主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成23年5月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,覚せい剤取締法違反の被疑事実で逮捕されたウガンダ共和国国籍の原告が(以下,同被疑事実に係る事件を「本件被疑事件」という。),大阪府A警察署生活安全刑事課薬物対策係所属の巡査部長であったBによる取調べの際,同人から暴行を受け,暴言を吐かれた等と主張し,国家賠償法1条1項に基づき,大阪府に対し,これら一連の違法な行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料500万円及び弁護士費用相当額50万円の合計550万円の損害賠償並びにこれに対する最後の暴行,暴言行為があったとする日である平成23年5月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者原告は,ウガンダ共和国国籍の男性であるが,平成23年5月1日に来日した際,本件被疑事件で逮捕された。原告に対する取調べは,Bが担当することとなった。原告はこの時が初来日であり,当時は日本語を理解できなかった。 (2) Bによる暴行及び暴言 Bは,原告を取り調べる際,原告に対し以下の各行為を行った(甲1~5)。 ア平成23年5月3日午前11時30分頃,A警察署内の生活安全刑事課調室において,右手に持ったボールペンの胴部分で原告の右側頭部を約2回叩く暴行を加えた(以下「第1行為」という。)。 イ同月5日午後4時頃,C警察署内 前11時30分頃,A警察署内の生活安全刑事課調室において,右手に持ったボールペンの胴部分で原告の右側頭部を約2回叩く暴行を加えた(以下「第1行為」という。)。 イ同月5日午後4時頃,C警察署内の刑事課調室において,右足で原告の右ふくらはぎ付近を蹴り,右手指先で同人の右こめかみ付近を突き,右手の平で同人の前額部を叩き,同手指で同人の右耳を引っ張り,右手拳で同人の胸部を殴打し,右手に持ったペンケースを同人の口元に押しつけるなどの暴行を加えた(以下「第2行為」という。)。 ウ同月6日午前10時10分頃,前記ア記載の調室において,財務事務官が同席する中,右手の平で原告の頭部を1回殴打する暴行を加え,この際,原告に対し,「人権なんかあるか。」と述べた(以下,これらの行為を「第3行為」といい,同日の同調室におけるBの取調べを,単に「平成23年5月6日の取調べ」という。)。 (3) その後の経緯Bは,同年7月22日,第1ないし第3行為(ただし,第3行為のうち,「人権なんかあるか。」と述べた点は除く。)につき特別公務員暴行陵虐罪で在宅起訴された。同人は公訴事実を争わず,大阪地方裁判所は,同年11月14日,同人に対し,懲役2年6月執行猶予4年の有罪判決を言い渡した(甲1)。同人は控訴せず,判決は確定した。 (4) 慰謝料30万円の支払Bは,同年8月29日,原告に対し,代理人弁護士を通じて,第1行為ないし第3行為により発生した慰謝料として,30万円を支払った。 (5) 消滅時効の援用原告は,平成26年5月7日に本件訴訟を提起したところ,被告は, 同年7月28日の本件第1回弁論準備手続期日において,原告の被告に対する損害賠償請求権につき,後記2(3)の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 2 争点 起したところ,被告は, 同年7月28日の本件第1回弁論準備手続期日において,原告の被告に対する損害賠償請求権につき,後記2(3)の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 2 争点(1) 平成23年5月6日の取調べにおけるBの発言内容(原告の主張)Bは,平成23年5月6日の取調べの際,原告が「刑務所に入っている人を叩いてもいいのか。」と述べたのに対し,「アホか,おまえなんか叩いてええんじゃ。」と言い返し,さらに原告が「私に人権はないのですか。」と述べたのに対して,「人権なんかあるか,クソ野郎。」と言い返すなどした(以下,Bによるこれらの発言及び第1から第3行為を総称して「本件各行為」という。)。 (被告の主張)否認する。Bが原告の主張する上記のような発言をした事実はない。 (2) 原告の被った損害額(原告の主張)ア原告は,Bが通訳や財務事務官が同席している中で堂々と本件各行為に及んだことにより,警察官による暴行が日本では当たり前であり,誰に言っても助けてもらえないことなのだという絶望感を抱かされ,精神的苦痛が増大した。さらに,Bの「人権なんかあるか,クソ野郎」との暴言は,原告の人権を積極的に無視した発言であり,これにより原告の精神的な打撃はさらに増大した。言葉の通じない異国の地で,いきなり逮捕され,密室の中で暴行を受け,暴言を浴びせられた原告の恐怖は計り知れない。このような事案の内容に鑑みれば,原告が被った精神的な損害は500万円を下らない。 イ原告は,本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人弁護士らに委任しており, 弁護士費用として,慰謝料額の1割にあたる50万円が相当な損害として認められるべきである。 (被告の主張)否認ないし争う。 原告が主張するBによる本件各行為 委任しており, 弁護士費用として,慰謝料額の1割にあたる50万円が相当な損害として認められるべきである。 (被告の主張)否認ないし争う。 原告が主張するBによる本件各行為は,原告に供述を促したり,原告が取調べに真摯な態度で臨まないことを戒めたりするためにされたものであった上,これらによる生理的痛みはほとんどなく,診療や加療を必要とする程度のものでもなかったことからすれば,これにより原告が精神的苦痛を被ったとしても,その慰謝料は30万円を超えないというべきである。 Bが平成23年8月29日,原告に対し,慰謝料として30万円を支払ったことにより,原告の精神的苦痛は慰謝されており,原告の主張する損害賠償請求権は消滅した。 (3) 消滅時効の成否(被告の主張)原告は,Bから本件各行為を受けた日に損害及び加害者を知ったといえるから,遅くとも第3行為から3年後である平成26年5月6日の経過により,原告の被告に対する本件損害賠償請求権について消滅時効が完成した。 (原告の主張)ア原告は,ウガンダ人であって,本件各行為が国家賠償法上の違法行為に該当するかどうかを当然に理解できるわけがなく,そのような理解が可能になったのは,Bが刑事裁判で有罪の判決宣告をされたときであるから,「損害を知った時」とは,Bが有罪の判決宣告をされた平成23年11月14日と考えるべきである。 イ原告は,本件各行為の時点でBの住所氏名を知らず,また,同人が警察官なのか財務事務官なのか,警察官であるとしても国家公務員な のか地方公務員なのか分からなかった。Bの氏名等が分かったのは,早くとも検察官からBの特別公務員暴行陵虐罪に関する事情聴取を受けた同年7月4日であるから,同時点を「加害者を知った時」と考える のか地方公務員なのか分からなかった。Bの氏名等が分かったのは,早くとも検察官からBの特別公務員暴行陵虐罪に関する事情聴取を受けた同年7月4日であるから,同時点を「加害者を知った時」と考えるべきである。 ウしたがって,原告が「損害及び加害者を知った時」からいまだ3年は経過していないから,時効期間は満了していない。 第3 争点に対する判断 1 事実経緯前記の前提となる事実に証拠(甲1~6,9。ただし,いずれも後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 原告は,ウガンダ共和国国籍の男性であるが,平成23年5月1日に来日した際,本件被疑事件で逮捕された。原告に対する取調べは,Bが担当することとなった。 (2) 平成23年5月3日,A警察署内の生活安全刑事課調室において,Bによる原告に対する取調べが行われた。 その際,Bは,諭すような口調で穏やかに原告を尋問していたが,原告が覚せい剤の認識を否定し,飲み込んだものはダイヤモンドだと思っていたなどと弁解したところ,右手に持ったボールペンの胴部分で原告の右側頭部を約2回,軽く叩いた(第1行為)。 (3) 同月5日,C警察署内の刑事課調室において,Bによる原告に対する取調べが行われた。 その際,Bの追及に対し,原告は,ダイヤモンドだと思っていたと繰り返し,そのような押し問答がしばらく続いた後,原告が黙り込んでしまったところ,Bは,右手指先で原告の右こめかみ付近を突いたり,右手の 平で原告の前額部を叩いたり,同手指で原告の右耳を引っ張ったりしたが,原告は無表情で反応を示さなかった。Bは,苛立った様子で,椅子に座っている原告の右ふくらはぎ付近を足で蹴り,「何とか言え」などと言って右手拳で原告の胸部を ,同手指で原告の右耳を引っ張ったりしたが,原告は無表情で反応を示さなかった。Bは,苛立った様子で,椅子に座っている原告の右ふくらはぎ付近を足で蹴り,「何とか言え」などと言って右手拳で原告の胸部を殴打し,また,右手に持ったペンケースを原告の口元に押しつけるなどの暴行を加えた(第2行為)。 (4) 同月6日にも,上記(2)の調室において,Bによる原告に対する取調べ(平成23年5月6日の取調べ)が行われた。 Bは,当初,諭すような口調で原告に話しかけていたが,原告は退屈そうな表情であくびばかりしていたところ,Bは,机に身を乗り出すようにして右手を振り上げ,右手の平で原告の頭頂部を1回叩いた。原告がBに対して「刑務所に入っている人を叩いていいのか。」と言ったところ,Bは,「アホか,おまえなんか叩いてええんじゃ。」と言い返し,さらに,原告が「私に人権はないのか。」と言ったところ,Bが「人権なんかあるか,クソ野郎。」と言い返した。 2 争点(1)(平成23年5月6日の取調べにおけるBの発言内容)について上記1(4)に認定した事実に関し,被告は,平成23年5月6日の取調べにおいて,Bが原告に対し,「アホか,おまえなんか叩いてええんじゃ。」,「人権なんかあるか,クソ野郎。」などと発言した事実を否認するが,同取調べに立ち会った通訳人の検察官に対する供述調書(甲4)によれば,Bの発言内容は上記認定のとおりであったことが認められ,同認定を左右するに足りる証拠はない。 3 争点(2)(原告の損害額)について上記1に認定したとおり,Bは,取調べを担当する警察官という立場で,身柄を拘束された被疑者である原告に対し,3日間にわたる取調べの最中に上記のような暴言,暴行を行ったもので,Bによる本件各行為は強い非難に 値するものと 取調べを担当する警察官という立場で,身柄を拘束された被疑者である原告に対し,3日間にわたる取調べの最中に上記のような暴言,暴行を行ったもので,Bによる本件各行為は強い非難に 値するものというべきである。他方で,本件各行為は,暴行の程度としては比較的軽いものであって,これにより原告が傷害を負ったというような事実は認められず,原告に強い身体的苦痛を与えるようなものでもなかったことが認められる。これらに加えて,本件各行為に至る経緯,行為の態様,その他本件に現れた一切の諸事情を総合勘案すれば,Bの本件各行為によって原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,30万円と認めるのが相当である。 そして,Bが平成23年8月29日,原告に対し,本件に関する慰謝料として30万円を支払ったことは当事者間に争いがないから,原告の被告に対するBの本件各行為を理由とする損害賠償請求権は,同日,弁済により消滅したというべきである。 4 まとめ以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。 第4 結語以上の次第で,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第24民事部 裁判長裁判官増森珠美 裁判官稲田沙織 裁判官中田克之は,転補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官増森珠美 判長 裁判官 増森珠美
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