令和6(う)25 臓器の移植に関する法律違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月6日 東京高等裁判所 棄却 東京地方裁判所 令和5特(わ)497
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判決文本文14,595 文字)

- 1 - 主文 本件各控訴を棄却する。 理由 本件各控訴の趣意は、弁護人提箸欣也(主任)、同前田康行及び同織田慎二連名作成の控訴趣意書並びに被告法人代表者兼被告人作成の控訴趣意書及び控訴趣意書⑵ないし⑷記載のとおりであり、被告法人及び被告人に関する法令適用の誤りの主張及び被告人に関する量刑不当の主張である。 第1 本件事案の概要原判決は、罪となるべき事実として、要旨、被告法人は、癌及び難病患者への支援に関する事業等を目的として設立された法人、被告人は、被告法人の実質的責任者としてその業務全般を統括管理していたものであるが、被告人は、被告法人の業務に関し、業として行う臓器のあっせんに関する臓器の別ごとの厚生労働大臣の許可を受けないで、業として、⑴令和3年1月31日頃から2月15日頃までの間、日本国内において、パーソナルコンピューターを用いて、「腎・肝・心臓・肺移植の海外渡航に関する支援及び情報提供が私たちの活動です。」「患者様が聞きたいこと、知りたいこと、医師との意思の疎通を、翻訳並び通訳し仲立つのが私どもの活動です。」「海外の各医療機関へ照会検査結果、診療情報を英文または中国文に翻訳して海外の医療機関に送信します。」「海外の各医療機関から回答医師の所見及び令和6年(う)第25号臓器の移植に関する法律違反被告事件令和6年12月6日東京高等裁判所第3刑事部判決【原審】令和5年特(わ)第497号令和5年11月28日東京地方裁判所判決【参照】臓器の移植に関する法律12条1項高刑集第76巻1号- 2 - の通達がNPO宛てに届きます。」「移植治療の申し込み手術費用や諸条件を比較検討の上、医療機関を選択します。」「移植手術手術前の最終検査及びドナー 項高刑集第76巻1号- 2 - の通達がNPO宛てに届きます。」「移植治療の申し込み手術費用や諸条件を比較検討の上、医療機関を選択します。」「移植手術手術前の最終検査及びドナーとのマッチング検査を行います。」「私どもは海外の医療機関と患者様との懸け橋となり、海外の医療機関の情報提供や現地サポートが主な活動となっています。」などと表示した被告法人のホームページのデータファイルを東京都内に設置されたサーバーコンピューター内に記録・保存させ、インターネットを利用する不特定多数の者に閲覧可能な状態にして、臓器移植希望患者を募集し、日本国内において、同ホームページを閲覧して被告法人に問合せをしてきた腎臓移植を希望する慢性腎臓病患者Aに対し、同月19日頃から12月18日頃までに、横浜市内の被告法人事務所及び被告人方において、「ベラルーシかカンボジアなら、すぐに移植ができる。」「ベラルーシは、特別に死体ドナーから移植を受ける外国人の枠があり、その外国人枠に登録して選ばれることになる。」などと言って渡航移植を勧めた上、令和4年1月29日頃から3月29日頃までの間、Aに、渡航移植費用等として、被告法人名義の預金口座に合計1850万円を振り込ませるなどして、Aから死体から摘出される腎臓の移植手術のあっせん依頼を受けるとともに、同月4日頃、被告法人従業員に、Aと共にベラルーシ共和国へ渡航させ、その頃から同月11日頃までの間に、Aを同国のC病院に案内して、同病院を腎臓移植実施施設として紹介し、外国人枠のレシピエント登録及び治療契約を締結させ、6月4日頃、被告法人従業員に、Aと共にベラルーシに渡航させ、7月2日頃、同病院において、Aに腎臓の移植手術を受けさせ、もって厚生労働大臣の許可を受けずに業として移植術に使用されるための死体から摘出 月4日頃、被告法人従業員に、Aと共にベラルーシに渡航させ、7月2日頃、同病院において、Aに腎臓の移植手術を受けさせ、もって厚生労働大臣の許可を受けずに業として移植術に使用されるための死体から摘出される腎臓の提供を受けることのあっせんをし(原判示第1)、⑵令和3年10月頃、日本国内において、おおむね前同様の内容のほか、「私どもでは渡航移植の相談を受けた時点で複数の医療機関に照会をして移植希望者の要望に合わせて諸条件(ドナーを含む)の比較検討をきめ細かく高刑集第76巻1号- 3 - おこないます。」