令和7年1月30日東京地方裁判所刑事第16部宣告令和5年特(わ)第311号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件 主文 被告人株式会社Bグループを罰金3億円に、B1を懲役2年 に処する。 被告人B1に対し、この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人株式会社Bグループ(令和元年12月31日以前の商号は株式会社B。以下「被告会社」という。)、株式会社C及び株式会社D(平成30年7月16日以前の商号は株式会社D´)は、いずれも広告代理業等を営む事業者、株式会社E、株式会社F及び株式会社Gは、いずれもイベントの企画・運営等を営む事業者であ り、B1(以下「被告人B1」という。)は、被告会社のスポーツ局局長補等の地位にあり、その従業者として公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)が順次発注する第32回オリンピック競技大会(2020/東京)及び東京2020パラリンピック競技大会(以下、両大会を合わせて「東京2020大会」という。)に関して競技・会場ごとに実施 される各テストイベント計画立案等業務委託契約並びに同契約の受注者との間で締結されることとされていた各テストイベント実施等業務委託契約及び各本大会運営等業務委託契約(以下「テストイベント計画立案等業務委託契約等」という。)の受注等に関する業務に従事していたもの、C1は、株式会社C´のスポーツビジネス局長の地位にあるとともに同社及び株式会社Cが共同で設置した「TOKYO2 020推進プロジェクト」の構成員の地位にあり、株式会社Cの従業者として前記 、株式会社C´のスポーツビジネス局長の地位にあるとともに同社及び株式会社Cが共同で設置した「TOKYO2 020推進プロジェクト」の構成員の地位にあり、株式会社Cの従業者として前記 同様の業務に従事していたもの、D1は、株式会社Dの2020推進室本部長兼執行役員等の地位にあり、その従業者として前記同様の業務に従事していたもの、E1は、株式会社Eの執行役員の地位にあり、その従業者として前記同様の業務に従事していたもの、F1は、株式会社Fの常務取締役等の地位にあり、その従業者として前記同様の業務に従事していたもの、G1は、株式会社Gの取締役等の地位に あり、その従業者として前記同様の業務に従事していたもの、Hは、組織委員会大会準備運営第一局次長等として、テストイベント計画立案等業務委託契約等の発注等に関する業務に従事していたものである。 被告人B1は、H、C1、D1、E1、F1、G1、広告代理業等を営むその他の事業者1社(以下、同事業者を「A社」といい、A社と被告会社、株式会社C、 株式会社D、株式会社E、株式会社F及び株式会社Gの6社とを合わせて「関係事業者7社」という。)の従業者として前記同様にテストイベント計画立案等業務委託契約等の受注等に関する業務に従事していた者及びそれぞれその従業者として業務に従事する関係事業者7社の他の従業者らと共謀の上、上記従業者らがそれぞれその従業者として業務に従事する関係事業者7社の業務に関し、平成30年2月頃 から同年7月頃までの間、東京都港区(住所省略)所在の組織委員会事務所等において、面談等の方法により、テストイベント計画立案等業務委託契約等について関係事業者7社の受注希望等を考慮して受注予定事業者を決定するとともに基本的に当該受注予定事業者のみがテストイベント計画 において、面談等の方法により、テストイベント計画立案等業務委託契約等について関係事業者7社の受注希望等を考慮して受注予定事業者を決定するとともに基本的に当該受注予定事業者のみがテストイベント計画立案等業務委託契約に係る入札を行うことなどを合意した上、同合意に従ってテストイベント計画立案等業務委託契約 等についてそれぞれ受注予定事業者を決定するなどし、もって関係事業者7社が共同して、テストイベント計画立案等業務委託契約等の受注に関し、相互にその事業活動を拘束し、遂行することにより、公共の利益に反して、テストイベント計画立案等業務委託契約等の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限した。 (事実認定の補足説明) 第1 はじめに 1 本件は、被告人B1を含む被告会社等関係事業者7社の従業者らが、組織委員会の幹部職員として東京2020大会に関する各テストイベント計画立案等業務委託契約等の発注について中心的な役割を有していたH(以下「H」という。)や、その意を受けた被告人B1らを通じて「罪となるべき事実」記載の入札を行うことなどを合意するなどし、談合をしたとされる事案である。 2 被告会社及び被告人B1の弁護人ら(以下「弁護人ら」という。)