確認するものではなく,薬効が既知である医薬品について,単に我 が国での販売を目的として行うものにすぎないから,従来の医薬品になかった新たな薬効があることを確認するものではない。 したがって,本件治験は,特許法69条にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たらない。 (2) 仮に,平成11年最判の趣旨が先発医薬品にも妥当するとしても,本件治験 は したがって,本件治験は,特許法69条にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たらない。 (2) 仮に,平成11年最判の趣旨が先発医薬品にも妥当するとしても,本件治験 は,特許権の存続期間内に治験薬の製造販売を開始することを目的として行うものであるので,特許法69条1項の「試験又は研究」には当たらない。 本件特許権の存続期間は令和4年(2022年)3月27日までであり,存続期間の満了まで相当程度の期間が残存しているところ,本件治験は欧米で承認済みの抗がん剤の我が国における承認国拡大のためのいわゆるブリッジン グ試験であるので,現在のフェーズが最終フェーズである。 そして,本件治験については,予想される主要評価完了日(治験の有効性判定に必要な主要評価項目に関する立証データの最終取得日)は令和元年6月6日(その後令和2年3月27日に変更),予想される治験完了日(副次評価項目や副作用に関する観察機関の全ての臨床データの最終取得日)は令和3年3 月27日とされており,被告は,主要評価完了により製造販売承認申請をするためのデータが取得されるから,その後は,治験完了を待たずに製造販売承認申請が可能となるところ,主要評価完了日から本件特許権の存続期間終了日(令和4年3月27日)までは約2年10か月(令和2年3月27日からでも2年)もの期間がある。 一般に,製造販売承認申請から承認までの期間が9か月であるから(甲13), 客観的に見て,被告は,本件特許権の存続期間中にT-VECの製造販売承認を取得し,その製造販売を開始することができる状況にある。被告は,総括報告書作成に7か月を要すると主張するが,本件治験はブリッジング試験であるから,より短い期間で同報告書を作成すること 製造販売承認を取得し,その製造販売を開始することができる状況にある。被告は,総括報告書作成に7か月を要すると主張するが,本件治験はブリッジング試験であるから,より短い期間で同報告書を作成することが可能である。しかも,被告は,上市までの年月を見込んでおり,T-VECの製造販売承認を申請する意図を有してい ることは明らかである。 そうすると,被告が本件特許権の存続期間満了まではT-VECを製造販売する予定はないと主張したとしても,被告が本件治験に基づきT-VECの製造販売承認を取得すれば,本件特許権の存続期間内において直ちにT-VECの使用を開始するおそれが客観的にあるということができる。 このように,本件特許権の存続期間内において直ちにT-VECの使用を開始する客観的なおそれがある場合は,本件特許権の存続期間中の製造販売開始を目的とするものであるとみなされるというべきである。 (3) 本件発明は,いわゆるバイオ医薬品の開発に係るものであるが,平成11年最判当時,バイオ医薬品はまだほとんど知られていなかったから,バイオ医薬 品であるT-VECは同判決の射程外である。 バイオ医薬品は,平成26年11月に改正された医薬品医療機器等法における再生医療等製品に該当するところ,再生医療等製品は,医薬品や医薬部外品等に加えて同改正により新たに規定されたものであり,医薬品等と同様の取扱いを受けるものではない。 既存の抗体医薬よりも更に新しい技術を用いる革新的医薬品と称される再生医療等製品等の開発は,通常,医師による臨床研究の結果に基づき開発が進められ,その際に見いだされた発明について特許出願を行うことになるため,特許出願から製品化までには一般に15年~18年程度という長期間を要する。 発は,通常,医師による臨床研究の結果に基づき開発が進められ,その際に見いだされた発明について特許出願を行うことになるため,特許出願から製品化までには一般に15年~18年程度という長期間を要する。中でも,遺伝子組換えがん治療ウイルスは,「革新的医薬品・医療機器・ 再生医療製品実用化促進事業」に選定されるなど,再生医療等製品としての革 新性が高く,様々な規制があるので,製造販売承認を得て製品化される時期が当該特許権の存続期間終了間近とならざるを得ない。 それゆえ,発明者の開発と同時並行的に他者が当該特許発明の類似品(バイオシミラー)の開発(治験)を行うことが許され,かつ,当該特許権の存続期間終了と同時に当該類似品の発売が許されるとすれば,革新的なバイオ医薬品 の発明者及び特許権者の利益が不合理なまでに毀損されることとなる。 本件発明の実施品であるG47Δは,先駆け審査指定制度の対象品目として製造販売承認前の臨床開発中であるが,これは画期的な効果が期待できるものであり,その公益性は高い。また,G47Δは,我が国ではカルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)の対象と なり,特別な申請と審査が要求されるため,一般のバイオ医薬品と比べても更に長期間の開発期間を要し,その製造工程もインターフェロン等に比べてはるかに複雑で多くの労力を要する。