などと表示した被告法人のホームページを閲覧可能な状態にして、臓器移植希望患者を募集し、日本国内において、同ホームページを閲覧して被告法人に問合せをしてきた肝臓移植を希望する肝硬変患者Bの親族に対し、11月13日頃、前記被告法人事務所において、「渡航移植の料金については、2800万円と予備費500万円が必要です。」「ベラルーシかウズベキスタンかキルギスの3か国のうちのいずれかで臓器移植を受けることができますが、臓器については、生体はあり得ません。」「ぎりぎりの数値だから早くした方がよいですよ。」などと言ってBの親族を介してBに早期の渡航移植を勧めた上、同月18日頃から12月27日頃までの間、Bに、渡航移植費用等として、被告法人名義の預金口座に合計3300万円を振り込ませるなどして、Bから死体から摘出される肝臓の移植手術のあっせん依頼を受けるとともに、同月28日頃、ベラルーシ共和国のDセンターと被告法人との間でBに関する治療契約を締結し、令和4年1月9日頃、被告人が、Bと共にベラルーシへ渡航し、その頃から2月10日頃までの間に、Bを同センターに案内して、同センターを肝臓移植実施施設として紹介し、その頃、同センターにおいてBに肝臓の移 4年1月9日頃、被告人が、Bと共にベラルーシへ渡航し、その頃から2月10日頃までの間に、Bを同センターに案内して、同センターを肝臓移植実施施設として紹介し、その頃、同センターにおいてBに肝臓の移植手術を受けさせ、もって厚生労働大臣の許可を受けずに業として移植術に使用されるための死体から摘出される肝臓の提供を受けることのあっせんをした(原判示第2)との事実を認定し、臓器移植法22条、24条1項、12条1項を適用して、被告法人を罰金100万円に、被告人を懲役8月に処した。 第2 被告法人及び被告人に関する法令適用の誤りの主張について 1 論旨は、要するに、⑴臓器移植法12条1項は日本国外で行われる移植術に係る臓器の提供等のあっせん行為に適用されない上、⑵被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為は同条項の「あっせん」に該当しないことなどから、被告法人及び被告人に同法22条、24条1項、12条1項を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤り高刑集第76巻1号- 4 - があるというのである。 2 原判決の判断の要旨原審において、原審弁護人は、論旨とおおむね同旨の主張をして被告法人及び被告人の各無罪を主張したところ、原判決は、要旨、以下のとおり説示して、被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為が臓器移植法12条1項の「業として行う臓器のあっせん」に該当し、被告法人及び被告人のいずれも同法22条、24条1項に該当すると認めた。 ⑴ 国外で実施される移植術に関する臓器移植法12条1項の適用についてア臓器移植法12条1項が、業として行う臓器のあっせんをしようとする者は、厚生労働大臣の許可を要するものと定め、同条2項が一定の者には許可をしないこととしたのは、移植術を必要とする者に対し臓器 ア臓器移植法12条1項が、業として行う臓器のあっせんをしようとする者は、厚生労働大臣の許可を要するものと定め、同条2項が一定の者には許可をしないこととしたのは、移植術を必要とする者に対し臓器移植が適切に実施されること、移植術を受ける機会が公平に与えられること、臓器売買や臓器の有償あっせんにより臓器が経済取引の対象とされることなく、臓器の提供は人道的精神に基づき任意にされるべきこと等の基本的理念にかなう移植医療の適切な実施を確保するためであると解される。 