平成29(行コ)43 退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年2月28日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成28(行ウ)98
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判決文本文10,750 文字)

平成30年2月28日判決言渡名古屋高等裁判所平成29年(行コ)第43号退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成28年(行ウ)第98号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 名古屋入国管理局長が平成28年3月15日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出には理由がないとの裁決を取り消す。 3 名古屋入国管理局主任審査官が平成28年3月16日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,ネパール連邦民主共和国(以下「ネパール」という。)国籍を有する外国人男性である控訴人が,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受けた後,名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長 (以下「名古屋入管局長」という。)から,平成28年3月15日付けで控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同月16日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却し ,名古屋入管主任審査官から,同月16日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第 2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 控訴人の退去強制事由該当性等について前提事実によれば,控訴人は,入管法24条1号(不法入国)の退去強制事由に該当する外国人であることが認められる。 2 認定事実前提事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人の本国における生活状況等ア控訴人は,昭和46年8月●日にネパールにおいて出生し,30歳で本邦に入国するまでネパールで生活しており,母国語であるネパール語の会話及び読み書きについて特に不自由はない(乙2・2枚目,乙6・1頁)。 イ控訴人は,ネパール国内の大学を1年で中退した後,農業開発銀行に勤務し,銀行員として融資の審査業務を行っていた(乙9・12頁)。 (2) 控訴人の本邦入国及び在留状況等ア控訴人は,平成13年9月24日,「A(1962年7月●日 生)」名義の旅券を行使し,東京入国管理局成田空港支局入国審査官から,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする上陸許可を受け,本邦に不法入国した(乙2・2枚目)。控訴人の不法入国の目的は,ネパールよりも労働条件の良い本邦で稼動し,本国に居る親族に送金することであった(甲7・1頁)。 イ控訴人は,本邦入国後,愛知県内において,主に土木作業や自動車部品製造の業務に従事したほか,逮捕に至るまで10年近く同 の良い本邦で稼動し,本国に居る親族に送金することであった(甲7・1頁)。 イ控訴人は,本邦入国後,愛知県内において,主に土木作業や自動車部品製造の業務に従事したほか,逮捕に至るまで10年近く同一の会社で土木作業に従事し,雇用主から頼りにされる存在となっていた。また,この間,ネパールの親族に対し,合計600万円ないし700万円を送金した(乙6・12,15頁,乙9・9頁)。 ウ控訴人は,平成27年12月●日,知人に会うために車を無免許で運転中,通行禁止区域を運転したことから警察官に呼び止められ,旅券を所持していなかったため入管法違反により愛知県豊田警察署員に逮捕された。なお,控訴人は,同年6月頃から,4回ないし5回は無免許運転をしたことがあった(乙9・17~19頁)。 エその後,前記のとおり,控訴人は,平成28年2月17日,名古屋入管収容場に収容され(乙5・2枚目),同年3月15日付けで本件裁決を(乙14,15),同月16日付けで本件処分を受けたが(乙17),同年9月28日,仮放免された。 (3) 控訴人とBの婚姻に至る経過等ア Bは,昭和45年4月●日にフィリピンで出生し,平成7年8月17日,フィリピンの方式により日本人男性である訴外Cと婚姻し(甲1・17枚目),同年9月●日,フィリピンにおいて同人との間に長女D(以下「D」という。)をもうけた(同・19枚目)。 