このため,本件治験に対して本件特許権の効力が及ばないとすると,G47Δという画期的な新薬等の開発が阻害され,特許権と試験研究とのバランスを欠くことになる。 以上のとおり,平成11年最判当時想定すらされていなかった本件特許権のような革新的バイオ医薬品に係る特許権に対して,形式的かつ表面的な文言解釈により同判決の趣 スを欠くことになる。 以上のとおり,平成11年最判当時想定すらされていなかった本件特許権のような革新的バイオ医薬品に係る特許権に対して,形式的かつ表面的な文言解釈により同判決の趣旨を適用することは,その発明者及び特許権者の利益を不当に害することになる。 (4) 平成11年最判は,特許権者が特許権存続期間中の特許発明の独占的実施に よる利益を確保し得ることを前提としているところ,後発医薬品の場合と異なり,バイオ医薬品の場合には,特許権者が特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益を確保することは困難であるので,その適用の前提を欠いている。 ア平成11年最判は,後発医薬品の治験に関する事例であるが,後発医薬品 の場合には,先発医薬品メーカーは,特許発明の独占的実施による利益を確 保することが可能である。 すなわち,新医薬品については,その製造販売承認後一定期間(再審査期間)が経過した後に,承認を取得した企業が実際に医療機関で使用されたデータを収集し,承認された効能効果,安全性について再度確認する再審査の制度があり(医薬品医療機器等法14条の4),新有効成分医薬品について は8年間の再審査期間が定められている。このため,仮に,先発医薬品メーカーが市場において製造販売を開始してからすぐに当該特許権の存続期間が終了しても,後発医薬品メーカーは,再審査期間中は基礎研究や臨床試験を省略し,規格及び試験方法に関する資料,加速試験に関する資料,生物学的同等性に関する資料を添付するのみで製造販売承認を得ることはできな い。 このように,先発医薬品メーカーは,当該特許の存続期間とは別に,少なくとも再審査期間中は,事実上,市場において独占的に当該先発医薬品を製造販 製造販売承認を得ることはできな い。 このように,先発医薬品メーカーは,当該特許の存続期間とは別に,少なくとも再審査期間中は,事実上,市場において独占的に当該先発医薬品を製造販売し,利益を獲得することができる。平成11年最判は,かかる状況を踏まえたうえで,後発医薬品の治験について,例外的に特許権侵害に当たら ないと判断していると考えられる。 イ他方,本件のようなバイオ医薬品(ウイルス製剤)の場合,その製造販売承認を取得するまでに時間がかかり,G47Δも製造販売承認前であって,原告は市場において当該医薬品を独占的に製造販売することによる利益を全く獲得していない。 もとより,特許権については,存続期間の延長という制度があるが,特許権の存続期間が延長された場合であっても,延長に係る特許発明の効力は,その延長登録の理由となった特許法67条第2項の政令で定める処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)及びこれと医薬品として実質同一なものまでしか及ばない(知財 高裁平成28年(ネ)第10046号同29年1月20日オキサリプラチン 事件大合議判決。以下「オキサリプラチン事件大合議判決」という。)。 このように,本件特許権の存続期間が延長されたとしても,限定された範囲にしか延長された特許権の効力は及ばないことから,被告がT-VECに係る製造販売承認を得れば,本件特許権の存続期間終了後,すぐに市場において同製品の製造販売をすることが可能となり,被告があたかも先発医薬品の販 売を行う特許権者であるような地位を得ることとなる。 また,T-VECは,遺伝子組換え技術を用いて作成されるバイオ医薬品であり,新有効成分医薬 能となり,被告があたかも先発医薬品の販 売を行う特許権者であるような地位を得ることとなる。 また,T-VECは,遺伝子組換え技術を用いて作成されるバイオ医薬品であり,新有効成分医薬品と認められれば,後続医薬品との関係において,上記再審査期間の8年間は独占的な利益を得ることができることとなるが,特許権者である原告には全く特許発明の独占的実施による利益を獲得できない にもかかわらず,被告がこのような利益を得るのは明らかに不合理である。 ウしたがって,本件治験に対して本件特許権の効力が及ぶと解し,特許権者である原告が取得すべき利益を確保できるようにすることこそが,特許制度の根幹に沿うものである。 (5) 被告は,特許権存続期間終了後に第三者がようやく治験を開始できるとする と,その後,治験,薬事承認及び薬価収載に要する相当長期間,特許権の実施品を製造販売できないこととなり不当であると主張する。 しかし,それは,治験,薬事承認及び薬価収載に要する期間の長さに原因があるのであって,そのことを理由として特許法69条1項を解釈するのは本末転倒である。むしろ,特許権存続期間終了後に第三者がすぐに特許権の実施品 を製造販売することができるようにするために同条項を適用するとすれば,後発医薬品メーカーは,様々な医薬品の特性に関係なく,また,迅速な薬事承認関連手続を実現するための努力の有無,程度にかかわらず,特許権の存続期間の終了直後からその実施品を製造販売することができることになるが,これは特許権者の利益を不当に犠牲にするものである。 