は、判示の各テストイベント計画立案等業務委託契約について独占禁止法89条1項1号及び3条所定の不当な取引制限罪が成立することは認めるものの、各テストイベント実施等業務委託契約及び各本大会運営等業務委託契約については、他の事業者と共謀し、不当な取引制限の合意を行った事実はなく、その点については無罪である旨主 張している。 3 当裁判所は、弁護人らの主張等を踏まえても、被告会社及び被告人B1について、判示のとおり、テストイベント計画立案等業務委託契約等について、不 その点については無罪である旨主 張している。 3 当裁判所は、弁護人らの主張等を踏まえても、被告会社及び被告人B1について、判示のとおり、テストイベント計画立案等業務委託契約等について、不当な取引制限罪が成立すると判断したので、以下、その理由を補足して説明する。 第2 事実関係等 関係各証拠、特に、当時の議事録や会議等における発言の記録及び関係者間のメール等に照らせば、以下の各事実の存在を認めることができる。 1 東京2020大会、組織委員会の概要等⑴ 東京2020大会においては、同大会を招致するにあたって東京都及び日本オリンピック委員会と国際オリンピック委員会との間で締結された開催都市契約に 基づき、本大会の運営能力向上のため、本大会で使用する競技会場において、競技や会場ごとに、競技運営、会場運営等のテストイベントを行うこととされていた。 ⑵ 東京2020大会の準備及び運営に関する事業等を行っていた組織委員会には、テストイベントに関連する業務を担当する部局としてテストイベントマネジメント課(以下「TEM」という。)が置かれ、Hは、TEMが置かれていた大会準 備運営第一局(以下「第一局」という。)の次長として、テストイベントの実施予 定計画の策定やテストイベントに関する予算の策定など、テストイベントに関する業務(以下「テストイベント業務」という。)の発注業務に中心的に関与していた。 ⑶ア組織委員会における物品・役務等の調達は、会計処理規程に基づいて行われており、同規程は、契約の方法として、競争入札、複数見積契約、プロポーザル方式契約のほか、単数見積による契約として特別契約を定めているところ、同規程 33条は、原則として競争入札によることを定め、それ以外の方法によって調達する場合には、 、複数見積契約、プロポーザル方式契約のほか、単数見積による契約として特別契約を定めているところ、同規程 33条は、原則として競争入札によることを定め、それ以外の方法によって調達する場合には、同規程34条ないし36条に定める例外的な場合に当たる必要があるとされていた(以下「特別契約」のことを一般的な用例に従い、「随意契約」という。)。 イテストイベント業務は、テストイベント計画立案等業務(以下「計画業務」 という。)とテストイベント実施等業務(以下「実施業務」という。)に分けられ、入札の単位となった会場・競技の案件(以下「会場案件」という。)毎に発注されたが、各会場案件に係る計画業務(以下「本件計画業務」という。)については一般競争入札により、その実施業務(以下「実施業務」という。)及びその後の本大会運営等業務(以下「本大会業務」という。)については、随意契約により発注さ れた(以下、各会場案件に係る実施業務を「本件実施業務」、同案件に係る本大会業務を「本件本大会業務」という。)。 2 各事業者の事業内容等⑴ 被告会社は、国内で圧倒的に最大手の広告代理店として、スポーツイベントのマーケティング、競技大会の運営等を行っており、長年にわたり、日本オリンピ ック委員会のマーケティング専任代理店を務めていたほか、平成10年の長野冬季オリンピック、平成14年の日韓共催FIFAワールドカップを始めとする様々な大規模スポーツイベントにおいて、そのマーケティング等を行うなどしていた。東京2020大会においても、組織委員会からマーケティング専任代理店に選定されており、自社の従業者を組織委員会の幹部職員として出向させるなど、組織委員会 をはじめ東京2020大会全体の運営に対して大きな影響力を有していた。 ⑵ ティング専任代理店に選定されており、自社の従業者を組織委員会の幹部職員として出向させるなど、組織委員会 をはじめ東京2020大会全体の運営に対して大きな影響力を有していた。 ⑵ 株式会社D(以下「D」という。)、株式会社C(以下「C」という。)及びA社も、被告会社とともに、広告代理店としてスポーツイベントのマーケティング、スポーツイベントの競技運営、会場運営等(以下単に「競技大会の運営等」という。)を行っており、株式会社E(以下「E」という。)、株式会社F(以下「F」という。)及び株式会社G(以下「G」という。)は、いずれもイベントの企画・ 運営等の事業を行う事業者として、競技大会の運営等を行っていた。 ⑶ 関係事業者7社は、経験や大会の運営実績、競技団体との関係性等に応じて、それぞれ競技大会の運営等を得意とする競技や会場があり、また、日本でスポーツの競技大会の運営等を行うことのできる実績、能力のある事業者は、関係事業者7社をはじめとする一定の範囲の事業者に限られていた。 3 テストイベント業務の発注方式の決定経緯等⑴ア Hは、平成29年7月頃から、テストイベントの実施が遅延する中、テストイベント業務の事業委託に関する発注方法について、被告会社の従業者らに協力を求めるなどして検討した結果、時間的に余裕のない状況で、各競技について競技大会の運営等の実績等を有する事業者を確保するためには、随意契約により、テス トイベント業務を発注する必要があると考え、組織委員会内部での調整を進めることとした。 イ Hは、平成29年10月11日及び同月12日、組織委員会における財務全般の最高責任者であったI1(以下「I1」という。)や、その部下で、組織委員会における物品・役務等の調達全般を担当する調達部の部長であった 成29年10月11日及び同月12日、組織委員会における財務全般の最高責任者であったI1(以下「I1」という。)や、その部下で、組織委員会における物品・役務等の調達全般を担当する調達部の部長であったI2(以下「I 2」という。)と順次打合せを行った。Hは、その場で、テストイベント業務を外部事業者に委託すべきことに加え、委託先事業者の選定は本大会の実施運営体制を見据えて行うことが重要であり、テストイベント及び本大会の準備・実施運営を遂行しうる十分な制作能力等がある事業者を選定するためには、これらの要件を満たす事業者については随意契約により発注することが適当であり、該当する事業者が いない場合には、総合評価方式入札の選定が可能であるとの説明を行った。 I1及びI2は、Hの説明を踏まえても、前記会計処理規程に照らせば、随意契約によってテストイベント業務の委託先事業者を選定する特別な理由はないと考え、テストイベント業務を随意契約によって調達することを承諾しなかった。 ウその後も、TEMと調達部の職員との間でテストイベント業務の調達方法について検討が進められ、平成30年1月11日には、同業務のうち本件計画業務に ついては、その委託先事業者を総合評価方式の一般競争入札(以下、単に「入札」、「競争入札」又は「一般競争入札」ということがある。)によって選定すること等が事実上決定され、同年3月15日には、組織委員会において、事務総長が議長を務め、予算の執行に関して事実上の意思決定を行っていた経営会議において、本件計画業務を一般競争入札によって発注することが決定された。同経営会議の場で、 Hは、本大会に向けては別途検討を行うが、当然本大会を見据えてのテストイベントであるから、基本的には同じ事業者でいくことを考えている旨 入札によって発注することが決定された。同経営会議の場で、 Hは、本大会に向けては別途検討を行うが、当然本大会を見据えてのテストイベントであるから、基本的には同じ事業者でいくことを考えている旨発言し、それに対して、事務総長であったI3(以下「I3」という。)も、テストイベントの委託業者と本番の委託業者は、基本的には、一致しないと意味がないなどと発言した。 ⑵ この経営会議での意思決定等を踏まえ、平成30年3月22日に開催された 調達管理委員会において、本件計画業務の調達方式を総合評価方式の一般競争入札とすることが審議された。その際、I2から、総合評価方式による条件付き一般競争入札としたい旨の説明があったほか、質疑の中で、今回はテストイベントの計画立案のみであるが、引き続き特別契約にてテストイベントの運営を委託することを想定しているなどといった説明がなされた。審議の結果、「事業者の選定にあたっ ては、技術点70点、価格点30点の総合評価方式とする。なお、本大会における運営業務を見据え、本大会のコスト最適化に向けた提案を技術点の評価項目に含める。」との内容を盛り込んだ議案が、原案のとおり了承された。同議案のうち「なお」以下は、事業者が本大会業務を随意契約により受託する際に価格を安くするための仕組みであった。 結局、本件計画業務の発注に関する事業者決定基準においては、満点100点の うち、価格点が30点、技術点が70点とされ、技術点中20点は、「対象競技テストイベント事業実施における予算計画の管理手法及び本大会コスト最適化に向けた提案」にあてられた。この事業者決定基準は、入札の際に、事業者に公表された。 4 Hらが面談等を行うに至る経緯等⑴ Hは、一般競争入札により本件計画業務が発注されることになった スト最適化に向けた提案」にあてられた。この事業者決定基準は、入札の際に、事業者に公表された。 