イ国外における移植術に関し、日本国内及び国外であっせん行為が行われる場合においては、㋐業としてあっせんを行う者が、法外な価格を提示するなどして国外における臓器の提供が臓器売買や有償あっせん等を通じて行われた結果、臓器の提供が任意にされないことがあり得る、㋑業としてあっせんを行う者が、移植術を必要とする者の提示する対価の多寡により恣意的に国外で提供される臓器を配分するなどして、国内で形成され定められていた移植術を受ける機会の序列等が乱され、国内における移植術を受ける機会の公平性や提供された臓器に応じた移植術の効果的な実施が著しく損なわれる等の事態を招くおそれがある、㋒国外における移植であっても、一定以上の医学的基準に則して移植術を行うのに十分な環境の下適切に行われなけれ高刑集第76巻1号- 5 - ばならないところ、国内で行われて臓器あっせん機関が関与する場合とは異なり、移植術の適正な実施が確保されず、移植術を受ける者の医療上の安全が脅かされる危険性が否めない、㋓移植術に係る判定等に関する記録の医師による作成やその閲覧が保障されない上、無許可で業としてあっせんを行う者は、帳簿の備付け等が義務付けられず、秘密保持義務等も負わず、国外で移植術を受ける者のプライバシーや る判定等に関する記録の医師による作成やその閲覧が保障されない上、無許可で業としてあっせんを行う者は、帳簿の備付け等が義務付けられず、秘密保持義務等も負わず、国外で移植術を受ける者のプライバシーや情報の保護、移植術後の国内における継続的な医療的措置の実施にも支障を来しかねない。 ウ国外における移植術に関して業として行う臓器のあっせんがなされた場合、そのあっせん行為の一部又は全部が国内で行われる限り、臓器移植法の基本的理念に反する上述した事態が生じかねないから、前記あっせんをしようとする者は、臓器移植法12条1項が定める厚生労働大臣の許可を受けなければならないと解するのが相当である。 ⑵ 臓器移植法12条1項にいう「あっせん」の意義について前記のような臓器移植法12条1項の趣旨や国外における移植術に関して業として行う臓器のあっせんが同項の許可なくされた場合の種々の弊害に照らすと、移植術を必要とする者のうち国外における移植術を受けることを希望する者を国内で募集し、その登録を行う行為や、移植術を必要とする者と国外での移植術を行う医師又はその所属する医療機関との連絡・調整を行う行為であっても、前記⑴イ㋐~㋓の弊害をもたらす危険性がある。また、同項は「臓器を提供すること又はその提供を受けることのあっせん」と規定しており、移植術に使用されるための臓器の提供にまつわる連絡・仲介行為の全過程を同一の者が担う場合のみがこれに当たると解することは困難である。 したがって、同項の「あっせん」には、国外における移植術を受けることを希望する者の募集・登録、移植術を必要とする者と国外での移植術を行う医師又はその所属する医療機関との間の連絡・調整等の行為も含まれると解するのが相当である。 高刑集第76巻1号- 6 - ⑶ 本件についてみると、被 を必要とする者と国外での移植術を行う医師又はその所属する医療機関との間の連絡・調整等の行為も含まれると解するのが相当である。 高刑集第76巻1号- 6 - ⑶ 本件についてみると、被告人は、被告法人の業務として、国外における移植術に関し、国内において同移植術を受けることを希望する者を募集し、募集に応じて登録を行った2名の者についてベラルーシで移植術を行う医師が所属する医療機関に紹介して治療契約を締結させるなどの連絡調整行為を行って現に腎臓及び肝臓の移植術を受けさせ、この際、被告法人は同項の厚生労働大臣の許可を受けていなかったから、同項の許可を受けないで「業として行う臓器のあっせん」をしたと認められる。 3 当裁判所の判断臓器移植法12条1項に関する原判決の解釈に誤りはなく、これを前提として、被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為につき、同条項にいう「業として行う臓器のあっせん」に当たるとして、被告法人及び被告人のいずれにも同法22条、24条1項、12条1項を適用した原判決の判断は相当であり、原判決に法令適用の誤りはない。 すなわち、臓器移植法12条1項は、業として移植術に使用されるための臓器を提供すること又はその提供を受けることのあっせんをしようとする者は、臓器の別ごとに、厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定めるところ、同法の目的や基本的理念が、移植医療の適正な実施、臓器提供の任意性の確保、移植術を受ける機会の公平性の確保等にあり(同法1条、2条)、国外における移植術に関しても、許可を受けない者が業として臓器のあっせんを行った場合には、原判決が指摘するとおり、前記のような臓器移植法の目的や基本的理念に反する種々の弊害の生じるおそれがあることに鑑みれば、あっせん行為の一部又は全部が国内で行われる限 臓器のあっせんを行った場合には、原判決が指摘するとおり、前記のような臓器移植法の目的や基本的理念に反する種々の弊害の生じるおそれがあることに鑑みれば、あっせん行為の一部又は全部が国内で行われる限り、それが国外における移植術に関するものであっても、臓器移植法12条1項の定める厚生労働大臣の許可が必要であると解するのが相当である。