2 被告が本件発明に係る通常実施権を有するか (被告の主張)被告は,米Amgen社又は被告自身が有するライセンスに基づいて本件治験を行 当に犠牲にするものである。 2 被告が本件発明に係る通常実施権を有するか (被告の主張)被告は,米Amgen社又は被告自身が有するライセンスに基づいて本件治験を行っているものであり,本件発明に係る通常実施権を有する。 (1) 本件ライセンスの取得米Amgen社又は被告は,以下のとおり,本件特許権を使用するライセンスを 有している。 ア Hospital社からMediGene社へのライセンス供与前記第2の2(2)イ(イ)のとおり,Hospital社は,平成17年7月15日,MediGene社と本件ライセンス契約を締結し,MediGene社及びその関連会社に対して,非独占的,無償,サブライセンス不可との内容の本件ライセンスを 付与した(乙3)。 イ MediGene社のCatherex社への現物出資MediGene社は,平成22年4月1日,Catherex社と現物出資契約(以下「本件現物出資契約」という。)を締結し,●(省略)●(乙4別紙1)。これにより,Catherex社は,本件ライセンスに係る契約上の地位を取得した。 なお,本件現物出資契約及び本件ライセンス契約においては,本件ライセンス契約に基づく地位の移転にHospital社の同意が必要であるとされておらず,本件ライセンスは実施の事業とともに譲渡されているから,その移転にHospital社の同意は不要である。 ウ米Amgen社によるCatherex社の買収 米Amgen社は,平成27年12月18日,Catherex社及びその株主と株式譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」という。乙5)を締結し,Catherex社の株式を取得し,同社は米Amgen社の 米Amgen社は,平成27年12月18日,Catherex社及びその株主と株式譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」という。乙5)を締結し,Catherex社の株式を取得し,同社は米Amgen社の関連会社(完全子会社)となった。 本件ライセンスはMediGene社及びその関連会社に対して付与されたものであり,このように関連会社単位で付与された本件ライセンスをCatherex社 が承継したのであるから,同社の親会社である米Amgen社も同ライセンスを 有する。本件治験の主体は米Amgen社であり(甲8の1・8頁),被告は,その補助者ないし手足として本件治験を請け負って行っているにすぎないから,本件治験は,米Amgen社のライセンスに基づくものである。 また,前記のとおり,本件ライセンスは関連会社の単位で付与されており,米Amgen社の子会社である被告とCatherex社は,互いに共通の親会社である 米Amgen社の支配下にある関連会社であるから,被告自身が本件ライセンスを有するということもできる。 (2) 本件ライセンスの対抗力等ア特許ライセンス契約は,特許権の債権的な利用に関する契約であり,その本質はライセンサーからライセンシーに対する権利の不行使の合意である。 被告は,この不行使の合意を抗弁として主張するものであって,その法律関係は,純然たる債権行為に係るものである。そのため,本件で問題となるライセンス契約の抗弁に関しては,ライセンスの対抗力も含め,債権行為として,法の適用に関する通則法7条に基づき,当事者の選択又は意思に従って準拠法が適用されるところ,本件ライセンス契約は,いずれも米国の州法に 基づいて設立されたHospital社とMediGene社との間で,米国 る通則法7条に基づき,当事者の選択又は意思に従って準拠法が適用されるところ,本件ライセンス契約は,いずれも米国の州法に 基づいて設立されたHospital社とMediGene社との間で,米国法の様式により英文で作成されたものであるから,米国法が適用される。 イ米国法上,ライセンスの対象となっている特許権の譲受人は,当該ライセンスによる制約付きで特許権を譲り受けるとされている(乙7~9)。前記のとおり,本件ライセンスが設定されたのは平成17年7月15日であるか ら,原告は,平成18年10月26日にHospital社から特許を受ける権利の譲渡を受けた際,ライセンスによる制約付きの権利を譲り受けたものである。 このため,ライセンシーである米Amgen社又は被告は,当然に原告人に本件ライセンスを対抗することができる。 加えて,原告は,本件譲渡契約締結時に本件ライセンス契約の存在を認識 していたのであるから,原告は,ライセンスによる制約付きの権利を譲り受 けることに合意したものである。 (3) 本件ライセンス契約の解除について原告は本件ライセンス契約を解除したと主張するが,その法的根拠は明らかではない上,医薬に係る特許ライセンス契約について,解除の意思表示が到達してから120日の経過で相当期間が経過したと解すべき理由はないので,原 告の主張は失当である。 (4) 原告が本件特許権を有することの立証不十分であることについて原告は,本件特許を受ける権利の譲渡が有効にされたことについて立証責任を負うところ,本件譲渡契約の契約書(乙1)においては,同契約が,平成18年3月11日付けのHospital社から原告への放棄書の要件及び/又は義務 に従うものとし,同放棄書は ついて立証責任を負うところ,本件譲渡契約の契約書(乙1)においては,同契約が,平成18年3月11日付けのHospital社から原告への放棄書の要件及び/又は義務 に従うものとし,同放棄書は,原告が同放棄書の条件に従うことに合意したことの証として,同月16日に署名されたものである旨の記載がある。 