4 Hらが面談等を行うに至る経緯等⑴ Hは、一般競争入札により本件計画業務が発注されることになったことを受 け、競技大会が短期間に多数かつ大規模に行われる東京2020大会の競技大会の運営等を遺漏なく行うためには、各事業者の実績等を把握した上で、各事業者に受注してもらいたい競技を伝えたり、各事業者の意向を取りまとめるなどして調整を行うことが必要と考え、平成30年1月25日及び同月30日、被告人B1等被告会社の従業者らと打合せを行い、Hや被告会社の従業者らで、実績等がある、被告 会社を除く関係事業者7社を含む複数の事業者の従業者らと面談等のやりとりを行うこととし、順次面談等やり取りを行なった。 ⑵ Hや被告人B1らは、以前から競技ごとに大会運営実績等を有する事業者を記載した一覧表を作成するなどしていたところ、⑴の面談等の結果を踏まえ、各事業者の実績、受注希望のほか、本件計画業務全体における委託先事業者のバランス 等を踏まえたHの意向等も考慮して、前記一覧表を修正するなどし、平成30年4月2日の打合せを経て、同日までの面談等の結果を集約し、Hが各事業者との間で、計画業務の入札行動、協業体制等について認識の一致が得られた会場案件について整理するなどして、前記一覧表の最終更新を行った。 5 入札結果とその後の推移 各会場案件について、計画業務が入札により発注されたところ、相当数の会場において、Hの意向に沿った、関係事業者7社中では1社のみによる入札が行われ、その結果も、全26会場案件中、合計二つの会場案件を除く、24会場案件においてHの意向に沿った事業者が受注するに至り、更にそのうち16会場案件については、Hの意向に では1社のみによる入札が行われ、その結果も、全26会場案件中、合計二つの会場案件を除く、24会場案件においてHの意向に沿った事業者が受注するに至り、更にそのうち16会場案件については、Hの意向に沿った事業者のみが入札に参加して必要書類を提出するに至った。 また、計画業務が発注された後、順次、実施業務及び本大会業務が発注されたとこ ろ、同一会場で行われる競技の本大会業務は同一の事業者が行ったほうが効率的であるなどと言った理由から、同一会場で行われる他の競技の計画業務を受注していた別の事業者に本大会業務を委託したサッカー及びマラソンスイミングを除いて、計画業務を受注した事業者が、その会場案件において行われた実施業務及び本大会業務を随意契約により受注した。 第3 争点に対する当裁判所の判断等 1 第2の3⑴イ記載の平成29年10月11日のI1への説明資料や同ウの記載に関する同月24日のTEMと調達部職員間の検討時の資料では、委託先の選定要件として「テストイベント、本大会の準備・実施運営を遂行しうる充分な制作能力を有していること」との記載があるところ、Hは、平成29年12月時点で、本 件計画業務の委託先が本件実施業務及び本件本大会業務も行うのが、効果的、効率的であることが明らかであり、反対に委託先を個々に変えて大会運営がうまくいくはずもなかったことから、Hら第一局では、本件計画業務、本件実施業務及び本件本大会業務の3つの契約を一気通貫のものと考えていた旨供述している。こうした状況等を踏まえ、平成30年3月15日の経営会議の場で、Hが発言をしたことを 受けて、I3が発言するなどしている。 2 その上で、I2は、平成30年1月に第2の3⑴ウ記載のとおりTEMとの間で一般競争入札によって選定することを事実上決定 場で、Hが発言をしたことを 受けて、I3が発言するなどしている。 2 その上で、I2は、平成30年1月に第2の3⑴ウ記載のとおりTEMとの間で一般競争入札によって選定することを事実上決定した頃、本件計画業務を行った事業者に対し、会計処理規程の要件を満たすものとして、本件実施業務及び本件本大会業務を随意契約で発注することになると認識していた、1記載の同年3月1 5日の経営会議にオブザーバーとして出席したところ、第2の3⑴ウ記載の同会議の場におけるHやI3の発言に反対する出席者はおらず、HやI3の発言は、基本的には、本件計画業務と本件実施業務及び本件本大会業務は同一事業者であるという趣旨と認識した、そこで、I2としては、経営会議や調達管理委員会における議論の趣旨に沿って、自身の権限に基づき、最終的に本件の契約単位ごとの調達方式 を決めた、旨供述している。 3 I2供述は議事録の内容と齟齬しているところがなく、1の一連の事態の流れに照らしても自然で合理的な内容であって、十分に信用できる。弁護人は、このI2供述について、平成30年1月から前記経営会議までの間の調達部内における議事録やメモなどの客観的資料が存在しないなどと指摘してI2の供述は信用できないなどと主張する。しかしながら、この点についてI2は、正式な決定の場合に は議事メモを作るが、それ以外は自由に意見を述べていたので、内部でいちいち議事メモを残す習慣はなかった旨合理的な説明をしている。結局、その余のものを含め、弁護人の指摘はI2供述の信用性に疑いを抱かせるものではない。 