平成13(レ)55 小切手債務不存在確認等請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年5月24日 神戸地方裁判所
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判決文本文6,170 文字)

判決平成14年5月24日神戸地方裁判所平成13年(レ)第55号小切手債務不存在確認等請求控訴事件 主文 1 控訴人の被控訴人A会社に対する控訴を棄却する。 2 原判決中,被控訴人Bに関する部分(原判決主文第2項)を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は,被控訴人Bに対し,金16万4847円及びこれに対する平成13年5月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人Bのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。 4 この判決の第2項の(1)は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要本件は,被控訴人A会社が控訴人との間で小切手債務不存在の確認を求め,被控訴人Bが控訴人に対し,民法709条に基づき前記小切手債務の原因関係たる売買契約の契約締結上の過失による損害の賠償及び同契約目的物たる土佐犬全国横綱第20代闘犬嵐号(以下「嵐号」という。)についての事務管理に基づく有益費用の償還を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 控訴人は,被控訴人Bに対し,平成13年3月10日,土佐犬嵐号を代金50万円で売り渡した(以下「本件売買契約」という。)。 (2) 被控訴人A会社は被控訴人Bのために上記売買代金を支払う旨を約し,原判決添付別紙小切手目録記載の小切手(以下「本件小切手」という。)を控訴人宛に振り出した。 (3) 控訴人は,支払人に対し,平成13年3月22日,本件小切 めに上記売買代金を支払う旨を約し,原判決添付別紙小切手目録記載の小切手(以下「本件小切手」という。)を控訴人宛に振り出した。 (3) 控訴人は,支払人に対し,平成13年3月22日,本件小切手を支払のため呈示したが,支払を拒絶された。 (4) 控訴人は,被控訴人A会社に対し,本件小切手債権を有すると主張している。 2 当事者の主張(1) 被控訴人A会社ア本件売買契約の錯誤無効被控訴人Bは,闘犬の試合に出場させることができる土佐犬を購入する目的で控訴人方を訪れ,控訴人から,嵐号が闘犬の試合に出場できる経験豊富な土佐犬であるとの説明を受けたことから,被控訴人Bは,これを信じて,健康で即時闘犬の試合に出場可能な土佐犬として嵐号を控訴人から買い受けた。 ところが,実際には,嵐号は本件売買契約当時フィラリア症に罹患していたもので,そのため被控訴人Bが買い受け後1か月も経過しない平成13年4月5日に嵐号はフィラリア症により死亡した。 したがって,本件売買契約には,要素の錯誤があり,無効である。 イ被控訴人A会社は,本件売買契約の代金支払のため本件小切手を控訴人に宛てて振り出したが,上記のとおり,その原因関係である本件売買契約が無効であるので,控訴人に本件小切手金を支払う義務はない。 ウよって,被控訴人A会社は,控訴人に対し,本件小切手債務が存在しないことの確認を求める。 (2) 被控訴人Bア契約締結上の過失責任控訴人は,闘犬等を販売する者として,闘犬を販売するにあたっては当該闘犬が健康であることを確認する義務がある。ところが,控訴人は,上記義務を怠り,漫然と,フィラリア症に罹患して 控訴人は,闘犬等を販売する者として,闘犬を販売するにあたっては当該闘犬が健康であることを確認する義務がある。ところが,控訴人は,上記義務を怠り,漫然と,フィラリア症に罹患している嵐号を被控訴人Bに売却し,前記(1)のとおり被控訴人Bに無効の本件売買契約を締結させたのであって,これは契約締結上の過失に当たる。したがって,控訴人は,民法709条により,被控訴人Bが本件売買契約締結に要した費用等の損害について賠償する義務を負う。 被控訴人Bは,本件売買契約締結に際し,兵庫県芦屋市の自宅から控訴人の居住する熊本へ赴くに当たり要したガソリン代4万5000円及び高速道路使用代金2万7000円の合計7万2000円を出費した。 イ事務管理費用被控訴人Bは,平成13年3月17日,夜間救急病院で嵐号に診察を受けさせて診療費用3万7695円を支払い,また,同日から同年4月5日まで,嵐号をC動物病院に入院させ,診療費用6万5152円を支払った。 前記(1)アのとおり,本件売買契約は錯誤により無効であるから,嵐号は本件売買契約後も控訴人の所有に属することになる。そうすると,被控訴人Bの支払った上記診療費は,控訴人のために,事務管理として行われたことになる。 