平成28年10月19日宣告広島高等裁判所岡山支部判決平成28年(う)第30号薬事法違反原審岡山地方裁判所津山支部(平成26年(わ)第72号) 主文 原判決を破棄する。 本件を岡山地方裁判所に差し戻す。 理由 本件控訴の趣意は,検察官福田尚司作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,弁護人肥田弘昭,同原田隆各作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,本件指定薬物所持の公訴事実につき,故意を認めることができないとして被告人らを無罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,また,原判決が説示する故意の解釈適用には誤りがあり,法令適用の誤りがあるというものである。 第1 論旨に対する判断そこで検討するに,事実認定について,原判決は,被告人Aが,自己の販売する商品に指定薬物が含まれていることを知らなかった旨供述するところ,被告人らの店に立ち入った警察官や薬物取締担当の県職員らから,指定薬物の存在を指摘されなかったこと等の事実を取り上げ,同供述は信用することができると判断する。しかし,原判決の判断は,危険ドラッグ販売の実情を十分考慮せず,その薬物に対する規制の経過及びこれに対する危険ドラッグ販売者の認識を適正に評価しなかった点で,論理則,経験 則等に照らして不合理なものということができる。 以下,説明する。 1 本件公訴事実本件公訴事実は,被告人らは,共謀の上,業として,平成26年6月26日,B県C市Da番地b所在の「E」1階ハーブ店「F」において,販売の目的で,医療等の用途以外の用途に供するため,指定薬物である1-フェニル-2-(ピロリジン-1 の上,業として,平成26年6月26日,B県C市Da番地b所在の「E」1階ハーブ店「F」において,販売の目的で,医療等の用途以外の用途に供するため,指定薬物である1-フェニル-2-(ピロリジン-1-イル)ヘプタン-1-オン(通称α-PHPP。以下「α-PHPP」という。)を含有する粉末約2.476グラムを所持したものである,というものである。 2 原判決の判断の概要原判決は,次のように判示し,被告人両名には指定薬物所持の故意が認められないと判断した。 (1)被告人Aの故意について被告人Aは,本件においてα-PHPPが含まれているとされた粉末の商品名である「イエローヴォヤージュ」に指定薬物が含まれているとは知らなかったと供述しているところ,①平成25年12月6日,B県保健福祉部医薬安全課員,同県G保健所職員,同県警察の警察官らによるFの立入調査の際,課員らから,在庫商品の中に指定薬物があるとの指摘を受けなかったこと,②平成26年5月20日,警察官がFに臨場しているが,在庫商品の中に「イエローヴォヤージュ」があったのに,在庫商品の中に指定薬物があるとの指摘を受けなかったこと,③Fが窃盗被害を受けた際にも,警察官がFに入店しているが,在庫商品の中に「イエローヴォヤー ジュ」があったのに,在庫商品の中に指定薬物があるとの指摘を受けなかったこと,④Fの営業開始後複数回にわたり指定薬物の規制強化が行われていたこと,⑤被告人Aは,指定薬物として規制されることが予定されている商品については,値引き販売したり,廃棄したりしていたこと,⑥被告人Aは,仕入先であるHが摘発された後,摘発の契機となった商品について,Fの在庫商品にないことを確認した上で,Fの営業を再開したことなどの事情,被告人Aが上記供述と矛盾する行動をしていないことや,Fに は,仕入先であるHが摘発された後,摘発の契機となった商品について,Fの在庫商品にないことを確認した上で,Fの営業を再開したことなどの事情,被告人Aが上記供述と矛盾する行動をしていないことや,Fにおいて指定薬物を販売しないよう努力していることから,この供述は信用できる。検察官の主張する①危険ドラッグの社会問題化を知っていたこと,②規制強化がなされることから値引き販売をしていたこと,③発送商品に「アクセサリー」という商品名を記していたこと,④「イエローヴォヤージュ」に指定薬物が含まれていないと考えた根拠は,何の資格もないIからの情報に過ぎないこと,⑤Hが摘発される原因となった商品である「スピーディーブレイズ」しか廃棄しなかったこと,⑥Iが逮捕された以上,Iの情報は信用できないものであったと認識したはずであり,Iが「スピーディーブレイズ」以外にも指定薬物を取り扱っていた可能性を認識していたこと等の事情によっても,被告人両名の認識の内容は,指定薬物又は指定薬物として規制される可能性のある物が含まれているかもしれないということまでで,未必的認識を認定するに足りる証拠はないとした。 (2)被告人Jの故意被告人Jは,本件当時Fの直接的な営業を行っていなかったことから,同人が被告人Aの認識とは別に,「イエローヴォヤージュ」に指定薬物が 含まれているとの認識を有していたとは認めることはできないし,被告人Aの故意が認められない以上は,両名の共謀が認められたとしても,被告人Aを通じた故意を認めることもできないとした。 (3)以上によれば,被告人両名には故意がなく,いずれも無罪と判決した。 3 検察官の主張の概要(1)事実誤認危険ドラッグに対する規制経過及び販売の実情からするなら,その販売業者が商品として危険ドラッグを所持しているとの は故意がなく,いずれも無罪と判決した。 3 検察官の主張の概要(1)事実誤認危険ドラッグに対する規制経過及び販売の実情からするなら,その販売業者が商品として危険ドラッグを所持しているとの認識により指定薬物所持の故意が推認され,特段の事情がない限り違法薬物所持の認識を認めるべきである。 そして,本件では,以下の事情を考慮すれば,危険ドラッグ販売業者として客観的な事実により被告人両名の違法薬物所持の故意が強く推認されるのに,このような考慮をせず,あるいは故意がないことを推認するような事情ではないことをこのように考慮している点で,原判決の判断には,論理則,経験則違反が認められる。 ア積極事情(ア)被告人両名は,Fで危険ドラッグを販売していたのであるから,その事実から指定薬物所持の故意が推認される。 (イ)以下のとおり,このような推認を補強する事実が存在する。 a 被告人両名は,商品を郵送する際に,伝票の品名欄に「アクセサリー」と記載していた。 b 被告人両名が,指定薬物の規制強化の最近の状況を的確に把握しようとはしておらず,Fの在庫商品中に指定薬物が含まれているか否かを専門機関に確認することもなかった上,指定薬物に関する断片的な情報を仕入先のIから入手するのみであり,それは法遵守のためではなかった。 c Fから押収された危険ドラッグ卸売業者作成の文書の記載内容にも照らせば,被告人両名が前記危険ドラッグ販売の実態を十分に認識していたことがより一層明らかになる。 イ消極事情の評価について(ア)原判決は,平成25年12月6日の立入調査で指定薬物があるとの指摘を受けていないこと,平成26年5月20日,「イエローヴォヤージュ」がF店内にあったのに臨場した警察官から同様の指摘を受けていないこと,窃盗被害を受けた際に 月6日の立入調査で指定薬物があるとの指摘を受けていないこと,平成26年5月20日,「イエローヴォヤージュ」がF店内にあったのに臨場した警察官から同様の指摘を受けていないこと,窃盗被害を受けた際に「イエローヴォヤージュ」がF店内にあったのに臨場した警察官から同様の指摘を受けていないことを,故意を否定する方向に働く間接事実として掲げているが,危険ドラッグについては,商品名や外観から指定薬物が含まれているかを判断することができず,鑑定をしなければ警察官等からも明らかにできるものではなく,立入調査や臨場したというだけで,指定薬物があるとの指摘ができるものではない。 販売業者も警察官らにおいてこのようなことができないことを十分わかった上で販売をしているものであり,上記のような事情は,故意を否定する方向には働かないことは明らかであり,原判決の判断は,論理則,経験則に違反する。かえって,立入調査の際には販売自粛要請がされており,販売商品の中に指定薬物が含まれている可能性があることを未必的に認識し ていたことを裏付ける事情になる。また,窃盗被害での警察官の臨場は,警備会社経由等によるものであり,被告人両名による通報によるものではないから,被告人両名が指定薬物の故意を有していたならそのような行動はとらないという推認は働かない。 (イ)Fの営業開始後複数回にわたり指定薬物の規制強化が行われていたこと,これを踏まえ,被告人Aは,指定薬物として規制されることが予定されている商品については,値引き販売したり,廃棄したりしていたことを,故意を否定する方向に働く間接事実と評価した原判決の判断は,論理則,経験則に違反する。すなわち,規制強化が次々と行われていることをみれば,指定薬物の拡大等の規制強化が恒常的に続いており,ある時点において指定薬物でなくとも, 接事実と評価した原判決の判断は,論理則,経験則に違反する。すなわち,規制強化が次々と行われていることをみれば,指定薬物の拡大等の規制強化が恒常的に続いており,ある時点において指定薬物でなくとも,次の時点では指定薬物に指定されているということは十分ありうる。このようなことは危険ドラッグを販売する業者の間では広く認識されていたということができる。