そうすると、組織委員会内において、基本的には、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が、その後の本件実施業務及び本件本大会業務を受注する方針と 認識されており、同 せるものではない。 そうすると、組織委員会内において、基本的には、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が、その後の本件実施業務及び本件本大会業務を受注する方針と 認識されており、同認識の下、本件計画業務の発注がされたものと認定できる。 前記のとおり本件計画業務の事業者決定基準がこの点を踏まえた内容となっていると認められることや、実際、ほとんどの会場案件及び競技について、本件計画業務を受注した事業者が、その後の本件実施業務及び本件本大会業務を随意契約により受注するに至っており、そうでない会場案件及び競技が生じたのは、第2の5記 載のとおり、これとは全く別の理由等によるものであったこともそのような認定を裏付ける。 4 これに対して、弁護人らは、本件実施業務に関する平成31年2月28日及び本件本大会業務に関する令和元年9月19日の各経営会議やこれらに関連する調達管理委員会の議事録等の記載を根拠に3の認定には疑問があると主張する。確か に、本件計画業務の委託先事業者に対して、実際に、本件実施業務や本件本大会業務を随意契約により委託するに際しては、会計処理規程に照らし、その都度、例外的な場合に当たるか確認等する必要があり、平成31年2月28日及び令和元年9月19日の各経営会議やこれらに関連する調達管理委員会の議事録等の記載はこれに沿ったものとなっている。もっとも、これら経営会議や調達管理委員会の議事録 等の記載を見ると、詰まるところは、前記の方針に沿って、随意契約により委託す る例外的な場合に当たることを確認する内容となっていると言うことができ、弁護人が根拠として指摘する各経営会議の議決等は、平成30年3月15日の経営会議に沿った議決をし、会計処理規程に照らして、同経営会議で決定した方針を正当化し 認する内容となっていると言うことができ、弁護人が根拠として指摘する各経営会議の議決等は、平成30年3月15日の経営会議に沿った議決をし、会計処理規程に照らして、同経営会議で決定した方針を正当化したものとみることができる。 また、弁護人らは、本件本大会業務の委託について、前記議事録等の記載を根拠 に、本大会開催期間が迫っても準備ができていなかった組織委員会の切迫した内部事情が影響しているなどと主張するが、第2の3⑴ア記載のとおり、当初の、テストイベント業務の事業委託の発注方法について検討していた時期から、組織委員会としては、時間的に余裕のない状況にはあった。その他のものを含め、弁護人が種々指摘ないし主張する点を踏まえても、同年3月15日における、組織委員会内の基 本的方針の認識に関する前記認定につき、合理的な疑いは生じ得ない。 5 その上で、Hは、第2の3⑴ア記載のとおり、平成29年7月頃以降、被告人B1やB1の部下であり被告会社のオリンピック・パラリンピック室業務部長であったB2(以下「B2」という。)等被告会社関係者らとテストイベント定例会と称する検討会を持って検討をしていたところ、平成30年3月当時もテストイベン ト定例会を継続的に行っており、発注方式に関する第一局と企画財務局との協議や、経営会議の状況などについても、その都度、テストイベント定例会などの機会に被告会社側に共有していたと供述している。 この供述内容は、Hが被告人B1等被告会社従業者らに協力を求めてテストイベント業務の事業委託に関する発注方式について種々の検討を行っていたという経緯 からして自然である。さらに、元々随意契約によりテストイベント業務を発注する必要があると考えて組織委員会内部で調整を進め、第一局次長として、本件計画業務、本件 々の検討を行っていたという経緯 からして自然である。さらに、元々随意契約によりテストイベント業務を発注する必要があると考えて組織委員会内部で調整を進め、第一局次長として、本件計画業務、本件実施業務及び本件本大会業務の3つの契約を一気通貫のものと考えていたHが、経営会議において、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が、基本的に、その後の本件実施業務及び本件本大会業務を受注する方針とされたという、 Hや被告会社従業者らにとって重要な事実を、被告人B1等被告会社従業者らに伝 えないといったことはおよそ考え難い。Hの供述内容は信用でき、被告会社従業者らにおいては、Hから、この点を伝え聞き、組織委員会内の前記方針を認識したと認定できる。 