Bは,平成8年に「日本人の配偶者等」の在留資格でDとともに本邦に入国し,平成13年4月6日には「永住者」の在留資格を取 得した(乙2・4~5枚目)。 その後,Bは,平成15年6月17日,Dの親権者をBと定めてCと離婚し(甲1・17~18枚目),同年12月●日,別の日本人男性である訴外Eとの子であるFを出産した。ただし,その後 目)。 その後,Bは,平成15年6月17日,Dの親権者をBと定めてCと離婚し(甲1・17~18枚目),同年12月●日,別の日本人男性である訴外Eとの子であるFを出産した。ただし,その後,BとEは婚姻に至らず,また,Fは,嫡出推定規定により,前夫であるCの子として届出された(甲2,B証人13~14頁)。 なお,Fには障害(知能の発達の「軽度の遅れ」)があり,療育手帳の交付を受けている(甲3)。平成27年12月4日の検査によると,全体的な知能の発達(知能年齢)は7歳10か月,知能指数は66である(甲4)。 イ控訴人及びBは,平成16年頃,同じ会社で勤務していたため顔見知りの関係にあったが,平成21年夏頃,男女として交際を開始した。それから間もなくして,2人は結婚を意識するようになり,控訴人はBを「ブリー」(ネパール語で妻に対する呼びかけに用いる言葉)と,Bは控訴人を「パパ」と呼び合い親密に交際するようになった(甲6・2頁,控訴人本人1頁,B証人2~4頁)。 ウなお,Bは,自らの孫に在留資格を不正に取得させようとしたことから退去強制の対象となり,永住許可を取り消された上で,平成23年8月22日に在留資格を「定住者」,在留期間1年とする在留特別許可を受けた。しかし,その後,在留期間が3年に延長され,在留期間更新許可を受けて在留している(甲2,乙2・6枚目,乙19・4頁)。就労制限はない(乙19・10頁)。 エ交際を続けていた控訴人とBは,平成26年頃,正式に婚姻することを確認し合い(甲6・2頁,甲7・2頁),控訴人は,1週間に2日ないし3日,Bの自宅に宿泊するようになり,Fも控訴人に懐き,二人は実の親子のように過ごし始めた(乙9・14頁)。た だし,控訴人にはネパールに妻がいたため,直ちに婚姻には至らな に2日ないし3日,Bの自宅に宿泊するようになり,Fも控訴人に懐き,二人は実の親子のように過ごし始めた(乙9・14頁)。た だし,控訴人にはネパールに妻がいたため,直ちに婚姻には至らなかった。 なお,Bは,遅くともこの頃には,控訴人が在留資格を有していないことを認識していた(B証人18頁)。 オ控訴人は,平成27年6月,当時居住していたアパートの賃貸借契約を解約し,Bの自宅に荷物を運び入れ,生活の本拠をBの自宅と定めて同居を開始した上,家族同然にBらと食事を共にし,Bに対し,生活費として月に約5万円程度を渡しており,これがBの乏しい家計にとって貴重な支えとなった。もっとも,当時,Dが19歳の年頃の女性であり,アパートには部屋が2つしかなかったため,控訴人は,Dに遠慮して,宿泊については週のうち2,3日にとどめ,その他の日は近くの友人の家に宿泊していた(控訴人本人2~3頁,6頁,13頁,B証人4~5頁)。 カ控訴人は,ネパール在住の妻と離婚について話し合って合意に至り,平成27年秋以降,離婚手続に必要な書類をネパールから順次取り寄せていたところ,同年12月に逮捕されたが,平成28年1月11日,同人との離婚が成立した(甲1・2~7枚目,控訴人本人11~12頁)。同じ頃,Bは,身柄拘束中の控訴人に代わって,豊田市役所に婚姻届を提出するために必要な書類(出生証明書等)についての翻訳を依頼するなどして婚姻のための準備を行っていた(甲1・添付書類参照,B証人10頁)。 キ控訴人とBは,平成28年3月22日,愛知県豊田市長に対し,婚姻届を提出した(甲1)。 (4) 現在の控訴人ら家族及び親族の状況ア控訴人が逮捕された後,Bは,控訴人からの収入がなくなったこともあって家計が苦しくなり生活保護を受けることとなった。 婚姻届を提出した(甲1)。 (4) 現在の控訴人ら家族及び親族の状況ア控訴人が逮捕された後,Bは,控訴人からの収入がなくなったこともあって家計が苦しくなり生活保護を受けることとなった。F も,控訴人と会えなくなったことから無口となり,精神状態も不安定となった。 イ控訴人は,仮放免後,B及びFとともに豊田市内のアパートで生活し,家事及び育児を行っている。 Bは,仮放免中である控訴人に収入がない一方,控訴人が家事及び育児を分担してくれるため,従来より稼働時間を増し,ファーストフード店やコンビニエンスストアで働いており,月額14ないし15万円の収入を得て家族全体の生活費を賄っている(控訴人本人14~15頁)。 ウ Fは,現在,中学2年生であり,前記のとおり,知能に障害があることから特別クラスに在籍している。小学校1,2年生程度の知能しかなく,一人で身の回りのことをすることができないため,控訴人らが面倒をみる必要がある(甲8・1頁,B証人20~21頁)。控訴人は,将来的には,Fと養子縁組することも考えている(甲9・2頁)。 