かかる解釈は、同条項の文理上、単に「移植術に使用されるための臓器」と規定され、「移植術」が日本国内で行われるものに限定されていないことにも適合する。さらに、臓高刑集第76巻1号- 7 - 器移植法の施行直前の平成9年(1997年)10月13日付けで厚生省保健医療局長から発出された通知「臓器のあっせん業の許可等について」(健医発第1353号)が「(法12条1項にいう)臓器のあっせんの具体的内容としては、①臓器の提供者の募集及び登録、②移植を希望する者の募集及び登録、③臓器の提供者、臓器提供施設、移植実施施設等との間の連絡調整活動などがあり、これらの全部または一部を業として行う場合が臓器のあっせん業に該当する」とし(原審甲14等)、国内で移植術が行われる場合に限定するような趣旨はうかがわれないこと、2012年(平成24年)4月に発行された厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室監修の「逐条解説臓器移植法」には、前記の保健医療局長通知の引用に続けて、「例えば移植希望者の募集等を行い、海外の医療機関での受診を支援するような活動についても、臓器提供者とのマッチングを行わなかったとしても、これを反復継続して行えばあっせん業に該当すると解される。」と記載されていること(原審甲55、弁42等)などに照らし、前記解釈は、臓器移植法の所管官庁である厚生労働省の解釈とも整合するものとみられる。 そして、原判決も指摘す せん業に該当すると解される。」と記載されていること(原審甲55、弁42等)などに照らし、前記解釈は、臓器移植法の所管官庁である厚生労働省の解釈とも整合するものとみられる。 そして、原判決も指摘する臓器移植法の目的や基本的理念、これらに反する種々の弊害を防止すべき必要性、「臓器を提供すること又はその提供を受けることのあっせん」という規定の文言に加え、前記の保健医療局長通知の内容も踏まえると、同法12条1項にいう「あっせん」とは、臓器の提供者の募集及び登録、移植を希望する者の募集及び登録、臓器の提供者、臓器提供施設、移植実施施設等との間の連絡調整活動等の全部又は一部をいうものと解すべきであって、被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為が同条項にいう「あっせん」に該当することも明らかである。 以下、所論を踏まえて補足して説明する。 国外での移植術に関する臓器移植法12条1項の適用に関する所論所論は、①臓器移植法12条1項は、移植機会の公平性確保という主たる高刑集第76巻1号- 8 - 目的を実現するために、臓器に係る仲介業務について厚生労働大臣の許可を必要とし、もって仲介業務の適正な運営を確保しようとしたものであって、日本国外における臓器の差配は当該国の問題で日本国の主権は及ばないのであるから、同条項は、日本国内のドナーが提供した臓器について、日本国内の臓器移植希望者に対して臓器移植のあっせんをする際に、日本国内における移植機会の公平性を確保するための規定であると主張する。しかし、日本国内の臓器移植希望者の一部が国外で臓器移植を受けることについて業としてあっせん行為が行われる場合、あっせんを行う者が、移植術を必要とする者の提示する対価の多寡により恣意的に国外で提供される臓器を配分することなどにより、日本国内で臓 器移植を受けることについて業としてあっせん行為が行われる場合、あっせんを行う者が、移植術を必要とする者の提示する対価の多寡により恣意的に国外で提供される臓器を配分することなどにより、日本国内で臓器あっせん機関等による移植術を必要とする者等の記録・情報の管理の下に形成され定められていた移植術を受ける機会の序列等が乱され、日本国内における移植機会の公平性を害する事態を招くおそれがあることは原判決説示のとおりであって、臓器移植法12条1項のあっせんの対象を、日本国内の臓器の提供者が提供した臓器の、日本国内の移植希望者へのあっせんに限定して解釈する理由はないというべきである。