6 弁護人はこのような認定に対し、被告人B1やB2は一致して、平成30年1月12日のテストイベント定例会において、Hから、本大会業務はプロポーザル 又は総合評価方式の可能性があるなどと聞かされたと供述している、この供述については、被告会社の従業者であるB3作成の議事録に「テストイベントは計画業務と実施業務は随契になる方向で調整している。本大会はプロポーザルまたは総合評価になる予定で、テストイベント実施業務をやった点はポイントになると思われる。」との記載があることが裏付けているなどと主張する。 しかしながら、「テストイベントは計画業務」は「随契」という記載は、第2の3⑴ウに照らして、当時の客観的な事実に明確に反している。第2の3⑴ウのとおり、同年1月12日のテストイベント定例会の前日の同月11日に、本件計画業務について総合評価方式の一般競争入札によって選定することが事実上決定されたことや、当該テストイベント定例会議事録の記載が、組織委員会の側の参加者から状況報告 会の前日の同月11日に、本件計画業務について総合評価方式の一般競争入札によって選定することが事実上決定されたことや、当該テストイベント定例会議事録の記載が、組織委員会の側の参加者から状況報告 する中での発言として記載されていることからすると、当該記載は、会議内容を正確に把握、理解した者による記載とは到底認められず、記載内容の信用性は認められない。むしろ、「総合評価」になる予定の「業務」がある反面で、「随契」すなわち随意契約になる「業務」があるといった報告がなされたという点では、I2供述の信用性や、上記認定を支えるものとすら言える。弁護人の主張は採用できない。 また、弁護人は、被告人B1やB2は一致して、平成30年3月2日や同月23日のテストイベント定例会において、Hから、同月15日の経営会議で本件実施業務や本件本大会業務の調達方針について諮られる予定であるとか協議了承されたという説明を受けていないと述べており、テストイベント定例会の議事録にもそうした説明がなされたことを示す記載はないなどとも指摘する。しかしながら、同経営 会議とそれぞれのテストイベント定例会までには1週間以上の期間が空いていると ころ、Hは上記のとおりテストイベント定例会「など」の機会に被告会社側に共有していたと供述しており、情報の共有がテストイベント定例会の機会に限られたとは述べていない。また、先に同年1月12日テストイベント定例会議事録について述べた事情からすると、テストイベント定例会議事録については、そもそも記載の正確性や、これに記載すべき内容を吟味したものか自体疑わしい。そうすると、テ ストイベント定例会議事録に記載がないとの事情をもって、上記認定に疑いを抱かせるものとは言えず、その他のものを含め弁護人が指摘する種々の点を踏 き内容を吟味したものか自体疑わしい。そうすると、テ ストイベント定例会議事録に記載がないとの事情をもって、上記認定に疑いを抱かせるものとは言えず、その他のものを含め弁護人が指摘する種々の点を踏まえても、上記認定に疑いは生じ得ない。 7 さらに、被告会社同様、従業者を組織委員会に出向させ、本件計画業務の入札に参加したFで東京2020大会関連業務に従事していたF1が、平成30年2 月28日に開催された同社の役員ミーティングにおいて、「テストイベントと本大会は紐付きでの発注となる」旨発言し、同ミーティングの参加者において、組織委員会の中で、テストイベント関連業務を受注することができれば、本大会業務も受注できることになっていると理解した事実が認められる。F1は、同年4月15日に開催された同社の役員合宿においても、テストイベントについて、「基本的に、」 「計画調査業務」を取った会社がそのまま「本ちゃん」の大会まで行くと思われているなどと発言した事実も認められるところである。これらの事実は、5記載の方針が、入札に参加する事業者にとって重要な意味を持つ事項であったことを示す事実と言えるとともに、被告会社ほどまでにはHと緊密な関係になかった事業者においても組織委員会の前記方針を把握していたことを示すものと言えるから、この点 も5の認定を支える。 8 そして、関係事業者7社中被告会社以外の各事業者にとっても、テストイベントが本大会の運営能力向上のため、本大会で使用する競技会場において行うものであることは明らかだったと言えるから、それらの関係性等に照らし、本件計画業務を受注した事業者がその後の本件実施業務及び本件本大会業務を受注するのが合 理的であると考えられていたと認められる。その上で、各事業者は、平成30年4 らの関係性等に照らし、本件計画業務を受注した事業者がその後の本件実施業務及び本件本大会業務を受注するのが合 理的であると考えられていたと認められる。その上で、各事業者は、平成30年4 月以降、前記事業者決定基準等公表された資料を見た上で入札に臨み、その際、特段、当該基準の趣旨等について疑問等が述べられたことはうかがえない。