同契約書に記載のある「放棄書」は,Hospital社が,平成17年7月15日にMediGene社との間で本件ライセンス契約を締結していることに照らすと,本件ライセンス契約のライセンシー及びその承継人に対する権利行使の放棄に 関するものである可能性が高い。 原告が本件特許を受ける権利を有効に譲り受けたというためには,米国法に基づき,上記条件を遵守していることを立証する必要があるが,原告は,上記「放棄書」の記載内容を明らかにせず,これを遵守していることを立証していない。 (原告の主張)米Amgen社及び被告は,いずれも本件ライセンスを有するものではなく,また,仮に本件ライセンスを有するとしても,同ライセンスを原告に対抗することができず,更に本件ライセンス契約は解除されているので,いずれにしても,被告の主張は理由がない。 (1) 本件ライセンスの取得について ア本件現物出資契約について本件ライセンス契約に基づくライセンスの譲渡につき,ライセンサーであるHospital社の同意が必要である旨が同契約や本件現物出資契約において規定されていなくとも,Hospital社の不測の不利益を防止する見地から,かかる譲渡には同社の同意が必要と解されるところ,この同意があったことの 立証はない。 また,特許法94条において「実施の事業とともにする場合」に特 の不測の不利益を防止する見地から,かかる譲渡には同社の同意が必要と解されるところ,この同意があったことの 立証はない。 また,特許法94条において「実施の事業とともにする場合」に特許権者の承諾を得ることなく通常実施権を移転することができるとされたのは,設備荒廃の防止等の国民経済上の理由に基づくものであるから,ここでの「実施の事業」とは,特許発明の実施をするに足る事業を意味するものと解すべ きであるが,本件現物出資契約により,MediGene社からCatherex社に同事業が譲渡されたのか不明であり,そもそも,本件現物出資契約は事業譲渡契約ではないから,被告の主張は失当である。 イ本件株式譲渡契約について本件ライセンス契約における「関連会社」は,同契約締結時点の関連会社 を意味し,契約締結時以降に関連会社となったものは含まないと解するのが当事者の意思解釈として合理的というべきであるから,本件株式譲渡契約によってCatherex社が米Amgen社の完全子会社になったとしても,同社がライセンスを有することにはならない。 なお,本件治験の主体が被告であることは,被告ウェブサイトの記載(甲 2)から明らかである。 (2) ライセンスの対抗力等について本件ライセンス契約の準拠法が米国法であることについては特に争わないが,これを我が国の特許権に係る特許権者である原告に対抗するには,登録国法である日本国法に基づいて対抗し得ることが必要である。つまり,本件ライ センスの対抗力に関する準拠法は登録国法である日本法である。 被告が主張する本件ライセンスは平成17年7月15日に締結された本件ライセンス契約に基づくものであり,現行法上の仮通常実施権に当 抗力に関する準拠法は登録国法である日本法である。 被告が主張する本件ライセンスは平成17年7月15日に締結された本件ライセンス契約に基づくものであり,現行法上の仮通常実施権に当たるが,仮通常実施権は平成20年の特許法改正により導入された概念であり,それ以前には,特許を受ける権利の譲受人に対抗し得る手段は存在しなかった(甲19)。 また,通常実施権及び仮通常実施権の当然対抗制度は,平成23年特許法改正 により導入されたものであり,その施行日(平成24年4月1日)以前に付与された通常実施権については適用されない。このため,本件ライセンスを原告に対抗するには登録が必要である。 原告は,平成18年10月26日にHospital社から本件特許を受ける権利を譲り受け,平成20年11月7日に本件特許権者として登録されたが,本件特 許権に係る特許原簿(甲1の1)には,本件ライセンスに関する登録はされていない。 なお,被告は,原告が本件ライセンス契約の存在を認識していたと主張するが,仮に被告が同契約の存在を認識していたとしても,原告が対抗力の欠如の主張をすることを放棄し,米Amgen社や被告に対するライセンスの負担を引き 受けることまで了承したものではない。 したがって,MediGene社は,原告に対して本件ライセンスを対抗することができず,これを承継したと主張する被告も,原告に対し,当該ライセンスを対抗することができない。 (3) 本件ライセンス契約の解除 仮に,米Amgen社や被告が本件ライセンス契約に基づく通常実施権を有しているとしても,米国法においては,期間の定めのない知的財産権ライセンス契約について,相手方の債務不履行等の解除原因の有無を問わず,自由に解除す 社や被告が本件ライセンス契約に基づく通常実施権を有しているとしても,米国法においては,期間の定めのない知的財産権ライセンス契約について,相手方の債務不履行等の解除原因の有無を問わず,自由に解除することができるので(甲20),原告は,原告第3準備書面が被告に到達してから120日が経過した時点をもって,本件ライセンス契約を解除する。 (4) 原告が本件特許権を有すること 本件特許権の特許権者として特許原簿に登録されているのは原告であるから,原告が本件特許権を有することは明らかである。