関連して所論は、②臓器移植法12条1項に違反した場合の罰則である同法22条には、同法11条(臓器売買等の禁止)に違反した場合の罰則における同法20条2項のような国外犯処罰規定はないから、国外における臓器移植に係るあっせん行為への罰則の適用は謙抑的に行うべきであるとも主張するが、原判決は、あっせん行為の一部又は全部が日本国内で行われることを前提として、同法12条1項に違反した場合の罰則を定める同法22条の適用を肯定したものであり、国外におけるあっせん行為について同法22条の適用を肯定する趣旨とは解されないから、所論は前提を欠く。 また所論は、③前記2⑴イ㋐~㋓のような弊害が存するという理由だけから、国外での移植術に係るあっせんについても臓器移植法12条1項の適用を肯定するのは不当である、④同㋐の臓器提供の任意性に関する原判決の説高刑集第76巻1号- 9 - 示には論理の飛躍がある上、国外における臓器売買や有償あっせんについては、同法11条、20条による規制があり、臓器提供の任意性を保護している、⑤同㋑の国内における移植機会の公平性等に関しては、国外での移植 論理の飛躍がある上、国外における臓器売買や有償あっせんについては、同法11条、20条による規制があり、臓器提供の任意性を保護している、⑤同㋑の国内における移植機会の公平性等に関しては、国外での移植術が行われることによって、国内での移植術を受ける機会は増加するから、移植機会の公平性が損なわれるものではない、⑥同㋒の医療上の安全性や同㋓のプライバシー等の保護等に関して、本件で移植が行われたベラルーシの各病院では、医療水準にも診療情報の引継ぎにも問題はなく、そもそもこれらの事項は、移植術の行われる当該国の問題である、と主張する。しかし、③(判断方法)については、臓器移植法12条の趣旨について同法の基本的理念等(2条等)との関連で検討し、同法の基本的理念等に反する弊害の生じ得る事態を想定して、国外での移植術について同法12条1項の適用の有無を検討するという原判決の判断の方法は何ら不当ではない。そして、④(臓器提供の任意性)については、前記のとおり、業としてあっせんを行う者が、法外な価格を提示するなどした結果、国外における臓器の提供が臓器売買や有償あっせん等を通じて行われ、臓器の提供が任意にされないことがあり得る旨の原判決の説示も是認することができ、臓器売買等が別途同法11条、20条で規制されているからといって、同法12条1項の適用を限定する理由となるものでもない。また、⑤(国内における移植機会の公平性等)については、単に国外での移植術が行われれば国内での移植術を受ける機会が増加するから問題とならないということではなく、前記のとおり、日本国内で臓器あっせん機関等による移植術を必要とする者等の記録・情報の管理の下に形成され定められていた移植術を受ける機会の序列等が乱され、日本国内における移植機会の公平性等を害する事態を招くおそれがあるとの原判 あっせん機関等による移植術を必要とする者等の記録・情報の管理の下に形成され定められていた移植術を受ける機会の序列等が乱され、日本国内における移植機会の公平性等を害する事態を招くおそれがあるとの原判決の説示に誤りはない。さらに、⑥(医療上の安全性やプライバシー等の保護等)についても、国外で移植術が行われる場合であっても、そのあっせん行為の一部又は全部が日本国内で行われる以上、移植術を受ける者の医療上の安全高刑集第76巻1号- 10 - 性や、プライバシー等の保護、移植後の日本国内における継続的な医療的措置の実施等を確保するため、業として行うあっせん行為を同法12条1項の許可にかからしめることには相応の合理性を認めることができる。 なお、所論は、⑦本件における2件の移植手術においては、生体から取り出された臓器が使用された合理的な疑いがあるから、死体から取り出された臓器であることを前提とする臓器移植法12条1項は適用されないとも主張する。