平成23年6月23日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(行ケ)第10258号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年6月9日判決原告新韓ダイヤモンド工業株式会社同訴訟代理人弁理士大槻聡同訴訟復代理人弁理士宮村大輔被告三星ダイヤモンド工業株式会社同訴訟代理人弁理士小田富士雄能美知康田中弘 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求特許庁が無効2009-800200号事件について平成22年3月30日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には, 下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯(1) 本件特許(甲1)被告は,平成 理由の要旨は下記3のとおり)には, 下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯(1) 本件特許(甲1)被告は,平成8年6月4日,発明の名称を「ガラスカッターホイール」とする特許出願(特願平8-141614号。優先権主張日:平成7年11月6日,優先権主張番号:特願平7-287175号)をし,平成12年6月2日,設定の登録(特許第3074143号)を受けた。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲1)を,図面を含め,「本件明細書」という。 (2) 原告は,平成21年9月16日,本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明10」といい,これらを併せて「本件発明」という。)に係る特許について,特許無効審判を請求し(甲11),無効2009-800200号事件として係属した。 (3) 特許庁は,平成22年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同年4月9日,その謄本が原告に送達された。 2 本件発明の要旨本件発明の要旨は,本件明細書における特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成したことを特徴とするガラスカッターホイール【請求項2】ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成したことを特徴とするガラスカッターホイール【請求項3】上記突起のピッチ及び高さを,ホイール径に応じた値とした請求項1又は2記載のガ において,刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成したことを特徴とするガラスカッターホイール【請求項3】上記突起のピッチ及び高さを,ホイール径に応じた値とした請求項1又は2記載のガラスカッターホイール【請求項4】上記突起のピッチを,1ないし20㎜のホイール径に応じ20ないし 200μmとした請求項1ないし3のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項5】上記突起の高さを,1ないし20㎜のホイール径に応じ2ないし20μmとした請求項1ないし4のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項6】刃先に対し,直交方向に当接させたグラインダで切り欠くことで上記突起を形成する請求項1ないし5のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項7】刃先を放電加工機で加工することにより上記突起を形成する請求項1ないし5のいずれかに記載のガラスカッターホイール【請求項8】テーブルに載置したガラス板に対して,カッターヘッドが相対的にX及びY方向に移動する機構の自動ガラススクライバーにおいて,前記カッターヘッドに請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールを具備したことを特徴とする自動ガラススクライバー【請求項9】柄の先に設けたホルダーに,請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールを回転自在に軸着してなることを特徴とするガラス切り【請求項10】請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールは,該ホイールに挿通される軸と一体的に形成されることを特徴とするガラスカッターホイール 3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,要するに,① 本件発明1について,下記アの引用例1ないしイの引用例2に記載された発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明2」という。)と同一の発明で 審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,要するに,① 本件発明1について,下記アの引用例1ないしイの引用例2に記載された発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明2」という。)と同一の発明ではない,② 本件発明2ないし10について,引用発明2と下記ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)等に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない,というものである。 ア引用例1:特開平6-56451号公報(甲3)イ引用例2:特開昭53-143622号公報(甲2)ウ引用例3:特開平3-154797号公報(甲4) (2) なお,本件審決が認定した引用発明1及び2並びに本件発明1と引用発明1ないし2との一致点及び相違点(1,2),本件発明2と引用発明2との一致点及び相違点(3)は,次のとおりである。 ア本件発明1と引用発明1との関係(ア) 引用発明1:円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成したホイールにおいて,該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたガラスカッターのホイール(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点1:本件発明1はガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定されているのに対し,引用発明1はガラスカッターのホイールにおいて「ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点イ本件 ターのホイールにおいて「ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点イ本件発明1と引用発明2との関係(ア) 引用発明2:円周が傷をつけ,刃先の斜面の研削すじに0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とするガラス材カッター刃(イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点2:本件発明1は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定されているのに対して,引用発明2は,ガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削すじに0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点ウ本件発明2と引用発明2との関係(ア) 引用発明2:前記イ(ア)のとおり (イ) 一致点:ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール(ウ) 相違点3:本件発明2は,ガラスカッターホイールにおいて「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」と特定されているのに対して,引用発明2はガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削すじに0ないし180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点 4 取消事由(1) 引用発明1に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り(取消事由1)(2) 引用発明2に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り(取消事由2)(3) 本件発明2ないし10の進歩性に係る判断の誤り(取消事由3)第3 当事者の主張 1 取消事由1(引用発明1に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り)に る判断の誤り(取消事由2)(3) 本件発明2ないし10の進歩性に係る判断の誤り(取消事由3)第3 当事者の主張 1 取消事由1(引用発明1に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件発明1についてア刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起について(ア) 「衝撃」とは,「急激に加えられる力」を意味する(甲23)から,「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,「点接触となるように打ちつけることにより衝撃を与える,定まった形状の突起」であると理解することができる。 (イ) 一般に,面積が比較的小さい領域が「点」であるとされるが,本件明細書の図3ないし図6には,鋭角の頂点を有する突起のみならず,頂点が存在するか不明確な緩やかに変化する稜線部が記載されている。また,本件明細書【0024】記載の「好ましい仕様」においても,切り欠きによって形成される頂点の角度は鈍角(約176.4°又は168.5°)にすぎない。 (ウ) したがって,本件発明1における「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,鋭い頂点を有し,小さい面積でガラスと接触するような形状を意味するという ことはできず,ホイールが回転することにより,ガラスに対して断続的に接触するように稜線部に突起が形成されていること,すなわち,「ホイールの回転時に断続的に接触することにより衝撃を与えることができる,定められた形状の突起」を意味するものというべきである。 そして,「ホイールの回転時に断続的に接触して衝撃を与える」ことは,ホイールの稜線部に「突起」を形成したことによる当然の結果であるから,「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」ことは,「刃先に突起を形成した」ことと実質的に同一であるということができる。 (エ) 本件審 「突起」を形成したことによる当然の結果であるから,「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」ことは,「刃先に突起を形成した」ことと実質的に同一であるということができる。 (エ) 本件審決は,本件発明1の要旨認定に当たり,特許請求の範囲に記載された「打点衝撃を与える」の技術内容について,発明の詳細な説明から対応する作用効果を適宜に抜き出し,特許請求の範囲の記載を当該作用効果に置き換えることによって発明の要旨を認定しており,発明の新規性又は進歩性を判断するための発明の要旨は特許請求の範囲に基づいて認定しなければならないとする最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁に違反するものである。 しかも,本件明細書において,「打点衝撃」という用語は,【0009】に1回用いられているのみであるが,同箇所には「打点衝撃」を定義付けるような記載はない。 (オ) 本来,「打点衝撃を与える」とは,前記のとおり,「点接触となるように打ちつけることにより衝撃を与える」という技術内容として理解すべきであるところ,本件審決は,「スクライブ時にガラス板の表面方向に発生する応力が従来のものと比べて少ない」「ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる」など,それ自体が不明確な作用効果によって発明の要旨を特定しており,およそ不適切なものであるといわざるを得ない。このような理解を前提とすると,本件発明1における「打点衝撃を与える」突起とは,単に従来のガラスカッターホイールよりも優れた作用効果を生じさせる突起を意味するものにすぎず,本件 発明1は,引用発明1との対比において,課題を解決するための具体的な手段を何ら特定することなく,発明が達成しようとする願望のみを特定したものというほかない。 起を意味するものにすぎず,本件 発明1は,引用発明1との対比において,課題を解決するための具体的な手段を何ら特定することなく,発明が達成しようとする願望のみを特定したものというほかない。 イ引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸について(ア) 本件審決は,引用発明1における刃の稜線部に形成された「凹凸」が,微細な山と谷からなるにとどまること,部分的に突き出たものがあるとまではいえないことから,本件発明1の「突起」に相当しないとする。 (イ) 「凹凸」とは,「凹」及び「凸」で構成される形状を意味し,「凹」は「物の表面が部分的にくぼんでいること。くぼみ。」を,「凸」は「物の表面が部分的に出ばっていること。でこ。」を意味するものである(甲26)。 したがって,部分的に突き出ている状態を意味する「突起」と,物の表面が部分的に出ばっている状態を意味する「凸」との間に実質的な差はない。 また,2つの「突起」が形成されれば,その間には必ず「凹」が形成されることは明らかであるから,ガラスカッターホイールの刃の稜線部に複数の「突起」を形成すれば,その稜線部は「凹凸」といい得る形状になることは明らかである。 以上からすると,ガラスカッターホイールの刃の稜線部の形状を特定するための表現において,「凹凸」「山と谷」「突起」という用語には,実質的な差はない。 (ウ) 「凹凸」である以上,部分的に突き出たものがあることは明らかであるから,突き出たものがないとの本件審決の指摘は,本件発明1の突起との比較において,引用発明1における凹凸には小さな凸部しか形成されていないことを意味するものである。 しかしながら,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,「点接触となるように打ちつけることにより衝撃を与える,定まった形状の突起」であり, 形成されていないことを意味するものである。 しかしながら,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,「点接触となるように打ちつけることにより衝撃を与える,定まった形状の突起」であり,突起の大きさについては何も規定していないのであるから,引用発明1のガラスカッターホイールの側面写真(甲17)と本件発明1のガラスカッターホイールの側面写真(甲18)とを比較することにより,本件発明1の突起と引用発明1の「凹 凸」の大きさを検討すること(甲19)は無意味である。仮に大きさの違いについて検討するとしても,具体的,客観的な基準に基づいて比較すべきものであって,引用発明1における「凹凸」が,「微細な山と谷からなるにとどまる」とか,「特段,部分的に突き出たものがあるとまではいえない」などという感覚的で根拠に乏しい主観的な判断を行うことは許されない。 (エ) したがって,本件審決の判断は誤りである。 ウ引用発明1の鋸刃について(ア) 本件審決は,引用例1の図2には,条痕によるかみ合いとホイールの回転方向との関係を鋸刃の刃の向きの比喩により説明するものにすぎず,刃の稜線部に鋸刃を形成すること自体を記載又は示唆するものということはできないとする。 (イ) しかしながら,引用例1は,従来技術として,一般にガラスカッターホイールはディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃が形成されていること,V字形の稜線部を粗面にしたガラスカッターホイールでは,十分なスリップ防止の効果は得られない旨を記載した上で,ガラスカッターホイールのV字形の斜面に,図1のとおり放射方向に対して常に一定の角度の方向に条跡を形成することによって,スリップを防止できるという効果を奏する旨を記載し,さらに,図1のガラスカッターホイールのスリップ防止効果を具体的 に,図1のとおり放射方向に対して常に一定の角度の方向に条跡を形成することによって,スリップを防止できるという効果を奏する旨を記載し,さらに,図1のガラスカッターホイールのスリップ防止効果を具体的に説明するため,同等の効果を奏するガラスカッターホイールとして,刃先を鋸の形状したものとして図2が用いられているものである。 したがって,引用例1の図2のホイールは,ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃が形成されているガラスカッターホイールであって,その稜線部が鋸の形状からなるものということができる。 特許出願の願書に添付された明細書及び図面に記載され,出願公開を経て公然と知られるに至った物品の具体的形状について,本件審決のようにそれが「喩え」にすぎず,公知には至っていないというのであれば,具体的な根拠を示すべきである。 本件審決は誤りである。 エ引用発明1における打点衝撃についての示唆について(ア) 本件審決は,引用例1には「打点衝撃を与える」ことが記載されておらず,それを示唆する記載もないとする。 (イ) しかしながら,引用発明がいかなる作用効果を奏するかは,当該文献の作用効果に係る記載の有無のみではなく,当該文献の記載全体から総合的,客観的に判断すべきものである。 そして,引用発明1のように刃の稜線部に突起が形成されたガラスカッターホイールを回転させると,ガラスに対して突起が断続的に打ちつけられ,衝撃を与えることは明らかであるから,引用発明1が「打点衝撃を与える」ものであるとは認められないという本件審決の判断は誤りである。 オ引用発明1による作用の偶発性,一時性について本件審決は,引用発明1の刃の稜線部に形成された「凹凸」によって本件発明1と同様の効果が生じることがあったとしても,偶発的,一時的なもの る。 オ引用発明1による作用の偶発性,一時性について本件審決は,引用発明1の刃の稜線部に形成された「凹凸」によって本件発明1と同様の効果が生じることがあったとしても,偶発的,一時的なものにすぎないとする。 しかしながら,本件審決は,「不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる」ことが,本件発明1の作用効果であることを前提としており,その前提自体が誤りである。 カ小括以上からすると,相違点1は,実質的な相違点ということはできない。 (2) 引用発明1に基づく本件発明1の新規性についてしたがって,本件発明1は,引用発明1と同一の発明であって,新規性を有しないものというべきであるから,本件審決は取消しを免れない。 