エ Dは,日本の大学に進学したが,その後,1年で退学し,現在は仕事をしている。Dは,以前はBらと居住していたが,平成28年3月,愛知県豊橋市内のアパートに転居し,一人暮らしをしつつ(B証人12~13頁),その後も控訴人らと食事をするなどして,家族の一員として控訴人らとの付き合いを続けている(甲5⑬⑭参照)。 オ控訴人ら家族の会話は,日本語である(甲7・4頁,乙11・2頁)。控訴人及びBは,今後も本邦で一緒に生活していくことを希望している。控訴人が以前勤務していた会社も,控訴人が在留資格を得られた場合には改めて雇用すると述べており,Bも控訴人の収入により安定した生活を確保し,Fの心身 後も本邦で一緒に生活していくことを希望している。控訴人が以前勤務していた会社も,控訴人が在留資格を得られた場合には改めて雇用すると述べており,Bも控訴人の収入により安定した生活を確保し,Fの心身の安定も得られるものと 期待している。 カ控訴人の本国であるネパールには,控訴人の両親,弟,離婚した前妻,控訴人の実子である長男及び二男が居住している(乙9・7~8頁,控訴人本人8頁)。 3 本件裁決の違法性について(1) 本件裁決当時の控訴人とBの関係についての評価ア前記認定事実2(3)イ,エないしキ記載のとおり,控訴人とBは,平成21年夏頃から交際を開始し,平成26年に婚姻を約束した上,平成27年6月頃には控訴人の荷物をBの自宅に運び込んで生活の本拠と定めて同居を開始し(ただし,宿泊については週2ないし3日程度),平成28年3月22日に婚姻したというのであるから,本件裁決当時,その交際期間は6年半程度,同居期間は約9か月余りであって,同居の期間としては長いとはいえないものの,双方の婚姻に対する考え方を確かめ合うには十分な時間が経過していたといえるし,双方の生活状況からすると,既に互いに相手を伴侶として切実に必要とする間柄になっていたと認められる。 そして,控訴人とBは,本件裁決直後に正式に婚姻し,その後も婚姻生活を継続しており,2人で力を合わせてFを監護養育しているものと認められ,今後も本邦において一家3人で生活していくことを強く望んでいる。かかる本件裁決以降の経過からみても,本件裁決時における控訴人とBの関係は,既に法律上の婚姻関係と同視し得るに足る十分に安定かつ成熟したものと評価することができるから,このことは本件裁決に当たり十分斟酌されるべき事柄であったということができる。 イこれに 係は,既に法律上の婚姻関係と同視し得るに足る十分に安定かつ成熟したものと評価することができるから,このことは本件裁決に当たり十分斟酌されるべき事柄であったということができる。 イこれに対して,被控訴人は,退去強制事由のある外国人に定住者の在留資格を有する外国人の配偶者がいることは在留特別許可の許 否を判断する際に考慮される事情の一つにすぎない上,定住者の資格を有する外国人の配偶者と我が国との結びつきは,配偶者が日本人である場合に比して弱いのであるから,定住者の在留資格を有する外国人との婚姻を保護する必要性は,配偶者が日本人である場合に比して低いというべきであり,まして,定住者の在留資格を有するBとの関係が内縁にとどまり,法的な婚姻関係が成立していない場合には,当該関係を保護する必要性は更に低いというべきであると主張する。 しかし,Bの実子であるFは,日本人を父に持つ日本人であって,BはFに対して扶養義務を負っている親権者であるとともに,控訴人もBの夫として事実上Fを扶養している関係にある。そして,少なくとも我が国の公的機関においては,日本国籍を有するFの福祉を重視せざるを得ない。しかも,本件裁決当時,控訴人とBが婚姻に向けて準備をしていたことは,婚姻届(甲1)に添付された翻訳に関する文書の日付が平成28年1月ないし3月とされていることから明らかであり,本件裁決は,法的な婚姻関係が成立する間際になされたものである。 そうすると,本件裁決当時の控訴人とBの関係は,Fとの関係も考慮すると,日本人との婚姻関係に準じて,これを保護する必要性が高かったというべきである。 ウまた,被控訴人は,平成26年6月ないし8月頃から控訴人がBの家に泊まりに行くようになったが,泊まるのは1週間のうち2,3日で,Dに気を れを保護する必要性が高かったというべきである。 ウまた,被控訴人は,平成26年6月ないし8月頃から控訴人がBの家に泊まりに行くようになったが,泊まるのは1週間のうち2,3日で,Dに気を遣い,それ以外の日は知人の家に泊まっていたというのであり,また,Bは,控訴人が引っ越してくることはなく,控訴人が借りているアパートで暮らしている旨供述していることから同居していたとは認められないし,また,Bが家賃を3か月滞納 している状態であるのに控訴人はネパールで暮らす家族へ仕送りしていたというのであるから,相互扶助の関係があったともいえないとして,安定かつ成熟した内縁関係があったと認めることができないと主張する。 