さらに、その後も、各事業者は、計画業務を受注していない競技・会場について本大会業務を受注するために営業活動を行うなど、計画業務とその後の業務の受注者が異なり得ることを前提とした活動をしたことをうかがわせる客観的な証拠もない。 9 以上の事情を踏まえれば、被告会社を含む各事業者においても、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が、その後の本件実施業務及び本件本大会業務を受注する可能性が相当程度に高いことを前提としていたと認められる。 10⑴ この点に関して、弁護人は、不当な取引制限罪における「合意」があったというためには、合意があったとされる時点において、合意の対象となる事業が 具体的に観念できる状況にあることが必要であるが、本件本大会業務についてはそのような状況になく、また、本件合意があったとされる時点では、組織委員会において、本件計画業務の受託者に本件実施業務及び本件本大会業務を随意契約により委託することを「固めて」おらず、被告人らにおいて、本件計画業務の談合により本件実施業務及び本件本大会業務の受注確度が高まると期待していなかったなどと 主張する。 ⑵ そこで検討すると、不当な取引制限罪が成立するには、複数の事業者間において、取決めに基づいた行動をとることを認識ないし予測し、これと歩調を合わせるという意思の連絡が必要と解されるところ、そのような意思の連絡があるというた 取引制限罪が成立するには、複数の事業者間において、取決めに基づいた行動をとることを認識ないし予測し、これと歩調を合わせるという意思の連絡が必要と解されるところ、そのような意思の連絡があるというためには、事業者相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、 直接又は特定の者を媒介として、相互に他の事業者の入札行動等に関する行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解される。 ⑶ 本件で、本件計画業務について不当な取引制限罪が成立することについては、被告会社や被告人B1にも争いがなく、関係証拠に照らしても、これを認定することができるが、これは、Hや被告人B1らにおいて各事業者と面談等を行い、その 結果を一覧表に最終的にまとめた平成30年4月2日までに、関係事業者7社中の 各事業者の従業者らにおいて、本件計画業務の受注に関し、発注者である組織委員会の幹部職員として当該業務の発注について中心的な役割を果たしていたHの意向に沿うことにより当該事業者自体の受注可能性が高まると認識しただけでなく、H等からHの意向を示されるなどした他の同種事業者らも、受注の可能性を高めるために、Hの意向に沿って入札等に向けた行動等をとることを相当程度の確実性をも って相互に予測した上で、自らも他の事業者と歩調を合わせ、Hの意向に沿った入札行動等を行う旨の意思を他の事業者と共有するに至っていたと認定することができ、⑵記載の意思の連絡があったものとして、「罪となるべき事実」記載のとおり、関係事業者7社間において、受注予定事業者を決定するとともに基本的に当該受注予定事業者のみが入札を行うことなどを合意していた(以下「本件基本合意」とい う。)と認めることができるからである。 ⑷ これを前提にすると、本件のように、 決定するとともに基本的に当該受注予定事業者のみが入札を行うことなどを合意していた(以下「本件基本合意」とい う。)と認めることができるからである。 ⑷ これを前提にすると、本件のように、本件基本合意をした際、組織委員会において、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が本件実施業務及び本件本大会業務を受注することを基本的な方針としており、各事業者においても、本件計画業務を受注した事業者と同一の事業者が、その後の本件実施業務及び本件本大会 業務を受注する可能性が相当程度に高いことを前提として、前記のとおり相互に認識ないし予測した上で、自らも歩調を合わせた入札行動等を行う意思を共有していた事実が認められる以上、本件基本合意の対象である「一定の取引分野」に、本件実施業務及び本件本大会業務も含まれると認定するには十分であって、弁護人が主張するように、組織委員会において、本件計画業務の受託者に本件実施業務及び本 件本大会業務を随意契約により委託することを「固めて」までいる必要はないと言うべきである。