〔被告の主張〕(1) 本件発明1についてア刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起について(ア) 本件発明1の「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起」という用語は, 本件特許の出願前においてガラスカッターホイールの技術分野において普通に使用されていた用語ではなく,しかも,ガラスカッターホイールに「所定形状の突起」を形成し,「打点衝撃」を与えることも普通に行われていたことではない。 したがって,「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義を解釈する場合,少なくとも「打点衝撃」については,「打点」と「衝撃」とを分けて解釈すべきではなく,全て一体的に解釈すべきものである。 (イ) 「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起」については,当業者でもその技術的意義を一義的に明確に理解し得るものではない以上,本件明細書の記載を参照して,突起による点接触が中心となり,スクライブ時にガラス板の表面方向に発生する応力が従来のものと比べて少ないた でもその技術的意義を一義的に明確に理解し得るものではない以上,本件明細書の記載を参照して,突起による点接触が中心となり,スクライブ時にガラス板の表面方向に発生する応力が従来のものと比べて少ないため,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させるものとみることができるとした本件審決の判断は,原告指摘の最高裁判決に反するものではない。 イ引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸について(ア) 引用例1の図3には,いわゆるベベル研削によるホイールの条痕形成方法が図示されており,このような製法によると,条痕の方向は一定であっても,太さ,深さなどは一定に形成されないことは技術常識である。 したがって,引用例1の図1は,引用発明1の特徴を表現した摸式図であり,本件発明のように規則的な突起や溝が形成されることを示唆するものではない。 また,引用例1の図2は,刃先に形成される条痕が図1の矢印B方向に回転する場合のガラス板に対するかみ合いの状況を,ある方向に傾いた鋸刃のようにガラス板に作用する様子に例えて図示した摸式図にすぎない。 (イ) 引用例1には,引用例1の図2に図示された断面形状のガラスカッターのホイールが製造できるようには記載されていない。また,引用発明1は,定まった形状の突起を形成することを意図してはいないばかりか,刃の稜線部全体において,同図に図示された部分的に突き出た突起を形成することも意図するものではない。 (ウ) ガラスカッターホイールの稜線部がガラス表面に接するだけではスクライ ブ線が形成されず,荷重を加えてガラス表面にガラスカッターホイールの稜線部近傍を進入させ,ホイール先端部のベベル面,すなわち刃先角度によってガラスを押しのける作用によって垂直クラックを発生 ブ線が形成されず,荷重を加えてガラス表面にガラスカッターホイールの稜線部近傍を進入させ,ホイール先端部のベベル面,すなわち刃先角度によってガラスを押しのける作用によって垂直クラックを発生させることは技術技術であり,引用発明1の稜線部に形成される凹凸によって打点衝撃を与えることは不可能である。 本件審決は,引用例1に具体的に記載されているベベル研削法によって作製したガラスカッターホイールの形状(甲17)に基づいて,引用発明1の刃の稜線部に形成される凹凸は,特段,部分的に突き出たものがあるとまではいえないから,本件発明1の「突起」に相当するとはいえないと判断したものであって,このような認定に誤りはない。 ウ引用発明1の鋸刃について(ア) 引用例1の図2は,ホイールの稜線部の条痕が交わってできると思われる現実的には図面上に描写できない程度の大きさの凹凸の作用を説明するための模式図にすぎず,現実的なガラスカッターホイールの図ではない。しかも,従来,ガラスカッターホイールに突起を形成することは行われておらず,むしろ,同図のように突起を形成したガラスカッターホイールは,その稜線部にチッピング(欠け)が生じた欠陥品として排除されていたものである。 (イ) 引用発明1のガラスカッターホイールでは,本件発明の作用効果である「不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させること」ができないことは,本件特許に係る特許公報が発行された後に発行された原告出願の国際公開WO2004/082906号公報(乙2)の記載から明らかである。実際には製造不可能ではあるものの,引用例1の図2の模式図に基づいてガラスカッターホイールを製造したと仮定しても,同様である。 エ引用発明1における打点衝撃につい 乙2)の記載から明らかである。実際には製造不可能ではあるものの,引用例1の図2の模式図に基づいてガラスカッターホイールを製造したと仮定しても,同様である。 エ引用発明1における打点衝撃についての示唆について(ア) 本件審決は,引用発明1と本件発明1のガラスカッターホイールとを対比する場合,引用発明1の刃の稜線部に形成される凹凸が,相対的には微細な山と谷 からなるにとどまり,本件発明1の「突起」に相当するとはいえないとするものであって,本件審決の認定に誤りはない。 (イ) しかも,引用発明1の打点衝撃を与えることができない単なる凹凸形状は,本件発明1の作用効果を奏するものではないから,本件発明1の「突起」に含まれるものではない。本件審決の判断に誤りはない。 オ引用発明1による作用の偶発性,一時性について前記エのとおり,引用発明1の凹凸形状は,本件発明1の「突起」に含まれるものではないから,仮に引用発明1の「凹凸」によって,本件発明1と同様の効果が生じることがあったとしても,偶発的,一時的なものにすぎないとした本件審決の判断に誤りはない。 カ小括以上からすると,相違点1は,実質的な相違点ということができる。 (2) 引用発明1に基づく本件発明1の新規性についてしたがって,本件発明1は,引用発明1と同一であるとはいうことはできず,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(引用発明2に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 引用発明2についてア引用発明2における突起の有無について(ア) 本件審決は,引用発明2における鋸歯状は,引用発明1のガラスカッターホイールの側面写真(甲17)と同様,刃の稜線部に形成された鋸歯状が微細な てア引用発明2における突起の有無について(ア) 本件審決は,引用発明2における鋸歯状は,引用発明1のガラスカッターホイールの側面写真(甲17)と同様,刃の稜線部に形成された鋸歯状が微細な山と谷からなるにとどまること,部分的に突き出たものがあるとまではいえないことから,本件発明1の「突起」に相当しないとする。 (イ) しかしながら,このような本件審決の感覚的かつ主観的な判断は,客観性,論理性,合理性を著しく欠くものである。 鋸歯とは,鋸のように多数の歯を整列させた凹凸形状を意味する(甲28)ものであるから,部分的に突き出ている状態を指す「突起」と,「鋸歯状」を構成する凸部としての「歯」との間に実質的な差はない。 したがって,ガラスカッターホイールの刃の稜線部に多数の「突起」を形成すれば,その稜線部は「鋸歯状」といい得る形状になることは明らかであるから,ガラスカッターホイールの刃の稜線部の形状を特定するための表現において,「鋸歯状」「山と谷」及び「突起」という用語には実質的な差はない。 (ウ) 「鋸歯状」である以上,部分的に突き出たものがあることは明らかであるから,突き出たものがないとの本件審決の指摘は,本件発明1の突起との比較において,引用発明2における鋸歯状には小さな「歯(突起)」しか形成されていないことを意味するものである。 しかしながら,本件発明1は,突起の大きさについては何も規定していないのであるから,引用発明1のガラスカッターホイールの側面写真(甲17),本件発明1のガラスカッターホイールの側面写真(甲18)をそれぞれ比較することにより,本件発明1の突起と引用発明2の「鋸歯状」の大きさを検討することは無意味である。 (エ) したがって,本件審決の判断は誤りである。 イ引用発明2による打点衝撃の有 をそれぞれ比較することにより,本件発明1の突起と引用発明2の「鋸歯状」の大きさを検討することは無意味である。 (エ) したがって,本件審決の判断は誤りである。 イ引用発明2による打点衝撃の有無について(ア) 本件審決は,引用例2には,微小の鋸歯状とする刃の先端が打点衝撃を与えることや,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることについての記載やその示唆はないとする。 (イ) しかしながら,引用例2の記載全体から総合的,客観的に判断すれば,刃の稜線部に突起が形成されたガラスカッターホイールを回転させると,ガラスに対し突起が断続的に打ちつけられ,衝撃を与えることは明らかである。このような作用効果は,大きさや均一さとは無関係に,突起が存在することによって生じるものである。 したがって,稜線部が鋸歯状である引用発明2のガラスカッターホイールを回転させると,ガラスに対して鋸歯状を構成する突起が断続的に打ちつけられ,衝撃を与えるものであるから,この点において,引用発明2は,本件発明1と異なるところはない。本件審決の判断は誤りである。 ウ引用発明2の研削すじが付随的に形成されることについて(ア) 本件審決は,引用発明2の研削すじは,刃先の形成に伴って付随的に生じる程度のものにすぎず,部分的に突き出るほどの大きな凹凸を形成しようとするものではないとする。 (イ) しかしながら,部分的に突き出ていなければ「凹凸」とはいえないから,少なくとも「凹凸」について「部分的に突き出るほどの大きさ」は観念できない。 仮に,凹凸について「部分的に突き出るほどの大きさ」が観念できるとしても,研削すじが「付随的」に生じることから直ちに,「部分的に突き出るほどの大きさ」に至るものではないと の大きさ」は観念できない。 