このような状況のもとでは,危険ドラッグの販売業者である被告人両名は,商品の中に指定薬物が含まれている可能性が十分にあることを認識していたと推認すべきである。規制が予定される商品を値引き販売したり,廃棄したりしたのも,故意を肯定する事情とはなっても,否定する方向に働かない。 (ウ)被告人Aが,Hが摘発された後,摘発の契機となった「スピーディーブレイズ」がFの在庫商品にないことを確認した上でFの営業を再開したことを,故意を否定する方向に働く間接事実と評価した原判決の判断は,論理則,経験則に違反する。すなわち,Fの唯一の仕入先であったIが,指定薬物が含まれる商品を所持していたことで逮捕されたことは,被 告人両名がIから仕入れた商品の中に指定薬物が含まれている可能性が高いと認識する事情にはなっても,故意を否定する事情にはならない。被告人らは,Iからの情報が当てにならないことを知ったことになるから,「スピーディーブレイズ」が在庫中にないことを確認しただけでは,他の商品に指定薬物が含まれていないという故意を否定する方向の事情にはならない。 (エ)その他,原判決が消極方向に働くとする事情も根拠の乏しい認定であるか,その評価を誤ったものであり,いずれにせよ,故意を否定する方向に働く間接事実ではなく,原判決の判断は,論理則,経験則に違反する。 (2)法令適用の誤り原判決は,本件故意につき,被告人 あるか,その評価を誤ったものであり,いずれにせよ,故意を否定する方向に働く間接事実ではなく,原判決の判断は,論理則,経験則に違反する。 (2)法令適用の誤り原判決は,本件故意につき,被告人両名の認識の内容は,指定薬物又は指定薬物として規制される可能性のある物が含まれているかもしれないということまでで,未必的認識を認定するに足りる証拠はない旨判示しているが,これは,薬物の認識について当該薬物を含む違法薬物かもしれない旨の認識(未必的認識)で足りないとするものであり,法令の解釈適用を誤っている。法令適用の誤りは,判決に影響を及ぼすことが明らかである。 4 事実認定に関する当審の判断(1)関係証拠により認められる事実等ア薬事法による薬物規制状況(公知の事実)薬事法(平成26年11月27日に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と改称された後も含めて「薬事法」 という。)は,平成19年4月1日以降,大麻や覚せい剤等以外のもので,人の中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用等の精神毒性を有する蓋然性が高く,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物(以下,「危険ドラッグ」という。)として,厚生労働大臣が指定した物を「指定薬物」(同法2条15項)とし,これについて,医療等の用途外使用のほか,医療等の用途以外の用途に供するための販売,所持等を禁止して処罰し(同法76条の4,84条26項),業として,販売や所持をした者については加重処罰することとしている(同法83条の9)。 ただ,危険ドラッグであっても指定がされていないものは存在しうる(化学式をわずかに変更すれば仮に効果は同等であっても別物質となる。)上,そのような危険ドラッグが次々と新たに社会内に現れては,その成分や だ,危険ドラッグであっても指定がされていないものは存在しうる(化学式をわずかに変更すれば仮に効果は同等であっても別物質となる。)上,そのような危険ドラッグが次々と新たに社会内に現れては,その成分や効果が規制機関において確認された後,薬物(化学物質)として指定がなされるということが,複数回繰り返されており,その構造上,規制は必然的に後追いにならざるを得ない状況にある。 イ被告人らの関与状況(ア)平成25年8月,被告人Jは,Fを開店し,同所で「合法,脱法ハーブ」を販売する旨のチラシを作成し,さらに開店後には,「合法ハーブ」を販売する旨のチラシを作成して,危険ドラッグの販売を始めた。同店での販売は,当初,Kが店長として担当し,平成26年1月17日ころから同年6月21日までは,おおむね月曜日から土曜日まではLが,日曜日は被告人Aがそれぞれ担当していたが,Lは商品や売上金を着服したた め辞めさせられ,同月22日以降は,被告人AとMが行っていた。上記チラシは,同年6月26日にF内で発見されている。また,同店には,各商品は,お香,植物活力剤,バスソルトであって,人体に使用しないよう注意する旨記載した注意書が掲示されていた。 (イ)被告人Jは,自らあるいは,被告人Aを通じて,この種のドラッグを,B市内にあるハーブ店「H」の経営者であるIから仕入れており,他の者から仕入れることはなかった。 (ウ)Fにおいては,危険ドラッグは,店頭に置かれておらず,客に商品カタログを見せて,注文を受けた商品をカウンター内や事務所内の保管場所から取り出し,代金と引き換えに販売していた。また,電話やインターネットからの注文も受け,商品を発送する方式で販売することもしており,その際,送り状の伝票の品名欄には,「アクセサリー」と実際の中身とは異なる記載をしてい き換えに販売していた。また,電話やインターネットからの注文も受け,商品を発送する方式で販売することもしており,その際,送り状の伝票の品名欄には,「アクセサリー」と実際の中身とは異なる記載をしていた。 (エ)Fの営業を始めてから後,複数回にわたり,危険ドラッグに対する薬物指定が行われた。本件の商品である「イエローヴォヤージュ」は,α-PHPPを含有する粉末であるところ,Iから仕入れ始めた当時は,α-PHPPは指定薬物ではなかったが,平成25年10月21日に指定され,同年11月20日にこの指定が発効した。 (オ)平成25年12月6日,B県保健福祉部医薬安全課員,同県G保健所職員,同県警察の警察官らは,Fに立入調査をした。その際,同県保健福祉部医薬安全課員は,当時のFの店長であったKに,商品販売自粛を要請する書面を交付した。 (カ)被告人Jは,仕入先であるIからの情報に基づいて,Fで取り扱っていた商品で新たに規制されるものについては,Iに返還していた。被告人Aも,Iから規制が間近という情報を得た危険ドラッグにあたる商品を,Lに指示して値引き販売し,さらに規制されるという日付が迫ると廃棄していた。 (キ)平成26年5月20日,Fの敷地内において,Fで商品を買った客が地面にごろごろ転がって大きな声で奇声を発していた。これを見たLは,客が発狂していると思い,客が危険であると感じて近寄って声をかけたが,客は応じない様子であった。そのころ,隣家の者から110番通報がなされ,警察官が臨場した。倒れていた客は,脱法ハーブを使用する者として警察が把握していた人物であった。Lは,警察官から同店に設置している監視カメラの録画映像(以下,「ビデオ」という。)を見せてほしいと頼まれたため,これを見せたところ,F内で上記の人物が商品を買うところが 把握していた人物であった。Lは,警察官から同店に設置している監視カメラの録画映像(以下,「ビデオ」という。)を見せてほしいと頼まれたため,これを見せたところ,F内で上記の人物が商品を買うところが写っていた。Lは,被告人Aに電話し,客の状況や警察官がビデオを見せてほしいと言って見せていることを伝えたところ,被告人Aは,Lに対し,客のことには触れないまま,警察官にビデオを見せるなと言い,さらに,Lから警察官に電話を代わらせて,上記の客がFの販売商品を買ったことを確認する必要があると述べている警察官に対し,「犯罪となるなら警察は何をしてもいいのか」などと言いながら,勝手に店のビデオを見ないよう激しく抗議した。その直後,被告人Aと被告人Jは,複数回互いに電話を掛けて通話した。 (ク)平成26年6月5日,Hが薬事法違反の容疑で捜索差押を受け, 同日,Iは,同容疑で逮捕された。それを聞きつけた被告人Aは,LにFの営業をいったん中止するように言い,LにIから仕入れたFの商品やメモ,在庫ノートを全て持ち寄らせた。その場所には被告人Jもいた。そして,被告人Aらは,Iが検挙された原因となった商品が「スピーディーブレイズ」であるという情報を入手し,それがFの在庫商品の中にないことを確認し,同月7日にFの営業を再開した。 (ケ)Lは,Fの商品を勝手に使用するなどしており,顔色を変えたり,記憶をなくしたりするなど,薬物による一定の精神作用を受けており,このようなことを,被告人両名は知っていた。 (2)以上を基に,まず,原審の事実認定について検討する。 ア前記薬事法の規制状況によれば,危険ドラッグは,大麻や覚せい剤等以外のもので,人の中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用等の精神毒性を有する蓋然性が高く,人の身体に使用された場合に保健衛生上 前記薬事法の規制状況によれば,危険ドラッグは,大麻や覚せい剤等以外のもので,人の中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用等の精神毒性を有する蓋然性が高く,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物という広い範囲にわたる物である。そこで,薬物を化学式と薬品名で特定して指定することにより,規制や処罰の範囲を明確にしている。