また、Hらにおいて、当初より、「テストイベント、本大会の準備・実施運営を遂行しうる充分な制作能力を有していること」を委託先の選定要件としていたことや関係事業者7社は第2の2のような実績、能力を有していたことからすると、関係事業者7社においては、そうした予測等を行うに必要な限りでは、本 件本大会業務等の内容を想定することも可能であったと認められ、そうした意味で、 業務が事後的に当初の想定より拡大した面があったなどとしても、これにより、本件基本合意の対象等の認定に影響を与えるものとも言えない。その他のものを含め弁護人が指摘する点を踏まえても、上記認定に疑いは生じ得ない。 第4 結語以上によれば、本件基本合意の これにより、本件基本合意の対象等の認定に影響を与えるものとも言えない。その他のものを含め弁護人が指摘する点を踏まえても、上記認定に疑いは生じ得ない。 第4 結語以上によれば、本件基本合意の対象には、本件計画業務のみならず、本件実施業 務及び本件本大会業務が含まれていたと認められ、「罪となるべき事実」記載のとおりの事実を認定することができる。 (量刑の理由) 1 本件は、東京2020大会に関する入札について、関係事業者7社の従業者らが、発注者である組織委員会の幹部職員や、その意を受けた関係事業者の従業者 らを通じるなどして、談合したという事案である。 2⑴ 国内外から注目を集め大規模に開催された東京2020大会の準備・運営に関する事案で、合意等の対象となった契約等の規模は委託先事業者に対して支払われた実績額で合計約437億円と多額に及んでいる。また、本件には東京2020大会等大規模スポーツイベントの運営等を行うことのできる事業者の多くが参加 しており、本件計画業務の入札に参加した全事業者11社、本件計画業務を受注するに至った事業者9社のうち7社を占める。これら複数の大手事業者を含む関係事業者7社の多数の従業者が関与して行われたものであることに照らしても、大規模な入札談合事案と言える。そして、受注予定事業者以外の事業者が応札を行った例はあるものの、結果として、本件合意の対象となった全26の各会場案件のうち、 24において受注予定事業者が受注するに至り、更にそのうち16については、受注が望ましいとされた事業者のみが入札に参加して必要書類を提出するに至ったこと等を考慮すれば、結果として公正かつ自由な競争を阻害した程度も大きいと言うべきである。 ⑵ 被告人B1は、前記組織委員会幹部職員との東京2020大会の が入札に参加して必要書類を提出するに至ったこと等を考慮すれば、結果として公正かつ自由な競争を阻害した程度も大きいと言うべきである。 ⑵ 被告人B1は、前記組織委員会幹部職員との東京2020大会の招致段階か らのつながりがある中で、同幹部職員において競技大会が行われる会場案件ごとに 受注が適切と考えている事業者がいること等を認識した上で、被告会社として東京2020大会における本大会運営業務まで含めた一連の業務を受注するため、同幹部職員と共に他の事業者と面談等のやりとりを行うなどして、同幹部職員の意向に沿った入札等の行動をとろうと考え、本件に加担した。東京2020大会を成功させたいとの被告人らなりの思いがあったとしても、被告会社の利益、業績向上を図 る思惑があったことは否定できない。被告会社は、関係事業者7社の中でも最大手の事業者として、発注者である組織委員会の幹部職員の意向を汲み取ることが可能なほか、他の関係事業者の事業活動に対して影響を及ぼし得る立場にあったと認められ、こうした観点からも、公正かつ自由であるべき競争を阻害したことについて、被告人B1や被告会社は非難は免れない。結果として、被告会社は5つの会場案件 について受注予定事業者となって一連の業務を受注し、その売上額も、証拠上、60億円を上回る。 3 しかしながら、本件における合意の内容は、判示のとおり基本的に受注予定事業者のみが入札を行うこと等にとどまり、受注予定事業者に確実に受注させるため入札参加の有無や入札価格等について情報交換がされた事実までは認められず、 競争を制限する程度は、必ずしも強くはない。 4 その上で、被告人B1には前科前歴がなく、被告会社にも同種前科はないこと、被告人B1については前述のとおり個人的な利得を目的として本件に ず、 競争を制限する程度は、必ずしも強くはない。 4 その上で、被告人B1には前科前歴がなく、被告会社にも同種前科はないこと、被告人B1については前述のとおり個人的な利得を目的として本件に加担したものではないこと等の事情も認められる。 5 以上の事情を総合考慮し、主文のとおり、被告会社及び被告人B1に対して 主文のとおり刑を定め、被告人B1に対しては、刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 (求刑被告会社につき罰金3億円、被告人B1につき懲役2年)令和7年2月6日東京地方裁判所刑事第16部 裁判長裁判官安永健次 裁判官青木美佳 裁判官小寺柊斗
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