仮に,凹凸について「部分的に突き出るほどの大きさ」が観念できるとしても,研削すじが「付随的」に生じることから直ちに,「部分的に突き出るほどの大きさ」に至るものではないということはできない。 引用発明2は,研削すじを積極的に活用し,ホイールの刃の稜線部を鋸歯状に形成するものであるから,鋸歯状の凹凸の深さは,研削すじの深さに対応するものでる。付随的に生じることをもって,ホイールの刃の稜線部に鋸歯状を積極的に形成したとしても稜線部に突起が形成されないとする本件審決の指摘は,非論理的というほかない。 エ小括以上からすると,相違点2は,実質的な相違点ということはできない。 (2) 引用発明2に基づく本件発明1の新規性についてしたがって,本件発明1は,引用発明2と同一の発明であって,新規性を有しないものというべきであるから,本件審決は取消しを免れない。 〔被告の主張〕(1) 引用発明2についてア引用発明2における突起の有無について (ア) 引用発明2における条痕は,砥石の砥粒による線状の傷痕であるため,傾斜部に突起を規則的に形成すること(所定形状の突起を形成すること)はできず,傾斜部に条痕を一定角度で形成しても,傾斜部の凹凸が不規則に形成される上,傾斜面の条痕の全てが稜線部において互いの凸部同士及び互いの凹部同士で交差することはない。 引用発明2は,このような稜線部における不規則な凹凸について,「微小の鋸歯状」と表現するものであって,「所定形状の突起」といえるものではない。 (イ) 「鋸歯状」とは,規則的な「ノコギリ」の刃の状態だけではなく,「鋸山」などのように不規則な凹凸が連なるデコボコ状態をも意味するものである(甲16)。 したがって,引用発明2における「鋸歯状」とは,不 鋸歯状」とは,規則的な「ノコギリ」の刃の状態だけではなく,「鋸山」などのように不規則な凹凸が連なるデコボコ状態をも意味するものである(甲16)。 したがって,引用発明2における「鋸歯状」とは,不規則な凹凸が連なるデコボコ状態を意味するものというべきであって,本件発明1の「突起」に相当するということはできない。 イ引用発明2による打点衝撃の有無について(ア) 引用例2には,微小の鋸歯状とする刃の先端が,ガラスの表面に微細な傷を付ける旨が記載されているものの,打点衝撃を与えることや,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることについての記載もなければ,その示唆すらないものである。 (イ) 本件特許の出願前において,ガラスカッターホイールの条痕はベベル研削法により形成されていた。もっとも,この方法では,微細な山と谷からなるものしか形成することができないのみならず,傾斜面に突起を規則的に形成することも,稜線部に突起を規則的に形成すること(所定形状の突起を形成すること)もできない。 (ウ) したがって,引用発明2における「鋸歯状」は,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当しないことは明らかである。 ウ引用発明2の研削すじが付随的に形成されることについて 引用発明2は,従来のカッター刃に対して研削すじの向きを変えた発明であるところ,従来のカッター刃は鋸歯状を形成するという思想を有するものではないから,鋸歯状の深さを調整するために,研削すじの深さを調整するという思想も有するものではない。 引用例2にも,研削すじの向きを変えること以上の技術思想,例えば,原告が主張するような研削すじの深さを必要に応じて調整することについて,全く記載も示唆もないものである。原 も有するものではない。 引用例2にも,研削すじの向きを変えること以上の技術思想,例えば,原告が主張するような研削すじの深さを必要に応じて調整することについて,全く記載も示唆もないものである。原告の主張は失当である。 エ以上からすると,相違点2は,実質的な相違点ということができる。 (2) 引用発明2に基づく本件発明1の新規性についてしたがって,本件発明1は,引用発明2と同一であるとはいうことはできず,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(本件発明2ないし10の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1) 本件発明2についてア引用発明2における突起の有無について前記原告の主張2(1)アのとおり,引用発明2における「鋸歯状」が本件発明2における「突起」に相当しないとした本件審決の判断は誤りである。 イ本件発明2における特段の作用効果について(ア) 本件審決は,本件発明2について,「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」ことにより,「水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生」するとの格別の作用効果を奏するとする。 (イ) しかしながら,本件明細書には本件発明2の作用効果に関する記載はなく,引用発明2と比較し,本件発明2が格別の作用効果を奏するということはできない。 本件明細書において,突起の高さを「2ないし20μm」とすることに関する記載は,【0024】に「好ましい仕様及び推奨加工データ」として記載されているにすぎず,突起の高さをこのように設定することによって,どの程度の作用効果が 得られるのかに関する具体的な記載や,ホイール外径(φ),ホイール厚(W),刃先角度(2θ),ピッチ(p)などの各条件との相関関係に関する記載 に設定することによって,どの程度の作用効果が 得られるのかに関する具体的な記載や,ホイール外径(φ),ホイール厚(W),刃先角度(2θ),ピッチ(p)などの各条件との相関関係に関する記載はない。 不規則な配列のピッチと比較して,どのような作用効果上の差異があるのかに関する記載もない。 そうすると,本件明細書【0031】に記載された「水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生」させるというそれ自体不明確な作用効果が,高さが2ないし20μmの突起を所定ピッチで形成した場合に生じるとしても,このような作用効果は引用発明2にも生じるものであるから,引用発明2と比較した場合における本件発明2の格別の作用効果であるということはできない。 そして,引用例2には,ホイールの刃の稜線部を鋸歯状に形成することが記載されているから,この鋸歯状の高さを必要に応じて最適化するとともに,等間隔で配置するという程度であれば,設計的事項というべきものにすぎない。 (ウ) 原告作成の試験報告書(甲9,29)によると,突起の間隔が一定であるか否かの相違は垂直クラックの発生に影響を与えていないこと,本件明細書【0024】に記載された条件を充足するガラスカッターホイールであっても長い垂直クラックを発生することができないこと,「20μm」が臨界的意義を有しているともいえないことは明らかである。 したがって,本件発明2の特定事項である「2ないし20μmの高さ」及び「所定ピッチ」が格別の作用効果を奏するものということはできない。 (エ) 被告は,本件明細書【0010】【0011】に具体的に記載されている第1実施形態のガラスカッターホイールが本件発明2に対応するものであると主張するが,同箇所には,ホイール径,ホイール厚,刃先角度,突起数,突起高さ及びピッ 10】【0011】に具体的に記載されている第1実施形態のガラスカッターホイールが本件発明2に対応するものであると主張するが,同箇所には,ホイール径,ホイール厚,刃先角度,突起数,突起高さ及びピッチが特定されたガラスカッターホイールが記載されているのであって,「2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成」した本件発明2に対応するものということはできない。被告の主張は誤りである。 ウ引用発明2の鋸歯状の高さについて (ア) 本件審決は,引用発明2の「鋸歯状」は引用発明1の「凹凸」と同様のものであることを前提とするが,引用例1には,刃先の表面粗さをJISB0601における「3.2S」とするものと記載されているから,引用発明1の凹凸の高さは最大3.2μmということができ(甲30),本件発明2の突起の高さである「2ないし20μm」と重複するものである。 (イ) 引用例2には,鋸歯状の高さについて具体的な数値が記載されているものではないが,引用例1には傾斜面の表面の粗さとして「3.2S」が例示されているから,当業者が引用発明2に係るガラスカッターホイールを製作する場合,その稜線部における凹凸の最大高さとして,引用発明1と同程度のものを選択することは当然に予定される範囲内のものである。 (ウ) したがって,本件審決と同様の前提に立つとすれば,本件発明2が,引用発明2の作用効果とは異質の効果が得られ,あるいは,同質であるが際立って優れた効果が得られるものであるということはできない。 エ引用発明3の技術事項について(ア) 本件審決は,引用発明3と本件発明2及び引用発明2のガラスカッターとは,対象となる切断材の性質が異なる技術分野に属するものであるから,引用発明2に引用発明3の技術事項を適用することの動機付けはないとする。 決は,引用発明3と本件発明2及び引用発明2のガラスカッターとは,対象となる切断材の性質が異なる技術分野に属するものであるから,引用発明2に引用発明3の技術事項を適用することの動機付けはないとする。 (イ) しかしながら,引用発明3は,超硬合金製のホイールの外周部に刃先を形成し,対象物を切断するための装置である点で本件発明2及び引用発明2と共通するのみならず,リード線カッター,ワラ用カッター,各種シート部材用カッター等の丸刃カッター及びその製造装置と製造方法とに関し,特に刃先を強化して刃先のチッピングを防止するとともに,切断材への切り込みを良好にするための改良に関するものであるから,本件発明2及び引用発明2とが課題としているスクライブ性能の向上という点で共通しているから,作用原理も類似し,技術分野も同一というべきである。 