しかし,控訴人とBは,当審において,平成27年6月に控訴人がアパートを解約し,荷物をBの自宅に運び入れた旨供述しているところであり(控訴人本人2頁,B証人4頁),それ以後,宿泊が週の2,3日であったとしても,それ以外の食事や買い物などは行動を共にし,生活の本拠はBの自宅にあったものと認められるから,平成27年6月以降は同居していたものと評価することができる。 また,控訴人に貯金や資産があるとは認められず(乙9・19頁),Bも控訴人に経済的ゆとりがない旨供述しているのであって(乙19・8頁),可能な範囲で月5万円程度の生活費を渡していたことも認められるから,アパートの家賃の滞納に対して控訴人が支払をしなかったことをもって,直ちに相互扶助の関係がなかったともいえない。 よって,被控訴人の上記主張は,前提となる事実に誤りがあるというべきであるから採用できない。 エさらに,被控訴人は,控訴人とBの関係は,控訴人が本邦に不法入国し不法在留の状態であることをお互いに承知の上で成立したもので 提となる事実に誤りがあるというべきであるから採用できない。 エさらに,被控訴人は,控訴人とBの関係は,控訴人が本邦に不法入国し不法在留の状態であることをお互いに承知の上で成立したものであり,違法状態の上に築かれたものであるから,そもそも法的保護に値せず,控訴人の強制退去に伴い何らかの不利益が生じたとしても,当該不利益は控訴人とBが当然に受忍すべきものであると主張する。 しかし,法的には違法状態の下で築かれたものであるとしても, 母親が新しい伴侶を得て家族を形成し子を守りたいと願うことや,より豊かな生活を求めて外国で居住し続けたいと願うのは人として自然な感情であるから,Bが婚姻前に控訴人の不法入国等の事実を知っていたとの一事をもって,長期にわたり本邦で生活し,かつ,定着しているBの意向やFを含む家族全体の生活の利益を全く無視することも相当とはいえない。よって,被控訴人の上記主張も採用できない。 (2) 本件処分による控訴人ら家族の不利益についての評価ア前記のとおり,Fは,日本人男性を父に持つ日本人であり,本邦で生まれ育ち,現在は中学2年生になっており,しかも,知能の障害が認められるのであるから,本邦以外で生活することは実際上困難である。そして,親権者であるBも本邦に定着し,本邦で生活することを希望している。そうすると,控訴人がネパールへ強制的に帰国させられることになれば,本邦において既に生活の基盤を有しているB及びFとも離れて暮らすことになり,控訴人ら家族が離散することになりかねない。とりわけ,知能の障害があるFについては,親権者であるBと控訴人が力を合わせて監護養育していくことが必要となるところ,控訴人が強制退去となれば,日本国籍を有するFの福祉に重大な悪影響を及ぼすものと認められる。そ の障害があるFについては,親権者であるBと控訴人が力を合わせて監護養育していくことが必要となるところ,控訴人が強制退去となれば,日本国籍を有するFの福祉に重大な悪影響を及ぼすものと認められる。そのような事態は,控訴人ら家族に重大な不利益を及ぼし,著しく人道に反する結果となる。 また,同じく日本国籍を有するDは,幼少の頃から永年にわたって本邦に居住しているから,今後も引き続き居住することを希望しているものと推察される。成人とはいえ,まだ若いDの今後の生活については,控訴人らの協力が必要である。 これらの点も本件裁決に当たり十分に斟酌されるべき事柄であっ たということができる。 イこれに対して,被控訴人は,控訴人とFとの関係は,控訴人とBとの関係に付随するものとしての域を出るものではなく,法律的な親子関係はないのであるから,控訴人がFを養育しなければならないものではない上,本件裁決時において,控訴人がFと同居の上,積極的に監護養育していたという事情も見当たらず,実の親子のような関係があったとも認められないなどと主張し,控訴人とFの関係も,在留特別許可の許否判断において特段の積極要素ということはできないと主張する。 しかし,本件裁決当時,控訴人がBらと同居し,法律上の婚姻関係と同視し得るに足る十分に安定かつ成熟した内縁関係にあったことは前記のとおりである。控訴人は,事実上,同居しているFの養育を行う必要があり,とりわけ,Fには知能の障害が認められるから,その必要性は高かったといえる。そして,現在,仕事に行っているBに代わり,控訴人がFの面倒を見ているものと認められ,更に今後は養子縁組により法律上も扶養義務が生ずることが予想されるところである。よって,控訴人とFの関係も,在留特別許可の許否判断にお ているBに代わり,控訴人がFの面倒を見ているものと認められ,更に今後は養子縁組により法律上も扶養義務が生ずることが予想されるところである。よって,控訴人とFの関係も,在留特別許可の許否判断において積極要素として考慮すべき事情の一つであって,これに反する被控訴人の主張は採用できない。 ウさらに,被控訴人は,控訴人がネパールで出生し,30歳で本邦に初めて上陸するまで我が国と何ら関わりを有していなかった者であり,ネパールに帰国することに特段の支障が認められないと主張する。 