しかし、同条項は、現実に移植された臓器が死体から摘出されたものか、生体から摘出されたものかにかかわらず、「死体から摘出される臓器の移植を前提として」あっせん行為をした場合に適用されると解するのが相当である(原審甲7(厚生労働省健康局難病対策課移植医療対策推進室長による回答書)参照)ところ、被告人自身が、臓器売買と疑われることや患者が帰国後に診療拒否されることなどの生体移植に伴う問題を避けるため、死体からの臓器移植であるとして患者を募集、案内していた旨供述しており(原審乙3、9)、被告法人のホームページの記載内容や関係者らの各供述もこれに一致することなどからすれば、被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為においては、死体から摘出される臓器であることを前提としてその提供を受けることのあっ ジの記載内容や関係者らの各供述もこれに一致することなどからすれば、被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為においては、死体から摘出される臓器であることを前提としてその提供を受けることのあっせん行為が行われたものと認められ、同条項の適用が妨げられることにはならない。 ⑶ 臓器移植法12条1項にいう「あっせん」の意義に関する所論所論は、①臓器移植法12条1項にいう「あっせん」とは、他の法令における「あっせん」又は「周旋」の意義に照らしても、臓器提供施設ないし臓器提供者と移植実施施設ないし移植希望者との間に入って仲介行為を行うことをいい、その双方の依頼又は承認が必要であるところ、被告人が被告法人の業務として行った本件各行為は、移植実施施設と移植希望者との間の仲介行為に過ぎないから、同条項の「あっせん」には該当しない、と主張する。 しかし、同条項の「あっせん」の意義を所論指摘のように解すべき必然性は高刑集第76巻1号- 11 - なく、移植実施施設と移植希望者との間に入って仲介を行った場合でも、前記のような臓器移植法の基本的理念等に反する弊害の生じることが想定され、また、同法12条1項が「臓器を提供すること又はその提供を受けることのあっせん」、すなわち「提供すること」と「提供を受けること」の双方又は一方についての「あっせん」と規定していることを踏まえて、移植術を受けることを希望する者(移植希望者)の募集・登録、移植術を必要とする者と移植術を行う医師又はその所属する医療機関(移植実施施設)との間の連絡・調整等の行為が、同条項にいう「提供を受けることのあっせん」に含まれると解するのが相当であると判断したものと解される原判決の判断に不合理なところはない。同一ないし類似の文言であっても、各法令の目的、趣旨等に応じて、その意味 う「提供を受けることのあっせん」に含まれると解するのが相当であると判断したものと解される原判決の判断に不合理なところはない。同一ないし類似の文言であっても、各法令の目的、趣旨等に応じて、その意味内容が異なり得ることは当然であって、各法令の規制対象となる行為ごとにあっせん行為の内実が異なり得るとした原判決の判断にも誤りはない。 関連して所論は、②原判決の解釈が、「臓器のあっせん業とは、臓器提供施設と移植実施施設の間にあって、必要な媒介的活動を反復継続して行うことをいう」とする前記の保健医療局長通知(健医発第1353号)の内容に反するとも主張するが、前記3⑴のとおり、同保健医療局長通知においては、「臓器のあっせんの具体的内容としては、①臓器の提供者の募集及び登録、②移植を希望する者の募集及び登録、③臓器の提供者、臓器提供施設、移植実施施設等との間の連絡調整活動などがあり、これらの全部または一部を業として行う場合が臓器のあっせん業に該当する」とされているほか、前記の「逐条解説」では、「例えば移植希望者の募集等を行い、海外の医療機関での受診を支援するような活動についても、臓器提供者とのマッチングを行わなかったとしても、これを反復継続して行えばあっせん業に該当すると解される。」と記載されているところであって、原判決の解釈が、臓器移植法の所管官庁である厚生労働省の解釈とも整合的であることは明らかである。 高刑集第76巻1号- 12 - なお、所論は、③被告法人の活動は、臓器移植希望者の国外病院への案内、翻訳、通訳、身の回りの世話などの実務的な支援活動であり、臓器移植法12条1項の「あっせん」に該当しないと主張し、関連して④本件で有罪となれば、移植希望者への支援活動は事実上禁止されて、今後、国内患者が国外移植を受ける道が閉ざされ 務的な支援活動であり、臓器移植法12条1項の「あっせん」に該当しないと主張し、関連して④本件で有罪となれば、移植希望者への支援活動は事実上禁止されて、今後、国内患者が国外移植を受ける道が閉ざされるとも主張するが、被告人は、被告法人の業務として、国外における移植術に関し、国内において移植希望者を募集し、募集に応じて登録した2名について、それぞれ国外で移植術を行う医師の所属する医療機関に紹介するなどの連絡調整行為を行って現に移植術を受けさせているのであるから、本件各行為が同条項所定の「あっせん」に該当するとした原判決の判断に誤りはなく、所論④指摘のような事情があったとしても、その判断を左右するものとはいえない。 ⑷ その他の所論所論は、原判決は有罪の根拠として、被告人が本件各行為について違法性を認識する可能性は十分にあったと認定しているが、在ベラルーシ日本大使館から医療機関及び通訳の紹介を受け、専門家からの意見聴取においても参加者は誰も違法性を認識していなかったから、原判決の前記認定には根拠がないと主張する。違法性の認識可能性について、原判決は、量刑の理由の中で言及しており、有罪の根拠としているわけではないが、その点は措くとしても、原審証拠によれば、被告人は、令和元年頃、当時被告法人理事長を務めていた息子に対し、「12条の無登録だけど法律は死体ドナーに限るとあるので生体なら合法かも」「厚生労働省の逐条解説には『患者の募集行為』にも許可が必要とあったと記憶しているが、(中略)私達NPOも違反となるおそれがあります。」などと記載した手紙を送り、息子からも、同年12月の厚生労働省でのヒアリングにおいて「そちらの会の行為はあっせん業に当たると考えられる」などとの指摘を受けた旨の報告を受けるなどしていたことが認められる(原審甲52、57、 、息子からも、同年12月の厚生労働省でのヒアリングにおいて「そちらの会の行為はあっせん業に当たると考えられる」などとの指摘を受けた旨の報告を受けるなどしていたことが認められる(原審甲52、57、乙12)とともに、前記の「逐条解高刑集第76巻1号- 13 - 説」に引用されている前記の保健医療局長通知についても認識していたものと認められる。また、被告人の供述を前提としても、在ベラルーシ日本大使館の関与は、被告人から渡航移植の実情の調査依頼を受けて回答したほか、通訳を紹介したというものにとどまっており(原審乙5)、さらに、所論指摘の弁護士や大学教授らを交えた打合せ(令和3年11月)においても、前記の「逐条解説」を参照しつつ、被告法人の活動が「あっせん」に該当して違法となる可能性がある旨の指摘を受けるなどしている (原審甲37)のであって、被告人が本件各行為について違法性を認識する可能性は十分にあったとする原判決の認定に誤りはない。 その他所論が種々主張するところを検討しても、原判決の法令適用の判断を左右しない。 法令適用の誤りの論旨は理由がない。 第3 被告人に関する量刑不当の論旨について 1 論旨は、要するに、仮に被告人が有罪であるとしても、被告人を懲役8月の実刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり、罰金刑に処するのが相当であるというのである。 2 原判決は、量刑の理由を要旨以下のように説示して、被告人を懲役8月に処した(求刑は懲役1年及び罰金100万円)。 被告人は、被告法人の業務として、ホームページを設けるなどして、不特定多数の者に対し、反復継続して、国外での移植術の希望者を募集・登録し、国内外の医療機関と連携し、登録した者が国外での移植術を受けられるよう、業として行う臓器のあっせんをする体制を整えた上 て、不特定多数の者に対し、反復継続して、国外での移植術の希望者を募集・登録し、国内外の医療機関と連携し、登録した者が国外での移植術を受けられるよう、業として行う臓器のあっせんをする体制を整えた上、国内での臓器のあっせんの実現には相当長期間を要するところ、被告法人への応募者らには数か月以内に必要とする移植術を受けることを可能にしており、国内移植医療の現状や我が国で移植術を必要とする者に対する国外移植医療の適正な実施の在り方については今後検討が必要であるにせよ、本件のように国外での移植術高刑集第76巻1号- 14 - の実施を組織的に援助することにより、結果として臓器移植法が基本的理念とする移植術を受ける機会の公平性が大きく損なわれたことは明らかである。 被告人は判示各行為が違法ではないと思っていた旨述べるものの、専門家等からの意見聴取や厚生労働省のヒアリング等を通じ、違法性を認識する可能性は十分にあったと認められる。