危険ドラッグと指定薬物との間には,巷に現れてから指定に至るまでの時間があるから,実際には,法の趣旨に反するものの違法ではない薬物はいわゆる「脱法ドラッグ」と称されるものとして存在しうる。危険ドラッグを販売する業者は,そのような脱法ドラッグを求める顧客の需要に乗じて,利益を得るため危険性のある薬物を販売している。しかし,上記のとおり指定薬物は化学式や薬品名で特定されるのであり,商品名で特定されているものではないから,薬物販売の資格も,薬物 に関する専門的知識も持ち合わせていない危険ドラッグ販売業者においては,販売品に規制薬物が含まれているか否かを判断することは不可能または困難である。このことは,その販売業者にとっても明らかな事実であるから,それでもその種の商品の販売をする以上,既に指定薬物とされている薬物を含む物を販売してしまうおそれがあることは十分に認識しているはずであるといえる。 そうすると,一般的に,危険ドラッグの販売業者は,特段の事情がない限り,自己が扱う商品の中に指定薬物が含まれている可能性を認識しているものと推認することができる。 イそこで上記推認を妨げる特段の事情が窺われるか(原判決が故意を否定する事情とする判断の当否)を検討する。 (ア)県職員や警察官がFに立ち入った際の事実の評価に関して,規制に基づいて取り締まる側においても,実際に販売店で扱っている複数の商品 (原判決が故意を否定する事情とする判断の当否)を検討する。 (ア)県職員や警察官がFに立ち入った際の事実の評価に関して,規制に基づいて取り締まる側においても,実際に販売店で扱っている複数の商品の中に指定薬物が含まれた商品が存在していても,商品の成分を鑑定しなければ,指定薬物を含むものであるかどうかはわからない。その上,指定薬物が含まれるものとして知られている商品名以外の物であっても規制薬物が含まれる可能性もある。このことから取締担当官らは,それらの販売を自粛するなどの要請をしている。このようなことは,危険ドラッグの販売業者も当然認識している事実である。 このような事情を考えると,原判決が故意を否定する方向に働くとしている,立入調査,警察官の臨場の際に指定薬物が含まれる商品について指定薬物であるとの指摘を受けなかった事情は,検察官が指摘するとおり, 捜査機関の側から見ても販売業者の側から見ても,指定薬物が含まれる商品がないという認識を窺わせる事情とはならないから,被告人両名の故意を否定する方向の事情とはならない。 (イ)原判決は,Fの営業開始後複数回にわたり指定薬物の規制強化が行われていたこと,これを踏まえ,被告人Aは,指定薬物として規制されることが予定されている商品については,値引き販売したり,廃棄していたりしていたことを,故意を否定する方向に働く間接事実と評価している。 しかし,上記のような法の趣旨や後追いとはいえ規制を次々と拡大させている状況からすると,危険ドラッグである販売商品の中には,すでに指定された薬物が含まれている可能性は十分にある。また,危険ドラッグ販売業者が,規制されることが予定されている商品について,値引き販売や廃棄等をすることは,規制強化の実情を十分に把握していたことを示すものであって,危険ドラッグの 性は十分にある。また,危険ドラッグ販売業者が,規制されることが予定されている商品について,値引き販売や廃棄等をすることは,規制強化の実情を十分に把握していたことを示すものであって,危険ドラッグの販売業者において,指定薬物が含まれているかもしれないとの未必的故意を推認する事情とみることができる。値引き販売や廃棄等を,摘発を免れる目的で指定薬物を所持しないようにするための行為と評価すること自体は誤りではない。しかし,廃棄等がなされたのは,指定の情報が得られたものについてのみであり,上記のとおり,他の商品の中にすでに指定された薬物が含まれている可能性があることを前提とする限り,その認識があることの上記推認を妨げるものでなく,故意を否定する事情とはならない。 (ウ)原判決は,被告人Aが,Hが摘発された後,摘発の契機となった「スピーディーブレイズ」がFの在庫商品にないことを確認した上でFの 営業を再開したことを,故意を否定する事情とする。しかし,H摘発の事実は,同店で取り扱う商品にも指定薬物が含まれていたことを意味し,同店から仕入れた商品に指定薬物を含むものがある可能性があることになる。このことは,被告人らも当然認識している事情であり,被告人らの未必的故意を推認させる事情である。 また,摘発の理由となった商品がFに存在しないことを確認した上,すぐに営業を再開したことについても,上記のような摘発の実情を考えれば,直ちに故意を否定する方向の事情にはならないというべきである。