しかし,控訴人はともかく,その家族であるBやFは,ネパールでの居住経験はなく,かつ,言葉の問題もあるから,ネパールに家族で移住することは生活に大きな支障を伴うことが予想されるので あり,特段の支障が認められないとはいい難い。また,Fを養育しながら,新たに生計を立てて安定した暮らしができるか否かも懸念されるところである。よって,被控訴人の上記主張は採用できない。 (3) 不法残留等の消極事由についての評価被控訴人は,控訴人の在留特別許可の許否判断に当たり消極要素として考慮すべき事情が複数存するとして,①控訴人が他人名義の旅券を用いて本邦に不法入国したこと,②控訴人の不法在留が長期間に及んでいること,③控訴人が長期間にわたり不法就労を行い,本国に送金していたこと,④控訴人が無免許運転を繰り返していたことを挙げている。 この点,①②の不法入国及び不法在留については,控訴人は,他人名義の旅券を使用して不法に入国し,その後,不法に在留していたことが認められ,その経緯に酌むべき事情はないから,消極要素として考慮されることはやむを得ない。しかし,他方で,在留特別許可制度は,退去強制事由が存在する外国人に対して在留資格を付与する制度であり とが認められ,その経緯に酌むべき事情はないから,消極要素として考慮されることはやむを得ない。しかし,他方で,在留特別許可制度は,退去強制事由が存在する外国人に対して在留資格を付与する制度であり,法は,不法入国者であっても一定の事情がある場合には在留資格を付与することを予定しているとみることもできるから,不法入国とその後の不法在留の点を過度に重視することはできない。 また,③の不法入国後の就労の事実は,在留資格の存在を前提とする入管法70条1項4号の資格外活動罪に該当しないのであるから,就労の事実そのものを犯罪視することはできず,その違法性は不法入国により既に評価されているともいい得るし,控訴人が本邦で日々の生活の糧を得るために働くこと自体は,人道上非難されるべきことでもない。 さらに,④の無免許運転については,消極要素として考慮されるこ とはやむを得ないものの,それのみで直ちに退去強制事由となるものではない上(入管法24条各号参照),控訴人の場合は4ないし5回程度にとどまっていたから,非難の度合いが著しいとまではいえない。 そうすると,上記の諸事情は,消極事由として評価し得るとしても,これらを過大視することはできない。しかも,控訴人は,それ以外の点においては,平成13年9月に本邦に入国以来,本件裁決時点で14年以上に渡って特段の問題もなく生活してきた者であるから,本件裁決に当たっては,上記の消極事由だけではなく,その余の在留を認めるべき事情も十分に加味して検討されるべきであったといえる。 (4) 小括以上に検討したことからすると,前記(1)及び(2)のとおり,本件裁決当時,控訴人とBとの間には安定かつ成熟した婚姻関係と同視し得る実態があったものと認められ,かつ,本件処分は同関係により真摯な意思をもって形 たことからすると,前記(1)及び(2)のとおり,本件裁決当時,控訴人とBとの間には安定かつ成熟した婚姻関係と同視し得る実態があったものと認められ,かつ,本件処分は同関係により真摯な意思をもって形成された控訴人ら家族の結合を破壊し,甚大な不利益を与えかねない。他方で,前記(3)のとおり,被控訴人の指摘する控訴人の消極事由は,これだけを捉えて殊更重視することはできない。しかるに,本件裁決は,名古屋入管の入国審査官が控訴人らから事情聴取をした際,控訴人とBの内縁関係の実態を十分に把握せず,又は同関係及び本件処分による控訴人ら家族の不利益を軽視する一方で,前記(3)の控訴人にとって不利な情状のみを殊更重視し,これをもって看過し難い重大な消極要素になると評価することによってされたものといわざるを得ない。 そうすると,本件裁決は,その判断の基礎となる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照ら し著しく妥当性を欠くことは明らかであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであるというべきである。よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由がある。 4 本件処分の違法性について本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。 第4 結論以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民 主文 以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 理由 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 裁判官金久保茂

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