国外で移植術を受けることを希望する者に助力した結果、被告人の被告法人を通じた活動に謝意を示す者もあること、本件各行為が営利性のあるものとはいえないことなどの事情を考慮しても、被告人が、累犯前科(①平成21年、覚せい剤取締法違反幇助、関税法違反幇助の罪により懲役3年・5年間執行猶予に処せられ、平成28年に執行猶予が取り消されたもの、②平成27年、傷害、公務執行妨害の罪により懲役1年2月に処せられたもの)を含む複数の前科がありながら、前記のような認識の下で本件に及んだことを併せ考えると、主文の実刑は免れない。もっとも、本件各行為が営利性のあるものとまでは認められないことに加え、被告人の個人的な利得が大きかったとも認められないことからすれば、罰金刑を併科するのは相当でない。 3 原判決の量刑判断は相当であり、その 件各行為が営利性のあるものとまでは認められないことに加え、被告人の個人的な利得が大きかったとも認められないことからすれば、罰金刑を併科するのは相当でない。 3 原判決の量刑判断は相当であり、その量刑が重すぎて不当であるとはいえない。 所論は、①被告人が被告法人の業務に関して行った本件各行為は、国内の限りある移植術に係る臓器の差配についての秩序を何ら侵害しておらず、国内の臓器移植機会の公平性を損ねていないと主張する。しかし、所論は、国内における臓器の差配に着目しているが、原判決は、国内で臓器あっせん機関等による移植術を必要とする者等の記録・情報の管理の下に形成され定められている移植術を受ける機会の序列等があることを前提として、国内での臓器あっせんの実現に相当長期間を要する現状の下、被告法人の募集に応じた者らには数か月以内に移植術を受けることを可能にしており、そのような国外での移植術の実施を組織的に援助することによって、前記の移植機会の高刑集第76巻1号- 15 - 序列等を乱し、結果として臓器移植法が基本的理念とする移植機会の公平性が大きく損なわれたと評価したものと解され、そのような原判決の評価に不合理なところはない。 また所論は、②原判決は、被告人が違法性を認識する可能性は十分にあったと認定しているが、本件各行為が臓器移植法12条1項に違反するとの解釈は確立しておらず、また、政治家から許可は不要である旨の説明を受けていたことなどを考慮していないと主張する。しかし、所論指摘のように被告人が政治家から説明を受けるなどした事情があったとしても、前記第2の3⑷のとおり、令和元年頃における当時被告法人理事長を務めていた息子と被告人とのやり取りや、厚生労働省でのヒアリングの内容等に照らし、被告人が本件各行為について違法性を があったとしても、前記第2の3⑷のとおり、令和元年頃における当時被告法人理事長を務めていた息子と被告人とのやり取りや、厚生労働省でのヒアリングの内容等に照らし、被告人が本件各行為について違法性を認識する可能性は十分にあったとする原判決の認定は左右されない。 さらに所論は、③被告人及び被告法人の活動は、国内の患者の命をつなぐ極めて有意義な活動であり、被告人に対し感謝する者も多数存在し、費用も法外ではなく、営利性のあるものとまでは認められず、被告人の個人的な利得が大きかったとも認められない、④累犯前科の罪と本件とは何らの類似性も関連性もなく、前科を有することを理由に安易に懲役刑を科すことは不当であると主張する。しかし、③(国内の移植事情等)については、量刑の理由の中で国内移植医療の現状等に言及している原判決において相応に考慮されていることがその説示及び量刑から明らかである。④(前科)については、所論指摘のとおり累犯前科の罪が本件と異種であることを踏まえても、累犯前科を含む複数の前科のあることを原判決が被告人の責任を加重する事情として指摘したのは当然であって何ら不合理なところはなく、前記2のような本件各行為の態様、結果、被告人の認識、前科等の事情を指摘して原判決が懲役刑を選択したのも相当である。 その他所論が種々主張するところを検討しても、原判決の量刑を左右しな高刑集第76巻1号- 16 - い。 量刑不当の論旨は理由がない。 第4 結論よって、刑訴法396条により本件各控訴を棄却する。 (裁判長裁判官永渕健一裁判官石田寿一裁判官渡辺美紀子)高刑集第76巻1号 石田寿一裁判官 渡辺美紀子 高刑集第76巻1号

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