被告が本件譲渡契約の有効性を争うのであれば,被告がその無効につき主張立証すべきである。 原告のHospital社に対する守秘義務の関係で,本件譲渡契約に言及されている「放棄書」の内容を明らかにすることはできないが,そもそも,同「放棄書」 は,Hospital社が本件特許に関する権利を放棄するものであり,原告が本件ライセンス契約に基づくライセンシー及びその承継人に対する権利行使の放棄は本件譲渡契約の条件とされていない。原告は,同「放棄書」に定める要件及び義務に違反しておらず,本件譲渡契約は有効に成立したものである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるか)について(1) 特許法69条1項は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」について特許権の効力が及ばないと規定しているが,その趣旨は,特許法1条に規定された「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発 達に寄与する」ためには,当該発明をした特許権者の利益を保護することが必要である一方,特許権の効力を試験又は研究のためにする特許発明の実施にまで 図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発 達に寄与する」ためには,当該発明をした特許権者の利益を保護することが必要である一方,特許権の効力を試験又は研究のためにする特許発明の実施にまで及ぼすと,かえって産業の発達を損なう結果となることから,産業政策上の見地から,試験又は研究のためにする特許発明の実施には特許権の効力が及ばないこととし,もって,特許権者と一般公共の利益との調和を図ったものと解 される。 本件治験が同項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかどうかは,特許法1条の目的,同法69条1項の上記立法趣旨,医薬品医療機器等法上の目的及び規律,本件治験の目的・内容,治験に係る医薬品等の性質,特許権の存続期間の延長制度との整合性なども考慮しつつ,保護すべき 特許権者の利益と一般公共の利益との調整を図るという観点から決すること が相当である。 (2) 前記第2の2(8)のとおり,平成11年最判は,後発医薬品について,第三者が,特許権の存続期間終了後に特許発明に係る医薬品と有効成分等を同じくする後発医薬品を製造して販売することを目的として,その製造につき薬事法(当時)14条所定の承認申請をするため,特許権の存続期間中に,特許発明 の技術的範囲に属する化学物質又は医薬品を生産し,これを使用して同申請書に添付すべき資料を得るのに必要な試験を行うことは,特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たり,特許権の侵害とはならないと判示している。 本件治験の対象とされているT-VECは,前記第2の2(5)のとおり,外国の医 薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジング試験を行っている先発医薬品であるが,以下のとおり,本件治験についても 験の対象とされているT-VECは,前記第2の2(5)のとおり,外国の医 薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジング試験を行っている先発医薬品であるが,以下のとおり,本件治験についても,平成11年最判の趣旨が妥当するものと解される。 ア平成11年最判は,後発医薬品が特許法69条1項にいう「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たる理由として,後発医薬品についても, 他の医薬品と同様,その製造の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要し,その試験のためには,特許権者の特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し,使用する必要がある点を指摘する。 本件治験は,外国の医薬品規制当局の製造承認を受け,我が国でブリッジ ング試験を行うものであるが,証拠(乙15)によれば,ブリッジング試験とは,外国臨床データを新地域の住民集団に外挿するために新地域で実施される臨床試験であり,新地域における有効性,安全性及び用法・用量に関する臨床データ又は薬力学的データを得ることを目的として行われるものであって,同試験に当たり,一定の条件に適合する外国臨床データは医薬品の 製造等承認申請書に添付される資料として受け入れられるものの,日本人に おける当該医薬品の有効性及び安全性の評価を行うため,原則として,国内で実施された臨床試験成績に関する資料を併せて提出することが必要であると認められる。 そして,本件治験は,T-VECの「日本人被験者における安全性及び有効性を評価するための試験」(甲8の1・2頁「OfficialTitle」欄)であり,修 正版WHO応答基準を用いたDRR(持続性奏効率)によって評価されるT-VECの抗腫瘍活性が主 性及び有効性を評価するための試験」(甲8の1・2頁「OfficialTitle」欄)であり,修 正版WHO応答基準を用いたDRR(持続性奏効率)によって評価されるT-VECの抗腫瘍活性が主要評価項目となっているものと認められる(甲8の1・4頁「PrimaryOutcomeMeasures」欄の2)。