ウよって,被控訴人Bは,控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として上記アの損害7万2000円及び事務管理に基づく費用償還請求として上記イの嵐号の診療費用10万2847円並びに以上の合計金17万4847円に対する訴状送達の日の翌日である平成13年5月5日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。 (3) 控訴人嵐号が本件売買契約当時既にフィラリア症に罹患 状送達の日の翌日である平成13年5月5日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める。 (3) 控訴人嵐号が本件売買契約当時既にフィラリア症に罹患しており,そのために嵐号が平成13年4月5日死亡したとの被控訴人ら主張事実は否認する。 本件売買契約当時,嵐号の体調は良好であった。嵐号は,被控訴人Bの管理が悪かったために死亡したとしか考えられない。 したがって,被控訴人A会社は控訴人に対し本件小切手を支払う義務があるし,控訴人には,被控訴人B主張の契約締結上の過失責任や事務管理費用の償還義務はない。 第3 当裁判所の判断 1 被控訴人A会社の請求(小切手債務不存在確認)について(1) 前記争いのない事実,証拠(甲1,3の1ないし3,4,5の1・2,6,10,11の1ないし5,12,控訴人本人,被控訴人B本人兼被控訴人A会社代表者本人(以下「被控訴人B本人」という))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア控訴人は,平成13年1月ころ,同人の娘を通じて,インターネット上に「土佐犬の販売と我が家の愛犬たち」とのホームページを開設し,同ホームページ上で,同人の飼育する土佐犬の販売の広告を行った。控訴人は,上記ホームページ上において,嵐号を,全国横綱第20代「闘犬嵐」号として紹介し,平成12年12月の大会で試合に勝った実績を掲載した。また,同ホームページ上には,「すぐに試合に出したい方には,即試合出場可能な様々な実績を持った経験豊富な(全国公認横綱もいます)犬をおすすめします。」という記載があった。 イ被控訴人Bは,上記ホームページを見て控訴人に電話をかけ,同年2月17日,控訴人の住む熊本へ赴いて,闘犬大会を見学すると 国公認横綱もいます)犬をおすすめします。」という記載があった。 イ被控訴人Bは,上記ホームページを見て控訴人に電話をかけ,同年2月17日,控訴人の住む熊本へ赴いて,闘犬大会を見学するとともに,控訴人方において,控訴人が飼育する土佐犬を見せてもらい,実績のある闘犬であるとして嵐号を紹介された。 被控訴人Bは,一旦自宅に戻った後,電話で控訴人に嵐号の値段を尋ねたところ,「50万円でよい。雌2頭も差し上げる」という返事であったため,嵐号を買うこととした。 ウ被控訴人Bは,同年3月10日,嵐号を引き取るために控訴人宅を訪れたが,その際,控訴人が飼っている土佐犬を再度見たところ,大きくて見た目も立派な若犬「朝吉」が気に入り,朝吉を買いたいと控訴人に申し入れた。しかし,控訴人は,被控訴人Bとのそれまでのやりとりを通じて,被控訴人Bが即戦力のある闘犬の購入を希望していることを認識していたため,被控訴人Bに対し,朝吉でもいいが,必ず勝つという保証はできない,勝ちたいという気があるなら嵐号の方がいいなどと説明し,実績のある嵐号の方を買うことを薦めるとともに,嵐号ならば平成14年の春ころまで,あと3回は大会に出てそれなりの成績を挙げることができる旨の説明をした。そこで,被控訴人Bは,同日,嵐号を代金50万円で購入した。被控訴人A会社は,同売買代金の支払のため,本件小切手を振り出した。 エところが,被控訴人Bが嵐号を自宅に連れ帰った平成13年3月10日から,嵐号は下痢をして体調が悪く,同月16日夜には立てなくなったため,被控訴人Bは,嵐号を大阪府堺市内の夜間救急動物病院(以下「救急病院」という。)に搬送した。救急病院の担当獣医は,翌17日,嵐号について,少なくとも半年程前の平成12年9月ころからフィ なったため,被控訴人Bは,嵐号を大阪府堺市内の夜間救急動物病院(以下「救急病院」という。)に搬送した。救急病院の担当獣医は,翌17日,嵐号について,少なくとも半年程前の平成12年9月ころからフィラリア症に罹患していたと考えられる旨,フィラリア症は心臓疾患であるため十分な継続治療が必要であり,状態急変の可能性がある旨,安静加療が必要であって激しい運動は避けた方がよい旨診断した。 そこで,被控訴人Bは,同日,嵐号をC動物病院に入院させ,フィラリア症の治療を受けさせたが,嵐号は,同年4月5日,同病院において,フィラリア症により死亡した。 (2) 以上の事実を総合すれば,本件売買契約締結時,嵐号がフィラリア症に罹患しており,激しい運動ができる状態ではなかったにもかかわらず,被控訴人Bは,嵐号が全国横綱としての実績を有し,即時試合出場可能な闘犬であるものと誤信してこれを購入したことが認められるから,被控訴人Bの売買の法律行為に錯誤があったと認めることができる。もっとも,これは動機の錯誤に当たるから,錯誤による無効が認められるためには,相手方(控訴人)への動機の表示が必要であるところ,上記認定の控訴人と被控訴人Bの間の交渉経緯に照らせば,被控訴人Bは控訴人に対し,即戦力のある闘犬として嵐号を購入する旨売買の動機を表示していたものと認めることができる。