仮に,同一の技術分野に属さないとしても,引用発明2においてホイールの刃先 を鋸歯状に形成する際,その突起の高さとして,引用発明3と同様の数値を選択することは,当業者にとって容易であったとものというべきである。 また,仮に引用発明2に引用発明3を組み合わせる動機付けがないとしても,各発明はいずれもホイールを研削加工し,その刃先を微小な鋸歯状に形成するという共通の加工技術を用いているのであるから,引用発明2の鋸歯状の高さについて引用発明3と同様の数値を採用することに困難性は存しない。本件審決の判断は誤りである。 オ小括以上からすると,本件発明2は,当業者が引用発明2に引用発明3を組み合わせることによって,容易に想到し得るものであるというべきである。 (2) 本件発明3ないし10について前記原告の主張1及び2のとおり,本件発明1は,引用発明1又は2と同一であり,同3の(1)のとおり,本件発明 容易に想到し得るものであるというべきである。 (2) 本件発明3ないし10について前記原告の主張1及び2のとおり,本件発明1は,引用発明1又は2と同一であり,同3の(1)のとおり,本件発明2は,引用発明2及び3に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 したがって,本件発明1及び2が新規性及び進歩性を有することを前提として,本件発明1又は2を引用する本件発明3ないし10についても進歩性を有するとした本件審決の判断は,その前提自体が誤りである。 (3) 小括以上からすると,本件発明2ないし10は,いずれも進歩性を有しないものというべきである。 〔被告の主張〕(1) 本件発明2についてア引用発明2における突起の有無について前記被告の主張2(1)アのとおり,引用発明2における「鋸歯状」が本件発明2における「突起」に相当しないとした本件審決の判断に誤りはない。 イ本件発明2における特段の作用効果について (ア) 本件発明2は,「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール」において,「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成」することを特徴とする発明であるが,「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成」する点は,表現は異なるが,本件発明1における「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成」する点と実質的に等価の構成であり,同様の作用効果を奏するものであることは明らかである。 (イ) 本件明細書【0010】【0011】に具体的に記載されている第1実施形態のガラスカッターホイールは,実質的に本件発明2に対応するものであるところ,【0010】ないし【0016】,図9及び10に具体的に記載されている第1実施形態のガラスカッターホイール いる第1実施形態のガラスカッターホイールは,実質的に本件発明2に対応するものであるところ,【0010】ないし【0016】,図9及び10に具体的に記載されている第1実施形態のガラスカッターホイール及び引用発明1に基づく従来のガラスカッターホイールを用いた場合の測定結果を参照すれば,本件発明2は,引用発明1及び2を含むベベル研削法で作製される従来のガラスカッターホイールよりも良好な作用効果が得られることは明らかである。 しかも,引用発明2のガラスカッターホイールの稜線部に形成された「鋸歯状」は,微細かつ不規則な「鋸歯状」であり,しかも「刃先に突起を一定間隔で形成」するという構成を備えていないばかりか,引用例2には,ガラスの分断におけるクラックの深さや水平クラックに関する何らの開示も示唆もない。 (ウ) 本件発明2における「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成」するとの構成は,発明の作用効果が少なくとも発揮できる範囲を求めるのであって,引用発明2のいわゆる数値限定発明ということはできないことは,本件審決が認定したとおりであるところ,しかも,引用発明2とは課題が異なり,有利な効果が異質であるから,たとえ数値限定を除いて両者が同じ発明を特定するための事項を有していたとしても,数値限定に臨界的意義を要しないものである。 本件発明の作用効果は,「常に」水平クラックが発生しないことにあるのではなく,「不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラック」を発生させるようにすることによって,従来と比較して「ガラス のスクライブ性能を向上」することにある。 したがって,本件発明2において,スクライブ荷重や刃先角度によっては水平クラックが生じ易い領域が存在したとしても,そのこと自体は本件発明2 ラス のスクライブ性能を向上」することにある。 したがって,本件発明2において,スクライブ荷重や刃先角度によっては水平クラックが生じ易い領域が存在したとしても,そのこと自体は本件発明2の有用性を否定する理由とはならない。 (エ) したがって,本件発明2の特定事項である「2ないし20μmの高さ」及び「所定ピッチ」は,格別の作用効果を奏するものというべきである。 ウ引用発明2の鋸歯状の高さについて前記イ(イ)のとおり,本件発明2は,引用発明1及び2を含むベベル研削法で作製される従来のガラスカッターホイールよりも良好な作用効果が得られるものであり,しかも,引用発明2とは課題が異なり,異質かつ有利な効果を奏するものであるから,たとえ数値限定を除いて両者が同じ発明を特定するための事項を有していたとしても,数値限定に臨界的意義を要しないものである。 したがって,原告の主張は失当である。 エ引用発明3の技術事項について引用発明3は,リード線カッター,ワラ用カッター,各種シート材用カッター等の「丸刃カッター」であり,いわゆる回転鋸切りに相当するものである。 しかも,リード線,ワラ,各種シート材は,ガラスとは大きく物性が異なる柔軟性を有する材料であるから,硬質材料であるガラスとは全く性質が異なり,しかも,丸刃カッターとガラスの分断に用いられるガラスカッターホイールとは切断作用が全く異なるものである。 したがって,引用発明2に引用発明3の技術的事項を適用することの動機付けはないとした本件審決の判断に誤りはない。 オ小括以上からすると,本件発明2は,当業者が引用発明2に引用発明3を組み合わせることによって,容易に想到し得るものということはできない。 (2) 本件発明3ないし10について 前記 以上からすると,本件発明2は,当業者が引用発明2に引用発明3を組み合わせることによって,容易に想到し得るものということはできない。 (2) 本件発明3ないし10について 前記1及び2並びに3の(1)のとおり,本件発明1及び2は,いずれも新規性及び進歩性を有するものであるから,本件発明1及び2が,いずれも新規性又は進歩性を有しないことを前提に,本件発明3ないし10についても進歩性を否定する原告の主張は,失当である。 (3) 小括以上からすると,本件発明2ないし10は,いずれも進歩性を有するものというべきである。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(引用発明1に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について(1) 本件発明1についてア本件明細書(甲1)の記載本件発明1の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 本件発明は,超硬合金製等の円盤に対して両側の円周エッジ部を互いに斜めに削り込み,円周面にV字形の刃を形成したガラスカッターホイールに関する発明であり,このようなガラスカッターホイールは,自動ガラススクライバーのカッターヘッド等に回転自在に軸着して用いられ,ガラス板上に圧接状態にして転動させることでスクライブライン(切り筋)を刻むものである。 このガラスカッターホイールでは,ホイールとガラス板との摩擦力を高めてホイールのスリップを防止するため,刃先の稜線部を平坦にして粗面仕上げにするなどして,途切れのないスクライブラインの形成と刃先の摩耗防止を図っていた。 しかしながら,尖った刃先を平坦に削り取る方法では,本来のスクライブ性能を発揮することができないため,刃を形成している両傾斜面に対し,グラインダ等 クライブラインの形成と刃先の摩耗防止を図っていた。 しかしながら,尖った刃先を平坦に削り取る方法では,本来のスクライブ性能を発揮することができないため,刃を形成している両傾斜面に対し,グラインダ等を用いて条痕を形成する工夫もされた(【0001】~【0005】)。 (イ) 従来技術では,ホイールに要求されるスクライブ性能,すなわち,スクラ イブ後のブレイクの際,小さな力を加えるだけで,スクライブラインに沿ってガラス板を正確にブレイクでき,ガラスを分断した箇所で商品価値を低下させる水平方向の欠けが少ないという性能を充足することはできなかった。 本件発明は,ホイールのスリップを防止するとともに,スクライブ性能を向上させるために,ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,刃先に所定形状の突起を形成したことを特徴とするものである(【0006】~【0008】)。 (ウ) 本件発明のガラスカッターホイールによると,ガラス板に,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることができる。これは,ガラスカッターホイールの転動時,ホイールに設けた突起により,ガラス板に打点衝撃を与えることに加え,突起がガラス板に深く食い込むためである。 また,ガラス板に対する食い込みは,突起による点接触が中心となるため,スクライブ時に,ガラス板の表面方向に発生する応力が従来と比べて少なくなり,不要な水平クラックが発生しない。 さらに,ガラス板に突起が食い込むことにより,ガラスカッターホイールのスリップが皆無となり,スリップに伴う摩耗などの不都合も生じない(【0009】)。 (エ) 本件発明1のガラスカッターホイールは,ホイールの刃先の頂点である稜線部に,U字形状の溝を切り欠くことで,高さhの突起を となり,スリップに伴う摩耗などの不都合も生じない(【0009】)。 (エ) 本件発明1のガラスカッターホイールは,ホイールの刃先の頂点である稜線部に,U字形状の溝を切り欠くことで,高さhの突起をピッチpの間隔で形成している。例えば,ホイール径(φ):2.5㎜,ホイール厚(w):0.65㎜,刃先角度(2θ):125°,突起数 :125個,突起の高さ(h):5μm,ピッチ(p):63μmのホイールを用い,刃先荷重 :3.6Kgf,スクライブ速度:300㎜/secの条件で,1.1㎜厚のガラス板をスクライブすると,ガラス断面はラインからガラス板を板厚方向にほぼ貫通するような直下方向に延びる長いクラック(垂直クラック)が発生する。 他方,上記ホイールと同一サイズで,突起を有しない従来のホイールを用い,同一条件でスクライブした場合,垂直クラックは短く,しかも,ガラス板の面方向の 欠け(水平クラック)が生じる。垂直クラックが短いと,次のブレイク工程において,ガラス板をスクライブラインに沿ってブレイク(分断)する際,大きい力を必要とし,また,垂直クラックの成長が不安定となり,垂直方向のクラックが期待できない。更に,水平クラックが生じると,ガラス板表面に欠けが生じ,繊維状くずやフレーキングを生起することから商品価値も失われる。 従来のガラスカッターホイールにおいては,刃先荷重を推奨値より大きくしても,垂直クラックは長くはならず,不都合な水平クラックが大きく発生するだけであるが,本件発明のガラスカッターホイールは,刃先荷重を大きくしても,水平クラックは発生せず,その荷重の大きさに比例するように長い垂直クラックが得られる。 そのため,スクライブラインに沿った正確なブレイクを行うことができ,歩留りが向上する。また,ブレイク作業が容易なことか クは発生せず,その荷重の大きさに比例するように長い垂直クラックが得られる。 そのため,スクライブラインに沿った正確なブレイクを行うことができ,歩留りが向上する。また,ブレイク作業が容易なことから,ブレイク工程の内容を簡素化あるいは省略することが可能となる(【0010】~【0016】)。 (オ) 一般的に使用される外径1ないし20㎜のガラスカッターホイールにおいて,本件発明に基づく好ましい仕様及び推奨加工データとしては,ホイール外径(φ):1ないし20㎜,ホイール厚(w): 0.6ないし5㎜,刃先角度(2θ):90ないし160°,ピッチ(p):外径に応じて20ないし200μm,突起の高さ(h):外径に応じて2ないし20μm,溝の半径(R):0.02ないし1.0㎜(ただし,溝がU字形状の場合),刃先荷重:外径に応じて1.0ないし60Kgf,スクライブ速度:50ないし1000㎜/sec である。なお,刃先荷重は外径に比例するが,ガラス板が薄い時や刃先角度が小さい時(100°前後)には,荷重は小さめとなる(【0024】)。 (カ) 本件発明は,ガラスカッターホイールの刃先の稜線部に形成した突起の作用により,水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生させることができ,突起がない従来のものと比べ,スクライブ性能が飛躍的に向上するものである。 また,ホイールのスリップが皆無となり,スクライブラインが途切れたり,ホイールが局所的に摩耗するという不都合も解消される(【0031】)。 イ本件発明1の技術内容以上の本件明細書の記載によると,本件発明1は,ガラスカッターホイールの刃先に形成した所定形状の突起により,ガラスカッターホイールの転動時,ガラス板に打点衝撃を与え,更に突起がガラス板に深く食い込むために,ガラス板を,不要 よると,本件発明1は,ガラスカッターホイールの刃先に形成した所定形状の突起により,ガラスカッターホイールの転動時,ガラス板に打点衝撃を与え,更に突起がガラス板に深く食い込むために,ガラス板を,不要な水平クラックが発生しないまま,板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させて,ガラス面をスクライブすることをその技術内容とするものである。 ウ 「打点衝撃を与える所定形状の突起」の意義について前記イの本件発明1の技術内容によると,特許請求の範囲における「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義は,不要な水平クラックを発生させずに,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることを可能とする形状の突起を意味するものと理解することができる。 この点について,原告は,本件発明1の「打点衝撃を与える」という文言自体は,一義的に明確に理解されるべきものであるから,本件明細書を参酌することは許されず,「ホイールの回転時に断続的に接触することにより衝撃を与えることができる,定められた形状の突起」と解すべきであって,「刃先に突起を形成した」ことと実質的に同一であるなどと主張する。 しかしながら,「打点衝撃を与える」という用語自体が明確であったとしても,本件発明1と引用発明1及び2との対比の際,「打点衝撃を与える所定形状の突起」という一連の記載の技術的意義を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を参照して認定することに問題はなく,本件審決は,本件明細書において,刃先ではなく,両傾斜面に条痕を形成した従来技術の刃先によっては,本件発明の作用効果を奏しないとされている(【0005】)から,上記対比の際,【0009】の記載を参酌して,「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義を明らかに 成した従来技術の刃先によっては,本件発明の作用効果を奏しないとされている(【0005】)から,上記対比の際,【0009】の記載を参酌して,「打点衝撃を与える所定形状の突起」の技術的意義を明らかにしたものにすぎない。 原告は,要するに,本件明細書記載の実施形態の突起について極端な数値を抽出した上で,「外径に応じ」(本件明細書【0024】)ることなく技術常識上除外 されるべき数値に基づいて条件設定し,本件発明1の頂点の角度は大きな鈍角の場合があり,刃先に突起を形成したことと実質的に同一であると主張しているものというほかなく,そのような原告の主張は,これを採用することができない。 (2) 引用発明1についてア引用例1の記載引用例1(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 引用発明1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】鋼製の円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成した,ホイールを回転自在に軸支してなるガラスカッターにおいて,該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたことを特徴とするガラスカッター(イ) 引用発明1は,ガラス板に切断用のスクライブラインを刻むホイール型のガラスカッターに関するものである。 この種のガラスカッターは,鋼製の円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成したホイールを回転自在に軸支したもので,ガラス板上に圧接した状態でホイールを転動させることにより,ガラス板にスクライブラインを刻む。 刃先は,一般に研磨仕上げしているために,曲線に沿ってガラス板をスクライブするような場合,ホイール で,ガラス板上に圧接した状態でホイールを転動させることにより,ガラス板にスクライブラインを刻む。 刃先は,一般に研磨仕上げしているために,曲線に沿ってガラス板をスクライブするような場合,ホイールがガラス板に対してスリップすることから,従来は,刃先の表面を粗面としてスリップ防止を図っている。 しかしながら,刃先を無造作に粗面にしただけでは,ガラス板とのかみ合いは十分には改善されないため,スリップを完全に防止することはできず,ガラスを切断した場合の切口に不良が生じるのみならず,スリップによる摩耗が生じ,ガラスカッターの寿命が短くなるという課題が生じた(【0001】~【0004】)。 (ウ) 引用発明1は,ガラスカッターホイールにおいて,ホイールを一方の正面 から見た場合に,刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成し,刃先を粗面にしたことにより,ホイールをガラス板に圧接させた時,ホイールとガラス板との摩擦が増えるのみならず,ホイールを所定の一方向へ転動させた時,ホイールのガラス板へのかみ合いが確実となり,ホイールのスリップがなくなるという効果を奏するものである(【0005】【0006】)。 (エ) 引用発明1のガラスカッターホイールの刃先には,ホイールの回転中心よりの放射方向に対して常に一定の角度θの方向に条跡を形成し,刃先の面を粗面にしている。 ホイールをガラス板に圧接させ,刃先の先端部がガラス板に食い込んだ際,刃先に形成した条痕により,ホイールとガラス板とのかみ合いが確実となる。この状態で,ホイールをガラス板上で図1の回転方向に転動させると,それとは逆方向に転動させる場合と比較してより大きなかみ合い得ることができ,ホイールのスリップを防止することができる。すなわち,当該ホイールは,ホイー ールをガラス板上で図1の回転方向に転動させると,それとは逆方向に転動させる場合と比較してより大きなかみ合い得ることができ,ホイールのスリップを防止することができる。すなわち,当該ホイールは,ホイールに鋸の刃先を形成した場合と同等の効果が得られるものである(【0007】【0008】)。 (オ) 引用発明1は,刃先のガラス板へのかみ合いが確実となり,ホイールのスリップがなくなるので,ガラスカッターホイールとガラス面とのスリップを防止できるとともに,ガラス板へのかみ合いが確実なため,ガラス面上からスクライブスタートする切断方法の場合でも,いわゆる筋トビがなくなり,半径の小さな曲線スクライブの場合でも,従来必要としたスクライブ速度の変更調節を必要とせずに容易に正確な筋入れができるものである(【0012】)。 イ引用発明1の技術内容以上の引用例1の記載によると,引用発明1は,ガラスカッターホイールにおいて,両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成し,刃先の面を粗面にすることにより,刃先の先端部がガラス板に食い込んだ際,刃先に形成した条痕により,ホイールとガラス板とのかみ合いが確実となるのみならず,ホイールをガラス板上で転動させた際,より大きなかみ合い得ることができ,ホイ ールのスリップを防止することができることをその技術内容とするものである。 (3) 相違点1についてア前記(1)及び(2)の本件発明1及び引用発明1の技術内容からすると,引用発明1において,刃の両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成し,刃先の面を粗面に構成していることから,引用発明1の刃の稜線部においても粗面に構成されていることにより,微細な凹凸が形成されているものということができる。 イ から見て鈍角をなす刃先を形成し,刃先の面を粗面に構成していることから,引用発明1の刃の稜線部においても粗面に構成されていることにより,微細な凹凸が形成されているものということができる。 イもっとも,引用発明1の刃先に形成した条痕は,ホイールとガラス板とのかみ合いを確保するため,刃先両側の円周エッジ部を一定の角度で斜めに削り取ったものであり,刃の稜線部に形成された微細な凹凸は,その結果として,稜線部に生じたものというべきであるのみならず,当該構成は,ガラス表面とかみ合うことによりホイールのスリップを防止する効果を奏するにすぎないものである。 したがって,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」,すなわち,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させつつ,ガラスをスクライブすることができる突起に相当するものということはできない。 ウこの点について,原告は,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,「点接触となるように打ちつけることにより衝撃を与える,定まった形状の突起」を意味し,突起の大きさに関する規定はないから,引用発明1における「凹凸」が「微細な山と谷からなるにとどまる」などとする本件審決の主観的な判断は誤りである,引用発明1のように刃の稜線部に突起が形成されたガラスカッターホイールを回転させると,ガラスに対して突起が断続的に打ちつけられ,衝撃を与えることは明らかである,引用例1の図2には,ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃が形成されているガラスカッターホイールであって,その稜線部が鋸の形状からなるものが明示されているなどと主張する。 しかしながら,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,あくまでもホイ 字形の刃が形成されているガラスカッターホイールであって,その稜線部が鋸の形状からなるものが明示されているなどと主張する。 しかしながら,引用発明1の刃の稜線部に形成された凹凸は,あくまでもホイー ルとガラス面とのスリップを防止する目的のために設けられた微細な山と谷とからなる凹凸にすぎず,ガラス表面にスリップを防止することができる程度の打点が加えられることはあっても,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるものではないことは,引用例1の記載からも明らかである。原告の主張は,引用発明1の突起の形状や大きさ,作用効果を無視したもので,相当ではない。 また,引用例1の図2は,引用発明1の刃先に形成された条痕によって生じる,ホイールのスリップを防止するという効果は,ホイールにあたかも鋸の刃先を形成した場合と同等の効果を有することを模式的に説明するために作成された図にすぎず,引用発明1のホイールの刃先に,同図のような刃先が実際に形成されているわけではない。同図が,「刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成」することによって生じるスリップ防止の効果を示す側方からの図にすぎない以上,当業者は,引用例1の記載全体によっても,同図には鋸の刃先状の突起が記載されていることを認識するにすぎず,それ以上,このような突起がスクライブ性能を向上させることや,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるものと理解することはできないものである。 したがって,当業者は,引用発明1をもって,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に係る示唆を与えられるものということはできない。原告の主張は,採用できない。 エ以上からすると,相違点1は ある。 したがって,当業者は,引用発明1をもって,「打点衝撃を与える所定形状の突起」に係る示唆を与えられるものということはできない。原告の主張は,採用できない。 エ以上からすると,相違点1は,実質的な相違点であるというべきである。 (4) 小括したがって,本件発明1は,引用発明1と同一であるとはいうことはできず,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(引用発明2に基づく本件発明1の新規性に係る判断の誤り)について (1) 引用発明2についてア引用例2の記載引用例2(甲2)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。 (ア) 引用発明2の特許請求の範囲は,以下のとおりである。 【請求項1】直径をその円周が付けようとする傷の長さより短くなるような大きさとし,かつ刃先の斜面の研削すじに0ないし180°の角度を付け,刃の先端を微小の鋸歯状とすることを特徴とするガラス材カッター刃(イ) 引用発明2は,厚さが比較的薄いガラス材を切断する際,ガラス表面に微細な傷を付けるために用いられるガラスカッター刃に関する発明である。 ガラス材の一方の表面に微細な傷を付け,他方から生じた傷に高温でシャープな炎を当てて切断する方法に用いるカッター刃は,従来,刃先に角度を付けるためだけに,水平方向の研削すじが付いていたことから,刃を強く押し付けないと傷が付き難く,摩耗が早かった。また,径が大きいと,回転しても部分的な摩耗を生じ,一定の幅,深さの傷を付けることができず,切れ具合や切り口形状に悪影響を及ぼした。 (ウ) 引用発明2においては,刃先が摩耗する過程で,部分的に異常な幅,深さの傷が生じることを考慮し,ガラス表面にできる限り細い線を長時間形成することを可能とするため,カッター刃がガラス表面 。 (ウ) 引用発明2においては,刃先が摩耗する過程で,部分的に異常な幅,深さの傷が生じることを考慮し,ガラス表面にできる限り細い線を長時間形成することを可能とするため,カッター刃がガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転するように,カッター刃の径を円周が付けようとする傷の長さより小さくなるよう設定している。 また,カッター刃をガラス表面に強く押し付けないようにする必要があるところ,刃の先端が平らな場合,逆に切れ具合が悪くなるため,刃先の斜面の研削すじに0ないし180°の角度を付け,先端を微小の鋸歯状として,軽く触れるだけで微細な傷が付くようにしている。 (エ) 引用発明2によると,カッター刃の先端が一様な摩耗となり,切れ具合や切り口形状に異常が生じないのみならず,ガラス表面に対し,軽い押し付け力を用 いるだけで,長時間微細な傷を付けることが可能となる。 イ引用発明2の技術内容以上の引用例2の記載によると,引用発明2は,あらかじめガラス表面に微細な傷を付けた上で,他方から高温の炎を当てることにより,厚さが比較的薄いガラス材を切断する際に用いられるガラスカッターにおいて,カッター刃がガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転するようにし,切れ具合や切り口形状に異常が生じないようにするのみならず,軽い押し付け力によってもガラス表面に微細な傷が生じるようにするために,刃先の斜面の研削すじに0ないし180°の角度を付け,先端を微小の鋸歯状とすることをその技術内容とするものである。 (2) 相違点2についてア前記1(1)の本件発明1及び前記(1)イの引用発明2の技術内容からすると,引用発明2において,ガラスカッターの刃先は,先端が微小の鋸歯状とされていることから,刃先に突起が形成されているものとい ア前記1(1)の本件発明1及び前記(1)イの引用発明2の技術内容からすると,引用発明2において,ガラスカッターの刃先は,先端が微小の鋸歯状とされていることから,刃先に突起が形成されているものということはできる。 イガラスカッターホイールは,ホイールをガラス板上に圧接状態にして転動させることによって切り筋(スクライブライン)を形成するものであるところ(本件明細書【0011】),ガラスに生じた垂直クラックが板厚方向に貫通するほど深い場合には,切断工程を省力化あるいは省略することが可能となるものである(本件明細書【0016】)。 もっとも,引用発明2の刃先に形成した微小の鋸歯状の突起は,後に高温の炎を用いてガラスを切断することを前提として,ガラス表面に微細な傷を付けるために設けられた構成であり,当該突起は,ガラス表面に微細な傷を生じさせる効果を奏するにすぎないものである。 