すなわち,上記のような商品名のものを販売していないことを確認しても,他の商品名のものに指定薬物が入っているかどうかわからないのは,摘発前と変わりがない。したがって,他の商品については,販売を再開しても摘発の危険は従前とほとんど変わらないものであり,被告人らにおいても 商品名のものに指定薬物が入っているかどうかわからないのは,摘発前と変わりがない。したがって,他の商品については,販売を再開しても摘発の危険は従前とほとんど変わらないものであり,被告人らにおいても,このように判断して,すぐに営業再開に踏み切ることは十分にありうることといえる。 その他の原判決が指摘する消極事情も,直ちに,故意を否定する方向の事情とはならない。なお,原判決は,被告人Aが故意を否定する供述と矛盾する行動をしていない旨及び,被告人Aが指定薬物を販売しないよう努力していた旨説示するが,その矛盾のない行動や努力というのが,具体的にいかなる事実を指しているのか不明である上,そのように解される事情も窺われない。 ウそうすると,原判決が上記各事情について故意を否定する方向の事情となるとする判断は論理則,経験則等に照らし,合理的とは言えない。 (3)前記のとおり,一般的に危険ドラッグ販売業者には自己の扱う商品に指定薬物が含まれているかもしれないとの未必的認識が推認できることに加え,上記(1)のとおり,Fの立ち上げやその際のチラシの内容,危険ドラッグの仕入先,保管や販売状況,立入調査を受けたり,商品の購入者がそれを身体に摂取することを想定している(原審証人Lの供述等により明らか)のに,あえて「身体に使用しないように」などと表示して販売していること,Fの敷地内でその客が薬物症状とみられる状況で倒れたりするなどしていたこと,その際,駆け付けた警察官が店内の状況のビデオを見ることに対し,被告人Aが「犯罪となるなら警察は何をしてもいいのか」と言うなどして強く抗議した経緯,仕入先のIが「スピーディーブレイズ」という商品に関して逮捕されたこと,被告人両名はFに「スピーディーブレイズ」があるかないかすぐに調査したことを総合すれば,被 のか」と言うなどして強く抗議した経緯,仕入先のIが「スピーディーブレイズ」という商品に関して逮捕されたこと,被告人両名はFに「スピーディーブレイズ」があるかないかすぐに調査したことを総合すれば,被告人両名は,Fで販売する商品について,指定薬物の有無について明確な認識がなかったとしも,危険ドラッグが含まれていることを認識していたことは明らかである。そうして,被告人らは,上記のとおり,危険ドラッグの規制強化の実情を十分に把握していたと認められることからすると,Fで販売していた危険ドラッグの中に指定薬物が含まれている可能性があることを十分認識していたと推認でき,少なくとも未必的故意の存在は推認できる。 そして,このような認識を否定する事情としては,上記のような摘発を受けた違法業者であるIから得られる情報に限られていたことからすると,被告人両名がFでの販売商品に指定薬物が含まれているとは認識して いなかったとする供述はいずれも不自然であり,上記推認を覆すものとはいえない。 結局のところ,被告人Aの故意を否定した原判決の認定には判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。その被告人Aを通じた被告人Jの故意について,被告人Aの故意が認められない以上は,共謀があっても,故意が認められないとした原判決の認定にも判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。 この点で論旨は理由がある。 5 破棄差戻しよって,検察官のその余の論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,本件では,原審は,争点の一つである被告人Aと同Jの共謀の有無について判断をしていないことも考慮すると,同法400条本文により,本件を原裁判所である岡山地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。 平成28年10月19日 主文 有無について判断をしていないことも考慮すると,同法400条本文により,本件を原裁判所である岡山地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。 理由 平成28年10月19日広島高等裁判所岡山支部第1部 裁判長裁判官大泉一夫 裁判官難波宏 裁判官村川主和
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