このDRRとは,乙14の論文によれば,最初の12か月以内に開始する完全奏功(CR:腫瘍が完全に消失すること)及び部分奏功(PR:腫瘍が一定の割合以上小さくなること)が6か月連 続して継続した割合として定義されるものであるから,T-VECの製造販売の承認申請には,日本人被験者にT-VECを投与して,一定の期間をかけて臨床試験を行うことが必要となる。 そうすると,先発医薬品等に当たるT-VECについても,後発医薬品と同様,その製造販売の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所 定の試験を行うことを要し,その試験のためには,本件発明の技術的範囲に属する医薬品等を生産し,使用する必要があるということができる。 イ平成11年最判は,特許権存続期間中に,特許発明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品の生産等を行えないとすると,特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間,第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果 となるが,この結果は,特許権の存続期間が終了した後は,何人でも自由にその発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるようにするという特許制度の根幹に反するとしている。 T-VECについても,前記判示のとおり,その製造販売の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要するので, 本件特許権の存続期間中に,本件発明の技 T-VECについても,前記判示のとおり,その製造販売の承認を申請するためには,あらかじめ一定の期間をかけて所定の試験を行うことを要するので, 本件特許権の存続期間中に,本件発明の技術的範囲に属する医薬品の生産等 を行えないとすると,特許権の存続期間が終了した後も,なお相当の期間,本件発明を自由に利用し得ない結果となるが,この結果が特許制度の根幹に反するものであることは,平成11年最判の判示するとおりである。 ウ平成11年最判は,第三者が,特許権存続期間中に,薬事法(当時)に基づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて,同期間終了後に譲渡 する後発医薬品を生産し,又はその成分とするため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは,特許権を侵害するものとして許されないと判示する。 本件治験については,前記のとおり,医薬品医療機器等法の規定に基づいて第Ⅰ相臨床試験を行っているところであり,被告が,本件特許権の存続期 間中に,本件特許権の存続期間満了後の譲渡等を見据え,同法に基づく製造販売承認のための試験に必要な範囲を超えてT-VECを生産等し,又はそのおそれがあることをうかがわせる証拠は存在しない。 そうすると,特許権者である原告が本件特許権の存続期間中にその独占的実施により利益を得る機会は確保されるのであって,それにもかかわらず, 本件特許権の存続期間中にT-VECの製造承認申請に必要な試験のための生産等をも排除し得るものと解すると,本件特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果となるが,それは,平成11年最判も判示するとおり,特許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものというべきである。 エ以上のとおり,平成11年 るのと同様の結果となるが,それは,平成11年最判も判示するとおり,特許権者に付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものというべきである。 エ以上のとおり,平成11年最判の趣旨は本件治験についても妥当するので,本件治験は,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たる。 (3) 原告の主張についてア原告は,医薬品等の治験が特許法69条1項にいう「試験又は研究のため にする特許発明の実施」に該当するためには,技術の進歩を目的とすること を要すると解した上で,本件治験は,欧米で既に承認されたT-VECを我が国で販売することを目的とするものにすぎないから,技術の進歩を目的とするものではないと主張する。 (ア) しかし,前記のとおり,特許法69条1項に該当するかどうかは,特許法の目的や医薬品医療機器等法による規律も考慮しつつ,特許権者と一般 公共の利益との調和という観点から決すべきところ,一般公共の利益に資する「試験又は研究」には様々な目的,内容等のものが考えられることからすると,特許法69条1項の「試験又は研究」を必ずしも技術の進歩を目的とするものに限定すべき理由はなく,事案に応じてその目的や内容等を考慮しつつ,特許権者の利益との衡量をすれば足りるというべきである。 (イ) また,原告は,本件治験は,欧米で既に承認されたT-VECを我が国で販売することを目的とするものにすぎないと主張するが,前記判示のとおり,本件治験は,外国臨床データをそのまま受け入れ,新たな臨床試験を行うことなく我が国における製造販売の承認を得るためのものではなく,日本人被験者にT-VECを投与して,一定の期間をかけて臨床試験を行うことに より データをそのまま受け入れ,新たな臨床試験を行うことなく我が国における製造販売の承認を得るためのものではなく,日本人被験者にT-VECを投与して,一定の期間をかけて臨床試験を行うことに より,日本人における有効性及び安全性を評価するための試験であると認められる。 そうすると,仮に,特許法69条1項にいう「試験又は研究」が技術の進歩を目的とするものであることを要するという解釈を採った場合であっても,本件治験は技術の進歩を目的とするものに該当し,同項にいう「試 験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるというべきである。 イ(ア) 原告は,本件治験は,特許権の存続期間内に治験薬の製造販売を開始することを目的として行うものであるので,特許法69条1項の「試験又は研究」には当たらないと主張する。 しかし,被告は、本件特許権の存続期間中にT-VECを上市する予定はな い旨主張するところ,前記のとおり,被告が,本件特許権の存続期間中に, 医薬品医療機器等法に基づく製造販売承認のための試験に必要な範囲を超え,T-VECを製造販売しようとしていることをうかがわせる証拠は存在しない。 (イ) また,原告はT-VECは本件特許権の存続期間中にその製造販売承認を取得し,その製造販売を開始することができる状況にあり,そのような場合 には,本件特許権の存続期間中に製造販売を開始することを目的とするものとみなされる旨主張する。 しかし,特許権の存続期間中に第三者が当該特許発明の技術的範囲に属する医薬品等について製造販売承認を取得したとしても,必ずしも当該第三者が特許権の存続中に当該医薬品等を製造販売するとは限らず,存続期 間満了後に製造販売することも十分にあり得るの 的範囲に属する医薬品等について製造販売承認を取得したとしても,必ずしも当該第三者が特許権の存続中に当該医薬品等を製造販売するとは限らず,存続期 間満了後に製造販売することも十分にあり得るので,当該特許権の存続期間中に製造販売承認を取得することが客観的に可能であるとしても,そのことから,直ちに,当該医薬品等の治験をもって,特許権存続中の製造販売を目的とするものとみなすことはできない。 また,原告の主張を前提とすると,特許権の存続期間中に治験に係る医 薬品等の製造販売承認を取得し,その製造販売を開始することが可能となる場合には特許権の侵害となり,治験開始後の予期し得ない事情により治験や承認手続が予定より長期化し,その製造販売の開始が当該特許権の存続期間満了後となる場合には特許を侵害しないこととなるが,そのような解釈は,予期し得ない事情により特許権侵害の成否が左右されることとな り,また,治験や承認手続が一定期間を要することを考えると,治験を行う第三者の地位を徒に不安定にするものであるというべきである。 ウ原告は,バイオ医薬品は特許出願から製品化までに長期間を要し,中でも,遺伝子組換えがん治療ウイルスは製造販売承認を得て製品化される時期が当該特許権の存続期間終了間近とならざるを得ないので,発明者の開発と並 行して他者が当該特許発明の類似品の開発(治験)を行うことができるとす ると,革新的なバイオ医薬品の特許権者の利益が不合理なまでに毀損されると主張する。 しかし,前記第2の2(7)ウのとおり,再生医療等製品については,条件及び期限付承認の制度が設けられていることを除き,医薬品と概ね同様の規律が定められており,再生医療等製品についても優先審査が適用される上,先 駆け審 )ウのとおり,再生医療等製品については,条件及び期限付承認の制度が設けられていることを除き,医薬品と概ね同様の規律が定められており,再生医療等製品についても優先審査が適用される上,先 駆け審査指定制度の対象にもなり得ることを考えると,再生医療等製品の審査が長期化することが制度上予定されているということはできない。 また,第三者が特許権の存続期間内に発明の技術的範囲に属する再生医療等製品の治験を行うことができないとすると,当該第三者は,特許権の存続期間が終了した後に治験を開始しなければならないこととなり,製造販売の 承認を得るまで長期にわたり本件発明を自由に利用し得ない結果となるが,これは,平成11年最判も判示するとおり,特許権の存続期間が終了した後は,何人でも自由にその発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるという特許制度の根幹に反することとなる。 特許法は,特許発明の種類や技術的価値の大小等にかかわらず,一律に特 許権存続期間を出願の日から20年と定めているのであり(特許法67条1項),再生医療等製品の承認審査に事実上長期間を要することがあるとしても,特許権の存続期間内にその特許発明に属する再生医療等製品の治験を行うことを禁止することにより,当該特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果をもたらすような解釈を採用することはできない。 