したがって,引用発明2の刃先における先端が微小の鋸歯状の突起は,ガラス表面に微細なスクライブラインを形成することはあるとしても,水平クラックが発生しないが,極めて深い垂直クラックが生じるという高精度のスクライブラインを形成することまでは想定しているものではないから,本件発明1の「打点衝撃を与え る所定形状の突起」,すなわち,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて深い垂直クラックを発生させつつ,ガラスをスクライブすることができる構成に相当するものということはできない。 ウこの点について,原告は,本件発明1は,突起の大きさについては何も規定していないのであるから,引用発明2の刃の稜線部に形成された鋸歯状が微細な山と谷からなるにとどまるとしても,本件発明1の「突起」に相当するものである,刃の稜線部に突起が形成されたガラスカッ 何も規定していないのであるから,引用発明2の刃の稜線部に形成された鋸歯状が微細な山と谷からなるにとどまるとしても,本件発明1の「突起」に相当するものである,刃の稜線部に突起が形成されたガラスカッターホイールを回転させると,突起の大きさや均一さとは無関係に,ガラスに対し突起が断続的に打ちつけられ,衝撃を与えることは明らかである,引用発明2は,研削すじを積極的に活用し,ホイールの刃の稜線部を鋸歯状に形成するものであるから,研削すじは刃先の形成に伴って付随的に生じるにすぎないとした本件審決の指摘は非論理的であるなどと主張する。 しかしながら,引用発明2のガラスカッターは,カッター刃をガラス表面に傷を付け終わるまでの間に1回以上回転させるとともに,刃先斜面の研削すじに一定の角度を設けて,刃の先端を微小の鋸歯状としたものであるが,その目的は,刃先の摩耗の過程において生じる不均一の防止と,できるだけ細い線を長時間維持するためにカッター刃をガラス表面に強く押しつけなくても微細な傷を形成することにあり,しかも,傷を付けた後に,高温でシャープな炎を当てて切断する工程が前提とされているものである。 したがって,引用発明2は,このような微細な傷において,刃の摩耗などに伴う微細な変化を防止することをその前提とするものというべきであり,同発明における刃の先端を微小の鋸歯状とした突起は,垂直クラックを深く形成し,水平クラックを抑制することにより,切断工程の容易化あるいは省略を目的とする本件発明1と同様の突起ということはできない。そして,引用発明2の技術思想からすると,一定の角度により形成された微小の鋸歯状の突起を設ければ足りるものであるから,引用例2によって,当業者が,深い垂直クラックを生じるような打点衝撃を与える所定形状の突起に関する示唆を受けるものとい ,一定の角度により形成された微小の鋸歯状の突起を設ければ足りるものであるから,引用例2によって,当業者が,深い垂直クラックを生じるような打点衝撃を与える所定形状の突起に関する示唆を受けるものということはできない。 また,引用発明2が,刃先の摩耗の過程において生じる不均一の防止とカッター刃をガラス表面に強く押しつけなくても微細な傷を形成することを目的としており,「打点衝撃を与える所定形状の突起」を有するものではない以上,研削すじが付随的に形成されるものであるか否かは本件発明1の新規性についての判断を左右するものではない。原告の主張は採用できない。 エ以上からすると,相違点2は,実質的な相違点ということができる。 (2) 小括したがって,本件発明1は,引用発明2と同一の発明であるということはできず,本件発明1の新規性を認めた本件審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(本件発明2ないし10の進歩性に係る判断の誤り)について(1) 本件発明2についてア前記1(2)及び2(1)の引用例1及び2に係る技術思想によれば,引用例1及び2には,ガラス板に板圧を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させる程度の打点衝撃を与えるという技術思想について,打点衝撃を与える所定形状の突起に係る構成やその作用効果に関し,いずれもこれを示唆する記載はないのみならず,ガラスカッターホイールの刃先において,水平クラックを生じることなく,長い垂直クラックを発生させる「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」との構成が開示されていないことは明らかである。 イまた,引用例3(甲4)には,丸刃カッターとその製造装置及び製造方法に係る発明において,切断材への切り込みを良好にするため,切刃に,丸刃カッターの半径方向に1 されていないことは明らかである。 イまた,引用例3(甲4)には,丸刃カッターとその製造装置及び製造方法に係る発明において,切断材への切り込みを良好にするため,切刃に,丸刃カッターの半径方向に10ないし100μm,望ましくは20ないし50μmの平均凹凸量の多数の微小鋸刃が形成される構成が開示されているが,これは,リード線,ワラ,各種シート材用カッター等の丸刃カッターを前提とするものであり,ガラス板の切断に用いられるガラスカッターホイールとは,明らかに異なるものである。しかも,引用発明3は,切刃に微小鋸刃を多数形成することにより,切断時に微小鋸刃が切断材に切り込み,切刃の滑りを防止して良好な切れ味を得ることを目的とするとこ ろ,切刃が滑らかで凹凸が少ないと,刃先が鋭利であってもリード線に対する切り込み性が悪く,切れ味が比較的悪いため,プリント基板に固定した素子の脚を切断する際,素子に与える衝撃が比較的大きく,悪影響が生じるおそれがあることを従来技術の課題としており,切り込みを良好にすることを目的とするも,衝撃を与えることはむしろ避けるべき課題とするものである。 さらに,引用発明3は,稜線部に微細な鋸刃を多数形成することによって,滑りを防止して良好な切れ味を得ることを目的とするものであって,打点衝撃を与えることにより深い垂直クラックを生じさせつつ水平クラックを抑えるという技術思想の開示はないものであるから,対象材料が異なり,切断の技術的意義が異なる引用発明3における数値範囲のみを引用発明2に適用することは,動機付けを欠くものというほかない。 ウしたがって,本件発明2は,当業者が引用発明2に引用発明3を組み合わせることによって,容易に想到し得るものということはできない。 エこの点について,原告は,本件明細書には,本件発明2 ない。 ウしたがって,本件発明2は,当業者が引用発明2に引用発明3を組み合わせることによって,容易に想到し得るものということはできない。 エこの点について,原告は,本件明細書には,本件発明2の作用効果に関する記載はなく,引用発明2と比較して本件発明2が格別の作用効果を奏するということはできないことは,原告作成の試験報告書(甲9,29)からも明らかである,引用発明3は,本件発明2及び引用発明2と課題が共通し,作用原理も類似し,技術分野も同一であるから,引用発明2の鋸歯状の高さについて,引用発明3と同様の数値を採用することに困難性は存しないなどと主張する。 しかしながら,本件明細書によると,本件発明2は,本件発明1の深い垂直クラックを生じるような打点衝撃を与える所定形状の突起について,特定の高さの突起を所定のピッチで形成することにより,水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生させることができ,突起がない従来のものと比べ,スクライブ性能が飛躍的に向上することをその目的とするものであるから,高温でシャープな炎を当てて切断する工程を前提とし,できるだけ細い線を長時間維持するためにカッター刃をガラス表面に強く押しつけなくても微細な傷を形成することを目的とする引用 発明2と比較して,格別な作用効果を奏することは明らかである。原告作成の試験報告書(甲9,29)は,ピッチと突起の高さに関する好ましい仕様として示された範囲の最大値や最小値付近の作用効果の変化や,ピッチを一定ではない状態にした場合の作用効果の変化について検討したものではあるが,完全に一定ではないものの,全周にわたって規則的な凹凸が形成されているガラスカッターホイールを使用して実験している点において,このような規則的な凹凸の構成を前提としない引用発明1及び2におい るが,完全に一定ではないものの,全周にわたって規則的な凹凸が形成されているガラスカッターホイールを使用して実験している点において,このような規則的な凹凸の構成を前提としない引用発明1及び2においても本件発明2と同様の作用効果を奏することを示すための比較テストとしては,不適切である。 このように,本件発明2と引用発明2の技術思想が相違する以上,引用発明2における鋸歯状の突起の高さが本件発明2の突起の高さと重複するとしても,当業者が引用発明2における突起の高さについて,引用発明1における凹凸の高さを参考にしつつ,本件発明2における突起の高さについて想到し得るものということはできない。原告の主張は採用できない。 オしたがって,本件発明2は,引用例2及び3に基づいて,当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (2) 本件発明3ないし10について本件発明3ないし10は,いずれも本件発明1又は2を引用するものであって,本件発明1又は2の構成を全て包含するものである。 したがって,本件発明1及び2が,いずれも進歩性を有する以上,本件発明3ないし10も,同様に,進歩性を有するものというべきである。 (3) 小括以上からすると,本件発明2ないし10について,いずれも当業者が引用発明2及び3等に基づいて容易に想到し得るものではないとした本件審決の判断に,誤りはない。 4 結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求 は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官滝澤孝臣 裁判官井上泰人 裁判長 裁判官 滝澤孝臣 裁判官 井上泰人 裁判官 荒井章光
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