また,被控訴人Bが即戦力で闘犬の試合に即時出場可能である闘犬であると信じたからこそ嵐号を購入したものであることも上記認定したところから明らかであり,上記動機は,本件売買契約の重要な部分であったと認められるから,その錯誤は法律行為の要素の錯誤にあたるということができる。 以上の次第で,本件売買契約は要素の錯誤により無効であると認められる。 (3) そうす 分であったと認められるから,その錯誤は法律行為の要素の錯誤にあたるということができる。 以上の次第で,本件売買契約は要素の錯誤により無効であると認められる。 (3) そうすると,被控訴人A会社は,その原因関係である本件売買契約が上記のとおり無効であることから,控訴人に対し,本件小切手金を支払う義務はないものと認められる。 したがって,被控訴人A会社の控訴人に対する本件小切手債務不存在確認請求は理由があるから,これを認容した原判決は相当である。 2 被控訴人Bの請求について(1) 契約締結上の過失責任に基づく損害賠償請求ア上記1(1)で認定の事実によれば,控訴人は,土佐犬を闘犬として飼育・訓練し,それを販売することを業としていたものと認められる。そうすると,控訴人には,犬の健康管理を行うとともに,犬を売買するに際しては,その犬が健康であるかどうかを確認の上で販売すべき信義則上の義務があると解すべきである。 ところが,証拠(控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,飼い犬を定期的に獣医に診せることもせず,フィラリア症の予防注射もまったくしないまま飼育し,フィラリア症に罹患したかどうかについては,餌の食べ具合や,闘犬の大会における戦いぶりなどから判断していたに過ぎないこと,その結果,本件売買契約当時,嵐号がフィラリア症に罹患していたにもかかわらずこれを見過ごし,被控訴人Bに売却したこと,その結果,上記1で認定のとおり,本件売買契約は錯誤による無効な契約であったことが認められる。 そうすると,控訴人には,売り主としての上記義務を尽くさなかった過失が認められ,これは契約締結上の過失にあたるから,民法709条により,被控訴人Bが契約締結に関 とが認められる。 そうすると,控訴人には,売り主としての上記義務を尽くさなかった過失が認められ,これは契約締結上の過失にあたるから,民法709条により,被控訴人Bが契約締結に関して支出した費用を賠償する責任があるというべきである。 イ証拠(被控訴人B本人)によれば,被控訴人Bは,本件契約締結に際し,契約締結場所である熊本までの交通費として,ガソリン代金3万5000円及び高速道路利用代金2万7000円(片道1万3500円)の合計6万2000円を支出したことが認められる。 ウ以上によれば,契約締結上の過失責任に基づく被控訴人Bの損害賠償請求は,6万2000円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成13年5月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。 したがって,原判決中被控訴人Bの上記損害賠償請求に関する部分は,上記の限度では相当であるが,これを超えて認容した部分は相当でない。 (2) 事務管理費用償還請求ア被控訴人Bは,平成13年3月17日,救急病院で嵐号に診察を受けさせて診療費用金3万7695円を支払い(甲4),また,同日から同年4月5日まで,嵐号をC動物病院に入院させ,診療費用金6万5152円を支払った(甲5の1・2)事実が認められるところ,上記1で認定のとおり,本件売買契約は錯誤により無効と認められるから,嵐号は本件売買契約後も控訴人の所有に属し,その結果,被控訴人Bは,控訴人のために,事務管理として,控訴人所有の嵐号に上記治療を受けさせたと認めることができる。 イそうすると,被控訴人Bは,控訴人に対し,事務管理に基づく費用償還請求として,上記診療費用合計10万2847円及びこれに対 訴人所有の嵐号に上記治療を受けさせたと認めることができる。 イそうすると,被控訴人Bは,控訴人に対し,事務管理に基づく費用償還請求として,上記診療費用合計10万2847円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成13年5月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができるから,原判決中被控訴人Bの同返還請求を認容した部分は相当である。 3 まとめ以上の次第で,控訴人の被控訴人A会社に対する控訴は理由がないのでこれを棄却し,控訴人の被控訴人Bに対する控訴については,一部理由があるので,原判決中被控訴人Bに関する部分についてはこれを変更することとして,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司裁判官長谷部環

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