エ原告は,平成11年最判は,特許権者が特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益を確保し得ることを前提としているところ,後発医薬品の場合と異なり,バイオ医薬品の場合には,特許権者が特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益を確保することは困難であるので,同判決の射程外であると主張する。 (ア) 原告は,その根拠と り,バイオ医薬品の場合には,特許権者が特許権存続期間中の特許発明の独占的実施による利益を確保することは困難であるので,同判決の射程外であると主張する。 (ア) 原告は,その根拠として,後発医薬品の場合には,再審査期間中に基礎 研究や臨床試験を省略して製造販売承認を得ることはできないので,先発医薬品メーカーは,その間,事実上,独占的な利益を獲得することができるのに対し,バイオ医薬品(再生医療等製品)の場合はそのような事情が当てはまらないことを考慮すべきであると主張する。 しかし,後発医薬品の場合に,先発医薬品メーカーが新医薬品について の再審査期間中に独占的な利益を得ることができるとしても,それは,医薬品医療機器等法の規制による事実上の反射的利益にすぎず,平成11年最判においても,上記再審査期間中に特許権者が事実上独占的な利益を得ることができることは,特許法69条1項の適用の可否を判断するに当たっての考慮要因としては挙げられていない。 そうすると,再生医療等製品について特許権者が再審査期間中に事実上独占的な利益を得ることができないとしても,そのことは,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるかどうかの判断を左右しないというべきである。 (イ) 原告は,本件特許権の存続期間が延長されたとしても,延長された本件 特許権の効力はT-VECには及ばない可能性が高く,そうすると,被告は,本件特許権の存続期間終了後,すぐに市場においてT-VECの製造販売をすることが可能となるが,これは被告を不当に利するものであると主張する。 この点,確かに,医薬品について,特許権の延長に係る特許発明の効力は,その延長登録の理由となった特許法67 販売をすることが可能となるが,これは被告を不当に利するものであると主張する。 この点,確かに,医薬品について,特許権の延長に係る特許発明の効力は,その延長登録の理由となった特許法67条第2項の政令で定める処 分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)及びこれと医薬品として実質同一なものまでしか及ばないとされていることに照らすと(オキサリプラチン事件大合議判決参照),本件特許権の存続期間が延長された場合に,延長に係る特許権の効力が改変された遺伝子の範囲や適応症の異なるT-VECの実施行為に 及ぶとは限らないということができる。 しかし,仮に,原告の主張するとおり,延長に係る本件特許権の効力がT-VECには及ばないのであれば,むしろ,平成11年最判の判示するとおり,当該特許権の存続期間が終了した後は,何人でも自由にその発明を利用することができ,それによって社会一般が広く益されるようにすることが,特許制度の趣旨にかなうというべきである。 そうすると,被告が同特許権の存続期間の満了後直ちにT-VECを製造販売することができるとしても,それをもって,被告を不当に利するものということはできない。 (ウ) 原告は,本件において,G47Δも製造販売承認前であって,原告は市場において当該医薬品を独占的に製造販売することによる利益を全く獲得 していないことを考慮すべきであると主張する。 しかし,医薬品等に係る特許権者が当該特許権の存続期間中にこれを実施し,現実に利益を得られるかどうかは,当該特許発明の内容や性質,医薬品医療機器等法上の承認の有無及び承認までの期間,当該医薬品の適応症,その市場規模,競合する医薬品 該特許権の存続期間中にこれを実施し,現実に利益を得られるかどうかは,当該特許発明の内容や性質,医薬品医療機器等法上の承認の有無及び承認までの期間,当該医薬品の適応症,その市場規模,競合する医薬品等の有無などの事情によるのであり, 特許法は,当該特許権の存続期間中に特許発明を独占的に実施し,それにより利益を得る機会を確保しているものの,特許権者が現実に利益を得ることを保障するものではない。 そうすると,本件において,原告が現実に利益を得ていないとしても,そのことは,本件治験が特許法69条1項の「試験又は研究のためにする 特許発明の実施」に該当するかどうかの結論を左右しないというべきである。 オしたがって,原告の上記各主張は,いずれも採用し得ない。 (4) 以上によれば,本件治験は,特許法69条1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」に当たるというべきである。 2 よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由 がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官今野智紀は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官 佐藤達文 別紙物件目録 一般名タリモジェンラヘルパレプベク 佐藤達文 別紙物件目録 一般名タリモジェンラヘルパレプベク

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